<5月1日>(水)
〇本日は20年以上ぶりに「一の会」が復活。それというのも、このたび故・岡本呻也の『あのバカにやらせてみよう』の復刻版が出ることとなり、その名も『ザ・スタートアップ』(ダイヤモンド社)という。帯には「伝説の名著」(!)とある。確かにそうかもしれない。
〇今となっては、あのネット黎明期の異様な雰囲気を、どうやって説明したらいいのかわからない。1999年から2001年頃の日本経済は、不良債権問題で明日をも知れない感じだったのだが、インターネットの周辺だけは妙に明るくて、いつも何かうごめいている感じだった。そんな中から「ネット起業!」がいくつも誕生した。
〇そういった動きを、『あのバカにやらせてみよう』という卓抜な表現で描いたのが岡本氏であった。往時のネット起業家のひとりは、この言葉が気に入って「ANOBAKA」という会社を作ってしまったほどである。あの時代の雰囲気を次世代に伝えるためには、「とにかくこの本を読んでくれ」というしかない。
〇そしてプレジデント社を辞めてノンフィクション作家となった岡本呻也さんが、文芸春秋社の田中裕士さんと一緒に幹事を務めていたのが「一の会」である。毎月1日に、四谷のスカッシュという店で行われていた。スカッシュはもうなくなってしまったらしいが、今宵は田中さんの呼びかけで、やっぱり四谷で往時のメンバーが集まった。岡本さんの弟さんもお見えでした。
〇往時はメディア関係者、もっというと出版関係者がほとんどだったのだが、20年もたつと「紙の仕事」をしている人がほとんどなくなっている。どんどんネットに移ってしまったのですなあ。昔は本を作っていた編集者が、今ではユーチューブを作っていたりする。そういえばワシが書いているものも、どんどん紙の比率が減ってネットの比率が増えている。この20年で確実に世の中は変わっているのである。
〇そして20年もたつと皆さんいろいろあって、そもそも同じ会社に居る人自体が珍しい。ワシもあの頃は日商岩井時代で、お台場に通っていたのだから。どうでもいいことですが、双日は今年で20周年になります。
〇ところがネット社会のありがたさで、昔のメンバーと何とか連絡が取れてしまうのである。とはいえ、岡本さんが居なかったら、お互いに知り合うこともなかったはずの顔ぶれである。人と人を結びつけるのはネットではなくて、やはり人なのである。
<5月2日>(木)
〇お休みで関西に来ております。本日は「大山崎山荘美術館」へ。
〇山崎の合戦が行われた「天下分け目の天王山」の中腹に位置している。羽柴秀吉が明智光秀を破ったときに、この天王山を押さえていたのは黒田官兵衛でありました。が、そんなことはここではどうでもよろしい。
〇この山荘を築いたのは実業家・加賀正太郎である。ただし実業家というよりは、限りなく趣味人に近いのではないかと思う。登山を愛し、ゴルフ場を作ったり、蘭の花を育てたり、大阪倶楽部の社員として貢献したりしている。事業としては、あのマッサンこと竹鶴政孝に出資し、ニッカウヰスキーを誕生させたことが最たるものではないか。
〇しかるに事業などというものは、1世紀もたつとどうでもよくなってしまう。そんなことより、平成になって歴史的建造物である大山崎山荘をなんとか残さねばならぬということになり、歴史的にご縁があったアサヒビールが手を挙げて、建物を引き取った。そしてニッカウヰスキーも、今ではアサヒビールの完全子会社となっている。
〇そんなことはどこにも書いてないのだが、加賀正太郎はきっとサントリー創業者の鳥居信治郎に対抗心を燃やし続けていたんだろうなあ、などと想像するとちょっと楽しい。山崎といえばサントリー。そこに山荘を作り、サントリーを辞めたマッサンに仕事をさせる。関西の財界って深いよなあ。
〇思うに事業を追求するばかりが実業家ではない。「あの人は趣味では一流なんだけどねえ・・・」などという悪口は、そんなもの言わせておけば良し。百年もたてば事業は誰か他の人のものになっている。しかるに趣味はソフトパワーとなり、今も多くの趣味人を牽引してやまない。たまには、そういうのもよろしいではありませぬか。
<5月3日>(金)
〇本日は奈良にてあちこちを訪問。
〇奈良国立博物館では空海展をやっている。いずれトーハクにも来るらしいのだが、さすがに持ってこれないものもあると聞き、こちらで見物。なるほどさもありなん、という内容でした。インドで興り、中国で花開いた密教が、今では日本にしか残っておらず、高野山にはいまも弘法大師がいらっしゃる、とはこれいかに。
〇ついでながら、仏像館の「金剛力士立像」も超ド迫力でありました。
〇入江泰吉記念奈良市写真美術館もすばらしかった。入江泰吉は明治生まれでアナログ時代の写真家だが、「これぞ奈良!」というべき写真を多く残してくれている。時代が令和になって、奈良市にもリニアが通るかもしれないのだが、さすがに高層ビルが建ったりはしないだろう。それでもとにかく昭和の頃の「古き良き時代の奈良」を写真で切り取ってくれたことはありがたい。かつてこういう風景があったのですよ、ということで。
〇偶然見つけたのですが、志賀直哉の旧居なんてのもありました。関東大震災で関西に移り住んだ文人は、谷崎潤一郎だけではなかったのですな。大正から昭和にかけてのよき時代、文士はどんな暮らしをしておったのか。
〇とまあ、人混みを避けるように観光して負ったのですが、奈良の観光施設は見事なくらいに「9時から5時まで」になっていて、夕方4時台になると観光客(うち半分くらいが外国人)がどっと駅の方に戻ってくる。これぞまさしく大仏商法みたいな世界であって、こんなことしてたら観光地としての成熟がないですぞ。まあ、客の方から勝手に来てしまうのだから仕方ないですが。
〇ちなみに仕事では3回泊った奈良ホテル、たまには自分のおカネで泊ってみると、やっぱりいいところでありました。街全体、コロナが明けて、目いっぱいフル稼働している感じでしたな。タクシーはなかなかつかまらないし、バスはどこでどう乗るのかがわからない。荷物を軽くして、徒歩を覚悟で歩き回るのがコツのようです。
<5月4日>(土)
〇本日は新装なった大阪市立東洋陶磁美術館へ。出し物は「シン・東洋陶磁――MOCOコレクション」。
〇1984年に入社して、たぶん夏ごろに初めて大阪に出張して、そのときに訪ねたのがこの場所でありました。当時はまだ出来て2年くらいだったし、安宅産業の倒産もまだ記憶に残る時期でありました。安宅コレクションの散逸を防ぐために、当時の関係者が苦労して作ったのがこの美術館で、何よりここには油滴天目茶碗がある。
〇それまでまったく茶器などには関心がなかった不肖かんべえであったが、これは度肝を抜かれました。いや、何より大阪初出張で何をしたかはまったく覚えていないのに、この茶碗のことだけは覚えている。その後もこの美術館は何度も訪ねてきましたが、今日は果たして何回目だったか。
〇もうひとつ、本日訪れたのは万博記念公園にある国立民族学博物館(みんぱく)である。佐倉にある「れきはく」と紛らわしいですが、そちらは国立歴史民俗博物館。民族学と民俗学はどう違うんですか、というのはチャットGPTなどに聞いてみたいことである。
〇まあ、それはいいのですが、万博記念公園に到着して「太陽の塔」を観た瞬間に、小学校4年生の時の記憶が蘇りましたですな。というか万博記念講演って、あのときの万博会場をそのまんま使っているじゃん!って、当たり前なんですが。この辺に日本館があって、この辺にソビエト館があって、なんて覚えているもんですな。
〇世の中のことの大半は時間がたつとどうでもよくなるのですが、衝撃的な美の記憶はいつまでも残っていて、人生を支配したりするものらしい。どちらも大阪にある、とはいかなることなのか。万博記念公園は連休中の「安近短」な時間つぶしの場所であると見えて、本日は盛大な人出でありました。
<5月5日>(日)
〇ということで、大型連休でゲキ混み中の関西を、3泊4日で駆け抜けてまいりました。どこへ行っても外国人観光客、というのは今さら言うまでもないのですが、これまでに何度も泊ったANAクラウンローヤルホテルで、「朝食会場が長蛇の列で入れなかった」という経験にはちょっと驚きました。
〇いや、あらかじめ「朝食込み」のプランにしておかなくて正解でした。即刻、淀屋橋駅地下のドトールへ避難して事なきを得ましたが、あれはちょっと反則ですねえ。これでとうとうわが国もコロナ明けした、ということなんでしょうか。
〇毎年4〜5回は来ている大阪ですが(今年は既に4回目で、今月中にもう1回、内外情勢調査会で来訪する予定)、遊びで行く、なんてことは滅多にありません。いつも行く場所というと、クラブ関西とか、大阪電気倶楽部とか、大阪経済大学とか限られた場所ばっかりなので、「今日はこれを見に行こう」と思うと、結構ハードルが高かったりする。
〇とはいうものの、ワシも関西系商社で長らく過ごしてきた人間なので、あんまりアウェイ感はないのである。何より若い頃から、「とりあえずダメもとで何か言ってみる」みたいな精神が注入されて久しいので。もしも大阪の流儀を知らずに育っていたら、自分も随分、今とは違う人間になっていたのかもしれない。
〇おそらく今の自分の体内の何割かは既に関西系でできていて、大概のことでは驚かなくなっている。いや、これはちょっと驚いたかな。「大阪来てな」(アバンギャルディ)。なんじゃあ、これは。万博がいくら盛り上がらなくても、こんな風に勝手に盛り上がっていくのが大阪の流儀っちゅうもんですから。
<5月6日>(月)
〇不肖かんべえが理事を務めておりますSDGsプロミスジャパンでは、今月からクラウドファンディングを始めております。
●隈研吾先生の設計をガーナで実現!職業訓練校奨学金で誰も取り残さない明るい未来へ!
〇アフリカ支援をテーマに活動を続けてきて今年で16年目になりますが、ガーナの職業訓練校建設は文字通りの目玉プロジェクトとなります。その奨学金のためのファンディングであります。とりあえず自分で1万円寄付してみましたが、こういうものは出だしが大事らしく、今後の集まり具合が気になるところです。ご協力を賜れれば、まことに幸いであります。
〇しかしまあ、このCAMPFIREというサイトを見ていると、世の中にはなんとまあ多種多様なクラウドファンディングがあるのでしょうか。「日本には寄付文化がない」みたいなことをよく言われますが、意外とこんな形で新しい文化が生まれるのかもしれません。変な話ですけど、「ふるさと納税」なんかもこうした動きを後押ししているのかも。
〇あらためまして、SDGsプロミスジャパンは認定NPOですので、寄付は税制優遇の対象となります。ご検討、どうぞよろしくお願い申し上げます。
<5月7日>(火)
〇今朝はニッポン放送へ。飯田浩司さん相手に「『大阪来てな』のアバンギャルディって凄い!」という話をしてみたら、新行さんがよく知っていたうえに、飯田さんがお世話になってる運転手さんが彼女たちの「ド嵌りファン」で、地方のコンサートにまではせ参じているのだとのこと。ああ、既にそんな勢いだったとは・・・。
〇アメリカ大統領選挙に関する話題では、「キャンパス・プロテスト」(学園紛争)の話を取り上げてみました。既に逮捕者が2100人というから、全然シャレにならない事態なんですが、ワシなんぞは古い世代なんで、「いまどきの若い者たちは・・・」という気分になってしまいます。古来、繰り返されてきた図式ではあるのですが。
〇この問題については、最近のNYT紙オピニオン欄でニコラス・クリストフの「お説教」が面白かった。若者よ、大人たちが「君たちの気持ちはよくわかる」なんてことを言い出したら、その後に続くセリフは信じちゃダメだからね。当然、知っているとは思うけど。
〇ワシ的には、WSJのウォルター・R・ミードの達観した見方が好きだなあ。「米国の中東政策を巡る議論はほぼ必ず激しいものであり、賢明なものであることはめったにない」って、ホントに昔からそうなんだから。
〇ちなみにこの件について、宮家邦彦さんは産経新聞のコラムでこう書いている。
今と60年代が最も異なるのは徴兵制の有無である。当時18〜26歳の米国男性はベトナム戦争に徴兵されていた。一部免除措置はあったが、基本的には大半の男子学生に徴兵の可能性があった。大義のない戦争で死にたくない学生の一部は良心的兵役拒否を、一部は隣国カナダなどへの逃避を選んだ。
ところが今は状況が大きく異なる。米軍は全て志願兵だし、ガザで戦闘に参加もしていないからだ。パレスチナへの連帯を唱え抗議運動に参加する学生には、1960年代の若者のような切迫感、絶望感があまり感じられない。
〇まことにごもっとも。「大学当局はイスラエルとの関係を絶てえ!」なんて、その程度のことで戦争を止められるはずがないでしょうが。もうちょっと歴史も勉強して、少しは辛い思いもして、ちゃんとしたオトナになってほしいです。
〇夕方はNHKの「Nらじ」に行きましたら、スタッフの方が「今朝のニッポン放送聞いてました」ですって。そういうことってあるのかあ!ちょっと驚き。
<5月8日>(水)
〇大分合同新聞さんの政経懇話会で大分市へ。2014年11月にも呼ばれたけれども10年ぶりである。ちょうど安倍内閣が最初の抜き打ち解散に打って出た頃でありました。
〇お昼の箱弁当に入っていたサバの味噌煮が妙に旨かった。そうだ、大分に来たら関サバを食わねば。過去に4回訪れた経験からいっても、大分市は鮨屋のレベルが高い。仕事を終えた後で、10年前に飛び込みで入って当たりだった店を探し当てて、電話をかけてみる。すると、「今月は改装中でお休みなんですよ」とのこと。がーん。
〇それなら、と食べログで同じくらいの店を適当に探して、電話をかけてみる。「一人だけど、今晩予約できるか?」と尋ねてみると、「連休明けなのと市場がお休みなので、今日はネタが少ない。それでもよかったら、なるべく早い時間に来てくれ」という。
〇なんと正直な板さんだろう、と感激して即座に予約を入れる。午後6時の開店と同時に来訪。カウンター席に座ってみると、なーんだ、ショーケースの中はネタがいっぱい入っているではないか。が、「いつもはもっと多い。お客さんに『何だ、××はないのか』と言われるのがツラいので、馴染みの客には『今日みたいな日は来るな』と言っている」とのこと。
〇そんな店でしたから、お味の方は言うまでもありません。「マグロとイクラは他所で獲れたものですが、あとは全部地元のネタです」と言ってました。関サバもあなごも最高でしたが、なんと大分は牡蠣やウニまで獲れるのですな。そして生ビールに麦焼酎の「兼八」をロックで2杯。大人価格でしたが、もちろん文句などあろうはずもなく。
〇いい気分になってホテルに戻って、早い時間帯に爆睡。しかし深夜に起き出して、明日が締め切りの『市場深読み劇場』の原稿をせっせと書くのであった。人生、楽あれば苦もあり。
<5月9日>(木)
〇10年前と同じパターンで、初日は大分市で2日目は臼杵市。場所は喜楽庵。手元のiPadを確認すると、なんと10年前にここの庭で撮った写真が残っていた。iPad自体は既に3代目だが、自分が過去に撮った写真が全部残っている(たぶんアップル社のクラウドに)というのは、考えてみれば凄いことである。われながら究極のプライバシーですな。
〇一方で、ワシも随分長いこと、こんな仕事をやっているものである。もっとも仕事でしか来てないから、大分県内でも中津市や日田市や佐伯市は行ったことがないし、湯布院に泊まったこともない。喜楽庵でフグを食べる、という課題も果たせていない。いつか暇になったら遊びに参りましょう。
〇ところで昨日と今日、行われていた将棋の名人戦第3局は、挑戦者の豊島九段がいいところなく形勢を悪化させて敗退。これで3−0となり、藤井名人が防衛に王手をかけた。来週、18、19日に行われる第4局は、当地の別府市で行われる。県内では「地元食材を使った勝負飯」を募集するなどして、盛り上がっているとのこと。
〇それにしても「第5局は“ない”かもしれないから、第4局でよかった」などという地元の声を聴くと、「豊島九段、もっと頑張ってください!」とお伝えしたくなる。でないと、将棋界が盛り上がりませんがな。
<5月10日>(金)
〇本日発表の2023年度国際収支統計(速報値)について、自分用のメモ。こうしておくと、後で見やすいからね。経常収支の25.3兆円は史上最大である。
*輸出:101.9兆円
*輸入:105.4兆円
*貿易収支:▲3.6兆円
*サービス収支:▲2.5兆円
*第1次所得収支:35.5兆円
*第2次所得収支:▲4.2兆円
*経常収支:25.3兆円
〇貿易収支もサービス収支も大した額ではない。わが国の場合、第1次所得収支の36兆円がデカいのである。日本人や日本企業が、GDPの6%分くらいを毎年海外で稼いでいる。問題はその大部分を国内に持ち帰らないで、外貨のまま海外に置いていることである。まあ、そっちの方が金利が高いからなあ。
〇とはいうものの、これを何とか円転して国内に持ち帰って、いろいろ使ってもらわねばならない。それこそがいちばんの円安対策となる。さて、どうやって。無理な利上げは事故のもと。何かいい知恵があればいいのですけれども。
<5月12日>(日)
〇先週発表された4月の景気ウォッチャー調査は、まことに冴えない内容でありました。現状判断DIは47.4(▲2.4)、先行き判断DIは48.5(▲2.7)。家計動向、企業動向、雇用と全てにわたって悪化している。個人消費はやっぱり良くないです。
〇これで今週は16日に第1四半期(1月〜3月)のGDP速報値が出る予定でありますが、たぶん年率換算で1%台後半の赤字となるでしょう。といっても、これは能登半島地震やダイハツ事件の影響があるからで、第2四半期(4〜6月)には賃上げ効果も浸透するから改善するはずなのです。ただしこの感じだと、「デフレ完全脱却宣言」という感じではないですね。
〇6月の定額減税も、「なんでこんなに手続きが面倒なんだ!」という怨嗟の声が企業の経理担当者の間から湧き上がっている様子。いやまあ、これで一人4万円の1回限りと考えると、確かに効率はよろしくない。もともとが政治的な狙いの減税でしたから。
〇経済情勢がこんな感じだと、岸田内閣は引き続き低空飛行ということになるでしょう。しかも今日から2週間後の5月26日には静岡県知事選挙となるわけでして、そこで自民党の推薦候補が負けるようだと、またまたいろんなことを言われてしまうでしょうなあ。6月解散説はかなり苦しくなってきました。
〇後半国会では、政治資金規正法の改正が焦点となってきました。ただしこれはもともとがザル法でありまして、というか政治家の資金の出入りを取り締まる法律なんて、世界中どこでもゆるゆるに作ってあるものであります。まあ、アリバイ工作みたいな改正になることだけは間違いないでしょう。
〇ただし「岸田おろし」が始まるような気配はありません。逆に「とにかく明るい岸田さん」がこの後、どんな粘り腰を見せるのか。大型連休明け後の政治情勢はそっちが注目でしょうね。
<5月13日>(月)
〇今年は年内にいろんな選挙があって、台湾総統選(1月)、インドネシア大統領選(2月)、ロシア大統領選(3月)、韓国総選挙(4月)が既に完了し、これから後も南ア総選挙(5月)、インド総選挙(6月)、メキシコ大統領選挙(6月)、EU議会選挙(6月)などと目白押しである。
〇下半期はやや数が少なくなって、11月のアメリカ大統領選挙まではしばらくないのかなと思ったら、年後半のどこかで英国総選挙があるのですな。10月くらいに行われるらしいのですが、現在のスナーク政権はどう考えても危なっかしくて、保守党から労働党への議員の鞍替えが起きている。議会制民主主義国って、やっぱりこういうことが起きるのですなあ。
〇そうなると保守党としては、まことに久々の下野ということになる。考えてみたら、ブレグジット(2016年)も保守党政権時代であったから、労働党政権が発足すると「EUとの関係改善」が進みそうである。まあ、さすがに近い将来の「EU再加盟」はないでしょうけれども。
〇逆に言うと、ブレグジット後のCPTPP参加であるとか、米国と豪州との間で結んだAUKUSとか、日米豪印のQUAD(クワッド)だとか、ここ数年の英国の「インド太平洋を目指す」動きには陰りが生じるかもしれない。今年下半期以降の国際情勢を考えるうえで、これは小さくない要素となりそうです。
〇英国はいつも機を見るに敏な国ですので、例えば今後、「もしトラ」(Trump
2.0)になったときに、英労働党政権が対米関係でどういう間合いを取るかは興味深いところだと思います。対ロシアの強硬路線は変わらないでしょうが、中国やイスラエルへの対応などの変化は大いにあり得るところ。何しろ民主主義国というのは、前政権の否定をやらなきゃいけませんので。
〇今年の年後半、「英国はどっちに向くんだ」というファクターは、今から気を付けておく方が良さそうです。
<5月14日>(火)
〇明日からちょっくら上海に出張してきます。まあ、滅多なことはないと思いますが、当欄の更新は帰国後にするつもりですので、暫時、更新がなくてもご心配なさりませぬように。
〇一時期は上海は毎年のように訪ねておりましたが、今回は2018年秋以来となります。何が変わったのか、何が起きているのか、まあ、たいしたことはわからんでしょうが、とりあえず行ってまいります。
〇今回、入国に際しては「アライバルビザ」というものを送ってもらったのですが、さる人いわく。「君に必要なのはアライバルビザではなくて、エグジットビザではないのか」・・・・そんなあ、誰が上手いこと言えと。ともあれ、帰ってくるまでが遠足です。ちゃんと入国と出国ができますように。
<5月15日>(水)
〇羽田からJAL便で3時間。ちゃんと上海虹橋空港に到着する。やっぱり近い国なのである。問題は空港でアライバルビザを受け取り、ちゃんとパスポートに記載してもらうことで、これがないとイミグレを通れない。これが上海における最初の難関である。
〇イミグレに向かう途中、「Port Visaはどこだ?」とその辺の何人かに聞いてみるも要領を得ない。しかるに体温チェックの関所の手前に、いかにもそれっぽい窓口があるではないか。行列はまったくなし。そこへ行って「アライバルビザを」と告げると、係員がちゃんと対応してくれる。言われた通り、あれこれと書式に記入する。あらかじめ用意した写真を渡すと、「これは古いヤツ」と見抜かれたのかどうか、わざわざ撮り直しをされてしまう。
〇そのまま、ほかには誰も居ない座席にて待たされる。これがなかなかに心細い。なにしろ先方にパスポートを渡している状態なので。10分後くらいに呼ばれて、「(手数料の)206元を払え」と言われたときには心底ホッとした。喜んでお支払する。人民元なら、過去の出張の残金がいっぱいありますのではて、領収書をもらうのを忘れたけれども、これは経費にすべきだっただろうか?
〇空港の出口にて、上海日本商工クラブのNさんと合流。久しぶりに見る上海の街は、かつてのような天を衝いて伸びていく感じではなくて、すこし落ち着いた感じである。成長経済から成熟経済に移行しているのだろうか。そういえば昔はテキトーだった空港のイミグレも、今日はきっちり細かい部分まで点検していた。まあ、昔とはいろんな面で違うようである。
〇Nさんに誘われてお昼は回転ずしへ。当地の「がってん寿司」、人気店らしいのだが、ものの見事に客も店員も日本人は我々だけである。マグロにサーモンにエビ、それに牛タン(!)を頂戴する。いちばん人気は「フォアグラ」というから、そこは中国らしい。ところで例の処理水問題により、中国は日本の水産物を輸入禁止しているはずなのだが、なぜこれだけのネタを揃えることができるのか。不思議である。
〇ほとんどの注文はスマホから行うのであるが、いちおう回転しているお皿もある。いちばん安いお皿が8元=168円、高いお皿が40元=820円。ということは、日本との価格差はそれほどはないみたいである。それにしても1元=21円とは、今は対人民元でも歴史的な円安水準である。皿の色は、安い順に緑→紫→深紫→銀→金→紅→黒→松色となるが、これは日本と同じなんだろうか?
〇チェックインして、ホテルのWiFiでネットにつないでみる。案の定、フェイスブックやXやLINEは開けない。メールソフトもダメ。ところが、スマホやiPadでWiFiを切ると、全部ちゃんとつながるのである。まったくどうなっているのやら。久しぶりの中国経済は奥が深いのである。
<5月16日>(木)
〇午前中に浦東へ出かけて新設の上海博物館東館へ。午前10時の開館前には、既に長蛇の列ができている。平日だというのに何たることぞ。
〇上海の人たちは、「古いもの」の有難みに気づきつつあるらしい。ここは青銅器の常設展があるのだが、企画展では蜀の三星推遺跡で発掘された遺跡を展示している。三国志よりも遥に古い紀元前のモノなのだが、これがもう途方もないボリュームである。全部見終わるのに2時間半もかかってしまった。
〇紀元前4000年と言われてもピンとこないが、それが後代に至ると少しずつ中国史の知識が蘇り始める。ほれ、夏、殷、周、秦、漢、三国、晋、南北朝、と続くアレである。「これが商鞅が作った度量衡」などという代物が出てくると、ははあ、と拝みたくなってくる。
〇しかしこんな風に古代遺跡の発見が相次ぎ、そこから出土した文物がしっかり整理されているということは、中国国内で膨大な数の考古学研究者が育っているのであろう。福井県立恐竜博物館に行くと分かりますけど、中国の恐竜研究者って近年は質量ともに充実しているのですよね。そしたまあ、中国国内は遺跡でも化石でも、掘ればどんどん出てくるらしいのである。
〇中国はとにかく人が多い。そして近年は、各ジャンルにわたって膨大な高学歴人材が生み出されている。彼らが今後の世界にとって、どんな役割を果たすのか。考古学や恐竜研究だけには止まらないだろう。
〇さて、上海の高速道路を行き交うクルマの群れを観察していると、目の子で3割から4割以上のクルマがグリーンのナンバープレートである。これすなわちEVということである。中国では消費テコ入れの目的もあって、エコカー減税をやっているのであるが、それは需要の先食いになるのではないか、と思っていたのだが、そうでもないらしい。
〇すなわち上海でクルマを買うときには、クルマの前にその権利を買う必要があり、それだけで車両価格の半分くらいになってしまう。EVを買えば、その権利がタダになる。待たされることもない。だったらそっちがいい、ということで売れまくっているらしい。EVなら燃料費も安いし。ただし売れ過ぎたせいで、充電装置で待たされる、なんてことも起きているらしい。
〇そもそもEVは電池が古くなったらどうするのか、という疑問も生じるところである。車両価格が激減するからマズいんじゃないか、とは思うのだが、そもそもこちらの人はクルマをストックだとは考えていないらしい。そして「リチウムバッテリーの交換業者」が既にいっぱいできているとのこと。ただし完全なるレッドオーシャンである。「中国の過剰生産能力」というのは、こんな風にして生じるものらしい。
〇夕方から上海日本商工クラブの公認20周年イベントへ。今回の上海出張は、こちらのご招待なのである。当方のお話としては、「世界四分の計」から初めて、「もしトラ話」、そして「シン・産業政策」の話をして、最後は「経済脳と安保脳」というオチで締める。まあまあ喜んでもらえたのではないかなと。その後で現地の陳子雷先生との対談あり。これも楽しい。
〇上海日本商工クラブは、世界最大の日本企業組織である。今宵も出席者は200人を超えている。交換した名刺の量も膨大なもの。面白かったのは、「双日さんの出張者が来てくれたんだから、ウチも呼ばなきゃ」という声を聴いたこと。いずこも同じで、中国出張は二の足を踏む人が多いらしい。
〇いやまあ、マジな話、出張前にはいろんな方から、「上海ですか。気をつけてくださいよ」と言われたものである。なかには、アンタがそれを言っちゃシャレにならんだろ、という人もおられましたですが。不肖かんべえの出張が「雪解け」の一助となれば、それはたいへんにありがたい。とはいえ、早いとこ中国入国時のビザ要件が不要になればいいのにねえ。
<5月17日>(金)
〇5月の上海はとってもいい季節であって、本日の気温は30度近くにまで上昇。6月になると、日本と同様に梅雨入りするみたいですけどね。本日は蘇州に遠征。
〇蘇州と言えば、その昔、岡崎研究所と上海国際問題研究所の会議で行ったことがある。古い時代の面影を残すところであったが、今日訪ねたのは巨大な研究センターである。ここで行われているのは自動運転の実験。いや、驚きましたが、バスもタクシーもちゃんと自動で走っているのです。といっても、運転席には「安全員」という人が座っている。これは法律で決められているからであって、見ていたら実際にハンドルを握ってはいない。
〇しかるに自動運転、クルマだけではなくて道路も特製でなければならない。あちこちにレーダーが仕込んであったりする。結局「自動運転シティ」を作るためには、街ぐるみで改造するしかなくて、これでは費用対効果という面でどうかと思われる。というか、この実験シティ、どうやって投資を回収するつもりなんだろう? システムを丸ごとどこか他の街に売るのか。それとも海外に輸出するのか?
〇日本で自動運転というと、「寂れた村の高齢者をどうやって病院に届けるか」みたいな発想をしてしまうのですが、ここはとにかく未来都市志向になっている。実際の蘇州は今後、東西の高速鉄道に加えて南北の高速鉄道も通るので、上海と杭州と南京という3つの大都市の中間にある交通の要所となることが確定している。そういう「大きな絵」はまことに見事なんだけれども、どうやって「儲ける」のか。中国式の「シン・産業政策」には、そういうところで首をかしげざるを得ません。
〇ちなみに日本では中国の高速鉄道といえば、「事故の時に車両を埋めた」という旧悪がしばしば語られますが、あれだけの過密ダイヤを定時運航しているのはご立派と申せましょう。もとは確かに「日本の新幹線のパクリ」であったかもしれませんが、人口の多い広い国土にこれだけの巨大移動ネットワークができてしまうと、いろんな経済効果があり得るところです。
〇上海はどこをどう見ても「不況」には見えません。とはいっても、ショッピングモールなんかは妙に寂れているところがある。これは皆さん「スマホで買い物」に慣れてしまい、わざわざ店舗に行かなくなってしまったからだそうです。それというのも、デジタル化が思い切り進んだのみならず、バイクで各家庭に商品を届けてくれるサービスがあり、低賃金労働力が十分に揃っているから。
〇面白いのは、夕方にタワマンのロビーにいると、ひっきりなしにバイクで荷物を届ける若者たちがやってくることだ。警備員はいちいちドアを開けて、彼らをエレベーターに案内しなければならない。こういう「ラストワンマイル」は、結局は「ヒトの力」に頼らざるを得ない。一日かけていろんなところを見物してきて、いろんなことに感心するのだが、「まあ、日本では真似できねえわなあ」ということがしみじみ多いのである。
<5月18日>(土)
〇ということで、帰ってまいりました。3泊4日、あっという間であります。当不規則発言も、まとめて更新です。
〇正直なところ、虹橋空港のイミグレを抜けるときはちょっと緊張しましたな。係官が真剣にワシのパスポートを見てるんだもん。とくにアライバルビザの貼ってあるページ。なんだか昔に比べて、とっても外国人を警戒するようになったんじゃないかなあ。でも、「それっていつの話だよ!」と言われてしまいそう。いろんなことがありましたからなあ。
〇上海の駐在員たちとお話ししていると、お酒が入った時などに「ロックダウンの時はひどかったなあ」という話が出る。ほんの2年前の今の時期のことである。2か月間家から出られなかったとか、冠婚葬祭に出た関係者全員が(感染者が出て)そのまま足止めになったとか、「そんなひどい話があるのか」みたいなエピソードが山のように出てくる。
〇一方で現地の陳子雷先生によれば、「ウチのマンションは連帯感が強まりました」という。配給品を分け合うなど、自治の精神が発揮されたとのこと。まあ、あれだけのことがあったのですから、プラスマイナス併せていろんな後遺症があったことでしょう。
〇現地では上海商工クラブ事務局長のNさんにとってもお世話になりました。考えてみれば陳先生もNさんも20年来のお付き合い。こういう人たちとのつながりがあるから、上海にもいくわけですし、お陰でワタクシの人生も少しだけ豊かなものになりまする。どうもありがとうございました。
<5月19日>(日)
〇中国に行っている間、現地駐在員の方からよく言われたのは、「とにかく、来てくれてありがとう」。
〇この前後には、「ビザ取得がめんどくさいのに・・・」とか、「危ないのに・・・(藁)」みたいな文言もつく。それから、「日本のメディアは、なんであんなに中国の悪いことばかり書くのかねえ・・・」という嘆きがついて回る。
〇これはまあ、たぶんに同情の余地もあるところで、昨今の新聞はネット版だと、どの記事がどの程度読まれたかが丸わかりとなってしまう。記事がどれくらい「刺さったか」で、記者さんたちのお給料も決まる仕組みになっている。となったら、とにかく誤解でも何でもいいからページビューを稼いだ方が勝ちですわな。タイトルのつけ方なんかも重要になってくる。
〇そして日本の読者は、もともと「中国嫌い」が多いのだから、悪口を書けば書くほどいい、てなことになってしまう。まさしく自己実現的に、せっせと「中国嫌い」を作っているようなところがある。中国についてポジティブな情報を提供しているのって、最近では「モーサテ」くらいじゃないかなあ。
〇まあ、メディアなんて昔からそんなもんですし、最近ではそれをSNSがますます加速するわけですから、非常に危なっかしい状態と言えましょう。百聞は一見に如かずと言いますから、やはり現地に行ってみるに越したことはない。
〇ワシはたまたま義理と仕事があったから行っただけなんだけど、自分のおカネでせっせと海外に出かけていく旅行好きの人たちはホントに頭が下がります。世の中には「空いているディズニーランドに行きたいっ!」というだけの理由で、わざわざビザとって上海に行く人もいるのだそうですから。
〇ちょっとショッキングな情報として、日本人のパスポート取得率は今では17%という低さなんだそうです。「世界の田舎者」と呼ばれるあのアメリカ人でさえ、人口3.4億人のところ1.6億人分のパスポートが発行済みなんだそうですぜ。コロナ下で切れちゃった人が少なくないのでしょうし、最近は「円安」という事情もあるのせよ、ちょっと哀しくはないですか。
〇わが国のパスポートの有用性は、独・仏・伊・西・シンガポールと並んで世界第1位なのであります。なんと194か国がビザフリーなんです。これを使わない手はないですよ。今こそ「SNSを捨てよ、海外に出よう」と申し上げたい。
<5月20日>(月)
〇いろいろなことが起きる世の中であります。本日は台湾の頼清徳新総統の就任式、と思っていたら、昨日になってイランの大統領と外相が乗ったヘリが行方不明に。日本のメディアは「不時着」「安否不明」などと書いているけれども、海外メディアは"Crashed"と書いている。こりゃまあ、どう考えても絶望ですわな。
〇1日経ってから「やっぱり絶望」と伝わりました。いやはや、怖いですよ。そうでなくてもライシ大統領(63歳)は、最高指導者のハメネイ師(85歳)の後継者かもしれないと目されていたひと。これでイランの体制がどうなるのか。イラン大統領職は補欠選挙が行われるのでしょうが、そこでポスト・ハメネイ師が浮かぶかどうかはわからない。ハメネイ・ジュニアの立候補は、さすがにないと思いますけど。
〇おそらく今回の事態で、ロシアのプーチン大統領が焦っているのではないかと思います。イランの支援がなくなると、ウクライナ戦争の遂行に支障をきたす。まあ、そんなことにしてしまったご本人が悪いのですが。
〇さらに今回のヘリコプター事故が、実はイスラエルの仕業であったなら。これはもう中東戦争の引き金を引きかねない。もちろん、イランは簡単には認めないでしょうし、イスラエルも認めるはずがないけれども、そうだった場合には目も当てられない。
〇ところがこんな日に株価は好調なのである。「地政学リスク」なんて口ばっかりですな。いや、ワシの持ち株も上がっているから、文句を言うような筋合いではないのですが、「下がった時だけが地政学リスク」というのはホントにそうですな。いやはや。
<5月21日>(火)
〇先週、ワシが中国に行っておった間に、アメリカ大統領選挙に変な動きが起きている。
●バイデン大統領とトランプ前大統領6月下旬に討論会開催見通し (NHK 2024年5月16日
7時41分)
〇大統領候補者というものは、夏の党大会で正式に指名されるものであって、9月のレイバーデイ(今年は9月2日)以降が本選挙となり、テレビ討論会は10月頃に2〜3回(副大統領候補者も1回)というのが長年にわたる「お作法」である。
〇それを6月にやるというのは、明らかにフライングであろう。とはいうものの、今年は「現職大統領対前大統領」の戦いである。いずれも高齢者ではあるけれども、若い候補者たちは皆さん様子見モードになっていて、「われわれは2028年でいいですぅ〜」という感じになっている。それで3月にほぼ「バイデン対トランプ」の構図ができちゃったのだから、後は激突を早めるしかないのかもしれない。
〇もうひとつの可能性としては、日本と同様にアメリカでも期日前投票が当たり前になってきて、おそらく今年も9月には郵便投票が始まってしまう。だったら、今まで通りに「9月までは本選挙じゃありません」というポーズを続けるのは嘘くさい。テレビ討論会も、なるべく早めに始めることが合理的となる。
〇第3政党の候補者、今年の場合はいかにも波乱要因となりそうなロバート・F・ケネディ・ジュニアを排除する、という隠れた狙い目もありそうだ。彼がどの程度の州で候補者登録できるかは未知数なのだが、例年通り秋にテレビ討論会となったら、三つ巴になってしまう可能性は否定できない。
〇しかしこの話、本当に成立するのかどうか、ちょっと疑問に思えてきた。バイデンさんにとって、あまりにも有利な取引なんだもん。司会は6月がCNNで、9月がABCという2つともリベラル・メディアである。そして6月下旬には、NY地裁の「口止め料事件」の判決が出る公算が高い。もちろん、その場合は有罪であろう。
〇トランプさんは当面は裁判対応が忙しいが、そろそろ副大統領選びも進めなきゃいけない。8年前に選んだマイク・ペンス州知事(インディアナ州)は、まだまだトランプ氏に懐疑的だった共和党内を宥めるにはいいチョイスであった。それが今ではかなり雰囲気は変わっている。今の共和党内は、トランプに媚びを売る人(ティム・スコット)は居ても、逆らえる人(ニッキー・ヘイリー)はあんまり居ない。
〇2024年選挙は、過去のセオリーがあんまり通用しない戦いになるのかもしれない。上海馬券王先生が、「10年トレンド」という手法に疑問を抱きつつも予想に活かしているように、ワシも過去の経験値を活かしつつ、予想をしていくほかはない。
<5月22日>(水)
〇今日はちょっと用事があって経済産業省に行ったのであるが、1階のロビーでふと昔の記憶が蘇った。
〇1990年代のことだから、まだ通産省と呼ばれていた時代である。当時は今のようなゲートや入館手続きなどはなく、外部の人が勝手に省内に入ってよかった。1か所で用事を済ませた後で、「どれどれ、あの人はどうしているか」などとアポなしで別の部署を訪ねてもよかった。まあ、当時は日本中のオフィスがそんな感じだったのである。
〇その日のワシは通産省内で一件用事を済ませて、といっても外があんまり暑いものだから、1階のロビーで涼みながら扇子でパタパタやっていた。するとそこへ通りかかったのが、まだ課長補佐くらいであった齋藤健である。ワシの姿を見るなり、酷いことを言うのである。
「こらこら、こんなところで油を売ってちゃダメじゃないか」
〇いちおう公務で来ているんだから、「こんなところ」はないだろう。とまあ、彼は昔からそんな風でした。今は大臣ですけど。
〇当時はそんな風で、日本中どこのオフィスも風通しが良かったんですよ。今みたいにセキュリティが厳しくなくて、あの頃の方がきっと日本の組織の生産性は高かったのではないかなあ。まあ、言っても詮のない話ではありまするが。
<5月23日>(木)
●英国、7月4日に総選挙 スナク首相「早期解散」で賭け
〇スナーク英首相が下院の解散を表明しました。秋ごろだろうと言われていましたが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、とばかりにタイミングを早めたようです。
〇衆目の一致するところ、14年ぶりの労働党政権誕生の公算が大である。皆さん、キャメロン首相の「ブレグジット」のことは忘れているようだが、ボリス・ジョンソン首相の「コロナ下のパーティー事件」のことは許してくれそうにない。日本でも「銀座3兄弟」って事件がありましたけど、ああいうのは尾を引きますからな。
〇ところで労働党政権となったら、英国外交が親EUになるのではないかとか、近年の「インド太平洋路線」(AUKUS締結、CPTPP加盟など)が見直されるのかなと思っていたのだけど、労働党は「外交は変えません」と言っているらしい。英国は二大政党が慣れているので、こういうところはさすがですな。
〇14年間も野党暮らしを体験したら、「とにかく前政権の全否定」から入りたくなるところでしょうが、そういうのは概ね碌なことがない。大事なのはイデオロギー上の対立ではないのです。議会制民主主義の要諦は、「金魚鉢の水はときどき入れ替えましょう」ということに尽きる。
〇日本にも、そういう練れた野党が居てくれたらいいんですけどねえ。今のところはあんまり期待できそうにはありませんな。ということは、またしても自民党総裁選のガチンコ勝負で、「疑似政権交代」をやってもらうのが次善の策ということになる。英国は7月解散でも、日本の6月解散の確率は低そうです。
<5月24日>(金)
〇この週末、日本ダービーが開催されます。さっそくながら、ラジオ日経「マーケットプレス」のスペシャル企画、「私の日本ダービー注目馬」のご紹介であります。
〇今年はちょっと本命馬に偏った傾向がありますかね。皐月賞馬、ジャスティンミラノに人気が集まるのは自然な流れですが、牝馬のレガレイラも人気があります。
〇編集F氏こと東洋経済新報社、会社四季報オンライン編集部長の福井純さんが詳しい見解を語っておられます(ラジコで聞けます)。いやあ、大変勉強になります。
〇不肖かんべえの予想は、皐月賞でも賭けたあの馬であります。いやもう、少々意地になっている。でも、そうやって意地を張らないと、当たった時に嬉しくないので、ここは勝負です。
〇今年の4歳牡馬が「弱い」という定評があって、今年の3歳牡馬の実力が気になるところ。3歳牝馬はかなりレベルが高そうで、牡馬もそれなりに強いんじゃないでしょうか。日曜日が今から待ち遠しい。
<5月26日>(日)
〇今日は年に1度の町内清掃の日。またしても日本ダービーと重なってしまった。それでも作業は午前中で終わるので、午後からは勝負に集中できるからありがたい。
〇ドブさらい、去年はコロナ明けということもあって念入りに作業した覚えがあるのだが、1年たって蓋を開けてみたらやはり汚くなっている。まあ、これは仕方あるまい。そのためにやっているようなものである。
〇草むしりと同時に、庭木の剪定も行う。町内会も高齢化が進んでくると、庭木が伸びっ放し、みたいなことになりがちである。今は業者さんを呼ぶにしてもおカネがかかるし。まあ、拙宅の伸び過ぎた枝は、自分で切ってゴミ出ししておけば、ちゃんと持ってってくれるのだから良しとしなければなるまい。
〇作業が終わってからひと風呂浴びて、お昼から缶ビールを空けるのである。わはははは。労働の後のビールは旨い。
〇ついでに今日は早めに寝てしまって、明日はモーサテに出演なのである。よろしかったら見てやってくださいまし。ん?そういえば今宵は静岡県知事選挙もあるのかな? まあ、大勢に影響がないことを希望します。
<5月27日>(月)
〇早朝にモーサテに出演した日は、一日がとっても長く感じられる。もう、あんまり仕事に精を出す感じでもない。ところが今日の午前中に、「蓮舫氏、都知事選へ出馬表明」の報が飛び込んできた。いやはや、いきなり目が覚めました。
〇小池百合子対蓮舫、って、ラスボス決戦みたいではありませんか。「学歴詐称と国籍詐称のどっちが重たいか」なんてことは、普通の有権者は気にかけないものですから、この際、棚に上げてしまって問題ないと思います。いやあ、久々に魔物が棲む東京都知事選をエンジョイできそうで、ワクワクしちゃいます。
〇小池氏と蓮舫氏、お二方とも不肖かんべえがまったく知らない方ではないんですけれども、ご両人の「魔物度合い」を比較した場合、これは小池さんの完勝です。先日の東京15区補欠選挙で限界が見えた、なんてことを言う人が居ますけど、まったくそんなことは信用しちゃいけない。政治の世界で彼女を敵に回すなんてことは、まったく空恐ろしいことです。
〇ただし都知事として3選を目指すとなると、そこはどうなるかわからない。彼女はチャレンジャーであるときは絶大な強さを発揮するけれども、自民党と組んで守りに入った時にどう判断されるのか。萩生田さんが応援に入ったりすると、逆効果になっちゃうかもしれないご時勢ですのでね。
〇逆に蓮舫さんのオーラの行方も興味深いところです。このまま参議院に留まっていても、たぶんこれ以上の輝きは得られないだろう。だったら都知事選に打って出て、「女子の本懐」を試すのも悪くはない。それがダメでも、次には衆院選出馬というシナリオもあり得るのだから、やってみて損のない冒険になりそうです。
〇結局のところ、情勢調査が出るまではまったくわからない戦いとなりそうですが、ひとつだけ間違いないのは、「東京都知事選が盛り上がる年は、その後に国政も大きく動く」の法則であります。2024年はやっぱり寝た子を起こすような政局になるんじゃないかなあ。岸田さんの鈍感力はかなりのもののようですけど、東京都知事選は刮目すべしと申し上げたいです。
<5月28日>(火)
〇本日は東北エネルギー懇談会の定時総会で仙台市へ。なんだか知り合いがとっても多い。過去にお世話になった方がいっぱいいらっしゃる。
〇それもそのはず。この会、昨年は二戸市、一昨年は新潟市、2年前は青森市で呼んでもらった。さらにそれ以前を遡ってみたら、登米市(15年)、山形市(14年)、宮古市(13年)にも行かせてもらっている。東北は広いですから、こういうご贔屓はとってもありがたい。
〇で、そういう今日になって、東北電力の株価が一日で10%高である。データセンターなどの需要で電力消費量が増える、という思惑に加えて、「女川原発2号機の安全対策工事が終了した」という昨日のニュースが重なったかららしい。再稼働の予定は9月であるし、今後は規制庁の審査もあるはずなので、まだまだ先は長いはず。それでも株高は結構なこと。
〇講演会の方は、例によって「世界四分の計」から始めて、「もしトラ」話、「シン・産業政策」やら上海土産話やらを語った上で、「GXとDXを同時にやるとエネルギー需要が増える」てなことを申し上げる。エネルギー地政学は、これからますます重要になりますよね。円安で問題になる「デジタル赤字」なんて、わが国が毎年買っている鉱物性燃料の輸入金額に比べれば、まったく可愛らしいものでありますから。
〇その後の懇親会では、東北6県+新潟県という東北電力管内の日本酒が勢揃い。各県3本で合計21種類。とりあえず日高見(宮城県)と写楽(福島県)と久保田(新潟県)を頂戴しました。いやもうまことにご馳走様でした。東北にはまた来週も出没いたします。
<5月30日>(木)
〇某所で聞いた話。
「政治家は長いキャリアの中で、1回でも当てれば大物だ。小池百合子さんは、@日本新党、A小泉旋風、B東京都知事選と3回も当てている。こんな人は滅多にいるものではない。希望の党騒動や今回の東京15区補選を見て、もう神通力が消えた、などという人が居るけれども、そんなことは信じちゃいけない」
〇なるほど、政治家って意外とそんなものである。菅義偉さんなんかも、当てたのは2012年の自民党総裁選(安倍さんを担いだ)と、2020年のポスト安倍(事実上は二階幹事長の独走)の2回だけである。後は意外と連戦連敗なので、生涯勝率は必ずしも高くはない。それでも総理になったら大したものである。
〇逆に言うと、大きな負けをした政治家は、意外と負けが負けにならないものらしい。小泉純一郎は3度目の自民党総裁選で勝ったが、その前の2回はアンダードッグだった。安倍晋三さんも言うに及ばず。岸田さんも2020年の負けのお陰で、21年の勝ちに結びついた。さらに石破茂さんなんて、総裁選は連戦連敗で勝率ゼロなのに、9月の総裁選になるとちゃんと名前が出てくる。
〇もっとも、「石破さんが首相になって、アメリカがトランプ大統領になったら最悪の組み合わせ」てな見方もできる。というか、それは上手くやれる人の方が圧倒的な少数派だと思うぞ。うーん、誰がやっても難しいです。
〇首長選挙はその手の心配は不要なので、大いに冒険したらよろしい。とはいえ蓮舫さんは過去に何を当てた人なのか。あらためて考えてみると、よくわからない人であったりする。いずれにせよ、政治家は勝負する人たちであって、勝敗は兵家の常。「1回でも勝てばいい」というのは、ハッとさせられる指摘であります。
<5月31日>(金)
〇今月は日経新聞の「私の履歴書」、趙治勲さんの回を毎朝楽しく読ませてもらいました。ホントにいい人なんですねえ。囲碁にはあんまり詳しくない不肖かんべえでありますが、こういう棋士が居るって、本当にいいことですね。
〇振り返ってみると、5月の朝はずいぶんこの人に助けられたと思います。明日からはまた誰か別の人が登場するでしょう。「当たり」と言える人は、だいたい年に1人か2人だと思いますけど、さて、どなたが登場されるのか。やっぱり初回が楽しみなんですよね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki