●かんべえの不規則発言



2007年10月







<10月1日>(月)

〇もう10月である。今年も残すところ後3カ月。気候の方も、昨日からめっきり涼しくなった。会社のイントラネットには、「クールビズ終わりました」という掲示が出ていたようだが、それってまるで「冷やし中華終わりました」みたいに季節の終わりを感じさせることであったりして。今宵のかんべえは、新人歓迎のために久々「石頭楼」に行ってきましたが、早くも鍋料理にはうってつけの気候でありました。

〇さて、本日は日経ネット「経済羅針盤」で、新しいコラムを寄稿しました。題して「国富ファンド(SWF)にご用心」。このネタ、ずいぶん使わせてもらっています。

http://markets.nikkei.co.jp/column/rashin/personal.cfm?genre=i2&id=i2a32000 

〇先日、ワシントンのコンサルタントという人と話していて、「サブプライム危機で大変でしょ」みたいなことを言ったら、先方は「クレジット危機が大変です」と言い直していました。なるほど、そっちの方が正確な表現といえましょう。この問題は、(1)アメリカの住宅市場が大変だ(サブプライム危機)、と、(2)それを証券化した金融商品が信用できなくなって大変だ(クレジット危機)、という2つの側面があり、後者の方がマグニチュードは高い。(3)特に欧州においては、金融商品を処分しようとすると、「ドル/ユーロ」のスワップ市場が混乱しているので、米国以上に問題が大きいという事情があったりもする。

〇その点、日本は「寝ていて転んだためしはない」の言葉通り、サブプライム・モーゲージ・ローンや金融商品の商品化技術が一気に発展した時期に、金融機関がほとんど寝たきり状態にあったために、大きな痛手を受けていない。それであれば、今回の騒ぎは「ジャパンマネーがハゲタカになる」絶好の機会ともなり得るのであって、欧米の優良資産を買い叩く10年に1度のバーゲンチャンスかもしれない。そういう生臭い動きがほとんど聞こえてこない現状は、ちょっと寂しくもある。

〇もっとも日本の市場は、成長率で2%、ROEで8%、PERで20倍くらいの水準で、充分に満足できてしまう。ひとつには投資家の要求水準が低いからでもある。日本の投資家たちは、配当を増やしてくれそうなハゲタカ・ファンドよりも、おのれの身分の安泰にしか興味のない経営陣の味方をしてしまうくらい、欲がない。恐るべき利他主義である。(単におマヌケさんなのかもしれない)。

〇ところが、そういう要求水準の低さのお陰で、日本は市場の混乱からうまく逃れている。逆に二ケタのROEを目指すから、欧米の金融機関は本来、貸してはいけない人たちに住宅ローンを貸したり、格付けをごまかしてでも高い利回りの金融商品を求めたりする。例えばサブプラム・ローンは、2004年の利上げ開始からどんどん高度化し(つまりリスクも高くなリ)、それが頂点に達したのが2006年なのだそうだ。そこで2006年産サブプライム・ローンのことを、「ヴィンテージ・イヤー」などと称するのだそうだ。恐怖の2006年産が爆発するのは、恐らく2008年とか09年になるのであろう。つまり、この問題はまだまだ先が長いってことであります。

〇グローバルスタンダードが間違っている、日本流が良いのだ、という議論はなかなかに難しいのですが、それでも「ヒトケタの利回りで満足しませんか?その方が地球環境にも優しいですよ」という生き方も悪くはないだろう。ま、それはそれとして、「これは千載一遇の好機」とばかりに、ちゃんとリスクをとって欧米資産を買い叩くサムライにも登場して欲しいとは思うのですが。


<10月2日>(火)

〇先日、たまたま捕まえたタクシーがプリウスでした。ものめずらしいので、運転手さんを質問攻めにしちゃいましたが、その際の答えと感想をメモしておきましょう。

●乗り心地は非常によろしい。室内は広い。低速走行だとエンジン音がしないので、車内がとても静か。

●弊害として、音が小さいために「クルマが近くに来ている」ことが分からないので、歩行者があっと驚いたりする。そういうときは、なるべくクラクションを鳴らすようにしている。

●運転はほとんど普通のクルマと変わらない。高速走行もほとんど問題なし。燃費はもちろん良い。

●ただしあまりにも長い間、乗らないでいると、バッテリーが上がってしまうことがあるのだそうだ。

〇ウチの場合、年間3000キロくらいしか運転しないので、最後の点が引っかかってしまいますね。でも、普通にクルマを使う家庭であれば、プリウスはかなり良い選択肢になるんじゃないでしょうか。この際、都内のタクシーは全部プリウスでもいいんじゃないかと思いましたね。


<10月3日>(水)

〇雑誌『諸君!』の座談会収録のために、文芸春秋社へ。考えてみれば、この3年間で5度目である。

●2004年11月1日 (12月号) アメリカ政治思想マップ(宮崎哲弥、中岡望)
●2005年 6月1日 (7月号) チャート式米中愛憎度(宮崎哲弥、富阪聡)
●2006年 3月1日 (4月号) ホリエモン株乱高下をわらう(松原隆一郎、関岡英之)
●2006年 7月1日 (8月号) 麻垣康三、国益を守れるベスト宰相は?(宮崎哲弥、草野厚)
●2007年11月1日 (12月号) ????(???、???)

〇『諸君!』といえば、保守派のオピニオン誌ということになっていて、安倍さんも昔から愛読していると聞く。ところが、かんべえが呼ばれるのは、だいたいが上記のような軟派企画で、国を憂えるというよりは、お座敷芸を楽しんでいるようなところがある。今日もとっても楽しかったです。テーマとお相手は一応ナイショ。今までのどのテーマともかぶらない、ということをヒントにしておきましょう。

〇文芸春秋社というのは、そもそも「座談会」という世界でもめずらしいスタイルを開発した会社なので、話のまとめ方が独特である。端的に言ってしまうと、「話した内容よりも、誌面の方が面白い」。要は編集部が発言者の意思を忖度して、しゃべってないことでもドンドン補ってくれて、なおかつ語彙が豊富で洒脱なために、実力以上の会話が飛び交ってしまうのである。

〇あれはどんな風に社内で教育しているのか、「座談会編集必勝法マニュアル」みたいな門外不出の秘法があるのか、はたまた「文春DNA」みたいなものの賜物なのか。編集というのは、なかなかに面白くて奥の深い世界だと思う。


<10月5日>(金)

〇あんまり社業が忙しいので、今週の溜池通信はお休みであります。あしからず。

〇なおかつ、先日、新潮社さんで本を出す、という約束をしたにもかかわらず、まだ一字も書いていない。当初の予定であれば、9月中にプロローグと第1章を終えているはずなのであった。こんなことではいけない、と思って、新潮社主催の「小林秀雄賞、新潮ドキュメント賞」のパーティーにのこのこと参上する。ああ、誰か私を叱って。でなきゃ仕事が始まらないわん、という気分。

〇そんなことを考えるのは、ワシだけではなかったようで、共同通信の会田弘継さんが来ていた。そういえばフォーサイトの連載は、いつになった本になるんでしょうか。早く読ませてくださいよ、などと他人にプレッシャーをかける。そうかと思えば、お久しぶりの山崎元さんも来てました。この次は「はづき」で会いましょう、とは言ったものの、本件はいつになったら実現するのでしょう。

〇ところで新潮社では、今度『お家さん』という本を出すのだそうだ。このネーミングは、旧日商岩井OBだとピンと来るのだけれども、戦前の大商社、鈴木商店のオーナーだった「鈴木よね」の通り名である。鈴木商店というと、大番頭・金子直吉の存在があまりにも有名で、それに関しては城山三郎『鼠』など、多くの著作が残されている。ただし、金子直吉があれだけの事業を残すことができたのは、オーナーである鈴木よねが全幅の信頼を寄せいていたからである。彼女がどんな人間であったかは、よく知られていない。

〇鈴木よねには二人の男の子がいた。が、「後継ぎが事業に口出しすると碌なことがない」と、彼女は息子たちに道楽を勧めて、文字通り骨抜きにしてしまう。そこまで信頼されて、大番頭・金子直吉は「お家さんのために」と全力を尽くすのである。「お家さん」のためを思うばかりに、鈴木商店は株式会社化が遅れて、大不況とともに倒産してしまうのだが、果たして女傑・オーナーと企業家・大番頭の間に、どんな心の交流があったのか。それはちょっと読んでみたいところである。

〇来月ぐらいには出版されるのだそうだ。が、あいにく著者名を忘れてしまった。そもそもフィクションなのか、小説なのかも聞き忘れてしまった。せっかくだが、これでは宣伝にならんなあ。

〇それにしても、出版社のパーティーというのは、見るからに芸術家風というか、妙なタイプの人が多くて面白かった。佐藤優さんも来てましたな。彼は昨年の新潮ドキュメント賞受賞者なのである。今世紀に入って初めて見かけましたが、「佐藤さーん」の一言がなんとなく出なかった。ワシもその程度には、遠慮のない人間ではないのである。


<10月8日>(月)

〇すでにご存知の方が多いと思いますが、名門替え歌サイト「歌は世につれ、世は歌につれ」では、「初期作品の転載」が行われています。ブログの開設以前、作者の「・・・・みたいな。」さんは、「本石町日記」さんや当「溜池通信」で作品を発表されていました。2005年5月26日から2006年2月21日までの29作品を、あらためて収録し直す作業がこれから始まります。

〇早速、転載されたこの作品(ケッヘル29)なんて、懐かしいですよね。永田メール事件って、何時のことでしたっけ? ちょうどぐっちーさんもそうだったと思いますが、ライブドア事件がブログ誕生の契機になっているという点が、「時代」かなぁと思います。

〇替え歌の名手、「・・・・みたいな。」さんは、一度使った歌を二度と使いません。これは恐るべきハンディというべきもので、かつて星新一は、「焼き直し」の誘惑に駆られつつも、常にフレッシュなアイデアを搾り出し続けて、とうとう1000本のショートショートを書き上げましたが、それに匹敵するようなストイシズムではないかと思います。

〇そして「・・・・みたいな。」さんが発表した替え歌は、間もなく500作に達するそうです。しかし、そのためには「500曲の元歌」を熟知していなければならず、なおかつその500曲は人口に膾炙したものでなければならないのです。スゴイ挑戦です。500曲が揃った時点で、お祝いをしなきゃいけないですよね。


<10月9日>(火)

〇昨日の読売新聞「記者ノート」欄で、「福田政権、名軍師はいるか」というコラムが掲載されていました。「戦国時代の軍師は時代を超えた人気がある」というところから始めて、ネット界に棲息する雪斎どのと不肖かんべえに取材して、「当世の軍師とは」に言及したものです。面白く読ませてもらいました。

〇一点だけ苦情を申し上げれば、取材はかなり以前に行われているのですが、掲載が10月8日であったために、「かんべえ47歳」と記載されてしまったことであります。T記者の記述は実に正確でありまして、それ以前の掲載であれば46歳であったのに、何だか損した気分であります。いいなあ、雪斎どのはまだ40代前半で。

〇それから現在、発売中の「日経マネー11月号」では、かんべえが為替の予測記事で登場しているのですが、掲載の写真が同業者のSさんに入れ替わっております。単なる編集部のミスでありまして、当方に実害はなく、Sさんこそいい迷惑であります。くれぐれも写真を見て、「どうしたんですか?」などとビックリされませんように。


<10月10日>(水)

〇昨日くらいから完全オフレコの会合が続いていて、ネタはいっぱいあるのだけれども、書けないことばっかしで息が詰まります。せめて最近のニュースに対して、少々思うところを書いてウサ晴らし。

〇「円天で被害1000億円」・・・・・「擬似通貨」「ネット取引」という点は今風であるけれども、基本的な構造は「M資金」「和牛商法」「オレンジ共済」などと変わらない。騙した人の顔を見るにつけても、これを信じた人がいたという方が信じられない。自分の欲をコントロールできない人は、どんなにくだらない手法でも騙せてしまうものなのでありますな。

〇「時津風部屋の騒動」・・・・・あれはリンチじゃなくて殺人だろうが。ちゃんと捜査一課が出るべき事件ではないのか。それなのに部屋の後継ぎが誰になるかが騒ぎになるのだから、角界は不思議な世界である。察するに相撲界における暴力とは、歌舞伎界の不倫みたいなものか。

〇「NY株価が1万4000ドル」・・・・・サブプライム問題で信用危機が生じているのに、利下げを歓迎する動きと、「投資家は債券が買えないというのなら、株を買えばいいのに」というマリー・アントワネット的なお気楽さで、イケイケドンドンが続いている。某有名金融記者いわく、「これをベン(・バーナンキ)キャリー・トレードという」。座布団1枚。

〇「年金横領問題」・・・・・被害がたとえ10万円であっても、これをキチンと訴えて罰することが、年金制度への信頼回復への王道でありましょう。舛添厚生労働大臣のスタンドプレイという気もしますけど、千里の道も一歩からと申します。市町村や社会保険事務所は、身内に対する温情を排して、厳しくやってほしいと思います。

〇「小沢氏がISAFへの参加を表明」・・・・・そんなものを誰が支持するというのか。安全で感謝されているインド洋上の給油がダメで、危険なアフガンへの地上部隊投入がいいというのは、単に損得計算の時点で破綻している。計算高い日本国民が、そんな神学論争に乗ってくるはずがないではないか。それでも空理空論を言わしめてしまうのは、政局にしたいという欲望と、湾岸戦争時の自分の判断は正しかったという小沢氏の個人的な怨念によるものであろう。投資家や庶民の欲は可愛いものですが、政治家の欲はとっても迷惑で危険な存在なのです。


<10月11日>(木)

〇今日は英国政治に関する話を聞きました。知らないことが多かったですが、ブレア→ブラウンという首相の交代には、いろんな背景があるのだなと感じました。

〇日本ではこの20年くらいで、いろんな形で政治の改革が行われ、その目指すところは「強い首相」の実現にありました。要は日本でもブレアみたいな総理が出ないかな、という思いがあって、以下のような制度改革は、ほとんどが「ウェストミンスタースタイル」を志向していたといえるのではないでしょうか。

1994年 政治改革4法が成立
1996年 初の小選挙区・比例代表選挙
1999年 党首討論、副大臣制度などを導入
2001年 省庁再編、内閣機能の強化
2005年 郵政解散、与党と政府の一体化

〇これでやっと首相がリーダーシップを発揮できるようになった、と喜んでいたところ、「日本には首相が務まるような資質の持ち主がほとんどいなくなっていた」、ということに今になって気づき、急に寒々しく覚えてきた2007年夏でありました。

〇他方、英国政治ではキャメロン保守党党首やミリバンド兄弟みたいに、ちゃんと若手政治家が育っているのですね。日本ではその昔、自民党の派閥が人材発掘と育成の役割を担っていた。その派閥は弊害が多いからということで弱体化させたところ、人材機能が弱ってしまった。さて、その代わりをどうするかというところですが、人を育てるには時間がかかることですから、簡単ではないですね。とりあえず「中選挙区制に戻せ」というのだけは止めた方がいいと思いますけれども。


<10月14日>(日)

〇週末、子供のドッジボール大会に付き合いました。そこで気づいたのですが、「ヒザ下セーフ」のルールがなくなっているのですね。「顔面セーフ」はそのまま。以前、上の子供が参加した頃のドッジボールは「ヒザ下セーフ」だったので、どこかでルールが変わったのでしょう。

〇確かに子供の安全を考えれば、ボールが足に当たる方が痛くないので、この方が当世風ルールなのかもしれない。ただし、そうなるとボールを投げる側も下半身を狙うようになるので、ワンバウンドのボールが多くなる。結果として緩い試合になってしまう気がしました。もっとも小学生とはいえ、高学年の決勝戦ともなると相当な迫力で、互いに相手の胸元を狙って投げ合うシーンが見られましたけれど。

〇もうひとつ、昔と違っているのは、この手の行事をやるときにグラウンドの門扉を閉じて、入り口で入場者をチェックするようになったこと。これも昨今の事情を考えると無理からぬところで、そのために父兄から警備係を集めなければならない。事前に「保護者証」を発行したりして、結構、面倒くさいのだ。それでも、「去年は不審者が会場を覗いていた」などと聞くと、これはやむを得ぬ対応策といえましょう。

〇これはまた別の話ながら、9月に行われた同じ小学校の運動会では、前夜の午後9時から「場所取り」の行列ができていたそうだ。午後11時にコンビニに行った人の証言によれば、「もう20人も並んでいて驚いた」とのこと。わが子の晴れ舞台を撮影するために、ベストポジションを求めるためとはいえ、徹夜しますかねえ。ウチなどはモノグサですから、当日の9時過ぎに出かけて、それでもちゃんとお昼ご飯を食べる場所くらいは確保できたのですが。

〇結論として、秋は学校関係の行事が多いですけれども、昔と比べて悩ましいことが多いですなあ。


<10月15日>(月)

♪1万年と2000年前から、愛してる〜♪、という「創聖のアクエリオン」のテーマが耳元をぐるぐる回っているのは、きっと私だけではないことと思います。歌詞を知りたい人はここをご参照。歌詞のアクセスランキングがむちゃくちゃ高いところを見ると、皆さんやっぱり気になっていたのですね。パチンコ屋さんのCMの効果は偉大であります。

〇今宵のクライマックスシリーズ。日ハム7回裏の攻撃を見ていて、なんて強くていいチームなんだろう、なんていいファンがついているんだろう、と羨ましくなりました。そこへ行きますと、わがタイガースのなんと弱かったこと。先発投手は弱々しく、中軸打者には迫力がなく、かろうじて救援投手陣の踏ん張りだけでここまで来た感あり。これじゃ来年も苦労するだろうねえ。

〇誕生日を過ぎたので、免許証の更新に行ってきました。いちおうゴールドなので、5年振りである。変な癖なんだけど、講習を受けるたびに気になるのがこのデータなのである。

●死者数の多い都道府県

  平成14年 平成18年
1位 北海道(493) 愛知県(338)
2位 愛知県(398) 北海道(277)
3位 千葉県(379) 千葉県(266)
4位 神奈川県(376) 埼玉県(265)
5位 東京都(376) 東京都(263)
全国計 8,326 6,352


〇昔は「1位北海道、2位千葉県」が常連だったのだけど、北海道の改善が顕著である。5年前に比べてほとんど半減に近い。相当に取締りを強化しているんじゃないでしょうか。わが千葉県も3位変わらずとはいえ、5年間で3割減である。この間、あまり減らなかった愛知県が2年連続で不名誉な1位となった。やっぱり景気がいいこととも関係があるのでしょうね。

〇それにしても、交通事故死が昨年は全国で6352人とは驚きです。昔は1万人を越えていたのですから。報道だけを聞いていると、一家全滅だとか、子供の列にクルマが飛び込んだとか、凶悪な交通事故が全国至るところで起きているような印象を受けますが、実は5年間で死者数は23%も減少しているのです。こういうことはニュースにならないんですよね。

〇それにしても5年もたつと、いろんな交通ルールが変わっているので驚く。例えば「普通免許」は、今回から「中型免許」という呼び名に変わった。こういう法改正があったので、従来の免許取得者の既得権を守るための措置なのだそうだ。飲酒運転や駐車違反など、全体として交通規範の取り締まりは厳しくなり、それとともに死者数は減っているらしい。もちろん少子・高齢化や若者のクルマ離れなどもあるのでしょうけれども。


<10月16日>(火)

〇ちょっと遅れましたが、アル・ゴア前副大統領のノーベル平和賞受賞について少々。

〇『不都合な真実』がオスカーを取ったあたりまでは、「ツイてるじゃん」てな感じでしたが、ノーベル賞まで来るとちょっとした一大事である。だいたい政治家がノーベル平和賞を取ってしまうと、少なくとも1980年代以降はその後の人生に碌なことがない。まあ、お暇な方はWikiで「ノーベル平和賞」を引いてみてください。ワレサは落選、スーチーさんは自宅軟禁、ダライ・ラマは故郷の土を踏めず、ゴルバチョフや金大中はその後の人生で随分と評価を下げ、コスタリカのサンチェスはカネで台湾を売った。ゴア氏としても、今後の人生航路には充分に警戒された方がよろしいでしょう。

〇もちろん当面のゴア氏としては、気分が悪かろうはずがない。政治家として完全復活を遂げたのはもちろん、環境問題に関する警世家、先覚者、伝道者として高い評価を得た。今のポジションは、アメリカ大統領以上といっても過言ではない。大統領選出馬を要請する声が全米で澎湃として上がっているものの、こんな誘いに乗ってはいけないわけでして、今は断れば断るほど値打ちが上がる一方、というオイシイ立場である。

〇逆に出馬したら最後、「そもそもゴアは地元、テネシーで勝てるのか?」みたいな世俗の泥にまみれることになる。思えば2000年選挙だって、地元を落とさなきゃフロリダ州は不要だったのだものね。でも、銃規制に賛成で煙草に反対という政治スタンスで、テネシーで勝てるはずがないのである。「環境問題だなんていって、だったらなぜゴアはあんな豪邸に住んでいるんだ」という声も、今だから聞こえてこない。が、選挙に出れば必ず出てくるだろう。

〇ゴア氏の今後の楽しみは、民主党予備選挙で誰を支持するか、という駆け引きでしょう。来年1月には予備選挙が始まるわけですが、頃合の時点で「私はXXXさんを支持する」といえば、そのまんま流れができるかもしれない。そうなったら民主党新政権下において、重きをなすのは当然のことわり。仮にヒラリー・クリントンが次期大統領になったとして、ファースト・ハズバンドのビル・クリントンと、キングメーカーのアル・ゴアのどちらが求心力を持つかといえば、結構いい勝負かもしれません。

〇そこでヒラリー政権において、「環境問題特命長官」みたいな役職をもらい、ポスト京都議定書の枠組み作りのために、中国やインドを歴訪する、という選択肢もあるでしょう。もっとも、「ノーベル平和賞」をもらってしまったがために、下手な失敗はできなくなってしまい、自縄自縛に陥るかもしれません。

〇政治家を動かす最大のモチベーションのひとつは、「名誉を得たい」「歴史に名を残したい」という思いでありましょう。ところが、ノーベル平和賞は、それらの望みを存分に果たしてしまいます。それを果たしてしまったら、次の目標が見当たらなくなってしまう。カーターさんのような「元大統領」であればともかく、「これからが政治人生」という人がもらってしまってはかえって害になる。意外と罪な存在であったりもするのである。


<10月17日>(水)

Foreign Affairsの11-12月号にヒラリー・クリントンの外交エッセイが掲載されたと聞いて、あわてて読んでみた。早速ながら、以下の部分はちょっとしたセンセーションを呼ぶと思う。対中関係について、以下の3つのパラグラフを割いて述べている。


Our relationship with China will be the most important bilateral relationship in the world in this century. The United States and China have vastly different values and political systems, yet even though we disagree profoundly on issues ranging from trade to human rights, religious freedom, labor practices, and Tibet, there is much that the United States and China can and must accomplish together. China's support was important in reaching a deal to disable North Korea's nuclear facilities. We should build on this framework to establish a Northeast Asian security regime.

But China's rise is also creating new challenges. The Chinese have finally begun to realize that their rapid economic growth is coming at a tremendous environmental price. The United States should undertake a joint program with China and Japan to develop new clean-energy sources, promote greater energy efficiency, and combat climate change. This program would be part of an overall energy policy that would require a dramatic reduction in U.S. dependence on foreign oil.

We must persuade China to join global institutions and support international rules by building on areas where our interests converge and working to narrow our differences. Although the United States must stand ready to challenge China when its conduct is at odds with U.S. vital interests, we should work for a cooperative future.


〇20世紀には、"The most important bilateral relationship bar non."といえば、日米関係の専売特許でありました。(©:マイク・マンスフィールド駐日大使)。21世紀のそれは、米中関係にとって代わられるようです。ヒラリーが大統領になれば・・・・。

〇ヒラリーは、米中間には「通商」「人権」「宗教の自由」「労働慣行」「チベット」など、基本的に意見が合わない問題がある、という。そんなに遠慮しないで、「ダルフール」とか「人民元」とか、「知的財産権」「軍事費の透明化」「中国製品の安全性」なども加えていただきたいところです。ところが米中には、協力し合わなければならない分野もあって、例えば北朝鮮の核施設の無害化では、中国の支援が重要である、という。協力分野が1個だけ、ということは、そのテーマを解決しない方が中国にとっては有利ということになりますな。

〇ヒラリーらしいのは、その次に「中国の環境問題」を槍玉に挙げて、そのために「米中日の協力が必要」だという。ここでやっと日本が出てくる。その次に日本が出てくるのは、アジアのどの同盟国を重視するかというくだりであって、そこはこんな風である。


In Asia, India has a special significance both as an emerging power and as the world's most populous democracy. As co-chair of the Senate India Caucus, I recognize the tremendous opportunity presented by India's rise and the need to give the country an augmented voice in regional and international institutions, such as the UN. We must find additional ways for Australia, India, Japan, and the United States to cooperate on issues of mutual concern, including combating terrorism, cooperating on global climate control, protecting global energy supplies, and deepening global economic development.


〇インドのはるか後塵を拝するというところがちょっと哀しい。でも、韓国も台湾もフィリピンも言及されていないので、「ふんっ、アジアに多くを割かないのは、民主党の伝統なんだよね」と言いたくなるところである。しかし"Pacific"という言葉さえ出てこないというのは、ちょっと無視し過ぎではないだろうか。

〇面白くないので、今度は同じ号に掲載されているジョン・マケイン論文を見てみよう。すると、おお、なんと「アジア太平洋の世紀」について、丸々1章(1ページ)を割いてくれているではないか。うれしくなったので、全文を以下転載する。


SHAPING THE ASIA-PACIFIC CENTURY

Power in the world today is moving east; the Asia-Pacific region is on the rise. If we grasp the opportunities present in the unfolding world, this century can become safe and both American and Asian, both prosperous and free.

Asia has made enormous strides in recent decades. Its economic achievements are well known; less known is that more people live under democratic rule in Asia than in any other region of the world. Japan's former prime minister spoke of an "arc of freedom and prosperity" stretching across Asia. India's prime minister has called liberal democracy "the natural order of social and political organization in today's world." Asian countries are drawing closer together, striking trade and security agreements with one another and with other states.

North Korea's totalitarian regime and impoverished society buck these trends. It is unclear today whether North Korea is truly committed to verifiable denuclearization and a full accounting of all its nuclear materials and facilities, two steps that are necessary before any lasting diplomatic agreement can be reached. Future talks must take into account North Korea's ballistic missile programs, its abduction of Japanese citizens, and its support for terrorism and proliferation.

The key to meeting this and other challenges in a changing Asia is increasing cooperation with our allies. The linchpin to the region's promise is continued American engagement. I welcome Japan's international leadership and emergence as a global power, encourage its admirable "values-based diplomacy," and support its bid for permanent membership in the UN Security Council. As president, I will tend carefully to our ever-stronger alliance with Australia, whose troops are fighting shoulder to shoulder with ours in Afghanistan and Iraq. I will seek to rebuild our frayed partnership with South Korea by emphasizing economic and security cooperation and will cement our growing partnership with India.

In Southeast Asia, I will seek an elevated partnership with Indonesia and continue to expand defense cooperation with Malaysia, the Philippines, Singapore, and Vietnam while working with willing regional partners to promote democracy; defeat the threats of terrorism, crime, and the narcotics trade; and end Burma's deplorable human rights abuses. The United States should participate more actively in Asian regional organizations, including those led by members of the Association of Southeast Asian Nations. As president, I will seek to institutionalize the new quadrilateral security partnership among the major Asia-Pacific democracies: Australia, India, Japan, and the United States.

Dealing with a rising China will be a central challenge for the next American president. Recent prosperity in China has brought more people out of poverty faster than during any other time in human history. China's newfound power implies responsibilities. It raises legitimate expectations that internationally China will behave as a responsible economic partner by developing a transparent code of conduct for its corporations, assuring the safety of its exports, adopting a market approach to currency valuation, pursuing sustainable environmental policies, and abandoning its go-it-alone approach to world energy supplies.

China could also bolster its claim that it is "peacefully rising" by being more transparent about its significant military buildup. When China builds new submarines, adds hundreds of new jet fighters, modernizes its arsenal of strategic ballistic missiles, and tests antisatellite weapons, the United States legitimately must question the intent of such provocative acts. When China threatens democratic Taiwan with a massive arsenal of missiles and warlike rhetoric, the United States must take note. When China enjoys close economic and diplomatic relations with pariah states such as Burma, Sudan, and Zimbabwe, tension will result. When China proposes regional forums and economic arrangements designed to exclude America from Asia, the United States will react.

China and the United States are not destined to be adversaries. We have numerous overlapping interests. U.S.-Chinese relations can benefit both countries and, in turn, the Asia-Pacific region and the world. But until China moves toward political liberalization, our relationship will be based on periodically shared interests rather than the bedrock of shared values.

The United States should set the standard for trade liberalization in Asia. Completing free-trade agreements with Malaysia and Thailand, realizing the full potential of our new trade agreement with South Korea, and institutionalizing economic partnerships with India and Indonesia so that they build on existing agreements with Australia and Singapore should set the stage for an ambitious Pacific-wide effort to liberalize trade. Such trade liberalization would benefit Americans and Asians alike.


〇いきなり「自由と繁栄の弧」が出てくるではないか。本当はあれは安倍さんじゃなくて、麻生さんなんだけど、その程度の事実誤認はまあよろしい。「グローバルパワーとしての日本の台頭を歓迎し、『価値重視外交』を称揚し、国連安保理における常任理事国入りを支持する」、という。ありがたくて涙が出ます。アジアにおける優先順位は、「日本―豪州―東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム)」となっている。この辺も共和党式です。

〇そこからやっと中国に話が移り、「中国の台頭に対することは、次期米国大統領にとって主要な課題となる」と述べている。結構であります。台湾に関する脅しもあります。「中国が民主・台湾を巨大な武器や戦争を想起させるレトリックで脅すときには、米国はこれをテイクノートする」――などと、共和党らしい文章が続きます。

〇勘のいい読者はもうお分かりですよね。この文章は「アーミテージ節」なのです。もともとアーミテージ一家の知日派グループは、ごっそりマケイン陣営に身を投じていました。マケイン論文のアジア関連部分が、アーミテージ報告書みたいなトーンになるのは当たり前なのです。

〇しかるにマケインの当選可能性は今では非常に低くなってしまいました。その代わりにトップランナーとしての座を着々と固めているのはヒラリー・クリントンです。つまりアメリカの対外政策は、2009年から2012年にかけて、「アジア軽視」+「親中」+「疎日」路線になる可能性が高い。以下は本日の読売新聞の記事から。


◆米大統領選、「軍資金」ではクリントン氏が圧倒

 連邦選挙委員会は15日、次期米大統領選の各候補の陣営が提出した7〜9月期の資金収支報告を公表した。

 候補指名に向けた最初の予備選・党員集会が3か月後に予定される中、今後の情勢のカギを握る「手元資金」で、民主党のクリントン上院議員が5046万ドル(約59億円)と圧倒的な優位に立ち、バラク・オバマ上院議員(民主)の3608万ドル(約42億円)、ジュリアーニ前ニューヨーク市長(共和)の1664万ドル(約20億円)などを大きく引き離した。

 手元資金は、「軍資金」と呼ばれ、各陣営の勢いを占う指標とされる。主要候補が軒並み手元資金を減らす中、四半期ごとの献金額で初めてオバマ氏を上回る約2700万ドル(約32億円)を集めたクリントン氏は、手元資金でも6月末の4500万ドル(約53億円)から10%以上積み増した。

 一方、選挙戦が始まって以来の支出額は、クリントン氏が3863万ドル(約45億円)だったのに対し、オバマ氏は4384万ドル(約52億円)を使った。それでも最新のFOXテレビの世論調査によると、クリントン氏の支持率が前月調査の43%から7ポイント伸びて50%に達したのに対し、オバマ氏は6ポイント減の18%と、逆に差が開く展開となっている。


〇マケイン陣営の手元資金は、この一覧表によればたったの348万ドル。ボスと一緒に、知日派人脈も沈んでしまいそうな雲行きです。そもそも彼らがワシントンで信認を集めたのは、日本が政治的にも経済的にもドツボに嵌っていた2000年10月に、「アーミテージ報告書」で日本の重要性を訴えたからである。その後、小泉政権が発足し、日本は信頼に足る米国の同盟国となリ、経済もめでたく復調した。それがゆえに知日派人脈が登用され、日米関係の黄金時代を築いたわけである。

〇しかし、いいことばかりが続くわけではない。小泉首相は去り、ブッシュ大統領はレイムダック化し、安倍さんは政権を放り出した。そしてこのタイミングで、11月1日にはわれらが海上自衛隊もインド洋から撤退することになる。この負け戦モードは、しばらくは止らないでしょうね。まことに残念なことではありますが。

〇業務連絡。明日からしばしソウルに旅立ちますので、会社あての電話とメールはチェックできません。悪しからずご了承ください。


<10月18日>(木)

〇ソウルに来ています。なんと11年ぶりであります。11年前には、会社のギャンブル好き5人で、ウォーカーヒルのカジノに遊びに行ったのでありました。もちろん全員が敗北を喫したのでありますが、いやはや楽しい旅行でござりましたな。今回はもうちょっと真面目で、日中韓の国際会議に参加するためです。「経済セッションで人が足りないから手伝って」という、毎度お馴染みのパターンであります。

〇今ではソウルに行くときは、羽田空港発キンポ空港行きなのですね。羽田空港の国際ターミナルって、初めて使いました。シャビーな施設ではありますが、混んでいます。韓国語と中国語の案内がひっきりなしに流れています。飛行機が飛び立つと、あっという間に到着。ちなみに機中では、新潮社から送ってもらった『お家さん』(玉岡かおる)上巻(バウンドプルーフ版)を読んでいました。この小説、ジェフリー・アーチャーか花登筺か、という面白さであります。

〇さて、キンポ空港の両替がアッパレでありました。日本円の一万円札を渡すと、サッと紙袋が出てきて、中には計算書とともに76700ウォンが入っている。普通は計算に時間がかかる上に、サインしろだの、パスポート見せろだのとうるさいものですが、このサービスは感心しました。要は日本人向け、ってことですかね。

〇会議出席の研究者の皆様と一緒に、地下鉄で移動してコリアナホテルに投宿。ソウルの中心街です。金銭感覚がなかなかつかめません。地下鉄は40分ほども乗っていたのに1300ウォンでよい。これは安い。ホテルのサンドイッチとコーヒーは1万8000ウォンで、東京とほとんど変わらない。ホテルの部屋のインターネット一日使用料も1万8000ウォン。これはちょっと高いかな。全体としては、円が安いという印象。

〇夕方、軽く周囲を散歩すると、道路がとっても広い。クルマもびゅんびゅん飛ばしていて、運転の荒さは千葉県並みですな。ハングルの看板がまるで読めないし、会話もサッパリのかんべえは、おそらく一人ではスタバの注文もできないはずである。それでも、日本とは時差もないし、ケータイ電話も「+81」をつければちゃんと日本につながるし、外国とは思えないところもある。街を歩いていて、偶然に「双日ソウル支店」を発見してしまう。でも、ナイショで来ているので黙って通り過ぎる。

〇夜は会議の前夜祭で韓国宮廷料理。日中韓の研究者が勢揃いである。これで明日は公開のセッションが行われることになる。ホテルの前に、ちゃんと"Opinion Leaders' View on Multilateral Cooperation in Northeast Asia & Future Course"という会議の看板がかかっていた。大統領選挙がちょうど2ヵ月後の12月19日に迫っているので、実はいろいろ政治的に微妙な要素を孕んでいるのだ、という説明を、後ほど日本側代表の武貞秀士親分から拝聴する。

〇日中韓3カ国の研究者が、「安保、北朝鮮、歴史、経済」という4つのテーマで議論をする。と聞くと、「中韓連合軍の攻撃の前に日本は防戦一方」という情景が目に浮かぶが、過去の会議においては「高句麗問題をめぐる中韓大激論」なんていう香ばしい事件もあったりして、一筋縄では行かないのだそうだ。さて、明日はどうなりますでしょうか。


<10月19日>(金)

〇一日かけて、日中韓の公開会議が終了。いつものことながら、国際会議をやると太ります。体を動かさないし、食べるし。

〇それぞれのセッションで、スピーカーとコメンテーターを3カ国から立てて討議をします。午前中の「安保」「北朝鮮」のセッションは、ほとんど事前に提出しているペーパーの内容を説明しているだけで、時間を使いきってしまいました。せっかく武貞先生が、「南北首脳会談で討議された"3者か4者で協議する"というのは、米朝韓のことか、それとも米中朝なのか」などと燃料を投下しているのに、あっさりとスルーされてしまう。おやおや、そんなことでよいのか。どうせなら荒れて欲しいと思うワタシ。

〇午後の「歴史」セッションで流れが変わる。持ち時間を短く制限したところ、余った時間にフロアから質問が飛ぶようになリ、機微に触れる話題も飛び出すように。中国側参加者から「遺棄化学品問題」についての質問が出たところ、日本側から「すでに日本政府が1兆円の予算を組み、現地に処理工場を作って作業中」という説明があり、「ちなみに日本軍が武装解除をした際に、化学兵器は中国軍に引き渡したという研究もある」とやり返したところなど、なかなか見所もたくさんでありました。

〇最後の「経済」セッション。ここでようやく、かんべえの出番。北東アジアで経済協力の仕組みを作りましょう、というのがテーマなのだけど、学者さんたちばかりなので、貿易商社の人間の目から見ると、非常に頭でっかちな議論に見えてしまう。そこで挑発するつもりで、「なんでアジアが欧州の真似をしなきゃならないのか分からない。彼らがアジアを羨むのならわかるけど」とやらかしてみた。結構、衝撃的な意見だったと思うのだけど、果たしてどこまで通じたか。

〇夕食会をパスして、ソウルで某日本企業の韓国法人社長を務める古い友人と再会。この季節の名物である「酔っ払い蟹」みたいな料理(名前を聞いたが忘れてしまった)にチゲをご馳走になる。美味なリ。それからカラオケ。つまり定番コースですね。日本語の歌は少ないのだけど、『独島は韓国のもの』という歌があったのが笑えました。なんで日本語だったんでしょう。最後は、社長専用のレクサスでホテルに送ってもらいましたが、最新型のレクサスはDVDの音響がムチャクチャ良くて、後部座席にはマッサージ機能までついているのですな。感動しました。

〇明日は日中韓の非公開会議です。


<10月20日>(土)

〇土曜日は同じメンバー、同じテーマで、今度は外部を締め切っての会議。だから遠慮のない応酬がある。とはいうものの、その辺は想定の範囲内という感じ。2日間の会議を終えてみると、こんな印象が残る。

●中国チーム:会議中はタテマエばかり。各人のホンネが奈辺にあるや、見当もつかず。

●日本チーム:タテマエとホンネに差があるのだが、日本人同士だとすぐにホンネが出る。

●韓国チーム:そもそもタテマエとホンネに、ほとんど差のない人たちである。

〇要はコミュニケーションスタイルが違っていて、そこが面白いのですな。

〇全部の日程が終わると、後は宴会。韓国料理にビールと焼酎で乾杯の連続。ここに「北東アジアアルコール共同体」が簡単に成立する。会議室では侃侃諤諤であっても、飲みニュケーションになると日中韓は実に簡単に打ち解けるのである。結局、相互交流とはこういう経験を積み重ねていく以外にないのかもしれない。

〇ふと気がつくと、ワシも随分と飲んでいる。それも3日連続である。年をとって、記憶力やら視力やら、いろんな能力が低下する中で、若い頃はあんまり強くなかったのに、酒量だけが確実に増えている。しかも食べる量は、若い頃とあんまり変わらなくて、恥ずかしながら結構な量を食えてしまうのである。いやはや、困ったものだ。最近はホント、年齢が気になります。


<10月21日>(日)

〇家に帰ってサントリーのプレミアムモルツを開けると、いやあ、日本のビールは旨いですなあ。いや、ソウルでは結構、いいものをご馳走になっていたのですが、妙に気が抜けないところもありましたもので。

〇さて、3日間のソウル会議の思い出話を少々。韓国と中国の両方に「朴さん」がいたのですが、韓国側は"Park"さん、中国側のは"Piao"さんと呼ぶのであります。「朴」という名であるからには、Piaoさんは朝鮮系の人なのでしょうが、案の定、北朝鮮研究をやっている人でありました。聞けば慶応大学に留学したことがあり、小此木先生の弟子だという。「来週は伊豆見さんに会う」とも言ってましたな。やっぱり北朝鮮研究は、ごく狭いサークルで行われているのだなということを実感。

〇初日の夜、宴会終了後に日本チームに集合がかかり、「明日の打ち合わせをしよう」ということになった。場所はどうしましょう、ということになったら、土地鑑のある武貞親分が繁華街の人ごみを掻き分けて、スイスイと歩いていく。一同でついていくと、そこには頃合のワインバーがあって、そこには馴染みの店主もいて、店の奥には日本チームの8人にピッタリのサイズの個室が用意されていた。さらに驚いたことには、この店では産経新聞の黒田記者が来ておられるではありませんか。ソウルのディープスポットという感じでありました。

〇さらに最終日には、空港でバッタリ重村先生と遭遇してしまう。帰りの飛行機も一緒でありましたが、これはもう北朝鮮研究者のオールスター集結という感じですね。なにしろ南北首脳会談が終了し、2ヵ月後には韓国大統領選挙という時期であります。これからしばらくは、北東アジアは面白いですぞ。


<10月22日>(月)

〇今日は日本食品機会工業会さんで時局講演会の講師を務めました。テーマは「食から考える現代ニッポン」。お客は大勢入っておられましたが、果たしてご満足いただけましたでしょうか。

〇で、どうでもいいことなんですが、この団体の会長さんが中日ドラゴンズのファンで、たいそうご機嫌なのであります。なにしろクライマックスシリーズ5連勝ですからね。「圧倒的じゃないか我が軍は」と喜んでおられるのは、上海馬券王先生だけではないのであります。お陰さまで、たいへん丁寧で愛情に満ちた講師ご紹介をいただきました。これも我がタイガースが、初戦で連敗してドラゴンズを調子に乗せてしまったご利益かもしれません。

〇その一方で、「クライマックスシリーズには納得が行かあああん」と言って怒っている巨人ファンも少なくないようで。今年みたいにペナントレースが面白い年であれば、たしかにCSは蛇足という感もある。それにしても、対中日3連敗は不甲斐なかったとはいえますが。老婆心ながら、中日はあんなに簡単に勝ってしまうと、ロッテ相手に華麗な五連戦を戦った日ハムに比べると不利なんじゃないかと思います。でもまあ、ダルビッシュ対川上憲伸の対決は見応えがあるでしょうな。

〇いろいろ批判はあるでしょうけれども、現在は2004年夏に生じた「近鉄身売り事件」を契機に始まった、プロ野球改革の試行錯誤の最中であると思います。CSはそのための方策のひとつであって、これで納得が行かないようならまた次の手を考えればよい。人気獲得のためには、いろんな努力をしなければならない。

〇以下は3年前に日経金融新聞に寄稿したものです。ちょうど近鉄がオリックスに合併されそうになって、とうとう11球団で1リーグ制かと思われたところへ、まだ無名だったライブドアのホリえもんが買収提案を行って物議を醸していた頃です。今読み返すと、思えば遠くへ来たものだ、という感を強くします。


視点論点(日経金融)04.9.3

「プロ野球は日本経済の縮図」

 来週9月8日には、プロ野球の未来を決めるオーナー会議が開催される。一リーグ制への移行か、二リーグ制の存続か。現時点では視界不良だが、この問題、つくづく日本経済の縮図に思えてならない。プロ野球が抱えている諸問題が、日本経済の現状を色濃く反映しているからだ。

 第一に地方経済の不振という問題がある。かつて関西では四つの私鉄が球団を経営していたが、近鉄とオリックスが統合されると、いよいよ関西は二球団となる。全球団の三分の一が集中していたものが、十一分の二になるということは、現在の関西経済圏の規模から考えると適正水準かもしれない。

 仮にファンがバファローズの存続を願うとしても、球団の移転を検討することは避けられないだろう。福岡をフランチャイズにしたダイエーは年間三百万人を動員するようになり、札幌に移転した日ハムは北海道で新たなファン層を発掘している。今年の夏の甲子園における駒大苫小牧高校の優勝は、北海道における野球人気の高まりと無関係ではあるまい。プロ野球の再生は、地方経済との連携が鍵を握っているはずである。

 第二にグローバル化による国際競争時代の到来がある。プロ野球の人気凋落は、イチロー、松井らのメジャーリーグ移籍が大きな契機になっている。実力のある選手は次々とメジャーに行き、そちらの方がゲームも迫力があるとあらば、ファンの関心も国内から離れるのは無理のない話である。

 そんな中で、アジアリーグに活路を見出そうという意見がある。方向としては正しいが、日本のプロ野球が縮小均衡に向かう中で、韓国や台湾のチームに参加を求めても説得力はゼロであろう。それでも、今回、長嶋ジャパンがアテネ五輪に参加したことは、プロ野球が国際競争を意識するようになった端緒として評価できる。こんな時代に世界一を目指さないようなスポーツは、いずれファンに見離されることは確実であるからだ。

 第三は顧客ニーズの多様化である。スポーツといえば野球ばかりであった往時に比べ、今はプレーでも観戦でも選択肢が豊富にある。優れた運動神経と意欲を持つ少年たちが、野球を目指してくれるように、他競技に負けない普及活動が望まれるところである。

 この点で、ワールドカップという明確な目標があり、クラブチームが地域に浸透しているサッカーは、明らかに有利な立場にある。逆に野球には、「日本サッカー協会」のような上部団体がない。プロ組織とアマチュア組織が反目し、互いの選手の接触を禁じているような現状をなんとかしないと、将来の見通しは暗いのではないか。

 第四に少子・高齢化現象がある。今日、プロ野球が大好きなのは、野球しかない時代に育った四〇歳以上の世代が中心であろう。高齢化しつつある野球ファンは、筆者も含めて概して保守的であり、長く慣れ親しんだ制度に愛着がある。日本シリーズやオールスター戦も、できれば今まで通りであってほしい。しかるに日本経済の長い停滞を体験した中高年は、愛するプロ野球が縮小均衡に向かうことを、甘んじて受け入れそうな雲行きである。

 それでもプロ野球は、依然として人気ナンバーワンスポーツであり、選手の待遇ももっとも恵まれた業界である。表面的には繁栄しているし、他所から見れば羨望の対象だ。それでも将来の夢を語れないという点が、またまた日本経済の姿に重なってくる。

 両者はいわば、「半分に減ったコップの水」である。古き良き時代を想い、現状を嘆くことは容易だが、水を増やす手段がないわけではない。縮小均衡という次善の策に走る前に、万策を尽くして球界全体の発展を目指すべきではないか。オジン世代の一プロ野球ファンとしては、そのように願ってやまないのだが、問題は改革へのリーダーシップであり、ここにも日本経済と共通の課題があるようだ。


<10月23日>(火)

〇今週の"The Economist"誌が、日本の海上自衛隊がインド洋から引き上げそうだ、という問題を取り上げています。余計な論評抜きで、かんべえ訳を以下に掲げておきます。


"Don’t furl the flag” 「旗を畳むことなかれ」  

October 20th 2007

 世界でもっとも問題ある地域の仕事に向けて、日本が兵士を送り込むようになってから初めて、恥ずべき撤退をほのめかし始めた。アフガンでの対テロ作戦を支援するために、これまで6年にわたってインド洋に展開していた補給艦や護衛艦は、11月には政治的な危機に伴って帰国し、何ヶ月か行動を制限することになろう。悪くすると、タリバンに対する重要な戦いである不朽の自由作戦において、日本は役割を停止することになりかねない。

 これは古い日本の復活だろうか。自己中心的で、他国が厳しい軍事的任務を果たしているのに恥じない。艦隊をめぐる論争は、世界における日本の役割がいかにあるべきかという信認危機の引き鉄を引いた。しかし運がよければ、この論争が日本の有権者や近隣国、その同盟国たちに、日本が敵前逃亡すれば何が失われるかを想起させることにもなろう。

 米国との防衛的同盟に安住していた日本は、1991年の湾岸戦争における小切手外交が、影響もなければ感謝もされないことを知って、ようやく目が醒めた。しかも北朝鮮がミサイル実験で脅し、ライバル中国が艦船や潜水艦や飛行機の能力を増強し、台湾へのミサイル戦力も増強している。日本は米国とともに、より積極的な貢献を行うようになった。

 過去15年間で、日本は国連のために様々なPKO活動にも従事した。しかし9・11事件の後は、自衛隊(平和的な憲法に合わせて、軍隊を呼ぶ婉曲話法である)はより断乎とした調子で出動するようになった。インド洋上で補給艦が遊弋するのみならず、イラクでも国土再建や運搬などで貢献している。日本の船や飛行機は、津波後のインドネシアや震災後のパキスタンでの救済活動も支援している。最近では豪州との軍事協力を打ち立て、インドともより小規模に協力し、NATOやEUにも接近している。

 こうした広範な軍事的努力には明快な外交目的がある。日本は国連安保理において常任理事国の地位を求め、その信認の証としてより困難な安保上の任務も担う覚悟を示している。より重要な国際的役割や、同盟国や国連との協力に裏打ちされた軍事活動は、日本が台頭する中国や自信を増すロシアに対し、無難に影響力を得ていく手段でもある。

 日本の兵士たちが行ってきた仕事に対し、ほとんどの日本人は満足している。ひとつには危険な場所に旗を立てつつも、自衛隊は防衛を他国に委ね、犠牲を出していないからである(日本は勇敢な外交官を失っているが)。しかしこのことは、日本の訓練が行き届いた有益な軍隊が、兵舎に戻らないように希望するもうひとつの理由である。

 日本の野党・民主党(日本の役割拡大には賛成している)が、政府の足を引っ張るために巻き起こした論争が、国会にもっと有益なこと議論させないでいるのは悲しむべきことである。20年前に上限は廃止されたとはいえ、日本の防衛予算はなおもGDP1%以内であり、新たな海外任務の負担はギリギリになっている。艦隊をめぐる議論により、海外派遣のためにより明確なガイドラインを定めることも難しくなるだろう。出動できる自衛隊員の数や期間が緩和されれば、助けになるのだが。日本の兵士たちはますます世界中で困難な仕事をすることになる。彼らはもっと、国内でより良い支援を得る値打ちがある。


<10月24日>(水)

〇えー、宣伝をいたします。早稲田大学の創立125周年を記念して、来週から台湾文化週間が行われます。そのしょっぱなを飾るシンポジウムで、不肖かんべえが司会を務めます。入場無料でございますので、御用とお急ぎでない方は、次の日曜日の午後に早稲田大学にご来場くださいませ。

「台湾研究をめぐる日台若手研究者の対話」

日時:10月28日(日)14:00〜17:00

会場:早稲田大学 国際会議場三階・第二会議室 

日台双方から若手研究者が「日台関係」「歴史」「文学」等について、それぞれの専門に応じて研究発表、コメントを行います。参加者は以下の通りです。なお、発表はすべて日本語で行われます。


蔡 錫勲(His-Hsun TSAI) 淡江大学国際研究学院日本研究所副教授
「東アジアから見た日台関係」

浅野和生(Kazuo ASANO) 平成国際大学法学部教授
「政治から見た日台関係」

関山 健(Takashi SEKIYAMA) 東京財団客員研究員
「経済から見た日台関係」

林 呈蓉(Chen-Jung LIN) 淡江大学歴史系専任教授
「歴史から見た日台関係」

青木由香(Yuka AOKI) 台湾一人観光局主宰 
http://www.aokiyuka.com/  
「観光から見た日台関係」

何 義麟(I-Lin HO) 台北教育大学台湾文化研究所副教授
「文学から見た日台関係」

加藤 徹(Toru KATO) 明治大学法学部教授
「サブカルチャーから見た日台関係」

コーディネーター
吉崎達彦(Tatsuhiko YOSHIZAKI)双日総合研究所副所長


〇トップバッターを務める蔡錫勲先生のペーパーを、以下の通りご紹介しておきます。蔡先生からは、「なるべく多くの日本の方々に台湾学者の発想を理解していただきたいと思います」とのメッセージを頂戴しております。

「台湾から見た福田政権の外交戦略」

〇先月、台北で行われた「日台次世代対話」のメンバーを中心に、硬軟取り混ぜて日台関係のいろんな側面を検証する予定です。個人的には、先週、ソウルで日中韓の厳しい国際会議を経験しただけに、「ああ、やっぱり日台の対話は楽しくていいなあ」などと感じる次第。


<10月26日>(金)

〇タクシーに乗ったところ、「2008年1月7日から、東京のタクシーは全面禁煙になります」との表示を見かけた。へー、知らなかった。ワシはいちおう煙草は吸わないので、どちらかといえば歓迎すべきことなのだけど、何事につけても「〇〇してはいけない」と言われるとムッとする方なので、うーん、こういうのはいかがなものかと思います。以下、車内の会話。

ワシ「これって大変ですね。客は乗ってる間だけ我慢すればいいけど、運転手さんは辛いでしょ」

運転手さん「いやあ、そうでもないですよ。煙草が吸いたくて、タクシーに乗る人だっていますよ」

ワシ「え?それってどういうこと? 行き先もないのに、タクシーをつかまえて煙草を吸うわけ?」

運転手さん「最近、煙草を吸える場所って少ないでしょ。千代田区とかは路上で吸うと罰金1000円だし。だったら初乗り料金660円払っても、タクシーの中なら遠慮なく吸えるから。いや、結構、そういう人がいるんですよ」

〇最近は会社の中でも、煙草を吸えるスポットは非常に限られている。そんなわけで、わざわざエレベーターで降りて外に出て、ちょいと一服している人たちがいますよね。ああいうのを見ると、ワシも心の広い人間ではないので、「うーん、こいつらの給料はほかの人よりも下げるべきだよな」、などと思ったりするのだけれど、喫煙者に対する迫害はかなり広がっているようなので、タクシー車内に逃げ場を求める人もいるのだとか。

〇ちなみにこのときの運転手さんは、禁煙して3週間目なのだそうです。そりゃそうだろうね。いちいち一服するのに車外に出なきゃいけないのでは、いよいよ辛いもの。自宅では奥さんに怒られるし、煙草を吸ってると碌なことがない、とのことでありました。どうかストレスを溜めないように、安全運転を続けていただきたいものであります。

〇ちなみに来年1月7日には、タクシー料金も値上げになるのだとか。だったらそっちを先に言えよ、ってことですよね。


<10月28日>(日)

〇早稲田大学で日台シンポジウム。不肖かんべえの司会でありましたが、とっても楽しいディスカッションでありました。ご来場いただきました皆さまに御礼申し上げます。

〇トップバッターの蔡錫勲先生は、「台湾から見た福田政権の外交戦略」がテーマだったのですが、冒頭から「これは『家政婦は見た』です。弱い立場の者には、真実が良く見える。日本政治も台湾から見ると良く分かります」とのこと。いきなり「台湾は家政婦です」と言っちゃうところが、中国や韓国ではあり得ない感性ですよね。彼らの辞書には「下手に出る」という言葉がありませんから。でも、互いに譲り合ったり、遠慮しあったりするところが、日台対話の麗しいところです。

〇この日のために、わざわざご帰国いただいた「台湾一人観光局」の青木由香さんは大人気でありました。青木さんはもともとアート系の人ですので、ご著書のイラストに味があるのは当然として、文章も面白いし、マイクを握ってのおしゃべりも上手なのです。今日は自分で撮影、編集した「台湾の暴走族」という映像もご披露いただきました。個人的には、「台湾でお友達ができて、ご馳走になったときは、ちゃんと日本でお返しをすること」という教えが胸に響きました。

〇それから大反響だったのが、明治大学教授の加藤徹先生の発表でした。昨年、『貝と羊の中国人』というムチャクチャ面白い本を書いた人ですが、本当は中国の京劇を研究している方です。その加藤先生の発表は、「日本マンガに見る台湾の位置付け」でありまして、それによると「日本人がピンチに陥ったとき、台湾が最後の味方となってくれて、そこから主人公が反撃に転じる」というパターンがあるのだそうです。『ゴルゴ13〜ロックフォードの野望』『天より高く』『エンジェルハート』『太陽の黙示録』などの例があるとのこと。

〇思えば国際社会の中で、孤立しながらも健気に生きている台湾という国は、ともすれば「世界の中でここだけは違う」という盲点のような存在です。同じく世界で孤立しがちな日本としては、そういう台湾の姿がまぶしく、カッコよく見えることがある。対日感情の良さも知られているので、なんとなく「ここだけは味方になってくれる」というイメージが再生産されて、今日の「マンガ文化」の文法(コード)のひとつになっているというのは、面白い指摘だと思いました。

〇今日のディスカッションは全部、日本語で行われました。蔡先生は東北大学、林先生は御茶ノ水女子大学、何先生は東京大学のそれぞれ博士ですから、日本語が上手なのは当然なのですが、実は日本側メンバーも、かんべえ以外は全員、中国語が堪能な方ばかりなのです。それでもご厚意に甘えて、全部通訳抜きでやらせていただきました。あらためて、台湾側のご厚意に感謝したいと思います。「台湾は癒しの場所」というのは、本当にその通りだと思いました。


<10月29日>(月)

〇本日は守屋前次官の証人喚問があったそうで。しかし喚問のネタが「接待ゴルフに麻雀に焼肉」とは、なんだか拍子抜けしてしまいます。防衛利権の闇を暴くというのであれば、これくらいであってほしいものです。

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/087/0380/08702140380010c.html 

〇これは「第087回国会 予算委員会 第10号」の証人喚問の記録であります。ときは1979年2月14日(水)、予算委員長は竹下登君、質問に立つのは日本社会党のエース、大出俊君。そして証人の海部八郎君は、宣誓の署名をする際に手が震える映像が全国に流れて、一躍有名になったものである。

〇世に言う「ダグラス・グラマン事件」が発生したとき、不肖かんべえはまだ高校生でありました。だから、この事件のことは詳しくは知りません。まさかその5年後に、この事件の主役であった日商岩井株式会社に入社するとは、露ほどにも思ってませんでしたがな。で、今、この記録を読み返してみると、しびれるほどに面白い。

〇当時の防衛商戦の闇は、まことに深い。当時の日本は、敗戦後のドサクサでチャンスを掴んだハリー・カーンのような怪しげな人物が闊歩していたし、旧軍から引き継がれた政官から右翼、ヤクザに至る人脈が健在であったし、それらが渾然一体となって日本の防衛産業を形成していた。そうした中に、米防衛産業から岸信介元総理へとつらなるマネーの流れがあった。ところが当時の検察は、その2年前のロッキード事件で田中角栄元首相を逮捕したばかりで、この事件では深追いを避けた様子が窺える。

〇それから30年近くが経過してみると、これが同じ国かと思えるほどに状況が変わっている。なぜ、そうなったのかはよく分かりません。ともあれ山田洋行と前次官の関係は、今日の基準から言えば不適切なものであって、世の指弾を受けるのが適当でありましょう。その一方で、いわゆる「沖縄の基地問題」においては、守屋前次官はむしろ身体を張って税金の投入を止めようとした側ですので、むしろ違う側に「闇」があるような気がする。

〇とにかく、どこかピントがずれてるんじゃないかと思えて仕方がない証人喚問なのでありました。


<10月30日>(火)

〇最近聞いて驚いた話。いやはや、まったく世の中は深い。

●ゴルゴ13が、あれだけ長い連載の中で、まったく活動していない国が2つだけある。韓国と北朝鮮である。

――出版社が抗議の嵐で怖い目に遭っちゃうものね。それにしても、あのデューク・東郷が朝鮮半島を鬼門にしているとは。

●コカコーラ・ゼロを飲むと、かえって太る。

――口の中では甘味を感じているのに、カロリーが吸収されないという状態になる。そういうとき、人はついつい余計な何かを食べてしまうのだそうだ。

●新宿歌舞伎町では、ホストたちによる吸殻拾い運動が行われている。

――日本の組織は、しみじみ恐ろしいチカラを持っているようだ。


<10月31日>(水)

〇家に帰ったら、高校の同窓会の会報が届いていた。県立富山中部高校という田舎の進学校なんですが、何が驚いたといって、「第60回体育大会」を報告する記事における以下の記述である。

「特筆すべきは、白虎団が陸上ボートで1位となったことである。たぶん本校体育大会の歴史上初めての快挙ではないかと思われる。一方、2位に甘んじた青龍団の落胆は大きかったが、来年の雪辱を期待したい」

〇OBとしては、これだけでビックリ仰天なんですが、普通の人には分からないですよね。以下、説明します。

〇田舎の公立校にはありがちなことですが、母校の体育大会はかなり盛大なもので、「朱雀、白虎、青龍、玄武」という旧式な団名が使われている。1年生のときに、各生徒が適当に4つの団に割り分けられ、それが3年間続くシステムである。したがって同窓生の間では、しばしば「お前は何団だったっけ?」みたいな会話が交わされる。(例:この人は白虎団だったらしい)。

〇ちなみに、ウィキペディアで「富山中部高校」を引いてみると、「特に毎年9月10日前後に行われる体育大会はこの学校では最大の行事である。学校も力を入れており、唯一校外に公開される行事であり、付近住民やOBなども多数観戦に訪れる」などと書かれている。3年生の夏休み後半なんぞは、文字通り体育大会の準備に明け暮れちゃったりするのである。

〇で、「陸上ボート」というのは、この体育大会の花形競技である。細長いゲタを使って行うムカデ競争のようなもので、5人1チームで各学年から2チームずつ、合計6チームを選抜し、トラックを3周する。チームワークが重要なのはご想像通りだが、なまじスピードが出るだけに転ぶと大怪我をしかねないし、試合中にゲタの鼻緒が切れるなどのトラブルもある。ゲタを制作する際には、カンナをかけて軽量化したり、アルミで強化を図ったり、本番直前までそれこそ各団が「ロボコン」並みの精緻な努力を繰り返す。結構、シビアな競技なのである。

〇このレースにおいて、「青龍団の不敗伝説」というものがあった。かんべえが高校生だった1970年代後半には、すでにその評価は確立していた。にわかには信じがたいのだが、上記のコラムを参照する限り、青龍団の連戦連勝はその後も延々と受け継がれ、21世紀の今日になってようやく終止符を打ったらしい。3年ごとに全員が入れ替わるはずの高校の体育大会において、どうしたらそのようなことが可能であったのか。ほとんど呆然とするしかない。普通に考えれば勝率は25%であるし、ジャンケンだって60連勝はあり得ないでしょうに。

〇忘れもしない、1976年に高校1年生だったかんべえは、運動神経ゼロであるにもかかわらず、青龍団陸上ボートチームの一員になってしまった。さらに悪いことに、第一走者チームの先頭にされてしまった。案の定、このチームのパフォーマンスはきわめて悪く、練習段階では他の5チームの足を引っ張りまくった。本番直前には、「第1チームさえ普通に走ってくれれば、後はかならず勝てる」とまで言われたものだ。

〇幸いなことに、本番では僅差のトップで次にバトンを渡すことができた。そうなると後続チームは文字通りのぶっち切りであり、わが青龍団は「逃げて差す」と称されたサイレンススズカの絶頂期のような勝ち方を収めたものである。さすがに懲りて、2年生からは陸上ボートはご遠慮させていただいたものの、あれはたぶん、わが生涯において感じた最大のプレッシャーではなかったかと思う。たかが高校の運動会とはいえ、伝統の重みというのはそういうものである。なにしろわが青龍団は、「総合4位、応援3位」みたいな情けない年においても、陸上ボートの小さなトロフィーだけは、しっかりと手にしていたのだから。

〇その後も、同窓生である上海馬券王先生などと飲む際に、「青龍団の陸上ボート伝説は、まだ続いているのかなあ」などという話が出ることはあった。まさか本当に続いていたとは驚きました。でも、物事にはかならず終わりがあるものですから、「2位になった」と聞いてホッとするものがあります。連戦連勝というのは、一種の異常値ですからね。

〇そういえば、上海馬券王先生は白虎団でした。今気がついたけど、青龍団・かんべえのタイガースと白虎団・馬券王先生のドラゴンズは逆転していたのね。それにしても今宵も勝っちゃって、ドラゴンズは強いなあ。


(*追記:その後、同窓生から送られてきた情報を総合すると、連戦連勝が続いていたわけではない模様。「伝説」というのは、やっぱり大袈裟になってしまうものなのですね。ちなみに、かんべえが参加した年は9連覇目であった由。最高で何連覇していたのか、やっぱり知りたいですな)







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki