<3月1日>(水)
〇今日から3月。暖かくなっているのはありがたいのだけど、今年はひょっとして花粉がひどくない? これって異次元の花粉症ではないだろうか。
〇もうじきマスクが自己判断になるというから楽しみにしているのだけれど、この調子ではなかなか脱マスクができないかもしれませぬ。うーむ、困った。
〇明日は久しぶりに「モーサテ」に登場いたします。午後2時半からはラジオ日経「ザ・マネー」にも出没します。マーケット情報の1日になりますな。
<3月2日>(木)
〇本日のテレビ東京「モーサテ」とラジオ日経「ザ・マネー」の両方で、「アメリカに行ってきた」話をしてきました。どちらもタクシーのチップの話が受けてくれたようです。
〇まあ、そんなことより出張してきた最大のご利益は、「次の出張が怖くなくなったこと」。行くまではホントにびくびくしてたんですもの。どんな世界でもそうですが、ゼロとイチとは大きな違いです。一歩踏み出してみると、次は非常に楽になる。
〇でも今日は朝が早かったから、夜は辛いです。もう寝ます。ゴメンナサイ。
<3月3日>(金)
〇NHKプラスで「ウクライナ大統領府 軍事侵攻緊迫の72時間」を観ました。これは凄かったなあ。「ドキュメンタリー」と呼ぶにふさわしい作品を久しぶりに見た感あり。
〇不思議に思えるのは、1年前、開戦直後のゼレンスキー大統領は、まるで子どもっぽい顔をしていたんだなあ、ということ。今では完全にカリスマの入った指導者の顔になっていますけど、当時はまだ喜劇役者の面影が残っていた。修羅場は人を変えてしまう、という好例かもしれません。
〇個人的にいちばん気に入ったのは、ウクライナのレストランの女性が、開戦前に電話予約をしてきたロシア兵に電話をかけて、「なんだ、まだ生きてたのか」というくだり。とっても自然な感じでホンネを語っていて、戦争という現実がこんな風に人を変えてしまうのか、と思い知らされます。
〇NHKでドキュメントで72時間というと、こっちの番組もあるんですよね。採算度外視でこんな番組を作ってくれるNHK、やっぱりありがたい存在だと思います。
<3月4日>(土)
〇柏市から利根川を越えた向こう側の守谷市に「ハンス・ホールベック」という店がある。本場ドイツ仕込みのハム・ソーセージを売っていて、過去には「テレビチャンピオン」のハム・ソーセージ職人選手権に出たこともある。確か準優勝であったと思う。茨城産の豚を使って、マイスターの資格を持つ店主が作っているので、そりゃあ美味いに決まっているのである。
〇さしずめ井之頭五郎さんが訪ねてきたら、「ソーセージ4種盛りプレートにローストポークを追加して、あっ、それからドイツ風ピザもお願いします!」みたいな騒ぎになってしまうだろう。以前はワシも、よくランチを食べに行ったものである。いつもクルマで行くから、ドイツビールやワインを頼めないのがちょっと残念である。
〇ところが、長引くコロナ下にあってはついつい足も遠のいてしまい、ハッと気が付いたらお店は、「不定期の週末のみ販売、ランチはやってません!」という状態になっていた。しかもここへ来て、原材料、包装資材、燃料価格などの上昇という追い打ちも受けている。この手の商売にとっては、まことに試練の季節ということになる。
〇店主の経歴を拝見すると、団塊世代の方である。20代でドイツに渡って修行し、その後、帰国して食肉加工業に携わり、50歳の時にこの店を開いた。以後、皇室で使っていただいたり、ドイツ大使館のご贔屓になったりした。現在は75歳というから、はて跡継ぎはいらっしゃるのか、などと余計な心配をしてしまう。
〇今日はたまたま店が開いているとわかり、久々に訪ねて行ってみたところ、販売だけだというのに大勢のお客さんが詰めかけていて、お店側も忙しそうであった。こちらは自宅用の分と、お使い物の分をそそくさと買って退散した。できればこの店には、昔通りに復活してもらいたいものである。
<3月5日>(日)
〇話題の『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)を読了。なかなか手に入らない、ということで評判になっているが、ワシはたまたま先月訪れた仙台駅の書店で、一冊だけ売れ残っていたのをゲットしたのである。仙台市の皆さん、たいへん失礼いたしました。
〇何よりこの本は、2013年から20年にかけての日本政治がよく整理されていてありがたい。逆に言えば、2022年のロシア軍のウクライナ侵攻に対する感慨(そういう決断をしたプーチンに対して安倍さんがどう思ったか)などは問われていない。ずっと溜池通信を書いている手前、ワシは「何年に何があったか」をしつこく覚えている方だが、それでも「へー、あのときはそうだったのか」ということが少なくなかった。
〇そして人物月旦が面白い。トランプさんに関する記述(彼は根がビジネスマンですから、お金の勘定で外交・安全保障を考えるわけです)など、トランプさんご本人が読んだら衝撃を受けるのではないだろうか(まあ、あの人は本を読まないから大丈夫、という気もするが)。安倍さんはトランプさんとのいい関係を政治的資産としながら、ドナルド・トランプという人をわりと冷ややかに見ていたことがわかる。
〇プーチン氏に対しては、やはり入れ込み方が過剰であった。
「彼の理想は、ロシア帝国の復活です」
「ゴルバチョフ元大統領を失敗者として捉えていました」
「ウクライナ共和国の独立も、彼にとっては許せない事柄でした」
「バルト三国のある大統領は私に、『ロシアにウクライナをあきらめろと言っても、到底無理だ。ウクライナはロシアの子宮みたいなものだ』と述べていたのが印象的でした」
などと語っている。それでも日ロ平和交渉を後悔していないのだから、やはりちょっとズレていたんじゃないかと思う。
〇まあ、それもこれも結果オーライである。安倍さんは勝手に、「四島返還」を「二島でオッケー」に値下げしてしまったのだが、それもこれもプーチンさんのウクライナ戦争勃発でチャラになってくれた。プーチンと安倍さんがどんな約束をしたにせよ、もうどうでもよいことになった。日本外交はするっと「四島返還」に立場を戻している。今やロシアに領土を奪われたことについて、日本はウクライナと同じ立場になっているのである。
〇人物月旦の白眉は(既にいろんな人が触れているけれども)、小池百合子さんに対するものである。
「小池さんはいい人ですよ」
「相手に勢いがある時は、近づいてくるのです」
「しかし相手を倒せると思った時は、パッとやってきて、横っ腹を刺すんです」
「彼女を支えている原動力は、上昇志向だと思いますよ」
「でも、上昇して何をするのかが、彼女の場合、見えてこない」
「彼女の弱点は、驚くほど実務が苦手な点です」
「一方、小池さんの発信力はものすごい」
――いやはや、面白過ぎです。
〇その他、思わず、ラインマーカーを引いてしまった部分をいくつかご紹介しておこう。森友学園の財務省陰謀説だとか、「靖国神社には、首相在任中に1回行けばいいと思っていた」みたいに、既に有名になっているところは取り上げませんよ。そこんところヨロシク。
*小泉さんは以前、私に「安倍君、政治は運だよ。俺を見ろよ」と仰ってました。
*(日銀の総裁人事について) 財務省は武藤敏郎氏に交代させようとしていましたしね。財務省は、金融政策には関心がない。ただ単にポストが欲しかっただけです。〜〜 (黒田東彦氏については) 私が野党の総裁として金融政策を掲げ、マスコミや経済学者からさんざん批判されていた時に、黒田さんは私の政策を評価していたのです。国際機関とはいえ、政府側の立場の銀行総裁が、当時、野党だった当初の政策を、ですよ」
*金正日は、拉致を認めた02年9月17日午後の会談で、文書を読むのですけど、読みながら、小泉さんを上目遣いでちらちらと見てくるのです。とにかく米国が怖かったのですよ。だから日本に近づいてきたんです。
*そもそも長期政権を考えると、守りに入っちゃいますから、駄目なんです。〜〜正直、日々のことに追われて、長期政権なんて気にしている余裕はないのです。よく秘書官が私に、歴代内閣の在任日数ランキングをもってきて、あとこれだけやれば中曽根さんを超えますとか、小泉さんを超えますとか言っていたのですが、そんなことより目の前の国会をどう乗り切るのかの方が重要だろ、と思っていました。
*習近平は、就任当初からしばらくは、日中首脳会談を開いても、事前に用意された発言要領を読むだけでした。〜〜トランプが、「なんだ、習近平という男は、あの程度か」と驚いたそうです。ところが18年頃から、ペーパーを読まず、自由に発言するようになっていました。中国国内に、自分の権力基盤を脅かすような存在はもういないと思い始めていたんじゃないかな。
*(2016年について)衆参同日選は選択肢にはありました。ただ、同日選に、中選挙区時代ほどのメリットはないとも思っていたんです。
*(オバマの広島訪問の後に) 外交面では、この頃が7年9か月間の安倍政権のピークだったんじゃないかな。
*(天皇陛下の譲位について尋ねられて) 内奏の話はできません。〜〜内奏にはしきたりがあって、私が陛下に報告し、部屋の外にいる宮内庁職員がノックをしたら、私が「これで内奏を終了いたします」と言って席を立たなければいけないのです。
*(自民党総裁の任期延長について) 打ち合わせなんてしていません。二階さんの判断です。だって私が二階さんにそんなことをお願いしていたら、借りができてしまうじゃないですか。〜〜でも二階さんは、何事も「一番槍」を務めますよね。
*(日中関係について述べた後で) ちなみに、私と二階幹事長の間柄も、戦略的互恵関係だったと言えるでしょう。
*皆さん、自己評価が高い人ばかりなのです。そんなに多くの希望に応えられるほど、ポストはないんだよ、と思いながら、いつも人事をやっていましたよ。本当に人事は嫌でした。
*首相というポストにいれば、こういう失言や辞任があり得ることも織り込み済みで、常に人事をやらないといけないのです。政策通で答弁が安定している、資金面も極めてクリーンだという人だけで人事を回していたら、限られたメンバーばかりを登用することになる。それでは党内が持ちません。〜〜人事に100点満点なんか、あり得ません。
*官邸を十分に経験しているから、首相になってもやっていけると思っていたのですが、そうした考え方は、うぬぼれでした。総理大臣となってみる景色は、官房長官や副長官として見るものとは、全く別だったのです。〜〜私は第1次内閣当時、首相の職を担うには未熟過ぎました。例えば人事では、閣僚未経験の塩崎恭久さんをいきなり官房長官に据えました。〜〜塩崎さんには相当苦労をかけました。
*次世代の人は育てるものではなく、自然と育ってくるものですよ。〜〜私は小泉純一郎元首相には、いくつもポストに就けてもらいましたが、育てられたとは思っていません。〜〜清和研の中には、かねて福田赳夫派と安倍慎太郎派がある。その対立を抑えるために、福田康夫官房長官、安倍晋三官房副長官の体制を取っただけだと思いますよ。
*役人は、政府の動画や写真がどれだけみられているかを、気にしないのです。ただ予算を黙々と消費しようとする。
〇足元の動きについていえば、日韓関係に関するこの件をばらしてしまったのは拙かったのではないですかねえ。以下の部分は、2019年の韓国向け輸出管理の厳格化を発案したのは誰ですか、と聞かれて。まあ、やっぱりなー、という話なんですけどね。
*経済産業省です。経産省出身の今井尚哉政務秘書官と長谷川栄一首相補佐官がかかわりました。〜〜日本の韓国への措置は、輸出制限とは異なるので、WTO上、問題ありません。こうした手法を考え出した今井さんや長谷川さんはさすがだなと思いました。
〇とまあ、いろいろ面白かった本書であるが、いちばん驚いたのは、中央公論における本書の担当者が中西恵子さんであったことである。橋本五郎さんが謝辞で、「出版の最大の功労者」であると讃えている。さもありなん、である。中西さん、最近、ご無沙汰していたのは、そういうことでありましたか。今度、編集の裏話を聞かせてくださいね。
<3月7日>(火)
〇昨年12月に閣議決定された防衛3文書、特に国家安全保障戦略には高い評価が寄せられていて、朝日新聞などの左派メディアも限りなく沈黙していますが、そうなった理由として正しいと思うものを次の中から選べ(20点)。
@タカ派の安倍内閣ではできなかった議論が、ハト派の岸田内閣では自由闊達にできるようになったから。
Aウクライナ戦争勃発によって、さすがにそれまでは呑気だったこの国の防衛意識にも緊張感が走ったから。
B自民党国防族が、NSS内の議論に対して熱心にネジを巻いたから。
C去年の秋は統一教会問題があったために、公明党が安全保障問題で十分に反論できなかったから。
〇うーむ、出題してみたもの、あまりに難しくて答えがわかりませんね。採点は不可能なように思えてまいりました。
〇もちろん不十分なところがなかったわけではないですけれども、今回の国家安全保障戦略がわが国の歴史においても画期的な文書であったことは間違いないと思います。
<3月8日>(水)
〇米中関係はややこしいことになっている。諸悪の根源はあの「スパイ気球」であって、あれで米中は共に動きが取れなくなった。ホントだったら先月中にブリンケン国務長官が訪中し、今ごろはバイデン大統領の訪中ということになっていたはずである。だって習近平体制も、ホンネではアメリカと話をつけたくて仕方がないのであるから。
〇そうこうするうちに、4月のイースター休暇ぐらいにケビン・マッカーシー下院議長が訪台するだろうから、それでまた米中は緊張することが目に見えていた。ところが台湾側から「待った」がかかって、「アンタに来られると迷惑だから、こっちから行く」という話が飛び出した。なんと蔡英文総統が訪米するという。まあ、彼女は2期8年の任期の最後の年なんだし、ここはレガシーづくりと割り切ってあげればいい。会談するというカリフォルニア州は、マッカーシー氏の地元であるから、ますます結構なことではないかと。
〇とまあ、こんな風に台湾に気を使われてしまうくらい、昨今の米中関係は大人げない。というか、政治家が小粒になってしまって、堂々と国益を主張できなくなっている。あるいは外交が内政に引きずられるようになっている。中国だってそうですわな。でなきゃ「戦狼外交」なんてやりませんわなあ。
〇そんな状況を考えてみると、昨今の日韓関係は互いに大人ではないだろうか。ユン・ソンニョル大統領は、ちゃんと「元徴用工問題」の解決を図っている。まあ、後で世論が持たなくなるかもしれんけど。あるいはバイデン政権から相当な圧力があったことは想像に難くなく、その証拠にユン大統領は来月、国賓待遇でアメリカに招待されることになるそうだ。実際そうでなかったら、北朝鮮対策なんてやってられませんからな。
〇これに対する日本側の対応も静かなもので、大人の対応と言えるのではないでしょうか。韓国に対しては、慌てず、焦らず、当てにせず、というのが正しい姿勢であって、こういうときに「許せーん!」など騒ぎ立てる政治家は、悪いけど小物認定が妥当でしょう。生温く見守るのが最善手であろうかと拝察いたします。
〇こんな風に全世界から大人の政治家が払底している中にあって、岸田さんの鈍感力はなかなかに見どころがあるのではないでしょうか。「気が利かない」くらいは全然かまわない。なにせ「気が利きすぎる政治家」の弊害が目立っている昨今でありますから。
<3月9日>(木)
〇昨日発表された「2月景気ウォッチャー調査」は非常にいい内容でした。現状判断DT=52.0(前月比+3.5)と先行き判断DI=50.8(前月比+1.5)で、両方とも50を超えるなんて、いつ以来のことですかね。
○コメント欄を見ると、いちおう物価上昇の影響もあるけれども、とにかくコロナが終わってもうすぐマスクも不要になる、インバウンドも増えつつある、といったことを評価している様子。
・イベントやコンサートが開催されるようになり、空港の国際線、国内線共に利用客が通
常に戻りつつある。インバウンドの観光客も増えており、徐々に良くなっている(東海
=タクシー運転手)。
・入学式や卒業式など春の行事におけるウェアや、祝いや祝返しのギフトを中心に動きが
出始めている。自身への買物は節約傾向にあるが、大切な人への贈物といった需要はバ
レンタイン、入学や卒業関連、ブライダル祝いを中心に、新型コロナウイルス感染症発
生前に近づく勢いがある(北陸=百貨店)。
・中国からの入国規制などが緩和されるほか、国内でもマスク着用の緩和、新型コロナウ
イルスの5類感染症への移行など、外に出掛けることへの規制は間違いなく緩和が進む
(近畿=百貨店)
・自動車に関しても生産ライン停止により受注残を多く抱えていることから、先々の仕事
は豊富にある。EV生産用の新規ライン投資等に関連して、ロボット業界の仕事も忙し
い状況が続く見込みである(北関東=一般機械器具製造業)。
・派遣料の改定をしているが、例年よりも昇給する企業が多い。自社雇用の社員の賃上げ
等も実施され、派遣社員にも同様の対応をするため、4月からの派遣料金に反映される
(九州=人材派遣会社)。
〇一方で、警戒する声もある。こういうときは、ちゃんと両方とも見ておかなきゃいかんです。
・電気代の値上げにより、企業も家庭も予算が圧迫されている。ビジネス街では昼食代な
どを節約する傾向がみられ、購入金額が10%ほど下がっている(近畿=コンビニ)。
・日用品や食料品、光熱費等の値上げの影響でかなり厳しくなり、積極的な消費が見受け
られず、客がかなり慎重になってくるのではないか(南関東=衣料品専門店)。
・主原料や副資材、燃料、輸送費、諸経費の増加に加え、足元では大きな電力の値上げが
予定されており、価格転嫁がどこまでできるかが課題である。少なくとも採算としては、
非常に厳しい状況が当面続くとみている(北陸=一般機械器具製造業)
○それにしてもわからないのは、株価が強いこと。日経平均、今日は2万8600円台まで載せましたね。確かに円安も進んでいるけれども、ホントにこれでいいんだろうか。アメリカはパウエル発言に一喜一憂しているし、明日の2月の雇用統計も強そうなんだけどなあ。
<3月10日>(金)
〇本日は北日本銀行さんの講演会で盛岡市へ。2017年にも呼んでいただいて、そのときは本社ビルであったが、本日はコロナ明け久々の会合ということで盛岡グランドホテルへ。愛宕山という高台にあって、市内が見渡せる場所にある。200人のお客様を招いての会合ということで、見込まれた当方としては責任重大である。
〇と言っても、こちらとしては、いつもと同じような話をするだけなのである。盛岡市にはひとつ朗報があって、それはThe
New York Times紙が「2023年に行くべき52か所」の1番目にロンドン、2番目にこの盛岡市を取り上げたことである。これはもう地元としては万馬券ですな。日本経済は小吉であっても、盛岡の経済は中吉以上であってしかるべきです。
〇で、講演会が終わってから東北本線に乗って紫波中央駅へ。あのぐっちーさんが心血を注いだ「オガール・プロジェクト」を見てこようと思いまして。こっちへ来る直前になってふと思い立って、ネットで「オガール・イン」に予約を入れた次第であります。
〇ぐっちーさんが亡くなったのは2019年(令和元年)9月。一度、紫波町に来なければと思いつつ、コロナがあったりしたのでなかなか果たせなかったのだが、令和5年になってやっとチャンスが回ってきました。こういうところでありましたか。土地をぜいたくに使って、お洒落な施設を作っていますなあ。図書館があって、マルシェがあって、サッカー場もあって、サンビレッジがあって、なるほど、なるほど。
〇さきほど、おがわやさんでひとり焼き肉をやらかして、部屋に戻ってまいりました。これがまあ、いかなる偶然であるのか、ワシがよくわからずに予約したE-10号室が、その向かい側がプレミアム室になっていて、どうやらそこがぐっちーさんの「定宿」であったらしい。どうも「呼ばれて」しまったようである。
〇ということで、今宵はWBC第2戦の対韓国戦を見ながら、しみじみ飲み明かそうかと思います。コンビニで買ってきた安い赤ワインでありますけど、まあ、そんなことは構いませんわな。これまたいかなる偶然か、明日は3・11から12年目のメモリアルデーでもある。
〇で、今宵の対韓国戦なのですが、岩手県出身の大谷翔平君が何とかしてくれるでしょう。昨日大活躍だったヌートバー君もいいじゃないですか。先発のダルビッシュも球が走っているようだし。サムライジャパンに頑張ってもらいましょう。
<3月11日>(土)
〇紫波町で朝を迎えて、再び盛岡市へ。駅のコインロッカーに荷物を預けて、市内見物に出かける。頼りになるのがこの地図である。まことにスグレモノであります。
●盛岡市ノスタルジックマップ
〇ワシはやっぱり城が好きなんだよな。ということで、盛岡城址公園へ。東北のお城はとにかく大きい。盛岡城は特に石垣が素晴らしい。ただし、この城の中でワシがもっとも感心したのは石川啄木の歌碑であった。こんな歌である。上手い!上手過ぎるぞ。
不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし十五の心
〇若き日の啄木少年は、すぐ近くにあった盛岡尋常中学校の授業を抜け出しては、この城跡の公園に来て昼寝したり、好き勝手な本を読んでいたのだとか。ちなみにこの歌は『一握の砂』に載っているのだが、そのひとつ前にはこんな歌が収録されている。
教室の窓より逃げてただ一人 かの城址に寝に行きしかな
〇ワシは以前、北海道で啄木の歌碑はいくつか見ているのだが、本家本元の歌碑はさすがに重い。ということで、「岩手銀行赤レンガ館」の角を曲がったところにある「もりおか啄木・賢治青春館」へ。こんな風に、文学者を多く輩出している街はいいですなあ。
〇そこから「盛岡バスセンター」に行って、オガールプロジェクトの岡崎正信社長とお会いする。2017年4月に行われたこんな会議でお目にかかって以来である。「そういえばあのときのぐっちーさんは・・・」みたいな話でいきなり盛り上がる。
〇岡崎さんは最近は沖縄の街おこしでもご活躍中とのこと。なんとこの「盛岡バスセンター」も、岡崎さんの作品の1つなのだそうだ。言われてみれば、木材の使い方などがオガールとちょっと似ている。近年は木材を使った建物が流行りであるが、ああいうのは不思議なことに古さを感じないものですな。
〇ということで、本日は1万8000歩以上も歩いたのであった。
〇ところで本日は、あの日から12年目。今朝の岩手日報には、「最後だとわかっていたなら」(Tomorrow
Never Comes)という詩が紹介されている。
あなたが眠りにつくのを見るのが
最後だとわかっていたら
わたしは もっとちゃんとカバーをかけて
神様にその魂を守ってくださるように
祈っただろう・・・
〇知ってる人が多いと思うけど、これは「9/11」の後に生まれた詩である。そしてこんな風に締められている。
どうか今日、ひと言でも、電話ででも大切な人と話してください。
なぜなら今日、3月11日は、明日が来るのは当たり前ではないと知った人だから。
3月11日を、大切な人と話す日に 岩手日報
<3月12日>(日)
〇昨日、盛岡市にいた間はなんてことがなかった花粉症が、新幹線に乗り込んだ瞬間から鼻水が出始めて、上野駅に着いたら目まで痛くなったというのは、いったいどういうことなのであろうか。岩手県の方が、秋田杉などスギ花粉の本場に近いはずなのだが。帰ってきたからがツラい、ツラすぎるぞ。
〇「SVBが経営破綻した」というから、てっきりロシアのスベルバンク(最大手の貯蓄銀行)が逝ってしまったのかと思ったら、そうじゃなくてシリコンバレーバンクであるという。Fedがこれだけ急激に金利を上げたら、やっぱりこういうことが起きてしまうのですなあ。
〇ベンチャー企業相手のビジネスに特化していた銀行が、余資を米国債で運用していたら、ここへ来て長期金利の上昇により評価損ができていた。そこに急激な預金引き出しが始まったら、いきなり止まらなくなっちゃった、とのことである。なるほどスタートアップは逃げ足が速いのであります。
〇どこまでがシリコンバレー特有の問題で、どこからが金融業界全般の問題であるかは微妙な感じですが、日本もまた他山の石としなければなりますまい。このところの金利上昇で、地方金融機関の中には国債運用で損を出しているところがきっとありますからね。
〇それよりも問題が深そうなのは、地方の中小企業は「今の給料でも社員は逃げない」と信じ込んでいるところが多そうなこと。今年の春闘では、大企業はそこそこ賃上げをするだろう。来年がどうなるかはわからんけどね。この後、賃金格差の拡大によって人材の流動化が進んだ場合に、地方では「人手不足倒産」するところが多くなるんじゃないだろうか。これは結構、大きな問題になるかもしれません。
<3月13日>(月)
〇何と今週木曜日になると、韓国からユンソンニュル(尹
錫悦)大統領がやってくる。今年の年初の時点で誰かが、「今年3月には日韓首脳会談が実現するでしょう」という予測を唱えたとしたら、「お前、気は確かか?」と疑われたことは間違いないだろう。
〇そういうことが実現してしまうのは、ひとつには韓国政治の(いい意味での)節操のなさのせいであり、もうひとつは日本政治の(いい意味での)鈍感力のお陰である。いつもは相性の悪い組み合わせなのだが、たまたま今回はうまく噛みあって運んでいる。安倍元総理が生きていたら、この件についてどんなことを言ったのだろう。
〇日本側としては、徴用工問題の見返りとは言わないけれども、半導体材料の韓国向け輸出管理措置を解除する検討に入ったとのことである。およそ経済制裁とかエコノミック・ステーツクラフトというものは、発動した当初は「やったやった!」と騒ぎになるのだが、何年かたってみるとだいたいが碌でもない結果に終わっているものである。今回もご多分に漏れない結果だったんじゃないだろうか。
〇とまあ、そういうことはさておいて、ユンソンニョル大統領は偉い、と言わなければならない。自分が選挙に勝って、権力が最高潮にあるときに、いちばん難しい問題に手を付けるべし、というのは政治の要諦であるとはいえ、実際に行うのは難しいものである。だいたいが様子見をしている間に、どんどん状況が悪化する。そういう政治家はいっぱいいるではないか。
〇もちろん韓国政治のことだから、今後、事態が急変するリスクはあると見なければならない。なにしろ(悪い意味で)節操がない相手なのだ。それでも政権交代があるとしても4年後であるから(パククネ大統領のようなことがなければ)、その間は何とかなるだろう。その間に日米韓が連携して、北朝鮮に当たる態勢を築かねばならない。なにしろこれは安全保障の問題であるから、好き嫌いは言っていられないのである。
〇先週金曜日のWBC日韓戦、韓国側の先発ピッチャーが1回と2回をパーフェクトに抑えていたのに、3回に味方が3点取ってくれたら、途端にその裏に崩れてしまった。見ていて笑ってしまうほどであったけども、それくらい先方は日本を、というより韓国国内の反響を意識しているのであろう。これが日韓関係の難しさ。頼りになるのは、つくづく日本側の「鈍感力」でなければなりませぬ。
<3月14日>(火)
〇本日教わった話。
(1)日本人の平均年齢=48歳
(2)中国人の平均年齢=38歳
(3)インド人の平均年齢=28歳
(4)ナイジェリア人の平均年齢=18歳
〇なるほど、これはグローバルサウスの時代がやってくるのも無理からぬことではないか。「G7」=西側史観に捉われていてはいかんです。
〇それにしても、今からナイジェリア市場に着目している日本企業ってどれくらいあるのだろう。たぶん豊田通商とかJTとか、数えるほどしかないのではないかなあ。
<3月16日>(木)
〇昨日、今日はお休みを取って富山県へ。こんな会合に出てまいりました。
〇5月には「G7富山・金沢教育大臣会合」というのが予定されておりまして、こんなロゴマークもできております。「富山石川の観光名所や名産が書き込まれている」というけれども、ちょっと見ではわかりませんねえ。謎解きを見るのが楽しいです。
〇というのはさておいて、この機会に義理のある所を回っております。久しぶりの親戚のところへも。「吉崎家のお墓ができたそもそもの理由」というのを聞けたのが大収穫でした。
〇そして今宵はもちろんWBCを見ておりますが、大谷翔平は自分の看板にぶち当てる大ホームランの後は、対イタリア戦ではセーフティバントを決めるんですねえ。ホントに野球が好きなんだなあ。まことに楽しいゲームを見させてもらっております。
<3月17日>(金)
〇来月、とある場所でパネルディスカッションのモデレーターを務めるので、本日はその打ち合わせに出向く。事務方いわく、「3人のパネリストのところへ挨拶に伺いましたら、皆さん、『いやもう、このメンバーなら何の問題もない』『打ち合わせなんて必要ない。その場でいきなりやる方が新鮮でいいですよ』とおっしゃってました」とのこと。
〇それは全くその通りだと思うのだが、このお三方というのがまことに重量級揃いで、しかも組み合わせが妙を得ている。例えていえば、WBCの侍ジャパンの投手陣みたいであって、先発・大谷翔平、中継ぎ・ダルビッシュ、クローザー・佐々木朗希、みたいな顔ぶれなのである。実際、こんな投手リレーをするときには、監督は余計な口を挟まん方がいいですわな。
〇しかるに司会者としてはまことに不安なのである。だってこれで上手くいかなかったら、明らかにワシの段取りが悪かったからではないか。急に栗山監督のプレッシャーが理解できるような気がしてきたぞ。
〇今年の侍ジャパン、とりあえずベストフォーに進出して、今日はマイアミに乗り込んだけれども、どう考えてもここで終わるチームじゃないですわな。決勝戦でアメリカと戦うのを見たい!メジャーリーグに「恩返し」をする大谷を見たい!できれば村上さまのホームランも讃えたい!などと皆が思っている。
〇それを考えるとつくづく監督は大変ですな。ということで、優勝して栗山英樹さんが胴上げされる姿も見たくなりました。
<3月18日>(土)
〇大相撲、東十両筆頭の朝乃山(29=高砂)が気になっている。できれば2場所連続の十両優勝で、文句なしの再入幕を果たしてもらいたいところである。
〇本日も湘南乃海にめでたく勝って6勝1敗となった。1敗は苦手の逸ノ城(29=湊)に負けたもの。それにしても今期の十両には、幕内優勝経験者が4人もいるとのこと。後の2人は栃ノ心(35=春日野)と徳勝龍(36=木瀬)。他方では、「令和の怪物」と称される落合(19=宮城野)などの新勢力もいるわけだから、今期の十両は大変な激戦区ということになる。
〇なにしろ朝乃山は不祥事で大関から陥落したのだから、これはもう十両で頑張るしかないのである。その上で、大関に戻れる日が来れば、「ああ、やっと戻れました」とファンに報告することができる。その上で、横綱になれたとしたら、「あのときの苦労があったから、今があります」という美談に化けるはずである。
〇しかるに元大関の栃ノ心が十両で頑張っているというのは、なんだか谷川十七世名人が順位戦B級2組で指しているような痛ましい感じがある。勝負師なのだから、「あなた、もうそろそろいいんじゃない?」と誰かが肩を叩いてあげるべきではないのだろうか。
〇とはいうものの、今の時代に「引退の美学」みたいなことを言うのも気が引けるところである。昔は功成り名遂げた勝負師は、「わたしは良き後継者を得た」とか何とか言って早めの引退ができたものである。ところが今は平均寿命が延びてしまったし、老後の生活には不安が一杯である。平均寿命が70歳で、銀行金利が5%以上の時代であれば、そんなことは深く考える必要がなかったのでありますが。
〇人生百年時代においては、勝負師のライフサイクルも以前とは違ったものになるらしい。そうだとすると、現在ハタチの藤井5冠が引退するときには、いったいどんな形になるのだろうか。それにしても、「自分が弱くなったときにどう処するべきか」を考えねばならないとは、一時代を画した人にとってはまことにツラい、今日的な課題と言えましょう。
<3月20日>(月)
〇ハラハラドキドキの週末でしたが、経営危機に陥っていたクレディ・スイス銀行は、ちゃんとUBSが買収を決めてくれました。これで「スイスの三大銀行」と呼ばれていたものが、とうとう一行だけに収斂することになります(かつてのスイス銀行とスイスユニオン銀行が1998年に合併したのが、現在のUBSである)。
〇とりあえずは、メデタシ!ということになります。これが決まらなかったら、世界経済はまたまた大混乱だったことでしょう。2008年9月のリーマンブラザーズ社は、とうとう買い手がつかなくて、最後はエライことになってしまいました。さすがに皆、あのときの記憶がまだ失われていないようです。今日になって日米欧6中銀がすかさずドル供給を強化すると宣言したのは、いかに彼らが注視していたかということでしょう。
〇2008年のときは、週末に大手各行がニューヨーク連銀でカンヅメにされて、「誰がリーマンを買ってくれますか?」「おカネは出してあげますから、とにかく何とかしてください!」とまるで罰ゲームのようなことになったのであった。ときの財務長官はハンク・ポールソン。週末ごとに登板しては金融不安を未然に処理するので、「サンデー・ポールソン」などと呼ばれておりました。
〇ところがその最中に、メリルリンチがバンカメに対して突然、身売りを申し出るというウルトラCが飛び出した。つまりメリルとしては、「リーマンを押し付けられるくらいなら、身売りする方がマシだ!」と思ったし、バンカメも「これでもう私には余力がないですからね」という言い訳ができた。最後はバークレーが買収を断念してゲームセットとなった。一連の駆け引きは、「史上最大のポーカーゲーム」などと呼ばれたものであった。
〇今月、3月10日にSVBで幕を開けた一連の金融不安は、これをどういう名前で呼ぶかが悩ましいところだと思います。今はまだマスメディアも、「相次ぐ銀行の経営破綻」などというビミョーな呼び方をしている。いわゆる「戒名」がまだついていない。要は「サブプライム問題」とか、「リーマンショック」とか、「ブラックマンデー」とか、なんでもいいのである。逆に言えば、「戒名」が付くと皆が安心して、それだけで不安心理の半分くらいが解消する。はてさて、どういう名前で呼ぶのがいいのやら。
〇そういう名前が決まっていないということは、現在はまだ危機は全体の半分までは来ていない感じですね。まだまだしばらくはこの騒ぎが続く。まあ、金利の上昇局面で金融不安が起きるのは、この世界においては初歩中の初歩。まして去年は「0.75%の利上げを4回連続で!」などという無茶をやったんですから。
〇となると次の山場は今週のFOMCとなります。ここは予定通り0.25%の利上げでよいでしょう。下手に取り止めたりすると、「そんなに危機は深刻なのか?」という憶測を呼んだり、インフレ退治が中途半端に終わって、また物価が上がったりしますから。
〇いちばん心配なのは、この金融不安の処理に不測のおカネがかかってしまい、米債務上限問題が前倒しになってしまうこと。以前は6月上旬と言っていましたけど、大丈夫ですかねえ。リーマンショックは「百年に一度の金融危機」と呼ばれましたけど、今回のはせいぜい「十年に一度」くらいで止めておいてほしいものです。
<3月21日>(火)
〇朝からWBCを観戦。考えてみれば、ここまで中国戦、韓国戦、オランダ戦、豪州戦、そしてイタリア戦とほぼ全部見ている。こんなに熱心に野球を見ているのはいつ以来だろう。ここまで全部気持ちよく勝っているから、さすがにここで止めるわけにはいかない。強いて言えば、苦労せずに勝っているので、今日の対メキシコ戦は苦労して勝ちたいところである。
〇結果はご案内の通り、令和の三冠王、村「神」宗隆が開眼のタイムリーで逆転サヨナラ勝ちである。その前に、大谷翔平が「俺に続け!」と言わんばかりの二塁打で出た瞬間には見ていて熱くなったな。先発・佐々木朗希が甘いフォークを打たれて3点差を追うツラい展開であったが、逆転を信じて見る野球というのもいいもんです。
〇なんだかもう、ここまでいい勝ち方をしてしまうと、明日の決勝戦はもうどうでもいいような気がしてきた。だいたい野球なんてものはですな、一発裏ドラありの麻雀みたいなもので、どっちが勝つかはある程度までは運次第。見ている方も、それが楽しくて見ておるのだから仕方がない。だから、「明日は急きょ在宅勤務にします」みたいなことを考えるのは止めとこう。
〇などと、逆転サヨナラの余韻に浸っていたら、「岸田首相がキーウを電撃訪問」の報が。ポーランド国境で列車に乗り込む日本時間の午前9時半時点の映像をメディアが流しているので、いちおうは事前に情報を流していたのであろう。でも、ここからキーウまでは10時間かかるのだよな。
〇こういうときに、メディアが「われわれはちゃんと知ってました」と言いたがるのがこの国の良くないところで、ちゃんとキーウに着くまで待っていられない。ちゃんと首脳会談が実現してから報道しろよ。帰ってくるまでが遠足ですぞ。わが国は変に新聞社やテレビ局が多過ぎることが疎ましい。
〇午後になって『シン・仮面ライダー』を観に行く。うーん、庵野監督、趣味に走っとるなあ。また「人類補完計画」みたいなことを・・・。本郷猛役の池松壮亮はあんまりらしくないが(逆に言えば、初代の藤岡弘はつくづく偉大であった)、緑川ルリ子役の浜辺美波はいいですな。なんだか綾波レイを実写版で見ている感あり。ちなみにオリジナル版『仮面ライダー』の緑川ルリ子は、子ども心にも「嫌な女だなあ〜」であった。
〇そうなのだ。ワシは小さい頃からウルトラマン(TBS/東宝)が好きで、仮面ライダーはあんまり好みじゃなかった。当時を思い出すと、逆にウルトラマン・シリーズに乗り切れなかった子どもたちが、仮面ライダー(テレビ朝日/東映)に熱中していたと思う。総じてインドア派がウルトラマンで、アウトドア派が仮面ライダーであった。
〇まあ、あれだ。要するにイマジネーションの質の違いみたいなものである。どんなに途方もない設定でも、ワシはウルトラマンシリーズだと許せたのである。円谷プロの特撮を信用していたし、毎週、模型作りの東京が破壊されても全然気にならなかった。それとは逆のパターンもあったということだろう。ワシ的には、毎度決戦のたびに丹沢山系に出向くという仮面ライダーの安直さが嫌だったのだが。
〇もうひとつ、今回しみじみ感じたのは、オリジナルの仮面ライダー主題歌(レッツゴー!ライダーキック)を歌った子門真人の歌唱力である。今の歌手にはあんな声量は出せないだろう。こうしてみると、1970年代の日本ってすごかったのだなあ。彼は『およげ!たいやきくん』だけではなかったのである。
<3月22日>(水)
〇今日は禁欲的に早朝から出社して、WBCは見ないつもりであったのだが、社内のあちこちから変な声が洩れるのである。「いま、日本がリードしてます」などと。
〇しかも頼みもしないのにスマホが教えてくれるのだ。「村上がホームラン」などと。いかん、いかん。これでは仕事にならんではないか。
〇それにしても午前中に片が付いて良かったよかった。サムライジャパンは見事に決勝戦でアメリカを破って世界一になりました。パチパチパチ。
〇アメリカ側としてみれば、ここまで「敵国」たるベネズエラとキューバを下した後である。同盟国、日本に敗れるのであれば苦しゅうないのではないか。しかもその立役者が、エンゼルスの大谷翔平選手であるならば。
〇社内の誰かが言っていた。「今から考えてみたら、『巨人の星』を目指すなんて、つまんない夢だったなあ」と。いや、まさしくその通り。そんなのは昭和の頃の話です。
〇日本の名門チームのエースになるなんて、どうってことはない夢です。それよりもメジャーリーガーになる方が値打ちがあるし、プロの世界で投打ともに活躍するのは夢がある。もっとすごいのは、本気になったメジャーリーグをオールジャパンで打ち破ってしまうこと。それが今日、果たされてしまった。
〇この夢を果たしてしまった大谷翔平は、次から何を目指すのであろうか。そうか、ホームラン王と最多勝のダブルクラウンがあるか。彼ならば本当にやってしまいかねない。信じる力、夢見る力は素晴らしい。
〇それにしても2023年のサムライジャパンは本当に素晴らしいチームであった。今日でお終いというのが寂しいけれども、この貴重な経験値は歴史として残る。今、TBSで再放送を見ながら、しみじみ幸福感に浸っております。
<3月23日>(木)
〇とあるエコノミストの会合にて。
「だいたいクレディ・スイスなんて碌でもない銀行だった」
「聞こえてくるのはマネロンとか情報漏洩とか大型損失とか、ひどい話ばかり」
「昔から三大悪徳金融機関と言えば、3つ目はさておいてリーマンとクレディ・スイスは当確だった」
「すいません、私以前にそこに居たんですけど」
「・・・・・」
〇SVBからクレディスイスまで、そしてひょっとするとこの後まだ続きがあるかもしれないのだが、現在の金融不安の「戒名」はまだ見つかりません。しかし大きく言ってしまえば、これも2020年から続くコロナがもたらした余波の一種であって、「恐怖の×活用」の何段目かに相当するのでありましょう。
〇まあね、急激な金利上昇が金融不安を招くというのは、この世界の初歩でありますよね。そういえば、三重野さんのバブルつぶしもこのパターンでありました。それがもたらした反動はまことに大きなものがありましたけど。
〇あらためてシンプルな事実を噛みしめましょう。人間は基本的に懲りない生き物です。どんなに貴重な教訓であっても、時間がたてばかならず忘れる。素晴らしいことじゃないですか。きっとAIにはできませんぜ、こんな馬鹿な真似は。
<3月24日>(金)
〇せっかくの満開の桜も2日連続の雨である。明日以降もしばし続くらしいので、散ってしまいそうで心配である。
〇とはいうものの、古来「花は満開、月は隈なきをのみ見るものかは」との金言もある。今ごろ、日本の花見に遅れるなとばかりに、やってくるインバウンドの方々もいらっしゃって、それはそれで結構なことではあるのだけれども、この国で春の桜を見続けてきた者としては、こんな風に洒落てみたい。
「咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ」
〇徒然草の叡智は永遠なり。
<3月26日>(日)
〇この1週間、あいかわらずマスクをしている人は多いのだが、いろんな場所で人出がどっと増えた感がある。以前ならスッと入れた店に行列ができているとか、予約が取りにくくなっているとか。まあ、それは結構なことであって、来週は天気も今週よりは良くなるだろうから、お花見気分で各方面が賑わうのではないだろうか。
〇いえね、ワシ的にはこの1週間、ノーマスクで外出しております。電車の中でだけつけていたりするんだけどね。ただし今週は雨のお陰で楽だった花粉症が、来週は一気にぶり返すかもしれない。結果的に、わが身を守るためのマスクが必要になるのかも。うーむ、うまくいきませんなあ。
<3月27日>(月)
〇先週のWBC優勝以来、栗山英樹監督の評価がうなぎ上り、天井知らずであります。あの方はつくづく、「良き指導者は良き教育者である」を地で行く方ですね。
〇と言っても、いわゆる「教え魔」なわけではない。こういうと気の毒ですが、技術的なことを教えるには、栗山さんは野球選手としての実績がないですからね。その代わり、「この選手はどうやったら伸びるか」をいつも最優先で考えている。どうかすると、そのためにはゲームの勝敗を犠牲にしてもいいと思っている。なにしろ負けたときは、「全部、俺が悪い」で済ませちゃう人ですから。
〇WBC準決勝の対メキシコ戦、9回に回った村上の打席が典型的でした。あそこで送りバントの指示を出しても、全然不思議ではなかった。でも、それでは村上が並みの選手で終わってしまう。あそこで勝負させて、駄目だったときは「全部、俺が悪い」と言う覚悟だったのでしょう。たまたまいい結果が出たけれども、たとえ悪い結果に終わっていても、その経験は村上にとって生涯の宝物となったはず。なかなか真似できることではありません。
〇どうやら東京学芸大学出身、というところに栗山さんの本質があるようです。ドラフト外でヤクルトに入団し、短い選手生活の後は野球解説者に。「教えること」を極めているうちに、気がついたら日ハムファイターズの監督になっていた。監督を10年やって優勝は2回だけですから、屈指の名監督というほどではないですよね。でも、「大谷翔平の二刀流を実現させたのは栗山さんのお陰」であることは誰もが良く知っている。
〇もちろん指導者には、教育者以外のいろんな資質があっていいのですけれども、「良き教育者」タイプは「次の指導者」を育ててくれるのがお値打ちであります。「人を残すをもって上とする」(後藤新平)という金言からいっても、今年のWBCは多くの教育機会を残してくれました。きっとベンチの中で、「なるほど、監督はああいう風にやればいいのか!」と頓悟した選手たちがきっといたはずです。
〇昔、社内報の記事に書かれていたことを思い出しました。ある部長さんが「若手を育てるには?」との問いに対して、こんなことを言ってました。「失敗した後にチャンスを与えること。むしろ若手が失敗したら、『しめた!』と思うくらいでないと」。そういえば当社の数代前の社長さんは、この部長さんの部下でありました。
<3月29日>(水)
〇その昔、西欧人は「富は西から東に流れる」と嘆いたそうである。アジアが「世界の成長センター」と呼ばれるようになると、そりゃあまぁ、そういうことになる。アジアが工業製品を生産し、欧州は代わりに文化を輸出する。売り家と、唐様で書く、三代目。
〇時は流れて、今はどうなっているかというと、「富は北から南に流れる」と嘆きたくなるところである。モノをせっせと生産している東の国としては、どんどん資源価格が上がるので往生している。働けどはたらけど、わが暮らし楽にならざる、じっと手を見る。
〇特に産油国のリッチなこと。昨年のカタールW杯では嫌という程、彼らのリッチさを見せつけられた。そもそもカタールでW杯を開けた、ということ自体が、どう考えても不明朗会計極まりなく、たぶんFIFAには「ぼったくり男爵」みたいな人たちが大勢いたのであろう。たまたま今年の冬は、欧州の暖冬のお陰で石油価格は下落気味だが、来年の冬がどうなるかはわからない。カタールは今後も、LNG輸出などで大儲けするのであろう。
〇ということで、産油国が大儲けしている間にどんなことが起きたのか。彼らは競馬の世界に入ってきたのである。いや、そもそもサラブレットは中東が起源なので、それは文句のつけようがないことである。で、3月にはサウジカップとドバイワールドカップという賞金が極めて大きいレースが行われるのである。で、たまたまそれらにおいて日本馬が大変に善い成績を収めた。その結果はどうなったか。今週時点の日本馬の歴代賞金獲得ランキングを御覧じろ。
順位 | 馬名 | 獲得賞金 | 備考 |
1位 | アーモンドアイ | 19億1526万3900円 | |
2位 | キタサンブラック | 18億7684万3000円 | |
3位 | パンサラッサ | 18億4466万3500円 | *サウジカップ優勝 |
4位 | テイエムオペラオー | 18億3518万9000円 | |
5位 | ジェンティルドンナ | 17億2603万400円 | |
6位 | オルフェーヴル | 15億7621万3000円 | |
7位 | ブエナビスタ | 14億7886万9700円 | |
8位 | ディープインパクト | 14億5455万1000円 | |
9位 | ゴールドシップ | 13億9776万7000円 | |
10位 | ウオッカ | 13億3356万5800円 | |
11位 | イクイノックス | 12億6549万2200円 | *ドバイシーマクラシック優勝 |
12位 | ウシュバテソーロ | 12億1766万4400円 | *ドバイワールドカップ優勝 |
〇今月、中東で行われたレースで勝った3頭が、そのままランキング入りしている。しかもこれ、たまたま今月は金融不安による「リスクオフの円買い」があり、評価額が安めになっているけれども、円安であればもっと上に行っていた公算が大である(上記のランキングは1ドル=131円865銭換算)。
〇ハッキリ言いますと、11位のイクイノックスは既に天皇賞(秋)と有馬記念を買っている馬ですし、この後、たぶん勝利を重ねて名馬として記憶されるでしょう。しかるにパンサラッサとウシュバテソーロは、「栄光ある一発屋」認定となるのが関の山でしょう。パンサラッサは去年のドバイターフも勝っているので、「海外レースで強い馬」と言えますが、ウシュバテソーロは芝からダートに転向して急に強くなったけど、2月までは川崎で走っていたような馬なのです。
〇ということで、国内のランキング秩序は大きく崩れてしまったと言わざるを得ません。それというのも、サウジとUAEの賞金額が高過ぎるから。パンサラッサはこの後、秋天あたりを勝つかもしれませんが、それで歴代賞金1位になったりすると、ファンとしては非常に違和感があるのですけれども。
〇ともあれ、競馬賞金の内外価格差は非常にハッキリしてきました。たまたま2月には、年に2回しかないJRAのダートG1であるフェブラリーステークスが行われるのですが、その1着の賞金はサウジカップの5着にも及ばない(!)とのこと。これではダート馬の有力どころは皆、海外に向かってしまうので、フェブラリーステークスはとっても寂しいことになってしまう。せめて時期をずらすくらいのことは、考えなければいけないでしょうね、JRAさん。
<3月30日>(木)
〇本日、目撃してしまいました。都内の薬局で中国人のご一家が、2万円分のパブロンゴールドを購入する光景を。噂は本当だった!
〇お店の人は戸惑ってましたけど、そりゃ売りますよねえ。だって金2万円也の売上になるんだもの。ところであれは、免税措置は受けられるんだろうか。外国人のお土産は輸出と同じ理屈になるので、消費税は減免措置が受けられるはず。化粧品なんかはその範疇となりますが、医薬品は別扱いのような気がするけどなあ。
〇そういえば不肖かんべえは、今年になってから2回も普通の風邪をひきました。この3年間は絶えてなかったことです。やっぱり普通の暮らしを始めると、ちゃんと菌を拾ったりするのでしょうな。大丈夫、ちゃんとコロナは陰性でした。それに普通に風邪薬を飲んでちゃんと治りましたから。
〇ワシの場合はまず引き初めに葛根湯。のどに来たらビックスドロップ。それからお腹に来る風邪はクラシエの漢方薬。これだけでだいたい大丈夫。パブロンは長いこと飲んでいないなあ。
<3月31日>(金)
〇年度末である。長らくほったらかしにしていた仕掛り原稿を、夕方になってやっとのことで終える。やれやら、ホッとする。するとまた別の原稿依頼が来る。ありがたいことである。
〇昨日からプロ野球が開幕である。センバツ高校野球は今日が準決勝。サッカーJリーグもやっていて、今宵はウチから遠い柏スタジアムで浦和レイソルとの試合が行われているが、先ほどは応援の声が聞こえてきた。どんだけ遠いんだよ。前半戦を終えたところで0−1で負けてるみたいだけど。
〇このところ、毎年春になるたびに碌でもないことが続いてきた。2020年はパンデミック、2021年はインフレ、2022年はウクライナ戦争。今年は金融危機の広がりとなるのかもしれないが、今のところは対岸の火事で、日経平均も2万8000円台を回復している。年度末の企業決算にとってはありがたいことである。
〇とりあえず今宵のところは、心配することなしに新年度を迎えるとしよう。ヤクルト対広島戦は村上に1号が出たんですなあ。そりゃま、そうだろうけど。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki