<9月1日>(日)
○今日は全国的に防災の日であるわけなんですが、ふと気がつくと、物心ついてから「死ぬほど驚いた日」というのは、不思議と年・月・日が奇数の組み合わせになるものなんですな。
●1995年1月17日 阪神大震災
●2001年9月11日 同時多発テロ事件
●2011年3月11日 東日本大震災
○となると、関東大震災の1923年9月1日もこのパターンに属するわけであります。「奇数が並んだらご用心」というわけ。もちろん例外はいくらでも見つかるでしょうけどね。
○今月の場合は、「2008年9月15日、リーマンブラザーズ倒産」から5周年というのも気になるところです。これは年が偶数なんで、法則からは外れます。でも、あれも死ぬほど驚いたし、天災みたいなものでありましたなあ。
<9月3日>(火)
○今月の政治外交日程はまことに詰まっておりますな。ちょっと整理しておきましょう。
9月5日〜6日 G20サミット 露サンクトペテルブルク
――安倍首相訪ロ。G20サミット自体にはさほどの重要案件なし。安倍首相はプーチン大統領と会談。北方領土問題で前進あるか? 問題はシリア情勢で、日米首脳会談は急きょキャンセルの模様。安倍首相とパククネ韓国大統領との立ち話会談があるかもしれません。
9月6日 米雇用統計発表
――NFPは15〜17万人といったところでしょう。失業率は7.4%くらいか。この結果しだいによって、9月中旬のFOMCは「すわ、Tapering発動か?!」という衝撃が走るものと推察。
9月7日 IOC総会 アルゼンチン・ブエノスアイレス
――安倍さんはロシアから政府専用機で20時間以上かけてIOC総会へ。最後のプレゼンで「2020年夏季五輪のホストシティは是非わが東京へ!」と訴える。大勢判明は日本時間では9月8日(日)午前5時ごろ。来週日曜朝のテレビはこれ一色に染まることが予想されます。
9月9日 米議会が夏休み明け再開
――オバマ大統領からシリア・アサド政権による化学兵器使用に対する懲罰攻撃を、やるべきかやらざるべきかの下駄を預けられてしまった。これではもうアメリカは「世界の警察官」ではいられませんわなあ。上院は「大統領を支持」で固まりそうだけど、下院はさっぱり見当がつきません。そしてまあ、オバマ大統領もサッパリ腰が据わっておりません。ご自身の名誉とメンツを守るための戦いなんですけどねえ。
9月9日 内閣府が4-6月期GDP改定値を発表
――昨日発表の法人企業統計を見ると、年率1%程度の上方修正ということになるでしょうね。民間設備投資の寄与度もマイナスからプラスに転じるものと予想。これは消費税決断に一歩前進ということを意味します。
9月10日 日本政府が尖閣諸島を国有化してから1周年。
――中国でどんな反響があるか、興味津々です。ちなみに野田政権が閣議決定したのがこの日であって、実際の手続きは翌日11日であります。
9月15日 リーマンブラザーズ社倒産から5周年
――あのリーマンショックから今月で丸5年。多くの関係者が去ってしまった後で、後に残された世代はこのまま突っ走るしかありません。
9月17-18日 米FOMC
――結果次第では、新興国経済に一段の打撃が生じることは容易に推測がつきます。
9月18日 中国で柳条湖事件の記念日
――中国で最も反日感情が高まる日です。ただしこの日を過ぎれば、雰囲気は幾分和らぐでしょう。ちなみに不肖かんべえは、この直後のタイミングで訪中してくるつもりでおります。
9月24日 安倍首相がニューヨークを訪問して国連総会に出席
――国連総会には中国から李克強首相も来るでしょう。立ち話、できますかねえ。
9月30日 鉱工業生産、雇用統計などの発表日。
――10月1日の日銀短観よりも、こっちの方が大切なんじゃないかと思います。少なくとも、消費税増税の判断材料としてはね。
○鬼が出るか蛇が出るか、といった感じの今月の政治日程です。まあ、大いにサプライズを楽しみたいものだと思います。
<9月4日>(水)
○今週末のIOC総会の行方に関し、いろんな情報が飛び交っている。
○ブックメーカーでは東京が1位である、というのはあんまり当てにならない。それを言ったら、4年前の一番人気はシカゴだったけど、オバマが少し長い演説をぶったら、真っ先に退場ということになった。競馬でもときどきあるけれども、一番人気が来ないレースなのである(例;新潟記念)。
○そうかと思うと、「日本政府は既に49票を固めた」という観測もある。IOC委員のうち、投票権があるのは104人と聞いているので、過半数に肉薄していることになる。ただし、これもあんまり当てにならない。IOC委員というのは、「ニッカ、サントリー」(2か所からもらう、3か所からもらう)が当たり前という世界。以前は中東の某国の委員が、「俺が30票くらいまとめてやる」というから、思い切りサービスしたら、ほんの数票しか取れなかった、なんて話も。
○「合理的に考えればトーキョーだ」とは言われるものの、ここへ来てマドリッドの追い上げがすさまじいらしい。折からの「シリア問題」で隣国トルコがマイナスになり、「福島の汚染水」で日本の評判が下がる。「日本人は都合の悪い話を隠そうとする」というのは、確かにおっしゃる通りであって、これはちょっと痛い。
○IOC委員は、全体の約半分近くが欧州人である。それも王侯貴族が多い。そういう意味では、日本もどれだけ皇室を担ぎ出せるかがポイントなのだが、「皇室の政治利用である」という妙な建て前が邪魔をしている。マドリッドの反撃は、7月に行われたフェリペ皇太子の演説がきっかけであったという。そんな飛車角落ちみたいな贅沢な戦い方をしている場合かよ、と正直感じる。
○アメリカが東京とマドリッドのどっちを推すのかという問題もある。明日からのG20会合では、急に日米首脳会談の予定が流れて電話会談になってしまった、というのは、ちょっと嫌な感じである。だったら、いっそのことシリアに自衛隊を出すから、何とかウチを推してくれ、みたいな話になったりして。ここまで来ると、完全に都市単位の話ではない。国際政治そのものである。
○なおかつ、これはストーリーテリングの勝負でもある。IOC委員の心をつかむためには、「スポーツと世界の平和」という少々嘘くさい物語を作る必要がある。「震災とそれからの復興の物語」では、「それはオタクの国だけの話でしょ」と言われるのが落ちである。果たして安倍さんは、どういう最終プレゼンを行うのか。
○しかるに、ここまで来たからには勝ちたい。いや、負けたくない。負けたら、来週からの日本経済がとっても寒い。それで「犯人探し」みたいなことになったら、それこそ「国運」が傾いてしまいかねない。ということで、後は祈るほかはありません。なるべくピュアな気持ちで祈りましょう。勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。願わくば不思議の勝ちに感謝するようでありたいものです。
<9月5日>(木)
○もって後、今月いっぱい――。と聞いたから、お盆のころにお見舞いに行ってきた。というよりも、お別れに行ってきたという方が正確だろうか。郊外にある立派な病院で、とても暑い日のことだった。
○その老人は、元陸軍軍人で、企業経営者で、財界人で、平和主義者で、とにかく立派な人であった。私にとっては一時期、上司のような形でお仕えした人で、どれだけお世話になったか、どれだけ大事なことを教わったかは、計り知れないほどである。その後は年に1度、お目にかかって昔話を聞くのが楽しみであった。
「僕はねえ、その中国人の女スパイを、逃がしてやったんだよ。なんでそんなことをしたのか、わからんのだけどねえ」
「京都の舞台で趣味の鼓を打っておったら、客の中に京都支店長が居て、じっとこっちを見ておるのだよ。社長に似た人がおるなあ、と思っておったらしい」
「僕の足にはずっと不発弾が入っていたのだけど、この年になって溶けて流れ出たみたいだ。その代わり、黒い汗が流れておったなあ」
○といった豪快な話である。どこまでが真実かはどうでもいい話であって、昔話というのは本来がそういうものである。こちらはジャーナリストでも学者でもないのだがから、そのエッセンスだけを受け取ればいい。あるいはご本人を前にして、迫力を感じていればいい。最近は、そういう偉い人が居なくなって久しいのだけれど。
○なにしろご本人は、学生時代に芸者と駆け落ちするわ、大蔵省と民間企業と二足のわらじをはくわ、組合の委員長から社長になっちゃうわ、ダボス会議でシュミット西独首相と意気投合しちゃうわという、荒々しい時代ならではの偉大な指導者だったのである。今の若い人は、こんな老人を知る機会はないだろうなあ。私はその点でまことにラッキーでした。
○お見舞いには3人で行った。心細かったので、老人の元女性秘書2人を誘ったのである。病室の中で、老人は独りきりで寝ていた。私が声をかけても、反応はなかった。ところが不思議なもので、女性の声には反応したのである。スッと右手が上がった。それは元気な頃のお得意のポーズだった。誰と誰が来たのかも、老人にはちゃんとわかっていた。そして二人の女性にはちゃんとしたメッセージを残した。
○ところが私に向かっては、何を言っているのかわからなかった。何か伝えたいことがあるらしいのだが、言葉が聞き取れなかった。会話が成立しなかった。ややあって、老人は疲れた様子だった。「休ませてもらうよ」の一言で、われわれは病室を去った。ほんの15分くらいのことであった。緊張したので、部屋を出るときにはホッとしていた。
○8月29日に、老人はこの世を去ったそうである。その知らせを聞いて、ふと自分の幸運に気がついた。故人はこの私に対して、何か伝えたいことがあったのである。その中身は、聞き取れてしまうと、意外と他愛もないことであったのかもしれない。だが、言葉が通じなかったおかげで、無限に解釈する可能性ができた。それで十分ではないか。思えば文字情報なんて、ごくささやかな、つまらんものである。ということは、ネットにある情報のほとんどが無意味だということなのだが。
○ということで、ここにある言葉を思い出した。今の状況に、これほどピッタリする言葉は他に見つからない。
御霊を悼んで平安を祈り、感謝を捧げるに、言葉は無力なれば、いまは来し方を思い、しばし瞑目し、静かに頭を垂れたいと思います。
○老人はある時期から平和運動の人となり、しんぶん赤旗にも出るようになった。岩波の「世界」にも記事を書いていたので、今月号の編集後記にはご本人の逝去が記されている。でも正式発表は本当は明日なんです。合掌。
<9月6日>(金)
○業務連絡です。昨日、地下鉄千代田線霞ヶ関駅で、筆者が落とした飯野ビルの入館証を拾って、届けてくださった方に心から厚く御礼申し上げます。
○今朝の入館の瞬間まで気づいておりませんで、会社に入った瞬間に当社受付から「落し物が届いてまーす」と教わった次第です。われながら、何という強運。どこのどなたかは存じませんが、陰徳がどこかで実を結ばれますように。陰ながらお祈りを申し上げます。
<9月7日>(土)
○一昨日書いた品川正治さんの逝去の件は、どこでも判を押したように「護憲派の財界人が亡くなられた」と報道されているのですが、筆者のように経済同友会で品川さんの下で働いたものの一人としては、若干、違和感があるのですね。別に異議申し立てをするつもりはないのですが、知っている範囲の事実をここでご紹介しておきます。
○品川さんは日本火災損害保険の社長・会長を経て、1993年から97年にかけて副代表幹事・専務理事を務められました。前半の2年間は速水優代表幹事、後半の2年間は牛尾治朗代表幹事をサポートされていました。もちろんハト派の論客でしたが、財界人としてはごく常識的な憲法観や安全保障観をお持ちでありました。「護憲派の財界人」というのは、89歳で亡くなられた品川さんにとって、80歳を過ぎた頃からの活動に対する評価なのでありまして、それ以前はそうでもなかったんですよ、ということをここで申し上げておきたいと考える次第です。
○真面目な話、筆者が同友会に居た1994年には、経済同友会は「あたらしい国家像を考える委員会」(堤清二委員長)の下で、憲法改正を求める提言を出しております。あいにく、経済同友会のサイトでは、95年以前の提言が保存されていないので、記憶に頼って再現するしかないのでありますが、当時の「冷戦崩壊〜湾岸戦争〜PKO」といった時代の要請に対し、憲法9条をどう変えるのが合理的かという議論をしていたかと思います。また、当時はちょうど欧州統合が進んでいたこともあって、Subsidiarity原則、なんて言葉も紹介されていたことが記憶に残っています。
○今から思うと、当時の速水代表幹事〜品川専務理事〜堤委員長というのは、財界における「スーパー・ハト派トリオ」でありました。だからと言って、当時の同友会がハト派であったかというと、けっしてそんなことはなかった。1993年の北朝鮮核開発危機なんかも、非常にビビッドな形で情報が入っており、有事の際における日本の安全保障体制の不備(そのほとんどは現在では解決している)は強く意識されていました。ちょうどその頃には、タイから戻られたばかりの岡崎久彦大使が代表幹事特別顧問をやっておられて、実に明快な解説をしておられたことを懐かしく記憶しています。
(ちなみに博報堂の中に岡崎研究所が誕生するのは1995年のことで、筆者が関与するようになった直接のきっかけは同友会でした。なお、2002年には岡崎研究所はNPO法人となり、今日に至っています)。
○余計な話ですが、「あたらしい国家像を考える委員会」には、日本郵船の宮岡会長と商船三井の転法輪会長が所属していて、前者が強烈なハト派、後者が強烈なタカ派でありました。お二人の間の激しい論争は、事務方の間で「日本海大海戦」などと語り伝えられたものであります。しかもお二人の容貌は、前者がカッコよく痩せていてタカ風であり、後者は人の良さそうな丸顔でハト風だったのです。夏の軽井沢セミナーの最中、休憩時間にトイレに立っていた小生の両側に、いかなる運命のいたずらか、激論直後の「タカとハト」両氏が並ばれ、「元海軍の宮岡さんに言われると、困っちゃうよなあ〜」などという会話を聞かされ、思わず出るものも出なくなったという記憶が残っています。
○そもそも論になりますが、なぜ経済団体というものがあって、世の中で重きをなしているかというと、企業経営者は雇用に対して責任を持つ立場であり、税金も払う立場であり、日本経済にとって重要な人たちであり、究極のリアリストでなければならないからであります。それが雇用を遠慮なく切ったり、法人税をネグったりするようになると、あんまり大事にする意味はなくなるんですけれども、90年代前半当時はまだ古き良き日本企業が健在であって、経営者も立派な方が多かったと思います。まあ、逆に言えば、今の経営者とは違って、株式アナリストにいじめられたり、IRのために欧米を行脚したり、と言った試練も少なかったのでありますが・・・。
○品川正治さんは、そんな古き良き時代の財界人でした。同友会の代表幹事が総理大臣だとしたら、専務理事は官房長官の役回りです。当時の日本政治は、自民党一党支配の終焉と細川政権の誕生、そして自社さ連立政権の誕生へと激動していました。「同友会はおねだりをしない」「愚直に改革を主張していく」といった品川さんの当時の名文句が思い起こされます。日米関係も、通商摩擦が猖獗を極めた時期でありました。当時、日米財界人会議の場で品川さんは、「アメリカは冷戦に勝ったのだ。だから日本はまず"Congratulations"を言うところから始めなければいけない」と発言し、日米の双方から高い評価を得たものです。当たり前のことですが、財界人であった品川さんは「反米の人」ではなかったのであります。
(ちなみに当時の筆者は、日商岩井から出向していた速水代表幹事の秘書でありまして、上記の喩えで行くと総理秘書官に当たります。まだペイペイの身でありましたし、経済同友会の事務局は非常に小さな所帯なのですが、品川さんとの関係は「官房長官と総理秘書官の関係」と考えていただくと、ご理解が容易になるかと存じます。つまり直接の上司と部下ではないのだけれど、ご指示を仰ぐ立場であり、なおかつ代表幹事との良好な関係を結ぶ責任がありました)
○速水代表幹事が退任すると同時に、筆者も会社に戻り、しばらくして品川さんも専務理事を退任されました。その後は年に1度、7月(品川さんの誕生日があった)に当時の秘書で集まる会で定期的にお会いする関係になりました。と言っても、昔話をする程度で、ごく普通のお付き合いでした。品川さんはその後も小説を書かれたりして、これが男女の濡れ場も出てくる本格的な作品であって、周囲は「あんなの書いて大丈夫かしらん」と心配したものでしたが、ともかく旺盛な活動を続けておられました。
○80歳を過ぎてから品川さんは変わった、と言われます。確かにその通りで、年に1度の飲み会の席上で、それまでは聞いたことがなかった、戦時中に陸軍の兵士として中国戦線に居た時の話をされるようになりました。それがあまりに面白かったので、2006年7月13日の当欄にはその時のメモが残っています。舞鶴港に向かう引き上げ船の中で、日本国憲法の誕生を聞いて、「こんなにいい話があるものかと思った」という証言も、ご本人からダイレクトに聞きました。貴重な経験でした。品川さんが「平和運動の人」になられたのは、その頃からであります。企業経営の立場を離れて、自由な立場になられたことが大きかったのだと思います。
○2011年に品川さんの米寿を祝う会に行ったら、共産党関係者があまりに多くて正直なところ驚きました。でも、品川さん自身は、以前とさほど変わってはいないように見えました。経営者としての人生が長かったので、最後はそうすることによって、バランスを取られたのかもしれません。実際、清濁併せのまないと、企業経営なんてやってられませんので。財界人としての品川さんと、平和運動の人としての品川さんの、どっちが本物であったのかという問いは、あまり意味のないことだと思います。人間は複雑なものですし、まして品川さんほど世の中の不条理を体験し尽くした人はあまりいませんので。
<9月8日>(日)
○何はともあれ、東京招致が成功してよかった。決め手になったのは、「東京の安心・安全」ではなくて、「日本人の正直さ」ではなかったのかと思いました。
○というのも、最終プレゼンの中で2つの部分が印象に残りました。
「オリンピック・パラリンピック競技大会でドーピング違反をした日本のアスリートは1人もおりません。それは法令があったからということだけではなく、政府、NOC、国内連盟による、長期にわたる統合されたアプローチによるものです。これらの組織はすべて、私たちがアスリートをサポートし、オリンピックの価値の高潔さを守らなくてはいけないということに、同意しています」。
(竹田恒和理事長)
「もし皆様が東京で何かをなくしたならば、ほぼ確実にそれは戻ってきます。例え現金でも。実際に昨年、現金3000万ドル以上が、落し物として、東京の警察署に届けられました。世界を旅する7万5000人の旅行者を対象としておこなった最近の調査によると、東京は世界で最も安全な都市です」。
(滝川クリステル・アンバサダー)
○日本人アスリートはドーピングをしない、街でなくしたものが戻ってくる、というのは、誇張でもハッタリでもない。われわれ自身が「ああ、そりゃそうだろうな」と感じることです。ただし、他国から見ればかなり意外なことですし、東京の美点であることは間違いありません。これらの意味において、日本人は信じられないくらいに正直な人たちです。
○その一方で、福島の汚染水問題に見られるように、日本人は「情報を隠そうとする人たち」でもあります。これ、別に東京電力だけが悪いんじゃないですよ。われわれ、都合の悪いことは「見ないふり」をするのが得意ですからね。この辺の不正直さも、実は結構、バレているのであります。通商交渉なんかでは、日本は結構、あこぎな情報操作をやりますからねえ。
○IOC総会の最終局面で、汚染水問題が急激に浮上したのは、本気で放射能の影響を恐れたというよりは、広報上の問題という点が大きかったのだと思います。シリア情勢がイスタンブールに影響しなかったように、あまりにも大きな問題はIOCでは不問に付されるのであります。
「フクシマについてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況は統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません」
(安倍首相)
○後はわれわれ自身が努力をして、この発言を嘘にしないことが重要であります。
<9月9日>(月)
○この週末は、「プレゼンテーションとは何か」について、教わることが多かったと思います。とりあえずこんな感じかな。
@今日のビジネスにおいては、プレゼンテーションは非常に重要なものである。
A日本人でも入念に準備をして、各人が個性を発揮すれば、結構上手にやれるものである。
B英語やフランス語がうまい人も、探せばちゃんといる。また下手な英語でも、本人の決意がにじんでいれば、気持ちは必ず通じる。
C汚染水のような難しい問題も、要は逃げないことが大事。トップが正面から答えれば、気迫で乗り切ることができる。
Dストーリー作りが大切。それも「震災からの復興」という国内向けの物語ではなく、「Olympic
Movementの拡大」というIOC向けの物語になっていた点が技能賞。
E映像も重要な要素である。
Fプレゼンに負けると勝つのでは大違い。勝てるととってもうれしい。
○今後の仕事に役立てていきたいものであります。
○もうひとつ。こっちは頭の体操です。ちょっと気の早い質問ですが、4年後、2024年の開催地にJOCはどの都市を応援すべきでしょうか。
(1)パリ:最初から2024年狙い。ゆえに今回は東京を支援してくれたとの観測多し。実はもともと「日仏同盟」があったとの見方も。
(2)マドリード:最終選考でマドリード票が東京に流れて大差の勝利となった。日本の勝利を望まなかったどこかの国には、ショックだったかもしれません。
(3)イスタンブール:6度目の挑戦。親日国だし、やっぱりこちらを応援すべきでは。エルドアン首相は約束通り安倍さんに祝意を表してくれました。
(4)その他:そろそろアメリカのどこかの都市が手を挙げそうな気がする。アフリカはまだちょっと時期尚早か。
○どうも心情的には(3)なのですが、「あのフランス人が食い逃げを許してくれるはずがない」との声もあり、また、「歴史のあるイスタンブールは掘ればすぐ遺跡が出てくる。京都で万博をやるようなもの」との意見もあり、オッズ的にはやはり(1)が本命になりそうな気がします。
<9月10日>(火)
○消費税増税問題について、言い忘れていたことを少々。
○ほとんどの人は、消費者の立場から発言している。つまり「今までなら1050円払っていたものが、来年春からは1080円になる」ということである。あるいは、年間300万円使うと今なら消費税は15万円だが、これが24万円になると9万円の負担増なので、消費は冷え込むはずだ、ということである。
○ところが実際に消費税を納入するのは、企業や商店などの事業主である。前年の売り上げが1000万円を超えると、税務署から通知が来て、その2年後から消費税を払わなければならなくなる。個人事業主は3月15日に確定申告の締め切りが来るが、消費税の締め切りは4月1日なので、慌ただしく3月後半に納税の義務を果たすことになる。法人の場合は決算日から2か月後である。
○これが決して簡単ではない。特に複数の事業を行っている商店は、見なしの経費率がそれぞれ違ったりする。その辺の事情をよく分かっているならば、「税率を毎年1%ずつ上げればいい」などという意見は出てくるはずがないと思うのである。消費税論議をやる際に、商店業の方々は「このエコノミストという人たちは、実務を知らないんだなあ」と思って呆れているのではないかと拝察する。
○実際のところ、総合商社たる弊社では「来年4月からの納税についての社内講習会」なんぞを既に始めている。輸出入に関しては、いろいろ例外規定があるらしくて、この辺は会計のプロの世界である。半年前なんだから、準備をするのは当たり前である。今から予定を変更されたら、どんな混乱が生じるか見当もつかない。
○そもそもリフレ論者の中には、税率の上げ方を変えるときに法改正が不要だと勘違いしていた人もいたそうなので、こうなるともうおめでたいとしか言いようがない。10月後半からの臨時国会で、どうやって審議時間を確保するつもりなんだろう。「スポーツ庁を作りましょう」という法案ならば、今の勢いならば3日で通るだろう。増税法案の予定変更なんて、それこそ鬼が出るか蛇が出るか分からない。
○ということで、マクロのエコノミストというものは、まったくリアリズムのない世界で生きているおめでたい人たちなのではないかと思う。初歩的な話だと思うんだけどな。
<9月11日>(水)
○シリア問題に関する昨日のオバマ演説はここ。軍事行動に対する支持を議会に求めつつ、外交オプションにも言及。「ブーツ・オン・ザ・グラウンドはない」「アメリカは世界の警察官ではない」とも言っている。
○自分が目指しているのは限定的な攻撃だ、とのこと。だったらそれは笑止千万な話で、限定的な攻撃なのであれば、最初から議会の支持など求めなければよかった。そしてロシアが提案している化学兵器の国際管理は、ほとんど現実味がない。どんどん袋小路に入っている感あり。
○シリア情勢は学級崩壊のようなもの。エドワード・ルトワーク式に達観すれば、あの状態をなるべく長引かせる方がいいんだよ、ということになる。ところがオバマが今やっていることは、教師が自分の身を守るために、せっせと自分の権威を貶めているようなところがある。ということは、中東における学級崩壊状態はこれからますます悪くなるのだろう。
○オバマとしては、海外におけるアメリカの評判を落としてもいいから、国内での自分の支持率だけは何とか守ろうとしているのであろう。が、おそらく両方とも失うんじゃないだろうか。ほんの1年ほど前に、「2030年の原発比率を国民アンケートで決めよう」とした政権があったけれども、今回の事態にはそれと同種の優柔不断さを感じる。
○もっともアメリカがこんな風になったのは、「9/11」があって、その後のアフガン、イラク戦争の失敗にアメリカが懲りたからである。そしてその発端の日から、今日でもう12年になる。干支もちょうど一回りした。
○やっぱり「世界の警察官」としてのアメリカはもう打ち止めなのかもしれません。これはアジアにおいても同様と考えなければならない。日本としては気が重い話ですが、自分の身は自分で守らなきゃね、ということになる。
○ところで今年の防衛白書はこんな内容です。白書と言えば、普通表紙は世界地図か何か、当たり障りのないものを使うもんですが、平成25年度版の表紙はどう見ても「島嶼防衛」の図ですよねえ。今日は尖閣諸島の国有化から1周年であったりもします。
<9月13日>(金)
○それ人間の相をつらつら観ずるに、身体というものは薄い膜に包まれた水溶液のようなものである。この水分は、外から入ってきたり出たりして、始終落ち着くことがない。「男子三日会わざれば括目すべし」なる言葉があるが、3日たてば水分の中身はあらかた入れ替わっているはずである。にもかかわらず、外から見ると同じ人間のように見える。人格というものは、不思議なことに水分の外側にあるらしい。
○身体を構成する水分の入れ替わりは毎日行われている。というよりも、1日でも新陳代謝が止まると人は死んでしまう。だから人は、毎日毎朝、食事したり、水分を取ったり、汗をかいたり、排泄したりしなければならない。この自転車操業を滞りなく続けることが、すなわち「生きている」ということである。
○毎日、3度のおまんまを食べているから、人間は生きていけるのだと勘違いしている人がたまに居る。しかるにたとえ食べていても、中身を消化できなくなったら"The
End"である。それこそ巨万の富を有していて、どんなこの世の美味珍味を取り寄せることができる人であっても、そのままあの世へ旅立つほかはない。この辺、生き物の原理はまことに『ダーウィンが来た』のように、冷厳で残酷で万古不易である。
○ところで普通、体内の水分は個々人で独立している。ところがごく稀に、人間同士が体内の水分を交換することがある。何だか崇高なことにも思えるし、いかがわしいことにも思えるが、これを性行為と呼んでいる。これがあるから、子孫が誕生して、一族郎党が繁栄したりもする。どこぞのフード・タレントが「カレーは飲み物」と言っておったが、それと同じように言うなら「人間は水分」である。
○この水分の入れ替えを飽きることなく続けていると、長寿と呼ばれ、おめでたいと呼ばれたりする。たしか、今週末の3連休には、「敬老の日」が含まれていたはずである。この日に祝ってもらえるのは、水分の自転車操業がうまく行っている人たちである。当然、これを嘉するべきである。途中で水分が枯れたり、滞ったりしてしまう人たちも少なからずいるのだから。生きていることは、ただそれだけで値打ちがある。意味などは後から適当につければよい。
○高齢者にとって、重要なことは「きょうよう」と「きょういく」であるらしい。もちろん、長い年月を過ごした人が、今さら教養や教育が必要なわけではない。その心は「今日用がある」と「今日行く所がある」である。ちなみにこのネタの出典は河村幹夫『人生は65歳からがおもしろい』(海竜社)である。身につまされたと感じた人は、お買い上げいただくのがよろしいかと存じます。
○筆者はその昔、「爺転がし」という仕事をやっていた。別名を秘書とかアシスタントとかロジとも言って、なかなかに味わい深く、学ぶことの多い仕事である。たまたま今日、残り少ない存命の爺の一人から電話をもらい、「来年で米寿だよ」と言われてのけぞってしまった。なんでそんなに元気なの。きっと水分の入れ替えだけではなく、身に余るほど「きょうよう」や「きょういく」を再生産してこられたのであろう。
○ということで、既に50代を迎えてしまっている筆者としては、いろいろと感じ入った次第であった。あなかしこ、あなかしこ。
<9月15日>(日)
○9月は三連休が2回ある。ただし来週の3連休は中国出張であり、今週の3連休はその準備に充てなければいけない。ということで、急きょ論文を書いてパワポ資料も作っておるのだが、もちろん簡単にできるわけではない。昨日はわりと快調であったのだが、今日は難航。
○どうも最近はこういう日曜日が多い。ずっとPCに向かって、心を癒してくれるのは「将棋の時間」と「みんなの競馬」と「笑点」くらいである。ときどきFacebookを開いて、誰かを冷やかす。仕事が進まないからと言って、中山競馬場に出かけたりしてはいけないのである。
○てなことで、2日目の夕方になったところ、だいたい8割ぐらい出来上がっているような気がしてきた。かといって、あんまり恥ずかしいものを出すわけにはいかんので、もう少し見直さねばならぬ。でも、その前にちょっとだけ、ビールを開けようか。それくらい、いいよね。
<9月16日>(月)
○中国出張用の原稿を午前中に入稿したら、急に暇になってしまった。ところが外は台風到来で、中山競馬もお休みになってしまった。それではワシも困るではないか。ぷんぷん。
○ということで、今頃になってDVDで見る『紅の豚』。これを見ないで『風立ちぬ』を語ってはいかんですねえ。と言いつつ、騙ってしまったけど。特に森山周一郎の声が素晴らしい。カッコ良すぎ。こういう大人って、居なくなりましたなあ。
○世間ではローレンス・サマーズ氏がFRB議長を辞退したことが騒ぎになっている。今週はFOMCだというのに、このタイミングで揉めるところが素晴らしい。まさしく「モヤモヤさまぁ〜ず」ではないか。明日のモーサテで、大江さんが何ていうか、今から楽しみです。
○真面目な話、私はこれがシリア問題と無関係だとは思えない。オバマがあれだけ酷い右顧左眄をやったからには、FRB議長の議会承認が簡単に済むとはとても思えない。そこで出ていくサマーズ氏は、格好の標的になるだろう。ちょうど国務長官人事で、オバマさんご執心のライスが却下されてケリーに決まったのと同じパターンである。
○かといって、これでイエレンに順当に決まるかと言うと、「あや」がついてしまった人事と言うのは揉めるものです。簡単には決まらないんじゃないのかなあ。どうもオバマ政権は泥沼に入ってしまっているような気がします。
○他方、わが日本国は先週の五輪招致成功以来、イプシロンはちゃんと飛んでくれたし、フランスの前哨戦ではオルフェーヴルとキズナが圧勝するし、どうも晴れがましいことが続いている。こりゃあ、凱旋門賞も行っちゃうかも。ツイてる、ってのはいいものですな。
<9月17日>(火)
○これはちょっと書き記しておこう。元ネタは『戦略読書日記』(楠木建/プレジデント社)で、更にその元ネタは『映画はやくざなり』(笠原和夫/新潮社=絶版)なのだそうだ。本はどこかへ行ってしまうことがあるけど、ここに書いておきさえすれば、ちゃんと後で再発見することができるだろうから。
●シナリオ骨法十箇条
その1「コロガリ」:客の胸をワクワクさせる展開の妙。
その2「カセ」:主人公に背負わされた運命、宿命。
その3「オタカラ」:主人公にとって、何物にも代えがたく守るべきもの。
その4「カタキ」:敵役。オタカラを奪おうとする者の側。
その5「サンボウ」:正念場のこと。進退ギリギリの瀬戸際に立った主人公が決意を示す地点。
その6「ヤブレ」:破、乱調。失意の主人公がボロボロになったりする。
その7「オリン」:バイオリンをかき鳴らして観客の涙を誘うシーン。
その8「ヤマ」:ヤマ場、見せ場。クライマックス。あらゆるドラマの要素を結集させる。
その9「オチ」:しめくくり。ラストシーン。予想通りに終わるか、予想を裏切っても期待通りに終わるべし。
その10「オダイモク」:テーマ。書き終えたところで、もう一度チェックすること。
○別にシナリオライターになるつもりがなくても、この10個の言葉を覚えておいて損はないだろう。例えば先般の「東京五輪招致のプレゼン」で言えば、佐藤真海さんの冒頭プレゼンは「コロガリがいい」(これから何が始まるのか、期待させる)と評することができる。なぜならば、彼女の人生がものすごく大きな「カセ」を有しているのだから。
○「サンボウ」というのは、明智光秀が盃を乗せた三方をひっくり返して「敵は本能寺にあり!」叫ぶシーンに由来するのだとか。一世一代の大芝居と言うわけ。「賽は投げられた」でもいいし、「おのおのがた、討ち入りでござるぅ〜」でもいいし、"Go
ahead, Make my day."でもよろしい。そういえば「十倍返しだ!」てのもありますな。
○「オチ」に関する指示もすばらしい。メロドラマであれば、「やっぱりね、そうだよなあ」と終わりたいし、ミステリーであれば、「ええっ、そう来たか。参ったな、こりゃ」で終わりたい。どっちにしろ、見る者の期待を裏切ってはいかんのである。さて、『あまちゃん』はどうやって終わるんでしょう。
○いい物語を作る方法は、かくも整理されているのである。にもかかわらず、名作は出難い。既にある名作を後講釈することは簡単なんだけどなあ。
<9月18日>(水)
○西日本新聞の政経懇話会で久留米市へ。早起きして羽田に急いだら、何かおかしい。浜松町でやっと気がついたが、1時間早めに出てしまった。まあ、逆でなくて良かったというべきか。
○日帰りで九州との間をとんぼ返り。飛行機の上から見る琵琶湖や淀川は、ものの見事に茶色になっておりました。この週末の台風のせいですね。東京も九州も空気はすっかり秋。ま、日中は少し暑かったかな。
○久留米市へは福岡空港から地下鉄→西鉄で移動するわけですが、これがとっても便利。天神で乗り換えると、相変わらず若い女性がとっても多い。これは「九州全体から集まってきているから」なんだそうです。
○で、今朝見て驚いたんですが、Fedは量的緩和縮小に踏み込まず。うーん、景気の見込みが違っていたということなんでしょうか。これでは「もやもやバーナンキ」ではないですか。9月はやっぱりサプライズが多いです。
<9月20日>(金)
○ふと気がついた。なぜ、ワシはこんなことをやっているのだろう。
○この仕事は××さんのためにやっている。この仕事は見栄で引き受けた。この仕事は割り込みだけど断れない。この仕事は長いことやっているから惰性で。この仕事は義理と人情で・・・などなど。
○そうか、ワシは全部誰かに頼まれたことのために、一日のほとんどを費やしているのである。ところで自分がやりたかったことって、なんだったっけ?
○この10年くらいで、間違いなく自分の意思でやってきたことと言うと、このサイトを継続することくらいである。後のほとんどのことは、誰かに頼まれてやっている。そうか、ワシは基本的に受け身な人間であったのだ。
○しかし、あんまり忙しくなって、サイトの更新さえできないというのも業腹なことである。少しは仕事を減らしたいものである。でないと、どんどん疲弊してしまうし、ここで書くことができなくなってしまう。
○でも、義理と人情のおかげで明日からの3連休で上海に行ってくる。5年ぶりの日中経済対話である。期せずしていいタイミングである。日中関係の風向きを体感してまいりますぞ。
○その一方で、「今度の日曜日、中山競馬場の指定席があるんですけど〜」というお誘いもあった。こwrittiちらは断腸の思いでお断りする。神戸新聞杯もちょっと気になるのである。
オ
<9月21日>(土)
○今日の上海市は曇り時々雨である。空気の湿り気具合はこんな天気の日の日本と変わらない。ホテルにチェックインしてみると、なるほどフェイスブックにはつながらず、グーグルは香港に飛ぶようになっている。気をつけてHPを更新してみましょう。
○余計なことながら、FBが使えるのなら、つい先ほどエレベーターの中で見かけた「全自動卓麻雀があるChess
roomの写真」を載せてみたくなるところである。いやね、麻雀というゲームは中国でできたわけですけど、「リーチ」という役とフリテンというルールと全自動卓は、私ども日本人の貢献なのでありますよ、などと余計なことを説明したくなる(ちなみに七対子はアメリカ人である)。
○日本と中国の発想の違い、ということについて、今回初めて知った話をひとつご紹介。それは名前の書き方について。たとえば毛沢東さんが自分の名前を名刺に刷るときは、こんな風になります。
(日本風)毛 沢東
(中国風)毛 沢 東
○どこが違うかというと、日本の場合は苗字と名前の間にワンスペース開けますよね。西洋人のアルファベットの名前もそうですから、これはグローバルスタンダードなのかと思っておりましたが、これが中国では違うのです。ちなみに4文字名前だとこうなります。(ホントは諸葛亮なんですけど、ここは大目に見てください)
(日本風)諸葛 孔明
(中国風)諸 葛 孔 明
○つまり、すべての漢字を均等な感覚に並べるのが中国流なのです。お手元にある中国の方の名刺をチェックしてみてください。見事にそうなってます。まあ、二文字名前であれば、こんなこと考えなくていいんですけどね。
○なぜ、名前を途中で開けないかというと、「それだと首と胴体が離れているように見える」からなんだそうです。うーむ、その発想は思いもよらないぞ。
○ということで、中国人のネームプレートを用意したりするときは、「習 近平」ではなく「習近平」にしましょうね、という小ネタでありました。
<9月22日>(日)
○中国では19日から21日の3日間が「中秋節」のお休みであって、今日は日曜だけれども振替休日である。だったら平日同然に忙しいのかというと、かならずしもそうではないようで、道路なんぞは比較的空いている。これでまた、10月になると「国慶節」の大連休が始まったりするので、学校の授業なんかはやりにくかったりするらしい。ともあれ、中秋節は家族が集まって、お月見をしながら月餅を配る。結婚式などにもピッタリなシーズンなのだそうだ。
○という本日22日、日中の国際シンポジウムをやりました。場所は上海対外経済貿易大学で、主催は日本経済研究センター。5年前に最初にやった時の記録はこちらをご参照。今回は日本経済研究センターの創設5周年記念でもある。テーマは「経済一体化与中日経済合作」(グローバリゼーションと日中経済協力)。時節柄、話題の中心になるのは「安倍経済学」(アベノミクス)である。そしてもうひとつは、実行まで間近に迫った「上海自由貿易試験区」。これがなかなかに奥が深い。
○日中のエコノミスト同士が朝から晩まで議論。5年前は逐語訳だったけれども、今回は同時通訳なのでとても密度が濃い。夜は宴会。ついでにバンドに出かけて、夜景を楽しみながら一杯ひっかけ、帰りに「新天地」でたむろする若い世代を覗き、深夜に帰還。まことにみっしりと詰まった一日でした。中身については、おいおいまとめることといたします。
○とりあえずこれだけは記録しておきたいのは、呉寄南さん(上海国際問題研究院学術委員会副主任)が引用された王安石(北宋時代の政治家、詩文家。新法党のリーダーとして政治改革にまい進)の言葉です。
莫道浮雲遮望眼
只縁身在最高処
○浮雲に視界を遮られることなくあるためには、視野を高く保つことが重要であるとのこと。目先の情報に一喜一憂することなく、高い視点から大きなトレンドを見抜く。なるほど、そんな風でありたいものです。
<9月23日>(月)
○次の英語を中国語に直しなさい(1つ5点)
@Abenomics
ABreakfast Buffet
BExecutive Floor
答えは今日の最後の部分に。
○中国に行くたびに「ええーっ、そうだったの?」と驚かされる話が多い。まあ、話半分に聞くにせよ、やっぱり大変な国であります。
●人口100万人を超える都市が、すでに200とか300あると言われている。
●上海にはメイドさんが100万人もいる。時給は400円程度。
●ほとんどすべての省に高炉がある。
●イタリアの高級ネクタイ、3万円以下のものはほとんどがもはや中国製だ。
●改革開放が始まった1978年には8億人の農村人口があった。ところが農業生産性の向上により、今なら食糧生産は4億人で足りる。既に2億人以上が都市部に移動したが、まだ2億人近く残っている。だから住宅価格も経済成長もまだまだ行ける。
○中国とは、「普通の国ならできることができない変な国だけど、途方もないことができてしまう国」であるらしい。上海自由貿易試験区もその典型で、貿易自由化、金融自由化などの実験を3年間行ってみて、それで成功したら他の地域にも推し進めるけど、ダメだったらやり直すんだそうだ。そのために、「法律で禁止してないことは何をやってもよい」というネガティブリスト化を行うのだが、その項目は来週発表。そして10月1日から開始だという。ひょっとすると、9月29日あたりに、李克強さんが「第二の南巡講和」をやるかもしれません。
○他方、「そんなこと言っても、11月の三中全会を見ないと分からないんじゃないか」という慎重論もある。習近平体制がどこまで腰が据わっているか、改革路線をどこまで踏み込む覚悟なのかは、正直なところよく分からない。ところが上海市民の間には、「早いとこやっちまおうぜ」的な感じもある。やっぱり商業都市としてのDNAがあるし、朱鎔基さんの改革という経験が残っているんですな。この辺の話を聞いていると、わが国における「構造改革特区」なんぞはきわめてもやもやした議論に思えます。
○興味深いのは、中国をこういう実験に走らせている原動力は、「TPPへの警戒感」なんですねえ。実はそれだけではなくて、日本では全く報道されてない「TTIP」(米欧自由貿易投資協定)のことも強く意識している。先進国主導で世界の枠組み作りが行われるのが嫌なのでしょう。このあたり、「世界第2位の経済大国」になった矜持が働いているように思えました。
○日本側もアベノミクスが今のところ成功しているのと、東京五輪招致が決まったところなので、少しは強気になっていいところなんだけど、向こう側もエコノミストと日本研究者たちなんでやりにくい。「第三の矢は力不足じゃないですか」「財政赤字は大丈夫なんですか」「人口はやはり1億人はキープしないとまずいんじゃないですか」「いつ経常赤字になるんですか」などと言われるとちと辛いものがある。まあ、お互いよく分かっている同士なんですけどね。
○東京五輪については、社交辞令もあるんでしょうが、「よかったですね」と言われました。ただし、この点で気になることがあるんですよね。どこかで「東京五輪2020バンザイTシャツ」みたいなものを売ってたら、大量に買い込んで向こうで配って回ろうと思っていたんですが、どこにも売ってない。どうやら招致委員会でちゃんとしたものを作るらしいんですが、新橋駅の地下道あたりでゲリラ的に売ってもいいじゃないだろうか。もちろん中国製でOKです。皆さん、東京五輪を喜んでいても、口ばっかりで身体が動いていないんじゃないでしょうか。
○「成長戦略」という言葉は、ほっておいても民間が成長していくようなお膳立てを政府がしてくれるわけではありません。むしろ実体は「構造改革」と捉えるべきでありましょう。すなわち、それをやったら必ず成長できるというものではなくて、民間企業にとって競争の機会は増えるけれども、結果として強いものが生き残って、結果として日本経済全体にプラスになる、ということです。楽で効果がある成長戦略というものがあるとしたら、とっくの昔に誰かがやってるはずですからね。
○今回のシンポジウムでは、「日中はともに改革途上国」(呉寄南さん)という発言がありました。どちらも既得権構造が強くありますので、言うは易く行うは難し。果たしてどっちがうまくやれるんでしょうか。
○さて、冒頭の問題の答えです。
@安倍経済学
A自助餐
B行政楼
○Executive=行政、という発想がすごい。やっぱりお役人が偉い国なんですねえ。
<9月25日>(水)
○今宵はニュージーランド大使館でレセプション。ということで渋谷区の神山町へ。
○ものの見事なお屋敷街であるが、道路は狭いし、大きな店は少ないし、この辺の人はどこでお買い物をしているのか、ちょっと不思議である。あるいは大手のデパートから外商さんが来てくれるんだろうか。夜中に電池やトイレットペーパーが切れたら、コンビニが遠そうだから不便だろうなあ、なんてのは余計なお世話というものである。
○ニュージーランド大使館には、見事な日本庭園が広がっている。あいにく本日は天気が悪くて、庭には出られなかったけれども、晴れた日には、そこから見えるお隣の麻生太郎財務大臣邸宅の洋館が妙にいい感じである。シンクレア大使に聞いたところでは、ニュージーランド政府は1960年代に吉田茂元首相からこの敷地を買い取ったそうだ。おそらくは相続税対策だったのであろう。
○かくして旧吉田邸の面積は半分になったのだろうが、大使館に売ったおかげで、立派な日本庭園が残った。庭木の手入れだって、コストがかかるんです。変な相手に売っていたら、今頃はマンションになっていただろう。外務大臣を長く務めた吉田茂が、果たしてどんなことを考えていたのか、ちょっと聞いてみたい気がする。
○さて、明日は第4回の日本ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラム(国際文化会館)です。日本がTPP交渉に正式参加してまだ2か月足らず。さてどんな会議になるか、ちょっと楽しみです。
<9月26日>(木)
○今日のニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムで仕入れた話をいくつかご紹介。
○日本からニュージーランドへ行く旅行者数は、とうとう年間7〜8万人まで減少。ピーク時にはその倍以上あったんですけどねえ。他方、中国人観光客は23万人に伸びている。ただし客単価などを考えると、「もっと日本人が来てくれる方がうれしい」。アベノミクス効果なのか、今年は去年よりも増えているようなので、日本人観光客の奮起を促したい。
○更にその昔は、日本人のハネムーンの行先が、@ハワイ、A豪州、Bニュージーランドという時代があったのだそうです。その頃は、ほぼ全員が「ペア・ルック」(←死語。通訳の人が訳すのに苦労してました)だったので、観光案内がカップルを間違える恐れはほとんどなかった由。
○ニュージーランドの上の方の世代は、1964年の東京五輪のことをよく覚えている。なぜなら、初めてテレビで同時中継された大会だったから。時差なしに見られるという点も画期的だったことでしょう。2020年の東京招致のことも、素直に喜んでくれています。そしてこう付け加える。「2019年も大事ですからね!」(ラグビーのW杯が日本で行われるから)。きっとまたオールブラックスの独壇場になるんだろうなあ・・・・。
○当然のことですが、会議ではTPPに関する話が多かった。今月行われたブルネイの交渉ラウンドでは、「日本のマスコミが全体の9割!」だったんだそうです。そりゃ他所の国はビビるよねえ。ちなみにワシは、先週末の上海会議のことを報告して、「TPPがあるから、中国は上海自由貿易試験区をやるんですよ」と言ったら、皆さん驚いてました。
○その辺の事情は、この記事を読む方が分かりやすいかと存じます。ご参考まで。
<9月27日>(金)
○アメリカから帰ってきたばかりのMさんと会う。「オバマ政権、もう終わっているよ」とのこと。それって私も同感。シリア情勢で躓き、Fed議長人事でミソをつけ、今度は予算問題で迷走しそうだが、大統領ご本人には反省している様子がない。むしろ周囲の人間が、どんどん信用できなくなっている模様である。いかにも大統領として、終わっとるではないか。任期はまだ3年以上あるんだけど。
○他方、米国経済はわりといい感じなんで、政治が迷走してくれるのは、それだけ経済への介入が減ることを意味する。そのこと自体、そんなに悪い話ではないはずだ。でも、政府機関の閉鎖があるかもしれないんで、金融市場は身構えているし、バーナンキ議長も思わず緩和停止の手が縮こまってしまった。今月、Taperingの手を休めたのは、悪手だったと思うけどなあ。そうでなければ、Taperingなんて言葉を作って流行らせる必要はなかった。
○アメリカがどんどん内向きになっている中で、安倍内閣が「集団的自衛権の解釈変更」などといった「アーミテージ=ナイ報告書」式のアジェンダに取り組んでいると、それはちょっとした無駄働きになっちゃうかもしれない。この点は確かに心配なるも、安倍首相としては以前からの宿題を棚上げするわけにもいかない。ということで、このままの状態がぐずぐずと続くのでありましょう。どっとはらい。
<9月30日>(月)
○中山俊宏著『介入するアメリカ―理念国家の世界観―』(勁草書房)を読んでいる。これが赤本で、もう1冊ペアで出ている青本が『アメリカン・イデオロギー―保守主義運動と政治的分断―』である。両方を手元に揃えていると、なんとなくぜいたくな気分になってワクワクしてくる。
○で、以下は赤本の一節から。(P98)
「アメリカはイラクを変えることはできないが、イラクはアメリカを変えてしまうだろう。あなた方が生き残るためには、アイロニーの感覚を発達させなければならない」。これは、『ワシントン・ポスト』紙のデヴィッド・イグネイシアスのコラムで紹介されているシリア生まれ、パリ在住の企業家、ラジャ・シダウィの言葉である。イグネイシアスは、シダウィの言葉に違和感を覚えつつも、アメリカの国民文化が「悲劇的感覚」とは相容れず、その結果として、意図と結果のあいだに生じうるギャップに無頓着な傾向が助長され、これがもたらすかもしれぬ帰結に不安を表明している。これは、ブッシュ大統領が「任務完了」を空母リンカーンの艦上で宣言してから2か月後の2003年7月のことである。
○このシリア人の予言はいみじくも的中してしまった。それでは、アメリカ人はアイロニーの感覚を学習したかと言うと、これはちょっと怪しい。でも、こんな漫画を見ると、少しは学んだようでもある。いずれにせよ、アメリカは他国に介入しにくくなった。「リベラル・ホーク」なんて流派はもう、ほとんど死語ですな。そのことがどんな結果をもたらすか。同盟国日本としては、歴史のアイロニーが気になりますね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki