●かんべえの不規則発言



2006年4月





<4月1日>(土)

〇われながらシュールな経験でありましたな。「朝生」出演の後で、「東京外為ショー」に参加するというのは。第二部の「米国政治オタクが語る中間選挙の見通しと為替相場の影響」(どーゆータイトルじゃ)の講師を務めたのですが、司会の蟹瀬誠一さんとの掛け合いは、なかなかに快調であったような気がします。ご覧になった方、感想をお知らせいただければ幸いです。

〇このセミナーは外為どっとコムの主催。1500人くらい来てたんでしょうか。外貨投資をしている人は意外と多いのですね。今年は、株式新聞社の新春講演会のパネリストもやりましたが、個人投資家も株と為替ではずいぶんカルチャーが違うという印象でした。株は情報の勝負だけれども、為替は分析や人生観の勝負です。

〇投資の世界はなんでもそうですが、特に為替は「政治(ココロ)X安全保障(イノチ)X経済(カネ)」という3つのジャンルを同時にチェックしなければならない。「権力なきところ、通貨は一片の紙切れに過ぎない」というやつです。そういう意味では、今年の米国は「政治は大荒れ、経済は凪モード」。そこをどう読むかは、興味の尽きないところだと思います。

〇先週の出張では、「今年のアメリカ政治は軽くヤバイ」という印象でした。下手をすれば、今年も議会は通商摩擦が燃え上がるでしょう。中国はちゃんと警戒モードになっていますが、問題は事態をなめている日本。ちゃんと緊張感を取り戻さなければならないと思いますぞ。


<4月2日>(日)

〇次女Tと2人だけの休日である。お昼に何が食べたいかと聞くと、「カツ丼が食べたい」という。ふーん、と聞き流して、一緒に柏駅前まで歩く。「くし田」がお休みであったので、ここなら大丈夫だろうと思って、高島屋の中の「和幸」に行く。ところが、聞いてビックリ、和幸にはカツ丼は置いてないのだと。ひえー、と驚いて撤退。結局、「そじ坊」に入ってカツ丼定食を取り、カツ丼を娘が、ワシがそばを食う。なんか変。

〇そもそも、休日のお昼にカツ丼が食える場所がないというのはいかなることぞ。よく考えれば、柏駅前近辺であれば、いくらでもほかに候補はあったはずなのに。とりあえず責任者として責めたくなるのは和幸柏店である。とんかつ専門店がカツ丼を置かないというのは、いかがなものであろうか。昔、赤坂の和幸ではよくカツ丼を食ったのだけどなあ。

〇だいたいカツ丼というものは、そんなにグルメな食い物ではない。親子丼の名店は数々あるが、カツ丼の名店は聞いたことがない。赤坂では「日本一の親子丼はやし」があって、こないだらくちんさんを連れて行ったら感動された。しかし、カツ丼の名店に連れて行けといわれたら困り果てるだろう。赤坂には「末吉」などのとんかつの名店があるが、あそこでカツ丼は食べたことがない。生涯最高のカツ丼は何か。これを考え始めると、結構悩ましい。

〇今まで食べた中では、学生時代によく行った一橋学園駅のとんかつ専門店「藤の木」のカツ丼が絶品であった。すぐ近くに若木荘という、いつ行っても空いている麻雀荘があって、ここでカツ丼を頼むと藤の木のカツ丼が来た。そのために、麻雀やるなら若木荘でなければならぬというファンがいたものである。その若木荘は、とっくの昔に閉店してしまった。藤の木は今でも営業しているのだろうか。一度、行ってみなければ。


<4月3日>(月)

〇上海国際問題研究所の呉寄南先生が訪日ということで、岡崎研究所で召集がかかる。昨年秋に中国を訪問したメンバーのうち、ほとんど全員が揃いました。

〇そういえば、反日デモからちょうど1周年である。呉先生によれば、現在の中国に進出している日本企業は3万5000社。雇用は実に920万人に達するという。もちろん外国企業としては最大の雇用者数だそうだ。アメリカ企業はサービス業中心だし、台湾企業は中小企業が多いから、そんな膨大な数にはならない。やっぱり日本の場合は、トヨタ自動車や富士ゼロックスのように、大企業の製造業が進出しているから膨大な数になるのだろう。

〇中国の労働人口がどれくらいであるか、かんべえはよく知らないのだが、ザックリこんな計算ができるのではないか。まず、沿岸部の人口が3億人と仮定する。うち、労働人口が半分として1億5000万人(日本もアメリカも、労働人口は総人口の半分程度である)。失業率が10%として、就業人口が1億3500万人。そのうち900万人が日本企業だと考えたら(日本企業はほとんど内陸部には進出していないので)、沿岸部に占める雇用主のうち、日本企業が6.7%程度を占めるという計算になる。いくら国が大きいとはいえ、これはちょっとした数字であろう。

〇920万人と聞くと、「そんなに中国で雇用するなら、もうちょっと日本国内でやってくれればいいのに」という気もする。しかし、よくよく考えてみると、日本国内の就業者数は6300万人。完全失業者数は先頃からすでに300万人を割っている。ということは、労働力のリザーブは国内にはそんなにないのである。日本の大手製造業は、日中間の水平分業を進めているので、おそらく日中双方で雇用を増やしつつ、国際競争力を高めているということになるのではないか。なんだかんだ言って、日中間の「経熱」が続いているのは結構な話である。

〇年度初め今日の都内は、街じゅうに新入社員があふれている感じでしたな。日銀短観がマイナスに出たということで、一瞬ギクッとしましたが、よくよく読めば強気続行で問題なし。株価は盛大に上げて、とうとうTOPIX1700の大台を大きく越えてきました。


<4月4日>(火)

〇某経済誌から、「格差社会」について取材を受ける。話しているうちに、急に思い出したのだけど、去年の総選挙のとき、民主党は「小泉政権の4年4ヶ月。具体的な改革は何も進みませんでした」と言っていた。それが半年後の今になると、「小泉改革が格差社会を作った」などと言っている。いったい、どっちやねん。あんたら、そのときどきで、自分たちに都合のいいこと言ってるだけと違うんか。

〇とはいえ、その民主党は今や水に落ちた犬状態。あんまりイジメちゃ可哀想である。今週中に新しい党首を選ぶらしい。やっぱり小沢さんなんでしょうか。小沢代表だと、非常に高い確率で、近い将来に民主党は分裂してしまいそうである。その一方で、一度くらいは小沢代表を試してみてもいいんじゃないかとも思う。昔、産経新聞の若手政治家座談会で、世耕氏が「下野を恐れず」と言ったら、長島氏が「分裂を恐れず」と返したことがあった。その意気でいいんじゃないだろうか。少なくとも、菅の再登板で失敗するくらいなら、小沢で失敗する方がマシであろう。

〇もちろん、党が分裂しないに越したことはない。世間には、「この際、民主党が割れて、ついでに自民党も割れて、ガラガラポンで政界再編を」みたいな声がある。あたしゃそんなの不要だと思う。民主党に対し、「政策がバラバラで政党の体をなしていない」という批判をよく聞く。が、そんなことをいったら自民党だって同様である。アメリカもそうだけど、二大政党というのはある程度、党内の政策の幅が広くなるものだ。今の自民党や民主党は、十分にコントロール可能な範囲内だと思う。というより、あんまり「純化」させるべきではないと思う。

〇さて、今さら考えたところで名案が浮かぶわけでもないのだが、今の危機的状況の民主党に何かアドバイスを送るとしたら、「この際、政策のことは考えないようにしたら?」と思う。無理して「前原ビジョン」みたいなものを作ろうとするからコケちゃうわけで、政策オタクは得てして政治ベタである。民主党には、そういう手合いが多過ぎるんじゃないか。

〇民主党の問題点は、政策ではなくてマネジメント能力にある。党執行部の指導力とか、組織としてのディシプリンとか、そういう基本的な部分がなっていない。そういう問題に目をそむけて、政策ばかり言うから混乱が続くのだ。しっかりした手続きで代表を選んで、代表の言うことに従うこと。党の再生はそこから始まると思う。


<4月5日>(水)

〇ワシントンの多田さんから届いたメールをちょいとご紹介。

> 春爛漫で久し振りに日本酒でも飲もうと上院の議会スタッフを誘って、花見酒
> を楽しみました。彼は今では貴重な存在で、日本語を話し、日本を理解して
> きた知日派議会スタッフの最後の生き残り。しかしその彼が別れ際にポツリ
> と「今度、議会スタッフを辞めることにした」と切り出しました。聞けば、
> やはり日本関係では将来性がないし、今でも議会で日本語を使う機会は皆無
> とのこと。昨年春、議会を辞めて米ハイテク企業に移った、もう一人の知日派
> スタッフのことを思って、思わず溜息が出ました。これで議会スタッフに日本
> を実体験から理解できる人が完全にいなくなるからです。しかし、次の言葉を
> 聞いて嬉しくなりました。熱血漢の彼はバージニア州から先ずは州議会選挙に
> 出て、最終的にはバージニア州選出の連邦下院議員として、ワシントンに錦を
> 飾りたいというのです。議会での経験から上院議員になるのはもって生まれた
> 資質がものをいうが、下院議員までならば努力次第でなれる、と本人はやる気
> 満々。将来の知日派下院議員の誕生を見守りたいものです。
>
> もう一人シカゴで頑張っている知日派政治家候補がいます。しかも、こちらは
> 大躍進中。今年秋の中間選挙に向けた、3月21日のシカゴ10地区民主党の
> 予備選で、70%の支持率を集めて地滑り的勝利を収めたダン・シールズ候補
> (Dan Seals)。彼はJETプログラムで2年間、埼玉県の上尾高校でALT(英語の
> 補助教員)をした後に、ワシントンに戻り、難関ジョンズ・ホプキンス大学院
> (SAIS)で国際経済と日本を専攻。商務省やリーバーマン上院議員事務所の
> 見習いを経て、地元シカゴに戻って更にシカゴ大学でMBAを取得しているので、
> 赤丸上昇中です。詳細は以下のキャンペーンサイトをご参照。
>
> http://www.dansealsforcongress.com/about.html
>
> 私が特にシールズ候補に注目するのは、単にJET卒業生が知日派下院議員として
> 米中央政界に戻ってくるというだけでなく、奥さんにも期待しているからです。
> エレーン・チャオ労働長官(Elaine L. Chao)は台湾出身で、アジア系初の
> 女性閣僚ですが、本人の資質もさることながら、マコーネル共和党上院内総務
> (Sen. Mitch McConnell)の奥さんという立場が抜擢人事の重要な理由でも
> ありました。シールズ候補のミヤコ夫人は日本人で、同じくSAIS、シカゴMBA
> の出身。CSISの日本デスクに在籍中、NHKのTV番組に出演したこともあります。
>
ご夫婦でワシントン政治の中心に復帰する日も近いかもしれません。

〇先月の出張の際にまざまざと感じましたが、ワシントンにおける知日派人脈というのは、結構、お寒い状況なのであります。政治に関心のあるアメリカの青年が、自分はいっちょアジアの言語を勉強してやろうと思った場合、今なら非常に高い確率で中国語を選ぶでしょう。90年代前半には、たしかに日本語学習熱があったのですけれども、今では日本専門家は「食えない、つまらない、将来性もない」という三拍子です。

〇思えば日本は、今やアメリカ経済の強敵でもなければ、世界経済を破綻させかねない不良債権の震源地でもなくなりました。だからもうアメリカから見れば心配する必要がない。それは結構なことなのですが、「日本研究も不要」になってしまった。逆にいえば、中国研究は今後、非常に重要なわけです。中国語を学んでおけば損はなく、後で民間に出た場合もつぶしが利く。さらにいえば、中国はロビイングに気前良くカネを使いますから、ぶっちゃけ役得も多いわけです。こんな状況において、新たに親日家や知日派を育てていこうと思ったら、これは並大抵の苦労ではありません。

〇国際社会の中で、日本は明らかにマイノリティです。ほっとけば無視されますし、五輪のルールだって先方の都合がいいように変えられちゃいます。そこで、「日本も広報外交の充実を」などと高邁な議論が出てくるのですが、われらが外務省が突然、有能になったり、日本人の下手な英語が急に上手くなるはずもないのであります。そんな中で、日本のステータスを確実に上げる手段として、「日本語ができるアメリカ人政治家を大事にする」というのは、非常に有効なのではないかと思います。

〇そんな中で、下院議員を目指している知日派がいるというのはありがたい話です。これが不思議と民主党系なのですね。まあ、政治家に限らず、日本に関心を持ってくれる人たちを、なるべく大事にしたいものだと思います。


<4月6日>(木)

〇本日で小泉政権が歴代3位の長期政権になりました。パチパチパチ。

〇ある政治ジャーナリストが、「この日を過ぎて中曽根政権を抜いたら、小泉はいつ辞めてもおかしくない」てなことを言ってました。それって典型的な、玄人の読み過ぎというやつではないかと思います。そもそも小泉さんは、中曽根さんが偉いとは思っていない。それに小泉さんは、「歴代何位」みたいなことに感動しないタイプだと思うのです。間違っても、「大勲位」を受けて喜ぶような人ではないでしょう。つまり伝統やら歴史的な価値には不感症で、そういう意味では小泉さんは「保守政治家」ではないのでしょう。

〇さて、戦後の総理のうち、任期満了で退陣したのは佐藤栄作と中曽根康弘しかおりません。あとは皆さん、選挙で討ち死にしたり、突然の辞意表明だったり、たまに内閣不信任あり、在任中の逝去あり、など皆さん無念を残して官邸を去っていったわけであります。そうなると、小泉さんの9月の退陣は、まことに値打ちのあるイベントということになります。

〇1987年の中曽根退陣を思い出してみましょう。あのとき、最後の半年で中曽根内閣の支持率は上昇しました。「惜しまれつつ去る」という非常にめずらしい状況が実現したのです。後を争うはずの竹下、安倍、宮沢の3氏は、結局、中曽根さんの「指名」を待つという結果になりました。これでは次期政権が低い支持率になるのも当然というもので、竹下政権は低空飛行で発足することとなりました。しかも政権発足の翌日はブラックマンデー。なんとまあツキのない人かと思ったら、案の定、リクルート事件で沈没しちゃったのですね。

〇同じことが起きるとしたら、今でも5割台の小泉政権支持率はさらに上乗せがあるかもしれない。となると、次の政権支持率が低くなることが予想されます。つまり、森政権(低)→小泉政権(高)の逆パターンですね。今は皆さん、何となく「安倍政権なら5割は固い」と思っているでしょうけれども、意外と分かりませんぞ。他方、「福田政権で支持率2割」というのも、妙にリアリティがあったりして。


<4月7日>(金)

〇今日は久々に、内外情勢調査会の講師で栃木県北支部へ。新幹線の那須塩原駅で降りるのは初めてである。出掛けに慌てたら、上野駅で間違えて1時間早い新幹線に乗ってしまった。まあ、遅れるのと違って、仕事に迷惑は及ばない。

〇那須塩原駅に降り立つと、見渡す限り、おー、何もない空間が広がっている。そうかそうか、ここって首都機能移転の候補地か。聞けば、この辺は自然災害が極度に少ないとのこと。台風の通り道ではないし、地震も滅多にない。それでもって温泉が出る。だから御用邸があるわけか。新幹線もあるし高速道路も通っている。ははあ、関東平野にもこういう場所が残っているのですね。

〇さすがにこの辺は涼しい。桜はまだこれからである。1週間後には見頃になっているだろう。栃木県北部は、日光のような大型観光地はないのだけれども、細かな観光資源が多い。道路もそんなに混まないので、最近は都心からの日帰りドライブ客が多いのだそうだ。

〇せっかく温泉もあるのだから、「できれば泊まっていってほしい」というのが地元の願いである。「そりゃあ、メシで釣るしかないでしょう。何か名産品はないんですか?」と聞くと、まぼろしの大田原牛というものがあって、マスコミでもよく取り上げられているとのこと。「でもね、ちょっと高過ぎる」。都内にも麻布十番に「大田原牛超」という店があって、そこのメニューをみるとビックリ仰天。200グラム10万円ですぜ。それじゃあ、文字通り一切れ1万円ですな。名物は、もうちょっと手の届く範囲であってほしいものであります。

〇この辺は、衆議院議員の渡辺よしみ先生の地元である。さすがに知らない人は居ない(当たり前である)。それどころか、ちゃんと秘書の方が聞きにきていた。恐れ入りましてございます。7月の恒例のセミナーでは、またよろしくお願いいたしまする。


<4月8〜9日>(土〜日)

〇ささやかな買い物です。それはUSBフラッシュメモリー。実はかんべえ、今日までずっと「フロッピー」を使っていたのです。別に麻生さんファンというのとは関係ないですよ。理由は簡単で、会社で使っているパソコンがとっても古くて、端子がついていなかったから。このたび、やっと新しい機種を入れたので、USBメモリーが使えるようになったのである。どうだ、すごいだろう。

〇昨年秋、中国に行ったときも、会議中、ほぼ全員が小さなメモリーを使っているのを見て、「ヤバイ」と思ったのです。そこで会場に人がいなくなったのを見計らって、すばやく自分のフロッピーを持ち込んで、自分の発表資料をインストールしたのであります。ああ、なんと涙ぐましい。だって日本から来たゲストがフロッピーでは、カッコつかないじゃないですか。

〇こういうときにいつものことですが、柏のビッグカメラに行って、この人にメモリーの売り場まで連れて行ってもらいました。おお、なんと種類の豊富なことよ。あひるちゃんがついているのや、寿司ネタになっているのまで。寿司は安いネタが128メガで、1Gを超えるのは高いネタになる。ああ何と遊び心の豊かなことよ。アホみたいですけど。

〇かんべえ、もともとが不精者なので、気がつけばクルマから部屋の照明まで、年代モノの品に囲まれて暮らしている。新年度を迎えたことだし、もうちょっと買い物してもいいかもしれない。と、思いたって、後から高島屋でワイシャツとネクタイを衝動買いする。こちらも確かにヨレヨレのものが増えているもので。


<4月10日>(月)

〇先週報道されたニュースの中で、「ユダの福音書」が確認されたという話があった。本件がキリスト教の歴史に与えるインパクトについては、所詮は縁なき衆生のわれわれには不案内であるけれども、仮に明智光秀のいまわの際の心境を記した文書が見つかったとしたら、日本史ファンが熱狂するであろうことを考えても、そのマグニチュードは容易に想像できるというものである。

〇かんべえはその昔、ロックオペラの「ジーザス・クライスト・スーパースター」に心酔して、新約聖書を読み込んで、あれこれ勝手な想像をしていた時期がある。当時も思ったことは、「イスカリオテのユダの裏切り」にはきっと裏があるだろうということだ。なんとなれば、イエス・キリストに従った十二使徒には、他にあんまり有能な人物がいない。なにしろ漁師だとか、その辺の人間に適当に声をかけて作った教団である。おそらく使徒パウロが出なかったならば、後世のキリスト教の繁栄はあり得なかったであろう。

〇十二使徒の中で、リーダー格であったのはペテロであるが、これは孔子の弟子で言えば子路であって、気持ちのいい人物であるけれども、そんなに思慮深い人物ではない。イエスに最も愛された弟子はヨハネであるが、これまた孔子の弟子で言うと顔回であって、どこが偉いのかは周囲から見るとまるで分からない。シモンは危険極まりないはねっかえりであり、トマスは懐疑的な俗人であり、事務処理能力ではマタイがいるとはいえ、これは嫌われ者である。そんな中で、ユダが「ナザレのイエス教団」の会計担当であったということは、彼こそが事実上のナンバーツーであったことを物語っているのではないか。というより、他にお財布を預けて安心できそうな弟子が見当たらないのである。

〇では、ナンバーツーがなぜ教祖様を裏切ったのか。いちばんありそうな話は、ユダが教団のお金を使い込んでしまい、バレるのを恐れたという筋書きである。が、イエスほどの男がそんなことを見逃すとは思われないし、ユダが裏切りの代償にローマ人から銀を得たというのも妙である。ちなみに、「ジーザス・クライスト・スーパースター」では、教団の行く末を心配すればこそ、「イエスは危険になり過ぎた」と悩むユダを描いていて、これはこれで説得力がある。カリスマ的な人物に仕えつつも、今ひとつ信じられないインテリの弱さといったところだろうか。

〇新約聖書の記述では、ナザレのイエスは奇跡を起こす人という評価を得ながらも、最後の1週間では急速に風向きが変わり、ユダヤ人の失望を招いたことになっている。なぜそうなったかについては、詳しい説明がない。とにかく、「この時期にエルサレムに行くのは危険です」という声を振り切って、イエスは弟子を引き連れてエルサレムに向かい、なおかつ神殿で狼藉を働いたりするわけで、ほとんど自暴自棄である。どうも死に場所を求めていたように見える。

〇そこで師弟の出来レースがあったのだと考えると、これはなかなかに魅力的なストーリーが出来上がる。イエスは孤独な存在だったが、ユダとの間にだけは、余人には計り知れない心のつながりがあった。いよいよという瞬間になって、あうんの呼吸で密命を与える。ユダは汚れ役に甘んじて、後世の汚名を着る。真実は歴史に残らない。ただ、何かしら奇妙な痕跡が残る。

〇本当のところは、もちろん謎であるし、新史料が出たからといって、従来の定説が覆ることもないのであろう。それでも、当時の人間の身になって、あれこれ考えてみる作業は楽しい。


<4月11日>(火)

〇会社を休んで、千葉7区補欠選挙における「さいとう健候補」の出陣式に行ってきました。いや、別に行ってどうなるものでもないんですが、なんだか心配なもので。

〇選挙事務所が置かれているのは、東武野田線江戸川台駅で、かんべえの自宅からDoor to Doorで30分の場所である。「夢館」というラーメン屋があるちょっと手前。ちなみに、かんべえ一家は、以前はよく「夢館」に行っていた。煮干だしの深みと、煮卵のうまさに定評あり。柏市に支店が出来てからは、江戸川台の本店とはご無沙汰である。で、選挙事務所は以前、スーパーマーケットだった建物2階分を丸々使っており、今日はそれが人で一杯になるという盛況さでした。

〇武部幹事長、深谷隆司衆議院議員などの応援演説があって、公明党の冬柴幹事長も来ていて、なんとも豪勢な出陣式。でも「残念ながら出遅れている」(武部幹事長)。補欠選挙では自民党は5連勝だけれど、それは投票率が低かったから。今回は「小沢新代表」効果で、全国で多だひとつの補欠選挙に注目が集まっている。投票率が上がれば、そこは「千葉都民」が多い常磐線沿線なので、どんな風が吹くか分からない。考えてみれば、かんべえ在住の千葉8区も似たような構造になっていて、自民党と民主党の候補者が代わる代わる当選している。

〇ということで、見ているうちに、だんだん心配になってきた。さいとう健さんとは、ワシントン時代からなので、もう15年の付き合いである。こころから尊敬できる同世代人であり、当然、圧勝してほしいのだけど、そこは選挙だから何が起きるか分からない。しかも補欠選挙には、重複立候補の保険がない。文字通り、勝つか負けるか。国家公務員の身分保障も捨ててしまって、大丈夫かいな。本人と握手して、奥様と立ち話したら、ああ、なんて大変なことを始めちゃったんだろうと思ってしまいました。

〇せっかくご近所とはいえ、あんまり選挙を手伝う術もないので、まあ、この程度のことをしておこう。さいとうさんの本をご紹介。「転落の歴史に何を見るか」(ちくま新書)。ほんのさわりを読むだけでも、著者の人となりがわかるはずです。味のある、いい文章です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480059377/qid%3D1144760719/250-5350590-3032264 

〇それから自民党のHPには、「さいとう健物語」が掲載されている。これはちょっと驚いたな。どうやら、心配しているのはワシだけじゃないらしい。なんだか、お祈りモードになってしまいました。決戦は23日。


<4月12日>(水)

〇役所でも会社でもプロ野球でも、およそいろんな組織において、「花のXX組」というものがある。いわゆる「当たり年」というやつで、未来の社長候補だとかチームをしょって立つエースとかは、不思議と「同期の桜」になることが多い。

〇それを世界の指導者に当てはめると「花の2001年組」があるように思う。2001年に登場した政治家は、それまでの伝統を覆すような強烈な指導力を持った、キャラの立ったタイプが目立つ。その2001年組に、最近は地殻変動が起きている。以下に若干の例を示す。

タクシン・シナワット(タイ首相):2001年1月の総選挙で勝利し、数々の経済改革を推進。タイではめずらしいトップダウン型の政策運営で知られる。景気回復を成し遂げるも、政治腐敗問題により政権は迷走。2006年2月、首相批判の高まりを受けて下院を解散。4月、主要野党ボイコットのまま下院総選挙が行われ、与党がほぼ全議席を獲得するも、国王の「教育的指導」(?)によって下野を宣言。

シルビオ・ベルルスコーニ(イタリア首相):2001年5月の総選挙において中道右派が勝利し、ベルルスコーニ内閣が発足。短命政権が多いイタリアにおいては、異例の戦後最長内閣。2006年2月11日に両院が解散され、4月9日及び10日に総選挙が行われたところ、僅差で野党連合が勝利し、票の数えなおしを要求するなど見苦しいところを見せているが、どうやら命運は尽きた模様。

アリエル・シャロン(イスラエル首相):イスラエルの元軍人で、パレスチナに対する最強硬派の政治家。右派政党リクードを率いて2001年に首相に就任。イスラエルの歴史上初めてパレスチナ国家の独立を明言し、中東和平前進に貢献する。連立からの離脱が相次ぎ、2005年に新党カディマを立ち上げるも、脳梗塞で倒れる。

〇上記はいずれも「男の中の男」タイプで、好き嫌いはあるだろうが、とにかく一時代を画した政治家である。ときに利あらず、いずれも一線を退くことになりそうだが、まあ、やるだけのことはやって、十分な足跡を残したといってよいだろう。なにしろ、5年も首相を続ければ政治家としては十分に長い。

〇となると、「究極の2001年組」であるところの、日米のトップも気にかかる。

ジョージ・W・ブッシュ(アメリカ大統領):2000年選挙を制して、2001年1月に第43代大統領に就任。9/11同時多発テロ事件という国家的危機を乗り越え、アフガン戦線、イラク戦争を指導。2004年にはジョン・ケリー上院議員の挑戦を退けて再選される。しかし、イラク戦争の大義など、いくつもの疑惑から国民の批判が殺到。2006年現在、支持率は3割台となり、「2001年組の受難」のジンクスはしっかり当てはまる。

小泉純一郎(日本国首相):2001年4月の自民党総裁戦を制し、森首相の後を継いで首相に就任。「聖域なき構造改革」「自民党をぶっ壊す」といったスローガンの下、道路公団民営化、不良債権処理、郵政民営化などに尽力。外交では対米協力を重視、日米の蜜月時代を演出する。電撃的な北朝鮮訪問によって拉致被害者を救出。他方、たび重なる靖国神社参拝によって対中関係を悪化させる。2006年4月3日には、中曽根内閣を抜いて、戦後歴代第3位の長期政権に。自民党総裁としての任期が切れる2006年9月を目前に、現在は余裕綽々で「ポスト小泉」をもてあそぶ日々。

〇こうして見ると、われらが小泉さんだけは「魔のジンクス」を逃れていることが分かる。やっぱ、すごいんじゃないだろうか。


<4月13日>(木)

〇FMぐんまからの電話取材で、経済のキーワードについてお話しする、という番組を収録しました。場所が群馬ということで、取り上げたのが「高崎ティファニー」現象です。

〇これは昨年暮れぐらいから、エコノミストの間もでちょっとした評判になった話です。高崎市の高島屋が、景気付けにティファニーを入れてみたところ、すごい集客になって、クリスマス時には1日2000人が集まった。あまりにも売上が伸びたために、ニューヨークの本店でも「タカサキってどんなところだ?」と視察に来るほどの成功を収めたとか。「かかあ天下の上州では、ティファニーが大人気」などと雑誌でも記事になったので、ご存知の方も多いかもしれません。

〇ティファニーの店舗は、銀座本店を筆頭に、都内で10箇所、神奈川県に3箇所、千葉県に3箇所、埼玉県はゼロです。(柏高島屋にも入っていますが、客は非常に少ないです)。そして北関東では宇都宮に1軒のみ。これではブランド品に目がない群馬県内の消費者は、新幹線に乗って都内に出かけてしまいます。きっと、今まではそうだったのでしょう。地元の百貨店が、「最高のものを自分たちには売ってくれない」のであれば、地元で買い物する理由などないということになる。ところがティファニーがやってきたとなると、県内の消費者は大いに自慢できる。財布の紐も緩んだでしょうし、たぶん新潟や長野からも客が流れてきたのでしょう。

〇おそらく高崎高島屋としては、導入時には大いに迷ったと思います。これが例えば、「集客を増やすために百円ショップを導入する」といった企画であれば、賛同は得やすいけれども、たぶん失敗したのではないでしょうか。もしも高崎高島屋が、「景気がいいのは都会だけで地方はダメ」とか、「安いものは売れるけれども、高いものは売れない」といった「通説」に縛られていたら、ティファニーの成功はなかったでしょう。

〇群馬県は「有効求人倍率で全国第2位」の県ですけれども、県庁所在地の前橋市なんぞは「シャッター通り」の目立つ街です。「景気がいい、悪い」といった評価も、額面通り受け止めることが難しい時代です。地方都市の活性化という問題も、いろんなやり方を試してみるべきではないでしょうか。当たり前の話ですが、商売は理屈どおりにはいかないし、ときには冒険が必要なのです。


<4月14日>(金)

〇小泉首相について議論をするときに、こんな貴重な資料があります。2001年の自民党総裁選挙に出たときの小泉さんの「公約」です。自民党のホームページの中で、ちゃんと残されていました。

http://www.jimin.jp/jimin/jimin/sousai01/koizumi_ju.html 

〇ここでは「自民党が挑むべき5つの基本方針」が挙げられています。今読み返すと、なかなか面白い。とくに(1)「自民党の改革と新しい政治システム」 で挙げていることは、今となってはほとんどが実施済みです。あるいは(4)「行財政改革」の中で、郵政民営化に関して微妙な物言いをしているのは、当時から反発が強かったからでしょう。そして、「聖域なき構造改革」という文言はまだ入っていませんが、「民間にできることは民間に」はちゃんと入っています。

〇で、ここにご注目いただきたい。5つの項目の中で、明らかに手抜きになっているのが、(3)「21世紀の外交・安全保障」です。 ほかはちゃんと3〜5の項目になっているのに、ここだけが1本きりである。内容は、「日米友好関係を外交・安全保障の基軸としつつ、近隣諸国との友好関係と関係改善を図る」とある。首相になる前、小泉さんの外交に対する方針はこれだけでありました。

〇それから間もなく5年となります。嫌味や皮肉を抜きにして、「こんなんで、よくやったものだなあ」と感心します。小泉外交の原点は、この1行だったのですね。


<4月15日>(土)

本日午後2時50分、次女Tを連れて新松戸駅に降り立ちました。
駅前の交番で、「ダイエーはどっちですか?」などと聞くのも野暮というもの。
あまりにも多い人の流れが会場の方向を示している。

ガードレールをくぐったあたりから、すでに応援演説の声が聞こえてくる。
声を張り上げているのは松戸市長。
ダイエー横の流通経済大学の周辺には膨大な人だかりが。
道路を挟んだ反対側に自民党の街宣車が止まっていて、
人々の目はそこに注がれている。
子連れのかんべえ、その裏側にある駐車場に居場所を定めました。

松戸市長が終わると、いよいよさいとう健候補の登場。
さいとうさん、あまり見かけたことのない緑色のシャツで、
どうやらポスターの色とあわせている様子。
声はややつぶれ気味。でも、ゆっくりとしたペースで語る。
演説はよく通っているけれども、反応は今ひとつ。
やっぱり小泉さん目当てで集まっている人が多いか。

予定の3時はすでに過ぎている。
が、ここで神崎代表が登場。
公明党の旗がいっぱい立っているので、
「ひょっとして公明党の動員が多いのか」と思ったが、
ここでも反響は今ひとつ。
やはり皆さんの目当ては小泉さんらしい。

神崎代表、語り始める。が、長い。
よく見ると、街宣車の壇上ではスタッフが慌しい動き。
どうやら渋滞につかまった小泉さんの到着が遅れているらしい。
神崎代表の演説が、明らかに時間調整になっている。
景気の話を2度繰り返し、15分を過ぎたあたりでさすがに限界。

時間調整に杉村太蔵議員が登場。
「え?ホントか?」との声が広がる。さすが人気者。
タイゾーくん、甲高い声で、
「突然のことなので、何を言ったらいいかわかりません!」
と笑いをとる。
緊張気味のタイゾー君を壇上で励ますさいとう候補。
これじゃどっちが新人か分からない。
タイゾー君が短めに切り上げ、次の議員が話を始めたところで、
「あっ、小泉総理がみえられました!」

たちまち、おおーっという声。
何人くらいいるのか、その場からは見当もつかず。
壇上に上がった小泉首相、一同と会話を交わす。
「私を公認候補に選んでくれたのは、この小泉首相です!」
と、さいとう候補がマイクを渡す。

が、この時点で時刻は3時半近い。
次の会場である南流山は3時50分スタートの予定。
マイクを握った小泉首相、
「早く次の会場に行った方がいい」とさいとう候補以下に促す。
これ重要。
南流山と野田、今日は3ステージこなさなければならないのである。

移動を促した小泉首相、マイクを握って独演会始まる。
「あと5ヶ月で辞めてしまう私のために、こんなに多くの人が集まってくれて
感動しています!」
たしかに動員力は失われていない。

「皆さん、自分の選挙区のために働いてくれる議員は1人しか居ません。
この選挙、勝つか負けるか、比例はありません」
「さいとう健さんは、全国どこの選挙区に行っても立派な仕事ができる人」
と、まずは候補者アピールを全開。

ややあって民主党批判を展開。
「小泉が辞めないとダメだと言っていた人たちが、勝手に辞めてしまう。
5年間で5人も」
この辺の反響は今ひとつかな。
上空をヘリコプターが舞っている。とてもやかましい。

演説が終わると同時にクルマに乗り込んで次の会場に向かう小泉首相。
さて、ここでとっても恥ずかしいパフォーマンスが始まる。
「それでは松戸市長から、さいとう健コールをお願いします!」
ここで大きなグーとチョキの張りぼてが登場。
おお、これが武部幹事長がみずから発案したという
「さいとう健コール」の小道具か。

「さいとう健コール、行きます。
最初はグー。(グーの張りぼて登場)
さいとう健!(チョキの張りぼて登場)
さいとう健、さいとう健!」(以下延々と繰り返す)

本人は大真面目だけど、ちょっと寒い。
周囲でもほとんど唱和する人なし。
でも、次女Tは大喜び。
子供は一発で覚えるよなあ。これ。

ということで、週末の選挙運動を見てまいりました。
以上、取り急ぎご報告まで。


<4月16日>(日)

〇原稿締め切りを3本抱え、町内会の通常総会が延々3時間のロングランとなり(たぶん史上最長)、その上、千葉7区の戦況も気になってしょうがないという困った週末であります。

〇そういうときに気になるのが、おいおい、名人戦を毎日新聞から朝日新聞に移すのか?という話である。将棋連盟のサイトにそう書いてあるのだから、これはほぼ本決まりなんでしょうね。読売新聞の報道によれば、4月12日の定例棋士会でも報告があったそうだ。

同連盟理事会は先月、「経営の苦しい連盟としてはより発行部数の多い朝日に収入の比重を移したい」などの理由で8人の理事全員一致で朝日への移管を決定、毎日側に次期の第65期限りで契約更新をしないと伝えた。

西村一義専務理事によると「読売新聞社主催の竜王戦を最高棋戦とする方針に変わりない」という。

 棋士からは「長年お世話になっている毎日新聞社への配慮が足りない」などの慎重論が根強かったが、強硬な反対意見はなかったという。理事会は5月にもう一度棋士会を開いて事情を説明し、同26日に開かれる棋士全員が投票権を持つ棋士総会で、多数決により正式に決定する方針。

〇では、そういう事情になった理由はといえば、案の定、将棋連盟のお財布が原因である。囲碁が財団法人であるのに比べ、将棋は社団法人なのでその分、財政的な基盤が弱い。一説によれば、毎年1億円の赤字が出るが、内部留保は3億円であるという。軽くヤバイではないか。連盟としては、どうやって収入を増やすかで悩まなければならない。このへんの胸算用については、東京新聞の報道が詳しい。ふーん、棋戦の契約料ってこんなもんなのか、とか、棋士は個人事業主だけど厚生年金なのか、など、内部事情がだんだん見えてくる。

〇でもねー、プロ野球と同じで、将棋も夢を売る商売なんだから、その辺は上手にやって頂戴な、あんまり舞台裏を見せないでよ、という気もする。所詮はプロ棋士=経営のアマチュアがやってることだから、その辺は非常に心許ない。せめて文部科学省の天下りの専務理事でも居れば、もうちょっと何とかなるのかもしれないけれど。ヨネさんで大丈夫か。

〇世間ではあまり知られていないけれども、今国会では公益法人の改革案というのもスケジュールに入っていて、財団法人や社団法人はこれからどうなるのか、てなことで戦々恐々としている。そんなことをするくらいなら、宗教法人と医療福祉法人をやれよ、と思うのだが、そっちはアンタッチャブルであるらしい。ということで、日本棋院や将棋連盟もこれから俎上に上がるはずである。こんな風に、世の中はどんどん世知辛くなっていく。ホント、大丈夫か。

〇ということで、5月26日の棋士総会は大荒れになるでしょうね。で、ワシは今日の町内会の総会で、本当に防犯部長を辞めさせてもらったのかどうか。温厚なかんべえさんが、町会長批判を延々とやったので、たぶん大丈夫だとは思うのだけど。


<4月17日>(月)

●いざなぎ景気「軽く抜く」与謝野経済財政相が発言(朝日新聞)

 与謝野経済財政相は16日、景気回復の状況について戦後最長だった「いざなぎ景気」(4年9カ月)と比較し、「軽く抜くと思う。企業経営者のマインドが非常に落ち着いている。一般国民の消費がゆるやかながら伸びてきている」と述べた。02年2月に始まった景気拡大局面が、いざなぎ景気を超える今年11月以降も長続きするとの認識を示したものだ。テレビ朝日の番組で語った。


〇そーなのである。今の景気が2002年初頭から始まったと考えると、もう4年目以上も回復が続いていることになり、さすがに息切れが心配になる。とはいえ、先週14日に発表された月例経済報告を読むと、今の景気は相当に若い感じである。あと1年やそこらは、失速しそうな気がしない。おそらく、こういう風に考えればいいのだろう。

●2002年第1四半期〜2004年第2四半期 輸出主導による景気回復 (2年半)

●2004年第3四半期〜2004年第4四半期 在庫調整による景気後退 (約半年)

●2005年第1四半期〜???       内需主導による景気回復 (3年程度?)

〇つまり、間に約半年の調整期を挟んだお陰で、景気が長持ちしている。前半の回復は、アジア向け輸出とデジタル家電が牽引役だった。後半の回復は、企業収益の改善と設備投資が主役であり、最近になって個人消費も動意づいている。日本経済としては、久々の内需主導型回復なので、2008年初頭くらいまで持続するかもしれない。そこまで続けば、さすがに回復は全国に行きわたるので、やっぱり格差社会の話は消えちゃうんじゃないだろうか。

〇先日、ストラテジストのSさんが言っていた。「今、大手町でうつむき加減に歩いているのは、国債の担当者だけです。あとの人はみんな胸を張って歩いています」−−確かに国債が銀行の決算を支えた時期もあったんですけど、今はすっかり様変わりしたのですね。でも考えてみれば、今の景気に対する最大のリスクは長期金利。やっぱりそこはちゃんと見ておかないといけません。


<4月18日>(火)

〇今日のニュースで「おや?」と感じたものを2点。

●「拉致 日本は見捨てない」 政府が初の広報ポスター(朝日新聞)

 政府は17日、北朝鮮による拉致被害者の早期帰国を呼びかけるポスターを公開した。キャッチフレーズは「拉致 日本は見すてない」。事件現場を連想できるように、海へ続く道に1足の靴が脱ぎ捨てられている構図の写真を使った。20万枚印刷し、全国の公共施設、駅、学校などに配る。

 拉致問題を巡り、政府が広報ポスターを作ったのは初めて。鈴木官房副長官は同日、「絶対に日本に帰ってきていただくという政府の強い決意を示した」と説明。小泉首相は「日本の主張が端的に表れている」と感想をもらしたという。


■集団的自衛権の政府解釈 安倍氏、検証に意欲(産経新聞)

 安倍晋三官房長官は十七日の衆院イラク復興支援特別委員会で、集団的自衛権に関する政府解釈について「憲法の制約の中で何が可能か、時代が変わっていくなかで、常に検証し研究していくことが大切だし、そうしていくべきだ」と述べた。「国際法上、権利は有しているが憲法上、行使できない」とされる現行解釈について再検討の必要があるとの認識を示したものだ。

 小泉純一郎首相も首相就任時の記者会見で同様の見解を示しており、「ポスト小泉」最有力候補とされる安倍氏の発言は小泉首相が積み残した課題に意欲を示した形だ。

 民主党の長島昭久氏の質問に答えたもので、安倍氏は現行の政府解釈に変わりがないとの立場を強調したが、こうした解釈が「世界でも極めて珍しい立場」とも指摘。「国際社会で他の(国から)派遣された軍隊と行動していくときに、問題が起こってはならないし、自衛隊員が窮することになってはならない」として、現行解釈の検証、研究が必要との認識を示した。

 安倍氏は自民党幹事長を務めていた平成十六年の衆院予算委の質問で、「(集団的自衛権を)行使し得ることを研究し得る可能性はあるのではないか」と主張していた。


〇どちらのニュースも、日本政府の施策に安倍官房長官の主張が色濃く反映され始めていることを感じさせます。今の内閣においては、官房長官の権限というのは非常に強くて、本人がその気になればかなりのことができるのですね。

〇意外に思われるかもしれませんが、官房長官が直接、次期首相になった例は過去に1度もありません。かつての官房長官は、民間企業でいう秘書室長のような役回りだったので、社長が退陣するときには幕引き係を務め、社長とともに表舞台を去るというのが美学でありました。しかし2001年に行なわれた省庁再編と内閣機能の強化以降、官房長官は実質副首相、民間企業でいえば企画業務担当副社長みたいな存在になっている。内閣における幾多の会議を主催し、「官邸外交」の補佐役となり、複数の省庁にまたがる案件を調整し、なおかつ1日2回の記者会見を務めてメディアとも接触する。文字通りの激務であり、「官邸の主」になるための格好の修行の場なのですね。

〇現に「ポスト小泉」の本命と対抗は、安倍官房長官と福田元官房長官であり、このお二人は「普通の閣僚経験がない」ことまで似ています。従来の尺度で測れば、それは経歴における「傷」ということになるわけですが、21世紀の永田町のルールにおいては「とにかく官房長官をやったかどうか」が、首相へのパスとして重要だということになるのかもしれません。

〇もうひとつ、過去に「官房長官と幹事長の両方を経験した人」は、佐藤栄作、竹下登、小渕恵三など、高い確率で首相になっています。3人とも堂々の本格政権であったという点も共通しています(追記:大平正芳もそうですね)。他方、野中広務、梶山静六のお二人は、チャンスはあったけれども惜しいところで身を引いている(追記:ほかに二階堂進、田中六助、安倍晋太郎、加藤紘一なども例があります)。きっと不完全燃焼であっただろうなと感じさせるものがある。若くして両方を経験済みの安倍晋三さんは、いったいどっちのコースをたどるのでしょうか。


<4月19日>(水)

〇今日はお疲れなのでネタの紹介にとどめましょう。こういうことって、本当にあるものなんですね。おーこわ。

http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/585283.html 


<4月20日>(木)

〇ご近所の補欠選挙が気になって、米中首脳会談やら原油高やらユーロ高やらの天下の諸情勢には気が回りません。だもんで今日は会社を休んで、選挙のボランティアに行ってきました。似たような人が多いらしくて、江戸川台の事務所にはどんどん人が集まってくる。TBSが候補者に密着取材していたりして、雨の中を結構な熱気。投票日まではあと3日あるのに、候補者も含めて皆さん大丈夫でしょうか。

〇千葉7区の選挙区内は、そこらじゅうに国会議員がいる感じです。日本には300の小選挙区があるというのに、補欠選挙があるのはここ1個所だけなのですから。真面目な話、「83会」の人たちがビラ配りをしていたりします。大物議員が日替わりで登場し、演説をしては帰っていく。そうなると変な話、宿泊場所に困るのです。選挙区は流山市、野田市、それに松戸市の一部。この辺はホテルがあまりない。そこで「柏市内のホテルが満室になっている」のだとか。これではもう「選挙特需」ですね。

〇選挙のために、ずっと前から現地に入っている副会長と一緒にランチしました。(あまりに忙しくてブログの更新がまったくできないそうですが、そのうち一連の顛末をまとめてくれるでしょう。楽しみにしております)。しばらくぶりに訪れた「夢館本店」は、店員が少なくてお客をさばくのに苦労している。ラーメンはあいかわらず美味いけど、これじゃあ幹事長を連れていくわけにはいかんでしょう。街全体が「選挙特需」に戸惑っているような様子である。

副会長いわく。「これだけ世の中が変わったのに、選挙のやり方は30年前とまったく変わらない」。そうなんです。1日だけのボランティアが出きる仕事といったら、人海戦術の電話作戦しかないのです。かんべえも朝から夕方までに計286本の電話をかけてきました。ちなみにそのうち、留守宅が94軒、留守電が51軒でした。ざっくり半分のお宅はご不在なわけです。ま、当然でしょう。

〇それにしてもいろんな反応があって面白い。「もう不在者投票を済ませました」「応援してますよ、頑張ってください」「さっきも電話をもらいましたが」「考えさせてもらいます」「ウチの息子も同じ名前です」・・・・・1日やると、なんとなく感触が掴めるもので、「今日時点で両候補が横一線に並んでいるな」という感じですね。事前に予想していたよりも、少しだけ良いと思いました。

〇ということで、一兵卒として戦線に参加したささやかな達成感とともに、家に帰ってビールを飲んでます。まあ、ボランティアは1日だけだけど、選挙ってのはホントに大変だなぁ。明日はちゃんと仕事に戻ります。


<4月21日>(金)

〇今頃になって気づいたのですが、「お笑い自民食堂」の2006年バージョンができていたのですね。

http://www.nasu-net.or.jp/~yoshimi/2006/0604shokudou.html 


●本命:下関トラフグ料理

●対抗:群馬コンニャク御膳

●大穴:(核)爆弾ハンバーグ

●大穴:京風手打ち蕎麦ワイン風味

●番外(作者):とちぎ和牛のハイパワード・ステーキ

〇横須賀変人カレーの小泉シェフの後継ぎは誰か。この先も当分、楽しめますね。


<4月22〜23日>(土〜日)

〇千葉7区補欠選挙。昼間に流山市をクルマで通ったら、「安倍官房長官来たる」「菅直人氏来たる」などのステ看板があちこちに残っている。ツワモノどもが夢の後、といったところか。思えばこの数週間で、千葉7区にはいろんな人が現れた。小泉首相最後の応援演説あり、自転車をこぐ小沢さんあり、ハマコーさんの土下座あり。天気予報は雨になっているが、降りそうで降らないという選挙日よりである。この天気はどちらの候補を利するのか。「勝負がつくのは11時頃の見込み」と聞いて、かんべえは午後9時半にさいとう健事務所に潜り込みました。

〇かんべえがいかに選挙オタクといっても、こんな風に選挙事務所で開票を待つなんてのは初めてである。黒子役の副会長に聞いたら、「ちょっと雰囲気悪いです」とのこと。金曜日には「さいとう一歩リード」の報が流れたが、土曜日になってまた民主党側が盛り返したりして、まったく優劣不明。とにかくミクロの戦いであるらしい。PCを持ち込んでこのページを開く。果たして投票率は、補欠選挙としてはかなり高いほうの49.63%であった。思わず「ほぅーっ」という声が漏れる。

〇テレビカメラが遠慮なくこっちに向けられている。かんべえの2列前に、深谷隆司先生がどっかと座ってしまったものだから、目立ってしまってどこかの局で映ってしまったかもしれない。まあ、これも選挙にはつきものの風景というもので、問題はその後が万歳三唱になるのか、それとも敗戦の弁となるのか。NHKが開票速報を流すたびに「おおーっ」となるのは、こういうときにありがちな風景である。

〇こちらは長期戦のつもりで構えていたのだけれど、10時40分頃にNHKが「太田和美候補が当確」の報を流す。選対関係者とマスコミが動き出す。「まだか」の声に促されるようにして斎藤候補が登場。淡々と敗戦の弁が始まる。関係者に感謝する、やるべきことはやった、これから冷静に結果を分析する、といった内容。マイクの把を右手に持ち、空いている左手が神経質に揺れ動いているのを見て、ああ、これだけの人でも、こんな状況では平常心ではいられないのだな、と思ったら、とっても痛かった。

〇もしも世の中の義理人情を数値化して、バランスシートを書くことができるとしたら、おそらく斎藤さんは現時点で日本一の借金王であろう。今回の「日本でただ一箇所の補欠選挙」には、あまりにも多くの人が参加し、あまりにも多くの資源が投入された。勝てば良かったね、これからよろしくねで済むところが、巨大な負債だけが残ってしまった。大勢集まった人たちが、引き潮のように少しずつ去っていく中で、誰かがぽつんと言っているのが聞こえた。「候補者のせいじゃ、ないんだけどなぁ」。

〇12時を過ぎた頃になって、太田候補8万7046票、斎藤候補8万6091票という結果が伝わる。これだけの惜敗率なのに、補欠選挙だから救済はないのである。仮に半年前の選挙で、斎藤さんがどこかの選挙区で立っていたら、ほとんど話題になることもなく当選していただろうに。やっぱり「さいとう健は、出る時と場所を間違えた」のだろうか。人物本位ということであれば、少なくとも「83会」で彼を上回る人物はそれほど居ないと思うのだけれど。天道是か非か。

〇どうやら感情移入し過ぎたようです。この選挙についてこれ以上語るのは止めにしましょう。明日はどうなるのでしょうね。


<4月24日>(月)

〇会社に居ると、「斎藤さんは残念でしたねえ」という電話やメールが多い一日である。こちらも昨夜のショックから立ち直っていないので、ついつい愚痴が長くなる。

〇ワシントン時代からの共通の友人である大谷信盛(民主党の前衆議院議員)さんが電話をくれて、「やっぱりジャンケンがまずかったですよ。斎藤さんのイメージじゃないもの」「投票率があれだけ高かったのに、結果は紙一重なんだから自民党はさすがです」などと言っていたのに妙に感心しました。地盤、看板ナシの落下傘候補、地元密着で1996年以来、大阪9区で2勝2敗のベテランが言うと説得力がある。立場上、難しいかもしれないけど、これからも友人として助言してあげてください。

〇お馴染みさくらさんが、最新のエントリーで敗戦をきちんとまとめています。今夜、どこかで反省会をやっているはずの斎藤さんが目の前に居るとして、かんべえにはこんな見事な助言をする自信はありません。でも、きっとこれに近いことを話すでしょう。「すべてのことに意味がある」というのは、その通りだと思います。願わくば得意のときも失意のときも、こんな風に感謝の気持ちを持ち続けていたいものです。

〇「千葉7区補選」の結果をどう読み解くかに関しては、伊藤師匠がさすがの分析をしていると思いました。かんべえの場合は感情移入しちゃってますので、千葉7区の特殊要因については30分以上話す材料を持っていますが、こんな客観的な見方はできません。ただ、いろんな意味で、「小泉時代の終わり」を人々が意識し始めた、という点に納得するものがありました。そういえば、今日は小泉総裁誕生から5周年でしたね。

〇今日の株価が下げたことについても、「小泉時代の終わりの始まり」と重ね合わせると理解しやすいのかもしれません。ぐっちーさんが「納得のいかない売り」と評していますが、外国人投資家としては「岩国市や沖縄市の選挙結果も合わせると、日本の先行きに嫌な感じがする」という感覚なんじゃないでしょうか。

〇国家が長期的な危機を脱するとき、得てして政治的な爆発が生じることがあります。第2次大戦に勝った英国民がチャーチルを落選させるとか、国家統一に成功した中国が文化大革命を始めちゃうとか。後から考えると、なぜそんなことになったのかは理解しにくい。でも、景気が長期低迷を脱しつつある今の日本には、そんな危うさがあるんじゃないでしょうか。まあ、大事には至らないと思っていますけど。


<4月25日>(火)

〇潮まさとさんからのお誘いで、久々に桜チャンネルへ。4月から始まった新番組「桜戦略研究所」という番組のゲストである。テーマは、当初は「日本の広報外交」を予定していたんですが、急きょ「千葉7区補選に見る内外情勢」みたいな話に切り替え。潮さんと一緒にひとしきり「斎藤さんは惜しかったねえ」という話をして、そこから小泉政権5周年、格差社会論などに持ち込むという作戦。時間がたっぷりあるので、言い足りない思いをしなくて済む。それにしても、潮さんと一緒だと「右翼版マル激」といった感じだなあ。放映は土曜日の午後7時からです。

〇小泉政権5周年をテーマに、NHKの記者から取材を受ける。「2003年頃の経済危機」を説明しているうちに、つい「NHKの方には実感が薄かったかもしれませんけど」などという余計な茶々を入れたら、「当社は現在が最大の危機ですから」と切り替えされてしまいました。あははは。でも、本当にそうなんだから、頑張ってください。ちなみに、ウチは自動引き落としで受信料を払っておりますぞ。

〇それにしても、「小泉政権発足5周年」関連の取材が多いですね。かんべえは「小泉肯定派」ということになっているようです。確かに否定派の顔ぶれはすぐに思いつくけど、小泉さんを支持する人というのはあんまり居ませんものね。ということで、昨日のTBS「ニュース23」でも、ちょこっと顔を出しております。(と言いつつ、見るのを忘れていたので、どういうコメントが使われたのか知らないんですけど)。

〇ついでながら宣伝しておきますと、今週金曜日に出る「世界週報」に、小泉外交をテーマにした小論を寄稿しております。これはちょっと変わった「小泉外交」評価になってるんじゃないかと思っています。


<4月26日>(水)

〇経済同友会の通常総会へ。今年は設立60周年ということになっている。かんべえが同友会に出向していた頃には、たしか「50周年行事」の仕込みをしていたくらいなので、なんとも遠い昔のことになったものであります。

〇思えば、かんべえが在籍した1993年から95年にかけての同友会は、「日本経済の構造改革」を愚直に唱える集団でありました。その辺の話はここでも紹介しておりますが、わが国における「構造改革論の源流」は、90年代前半の経済団体の発言にあるのだと思います。当時、タイミングよく細川政権が誕生したときには、「これは一気に進むかも」という期待を抱いたりしたものですが、自社さ連立政権が誕生したりして、バックラッシュがあったことはご案内のとおりです。

〇それが現在になってみると、むしろ「構造改革の功罪」という点に焦点が当たっている。カメの歩みであったとはいえ、小泉政権が5年も続くと、さすがのカメも遠い地点まで到達することができた。というわけで、昨今の「構造改革論」は、ナベツネさんとか、「格差社会」論とか、「国家の品格」論に責められたりするわけですが、それはもう「もって瞑すべし」というものでありましょう。

〇本当はさっと切り上げて、近くでやっている経済史研究会に出かけるつもりだったのに、気がつけばやたらとSPが多い。聞けば「間もなく小泉首相来たる」というものだから動けなくなってしまった。考えてみれば、小泉さんの演説を聞くのは今年は3回目である。以下、よく聞こえなかった部分もあるのですが、小泉首相の経済同友会への祝辞を適当に記憶で再現しておきます。


経済同友会の60周年、おめでとうございます。60年といえば、人間で言えば還暦であります。昔は人生50年、60年も生きられればそれで十分と思っていました。だから年金制度も昔は60歳からで、月々5000円くらいのお小遣い程度を差し上げて、60歳過ぎたら後はなるべく早く逝ってくださいと(笑い)。それが今では年金制度も立派なものです。

こんな川柳があります。「還暦に 親が出てくる 高齢化」。最近の若い人は、これのどこが面白いかが分からないんです。還暦ってのはね、子供が親を祝うものなんです(笑い)。60歳を過ぎたらね、後は私たちがやりますから、もう楽にしてくださいってね。ところが最近は皆が長生きするものだから、子供が還暦を迎えても親がまだ生きている(笑い)。

これはね、めでたいことですよ。今は60歳なんて、まだまだ小僧です。そんな風に思わないと、私なんかやってられません(笑い)。9月の任期まで残り5ヶ月でありますが、精一杯やります。同友会の提言にはいつも感謝しています。これからもよろしくお願いします。


〇ということで、経済史研究会は遅刻してしまったのだけど、ここで聞いたゾルゲの話がまたムチャクチャ面白かった。てな話は、また別の機会に。


<4月27〜28日>(木〜金)

〇『銃を持つ民主主義』(小学館)の著者である松尾文夫さんがブログを始められました。早速「どう?見てくれた?」という電話を頂戴し、「ダメです。あれじゃ読みにくくて。段落ごとにちゃんと行間を空けてください」などと注文をつけてしまいました。さすがにご自身でやっているわけではないようなので、そんなこと言われても困っちゃったでしょうけれども。

●松尾文夫 「アメリカウォッチ」 http://homepage.mac.com/f_matsuo/blog/fmblog.html   

〇日々のコメントを読むというよりは、松尾さんのアメリカ分析のライブラリーという性質が強いです。松尾さんは元共同通信のベテラン記者で、ニクソン政権の分析など、特に共和党人脈の研究に定評のある方です。いわゆる「ネオコン」についても、早い時期からコンタクトしていました。本誌愛読者の方には、お役に立つことが多いと思います。

〇以前から気になっていたのですが、共同通信の歴代ワシントン支局長は、この松尾さんを筆頭に、インテリジェンス研究の春名幹男さん(CIAの対日工作を描いた『秘密のファイル』の著者)、保守思想研究の会田弘継さん(フォーサイトに連載中)と、非常に濃い人脈を輩出しているのですよね。この辺の人たちが、本気でアメリカウォッチのブログを始めると、一気に水準が上がると思うのですが。

〇あ、そういえば中岡望さんのブログが最近は音沙汰ないようですぞ。大学で教えるのが忙しいと聞いておりますが、また書いてくださいよ。溜池通信みたいな軟派なサイトばかりに人が集まるようでは困るのです。


<4月29〜30日>(土〜日)

〇NPO法人個人投資家協会さんの株式講座で講師に呼んでもらいました。確かこれで3度目だと思うのだけど、いつも楽しみなのはハセケイこと長谷川慶太郎理事長による冒頭30分間の時局分析。これがムチャクチャ面白いのである。

〇「ワタクシは万年強気であるといわれます。が、いつもそうであるとは限りません」−−目先、6〜7月に調整期があって、下は1万5000円くらいまで押すかもしれない。これは押し目買いのチャンスとなるのだそうだ。「GMの経営は危うい。いずれトヨタの系列になる日が来る」−−それは大いにありうる話ですね。「間もなくバレンツ海からバルト海にかけての天然ガス・パイプライン計画が動き出します」−−ははあ、そりゃ初耳であります。

〇そういえばハセケイ先生、たしか去年は「敢えて過去形で申し上げます。中国経済のバブルは崩壊をいたしました」と言っておられました。そういうオフサイド発言もあるのですが、これはもう一種の知的エンタテイメントの世界であります。ハセケイ節をたっぷりと聞かせた後は、締めにこんな発言が飛び出すのです。「ワタクシはXX株が80円のときに20万株仕込みました」。聴衆からはホーッと声が漏れるわけです。ちなみにXX株は現在、240円くらいであります。

〇問題はこんな校長先生の次に、演題に立たなければならない当方の身の上なのです。なにしろ先生の話と重なっちゃいけないし、ところが先生が何を話すかは事前に見当がつかないので、予習も出来ないのであります。唯一、ラッキーなのは、先生は自分の出番が終わるとサッと帰っちゃうことで、それがなかったらやりにくくてしょうがない。だいたい普通の講演会と違って、これは個人投資家の方々が有料ベースで情報を求めに来ているのですから、聞き手の真剣みが違うのです。

〇連休に海外に行く人もいれば、株の研究をしている人もいる。当方は連日の爆睡状態です。去年の連休はせっせと『1985年』を書いていましたが、今年は大きな宿題がないので、せいぜい寝だめしておこうかなと。









編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2006年5月へ進む

***2006年3月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki