●かんべえの不規則発言



2023年10月






<10月1日>(日)

〇アメリカ議会が土壇場で妥協して「つなぎ予算」が可決され、10月1日の新年度からの政府閉鎖は回避されました。下院が議決した「政府閉鎖を1か月半延長する」法案を上院も可決して、慌ただしくバイデン大統領がサインしました。とりあえず、これで11月17日までは安心です。この間の予算は前年並み+災害救済の160億ドルとなります。

〇下院での議決は335対91で、上院では88対9で可決されています。まあ、ここまで来ると反対している人は確信犯ばかりです。上院で反対に回った9人の議員は、名前をメモしておいた方がよさそうですな。Sens. Marsha Blackburn (R-Tenn.), Mike Braun (R-Ind.), Ted Cruz (R-Texas), Bill Hagerty (R-Tenn.), Mike Lee (R-Utah), Roger Marshall (R-Kan.), Rand Paul (R-Ky.), Eric Schmitt (R-Mo.) and J.D Vance (R-Ohio)と、全員が共和党です。

〇ただし、ウクライナ支援の予算は含まれませんでした。この点は、フリーダムコーカスの議員たちがいちばんこだわっている点なので、敢えてケンカの種を残した形。もっともこの点については、過去の支援額1130億ドルがどんな風に使われたのか、バイデン政権がきちんと説明していないことも一因になっている。ウクライナは汚職が絶えない、という噂もある。ゼレンスキー大統領が、先月になって国防相のクビを切ったりしたのは、つまりはアメリカ議会を睨んでのことである。

〇とはいうものの、戦争支援にかかったおカネは全額キレイに公表いたします、というのも変な話である。それって軍事機密だろう、普通は。何より武器支援のおカネは直接、キーウに流れているわけではなくて、アメリカ国内の防衛産業に支払われて、兵器と弾薬という形で送られているわけでありまして。それは米国内で雇用を生み税収を生み、つまるところ結構毛だらけ猫灰だらけのはずなのである。共和党保守強硬派は、この辺のことをどう考えているのでしょうね。

〇ところでそんなバタバタがある中で、9月29日にダイアン・ファインスタイン上院議員(民主党・カリフォルニア州)が亡くなられました。90歳でした。これで上院の議席数は民主党50対共和党49となります。まあ、ハラハラさせられますね。急いで後任を決めなければなりません。

〇こういう場合、アメリカでは州知事が上院議員代行を決めるのですが、ギャビン・ニューサム州知事としては悩ましいところ。2020年にカリフォルニア州選出上院議員であったカーマラ・ハリスが副大統領に当選したとき、彼は代理として当時の州務長官であったアレックス・パディーラを指名した。同州初のラテン系上院議員、ということで歓迎されたものの、この決定には黒人層から不満が出た。そこで「次は必ず黒人女性を指名します」と広言していた。

〇とはいえ、ニューサム州知事も2028年にはホワイトハウスを目指す人である。かなり前からファインスタイン氏はいつ死ぬかわからない状態であったので、あらかじめ「次に選ぶのはCaretaker(暫定任命)」だと言ってあった。これであれば、次の上院議員は民主党内で予備選挙をやったうえで、2024年11月に選ばれることになる。たぶんアダム・シフ下院議員が当選するのではないのかなあ。トランプ弾劾の時に活躍した人です。

〇こうなると微妙なのは、実際に上院議員を目指していた黒人女性であるバーバラ・リー下院議員である。ここでケアテイカーに選ばれても嬉しくはない。仮にほかの黒人女性がケアテイカーに選ばれたとしても、彼女たちもたかだか1年だけの任期のために、今の仕事を辞めなければならない。いったい誰が引き受けるんだろう? アメリカのアイデンティティ・ポリティクスってつくづく面倒なのである。

〇もっと気になるのは、「政治家の高齢化」という問題である。公職にある人が「自分は死ぬまでやる」というのは、得てして周囲にとっては非常に迷惑なことになる。2024年の米大統領選挙が、ジョー・バイデン(80歳)とドナルド・トランプ(77歳)の間で行われるというのは、果たしていいことなのか。日本では細田博之衆議院議長が体調不良で辞任の意向だそうですが、アメリカの政治家はそんな感じではないのである。いやはや。


<10月2日>(月)

〇昨晩の凱旋門賞は、「好天でロンシャン競馬場の馬場が良ければ、それほど騒がれてない日本馬でもこの程度はやれる」という結果でありましたな。スルーセブンシーズは宝塚記念において、「世界ランキング第一位」のイクイノックスに僅差で迫った馬。もちょっと人気になっても不思議はなかったんじゃないかと思うけれども。

〇スルーセブンシーズは4着だったので、そこから三連複を大量に買っていたワシ的には、「おっ、惜しかった・・・」んだけど、まあ、そうだろう、ドリジャ産駒は強いんだよ、将来、このレースを制する日本馬が出るとしたら、やはりステゴ系で、できればオルフェーヴル産駒であってほしい。ということで、レース後は気分よく寝られましたな。

〇まあね、日本馬は強いのだ。だからと言って、凱旋門賞を制したエースインパクトがジャパンカップに来てくれるかと言えば、今の為替レートでは無理なのである。ああ、1ドルが70円台の円高局面であった2011年秋には、東日本大震災後の風評被害をさておいて、凱旋門賞馬のデインドリームが参戦してくれたのであった。ものの見事にブエナビスタに返り討ちに遭ったけれども。かくも通貨が弱い国は情けない。

〇変な話ではあるのだが、日本経済が相対的に地位が低下していく中にあって、スポーツの世界での日本は割りとイケてる国になっている。サッカーU-22のアジア大会では、昨晩は北朝鮮のラフプレーをしっかりしのぎ切ったし、なおかつ最後までフェアプレーであった。ああいうときに、「やられたらやり返せ」とならないところが、もののふの道である。

〇メジャーリーグでは大谷翔平がホームラン王になった。もっともこれは、「日本人初!」と大騒ぎするのはイケてない。ホームラン王なんて、毎年かならず誰かがなるのである。それがどこの国の人であっても不思議はない。それが2023年はピッチャーであった、というのが驚天動地な出来事なわけであって、これぞ二刀流。日本人がすごいのではない。単に個人・大谷翔平がすごいのである。

〇そういえばラグビーも応援しなきゃねえ。今週末は泣いても笑ってもプールマッチ最終戦の対アルゼンチン戦。大丈夫、行けると思います。ワシの誕生日だし、って関係ないけど。


<10月3日>(火)

〇今朝の千代田線は酷かった。車両点検で遅れに遅れて、しかも綾瀬駅で止まってしまった。トータルで電車に2時間くらい乗っていた感あり。

〇たまたま選択10月号を持っていたので、それこそ隅から隅まで読んでしまった。これはこれで有益な時間となりました。今月は「岸田人事失敗の代償」が面白かったな。まあ、「さもありなん」といった内容でありました。

〇今週はアメリカ政治が激動中。ニューヨークでは、トランプさんの不動産ビジネス裁判が結構な大ごとになりそう。有罪になれば2.5億ドルの罰金に加え、トランプ一族がNYでビジネスができなくなってしまう。あのトランプタワーが人手に渡るかもしれないということだ。4つの刑事裁判よりも、こっちの方が深刻だったりして。

〇ワシントンでは、マッカーシー下院議長の解任動議が提出された。先週末の政府閉鎖をめぐる大逆転劇の後だけに、こうなることは想定の範囲内。果たしてどういう結果になるのか。民主党議員が適度に助け船を出して、最終的にクビは繋がると予想するけど、さあ、どうでしょう。

〇政府閉鎖がとりあえず消えたのは良かったのだが、まだ「確変状態」が続いている感じ。しばらくはボラティリティの高い状態が続きそうです。


(→後記:一夜明けたら、マッカーシーは下院議長を解任されてしまった。民主党のジェフリーズ院内総務が引導を渡した形。うわー、この後どうするんだろう?しばらくはカオスな日々が続きそう)


<10月4日>(水)

〇今日は「投資(10・4)の日」。株が盛大に下げましたねえ。得てしてこういう日は、「凍死の日」になってしまうものです。だいたい10月は株安が起きやすい。1987年の「ブラックマンデー」も、1929年の「暗黒の木曜日」も10月でありました。それに「オクトーバー・サプライズ」っていうじゃないですか。

〇今回の株下げは政治がらみではないですな。単に米金利が上がっているから。10年物の米国債が4.8%で回るのなら、株でリスクを取るよりもそっちの方がいいじゃないですか。今週のThe Economist誌が言っています。


●ワシントンではなく、ウォール街を観よ("Watch Wall Street, not Washington")


〇アメリカの長期金利が上がっているのは、議会共和党の政治家が心配しているような財政が問題なのではない。防衛費などの裁量的予算はせいぜい全体の1/4を占めるにすぎず、それを少しくらい減らしたところで大勢に影響はない。残りの3/4は公的年金や医療費などの義務的支出が占めている。こっちは簡単には減らせない。そして債券市場は、義務的支出の心配をし始めたのである。

〇不肖かんべえの以前からの仮説では、今の長期金利は「オールドノーマル」であって、いわばリーマンショック前の水準に戻っている。国際金融危機後の「長期低迷」は、コロナ下で行われた過激な財政と金融刺激策によって吹き飛んだ。要はショック療法が効いたということだ。それは大いに結構なことながら、米国の政府債務はGDP比で見ると、以前の35%から今は98%にまで上昇している。従って長期金利の上昇は、米国政府にとって3倍の負担を伴うことになる。

〇これから先の財政悪化は、坂道を転げ落ちるような感じになるだろう。もしも来年、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くようだと、2025年に失効する「トランプ減税」の延長を目指して、ますます財政構造を悪化させるのではないか。いやいやトランプさんのことだから、さらなる減税を求めるかもしれない。これは結構、大変なことかもしれませんぞ。

〇不肖かんべえは「ブラックマンデー」が生じた1987年に、株式投資家1年生でした。あらゆる株がストップ安になって、証券会社の電光掲示板が真っ黒になっていた光景は印象に残っています。あのときも長期金利の上昇が株安の引き金を引きました。NTT株の第1回放出でいい目を見て、ビギナーズラックに浮かれていた身にはいい経験であったと思います。

〇もっともあの時は、後から考えれば絶好の買い場だったのですよね。今回はどうなのか。とりあえず「凍死は自己責任で」と申し上げておきましょう。


<10月5日>(木)

〇とっても久しぶりに旧友のAさんから連絡あり。それじゃあランチでも、と合流して、西新橋の「スマチノーゴ」に行ってみたら・・・閉店していた。ががーん。

〇当欄でも何度か紹介してきたウクライナ料理の店である。いったい何があったのよ。ぐぐってみたら、どうやらこういうことであった。


●ウクライナ避難民がスタッフ「スマチノーゴ」が30日に閉店…理由は人手不足 最終日は17時〜22時営業(東京新聞9月30日)


〇どうやらネガティブな理由ではなかったようでホッとしました。ああ、でも惜しい店がまたひとつ消えてしまった。


<10月6日>(金)

〇本日は新潮社の「小林秀雄賞」「新潮ドキュメント賞」の授賞式へ。

〇コロナが明けて、いろんなパーティーが復活する中でも、これほど楽しみなものは少ない。なにしろ小林秀雄賞である。第1回の受賞が橋本治の『三島由紀夫とはなにものだったのか』であって、今年の受賞作が平野啓一郎の『三島由紀夫論』である。2つの三島論はどう違うか。選考委員を代表して、片山杜秀氏が講評を述べるのだが、それがとっても熱くて長くて刺激的なのである。

〇いやもう、最近ずっと使っていなかった脳内のある部分が、ビリビリビリと動き出した感あり。そんなこと言ったって、三島由紀夫論などこのワシが読むはずがないのであるが、もう2冊とも読み終えてしまったような興奮あり。忘れていたけれども、こういう世界があったんだなあ。

〇新潮社のお懐かしい面々とも再会し、最近の出版界の噂話など。ノーベル文学賞は今年は北欧へ行ったということで、うーん、村上春樹さん、来ませんねえ。来たら新潮社としてはビッグウェーブになるのですが。ウェブ・フォーサイトでは、国際情勢ネタがさすがに一時ほど読まれなくなっているようで、これからどうやって盛り上げるか、など。

〇先週金曜日のBSフジさんに引き続き、会場はホテルオークラ東京。オークラのハウスワインの白を、2週連続でしこたま飲んでしまいました。あー、楽しかった。


<10月7日>(土)

〇とっても久しぶりに日台関係研究会へ。最近は渋谷ではなく、市ヶ谷に集まっているのですな。

〇台湾総統選まで残り3か月。一時は三つ巴の戦いで混戦模様だったのだが、ここへ来て頼清徳が頭一つリードして、候友宜と柯文哲の2位3位連合もできそうにないので、立法院選挙の勢力分布などに関心が移っているとのこと。

〇察するに蔡英文総統が任期満了となると、民進党内の派閥の勢力図なんぞもかなり変わるのであろう。頼正徳はまだ副総統を決めておらず、既に「勝った後」のことを考え始めているのかもしれないが、得てしてそういう時は慢心が忍び寄っていることもあるのでご注意召されたい。

〇台湾政治において同一政党の3連勝はこれまでに一度もない。国民党と民進党がキチンと「2期8年ずつ」を繰り返してきた。そのパターンが初めて崩れることになる。そのことは台湾の民主主義にどのような影響をもたらすのか。来年1月13日の投票日に向けて、非常に興味深いところである。


<10月8日>(日)

〇本日は町内会防犯部の飲み会。場所は柏一小通りの「日本海」でである。いまどき昭和の香り漂う大衆酒蔵に、関係者が割り勘で飲みに行くというだけのことなのだが、果てさて、いつ以来であろうや。

〇なにしろ、「日本海」さんに伺うこと自体が4年ぶりくらいである。とりあえずコロナ下では1回も行ってない。メニューも変わっているし、日曜夜が満席になっていて、しかも若い人が多いという点に新鮮な感覚がある。頼んだ焼き物が来ない(→催促しないと、どんどん忘れられるくらい店が忙しい)ことを学習する。いまだに卓上に灰皿が置いてある、という点は以前と変わらない。お値段の方も、さほど上がっておりませんでしたな。

〇この間に町内会の面々は確実に年を取っている。それが体調や病院や認知症の話をネタにして飲んでいるのだから、あんまり意気は上がらない。それでも「今日は1本だけ」と言っていたお銚子が、やがて2本になり3本になり、というところはいつも通りで良かったのではないかと。ただし、全体としての酒量は減りましたなあ。

〇なにしろ柏第一小学校が移転してしまうらしいので、そうなると柏駅の西口一帯も相当に景色が変わることになりそうである。「柏一小通り商店街」もこれからどんなことになっていくのだろうか。出来る範囲で見届けたいものです。

〇今日は天皇賞準決勝で柏レイソルが快勝しました。それはいいのですが、ラグビーW杯のアルゼンチン戦は残念でした。でも、地力で向こうが上の試合でしたな。これで残った8強はフランス、ニュージーランド、アイルランド、南アフリカ、ウェールズ、フィジー、イングランド、アルゼンチン。とりあえずフランス対南ア戦は面白そうですな。


<10月9日>(月)

〇昨日で63歳になりました。FBなどでいろんな方から「おめでとう」のメッセージをたくさんいただいております。どうもありがとうございます。

〇でも、実はこの週末に孫の幼稚園の運動会を見に行ったのが、一番うれしかったのであります。ちっちゃい子はいいねえ。でも、ちょっと疲れたけど。


<10月10日>(火)

〇本日は朝から会合が数珠つなぎ。どれも面白い会合ばかりなので、もうちょっと日程がバラけてくれるとありがたいのだけど、それは贅沢な相談というものである。

〇朝から扱ったネタは、内外金融情勢、為替介入、アメリカ政治、中東情勢、ロシア情勢、岸田首相の解散戦略、日中関係、アジア経済、日本の長期戦略、国内政治からジャニーズ問題まで。これらがうまい具合に発酵してくれると、面白い成果物が出せそうなのであるが、まあ、それはおいおい考えていきましょう。

〇それとは別に、先週末からの中東情勢について。10月7日の安息日にハマスがイスラエルを急襲して、人質までとっている。この先何が起きるのか。ワシのような慢性的な楽観論者でも、さすがに悲観的にならざるを得ない。

〇これまでの中東は、不思議な均衡が保たれてきた。アラブ諸国は、まるでパレスチナ問題など忘れてしまったかのように振舞い、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化も近そうであった。そんな中で、ハマスによる「自棄のやんぱち」のような攻撃が飛び出し、これを迎え撃つのは超保守派のネタニヤフ政権である。蛇蝎のごとき戦いになるとしか思われない。

〇やはりウクライナの戦闘が1年半も続くと、ほかにも戦火が広がってしまうのではないだろうか。1939年9月にナチス・ドイツとスターリン・ソ連が示し合わせてポーランドに侵攻したとき、これが世界大戦になるとは欧州では誰も思ってはいなかった。まだ日独伊三国同盟もなかったし、日本もまさか対米戦争を始めるつもりはなかったのである。

〇それが2年3か月後の1941年12月には、日本軍による真珠湾攻撃が行われて、とうとう第二次世界大戦に突入してしまう。今回の場合、2022年2月24日を出発点とすると、2年3か月後は2024年5月となる。来年春くらいに台湾有事が発生すれば、これはもう第三次世界大戦は確定になってしまう。

〇それは困る。G7などでは、「国際秩序の回復を!」などと言っていても、そもそも国連は機能していないし、中ロがあんなことではそもそも機能するわけがない。そしてグローバルサウスはあらぬ方向を見ている。既存の国際秩序はいったん壊れてしまわないと、次なる再建には進めないのではないか。

〇何よりこんな事態を見ていると、「トランプ政権であれば、こんなことにはならなかったのではないか」(トランプさんはイスラエルともサウジとも関係が良かった)などと、あられもないことを考えてしまいそうなのが怖い。バイデン政権はさぞかし困っているだろう。なにしろ今のアメリカは下院議長が不在という状態で、それが明日の投票で決まるとは思えないくらいなので。

〇そしてこんな日にもかかわらず、日経平均は751円高でありました。国際情勢の震撼ぶりを無視するかのような上昇である。これは投資家のセンスがズレているからか、それとも日本市場が「安全地帯」と見なされているからなのか。うむ、いちおう両方あり得るのかな。


<10月11日>(水)

〇今宵、藤井聡太竜王・名人が王座戦第4局で永瀬王座を破り、とうとう八冠を達成しました。

〇しかるに中身を見ると、9月27日に指された第3局と同様に、永瀬王座にとっては惜しい勝負でありました。またしても秒を読まれているところで疑問手が飛び出した。122手目、藤井竜王・名人が△5五銀と打った時点で、AI評価値は100%対ゼロで永瀬王座優勢。▲4二金と攻めていれば勝ちだったのに、▲5三馬と入った瞬間に評価値は2%対98%に逆転してしまった。

〇これは悔しい負け方である。しかるにこれまでタイトル戦で負けなしの藤井七冠、改め八冠のこれまでの赫々たる戦績を考えれば、もっとも苦しめた勝負だったと言っても過言ではないのではないか。

〇こうなると、今後は「藤井八冠から最初にタイトルを奪うのは誰か」が将棋界の課題となる。その最短距離に居るのは、永瀬拓矢前王座ではないだろうか。なにしろ思い切り悔しい負け方をしているのだから。


<10月12日>(木)

〇え〜、諸般の事情により、上海馬券王先生による秋華賞の予想は本日、アップいたしました。

〇馬券王先生は通常、土曜日の夜に執筆されるのですが、今週末はお出かけされるとのことで、フライング気味で掲載しておきます。今週末のレースを研究する際のご参考になれば幸いです。

〇実は今週は「東洋経済オンライン」の連載の当番も不肖かんべえでありまして、枠順も決まらない状態で秋華賞の予想を含めて、先ほど原稿をお送りしたばかりであります。いや、もちろん後からゲラチェックの際に書き直すのもアリなんですが、普通はそのままとなります。

〇てなことで、予想を書くのは結構大変なんです。てなことで、馬券王先生、旅行に行ってらっしゃいまし。


<10月13日>(金)

〇アメリカ議会の下院議長の行方はどうなっているのだろうか。ワシントンのポール・室山さんが今宵、伝えてくれた内容にドキッとさせられる。


 下院本会議の日程は流動的。共和党の下院議長候補選びが難航して、昨日も下院本会議を開けなかった。

 ステイーブ・スキャリーズ院内総務は共和党議員会議で113票を得て候補に選ばれたものの、下院議長になるために必要な217人以上の共和党議員の支持を得る見込みが立たないため、昨夜になって立候補を取り下げることを発表した。

 彼が降りて、候補として残るのはジム・ジョーダン法務委員長だけだが、彼も217人以上の共和党議員の支持を固めることはできないと見られる。今日また共和党議員総会を開くが、恐らくは別の新しい下院議長候補を擁立しなければならなくなるであろう。

 トム・エマー共和党幹事長(ミネソタ第6選挙区選出)、ケヴィン・ハーン党政策研究委員長(オクラホマ第1選挙区)などの名前が浮上しつつあるが、バイロン・ドナルズ(フロリダ第19選挙区)など全く別の名前が推薦される可能性もある。

 それらがうまくゆかない場合には、ケヴィン・マッカーシー前議長を呼び戻す可能性もある。マッカーシーは実際に217人に最も近く、反逆した8人の議員の半分を説得できれば議長に返り咲くことができる。

 委員会活動は一切なし。


〇もう永田町政治のゴタゴタを大きく超えたという感あり。下院共和党の闇は深い。


<10月14日>(土)

〇今週はこんなことを書いております。


●日本経済がちょっといや〜な感じになってきた


〇エコノミストとしては、いささかズルい書き方をしておるのですが、この連載ではこんな風に書けてしまうのだからありがたい。なにしろ競馬予想もついているくらいなので。

〇中東情勢の悪化、ウクライナとの2つの戦闘地域、米下院議長の空白など、地政学リスクがてんこ盛りになっているのに、「やっと長期金利が下がった!」ということで株が買われる。これってかなり変だと思うのですよ。このきな臭さ。なんとも「いや〜な感じ」としか言いようがないのであります。


<10月15日>(日)

〇第3回の「一帯一路フォーラム」が10月中にあると聞いていたので、いったいいつになるのかと思っていたら、今週の17‐18日だそうである。おいおい、いささかショートノーティスに過ぎないだろうか。

〇気がついたらこんなサイトまでできていた。「一帯一路フォーラム」の開催を寿いでいるのだが、このHPのソースを見ると、どうやら10月11日頃に誕生したサイトらしい。いかにも急場拵えではありますまいか。


●The Third Belt and Road Form for International Cooperation


〇それでもプーチン大統領はいそいそと北京に出かけるのであろう。まあ、彼に選択の余地はないからね。それ以外の国はどれくらい集まるのだろう。真面目な話、中国側としてもあんまり大勢来られても困るという事情があるのかもしれないが。

〇不肖かんべえが北京の社会科学院に呼ばれて、「一帯一路と日本の貢献」というテーマの発表をさせられたのは2015年12月のことであった。あれから幾星霜、一帯一路の値打ちはずいぶんと下がったものである。だってあの当時は、「中央アジアからパイプラインで資源を調達する」とか、「人民元を地域の基軸通貨にする」なんて気宇壮大なことを言っていたのだから。

〇逆にその辺の理想は、ロシアがウクライナに対してお馬鹿な戦争を始めてくれたおかげで、現実に一歩近づいたと言える。そりゃあロシアの石油は人民元で買えた方がいいよね。逆にロシアの側としては、ヤマルのLNGプロジェクトが中国のおカネでできたらありがたい。

〇中国側としては、ロシアは手厚く遇しなければならないが、それ以外の国はどうでもいい感じ。いくら集めてみたところで、カネの切れ目が縁の切れ目。そして中国は昔と違って、いくらでもおカネを使える状態ではない。

〇ということで、しあさってから始まる一帯一路フォーラムにご期待あれ。


<10月16日>(月)

〇本日は政策研究大学院大学でフォーラムの講師を務めました。


●GRIPSフォーラム「2024年米大統領選挙に向けて」


〇大恩ある大田弘子学長からの依頼であったので、二つ返事で安請け合いしたのだけれども、とっても久々の英語のプレゼンで、しかも聴衆はむちゃくちゃ大勢で、その多くがGRIPSの留学生で、しかも授業の一環にもなるとはまったく存じませんでした。しかも客席を見渡すと、黒田東彦前日銀総裁(現在はGRIPS教授)がいらっしゃるではありませぬか。ああ、穴があったら入りたい。

〇しかるに壇上にはどこにも隠れる場所はなく、モデレーターを務めてくださるのはこれまた古いお付き合いの道下教授である。溜池通信の長い愛読者でもある。ああ、もうここは腹をくくって講師を務めるしかない。ええ、やります、やらせていただきますとも。恥はかき捨て世は情け。後は野となれ山となれ。

〇・・・・ということで、本日は大変な肝試しをいた思いがいたします。ああ、疲れた。

〇毒食わば皿まで、ではないですが、明後日の10月18日にはこんなセミナーに登場します。ああ、われながらこんな大ぶろしきを広げてしまって、大丈夫だろうか?


●ラテンアメリカ協会ウェビナー 「グローバルサウスの政治経済学」


〇これまた聴衆には洒落にならないような方々がいらっしゃるらしく、戦々恐々であります。ちなみに10月19日はモーサテの出番なんですが、果てさて何をお話しすればいいのやら、まだ決まらない、決められない。今週はホント、大変でありまする。知らんがな。


<10月18日>(水)

〇いかん、明日はモーサテに出演だから早く寝なければならないのだが、クライマックスシリーズのファイナルステージが始まっているから、気になって寝るどころではない。わがタイガースは現在、4対1でリードしておる。先発の村上はみずからがタイムリー。よしよし。

〇明日はこんな仕事もある。東洋学園大学さんに伺います。いや、昨年まではリモート方式だったのですが。


●未来は共に創る――アジア共同体の新しい地平線


〇それはさておき、明日のモーサテのコメント案も考えなければならない。でも、野球も気になる。マズい、夜更かししてしまうかも。


<10月19日>(木)

〇朝はモーサテ。「プロの眼」のネタは「景気減速懸念と補正予算の行方」。

〇正直なところ、最近の岸田内閣は心配なのである。もう2年も続いているというのに、「えっ、こんなことも分かってないの?」みたいなことが相次いでいる。せっかく早めの9月13日に内閣改造をやっておいたのだから、臨時国会ももっと早めに招集しておけばよかったのに、初日に所信表明演説ができないなんて、段取りが悪過ぎる。

〇さらにもって、ここで減税にこだわる理由がわからない。税の問題を決めるのは、自民党税調なのであって、会長の宮沢洋一さんはご自分の従兄であるのだから、そんな話は裏で済ませればいいのである。やっぱりネット上で「××メガネ」と呼ばれていることが、そんなに許せないのだろうか。

〇無欲が強みだった人が欲が出てきて、どうにも引っ込みがつかなくなってきたんじゃないかと心配になってくる。代わりはあんまり居ないんだから、どうかご自愛をなさいまし。

〇夜は大手町で"Street Insght"さんのパーティーへ。いろんな人と会えて楽しかったですわん。家に帰ってきたら、ちょうどタイガースのサヨナラ勝ちに間に合いました。よかよか、やっぱり今年の流行語大賞は「アレ」で決まりですな。


<10月20日>(金)

〇昨日のモーサテに出ている最中に、ご一緒した西原里江さんが市場の速報を見ながら、「4.9%!」と小さな声で叫んでおられました。米長期金利のことなんですが、「こりゃあ、5%は行くでしょうねえ〜」「越えないと許してくれないでしょうねえ〜」てなことを言いあっておりました。

今日になって5%を超えたようですね。16年ぶりのことですか。それって2007年になりますから、文字通りリーマン以前。「オールドノーマルへの回帰」という不肖かんべえの仮説を裏付けるような展開であります。そしたら1ドル150円台をつけたそうですね。それはもう致し方なし。こんなときに介入する手はありませぬ。衆寡敵せず、ってやつであります。

〇とはいうものの、日本の長期金利も0.8%台なのです。7月にYCCの見直しがあった時点では、1.0%という上限がはるか遠くに思えたものです。わずか3か月でここまで来てしまいました。金利の上昇はまことに早いっす。

〇こんな変化が続くようだと、それこそ先が読めませぬわなあ。とは言うものの、仕事の山がとりあえず去ったので、この週末はボーッとして過ごしたいです。明日は富士ステークス、明後日は菊花賞ですなあ。


<10月21日>(土)

〇昨晩はタイガースが見事に広島カープを相手に3タテを決め、クライマックスシリーズを制しました。次はもう「アレのアレ」しかありません。もう全然、負ける気がしないのでありますが、相手がオリックスであればまだ心の準備があるけれども、ロッテが相手だったら嫌ですなあ。

〇そして今朝はW杯準決勝戦、4年前にニュージーランド大使館から頂戴したジャージを着て見てました。やっぱり勝ちましたな。アルゼンチンには1回もトライさせませんでした。オールブラックスは開幕戦で地元フランスに敗北してから、しり上がりに調子を上げている感じです。

〇まあ、ラグビーのことはよくわからないんで、いつも後からこの人の解説を読んで、「ああ、そういうことだったのか。なるほどねえ〜」と感じています。

〇こうなると明日早朝のイングランド対南ア戦も気になってくるわけであります。うーん、これは南アが勝つでしょうな。この前の南ア対フランス戦を思い出したら、どう考えてもイングランドが勝つという「絵」が浮かばない。でも、予選では南アはアイルランドに負けているわけで、イングランドが間接的にアイルランドに負ける、という図式はどこか香ばしい。

〇だからと言って、アイルランドを準々決勝で倒したNZが決勝で南アに勝てるかと言うと、これはきっと、たいへんな死闘になってしまうのでしょうな。何しろ『インビクタス』のカードですから。

〇ラグビーは南半球が強い。よくわかんないけど、それは世界にとって良いことであるような気がしています。(→後記:イングランド対南アは大変な試合になって、最後は南アが1点差勝ち。朝早くから見てて、力が入りました)。


<10月22日>(日)

〇先日、出版界の方から聞いた話。「集英社は凄い」。

〇何がどう凄いかと言うと、もう集英社は出版社じゃなくて「ライツ」の会社になっている。つまりジャンプの漫画が売れ過ぎた結果、今では「キメツ」や「ワンピース」や「スラムダンク」の権利を管理する会社になっているということ。こういうページを見ると、ああ、なるほど、そういう時代になっているのね、と感心させられます。

〇コンテンツ事業というものは、「ポケモン」みたいに古くなったものでも、ある日突然に全世界手に大復活する、なんてこともあり得る。世界を相手に、どうやって自社のIPを売り込んでいくか、さらには海賊版などから守っていくか、みたいな話になってくる。うまくやったら、長期にわたって青天井でおカネが入ってくる。

〇それに比べると、書籍を売ったり、雑誌を作ったり、というのは哀しいくらいに儲からない仕事である。え?オタクまだ紙なんてやってるの?と言われてしまうようではさらに悲しい。とはいうものの、才能を育てる段階では「紙媒体」を通過することが多いから、やっぱり誰かが雑誌を作り続けたりするのだろうけれども。

〇ということで、今後の出版社ではライツ事業部が花形セクションになっていくのかもしれない。他方では、校閲とかゲラチェックとか出張校正といった古式ゆかしい世界も残る。ううむ、会社の人事ローテーションが難しくなりそうですな。


<10月23日>(月)

〇本日は成人病検診へ。

〇考えてみれば、もう同じクリニックに30年くらい通っている。内臓検査の担当者はもうすっかり顔なじみなので、とってもスムーズである。バリウム検査の担当者が変わっていたので、そうでなくても拷問みたいな作業が、いつもにも増して難行苦行になる。

〇まあ、60代にもなって、困っているのが老眼と、ときどき腰痛と、深夜にトイレに起きること、というのはかなり恵まれている方なのだと思う。ありがたいことである。この年になると、健康は命より大切、だと痛感する。だって痛いのとか辛いのとかって嫌だし。

〇夜はなぜか熊本料理の店で、とってもディープな米国政治の放談会。オタク度全開。

〇「イスラエル対ハマスの事件により、共和党は結束できたけれども、民主党は分裂含みになった」という指摘は面白かったな。共和党は「バイデン外交が悪かった」とか、「そもそも悪いのはイランだ」などと言っていればよい。ところが民主党は、若い世代がパレスチナ支持だったりするので、一種の世代間対立を招きかねない。バイデンさん、なかなかにツラいです。

〇「アイオワ州党員集会盛衰史」というアイデアも面白かった。@「ジミー・カーターの覚醒」(1976年)→A「ハワード・ディーンに悔いあり」(2004年)→B「バラク・オバマの青春」(2008年)→C「死闘!バーニー対ヒラリー」(2016年)→D「そして誰もいなくなった」(2020年)。まあ、内容は適当に察してくださいまし。

〇「1月6日事件なんて、1968年の民主党大会の混乱劇に比べれば可愛いもの」という指摘もあった。確かにあの年は、ロバート・ケネディとマーチン・ルーサー・キングが殺されて、しかも犯人が見つからなかった。そもそも3月になって、現職のリンドン・ジョンソンが不出馬宣言をした年なのだが、あれと似たようなことが来年もあったりして。

〇こういう話が楽しいんだから、まあ、われながら不思議なことをやっておる。ここに中山俊宏さんが居たらなあ、てなことで、家に帰ってからこんな文章をしみじみと読み返す秋の夜、なのであった。


<10月24日>(火)

〇「今年の新語・流行語として、『グローバルサウス』が有望だ、という話をしようとして、待てよ、去年の流行語大賞ってなんだったっけ?と考えても思い出せないのである。きっとワシだけじゃないはずだ。

〇堪えはこちらをご参照。ウーム、なんだか遠い昔の言葉ばかりではないか。


*年間大賞:村神様


*トップテン:キーウ、きつねダンス、国葬儀、宗教2世、知らんけど、スマホショルダー、てまえどり、ヤクルト1000、悪い円安


*選考委員特別賞:青春って、すごく密なので


〇ユーキャンの新語・流行語大賞は、11月中旬に「ノミネート語」が30個選ばれ、12月初頭に大賞とトップテンが決まる。今年の場合、最有力候補が「アレ」(岡田彰布・阪神タイガース監督)であることは言を俟たないが、そのためには今週末からの日本シリーズで勝たなければならない。「オリックス優勝!」だとアレにならないからね。

〇ということで、いろいろ楽しみなのであります。今年の新語・流行語は。


<10月25日>(水)

〇とってもお久しぶりのUさんが来社。互いに20代の頃からの付き合いなので、いやあ、古いふるい。それぞれ外形はそれなりに変わっているけれども、中身はそんなに変わってはいないのがありがたい。

〇その昔、ロビンソンクラブという勉強会をやっていた。テーマは経済で、毎月第2金曜日の午後7時になると、異業種の同世代人が集まってきた。場所はいろんなところを移転したのだが、いちばん長かったのは大手町の経団連会館である。1980年代から90年代の頃までは、財界総本山みたいなビルであってもセキュリティは甘く、知らない人たちが勝手に入っても叱られなかった。こういうこと、若い人たちは知らんだろうなあ。

〇ロビンソンクラブではいろんなことを学習した。もともとは「株でおカネを儲けたい」という動機で始まった会であったので、金融関係の話が多かった。当時はまだパワポなんてものはないから、手書きのレジュメをコピーしたものが配布資料であった。それで午後9時過ぎまで、いつもああでもない、こうでもないという議論をして、それが終わったら大手町から神田駅の方まで皆で流れて行って、その辺の安い飲み屋でしばし延長戦をやっていたものである。きっちり割り勘で、いつもせいぜい2〜3000円であった。

〇そのうちに証券関係の仲間から、「第2金曜日はSQがあるので参加しにくい」という声が出て、ロビンソンクラブは第3金曜日に移転した。そのうちにワシはマーケット番組に出演するようになって、今でも「第2金曜日はSQの日」という基礎知識はあるのだけれども、具体的にSQの日に何をしなければならないのかという理屈は今でもよくわかっていない。

〇ロビンソンクラブという名前は、ロビンソンという経済学者が居たことと、ロビンソン・クルーソーが金曜日に「フライデー」という友人に出会ったことに依拠している。異業種交流会というものを、生涯でいくつ体験したかは数えきれないけれども、自分にとってはロビンソンクラブこそはその原点であった。この手の会を長続きさせるためには、それこそ無数のノウハウがあるのだけれども、それらを教わった会でありました。

〇今日はたまたま、午後に神田の全国地銀協協会さんで研修会の講師を務めたので、大手町駅から神田駅までを歩いてみた。大手町はすっかり景色が変わっていて、旧経団連ビル跡地に「ほしのや」が建っているのは無粋な感じがするが、神田に近づくにつれて昔の儘の景色が残っている。昔入った店で記憶に残っているのは、「やきとりの名門、秋吉」くらいであった。いやはや、昭和は遠くになりにけり。


<10月26日>(木)

〇アメリカ下院議長が突如として決定しました。選ばれたのはマイク・ジョンソン氏(51歳、ルイジアナ州選出、4期目)。投票結果は、220対209の11票差というパーティーライン通りでありました。議長不在による議会の空転は、幸いなことに22日目、4回目の投票によって終止符を打ちました。

〇ジョンソン氏の下院議員歴が4期目ということは、まだ7年弱しか務めていないことになる。当然、委員長ポストは未経験。キャピトルヒルに関するさまざまなしきたり、ルール、有職故実なども、あんまり理解しているとは思われない。彼はただ、キャリアが短くて敵が少なく、スキャンダルもなく、足を引っ張られることが少なかったのである。政治の世界では珍しいことながら、「無名は悪名よりもマシ」という法則が働いた形である。

〇そしてマイク・ジョンソンはフリーダム・コーカスのメンバーであり、共和党内でもかな〜りの社会的保守派議員である。トランプ前大統領のおぼえはめでたく、弾劾裁判の際には防衛のために大いに働いた。他方では政治資金が少なく、スタッフも少ないということなので、いきなり下院議長としてフルに働けるかと言うと、そこはちょっと怪しいかもしれない。民主党側は手ぐすねを引いているだろう。さあ、これから彼の過去のお馬鹿な発言を探してやるぞと。

〇下院議長は大統領継承順位で2番目という重責である。バイデン氏の身にもしものことが発生し、慌てたセキュリティサービスがカーマラ・ハリスを撃ったならば、次期大統領になってしまうというポジションである。確かに「とにかく早く決めなきゃいけない。贅沢は言っていられない」という状態であったとはいえ、大丈夫かそんなんで。

〇まあ、それでも空席が埋まってとりあえずはよかった。後はウクライナ支援予算が通るのかどうか。新しい下院議長は反対であるらしい。他方、上院はそうでなかったら法案が通らない。11月17日にはつなぎ予算も切れるから、政府閉鎖の懸念もある。いやはや、ゼレンスキー大統領の心中をお察し申し上げまする。


<10月28日>(土)

〇本日はジャパン・モビリティー・ショー2023へ。前回の東京モーターショーは2021年にコロナで中止になっている。ということで、これは2019年以来のショーということになる。それにしても東京ビッグサイトって、こんなに広かったっけ。モビリティと言いながら、1万5000歩も歩いてしまったぜ。

〇モビリティの未来は本当に明るいのか。先日、造船業界さんの会合に顔を出したら、「もう大型コンテナ船なんて不要になるんじゃないか」てな話をされておられた。言われてみれば、貿易や海運の未来はそんなに明るいとは思われない。


*「脱・炭素」を考えたら、「地産地消」がいちばんである。

*さらに「経済安全保障」を考えると、大事なものはなるべく自国で生産しよう、という傾向になる。

*資源もなるべくなら近隣から仕入れたい。まあ、日本には無理な相談だが。巨大タンカーはいつまでたっても必要なんだよな。

*しかし水素やアンモニアを持ってくるのは大変だぞ。パイプラインでガスを運べる内陸国がうらやましい。

*一方で小さな船は引き続き必要だ。むしろ今後は、日本の古くて小さな港湾が競争力を取り戻すかもしれない。逆に中国や韓国の巨大コンテナヤードはこれからどうするんだろう?


〇脱グローバリゼーションの時代を迎えると、モビリティって減ってしまうんじゃないだろうか。そんな仮説を考えていたのだけれども、モビリティショーの会場に入った瞬間に、その考えはどこかへ行ってしまった。クルマって、見ているだけで楽しいのである。それはおそらくワシみたいな旧世代だけではないと思う。3歳になるウチの孫だって、クルマは大好きだし。

〇移動することは、かなり根源的な人間の欲求である。ヴァーチャルがあればいい、仕事もリモートで片付く、なんてものではない。だからクルマも鉄道も飛行機も船も大事な産業であります。そして不思議と日本経済は、これら輸送用機器の産業を多く有している。

〇世間的には、「今年初めて自動車輸出台数で日本が中国に抜かれる。EVに出遅れているからだ」というのがもっぱらの話題で、日本の自動車産業は没落しつつあるのではないか、てな見方が絶えない。ただし輸出台数というのは、現地生産の台数をカウントしていない話なので、そこはちょっと気を付けた方がいい。

トヨタ自動車の2022年のデータを見ると、グローバル生産が902万台、国内生産が256万台、海外が637万台である。販売はもっと極端で、グローバル販売が956万台、うち国内は軽自動車も含めて128万台に過ぎない。海外で827万台も売っている。いかに日本の国内市場がしょぼいか、という話である。

〇もうひとつ。2022年度の日本の自動車輸出台数は516万台である。その金額は13兆7351億円である。そこでこんな計算をしてみよう。13.7 Trillion÷5.2 Million=2.6 Millionということになる。つまり1台当たりの平均金額は260万円である。これがどんなにすごい話であるか、わかります?

〇自動車輸出はFOB価格です。トヨタのクルマであれば、名古屋港で船積みした時点で所有権は買い手に移転する。トヨタ車を買った外国人は、それから先の船賃と保険料を払い、ロングビーチ港かどこかで荷揚げをし、そこから陸送してディーラーで展示することになる。これに広告費やセールスマンのコストが上乗せされる。さて、最終販売価格はおいくらになるだろう。軽く2倍は越えるだろう。ゆえに日本の輸出車の最終販売価格は平均で500万円、ということになる。

〇ワシも詳しく調べたことはないのだけれども、日本の年間約500万台の自動車輸出は中古車を含む数字のはずである。どんだけ高いんだよ、ということになる。逆に言えば、安いクルマはほとんどが現地生産になっている。つまりですなあ、自動車輸出こそが日本経済の生命線ということになる。

〇ということで、モビリティ業界には大いに頑張っていただきたい。あなたたちこそが頼りなんです。


<10月29日>(日)

〇土曜夜、日本シリーズ第1戦は1点を争う戦いかと思ったら、タイガース打線が絶対エース山本を打ち崩してしまう。逆に阪神の先発村山は、オリックス打線を2安打散発に押さえて8対ゼロで快勝。こんなこともあるものなのか。第2戦の先発は西勇輝。今宵もかるーく行ってしまいそうな予感。

〇日曜早朝、W杯決勝戦はNZ・オールブラックスが南ア・スプリングボクスに対して1点差及ばず。ペナルティゴールがあと1本決まっていれば。いや、その前に主将サム・ケインがレッドカードをもらわなければ。悲しい思いで南ア産の安いワインを買ってきた。これを空けたら、またNZ産ワインに戻ろう。

〇日曜午後、秋の天皇賞はイクイノックスが信じられないような強さを発揮。2着馬ジャスティンパレスに2馬身半差をつけて快勝したが、鞍上のルメール騎手はゴール前で軽く馬を制止する余裕があった。それでも1分55秒2という過去の記録を1秒縮める快挙。最後まで追っていたらどういう記録が出たんだろう。

〇とまあ、こんな風に見なきゃいけないスポーツが多いものだから、この週末は仕事がはかどりませんなあ。でも、来週はいわゆる「中央銀行ウィーク」であるから、気の抜けない1週間ということになる。


*10月31日 日銀金融政策決定会合→展望レポートに注目。来春利上げにむけての材料は?

*11月1日 FOMC(日本時間2日早朝)→パウエル議長の記者会見に注目。利下げは来年のいつ頃になる?

*11月2日 BOE政策会合

*11月3日 米雇用統計→UAWのストライキはどれくらい影響する?


〇それとはまったく関係なしに、明日朝はNHKラジオ第一「マイあさ!」に登場いたします。


<10月30日>(月)

〇日本では岸田内閣の支持率が史上最低ラインに達しつつある。いつもほかよりは高めに出る「日経&テレ東」調査の支持率が、33%まで落ちている。不支持率の59%も史上最悪。うーん、これでは年内解散はできそうにないですねえ。

〇「野党が弱いから大丈夫」という理屈では、あんまり安心はできません。日本の選挙というものは、「自民党支持者が自民党に入れるかどうか」で決まるもの。現状、自民党支持者は自民党に対してお灸をすえたくて仕方がないように見える。そりゃそうだろうなあ、と思う。

〇これがアメリカでも同様な現象を見て取ることができる。先週発表されたギャラップのデータをご参照あれ。バイデン政権の支持率は37%に下落している。再選を狙う現職大統領としてはツラい数字である。

〇特に民主党支持者の間の支持率が、先月の86%から75%に急降下している。ギャラップ社はこれを、「中東における民主党員の支持がパレスチナ側に向かっているから」と謎解きしている。ははあ、なるほど。

〇確かにイスラエル支持の態度表明が強過ぎたのかもしれない。バイデン氏の再選戦略に新たな障害が発生したことになる。ここへ来てバイデン大統領はやや軌道修正を試みているようだけれども、果たしてどういうことになりますか。今月のハマスによるイスラエル攻撃は、いろんな点でゲームチェンジャーになりつつあるように見えます。


<10月31日>(火)

〇本日はハロウィン。そして日銀の金融政策決定会合。というと2014年の黒田バズーカを思い出しますなあ。あのときはアメリカがQE3を終えた直後で、日経平均は1万円台であった。日本発の緩和策は、世界経済にとっては「干天の慈雨」であった。その日の相場は盛大な株高、円安で応えたのでありました。

〇それに引き換え、本日の日銀決定はなんともしょぼいものでありました。昨年12月までは0.25%であった10年物国債の天井を、7月には0.5%に上げて「まさかそこまで行くとは思わないけど、念のためのキャップ」として作った1%の天井を、さらに無意味なものにしてしまいました。何なんだこれは。

〇これはもう本日をもって、YCCという枠組みは有名無実になったと考えるべきだろう。長期金利をゼロにするのが「イールド・カーブ・コントロール」であるのに、10年物金利が1%を超えても当局からお叱りを受けるわけではないらしい。何しろ今日はもう長期金利が0.95%まで上がったようですし。少なくともこれって「コントロール」じゃないよね。

為替はいったん円高に振れた後、再び150円台になっている。これはもう苛めのようなもので、「あんた、為替を気にしているんだろう?だったらもっと円安にしてやる」と市場に足元を見透かされているのであろう。これは日銀にとってはちょっと困った展開である。

〇でも、黒田緩和からの出口戦略は、こんな風に行われていくのかなあ、という気がしている。あんまり理屈を言っちゃいけません。なるべく言質を減らして日銀執行部の裁量を増やしておいて、海外や市場で発生する予想外の動きへの自由度を挙げておく。でないとこの後、アメリカの金融政策から中国のバブル崩壊、中東情勢まで何が起きるかわからんですから。

〇そもそも今の円安は、植田総裁が言っていた通り「ドル金利の上昇」がほとんどの原因である。まさか7‐9月期の米国経済が4.9%の高度成長になるなんて、いったい誰が予想し得たでしょうか。明日のFOMC(日本時間では11月2日未明)はどういう結果になるのやら。

〇ということで、日本シリーズを見ながら世は更けていく。2014年も阪神タイガースが「下剋上」で出たのはいいけれども、ソフトバンクホークスにやられちゃったのである。ああ、今宵も時に利あらず、心ここにあらずで画面を見つめるのであった(現在は5対1でオリックスリード)。









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by Tatsuhiko Yoshizaki