<10月1日>(土)
○成人病検診へ。土曜日に予約したところ、とっても空いていて快適であった。お蔭で苦手なバリウムも、ちゃんと呑めて、早めに出た。
○最近は朝晩、少し運動するようにしているので、去年よりも体重が減っている。ちょっとうれしい。ただし体脂肪は昨年同様の24%であった。残念。
○といっても、ライザップや糖質ダイエットはやらないぞ。食べる楽しみなくして、何の人生ぞ。というか、我慢が嫌いなのである。検診の日は朝ごはんが食べられない、というのでさえ嫌でしょうがない。
○血圧はちょっと高め。コレステロール値はもとより高い。でもまあ、どこかが悪いという自覚症状があるわけでもない。幸いなるかな。
<10月2日>(日)
○明日はモーサテ出演なんで、早く寝なきゃとは思っているんだけれども、今宵は凱旋門賞である。出るのがマカヒキだし(ダービーでは単勝を取らせてもらっているのだ)。フジテレビで観戦する、というのがちょっとだけ片腹痛い。ゲストに呼んでいるのが福永騎手だ、というのも面白くない。たぶん今日のスプリンターズステークスで勝つだろう、と思って呼んだんだろうけれども、今日の騎乗はいったい何じゃありゃあ。2ちゃんねる競馬板が荒れてるぞ。
○などとブツブツ言いながら見ていたら、凱旋門賞を制したのは牝馬ファウンドであった。うーん、なんじゃこれは。ドゥラメンテを負かして、世界最強と言われていたポストポンドもいいところなかったし。それをマークしていたマカヒキも最後が全然伸びず、見せ場もなかったのである。
○凱旋門賞って、なんだかわれわれは「下から目線」で仰ぎ見てしまっているのではないだろうか。フランス競馬なんて落ち目なんだから、いつかは日本馬が勝って当たり前だと思うのだが、変に位負けしてしまっているような気がするぞ。オルフェーヴルが2年連続2着になった時点で、「日本馬が強い」(それだけ日本の競馬ファンが熱い)ことは証明済みだったと思うのである。
○やはり凱旋門賞を勝つには、ディープの子ではなくてオルフェーヴルの子を待つ必要があるのではあるまいか。まあ、いいや。いつか勝てるよ。変に「日本競馬の悲願」だなんて、身構えるからいかんのだ。とりあえず寝よっ。
(→後記:この件について、ご存知、福島民報の高橋利明記者が、「マカヒキ14着、日本競馬は凱旋門賞にこだわるな」という記事を東洋経済オンラインに寄稿されています。わが意を得たり、という思いがいたします
<10月3日>(月)
○今日のモーサテ、NYは何と池谷さんがお休みで、その代わりを務めたのがなんと池上彰さん。4年に1度、池上御大がアメリカ大統領選挙を取材する季節がやってまいりました。今年はどこへ行ってくれるんでしょう?
○不肖かんべえが語った特集テーマは、「年明け解散?鍵は日露」ということで、政治日程についての分析。「安倍さんの狙いは憲法よりもロシア!」とかねてから言ってまいりましたが、この見方が急速に広がってきたと思います。
○さらに今日のオマケでは、野沢アナや瀧口アナもご一緒に、池上彰さんの噂話や日本外交、北方領土のことなども語っております。北方4島の名前は、アナウンサー試験に出るんですって!
○テレビ東京は、来月でいよいよ六本木の新社屋へお引越しです。既に今の神谷町オフィスは、どんどん虫食い状態になっている。この次に呼ばれるときにはそっちかもしれません。新しいモーサテのスタジオはどんなふうになるのか。いろいろ楽しみです。
<10月4日>(火)
○今宵は自衛隊OBの方々の集まりへ。研究会の講師をお勤めする。テーマは安全保障と経済の関係について。隙あらば、話を『シンゴジラ』もしくは『空母いぶき』の方向に誘導するつもりだったのだが、あいにく「視聴率」はあまり高くはなかったようである。
○時節柄、関心が高いのはトランプ現象。トランプ大統領誕生ということになったら、やっぱり日米同盟見直しということになるのか。現場の感覚としては、「日本の協力なしに、アメリカのグローバル戦略をやれるものならやってみろ」と言いたいところであるが、何しろ先方は、「それも含めて、一切の指導的な役割から降りてやる」みたいなことを考えているかもしれず、その場合はまことに厄介なことにならざるを得ない。
○こんな話を拝聴した。「徳島県は、日本の安全保障政策にとっての3悪人を輩出している。三木武夫(GNP比1%枠を提唱)、後藤田正晴(警察を優遇して自衛隊を冷遇)、仙谷由人(「自衛隊は暴力装置」発言)」――うむ、膝を叩いて笑ってしまった。活躍した時代がちゃんと分かれている点も含めて、まことによくできている。
○などという話で盛り上がって、軽くお酒も入って、早めの時間に解散。いつものことながら、「外交・安全保障サークル」と「経済・金融サークル」の間を、コウモリよろしく行き来するというのが当溜池通信の流儀であります。
○こっち側の世界の常識は、あっち側の世界の非常識。二つの世界の情報を鞘取りするだけで、周囲から感心してもらえるのだから、楽なビジネスモデルなのです。でも、不思議なことに真似をする人があんまり現れない。いや、それこそ勿怪の幸いというものなのですが。
<10月5日>(水)
○この時期恒例の富山市にゆかりのある人たちを集めた交流会へ。わが出身地、富山市はとうとう市街地人口の増加に成功したとのこと。コンパクトシティと唱え続けて幾星霜、自然減を超えて増えたとはめでたいことだ。今年はG7環境大臣会合が行われたり、今度は世銀主催のレジリエントシティ・サミットが行われるとか、本来は目立たない街のはずなのに、よく頑張っておるなという気がする。
○他方、最近では「富山市」と言えば、打てば響くように「市議会の不祥事」ということになる。11月6日には補欠選挙が行われるのだが、定数40人のところで13人も欠員が出るという事態をどうやって埋めていくのか。12月市議会は本当に乗り越えられるのか、など行政の現場は混乱が続いている。
○今回の事態は、市議会議員さんの「政務活動費」をめぐるものである。この問題、責任があるのは「市議会の議長さん」であって市役所ではない。地方自治法が拠って立つ「二元代表論」から行くと、そういうことになる。言ってみれば、執行役員を見張るべき社外取締役に不祥事が発生したようなもの。企業であれば、取締役会が問題役員をクビにすればいいのだろうが、市役所は市議会にタッチできない。さて、どうしたものか。
○終わってから会社の同期の送別会に顔を出す。いい年をした50代のおじさん、おばさんが昔話に興じている。32年前に行われた新人研修で、帰り道のバスの中で発生した惨劇について、新たな証言が浮上する。てっきりO君は被害者だったと思っていたのだが、実はそうではなかった。加害者というほどではなくとも、少なくとも「自業自得」であったらしい。長い歳月を経た後に、「歴史認識」が変わることがある。今頃プノンペンに居るO君、元気にしているだろうか。
○めずらしいことに仲間とともに二次会に流れる。店はカラオケである。『六甲おろし』をリクエストしたら、映像が2003年バージョンであって、金本や今岡が出てくる。どうせなら1985年バージョンで、バースさまを見たかった。でも、考えてみればもう30年以上たっている。
○ところがおじさんたちは、青くさい書生論議がなかなか終わらない。こういうことも今どき珍しい。ワシも何だか、脳内だか体内だかが一部若返ったような気がする。錯覚でしょうけれども。深夜になって家にたどり着いてから、さて、明日の締め切りと出張をどうするべえ、などと考えている。
<10月7日>(金)
○昨日は小森コーポレーションのセミナー講師として大阪に行っておりました。同社は昔は小森印刷機械と呼ばれていて、紙幣を印刷する機械を作っているものですから、証券市場でデノミが噂されるたびに買われていた銘柄です。たしか昭和天皇崩御の時も、買われていたような・・・こういう話は、印刷媒体には残らないんですよねえ。
○会場に到着して、同社の会長さんが印刷業界の現状を語るのをその場で聴いていて、あたしゃぶったまげました。今の印刷業界って、こんなにすごいことになっているのね。小森コーポレーションも、今では海外のお札を印刷するような時代になっている。ということで会長さんからは、「今日は為替の話に注目しています」などとプレッシャーをかけられてしまいました。
○壇上に上がってから、つい冒頭は昔話を披露してしまいました。不肖かんべえ、サラリーマン生活の駆け出しは社内報の編集者でありました。毎月48ページ、白黒印刷、8000部の媒体を世に送り出すために、校了が近づくと土曜日に鴬谷にある印刷所に出張校正に出かけたものです。早く終わった日には、帰りに浅草でビールを飲みましたが、などと。
○当時はまだ印刷媒体が活版からオフセットに移行する時期であって、それから「デスクトップ・パブリッシング」なんて言葉が出始めた頃でもありました。今から思い出すとまるっきり笑い話で、インターネットどころかまだワープロも少ない時代に、今なら安いパソコンで子供でもできるような操作を、大型機械を使ってこれからレイアウトをやってご覧に入れます、なんてことをやっておったんです。ああ、30年の月日は長い。
○そんな昔話を語ってみたところ、恐ろしいことにその場に来ていたのが、昔通った鴬谷のK印刷社の若社長さんでした。いやはや、先代には本当にお世話になりました。若い時分には、お酒も一杯飲ませていただきました。当方はその後、なんだかんだで、印刷や出版物とは縁の切れない人生を送っております。当時のノウハウは、今では全く陳腐化している、ということが何よりの発見でありました。ご縁に感謝です。
○最後は駄文のご紹介。「まさかのトランプ大統領誕生を想定してみる」。とりあえず読んでおいて損はないですぞ。
<10月8日>(土)
○今日は一橋大学の同学年の同窓会が行われる。ということで、柏市から国立市を目指す。武蔵野線でぐるりと都心部を迂回することになるのだが、西国分寺の駅についてから、はて、国立駅は上りだっけ、下りだっけ。真面目に思い出せないのである。最初は上りホームに行ったら、「前の電車はくにたちを出ました」という表示があるので、ここで待っていてはいけないことが判明。うーむ、さすがに32年もたつと記憶も怪しいのである。
○国立駅に到着してみると、あの三角屋根は現在工事中で、北口には高い建物がいっぱい立っている。ずいぶん記憶の中の光景とは変わっている。銀行の支店も増えているような。でも放置自転車の多さだけは変わっておりませんな。やっぱり18歳から22歳を過ごした街は格別なものがあります。
○で、東校舎の生協食堂にある会場についてみたら、いい年をしたおっさんたちの集まりである。そりゃあまあ、皆さんの肉体は経年劣化が起きているわけである。その一方で、壁に貼られていた80年代前半の写真を見ると、「あっ、××先生がこんなに若い!」みたいなことに変に感動してしまう。
○ということで、約3時間にわたって旧交を温める。幹事のK君から今日がお誕生日ですね、と言われて、はからずもハッピーバースデーの大合唱を受けてしまう。恐縮仕事。本日で56歳になりました。数々のHBメッセージに御礼申し上げます。
<10月9日>(日)
○米大統領選挙の投票日まで残り1か月を切りました。と思ったら、この週末になっていろんなデータが動きはじめました。端的に言えば、ドナルド・トランプ候補の支持率が低下しています。どうやら「納税していなかった」よりも、「女性蔑視発言」の方が効いたみたいです。いつも参考にしている英国ブックメーカーのオッズをご覧ください。
Hillary Clinton 2/9 1.22倍
Donald Trump 10/3 4.33倍
Mike Pence 40/1 41.00倍
Tim Kaine 50/1 51.00倍
Paul Ryan 80/1 81.00倍
Bernie Sanders 100/1 101.00倍
Joe Biden 175/1 176.00倍
Jill Stein 475/1 476.00倍
○第1回討論会の前にはクリントン8/15=1.53倍、に対してトランプ17/10=2.70倍にまで迫っていたのです。ところが第1回テレビ討論会が終わった後になると、それぞれクリントン2/5=1.4倍、トランプ2/1=3.0倍に拡大しました。それがさらに差が開いたということで、共和党内からは「出馬を辞退せよ」という批判が高まっているようです。今さら手遅れかもしれないのですが、なにしろ大統領選と同日に行われる議会選挙が巻き添えとなりかねず、せめて被害の拡大を防ぐためにトランプ氏を引き摺り下ろそう、という圧力が高まっているのでしょう。
○もっともそこはトランプ氏のこと。こんなツィートをしております。(アメリカ時間10月8日12:40)
The media and establishment want me
out of the race so badly - I WILL NEVER DROP OUT OF THE RACE,
WILL NEVER LET MY SUPPORTERS DOWN! #MAGA
○面白いことに、トランプ氏が撤退した場合のスペアとして、副大統領候補であるマイク・ペンス知事のオッズが挙がっている。それを言ったら、ヒラリーさんも健康状態がいま一つと言うことで、ティム・ケイン上院議員の株も挙がっている。与野党ともに「万が一」のリスクを警戒し始めているところが興味深いです。
○こんな状態で、第2回のテレビ討論会が始まります。CNNのサイトを開けると、「トランプはこの討論会でよろめく選挙戦を立て直せるか?」などと書かれている。さて、どうなりますか。
<10月10日>(月)
○今日は第2回のテレビ討論会を見ていてどっと疲れました。以下は1時間半にわたるそのやり取り。70歳のドナルド・トランプ氏と、今月末に69歳になるヒラリー・クリントン氏が延々と途切れなく応酬する気力と体力には賛辞を贈りたいですが、中身がねえ・・・。
http://time.com/4523325/read-the-transcript-of-the-second-presidential-debate/?xid=homepage
○政策論議って、どれくらいあったんだろう。オバマケアをいかに改善するか、富裕層への課税はどうあるべきか、あとはシリア問題くらいか・・・。そうそう、最後の方はロシアの評価をめぐって意見が割れていた。このままいくと、気候変動問題で米中が接近し、平和条約で日ロが接近する、という思いがけない対立軸ができるかもしれませぬぞ。ご用心。
○で、このやり取りの最後の瞬間に、珠玉のようなやり取りがありました。この結果、最初は握手もしなかったご両人が、最後は握手をして別れた。分裂しているといわれて久しいアメリカですが、こういうところはちょこっとだけ「言論の国」らしい成熟を感じますね。
COOPER: One more audience question.
RADDATZ: We’ve sneaked in one more question, and it comes from
Karl Becker.
QUESTION: Good evening. My question to both of you is,
regardless of the current rhetoric, would either of you name one
positive thing that you respect in one another?
(APPLAUSE)
RADDATZ: Mr. Trump, would you like to go first?
CLINTON: Well, I certainly will, because I think that’s a very
fair and important question. Look, I respect his
children. His children are incredibly able and devoted, and I
think that says a lot about Donald. I don’t agree
with nearly anything else he says or does, but I do respect that.
And I think that is something that as a mother and a grandmother
is very important to me.
So I believe that this election has become in part so - so
conflict-oriented, so intense because there’s a lot at stake.
This is not an ordinary time, and this is not an ordinary
election. We are going to be choosing a president who will set
policy for not just four or eight years, but because of some of
the important decisions we have to make here at home and around
the world, from the Supreme Court to energy and so much else, and
so there is a lot at stake. It’s one of the most consequential
elections that we’ve had.
And that’s why I’ve tried to put forth specific policies and
plans, trying to get it off of the personal and put it on to what
it is I want to do as president. And that’s why I hope people
will check on that for themselves so that they can see that, yes,
I’ve spent 30 years, actually maybe a little more, working to
help kids and families. And I want to take all that experience to
the White House and do that every single day.
RADDATZ: Mr. Trump?
TRUMP: Well, I consider her statement about my children to be a
very nice compliment. I don’t know if it was meant to be a
compliment, but it is a great - I’m very proud of my children.
And they’ve done a wonderful job, and they’ve been wonderful,
wonderful kids. So I consider that a compliment.
I will say this about Hillary. She doesn’t quit. She
doesn’t give up. I respect that. I tell it like it is. She’s
a fighter. I disagree with much of what she’s
fighting for. I do disagree with her judgment in many cases. But
she does fight hard, and she doesn’t quit, and she doesn’t
give up. And I consider that to be a very good trait.
RADDATZ: Thanks to both of you.
COOPER: We want to thank both the candidates. We want to thank
the university here. This concludes the town hall meeting. Our
thanks to the candidates, the commission, Washington University,
and to everybody who watched.
RADDATZ: Please tune in on October 19th for the final
presidential debate that will take place at the University of
Nevada, Las Vegas. Good night, everyone.
○ちょっとだけ救われた気がしますが、あとは10月19日の第3回討論会を残すのみです。
<10月11日>(火)
○今日は皇居前で見かけた外国人観光客が、ダウンジャケットを着ているのを見て「おー、もうそんな季節か」と感じ入ってしまいました。いや、半袖姿のおじさんも居たんですけどね。もう秋が深まりつつあるのです。
○10月になると、いろんな変化が生じます。アメリカ政治で言えば、9月末で議会が休会に入って、議員さんたちは現在選挙モードに入っている。それがあるから、急にトランプ氏に対する風当たりが強くなっている。だって、大統領候補が変なことを言ってたら、自分が落選するかもしれないからね。あの女性蔑視発言テープを機に、共和党のまともな議員さんたちは、これから急速にトランプ不支持に傾いていくでしょう。
○ワシントンポスト紙が、あのテープを暴露したのは10月7日(金)。いつものことですが、「政治スキャンダルを仕掛けるなら金曜日」です。土日のテレビが取り上げて炎上させてくれますからね。それも投票日を1か月後に控え、第2回のテレビ討論会を2日後に控えた絶妙なタイミング。たぶん以前から温存していたタマだったのでしょう。つまり、「今からでは、もう候補者の差し替えは間に合わない」頃合いを狙って放たれた爆弾ということになります。
○もっとも岩盤のようなトランプ支持者は、全体の3割くらいを占めているみたいなので、この人たちは最後まであきらめないでしょう。でも、共和党としては馬鹿げた話で、普通にマルコ・ルビオかジョン・ケイシックを選んでおけば、相手がヒラリー・クリントンならば楽勝できたのではないかと思います。なぜ、2016年の共和党はドナルド・トランプを選んでしまったのか。後世の人たちは理解に苦しむでしょう。いや、普通に海外のわれわれもよくわかりません。
○本日発表の世論調査ではクリントン46%、トランプ35%、ジョンソン9%、ステイン2%。とうとう二桁差がついてしまいました。でもヒラリーのことですから、なかなか勝ちきれないのではないかなあ。つくづく2016年選挙は、ヒラリーが勝ってもたいしたことはできないから「小吉」、トランプが勝ってもそんな大参事には至らないので「末吉」くらいじゃないかと思います。うむ、末期的だなあ。いずこも同じ秋の夕暮。
<10月12日>(水)
○弊社が内幸町の飯野ビルに引っ越したのは2012年のこと。今でも時々、「え?赤坂じゃなかったんですか?」と言われることがありますけど、もう移ってから4年以上になるんです。ところがなんとこの間、イイノホールに足を踏み入れる機会は1回もなかった。
○たまたま今日、SMBCコンサルティングさんの講演会講師に雇われまして、イイノホール演壇に立つことになりました。いやあ、得難い経験ですねえ。ちなみにイイノホール、一度調べたことがありますが、使う側になるとお値段はお高いです。その分、設備も新しいし、いろいろ気が利いていますけど。今日はアメリカ大統領選挙をテーマに、300人近くご来場でありました。
○そしたらですね、話している途中でパワーポイントの映像とマイクの音が突然、切れちゃったのです。これは弱ったなあ、と思いつつ、「イイノホール、こんなことじゃいかんですねえ」などと言って客席の笑いを取りながら、しばし肉声で大統領選漫談をやって時間を稼いでおったのです。そしたらなんと、主催者から「都内一帯の停電が原因である」連絡が入りました。これはめずらしい。講演会の最中に停電とはね。
○ホール内には非常用電源があったので、さすがに真っ暗にはならない。でも、会場が暗闇になっていたら、客席はパニックになったことでしょう。さすがは最新鋭の会場なんですね。ややあって、電気が復旧。まあ、長時間にならなくてよかった。
○ということで、今日は面白い経験をさせてもらいました。変なことがあったわりには、関心を持って聞いてもらえたようで、質問もたくさん頂戴しました。まあ、この週末に米大統領選をめぐる状況が動いたから、タイミングも良かったんでしょうな。
○イイノホールはいい場所にあると思います。霞が関の官庁街からは至近距離、千代田線と日比谷線と丸ノ内線と銀座線がつながっていて、銀座線以外は全部、雨にぬれずに入ることができます。当方にとっては、そもそも同じビルの中にある。今度は客として行ってみたいですね。
<10月13日>(木)
○広島に来ている。もちろん仕事であって、クライマックスシリーズを見る、なんてわけではない。観光もなしだし、牡蠣を食べるわけでもない。カープ女子にもご縁はない。せめて、と思ってタクシーの運転手さんを冷やかしてみる。
「昨晩テレビで見てたんだけどさ、大谷翔平はすごいね。カープ打線はあれを打てるかな」
○軽い気持ちで言ってみたのだが、うーん、と唸ったきり、運転手さんが長考モードに入る。真剣な様子である。信号が青になって、後ろのクルマにクラクションを鳴らされて、タクシーはようやく発進となる。
「・・・・カープの第2戦は今日は野村です。明日は黒田だな。連勝だとそこで決まりだから、セ・リーグは短期決戦ですね」
「そうか、黒田で決まりとは、やはり彼は持ってますね。ディーエヌエーは巨人に勝ったところで満足してるみたいだし、たぶん大丈夫でしょう」
「そう、ところがホークスが粘って、パ・リーグはもたつく。できればもう1回、大谷を投げさせてほしい。そうすれば、日本シリーズの流れが変わってくる」
○どうも運転手さん、こういう思考実験を何度もやっているらしく、実に予想が細かいのである。
「なるほど、そうなると第1戦は広島球場で、カープは黒田、ところがファイターズは大谷が間に合わないかもしれない」
「そうです。黒田は初戦で日ハム打線をインコース攻めにする。そういうのって後から効いてきますから」
「日本シリーズは1週間かけた戦いですからね」
「ファイターズは、札幌球場の3,4,5戦では大谷をDHにして使ってくるでしょう。広島では8番にして投手」
「うーむ、これは楽しみですねえ」
○リーガロイヤルホテルについたら、なんとディーエヌエーの選手たちが宿泊している。エレベーターで選手たちと一緒になってしまった。ホテルの人がこんなことを言ってましたよ。
「大事なお客様ですから。でも、日本シリーズは絶対カープです」
○そりゃあ、そうだよね。まだそうと決まったわけじゃないけれども、広島対札幌の戦いは熱くなりそうだ。
<10月14日>(金)
○ドナルド・トランプ氏の11年前のワイセツ発言が発覚してから今日で1週間。すっかり米大統領選挙の景色は変わりましたね。世論調査を見ても、ブックメーカーのオッズを見ても、「トランプ大統領」の確率は急低下しています。
(思えばそんな日に、あたしゃこんな記事を寄稿していたんだけど)
○そもそも今年の米大統領選は、両候補ともに好感度が低くて、「目立った方が負け」という変な戦いである。お互いに「あんな奴を大統領にしていいのか!」という選挙戦をやっているのですから。それなのに、これだけ目立ってはいかんでしょう。
(その一方で、これまで完全に「トランプ現象」の片棒を担いできたマス・メディアが、「今ぞ、とき来たれり」と言わんばかりに水に落ちたトランプを叩いているのは、あんまり見栄えのいい景色ではありませんな)
○共和党主流派がトランプ氏を見放すのは当然の成り行きだと思います。なんとなれば、@議員さんたちは自分の選挙が懸っている、A来年にはクリントン政権の発足と、最高裁判事のリベラル派優位が確定するとなれば、「ますます議会だけは譲れない」、という発想になる。
(下院も逆転するかも、という声が出始めたことには少々驚いています)
○とはいえ、年が明けてヒラリー・クリントン政権が発足する場合は、とっても低い支持率になりそうです。なにしろ民主党内でも人気がないんだもの。2001年のブッシュ政権や2009年のオバマ政権は、上下両院を与党が制したうえに、そこそこ高い支持率で発足していた。だから「ブッシュ減税」や「史上最大の景気刺激策」が可能になった。その点、2017年は「アメリカ版・決められない政治」が続きそうです。
(やっぱりヒラリー・クリントン政権は、おみくじで言えば「小吉」なんですよ)。
<10月15日>(土)
○本日は品川にてこういうセミナーに登場しました。
○司会である竹中平蔵大先輩の無茶振りに応えて、宮家邦彦兄貴と不肖かんべえがあれやこれやと答える、という企画。自分が話した内容はどうでもいいので、今日聞いた中で面白かった話を以下の通りメモ。
●アメリカ大統領選挙で今起きていることは、1980年に誕生したレーガン・デモクラッツの崩壊。これでトランプが大差で負けてくれればいいけれども、僅差だったりしたら共和党は割れてしまうかもしれない。
●トランプ現象とはアメリカにおける「ダークサイド」。Brexitを決断したイギリスにも「ダークサイド」があった。ひょっとすると中国にも・・・・? なぜ日本にはないように見えるのか?
●中東ではオスマン帝国の領土がまだ生きている。帝国があると少数民族は安全である。帝国が崩壊すると、少数民族は悲劇に遭う。シリアとイラクの国境は既に壊れた。ヨルダンやサウジが安全だと誰に言えるだろうか?
●12月のFOMCでは利上げの公算が高い。このタイミングで日本の金融政策はどう動くのか。FXにおいては、短期的にはこれがいちばんの注目点。
●アメリカで新政権が発足したら、過去にもそうだったように中国とロシアが「これを試す」だろう。中国は南シナ海で、そしてロシアはひょっとするとバルト三国で?
○いやいや、勉強になりましたですぞ。FXの世界は「マネーとパワー」が交錯する世界。面白くないはずがないのであります。
<10月17日>(月)
○最近、みずほ総研の安井明彦さんから教わったのですが、下記の3つはトリレンマの関係にあるのだそうです。
@グローバル化
A国家主権
B民主主義
○トリレンマと言うのは、3つのうち2つまではOKだけれども、3つ目は揃えられない、という関係のことです。世の中に「早くて安くて旨い店」が存在しないのと同じです。安くて旨い店にはかならず行列ができてしまう。安くて空いている店に飛び込むと、ガッカリするようなランチが出てくる。おいしいけれども空いている店は、それにふさわしいお値段で提供される。それと似たようなことが、上記の3要素にも当てはまるというわけ。
○まず@とAを選択する、つまりちゃんと政府のコントロールを効かせた状態でグローバル化しようとすると、これはちょうどシンガポールのように見せかけの民主主義となってしまう。もちろん中国のような強権政治をやってもいい。それにしたって、民意の暴走に対しては常に警戒を怠ってはならない。
○次に@とBを選択する、つまり民主主義の下にグローバル化を実践すると、当然、国家主権は後退するわけで、これはもともとEUが目指していたことであります。が、イギリスは「やっぱりAの方が大事だ」(移民を受け入れるのはもう嫌だ)と言い出した。このことは、他のEU諸国にも伝播しかねず、来年選挙のあるオランダ、フランス、ドイツなどはハラハラしなければならない。
○さらにAとBを選択する、つまり国家主権と民主主義を守ろうとしたら、当然、グローバル化には反対の声が強まることになる。例えばTPPをやりましょう、みたいな意見は却下されてしまう。日本はある程度時間をかけて議論をしてきたからまだいいけれども、最近になって「TPPって、何それ?」と言い出したアメリカなどは、マジな反対論が噴出している。まあ、2012年くらいの日本のような感じなのだと思います。
○今の世界経済はこんな感じで、グローバル化に対するバックラッシュが一斉に始まっている。Brexitにせよ、トランプ現象にせよ、Aの国家主権が突如として噴出してきて、@グローバル化に異議申し立てを行っている。そいつは具合が悪いんだけれども、B民主主義の手前、それもあまり言ってられない。
○その意味では、今の日本は奇跡的なくらいに@とAとBを同時進行させている。世界中のどこを見渡しても、安倍内閣くらいプロ=ビジネス政策を堂々とやっている政権は見当たらない。でも、Brexitやトランプ主義って、行きつくところはアンチ=ビジネス政策なので、末路哀れは覚悟の上でやっていただくほかはない。中間層が没落してしまうと、しばしば民主主義は自分の首を絞めるような決定をやってしまうものです。
○などと考えていたら、昨日の新潟県知事選挙でヒヤッとさせられた。どうやらこの国の有権者は、4年たっても民主党政権のことを忘れてはいないので、国政選挙ではちゃんと与党を支持する構えである。来週の補欠選挙も、たぶん与党が勝つのでしょう。ところが地方選挙ならばどうでもいいや、とばかりに無茶をするらしい。思えば東京都知事選も、似たような構図だったものね。中央政府は真面目に選ぶけど、地方選挙は好きにさせてもらうよ、って、それだって結構、危ないことだと思うんですけど。
○ともあれ、この国のルサンチマンは地方にあるらしい。B民主主義を真面目に続けつつ、@とAを守って行こうと思ったら、そのことに気を付けないとやばいっす。
<10月18日>(火)
○最近、カッコ良くてしびれたもの。
○その1。大谷翔平のピッチング。とにかくフォームが美しい。全身がしなって、最速165キロも出る。フォークボールが150キロ台で、スライダーが140キロ台なんて、そりゃ打てませんわな。日本シリーズは、大谷が2勝1セーブくらいを挙げて日ハム優勝じゃないでしょうか。いつの日かメジャーに行くときまで、投げる方も打つ方もたっぷり見せてほしい。
○その2。ノーベル文学賞を「シカト」しちゃったボブ・ディラン。いや、「僕・要らん」というべきか。最近のノーベル賞は平和賞と文学賞はいらねーな、と思っていたら、こんなにカッコいい反撃があるなんて。余計な能書きを垂れないところがまた素晴らしい。余計な屁理屈を言って自分の値打ちを下げるのは、左翼が得意とするところなんですが。
○その3。先般、当欄でもご紹介した『乱流』の著者でもある秋田浩之・日本経済新聞記者が、フィナンシャルタイムズ紙に派遣されて今月からロンドン赴任ですって。すごーい。なんだか急にFTが身近に思えてきた。いつか社説を書いてくださいまし。
<10月19日>(水)
○講演会の仕事で長野県中野市へ。北信地方の都市で、長野駅から長野電鉄線に乗り換えて30分くらい。あの「スノーモンキー」で知られる地獄谷野猿公苑に向かう途中にある信州中野駅で下車。
○ここは偉大なる作曲家、中山晋平(『しゃぼん玉』などの童謡から『船頭小唄』などの歌謡曲まで幅広く作曲)と、偉大なる作詞家、高野辰之(うさぎ追いし・・・の『故郷』を作詞)の両方を生み出した土地である。なおかつ、宮崎アニメには欠かせない作曲家、久石譲の生誕地でもある。
○善光寺平と呼ばれる盆地の北東部にあり、千曲川が流れる扇状地にリンゴ畑や棚田が広がっている。なるほど、名曲を生み出すのにふさわしい日本の原風景のような眺望である。お昼には郷土食堂にてシンプルかつ味わい深い蕎麦、キノコの天ぷら付きを頂戴する。
○でもって、仕事を終えてから長野市にて大学時代の旧友Y氏と合流。あれこれ語り合って、締めは長野駅構内にある信州蕎麦の草笛へ。ここでは名物のくるみ蕎麦をいただく。昼夜続いてもまったく飽きない。とはいえ、信州における蕎麦の道は奥が深いそうなので、うかつなことを言ってはなるまい。
○そういえば、今回も善光寺には立ち寄らなかった。帰りの新幹線では爆睡。
<10月20日>(木)
○テレビ討論会の第3回目。これに関するコメントは明日の溜池通信本誌に書くこととして、とりあえずここではリンクを張っておきましょう。
●Transcript
of the Third Debate
○いくらワシが米大統領選のオタクだからと言って、3度のテレビ討論会を全部フルに見たのはこれが初めてである。いや、疲れましたぞ。70歳のトランプ氏と、来週で69歳になるヒラリーさんの体力には恐れ入りました。
<10月21日>(金)
○某所での会話。
○2013年に日本がTPP交渉に参加した当初は、「私のようなグズを入れていただいて、まことにどうも恐縮です」という感じであった。それが交渉をしてみると、関税の引き下げなんかは結構頑張ったし、切るべきカードは全部切ったし、交渉の終盤では他国の仲介役まで買って出た。そして今になったら、なんと日本が率先してTPPを批准しようとしている。欧米の腰が引けている中で、日本だけが敢然と自由貿易の旗を振っている。こんな世界を誰が想像しただろう。
○アメリカ大統領選挙で、たぶんトランプ候補は負ける。そして敗戦後の共和党は荒れる。旧トランプ支持者が団結し、2020年はイヴァンカを出そう、などと言い出す。下手をすれば党が割れる。すなわち、「弱い野党」が誕生することとなる。さて、弱い野党はアメリカ政治にとっていいことか、それとも悪いことなのか。日本の経験に照らし合わせて考えると、「弱い野党は短期的には結構なことだけど、長期的には政党政治を衰退させる」のではないか。
○小池都知事、豊洲をいじったり、IOC会長を呼びつけたり、やりたい放題を楽しんでおられる。でも、IOCから見たら、ビックリ仰天だろう。「あいつら東京五輪で5競技18種目も新たに増やして、よっぽどカネが余っているのかと思っていたら、今頃になってボート会場の経費をケチるなんて、どういう料簡なんだ?」――日本は野球とソフトボールを復活させるために、空手にスポーツクライミングやサーフィンまで新たに入れちゃったんですよ。誰がそのカネを払うんですか。経費を減らしたいのなら、今からでも野球を諦めたらどうでしょう。
<10月23日>(日)
○「僕、要らん」ではない、ボブ・ディラン氏の沈黙に対し、ノーベル賞委員会が「傲慢だ」と言って怒っているとのこと。いやあ、ますます清々しいですね。
○ノーベル賞の中でも、平和賞と文学賞はハッキリ言っていかがわしい存在だと思います。なにしろ基準がはっきりしていない。きっと内部では、「そろそろ次は南米から出したいんですけど、誰かそれにふさわしい人はいませんかねえ?」みたいなことを言って決めているんじゃないかと思う。だいたい川端康成の小説なんて、今読むとつまんないですよ。佐藤栄作の受賞もまったく意味不明です。さらにオバマ大統領に至っては、剥奪してやってもいいくらいじゃないでしょうか。
○とはいうものの、この手の賞というものは、ときどき皆が「ええっ?」と驚くような人に差し上げて、みずからの存在をアピールしていかなければいかんのです。ほら、芥川賞や直木賞がしょっちゅうやってるじゃないですか。どうせ中身なんて読む人は少ないんだし、読んで違いが分かる人はさらに少ないんだし、そして本屋は本が売れればそれでいいんですから。映画におけるアカデミー賞が、ハリウッドの純然たるビジネスであるのと同じです。
○そこでノーベル賞委員会としては、たまには毛色の変わった人を受賞させて話題を作ってやろう、みたいなことを考えたのでしょう。でもボブ・ディラン氏は、「俺の知ったこっちゃない」とヘソを曲げてしまった。彼にとっては、たかだか1億円くらいの賞金なんて意味ないし、話題になったお蔭でどうせレコードは売れるし、むしろシカトしてしまう方がカッコいい、みたいな計算が働くんじゃないかと思います。ボブ・ディランの歌は1〜2曲しか知らない不肖かんべえでも、心から賛辞を送りたくなりますぞ。
○ともかく、「ノーベル賞は権威があるんだから、あげれば誰でも喜ぶだろう」という思い上がりが打ち砕かれたのは、まことに愉快なことだと思います。物理学賞や化学賞、生理・医学賞などについては、全世界の学者に推薦を求めるなどして、それなりに納得性を得ているようですが、平和賞と文学賞を密室の協議で決めておいて、皆の者、どうだありがたいだろう、というのはちょっと無理があるでしょうな。なお、経済学賞については、よくわからないので評価を留保したいと思います。
○さて、明日からちょこっと韓国に行ってきます。でも、ソウルって、何を見ればいいんですかねえ。ホテルは江南らしいんですが、何かお勧めがありましたら教えてくださいまし。とっても久しぶりだし、韓国語はまったくできないし、韓流ドラマも見ないもんですから、ちょっと悩ましいです。
<10月24日>(月)
○ということで、ソウルに来ております。会議は明日なので、午後に少しだけ街を散策してきました。
○こちらは天気は良くて、いちおうコートも持ってきたんだけど、暖かいくらいである。ちょっと前に「カンナムスタイル」という歌&ダンスが流行ったが、その「江南」のホテルにチェックインした。ちょっとお洒落なところで、東京であれば恵比寿か自由が丘あたりか。
○こうしてみていると、韓国は普通の先進国ですな。これが中国だと、道行く人たちのテンションが高くてこっちまで緊張するんだけど、こちらでは日本と同様に皆がのんびりしている。地下鉄の中なんぞは、10人中10人がスマホの画面を覗きこんでいる。あとはコーヒー店が多いのと、道をゆくバスが多いのが特色ですかな。
○道を歩いていたら、どでかいビルが目に入った。まるでSF映画のような光景である。エージェント・スミスのような恰好をした若い社員が、交通整理をやっているので尋ねてみたら、案の定、これがサムスン電気の本社であった。うーん、このビル、きっと周囲の反感買うぞ、と思ったら、会社の前にテント村を作って抗議活動をしている人たちがいた。何でも、半導体工場で若い社員が大勢ガンで死んでいる、会社は責任を取れ、といっているようである。ノート7の発火以外にも問題はあるようだ。
○このところ「韓国経済って大丈夫なんです」と聞かれることが多いのだが、ワシ的には「そんなこと、知らん」としか答えようがない。だって詳しくないんだもの。確かに中国経済の減速で海運会社がつぶれたり、いろいろあるようだけれども、日本経済と同じで石油安のメリットがあったりするので、そんなに悪いことにはならんのではないかと思っている。
○むしろ心配なのは北朝鮮の方である。いろんなことがあって驚いてばかりだった2016年も残り2か月、最後にアッと驚かせるものがあるとしたら、それは北から来るのではないかと。明日の会議ではその辺の最新事情が聴けると面白いんですが。
<10月25日>(火)
○本日は朝から晩まで韓国の外交専門家たちと対話。アメリカをどう見るか、中国をどう見るか、北朝鮮はどうなるか、などなど。雑駁な感想として、インテリはどこの国でも考え方はそんなに大きくは違わない。中国共産党が大好きだ、とか、ドナルド・トランプが勝ってくれればいい、なんて人はいない。でも、お互いの立場があるから、いろいろ対立や誤解も生じることになる。
○まして日韓の歴史問題ともなると複雑である。簡単に割り切ることができれば、こんなに楽なことはないのであるが。日本人が心から謝罪するとか、韓国人がそれを気持ちよく受け入れるというイメージを、双方が持っていないというところに問題の根源があるように思える。
○いつものことながら国際会議に出ると、身体を動かさずにコーヒーばかり飲んで、メシもよく食べるからついつい太ってしまう。ところで昨日の晩飯が和食で、今宵がイタリアンとはこれいかに。どちらも美味であったのだが、このままでは韓国料理の機会が失われるかもしれぬ。こんなことでいいのだろうか。
○今回の日本側メンバーで、お久しぶりにお会いした伊豆見元先生からこんなことを教わりました。「釜山に行ったら肉を食え。あそこの韓国産牛は旨いぞ。海産物なんてどうせ玄界灘なんだから、そんなもの福岡で食えばよろし」。――これは意外な豆知識というものでした。ほかにももっと有益な話はいっぱいあったのですが、とりあえず今日はここまで。
<10月26日>(水)
○ソウルの会議で発表した際には、こんなデータをご紹介しました。
●一人当たりGDPの変化(単位:米ドル)
2001 | 2015 | 人口 | 名目GDP | ||||
中国 | 1,047 | → | 7,989 | × | 13億人 | = | 10.9兆ドル |
日本 | 32,729 | → | 32,485 | × | 1,2億人 | = | 4.1兆ドル |
韓国 | 11,258 | → | 27,195 | × | 0.5億人 | = | 1.3兆ドル |
アメリカ | 37,241 | 55,805 | × | 3.2億人 | = | 17.9兆ドル |
○これ、ちょっと面白いでしょ? いろんな読み方ができるデータだと思います。データはIMFのWorld
Economic Outlookから取っています。
○中国経済は、1人当たりGDPを15年間で1000ドルから8000ドルに増やした。15年間で年収8倍、と考えれば、これは経済政策の大成功と呼ぶほかはありません。もっともこれから先は、1万ドル前後の「中所得国の罠」ゾーンに突入するわけで、これから先はいろんな悩み方をするはずです。
○逆に日本人にとっては、内心グサリと刺さるデータだと思います。上はもちろん為替のマジックが働いているので、円高であれば4万ドル以上になるのですが、たまたま2001年と2015年を比べるとほぼ同じになってしまう。この間に着々と韓国は伸びていて、「もうじき日本に追いつける」と考えている。近年の強気な対日姿勢の一因はここにあるのだと思います。
○どうやら日本は、「高所得国の罠」(こんな言葉はありません。不肖かんべえが勝手に作った言葉です)になって伸び悩んでいる。でも、まあ、それで社会が不安定になっているかと言えば、1人当たりGDPがちゃんと増えているアメリカの方が、大統領選挙を見る限りよっぽど剣呑な感じになっている。国民にとって何が幸福なのか、一概には言えないのであります。
○GDPという統計は、1人当たりが3万ドルを超えるとかなり無意味化する指標だと思います。でも、他国が日本を見るときはこんな風に見えてしまうのだということを、われわれはちゃんと直視しなければなりませぬ。
<10月27日>(木)
○てなことで、昨日、韓国からは帰ってきたのでありますが、パククネ大統領がえらいピンチに陥っているようである。帰りの飛行機の中で、隣の人が読んでいた新聞にいっぱいパククネ大統領の写真が出ているので、「何が書いてあるのかな〜」(ワシ、ハングル文字は全く読めましぇーん)と思っていたのですが、どうやらこのことだったようで。支持率17.5%とは悲し過ぎます。
○初の訪日が近いというのに、このままではどうなってしまうのでありましょうか。今年は年内に日中韓首脳会談が日本で行われる予定です。そんなこと言っても、今年は残り2カ月くらしかないわけなのですが、でも中国の返事がないものだから困っているわけです。ひょっとすると年末かもしれませんぞ。昨年の日韓合意も、12月28日という年の瀬だったではありませんか。
○「アジアで新暦で正月を祝うのは日本だけ」なのであります。だから中国と韓国は年末に忙しくないのです。その場合、日本の外務省は大変でしょうけれどもね。
<10月28日>(金)
○などと今週は、韓国情勢に目を奪われていたように見えるかもしれませんが、こんな原稿も書いていたのです。
●「ヒラリー大統領」後のアメリカはどうなるか」(東洋経済新報社)
○「この記事、競馬の予想は不要だろ」というご指摘をよく受けます。まあ、たしかに秋の天皇賞の予測であれば、日曜朝になれば上海馬券王先生の予測が読めるわけでして、たぶんそっちの方が充実していることは間違いないです。競馬に関心のない方にとっては、「余計なものがついている」という感じかもしれません。
○ところが書き手としましては、「後に競馬の予想がついている」お蔭で、本編では「ここまではちょっと書けないな」ということが、書けてしまうのであります。これ、たぶんほかのお二人もそうだと思うのですが、他の媒体よりも一歩踏み込んだけことが書けてしまう。まあ、その分、外れも多くなる理屈ですけれども、その辺を割り引いて読んでいただければ、非常にお役立ちの情報が取れるんじゃないかと思います。
○この連載、2012年秋に始まってもう4年目になります。木曜締切、金曜掲載なので、競馬予想は枠順が決まらないうちに考えなきゃいけません。今年から毎週掲載になって、3週間に1度、すぐに順番が回ってくるようになりましたが、山崎元さん、ぐっちーさんとあわせてご愛読をいただければ幸いであります。
○ところでこの連載には、熱烈なる競馬ファンであるオバゼキ先生が入っていない。編集部に理由を確認したわけじゃないですが、これは東洋経済オンラインに「小幡績の視点」という連載が既にあったからだと思います。そっちで十分に固定客がついていることでしょうが、「悪の道」に誘い込みたいという気もちょっとだけいたします。まあ、オバゼキ先生の予想は、ちゃんとご自分のブログで披露されるわけでありますが。
○さて、日曜日の秋天はどうなるのか。これが本当に久々に噛みごたえのあるような難問でありまして、相当に迷ってしまいそうです。
<10月29日>(土)
○昨晩、アメリカの7−9月期GDPの速報値が公表されました。前期比2.9%成長。3四半期連続で1%前後の成長が続いた後では、とっても高成長に見えます。とりあえず、2〜3%の軌道に戻ったということで、素直に喜んで良いのでありましょう。
2014年 | 2015年 | 2016年 | |||||||||
T | U | V | W | T | U | V | W | T | U | V | |
実質GDP成長率 | -1.2 | 4.0 | 5.0 | 2.3 | 2.0 | 2.6 | 2.0 | 0.9 | 0.8 | 1.4 | 2.9 |
○逆に今年前半のアメリカ経済が期待を裏切っていた理由は何なのか。今週25日に発表された月例経済報告の資料の中にその答えが示されています。
○ご覧いただきたいのは、今月分の「関係閣僚会議資料」です。その10p目「アメリカ経済:景気は回復が続いている」のページにある3枚のグラフが面白い。
(1)設備投資のうち、「鉱業関連の民間設備投資は8四半期連続でマイナスが続いている」
(2)原油掘削リグの稼働数は大幅に減少している。
(3)石油関連企業の破綻件数が、今年の春に激増している。
○(2)は皆が知っていることですが、(1)と(3)は「なるほどね」です。石油価格は2014年夏から急落しました。1バレル100ドルを超えていたものが、半値以下になってしまった。今年の春頃には1バレル20ドル台まで低下した。さすがにこれは相場の大底と見てよいらしく、9月の「アルジェ合意」以降は1バレル50ドル台を回復している。11月30日のOPEC総会で各国の減産が決まれば、50〜60ドル台が定着するでしょう。
○つまりですな、アメリカ経済は石油価格の下落に足を引っ張られていた、ということになります。これまでの常識では、「アメリカ経済にとって石油安はいいニュース」で、ガソリン代が下がれば個人消費が下がるから大いに結構、であった。どうも今はそうではなくなっている。だってシェール開発のお蔭で、世界最大の産油国になっているんだもの。
○シェールの井戸は既にたくさん掘ってあり、フラッキングすればすぐに開発を再開できる。ゆえに石油価格が上昇すると、すぐに増産が可能になるから、石油価格の過度な上昇は止められるだろう。これを称して、「これからはサウジアラビアではなく、アメリカがSwing
Producerになる」という見方があるんだそうだ。ということで、今後は産油国・アメリカ経済が復調するということになる。年末は利上げで、やっぱりドル高・円安方向じゃないでしょうか。
<10月30日>(日)
○置く能わず、というのはこういうのを言うのでしょうか。『住友銀行秘史』のことであります。昨日読んでいて、どうにも止められなくなって、昼飯をどうしようと考えた挙句(配偶者は外出中であった)、とっても久しぶりに台所にあったチキンラーメンを食べてしまった。それくらい面白かった。読み終えた午後2時ごろには虚脱してしまいました。なるほど、やまげんさんが激賞していただけのことはある。
○とは言うものの、万人に勧められる本というわけでもない。まず何より、1990年から91年にかけての世情を知っていないと理解できないだろう。当時のバブル経済がどういうものであったか、イトマン事件がどれだけ衝撃的であったか、許永中という人がどれだけ怖かったか、往時を知らない人には全然ピンとこないだろう。さらに当時の日本企業にはコンプライアンスなんて概念はなかったし、大蔵省の存在は絶対であったし、護送船団方式の中では銀行にまともな経営者が育つはずもなく、でも、「磯田天皇」なんて存在があったりした。そんな遠い昔のお話である。
○本書の著者はもう70歳を超えていて、25年前の話を復元しているわけだが、それは当時のメモに基づいている。このメモがまことに信憑性が高いものであって、平成バブル史の超一級資料と言って差し支えないだろう。こんな克明なメモを1年以上にわたって取り続けられること自体、銀行マンとして超人的な事と言わざるを得ず、よくまあ墓場まで持っていかずに公開してくれたものである。
○その反面、著者の国重淳史さんという人は、つくづくユニークな人だと思う。住友銀行が闇の勢力に食い物にされている、ということに怒り、大蔵省へ内部告発の文書を送ったりしている。社内の上層部に対する怒りもまったく隠さない。その一方で、諸悪の根源であるところの伊藤寿永光や許永中に対する関心は低い。なぜバブル経済が起きたのか、とか、当時の世相がどんな風であったかもほとんど言及がない。そういう意味では不親切な本である。だが、そのことは本書の価値を損なうものではない。
○たまたま今宵、さる結婚式に出席したところ、麻布自動車の渡邉喜太郎氏が来ていた。それこそバブル時代の申し子のような方でありまして、挨拶がまたまた凄いものでありました。あれから幾星霜、今も我々は往時の影響下に生きている。
<10月31日>(月)
○うーん、10月は仕事をし過ぎた。お蔭でちょっと虚脱気味である。今年ももう残り2か月。そしてあと1週間と少々で、米大統領選挙の投開票日がやってくる。また明日から気合を入れることにいたしましょう。
○ということで、こんな替え歌はいかがでしょうか。「君の社は。」という題名だけで充分に笑えちゃいますね。でも元歌を知らないので、あんまり細部はわかりませんが。こういう歌を聴くと、つくづく日本企業における「働き方改革」は急務であるなと思われます。
○でも、当溜池通信的には「日本経済を明るくするのは、むしろ遊び方改革である」ということにしておきたい。皆が遊び方を覚えれば、働き方は放っておいても変わるはず。でも、日本人が全般的に遊び方が下手なものだから、いろいろ無粋なことが起きてしまうのであろう。
○働くときは他人に合せているだけでも務まるが、遊ぶときは何より自分が楽しくないと始まらない。実は遊び人になることは、意外と難しいのである。個として自立していないといけませんから。ますます「遊び方改革」は大事だと思うんですよねえ。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki