●かんべえの不規則発言



2012年9月







<9月2日>(日)

○首都圏は昨夜から待望久しい雨。今年の8月は本当に暑かったですなあ。

○久しぶりに溜池通信を2週連続で書いたら、土曜日は風邪で発熱。薬を飲んで、大事をとって半日寝込む。で、ひとつ発見したのは、こっちの調子が悪いときに、フェイスブックを見るもんじゃないということ。あれは「僕ってこんなに元気」ということを世間に知らしめるものなので、読んでいるうちに、「人がみな我より偉く見ゆる日よ」(@啄木)という気分になってしまうのである。

○で、本日は少し元気が戻って、成田空港。これから東南アジアに行ってきます。最初の目的地はバンコク。とっても久しぶり。飛行機の中で、にわか勉強をしなければなりません。タイと言えば、「初の女性首相誕生」と「大洪水」のニュースは散々聞いたけど、その後はとんと噂を聞かない。ということは、きっと万事うまくいっているのではないかと。では、行ってきます(11:11am)。

        ◇         ◇         ◇

○ということで、やってきたのが10年ぶりのバンコクである。暑いくて蒸す。だから汗をかく。って、当たり前か。

○今はタイ・バーツは2.5円くらいであるらしい。昔に比べれば、ずいぶんと円高になったものである。でも成田空港で替えた1万円は3340バーツで、1バーツ3円くらいであった。いい商売しとるのう、京葉銀行は。対ドルでは1ドル=31バーツくらいで、昔に比べればバーツ高である。確か1997年の通貨危機以前の公定レートが1ドル=26バーツだったから、その頃とあまり変わらない水準に戻っている。つまるところ、下がったのは米ドルということになる。それでもQEVって、やりますかねえ。

○スワンナプーム国際空港から、タニヤ街のホテルまでは約30分くらいで350バーツであった。初めてバンコクに来た1993年には、空港が遠かったものだから、大渋滞で市内まで1時間半くらいかかったものである。こちらとしては、飽きれながら周囲を埋め尽くすクルマやバイクの群れを眺めるしかなかった。さて、当時と比べてどこが変わったのか。あんまりよく分からない。とりあえずセブン=イレブンの店舗が増えたことくらいか。あ、ファミマもありました。初音ミクは居ませんけど。

○ジム・トンプソンの店に入ってみたら、シルクのネクタイが1本1600バーツであった。お値打ちだとは思うが、これ以上の値付けはちょっと難しいように思える。タイ経済を象徴するような商品ではないかと思う。凡庸・月並みではないのだが、ある一線を超えるところまではいかない。今日のように、あらゆる産業が「オタク化」する時代においては、これは少々不利な条件かもしれない。

○ホテルの部屋がやけに涼しいと思ったら、設定温度が23度であった。これも南国特有の現象といえましょう。これ、気をつけないと風邪がぶり返します(23:22pm)。


<9月3日>(月)

○バンコクの街並みを見ながらしみじみ考える。@文字も読めず、A言葉も通じず、Bキレイでもなく、C年中蒸し暑い街なのに、どうしてこれだけ多くの外国人観光客が集まるのだろうか。

○観光客だけではない。日本企業も、その駐在員も、あるいは何となく来ている人も含めて、一説には5万人くらいの日本人が住んでいるという。進出している企業数で行くと、すでに上海に抜かれているはずなのだが、あちらは生活の上で必要があって住んでいる人がほとんどではないかと思う。バンコクには、この街に魅せられてしまって定住している人が相当数いるはずである。

○バンコクの魅力は何かと考えてみると、@物価が安く、Aメシがうまく、B気楽であり、C安全だからではないかと思う。これだけ全部条件を満たしている都市は、ありそうで見当たらないものだ。

(1)食品など生活に必要な物価が安いのみならず、タクシーの初乗り料金が100円くらいなど、サービス料金全般が安い。

(2)日本食レストランが1000軒以上というのもすごいが、イタリアンレストランなどもレベルが高い。その理由は、「タイ人の女性を妻として定住しているイタリア人が多いから」だそうだ。

(3)去年は確かに「黄色と赤シャツの衝突事件」があり、「50年ぶりの大洪水」があったはずなのに、とっても平和そうに見える。社会全体のテンションやプレッシャーが低いんじゃないだろうか。

(4)凶悪犯や詐欺師の類が極端に少ない。失業率が極端に低く、食べ物も有り余っているから、悪事を働く必要性が低いのかもしれない。

○ということで、1日過ごすと「ああ、そうだった。タイってこんなところだった」と思い出してきた。この10年で、自動車産業の繁栄や社会インフラの改善など、いい面もいっぱいあったはずだし、国王の健康不安などの問題もあるはずなのだけど、「基本的に変わってない」ように見えるところがタイらしい。

○慶応大学の神保謙さんが、サバティカルでこちらのタマサート大学の客員研究員をやっている。王宮の近くにある伝統ある大学を訪ねて、東南アジアの近況やら日本政治の行方などで意見交換。帰りにクルマで送ってもらったら、「今日は信じられないくらい渋滞が少ないですよ」と驚かれてしまった。そうなのだ。バンコクはいつも渋滞している。だからといって、殺伐としたり、イライラしているわけではなく、クルマとバイクと歩行者が渾然一体となって、奇跡的に互いにすり抜けている。そしてパトカーは滅多に見かけない。

○1日過ごしただけで、何となく東南アジアに関する勘が戻ってきた気がする。やっぱり「最初にバンコク」が正解であった。明日はシンガポールに移動します。


<9月4日>(火)

○タイ航空がチャンギ空港に降り立ったのが11:23頃。滑走路を移動して、ゲート到着が11:30。まったく行列のないイミグレーションを11:35に通過。税関フリーパス。タクシー乗車11:40。道路には渋滞なく、双日のオフィス到着が12時ちょうど。わざわざ時間を計測してしまったが、シンガポールの緊張感は10年前とまったく変わっていない。

○ところがこの国は、10年前とはずいぶん変わっている。

●面積:昔は「淡路島程度」、今は「東京23区」。埋め立てがあって、どんどん増えているのである。

●人口:昔は400万人程度。今は500万人を超えている。移民政策の結果。

●一人当たりGDP:とうとう日本を抜いてアジア一の座に。特にリーマンショック後の伸びが素晴らしい。

○10年前に感じた「おう、やるじゃねえか」という印象は、「ちっ、やられてしまったぜ」に変わったということになる。小さな会社が「わが社はどうやって生きていくか」を真剣に自問自答しながら、強権と言われようが、官主導と言われようが、やるべきことを続けてきた成果と言っていいだろう。もっとも国民の側は、こうした繁栄にかならずしも満足というわけではなくて、選挙のたびに「造反票」が増えて政権側を震撼させているのだそうですが。

○とりあえず、マリナ・ベイ・サンドに出かけてみました。SMAPのCMで有名ですが、よくまあ、こんなものを作ったものです。総投資額は5000億円というから、つまり原発1基分。それを5年で回収しようという勢いなんだそうで、要するにいかにカジノが儲かるかという話でありますな。間近で沸き立つチャイナマネーをどうやってゲットするか。真剣に考えると、こういう答えが出てくるものらしい。秋葉原で中国語のできる店員を増やす、なんていう努力をしているのとは桁が違う。

○タイはあんまり変わっていなかったけど、シンガポールは大いに変わった。この10年の威力をまざまざと見せつけられた感があります。


<9月5日>(水)

○ホテルの部屋でCNNやCNBCをつけて、全世界のニュースを聞いているだけで、なんとなく自分がアジアの中心で、グローバルな流れに身を浮かべているような気がしてくる。この辺がシンガポールの魔力というもんでしょうか。外資系金融がアジアの拠点を、東京からシンガポールに移すというのは、なるほどわかる気がする。

○テレビでは、ついつい民主党大会を見てしまう。皆さん役者でありますなあ。でも、ここにはヒラリー・クリントンが居なくて、彼女はアジア歴訪中なんですよね。2期目のオバマ政権があっても、彼女はそこには居ない。アジア重視外交の立役者が居なくなったら、「太平洋大統領」はどうするんだろう。余計な話ながら、今回のアジア歴訪にはブルネイが入っているのが興味深い。ASEANの来年の議長国って、ブルネイなんですよねえ。つまり仕込みですね。

○当地で面白いなと感じたのは、「今日は7時から夕食会なんで、6時45分に迎えに来ます」などと、待ち合わせが15分刻みであったりする点。街全体がそれほど大きくはないし、クルマの数量規制が行われているから、滅多に渋滞しない。だから15分単位で予定を考えることができる。こういう都市もめずらしいだろう。ちなみに当地ではクルマは超高額商品だが、ステータスとして持ちたい人が多いために、超高級車がそこらじゅうを走っている。他方、タクシー料金は非常に安く設定されている点などは、巧妙な交通施策の一環ということになる。地下鉄も乗ってみたけど、これも安かった。

○こんな成功ストーリーはいつまで続くのか。果てしない成功を見てみたい気もするし、どこかで支障が生じるというのもアリなんじゃないかと思う。そのうち、チャンギ空港から市内まで1時間かかるようになった、なんていう日が来るかもしれない。

○新興国が先進国になる、というのは、思ったより難しいものである。それを簡単にやっちゃったのが、かつては日本、今日ではシンガポールということになる。いわゆる「中所得国の罠」という段階を上手にすり抜けてしまった。経済成長には格差が付きものなんだけど、国内に落ちこぼれを作らずに所得を増やす、というのがポイントなわけでして、簡単に言っちゃうと「スラムを作るな」ということになります。

○日本とシンガポールのテイクオフというのは、いずれも無自覚に達成されている感があるので、こういうプロセスをだれかきちんと研究してくれませんかねえ。


<9月6日>(木)

○昨日、日本人商工会で講演をした際に、「“中所得国の罠”から逃れるためには、"社会包摂的な成長”が必要です」てなことを申し上げました。そしたら今朝のStrait Times紙の一面に、当地の副首相が「シンガポールには"Inclusive Growth”が必要であって、だからこそ政府は介入しなきゃいかんのだ」と述べたという話が出ていた。なるほど。

○"Inclusive"というのは最近の経済学の流行語の一つなんじゃないかと思いますが、分かりやすく言ってしまうと「落ちこぼれを作らない」ということになります。都市にスラムができてしまうと、そのことによるコストは膨大なものになってしまう。シンガポール政府が、自分たちはそのためにActivist Governmentであり続けるのだ、というのは面白い論点だと思います。少なくとも彼らは問題の所在に気づいているし、そのことに対する緊張感も健在であるようです。

○さて、本日は午後イチの飛行機でベトナムのホーチミンへ。ここも10年ぶりで訪れているわけですが、変貌ぶりということではタイやシンガポールを上回る。なにしろ、以前に訪れたときは「この国は一人あたりの収入が300ドルくらいだけど、実態は500ドルくらいあるらしい」という話を聞いていたのだけど、今では堂々1000ドルを超えている。ということで、久しぶりのベトナムで驚くことを挙げてみましょう。

(1)道路を埋め尽くすバイクの群れは相変わらずだが、クルマの数も相当に増えた。しかも新品ばかり。

(2)衣食足りて礼節を知ったか、クラクションの音が少ない。少なくとも10年前の半分以下。

(3)ファッションセンスがあか抜けてきた。もっとも覆面スタイルでバイクを運転する女性もあいかわらずですが。

(4)新設のホテル日航に投宿したところ、ここのトイレにはシンガポールにもなかったウォシュレットがある!

(ちなみに弊社SPE駐在員の「大痔主」さんによれば、「ウォシュレットはよくない」との学説もあるんだそうで、単純に喜んではいけないかもしれない)

○10年前に当地のオム二・サイゴンホテルに泊まった時は、インターネットにつなぐ方法がなく、電話回線を引っこ抜いてPCにつなぎ、ニフティのローミングサービスにアクセスしたものであった。考えてみれば、この10年でもっとも大きく変わったのは、その手の情報環境でしょうな。今ではCNNも日経新聞も簡単に手に入るし、スマホやWi-Fiも自然に普及している。便利な世の中になったものです。


<9月7日>(金)

○これで2日ずつバンコク〜シンガポール〜ホーチミンの3都市を回ってきたわけですが、それぞれ「10年ぶり訪問」の印象をまとめると以下のようになります。

(1)タイ:インフラの整備など、10年前に比べて進歩していることは山ほどあれど、人間は基本的に10年前と変わっていない。これで本当に昨年は黄色と赤シャツの衝突があったのか、50年ぶりの大洪水があったのか、というのが不思議に思えるくらい、世の中は安定していて、こともなげに見える。おそらく10年後になっても、この国の人たちはマイペースで楽しくやっているだろう。そのことは、われわれがとやかく言ってどうなるものでもない。

(2)シンガポール:10年前には「おぬし、なかなかやるな」であったが、今では「おそれいった。まさかここまでやるとは」と感心するしかない。なにしろ一人あたりGDPで日本は抜かれてしまったので、今さら「上から目線」というわけにはいかぬ。なにしろ先方は、「日本のようになってはならぬ」と緊張感を維持しているのだから。それでも「やっかみ半分」で申し上げるならば、今後は高齢化も急速に進行するので、10年後のこの国は今ほど快調というわけにはいかないのでありましょう。

(3)ベトナム:この10年で、一番変わったのがベトナムである。何しろワシが1999年に初めて来たときは、ハノイの入国管理官(軍人)があまりに威張っているので、ほとんどあきれ返ったくらいであった。ところが今や、この国は数日の入国であれば、ビザが必要ないどころか出入国カードさえ不要になった。さすが、TPP交渉に参加しているだけのことはある。今では空港に着陸してから、30分後には双日のホーチミンオフィスに到着できてしまう。

生活水準も大きく変わった。1990年代には、「公式統計では一人年間300ドル。でも、実質的には500ドルくらいか」と言われていた。それが今では、公式統計でとっくに1000ドルを超えている。ベトナム戦争後に生まれた団塊世代が、こじゃれたファッションで街を埋め尽くしている。GDPの伸びと人口の伸びを掛け算すれば、まことにもって心強い。まあ、経常収支の赤字と通貨安とインフレが問題だったりするのですが。

午前中に、当社双日が造成中の工場団地を見学しました。眼前に広がる270ヘクタールの大地、というのはつくづく壮大なものである。ちなみに東京ディズニーリゾートの面積が100ヘクタールくらいなのだそうだ。果てしなく広がる赤土の大地が、来年の夏には工場団地として売り出され、10年後にはギッシリ埋まっているかもしれない。と、考えればまことに心強いが、新興国ならではの死角もありそうだ。でもまあ、この国の変われる力を信じるならば、きっと10年後は明るいと思っていいのではないか。

○てなことを、本日はホーチミン日本商工会でお話しいたしました。これにて任務は完了であります。

○それにしてもバンコク〜シンガポール〜ホーチミンという順序は最適でした。週の前半は連日のように辛い物を食べ、旨いことは旨いのだけど、さすがに疲れてくる。そして後半は、野菜が多くて油の少ないベトナム料理です。フォーなどの出汁がいいですな。

○それから3都市共に、赤道に近い南国であるにもかかわらず、気候が東京より過ごしやすい、というのはどういうことなんでしょう。8月末にはバテバテだったのに、こっちに来てから元気になってきました。帰国してからまたも暑さでぐったり、というのは避けたいところです。いや、真面目な話。


<9月8日>(土)

○ホーチミンのスーパーを3軒回ってきました。こちらはもう、消費財は何でも手に入りますね。ブランド類も超高級品まで一通りそろっていて、ないのは「ユニクロ」くらいじゃないでしょうか。貧困層が減って、中間層と富裕層が増えるという新興国経済にあっては、この辺はきわめて自然な現象です。

○日本製品が大好きで、ブランドローヤリティが強い当国では、最初に定着したブランドが無類の強さを発揮します。その昔、モーターバイクのことが、「ホンダ」と呼ばれていたのは語り草です。では、この国のインスタントラーメン市場を制しているのはどこでしょう? 実は早期にベトナム市場に参入したエースコックが、シェアの6割を握っているのです。ぶたのコックさんならぬ、少年の顔をしたコックさんと、"Vina Acecook"というロゴは、信頼のブランドとして当地で定着しています。

○ここへ挑戦しようとしているのが、ラーメンの王者・日清食品です。現地にノンフライ麺の工場を作り、まずは牛、とり、エビの3種類の味の袋めんを売り出しました。商品名は「JAPAN Nissin」。なんとも強気な名前で、これで旨くなかったら文字通り「日本」の名折れですが、そもそもインスタントラーメンを作った本家本元ですから、プライドを賭けての挑戦ということでありましょう。

○たまたま今日、訪れたスーパーはこの商品のキャンペーン中でした。黒服の司会者が客寄せをやって、俳優を使ったCMを流しながら、メイド服のお嬢さんたちがラーメンをお客さんに配っておりました。この手のセールスプロモーションの手法は万国共通ですな。ついついお代わりしてしまった私を誰が責められよう。

○その場で流れていたビデオクリップが涙ものでした。ベトナム語なんで、言ってることは分からないんですが、最初に焼け跡闇市の日本の映像が流れ、そこから安藤百福が登場し、一念発起してインスタントラーメンを作り上げる。そして「チキンヌードル誕生」、「カップヌードル流行」、そして世界に躍進する日清食品というお話になっている。ラーメン好きにはお馴染みの物語である。そうやって、「とうとう日清がベトナムにやってきた」と訴えている。

○お値段的にはかなり安い。普通の袋めんが3000ドン台(12円くらい)のところ、4000〜5000ドンで売っている。強気な値段設定ともいえるのだが、文字通り満を持しての挑戦なのでしょう。さっそく購入しましたが、レジで並んでいた前の人は日清を、後ろの人はエースコックを買ってました。


<9月9日>(日)

○ふー、帰ってまいりました。バンコク〜シンガポール〜ホーチミン、三都物語1週間駆け足興業はこれにて終了でございます。案の定、東京は暑い。汗がだらだらと流れます。東南アジアで過ごしているうちに、国内政局はいろいろありましたし、アメリカでは民主党大会があったり、雇用統計が10万人を割れたりしてましたが、そっちの方も少しずつ追いつきたいと思います。

○今回、訪問した3都市のいずれでも、「月餅の準備」が行われておりました。中秋節の準備のようですが、「名月と月餅」という中国発祥の習慣は、東南アジア全域に伝わっているようです。ただし月餅というお菓子、日本人としてはそんなに旨いものとは思えず、どことなく違和感がありますけども。

○ふと思いついたのですが、遣唐使であった阿倍仲麻呂は、中国で科挙に合格して進士となり、官吏としてベトナムに赴任をしたそうであります。彼の「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」という和歌は、かの地で月餅を食べながら、ふと創意が浮かんだのかもしれません。

○往時も今も、「グローバル人材」たるものはいろいろ思うところがあるのでしょうなあ。


<追記>しつこいようですが、このCM、面白いです。登場しているのは皆さん、ベトナムの著名俳優らしいです。

http://www.youtube.com/watch?v=M42oYyIrYTk 


<9月10日>(月)

○1週間ぶりの東京は、少しは涼しくなったような気がする。が、通勤時間はとっても長い。そして会社宛てに届いているメールはやたらと多い。うーむ、これが私の生きる道、なのだろうか。

○さて、ここ1か月くらい燃え上がっている領土問題について、外務省のHPがとっても充実しております。以下にリンクを張っておきますので、どうぞご利用ください。

●竹島問題(日本語英語韓国語

●尖閣諸島に関するQ&A(日本語英語中国語=PDF)

●北方領土問題(日本語

○願わくば北方領土問題も、英語版とロシア語版を作っておいてほしいと思います。

○てな感じで、日本外交としては理を尽くしてわが国の主張を訴えるわけですが、たぶんに中韓のそれは国民感情という「気合い」が入っているので、ついていくのに骨が折れますね。

○韓国の方は、自分の側が実効支配しているのに、「独島はわがもの」と言い張る(すなわち、領土問題があることを認めている)という不思議な行為であります。なにしろオリンピックの場でまでやっちゃうんですから、病的と言わざるを得ません。これはもう外交問題ではなくて、国家的アイデンティティを守るための深層心理学なんでしょうな。日比谷公園の1.4倍の面積をゲットするために、異常な労力を尽くしているとしか思われません。

○中国の方は、少しは理詰めのところがあります。日本の「日中中間線」理論対中国の「大陸棚」説という対決です。ただし、同じ中国が南シナ海でやっている議論はかなり荒っぽいもので、つまるところは「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」というジャイアン式の感が否めません。もともと国境線の概念がなかった大国が、19世紀に「国際法」を振りかざす欧米列強に領土を掠め取られたという怨念がこもっているからかもしれません。

○ということで、あんまり理屈の通じない相手に理屈で対抗するという図式です。やってて虚しいところもありますけど、この喧嘩は第三者を味方につけるしかないわけでして、辛抱強く国際世論に訴えていくほかにないのだと思います。広報の基本は"Honesty is the best policy." 気合いの相手に気合いで対抗しようとすると、得てして墓穴を掘ります。

○後は相手になめられないことが大事で、政治家がコロコロ変わるとか、自らの経済力を棄損させるような政策をとるとか、日米同盟を危うくするとか、そういうことが日本の立場を弱くします。溜池通信風に言えば、「最終的にはPlan Bで行くかもしれないけど、対外的には出来る限りPlan Aを続ける振りをしておく」ことが重要かと思います。


<9月11日>(火)

○民主党の代表選はしみじみ哀れである。

○野田首相の再選は確実、というのは当たり前の話で、もしほかの人が勝ってしまった場合、次はどうしたらいいのか。すぐさま国会を召集して、首班指名選挙をやるべきなのだが、そこで誰が勝つかは、文字通り蓋を開けてみないと分からない戦いになってしまう。ちゃんとそこまで考えているのだろうか。まあ、立候補している人の中には、先週の週刊文春の選挙分析で「C-」の評価を受けている人もいて、単なる選挙運動モードの人もいるのかもしれませんが。

○自民党の総裁選はしみじみ訳が分からない。

○谷垣さんを変えるべき理由とはなんだったのか。長年与党を務めた政党が野党に転落したときに、新しい党首が3年もその地位を継続できるということは、それ自体が一種の奇跡だと思う。しかもこの間の選挙は全部勝っている。少なくとも、総裁を支えるべき幹事長が、矛先を転じて挑戦してくる名分は立たない。

○強いて言えば谷垣さんの罪は、通常国会の幕切れになって我慢できなくなり、問責決議案を出してしまったことだろう。せっかく自分でまとめた三党合意を、そのために危機にさらしてしまった。「お国のために」よりも党利党略や自分の都合を優先してしまった。それはまことに残念なことであったと思う。

○「三党合意」は、何が何でも守らなければならない。何となれば、「社会保障と税の一体改革」は、三党合意のもとに成立している。消費税率を上げることは決まったが、社会保障については与野党の開きが大きいから、「国民会議」なるものを開催して、そこで決めるということになっている。つまり、社会保障の改革は仕掛品であり、先送りされている。三党合意が消えれば、おそらくは国民会議も開かれなくなり、ついには社会保障の論議も宙に浮くことになる。

○民主党がマニフェストに掲げていた「最低保障年金」などは、所詮は世迷いごとであると思う。国民会議で、あっさりと葬り去られるだろう。かといって、社会保障の論議を抜きに、消費税増税を「食い逃げ」されるのも、国民としては業腹ではないか。この点は、声を大にして言いたいと思います。


<9月12日>(水)

○アメリカ大統領選挙はいよいよ残り8週間。二つの党大会が終わっているので、完全にホームストレッチに入った感がある。「で、どっちが勝つの?」と聞かれると、「やっぱりオバマかなあ」と答えています。もちろん何が起こるか分からない世界ですけども、強いて賭けをするなら、以下のような根拠に基づいてオバマ株を買います。


(1)共和党大会にツキがなかった。台風の直撃で1日短くなったし、クリント・イーストウッドを呼んだら変なスピーチをされてしまい、それが一番の評判となってしまった。勝てる戦いのときには、こんな偶然は起こらないものである。

(2)民主党大会はまあまあだった。オバマ自身の演説は今一つだったが、ビル・クリントンやミシェル夫人は見せ場を作った。ジョン・ケリーのこのセリフも面白かった。「4年前に比べて、暮らし向きが良くなったかどうか、オサマ・ビン・ラディンに聞いてみるといい」。そして、あとから蒸し返されるような決定的な落ち度はなかった。

(3)そもそも両者の世論調査は、ごくわずかにオバマがリードしている状態が続いていて、ロムニーがリードしている時期がほとんどない。「最後は接戦になる」と言われ続けているのに、こういうこともめずらしい。アキレスは亀に追いつけないのか?

(4)特に天下分け目のオハイオ州の世論調査で、オバマが一貫して優位にある。オハイオ抜きで共和党が勝つことは難しい。

(5)勝利する候補者には、かならず名参謀がついているもの。オバマのアクセルロッド、ブッシュのカール・ローブ、クリントンのジェームズ・カービルなどは、過去に幾多の選挙戦エピソードを作ってきたものです。が、ロムニー陣営からは、そういう話が伝わってこない。

(6)逆転の構図を描くためには、「敵失」を待つのも一案である。が、オバマ陣営はなかなかミスをしてくれない。陣営の仲間割れや情報漏れ、造反劇などは過去にほとんど起きていない。オバマは、「間違えてくれない」嫌なライバルなのだ。

(7)同日に行われる議会選挙では、下院は共和党が勝利、上院は民主党が今のリードを保てるかどうかビミョー、という状況。これで大統領選挙でロムニーが勝つと、文字通りティーパーティの主張が全面的に通ったことになり、年末に訪れる"Fiscal Cliff"では米国経済が文字通り「崖から落ちる」ことになりそう。つまり2013年の米国経済は、マイナス成長もありうるということ。欧州にも中国にも死角がある今の世界経済で、そんな恐ろしいことは考えたくないよお。


○要するに今のままだと、ロムニー陣営は「負けに不思議の負けなし」のパターンに陥りつつある。ここから「勝ちに不思議の勝ちあり」を掴みとりにいくためには、どこかでペースを変えなければならない。ポール・ライアンを副大統領候補に選んだのは、そういう「勝負手」のひとつでありました。たぶんそれだけでは足りない。何かサプライズを用意しなければなりませんが、仕込みはなるべく早く手がけなければなりません。


<9月13日>(木)

○日本貿易会貿易動向調査委員会の東北工場見学会で、岩手県北上市に来ています。参加メンバーは当地のビジネスホテルに分宿しているのですが、ホテルは揃いもそろって満杯状態。なんという景気の良さでしょうか。これは地元産業界の好況によるものか、それとも震災復興ボランティアによるものなのか。明日は調査が必要であります。

→後記:震災復興のために、岩手県内陸部のホテルが満杯になっているとのこと。つまり長期間にわたって、内陸部から沿岸部に「出勤」している人たちがいるのです。このままでは観光客が来れなくなってしまうので、今後の復興過程を長期戦で考えるならば、アパートを作るなり、ホテルを増やすなりした方がいい、という話を仙台で聞きました)

○岩手に来ている間に、いろんなニュースが流れております。中には万感胸に迫るものも是あり。

●林芳正参議院議員が自民党総裁選に出馬。――これで自民党総裁選は5人の争いに。なんだかんだいって、日本政治はこれがいちばん面白い。不肖かんべえは林支持であります。

●中国大使の発令を受けたばかりの西宮外務審議官が入院。――先日、お目にかかったばかりなので驚き。今回の外務省人事は「精緻な名作」だと思ったのですが、日本外交にはちとツキがない。

●習近平氏は肝臓がんか。――水泳中で怪我して出られなくなった、というのでは「杉ちゃん」みたいじゃありませんか。ここはぜひ、ワイルドに復活していただきたい。

●オランダ総選挙は与党が勝利。――オランダは「西のシンガポール」みたいな国。アンタが内向きになったら困るんですよ。ユーロ圏のために、良かったよかった。

●鉄人・金本が涙の引退。――もはや鉄人でなくなったアニキを、3年間、切れなかった阪神球団。だからこそのタイガース。私はその企業風土の甘さを誇りに思う。お疲れ様でした。

○最後にこれはぜひ紹介しておきたい。以下は当地、北上市の市民憲章であります。


あの高嶺 鬼すむ誇り

その瀬音 久遠の賛歌

この大地 燃えたついのち

ここは 北上


○芭蕉は『奥の細道』において、奥州平泉の地で数々の名句を残した。「夏草や 兵どもが 夢の跡」や「五月雨の 降り残してや 光堂」などである。江戸からはるかな道のりを歩いてきて、義経最後の地や中尊寺を見て、きっと霊感降りてくるがごとき心象光景を得たのではないかと推察する。そこから遠からぬここ北上の地にも、みちのくの詩情豊かな感性が宿っているように感じられます。


<9月14日>(金)

○岩手県北上市は、工業団地がたくさんあって、企業誘致に積極的なことで知られている。もともとは秋田との高速道路ができ、交通の要所となったことから、周辺の自治体が合併し、こんにちの隆盛を築いたとのこと。本日はその中でも、いわば四番打者級と目されるトヨタ自動車東日本岩手工場を訪問する。

○自動車工場というものは、電機工場と比べて「何が作られているか」がわかりやすいので、見ていて楽しめる。で、この工場でもっとも驚いたのは、「以前はレクサスやマーク]を作っていたけど、今はアクアやラクティスのようなコンパクトカーを作っている」ということ。なんでそんな器用なことができるのか。察するにトヨタの海外工場で、「今年から製造する車種を変更しまーす」といったら、「約束が違うじゃないか」と収拾がつかなくなると思う。海外ではできないことが、日本国内ではできてしまう。こんなバッファー機能があるところが国内工場の強みでありましょう。

○円高に苦しみつつも、自動車会社が国内製造にこだわる理由は、「とことん柔軟な対応ができるから」ではないかと思う。それこそ「阿吽の呼吸」でいろんなことができてしまう。工場内には、まことに細かな工夫が山のように凝らしてあって、これが生産性向上に役立っている。日本のモノづくりというのは、この辺に真骨頂がある。

○そこから宮城県栗原市に移動し、ベジ・ドリーム栗原を見学。ここはオランダ式の水耕栽培を取り入れて、パプリカの生産を行っている。工場というべきか、農場というべきか、おそらくはその中間くらいのビニールハウスの中で、赤や黄色やオレンジ色のパプリカが収穫されている。どうやったら収穫高が上がるのか、とことん考えて農業がおこなわれている。

○ただしベジ・ドリームを可能にしているのは、農業補助金の存在であったりする。パプリカは韓国、オランダ、ニュージーランドなどからの輸入品が圧倒的で、国産品はそれほど多くはない。事業の収益構造がどうなっているかを聞いてみると、なるほど日本の農業を活性化することは単純ではないことを思い知らされる。

○そこから仙台空港など被災した周辺を回ってきました。津波でさらわれてしまった地域には、電信柱だけは新しく通っているけれども、新しい建物が建つ日はまだまだ先ということになりそう。他方で気づいたこととしては、震災から1年半後の宮城県内では、「がんばろう東北」といったスローガンがきれいに姿を消していたことがある。それもそのはずで、「がんばろう」はいつもいつも言ってるわけにはいかないし、仙台市内なんかは復興需要が実際に動き出している。これはポジティブなシグナルと考えたいところです。

○夕方になると、さすがに少しは涼しくなる。やはり東北はかくあるべし。1年に1度は来たいものです。かくして東北新幹線「はやて」の中で不規則発言を更新す。


<9月15日>(土)

○久しぶりにこのページを開いてみて、「おおっ」と驚きましたな。なんと衆議院の定数480議席のうち、民主党は247人しかいない。つまり過半数を上回ることわずかに7議席。なおかつ、その中には「野田首相が憎い。でも、選挙があると僕は落ちちゃうかもしれないから、今は逆らえない」という鳩ポッポさん以下が含まれているのです(党員資格停止中だったりもする)。

○3年前の総選挙直後には、308人もいた民主党の衆議院議員が、61人もどこへ消えたかといえば、「生活第一」や「維新」や「減税日本」などへ行ってしまった。一度党を出た人が、再び帰ってくるということは考えにくいので(個人的には、そういう見苦しい姿を見てみたい気もするが)、この247議席は「これより減ることはあっても、増えることはけっしてない」数字と見るべきでしょう。ということは、「8人造反が出れば不信任案が通る」という状況が、これから先ずっと続くことになります。

○民主党内の大勢は、「とにかく解散は止めてくれ。任期いっぱい、いやせめて来年の衆参ダブルまで」ということであるらしい。でも、そんなことになると、民主党は衆参の両方で負けてしまうだろうから、その場合は二大政党制の芽がなくなってしまうかもしれない。この秋に衆院選をやって「お灸」をすえてもらえば、たとえ下野したとしても国民の怒りはその分だけ冷めるので、半年後の参院選では勢力を盛り返せるかもしれない。民主党にとっては、その方がマシなんじゃないかと思う。が、足もとに火が点いてしまうと、こういう理屈が通らないものらしい。

○で、「解散だけはやめてほしい」(一日でも長く議員でいたい)と思っている議員さんたちが、民主党代表選の決定権を持っている。これは野田さんにとっては困ったことで、対外的には「近いうちに」と約束はしちゃったけど、それを言い出したら代表選での自分の支持票が減ってしまう。「2030年代に原発ゼロ」だって、おそらく野田さん自身は「そりゃ無理だろ」と思っているけれども、代表選があるからには、それが党の公約であると言わなければいけない。悪いのは、切羽詰っている議員さんたちである。彼らは「お国のため」ではなくて、「我が身のため」なんだもの。

○かくして、「野田首相は支持するけど、民主党政権は早く終わってほしい」と念願している者としては、まことに悩ましい状況である。両方は無理ですものねえ。


<9月16日>(日)

○西宮伸一大使の訃報。先週月曜にお目にかかり、火曜に中国大使に任命され、水曜に倒れられたとの報があって、日曜に旅立たれた。天道是か非か。これからというときであったのに。

○中国では今日も反日デモ。「土地は国家の物」「売買できるのは私有権のみ」というかの国では、「個人の所有物である島が、国有化される」ことの意味が理解不能なのだそうだ。まあ、確かに日本が喧嘩を売っているように見えるのだろう。

○ただし反日デモの陰には、おそらくかの国の複雑な政治事情が隠れているのだろう。「9月中旬になっても共産党大会の日取りが発表されない」という異常事態であり、次期総書記と目される習近平氏は9月1日から公の場所に姿を見せていない。この先に何が起きるのか。

追記:9月15日朝に中国農業大で行われた行事に出席した由。不在期間は約2週間で終わった模様)

○今週のThe Economist誌にいわく、「チャイナウォッチャーがやっていることは、写真の中での毛沢東との距離で、中国政治の有力者を占った40年前と何ら変わらない」。ところが中国の存在感はその当時とは雲泥の差である。"China Watiching”は巨大産業として成長しつつある。いつまで中南海はベールの向こう側に居ることが許されるのか。

○などという思考はさておいて、今日のところは西宮さんの冥福をお祈りしよう。どうか、日本外交をお守りください。

追記:中国大使の後任人事につき、今朝の日経新聞では「外務次官経験者を軸に人選を進めている」とある。そうだよね、他に居ないよね。)


<9月17日>(月)

○今回の自民党総裁選は、党員票300、議員票199で争われる。過去の自民党において、これだけ議員数が減ったことはなかった。他方で、誰かの推薦人になることに対する派閥の締め付けも薄れてきたので、今回は20人×5人=100人もが推薦人に名を連ねている。すなわち、199人しかいない議員のうち、5人が候補者で100人が推薦人で、なおかつ投票できない選挙人も何人がいるわけなので、フリーな議員票はあまり多くないということになる。

○となると、今回の総裁選で気になるのは党員票の帰趨である。党員票は第1回投票のみで、首位2人の決選投票の際には議員票だけで決まってしまう。そうはいっても、「党員票で1位だった」ことはそれなりに重く響くので、議員がそれをまったく無視して決選投票に臨むことは難しい。「2位、3位連合で大逆転」ということは、ありそうでないと思うのですよね。つまり党員票の「民意」がそのまま通るのではないかと思うのです。

○現在のところ、党員の一番人気は石破さんであるといわれている。例えば昨日発表されたこのデータによれば、以下の通りとなっている。


【問5】あなたは、自民党の総裁に誰が最も相応しいと思いますか。 ※以下、正式表明順。

町村信孝 5.4%

石破茂 32.8%

石原伸晃 25.2%

安倍晋三 16.0%

林芳正 4.4%

(その他・わからない)16.2%


○これは首都圏500人を対象とする電話調査なので、全国の自民党員とでは母集団がまるで違っている。それでも、過去の経験からいくと両者が際立った違いを示すことはあまりない。強いて言えば、東京都を選挙区とする石原さんに有利な結果が出るかもしれないので、そこは気をつけた方がいいだろう。

○ところで以下は、党員による300票がどんなふうに配分されているかの一覧表である。実は、都道府県ごとの自民党員票の比率は、いちばん高い富山県の2.42%(ああ、やっぱり)から、いちばん低い沖縄県の0.21%(そうでしょうなあ)まで、結構バラツキがある。とはいえ、各県ごとの基礎票が3票あるので、やはり都会よりも地方の意向が色濃く反映されることになる。従って、都会的な石原さんよりも、鳥取県出身でこまめに地方を回っていた石破さんが優勢だという根拠になっている。

○都道府県連の動向については、こんなデータが発表されています。個人的な関心事としては、山口県連の6票が「安倍対林」でどんな風に割れるか、なんてのも面白そうですね。


  人口(千人) 自民党員(千人) 比率(%) 持ち票
北海道 5,506 29.0 0.53 9
青森 1,373 9.4 0.68 5
岩手 1,330 4.4 0.33 4
宮城 2,348 8.6 0.37 5
秋田 1,086 7.2 0.66 4
山形 1,169 8.5 0.73 5
福島 2,029 12.6 0.62 6
茨城 2,970 36.3 1.22 10
栃木 2,008 11.6 0.58 5
群馬 2,008 20.8 1.04 7
埼玉 7,195 22.6 0.31 8
千葉 6,216 18.1 0.29 7
東京 13,159 62.7 0.48 16
神奈川 9,048 36.0 0.40 10
新潟 2,374 21.3 0.90 7
富山 1,093 26.4 2.42 8
石川 1,170 21.7 1.85 7
福井 806 8.6 1.07 5
山梨 863 7.5 0.87 4
長野 2,152 10.8 0.50 5
岐阜 2,080 34.3 1.65 10
静岡 3,765 24.2 0.64 8
愛知 7,411 32.2 0.43 9
三重 1,855 8.5 0.46 5
滋賀 1,411 7.8 0.55 5
京都 2,636 10.1 0.38 5
大阪 8,865 28.1 0.32 9
兵庫 5,588 16.1 0.29 6
奈良 1,400 5.6 0.40 4
和歌山 1,002 7.5 0.75 5
鳥取 717 7.9 1.10 4
島根 589 13.5 2.29 6
岡山 1,945 14.8 0.76 6
広島 2,861 22.9 0.80 8
山口 1,451 15.0 1.03 6
徳島 785 4.1 0.52 4
香川 996 15.6 1.57 6
愛媛 1,431 21.7 1.52 7
高知 764 7.2 0.94 4
福岡 5,072 17.1 0.34 6
佐賀 850 7.3 0.86 4
長崎 1,427 20.6 1.44 7
熊本 1,817 18.9 1.04 7
大分 1,197 11.4 0.95 5
宮崎 1,135 13.1 1.15 6
鹿児島 1,706 16.7 0.98 6
沖縄 1,393 2.9 0.21 4
合計 128,052 789.2 0.62 300



○ちなみにこの人の予測では、地方票は「石破氏が120票を筆頭に、以下石原氏80票、安倍氏60票、町村氏30票、林氏10票となっている。ついでに議員票の動静は、「安倍氏約60人、石原氏約50人、石破氏約35人、林氏約30人、町村氏約25人が相場観である」とのこと。従って、トータルすると「石破氏155票、石原氏130票、安倍氏120票、町村氏55票、林氏40票」になる。つまり石原さんと安倍さんは僅差の戦いとなるかもしれない。

○実際にはこのあと投票日の26日までに、舌禍事件やら各種トラブルやらいろんなことがあって、明暗を分かつことでしょう。こうしてみると、自民党総裁選はしみじみ面白い。あ、しつこいようですが、不肖かんべえは林支持です。


<9月18日>(火)

○今朝のくにまるジャパンでお話しした内容を、誰かがユーチューブにアップしてくれたみたいです。テーマは「反日デモの裏側に何があるのか」。17分くらいあります。

http://www.youtube.com/embed/3rzcsgx0EMI?rel=0 


<9月19日>(水)

○政府が「原発ゼロ」の閣議決定を見送った。野田首相らしい、賢明な判断だったと思う。そもそも、ここに至るまでのエネルギー・環境会議の議論が、あんまり褒められたものではなかった。

「10年後のあなたの年収は、1000万円と500万円と300万円のうち、どれが一番いいでしょうか?」

○そんなことを聞かれたら、誰だって1000万円と答えるだろう。が、実際の世の中では、1000万円の仕事は1年で首になるかもしれず、家に帰れないかもしれず、身体を壊すかもしれない性質のものであることが多い。でもって、300万円の仕事は、そんなに辛くはなくて、毎晩、7時には家でビールが飲める仕事かもしれない。本来であれば、そういった付帯条件をすべて明記したうえで、「1000万か、300万か」を尋ねるべきであろう。

○それと同様に、「2030年の原発比率は0%と15%と20〜25%のうち、どれがいいですか?」と聞いたら、誰だって「0%がいい」と答えるはずである。原発が好きな人なんて、よほどの変人以外にいるわけないでしょうが。そして、「命には代えられないから」という理由は重いのである。が、その0%にはどんな付帯条件があるのか、ちゃんとした検証や予測が必要であろう。

○今この瞬間に、日本政府が「原発ゼロ」を宣言した場合、これから先はどうなるのか。原子力を学ぼうとする学生は居なくなるから、将来の人材確保に困る。東芝や日立や三菱重工などが、ビジネスから撤退するかもしれない。その場合、福島の廃炉は誰がどうやって行うのか。除染や補償はどうするのか。

○また、今後の高齢化社会を支えていくのに、必要な経済成長が達成できるのか、どうか。増え続ける医療費や年金のコストを賄うためには、それなりの経済成長が必要になるが、エネルギー制約がある条件下では、企業の海外移転も進むだろうし、税収も減ってしまうかもしれない。

○他国は脱原発を宣言した日本をどう見るか、という問題もある。アメリカは困る、という話はアーミテージレポートをご参照。ホンネでは日本に天然ガスを売りたくて仕方がないロシアは、態度を豹変して値段を吊り上げようとするだろう(もともとそういう人たちである)。あるいは日本の国力低下は免れないと見たら、中韓はますます領土問題で強気の姿勢に出るかもしれない。この辺は全部、想定の範囲内というものである。

○その辺のシミュレーションを誰が考えるかといえば、当然、政治家の仕事である。政治家は政策を考える時間があり、官僚に命じて情報を取り寄せることができる立場にあり、そのことで報酬をもらっている。それが仕事である政治家が、なぜ情報を持たないアマチュアの「民意」に答えを求めるのか。それは自分の仕事をさぼっていることにほかならない。選挙で選ばれた選良が、民に代わって重要事項を決定するのが民主主義の本来の姿ではないのか。

○もっと言えば、政府はもともと「15%」を落としどころに考えていた。原発を「40年ルール」で使っていけば、2030年ごろにはちょうど15%になる。最初はそれが「落としどころ」であった。3枚のトランプを出せば、素直な国民はきっと真ん中のカードを引いてくれると思ったのである。

○ところが「国民的議論」の大勢が「0%」(年収1000万円)であるとわかって、政府は慌てて「原発ゼロ」に切り替えようとした。だって選挙が近いから。そんなに近視眼的な人たちが、なぜ2030年代のことを決めたがるのか。つくづく愛想が尽きる人たちと言わざるを得ない。ああ、早く終わってほしい、この政権。


<9月20日>(木)

○昨日は内外情勢調査会の講演で新潟県長岡市に行ってたんですが、印象に残ったことをいくつかメモしておきます。

○長岡市は県内では新潟市と並ぶ2大都市、という印象があったのですが、人口だけで行くと新潟市が80万人で長岡市が28万人。どちらも合併を繰り返した結果だが、ずいぶんと大差がついたものである。全国的に言って、工業都市が伸び悩んで商業都市が栄えるという傾向があるが、その典型例であるかもしれない。

○今でも田中角栄元首相の地元である。最近では「田中角栄」という名前のワインが評判になっているそうだ。もちろん「五十六」という名前の日本酒もある。「米百俵」も河合継之介も長岡藩である。さる日の講師が、調子に乗って田中批判を始めたところ、聴衆の間には非常に険悪な空気が流れたという。

○時節柄、政局がらみの話が多くなったが、終わってから時事通信の支局の方がしみじみと語って曰く。「選挙は11月までにやってほしいです。12月になると取材が大変ですから」。そう、当地は世界でも有数の豪雪地帯。雪が降ってしまうと、選挙も取材も大変になってしまうんです。野田さん、聞こえてますか〜?

○そういえば、若い頃から数えきれないほど電車やクルマで長岡市を通っているが、下車したことはほんの数回しかない。確か20代の頃に、豪雪でJRが止まってしまって、泣くなく長岡市のビジネスホテルで一泊したことがあった。あれは東急インだっただろうか。ちなみに講演会場はニューオータニでした。


<9月21日>(金)

○尖閣問題をめぐる中国内部の動き、どんな背景があるのかと思ったら、こんな次第であるらしい。以下にご紹介するのは3本の記事です。つなぎ合わせると、全体像が見えてきます。


(1)<産経新聞 9月19日> http://sankei.jp.msn.com/world/news/120919/chn12091911090003-n1.htm  


●反日デモ 胡政権の路線否定 習副主席主導で強硬転換

 日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を受け、中国で一連の強硬な対抗策を主導しているのは、胡錦濤国家主席ではなく、中国共産党の次期総書記に内定している習近平国家副主席であることが分かった。胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形。中国政府の今後の対日政策は、習氏主導の下で強硬路線に全面転換しそうだ。

 複数の共産党筋が18日までに明らかにした。それによれば、元・現指導者らが集まった8月初めの北戴河会議までは、党指導部内では尖閣問題を穏便に処理する考えが主流だった。「尖閣諸島を開発しない」などの条件付きで、日本政府の尖閣国有化についても容認する姿勢を示していた。

 しかし、8月10日の韓国の李明博大統領による竹島上陸や日本世論で強まる中国批判などを受け、状況が一変した。「なぜ中国だけが日本に弱腰なのか」と党内から批判が上がり、保守派らが主張する「国有化断固反対」の意見が大半を占めるようになったという。

 9月初めには、胡主席を支えてきた腹心の令計画氏が、政権の大番頭役である党中央弁公庁主任のポストを外され、習氏の青年期の親友、栗戦書氏が就任。政策の策定・調整の主導権が習氏グループ側に移った

 軍内保守派に支持基盤をもつ習氏による、日本の尖閣国有化への対抗措置は胡政権の対日政策とは大きく異なる。胡氏はこれまで、日本製品の不買運動や大規模な反日デモの展開には否定的だったが、習氏はこれを容認し推奨した。

 また、国連に対し東シナ海の大陸棚延伸案を正式に提出することも決定。尖閣周辺海域を中国の排他的経済水域(EEZ)と正式宣言することに道を開き、日本と共同で資源開発する可能性を封印した。これは、2008年の胡主席と福田康夫首相(当時)の合意を実質的に否定する意味を持つ。このほか、中国メディアの反日キャンペーンや、尖閣周辺海域に監視船などを送り込んだことも含め、すべて習氏が栗氏を通じて指示した結果だという

 習氏が今月約2週間姿を見せなかったのは、一時体調を崩していたことと、党大会準備や尖閣対応で忙しかったためだと証言する党関係者もいる。習氏が対日強硬姿勢をとる背景には、強いリーダーのイメージを作り出し、軍・党内の支持基盤を固める狙いもある。


○夏には優勢に立っていたはずの胡錦濤が、9月の初めから劣勢に立つようになった。その間隙をぬって、習近平が江沢民張りの「反日攻勢」に出ているという観測記事だが、これだけでは裏がとれてない。そこで2本目の記事をご紹介。


(2)<ブルームバーグ> http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M9R0HU6KLVRK01.html  


●中国共産党、党大会に向け人事進める−胡主席の側近が異動

 9月3日(ブルームバーグ):中国共産党は党中央弁公庁の令計画主任を中央統一戦線工作部に異動させた。同国では10年に1度の指導部交代に向けた準備が進行中。令氏は胡錦濤国家主席の側近で、今回の異動は同主席退陣後に中央政治局に対する影響力が低下する可能性を示唆している

令氏の後任には貴州省の栗戦書党委員会書記を充てた。令氏は党以外との関係やチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世らの問題を扱う中央統一戦線工作部を統括する。国営の新華社通信が1日、この人事を報道した。弁公庁は中国最高指導者らの警備や日程を管理する。

指導部が交代する今年の党大会は、日程がまだ発表されていない。習近平国家副主席(59)が、胡主席から党中央総書記を引き継ぐことが確実視されている。

米ボストン大学アジア研究センターのジョゼフ・フユースミス所長は電子メールで、この人事は胡主席の側近である令氏が政治局内の地位を固めていない可能性を示唆していると指摘。「胡主席側近同士の役職交代だが、同等の人事というわけではない。令氏は非常に先が望めた候補だったが、栗氏はそうではない」と記した。

香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は3日、中国当局者とメディア関係者の話として、令氏の息子が3月に北京での自動車事故で死亡していたと報じた。自ら高級スポーツカーのフェラーリを運転していた際の死亡事故で、この事故が起きたのは、やはり息子が高級車を運転していたと報じられた重慶市トップ、薄熙来氏の解任劇の3日後だという


○胡錦濤が追いつめられたのは、腹心である令計画の息子が不祥事を起こしたからであるとのこと。こうなったら、ぜひともサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙を詠まねばなりませんが、ありがたいことにちゃんと訳してある記事を発見しました。


(3)<サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙> http://kinbricksnow.com/archives/51808511.html 


●フェラーリと江沢民と令計画の挫折

3月18日、一台の黒のフェラーリが北京市北四環で柵に衝突、跳ね返って壁面に激突した。20数歳の男性がその場で死亡(なぜか半裸)、他の2名の女性は(なぜか一人は全裸で一人は半裸)は重傷を負った。インターネットで流出した車の写真から、人々はきっと「富二代」の酔っぱらい事故だろうと考えていた。

この死亡した青年は「賈」という苗字であると伝えられたことから、一部では常務委員序列四位の政協主席・賈慶林の私生児ではないかという疑惑を呼んだ。風説は加速し、事故発生当時、この三人は車の中で性行為をおこなっていたという噂も飛んだ。誰が車を運転しており、誰が前列にいて誰が後列にいたかなど、証言は一致せず、単なる北京の権力者ゴシップと化していった。しかし、薄煕来が重慶市党委書記を罷免されてからわずか3日後に発生したこの自動車事故は、より重大な意味を持っていた。そして、今秋開かれる新たな指導者が誕生する十八大の大きな火種となってしまった。なぜならこの交通事故の被害者は実の肉親でも賈慶林でもなく、権力闘争の渦中にある重要なプレイヤーの政治的生命を左右したからだ。

ある大陸の公務員や北京のメディア関係者の多くが伝えたところによると、この死亡した若者の名前は令谷、令計画の息子であったという。令計画は中央弁公庁主任で、いわば胡錦濤の片腕とも言われる人物だ令計画は胡錦濤派の重要メンバーであり、10年後のいわゆる第6世代の中心的立場の一人。この自動車事故スキャンダルは、令計画が常務委員会するチャンスが少なくなったことを意味し、そして日曜日に発表された人事情報で、彼は統一戦線工作部の部長となることが発表されたが、これは基本的には実権の無い職だ。

これは令計画本人の危機だけでなく、このスキャンダルが十八大前に公になれば、胡錦濤陣営にとっても大きな障害と言える。胡錦濤は党総書記、国家主席として清廉なイメージで人気を保っており、誠実で、指導者の腐敗を許さない立場であろうとしていた。その彼の最も信任する補佐の息子が、様々な人に噂されるようなものであることは、彼のイメージに泥を塗ることになる。

大陸のある公務員は、自動車事故スキャンダルがもたらしたものは、些細なイメージの低下ではなく、死亡した若者の本当の身分を隠蔽しようとしたことこそが、胡錦濤側にとって大きなマイナス要因だという。

死亡したのは賈慶林の私生児だという噂を耳にした賈慶林は激怒し、秘密裏に調査を行い、非常に早い時期に、運転していたのが令計画の息子であることを掴んだ。調査報告書はすぐに、前総書記で賈慶林の盟友でもある江沢民へと渡った。江沢民は既に引退しているとはいえ、最高指導者達には巨大な影響力を持っており、彼と胡錦濤は次の指導者層を誰にするかで真っ向から衝突していた。

江沢民はこの事実を三ヶ月ほど留めおき、そしてある会議の場で胡錦濤に伝えたという。北京のあるメディア関係者によると、令谷が自動車事故で死亡したことはすぐにわかっていたものの、その時はすぐに報道制限が敷かれた。ある人は「私はいままでこんな最高指導者層から箝口令が出たことなんか聞いたことがない」ということだ。

興味深いのは、3月19日の環球時報(英字版)、そして党の喉舌である人民日報で、この自動車事故が報道されていたことだ。報道には事故の概要が載せられていたが、しかし死亡した人物の名前はなかった。途中で箝口令が布かれたのは間違いなく、「死者に何らかの背景がある」ことは明らかだった。

江沢民からこの話を聞かされるまで、胡錦濤は全くこれらの事実を知らなかったと言われている。このニュースの真偽は永遠にわからないものと思われていたが、6月初めごろから、海外のいくつかのサイトで間違いなく死者は令谷だと噂されるようになった。最近香港メディアがこの自動車事故スキャンダルについて発表し、令谷が間違いなく事故で死亡したと指摘した。しかしこの文章では続いて、彼が運転していた訳ではないこと、また事故を起こしたフェラーリの持ち主ではないこと、事故発生時にセックスなどはしていなかったことを指摘している。また6月、いくつかのサイトでは、令計画の妻・谷麗萍が慈善団体の基金を横領したという噂も流れた。

このようなプライベートでのマイナスにも関わらず、胡錦濤はそれでも令計画を支持している。6月1日、令谷の素性が明らかになった後、香港の親中メディア「文匯報」は、令計画が十八大の党代表に満票で当選したことを報じた。あるウォッチャーは、「文匯報」がこの時期にこのようなニュースを報じたのは、胡錦濤が令計画を支持していることを暗示していると考えている。さらにはその前日、新華社は令計画のある演説を掲載している。また事故後には、令計画は全ての時間と労力を胡錦濤のために注いでおり、息子のことを顧みるような時間もなかった、というような情報も出回っている。

このような状況ではあるが、令計画は良くても24名の政治局入りするまでだろうと考えている。そして、日曜日の人事情報で、政治局入りすることも困難になったと思われている。政治学者の陳子明は、「ただでさえ、成績的に乏しい令計画に、この事件が与えた影響は大きく、政治局常務委員に無理をして押し込むはできないでしょう。勿論彼の庇護者である胡錦濤は努力をしているものの、容易なものではない。」と語っている。「現在、事故の後、彼のイメージはマイナスになりました。政治闘争はかように激烈なものですがから、どんな小さいことも大きくされてしまう、ましてやこんな事故はなおさらです。」

令計画とその妻は、失った子供がダメ息子だったという批判を受けるだけでなく、政治的にも、次の日には通常業務をこなしていたことが冷酷だ、という攻撃材料を与えることになる。実際、事故後二週間後にはもう、令計画は胡錦濤の韓国/カンボジア歴訪に同行している。しかしある北京の公務員が指摘するには、令計画は事件の後精神的ダメージをひきずっているという。

香港の政治学者・劉鋭紹は、もし自動車事故がなくとも、胡錦濤の影響力は令計画を常務委員入りさせることはできなかった。と考えている。しかし、今回の事故は令計画の政敵に、彼を攻撃するのに充分なほどの武器を与えたのだ、と指摘する。

劉は最後にこういった、「結局、"妥協"は中国政治の中で最も重要なことなのです。」

(サウスチャイナ・モーニング・ポスト 博訊網)


○というわけで、これで習近平とその背後にいる江沢民派が大復活を遂げてしまった。絶妙なタイミングで、日本政府の尖閣国有化が彼らに口実を提供した。かくして反日デモというカードが切られ、党大会を目前に胡錦濤派に対する揺さぶりが行われている・・・・。たぶん常務委員人事で妥協を求めるのが狙いなのでしょう。

○それにしても、「赤いフェラーリ事件」(後記→黒いフェラーリの間違い。赤いフェラーリは薄煕来の息子の方ですな)が問題の発端であったとは、しみじみ病んでおりますね、あの国は。気の毒なのだか、脇が甘いのだか知りませんが、令計画氏はこんな顔をした人です。ご参考まで。


●令計画の写真 http://cpc.people.com.cn/GB/64192/106128/7018113.html  


<9月23日>(日)

○さる人のお誘いで、本日は中山競馬場のゴンドラ席で勝負。なぜかオバゼキ先生山崎元さんと、上海馬券王先生とご一緒。

○いつもより高い視点からレースを見ているので、まことに快適な勝負環境なのだけれども、ちっとも当たらない。それでも今日のメインである神戸新聞杯と中山オールカマーは、ゴールドシップとナカヤマナイトというステイゴールド産駒が強い勝ち方をしてくれて、これは狙い通りでした。配当が安いんで、実入りは少ないんですけどね。

○そんな当方をしり目に、今日は馬券王先生が大爆発をされました。3連単やら3連複やらを当てまくり、当たるべからざる勢いでありました。これはこの秋のG1レースの予想も期待できるかもしれません。とりあえず来週は、スプリンターズステークスの予想をよろしくお願いします。

ぐっちーさんもお誘いしたんでありますが、あいにく本日はご出張中でした。ご著書、好評のようで何よりです。またご一緒に遊びましょう。


<9月25日>(火)

○本日は産経新聞「正論」欄に新しい原稿が載りました。題して「出でよ、『財政タカ派』の政治家」。ポール・ライアンみたいな政治家、日本には出ないんですよねえ、というお話。「財務省の手先」とか「増税大好き派」というのとは別に、世代間の公平をちゃんと主張できる政治家がいてほしいな、と思います。

○今朝の文化放送では、チャイナウォッチングPart2と題して、「黒いフェラーリ事件」についてお話ししました。家に帰ってから「黒いフェラーリ事件」で検索したら、ずいぶん反響があったようです。ユーチューブのここで聞くことができます。15分くらいです。

○さて、明日は自民党総裁選。長い歴史の中でも、これだけ先の読めない総裁選は初めてかもしれませんね。あの有名な「三角大福」は40年前のことになります。今回は党員票300と議員票199を巡る争いで、党員票の多さが情勢を読みにくくしている。

○特に党員票は、都道府県ごとのドント式を使っているので、「5候補の支持率」がそのまま結果に反映されるわけではない。あるいは県連幹部にインタビューしても、確かなことは分からないのが実情であるとか。だから今までに乱れ飛んでいる情報は、あんまり当てにならないかもしれません。

○それでも、1年かけて政調会長としてこまめに地方を回っていた石破さんが、党員票では一歩リードしている、というのがもっぱらの評判です。どうやらこの日のために、周到な準備をされていたようですな。ただし石破さんは議員票では弱い。ゆえにマスコミ情報では、「1位石破、2位は安倍もしくは石原。ただし最後は議員票決戦なので、2位の候補者が勝つ」という読み筋が多いようです。(例えばこの記事なんかは面白い。スポーツ紙の方が詳しいかも?)

○その一方、長い自民党総裁選の歴史では、「党員票で1位になった人が負けたことはない」という事実もあるんですね。かつての大福決戦、党員票で負けた福田さんが、「天の声にも変な声がある」と言って辞退したこともありましたでしょ。ちょっと意外な感じもしますけど、自民党において党員票は結構、重いんです。

○今回の総裁選では、林芳正支持の不肖かんべえでありますが、純粋に賭けの対象にするなら、石破さんの馬券を買うことにいたしましょう。さて、明日はどんな結果が出て、新しい歴史を刻むのでしょうか。


<9月26日>(水)

○免許の更新のために半休をとって免許センターへ。別にどうということはなかったのだが、この間に1度だけ一旦停止を怠ったばっかりに、ゴールドカードが普通の免許証に戻ってしまったのは惜しかった。

○1時間の講習を受けると、これには「飲酒運転は身の破滅」というビデオ視聴がついている。これがまことに学芸会レベルの作品で、飲酒運転で事故を起こすといかに悲惨かという身につまされる話をしてくれるのだが、唯一カッコいい役柄の警察の課長さんが、妙に若かりし頃の千葉県知事さんに似ているのが可笑しい。ちなみにわれらが千葉県知事さんは、昨今インターネットなどでしきりに「ケンサクしろ!」と言われるたびに、え、俺のことかとドキッとしてしまうのだそうだ。

○免許が思ったより早く片付いたので、今度は銀行へ。順番待ちをしている間に、銀行協会が作成している「振り込め詐欺にご注意」というビデオを見るとはなしに見ていると、これがムチャクチャに面白い。新手の詐欺の手法がどんどん洗練されているので、防ぐ側の工夫も磨かれてきているらしい。同じビデオコンテンツでも、作り方次第でこうも違うかということに感心する。

○例えば詐欺師の側は、息子に成りすましたうえで「俺、電話番号が変わったから次からはこっちにかけてね・・・・」などと言ってくるけれども、そういう風に言われたら、お母さんとしては一度でいいから、息子さんの以前の電話番号かけてみるのがお勧めだという。大概の場合、本物の息子さんが出てきて、一瞬にしてウソがばれるというわけ。知っておいて損はない豆知識だと思います。

○で、本日の自民党総裁選ですが、事前の予想通りに粛々と逆転劇となり、安倍新総裁の誕生となりました。昨日書いた予想は大外れでございました。ちょっとだけ脱力。いい意味でも悪い意味でも、自民党は変わってはおりません、ということなのだと思います。

○2位3位連合で1位がひっくり返る、というのは、安倍さんのお祖父さんである岸信介が負けて、石橋湛山が勝った1956年以来のことだとか。でも、石橋湛山はすぐに脳梗塞で倒れて、あっさりと政権を岸に渡すという恬淡ぶりを発揮したのである。そのひそみに倣うならば、そのうち「安倍→石破」の禅譲なんてこともあったりするのかもしれません。

○政治家の出処進退は非常に重要なものですが、この国では出る引くがキレイな大人を見かけなくなって久しいような気がします。途中で逃げたり、しがみついたり、未練がましかったり、言い訳したり、という悪い例はいっぱいあるんですけどねえ・・・・。


<9月27日>(木)

○本日は政治オタクの寄り合い。昨日の総裁選をめぐって意見交換。やっぱり自民党は変わっていない、いや小泉時代以前に戻ったのだ、などという手厳しい声も。それでも、石破幹事長誕生のニュースは、安倍氏がかつてのような「お友達志向」ではなくなっていることを意味しており、これはポジティブに受け止めていいのではないか。

○変わった話としては、安倍さんの健康状態を救った「画期的な新薬」の製造元であるゼリア新薬工業の株価が上がったとのこと。これぞまことの「ご祝儀買い」というものであろう。それから、上杉隆さんの『官邸崩壊』が再版になったとのこと。それはちょっと気が早い。だって本日時点では、まだ野党の党首が変わったというだけのことなのですから。

○天下の諸情勢を論じているうちに、「日本維新の会はいったいどうしたんだ」てなことに。橋下さんが新党を立ち上げたら、いきなり支持率が低下している。いったい原因はどこにあるのか。日本政治において、第三極は見果てぬ夢なのか、という話である。

○不肖かんべえの見立てで行けば、そもそも「大阪」という名前を捨てたところに問題がある。大阪ローカルの番組は確かに面白いけれども、全国放送にしたらやっぱりいかんのである。「たかじん」も「探偵ナイトスクープ」も、やはり野に置けすみれ草。「アンチ東京」という金看板を捨てて天下取りを目指したら、その瞬間に大阪の人たちは見捨てられたような気がするし、オールジャパンは背中を向けるし、京都や神戸までもが反逆してしまう。

○ところが、政治コンサルタントのK氏がいわく、そもそも彼らは新党立ち上げの際の鉄則を踏み外している。今頃になって東国原氏を担ぐようではセンスが悪い。行き場をなくしているような議員さんたちを集めて政党要件を満たそうとするのも、いかにも悪辣なたくらみに見えてしまう。なるほど現実との妥協を図っている姿勢は、選挙直前のギリギリまで見せるべきではないのであろう。

○K氏によれば、新党立ち上げのお手本は「新党さきがけ」であるという。あの当時、武村正義も鳩山由紀夫も田中秀征も、程よく無名の存在であった。そんな彼らが、やむにやまれずに新党を立ち上げるというストーリーが美しかった。新党立ち上げにおいては、『無名は悪名に勝る』。ちょっとくらい議員経験があるとか、選挙のことをよく知ってます、なんてのはマイナス指標であって、純粋な若者が徒手空拳で、理想を求めて立ち上がる、という筋書きにしなければならない。

○ところが現実の日本維新の会は、たくさん居るブレーン集団がそれぞれ勝手な方向を向き、まともに選挙したら勝てないような人がすり寄ってきて、イメージの失墜が甚だしいうえに、橋下さん自身は不出馬の意向であるという。(そうは言っても、最後には出馬を決断するんでしょうけどねえ)。

○公明党、共産党、社民党、みんなの党、国民の生活が第一、新党きづな、改革新党、減税日本、国民新党、新党大地・真民主、たちあがれ日本など、ミニ政党があまりにも増えてしまった現状では、これ以上の新党立ち上げなどはご無用のことであろう。むしろ政党を整理統合・再編し、ベテラン政治家を育てるようでないと、わが国総合電機業界のような不遇をかこつのではないかと思えてしまう。それでも、これから新党を立ち上げてみたいという人は、K氏のアドバイスに傾聴すべきだと思いましたぞ。


<9月28日>(金)

○こじれてしまった日中関係をどうやったら修復することができるか。ちょっと思考実験をやってみましょう。

○外交当局にとってとりあえず考えられるのは、今後の日程であるASEMやEASなどの場において、首脳同士の「立ち話し」を演出するくらいであろう。だが、この二つの国際会議は11月の予定なので、中国からは習近平国家主席もしくは李克強首相など、次期指導者が出てくることになる。彼らにとっては外交デビューとなるので、そんな初舞台でおいそれと妥協することは難しいだろう。ということは、小泉時代のように当分は首脳間の行き来がない状態が続くことになる。

○さらに難しいのは、先方さんが今回の尖閣諸島国有化のことを、「野田首相と石原都知事がつるんで行った茶番劇」とまで称していることだ。ここまで言っちゃったら、振り上げたこぶしを降ろすことは容易ではない。つまり野田さんが辞めるまでは、事態を改善することができないということになる。逆に言えば次期政権が発足したら、関係修復の糸口ができることになる。

○この点で幸か不幸か、野田政権はほとんどダッチロール状態であり、選挙もどう考えても遠い先のことではないので、近い将来に日本側の配役が代わる確率は非常に高い。野田さんご本人も、自分の政権を少しでも延命させたいというよりは、これ以上、民主党をボロボロにはしたくない、と考えているように見える。おそらく彼の前任者のように、見苦しい醜態をさらすことはないだろう。そしてその程度のことは、中国側も読んでいるはずである。

○選挙があれば、非常に高い確率で次は自民党政権に戻る。そこで問題は、自民党総裁選で安倍さんが勝っちゃったことで、これは中国としても想定外だったのではないだろうか。不肖かんべえも「まさか」と思っていたくらいであるし、日本情報をいつも朝日新聞からとっているかの国の「ジャパン・ウォッチャー」たちは、当然、判断を間違えたはずである。なにしろ彼らは、2006年の自民党総裁選でも、「福田さんが勝つ」と思っていたくらいなのだから。

○ところが今回の総裁選では、そもそも対中問題が安倍さん勝利の追い風になっていた。普通だったら、「まだ試乗したことのない新車」と、「5年落ちの中古車」の二択問題であった場合、消費者は前者を選ぶだろう。ところが今回はとっても怖い局面であったので、自民党の議員さんたちは後者を選んでしまった。6年前だって、最初のうちはちゃんと走ったんだものね。

○中古車、もとい安倍さんは、副総裁に高村正彦さんを選んだ。おそらく自分の名代として、中国に派遣することを考えてのことだろう。実際に高村さんは、今回の友好7団体のミッションの一員として訪中している。その辺は好判断だと思うが、安倍さんの周りにはタカ派のお友達も多いので、「10月17〜20日に行われる例大祭に、靖国神社に参拝しましょう」みたいなことを言いだす人がきっといると思う。それをやっちゃったら、これまた悩ましい事態となるだろう。

○ということで、関係改善はかな〜り難しいような気がする。そもそも先方さんは、「もう日本なんてどうでもいい」と勘違いしている公算が高い。が、痩せても枯れても世界第3位の経済大国で、米国の忠実なる同盟国なのだから、敵に回して得になるはずがない。その辺にいつ頃、彼らが気が付くかという問題がある。他方、日本側にはへそを曲げている相手に対し、何か譲歩をしてみたくても適当なタマがない。今さら国有化を取り消すわけにもいかないし。

○とりあえず、先方の次期体制が整うのを待ってから、次の一手を考えるくらいしかありませんな。困ったものです。


<9月30日>(日)

○情報の仕事について考えたこと。

@情報の仕事は、面白い。ベテランになればなるほど、その面白さに中毒するようになる。

A情報の仕事には、休みがない。少しでも休むと、取り戻すのが大変である。

B情報の仕事は、誰をクライアントにするかが難しい。できればパワーがあって、カネ払いのいい顧客を持ちたいものである。

C情報の仕事をする人は、無欲であった方がいい。もしくは無欲であるふりが上手であることが望ましい。

D情報の仕事をするときは、外国語や図表や数式や事実関係のチェックなど、面倒な作業から逃げてはいけない。

E情報の仕事をしている人たちは、自然と友達になる。レベルが高くなればなるほど、意外な人と意外な人が仲が良いものである。

F情報の仕事をするためには、資格や学歴はそれほど重要ではない。普通の努力はあんまり報われず、何か決め技を持っている人が生き残っている。

○広い意味で言えば、マスコミも学者も官僚も投資家もエコノミストも競馬の予想屋も、情報の仕事をしているといえる。ワシはそういう世界で長く暮らしてきて、今のところこの仕事で食えていて、その方面の友人もたくさんいて、当分は飽きそうにない。まことに幸いなことである。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki