●かんべえの不規則発言



2003年12月




<12月1日>(月)

○まったくの偶然なのですが、2作目の『ナイーブな帝国、アメリカの虚実』が出ると同時に、『アメリカの論理』も増刷が決まりました。間もなく、新しい帯で書店に並ぶ予定です。念のために申し上げておきますが、内容は初版とほとんど違いません。わざわざ同じものを買われませんように。いえ、もちろん、買っていただいても、一向に差し支えないのでありますが。

○本日は新潮社さんと忘年会をやっておりましたが、思えばこの本のお陰で、ずいぶんと世界が広がった1年でした。新潮新書は、今年4月に発足しました。その記念すべき最初の10冊に、『アメリカの論理』が入ったというのは、この上なくラッキーなことでした。売れ行きということでいえば、何といっても『バカの壁』という養老先生の大ヒットがありまして、これがムリョ200万部のベストセラー。本日発表の「流行語大賞」の中でも、「バカの壁」はトップテンの座を射止めました。おいおい、それにしても、年間大賞が「毒まんじゅう」「なんでだろう〜」「マニフェスト」というのは、う〜ん、ちょっと抵抗があるぞ〜。

○こんな折もおり、自衛隊のイラク派遣をどうするかという問題が浮上しております。外務省のお二人が凶弾に倒れたことで、ますます事態は切迫してきた感があります。先週号で取り上げた日本外交の「A案」と「B案」でいうと、急速に「B案」の支持者が増えている状況ではないかと思います。その一方で、小泉首相というのは変な人ですから、これでますます意固地なまでに「A案」に突き進んでいくような気もします。

○筆者自身は、やはり「A案」支持を変えちゃいけないなと思っています。なんとなれば、イギリスやイタリアやスペインやポーランドや韓国が、ホンネでは引きたいけれども、国の名誉にかけても引いてなるものか、少なくとも最初に撤退する国にはなるまい、というやせ我慢をしているのです。ここで日本が日和ったら、「ああ、やっぱりか。あんたはそうだろうと思っていたよ」と言わるかもしれない。それって日本全体が、加藤政局のときの加藤紘一のように見られることではないだろうか。

○別に意地になっているわけじゃないけど、昨日のサンデープロジェクトで、加藤紘一が「日本は出しちゃいけません。イラク戦争の大義は失われた」と言っているのを聞いて、なんだか腹が立って仕方がなかった。お前に言われたくはねえよ、という気分です。不合理な議論かもしれませんが、日本人の武士道みたいなものに訴えかけてでも、「A案」を通すべきじゃないだろうか。もちろん、ちゃんと筋の通った「B案」があるのなら、話は別ですが。


<12月2日>(火)

○いろんな人に会うたびに拙著をお渡ししています。まとまった量を買ったのに、あっという間になくなってしまうなあ。

○お昼に、めでたく衆議院議員になった長島昭久氏と。民主党では数少ない「自衛隊派遣賛成」の論陣を張っているとのこと。「後世に恥じることのない決断を」という。同感です。民主党の大勢が反対に傾くのは当然でしょうが、くれぐれも党利党略にはしないでほしいと思います。

○夜はエコノミストの放談会。今の景気はいつまで持つか、という話になったら、私が「来年一杯」で、あとのお二方は「年央まで」でした。その差は半年で、どっちにしろ来年秋くらいには「そろそろ天井」というムードになっている可能性が大。その先の2005年4月には「ペイオフ解禁」が待っている。多難だなあ。

○ビールが入って好き勝手な話が飛び交い出したら、なんと全員がアンチ巨人であることが判明。どうしてこの業界はこれが多いんでしょう。

○さる友人いわく、「古森義久&かんべえ」って「いちご大福」のようであると。うーん、どっちがイチゴでどっちが大福なんでしょうか。


<12月3日>(水)

○拙著を「いちご大福」というのは、あの題名で古森さんの名前を見ると、「なーんだ、大福か。味は見当がつくな」と思うけれども、食べてみると中には思いがけずイチゴが入っているので驚いた、ということなんだそうです。うーむ、この場合、イチゴが新鮮に感じられるか、ただのゲテモノに終わるかが運命の分かれ道。皆様の厳しい批評をお待ちしております。

○本日は毎年恒例の日本貿易会の貿易見通しの発表が行われました。私どもの予想では、2003年度、2004年度と輸出は強いです。経常収支はいずれも史上最高額を更新して16兆円台に達する見込み。

http://www.jftc.or.jp/research/statistics/statistics.htm 

■見通しのポイント
◆◇◆2003年度◆◇◆
輸出総額は52兆7,740億円で前年度比5.3%増。米国経済の回復が一段と鮮明になるとともに、アジア経済の回復も続き、輸出数量は増加。特に、アジア向けの素材、機械機器が好調。米国向けは、日系企業の生産移転に伴い自動車が減少しているものの、自動車部品の輸出は増加。輸入総額は40兆3,860億円で前年度比4.8%増。国内経済の回復を背景にして輸入数量が増加、輸入価格は原油価格の上昇が一段落したことや円高が進んだこともあり小幅低下。鉱物性燃料は減少に転じるものの、機械機器を中心とする製品輸入の増勢は加速する。
経常収支は、貿易収支黒字の拡大やサービス収支の改善を背景に、16兆円台に上ることが予想される。
◆◇◆2004年度◆◇◆
輸出総額は54兆9,810億円で前年度比4.2%増。米国経済と中国経済が成長を持続し、世界経済を牽引する中で、輸出数量の増加が続く。輸出価格は円高や競争激化で、横ばい。デジタル家電やパソコンの需要増加が続き、IT関連機器や部品の伸びは基本的には増勢を持続する。輸入総額は41兆4,690億円で前年度比2.7%増。輸入数量は鉱物性燃料の減少により増勢が鈍化。輸入価格は円高に加え原油価格の低下もあり、わずかに低下。IT関連などの機械機器を中心に製品輸入は増加が続く。
経常収支は、貿易収支黒字の拡大が続くため、黒字の増大が続くと予想される。

○やっぱり2004年一杯は強気継続でいいと思います。問題はその先だなあ。米大統領選挙が終わったあとに何が起こるか、ですね。


<12月4日>(木)

田中裕士さんのサイトが久々に更新されていて、出たばかりの『文芸春秋1月臨時増刊号』のことが書かれています。この号のために、ずいぶん苦労されていましたものね。増刊号の中に、「日本経済新聞のここが間違い」という記事があります。いい内容に仕上がっていると思うのですが、実はこの企画をけしかけたのは小生だったりする。8月22日付けのこの欄に、ちょこっと証拠が残っている。あはは。

○記事が指摘しているのは、「観測記事が事実のようにうつる」とか、「数値データのマジック」、「記者の不勉強」など、まあ、サラリーマン同士の会話にしょっちゅう上るような、毎度お馴染みの日経の問題点である。社長さんがどうの、内部告発がどうのといった話は、取りあえずここでは本筋ではない。毎日、日経を読んでいるサラリーマンとしては、記事をちゃんと書いてほしいという点に尽きる。ぶっちゃけた話、朝日新聞の代わりはあるけれども、日経新聞の代わりはないのである。

○という話とはまるで関係なく、ここへ来て日経がらみの仕事が増えたので宣伝しておきましょう。

●日経金融新聞、12月5日(金) コラム「視点論点」に寄稿しました。

●日経CNBC、12月6日(土) 午後9時30分〜10時、新番組「マネー&ワールド」に出演します。

○前者は定番のコラムなので、あらためて紹介するまでもないでしょう。後者は「土曜夜の経済トーク番組」ということで、ちょっとひねった舞台設定になっています。お楽しみに。


<12月5日>(金)

○アメリカが鉄鋼輸入制限を撤廃しました。合理的な判断だと思います。そもそもブッシュが2002年に鉄鋼セーフガードを導入した理由は、2004年の再選に向けて、鉄鋼産業を抱えるペンシルバニア、オハイオ、ウェストバージニアの3州を取りたいという事情があったからだ。南部と西部山岳州で強いブッシュとしては、これら東部の鉄鋼州を押さえれば必勝体制ができる。とくにペンシルバニア州は、2000年の共和党大会を開催した州なのに、落としてしまったという苦い経験がある。

○ところが、EUはそういうところを見抜いていて、フロリダ州やカリフォルニア州のオレンジに対して制裁を発動しようとしてきた。こうなると単純に選挙人の数の問題である。鉄鋼セーフガードで喜ぶのは、ペンシルバニア(21)+オハイオ(20)+ウェストヴァージニア(5)=46人。これに対してオレンジ制裁で怒り狂うのはカリフォルニア(55)+フロリダ(27)=82人。どっちを大事にすべきかは、考えるまでもありませんよね。

○それに鉄鋼労組は、ゲッパートを支持することを正式に決めた。だったらどうぞ、ということですな。ブッシュ戦略(カール・ローブ戦略)としては、「シュワちゃん」効果でカリフォルニア州がゲットできるのなら、東部の鉄鋼州を無理して取りに行く必要がない。ということは、鉄鋼産業や自動車産業のために、「円高誘導」を試みる必要もないということです。逆にカリフォルニア州の主な産業といえば、ハイテクにエンターテイメントに農業ですから、為替にはあんまり左右されない。「選挙の年は円高誘導」という読みは単純すぎます。

○民主党陣営が勝つための算段としては、11月5日分に詳しく書いたとおり、「五大湖沿岸州をガッチリ押さえた上で、南部にも浸透を図る」ことが基本路線となる。もちろんニューヨーク州や北東部は確実に取った上での話ですよ。この作戦を実行するためには、労組に強く、南部ミズーリ州出身のゲッパート下院議員が適任となる。

○カール・ローブの立場になって考えたら、民主党がゲッパートで一本化したら非常にやりにくいだろう。共和党としては、低い投票率での戦いを目指しているので、組織票を動かせるベテラン議員は嫌な存在なのだ。逆にディーンであれば「ごちそうさま」ですな。ところが民主党は、そういう候補者を選んでしまいそうなんだなあ。


<12月6〜7日>(土〜日)

○変に忙しい週末である。土曜の午前、次女Tのクリスマス会、午後、Sさんの結婚式(場所が米国公使公邸、というところが売り)、夜、町内会の忘年会(場所が柏駅前の飲み屋さん、というのが相変わらず)で、立食パーティーのあとに和式の宴会という連荘。この落差が楽しい。でもちょっと疲れる。

○日曜日は午前中に買出し、昼からクルマを車検に出さなければならぬ。で、もって、今日中に長めの原稿が1本。外はいい天気だなあ。


<12月8日>(月)

○イラクに自衛隊を出すべきか、出さざるべきか。それをテーマに原稿を1本書きましたが、いやいや悩ましい。来週号の「週刊エコノミスト」誌に掲載予定です。でも、今週中に何らかのアクションがあるでしょうね。

○今宵は年末恒例の昔の上司を囲む会。年に1度、このときにフグをご馳走になります。例年、似たようなメンバーが、ひとつずつ年をとっていく。昔はキツイことを言い合った仲間も、どんどん角が取れていく。こんな忘年会がいつまでも続けられればいいなと思います。


<12月9日>(火)

○かんべえのような「派遣賛成」論者でも、今日発表された基本計画には首をかしげるところがある。非戦闘地域うんぬんの件はほかの人に任せるとして、いちばん気になるのはExit Policyについて触れられていないこと。唯一、ここだけだ。

イ 派遣期間
    平成15年12月15日から平成16年12月14日までの間とする。

○平成16年の12月になると、「では延長いたしましょう」ということになるような気がする。日本の自衛隊は、何を達成したら引き上げるのか。「亡くなった2人の外交官の意志を継ぐために」という精神はいいけれども、あまりそれを強調すると引くに引けなくなる。なるべく早く「出口」の議論を始めたほうがいいと思います。

○さて、今宵の研究会では、イラクの情勢について「へぇ〜」な話をたくさん聞きました。真偽の程は定かではありませんが、聞くとなるほどと納得することばかりです。

●海外から入っているイスラム過激派はそれほど多くない。今、起きているテロ事件はほとんどがイラク人の仕業。

――いわれてみれば、土地鑑のない人間にテロなんてできませんわな。

●イラク人はアメリカも嫌いだが、国連も大嫌い。十字のマークをつけた赤十字もダメ。(赤い三日月にしているところもある)。

――そういえば国連は、経済制裁やら査察やらさんざんやったものなあ。

●イラク南部のシーア派には、イランの影響はほとんどない。

――ペルシャ語を話す奴らなんて知らん、ということだそうです。

●在韓米軍がイラクに動員されているが、その狙いのひとつは、「イラクの無秩序状態は、開放された直後の朝鮮半島と似ており、そのときの経験が生かせるから」。

――あわわ、この場合のフセインは日本軍ですか。

●イラク戦争終了後、現地の米軍には6週間にわたってワシントンからの指示が来なかった。

――難民が出るとか、どうも見当違いの心配ばかりしていたようで。「あとはチャラビに任せりゃいいや」などと軽く考えていたのでしょうか。この間のボタンのかけ違いが、問題を複雑にしてしまったようです。

○一昨日から苦しんでいる週刊エコノミスト用の記事(来週発売号)、自衛隊のイラク派遣が決まったから、それを取り入れて書き直さなければならない。おいおい、「A案」と「B案」のくだりはどうしたらいいんだろう? 何度もいじっているので、だんだん自分でも何を書いているのか分からなくなってきたぞ。この原稿のために、当不規則発言も2日連続で手抜きモードになってしまったのに・・・・。


<12月10日>(水)

○この4日間、お騒がせの週刊エコノミストの原稿は、ゲラチェックを4回もやった上で、とうとう今日、表題も変わってしまった。

(旧)日本外交が「ルビコン川」を渡る日
 ↓
(新)自衛隊が「ルビコン」を渡った日

○あらためて申し上げます。12月15日発売号ですぞ。

○昨日の話をもうちょっと補足します。軍隊はミッションを与えられて出撃します。任務が完了すれば、"Mission Accomplished"となって、お褒めの言葉をいただいて国に帰ります。その昔、「無事に帰ってくるまでが冒険だ」と言った冒険家がいたが、軍隊もちゃんと国に帰ってきてこそ軍隊である。自衛隊にもExit policyの議論は必要です。

○今のアメリカにもイラクからのExit Policyはないように見えますが、そこはそこ、彼らはその気になれば引き上げるかもしれない。そんな無責任なことをされては困るのだが、それでも帰ってしまうときは帰る。ベトナムからの撤退を決めたのは1973年1月27日のパリ協定だった。72年11月にマクガバンを破り、再選されたニクソン大統領は、再選後初の一般教書演説に合わせて策を練っていたのだろう。同様に、2005年の1月末には、再選後のブッシュが「名誉ある撤退」を宣言しちゃっているかもしれない。つまり、「あとは野となれ」ということで。

○上記のような筋書きも、一応、視野に入れておかなければならないと思う。なにせ今回の自衛隊派遣は、出すべきタイミングを逃した後で、今度は止めるタイミングも失われて決定に至った。こんな「筋ワル」の話が、ハッピーエンドになるとは考えにくいではないか。だから、臆病になっておきましょう。損害を小さくとどめるよう、あらゆる手段を講じておくべきだと思う。

○ところで畏友、中山俊宏氏から『軽い帝国』(マイケル・イグナティエフ著、中山俊宏訳、風行社)を頂戴する。この本、むちゃくちゃに面白い。「軽い帝国」とは"Empire Lite"で、まるでタバコの名前のようだ。そのものずばり、ボスニア、コソボ、アフガニスタンへと気安く出かけていって、国家建設に取り組むアメリカの姿を描いている。

○著者はアメリカを、「植民地を持たない覇権国であり、直接統治の重荷と日々の警備のリスクを伴わないグローバルな勢力圏を手に入れた帝国、つまり軽い帝国」と形容する。アメリカを「帝国」と呼ぶか呼ばないかは、これだけで大論争になるところなのだが、この著者は、別の場所でこんな風にも言っているそうだ。"American Empire --Get Used to it" (アメリカ帝国―もういい加減、それに慣れろ)。ただしイグナティエフは、いわゆるネオコン派ではなく、リベラル派の論客である。

○この「軽い帝国」は、蛮族の挑戦を受けている。9・11以後、「丘の上の街」で超然と歴史から隔絶した理想郷に住んでいるわけにはいかなくなった。テロとの戦いは容易ではない。それでも著者は、「だれも帝国など好きではない。しかし、ある種の問題については帝国的な解決策以外にはまったく途が閉ざされているのだ」と語る。つまり、「アメリカがやるしか、ないっしょ!」というスタンスだ。その一方で、軽い帝国は、「資金を投入し、結果を急ぎ、なるべく早く権限を委譲し、さっさと出て行こうとする」。この辺の粘りのなさが問題だったりする。

○Empire Liteは、イラクにおいても長期的で大規模な占領は不要だと考えた。米軍は解放軍として歓呼で迎えられるだろうと思い、それから先のことはあんまり考えていなかった。(そのわりに油田を早々と押さえたり、妙なところで手回しが良かったりするから、やっぱり腹黒だと見られている)。本当は帝国としての責務をはっきり果たしてもらわないと困るのだが。

○古森義久氏との共著、『ナイーブな帝国、アメリカの虚実』は、8月下旬に行った対談を元にしており、時期的には古くなっている部分もあるのですが、「日本から見たアメリカ帝国論」について多くを割いています。アメリカをローマ帝国と比較して、「シーザーのような軍事力は持っているが、アウグストゥスのような底意地の悪い政治的な権謀術数や偽善を持ち合わせていない」、だから「超大国以上、帝国未満」という診断は、今読み返すと、なんだか複雑な心境になります。

○この本、明日の日経と産経で広告が出るそうです。皆様、よろしくお買い上げくださいませ。

<12月11日>(木)

○忘年会シーズン、皆様はいかがお過ごしでしょうか。私めは4つも幹事を抱えておりまして、なかなかこの季節は大変です。

○忘年会では、久しぶりの人や初めての人と話す機会が増える。そんなわけで、こんな会話が飛び出したりする。

例、その1(久しぶりの相手)

「上のお子さんも大きくなられたでしょう」
「いや、それが駐在先で引きこもりになりまして。留年しましたから、今年は下の子と一緒に大学受験です」

例、その2(よく知らない相手)

「引っ越してからずいぶんになりますねえ。今の家はどういうご縁で買われたのですか?」
「実は今の家は妻が買ったものでして。どういう事情があったか、私はよく知らないんです」

○上記の2例はいかにも「当世風」の会話であります。それにしても、両方とも気まずいものがありました。うかつなことは聞けませんぞ、ご同輩。


<12月12日>(金)

○けっして忘れているわけではない、アメリカ大統領選挙の続報です。今週のいちばん大きな動きは、「アル・ゴアがディーン候補を支持すると決めた」こと。

○すでにディーンは民主党の「フロントランナー」と見られている。従来は党内の異端児と見られてきたディーンだが、元副大統領のゴアという党中枢の人物からお墨付きを得たことで、また一歩、大統領候補の座に近づいたことになる。しかるにゴアは、2000年選挙で自分が副大統領候補に選んだリーバーマンを袖にした。ゴア自身は元来、クリントンやリーバーマンのような中道派、ディーンはかなりの左派ですから、思想上の組み合わせとしてもこの選択は妙に感じられる。

○この話、案の定、政治マンガのネタとしては絶好で、下記のように大きく取り上げられています。でもって、かつてのクリントンの選挙参謀、ディック・モリスが「なぜゴアはディーンを支持するのか」という分析を寄稿している。

http://cagle.slate.msn.com/news/DeanMorris2/main.asp 

○モリスによれば、これは大統領選挙とは関係のない民主党内の内ゲバである。ヒラリー・クリントンにばかり注目が集まり、一向に自分の出番がないことに痺れを切らしたゴアは、ディーンを担ぐことでクリントン夫妻(Clintons)に一泡吹かせてやろうと目論んだのだと。

○これがどういう結果をもたらすか。モリスはクリントン側の人物なので、多少は割り引いて聞いたほうがいいだろうが、彼の見通しはまことに冷徹です。

尻尾が犬を振っている。アメリカ人の3分の1は民主党支持だ。民主党支持のうち3分の1は、ディーンを支援するようなリベラルな活動家たちだ。その彼ら(全体の9分の1)が、党全体の政策を決めようとしている。ディーンはその力を得て権力の座に近づこうとしている。ゴアはそれを利用して、自らの復権に役立てようとしている。(中略)

ゴアはディーンは勝てないと知っているだろう。だが彼を支援することで、ゴアはクリントン後の民主党の中で、みずかのアイデンティティを確立しようとしているのだ。それとも、もう一回、副大統領になりたいってか?

○クリントンとゴアが民主党の中で敵味方になる。これはなかなかに大変です。たしかに2000年選挙でも、クリントンはヒラリーの心配ばかりしてて、ゴアの選挙をあんまり手伝わなかったからなあ・・・・


<12月13〜14日>(土〜日)

○今日はISFJという学生の非営利組織の運営による「政策フォーラム2003」に参加してきました。かんべえの担当は、国際関係分科会で安全保障をテーマにした3本の論文に対してコメントすること。お暇な方、下記の3本にトライしてみてはいかがでしょう。

中央 横山彰研究会 国連はいかにすれば機能できるか
早稲田 吉野孝研究会 外交政策決定過程の分析
慶応義塾 小島朋之研究会 東アジアにおける多国間安全保障の限界と可能性


○面白かったです。各チーム25分間でプレゼンをやってくれるのですが、学生の諸君はなかなかに達者です。パワーポイントの使い方などは、私なんかよりもはるかにレベルが高い。何より、こんな分厚い論文を書いて用意してくるのだから、いったいどれだけ時間をかけたか、わが身の学生時代を省みると頭が下がります。

○とはいうものの、若気の至りのようなところもある論文ですから、存分にキツイことを言ってきました。「うーん、まだちょっと言い足りないなあ」と思ったけど、考えてみたら主役は学生たちであり、コメンテーターは政策論議を盛り上げるための触媒である。そしてまあ、参加した学生たちは面白い議論をしていたと思う。その辺の新聞の投書欄やテレビの討論番組に比べれば、はるかにレベルは高い。

○いつも、「経済・金融グループ」と「外交・安全保障グループ」の2つの世界を行ったり来たりしておりますが、最近感じるのは後者のほうが優秀な若手が多いんじゃないかということ。(と、書いた瞬間に小林慶一郎氏と熊野英生氏の姿が目に浮かんだが、例外のない印象はないということで棚に上げることにする)。今の日本であったら、学生の関心がそっちに向くのも無理らしからぬことかな、などと思ったりする。

○まだまだ話し足りない気もしたが、諸般の事情にて分科会の終了とともにお暇することにする。幹事の方から、「交通費&謝礼」として金2000円也を頂戴する。まことにありがたくて、「この飯、おろそかには食わぬぞ」という感じだが、なぜかこのお金、熨斗袋に入っている。常識があるのか、ないのか、よく分からない。ともあれご苦労さんでした。真面目な学生がこの世に実在することを確認した一日でした。

(夜)

○トヨタカップを見ている最中に「フセインを発見」の字幕が流れたので、そのままCNNに切り替えました。9時を過ぎてから、とうとう会見が始まってブレマー氏の口から"We got him.""The tyrant is a prisoner."の報が届けられました。さしたる抵抗もなくお縄につき、「よく話すし、協力的である」というサダムは、今どんな心境にあるのやら。やっぱりティクリートにいた、とか、75万ドル持っていた、というあたりが、人間ってそんなもんなのかなあ、と感じさせるものがあります。矢尽き刀折れ、といった感じでしょうか。

○バグダッドでは喜んで空に向けて銃を撃つ市民(いいけど、危ないぞ〜)、会見場では興奮気味で「うれしい!ありがとう!」などと叫ぶイラク人記者たちなど、影響の重大さをしみじみ感じました。これで状況が一変すれば、本当にいいのですが。自衛隊派遣の議論も、ずいぶん雰囲気が変わるでしょうね。とりあえず慶賀に堪えず。


<12月15日>(月)

○フセインを拘束したことで、どんな影響が出るかということに関し、私見を少々。

@12月9日付けで書いたとおり、外国人によるテロ行為はそれほど多くはない。つまりイラクにおける破壊活動の主力は旧フセイン勢力の残党ということ。彼らにとって、フセインはぜひとも生き延びて欲しいし、それがダメならせめて殉教者になってほしいところ。それが生きて虜囚の辱めを受けるというのは、最悪の展開ということになる。オウム真理教事件で、警察が「麻原を死なせるな」を合言葉にしたのと同じ。

Aイラク戦争後の治安が安定しないのは、イラク国民の大多数が「物理的には負けたかもしれないが、心理的にはちっとも負けた気がしない」でいるから。そもそもフセイン時代しか知らない人たちが多いのだから、そうでない現実に慣れることは容易ではないだろう。それでも時代は少しずつ変わっているということは、いずれ確認されるはずであって、今回のフセイン拘束はそのための重要なステップになるはず。

B最後にどうでもいいようなポイントであるけれども、アメリカのインテリジェンス機能が久しぶりに手柄を上げた。なにせ彼らは「9・11」を防げず、アフガン戦線ではビンラディンとオマル師をつかまえられず、イラクでは大量破壊兵器も見つけ出せないでいる。「0勝4敗」くらいだったところが、今回、かろうじて片目が明いて「1勝3敗」になったということは、今後のアメリカの能力に対する信認を取り戻す上で、小さくない勝利であったことは想像に難くない。

○他方、「小泉さんは運がいい」という声も今日はよく聞きました。私は別の意味でそれと同じ事を感じました。自衛隊派遣を決めたのが先週ではなくて、今週にずれ込んでいたとしたら、「フセインが捕まって安全になったから、日本は自衛隊を出すのか」になっていただろう。先週のうちに決めておいて、良かったねということです。

○問題は小泉さん自身の口から、「状況を見て判断する」という中途半端な姿勢が垣間見えることです。外交官が2人死んだから出すのか、とかフセインが捕まったから出すのか、などという相対的な議論にしてしまってはいけない。「リスクはあるけれども、日本のためにこれは必要なんだ」というトップの割り切りがないと、わざわざ出す意味がないし、自衛隊員も納得がいかないでしょう。

○たとえばサラリーマンが、こんな命令を受けたらどう思うでしょうか。

「君、悪いけど出向してくれるか」
「え?出向ってどこへいくんですか」
「I社だよ」
「えーっ、あそこは問題大ありの会社じゃないですか」
「いや、とにかく各社ともI社に人を出しているので、この際、わが社からも人を出さなければならんのだ」
「命令とあれば仕方ありませんが、それで私は出向先で何をすればいいんですか」
「うーん、実はあんまりよく分からないんだが、とにかく人を出すことに意義があるっていう感じかなあ。まあ、他所の出向者と同じ程度に頑張ってくれればいいんだよ。ただしくれぐれも問題だけは起こさないでほしいけど」
「張り合いがないなあ。それで私はいつ本社に返していただけるんでしょうか」
「それも今後のご相談ということで」
「ちょっと待ってくださいよ。本当にそれがわが社の方針なんですか」
「実をいうと社長は決裁しているんだが、経営会議では半数近くが反対していてなあ・・・」

○普通の神経だったら、「やってられねえぜ!」となるでしょう。うーん、なんだか私まで腹が立ってきたぞ。


<12月16日>(火)

○フセインの拘束について、いろんな人から聞かれているのですが、「これでブッシュの支持率は上がりますね」という人が少なくない。おそらく、ブッシュの支持率は5割をはるかに割り込んで低迷していると勘違いしているのであろう。いつものことで、マスコミはブッシュの支持率が下がったときだけ大騒ぎをするけれども、上昇するときは報道しない。おのおの方、くれぐれも日本の新聞を当てになさらぬように。

Gallupの調査では、ブッシュの支持率は9月下旬と11月中旬に5割ちょうどまで低下したが、なかなかに底堅い。12月に入ってからはまたも上昇している。12月5‐7日調査が支持55%(不支持43%)、12月11‐14日調査では支持56%(不支持41%)である。おそらく感謝祭に敢行したバグダッドツァーが受けているのだろうが、そもそもアメリカ経済は予想外に好調で、ダウは1万ドルを回復し、メディアケア改革法案も共和党の手柄になっている。ブッシュの支持率が上昇して何の不思議もない。

○世の中にはブッシュ嫌いの人が少なくないようで、「アメリカ国民はかならずブッシュを見放す」「だから日本政府はブッシュ政権から距離を置け」といった言説をよく聞く。でも、今回の"Saddam Capture"効果を上乗せすると、次回の調査では支持率は6割に手が届くかもしれません。これもGallupの調査結果ですが、アメリカ人の82%は今度のフセイン捕獲を"Major Achievement"と評価しているのですから。

○さらに過去のケースをひもといてみると、「3年目の12月時点の支持率」としては、ブッシュの55〜56%というのは歴代2位の数字である。これを上回ったのは1955年のアイゼンハワー(75%→再選)のみ。以下、1979年のカーター(54%→落選)、1983年のレーガン(54%→再選)、1991年の先代ブッシュ(52%→落選)、1995年のクリントン(51%→再選)、1971年のニクソン(50%→再選)、1967年のジョンソン(46%→不出馬)、1975年のフォード(46%→落選)と並ぶ。やっぱりブッシュの再選可能性はかなり高いと考えたほうがいいでしょう。

○念のために申し上げておきますが、あたしゃブッシュが好きなわけでは全然ありません。(古いファンの方はご存知と思いますが、ビル・クリントンのことはかなり好きでした)。ブッシュの弁護をするつもりもありません。ただ、こういった現実を直視しないブッシュ嫌いの人たちは、知的に怠惰であると思う次第であります。

○ところで今宵はまたも自分が幹事の忘年会。主賓の一人、衆議院議員に当選した近藤洋介氏がこんなことを言っていた。国会に行くと、衛視が自分に敬礼してくれる。新聞記者時代に国会はしょっちゅう出入りしていたが、その点にいつもドキッとするそうで、あらためて自分がパブリック・サーバントであることを自覚するとのこと。そんな知り合いが一度にたくさん増えたかと思うと、こちらもドキッとしますがな。


<12月17日>(水)

○年の瀬です。税制、年金、道路と、いろんなことが大詰めを迎えている。自衛隊の件はほぼ終了のようです。私は民主党には賛成してほしかったな。どうもあの党は、「金融国会」の経験がマイナスに働いているような気がする。1998年の民主党は「金融不安は政争にせず」と、責任野党たるところを見せた。しかるに政権をとるチャンスは逃した。だから今度は無責任野党になって、あとは小泉政権がつぶれるのを待つつもりらしい。愚者は経験に学ぶというのは本当ですな。

○世の中には、「これで自衛隊員が20人も死ねば、小泉政権が吹っ飛ぶ」ということを心待ちにしている人たちがいる。加藤紘一なんぞもその類か。古賀誠とヨリを戻したり、経世会と接触したりしてるらしい。痛いね。そうそう、年の瀬の風物詩、新党の立ち上げもどこぞであるとか、ないとか。

○ところで国会の中のちょっとした雰囲気を知るために、参考になるのがこのページです。題して「永田町ぐるぐる日記」。かの街で仕事をされている方の日記で、気風のいい文章だと思います。ご本人は石破防衛庁長官と野中広務さんが好きだそうですが、なんとなく書き手の美意識を感じさせますね。

○最後にちょっとCM。今朝の日経新聞にも出ておりましたが、新春の特別公開セミナーです。入場無料。

http://www.nikkei-cnbc.co.jp/souba/index.html 


<12月18日>(木)

○日経CNBC「マネー&ワールド」の収録日。今回のテーマは「人民元」で、ご一緒したのは日経ビジネスの谷口智彦さん。気心の知れた同士で、談論風発となりました。

○谷口さんは以前から、「中国共産党の3つの役割」という面白い解釈をしています。すなわち、@世界最大の土地所有者、A世界最大の人事部、B世界最大のファンドマネージャー、だというのです。この3つがどうからみあうかというと、やっぱり詳しい説明は番組を見ていただくのがいちばんでしょう。ということで、この番組の第3回をよろしく。放送は土曜日の午後9時半です。

○昨日から日経新聞の「経済教室」が、中国経済の投資過熱をテーマに取り上げている。非常にいいタイミングだと思う。The Economist誌が書いていたように、いまや中国はアメリカと並び、世界経済の2大エンジンである。(本誌の11月28日号で取り上げた"Boom or gloom?"を参照)――それではアメリカ経済と中国経済、どっちが安心かというと、世間の大多数は「アメリカが危ない」と言うのだと思う。例によって少数派意見の好きなかんべえとしては、「むしろ中国の方がやばいんじゃないか」と思い始めた。

○「中国の高度成長は、少なくとも2008年までは続くだろう」――ビジネスマンでもエコノミストでも、大概、似たようなことを言っている。これをチャイナ・コンセンサスと名づけようと思う。多くのコンセンサスがそうであるように、さほど根拠があるわけでもない。あらためて「チャイナ・コンセンサス」の妥当性を検証してみたくなりました。


<12月19日>(金)

○産経新聞の新春企画で、「若手政治家が大いに語る」という座談会があって、その司会役を仰せつかりました。約1時間半にわたって自民党2人、民主党2人の議員とあれこれ論じましたが、案の定、ほとんどの点で認識が一致する。どうも政党間の違いよりも、世代間の違いの方がはるかに大きい。これはまあ、政治の世界に限ったことではないのかもしれないけれど。紙面への掲載は1月6〜7日頃になる予定。

○座談会の会場を出たところが、すぐお隣で開催していたのは、なんと今井澂(きよし)先生の講演会だった。厚かましくも懇親会の会場に乱入し、いつも通りご機嫌のマネードクターに挨拶する。著書の『日本株「超」強気論』も、売れ行き好調のようで何よりです。

○その後、テレビ朝日『サンデープロジェクト』のスタッフから取材を受ける。テーマは米大統領選。毎度の事ながら、ブッシュが優勢ですよ、と断言してしまう。インタビュアーが、どっかで見た人だなあと思っていたが、帰りに地下鉄の中であらためて名刺を確認したら、北朝鮮問題で活躍している高世仁さんであった。あらららら。迂闊でございました。てなわけで、次の日曜日には数十秒間、私めが登場いたします。

○今週分の溜池通信は24日発行として、「チャイナ・コンセンサスを撃つ」という論文に精を出しています。どこで使うかはまだナイショ。ま、そのうちに。

○夜は若手の安全保障研究者たちの忘年会。さすがに今宵は忘年会のピークと見えて、どこもかしこも満席である。そりゃあ当たり前で、こんな日に閑古鳥が鳴くようでは、日本経済もいよいよ先が見えたというもの。ほぼ満員の常磐線で帰宅。ふー、年の瀬らしい一日でした。


<12月20〜21日>(土〜日)

○ウチの近所の「トイザらス」の前で渋滞が起きている。クリスマスプレゼントを買おうとするクルマが、店に入ろうと長蛇の列を作るのである。年末恒例の景色。クルマに乗った無数のサンタさんたちが、国道16号線にあふれかえっている。

○イブまであと3日。至る所がクリスマス・モードである。スーパーはクリスマスソングがエンドレスで流れている。柏市立図書館に行ったら、入り口のところにサンタさんの絵本が並べてあった。

○そういう目抜きの場所ではなく、わざと目立たない場所に置かれていたサンタの絵本を手にしてしまった。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」という題で、その名のとおり不気味な表紙である。なんとこれを描いたのは、『バットマン』などを撮ったティム・バートン監督で、絵を見れば一目瞭然。ハロウィンのお化けたちがサンタさんを拉致して、自分たちがプレゼントを配ろうとするという設定で、まことにティム・バートン的な世界なのである。思わず借りてしまったではないか。

○ティム・バートン監督は、カネがないときは『ビートル・ジュース』や『シザーハンズ』のような妙な傑作を作るのだが、カネがあると『マーズ・アタック』のような大愚作を作る。彼にカネを渡すと、この絵本もすかさず映画化してしまうかもしれない。賭けてもいいが、興行的には失敗するだろう。リュック・ベッソンのような、困ったタイプの映画監督なのである。

○ティム・バートンには、初期に『エド・ウッド』という低予算映画の佳作がある。エド・ウッドとは、SF映画を得意とした昔の監督で、ティム・バートン以上に変な人だった。どれくらい変かというと、予算がないからパイプ椅子に俳優を座らせ、「ハイ、これが宇宙船の操縦室」などという撮影をした人である。性格は破綻しているわ、女装癖はあるわ、とにかく映画を作らなかったら単なる社会の迷惑で終わったはずである。でもって、容易に予想できることだが、ティム・バートンはエド・ウッドに私淑して、このカルト監督の生涯を描く映画を撮った。

○『エド・ウッド』の中にはとてもいいシーンがある。若きエド・ウッドは偶然、レストランでオーソン・ウェルズに出会う。すでに『市民ケーン』の頃の栄光はなく、尾羽根打ち枯らした往年の元名監督となっているが、資金さえあれば次の映画を撮ろうという意欲に燃えている。長嶋茂雄に出会った野球少年のように、エド・ウッドは「僕も映画監督なんです!」と話しかける。老人は読みかけていた脚本から目を離し、若者にこんな言葉を与える。

「エド、自分の夢を撮れ。他人の夢を撮ってどうする」

○二人の出会いは実話らしいが、このセリフが本当にあったかどうかは分からない。それでもこの言葉は、エド・ウッドとティム・バートンのような人間には、まことにふさわしい激励である。

○かんべえは思う。不遇の時代に、世の中におもねることを覚えていたら、ティム・バートンもエド・ウッドもオーソン・ウェルズもこの世に存在しなかったはずである。「自分の夢を撮れ」という言葉は、モノを作る仕事をしている人すべてに通用するアドバイスであろう。絵本のお陰で、ふとこの言葉を思い出すことができました。

(後記:その後、上海馬券王先生から、「The Nightmare Before Christmasは10年前にアニメとして映画化されているぞ」との突っ込みあり。うううう。知らんかった)


<12月22日>(月)

○昨日はほんの一例で、オタクな話をするときは、さらにオタクな人たちが読むことを警戒しなければなりません。

○さて、以下は筆者には縁もゆかりもない、なんの下地もないジャンルなのですが、このHPのオタク度にはしびれました。

http://www008.upp.so-net.ne.jp/uchiyama/gunka.html 

○なんとドイツの軍歌を集めたサイトなのです。「ナチスを作って魂入れず」という心意気のもと、歌詞と曲はもちろん、翻訳までつけています。こういうのを見ると、ドイツ語って迫力があっていいなあ、と思ってしまいます。(大学ではフランス語を選択したのだが、文字通り何も残っていない)。

○ドイツの軍歌を聞いていると、「やっぱり日本と似ているんじゃないか?」と思ってしまいますね。イギリス人やフランス人は、ここまではやらないでしょう。・・・てなことを書くと、「ここにありますよ」などとご注進が来たりして。本日で120万アクセス。読者が多いもんだから、うかつなことは書けません。


<12月23〜24日>(火〜水)

○ほ〜ら来た。ナチスの次はロシア帝国ですよ。どうもこう、おどろおどろしい国の方が盛り上がるんでしょうかね。

http://www.medianetjapan.com/10/travel/vladimir/russian_house/index.html 

○このURLを教えていただいたのは、いつ聞いても「忙しい、はまっている、煮詰まっている」という返事が返ってくる岡本さん。ねえ、本当はひまなんじゃないの?

○さて、私の方は、昨日、「チャイナ・コンセンサスを撃て」論文をほぼ書き上げて、ついでに今年最後の夕刊フジの書評を仕上げたところで力尽きました。11時間睡眠。もう本年分の仕事は終了、と言いたいところなんですが、まだまだ終わりません。もちろん年賀状は1枚も書いてないし、大掃除だってしてないぞ。早く去ってくれ2003年。

○本日は雑誌の取材が2件。日本経済とアメリカ大統領選について。東洋経済さん、四季報は売れてますかと聞いたら、たしかに売れてるけど、今はネット投資家が主力なので、発売日の直前の株価が高いか安いかで左右されますとのこと。これはもう「へぇ〜」ですね。その昔は証券会社が大量に買い込んで、勝手に配ってくれたものですが。

○元同僚で世界を放浪中のH君が、突然帰ってきて顔を出してくれた。H君いわく「日本の報道で使われているカダフィ大佐の映像はとっても古いですよ。チュニジアで今のカダフィを見たけど、まるで人間が丸くなって、いいおじいちゃんなんだもの。あれじゃあブッシュに無条件降伏しちゃいますよぉ」とのこと。昔の『ゴルゴ13』に出てきた頃の迫力ある面影はもうないそうです。いっそ北朝鮮に飛んでもらって、説得工作してもらったらどうでしょう。

○来客のせいにするつもりなわけではありませんが、今日出すと宣言していた今年最後の溜池通信は完成せず。すいませんね。今夜の頑張りが効くようなら、明日にはUPしますが。しくしく、イブの夜に執筆だなんて嫌だよう。


<12月25日>(木)

○年内、ワーキングデイはあと1日、新年まではあと1週間。別に時間に追われているわけではないんだけど、これって生涯でいちばん忙しい年の瀬じゃないかなあ。ふー。

○打ち合わせやら取材やらがあって気づいたんですが、「来年は後半から円安」という意見はちっともめずらしくはないみたいですね。だったら何で1年に20兆円も使って介入するんだろ。

○小林慶一郎の『逃避の代償』(日本経済新聞社)、電車の中で読み始めたら、オタクな話がいっぱいでハマリそう。熊野英生の『籠城より野戦で挑む経済改革』(東洋経済新報社)と併せて、「30代エコノミストの逆襲、籠城VSディスオーガニゼーション論」という企画はどうだろう。どっかの雑誌社でやってくれませんか?

○週末の有馬記念はシンボリクリスエスが大外枠ですか。来そうだなあ。でも、ちょっとそそられるのはザッツザプレンティかな。それにしても、これでシンボリが引退しちゃうなんて、残念だなあ。ネオユニヴァースやヒシミラクルとの決着はついてないぞ。来年は何を楽しみにすればいいのやら。


<12月26日>(金)

○お昼に伊藤洋一さん&尾道のAさんとご一緒に鉄板焼きの店へ。「親米派としては、ここは意地でもUSビーフ」などとわけのわからないことを言いつつ、サウスダコダ産のサーロインを頂戴する。いろいろお話しましたが、伊藤さんも中国経済の過熱を指摘していましたね。ふむふむ。

○かんべえの2004年の展望については以下をご参照。

●【2004年世界経済予測】世界は成長の持続性を試される1年に

http://www.multexinvestor.co.jp/editorial/EditorialContent.asp?edid=120031224 

○上の記事にある写真、ブッシュと一緒に写っている温家宝は、まるで井崎脩五郎みたいだなあ。


<12月27〜28日>(土〜日)

○とっても重要な年の暮れの儀式である有馬記念、今年は上海馬券王先生と一緒に出動することに。昨晩は拙宅にお越しいただき、途中で恒例の「火の用心」の中断をはさみ、延々と飲み続ける。気がついたら、世界放浪のH君がお土産にくれたハンガリーの貴腐ワイン(とっても甘い)が空いてしまった。酒の肴は、昔話や会社の近況や「リフレ論」だったりする。何も競馬の話ばかりしているわけではないのである。

○毎年、有馬記念は買うんですが、この「不規則発言」を読み返すと、近年は以下のような投票行動に出ている。

1999年:グラスワンダーの単勝を買う。スペシャルウィークとの接戦となるも、からくも当たる。
2000年:ナリタトップロードからステイゴールドに流し、見事に外す。レースは実力どおりテイエムオペラオーが勝つ。
2001年:マンハッタンカフェの単勝を取る。アメリカンボスへの「同時多発テロ馬券」は惜しくも取れず。
2002年:シンボリクリスエスの単勝を取るも、馬連は逃す。

○「単勝は取れるが、馬連は取れない」のである。今年の第48回有馬記念は、衆目の一致するところシンボリクリスエスの連覇が濃厚である。だが、二番手を見つけないと馬連は取れない。では対抗はどれか。それはきっとザッツザプレンティであろうと、かんべえは睨んだわけです。やはり菊花賞を勝った三歳馬というものは侮りがたい。騎手が安藤勝巳というのも「買い」である。ただしGザッツザプレンティ―Kシンボリクリスエスだとあんまり高くないので、この二頭を軸とした三連複を全部に流す。これでFチャクラあたりが入ってくれようものなら、とってもおいしい万馬券じゃないか。ふふふ。

○今年の有馬記念は12万人の人出。「やはりスタンドで見物すべきであろう」と、上海馬券王先生とともに人ごみの中に突撃。ファンファーレとともに、大観衆が競馬新聞を振って歓声を送るのは、日本だけの現象らしいけれども、あれはとってもいいものだと思う。馬も人も一体になって、中山競馬場が揺れている。2003年の締めくくりの一戦が始まる。

○スタートと同時に、Eタップダンスシチーが飛び出す。これは予想通り。予想外だったのは、GザッツザプレンティーとIアクティブバイオが絡みに行ったことだ。Eを抜き去って、そのまま二頭で先頭を奪い合う。こらこら、アンカツ、そんなに無理するな。そんな調子で最後まで残れるのか、と思ったが、もう遅い。向こう正面でBリンカーンにまくられ、その脇に控えていたのがKシンボリクリスエスである。こうなれば上手を取った北の湖(古い)のようなもの。第4コーナーからの中山の坂を快調に駆け上る。シンボリクリスエス圧勝。なんと9馬身差である。

○強い、あまりに強いシンボリクリスエスはそのまま引退式である。まだ4歳馬だというのに。来年も普通に走れば、賞金は相当に稼げるはず。それでも馬主であるシンボリ牧場としては、せっかくの宝物をリスクにさらしたくない。これで種付けして、次世代を育てたいのだろう。ファンとしては惜しい。「まだ走れるぞぉ」という声が飛んでいた。有終の美は勝負師の理想ではあるが、敗れずに去っていくことが本当に幸せか、どうか。でも「漆黒の帝王」がターフに戻ることはない。

○余力を残したあまりにも早い引退は、星野監督に重なって仕方がない。星野監督は自分で決断し、「あとは岡田に任せた」と言った。だが、シンボリクリスエスの引退は自分の意思ではない。もっと走って、もっと勝って、脚光を浴びたかったのではないだろうか。ファンとしても、強いシンボリクリスエスをもっと見たい。もっといえば、ネオユニヴァースやゼンノロブロイに倒される姿も見てみたかった。

○ということで、今年の有馬記念はまたしても単勝のみでした。めでたさも中ぐらい。馬券王先生、ともにまた頑張りましょう。


<12月29日>(月)

○12月19日に実施した産経新聞の若手政治家座談会、ようやく今日になって司会の感想コメントを送る。これで今夜のJ-WAVE、とっても久しぶりの"Jam the World"に出て「2003年/2004年の大予測」を語れば、今年一杯の仕事は終了です。年賀状はまだ一枚も書いておりません。大掃除もあんまり手伝ってないので、家族の評判はとても悪いです。昨日だって、競馬に行っちゃったものね。来年の仕事は、まあ、年が明けてから考えることにいたしましょう。

○てなことで、今夜もバタバタ。そうそう、J-WAVEの出番は午後9時15分頃です。よろしくね。


<12月30〜31日>(火〜水)

○今朝方、年賀状をあわただしく書きなぐって出し、夕方に富山に到着しました。羽田空港は帰省客でごった返していましたが、おもしろい現象があったのでご紹介まで。

○午後4時の富山行きの便がオーバーブッキングだったと見えて、「次の便に変えてもいい方は名乗り出てください、代わりに1万円差し上げます」というのである。次の便は午後7時なので、3時間つぶさなければいけないが、仮に家族4人で3時間我慢すれば、いきなり4万円のキャッシュが得られることになる。これはちょっと考えますよね。早速名乗り出ている人もいたようです。年の瀬の3時間は貴重ですが、1万円のキャッシュもそれなりに魅力的です。

○海外の空港などでは、遅れてきた客に向かって「もう満席だからあきらめて」と平然と言い放つエアラインも少なくないと聞きますが、日本でもオーバーブッキングが行われているということにちょっと驚きました。思えば、最近はネットで予約する客が多いから、それだけドタキャンする客も増えているのでしょう。エアラインとしては、その分、歩留まりを見込んで多めにチケットを売る。特に年末年始は、なるべく100%の乗客率を実現したい。仮にあふれたお客に1万円払うとしても、この時期のチケットはほとんどがノーマル運賃だから、1万円以下ということはさすがにないだろう。空気を運ぶよりマシ、と考えれば、この作戦は納得が行く。

○そうなると気になるのは、1万円というインセンティブだけでは十分なお客が名乗り出てくれなかった場合です。「じゃあ2万円」とレイズすれば、確実に新たなお客が名乗り出てくれるでしょうが、その場合、先に1万円もらったお客が文句を言うだろう。「消費者は価格に反応する」というのは経済学の鉄則ですが、こんな場所で市場メカニズムを持ち出すと血相が変わる人が出てきそうで、なかなかに難しいのではないか。さてさて。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki