<7月2日>(日)
〇7月1日はあの「ぐっちーさん」の誕生日であるのみならず、インディアナ・ジョーンズ博士(1899年7月1日生)の誕生日でもある。ということで、この週末は「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」へ。
〇よろしいですぞ、この映画は。このシリーズに必要なものは、強くて逞しい女、利発な子供、とってもとっても悪い敵役(今回はナチスが復活)、それから歴史上の謎(今回はアルキメデス)、ゲテモノシーン(今回はちょっとだけ)、そしてハリソン・フォード(大学教授は退任)である。これらが全部揃っている上に、ジョン・ウィリアムズの景気の良い音楽もついている。これで楽しくないはずがないではないか。
〇ハリソン君ももう御年80歳なので、このシリーズはこれにて一巻の終わりとなる。でも、『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』でのちょっと寂しい感じとは違って、いかにも大往生で大団円である。インディアナ・ジョーンズ博士も、大いにご満悦なのではないかと思う。願わくばこんな風に老けたいものである。
〇とりあえずこの映画、高野山への行きと帰りの長いなが〜い電車旅の結果、再発していたワシの腰痛を忘れさせてくれる効果があった。2時間30分もあるけど、そんなに長くは感じないですぞ。特にワシのように20代の頃に、第1作「失われたアーク」、第2作「魔宮の伝説」、第3作「最後の聖戦」を見た、という世代にとっては、これを見逃すわけにはいかぬのである。
<7月3日>(月)
〇明日は大経大の中小研セミナーで大阪に参ります。昨年に引き続き、福本教授との対談も予定しておりますが、今年は両方ともリモートで視聴可能です。ビックリするくらい大勢の方にご予約いただいておりますが、明日はどうぞよろしくお願いいたします。
第12回中小研セミナー
●日 時:2023年7月4日(火) 16時30分〜18時30分
●会 場:大阪経済大学 (大隅校舎) D館2階 D21教室
<第1部 講演> 16:30〜17:20
講 師:吉崎 達彦 氏
(大阪経済大学 中小企業・経営研究所
企業支援担当特別研究所員、株式会社 双日総研
チーフエコノミスト)
テーマ:「最新のアメリカ政治経済情勢を読む」
講演概要:間もなくテレビ討論会ともに、2024年米大統領選挙が実質的にスタートする。バイデン大統領に挑戦するのは果たしてトランプ前大統領なのか。また米国経済は、コロナとインフレを脱し、景気後退を避けられるのか。最新情勢をお伝えします。
<第2部 対談> 17:20〜18:30
対談者: 吉崎 達彦氏 × 福本
智之先生(大阪経済大学 経済学部教授)
テーマ:「米中関係と両国経済の今後の展開」
対談概要:昨年、半導体分野でアメリカは大きな決定をした。CHIPS法と対中半導体輸出規制(10・7規制)である。この半導体分野の動向も踏まえ、米中関係の議論を展開し、日本経済や日本企業の経営に与える影響を考えてみたい。
〇明日はアメリカの話をしなければならないのですが、これがちょうど独立記念日に当たります。ところがその直前に、最高裁がとってもKYな判決を2つ下してしまったので、どっちらけのJuly
Fourthになってしまいそうです。ひとつはアファーマティブアクションの違憲判決で、これは昨年の人工妊娠中絶問題に匹敵する問題。もうひとつはバイデン政権が下した「学生ローン返済の一部免除措置」の違憲判決。こっちは「まあ、そうなるよなあ」という感じであります。
〇なぜ6月末に米最高裁が重要判決を行うかというと、あそこは7月から9月までがまるっと夏休みになってしまうのです。公的な組織としては、いまどきちょっと考えられないような優雅さでありますが、「三権分立の元祖」たる米国政治においては、司法の重要性は日本とは比較にならないものがあります。そして現在の最高裁は、「6対3」で保守派の判事が多数を占めている。そのことの影響力はまことに絶大なものがあります。
〇という話はさておいて、明日は経済問題、特に米中の関係を中心にお話しする予定です。特に福本教授による中国経済分析は、私も楽しみにしております。どうぞよろしく。
<7月4日>(火)
○大阪経済大学にて中小研セミナー。アメリカ政治経済に関する自分の話は棚に上げるとして、福本智之教授による中国経済分析がとっても面白かったので以下の通りメモ。
○「脱・コロナ後」の中国経済に元気がない。欲の乏しい日本人でさえ、今は強制貯蓄50兆円を使いつつ、物価上昇を乗り越えて消費をエンジョイしているから足元の景気は悪くない。ところが、今年になってからの中国人の貯蓄はむしろ増えている。つまり消費行動が慎重になっている。
○最大の問題は不動産市場にある。中国人にとって最大の資産は「自分の家」である。その住宅価格が下がっている。いや、北京や上海などの大都会ではまだ高いのだが、ほとんどの都市においては下落していて、多くの家計のバランスシートには穴が空いたような状態である。
○これが例の「流動性のわな」を招いている。日本の1990年代のバブル崩壊局面では、主に不動産価格の下落に苦しんだのは企業であった。本来であれば、果敢に不良債権処理をすべきであったところ、それが進まずにデットデフレーションに陥った。あれはまことにツラい経験であった。
○ところが1998年当時の日本経済は、まだしも人口増加が続いていた(人口減少が始まるのはその10年後)。現在の中国経済の問題は、家計部門がバブル崩壊という傷を抱えている上に、人口減少も始まってしまったこと。そして多くの不動産ディベロッパーも傷を負っている。今後は賢明なる中国政府が、土地の供給を減らして地価の下落を避けながら、少しずつ経済を立て直していくしかない。
○さて、「流動性のわな」に陥った場合、打つべき手段は大胆なマクロ経済対策である。それも金融政策が効かなくなるので、思い切った財政出動が必要である。まことに興味深いことに、今の中国経済論壇ではリチャード・クー氏の言説が注目を集めているという。たぶん「もっと財政を使え!でないと日本みたいになってしまうぞ!」と言っているのであろう。たぶんそれは正しい。
○とはいえ、何にカネを使うべきかは難しい。今の中国では高速鉄道網の建設が一巡し、それも最後の方にできたのは不採算路線ばかりだということで、「ダメな公共事業論」が盛んである。これは90年代後半に日本経済と同じ。さて、いったい何に資金を投入すべきか。
○福本教授曰く。「家計に直接おカネを配ればいい」。つまり給付金である。コロナの真っ最中には、アメリカや日本でさえ給付金をばらまいた。その効果については諸説あるけれども、バランスシートに穴が空いている家計に直接、現ナマをぶち込むというのは、たぶん処方箋として正しい。それもデジタル人民元であれば、配布の間接経費も極めて低く済むのではないか。これはなかなかに良いアイデアであるように思える。
○ただし習近平政権には、その発想は乏しいらしい。利下げもToo
Little, Too Lateな感じだし、やはり劉鶴氏のような経済通が居なくなっていることが響いているのだろうか。
○てなことで、大経大大隅キャンパスのご近所、阪急線上新庄駅の近くの創作居酒屋で、あれこれ注文しながら痛飲したのだが、締めてお一人様5000円也。この地域の物価はまことにリーズナブルなのである。「ランチ750円」みたいな価格が今年になってもほとんど変わっていない、というから大阪はやはり物価上昇が起きにくい土地なのであろうか。
<7月5日>(水)
〇大阪に出張した時にはどこに泊まるべきか。ワシもしばらく試行錯誤が続いたのであるが、最近のお気に入りはレム新大阪である。新大阪駅の真上であるから、とにかく便利。部屋はシンプルだけど安い。しかも大経大は新大阪駅に近いのである。
〇朝ごはんのベトナム料理店がまたすばらしい。本日は諸般の事情で朝マックにしましたけど。その他、新大阪駅構内にあるあらゆる店が選択肢となる。なおかつ、ホテルをチェックアウトした後で、新大阪駅のコインロッカーに荷物を放り込めば、その後はほぼ手ぶらで活動できる。荷物は帰りに拾って、それから新幹線に乗ればいい。何とも合理的なのである。
〇ということで、大阪市内で2件ほど事情聴取に伺う。関西・大阪万博の進捗状況やら、IRの動向について。EXPO2025まではあと648日。なかなか大変そうなのである。それでも1年延期の刑を食らった東京五輪2020に比べれば、はるかに恵まれているとは思うのだが。
〇帰ってきてから高校のOB会である東京神通会の総会へ。コロナ下で停止されていたので4年ぶりの開催である。新橋第一ホテルの会場をぎっしり埋め尽くしているのは良いのだが、コロナ前に比べると高齢者比率が上がっているのではないか。「コロナ後」の経済においては、現役世代は夜の会合が入っている一方、高齢世代はここを先途と出かけてくる、という図式があるのかもしれない。
〇最近の富山中部高校では、生徒会長だけでなく、体育大会の団長も女子が務めているのだとか。なるほど、世の中はこんな風に変わっていくわけね。そりゃあ、そうだろうなあ、ということでちょっと納得する。
<7月6日>(木)
〇本日はラジオ日経「ザ・マネー」に登場。江連裕子さん、鎌田伸一記者とご一緒です。時間は午後2時半から午後4時まで。ちょうど相場が終わる時間帯に、その日の経済のよもやま話をご紹介します。本日は「米最高裁判決」や「ロシアのフローズン・マネー」などのお話しをいたしました。
〇今日は日経平均が500円も下げて、ちょっと嫌な感じの展開。下げのネタになったのは「半導体関連の売り」。今までがちょっと極端な流れだったので、少し現実に戻り始めましたかね。半導体関連は「生成AIによるゴールドラッシュ」と「米中新冷戦」という2つのネタが拮抗する展開ですが、後者を重視すべきなんじゃないかと思います。
〇最近はちゃんと競馬の予想ではなくて、本業で出演することが増えてきたラジオ日経。次回は8月3日(木)に登場の予定であります。
<7月7日>(金)
〇突然思い出した話。財務省と外務省の両方で働いたことがある人に、「2つの役所の違いって何?」と尋ねたところ、こんな返事がかえってきました。
「財務省に居た頃は、内部でしている議論はいつも世間一般の常識とは逆でした。『新聞ではこう書かれているけれども、本当はこうしなきゃダメなんだ』という議論が多かった。ところが外務省に行ってみると、幹部の人たちがその日の朝刊に載っていたのと同じような話をしている。内部の議論が、世間で言われていることとあまり違わない。そのことが印象に残っています」
〇これはどっちが良くてどっちが間違い、という話ではないのだと思います。両方の役所を多少は知っている者としては、非常に納得のゆく対比なんだと思います。
〇財務省はマネーを扱う世界なので、本音と建前の落差が大きい。あるいは本当の話は表立ってやりにくい。だからいつも「裏読み」をしなければならない。政策論議も意外性を伴うことが少なくありません。端的に言えば、学者を呼んで意見を聞いてもあまり意味がない。だって彼らは本当のことを知らないから。むしろこっちからインプットしてあげないといけない。
〇逆に外務省はパワーを扱う世界であって、そこにはあまり嘘が通用しない。新聞に書かれていることは、まあまあ正しい。逆に「本当のところはこうなんだ」などという輩は、ほとんどが陰謀論者の類である。政策論議も「こうするのが当たり前なのに、なかなかそうはできません」ということが多い。ちなみに外務省の人たちって、学者の意見を聞くのが好きみたいです。
〇これも一種の「経済脳と安保脳」みたいな話ですが、金融界の人たちは「裏読み」するのが習性になっている。だから、金融界のかな〜り偉い人が、「ウクライナ戦争はロシアはアメリカにやらされているんだろう?」と真顔で言ったりする。
〇「ロシア人から教わったけど、あれはプーチンとプリゴジンの出来レースなんだって?」てな話も、今ごろきっとどこかの酒場で囁かれているに違いない。そんなわけはないんですよねえ。もっとも、こういうギャップがあるからこそ、ワシ的には仕事が絶えないというメリットがある。
<7月9日>(日)
〇本日は4年ぶりに福島競馬「七夕賞」に参戦したのである。朝から同好の士、F氏とH氏と3人で新幹線で待ち合わせをしたりして、朝から気分は遠足モードである。さらばコロナよ。今日は諸般の事情により、日帰りコースで勘弁してやるけれども、4年前には吉川屋さんに泊まっていたんだよなあ。
〇ということで、4年ぶりに福島競馬場にたどり着いてみると、案の定、善男善女が集まってきている。いいよねえ、競馬場は。実を言えば、ワシも競馬場に来るのは昨年末の有馬記念から半年ぶりなのである。「おうちで競馬」をやっていると、コース全体を見渡すとか、好きな時に好きなアングルでパドックを見るとか、いやもう、何というぜいたくなことなんだろうか。
〇しかるに競馬場内では、皆さん、ネットで馬券を買うのが普通になっていて、「マークシートに記入して現金で馬券を買う」人がほとんど見当たらない。うーむ、すっかり競馬場のスタイルが変わっている。紙の消費量が減ったということは、SDGs的には一歩前進なのだろうか。
〇福島競馬に来たら、まずは福島民報の高橋利明記者と再会。福島競馬の最新情勢を伺う。昨年はこのレースで1着エヒトをバッチリ当てた高橋記者なるも、本日の七夕賞の本命がヒンドゥタイムズというのは、さすがに無理がありそうに思える。しかるに七夕賞は、JRAの年間重賞でも最も難しいレースのひとつであり、普通に狙っていたのではまず当たらない。少し捻らないといけません。
〇昼前から勝負を始めるが、案の定、当たらない。連敗街道まっしぐらである。8Rで惜しい三連複万馬券を逃すなど、いかにも大敗パターンがチラついてくる。それでも中京のメイン、プロキオンステークスでは狙ったドンフランキーが来てくれて、単勝と馬連をゲット。福島で連敗して、無欲の中京で取り戻す、というのは昔からここではよくあるパターンである。
〇そこで問題は福島メインの七夕賞である。ギリギリまで考えて、本命をバトルボーンからセイウンハーデスに変更。そこから3連複で人気馬に流してみるのがだが、敢えて13番人気のホウオウエミーズを入れてみた。牝馬は滅多に来ない七夕賞なのだが、いかにもヒモ荒れがありそうな気がしたので。
〇ところがゴールしてみたら、1着セイウンハーデスと3着ホウオウエミーズの間に入ったのが、もう一頭の牝馬、9番人気のククナなのである。2番人気、9番人気、13番人気でいかにも七夕賞らしい大荒れの結果となったのだが、同行のH氏はなんとククナから6頭に流して、馬連と三連複をゲットしていた。いやはや、畏れ入りました。
〇興奮冷めやらぬままに、バスに乗って福島駅に移動。そこで3人でテキトーに飛び込んだ餃子会館という店は、ご夫婦でやっている「行列ができる名店」であったのみならず、高橋記者の行きつけのお店でありました。なるほど、餃子もラーメンも安くて旨くかったです。
〇最後に福島競馬のちょっといい話。2020年に七夕賞を制したクレッシェンドラヴが引退して、この福島競馬場の誘導馬となりました。今でも福島の地下馬道を歩くと血が騒ぐらしく、それでは誘導馬としてはちょっとマズいのだけど、サラブレッドとしては幸せな老後なのではないだろうか。クレッシェンドラブはステゴ産駒だから、よく買ったんだよなあ。
〇とまあ、こんな風にいろんな記憶が積み重なって、競馬という遊びからは抜けがたくなっていく。ありがとう、福島競馬場。また行くからね。
<7月11日>(火)
〇今週(7/11-12)は、NATO首脳会議がリトアニアのビリニュスで行われる。旧バルト3国で、「敵」であるNATOが会議をやるなんて、ロシアから見たらさぞかし気分が悪いことだろう。今は確かにNATOのメンバーだけれども、昔は自分が苛め倒していた「利益圏」だったのだから。
〇なおかつ、この会議ではスウェーデンのNATO加盟が実現する。4月のフィンランドに続き、これでNATOは32カ国に拡大して、ロシアの目前に広がることになる。今まで北欧には、2つの「中立国」もしくは、緩衝地帯があったけれども、最前線がさらに東へ移動することになる。
〇しかも今週のNATO首脳会議で、最大のテーマとなるのは「ウクライナの加盟を認めるかどうか」である。もちろん即時加盟を主張する国は多数ではないけれども、ゼレンスキー大統領がやって来たらどうなりますか。プーチン大統領の血圧が上がるんじゃないだろうか。わくわく。
〇スウェーデンの加盟が実現する見込みになったのは、トルコのエルドアン大統領が一転して同意する構えだから。これはJDさんが言っていた通り。やっぱり「高く売る」タイミングを狙っていたのでしょうね。さすがトルコは、「地政学的にセクシー過ぎるから、皆が許してしまう峰不二子」((c)渡部恒雄さん)。
〇エルドアン氏の立場になってみれば、選挙はめでたく勝ったし、アメリカは武器を提供してくれるみたいだし、ここは西側に恩を売っておくに如くはなし。しかもロシア側に対しては、「お前、今はそれどころじゃねえだろ?」と言える立場である。この感覚、まさに戦国大名。まっとうな人間にはついていけない感覚です。
〇しかも今日になって、「プーチンは6月29日時点でプリゴジンと会っていた」(3時間も一緒だったらしい)というニュースが伝わった。はらわたは煮えくり返っていただろうに、御大自らが会ってやらねば事態が危ういと思ったのか。それくらい国内が危ういのか。どういう意図のリークなのか、あるいは情報がダダ洩れになっているのか。
〇今となっては、プーチンにとって最後の望みは、アメリカ大統領選挙でトランプが勝つことであろう。そのためには、せめて来年の春くらいまでウクライナの戦線を膠着させて、自分もちゃんと3月の大統領選挙で再選されなければならない。先は長いぞ、どうするプーチン?
<7月12日>(水)
○門間一夫さんの『日本経済の見えない真実』(日経BP)を読了。いやあ、いいですね。「それを言ったらミもフタもない…」という門間節が全開である。
○いつも日銀総裁の記者会見終了後には、門間さんはNikkei Liveで清水功哉編集委員を相手に「スピード解説」をしてくださいます。いつも身をよじって感動しながら見ています。ときには、「2%物価目標はできもしないし、要りもしない」と言い切ってしまう(本書ではP157に登場)。「アベノミクスは微害、微益である」と踏み込むこともある。いや、ホントその通り。日銀の現役の後輩たちは、「門間さん、そんなこと言わないで下さいよ〜」と嘆いてるでしょうけれども。
○門間さんの良さは、特定の学説に拠った「決めつけ」が少ないことである。長年にわたって日銀という職場で、現実の問題を相手に格闘されてきただけに、いろんな主張に対してニュートラルなのである。どうすれば物価目標2%を達成できるのか、どうすれば潜在成長力を上げられるのか、日本の財政は破綻しないのか、これらの問題に対して正直に「わからない」と答えている。
○実際にそうなのである。どうやらわれわれは、過去の経済学の学説が当てはまらない時代の中で生きているらしい。実は日本だけではなく、他の先進国も(特にリーマンショック以降は)、生産性の伸びが低下している。日本だけが駄目なのではなく、「失われた30年」などと変に自虐的になる必要はない。日本は他の国よりも人口減少がちょっと早いだけで、ごく普通の先進国であるに過ぎない。どんな経済学の教科書を見ても、今の状況に対する答えは書かれていない。
○しかも民主主義体制下で、透明性のある議論を経て、なおかつ世論の支持を得て、専門家の間でも意見の割れる政策を、政治の責任で「思いっきり試す」ことは簡単ではない。規制緩和も財政再建も、かならず反対する人は出てくるわけですから。たまたまアベノミクスの金融政策だけは、抵抗勢力が日銀だけであったから、「思いっきり試す」ことができたわけでありまして。
○そこで約10年にわたってアベノミクスを試した結果はどうだったか。最大の成果は、「金融緩和が足りない」という認識が世の中から消えたことである。せいぜい、それが全てであった。とはいえ、2000年のゼロ金利解除も、2006年の量的緩和解除も「時期尚早であった」と言われ続けてきた日銀にとって、ここで「3度目の失敗」をやるわけにはいかなかった。戦い続ける以外に選択肢がなかった。
○個人消費が伸びない理由についても、こんな説明がされている。将来不安があるからだとよく言われるが、公的年金制度を改革すると、今度は給付が減ったり負担が増えたりするので、それではかえって家計不安を強めてしまう。「急速な高齢化という根本原因がある以上、人々の将来不安を和らげることはおそらく不可能であろう」(P68)。いや、まったくおっしゃる通りなのですが、門間さん、それを言ってしまったら、それこそミもフタもないことになってしまいますぅ…。
○おそらく門間さんのこの手の言説に対して、アベノミクス原理主義者やMMT信奉者筋からは、「この敗北主義者め!」といった罵声が浴びせられるのであろう。あの人たちは基本的に欲深で、仮想敵を作りたがり、「決めつけ」が大好きで、何かと言うと「論破してやる!」などと言いますからなあ。だから「日本経済はもうそんなに成長できないし、物価目標も土台、無理なんです」という結論は生理的に拒絶するのであろう。
○ちなみに門間さんは、国債は借金よりも貨幣に近いので、「将来世代の負担」などと決めつけるのはおかしい、としている。つまりMMTを全否定しているわけではない。そして「構造的な低成長・資金余剰時代を生きる日本人は、この最適解を求める努力をあっさり諦めてはならないように思う」(P287)と現実に対して謙虚なのである。ワシ的にはこっちの方にはるかに好感を覚えるな。
○いずれにせよわれわれは、「昔の経済思想が通用するような経済」にはもう戻れない。だったらこれまで通り、恐るおそるそれまでは「異端」とされていたような政策を試してみて、その結果を踏まえながら、謙虚に反応していくほかはない。日本は課題先進国なので、そのトップランナーということになる。しょうがないよねえ。敗北主義って、そんなに悪くないような気がしてきたな。
<7月13日>(木)
〇昨晩発表の6月米CPIが前年比3.0%と市場予想を下回ったので、為替は円高ドル安に。1ドル=138円台まで行きました。確かにCPIが3%と言ったら、たぶん同じ時期の日本よりも低くなりますわな。実はコア指数は4.8%と、まだまだ高いんですけどね。
〇ワシのように貿易統計ばかり見ている者からすると、「昨年秋の『悪い円安』はもう終わった。145円を超えたとしても、そんなには下げないはず」という風に見えていたので、あんまり驚きはありません。ワシが神田財務官であれば、「ここで為替介入なんて、そんなのまったく必要ないだろ?」と考えるところである。
〇昨年秋の円安局面がなぜ「悪い円安」だったかというと、8月から11月まで4か月連続して、貿易収支が月次で2兆円台の赤字だったからだ。これだけの貿易赤字があると、どうしたって「実需の円売り」が生じてしまう。まさしく底が見えない円安局面で、2022年通年の貿易赤字は史上最高の19.9兆円に達した。
〇さらに今年1月の貿易収支は3.5兆円の赤字と、史上最悪を更新した(1月は異常値が出やすい月であり、特に中国における春節の存在が大きい)。ところが、さすがにこれでピークを付けたと見えて、その後は急速に改善に向かっている。
〇通関統計は第3木曜日に公表されるので、1週間後の7月20日には6月分の統計がリリースされるのだが、既に公表済みの6月上中旬分をご覧あれ。輸出が5.6兆円で輸入が5.7兆円、締めて赤字は1000億円である。ということは、6月の赤字は限りなく小さいことになる。
〇これだけ急速に貿易収支が改善しているのは、エネルギー価格(鉱物性燃料)の下落でほとんど説明がつきます。何しろ石油もガスも石炭も、既にウクライナ戦争勃発時点の水準を下回っておりますので。こんな風にエネルギー価格に振り回されるのが、われらが日本経済の宿命なのであります。
〇ということで、考えるべきは日米の金利差のみであります。7月は米FOMCが利上げでその後は様子見、日銀の金融政策決定会合は現状維持と見ますが、アメリカはその後は当分、様子見が続きそうであり、日本はどこかで変更があるはずである。だったら目先は円安よりも、むしろ円高警戒だと思いますぞ。
<7月14日>(金)
〇本日は名古屋市へ。会場の名古屋マリオットアソシアホテルに来るのは、あの「愛・地球博」以来のことであるが、豪華絢爛たるバンケットのフロアが満席なのである。皆さん、地場の企業がこぞって「4年ぶりの会合」を開いておられる様子であり、これぞ「脱・コロナの日本経済」そのものの姿ではありませぬか。
〇ワシを呼んでくれたのは鉄鋼商社カノークスさんで、ここもお得意さんを招いて「4年ぶりの総会」である。旧・日商岩井時代から関係の深い会社なのだが、ワシの広報室時代の上司、Fさんがかつて社長を務めた会社でもある。Fさんは豪放磊落を絵に描いたような昭和の商社マンであったが、案の定、当地でも無数の武勇伝を残していた。
〇旧加納鉄工をカノークスに社名変更してしまうとか、テレビCMを放映したとか、「スポーツ事業だ」と言って特製のゴルフクラブを売り出すとか、いやもう「バブル期あるある」の逸話が山のようにある。そういえばFさんは、日商岩井広報室にバーカウンターを作ってしまった人でもあった。もちろん経費は使い放題で、当然のように社内で毀誉褒貶は付きまとうのだが、部下にとっては「この人の下に居たら、何をやっても許される」と思わせてくれる、まことにありがたい上司だったのである。
〇ちなみに、当時の日商岩井広報室に出入りしていた朝日新聞の永栄潔さんは、新潮ドキュメント賞受賞作『ブンヤ暮らし36年〜回想の朝日新聞』の中で、このFさんの知られざるエピソードを明かしている。いつも威張ってばかりいるように見えたFさんは、実は細やかな裏工作もしていて、苦労もあったという、さもありなんのお話しであった。既にあの世に行っているFさんからは、「お前、余計なこと言うんじゃない!」と怒られそうであるが、まあ、いいではないですか。
〇ということで、名古屋カノークス会の講演会講師を務めて、その後の懇親会では業界の裏話を大量に拝聴する。それにしても昔の日商岩井には、個性豊かな「鉄の男」たちがおりましたなあ。今宵はしみじみ懐旧モードになってしまった不肖かんべえなのである。
<7月16日>(日)
〇しかしまあ、暑いですな。これでは外へ出かける気になりませぬ。それだけではなくて、東北では大雨。ワシは来週、秋田に行くことになっておるのだが、現地が大事にならないように祈るのみである。
〇そこで久しぶりにこのデータを確認してみた。過去の風水災等による保険金の支払額の一覧表で、これを見ると歴代トップ10のうち、実に5件が2018〜19年(平成30年と令和元年)の2年間に集中していることがわかる。第1位の「平成30年台風21号」(1.06兆円也)というと、「ああ、関空が水没してしまったアレね」と思い出すし、第2位の「令和元年台風19号」(5826億円也)というと、「ああ、長野で北陸新幹線が水没したやつね」ということになる。
〇逆に言うと、コロナ下の直近3年間は台風などによる被害がそれほど大きくなかったことになる。まったく非科学的な発想なるも、「コロナが明けたら急にまた自然災害が増える」、というのは意外とありそうなことのように思える。アメリカなどの熱波も大変なことのようですし。それから大阪で聞いた話ですが、「ダイキンさんが急に大企業になったのは、今まで不要だったヨーロッパで冷房が必要になったから」なんだそうです。
〇念のために地震再保険の支払いランキングを確認してみると、東日本大震災(2011年)が不動の第1位であり、そこからかなり離れて2位の熊本地震(2016年)があるのだが、3位は2021年の福島沖地震である。福島競馬場の修復現場、先日、見てきましたですよ。ちなみに阪神大震災(1995年)が5位に過ぎないのは、当時は地震保険の存在がそれほど知られていなかったからである。
〇ということで、災害列島、これからも気を付けていかねばなりませぬ。とにかく熱中症で倒れるほど、あほらしいことはありませぬからな。ご用心を。
<7月17日>(月)
〇こんな3連休に家でじっとしていると「人生負け組」という気がしてくるが、かといってこんな暑い中を外出すると「人生愚か組」になってしまいそうである。ということで、家の中で冷房を効かせながら、アマプラで『機動戦士ガンダム The
Origin』を第1話から第5話まで一気見する。
〇上海馬券王先生あたりからは、「なんだ、まだ見てなかったのか?」と呆れられそうだが、すまんなあ、見てねえんだよ。「機動戦士ガンダム」というアニメは、次のようなナレーションで幕を開ける。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。この一ヶ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。
人々はみずからの行為に恐怖した。戦争は膠着状態に入り、八ヶ月あまりが過ぎた。
〇ここから第1話「ガンダム大地に立つ」が始まるのであるが、この冒頭部分をキチンと説明してくれるのが『The
Origin』シリーズなのである。
〇見ているとついつい後を引くけれども、基本的に『スターウォーズ』のエピソードWからYを見て感動した人が、後からエピソードTからVを見ているのと同じような行為なのである。「ああ、ここはこうつながるのね」という点が面白くはあるが、細かい部分はアラが目立って仕方がない。安彦良和総監督には申し訳ないが、このシリーズ、所詮は一流の仕事ではないのである。
〇そもそも最初のガンダムが誕生したのは1970年代のことなので、物語の根本に当時の世相が深く反映されている。つまり人命軽視だし、男女格差が激しいし、金髪の人間が皆、善玉であったりする。こっちはそういう時代を知っているから何とも思わないけれども、今の若い人が見たら「???」だろう。煙草を吸うシーンも多いしね。
〇やっぱり今見ると「1年戦争」は無茶な設定で、人類の半分が死んでしまうので、「人々はみずからの行為に恐怖した」という言葉がしみじみ重い。まあ、今ウクライナでやっていることも同じなんだけどね。プーチン大統領は戦術核は使わないと思うのだが、ザポリージャ原発で下手なことをしないでほしいとしみじみ思う。1986年のチェルノブイリ事故の際には、欧州は大いに放射能を恐怖して「緑の党」ができたりしたのだが、ロシア人はそこからまったく何も学ばなかったように見えるので。
〇ちなみに1970年代の時代劇では、悪玉が「皆のもの、出会えであえ」と言うと、名もなき侍たちが大勢登場し、見事に全員が正義の味方に斬られてしまったものである。SF映画の『未来惑星ザルドス』(1974年)では、最後は登場人物が皆、喜んで死んでいく。当時の物語では、人の命が安かったのだ。今のドラマ作りでは、犬一匹殺すのにも丁寧な説明が必要になりますけどね。
〇それでも「ジ・オリジン」シリーズでは、ジオン・ダイクンの人物描写はなるほど納得だし、ザビ家の一族のキャラがまことに濃い。とくにキシリア閣下が良い。それからランバ・ラルとハモンのエピソードはよろしいな。それからシャアとララァとの出会いシーンも。
〇ということで、引き続き第6話も続けて見てしまうのである。ああ、変な格好の暇つぶしを見つけてしまった。まあ、冷房が効いているからいいか。
<7月18日>(火)
〇先週、リトアニアの首都ビリニュスで行われたNATO首脳会議(7/11-12)では、G7の動きが目立っていた。つまりウクライナのNATO加盟に対して、明確な見通しが与えられなかった一方で、それまでの間、G7各国が長期的な支援を行う方針を明らかにした。ゼレンスキー大統領からすれば(不満そうなツィートをしていたけれども)、基本的に「御の字」であろう。
〇こんな風になると、G7議長国である日本のプレゼンスも自然と上昇する。バイデン大統領が突如として岸田さんを称賛した、というのも、なるほど不自然ではない。G7はこれまでにないくらい一致しているし、それはロシアのお陰であるともいえる。
〇そもそもG7は1998年から2013年まではロシアを加えた「G8」であった。その頃は、西側諸国が何とか(核保有国である)ロシアを取り込もうと必死だったし、それが可能だと思われたときもあったのである。実際に2006年には、サンクトペテルブルクでプーチン大統領を議長として、G8首脳会議が開かれているのだから。
〇しかるに西側は結局、ロシアを取り込めなかった。ロシアの側も、1990年代までは「欧州の一員」足らんとした時期があった。その頃の欧州は、今とは違ってもっと価値観が中道であったから。プーチン大統領を決定的に欧州から遠ざけたのは、ジェンダーや気候変動、LGBTQなどの問題で、欧州が決定的に左旋回した(Wokeになってしまった)からではないかと思う。
〇ところがこの辺の事情に対して、欧州は全く無自覚である。自分たちがリベラル化してロシアを遠ざけた、とはまったく思っていない。逆に今のロシアから見たら、G7は「エネミー・ナンバーワン」であろう。自分たちを取り込もうとして、それに失敗したら容赦なく見捨てられた存在なのだから。ここは日本としては留意すべき点で、「G7にはわれわれのようなアジアの価値観も入っています」とアピールする値打ちがあるのではないかと思う。
〇ということでG7の株が上がる一方で、現在、インドのガンジーナガルではG20財務相中央銀行総裁会議が行われている。6大会連続で共同宣言が出せないことになる公算が大である。いくらG20財務相会議が年に4回も行われるからと言って、6連敗はひど過ぎるだろう。せめて9月のG20首脳会談くらいは何とかしてほしいのだが、中ロを含んでいるからには容易にまとまれない。
〇ということで、G7株が天井知らずになる一方で、G20株は地べたをさまよう展開となっている。2008年のG20発足以来、こういう局面も珍しい。さて、9月にニューデリーでG20首脳会議が行われるので、これからが見ものとなります。
<7月19日>(水)
〇あらためまして、当面の政治外交日程をまとめておきましょう。
7月25‐26日 米FOMC(→たぶん利上げ、次は様子見)
7月27‐28日 日銀MPM(→たぶん様子見)
8月上旬 マイナ総点検の中間報告
8月お盆頃? 福島第一原発ALPS処理水を放出?
8月22‐24日 BRICS首脳会議(南ア・ヨハネスブルク)→プーチン大統領は出席?
8月23日 米共和党2024年大統領候補討論会(米・ウィスコンシン州ミルウォーキー)
8月下旬 ジャクソンホール会合(米・カンザス州)
9月1日 関東大震災百周年
9月4‐7日 ASEAN関連会議(インドネシア)
9月8日〜10月28日 ラグビーW杯(フランス)
9月9‐10日 G20首脳会議(印・ニューデリー)
9月中旬? 自民党役員人事&内閣改造
9月19日〜 国連総会始まる→岸田首相は一般討論会に出席
9月21日 日越国交樹立50周年
10月1日 インボイス制導入
10月初旬 臨時国会召集?→冒頭解散??
〇うーん、何となく岸田首相は解散のタイミングを逃したのかもしれませぬな。内閣支持率が急低下していて、昨年同様、「春先はいいけれども、秋になると調子が出なくなる」馬なのかもしれませぬ。そのうえ、外交日程も忙しいですからね。
〇ASEAN関連日程(東アジアサミット、ASEAN+3など)が9月上旬に移動した、というのも大きなポイントです。その直後のG20首脳会議と併せて、どこかで日中首脳会談が開催できるのか。ワシントンで日米韓首脳会談をやる、てな話もあるみたいだし、岸田さんが腰を据えて内政に取り組むチャンスは、なかなか巡ってこないかもしれません。
<7月20日>(木)
〇本日は都内某所にて韓国経済に関するレクを受けました。半導体関連などでいろいろ発見が多かったですが、自分たちはこの隣国のことをまるで知らない!ということを痛感しました。
〇個人的には、つい先日教えてもらったウォーターボムの事件は驚きましたですな。そんなものに人気があって、韓流アーチストが大勢やってきて、チケットが売れているなんて全然知りませんでしたがな。どこが面白いんでしょうか。小生の理解を絶しております。
〇半導体産業の戦略などよりも、こういう芸能界の革新性の方が日本として学ぶところが大きいかもしれませぬ。良くも悪くも日本経済はぬるま湯で、韓国経済は切羽詰まっている。その辺の違いなのでありましょう。
<7月21日>(金)
〇本日は内閣府が1‐3月期の家計貯蓄率を発表してくれました。たぶん、こんな数字に興味を持つ人は少ないとは思うのだけど、「コロナ下の強制貯蓄」をうるさく言ってきた不肖かんべえとしては、この1.6%という結果に満足感のようなものを覚えています。これって2019年7‐9月期以来の水準ですぞ。やっとコロナ前に戻った、ということになります。
貯蓄率 | 主な出来事 | |
2019/ 1- 3. | 1.9% | |
4- 6. | 2.8% | ←元号が「令和」に、大阪G20サミット |
7- 9. | 1.6% | ←増税前の駆け込み需要 |
10-12. | 4.9% | ←消費税が8%から10%に |
2020/ 1- 3. | 5.1% | ←新型コロナによるパンデミック始まる |
4- 6. | 21.4% | ←「ステイホーム」+給付金 |
7- 9. | 10.9% | ←菅義偉内閣発足 |
10-12. | 6.8% | ←「Go Toキャンペーン」 |
2021/ 1- 3. | 8.7% | |
4- 6. | 6.9% | ←ワクチン接種始まる |
7- 9. | 7.7% | ←無観客で「東京五輪2020」開催 |
10-12. | 5.6% | ←岸田文雄内閣発足 |
2022/ 1- 3. | 8.3% | ←ロシアによるウクライナ侵攻 |
4- 6. | 3.2% | |
7- 9. | 3.1% | ←安倍元首相の狙撃事件 |
10-12. | 2.5% | ←水際規制緩和、1ドル150円台に |
2023/ 1- 3. | 1.6% | ←日銀に植田和男新総裁 |
4- 6. | ? | ←「2類から5類へ」、広島G7サミット開催 |
〇いよいよ時代は「脱・コロナ」からその先へ、ということになる。これから先の景気はどうなるか。時代のちょっとだけ先を見ていかなければなりません。
<7月22〜23日>(土〜日)
〇この週末、東洋経済オンラインに寄稿したのが、「ようやく『円安貧乏』の恐怖が少し遠のいたようだ」。土曜の朝にアップされたワシの文章が、日曜日の夕方になっても上位30位以内に残っているのは珍しいことで、要はオタク的なことばっかり書いているから仕方がないのだが、どうやら「円安貧乏」はいまどき「刺さる言葉」であるようだ。
〇ある時期までの日本人は、確かに「円高貧乏」に苦しんでいたのである。1985年のプラザ合意以降、ずうーっと「円高は困る」「円高は国難」「円高を止められない政治は無能」などと言われ続けてきた。円高を気にしなくてよくなったのは、たかだか2013年以降の10年に過ぎない。なんでこんなに変わったのだろう?
〇細かいことを言い出したら切りがないのだが、これらのトレンドは意外と効いているのかもしれない。
@日本経済は製造業よりも、非製造業が中心となった。(いま、いちばん景気に効果があるのはインバウンドの増加である)
A個人は企業人が減って、家庭人が増えた。(会社では円高で困っている人が、個人の立場では円安の方が困る)
B既存のメディアの力が落ちて、SNSの威力が強まった。(経団連の正副委員長会社の発言力が落ちて、フツーの人の声が世論を形成するようになった)。
〇だから今では、円高を嘆くよりも円安を嘆く方がファッショナブルになったのではないか。ワシが30年くらい前にお仕えした速水優さんという人は、これが口癖であった。
「円高とはわれわれの労働の対価が高く評価されるということなのだ。それのいったいどこが悪いのか、僕にはわからない」
〇今から思い返すと、これって真理だよな。「円高貧乏」とは、しみじみ贅沢な悩みであったのではないだろうか。
〇ちなみに競馬予想の方は、残念な結果に終わっている。本命にしたディヴィーナは2着に来てくれたのだが、まさか先行馬のセルバーグが逃げ残ってしまうとは。アンカツ先生が「あれで負けたら勝ち馬を褒めるしかないね」と言ってくれている。まあ、そういうものかと考えるしかあるまい。夏競馬は難しいねえ。
<7月24日>(月)
〇今週は中央銀行ウィーク。こういう順序になっております。
●FOMC 7月25‐26日→結果発表:7月27日(木)午前3時→この日の「モーサテ」には、たぶん鈴木敏之さんが登場して、パウエル会見の解説をしてくれるはず。
予想:0.25%の利上げ。次回9月は不明。もう1回の利上げがあるかどうか、記者会見に注目。
●ECB 7月27日→結果発表:7月27日(木)午後9時15分→翌日の「モーサテ」には、野村総研の井上さんあたりが登場し、ラガルド会見の解説をしてくれるはず。
予想:0.25%の利上げ。次回9月も利上げ。物価上昇止まらず、タカ派姿勢は変わらず。
●日銀MPM 7月27−28日→発表:7月28日(金)正午ごろ(日本だけは正確な時間が決まっていない)→午後3時半からは植田総裁の記者会見。夕方から大江麻理子&滝田洋一、もしくは門間一夫&清水功哉などの解説あり。
予想:現状維持。ただしYCCの小幅変更の可能性ありとの見方もチラホラ。
〇なんかもう、エコノミスト業界は寄るとさわるとこの話題。おちおちしていられません。ちなみに「モーサテ」では、来週月曜日(31日)が不肖かんべえの出番でありまして、そこで何を話すかはまだ決めておりませぬ。
<7月26日>(水)
〇中国の外相が更迭されました。「しんごう」って名前を覚える暇もなかったような。
●中国
秦剛外相を解任 事実上の更迭か
後任に王毅政治局委員 2023年7月26日 9時24分
〇なんでこんなことになったのか、日経の中沢克二編集委員の解説記事が(例によって)面白い。幹部に対する厳重な「身体検査」がある中国で、「身の下スキャンダル」などが発生するとは考えにくい。おそらくは対米関係の失態を問われたからで、直接の原因は6月20日にバイデン大統領が「習近平は独裁者」と呼んだからであると。
●中国外相、異例の更迭
「習近平は独裁者」絡む米中政治劇
〇言っちゃあ悪いが、政治家としてのバイデンさんはもともと「放言マシーン」であって、近年は加齢とともにさらに磨きがかかっているから、もちろん当人は悪気なく言っているのであろう。しかるにこれは、中国側からすれば「あってはならない発言」であった。以下の表現はドッキリさせられますな。
習の絶対的な権威は、たとえ米大統領であろうと侵してはならない聖域になりつつある。それが昨今の「習近平新時代」の雰囲気だ。
〇去年の秋に大抜擢された幹部が、半年後にこんな風に首が飛ぶのであれば、ほかの部下たちも競って「ヒラメ」族になるしかありませんな。かくして、中国政治の機能不全はますます進みそうである。大丈夫か、経済政策は。
〇とはいうものの、中国政治の内部なんてものは、ロシアや北朝鮮と同様、所詮は「本当のことはだれにもわからない」世界である。プーチンは冷徹にプリゴジンを斬ったという見方がある一方で、実はあのときは麻痺状態だった、という観測も出てくる。どっちが正しいか、なんてことは考えない方がいい。どうせわからんのだから。こういうときの鉄則は、宮家邦彦さんいわく「希望的観測を避ける」である。
〇不肖かんべえのささやかな中国との交流体験が教えることは、「地雷は踏んでみなければわからない」。日中対話の機会があったら、ちゃんと踏んでおくべきである。相手が怒りだして、あと10分で終わる予定が1時間以上の延長になったとしても、内心「しめしめ」と思わなければいけない。あれが地雷だったのかどうか、わからないままで放置しておくよりは、ずっとマシではありませぬか。
<7月28日>(金)
〇本日の日本銀行のYCC修正決定は興味深い動きでありました。日経さんは最終的にこんな風に整理しています。
●日銀、長期金利上限を事実上1%に 「緩和持続性高める」
〇先週、東洋経済オンラインで書いた拙稿では、こんな風に予測しておりました。
FOMCはたぶん0.25%の利上げ。日銀は今回も「様子見」だろう。個人的には、ここで一気に「イールドカーブ・コントロール撤廃」に打って出るのも悪くはない気がしているのだが、「植田日銀」はもっと慎重なアプローチを採るものと拝察する。
〇先週末時点では、「モーサテサーベイ」でも88%が「現状維持」という見方であった。ところが7月23日日曜日正午に日経の清水功哉記者がこんな記事を書いていた。
●長期金利上昇と緩和継続を両立 これが日銀の理屈だ
〇たまたま清水さんが今月上梓された『植田日銀こう動く・こう変わる』を読み終えたばかりだったので、これはひょっとして何か掴んだのかな?と思いましたな。そういう視点で見ていると、今日の動きは何の不思議もない。なるほどねえ、ということでありました。
<7月30日>(日)
〇この週末は4年ぶりで柏まつりが大復活している。昨日、駅の西口と東口を軽く回ってきたのだが、かなりの人出であった。結構なことである。
〇これで8月5日土曜日は、これまた4年ぶりで手賀沼花火大会が復活する。ウチは例年、近所のマンションの屋上から見物する程度なのだが、ないよりはあった方がはるかによろしい。
〇で、なぜかその翌日の8月6日が柏市議会選挙なのである。早速、今日はうちの近所にも演説カーが回ってきたのであった。しかも「れいわ新選組」。頭痛いっす。
<7月31日>(月)
〇本日は「モーサテ」へ出動。「プロの眼」コーナーのテーマは、「バイデノミクスに勝機はあるか」。またしても西原里江さんとご一緒でした。
〇先週金曜日の日銀決定はまことに興味深いところでしたが、西原さんによれば「市場が折り込むまでにはあと2週間くらいはかかる」とのこと。なるほど、確かに今回のYCC修正は理解しにくいところがあるから、どうしてもそれくらい時間はかかりますよね。この辺の感覚にじかに触れられるのは、この番組に出ていることのご利益なんだと思います。
〇お昼は日本貿易会のヒアリング。商社の業界団体には貿易動向調査会というものがありまして、不肖かんべえは2005年と2011年の2回、座長を務めている。2005年はBRICSブームのさなかで、日本の輸出入は右肩上がり。そういうときの予測は簡単で、バッチリ当たったという記憶がある。
〇ところが2011年は東日本大震災の年であって、民主党政権下で日本の産業界が六重苦(超円高+高い法人税+厳しい労働規制+厳しい環境規制+FTA政策の遅れ+電力料金)に苛まれていたときであった。今から思えば当時は貿易構造の大転換期であって、この時の予測は思い切り外してしまった。黒歴史であるけれども、貴重な経験値を得たときでもあった。
〇夜は政界関係者と密談。「維新の会」の力をどう見るべきか、などと。目先のことを考えれば、「保守二大政党制」の可能性まで見えてきているが、他方では「大阪・関西万博は大丈夫か?」てなリスクもある。「大阪府市」と「万博協会」の関係は、どうもスムーズではないみたいである。
〇なんと朝昼晩とイベントが詰まっていて、完全燃焼の一日であった。明日は軽く手抜きで参りましょう。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki