●かんべえの不規則発言



2001年10月


<10月1日>(月)

○週末に寝すぎたせいか、なんだか落ち着かない。天気は悪いけど、あちこち出歩いて情報交換に精を出す。

○旧知の自民当筋でヒアリング。「小泉さんは危ないね」という。対米支援7項目にせよ、2〜3年で不良債権を処理するという話にせよ、ほとんど根回しがされていないらしい。それが小泉流といえばそれまでだが、それで国会を乗り切れるのか。仮に安全保障問題では協力が得られるにしても、話が経済、具体的にいえば補正予算と来年度予算になれば、紛糾は必至。「医療制度改革、道路特定財源、地方財源」の恐怖の3点セットの議論は手付かずの状態だ。今はテロ事件のせいで気がつかないが、11月の半ばを過ぎたらどうなるのか。

○橋本改革のときには、梶山官房長官、加藤幹事長、野中幹事長代理、江田秘書官といった手だれの面々が、首相の意を挺して動いた。それが小泉政権では、山崎幹事長、福田官房長官、安倍官房副長官、飯島秘書官となる。申し訳ないが、軽量級といわざるを得ない。たしかに小泉さんには国民の支持がある。しかし、それがために首相が暴走した場合には止めようがなくなる、そのときこそ日本は最大のピンチだぞ、という話を聞いていささか悄然とする。

○そこからご無沙汰続きのA50事務局へ。9月8日にサンフランシスコ平和条約締結50周年の行事を行った後、15チームのキャラバンが米国の30州に向けて旅だった。日米の草の根交流を実践しようという試みである。ところがその3日後にテロ事件が発生。同日以降のプログラムはすべて中止となった。飛行機が飛ばないものだから、陸路で第2訪問地に移動したチームもあったという。

○こんなこと、今から言っても全然始まらないのだが、この活動へのボランティアをやっていた99年ごろまでは、2001年になったら自分もキャラバンに志願するつもりだったのだ。じゃあ、なんで止めちゃったのかといわれると、自分でもよく分からない。怠惰な人間だから、としかいいようがない。せめて最後の締めくくりの会合くらいは、恥を忍んで顔を出しておく。ちなみにA50がこれまでに受けた寄付の総額は4億3955万円。口座はそのまま残るので、さらなる募金は歓迎されます。念のため。

○大幅に遅刻して、民主党系の勉強会にもぐりこむ。講師は川村純彦氏。テーマはもちろん、テロ事件に関する当面の展開について。興味深い会話もあれば、あまりにもヴァーチャルでついていけない議論もある。ヴァーチャルだと感じるのは、たとえばこんな意見である。「米国の軍事行動が報復行為であれば、日本が協力することは集団的自衛権の行使であって認められないが、世界の警察としての行動であれば、日本が協力する理由がある」。なんというか、a sense of emergencyが欠けているんじゃないか。

○今回の7項目提案は、米国側からの具体的な要請がある前に、日本側から提示したという点に値打ちがある。ブッシュ政権は「日本に外圧をかけない」ことを方針にしている。ただしヒントはくれた。それがアーミテージの"Show the flag"発言である。これを「日の丸を見せろ」と解したのが、日米間の「あうんの呼吸」である。でも日本国内では、それとは異次元の議論が待っているわけで、かんべえ氏は「米国寄りの好戦派」ということになる。「民主党でも若手の間では、あなたのような意見が多い」と言われて、喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

○かなり遅い時間になって、一の会に参上。「先週末は、高橋尚子や長嶋引退といった大ニュースがあったでしょ。これは日本経済が危機的な状況に陥っている証拠なんです」てなことを熱弁する。詳しくは当不規則発言の9月6日付記事をご参照。題して、「経済大事件のときには、スポーツで感動的なことがあって、心理的な恐怖感を中和してくれる」の法則。日経平均が1万円割れで9月末を通り越してしまったのに、みんなそれほど怯えていないように見えるのはなぜか。テロとスポーツに気を取られているからじゃないだろうか。

田中さんの労作である文芸春秋テロ事件特別号を拝見。お疲れの様子でしたが、早く立ち直ってください。こうやって一日を振りかえって見ると、なんとも分裂気味。頭の中の整理はまた明日にでも。


<10月2日>(火)

○宝珠山さんから怒りのメッセージをもらっています。同感なので、以下の通り紹介します。

> 防護の弱い重要施設を予め公表は余りに非常識
>
>  わが国の重要施設を自衛隊で守れるようにするための自衛隊法改正案が準備されて
> いるが、その防護対象から、皇居、国会議事堂、首相官邸、原発などがはずされ、自
> 衛隊自身の基地、駐屯地、在日米軍の基地などに限定されたという。これはテロリス
> トにこれらの施設の防護は弱いと教えるに等しい行為である。
>
>  立法府は「内閣総理大臣が特別の必要があると認めた場合、防衛庁長官と国家公安
> 委員会の協議を踏まえ、自衛隊の部隊に警備を命ずることができる」の線にまで戻す
> べきである。
>
>  自衛隊が首相官邸などを常時警護する必要はあるまいが、内閣総理大臣が国家の重
> 要施設が危険にさらされると判断するときに適時・適切に発令できるように権限を行
> 政府に委任しておくことが重要である。そうでなければ有効な危機管理はできない。

○自衛隊と警察は仲が悪い。それは知っている。麻生幾のフィクション『宣戦布告』では、敦賀の原発が北朝鮮の軍隊に襲われているのに、警察力で守ろうとして悲惨な目に遭う話が出てくる。でも、ワシは覚えているぞ。1995年、オウム真理教の地下鉄サリン事件のとき、自衛隊と警察が協力して地下鉄にもぐったのを。警察は防毒マスクを自衛隊に借りたとも聞いた。そういう公務員たちを頼もしいと思ったし、国民生活が本当の危険にさらされたときは、組織防衛どころではなくなるのだと感心した。

○雑誌『選択』によれば、野中広務氏が「恐ろしいことや。沖縄や国会で銃を持った自衛官が国民の前に立つことがあっていいのか。沖縄サミットは警察が立派に警備したやないか」と言っているそうだ。ワシにはこの理屈が理解できない。オウム事件のようなことはもう2度とないと保障できるのか。今年のジェノバ・サミットがどんなひどいことになったか、知らないのか。先月、ニューヨークが受けた攻撃は、6000人もの死亡者を出した。「時代が変わってしまった」という意見もあるくらいなのに、なんで過去の延長線上で警察力だけで十分という話になるのだろう。

○地獄への道は善意で敷き詰められている。ジュリアス・シーザー。


<10月3日>(水)

○朝から成人病検診へ。さすがに40歳ともなると、検診を受けるのもベテランの域に達するので、今日は苦手のバリウムをちゃんと最後まで飲めた。もっとも胃カメラに比べれば、バリウムなど楽でしょうがないのだそうで、贅沢を言ってはいかんのである。

○あらためて「健康上の心配は?」と医師に聞かれるが、思いつかない。虫歯の治療を先送りにしていること、不治の水虫が再発していること、家でビールを飲まなくなってから便秘気味なこと、くらいか。いつ計っても血圧は80〜120、視力は両方とも1.5、体脂肪率20%以下などといった数字が並ぶ。他人に自慢できることといえば、これだけは200を超えるコレステロール値くらいしかない。成人病検診となると病気自慢大会が始まり、「ガンマGTPジャンケン」などが展開される周囲の環境を思えば、身のおきどころに困ってしまうのである。

○夜、リーマン・ブラザーズのチーフ・エコノミスト、ポール・シェアードさんを招いた勉強会。小泉改革への評価、不良債権問題、日本の制度改革など、示唆に富むお話を拝聴。議論が白熱したのは、当然のことながら不良債権について。シェアードさんの主張は、筆者などが下手なまとめをするよりも、ここここをご覧いただくのがいいと思う。どうやら必要なものは、技術論よりもやる気、アイデアよりも実行力、ということに尽きるらしい。ところがマーケットが期待する小泉さんは、財政再建や特殊法人改革に熱中しているから難しい。ちなみに、シェアードさんの著書、『企業メガ再編』については、以前に書評も書いているのでご参考まで。

○約3時間にわたる議論はすべて日本語。ほとんどグレゴリ―・クラーク氏かジョージ・フィールド氏なみの日本語力である。気がついたら、3人ともオーストラリア人。なんでオーストラリアの人は日本語がそんなに上達するの?と聞いたら、「時差がないから」という声あり。そういうもんですかね。でも、個人的に日本語が上手なニュージーランド人は大勢知っているので、やはり本当かもしれない。

○さて、テロ事件について。同盟国に対し、ビンラディンが事件に関与している証拠の開示が行われたということは、いつ戦争が始まってもおかしくないということ。それゆえに、すぐにでも開戦するような報道が目立つ。でも、なぜか今日からラムズフェルド国防長官は中東歴訪に出発した。まさか長官不在の間に戦闘開始はないだろう。長官の帰国は10月6日である。10月7日にはワシントンでG7会合があるので、少なくともこれが過ぎてから、ということになる。

○では次のタイミングは、と考えてみると諸説入り乱れる。10月16日が新月だから、その日じゃないかという話がある。アフガンではそろそろ雪が降るから、急がなきゃ、という意見もある。それから11月16日にはラマダンが始まり、この期間中の軍事行動はイスラム諸国のヒンシュクを買うので、その前には踏み切るのでは、という見方もある。

○溜池通信の9月21日号で、「APEC首脳会議」(10月20〜21日、上海)が対テロ戦争の「作戦会議」になるかもしれない、という話を書いた。これが当たっているかもしれない。ブッシュ大統領にとっては、@中国を完全に味方につける、Aアジア全体の了承を取りつける、B北東アジアで不穏な動きがないように睨みを効かす、などの効果がある。ということは、日本の対テロ後方支援法は、それまでに国会通過のめどを付けておかなければならない。

○それ以前に、戦争以外のテロ対策が予想以上の効果をあげていることにも注目すべきだろう。タリバンの孤立化はどんどん進んでいる。その一方で北部同盟は気勢が上がっている。テロ・ネットワークの資金源を断つ動きも始まっている。「戦わずして勝つ」という、孫子の兵法の理想を行っているわけだ。孫子については、ここをご参照。少なくともこんな好循環が続いているうちに、開戦を急ぐ理由はない。

○てなことを考えてみると、ブッシュ大統領はここまでほとんどミスを犯していないことに気づく。9月11日の事件発生直後に、いったんネブラスカに向かったことと、演説の中で「クルセイド」(十字軍)と口走ったことが批判されているが、それ以外はほぼ考えられる中の最善手を続けている。やっぱりすごいぞ。


<10月4日>(木)

○さる日の岡本さんとの会話から。

岡本「四酔人は、反響大きいですよね」

かんべえ「あれはね、岡本さんのネーミングが良かったんですよ」

岡本「ネーミングったって、単に酔っ払いが4人いるというだけですけど・・・」

かんべえ「いや、こっちに来るメールなんかで、『四酔人の方々に注目しています』なんて人がいるの。なんていうか、ほら、ブランドになっちゃってるよ」

岡本「ひょっとしてアイドルか何かと勘違いされているとか」

かんべえ「そうそう、田中さんがHPで全員の写真載せたでしょ。あれで『かんべえさんがどんな顔だがわかりました』という読者がいた」

岡本「う〜ん、でも、そういう気持ちってあるかもしれませんね。毎日、このサイトを更新しているのは、どんなやつなんだろうって」

かんべえ「たしかにオフ会とかで読者に会うと、興味津津という感じだし」

岡本「溜池通信はいいですよねえ。読者が穏当な感じがするから。僕のサイトを毎日読んでいる人というと、すごい恨みつらみを抱えているような気がして、オフ会を呼びかけるのは怖いんです」

(筆者注:自分だって元の職場にルサンチマンを抱えているのに、よく言うよ、である)

かんべえ「だったらさ、今度の四酔人の会を公開でやっちゃっうってのはどう?どっか場所借りて、パネルディスカッションみたいにしちゃうの。で、4人のサイトで宣伝して、客を集めちゃう」

岡本「あ、いいですねえ。電通総研か東京財団の会議室を使わせてもらいましょうか。でも、何を話すんですかね」

かんべえ「そうだねえ。この企画はテーマ次第だね。なんかない?」

岡本「う〜ん、考えましょう。きっと何か浮かびますよ。・・・・ところでそのときも、やっぱり岡本イジメをやったりするんですか?」

かんべえ「ああ、あれは売り物だから、やらないわけにはいかないだろうなあ」

岡本「まあ、それはいいですけど、本当に人が来ますかね」

かんべえ「う〜ん、来ないかもしれないなあ。そんときは、一の会とPACの連中にでも声をかけて、むりやり動員しようか」

岡本「そうすれば客も面白いのがいっぱい集まりますね。うん、やっぱりこれは関心を引くようなテーマがないとダメですね」

○てな話が出たのは8月下旬のことでした。第1回第2回に続く、「第3回四酔人プロジェクト」がどうやら動き出せそうです。どんなものになるかというと、それは明日のこのページをお楽しみに。


<10月5日>(金)

○ということで思いついたのが、四酔人で「オフレコのオフ会」を開くことなんです。で、どういう会合になるかというと、ちょっと待って、案内状をもう一回見直すから。(と、われながら引っ張る、ひっぱる)。

○かんべえと同じ職場に元パキスタン駐在員がいて、今週号にもいろいろ材料をくれているのですが、事態を非常に憂えています。パキスタンとしては、自分が育てたタリバンが世界の非難を浴び、これを見捨てないことには援助を止められる。そうなったら経済的に破綻してしまう。だが、その結果としてアフガンに北部同盟の政権ができれば、これはイラン、インド、旧ソ連連合の国になるので、自分が孤立化する。なおかつ国内のイスラム勢力は怒り狂っていて、反米感情が全国で高まっている。

○「同じアジアの国として、日本は何かできんのか」と元駐在員は嘆く。かの国の奥地には、古い日本製の繊維機械を大事に使っている、似たような顔の人々が暮らしているという。こっちは向こうを知らなくても、向こうはこっちのことを知っている。日本としてテロと戦うために、アメリカを支援する。これはいい。だが、そのアメリカは、今週号でも書いたように、パキスタンが将来どうなろうが知ったこっちゃない。だったら日本として、対米支援とは別の次元の対アジア外交があっていい。

○外務省のホームページを見たら、「日パ関係の基本的考え」の部分に、「わが国にとってのパキスタンの重要性」として、以下のように書いてある。

パキスタンは穏健派イスラム国としてイスラム原理主義への防波堤としての役割を果たしうるとともに、地政学的にも天然資源の豊富な中央アジアや中東産油国と南西アジアを結ぶ結節点に位置し、南アジアの安定およびシーレーンの安全確保の観点からも重要。

○なんだか寝言みたいなことを言っているじゃないか。このままじゃ、本当の防波堤になってしまうぞ、あの国は。


<10月6日>(土)

○今日、アクセス数が14万件に達したようです。切りのいい数字をゲットされたのは九州在住のIさん。訪問者5000台の頃からのファンとのこと。ということは2000年年初の頃からですね。あの頃は1日50件ペースでした。最近は1か月で2万件ですから、われながらビックリ。

○さて、お待たせしました。第3回四酔人プロジェクト「テロ事件、オフレコ・オフ会」のお知らせです。

衝撃の同時多発テロ事件から間もなく1ヵ月。

田中さんは事件発生の直後にNYに飛び、現地を取材した結果を自分のサイトで伝えています。

伊藤師匠も、すかさずかつての駐在地を訪ね、NYの夜の情景など貴重な情報をリポートしました。

岡本さんは、「日本のカイシャ」だけでなく「日本の対応」についても日々、「いかがなものか」をつきつけています。

不肖かんべえも、毎週この問題についてあれやこれやと書き続けております。

○事件からちょうど1か月目になる10月11日のお昼に、四酔人が久々に集まってオフレコのオフ会を開催いたします。
ここで話す内容は、ネットでは公開しません。参加ご希望の方は、4人のうち誰かにメールでご連絡ください。

日  時: 10月11日(木)正午から午後1時半まで
場  所:
港区赤坂3−4−3 マカベビル6階  A50実行委員会会議室 (03)3589−2101
*赤坂見附駅から外堀通りを山王下に向かって徒歩約3分、右手側の建物です
会  費: なし
参加者: 司会 :吉崎達彦(かんべえ)
  スピーカー:田中裕士(門前の小僧)
       伊藤洋一(ycaster)
       岡本呻也(えせ茶人)
備  考: 会場のスペース上、人数に制約がありますので、希望者多数の場合は先着優先とさせていただきます。
  ブラウンバッグスタイルで実施しますので、昼食は各人でご持参ください。


○「四酔人」を名乗っておりますが、この日は話題が話題ですから酒抜きです。参加ご希望の方々も、酒類の持ち込みはご遠慮くださいね。ところで上の案内は、岡本さんのサイトでも同じ内容を掲げておりますが、どうみてもあっちの方が見栄えがいい。ちょっと悔しい。ま、それはともかく「四酔人のオフ・オフ会」にご期待ください。


<10月7〜8日>(日〜月)

○肝心なときにはいつも寝ているかんべえです。またも朝起きてから開戦を知りました。余計なことながら今日で41歳。とんだ「お誕生日」となりました。ブッシュ大統領の開戦宣言はここをご参照。

○それにしても「開戦は当分先になる」などと金曜日の本誌で書いたばかり。情けなし。包囲網が完全にできたので、あとはイスラム諸国を味方につけながら、先方が自壊して行くのを待つだろう、というのが先週時点での筆者の読み。空母など、軍事行動の準備も万全なわけではない。なぜ今日の時点で攻撃なのかといえば、次のような理由かなあ、と考えてみる。

@味方のCoalitionが完成したので、時間を無駄にすることなく攻撃開始した。とくにパキスタンの協力が思ったより覚束ないので、待つことによって足並みが崩れるかもしれない。
A北部同盟のタリバンへの攻勢を助ける意味合い。
B10月11日にはテロ事件から1ヶ月になるので、その際に「まだretaliateしないのか」という国内世論が生じることを恐れた。
CNYの株価が安定してきたので、「今のうちに」という思惑があった。

○中東諸国が態度表明に手間取っているようだ。テロリストを支援するとは言い難いし、イスラム国への攻撃を是とするのも苦しい。なかでもパキスタンの動きが難しい。下手をすると核保有国が自暴自棄な行動に出てしまいかねない。そういう意味では、アメリカは最初からパキスタンを見捨てているという筆者の見方は当たっているのかもしれない。

○欧州各国がすかさず「支持」を打ち出すのにさほど遅れず、われらが小泉首相が「強く支持」を表明できたのはホッとしました。こんなときに中立などという選択肢はない。日本はG8とともに行動するという点に、一点の曇りもあってはならない。とはいえ、これでわが国の後方支援はまたまた間に合わずということになりそうです。集団的自衛権の行使を認めておけば、ある程度の行動の自由が確保できたのですが。

○アーミテージ・レポートが出てからちょうど丸1年。今読み返して見ると面白い。あそこに書かれていた、いろんな予言が成就しつつあります。


<続き>

○世界経済のグローバル化がいわれるようになるずっと昔から、イスラム教徒はやすやすと国境を越えてきた。信者は全世界でメッカの方向を向いて祈りを捧げる。コーランはアラビア語で書かれているので、熱心な信者は皆アラビア語ができる。ラマダンになると、みんなが同じように断食をする。昼間は水も飲んではいけないという我慢が、延々1ヶ月も続くのである。こうした共通項がイスラム教徒の間に一体感をもたらす。国境を越えて、グローバル・スタンダードならぬイスラム・スタンダードが存在するのである。

○「文明の衝突」が懸念される理由はここにある。「国際社会対テロ」の構図が、「西洋文明対イスラム文明」に置きかえられてしまうと、話は厄介である。中東専門家といわれるような方が、「ビンラディンの言うことに賛同するようなイスラム教徒とは0.1%ですよ」と言うことがある。安心させようと思っているのかもしれないが、全世界では13億人X0.1%=130万人となる。結構怖いではないか。

○しかし、ビンラディンが全世界のイスラム社会を代表しているか、といえば、明らかに答えはノーである。そもそもアメリカに叛旗を翻している彼の動機が疑わしい。表向きは、「米軍がサウジに駐留しているのが許せない」とのことだ。ほんまかいな。

○フランクリン・ルーズベルトは死の間際、ヤルタ会談からの帰途にサウジアラビアに立ち寄った。そこでサウド王家との間で、石油の権益を米国に与える代わりに、米国が安全を保障するという密約を結んだ。これは石油資源が重要になることを見越した、ルーズベルト一流の戦後構想の一環だった。戦後の米国の中東政策は、表向きはイスラエルを支援しつつも、同時にサウジをきっちり守るという二重構造になっていた。

○ちなみにこの話、筆者がワシントンにいた1992年に報道された。あまり注目されることがなかったのは、「中東専門家の間では常識」だったからだと聞いた。たしかに驚くほどの話ではないと思う。

○サウド王家とつながりのあったビンラディン一家の人間が、この「米国サウジ密約」を知らないはずがない。それどころか大礒正美先生によれば、80年代にはすでにサウジには米軍の秘密基地が建設されており、その工事をビンラディン・グループが受注した可能性さえあるという。(よむ地球、きる世界、9月26日号「アメリカ伝統の秘密戦争」を参照)

○ビンラディンのアメリカ憎しの念は、対ソ連戦で功績のあったアフガンゲリラを、冷戦終了とともに米国が見捨てたからだと考えた方が分かりやすい。パナマのノリエガ将軍のように、用済みになった手先が受け取る報酬は非情なものだ。そのように考えると、アフガン・テロ・ネットワークという存在は、「文明の衝突」のさきがけなのではなくて、単なる「冷戦の残滓」なのだと筆者は考える。

○それでもビンラディンの「檄」に対して、全世界のイスラム教徒が呼応しかねないという問題はある。全世界のイスラム国の多くは、グローバル経済の中で「負け組」になっていて、一種の閉塞感を抱えているからだ。

○例外はある。たとえばアジアのイスラム教徒は、本家本元のアラブ系信者たちに疑念を持っている。俺たちはちゃんと工業化したのに、なんで彼らはいつまでたっても昔のままなのか。石油収入にあぐらをかいて、真面目に働いていないのじゃないか。バンコクあたりに遊びに来る湾岸の富豪たちの乱行を横目で見ながら、マハティールのようなイスラム教徒は内心、彼らを軽蔑していると思う。

○しかるに、中東のアラブ系イスラム教徒は哀れなものである。彼らは束になっても、あのちっぽけなイスラエルに勝てない。戦争で歯が立たないだけではない。最近ではITブームによるインテルなどの大型投資があり、イスラエルの一人当たりのGDPは湾岸産油国のそれを超えている。昨年9月にオスロ合意が期限切れになったら、パレスチナのGDPは1年で半分になってしまった。

○ビンラディンは、こうしたもろもろの状況すべてを、アメリカの責任に転嫁している。イスラム教徒にとって、これは魅力的な提案に響くかもしれない。だがそれは根本的に間違っている。アフガン・テロ・ネットワークは、イスラム社会を代表しているわけではない。戦闘を続けることによって育った、暗い情念を持った集団である。「文明の衝突」を演出することこそ、彼らの目的なのだ。

○最新の軍事情報についてはここを参照。http://asia.cnn.com/SPECIALS/2001/trade.center/military.map.html


<10月9日>(火)

○ミラノの飛行場で大事故発生。ただしテロにはあらず、とのこと。さる人いわく、世界中の航空関係者はテロ事件以来、異常な緊張感にさらされており、まともな心理状態で無くなっている。だから、今は飛行機になるべく乗らない方が無難だよと。それを聞いてちょっと焦る。このところ、「今は飛行機が空いててサービスいいらしいよ」などと人に勧めていたもので。ハワイやグァム便は大丈夫だと思うのだけど。ワシはこの手の「逆張り」が好きだからなあ。昨日も分厚い牛ステーキを食べちゃったし・・・・

○お昼時、「日本でテロをするならどこがいいか」という物騒な話になる。皇居か、東京駅か、新宿の都庁か、とにかく日本のシンボルのようなものを狙うだろうとの声。「溜池の山王タワーに飛行機をぶつけて、首相官邸の上に倒すというのはどうか」というアイデアが出る。外資系が多いビルということなら、アーク森ビルなんかも狙い目か。だがちょっと固定観念にはまっているかもしれない。

○ワシがテロリストなら、ハイジャックの自爆テロという手は繰り返さない。日本だったら、たとえば爆弾を持って東海道新幹線に乗って、荷物を置いたまま新横浜で降りる。なにしろ新幹線に乗るときに、JRは名前を書けとか、荷物を見せろとは言わない。新幹線が爆破されれば、これは経済的にも心理的にもすごい効果があるだろう。非対称型の戦争というのは、そういう怖さを秘めている。敵は好きなときに、こちらのいちばん弱い部分を狙うことができるのだ。

○さらにテロリストの目でモノを考えてみる。彼らにしてみれば、お台場ほど狙ってもつまらない場所はないだろう。人が集まるとはいうものの、ディズニーランドほどではない。というより、平日はだいたいが空いている。建物はすべてこの10年以内にできたものだから、なくなっても心理的なショックは薄い。国益にかかわるような重要な施設もない。(フジテレビさん、御免)。だから「安心して遊べる街、お台場」とかいったら、なんだかアド街っく天国のCMみたいだな。

○アメリカで国防総省が生物兵器用のワクチンを4000万人分発注したそうだ。どういう会社が受注したのか、とにかくすごい需要であることには間違いない。でも、これがたとえば40万人分でいいやということにしたら、仮に50万人が感染したときに、政府は「ワクチンを誰にあげて、誰にあげないか」という至難の決断をしなければならなくなる。それでは危機管理にはならない。無駄に思えても、4000万人分用意しなければ、いざというときの役には立たない。とにかく安全のためにはカネがかかるのだ。

○夜はパレスホテルで行われている研究会に出席。テーマはテロ事件で、なんとワシが講師役である。いい度胸だ。ホテルでは別の会場で某社の大パーティーが行われていて、大変な人出である。テロリストから見ればなんという狙い目か。研究会はエライ人が多いので9時前に終わり、10時前に家に着く。こういうのも、なんか落ち着かないなあ。

○ここ数日、いろんな人からメールをもらいます。遠くにいる人や、昔お世話になった人など、意外な人からの「ひとこと」に喜んだり、驚いたりしています。おかげさまで、「四酔人オフオフ会」も定員近い数が集まりました。「ワシも結構、信用があるなあ」と思っていいのかしら。


<10月10日>(水)

○今日、10月10日といえば、その名も高き「晴れの特異日」。ところが今日は大雨。やはり祭日が月曜日に動いてしまったのが敗因だったか。と思ったら、10月8日も雨でしたな。「体育の日」が雨では困るではないか。

○体育の日の起源は、東京オリンピックの開会式にあるのだと思う。1964年10月10日について、こんな話を聞いたことがある。日本中の目がオリンピックに注がれていたとき、大阪球場では南海―阪神の日本シリーズ最終戦が行われていたんだそうだ。阪神打線は連投のスタンカを打てず沈黙。翌年からは巨人のV9時代が始まってしまう。そして、この年に日本一を逃したタイガースは、以後1985年まで沈黙を続けることになる。当時4歳だったかんべえは、「阪神の優勝を知らない阪神ファン」として25歳までの月日を過ごすのである。

○ハッピーマンデー法案で祭日を月曜に動かすのはいいことだと思う。飛び石連休というのは始末が悪い。もっともアメリカのように、ほとんどの祭日を月曜に動かしてしまうと、大学などで「月曜日の授業はコマ数が少なくて不公平になる」みたいな現象が生じてしまうのだそうだ。そりゃま、そうですな。

○ところで10月8日は、アメリカもコロンバス・デーで連休だった。この日に開戦に踏み切った理由の一つに、「祭日」という要素があったことは想像に難くない。なにしろ開戦の瞬間は「反撃テロ」が怖い。市民生活に影響が出ないように、平日であるよりは休日であった方がずっと良い。それにしても、10月の第2月曜は日本もアメリカも祭日、というのは面白い。

○それにしてもよく降りますな。明日天気になあれ!


<10月11日>(木)

○テロ事件発生からちょうど1ヶ月。ということで、懸案の「四酔人オフレコオフ会」を実施。全部で20人弱と、当方の予測に沿った線で理想的な人数が集まってくれました。「オウムとテロ事件の比較」(田中)、「自由な経済体制の終焉」(伊藤)、「言論に生きる者にとってのテロ」(岡本)など、面白い指摘はたくさんあったし、質問もいろいろ出て楽しかった。ただし詳しい内容は、集まっていただいた方とだけシェアすることにします。わざわざお出かけいただいた方々に深謝申し上げます。

○それから東京タワーの真下にある芝公園スタジオへ。昨晩、突然舞い込んだ話で、BSジャパン『ルック@マーケット』(午後4時から5時)なる番組に生出演することに。ちなみに番組出演を推薦したのはこの人でした。しかるにBSデジタル放送は一度も見たことのないので、どんな番組かは皆目不案内。「本番は4時からですから、3時半にきてください」と言われるものの、それじゃあんまりだと思って3時にスタジオへ出頭。

○先週の溜池通信で書いた「アジア2025」について、番組の中で紹介するという役回り。出番は10分くらいだろうと高をくくっていたら、冒頭から解説員の隣に座ることに。アフガン情勢を語るだけでなく、コメンテーターみたいなことまでやってしまった。さぞかし緊張した顔をしていたと思いますが、とにかくあっという間の1時間。テレビの仕事というものの雰囲気を楽しんできました。

○夜は恒例の勉強会PAC。大谷信盛衆議院議員(民主党)、小林温参議院議員(自民党)のご両人が参加。テロ支援法案で丁々発止になるかと思ったらさにあらず。政治ジャーナリストK氏こと角谷浩一氏の独演会に。(K氏は今月から、J-WAVEの「JAM THE WORLD」という番組の月曜日のレギュラーになったので実名報道に切り替え。午後9時20分くらいに登場します)。日本の危機管理のお疎末さ、官邸の機能停止、国会論戦の体たらく、などなど事細かにまくしたてるので、「親米、好戦派」としては顔色なし。

○結局、1日で18枚の名刺をもらい、いろんな人と話しまくった一日。こういう日は書くことがキツイ。明日は執筆の日にしなきゃ。


<10月12日>(金)

○朝から今週号の執筆に集中。いろんな人からメールをいただいてますが、ほとんど無視しております。恐縮です。

○夕方に書きあげて早めに帰宅。諸般の事情で夕飯は国道16号線沿いのロイヤルホストに。この辺は外食チェーンの集積があるのだが、周囲を見まわすと「肉の万世」「吉野屋」「安楽亭」、そして少し離れて「マクドナルド」と「カルネステーション」、「松屋」など。見事なまでの牛尽くしである。皆さん、狂牛病で大打撃といったところか。

○証券市場では回転寿司チェーンの株価が急上昇しているらしい。紀文も買い。こういう反応は、「美人投票」としての株式投資の一面が窺えて面白い。その昔、エイズが話題になってオカモトが買われたとか、フマキラーまで上がったということを思い出したな。

○最近できた別の場所にある外食チェーンの集積地は、「寿司の美登利」「王将」「サイゼリア」が軒を並べている。ここは見事に牛肉の難を逃れている。気のせいか、こっちの方が混んでいるようだ。運だね。


<10月13日>(土)

○ちょっとうれしい話を聞いたので書いてしまおう。

○某経済団体が安全保障問題を討議したとき、アーミテージ・レポートのかんべえ訳版が配られたんだそうだ。たしかに全訳はほかにはあんまりないんだけど、拙訳が出回っているというのは光栄です。インターネット上に載せてからもう8ヶ月になるので、相当な数の人たちの眼に触れたことでしょう。なんとアメリカンセンターでも拙訳を置いているらしい。一度、見に行こうと思う。アメリカンセンターには「アジア2025」の資料編も置いてあるというし。

○アーミテージ・レポートを読み返すと、「日米で諜報協力をやりましょう」という話が書いてある。テロ事件でこの件は緊急性を増したと思う。しかし諜報協力をやる前提として、「日本は機密保持のための法律を作っておいてくれ」とある。今国会では間に合わないだろうが、次期通常国会くらいまでに準備しておく必要があるんじゃないか。

○この報告書が誕生してからもう1年も経つのだが、言っていることは全然古くなっていない。とくに「外交関係」の次の一節などは、今日の事態を予測していたみたいで、あらためて胸にしみるではないか。

日本との協力において、米国が小切手外交のイメージを持ち続けるのは時代遅れである。日本は従来からのドナーの立場を超えて国際的なリーダーシップを取るならば、リスクを負わなければならないことを認識しなければならない。

○ところでこの訳、今までに訂正の指摘をいただいたことがない。何人かの方から「こなれた訳になっている」とは言われているのですが、本当に大丈夫なのかなあ。


<10月14日>(日)

○久しぶりに『サンデープロジェクト』を見たら、昨日書いたばかりの機密保護の話が取り上げられている。安倍官房副長官、やるではないかと思っていたら、今国会で通してしまうといっている。おいおい、そりゃまたずいぶんと急な話ではないか。まあ、ビンラディンがテロ事件に関与している「証拠」だって、今のままでは漏洩したところで罪に問えないのだから、早い方がいいのではあるけれども。

○こういう時期になると、「やっぱりP5はG7とは違うなあ」と感じることが多い。たとえば10月2日にプーチン大統領は、記者会見で「われわれの諜報機関の情報によれば、ビンラディンが今回のテロに関与していたことは明白」と発言している。P5に属さないG7(日本、ドイツ、イタリア、カナダ)は、英仏ロのような諜報機関と特殊部隊を持っていない。ゆえに米国が示す「証拠」が唯一の情報ということになってしまう。しみじみ思うのだが、日本は安保理の常任理事国入りしてなくて良かったなあ。

○ところで『サンプロ』である。田原総一朗というひとは、世間が言っているよりははるかにマトモな人だとかんべえは思っているが、今日のような話になるとちょっとついていけない気がする。「この前の戦争でアメリカは・・・」と言い出したので、てっきり湾岸戦争のことかと思ったら、太平洋戦争のことを言っていた。脱力。

○ある年代以上の方が、ご自身の戦争体験について語られるのは当然なことだと思う。でもそれも程度問題で、かんべえのお知り合いのKさんは若く見える60代だが、何かというと「俺も昔は軍国青年だった」と言い出すので閉口している。ふだんは年長者を立てるかんべえさんも、最近はこのフレーズを聞くと「それ、もう100回聞きましたよ」という態度で接することにしている。(100回は大袈裟だが、30回以上は確実に聞いている)。しかるに先方はまったくメゲルことなく、「なんでこれが分からないかなあ」という感じで、同じ話を何度も繰り返す。似たような人は多いだろうな。

○田原氏は「日本は自衛隊を出す以外の貢献も考えるべきだ。そのためには米国寄りにならない方がいい」と言う。でもアフガン復興会議を日本が主宰するって、本気で言っているんでしょうか。そりゃ、できるのならおおいに結構。でも、誰がやるんでしょう。つい先日まで、外務大臣の資質や外務省の機密費問題を叩いていたというのに。

○はっきりいって、今の日本はたいしたことはできないし、役割を期待されてもいない。だから何もしなくていい、というわけではない。テロはアメリカだけではなく、文明社会全体への挑戦なのだから。最初は「わかばマーク」で、少しずつテロ対策で実績を積み上げていくしかない。アフガン復興会議などという大風呂敷を広げる前に、まずは"show the flag"して、それから諜報機能の拡充とか、マネーロンダリングの規制とか、地雷除去の貢献などを考えてはどうだろう。


<10月15日>(月)

長島昭久氏の研究発表があるので、東京財団に出かける。溜池交差点にほど近い旧日本NCRビル(現日本財団)に会場がある。ところがここは米国大使館のすぐ近くなので、ビルの周辺には厳重な警備体制が敷かれている。しかもどこぞの宗教団体が、戦争反対の抗議行動を行っている。それを見ながら良からぬことを考える。どうせなら、「神よアメリカを清めたまえ!」とか何とか言って、塩を撒くというのはどうだろう。たちどころに取り押さえられるか、はたまた警備員が逃げ惑うことになるか。後者のような気がするな。(これを読んで実践しちゃダメよ!)

○本日の発表は、長島氏の長年のテーマである日米安保への提言。サービス精神の旺盛な長島氏、開口いちばん、「本日は日本でもっとも危険な地域にお運びいただき、ありがとうございます」とやって受けを拾っていた。冗談抜きに、このビルは米国大使館の警備陣がトイレを借りに来る場所になっているのだそうだ。溜池付近も物騒になったものである。

○プレゼンテーションでは、とくに新QDRについての分析が面白かった。詳しい内容については、今夜はもう眠いし、ご本人のHPにも書かれるだろうから、ここではこれ以上書かない。ところでこういう会合になると、客席にはよく知った顔が並ぶ。ジャーナリスト、自衛隊のOB、米国大使館のスタッフ、シンクタンク研究員などなど。狭い世界なのである。この中の議論は世界に通じるちゃんとしたものだと思うのだが、一歩外へ出ると唖然とするような議論がまかり通る。なんとかならんのか。

○今日は本来なら、こういう場所に来ているはずのOさんが来ていない。体調不良で入院中なのだが、ご快癒を心からお祈りします。「安全保障サークル」の面々は、あなたがいないと困るんですから。


<10月16日>(火)

○久々に泣ける本に出会いました。『将棋の子』(大崎善生/講談社)。3ヶ月ほどまえに柏高島屋の書店で「ありませんか?」と聞いたら、「ありまへん」。でっかいだけでダメな本屋だなあ、とそのときはあきらめたが、先日立ち寄ったら平積みになっていた。1700円。

○プロの将棋指しになるためには、奨励会という組織に入って頭角をあらわさなければならない。勝ちぬいて晴れて四段になれば、社団法人日本将棋連盟の正会員となって、お給料が出るようになる。その中で勝ち抜いて「A級八段」になり、将棋界の頂点である「名人」を目指す、というのが棋士の夢である。ところが四段になるということが、非情なまでに難しい。しかも年齢制限がある。小さい頃から将棋一筋に打ち込んできたもと天才児たちが、退会すればただの人になって、いきなり何の生活の保障もない。規定の年齢が近づくときに感じる焦りは、並大抵のものではないはずである。

○スーパースター羽生善治は、奨励会で6級から初段までを1年1か月で駆け抜けた。四段になったときはまだ中学生だった。この間、当たる幸いをなぎ倒したので、同じ時期の他の奨励会員たちは「斬られ役」にされてしまった。この世代には羽生以外にも、佐藤康光、森内俊之、郷田真隆など、通称「花の昭和57年組」と呼ばれる強豪が揃っていた。エリートたちが脚光を浴びる陰で、人知れず棋士になる夢を捨てて去っていった者は数知れない。本書はそういう顔ぶれのその後の人生を追っている。

○北海道出身の成田英二は1960年生まれ(ワシと同じだ)。25歳、二段で奨励会を去った。成田と同郷・同世代で将棋連盟職員だった著者・大崎は、成田が追い込まれていることを知り、札幌に会いに行く。40歳になった成田は、サラ金からの借金に追われ、逃げ隠れしながらギリギリの生活を送っていた。不器用な男なのである。小さな頃から打ち込んできた将棋は、人が普通に生きていくためには、まったく役に立たない。そんな彼が、奨励会を退会するときにもらった駒を大切に持ち歩いていた。将棋経験が、彼の人生を支えていたのである。

○一流と超一流を分けるものは何なのだろう、と思う。成田とて非凡な資質を持っていた。だが彼の才能は開花することなく、最愛の両親が病いに倒れるとともに、将棋への意欲も失われてしまう。苦しいときにもモチベーションを維持できる人だけが、生き残れるのだろうか。それとも、勝ち残ることができる性格というものがあるのだろうか。あるいは単に運の問題なのか。キツイ勝負の世界に生きたことのない者には、想像もつかない世界である。

○回想シーン。癌で余命幾ばくもない母に向かい、成田はすでに奨励会を退会してしまったことを告げる。息子が四段になり、棋士になるという夢に賭けてきた母は、「それで英二が英二でなくなるわけじゃない」と励ます。この母の愛はつらい。この愛は励ましだったか、重荷だったか。ともあれ、母子が過ごした最後の日々の描写には落涙。

○奨励会を去った若者たちはさまざまなコースをたどる。将棋連盟に職を得るもの、俳優を目指した挙句に将棋ライターになるもの、一念発起して猛勉強して司法書士になるもの、世界を放浪してボランティアに生きるもの、などなど。なにしろ将棋指しの集中力と記憶力は常人離れしたものがある。いざというときは馬力が違う。彼らの人生にとって、将棋は単なる回り道ではなかった、というのが本書の救いである。

○大崎善生は、前作、『聖の青春』も良かった。村山聖は打倒羽生を目指して限りある命を必死に生きた。成田英二は奨励会で羽生と戦って0勝4敗。ただしそのことを彼は誇りに思っている。彼らのことを、「どうしても書いてみたい」と大崎が思ったのは、『将棋世界』の編集長としていつも勝者を称える記事を作る立場だったせいかもしれない。(『聖の青春』については、2000年4月16日の当不規則発言に記述があります)。


<10月17日>(水)

○またまた世界を飛び交うメールのご紹介です。インド洋洋上を警戒任務につき、航海中の米駆逐艦ウインストン・チャーチル乗艦の、恐らくは士官が故郷の父に宛て出したもの。

e-mail from a young ensign aboard USS Winston Churchill to his parents.
(Churchill is an Arleigh Burke class AEGIS guided missile destroyer,commissioned March 10, 2001, and is the only active US Navy warship named after a foreign national.).

Dear Dad,

We are still at sea. The remainder of our port visits have all been cancelled.
We have spent every day since the attacks going back and forth within imaginary boxes drawn in the ocean, standing high-security watches, and trying to make the best of it. We have seen the articles and the photographs and they are sickening. Being isolated, I don't think we appreciate the full scope of what is happening back home, but we are definitely feeling the effects.

About two hours ago, we were hailed by a German Navy destroyer Lutjens, requesting permission to pass close by our port side.

Strange, since we're in the middle of an empty ocean, but the captain acquiesced and we prepared to render them honors from our bridgewing.

As they were making their approach, our conning officer used binoculars and announced that Lutjens was flying not the German, but the American flag. As she came alongside us, we saw the American flag flying at half-mast and her entire crew topside standing at silent, rigid attention in their dress uniforms. They had made a sign that was displayed on her side that read "We Stand By You."

There was not a dry eye on the bridge as they stayed alongside us for a few minutes and saluted. It was the most powerful thing I have seen in my life. The German Navy did an incredible thing for this crew, and it has truly been the highest point in the days since the attacks. It's amazing to think that only half-century ago things were quite different. After Lutjens pulled away, the Officer of the Deck, who had been planning to get out later this year, turned to me and said, "I'm staying Navy."

I'll write you when I know more about when I'll be home, but this is it for now.

Love you guys.


○以下はかんべえ訳。

父さんへ

僕らはまだ海にいます。残りの寄港予定地はすべてキャンセルされました。テロ攻撃以来の日々を、僕らは海上に線引きされた想定海域を行ったり来たりし、見張りに立ち、そして最善を尽くそうとしています。船の中にある記事や写真は、もう見飽きてうんざりするほどです。これだけ孤立していると、故国で何が起こっているかを僕らがすべて理解できているとは思えません。だが、その結果を僕らはここで痛感しています。

2時間前、僕らはドイツ海軍の駆逐艦リッツェンから表敬の呼びかけを受け、左舷並走を許可するよう求められました。大洋の真っ只中にいるのですから、これは奇妙なことです。でも船長は許可を出し、僕らは甲板に立って迎える準備をしました。

彼らが近づくにつれて、指令塔の士官が双眼鏡を手にして、「リッツェンはドイツの国旗ではなく、星条旗を掲げている」と告げました。先方の船が横に並ぶと、米国の国旗が半旗の位置にたなびき、甲板上の全乗組員が一種軍装の状態で、静粛に直立不動でいるのが見えてきました。彼らが船腹に示したプラカードには、「我等は諸君とともにあり」と読めました。

船はさらに近づいて数分にわたって並走し、登舷礼が行われました。甲板の上には、涙をたたえぬ目はひとつとしてありませんでした。それは僕のこれまでの人生の中で、もっとも強烈な瞬間でした。ドイツ海軍は乗組員たちに信じられないことをさせ、それはテロ事件以来の日々における頂点ともいうべき出来事でした。わずか半世紀前には、考えられないことだったでしょう。リッツェンが去った後、年内で退役を予定していた甲板長がやってきて僕に言いました。「俺は海軍に残るよ」

いつ家に帰れるかが分かったら、また手紙を書きます。でも今のところはこれだけです。 草々


<10月18日>(木)

○読者の方から、昨日の翻訳に訂正をいただきました。というわけで上の部分は直してあります。あはは。かんべえの翻訳は素直に信じちゃダメですよ。私は自分の英語力に自信がないから翻訳をするんです。ご指摘に深謝申し上げます。

○たとえば"port side"というのは船の左舷のことなんですね。ネット上には「和英海洋辞典」というスゴイものがありまして、ここにはこんなふうに書いてある。

sagen[海]左舷(opp. starboard)、adj.左舷の、vt.,vi.左舷に向ける[向く]: port [左舷: 船内にあって、船尾から船首に向かって船首尾線よりも船の左側(船内)または左方向] [参照]舷./n.左舷、adj.左舷の larboard[今はstarboardとの混同を避けてportを用いる].

○それからsaluteという単語は、海の男たちがこれをやるときは「登舷礼」というんだそうです。こんな言葉、初めて知りましたがな。

tougenrei登舷礼(とうげんれい): → [船側に一列に並んで]登舷礼を行なう(=to salute from deck) man the side(→ man the yards).

○具体的にどんな「絵」になるかというと、こんな感じである。いいよねえ。かんべえは海上自衛隊のファンです。

○ところで上のメール、「でき過ぎだ、作り話じゃないか」という人がいる。まあ、そうかもしれないけど、少なくとも海の男が作っていることは間違いないようですぞ。

○さて、今日は「アジア2025」の現物を見るべく、アメリカンセンターに行ってきました。この文書、インターネットには載っていない。アメリカンセンターでは本国から1部だけ取り寄せて、コピーが取れるようにしてあります。パワーポイントで147ページ。「コピーは1枚20円」なんだけど、「両面コピーは1枚とカウントします」と言ってくれるし、そもそも自己申告制である。実に立派な態度なので感心。国立図書館とはエライ違いだ。誉めて遣わそう。

○夜は某所でインフレターゲティング論を拝聴。エコノミストらしい、本格的ないいプレゼンテーションだった。ああいう話なら理解できる。でも納得はしない。意固地になっているわけじゃなくて、私はどうもグラフやモデルを積み上げた話には乗り切れないのだ。自分の生活実感とか、現場で頑張っている人のひとこととか、歴史上のアナロジーとか、何か具体的なものがないと、腑に落ちない体質なのである。というと、マクロの議論を全然受けつけない人みたいで情けないのだが、そういう性分なんだからしょうがない。

○すごーく簡単にしてしまうと、こういう話である。「日本経済の現状と金融システムの脆弱性を考えれば、今のデフレ状態はどうみたって長くは続けられないでしょう?だったら日銀が国債買い切りを増やすことで、デフレ期待を払拭できるかどうか、やってみたらいいじゃないですか。うまくいったときの効果は絶大だし、失敗したところでマイナスは限定的ですよ」。「もちろん舛添要一やリチャード・ヴェルナーみたいに、『株でも土地でも何でも買え』なんて言いません。それをやったら中央銀行でなくなる。でも何かしなくちゃいけないとしたら、本当に追い詰められる前にやるべきじゃないでしょうか」。

○上の議論、かんべえは理解するけど、納得はしない。速水総裁はもちろん乗らないだろう。賭けてもいいな。


<10月19日>(金)

○ワシントンから今日入った情報。ま、こんなところでしょうね。

取材したところ、ビンラデインの居場所は未だ特定できず、3ヵ月以内にタリバン政権の崩壊をもって、アフガン戦線の終結とするということです。

○今週号を書いてて思ったんですが、テロリストと本気になったアメリカ、どっちが怖いと思います?私は後者の方が、ずっと強力だと思いますよ。間違っても敵に回しちゃダメです。中国は賢いから、その辺をちゃんとわきまえていて、今頃さかんに機嫌を取ってます。今週末はAPEC首脳会談。


<10月20日>(土)

○今週号について、「小切手社会の米国では、郵便が決済の役割を果たす」という話は、ワシントン在住のK氏によるこのHPからの引用です。日記の10月13日分をご参照。現地の感じがよく分かってお勧めです。

○アメリカで暮らしていたときに、自分の小切手帳ができたときはうれしかった。銀行でChecking Account(当座預金)を開設すると、しばらくして自分の住所と名前が印刷された小切手帳が届く。これがあると一気に自分の信用が高まったような気がする。実際、スーパーマーケットなどで、カードはお断りだが小切手ならOK、みたいな場所があったりするのである。小切手で支払いをすると、何というか、「俺もちゃんとしたアメリカの生活者になったなぁ」という感じがした。

○小切手に金額を記入するときは、数字だけでなく文字でも書き込む。たとえば100ドルなら「$100」と同時に「One hundred dollar」と書く。日本で小切手に「壱万円」などと書くのと似たような感じですな。ところで1100ドルだったらどう書くか。「One thousand one hundred dollar」だとちょっと長いので、「eleven hundred dollar」でいい。これに気づいたときは感心したな。

○実際、アメリカ人は小切手をとても気にしながら暮らしているらしい。「Checkbookを赤字にしない」(当座預金の残高をマイナスにしない)というのは、アメリカでは非常に重要な原則で、子供のときからうるさくいわれるのだそうだ。たしか『ターミネーター』だったと思うが、頼りない主人公が、「あたしってcheckbookをbalanceさせることもできないのよ!」というセリフがあって、字幕では「お小遣いの管理もできないの」と訳していた。これはやむを得ないね。日本の場合、銀行の口座を赤字にしても少しくらいだったら大丈夫だもの。

○ふと気になったので、アメリカで使っていた小切手帳を探してみた。なんと見つからない。口座も残高も残っているはずなのだが。そもそも現地で使っていたソブラン銀行というワシントンの地銀は、ネーションズバンクに統合され、そこもまたどこかと合併したとかで、今は何銀行になっているのかも知らない。(以前は覚えていたが、忘れてしまったのかもしれない)。いつかは何とかしようと思いつつ、10年近くほったらかし状態。「まっ、たいした額じゃないからいっかー」という気もするが、あとでもう一度探してみよう。ちょっと悔しいのだ。


<10月21日>(日)

○秋らしい一日。何の予定もないので、午後から中山競馬場へ。だって菊花賞なんだもん。

○荒れない菊花賞、といわれる。でも先日は荒れる秋華賞が無難に終わっているので、今日は意外なのが来る、と勝手読み。ジャングルポケットL、ダンツフレームJ、エアエミネムG、の「3強」が人気になっているけど、今日の買い目は家を出るときから決めている。それはマンハッタンカフェA。テロに遭ったNYを応援する意味で、というのは後からつけたこじつけで、単に昨日、家で競馬放送を見ていたら、なんだか良さそうに見えたのだ。

○東京競馬場の第9レースからチマチマと買い始めるが、じぇんじぇん当たらない。1レース1000円ずつ買って、4つ続けてはずす。(かんべえさんは地味なギャンブラーなのである)。少し弱気になったところでメインのG1レース、京都競馬場。パドックの中継を見ると、ジャングルポケットがやけに大きく見える。さすがはダービー馬。急きょ予定になかったA―Lを買い足したりする。「今日はJ―Lが固いな」という周囲の声にますます不安を感じるが、でももう開き直ってビールを飲み始める。

○各馬いっせいにスタート。距離は3000と長いので、馬群は縦に伸びる。武豊が騎乗するダンツフレームJは最後方に構えている。「武の得意パターンだな」という周囲の声に、「うん、その通りだなあ」とまたも不安になる。なにしろ武はこのレースのために帰国したんだから。

○第4コーナーを回って、無印のマイネルデスポットIが独走状態に。「おいおい、行っちゃうよ」という声が沸きあがる。エアエミネムもジャングルポケットも必死で追うが伸び切らない。そこへ抜け出てきたのが、うれしやマンハッタンカフェではないか。ゴール前でマイネルデスポットをさし切り、騎手蛯名は高らかに右手を上げた。お見事。

○ということで、荒れないはずの菊花賞でA―Iという4万馬券が出てしまった。かんべえ、さすがにそこまでは買ってなかったが、Aの単勝17倍に文句のあろうはずがない。わはは。ということで、G1レースを取らせてもらいました。やったね。

○ところでNY在住の読者から、昨日の話題について親切なメールを頂戴しました。ソブラン銀行は現在はあのバンカメ(Bank of America)になっている、クレジットカードやデビットカードが普及して小切手の使用機会は減っている、インターネットバンキングが盛んなので、ネット上で照会ができるはず、など貴重なアドバイスをいただいております。やはりこの10年で米国の金融事情はずいぶん変わったようですね。

○気がついたら、アクセス件数が15万件を越えていました。めでたい一日です。


<10月22日>(月)

○これは今日もらったジョーク。

YOU DECIDE:

I have a moral question for you.
This is an imaginary situation, but I think it is fun to decide what one would do.

The situation: You are in the Middle East, and there is a huge flood in progress.
Many homes have been lost, after supplies compromised and structures destroyed.

Let's say that you're a photographer and getting still photos for a news service, traveling alone,
looking for particularly poignant scenes.

You come across Osama Bin Laden who has been swept away by the flood waters.
He is barely hanging on to a tree limb and is about to go under.

You can either put down your camera and save him, or take a Pulitzer Prize winning photograph of him as he loses his grip on the limb.

So, here's the question and think carefully before you answer the question below:



Which lens would you use?


○こういうジョークが流通するようになったというのは、状況にゆとりがでてきたことの証左だという気がします。1ヶ月前に流れていたジョークはちょっとトゲがあるものが多かった。たとえばこんなふうに。旅行会社の窓口で、「どちらへ行かれますか?」と聞かれたアメリカ人の旅行者が、「9月10日へ」と答える、なんて痛いマンガもあった。こういうと語弊がありますが、やっぱり開戦したことで、どこか吹っ切れたのかもしれません。

○しかもアフガン戦線はSo far so good. 開戦前には、「アフガンは第二のベトナムになる」、「ソ連軍が10年かけて落とせなかった」などの悲観論が多かったが、そういうのは他国の支援が得られる場合で、今回のアフガンのように袋のネズミ状態になってしまうと、粘るに粘れない。タリバンの中には、麻薬輸出の分け前が目当てで参加している手合いも多いので、意外と瓦解は早いぞ、てな話も聞いた。本当にそうなるといいんだけどね。


<10月23日>(火)

○昨日のジョーク、今日は2ヶ所で試してみたところ、一人はバカ受け、もう一人は「?」という感じでした。難しいなあ。親切な信田さんの翻訳であらためてお楽しみください。


良心の選択


これはあなたの倫理観を問う問題です。
架空の状況ですが、どんな選択をするかを考えるのは興味深いと思います。

状況:あなたは中東にいて、目の前には大洪水が起きています。
多くの家が失われ、食糧は流され、建物は破壊されています。

あなたは写真家で、ひとりで旅をしながらスクープ映像を捜し求めているとします。

あなたは偶然に、オサマ・ビンラディンが洪水に流されているのに出くわしました。
彼はかろうじて流木につかまっていますが、今にも沈んでしまいそうです。

あなたはカメラを投げ出し彼を救うこともできるし、彼の手が流木を放れておぼれる瞬間の写真を撮って、
ピュリッツァー賞を取ることもできます。

さて、ここで質問です。慎重に考えて、あなた自身の良心にそった選択をしてください。



「撮影にはどのレンズを使いますか?」



○さて、これはジョークではない、本当の話です。

今、ニューヨークでは総領事館が9月25日に現地の日本企業300社に出した手紙が波紋を広げている。

この手紙は「日系企業社員及び家族数の調査」と題されたもの。問題は、手紙の冒頭に「時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」と堂々と書いていること。テロ事件からわずか2週間後、多くの日本人が被災の衝撃や社員・家族らの安否に心を奪われる中で、お見舞いの言葉どころか、「時下ますますご清栄」である。「ひどすぎる」と人々の怒りは収まらない。

○下記のURLに記事の全文が出ております。書き手はプロの記者だが、相当に怒ってこれを書いている。

  http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/prom/149936

○笑ったけど、笑えないな、これは。ドキュン総領事館、逝ってヨシ!


<10月24日>(水)

○今日、ハワード・ベーカー現駐日大使のことを調べていて、発見したのが下記のURLです。大使指名を決定した上院本会議の議事録を、米国大使館が日本語に翻訳したもの。アメリカ連邦議会のよき風土を感じさせます。上院議員(Senater)という言葉は、ローマ帝国の元老院(セネトゥス)から来ているそうですが、キケロのような賢者たちが集って弁舌を競っているような風情があります。民主主義とはかくも雄弁で饒舌なものなのですね。

●上院本会議 - 2001年5月23日 ハワード・H・ベーカー・Jr.(テネシー州)の駐日特命全権米国大使指名の件

http://usembassy.state.gov/tokyo/wwwhjp0006.html


○米国議会がいかに対日関係を重視しているかが分かるのも収穫ながら、言葉の端々から伝わってくる上院議員同士の交流も心温まるものがあります。とくに、共和党の古参上院議員、頑固じじいと評判のジェシー・ヘルムズの発言が気に入りました。長いけど、以下の通り引用。高齢により、次期で引退予定のヘルムズ議員、議長の許可を得て座ったままで語り始める。

ヘルムズ:正直に言うと、彼に対して親愛の情を持っているのは、彼が私の孫に大変やさしくしてくれたからだ。そして、こういうことが人の心を捕らえる。私の孫娘が生まれた次の日に、ハワードと一緒にノースカロライナにちょっとした旅に出ようとしたときのことだ。出かける前にハワードが電話してきて、「ジェシー、だれが空港に迎えにくるんだい?」と聞いた。

 「分からない、でも調べてみようか」と私が言うと、

 「ちょっと、行きたい所があるんだけど」とハワードが言う。

 「どこだって、好きな所に行けばいいさ」と私が言うと、

 「昨日君のおちびちゃんが生まれた病院に行きたいんだが」とハワードが言う。

 「ハワード、そんなことする必要はないよ」と私が言うと、

 「いや、孫たちが好きなんだよ、君さえよければ、行きたいんだけど」とハワードは言う。

 「構わないさ」と私が言うと、

 「出かけるときに、カメラを持っていってもいいかい?」とハワードは尋ねた。

 彼が熟練写真家で、素晴らしい写真集を2、3冊出していることを知る人は少ないだろう。彼は、24時間前に生まれたばかりの赤ちゃんやママ、自慢げのパパやおじいちゃん、それに病院中の看護婦さんたちの写真を撮り続けた。

 あっという間に4、5年が経ち、ケーティ・スチュアートがわが家にやってきた。そして、このことを、ハワードが聞きつけた。当時ハワードは、レーガン大統領のホワイトハウス首席補佐官だった。ハワードが電話してきて、「病院で撮ったように、また新しい写真を撮らなきゃ」と言う。そして、ケーティを連れてホワイトハウスに出かけると、照明を準備して待ち構えていたハワードが、「さあ、ジェシー、ケーティを腕に抱いてくれないか。鼻高々のおじいちゃんと、見たこともないほど可愛いい孫娘が一緒の写真を撮りたいんだ」と言った。そして、写真を撮った。その写真は今でも私の部屋の壁に飾ってある。

 ハワード・ベーカーは、偉大な大使になるだろう。彼自身が偉大であるだけではなく、彼にはもう1つの強みがある。それは、この議場に偉大な上院議員として在席したことのあるナンシー・カセバウム・ベーカーである。今朝だれかが述べたように、ナンシー自身が、どこに行こうと優れた大使になれる。

 話せば切りがないが、ハワード・ベーカーの経験と個性、そしてナンシー・カセバウムの経験と個性は、2人の大使の任務遂行に大いに役立つであろうことを申し上げるだけで十分だろう。日米関係は、この新たな時代に極めて重要である。ハワード・ベーカーのような人物を大使として送り出すことにより、ブッシュ大統領は、米国にとって非常に重要な同盟国日本における米国民の代表者として、これ以上望むべくもない適切な米国人を選択した。


○さて、ハワード・ベーカー氏は議会の子である。このひとは1998年に「上院議員はかくあるべし」という講演を行ったことがある。全文はここを参照。ここで示されている教えが"A Baker's dozen"である。直訳して「ベーカーさんの12ヶ条」かと思ったら、これは「パン屋さんの1ダース」という英語表現で、本当は「13」のこと。(パン屋さんはかならずおまけをくれるから)。だからベーカー元上院院内総務の教えは13ヶ条ある。

1. Understand its limits. (限界を知れ)

2. Have a genuine and decent respect for differing points of view. (反対意見に敬意を)

3. Consult as often as possible with as many Senators as possible, on as many issues as possible. (他の上院議員の意見を聞け)

4. Remember that Senators are people with families. (相手の家族のことも考えて)

5. Choose a good staff. (部下を選ぶ)

6. Listen more often than you speak. (話すより聞け)

7. Count carefully and often. (票読みは慎重に)

8. Work with the President, whoever he or she may be, whenever possible. (大統領とともに働く)

9. Work with the House. (下院とともに働く)

10. No surprises. (根回しは十分に)

11. Tell the truth, whether you have to or not. (嘘をつくな)

12. Be patient. (我慢を)

13. (The Baker's Dozen) Be civil, and encourage others to do likewise. (礼儀正しくあれ)

○そのまんま、日本社会でも通用するような教えですよね。こういう話を聞くと、アメリカ政治がとっても身近に思えてきます。

○閑話休題。米国国務省が10月23日付けで海外に住むアメリカ人に向かって警告を発しています。とくに韓国と日本の米軍基地は要注意だそうです。この警告は来年4月19日まで有効。ご安全に!

http://travel.state.gov/wwc1.html


<10月25日>(木)

○遠くノルウェーでこれを読んでおられる読者が教えてくれました。欧州では麻薬の価格が半値くらいに下がっているらしい。もとはアフガン産なわけですから、戦争で品薄になって上がりそうなものなのに、逆に下がるというのが興味深い。察するにタリバンが軍資金を確保するために、乱売しているのではないかと。その調子では、彼らも相当に苦しいと見える。

○当社の石油・ガス部門の人が言っておりましたが、昨今の石油価格の下落は本物で、20ドルを割るところまで行かないと収まらないだろうと。これも意外な値動きといえましょう。しかしテロ事件で世界同時不況が懸念されるとあれば、石油の需要は減るから値段は下がる。先進国にとってはいいニュースである。

○こうした動きを見ていると、テロ事件が傷つけようとしているのは、世界の中でも貧しい地域ではないかと思えてくる。とくに中東。今度のようなことがあったからには、アラブ圏で大型投資案件をやろうという企業は確実に減るでしょうね。それを考えると、ビンラディンも罪なことをやったものですな。本人はまったく自覚がないでしょうけど。


<10月26日>(金)

○先日、社内からもらった問い合わせ。「同時多発テロって、英語では何ていってるんですか?」 あのねー、"Simultaneous Attacks by Terrorists"、 なんて言うわけないじゃありませんか。なぜか日本では「同時多発」が枕詞になってしまったんですが、よくよく考えればそんな必然性はないんです。英語報道を見ていると、あの事件のことは単に"Terrorist Attacks"とか"Terror Attack"と言っているようです。

○ふと気がつくのは、「テロ」という言葉は「恐怖(テラー)」が語源になっているということ。恐怖によって他人を服従させようとするのがテロ行為なわけですから、これは少しも不思議ではない。そこで思うのは、「テロリズム」という用語に「恐怖主義」という訳語を使ってはどうかということ。アナーキズムやアナーキストという言葉には、「無政府主義」「無政府主義者」という訳語があるんだから。「テロリスト」は「恐怖主義者」ということでいいと思う。

○かんべえが読まない例の新聞は、社説で「テロリストと話し合え」と書いたそうですが、「恐怖主義者と話し合え」といえばさすがに馬鹿馬鹿しさに気がつくでしょう。察するに某紙は、テロリストを反体制運動やゲリラのように位置付けて、「彼らにも三分の利がある」と言いたいのでしょう。しかし無辜の市民を大量に虐殺し、人々を恐怖のどん底に叩き落し、なおかつ犯行声明もしないという恐怖主義者の行為には、いささかの正当化も不可能だと思います。そこに目をつぶって、いきなり「アメリカにも反省すべき点がある」などと言うのは、相当に歪んだ精神構造といわざるを得ません。

○「テロは怖い」などという必要もなくなります。だって「恐怖主義」が怖いのは当たり前だもの。「真に恐るべきものは、恐怖それ自体である」(フランクリン・ルーズベルト)。


<10月27日>(土)

○"Trick or treat, Happy Halloween!"――今日は下の子供の「ハロウィン」行事に狩り出されてしまった。疲れたよん。

○ハロウィンは本当は10月31日なんですけど、この週末に繰り上げているところは多いんじゃないかと思う。NYなんぞは、金曜夜に盛大にハロウィン行事をやってるでしょうね。今年はかならず出るだろうな、ビンラディンのコスチューム。でも、あんまり似ていると洒落にならないかもしれないけどね。ところで、ビンラディンをこけにする根性が入った洒落を紹介しておきましょう。文句なしの力作です。

http://www.funforwards.com/flash/october01/nowheretohide.cfm

○このハロウィン、今までにいろんな人が流行らせようとしてきたが、日本ではなかなか普及しない。魔女やカボチャが不気味だからとか、「黒とオレンジ」という色の組み合わせが悪いのだとか、いろんな説がある。

○これは日本記念日協会という運動をやっているKさんから、昔々に聞いた話なんだが、「月末にある行事は日本では流行らない」んだそうだ。なるほど感謝祭(11月の第4木曜日)も日本では流行らない。大ヒットした記念日といえば、母の日(5月の第2日曜)とかバレンタインデー(2月14日)のように、いいとこ中旬までのものが多い。クリスマスは別格として、「月末の日程は忘れられちゃう」とKさんが言っていた。意外とそんなもんかもしれない。

○以前、ニュージーランドで「この国ではハロウィンはやらないの?」と聞いたら、「わが国ではガイフォークスデーがありますから」とのことだった。さすがは大英帝国の子孫たちだな、と感心しました。腕白坊主たちが大騒ぎできる秋の行事ということでは、ハロウィンもガイフォークスデーも似たようなもんですからね。こちらは11月5日なので、日本で流行らせるならこっちの方が有利かもしれない。イベント屋さんたち、いかが?


<10月28日>(日)

○朝から雨。本日は地元のバザーに狩り出される予定だったのが、雨天順延に。しめた、これで競馬に行ける。

○今日は秋の天皇賞。テイエムオペラオーが天皇賞春秋4連覇に挑み、メイショウドトウが宝塚記念に続いてそれに再び立ちふさがり、名脇役ステイゴールドが悲願のG1金メダルに挑戦する。ステイゴールドが「三強」と呼ばれているのは、なんだかちょっと違和感があるけれども、武豊が騎乗する老雄を応援しないわけにはゆかぬ。ということで昼からいそいそと出かける。

○Cステイゴールドを軸にAメイショウドトウへ、そして蛯名が乗るKジョウテンブレーヴをからめて買ったみた。そしたらあなた、やっぱりEテイエムオペラオーが来てしまって、それをゴール前でまくったのがIアグネスデジタルじゃありませんか。やっぱり時代は外国産馬なのね。天皇賞も2頭までなんてケチなこと言わず、クロフネも出してあげればよかったのに・・・・。今日は買い目が偶数というところだけが合っていた。捲土重来を期す。秋のG1、またまた楽しめます。

○先週は菊花賞を取ったもので、あちこちで「ワタシ、ついてるんです。菊花賞で6番人気を単勝一点買いしましたからね」と吹聴するも、ついている気配はまったくなし。先週は「5社対抗・異業種麻雀」をやったが、卓上はトヨタ自動車と三和銀行が絶好調である。それどころか、最後は完全に落ち目になっていた日本IBMに、国士無双を献上してしまう。なぜか国士は一筒が当たりになるような気がするのはなぜだろう。結局、野村総研とともに負け頭となってしまった。悔しいのである。

○終わってからトヨタ自動車さんが敗者を哀れんで、東京モーターショーのチケットをくれた。でもそこはトヨタさんで、CMつきである。「吉崎さん、今度のカムリはいいですからね。アメリカ市場でアコードに対抗するために、むちゃくちゃ頑張っちゃいましたから。本当はあんな値段じゃできないんですよ。検討してくださいね」。・・・・はぁ、うちのカムリは7年目ですが、まだ2万5000キロしか走っていないんですよ。てなわけで、景気回復にはなかなか貢献する機会がありません。


<10月29日>(月)

○今日でテロ特別措置法が成立。CNNニュースワシントンポストが取り上げた記事を読んでみた。なんというか、醒めた反応ですな。マスコミの関心はAnthraxや経済問題に移っているようだ。その一方で、"The Economist"誌が今週のカバーストーリー"How the world has (and hasn't) changed"の中で、テロ事件後の世の中の好ましい変化として、北アイルランドやカシミール問題の展望が開けてきたこととともに、「日本が憲法を曲げて、米軍の後方支援に意欲を見せていること」を挙げている。「今度の戦争には意味が無くとも、将来の紛争には重要になりうる」とのこと。

○アフガン戦線はやや膠着状態。ビンラディンを捕獲するのは思ったより難しいし、地上戦になるとタリバンは結構手ごわい。北部同盟は評判が悪いし、戦争でもあんまり頼りにならない。このままだと11月16日からのラマダンまでには片付かない様子。「Anthraxは、こういう戦況からメディアの関心を遠ざけるために仕組まれたトリックだ」などと大真面目に言っている人がいたが、どうやらバイオテロも容易ならざることになってきた。

○しかし空爆開始以後を振り返って見ると、そう悲観することもなさそうだ。ブッシュ政権の最大の勝利はAPEC上海会議だったのではないか。あれで中国とロシアがしっかり味方になった。例の「孫子の兵法理論」でいけば、敵の交(まじわり)を伐つ効果は絶大だ。加えて危なっかしく見えたパキスタンの政情が意外と安定している。かの国の軍部の力はしっかりしているし、草の根でいくら反米感情が高まっても反体制運動の核になるような人物が見当たらない。であれば、時間をかけることが許されよう。

○夕刊見て驚いたんですが、鉱工業生産が9月前年同月比12.7%のマイナス。95年を100とした水準で92.8まで落ち込んだ。これはもう98年の水準を下回ってますね。テロの直前まで「キュウハチ・ゼロイチ論争」と称し、「1998年と2001年では、日本経済の危機はどっちが深刻か」を話しておりましたが、ゼロイチ派が圧勝ということのようで。めでたくない話ではありますが。


<10月30日>(火)

もし、現在の統計比率を適当に想像してでっち上げ、
日本にいる40代の男性を100人に縮小するとどうなるでしょう。

95人は仕事があり、5人は過去1ヵ月以上仕事がありません。
47人がより良い条件を求めて転職を希望していますが、
実現するのはそのうちの1人だけです。

60人が自分の健康に不安を持ち、
25人が定期的に医者に通うか、常備薬を持ち、
成人病検診を受けると18人が「再検査の要あり」といわれてしまいます。

46人は以前に比べて髪の毛が少なくなっていることを気にしており、
13人は白髪が増えたことを気にしています。
そして5人はもう髪の毛がほとんどありません。

また、次のような視点からもじっくり考えてみましょう。

もし、あなたが今朝、目が覚めた時、
病気でなく健康だなと感じることができたなら・・・
あなたはもう50代になってしまっている
団塊の世代の800万人より恵まれています。

もしあなたの通勤時間が30分以内で、
満員電車の中で足を踏まれたり、
痴漢の疑いをかけられる悲痛を一度も体験したことがないのなら・・・
あなたは首都圏1000万のサラリーマンより恵まれています。

もし銀行に預金があり、住宅ローンの返済がすでに終わっていて、
証券会社に元本割れしてない株式や金融商品があるなら・・・
あなたはこの日本の中で
もっとも心の平和な上位10%のうちのひとりです。

もしあなたに妻子がいて、単身赴任をしておらず、
週に3回以上ともに夕食を取る機会があるのなら・・・
それはとても稀なことです。

もしこのメッセージを読むことができるなら、
あなたはこの瞬間2倍の祝福をうけるでしょう。
あなたはまったくPCにさわることができない
他の50人よりずっと恵まれているからです。


○元ネタをご存知ない方は、このHPの10月23日分をご覧ください。念のため、上の数字のうち確実なのは最初の1行だけです。あとは全部、かんべえのでっちあげ。今日、9月の雇用統計が発表され、完全失業率が史上最悪の5.3%を記録。詳しくは下記を参照。

http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm


<10月31日>(水)

○午前、日本貿易会で国際収支動向についての月例説明会。面白い話を一点ご紹介します。9月の対米貿易は、前年同期比で輸出が‐11.9%、輸入が‐14.6%の大幅減となり、「やはりテロの影響が・・・・」と報道された。ところが日本銀行で季節調整値を試算すると、それぞれ‐3.9%、+2.5%ということになる。対米航空機の運行禁止措置(9月11〜15日)はほとんど影響していない。現場からの声を拾っても、テロの影響で通関手続きが遅れたという話はないらしい。察するに9月下旬には荷主たちが、「決算を控えてるんだから、何がなんでも9月中に通関しろよ」とプレッシャーをかけたのではないか。それにしても現実とは玄妙なものなり。

○むしろ通関統計に影響を与えそうなのは、狂牛病による牛肉の消費量の急減。実は昨日、唖然とすることがあった。かんべえ、先日から牛肉が食べたくて仕方がなく、かといってこういうブラックユーモアに付き合ってくれる人間も少なく、欲求不満気味。たまたま昨日は、「USAビーフでも食べますか」という酔狂な仲間が集まったので、溜池山王のローリーズ・プライムリブにご参集いただいたわけです。ところが、あなた、なんと。お昼のブッフェコースの肉がフライドチキンですよ。なに考えてんねん。プライムリブが鶏肉に逃げてどうすんのよ。玄関に掲げてある「USAビーフは安全です」という看板が泣いてるぞ。

○今日のお昼は平河町の南仏料理ラ・ポステ。いい店である。肉料理を選んだら子羊のローストだった。美味なるも、牛肉食べたいよ現象は収まらず。お相手いただいたT氏は英国ロンドンがえりで、いわく「普通の牛肉はともかく、リブは避けた方がいいですよ。イギリスでもリブだけは、安全宣言後も遠慮してましたから」。なるほど。T氏からはペンタゴン取材や昨今の情勢について、示唆に富む話を拝聴。

○午後は半休。実はめずらしいことに、クラシックのコンサートを聞きに出かけたのだ。かんべえのことを、宇多田ヒカルにしか関心のない男と思ったら罰が当たるであろう。それもチェコフィルハーモニー管弦楽団で、指揮はウラジミール・アシュケナージ。どうだビックリしたか。

○「アシュケナージなんてまだ生きてるんですか?」という人が多いが、1936年ゴーリキー生まれというから、まだ60代なかば。いや、すごかったですぞ。最初はスメタナの「モルダウ」。当然ながら良い。次にモーツァルトのピアノ協奏曲第27番変ロ長調。ここをアシュケナージみずからピアノを弾く。ものすごい難曲。ピアノってこんなに複雑な音を出せるものだったのか、と感じ入る。それにしても、彼が絶頂期にベストな状態で弾いたら、どんな音が出たのだろうか。最後にドヴォルザーク「新世界」をたっぷりと。拍手鳴り止まず。

○所詮は縁なき衆生のかんべえ。はるかに以前、奮発してベルリンフィルを聞きに行ったら、ブラームスで熟睡してしまったことがある。今日は全身これ覚えのないような感動に満たされて、あっという間の2時間。何年ぶりかで、使ってない筋肉を動かしたような気分。こういう世界もあったのね、と深い溜息とともに一日終える。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki