●かんべえの不規則発言



2016年5月








<5月1日>(日)

○NHKの日曜討論へ。トランプ現象と日米関係を語る、というテーマなんですが、4人で円卓を囲んでほんわかとした雰囲気で、"Sunday Debate"とは程遠いような座談でありました。終わったら司会の島田さんが、「今日の発言は全員が10回ずつでした」。いつもきちんとカウントしているんですよね、この番組は。

○ちなみに明後日の日曜討論は憲法記念日の特集ですから、2人と7人に分かれた対決モードの座組みとなりますね。そういうときの発言時間のチェックは、きっと神経をすり減らすことでしょう。みんな誤解していると思うんですが、NHKは政府に弱いんじゃなくて国会に弱いんです。なにしろ予算を握られているから、与党にも野党にも弱いんです。

○終わったら浅草へ。今日はいい天気で大変なにぎわいである。最近、暇な日曜日は浅草に来ることが多いのだが、今日は外国人が少なくて、「おのぼりさん」が多い感じであった。天丼を食べたカウンター席の隣のカップルは中国語だったけど。新しくできた「まるごとにっぽん」ビルなんぞは、客が多過ぎて勘違いしてそうでちょっと心配になる。

浅草演芸ホールも立ち見が出る賑わいである。今日は豪華メンバーで、林家木久扇、木久蔵の親子に、林家正蔵に三平の兄弟が出る。やっぱりテレビの影響力は大きいのだ。でも、ワシはご贔屓の三遊亭歌之介と圓歌師匠が終わったら、とっとと去るのである。こんな日に寄席に長居をしちゃあいかんでしょ。

○そして浅草WINSへ移動して、春の天皇賞で勝負。簡単に負ける。うーん、やっぱり買ってはいけないレースなんだろうか。でも、GWのG1レースに参戦しない手はないよね。てなことで、今日は仕事もしたけど、お休みを堪能したのでありました。


<5月2日>(月)

○案の定、今日は株価が大幅に下げて「日銀が追加緩和をしてくれなかったから!」という怨嗟の声をあちこちで耳にします。でも、ホントにそうですかね。だってアナタたち、黒田さんの「物価目標2%」を本気で信じているわけじゃないんでしょ? 4月会合では、「せめてETFくらい買い増ししてくれるはず」などと虫のいいことを考えていたのじゃないですか? 異次元の金融緩和も3年間も続けていると、皆さんだんだん慣れてきて、身勝手な予想をするようになるので困ります。

○円高が進んでいる理由は、ひとつには日本の貿易収支、いや貿易・サービス収支の黒字化があります。そして2番目には、米国経済の(予想外の)不調さでありましょう。そもそも今起きている現象は、円高なのかドル安なのか。実は4月28日の金融政策決定会合ではなく、むしろ同日に発表された米国の1-3月期GDP速報値が、0.5%と低かったことに原因があったのではないか。そうだとしたら、日銀が下手な追加緩和をしていても哀れ無駄ダマに終わり、今頃は「いよいよ日銀には打つ手がなくなった!」と騒がれていたのかもしれない。だったら現状維持は結果オーライでしょう。

○年初の時点でFRBは、「今年は4回利上げ」という腹積もりであった。ところが年の3分の1を経過しているのに、まだ1回も利上げできてない。そりゃま今週末6日に「あっ!」と驚くほど強い雇用統計が出て、それで6月利上げになるかもしれませんけれども、普通に考えりゃ年後半に利上げ1〜2回がいいところでしょう。それだけでも、年初の円安予想は崩れて不思議はない。

○もうひとつ、米財務省が4月29日に発表した為替報告書も意表を突きました。知らなかったけれども、今年2月に法改正が行われて、新たに「監視リスト」なるものが導入された。そこに日本が入ってしまったので、皆がびっくりしてしまったわけです。なんで法改正が行われたかというと、昨年のTPA論議の際に、「為替監視機能を強化すべきだ!」という声が議会内で強かったので、財務省の恣意を許さない「認定基準」が導入されたのです。これで日本が為替介入をすれば、米議会でのTPP批准は絶望的になるでしょう。「TPPの敵を為替で討つ」とでもいうんでしょうか。

○いろんな意味で円高への流れはしばらく不可避に見えます。円安への転換点が来るとしたら、それは日銀の追加緩和ではなくて米国経済の復調でありましょう。ちなみに日本の貿易収支の黒字は当分続くと思います。とりあえず信じていないものを信じているふりをして、「日銀に裏切られた!」「これではデフレから脱却できない!」などと言って怒っている人は、みっともないと思いますよ。


<5月3日>(火)

○文化放送の「くにまるジャパン」があるので今日も出勤。「円高進行中!」ということでお話ししました。なんだか連休じゃないみたい。でも、天気がいいこともあって、今日の都内はどこも人出が多かったですね。「乳母車と一緒に一家でお出かけ」みたいな光景をいっぱい見ましたな。

○おそらく為替関係者はお休みどころではないでしょう。市場参加者が減る5月の大型連休と8月のお盆は、昔から相場が大きく動くときとなっている。などと言っている間に対ドルで105円台に突入。投機筋としては、円高を仕掛けるならば時は今、ということなのでしょう。

○こんな風に為替市場が荒れ模様な連休を、FX関係者はどうしているんだろ・・・・と思って知り合いを探してみたら、マネースクウェア・ジャパン(M2J)の西田明弘さんがこんなことを書いていた(米為替報告書は日本の介入をけん制?)。おそらくは休日出勤をされているものと思われます。お疲れ様です。

○少し付け加えますと、為替報告書は米財務省が年に2回、議会に提出することになっております。これが結構、いい加減なものでありまして、中国に向かって喧嘩を売るかと思わせて、急に妥協したりを繰り返していました。そういうところがケシカラン、と議会に言われたかどうか、問題国の認定基準が明確化されました。すなわち、

@顕著な対米貿易黒字(200億ドル以上)、
A顕著な経常収支黒字(GDP3%以上)、
B継続的・一方的な為替市場への介入(外貨買い年間GDP2%以上)

○上記3条件のうち2つを満たしていると、新ルールでは自動的に監視リストに入れられてしまうのです。かくして日・中・韓・独・台が、栄えある初代の監視リスト入りとなったわけです。こんな風に名指しされてしまうと、以前とは違って「今回はゴメン!」が効かなくなってしまう。「いざとなったら為替介入」という最後の手段はないものと考えた方がよさそうです。

○もっとも、5月6日の米雇用統計では、思い切り強い数字が出るかもしれません。そのときはドル高円安に転じて、円高を仕掛けた投機筋は泣きを見ることでしょう。じゃあ悪い数字が出た場合は? うーん、シートベルトのご用意を、って感じですかね。


<5月4日>(水)

○あらららら。インディアナ州予備選挙が終わったら、テッド・クルーズ候補が撤退。これでもうドナルド・トランプ候補が「当確」です。英国カジノのオッズでは、ヒラリー・クリントンが1対3(単勝1.33倍)、ドナルド・トランプが2対1(単勝3.0倍)になっている。この週末に行われるNHKマイルカップで言えば、トランプ候補の勝率はメジャーエンブレムほどではないが、ロードクエストよりも高い、というくらいか。共和党内では、これでジョン・ケイシック候補が残るのみ。ただし後は消化試合になると見るべきでしょう。

○当初は三つ巴の戦いが、6月7日のカリフォルニア州予備選挙まで続くと見られておりました。早めのリタイアとなったのは、3番手のケイシック候補との取引が予想以上に不評であったからでしょう。日本の政治風土においては「2位3位連合」はきわめて普通の発想でありまして、自民党総裁選挙では過去に何度も起きている(皆さんお忘れかもしれませんけれども、今の安倍政権も2012年9月に行われたその結果で誕生しているのですよ)。でも、アメリカの政治風土においては、2位と3位が手を組んで1位をひっくり返すというのは、まことに卑劣な動きに見えてしまうのでしょう。

○テッド・クルーズ候補としては、これから先の態度表明が難しいところです。フィオリーナ女史を副大統領候補に指名していたのですから、もっと戦いを続けるつもりだったのでしょう。さし当たっての問題は、この後、具体的に「トランプ支持」を明言するのかどうか。現職のテキサス州上院議員としては、そして将来に大望を持つ身としては、なかなかに難しいところであります。まして共和党主流派は、「ストップ・ザ・トランプ」キャンペーンに巨費を投じてきたわけでありますから。共和党の挙党一致は口で言うほど簡単ではないですぞ。

○対するトランプ候補の態度はまことに大人でありまして、勝利演説はまことに謙虚で低姿勢で慎重なものでした。昨日までは「嘘つきテッド」(Lying Ted)と呼んでいたことが、まるで嘘のような持ち上げよう。今度は"Presidential"なところを見せなければなりません。でもまあ、近日中に「らしい」ところが復活すると思いますけれども。でも、こんな風に手のひらを返しても、誰も文句を言わないところがトランプ候補のお得なところ。なにしろ、「予測不可能性」はビジネスの要諦だとおっしゃるくらいですから。

○ということで本日時点で、「トランプ氏が事実上の共和党候補者に!」というニュースに世界中が反応するわけです。はた迷惑な気もしますが、これもひとつのアメリカのソフトパワーでもある。エドワード・ルトワックの『中国4.0』は非常に面白い本だが、本筋とは全く無関係なこんなくだりがある。

この大統領選挙中のアメリカが発するノイズからは、「アメリカには不思議な人たちが存在する」ということが伝わってくる。私はこれを「ファニー・トラップ」(furnny trap)と呼んでいる。面白さで引き込む罠である。

○ワシなんぞは、若い頃からずーっとこのトラップに嵌りっぱなしである。それにしても2016年選挙は楽しませてくれますなあ。油断なりません。


<5月5日>(木)

○一夜明けたら、ジョン・ケイシック候補も、「あ、俺、なんでこんなことをやっているんだろう?」と我に返ったようです。自分が獲得した代議員数は、3月に戦線離脱したマルコ・ルビオをも下回る数にとどまっており、これまでに獲得したのは自分が知事を務めているオハイオ州だけである。この後、勝ちが決まっているドナルド・トランプを相手に、6月7日に(途方もなくデカくてカネのかかる)カリフォルニア州まで戦いを継続できるかというと、こんなにあほらしいことはない。ここは投了が最善手でありましょう。

○これが普通の選挙の年であれば、ケイシックはいい共和党候補になれたことでしょう。下院で18年、うち6年は予算委員長、そして知事を2期。知事としては弱者のために保険制度を拡充し、なおかつ州の財政を立て直した。それも大統領選挙には最重要のオハイオ州であって、2014年選挙では66%の大差で再選されている。さらにオハイオ州クリーブランドは、今年の共和党大会が7月に行われる場所である。そのケイシックは、トランプ候補を支持するかどうかをまだ明らかにしていない。

○こうなると次の注目点は、「ドナルド・トランプをEndoseする次の共和党の大物は誰か?」です。テッド・クルーズやマルコ・ルビオは、おそらく(トランプが負けた後の)2020年選挙を意識しているでしょうから、ここで下手な動きは見せたくない。かつて大統領を務めたブッシュ親子(第41代と43代)、加えてジェブ・ブッシュ氏は、「投票はするけれども応援はしないよ」といったところでしょう。最初にトランプ候補になびいたクリス・クリスティーNJ州知事は、そのことですっかり「男を下げた」ことを本人が自覚している様子。

○差し当たって、トランプ子穂は誰を副大統領候補者にするのか。例によってパディーパワーさん(英国のブックメーカー)の意見を求めてみると、以下のような名前が挙がっている。


Chris Christie (ニュージャージー州知事) 4/1
John Kasich (オハイオ州知事) 4/1
Jeff Sessions (アラバマ州上院議員) 8/1
Nikki Haley (サウスカロライナ州知事) 8/1
Marco Rubio (オハイオ州上院議員) 10/1
Ted Cruz (テキサス州上院議員) 10/1
Susana Martinez (ニューメキシコ州知事) 10/1
Newt Gingrich (元下院議長、ジョージア州) 12/1
Mary Fallin (オクラホマ州知事) 16/1
Ben Carson (脳外科医) 16/1
Carly Fiorina (元企業経営者) 25/1
Rob Portman (オハイオ州上院議員) 25/1


○トランプ氏が本気で本選挙で勝ちたいと思うなら、副大統領候補はワシントン政治のベテランでありつつ、アウトサイダー的なキャラを有しており、欲を言えば女性、もしくはマイノリティであることが望ましい。なおかつ、ご当人がその地位を望まなければならない。まともな人であればそんな地位は望まないであろうし、まともでない人と組んだらヒラリー・クリントンに対して勝ち目はない。実はトランプ候補にとっては、これからが難所なのではないでしょうか。


<5月6日>(金)

○森健『小倉昌男 祈りと経営』(小学館)を読了。アマゾンで注文しておいたら、たまたま今日会社に届いて、帰りの電車の中で読み始めて、あっという間に読み終えてしまった。いや、すばらしい。ヤマト「宅急便の父」は、生涯何と闘っていたのか?

○本書については、既にいろんなところで評判になっていると思うので、中身の紹介は抜きにします。とにかく題材から、話の運び方、取材の丁寧さ、言葉の平明さ、それに全体を貫く静謐なトーンまで、まことに文句のつけようがないノンフィクションであります。

○森さんとは、毎日新聞の「時評フォーラム」で丸2年間ご一緒しておりました(あと一人は秋山信将教授、この春からウィーン駐在公使)。この1年ほどはご無沙汰しておりますけど、いい本を書かれましたね。これからは「森さんてどういう人?」と聞かれたときは、こんな風に応えることができます。「ほら、小倉昌男の本を書いたノンフィクション作家だよ。え?まだ読んでないの?」 


<5月8日>(日)

○いろいろ落ち着かない連休でしたが、ようやく明日からは通常運行です。


4月24日:衆院補欠選挙→注目の北海道5区は与党が勝利。

4月27日:FOMC→利上げは見送り。どうやら年後半か?

4月28日:日銀MPM→現状維持だったんで市場は大騒ぎ!

4月29日:米財務省の為替報告書→日本が監視リストに入れられちゃった!

5月1日:春の天皇賞→キタサンブラック勝利でサブちゃんまた歌う。

5月3日:インディアナ州予備選挙→トランプ候補勝利で事実上の共和党候補者に

5月6日:北朝鮮労働党大会→何をやってるんだかよくわかりません。

5月6日:安倍首相がロシア・ソチでプーチン大統領と会談→次は9月のG20の後ですか?

5月6日:米雇用統計→NFPは意外と低く16万人増。そのわりには円高になっておりません。

5月7日:サウジのヌアイミ石油相が解任→いよいよムハンマド副皇太子の天下でしょうか。

5月8日:NHKマイル→メジャーエンブレム勝利でルメール騎手大喜び


○これが明日以降もいろいろあるわけでして。


5月9日:フィリピン大統領選挙→また変な大統領が誕生する?

5月10日:パナマ文書の全容を公表→鬼が出るか蛇が出るか?

5月18日:内閣府が1‐3月期GDP速報値を公表→2四半期連続のマイナス成長かもしれません。でも「うるう年効果」もあるんでねえ。

5月20日:台湾新総統の就任式→蔡英文さんは何を語るのか?

5月20‐21日:G7財務相・中央銀行総裁会議(仙台)

5月26‐27日:G7伊勢志摩サミット

6月1日:国会閉会


○通常国会もあと3週間ほどで終わってしまうわけですが、この間に骨太方針、新成長戦略、一億総活躍プランなども発表されるでしょう。熊本震災対策の補正予算もありますよね。で、たぶんまたこの話が蒸し返されると思います。

「解散とダブル選挙は、本当にないんですかっ!」

○いろんなルートから、「安倍さんはあきらめていない」という話を聞きます。たぶんその通りなんでしょう。つまり「平成版・死んだふり解散」の可能性はゼロではないということです。ただしダブル選挙が最後に行われたのは1986年。30年間もやっていないので、この間に選挙制度をめぐるいろんなことが変わっている。「ダブル選挙って、物理的にできるのか?」と考えてみると、ちょっと心配であったりするのです。


*小選挙区制度で、ダブル選挙はできるのか?→これ初めてです。しかも今回は最高裁判事国民審査も重なる。投票箱をいくつ用意すればいいんだ?

*ポスターを貼る場所は足りるのか?→昔は掲示板以外の場所にも貼ってよかったんですが、今のやり方だとたぶん掲示スペースが足りなくなりますね。

*午後8時までの投票時間で、即日開票はできるのか?→人手の足りない選挙区では、比例区の発表が翌日回しにされてしまうかも。

*市長選などの地方選挙と重なる場合は?→選挙をトリプルにして経費を削減したくなるでしょうが、それこそややこしくて作業がパンクしそう!


○以上、単なる思考実験なんですが、ホントのところはどうなっているんでしょう? こういうことは、きっと誰かが考えてくれているんでしょうけどね。


<5月9日>(月)

○帰りの電車の中で本日発売の「文芸春秋」を読んでいて、ふと周囲を見渡したら、全員がスマホを見ていた。印刷物、それもあんな弁当箱みたいな重たい雑誌を、立ったまま広げているのはワシだけではないか。ううむ、時代には完全に逆行している。

○もともとはパナマ文書について、今月号には何か面白いことがあるんじゃないかと思って読み始めたのだが、たいしたことは書いてなかったねえ。でもまあ、そこは天下の文芸春秋で、「霞が関コンフィデンシャル」なんかは今月も目が覚めるような人事観測が書いてある。いやあ、今宵の内調さんは大変だね。

○でもね、これはいけません。「特集 百歳まで生きる」って、そうかあ、文芸春秋の読者層はそこまで高齢化してしまったのか。「百寿を達成する12の条件」「スーパー百歳が実践する健康法」だなんて記事が載っている。団塊世代向けの週刊現代と週刊ポストが、毎週のように火花を散らしている「死ぬまで×××」のその先を言っている。

○若い世代が持て囃す「センテンス・スプリング」は週刊誌の方だからねえ。このままいくと、月刊誌は読者と共に年老いてしまうのでしょうか。オヤジ世代としては、それを見届けるのも少々辛いものがあります。


<5月10日>(火)

○今朝は朝イチでチェックしたのがICIJのパナマペーパーズのHP。だって今日は、タックスヘイブンの情報を公開する日だから。で、さっそくデータベースを当たってみました。

○大手商社の名前を入れてみると、面白いうようにヒットする。もちろんSojitzやNissho Iwaiもです。MitsubishiやDentsuももちろんのこと。ただししばらくやっていると飽きてしまった。なんとなれば、これは過去においてタックスヘイブンと関与したことがある、というだけで名前が載るわけで、極端な話、自社の顧客がパナマやケイマンの法人に関与していれば一緒に出てしまう。おそらく、指摘されても痛くもかゆくもないケースがほとんどでありましょう。

○次に個人名を入れてみる。"Shinzo Abe"とか"Kakuei Tanaka"とか入れてみるけれども、まったくヒットしない。実を言うと、既に朝日新聞があらゆる政治家とその家族の名前を入れてチェック済みなんだそうで、かろうじて"Mikitani"がヒットとするくらいです。全体で2万5000人・法人が関与していて、そのうち日本は400に過ぎなかった。これを「残念ながら」と思うか、「めでたいことに」と思うかは、個人の価値観の問題でありましょう。

○日本では、朝日新聞と共同通信だけがICIJに関与しているということで、今日は滅多に読まない朝日の朝刊を読んでみました。そしたら第2面に不思議な記事が載っていた(あいにく電子版には見当たりません)。


パナマ文書 闇の一端 
タックスヘイブンの金融資産 日米GDP合計以上か



○って、フツーそんなことはあり得ないだろう。何考えているんだ。ということで、記事を書き写すとこんな感じである。


「(タックスヘイブンに移される資金は)公の統計などに出てこない、まさに『ブラック経済』だ。その規模はあまりにも大きい」。国際NGO「税公正ネットワーク」のジョン・クリステンセン事務局長はそう説明する。

税公正ネットワークのスタッフの試算では、世界の富裕層がタックスヘイブンに持つ未申告の金融資産は、2014年時点で24兆ドル(約2570兆円)〜35兆ドル(約3750兆円)にのぼる。米国と日本の14年の国内総生産(GDP)の合計約22兆ドルを上回る規模だ・・・。


○なんちゅう無茶なことを書くんだろう。仮に20兆ドル以上の金融資産が世界のどこかに隠されているとして、それはどんな形態になっているのだろうか。現金、じゃないですよね。キャッシュはそんなにたくさんは印刷されていませんので。アメリカ国債でしょうか。米国債の発行上限は15兆ドルくらいで、それも全世界の誰がどれくらい持っているかはだいたい把握されている。株券でしょうか。その場合、世界の株式時価総額のいったい何%になってしまうのか。金塊ですか?それだって歴史上、掘り起こされた金の量はだいたい把握されている。

○とにかく地球上のどこかに、富裕層の見えない資産が20兆ドル以上隠されている、なんてことは現実問題として考えにくい。「税公正ネットワーク」なるNGOがどういう存在かは存じませんが、経済のことにはかな〜り疎い人たちなのではありますまいか。そういう話を鵜呑みにしてそのまま書いちゃう朝日新聞も、いかがなものかと存じます。あの会社の優秀な経済部の記者たちは、いったい何をしていたんでしょう。

○確かにどこの国にもアングラ経済は存在します。麻薬だろうが地下カジノだろうが売春だろうが、光りある世界にはかならず「闇」がある。ただしその規模は、せいぜい全体の10%くらいが関の山でしょう(GDPの内数ではなくて、外数になるわけですが)。「日米のGDPを超えるアングラ経済が存在する」というのは、いくらなんでも無茶が過ぎますですよ。

○ひょっとすると、彼らはこういう勘違いをしているのかもしれない。パナマなりケイマンなりバージン諸島には、何兆ドルものお金が隠されているのだと。そんなことを言ったら、パナマ国民が泣きますよ。タックスヘイブンにあるのはペーパーカンパニーだけです。彼らは自分たちが経済的な弱者であるから、税金を安くすることによって、グローバルマネーの奔流のおこぼれに預かろうとしているだけです。税金逃れの指南をしているご本尊は、先進国にいるはずです。だからタックスヘイブンがあるから汚職が生じるわけじゃないんです。汚職があるから、タックスヘイブンが使われるだけなんです。それにしたって20兆ドル以上なんて規模じゃないでしょうけれども・・・。

○OECDの試算によれば、企業の節税によって目減りしている法人税収は、世界全体の4〜10%だそうです。裏を返せば、世界各国の税務当局は取るべき税金の9割以上を補足していることになる。「頭と尻尾はくれてやれ」じゃないですが、十分に優秀な水準じゃないでしょうか。税金を100%ガッチリ取ろうとすると、当然のことながら摩擦は増えるし、徴税コストも上がる。企業の防衛コストも上がるので不毛なことこの上ない。ちなみにわが国の国税庁は、「100円の税金を集めるコストがわずかに1円」という超優秀な組織であります。

○てなわけで、魔女狩りをしたくてうずうずしている人たちには申し訳ないですが、この事件、そんなに大きくは広がらないような気がしてきました。まあ、期待するとしたら、せいぜい中国とロシアくらいですかねえ・・・・。


<5月11日>(水)

○林芳正参議院議員のセミナー&懇親会へ。行ってみて驚いたのだが、「3年ぶり、18回目のセミナー」で、「議員在職20年記念」であった。

感想@ そうか、そんなに長い間、農水大臣を務めていたんだ。

感想A そういえば1995年の初当選の時に、仲間内でお祝いをやったなあ。あれからもう20年もたったのか。

○たぶん全部で18回のパーティーのうち、半分〜3分の2は出席していると思う。パネリストも確か3回やらせていただいた。今日のセミナーのテーマは「経済・財政中期展望」で、パネリストは高田創さんと熊谷亮丸さん。面白かった発言をメモしておきましょう。


●高田氏 マイナス金利など、「生まれて初めて」のことが相次いでいる。昔はデフレは教科書の中だけのことだったが、実際に起きてみるとと対策が難しい。血圧を下げる薬はたくさんあるが、上げる薬が少ないのと同じ。アベノミクスは本来は短期決戦で、「アメリカが円安を容認してくれるうちに」カタをつけるつもりであったが、長期戦になりつつある。

●熊谷氏 なぜ日本の実質賃金は伸びないのか。実質賃金を因数分解すると、@労働生産性+A企業競争力+B労働分配率の足し算となる。このうち重要なのは@とA。すなわち、企業の稼ぐ力をつけることが最優先課題。

●林氏 消費増税の延期は、しばしば解散などの政治日程と絡めて語られるが、本来は純粋に経済の問題として議論すべき。今の日本経済は、増税という荷物を背負うことができるのかどうか。

●熊谷氏 下振れ対策を十分に行ったうえで増税を実施すべき。「増税の前にやるべきことがある」というロジックは、昔から何度も使われて決断の先送りになってきた。2014年の景気下振れが大きかったのは、エコカー減税などによって耐久消費財の需要を先食いしていたこと。それに高齢者を中心に、レジャーや娯楽費などが急激に減ったことが原因だった。丁寧な手当てが必要。

●高田氏 消費増税は日本人にとって、1997年、2014年ともにすごいトラウマになってしまった。2017年春が適当かどうかは疑問がある。政府税調では、軽減税率導入が非常に評判が悪いので、いっそのことインボイス制の導入まで増税を見送るのも一案ではないか。


○懇親会の席上ではいろんな人が挨拶に立ったが、その中で溝手顕正自民党参議院議員会長が、こんなことを言っていたのを聞いてドキッとした。

「林さんはまだ若いけど、これから年を取ると仲間が減っていくからね。私なんか自民党の同期当選は、もう山崎正昭参院議長しか残っていない。でも、政治は一人じゃできないからね」、

○50代半ばからの人生にとっては、非常に重要なアドバイスであると感じました。うーむ。


<5月13日>(金)

○うろ覚えの記憶を頼りに書くのだが、村上春樹の初期の小説のどれかに、「引き伸ばされた袋小路」という表現があったと思う。これは男女関係に関するメタファーで、まあ、そういうことってよくありますわな。男女が初めて出会ったときの予感通りに別れてしまうのか、それとも案外と「破れ鍋に綴蓋」となってズルズルと関係が続くのか、そこは袋小路もいろいろあるわけでござりまする。

○今日書いた溜池通信本誌(持久戦としての脱デフレ論)で取り上げた金融政策も、この「引き伸ばされた袋小路」という表現がピッタリでありますな。つまり中央銀行は完全に行き詰っており、もはや逃げも隠れもできない場所に追い込まれている。ところが怪人二十面相は、そこで堂々と地面に穴を掘り始めた。すなわちマイナス金利政策というわけ。二次元だと思うから袋小路に見えるのであって、穴を掘ったら三次元。立体だと思えば、まだまだ手は残されているのである。

○なおかつ、穴を掘る怪人二十面相は高らかに笑いながら、「明智君、君の負けだ」などハッタリをかますものだから、ますます訳が分からなくなる。まあ、日米欧の金融当局は、こぞって同じ袋小路に追い込まれている。「せめてウチだけでも何とか逃げおおせたい」と思って、あの手この手を繰り出している。日米欧三極の金融政策について、そんなイメージがずっとチラホラしております。


<5月15日>(日)

○そろそろこういうものを(自分用に)作っておきましょうかね。副大統領候補は誰か。いつもの英ブックメーカーが元ネタです。


<民主党編>

ジュリアン・カストロ Julian Castro  1974.9.16 (住宅都市開発長官)  5/2

ティム・ケイン Tim Kaine  1958.2.26 (バージニア州上院議員)  5/1

エリザベス・ウォレン Elizabeth Warren  1949.6.22  (マサチューセッツ州上院議員) 7/1

マーティン・オマリー Martin O'Malley  1963.1.18 (元メリーランド州知事)  9/1

トーマス・ペリッツ Tom Perez  1961.10.7  (労働長官) 10/1

シェロッド・ブラウン Sherrod Brown  1952.11.9 (オハイオ州上院議員)  10/1

コーリー・ブッカー Cory Booker  1969.4.27  (ニュージャージー州上院議員)  14/1

ジョン・ヒッケンルーパー John Hickenlooper  1952.2.7  (コロラド州知事)  14/1

ブライアン・シュワイッツァー Brian Schweitzer 1955.9.4  (モンタナ州知事)  16/1

ジョー・バイデン Joe Biden  1942.11.20  (副大統領) 16/1

バニー・サンダース Bernie Sanders  1941.9.8  (バーモント州上院議員・大統領候補者) 16/1

エバン・バイ Evan Bayh  1955.12.26 (元インディアナ上院議員)  18/1

ジョン・ケリー John Kerry 1943.12.11 (国務長官)  25/1

ジム・ウェッブ Jim Webb  1946.2.9 (元バージニア州上院議員)  40/1

ロン・ウィデン Ron Wyden  1949.5.3 (オレゴン州上院議員)  40/1


<共和党編>

ニュート・ギングリッチ Newt Gingrich 1943.6.17  (元下院議長)  5/4

ジョン・ケイシック John Kasich  1952.5.13 (オハイオ州知事・大統領候補者)  9/2

クリス・クリスティー Chris Christie 1962.9.6 (ニュージャージー州知事・大統領候補者)  7/1

ジェフ・セッションズ  Jeff Sessions  1946.12.24  (アラバマ州上院議員)  10/1

スサナ・マルティネス Susana Martinez 1959.7.14  (ニューメキシコ州知事)  12/1

ニッキー・ヘイリー Nikki Haley  1972.1.20 (サウスカロライナ州知事)  14/1

マルコ・ルビオ Marco Rubio  1971.5.28  (フロリダ州上院議員・大統領候補者)  16/1

テッド・クルーズ Ted Cruz 1970.12.22 (テキサス州上院議員・大統領候補者)  16/1

ジョシュ・アーネスト Joni Ernst  1970.7.1 (アイオワ州上院議員)  20/1

メアリー・ファリン Mary Fallin  1954.12.9 (オクラホマ州知事)  20/1

スコット・ブラウン Scott Brown  1959.9.12 (元マサチューセッツ州上院議員) 20/1

ロブ・ポートマン Rob Portman  1955.12.19 (オハイオ州上院議員) 25/1

カーリー・フィオリーナ Carly Fiorina  1954.9.6  (元経営者・大統領候補者) 25/1

ベン・カーソン Ben Carson  1951.9.18  (元医者・大統領候補者) 25/1

ポール・ライアン Paul Ryan  1970.1.29 (下院議長) 30/1

ジョン・スーン John Thune  1961.1.7  (サウスダコタ州上院議員) 33/1

マイク・ペンス Mike Pence  1959.6.7  (インディアナ州知事) 33/1

サラ・ペイリン Sarah Palin  1964.2.11  (元アラスカ州知事) 33/1

スコット・ウォーカー Scott Walker  1967.11.2 (ウィスコンシン州知事・大統領選挙候補者) 40/1

ルディ・ジュリアーニ Rudy Giuliani  1944.5.28 (元ニューヨーク市長) 40/1

ボビー・ジンダル Bobby Jindal  1971.6.10  (ルイジアナ州知事・大統領選挙候補者) 50/1


○まだロングリストの段階ですから、「そんな人いたっけ?」てな名前が少なくありません。でも、副大統領候がホントにこの中から出るかというと、まだピンときませんね。特に共和党は前途多難です。


<5月16日>(月)

○ジェトロ神戸さんのセミナー講師として神戸市へ。

○昨年9月にも呼んでもらったのだが、ここの聴衆は皆さん活発で、質問もすぐに手が上がる。中小企業の経営者が中心なんだけど、いろんな形で海外進出を実践されていたり、面白い商品やアイデアを持っていたりするので、終了後に雑談しているとまことに飽きないものがある。

○限られた経験の範囲内での話だけれども、最近の地方都市で元気なのは神戸市と福岡市が双璧だと思う。港があって、外国人が多くて、観光地が多いところなど、いろいろ似てますわな(大きな声では言えませんが、暴力団がいるところも・・・・)。このライバル関係、神戸はむしろ横浜の方を意識しているかもしれないのだけれども、福岡は人口で神戸を抜いたそうだし、「うちのソフトバンクは当然、オリックスやDeNAよりも強いぜ」てなことで意気上がる様子もある。

○ただし神戸の側も、神戸牛から灘の酒に有馬温泉まで、いろんな得意技を有している。ネスレやP&Gといった外国企業が本社を置いている、という意外な隠し技もある。"Kobe"のブランド価値は、国際的にみてもなかなかのものがあるんじゃないかと思う。

○来年は神戸開港150周年である。そのことを記念して、神戸新聞さんではこういう連載記事が始まっております。神戸で育った総合商社、鈴木商店の歴史についてはこちらをご参照。

○ということで、気持ちよく帰ってきたのでありますが、東京駅に着いてからが震度4の地震に遭遇をいたしまして、常磐線が止まって帰宅までえらい苦労をいたしましたがな。やれやれ、でござりまする。


<5月17日>(火)

○今朝の文化放送「くにまるジャパン」で、松尾文夫さんの『オバマ大統領がヒロシマに献花する日』という本のことをご紹介しました。終わってから番組のディレクターが、「『ドレスデンの和解』のことは、ウィキペディアにも載っていませんねえ!」と、変なことに感心していました。そうなんです、わが国のメディアというのは、日本が関係してないことは得てしてスルーしちゃうんです。でも、旧連合国とドイツが、どんなふうに第2次世界大戦の和解を果たしたかということは、われわれ知っておいて損はないと思うんですよね。

○いかなる偶然か、たまたま今日、松尾さんのことをよく知る編集者である間宮淳さん(元中央公論編集長)が、ウェブフォーサイトに「オバマ広島訪問:日米『戦後和解』への長い道のり」という長文を寄稿されていました。不肖かんべえが今朝、ラジオで語った内容を、より秩序だてて書いてあるので、こちらをご覧いただくとよろしいかと存じます。そういえば、先月、松尾さんと間宮さんと3人で赤坂の「若狭」で飲みましたね。オバマ大統領の広島訪問が来週27日金曜日ですから、2人とも「そろそろこの件について、語っておかないと」という気になっていたのでしょう。

○さらにご関心を持っていただけたに方は、松尾文夫さんご自身が「戦後60年」の2005年8月に、中央公論に寄稿された「日本版『ドレスデンの和解』の提案」という文章を読んでいただけるとありがたいと思います。アメリカ大統領が広島で花をささげ、日本国首相が真珠湾で花を捧げることを、松尾さんは10年以上前から訴え続けてきました。子どもの頃に福井大空襲に遭遇し、たまたま近くに落ちた焼夷弾が不発だったために九死に一生を得て、のちにジャーナリストとなって共同通信社ワシントン支局長になり、アメリカ政治と取り組み続けた人のライフワークなんです。

○「ドレスデンの和解」のポイントは、当時のヘルツォーク独大統領の演説の中にある、「生命は生命で相殺できません」というフレーズにあります。連合国側は、「ナチスが悪いことをしたんだから、すべてを諦めろ」などと言うべきではないし、ドイツ側は「ドレスデンでこれだけの被害があったんだから、少しは勘弁してよ」などと言うべきでもない。数十年前にどっちが悪かったかとか、どっちの被害が大きかったかとか、謝罪をするかしないか、といったことはもう止めましょう。関係者一同が同じ側に立って、過去の犠牲を弔うべきである。花を捧げて鎮魂することが、過去のけじめになる、と考えるところに勘所があります。

○ということで、オバマ大統領の広島訪問が済んだら、今度は安倍首相が真珠湾を訪れる番となります。既にペローシ下院議長と河野洋平衆議院議長の間で、広島と真珠湾の相互献花訪問外交が行われております(これも全然、報道されてませんよね!)。では、安倍さんはいつ、真珠湾を訪れるべきなのか。考えられるタイミングとしては、@5月30日のアメリカのメモリアルデー、A今年11月のペルーAPEC首脳会議に出席する際の前後に、B今年12月7日に行われるパールハーバー75周年、という3つの機会がありますね。ワシ的には、Aがいちばんありそうかな、という気がしています。

○もうひとつ、声を大にして指摘しておきたいことがあります。本件に関して、2009年8月にルース駐日米国大使が、当時の薮中外務次官に対して「オバマ大統領の広島訪問」の可能性を打診して、薮中次官が"Premature"(機が熟していない)と応じたことが報道されています。これはけっして外務官僚の不作為の罪ではありません。不肖かんべえは、心から薮中さんに同情します。だって2009年8月というのは、例の「政権交代選挙」をやっていた最中なんですよ。その結果として誕生したのは、「政治主導」を掲げる鳩山・民主党政権でありました。

○その鳩山由紀夫さんは、2009年11月に日本を初訪問したオバマ大統領に対して、「トラスト・ミー」とやっちゃうんですよ。そして沖縄基地問題をめぐって、「最低でも県外」のドタバタ騒ぎが続く。かくして日米関係の不毛の数年間が続いたわけでありまして、アメリカ大統領の広島初訪問を遅らせたのは外交官の罪などではありません。阿呆な政治家を選んだわれわれが悪かった。オバマ大統領の側から見れば、広島への道はまことに遠かった、ということになるんだと思います。


<5月18日>(水)

○うちの子どもは最近、全然勉強をしていない。今日もらってくる試験の成績も、きっと悪いに決まっている。今夜はきつ〜く叱ってやらなきゃいけない。などと考えて身構えていたら、案外といい成績をもらってきやがった。さて、どういう風に反応したものか、親としてはちょっと困る・・・・。

○というのが、今朝ほど発表された1-3月期GDP速報値であったと思います。前期比プラス0.4%、年率換算で1.7%成長というのですから、ちょっと意表を突かれました。ちなみに今週16日月曜日に発表された「モーサテ・サーベイ」では、予想中央値は+0.1%でした。かすかすのプラス予想というのは、エコノミスト心理としてはホンネではマイナス成長を予測していて、「でもまあ、うるう年効果もあるからなあ〜」ということで心もち上目で申告していることが多いです。事前予想としては、限りなく悲観的だったと思います。

○1.7%成長の中身も、思ったほど悪くはありませんでした。個人消費も輸出もプラスでした。てっきり在庫投資が増えているのかと思ったら、これもプラマイゼロでした。企業の設備投資はマイナスでしたが、これも日銀短観と併せてみるとちょっと違和感があって、6月1日に法人企業統計季報が出ると、2次速報では上方修正の可能性があると思います。内外需の伸び方のバランスもいいし、正直、こんなにいい結果が出るとは思っておりませんでした。

○今日の株式市場も、この速報値をどう扱ったらいいか扱いかねている感じで、発表直後は円高に振れて株安になって、それから昼前には素直に株高になって、最後は「政策期待」が遠のいたということで少し下げて終わりました。真面目な話、これでは「10兆円規模の大型補正」と言うわけにはいかない感じですし、日銀による追加緩和もやや遠のいた感があります。子どもがもらってきた予想外の成績表を見て、親が心理的に動揺している、てな感じですね。

○面白いのが今日の日経夕刊で、「GDP実質1.7%増」と見出しを掲げた後で、「うるう年消費かさ上げ」「景気、力強さ欠く」と書いているのは、最初から子供を叱りつけるつもりでいたので、ついつい言葉がきつくなったという好例でありましょう。日経新聞としては、1-3月期のGDPはどうせ悪いだろうという予想を立てていて、それで週末に「首相、消費増税先送り」という大見出しを打った後ですから、こんなことでは困るのであります。「やっぱり、うちの子どもはダメなんです!」ということにしたいのでありましょう。

○今年の1-3月期を振り返ってみると、何と言ってもマイナス金利導入の影響が大きかったと思います。あれで消費マインドは確実に冷え込んだし、なおかつ円高・株安に推移したから、富裕層の消費も伸び悩んだはず。頼みの綱のインバウンド消費だって、円高の影響を受けてマイナスに転じても不思議はなかった。にもかかわらず消費がプラス、というのは面白い現象だと思います。

○もちろん前の10-12月期が悪すぎたとか、うるう年効果(例年の1-3月期は90日だけど、今年は2月29日があるから91日で、90分の1≒1%くらいの上乗せ効果がある)もあるから、あくまでも追い風参考記録(お前はそれくらいできて当然だろう!)だと言えないこともない。でもまあ、年率1.7%増を素直に喜べない人は、ちょっと心に闇を抱えている(自分の子ども=日本経済を愛していない)のではありますまいか。

○だったら1-3月期は何が良かったのか。ワシ的には、「100円とび台くらいであれば、円高もそんなに悪いことではない」ということに尽きると思います。そりゃま日銀の黒田さんは困っているだろうけど、あるいは株式投資を目いっぱいしている人は不都合かもしれないけど、実体経済としては105円くらいまではそんなに問題はないでしょう。むしろエネルギー価格などの下落による可処分所得の増加が効いてくるので、それが良かったのではないか。

○それにしても、こんな風にデータに意表を突かれるというのは、つくづく経済は生き物でありますな。こういう時は親としては、素直に「お前も案外、やるじゃないか」と言ってやるべきじゃないかと思います。


<5月19日>(木)

○今朝は自由民主党の日本経済再生本部のヒアリングに呼ばれました。自民党本部の7階は今日は活況で、考えてみたら「一億総活躍プラン」と「骨太方針」と「新成長戦略」の発表時期が重なっていて、いずれも最終段階にあるのですな。でもって、小生めに与えられたテーマは「国際的な政策協調について」でありまして、これは要するに来週のG7サミット用の会合なわけです。もっとも1週間前に何か提言をしたところで、それが間に合うはずもないのでありますが。

○G7伊勢志摩サミットもいよいよ1週間後に迫りました。安倍首相が目指していた「国際協調による財政出動」は、さすがにちょっと苦しい感じですが、そうはいっても各国のシェルパたちは議長国のメンツを守ってくれるでしょうし、なにしろ今回はサミット終了後に「オバマ大統領の広島訪問」という大イベントが控えている。サミットは毎年ありますけど、こちらは歴史年表に載るような大事件です。おそらく週末のテレビ各局は、伊勢志摩よりも広島の方を取り上げるのではないでしょうか。

○もっとも、「合衆国大統領の広島訪問」は日本経済には無関係なわけでして、むしろ株価や為替が反応するのはG7の方であります。そういう意味では、来週の伊勢志摩サミットでどんな議論が交わされるかは、注目でありましょう。そしてまた、これに合わせて発表される一連の経済対策の動向も目が離せません。

○今朝の日本経済再生本部では、稲田朋美政調会長が冒頭挨拶をされまして、「昨日の党首討論では民進党の岡田代表が、@消費税増税は延期せよ、A赤字国債を発行せよ、B社会保障はちゃんとやれ、などと言っていたけど、まことに無責任!」とお怒りモードでありました。そこでふと気がつきましたけど、昨日発表されたQEと党首討論によって、あっという間に与野党が攻守を入れ替えたかもしれませんね。つまり与党は「予定通り増税」を訴えて、野党が「増税延期」を訴える。7月はそういう選挙戦になるかもしれません。さすがは永田町、一寸先は闇でございます。

○安倍首相としては、来年の増税の可否をぼかしつつ、とうとうここまで引っ張ってきたわけですが、「責任政党として、来年の消費税増税はちゃんとやる」というのかもしれません。まあ、その分、秋の補正を大規模にするという手もありますからね。これから6月1日の会期末に向けて、果たしてどんなことになるのでしょうか。

○もっとも昨日訪れた某情報システム会社さんで聞いた話では、「軽減税率を含んだパッケージソフトの販売を行っていますけど、顧客の間では『どうせ延期になるだろう』と思われているのかどうか、導入が予定よりも遅れている」という話を聞きました。油断大敵であります。


<5月20日>(金)

○将棋ファンの間の秘かな楽しみ。今月の日経新聞「私の履歴書」は中原誠名誉王座(16世名人)である。将棋史に残る妙手「5七銀」など、よく知られている話を毎朝楽しんで読んでいる。気がつけば、今日で5月も20日目となった。残りはあと11回分だが、果たして「あのこと」についてどう書くのだろうか。

○日経新聞としては、「読者が気にしているんだから、ちゃんと触れてくれないと困ります!」だろうけど、「自然流」の鈍感力を発揮して、サラッと流してしまうような気もする。日経としては王座戦でお世話になっていることもあって、あんまり傷つけちゃいけない相手だし。とはいうものの、連載を決める時点でその辺はちゃんと打合せするだろうし、やっぱり書くよねえ。いや、ホントにどうするんでしょう。

○我ながら下世話な関心事であるが、日経新聞の文化欄を愛する者として、そして若い頃に広報室で仕事をしたために、企業不祥事が起きるたびに当該企業に同情してしまう人間としては、ちょっとハラハラしているのである。


<5月22日>(日)

○G7財務相会合が仙台で行われ、「財政出動、各国が判断」ということになったようです。官邸で「国際金融経済分析会合」なんていう勉強会を開いて、「国際協調の財政出動」を目指していた安倍首相としては、ここは一歩後退となりますな。

○ただし3〜4月頃とはいくつか事情が変わってきた。まず世界経済の雰囲気がそこまで悪くない感じである。石油価格は50ドル近くまで上がってきた。ことによるとアメリカは、6月には利上げしちゃうかもしれない。EUもなんだかんだ言って、1−3月期は年率2.2%成長でした。日本でさえ、1.7%成長でしたから。

○そもそもドイツは、自分のところが景気がいいから財政出動は必要ない。イギリスはパナマ文書問題で動きが取れない。他のEU各国としても、ギリシャに対して説教している手前もあって、おいそれとは財政を使えない立場である。5月の連休中に欧州各国を回っていた安倍首相は、「こりゃーちょっと脈がないな」と感じていたことでしょう。

○ところが良くしたもので、帰国後の5月10日にアメリカが「オバマ大統領の広島訪問」を発表した。そうなると話はまったく別問題で、5月26‐27日の伊勢志摩サミットよりも、27日の広島訪問の方が歴史的な出来事ということになる。これだけで支持率アップが期待できるしね。

○しかしそういうことになると、5月いっぱいはいろいろ忙しかったけど、6月になると急に暇になる。これで解散も増税延期もなかったら、いったいどういうことになるんでしょう。まだまだ波乱があるような気がします。


<5月23日>(月)

○今日聞いて面白かったのが、「第4次産業革命」に関する経済産業省さんのご説明。実を言うと不肖かんべえ、普段からIoTとかビッグデータとかAIとかロボットといった話は、話半分に聴くことにしている。第1次産業革命は蒸気機関、第2次は電力とモーター、第3次はコンピュータ、そして第4次は人工知能、なーんて、話がうま過ぎるじゃないですか。

○ただし、「第4次産業革命の第1幕(ネット上のデータ競争)では、わが国産業(例えばゲーム産業)が敗北して小作人化した」などと聞くと、えらく説得力があるじゃないですか。ゲーム産業と言えば、昔は日本企業の独壇場でした。任天堂のファミコン、SONYのプレステ、後はどうでもいいマイクロソフト社のXBOXが限られたプラットフォームであって、コンテンツ供給者であるゲームのクリエイターたちは基本的に売り手市場であった。だからコンテンツ供給者が収益を確保でき、「面白いソフト」が量産されたのであった。エニックスとかスクウェアとか、今では懐かしいよね。

○それが今では、ゲームはスマホかタブレット上で行うものとなってしまい、プラットフォームはアップル社のApp Storeかグーグル社のGoogle Playのどちらかになってしまった。そうなるとゲームのクリエイターたちは、消費者へのルートを独占する米アップルorグーグル社の「小作人」になってしまうのだ。なにしろ顧客情報が2社に握られていて、契約条件もしょっちゅう見直されてしまうのだそうだ。これではいいソフトを作ったところで、自分たちではうまい汁は吸えないことになる。優れた才能も、コンテンツ供給企業には入ってこないということになってしまう。

○問題は、第4次産業革命の第2幕がどうなるかである。例えば自動走行。グーグルがこの分野に参入してくるのは、別段、自動車産業に興味があってのことではない。むしろ自動走行に関するデータを握ることにより、この分野のプラットフォームを独占してしまえるかもしれないと考えているからだ。その場合、トヨタ自動車など日本の冠たる製造業が、ここでも「小作人化」してしまうかもしれない。この事態をどうやって避けるかが、21世紀のわが国産業政策における根幹をなすことになる・・・・。

○今月発表される新成長戦略は、「官民戦略プロジェクト10」なるものを掲げている。が、その中でもいちばん重きをなすのが、この「第4次産業革命」。とりあえずは絵に描いた餅ではあるが、なかなかに旨そうに見える餅ではある。


<5月24日>(火)

○26日がG7サミット、27日がオバマ広島訪問、そして6月1日には通常国会が閉幕。あと1週間で大きな決断が下されることになるでしょう。

○久々に政治オタクの血が騒ぐような局面です。@消費増税は延期されるか否か、A衆議院の解散総選挙はあるかないか。都合4通りの決断があるわけです。こんな感じですかね。


@増税は予定通り。衆院を解散(衆参ダブル&増税シナリオ)

        ○増税延期を求める野党に対し、「強靭な国家をつくる」自民党+「軽減税率はわが党の功績」の公明党が立ち向かう。
       
○消費税10%は計算がしやすくなるので、増税延期論は不要。選挙が終わったら安倍さんはゴルフ三昧に。
        ×自民党の若手議員にとっては苦しい戦いになるかもしれない。

A増税は予定通り。解散はナシ(参院シングル&増税シナリオ)

       
○世界経済は好転。参院選は自民党単独過半数が可能。せっかくの衆院2/3議席をリスクにさらす必要なし。
       
○平成のダブル選挙は投票箱の数、開票作業などで困難きわまりない。大義名分なしには実施すべきでない。
       
×安倍首相としては、次に解散を打つタイミングが難しくなる。

B増税は延期。衆院は解散(衆参ダブル&増税延期シナリオ)

       
○増税延期+景気対策などあらゆるタマをぶち込み、当初からの予定通り増税延期+解散を決断。
       
○安倍首相はサミット+オバマ広島訪問後の高揚感の中で、かねてからの念願を果たす。
       
×選挙期間中に野党は、「アベノミクスは失敗した」と非難するだろう。

C増税は延期。解散はナシ(参院シングル&増税延期シナリオ)

       
○景気は微妙なので増税延期が妥当。この点で与野党は一致できる。国民も既に延期を織り込み済み。
       
○熊本地震後の解散・総選挙は不謹慎。増税延期の是非は参院選で問えばいい。
       
×JGBの信認に問題が生じるかも。


○本日、某所で政治オタクが寄ってたかって上記シナリオを検討しましたが、AとBが多かったですね。お互いに両極端のシナリオなんですが、Aであればリアリスト安倍、Bであればロマンチスト安倍。たぶん安倍さんはまだ決めていない。この週末が勝負でしょうね。不肖かんべえは以前はB説でしたが、先週の自民党部会に出席してからA説に替えました。

○今後は、「ポスト舛添・都知事選予測」という楽しみも控えている。いやあ、盛り上がりますなあ。ちなみに舛添都知事には、「リオ五輪の閉会式(8/21)に出席して、五輪の旗をリオ市長から受け取ってくる」という大事な仕事があります。その前に首をすげ替えるのは東京都としては少々きついので、たぶん舛添降ろしは秋以降になるんじゃないでしょうか。ま、その前に検察が動いたりしたら一大事ですけど・・・・。


<5月25日>(水)

○昨日、あんなことを書いたら、早速今朝の読売新聞が一面で、「同日選見送りの公算」「首相、消費増税延期へ」とぶち抜きました。その後の続報はこちらをご参照(同日選見送りへ…参院選集中、谷垣氏に首相指示 読売新聞 5月25日(水)15時23分配信 )。

○4つのシナリオの中では、C参院シングル&増税延期シナリオ、ということになります。この場合、債券市場の反応としては「安倍内閣が続く間は、もう消費税の増税はできないよね(2回も延期したんだもの)」となりますので、財政の持続性については疑義を持たれることになるでしょう。いくらマイナス金利とは言っても、こればっかりはね。

○その場合、むしろB衆参ダブル&増税延期シナリオの方が、「伊勢志摩&広島効果があるから、安倍政権は大勝するだろう」→「その場合、向こう3年間は選挙がないから、与党はやりたい放題だ!」ということになって、おそらく株価は爆上げとなったのではないでしょうか。

○ただし実際問題として、衆参同日選挙を実施する大義名分としては増税延期は少々弱くなっているし、熊本地震の影響もある。30年ぶりのダブル選挙がいかに大変なことであるかは、以前にも書きましたけど、@投票箱が5個!Aポスターの掲示版も足りない!B開票作業も大変!Cマスコミの作業も大変!などの問題がつきまとう(「30年ぶりの難事業?」)。

○ちまたにはこんな会話もあるんだそうです。有権者「5枚も投票用紙を渡されて、どういう風に書けばいいんですか?」→候補者「この際だから、全部、私の名前だけ書いてください!」(ほかの4枚はこの際、犠牲になってもいい)。シルバー民主主義の時代に、5つの投票箱(衆院小選挙区、衆院比例区、参院選挙区、参院比例区非拘束名簿方式、最高裁判事国民審査)は無理でしょう。年内解散の可能性は消えてないと思いますけど、とりあえずダブル選挙はないのではありますまいか。

○それでは増税延期の方はどの程度信用できるのか。読売新聞は、「軽減税率」の導入に血道をあげてきた新聞です。軽減税率は、増税がないと実現しません。ということは増税延期の報道は、あの新聞にとって重いものがあったことと想像いたします。

○うーん、やっぱりシナリオCなのかなあ・・・。ほかの@〜Bの方が、波乱万丈感が強くて野次馬的には面白いんですけどねえ。


<5月27日>(金)

○えー、どうやらこの2日間にわたる、G7サミットとオバマ大統領広島訪問の特別警備態勢が終わるみたいです。とりあえず、テロ事件とか不測の事態とかソフトターゲットとか、大きな問題がなくてよかったね、ということになります。

○わが国のことでありますから、たぶん来週になりますと、すっかり元に戻ってゴミ箱もロッカーもご自由にどうぞ、てなことになるのだと思います。日曜日にダービーが行われる府中競馬場も、たぶん10万人を超える人出になりますな。なにしろ近年稀れに見る好勝負となりますので。山崎元さんはサトノダイヤモンドだそうです。あたしゃやっぱりマカヒキだな。まあ、上海馬券王先生のご意見をお待ちしましょう。

○しみじみお気楽な国なのであります。今年はそれでよかったわけですが、4年後に訪れる東京五輪の時は、こりゃあ大変なことになりますぞ。おそらく今回のような事態が1か月以上も続くわけです。特に首都圏は。全国の県警から動員が行われるという事態が、長期化することになりますでしょう。しみじみお疲れ様です。

○ところで本日、大韓航空機ボーイング777機が羽田で出火するという騒動があったそうです。これで歴史的瞬間に立ち会おうとしていた議員さんたちの一部に、「広島に間に合わない!」という不幸が生じたようです。わざとではないんでしょうが、こういうのを「未必の故意」というのかもしれませんな。

○とりあえずこの程度で済んでよかったです。でも、まだすべてが終わったわけではありません。おうちに帰ってくるまでが遠足です。


<5月29日>(日)

○人事というのは難しいもので、特に長期政権の後をどうするかは難しいものです。激震が走ったセブンアンドアイはまだまだ揉めそうですし、燃費不正をカミングアウトした鈴木自動車の今後も気になるところです。いや、日本政府なんぞ、小泉政権の後は滅茶苦茶になりましたからな。今の安倍内閣も長期政権ですが、これも終わったときには苦労しそうだなあ・・・。

○ところがここに、すばらしい名人事があった。高齢になった長期政権のトップが勇退し、意表を突く若手を後継者に指名し、なおかつ派閥バランスも均衡させて、誰もが納得の新人の補充を行っている。これなら老舗も安泰というもので、いや、さすがですな、「笑点」さんは。

○桂歌丸さんが番組50周年を機に引退され、後継者が春風亭昇太さん、というのはちょっと意外感がありました。でも、「内部昇格」の場合、他の誰でもうまくいかないんですな。6代目の三遊亭円楽師匠が大本命でしたが、彼が抜けちゃうと、大喜利で「最初に手を挙げる」人が居なくなっちゃうんですね。その点、昇太さんは司会者として嫌味がないし、わりに安心して見ていられる。

○なおかつ、笑点メンバーの中には落語界の3つのグループが入り混じっていて、このバランスもよく考えられている(ような気がする)。

一般社団法人 落語協会:林家木久扇、林家たい平、林家三平(←新加入)

公益社団法人 落語芸術協会桂歌丸(←勇退)、三遊亭小遊三、春風亭昇太(←新司会者)

●円楽一門会:三遊亭好楽、三遊亭円楽

○司会者を同じ芸協から登用したことで、落語協会を優遇する必要があった。そこで新加入は林家三平(正蔵ではない)として、さらに林家たい平を24時間テレビのマラソンランナーとして処遇する。いや、よく考えられていると思います。派閥均衡人事って、意外と大事なことなんですよ。きっと。何事も長く続けるためにはね。

○制作者の日本テレビとしては、日曜夜の視聴率獲得のためには、お化け長寿番組である『笑点』の人気維持が欠かせない。なにしろこの後、『バンキシャ』→『ザ!鉄腕!DASH!』→『世界の果てまでイッテQ!』→『行列の出来る法律相談所』と人気番組が続くわけですから。関係者はきっと真剣に考えたことでしょう。

○こういう上手な人事を、一般企業も学習すべきだと思いますぞ。要するに私利私欲を考えないで、全体最適を考える、ということであります。


<5月30日>(月)

○安倍首相が消費税増税の2年半先送りを表明。2019年4月ではなくて、同年10月なのだそうだ。なぜ2年ではなくて2年半なのか。突然、かんべえの古い記憶が蘇った。そうだ、2019年は亥年現象がある!

○亥年現象、もしくは亥年選挙とは朝日新聞の石川真澄記者の造語である。同じ朝日新聞政治部育ちの薬師寺克行さん(現東洋大学教授)から教わった記憶がある。ちょうど2007年の亥年、第1次安倍内閣がこの問題に苦しんでいた頃、テレビ朝日『サンデープロジェクト』のコメンテーターをやっていたときであった。その当時に書いた解説はここをご参照。思い起こせば薬師寺さんは、2006年末の忘年会から、「来年の政界は大荒れになる!」と予言していたものだ。そしたらホントに2007年は消えた年金問題、女は産む機械発言、松岡農相の自殺、赤城大臣のバンソーコーまで、いろんな事件が相次いで安倍内閣は退陣に至ったのである。

○亥年は12年に1度、かならず4月に統一地方選挙、7月に参院選がある。これは自民党にとって必敗パターンである。春の選挙で疲れ果てた地方議員が動いてくれないので、夏の選挙は低投票率になって、与党が大敗してしまうのだ。同じことが2019年にも予想されるから、4月増税では駄目で10月に遅らせたのだろう。その場合も、増税の最終判断は半年前の4月になるかもしれないのだが、ちゃんと安倍さんは亥年の怖さを覚えていた。って、当たり前か。

○軽いショックを受けるのは、3年後になるとまた亥年が回ってくるということだ。2007年当時は、「この知識、もう使わないだろうなあ」と思っていたのだが、干支はしっかりと回ってくる。ワシも年を取るはずだて。こんな風に馬齢を重ねて、人生は後戻りのできないところへと突き進んでいく。呼べども月日は戻らない。日本経済もまたしかり。あのときああしておけばよかった、と悔やむことも多いのだが。

○ともあれ、妙なところで古い「自民党の知恵」に出くわしたような気がする。それに気づいてしまうのは、こちらも年を取ってきたからであろう。なにしろ次の亥年の翌年にはワシは還暦だからのう。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki