●かんべえの不規則発言



2020年7月





<7月1日>(水)

〇王位戦の第1局。1日目が終わった時点で大差がついている。これは素人がみても、挑戦者の藤井聡太七段が優勢である。AbemaTVのコンピュータソフトは、「61対39」と採点している。木村王位は目の前のと金を払うか、それともエイやっと相手陣の飛車を取るかのどちらかしかなく、今日のところはそのどちらかを封じ手とした。

〇飛車を取るのなら予定の行動であり、数手前からの読み筋なのであるが、その場合はどうみても後手の王様は危うくなる。下手をすれば、明日の午前中に詰んでしまいそうである。と金を払えば少しは粘れるし、明日の夕方までは引っ張れるかもしれないが、数手前に指した角打ちが悪手であったことをみずから認めることになり、それはこの先の7番勝負を指していく上での負い目を作ってしまう。

〇逆に挑戦者藤井七段にとっては、同時進行の棋聖戦五番勝負(相手は渡辺明三冠)とは違って、これは二日制の対局である。地方紙共同制作のタイトル戦なので、全国各地を泊まり歩くことになる。第1局は地元・愛知県なので、主催者の一角、中日新聞は大喜びだろう。「封じ手」がある、午前10時と午後3時には「おやつ」が出る、というのもタイトル戦挑戦における初体験である。

〇こんな初体験を次々にこなしながら、17歳の少年は「将棋のことだけ考えていればいい」日々を楽しんでいるかのように見える。いや、高校の授業もあるし、気になる女の子がいるかもしれないのだが。6月だけで9局も対局して、2つのタイトル戦に同時に挑戦し、しかも8勝1敗。

〇今日の対局では、腰掛銀の戦後同形にした後手の4四歩に対し、先手が4五歩、同歩、同銀、としたところで後手は5二玉。これが木村王位が用意した「新手」であったようだが、そこから昼食休憩をはさんで90分間検討し、藤井七段が指した2四歩が良い手であったようだ。

〇以後、これが定跡となるのかもしれない。「ここで後手5二玉は先手2四歩にて先手良し」。そして、「後手は腰掛銀で4四歩の同形を避けるべし」と。

〇山崎元氏は、「藤井七段の将棋を楽しまないのは人生の無駄だ」と書いている。確かに、同時代にこんなすごい地殻変動が起きているのだから、見ない阿呆より見る阿呆でありたいものだ。さて、明日はどうなる?


<7月2日>(木)

〇昨日も今日も在宅勤務で、あくせく締め切りバスターを続けている。なぜか今週はたくさん重なっているのだが、これはこれで楽なのである。なにしろ書かなきゃいけないし、書けば仕事は終わるので。義理を果たす、というのは心理的に素晴らしいことである。

〇仕事中に王位戦が気になって、ついつい棋譜を覗いてしまうのだが、まあ、木村王位が夕方まで粘ったことはよかった。お昼前に「参りました」と頭を下げてしまうと、地元関係者は困ってしまうだろう。心づくしのお昼ご飯やおやつをいただくのも、対局者の大事な務めのひとつと言える。今日の盤面では、味がしなかったかもしれないけれども。

〇東京都の新たな感染者が100人超えだとか。うーむ、これでは夜の街はたいへんであろう。「金は天下の回り物」であるから、どんどん人が動いておカネを回してあげないといけないのだが、そうするとウイルスも一緒にうごめいてしまう。病院のベッドに空きがあるうちはよいのであるが、近日の増え方はだんだんシャレにならなくなりつつある。

〇ちなみにワシはよく知らんのであるが、その道の人に聞いたところでは、新宿のホストクラブでなぜ感染が増えるかというと、こんな理由があるのだそうだ。@ホストがメイクをする部屋が狭くて三密、Aシャンパンタワーという儀式で濃厚接触がある、B最初のうちは気を付けているが、明け方になる頃には酔って忘れている、C帰りのエレベーター内でも濃密な行為が行われる。いや、どういうところかまったく不案内なのですが。

〇それにしても感染者数が再び増加に転じるのでは、せっかく復活し始めたワシの講演予定も、これで再び吹っ飛んだり、ウェビナー方式に変わってしまうかもしれん。まあ、それはそれで素直に応じるしかないのであって、その辺はとっくの昔に悟りの境地なのである。さて、明日は出社してやるか。


<7月3日>(金)

〇日本政府が石炭火力の休廃止を表明へ、というニュースが流れています。しかしですねえ、電力各社が石炭火力を必要としているのは、原発再稼働が思うに任せないからでありまして、CO2が増えることはいわば承知の上のお話であります。経済産業省は、これが無理難題だとわかったうえで言っているのでしょう。

〇再生可能エネルギーを増やせばいい、というのはいわば「お花畑理論」でありまして、太陽光や風力を増やせばそのバックアップ電源は結局、火力に回ってくることになる。夜間だから、風が止まったからと言って電気は止められません。365日24時間、供給を続けなきゃいけないわけですから。

〇日本のような島国は、他所の国から電力を引っ張ってくることができない。その点、欧州各国は互いに電力網がつながっていて、なおかつ各国が独自のエネルギー政策を有していて、お互いが相互補完的になっている。だからこそ、きれいごとを言っていられる。そのくせドイツのように、「再生可能エネルギーを増やしたから褐炭の使用が増えちゃった」みたいなお馬鹿な例もある。くれぐれも意識高い系の人たちの言いなりになっちゃいけません。朝日や毎日のように、その尻馬に乗る新聞もいますけど。

〇日本の場合、ベースロード電源とできるのはつまるところ原子力と石炭ということになる。そして石炭は世界中で生産されるので、いわゆる「地政学リスク」を考えなくくていい。石炭にはホルムズ海峡やマラッカ海峡がないのです。豪州から買えばいいんだし。ついでに言えば、日本の石炭火力はNOxやSOxを出さない技術でも世界の最先端を行っている。欧州のような「安かろう、悪かろう」の発電所を念頭において、日本を非難されるのは困ります。まあね、化石賞なんて気にしなきゃいいんだけど。

〇それでも経済産業省が「年内めどに具体策」と言い出したのは、いよいよトランプ大統領が再選されない場合を考え始めたからだろう。こないだの溜池通信でも書いたけど、11月3日にバイデンさんが当選した場合、その翌日から始まるのは「アメリカのパリ協定への再復帰」である。そうなった場合、極端な話、「米欧中・反石炭連合」みたいなものができてしまうかもしれない。この場合は厄介なことになりますぞ。アメリカの民主党は、4年前に比べてさらに左傾化していますので。

〇とはいうものの、懸かる状況を好きだの嫌だのとは言っていられない。だから先手を打って脱・石炭に動こうというのでしょう。それにしても、こういうときにまたまた「有識者による検討を始める」というのは嫌な感じでありますな。「脱・石炭」という結論ありきの会合なのに、どういう有識者が呼ばれるのでありましょう。

〇専門家はいつも政府の隠れ蓑。都合が悪くなると捨てられる。わかっちゃいるけど辞められない。まったく、嫌な世の中でございます。


<7月4日>(土)

〇本日はアメリカの独立記念日。それにかこつけて、こんな駄文を書いてみました。


アメリカがコロナでボロボロでも沈まないワケ 独立記念日どころじゃないのになぜなのか?


〇いや、真面目な話、アメリカはボロボロですよ。新規感染者が都内で100人を超えた!と言って我々は大騒ぎをしているのだけど、全米は1日5万人だそうです。しかも死者数は現時点で12万9306人。これはもう「コロナ敗戦」と言ってもいいくらいです。

〇ただし、それでアメリカ経済はどうなるのかと言うと、雇用統計は思い切り悪い数字が出た後で、急激に戻している。これを素直に信じていいかは、かなり怪しいところなのだけれども、リーマンショックがアメリカ経済の覇権を脅かさなかったように、今回も同じようなことが起きるのではないか。現にコロナはGAFAやZoomの需要を生み出していて、ナスダックは節目の1万ポイントを超えている。

〇アメリカ経済は、これを機会にますます成長、ということになるのではないか。それはダメダメなアメリカ政治とは大違いで、今ではトランプ支持派と反トランプ派は、独立記念日をともに祝うことさえできなくなっている。とりあえずマスクを着ける人たちと着けない人たちが、互いに分かり合えなくなっている。

〇基本はマーケット関係の話なので、そんなに多くの人に読まれるコラムではないと思っていましたが、今日のところは5位以内で頑張っているようです。これも編集F氏が、うまいタイトルをつけてくれたからですな。なるほど。

(後記:競馬の予想は大きく外れました。というか、今日のラジオ日経賞とCBC賞は、どちらもひどい荒れ方でした。まあね、この時期の競馬がどういうものであるか、少し思い出しましたよ)。


<7月5日>(日)

〇『空母いぶき』の第13巻をゲット。いやー、完結しましたな。それにしてもこのラストは意表を突かれました。確かに、こうでもしないと戦争が終わらない。というか、終わらせられない。しかしこの終わり方だと、わが国は「戦争に勝って外交に負ける」というパターンにはまりそうだなあ、と。

〇秋津艦長の最後の長広舌は不要だったな。ま、そうでもしないとこの漫画、キャラクターが立たないという面はある。なにしろこの漫画の主役は空母や護衛艦や潜水艦や戦闘機であって、生身の人間ではないのである。読者もそれを期待している、というのが辛いところでありまして。

〇それと同時に、新シリーズ『空母いぶき Great Game』第1巻も出版されている。こちらは北極海が舞台だが、新キャラクターがたくさん出てきて面白い。なんといっても、わが国に女性の首相が誕生していて、「国家安全保障会議を招集します」などと言うのである。この首相、なぜかワシには岩間陽子教授に見えてしまう。先日、岩間先生からメルケル首相の話を聞いたからかな?


<7月6日>(月)

〇昨日の東京都知事選挙は、小池さんが驚きの366万票。当欄の6月20日で書いたように、「前回取った290万票を超えるのは難しい」と思ったのですが、軽々と超えちゃいました。畏れ入りました。

〇そうなった理由は投票率の高さで、55.0%もあった。「前回よりも4.7ポイント下がった」と言われているが、よくまあ5割を割らなかったものである。だって、あのメンツですよ?

〇察するに、「コロナがあるから家に居よう」ではなく、「こういうときだからこそ、投票に行こう」と思った有権者が多かったのだろう。今回のコロナ騒動でよくわかったが、知事の職権は意外と大きいのである。少なくとも都民は、1995年に青島さんを選んだ時とは認識が変わっているようだ。で、投票に行ったら、ほかに入れるべき候補者が居なかった。そういうことではないのか。

〇注目の2位争いは、だいだい予想の範囲内でした。宇都宮さん84万票、山本さん65万票、小野さん61万票である。当てても配当は高くない3連単ですな。N国は完全に失速しているようであります。ホリエモン新党なんて掲げなければ、もっととれたんじゃないでしょうか。「NHKをぶっ壊す!」というシングルイッシュー政党であることが、霞んでしまったように思います。

〇この選挙結果が国政にどう影響するか。この秋にも解散総選挙が行われるのではないか、との見通しが急浮上している。これは2017年と同じパターンで、「10月に行われる衆院・参院補欠選挙をぶっつぶす」という狙いがあるからだ。今の感じで行くと、いかにも河井夫妻が失職して補欠選挙になり、きな臭い感じになるじゃないですか。

〇当欄の2017年8月1日では、こんな予測を書いた。


○もっとも安倍首相には反撃の手段もある。この秋の政治外交日程とにらめっこしながら、発見したのが以下のシナリオである。


9月22日(金) 臨時国会召集。冒頭解散。この日は「仏滅」。

10月10日(火) 総選挙告示。この日は「仏滅」。

10月22日(日) 総選挙。青森4区と愛媛3区の補欠選挙と重ねてしまう。この日は「大安」。


○これで行くと、安倍首相は9月最終週にニューヨークの国連総会にも出られるし、10月はとりたてて外交日程は少ないし、11月に予定されているAPEC首脳会議、東アジアサミット、トランプ大統領アジア歴訪などの日程にも迷惑がかからない。これだけ早期解散であれば、野党も都民ファーストも準備は間に合わないから、自民党はよもや負けないでしょう。まあ、与党の衆院3分の2議席は失われる可能性大ですが。


〇3年前の解散も、「補欠選挙つぶし」が隠れた補助線だったのです。さて、同じことを今年で考えると以下のような日程になります。


9月25日(金) 臨時国会召集。冒頭解散。この日は「仏滅」。

10月14日(水) 総選挙告示。この日は「大安」。

10月25日(日) 総選挙。広島県の衆参補欠選挙と重ねてしまう。この日は「大安」。


〇今年の場合、9月の国連総会はヴァーチャル会合となりますが、G7がリアルでワシントンで行われる予定です。いや、ほかに4か国(豪・韓・ブラジル・インド)を呼ぶそうなので、G11と言うべきか。まあ、そんな外交日程も上記で行けばスルーできます。まあ、やらないと思うけど、いちおう読み筋の公開まで。

〇オマケです。以下はこの週末の仕事です。あまり語られることのない「ジョー・バイデン論」のほんのさわりを書いてみました。


目立たない男 「居眠りジョー」の天下取り戦略(外為どっとコム)


<7月7日>(火)

〇今日は七夕。織姫と彦星にとっては無情の雨。そして九州各地においては非情の雨。このところ毎年のように、どこかの地域が豪雨や台風の犠牲になる。「ダムなき治水」と言っていられた幸福な時代は、完全に過去のものになったようである。

〇とはいうものの、リアルで人と会うことの重要性を思い知らされるような一日でありました。「仕事の件でご挨拶」という来客があり、普通に会議室にお通しして、名刺交換をして、世間話をして、それから本題に入るという典型的なパターン。いやあ、いいもんですねえ。やはり仕事はこんな風にやらないと。

〇面白い話を聴きました。全国の地方銀行さんを訪ねていくと、「ああ、どうぞどうぞいらしてください」「ご飯はどうされますか?これからご一緒にいかがですか?」とやたらと開放的なところがある一方で、「滅相もない、来ないでいただきたい」「打ち合わせはヴァーチャルで結構ですから」というところもあるとのこと。

〇概ね西日本の銀行が開放的で、東日本の銀行が慎重であるとのこと。なるほど、先月の景気ウォッチャー調査を見ると、西日本の九州や中国地方は先行き判断が改善していて、北陸や東北、北海道が慎重であったというのは、要はそういうことなのであったかと頓悟した次第である。

〇つまり西日本の方が人のもともと行き来が多いので、感染者も多くなって、結果的に開放的になる。東日本はそもそも感染者が少ないので、「自分が第1号になったらどうしよう」という警戒心が芽生えるので、どんどん慎重になっていく。東京から見た場合、西日本に行くのは構わないが、東日本に行って「下手に第1号になったら大変だ」ということになる。金融の世界は、レピュテーションリスクを重視するから、どうしても慎重になるのですな。

〇ということで、来週、仙台に伺う予定のワシ的には、内心ハラハラするものがございます。そういえば名にしおう仙台の七夕祭りは、毎年8月6日から8日にかけて行われるのですが、今年は中止だそうです。せめて夜空に願い事を唱えたい。なるべく早く、コロナが退散しますように。そして東西どこへでも旅していけるような日々が戻りますように。


<7月8日>(水)

〇本日は宮本雄二元中国大使の講演会を聴いてきました。いくつか印象に残った点をメモ。


●日本やアメリカは、コロナのせいで5%や10%のマイナス成長があっても社会はゆるがない。ところが中国ではそうはいかない。かならず脆弱性が表れる。

――最近の日本はどんどん貧しくなっていて、本当は心配なところがあるのですが、とりあえずCovid-19で社会は壊れていなくて、「いつか元に戻れる日」を皆が願っている。それはかなり恵まれたことのように思えます。


●習近平の権力のピークは、任期の延長を決めた2017-18年ごろ。政治はどこの国でも同じ。権力が集中したから必ず反作用がある。今は太子党もどんどん離れつつある。

――そのように考えれば、昨今の無茶なやり方は、あぁ虚勢を張っているのね、と理解できます。武漢の状況も、SNSでちゃんと発信されていた、いくら消しても無駄だった、というのは「なるほど」でした。


●1990年に香港基本法ができた時点で、香港は外国勢力との関係を持つことを禁止する立法を行うべし、と規定されている。それが行われなかったら、とうとう北京が自分で国家安全法案を作る破目になった。北京も香港も人がいないから、妥協ができない。このままでは香港の法体系が信用されなくなる。経済的な繁栄は失われるだろう。

――香港の「一国二制度」が否定されたことで、台湾も受け入れられなくなりましたね。本来は台湾統一のために生み出されたロジックだったのですが。


●中道政治では組織を引っ張れない。良識派には力がない。

――うーん、これは納得。やはり国を動かすのは強硬派。で、その人たちは外国に言うことに耳を貸さない。困ったものだ。


〇もうひとつ、こちらはたまたま読んでいた宮本大使へのインタビュー記事から。これは非常に納得がゆくコメントです。


中国外交部と付き合ってきた狭い範囲での経験ではあるが、何か一つのモードに入ると、それに掉さす情報や意見は彼らの耳に入らなくなってしまう。それまでの状況を彼らなりに分析して、一度、結論を出し対策を決めると、当分変わらないということだ。それでは、こちらはどうするかというと、何もせず放っておくことに尽きる。そう思い込んでいるので、いくら善意で情報を教えたり意見を述べたりしても、何か別の底位があってのことだろうと勘繰られるのが落ちだからだ。そのうち、気持ちが落ち着いてくると、こちらの話にも耳を傾けてくるようになる。


〇この指摘は米国外交にもぴったり当てはまりますな。大国外交と言うのは、つくづく厄介なものでありんす。


<7月9日>(木)

〇この2週間で7本の締め切りを書き上げて、現在は8本目の締め切りと向かい合っておる。これさえ終われば、しばらくは楽ができるので、ここは丁寧に仕事をするしかないのであるが、こんな日に限って棋聖戦の第3局があって、藤井聡太七段が今日勝てばタイトル奪取である。ということで、朝から棋譜が気になって仕方がない。

〇先手が藤井七段で、得意の角換わり腰掛銀に。渡辺三冠、時間を使わずにスイスイ指して、なんと午前中に決戦模様となる。そこは「仕掛け即終盤」と言われる過激な腰掛銀戦法、昼食休憩時にはほとんど終盤のような様相を呈している。素人目にも、これは藤井七段が押しているように見える。

〇が、あの藤井七段でも、これで勝利が近いと思ったら判断が狂うものなのか。午後すぐの局面で安全な勝ちを目指せるところを、長考を繰り返して勝負に出た。その間、相手の角を敢えて自陣に成らせたのがいかにも危うげであった。そこから先は渡辺三冠が大人の差し回し。時間はたっぷり残してあるので、夕刻にはしっかり優位を築いていた。

〇防衛側の渡辺三冠も、敢えて安全策を避けて、きっちり一手勝ちを目指す。たぶんこの2人、向こう20年くらいはタイトル戦の常連となるはずなので、ここで日和ってはいけないとみずからに言い聞かせているのであろう。最後はいくつもワナが仕掛けてあるところ、ちゃんと正しい道を選んで勝ち切りました。藤井七段は、これたタイトル戦での初敗北。

〇「恐るべき17歳」は、これを糧としてますます強くなってしまうかもしれない。とはいえ、渡辺三冠も「タイトル戦でストレート負けなし。あの羽生さんを相手に竜王戦で0−3からひっくり返したことあり」という粘り腰が身上。ううむ、これではまたまた次が気になるではないか。棋聖戦の次局は大阪で、7月16日(木)。しかも王位戦の第2局も札幌で、13日(月)、14日(火)に行われる。これじゃ藤井七段、高校の授業に出る余裕はないですな。


<7月10日>(金)

〇自分のライバルであるジョー・バイデン氏のことを、トランプさんは"Sleepy Joe"と呼ぶ。この「眠たい野郎」のことをどう「意訳」すればいいのかと考えていたのだが、「ひるあんどんのジョー」がピッタリではないかと思いついた。

〇バイデン候補、大統領を目指している割には積極性に欠ける。自分が目立とうとするよりも、現職が勝手に自滅していくのを待っている感がある。それは十分に成算のある作戦で、何しろ今のアメリカは「コロナによる死者13万人」であるし、失業率は2桁である。普通であったら、現職大統領が再選される水準ではない。

〇そこで自分が目立つことよりも、目立たないところで仕事をしている。例えば資金集めである。6月末時点で合計3.16億ドルも集めている。トランプ陣営が3.53億ドルなので、ほとんど追いついたも同然。今年4月時点では1億ドル未満で、トランプ陣営のはるかに後塵を拝していたのに。人気のバロメーターとなる小口献金の比率も上昇している。おそらくオバマ前大統領の助けを得ているのであろう。こういうところが、いかにも「ひるあんどん」で抜け目がないではありませぬか。

〇「ひるあんどん」にはもうひとつ重要な仕事がある。それは党内融和、はっきり言ってしまうと党内左派のガス抜きである。そういう意味では、サンダース上院議員との合同政策提言が決まった、というのは重要なマイルストーンではないかと思います。

〇ここに挙げられた6つの政策の柱の文言と序列を見ていると、「今の民主党」がどんなものかが浮かび上がってくる。ひょっとすると、2021年以降のアメリカはこの方向に向けて一気に走り出すかもしれない。


(1)Combating The Climate Crisis And Pursuing Environmental Justice

(2)Protecting Communities By Reforming Our Criminal Justice System

(3)Building A Stronger, Fairer Economy

(4)Providing World-Class Education In Every Zip Code

(5)Achieving Universal, Affordable, Quality Health Care

(6)Creating 21st Century Immigration System


〇冒頭に来るのは、案の定、気候変動問題である。しかも「環境正義の追求」などとおっしゃる。元来、中道派のバイデン氏としては、「この分野だったら左派に譲歩してもいいわ」と思っている節があって、これが冒頭に来ている。まあ、AOCことオカシオ=コルテスさんの口車に乗って、「グリーン・ニューディール」などという言葉が入らなかっただけ良しとすべきだろうか。

〇2番目に来るのが「刑事司法改革」である。そもとも今回のバイデンさんは、徹頭徹尾、黒人票が追い風になっている。今年2月の時点で、サウスカロライナ州予備選挙で勝てなかったら終わっていた候補者であった。たまたま地元のジム・クライバーン下院議員のエンドースメントを受けて、そこで九死に一生を得た。その直後のスーパーチューズデーでも、地滑り的に勝てた。そして今はBLM運動の追い風を受けている。何しろ副大統領として8年間も、オバマさんを支えたのですから。でも、バイデン元上院議員は、クリントン大統領が「犯罪に厳しい民主党政権」をアピールしていた時期に、司法委員長として目いっぱい協力した前科があるのですよね。そこは突っ込まれると困るはずなのですが。

〇3番目になって、やっと経済が出てくる。バイデン政権になったら、やっぱり増税と規制強化は避けられないでしょう。マーケット関係者は、このことをもっと警戒すべきだと思います。「バイデン新政権下ではインフラ投資が増えるから景気にプラス」というのは、いささかおめでたい発想だと思います。

〇4番目は教育問題です。"Every Zip code"という言い方が面白い。これは郵便番号のことなので、「あらゆる地域において世界クラスの教育を」ということになる。つまりアメリカは極端な格差社会なので、住んでいる地域によって収入やら教育水準やらが丸見えになってしまう。どうかすると、コロナの感染比率までも。せめて生まれ落ちた場所で教育水準が決まってしまわないように、という思いがあります。

〇5番目になって、やっと医療問題が出てきます。去年から何度もやった大統領候補テレビ討論会では、サンダースやウォーレンの口から"Medicare for All"(国民皆保険制)という言葉が数えきれないほど出てきたものですが、そういう言葉は排除されました。マジメな話、Covid-19でどれだけ医療費がかかるかわからない現状では、そんなことは怖くてとても口にできないのでありましょう。

〇6番目は移民問題。トランプ政権下で進んだ移民イジメを是正するぞ、ということなのでしょう。

〇トランプさんが血道をあげてきた通商問題がここに入っていない、というのが面白いですね。中国との第一次合意とか、NAFTAの代わりに結んだUSMCAだとか、TPPから離脱だとか、その辺のことはスルーしています。だってそれを言い出すと、ブルーカラー層がトランプ支持に逃げてしまうかもしれないから。その部分はなるべく避けて通りたいのでしょう。

〇ということで、ワシ的にはあんまりバイデン新政権を歓迎したくはありませぬ。少なくとも経済政策の面で優れているとは思えない。しかるに「ひるあんどんのジョー」は、見かけ以上に抜け目のない仕事をしているという点には注意が必要でしょう。自分は目立たなくていい。トランプを自滅させればそれでOK、という戦略は、概ね正しい方向であると思います。


<7月11日>(土)

〇7月のこの時期、いつも「七夕賞」を目当てに泊りがけで福島に行くのであるが、今年は無観客競馬につき、福島参戦が叶わない。そこで福島ツァー常連の間でZoom飲み会を実施しました。

〇いつもは福島行きの都合がつかない人であっても、週末のZoom飲み会ならば何とかなる。「リアルをバーチャルにすると参加者が増える」という法則は健在で、富山に居る上海馬券王先生はもちろんのこと、東南アジアからも参加する方が居たりして、もちろん講師は福島民報の高橋記者である。編集F氏がZoom幹事をやってくれて、JRAのサイトを共有しつつ、過去のレースを皆で見る、なんてこともできてしまう。かくして大の大人が侃々諤々の議論を続けるのである。

〇それにしても今年の七夕賞は難解である。誰が真犯人であっても不思議のない推理小説のようでもある。16頭立てなのに、「自信をもって無印にできる馬は3頭しかない」などということになる。これを真面目に解こうとすると、若いころに取り組んだZ会の数学の問題のように手強い出題である。ひょっとすると、1年で一番難しいレースかもしれない。

〇「7−7がいつも人気の七夕賞」などという駄句もある。今日のメンツでいうと、枠連FーFはプラヴァスとオセアグレイト。十分あるじゃねえか。この際、お誕生日馬券か何かで、無欲で臨んだ方がいいのかもしれない。とはいえ、本番前までには何か屁理屈をひねくりだして、いくばくかのおカネを投じることになるのであろう。あんまり当たる気はしないけど、この時間が楽しいのだから仕方がない。

〇ひとつだけ残念なのは、毎年福島行きの常連であったぐっちーさんがもう居ないことだ。1年前に穴原温泉吉川屋で過ごした夜が最後の記憶となった。ということで、高いワインを開けてしまいました。ぐっちーさんがあの世からWeb飲み会に参加していたら、「おっ、いいの飲んでるじゃないですか」と言ってくれたんじゃないだろうか。


<7月12日>(日)

〇夏競馬は荒れる。特に福島や函館のレースは難しい。だから春のG1シーズンの時に三連複で狙っていたようなレースは馬連で、馬連で狙っていたところはワイドで狙うのがお作法である。と、いうことに最近になって気が付いた。それでボロ負けは避けられるのだが、勝てるかと言うとそれも難しい。

〇今年の七夕賞を制したのは、昨年2着で今年は3番人気だったクレッシェンドラヴでした。ステイゴールド産駒なので、当然、狙いの1頭ではある。馬連4頭ボックス買いで狙ったところ、2着のブラヴァスが入っていなかったので、外れである。3着のヴァンゲドミンドも併せて、昨晩の勉強会では名前が挙がっていた馬なのに、手が出なかった。何しろ全員が真犯人に見える推理小説だったので。今気が付いたが、3着まで全頭、名前に「ヴ」の字が入っていたのですな。

〇今から思えば、1番人気のジナンボー、2番人気のヒンドゥタイムズをぶった切る根性があったのだから、クレッシェンドラヴからなるべく多くの馬に3連複で流せばよかったのか。いや、せめて1000円でいいからクレッシェンドラヴの単勝を買っておくべきであった。高橋師匠はしっかり馬連と3連複を取っていたようである。ううむ。来年も頑張ろう。

〇競馬を終えてからBS-TBSの「サンデーニュース Bizスクエア」へ。この番組、呼ばれるのはとっても久しぶりである。気心の知れた播摩キャスターとの掛け合いなので、思い切りリラックスして、先週出た景気ウォッチャー調査について語る。6月調査は非常にいい結果が出たが、あんまり喜んではいけないよ、などといったことを。

〇出番を待つ間、自分の後のコーナーに登場するクリップライン社の高橋勇人社長としばし雑談する。研修動画サービスのベンチャー企業なのだそうだ。こういう「ときの人」に会える、というのがこの番組の良さである。IT企業の経営者と言うと、昔はホリエモンのような肉食系が幅を利かせていたものだが、今日の高橋さんは草食系でソフトな方であった。これも2020年代の時代精神のようなものであろうか。


<7月13日>(月)

〇この週末に、例のYA論文のことを現代ビジネスに寄稿しました。そしたらすぐにヤフーニュースが取り上げてくれて、こちらには膨大な数のコメントがついている。ネット上の匿名の議論は、どうしても極端なものが多くなるけれども、ここに上がっている意見の多くは非常にまじめな内容である。

〇全体的に見ると、YA論文への支持者が多い。つまり「オバマはダメな大統領だった」「それに比べればトランプは、日本にとってありがたい」と受け止めている人が少なからずいるようである。この辺もネット界の気分というものだろうか。彼らから見れば、YA論文をたしなめる「大人の議論」の方がうさん臭く見えるようである。

〇その昔、岡崎大使がぽろっと言っておられたことで、「戦略というものは、声高に語るものではない」という言葉があった。あんまりいい例えではないが、お見合いの席を考えてみるといい。「この女性は美人だし、家柄もいいけれども、おカネがかかりそうで将来、自分は苦労するだろう」とか、「この男性は優しい人で一緒にいて楽しいが、将来、あまり出世しそうではない」といったことは、当人たちにとってまさしく「戦略」であろう。ただし、そういうことは胸の中にしまっておくべきであって、言葉に出して他人の同意を求めたり、まして論文を書いたりしてはイケない。

〇YA論文はアメリカ外交について語った文書である。本来は外交官が胸の内にしまっておくべきようなことを、敢えて偽悪的に語っている面がなきにしもあらず。それは純粋に読み物として面白いのだが、「それを言っちゃあ、おしめえよ」的なところもある。ここが評価の分かれる点であろう。

〇一方で、「戦略とは逆説である」とか、「よくできた戦略は、他人に話したくなる」(ストーリーとしての競争戦略)といった言葉もある。戦略とは、本来は小さな声で語るべきものなのだが、面白いからついつい語り手の声が大きくなってしまう。これもYA論文に当てはまるようで、上記の拙稿は多くの人に読んでいただけたようである。こういうのを「他人のふんどしで相撲を取る」というのであろう。

〇それが物書きとして、不肖かんべえの戦略なんですわ、というのがこの小文の「落ち」になる。読まれたか。


<7月14日>(火)

〇今朝の「くにまるジャパン極」で、「今週中にも17歳タイトル奪取成立!」ということで、藤井聡太七段の話をしたのでありますが・・・。

〇本日は札幌で行われている王位戦第2局の2日目。第1局があまりにも展開が早かったことことの反動か、本局はゆったりめの進行である。封じ手の時点ではほとんど互角。ちゃんと2日目も昼食があり、おやつも出て、夕方になって棋譜をチェックすると、あまりにも木村王位が良くなっているので驚いた。藤井七段としては、滅多に見かけないような不出来な一戦だったのであります。

〇ところが木村王位の寄せが少々中途半端であったか。詰めろで迫るのか、安全勝ちを目指すのか。ハッと気が付いたら後手の藤井七段が△5三香車と打って、そこで木村王位が焦ってしまったようだ。1分将棋で秒読みに追われたせいもあるだろう。▲4二歩が明らかな悪手であった。が、秒読みの最中で間違うのは棋士の習いである。問題は、秒読みでも全く間違えてくれない高校生プロ棋士がいることである。

〇かくして大逆転勝利となって挑戦者・藤井七段が2勝ゼロ敗である。おそらく今宵は札幌に泊まるのであろうが、明日は移動日で、明後日は大阪で棋聖戦第4局である。愛知県瀬戸市の自宅に立ち寄る時間が果たしてあるのかどうか。木村王位は、この勝負を落とすようでは先が思いやられる。せめてゼロ負けは避けてほしいが。

〇お次は棋聖戦。第4戦では先手番となる渡辺三冠、五番勝負で1勝2敗のカド番が続くので、思い切り指してくるだろう。そこは勝負師の渡辺明なのである。今週は王座戦準決勝で、年下の豊島名人・竜王を破ってご機嫌な気分のはず。爪を研いで待ち受けていることでしょう。

〇それにしても藤井七段、毎日のように対局や移動日があり、まさに将棋漬けの日々。「将棋のことだけ考えていればいい」のは、彼にとって幸せなことなのではないかと思います。今週末、7月19日が18歳の誕生日。将棋の対局が面白くて仕方がない日々が続きます。


<7月15日>(水)

〇新幹線に乗るのは3カ月ぶりである。地方都市で行う講演会は約半年ぶりである。主催者はジェトロ仙台さんと宮城県。こんな微妙なタイミングで、よくまあ実施してくださったものと、講師としては感謝に堪えません。聴衆を減らし、入り口で体温チェックをして、壇上にはアクリル板を立てて、といった工夫もこらし、いやもう、頭が下がります。

〇世間的にはGO TOキャンペーンが絶賛大不評で、「東京の人はなるべく来ないでください」と言われかねない状況。とはいえ、本来8月1日からの予定が来週後半からに前倒しになった理由もよくわかる。だって皆さん、ホントだったら来週末からは東京五輪が行われていたはずなのです。日本国内のホテルはどこも満室で、世の中はお祭り気分になっているはずであった。ところが「レジャー&ホスピタリティ業界」は、今や悲惨な状況になっている。

〇さらに言いますと、この国の中の富裕層と言われる人たちは、本来、東京五輪期間中にいろんな予定を入れていた。外国のお客さんを招いて競技を見に行きましょう、一緒に京都に行きましょう、みたいなことを考えていたのであります。その予定は全部吹っ飛んだ。だから7月下旬から8月上旬は予定がありません。彼らは暇なんです。その人たちにおカネを使ってもらいたい。観光業界のその気持ち、痛いほどわかります。

〇こんな講演会の様子を、今日の夕方に地元メディアが放送してくれたそうです。

●東北経済再生には観光業回復

〇実際の東北地方は、感染者数が少なかったことがかえって重荷になっているようにみえる。特に「感染者ゼロ」の岩手県が抱える重圧は大変なものでしょう。今年の夏、岩手県出身の若者は郷里に帰れない、なんてことが言われている。そんなこといっても、大谷翔平君が帰れなかったら気の毒じゃないですか。でも、感染者が悪いわけではないのであります。

〇本来であれば、ちゃんと一泊して地元の方とお話しし、地元の日本酒もいただくべきところを、時節柄日帰りでそそくさと引き上げて参りました。われながらビミョーな時にビミョーなことをお話ししてきたなと思います。いや、それにしても聴衆の視線を気にしながらお話しするというリアルの講演会の緊張感を思い出しました。

〇そういえば上野駅のキオスクでは、普通のマスクを普通の値段(5枚で300円台)で売っていました。そういう面では、「平常への回帰」が始まっているのでありますが。


<7月16日>(木)

〇最近の仕事のご紹介です。マネースクエアさんで「米大統領選挙から地政学リスクまで」を語っております。


【プレミアムView】Part1:米大統領選 バイデン勝利か?
https://m2tv.m2j.co.jp/marketview/20200715.html 

【プレミアムView】Part2:米大統領選 マーケット展望
https://m2tv.m2j.co.jp/marketview/20200715-2.html 


<7月17日>(金)

〇えー、ご案内の通り昨日、藤井聡太新棋聖が誕生いたしました。これがどんなすごいことであるかは、皆さんよくご存じのことと思います。それでは以下のことはどうでしょうか。間もなく18歳の誕生日を迎える愛知県・瀬戸市在住の高校生が、この1か月をどんな風に過ごしてきたかであります。


*6月13日(土) 阿部健治郎七段→勝利〇(王位戦挑戦者決定リーグ) 於:東京

*6月20日(土) 杉本昌隆八段(師匠)→勝利〇(竜王戦3組、決勝) 於:大阪

*6月23日(火) 永瀬拓矢二冠→勝利〇(王位戦挑戦者決定リーグ) 於:東京

*6月25日(木) 佐々木勇気七段→勝利〇(順位戦B級2組) 於:東京

*6月28日(日) 渡辺明三冠→勝利〇(ヒューリック杯棋聖戦 第2局) 於:東京

*7月1〜2日(水〜木) 木村一基王位→勝利〇(王位戦第1局) 於:豊橋

*7月6日(月) 橋本崇戴八段→勝利〇(順位戦B級2組) 於:東京

*7月9日(木) 渡辺明三冠→敗北●(ヒューリック杯棋聖戦 第3局) 於:東京

*7月13〜14日(月〜火) 木村一基王位→勝利〇(王位戦第2局) 於:札幌

*7月16日(木) 渡辺明三冠→勝利〇(ヒューリック杯棋聖戦 第4局) 於:大阪


〇将棋の対局は朝9時か10時に始まって、どうかすると夜遅くに終わります。昼御飯も晩御飯も、指しかけの将棋を考えながら食べることになります。しかも会場は東京か大阪で、タイトル戦になると全国各地を転戦します。

〇藤井青年は、なんとこの1か月に10局も指して9勝1敗。しかも2日制対局の王位戦が2回入っていて、その前後には移動日も生じる。例えば今週は、藤井青年は日曜日に札幌に入り、月曜と火曜日は朝から晩まで王位戦を戦い、水曜日はそのまま大阪に直行して、木曜日に棋聖戦を戦っている。とてもじゃないが、地元の高校に通っている暇はない。

〇金曜日の今日はお祝いや取材が殺到するはずだが、明日18日は東京で、JT日本シリーズ戦で菅井竜也八段との対局がある。AbemaTVでの中継もちゃんとありますぞ。しかるにご当人は、将棋のことだけ考えていればいい、という日常が楽しくてしょうがない様子。そして明後日19日は、藤井棋聖18歳の誕生日となります。

〇今はこうやって「藤井棋聖」と呼んでますが、この後、非常に高い確率で王位戦も勝つでしょうから、そのときには「藤井二冠(棋聖・王位)」と呼ぶことになります。4勝ゼロ敗なら8月19-20日の福岡で、4勝1敗なら8月31日―9月1日の徳島で決まります。木村王位が2勝できれば、9月14-15日まで粘ることができまして、神奈川県秦野市の「元湯 陣屋」にたどり着くことができます。

陣屋旅館と言えば、将棋界にとっては数々の名勝負を生んだ旅館として名高い。「陣屋事件」とは第1回王将戦において、ときの升田幸三八段が木村義雄名人に挑戦した際に起きたハプニングである。木村一基王位としては、せめて2勝して陣屋までたどり着きたいところ。「陣屋のキムラを見てみたい」と願う将棋ファンは少なくないだろう。


<7月18日>(土)

○土日になれば競馬があるさ、と思っていたけれども、夏競馬の季節になり、しかも長梅雨が続いているとなると、馬場は荒れるし、いくら無観客でもやっぱり当たりませんな。

○今宵は富山市で蟄居閉門の状態であった上海馬券王先生の喪が明けて、久しぶりに柏市の焼肉「くらちゃん」で痛飲。というよりも肉食三昧。馬券王先生はちゃんと浮いていたようですが、当方はダメでしたなあ。

○ともあれ、朋あり遠方より来りて、楽しいんだけれども、サヨナラだけが人生さ。どうぞご無事でタイに戻られますように。それから飛行機登場間際のPCR検査が陽性になりませぬように。

○それにしても本当は「感染者数」<「PCR検査陽性者数」なんで、昨今の東京近辺はちょっと騒ぎ過ぎなんじゃないだろうか。実際に死者数や重賞者数はあんまり増えてない。Covid-19は、やや毒性が弱まったような気がするのはワシだけだろうか?


<7月20日>(月)

○今日は6月分の貿易統計が公表されました。先月に引き続いてヒジョーに悪いです。でも季節調整値を見ると、5月がボトムで少し改善しているので、最悪期は過ぎたと見ていいのかもしれません。明後日公表の7月月例経済報告がどんな評価を下すのか、気になるところです。

○特にアメリカ向けの輸出が思いきり落ち込んでいる。わが国の輸出というのは、だいたいアメリカ向けと中国向けが、月ベースで1..2〜1.3兆円くらいで拮抗しているものなのですが、6月のそれはアメリカ向けが7000億円台、中国向けが1.2兆円と大差となっています。つくづく日本の輸出は景気のバロメーター。アメリカ向けが単月でこんなに悪いのは、おそらくリーマンショックの時以来でしょう。逆に中国は平常並みの水準に戻っていて、一足早くコロナ不況から脱しつつあることが見て取れます。

○特に問題なのが自動車の輸出です。自動車と自動車部品の6月輸出は、前年同期比でざっくり半減しています。そりゃあそうだよなあ。全世界的にこの状態では、クルマを買うどころではないだろうし。そして日本経済は、なんだかんだでクルマが生命線なのである。それは1980年代からずっと続いていることで、「ポスト自動車産業は何だろう?」と考慮しつつも、結局、答えが見つからないまま、という現実がある。

○他方で、「テスラの時価総額がトヨタ自動車を超えた」というのも変な話であります。いくらアフターコロナの時代だからと言って、塗装がまともにできない会社の株価がそんなに高いというのはいかがなものか。こういうのは、得てして後から考えて「株価が異常な水準であった」ことの象徴となることがあるものです。日産自動車の新型クロスオーバーEV「アリア」がわりといい、という話がありますから、くれぐれもお馬鹿な話に踊らされてはなりませぬ。


<7月21日>(火)

○あらためて大変なことだなあ、と思う。本当であれば、今週末から東京五輪が始まるはずであった。世が世なら、今頃は「開会式はどんな趣向なのだろう」「日本人初のメダルは誰だろう?」と世間の関心はそれ一色になっているはずであった。そのために、祝日も移動させてわざわざ4連休にしたのであった。

○日本国内のホテルは、外国人観光客が満員盛況で、どこも予約で一杯であるはずであった。とても人手が足りないからと言って、地域の夏祭りや花火大会などがいくつも中止になったくらいである。ところがそれだけでは済まなくて、スポーツ興業など、ありとあらゆるイベントが縮小となっている。おそらく観光業の売上高は、前年比で100分の1位くらいに縮小していることだろう。

○しみじみ大変な時代を生きているのである。ところが旅館・ホテル業から外食産業、アスリート、アーチスト系やそれらを支える人たちに至るまで、「遊民産業」に携わる人たちの苦労というものは、それ以外に人たちにはなかなか伝わらない。まして「接待を伴う夜の街関連」ともなると、ますます理解不能だったりもする。

○さて、1年後に東京五輪は本当に開催できるのだろうか。かんべえが知る某先輩は、開会式チケット(30万円)を2枚持っているそうだが、これを換金したものか、それとも1年後まで持ち続けるべきかで悩んでいるそうだ。さて、あなたならどうします?


<7月22日>(水)

○本日、さる機会があって突然に思い出したこと。「アメリカで民主党政権が戻ってくると、核セキュリティにうるさくなる」の法則。

○2018年に日米原子力協定の更新という問題があった。これは日本の「原子力ムラ」的には大問題であって、果たしてどうなるのかと心配していたものの、案ずるより産むがやすし、自動延長となった。それというのも、たまたまトランプ政権下であって、アメリカが共和党であったからである。日米原子力協定はその30年前、レーガン政権下の1988年に成立したもので、これは日本に対してきわめて寛大な内容であった。その前のカーター政権では、「核不拡散」が重大テーマであって、「日本が六ヶ所村に蓄えているプルトニウムは何に使うのか!」という厳しい視線が合った。

○もし今年11月の選挙でバイデン当選ということになると、石炭火力の問題もさることながら、向こう何年間か、原子力でも日本はギリギリと締め上げられることになるのではないか。とにかくプルトニウムを消化せよ!と言われると、ハイハイ、わが国はプルサーマルの原子力発電所がございまして・・・・と応えるしかない。ところがプルサーマル発電には超えるべき山がいくつもある。これはなかなかにユーウツなことなのではないか。

○YA論文は外交という見地から、「日本にとってはアメリカは共和党政権の方がいい!」ということを指摘した。実は環境・エネルギー政策においても、日本にとっては共和党政権の方がありがたいのですね。うーん、久しぶりにこのことを思い出してしまった。2010年にオバマ政権が誕生した時に、いきなり「核セキュリティサミット」というものが始まって、それがトランプ政権になったらなし崩し的にどこかへ行ってしまった。こういうことが来年以降はぶり返すことになるかもしれませぬ。

○とはいうものの、所詮、われわれにアメリカの次期政権を選ぶ権利はないのでありまして、小さな声で「分かってくださいよ〜」と愚痴るくらいしかない。いや、しみじみバイデン政権になったら、日本はいろんな苦労をするでしょう。まあ、仕方がないから、アヒルの水かきで準備するしかないのでありますが。


<7月23日>(木)

○さてもさても、冴えない4連休である。

○とりあえず今日は東洋経済オンラインの原稿書き、明日はBS11「インサイドOUT」出演の仕事があり、明後日はウェブ飲み会があり、最終日はもう競馬をするしかない。新潟競馬場で行われるアイビスサマーダッシュは当たったことがない。来週のレパードステークスなら、昨年は10万馬券を当てていささか興奮したのであるが。

○この連休が始まる前日、上海馬券王先生は無事にタイへ戻られました。もっともその先は、ホテルに缶詰めの「自己隔離期間」が2週間続くとのことなので、つくづくお疲れ様である。こちらは4連休どころではない。

○つくづく思うのだが、日本政府はグリーンチャンネルとラジオ日経を、ちゃんと国際放送すべきではないだろうか。そうすれば、JRAに海外マネーが流入することも、いくばくか期待できると思うのだが。


<7月24日>(金)

○たまたま今宵のBS11「インサイドOUT」の番組中で登場したので、ついつい懐かしく思い起こされたのが植村直己氏のことである。登山家で、冒険家で、国民栄誉賞も貰って、最後は冒険の途中で亡くなった人だ。享年は43歳であった。

○日本人初のエベレスト登頂を成し遂げ、世界初の5大陸最高峰登頂者となった。犬ぞり単独行でグリーンランドを横断して北極点に到達した。南極大陸横断を夢見たが、それは政治的理由もあって果たせなかった。最後にアラスカのマッキンリー山冬季単独登頂を目指して、世界初の偉業を成し遂げた後に帰らぬ人となった。遺体は今も見つかっていない。

○帰ってこない冒険家の妻は、記者会見でこんなことを言った。「常に『冒険とは生きて帰ること』って偉そうに言ってましたので、ちょっとだらしがないじゃないの、って(言いたいです)」。いや、覚えております。ワシが大学を卒業する年のことでありました。

○かつて、こんなにすごい日本人が居たのである。植村氏は若い頃に明治大学の登山部で腕を磨き、海外を放浪して経験値を稼いだ。今だったら何の苦労もなくできることを、借金して、貨物船に乗って、アルバイトで稼いで、怖い思いをしながら身につけてきた。こんなことは、あの世代を生きたものの特権であろう。

○あらゆる種類の冒険を、誰かが既に果たしてしまっている令和世代の若者は、ひょっとしたら不幸なのかもしれないな、と思った次第である。


<7月25日>(土)

○本日、東洋経済オンラインに掲載された拙稿は下記の通り。


「『トランプ暴露本』で本当に困っている人は誰か」


○この手の暴露本が出るたびに、トランプさんは烈火のごとく怒ってみせるのだが、実は自分のことを気にしてもらえるのが嬉しいのではないかと思う。そこはもう「悪名は無名に勝る」でありますから。

○とはいえ、今回、トランプさんの姪(兄であるフレッド・トランプjr.の娘)から飛び出した"Too Much and Never Enough"は、トランプ一家の業の深さを思い知らされる一冊のようである。著者のメアリー・トランプは臨床心理士である。そういう人が叔父のドナルド・トランプを精神分析している。事ここに至った背景には、長年にわたる親族内の確執、祖父に見捨てられた長男と抜け目のない次男の相克、遺産相続をめぐる私憤など、さまざまな背景がある模様。

○もっとも、大統領選挙まで残り100日、というタイミングでこういう本を出すあたり、このメアリー・トランプさんも「トランプ家の人間」ですな。すなわち、他人に同情することはみずからの弱さの表れであると思っているのでしょう。つくづく億万長者の家に生まれるのも善し悪しでありますな。


<7月26日>(日)

〇ポンペオ国務長官の対中批判演説(7月23日、カリフォルニア州)が評判になっている。一応、リンクを張っておこう。こうしておくと、あとで便利だからね。


●Communist China and the Free World’s Future MICHAEL R. POMPEO, SECRETARY OF STATE

YORBA LINDA, CALIFORNIA THE RICHARD NIXON PRESIDENTIAL LIBRARY AND MUSEUM

JULY 23, 2020


〇この演説はシリーズ物の一部なのである。


My remarks today are the fourth set of remarks in a series of China speeches that I asked @National Security Advisor Robert O’Brien, AFBI Director Chris Wray, and Bthe Attorney General Barr to deliver alongside me.

(中略)

Ambassador O’Brien spoke about @ideology. FBI Director Wray talked about Aespionage. Attorney General Barr spoke about Beconomics. And now my goal today is to put it all together for the American people and detail what the China threat means for our economy, for our liberty, and indeed for the future of free democracies around the world.


〇この3者の中に、なぜムニューシン財務長官やライトハイザーUSTR代表が入っていないのかが興味深いです。さらに言えば、これまで2回にわたって対中非難演説を行ってきたペンス副大統領は、今回はどうなっているのか、というのも気になります。

〇ともあれ、この演説はよく練られたもののようです。場所をニクソン大統領記念図書館にした、という点が尋常ではない。そして今はこういうタイミングでもある。


Next year marks half a century since Dr. Kissinger’s secret mission to China, and the 50th anniversary of President Nixon’s trip isn’t too far away in 2022.


〇中国との国交を正常化したのは、ニクソン大統領のレガシーである。ポンペオの演説は、それを半世紀後に否定しかねない内容をはらんでいる。最後の部分のラッシュは強烈である。


Today the danger is clear.

And today the awakening is happening.

Today the free world must respond.

We can never go back to the past.

May God bless each of you.

May God bless the Chinese people.

And may God bless the people of the United States of America.

Thank you all.

(Applause.)


〇この演説に対し、中国は反発するだろうが、そんなことは実はどうでもいいのである。問題はアメリカ国内の民主党支持者がどう反応するのか、である。「ワシントンの政策コミュニティは、既に対中強硬政策がコンセンサスになっている」というのは広く言われているところで、多分そんなに間違ってはいない。

〇ただし民主党支持者がどう反応するかは別問題で、彼らはトランプ政権がやっていることは全て間違っていると考える。その点で、トランプ政権の対中批判は安全保障問題やイデオロギーに傾斜していて、油断がならないと感じるかもしれない。もう少し人権などの理念の問題を高く掲げた方がいいのであるが、そこはまあ、お互いに世界観が違っている。

〇ポンペオ氏自身も、「トランプ後」に思いを馳せているはずである。対中政策は、こんな風にいろんな政治的な味付けを受けてしまうので、実行が難しくなってしまう。日本から見ていると、そこが歯がゆいということになる。


<7月28日>(火)

〇先日、「保健所というのは各都道府県の管轄だから、厚生労働大臣の指揮命令系統にないんだよねえ」という話を聴いて、目が点になってしまった不肖かんべえである。この国には、なんと不思議なことがあるのだろうか。なんでそんなことになっているのだろう??

〇どうやらこういうことらしい。この国の感染症対策の体系は、コレラなどの急性感染症対策としての「旧伝染病予防法」(明治30年)、結核対策としての「旧結核予防法」(大正8年→昭和21年に「新結核予防法」)、「保健所法」(昭和12年→昭和22年改正)という経路をたどって作られてきた。保健所が中心になって感染者を入院隔離して、蔓延を防止するという対応を基本としてきた。かつては、それでよかったのである。

〇しかしこの体制は、飛行機や新幹線を使って人が県境を超えて派手に移動するとか、海外から年間3000万人以上も外国人が来るとか、感染力が極めて強く、無症状者からも感染するCovid-19のような感染症が広がることを前提としていない。都道府県を横断して感染症が全国に蔓延する、というのは想定の範囲外であり、全国規模の明確な指揮命令系統も存在しないのでありました。

〇国と、都道府県と、市町村が、お互いに対立したり譲り合ったりしているように見えるのは、要するにそういうことであったのか。普通に考えたら、「国の権限を強化して、私権の制限も伴う損失補償の制度を作るべきではないのか」と思うのであるが、まあ、それがどんなに大変なことであるかは容易に想像がつく。たくさん法改正しなきゃいけない。でも、とりあえず今は国会が開いてないし。臨時国会を召集したら、いきなり解散という噂もあるし。

〇さらに言えば、これまで「独立王国」であった全国の保健所が、ある日突然「政府の言うことを聴け!」と言われて、素直に従うとも思われない。そもそも医者は医者の言うことしか聞かないものだし、医者の代わりはこの国に居ないのだから、だったら医者が機嫌よく働いてくれることを期待するしかないのである。

〇ところがそれでは、PCR検査が増えない、という悪名高い問題が解決しない。PCRなどの検査は、「感染症法15条に基づいて保健所などの行政機関が行う」という法的位置づけにあって、医療機関が勝手にやってはいけないのだそうだ。そうもいっていられないので、「木に竹を接ぐ」ようにして新たな対象者(ex:新宿のホストクラブの関係者)を増やしているのが現状であるらしい。うーむ。

〇さらに肌に粟を有するのが「2000個問題」である。全国レベルでは個人情報保護法でも、全国約2000の地方自治体はそれぞれ別個に情報開示のルールを持っている。感染症データを統一しようとすると、途方もない手間暇がかかるとのこと。なるほど、FAXを使っているというだけではないのである。だいたい「今日の東京都の感染者数は・・・」という情報開示が、その日によって午前だったり夕方だったりするのは、おかしいとは思いませんか?

〇とりあえずこの国における感染症対策は、明治以来の地方分権の伝統があったのだ、というのが発見でありました。うーむ、これでは小林慶一郎先生が頑張ってもPCR検査は増えそうにない・・・。


<7月29日>(水)

〇昨日、あんなことを書いたら、某自治体勤務の当サイト愛読者から、「保健所って、大変重要な行政機関であるにもかかわらず、ビジネスパーソンからは見えにくい存在なのですね」とのご感想をいただきました。以下、保健所とはどういうものか、あらためて教えていただきました。いや〜、知らないことばかりでありました。


●保健所は多くの法律に基づいて業務を行っている。

*食品衛生法 (食品検査や偽装の摘発など)

*医師法、薬事法 (医療関係免許申請の受付窓口ですし、医療機関への立ち入り検査もします) 

*母子保健法 (母子手帳の交付、乳幼児健診など)

*難病法

*精神保健福祉法

*狂犬病予防法 (殺処分も含む)

*理容師法、美容師法、旅館業法等 (美容院、理髪店、クリーニング店、旅館、映画館・劇場、公衆浴場などの営業許可および監視指導など)

*感染症予防法 (新型コロナ対策を含む)


――そういえば保健所の抜き打ち検査は、全国のフグ料理屋や個室付き浴場にとって恐怖の対象なのでありました。


●「保健師さん」は国家資格の中でも格が高い。


――平時に上記のような多種多様な仕事をこなしつつ、なおかつ危機対応もできる人たちなのだそうです。台風などの自然災害のときには、最初に消防隊が現地に派遣され、次が給水車と保健師さんの出番なのだとか。


●国直轄の組織(例えば国税庁)とは違って、厚労大臣が保健所に指揮命令することはできない。


――コロナ対策の指示も、「技術的助言」でしかなかった。したがって、全国的、国際的な事案にはうまく対処できないし、PDCAサイクルが働きにくいという弱点もある。「保健所ごとに言うことが違う」「所長が変わると方針も変わる」などといった批判もある。他方、今回のようなコロナ騒動で現場がパンクしそうなときは、自治体が応援に入る、といった柔軟な対応も可能である。(自治体の能力によって、全国で格差ができるという問題もある)。


●常に行革の対象とされがちである。

――装備が「手書きでファックス」という竹槍体制だったりもする。とはいえ、地道な「クラスター対策」で春先のコロナを抑え込んだのは、彼らの「現場力」のお陰でありましょう。むしろ国からの指示は、自治体から見てときにピンボケで、さらなる混乱要因になることもあったとのこと。まあ、「アベノマスク」や「GoToキャンペーン」の一部始終を考えれば、いかにもありそうな話です。


〇それはそれとして、これからのCovid-19にどうやって対応していけばいいのか。「短期決戦」で済むのなら、今まで通りでよいのでしょうが、どうやら事態は長期化しつつある。「有事に関しては国に指揮権を持たせる」ような制度設計が必要なのでしょうが、それはたぶん「泥棒を見てから縄をなう」行為に近い。

〇ともあれ、「これから先は国の出番だ!」と言われたら、その方がよっぽど怖いのかもしれません。読者からの貴重な情報提供に深謝申し上げます。


<7月30〜31日>(木〜金)

〇都内の感染者数が史上最高を更新する中、ちょっと後ろめたい思いをしながら、富山市に出張してきました。

〇「県庁さんの仕事で来ています」といえば、たぶんほとんどの人は許してくれると思うのだが、それでもこのご時勢、首都圏からの訪問者が嫌われるのは当たり前である。とりあえず北陸新幹線はガラガラでありました。こちらとしても、万が一にも「アイツのせいで感染者が出た」と故郷で言われては困るので、なるべく人に会わずに帰るという方針である。

〇それはそれとして、県内の中小企業経営者の集まりで一席ぶって意見交換する、というのはありがたい企画である。これでもいろんな「地方」を訪ね歩いている方だと思うのだが、ひいき目を抜きにして、富山県ほどユニークな中小企業(特に製造業)があって、面白いオーナー社長が居るところは珍しい。しかも「コロナ禍」という試練におかれた彼らが、いま何を考えているかというのはまことに興味深い。

〇これはまったくの印象論でしかないのだが、約半年にわたるコロナ禍は各企業にとって、「我慢」のステージをとっくに越えていて、そろそろ「受容」の段階にきているのではないのかな、と感じた。「受容」というのは、英語でいえば"Acceptance"で、いわば経営者が「腹をくくった」状態である。

〇死の五段階というものがある。人が「アナタはもうじき死にます」と言われた場合、おおよそ次のような心理的な段階を経るのだそうだ。


@拒絶(Denaial)→俺が死ぬだなんて?そんなのウソに決まっている。あの医者はヤブだ。そうだ、そうに違いない!

A怒り(Anger)→なんで俺が死ななきゃいけないんだ。アイツらはなんで死ななくていいんだ。許せねえ!

B取引(Bargaining)→ああ、神様、私の財産は全てなげうって、これからは真面目に生きていきますから、お助けください!

C落ち込み(Depression)→といっても、誰も応えてくれる人は居ない。この世には神も仏もないのか・・・むなしい・・・・。

D受容(Acceptance)→虚心坦懐の境地。自分を客観視できるようになり、心に平穏が訪れる。


〇幸いなことに、かんべえは上記のような精神状態に陥ったことはない。が、いずれそういう時が来るだろう。他人事じゃないですよ。これを読んでいるあなたも、いつそうなるかはわかったものじゃない。お気の毒だが、人間はすべて死ぬのである。これは、例外のない法則なのである。

〇ところが人とは違って、企業はその気になれば何百年でも生き残ることができる。そのためには、「変身」を繰り返せばいいのである。問題はどう変わったらいいかであって、それに関する「正解」などというものは存在しない。ただし、それほど難しいことでもない。この国には長寿企業が山ほどあって、100年以上が2万社、200年以上が1200社、300年以上が400社と言われる。しかもそのほとんどは、地方に存在するのですから。

〇とりあえず、「これからはDX(デジタル・フォーメーション)の時代です」などと説法しながら、語る内容が「会社でやっていることを自宅でやってもらい、その分、オフィス賃料を浮かせる」みたいなことを考えている経営コンサルタントは、今すぐにクビにすべきであります。企業にとって、変化とは常に「暗闇への跳躍」である。自分の着地点が見えているようなジャンプは、無意味であると考えた方がいい。

〇冠婚葬祭関連の需要が一切合切消えてしまったカマボコ屋の社長さんから、5G関連で中国向け需要が潤っている金属加工業さん、6代目老舗の鱒寿司屋さんまで、いろんな方のお話を伺いました。言葉の端々には「覚悟」があったと思います。そして危機の時こそ、経営者は光り輝くものなのであります。

〇ところで朝乃山は、今日は負けてしまったのですね。これで2敗となり、優勝争いからは一歩後退となりました。しかしながら、大関になってからの表情にはどこか「アクセプタンス」があるような気がするので、最後の2日間も応援いたしましょう。頑張れ!朝乃山!













編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki