●かんべえの不規則発言



2021年5月







<5月1日>(土)

〇本日のBSテレ東『ニュースの疑問』でご一緒した前嶋和弘教授(上智大学)とは、アメリカ政治研究が取り持つご縁で、かれこれ20年近いお付き合いである。最近もZoom勉強会などではよくご一緒するのだが、リアルでお会いするのは久しぶりであった。テレビでご一緒するのは初めてである。

〇その前嶋先生が解説している本が、昨日くらいから書店に並んでいるとのこと。バイデン大統領の評伝である。これはさっそくポチしなければ。


●バイデンの光と影(エヴァン・オスノス)扶桑社


〇ところでバイデン政権といえば、「ミドルクラスのための外交」を売り物としていて、これについてはさまざまな議論がある。きちんと勉強しなければと思っていたら、これまたど古い(たぶん30年近い)お付き合いの神谷万丈教授(防衛大学)がこんな論文を書いていることを教わった。


●中産階級のための外交をめぐって


〇ワシはまことに不勉強な人間であるけれども、こういう「お仲間」がいるから「知ったかぶり」ができる。まことにありがたいことである。いやほんと、このお仲間の数だけはワシは自慢できるのである。


<5月3日>(月)

〇仕事場(自宅の近くにある1Kのアパート)に本があふれて、床の上に散乱している状態が長らく続いていた。これは4つ目の書棚を買うべきであろうかと思案していたのだが、最近になってハタとみずからの不明に気が付いたのである。

〇まずは過去に寄稿した雑誌の類は処分すべきである。いや、昔は中央公論などに拙稿が載るとうれしくて、現物を大事に取っておいたものなのだ。しかるに拙稿のコピーは一応ファイルしてあるのだから、こんな場所ふさぎのものは捨ててもよいのではないか。だってもう見ないし。

〇考えてみれば、今では自分の寄稿も電子媒体が中心となりつつある。今や雑誌の時代ではなくなっていて、昔は文芸春秋に書けば全国にリーチできたのだが、今は文春砲からSNSが王道となっている。思えば自分は雑誌の黄金時代を体験していて、雑誌の編集者(会社の広報誌)もやったし、書き手としては多くの編集者にお世話になってきた。今は彼らが電子媒体の編集をやっているわけだが、そのうち「電子媒体しか知らない世代」が編集者になる時代が来るのだろう。ちょっと怖い気がするぞ。

〇さらに本もどんどん片付けるべきである。昔読んだ懐かしい本などは残しておきたいが、献本などで頂戴して読んでないものや、買ってはみたものの見栄で積んである本はこの際、手放すべきである。だいたい今の時点で既に「あの本は今どこにあるのか?」がわからなくなっておる。取り出せない本を蓄えておいても意味があるまい。そもそも万事データ化のこの時代、書斎などというものに変な幻想を持つべきではないのである。

〇ということで、本日段ボール箱3つぶんの本をブックオフに持ち込んできました。トータル3,605円也。あそこの買取と言うのは、ちゃんと本ごとに値段が決まっているのですな。一番高く売れたのは『好き嫌いー行動科学最大の謎』『ヒューマンネットワーク 人づきあいの経済学』『マインドハッキング:あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』で、いずれも300円でした。なるほど、この辺はちゃんと売れるのだろう。

〇逆に10円以下の評価を受けた単行本が46点あって、この合計が235円である。まあ、古い本が多かったので、そういう評価になるのであろう。ヤフオクなどで丁寧に売れば違うのかもしれんが、そこまで手間をかけるつもりはないのである。それにしても、このブックオフの買取価格データは、全容を見てみたいものである。これこそデータの時代でありますな。

〇ちなみにブックオフのリストにない本(海外の本など)は値段がつかないので、「お持ち帰りになりますか?」と聞かれる。もちろん答えはノーとなるので、ヒラリー・クリントンの本などはそのまま廃棄されることとなりました。ヒラリーさん、ごめんなさい。でも、もういいよね。

〇などと、単行本はえいやっと捨てることができるのだが、難しいのは新書や文庫本である。特に中公新書はいっぱいあって、捨てられないものばかりである。ちくま新書がこれに次ぐ。棚の幅と相談しながら「あと5冊減らせれば・・・」などと考えるのだが、なかなか難しい。逆に捨てやすいのは日経プレミアシリーズで、経済に関する本は古くなるのが早いようである。

〇カラになった段ボール箱を持ち帰り、過去の出張記録やら過去に単行本を書くのに使った資料などをぶち込んで、部屋はかなりサッパリした。と言いつつ、先日ポチした『バイデンの光と影』が届いて、読み始めているのだから世話はない。せめて今後は、マンガはなるべく電子書籍で買うことにしよう。


<5月4日>(水)

〇人間の記憶とはつくづく不思議なものである。

〇部屋の整理をしているうちに、昔の写真が大量に出てきた。今どき珍しい紙焼きの写真なので、時代的には80年代から90年代のものがほとんどである。ところが見た瞬間に、「これはいついつ、どういうときの写真だったか」が分かってしまうのである。今は音信不通になっている人も含めて、これらを一緒に見て「うわー、恥ずかしい!」などと盛り上げれる仲間が相当数いるはずである。。

〇仮に、「20年前にニュージーランドに出張した際に、どこへ行って誰に会ったか」と問われれば、きっと答えられないはずなのに、1枚の写真を見るとこと細かなことまで思い出せてしまう。忘れていたはずの人の名前もちゃんと思い出せる。つくづく1枚の写真の力は偉大である。

〇これが21世紀にはいると、だんだん写真はデジタルでPCの中に残しておいたり、フェイスブックで知り合い同士で見せあうものになっていく。が、いざというときに取り出せるか、ちゃんと記憶がつながるかというとそこはよくわからない。デジタルの時代はそれほど長くはないからである。

〇もうひとつ、これ面白いよ、と教えられて覗いてみたのがこのサイト。日本記者クラブの会見リポートの記録であり、1990年に行われた大山康晴十五世名人の会見音声を聞くことができる。議事録も残っていて、流し読みするにはそれでも十分なのですが、「内藤九段の悪口」とか「昔の賭け将棋のノウハウ」みたいなヤバめの話はカットされております。ゆえにみっちり1時間17分かけて聞いてみる値打ちがあります。

〇で、この録音を聴いているうちに、小学校6年生くらいの時に富山県民会館に大山さんの講演会を聞きに行ったことを思い出した。連れて行ってくれた親父が講演の途中、ずっと居眠りをしていて、最後に「何かご質問を」と言われて真っ先に手を挙げたことまで覚えている。

〇大山さんが講演の中で、「将棋が強くなるためには、道具にこだわった方がいい」と言ったので、その直後に父は高価な将棋の駒を買ってくれたのであった。ああ、懐かしい。さて、あの駒は今はどこにあるのだろう?


<5月5日>(水)

〇先週、さる会合のリモート会議にて、「いくら日本人が大人しいからと言って、こんなに我慢生活を強制していると、連休の終わりごろには暴動みたいなことが起きるんじゃないだろうか」てなことがボソボソと語られておりました。

〇蓋を開けて、連休も終いに近付いてみると、もちろん暴動なんてことにはならないのだけれども、人々は結構、いろんなところへ出かけているようである。要は政府には逆らわないが、言うことも聞かない。つまり「我慢をしない」という形で不満を発散しているようです。

〇政府や自治体も、それらの片棒を担いでいるマスメディアも、最初から出来るはずのないことをお願いするから罪が重いのである。彼らもそこまで馬鹿ではないので、さすがに連休後半になると静かになってきた。そりゃそうだよね。できっこない約束は、最初から守らなくていいのである。

〇それ民は賢にして愚、愚にして賢。そして感染者数はじりじりと低下しているようで、これで効果があるのならそれがいちばんよろしい。国際的に見れば、日本の感染度合いはまだまだ軽いのである。きっとIOCのバッハ会長は、「日本でオリンピックが開けないはずがない」と思っているはずですぞ。絶望は愚か者の結論也。


<5月6日>(木)

〇アメリカではジェフ・ベゾス夫妻に続いて、ビル・ゲイツ夫妻も離婚なのだそうです。おそらくアメリカでは婚姻世帯の財産の平均値が下落して、独身世帯の財産の平均値が急上昇するのではないだろうか。この手の統計を見るときは、つくづく平均値ではなく、メジアン(中央値)を見るべきなのであります。

〇他方、「彼らは財産があるのに離婚する」のではなくて、「彼らは財産があるからこそ離婚する」のでありましょう。資産1億円以下の世帯の場合は、離婚してもメリットはあまりない。むしろ年金が減るくらいでしょう。ところが資産100億円以上の世帯の場合、おそらくその方がメリットが大きい。アメリカでも離婚の慰謝料は非課税でありましょうから、どちらかが死ぬのを待っているよりもその方がおトクである。まして今は人生100年時代。高齢者と言えども「今のうちに・・・」の誘惑に駆られるのではないか。

〇ましてベゾス夫妻とゲイツ夫妻は兆円単位なのであります。そりゃあもう想像を絶した世界でありましょう。我ら持たざる者は幸いなるかな。


<5月7日>(金)

〇ワクチン開発についてはよくわからないことが多いのだが、トランプ政権が実施した「オペレーション・ワープスピード」は、スゴイ成功だったんじゃないだろうか。予算規模はCARES法のごく一部、100億ドルなのでそれほど大きな金額というわけではない(日本円にすると1兆円以上だが)。

〇なおかつ、自己資金に余裕があるファイザーは公的資金を受け取らなかった。逆にモデルナやジョンソンエンドジョンソン、アストラゼネカは受け取っている。これら4社が、すべて違う手法で、1年以内でワクチンを作ってしまった。今のところ大きな薬害も起きていないようだ。すごいことではないだろうか。

〇この計画は、いわゆる「PPP」(官民パートナーシップ)である。政府の公的資金が重要なのではなく、民間企業の交通整理をするのが大事なのだろう。おそらく医薬各社は「あそこはA案で行くみたいだから、うちはB案で行こうか」式に、いろんな可能性を試したのだろう。各社がA案やB案を別個に追い求めていたら、分の悪い投資になったはずである。

〇で、今になってバイデンさんが、これらの特許を放棄すべきだ、と言い出した。そうすれば途上国にもワクチンがいきわたるから、というのだが、弊害の方が大きそうな気がするな。とりあえずファイザー社は、「嫌だ」と言っていいように思える。

〇この問題について、トランプさんはひとこと言っていいんじゃないだろうか。バイデンさんは「100日以内に2億回ワクチン接種」を実現したけれども、「少しは俺にも感謝しろ」くらいのことは言いそうだなあ。


<5月9日>(日)

〇その後、JDさんが教えてくれました。ワクチンについて、トランプさんはこんなメッセージを発しているそうです。


March 10, 2021

Statement by Donald J. Trump, 45th President of the United States of America

I hope everyone remembers when they're getting the COVID-19 (often referred to as the China Virus) Vaccine, that if I was'nt President, you wouldn't be getting that beautiful "shot" for 5 years, at best, and probably wouldn't be getting it at all. I hope everyone remembers!


〇いやもう、典型的なトランプ節で、こういう物言い自体が懐かしいですね。大げさで、自己愛が強くて、恩着せがましくて、しかもわざわざ「チャイナウイルス」などと言ってしまう。どう見ても、ご本人が書いたとしか思えません。

〇共和党支持者の間ではまだまだ人気が高いようですから、ひょっとすると2024年にまた戻ってくるかもしれませぬ。ときどきはトランプさんの動きを気にしておくべきでしょうね。


<5月10日>(月)

〇緊急事態宣言の延長により、今日はいろんなことが起きている。


*とあるセミナーは中止。

*とある会合は延期で日程調整へ。

*とある会合は急きょ対面からリモートへ。

*とあるリモートセミナーは、講師が来られなくなったとのことで急きょ代打ちを務めることに。


〇いちいち嘆いたり、腹を立てたりするような状況はとっくの昔に越えている。淡々と受け入れるしかないのである。日程表はどんどん変わっていく。

〇それでもこうして仕事があるのはありがたいことである。本日は、出席予定だった会合をリモートに切り替えて在宅勤務とする。約5000字の原稿を脱稿。S社さんの場合はこれから先が長いのであるが、それも含めて多謝あるのみである。


<5月11日>(火)

〇ということで、ウェブフォーサイトに久々の長文を寄稿。


●コロナ後のバイデン政権 「高圧経済」は何をもたらすのか?


〇1980年代に社会人になったワシとしては、人生の大半を「小さな政府」の時代で過ごしてきたことになる。しかし2020年代以降は、どう考えても「大きな政府」の時代となりそうだ。政府の仕事は確実に拡大する。医療、年金、インフラ投資、教育に環境対策、そしてサイバーも含めた国防まで。はてさて、どんな時代になるのだろう。

〇本日はリモート方式の研究会で、お馴染みの面々を相手に思うところを存分に語る。いやもう、公共の電波で語れないような話をするのは快感である。あー、スッキリした。すいません、最近は「不規則発言」もやや自粛モードだったりするものですから。


<5月12日>(水)

〇ご報告申し上げます。上海馬券王先生やJDさん、そして多くの方々からときに暖かく、ときに冷ややかに見られてきた不肖かんべえの「エヴァ狂い」は、とうとうテレビアニメ版の完全制覇に到達いたしました。

〇連休中の5月4日に、アベマTVで1本216円で見られることに気がついて、それから夜ごとに『新世紀エヴァンゲリオン』テレビアニメシリーズを見続けたのであります。20話前後からは2回ずつは見ましたな。もう主題歌は夢に出るくらい聞きました。♪少年よ〜神話にな〜れ〜♪と。

〇そして昨夜はとうとう、「第弐拾伍話 終わる世界」と「最終話 世界の中心でアイを叫んだけもの」に到達したのであります。うむ、我ながら思ったより早かったよな。ほんの1週間の出来事でありました。まあ、このところ暇もありましたので。毎晩、観ながら酒も進むので、この1週間はついつい飲み過ぎました。

〇で、世間的には大変評判の悪い25話と26話なのですが、これだけ続けて一気見すると、ワシ的には「全然OKじゃん」と感じたのでありました。学生時代にアングラ演劇に親しんだ者といたしましては、ああいう独りよがりで思わせぶりなラストには耐性がありますので、こんなの全然普通じゃん、何が問題だったの?という印象です。これを1995〜95年にリアルで見ていたら、擁護論を張ってエヴァファンの中で孤立していたかもしれませんな。

〇その後に作られた旧劇場版(Air /まごころを、君に)は、ワシ的にはあんまり評価しておりません。あんなふうに無理して「人類補完計画」をビジュアル化するくらいなら、むしろ全部を内面描写で描いているテレビアニメの方がスッキリしているのではないか。もっともあのラストをファンに拒絶された庵野秀明監督が、意固地になって劇場版を作った心理も容易に理解できるところで、旧劇場版は敢えてファンに対して喧嘩を売るように作られていると思う。ああ、気持ち悪い。

〇ということで、今宵はとうとう観るものがなくなってしまった。このままでは、何も見ないで酒だけ進むことになってしまいそうだ。とりあえずTaliskerを開けてストレートでグラスに注いでみる。スモーキーなフレーバーがまことに好ましいではないか。

〇いつも思うことですが、どんなに大事なことでも嫌々やっていることは身につかず、どんなにくだらないことでも熱中している時間は無駄ではない。還暦過ぎてのエヴァ狂いは、トータルでまだ6週間もたっていないのですが、得難いものがありました。いや、まだ続いてしまうかもしれないのですが。


<5月13日>(木)

〇このところリモート方式のセミナーの機会が増えておりますが、来月はこんなところにも登場いたします。有料ですが、オンラインでも教室(千葉市)でも参加OKであるとのこと。


●朝日カルチャーセンター 6月12日(土) 13:00〜14:30PM  かんべえ・吉崎達彦の眼〜「コロナバブルの先には?」


〇実を言うとちょっと不安なのである。場所は朝日なんで、ワシ的にはちょっとアウェイ感がある。これで他の先生方よりも圧倒的に参加者が少ないと、さすがに気恥ずかしいではないか。ということで、溜池通信ファンの皆様におかれましては、上記セミナーにご登録いただければまことに幸いであります。よろしくお願い申し上げます。


<5月15日>(土)

〇今週は東洋経済オンラインにこんなことを書きました。


●米国の「ミドルクラスのための外交」って何だろう


〇5月1日にご紹介した神谷万丈論文を下敷きにして、この今日的な現象をかんべえ流に論じてみたものです。書き終えてから感じていることを以下、少々、覚書までに。

〇今のアメリカでは、「ミドルクラスの崩壊」とか「親の代より豊かになれない」といった話をよく聞く。だから「ミドルクラスを再生しないとアメリカ外交もたちゆかない」というのがこの議論なのだと思います。しかしむしろ問題なのは「中流階級」ではなくて、「中流意識」が崩れていることにあるんじゃないのかなあ、と思い当たりました。つまりアメリカ人の意識の中に「センター」がなくなっている。経済学よりも社会学の問題じゃないのかしらん?

〇おそらく経済格差よりも、教育格差の方が根が深いのではないだろうか。教育水準の高い人は都会に集まって高い給与をもらい、いっぱい税金を払う。この人たちは「意識高い系」なので、ジェンダーや人種格差にうるさく、環境問題にも関心が高い。これが国民意識の「レフト」層を形成する。ブルーステーツの民主党支持層ですな。

〇逆に学習への意欲が低い人たちは、低い教育水準のまま、ほぼ生まれた場所で生涯を終えることになる。この人たちは「ライト」層となるなのだが、トランプさんが彼らがぼんやりと感じていたことを、上手に言い表してくれた。君たちの暮らしがよくならないのは、都会にいるエリートたちのせいなんだ、あいつらは腐っている。俺がアイツらをぶっ飛ばしてやるぜ、と。

〇「ライト」層がもっとも嫌うのは、お高くとまった「レフト」連中の傲慢さである。逆に「レフト」層は、トランプ流の粗野で乱暴で時代遅れなところが気に入らない。しかも悩ましいことに、票数や支持率から言えば「レフト」が上回っていても、都市と地方を比べれば後者の方が選挙区は多いので、議席数で行くと「ライト」の方が多かったりする。アメリカの地図を赤と青に塗り分けると、赤の方が圧倒的に大きいのですよ。

〇かくしてレフトはますます左へ向かい、ライトもどんどん右に寄り、センターがガラ空きとなってしまい、これでどうやって外交政策への支持を集めることができるのか。端的に言えば、「台湾有事」みたいなことが起きたとしても、今のアメリカには新しい戦争なんて始められないんじゃないか、ということになるわけです。

〇しみじみ思うのは、アメリカという国は性別や人種、年齢などで差別をしちゃいけないことになっているけれども、教育による差別は「能力主義」と呼ばれて、これは結構なことであるとされている。ちなみに英語のメリットクラシー(Meritocracy) は、「実績主義」とでも訳す方が適切なんじゃないかと思う。で、このメリットクラシーが幅を利かせるようになってくると、教育格差がそのまま経済格差となり、永遠に埋めることができない。しかも引け目を感じながら生きることになる。

〇このメリットクラシーに噛みついてくれたのが「ハーバード熱血教室」のマイケル・サンデル教授であるらしい。すいません、未読なんですが『実力の運のうち 能力主義は正義か?』(The Tyranny of Merit)という本が売れているようですね。とりあえずこのインタビューなどを読むと、以前からワシが言いたかったことがほぼそのまんま書かれている。つまりレフト層がライト層を馬鹿にするから、こんな始末に負えない分裂が生じるのだと。まったく同館である。ということで、これ以上ワシごときがあれこれ言うことではないのである。

〇仮にこれから先、アメリカ経済が未曽有の繁栄期に入って、ミドルクラスの暮らしぶりが劇的によくなったとしても、政治意識の「センター・ガラ空き状態」は続いてしまうかもしれない。それくらい「レフト」と「ライト」がお互いのことを憎み合っているから。アメリカ外交にとって重要なのは、ミドルクラスよりも「センター意識の復活」ではないのかなあ。


<5月16日>(日)

〇バイデン外交に関する思考をもうちょっと進めてみよう。

〇イスラエルがワクチン接種を大胆に進めて、他地域に先駆けてコロナ制圧に成功しかかったら、突如としてパレスチナの紛争が激化した。なんでそういうことになるのか、誰か教えてほしいと思うが、とりあえず2年間で4度目の総選挙を行ったにもかかわらず、組閣ができないでいるネタニヤフ首相にとっては、まさしく「タナぼた」の展開と言っていいだろう。ガザ地区への空爆が被害を拡大すると、今度はハマスが反撃に出る。イスラエルにとってはますます「おいしい」展開となる。この件に対し、アメリカの出方はやや腰が引けているように見える。

〇バイデン政権としては悩ましいところである。あらためてこの政権は、「ミドルクラスのための外交」をやるのだと定義してしまうと、中国に強硬姿勢で臨むことは正当化されよう。アメリカのミドルクラスにとって、強力な競争相手が存在するのだから。アフガニスタンからの撤兵を決めたのも、中間層のために良いことをするのだと胸を張ることができる。

〇しかし、アメリカが中東政策に関与することを正当化することは難しい。そもそも中東外交こそは、「エリートたちが勝手にやっていたこと」ではなかったか。「石油の一滴は血の一滴」と言っていた頃は、まだしもエネルギー安保という大義名分があったが、今や化石燃料は嫌われ者という時代である。「9/11」テロも今年で20年目となり、「テロリストを根絶するため」に中東に関与するというのもだんだん怪しくなってきた。

〇だったらアメリカは中東問題から手を引けるのか。それがやっぱり難しいらしい。最近は海外ニュースと言えば、ワシなどはこればっかり見ているAxiosだが、今みたいなタイミングで見るとほとんど中東問題一色である。それだけアメリカ国内の関心が高いからだが、それでは政府としても放っておくわけにはいかない。実は中東問題はMade in Americaなのではないか。

〇更に悩ましいのは、この問題について共和党は「イスラエル支持」で固まっているが、民主党はそうではないということがある。昔の民主党はイスラエル支持で、それは古株のバイデンさんにとっては慣れ親しんだポジションなんだけれども、今は民主党内にパレスチナ側の支持があるから悩ましい。党内左派、あるいは進歩派と呼ばれる人たちは、この点については声を挙げ始めている。いや、バイデンさんにとっては悩ましい状況である。

〇ひょっとすると「ミドルクラスのための外交」という方針は、アメリカが中東離れを一歩進めるための深慮遠謀だったのではないか? これって考え過ぎですかね?


<5月17日>(月)

〇家の近所にセブンイレブンができた。今まで使っていたファミマよりも少し近い。これが大変に便利なものなのである。とくにワインや日本酒の品ぞろえが豊富なので、これは一通り試してみたくなる。ということで、いろいろ買ってみる。値段とクオリティの組み合わせが実に頃合いで、これは奇跡的なことなのではないかという気さえする。

〇コロナにより「夜のお付き合い」が途絶えてから久しい。その分、宅飲みの機会が増えた。そうなると「ああっ、今宵はビールがもうないっ!」という事態だけは避けたいと思うので、いろいろ取り揃えておきたいと考える。かくして毎夜のように手を変え品を変え、勝手飲みをしておる。

〇今日になってハッと気が付いたのだが、これで日常が戻ってきたときに、ワシはとってもワガママな酒飲みになっている恐れがある。家で一人で飲んでいると、いつでも好きな時に止めて、そのまま寝床に入ることができる。これが外で誰かと一緒に飲んでいると、ひとりで勝手に帰るわけにもいかず、お支払いも済まさねばならず、なおかつ家までは結構遠かったり、どこにトイレがあるか分からなかったりすることもあるだろう。そんなの当たり前のことなのだが、そんな「飲み会」を忘れて久しい。慣れというのは恐ろしいものである。

〇若い時分には、「ものぐさで出不精で人見知り」が自分の性格だと思っていたのだが、齢60になるとなぜかあの人は社交的だと思われているらしい。いや、どっちかというと「斜行的」の方がワシ的にはふさわしい気がするが、とにかく夜の付き合いも結構多い方であった。いろんな人と飲むのが楽しみであった。思えばその間、社内の飲み会はずいぶん断って不義理したものである。すいません、もったいないことをしてたなあ。

〇早くこの国にもワクチンが普及して、夜の付き合いが復活して欲しいと望むものでありますが、元に生活に戻すのは意外と大変かもしれない。ということで、今宵はセブンイレブンで買ってきた八海山の特別本醸造を手酌でやっている。いや、これがあの値段とはねえ。


<5月18日>(火)

〇今朝は1-3月期GDP速報値が公表されました。事前の予想が「前期比▲1%。年率換算で▲4〜5%」でしたから、年率換算▲5.1%という結果はほとんど想定の範囲内で、ニュースって感じではないよなあ、というのが第一感でした。それが本日の日経夕刊になると、とにかく悪いという結論ありきの報道になっている。「実はこんなにいいところもある」という報道をすると、読者に受け入れてもらえないと思っているのでしょうか。いつものことではありますが、それを言ってどうするのよ、と残念に思います。

〇いつも通り、実質GDPを実額ベースであらわしたのが下記の表です。これでみると、かなり印象が変わるんじゃないでしょうか。とにかく1年前の20年4-6月期が悪過ぎて、それに比べると今の状況はかなりマシです。あのときは初めての緊急事態宣言に、日本全体が震撼していましたから。今は良くも悪くも人々は政府やメディアの脅しに慣れてしまって、「出来ない約束は守らなくていい」とばかりに普通に行動しています。だったら経済活動はそこまで悪くはならないでしょう。日本経済は既に最悪期は脱しているし、回復過程の途上にあると言ってよいと思います。

2019/1-3. 556,3兆円
4- 6. 556,9兆円
7- 9. 557,6兆円
10-12. 546,9兆円
2020/1-3. 544,3兆円
4- 6. 500,3兆円
7- 9. 526,7兆円
10-12. 541,4兆円
2021/1-3. 534,3兆円


〇もうひとつ、面白いのは今年の1-3月期の鉱工業生産は前期比プラスであるということです。2020年10-12月期の鉱工業生産指数は平均で94.6、そして1-3月期の平均は97.0です。つまり前期比+2.5%というわけで、こんな風にGDPと生産のデータが乖離することはめずらしい。なぜそうなるかは簡単で、今は輸出が伸びて、製造業が伸びているから。モノ作りは「平常への回帰」が進んでいて、でもサービス業は苦しい日々が続いている。つまりは「K字型回復」なんですが、それは元からわかっていたことでありましょう。今はとにかく「対面のサービス業」を人為的に止めているわけですから。

〇以前にも当欄の4月24日付でご紹介した通り、2020年(暦年)の貯蓄率は11.3%もあって、いわば家計に約36兆円の貯蓄が積みあがっている状態である。アフターコロナになれば、このうち半分が消費に回るとしても、それだけでかなりの経済効果が期待できるはずである。そして遅かれ早かれ、ワクチンの接種は進みます。どうして皆さん、あんなに小さな瑕疵や不公平に怒るんでしょう。ワシ的にはまったく理解不能です。

〇ということで、日本経済の底力を感じさせるGDP速報値だったと思うのですが、なんであんなふうに一方的な議論になりますかねえ。単なるカラスの群れに思えて仕方ありません。


<5月19日>(水)

〇「ウッド・ショック」が起きている、ということで関係者にヒアリング。実に有益であった。

〇木材価格が世界的に上昇する、という現象は業界的にはこれが3回目なのだそうだ。1回目は1990〜92年で、世界的に天然資源保護活動が活発となり、特にアメリカとマレーシアが森林伐採や輸出規制を行ったことで高騰した。2回目は2006年で、インドネシアの森林伐採規制や中国の爆買い、それからアメリカにおける住宅バブルなどが原因だったとみられる。いずれのケースも、価格はすぐに元に戻った。木材も相場商品のひとつであり、上がったり下げたりを繰り返すのが常なのである。

〇その点、今回のウッドショックは深刻で、高止まりするかもしれない。そもそも木材価格が倍になる、とか、玉が届かなくて家が建てられない、なんてことはこれまでなかった。事前に考えていた仮説では、これはコロナ効果に伴うもので、在宅勤務の増加や通勤機会の減少による郊外住宅への需要増、それから貯蓄率の上昇に伴うものかと思っていたのだが、どうやらそれだけでは済まないらしい。

〇ひとつは当たり前の話だが、世界的に住宅ローン金利が下がっていることである。アメリカで30年物モーゲージローン(固定)が3.19%というと、日本の感覚では高く思えるかもしれないが、「今買わないでどうする」的な水準じゃないかと思う。そうなると、今後の金融政策が気になるところだが、FRBは当分は動かないものとみる。消費者物価の上昇も、あくまでも前年比の現象であって、それはいいとこ向こう3カ月程度しか続かないはずなので。

〇さらにアメリカには、「ミレニアル世代」や「ヒスパニック層」という巨大な住宅の需要層があるということだ。特に前者は、リーマンショック以降、心ならずも親との同居を続けてきた事情があるわけで、彼らが本気で家を建て始めると、その需要は底堅いものとなりそうだ。ちなみにミレニアル世代とヒスパニック層の規模は、いずれも6000万人前後である。

〇そうなると、今後の日本国内の木材需要をどうやって賄うのかという問題が生じる。輸入木材の高値が当分続くとなれば、現状で3割少々の国産材に期待がかかる。とはいえ林業の後継者不足とか、いろいろ悩ましい問題は尽きないらしい。なんでも銀座に木造の高層建築が建つとか、需要は確実に増えるはずなのだが。

〇それでも「木材」という財が、ここへきて希少性から市場で値上がりし、ESG的にも高く評価されている。「ウッド・ファースト」の時代が来ているということは、業界的には良いことではないかと思う。足りないものを扱い、余るものを避けるというのが商いの基本でありますから。

〇しかし「ウッド・ショック」はまだまだ序の口なんじゃないでしょうか。アフター・コロナの世界は、いろいろ激変があるのではないかと考えるところです。


<5月20日>(木)

〇名人戦第4局。矢倉戦ながら王様を囲わずに決戦という最近流行の戦形。中央で互いに角金銀を交換し、後手斎藤8段が馬を作るも、AIの評価値は50対50のまま。こういうこともあるものなのですね。

〇夕方になって、渡辺名人が差をつけて、押し切るかと思えたけれども、それから先が長かった。夕食休憩を挟んで延々と続く。103手目には再び評価値が50対50に。こうなるともうわからない。

〇途中で逆転かと思えた瞬間もあったのだが、持ち時間を2時間も余していた名人が最後は秒読みになるまで考えて、午後9時15分に終局。いやー、見ているだけで疲れる勝負でありました。これで渡辺名人が3勝1敗。防衛まであと1局となりました。


<5月21日>(金)

〇仕事で東洋経済新報社へ。いつも通り、虎ノ門駅で銀座線に乗って三越前駅で降りる。三越百貨店はやっているのかなあ〜と思ったら、ちゃんと開店していて、いつも通り中を通って東洋経済のビルに向かう。ところが、なぜかティファニーだのエルメスだのと言ったブランド店だけが閉店していた。察するに、営業自粛を求める東京都との葛藤の末の出来事と見える。豪華な商品は不要不急だと言いたいのかもしれんが、くだらんことをやっとるなあ。

〇どこか北千住当たりの大型スーパーの店舗で、カルティエやらルイヴィトンが営業していたら、なかなか笑える光景と言えるだろう。いや、そんなものがあるのかどうか、小生は存じませんけれどもね。たぶん柏高島屋のティファニーは、今日も普通に営業しているのではないのかなあ。

〇東洋経済新報社の建物は、いまどき結構古い。なんと1960年に建てたそうなので、ワシと同じ年ということになる。その前には今の日銀の新館があった場所にあって、新館を建てるからどいてくれと言われて、今の場所に引っ越したのだそうだ。当時は山手線の内側よりも外側の方が開けていたので、まさに一等地のオフィス街であったはず。最近はちょっと古びた感じがいい味を出しています。

同社の沿革を見てみたら、とにかく歴史の古い会社である。本日、講師を務めた経済倶楽部さんは、満州事変があった1931年の創設で、今年で90周年ということになる。今日も「パンデミック後の1920年代」のお話をしたのであるが、今から100年前の歴史はとにかく味わい深いものがある。より深く訪れてみたいものであります。


<5月22日>(土)

〇久々に読書にハマった。500ページ近い大著なのだが、昨日の今ごろから読み始めて、ほぼ1日で読み終えてしまった。いや、ホント、とんでもない労作なのだ。この『読書大全』(堀内勉、日経BP)は。

〇古今の名著を200冊紹介する。紹介するためには、ちゃんと自分で読まなきゃいけない。あいにく学者と呼ばれる人たちは、こういう本を書いてはくれない。「あいつは専門外のことを書いている」と言われるのが嫌だから。だから純粋な本好きの趣味人(元経営者)が書いた。いくらコロナ危機による「巣ごもり」で時間があったとはいえ、すごいことをやってくれましたねえ。

〇ここで紹介されている本のうち、ワシなんぞ読んだことがあるのは1割以下である。まあ、大多数の人がそうだろう。ただしこんな風に整理して紹介してもらうと、全体の俯瞰ができるのでありがたい。第1章の「資本主義/経済/経営」などは、本当にアダム・スミスから最近のトマ・ピケティ、ピーター・ティールまで並べてある。なるほど、ピーター・ドラッカーの本はこの辺に位置づけられるのね、みたいなことが妙に面白い。

〇第2章の「宗教/哲学/思想」は、高校時代の「倫理・社会」の授業を思い出す。でも、それが詰まらなかったから、かえってこういう世界から遠ざかったような気がする。この辺の本はもうさすがに読まないと思うけど、第3章の「国家/政治/社会」や、第4勝の「歴史/文明/人類」などはこれから手を出すかもしれない。とりあえず1冊、ポチしました。(『ひとはなぜ戦争をするのか』(アインシュタイン&フロイト)。

〇それにしてもここで紹介されているような世界の名著が、全部、母国語で読めてしまい、それも多くは文庫で売っていて、どうかすれば図書館で借りられてしまうというのは、なんとこの国は本に恵まれているのだろう。こういう機会を活かさない手はありませんな。読書に老眼鏡が欠かせなくなってから、てきめんに読書量が落ちてしまい、しかも最近は土日は競馬ばっかりしている。いかんですな。

〇堀内さんはワシと同じ「ネズミ年、還暦」世代。経営者としては既にリタイアモードで、人生の二毛作目に入っておられる様子。こちらはそんな真似はできないので、同じようなことを延々と続けていくしかない。せめてこんな風に刺激を受ける必要がありますな。本日はつくづく敬服いたしました。


<5月23日>(日)

〇ワシントンで米韓首脳会談が行われました。オバマ政権の副大統領時代に日韓関係を改善しよう画策して、結果的に痛い目を見たバイデンさんのことですから、「日韓との首脳会談はセットで」と最初から考えていたことでしょう。日本とだけ首脳会談をやって、韓国としなかったらどんなことになるか、その辺はちゃんと分かっているのです。ちなみに元副大統領補佐官であったブリンケン氏やサリバン氏も、この辺の事情は飲み込んでいると思います。

共同声明は結構長いです。面白いことに、「中国」という言葉は1回も出てきません(South China Seaはあるけど)。「日本」という言葉は1回だけ登場し、それは「北朝鮮に対する日米韓協力は大切だ」というコンテキストです。逆に「北朝鮮」(DPRK)はたくさん出てきますねえ。とまあ、いろいろ双方の苦労の後が窺えます。

〇とはいうものの、ムンジェイン大統領訪米の「おみやげ」として用意された4兆円の対米投資がありますから、アメリカ側としては満額回答と言っていいのではないでしょうか。「ミドルクラスのための外交」を標榜している手前、こういう「実弾」はよく効くと思います。もっともそれを言い始めると、ますますトランプ外交に似通ってきてしまうのだが。

〇問題は来月のコーンウェルG7首脳会議ですね。韓国も豪州、インド、南アなどとともに出席する予定なのですが、そのときにムンジェインさんは「俺はQuadには出ないよ」と言うんでしょうか。いや、Quadには呼ばれるんでしょうか。これはなかなかにビミョーな問題をはらみます。いわゆる「踏み絵」というやつですね。G7は6月11〜13日の予定ですので、すぐにやってまいります。


<5月24日>(月)

〇さる同世代人から伺った「最近のショッキングな会話」。


父:「最近はどういう音楽が流行っているの?」

娘:「パパ、そういう設問自体がもう古いよ」


〇グサッ、であります。そうなんです。われわれオヤジ世代は、「いま何が流行っているか」をずっと気にしながら人生を過ごしてきたのであります。干支が5周もする間、「最近はコレがイケてるらしい」みたいな情報を珍重しつつ、自分が時代に遅れていないかを心配しながら生きてきたのであります。

〇だから「うっせぇわ」という曲が流行っていると聞くと、「うっせぇわ」などと言わずに、ちゃんと「ほぅほう、これが最近のトレンドなんですか」などとチェックするのである。そういう点では、われわれの世代は妙に寛大である。この点、もうひと回り上の世代はもっと面倒な人たちなんですが、そんなのは「あなたが思うより健康です」とはねつけてやればよろしい。

〇でも、こういうスタイル自体が古くなってしまっているのですな。今は大学生が、「80年代ポップスって、イケてるじゃん」と言っても全然不思議じゃない。何がイイかを決めるのは、人それぞれの心であるし、他人の意見に同調する必要なんてどこにもない。いやあ、恥ずかしい。われわれの世代の「世の中から遅れたくない」という価値観がいけすかない。付和雷同的で、電通的な生き方がとってもカッコ悪い。

〇そういう視点で考えてみると、ワシらが若い頃に見ていた『ザ・ベストテン』とか『ベストヒットUSA』っていったい何だったのでしょう。「これで7週連続のトップです!」「おめでとうございます!」などとやっていたのは、本当に同調圧力以外の何物でもない。そうか、だから最近の電通は否定されるのか。あたしゃ個人的にはあの会社、好きなんだけどねえ。

〇考えてみたら、何がいいか、何にハマるかは自分が決めるものなのです。還暦になってEvaに嵌まることだってあるわけだし、人にとやかく言われる筋合いじゃないんですよね。ちなみにワシは昨日から『ゴールデンカムイ』を見始めました。いきなり3話まで観たのですが、いやあ、北海道開拓という歴史は、この国の宝物ですなあ。土方歳三が生きてるんですかあ!きっと今夜も見てしまうなあ。

〇ということで、上の発言、自分の娘からの直撃弾でなかったことを、まだしも不幸中の幸いと感じた次第であります。


<5月25日>(火)

〇本日、リモート会議でお話しした数名のメンバーのうち、65歳以上の方お二人が揃って、「予約が取れました」というから驚いてしまった。いや、もちろんワクチンのことでありますよ。お二人とも「大量接種会場」組で、近日中に大手町の会場へ行くそうです。

〇フェイスブックつながりのお知り合いの中でも、2人の方が「打ちました!」とのご報告あり。これも大手町組です。市区町村の接種が済みました、という話はまだ聞きません。やっぱり頼れるのは自衛隊なんでしょうか。指揮命令系統がハッキリしている組織はよろしいですな。

〇まあ、マスコミはそれが仕事なので、「こんなところが上手く行っていない!」という事例を喧伝するわけですが、進むところは進んでいるようです。しみじみこの国は動き出すまでに時間がかかる。動き出してからはわりと早い。で、ときどき止まらなくなってしまう。まあ、慣れておりますけどね。


<5月26日>(水)

〇なぜアメリカは、わずか1年でワクチン開発から接種に成功したのか。そこで「オペレーション・ワープ・スピード」(OWS)について調べてみました。アメリカ・ペンタゴンのこのページがBingoでありました。

〇とくにこのページが面白い。普通に「開発」→「治験」(1次→2次→3次)→「生産」→「配布、接種」というプロセスを経ると、いかなアメリカでも73カ月(6年!)かかる。それをさまざまな工夫をすることにより、14カ月で終わらせてしまおう、というのがこの計画のキモであるらしい。

〇要は開発している最中に、「これは行けるぞ!」という候補が出てきたら、すぐに治験を始めてしまう。そして3万人のボランティアを集めておいて、データを積み上げて迅速な承認を可能にする。しかも治験の最中に生産を始めてしまう。そりゃそうだよね、でなきゃ間に合わないから。要は見切り発車もアリ。そしてワクチンが完成する前から、配布と接種の準備も始めてしまう。そりゃあ、そうだよね。本気でやってんだから。

〇ちなみにこのOWS、CDC(疾病対策センター)、FDA(食品医薬局)、NIH(国際衛生研究所)、生物医学先端研究開発局(BARDA)、HHS(厚生省)など多くの省庁が参加しておりますが、トップ(COO)となっているのギュスターブ・ペルナ陸軍大将であります。やっぱり有事対応ということで、トップは軍人です。

〇こうしてみると、日本では真似できそうにないことばかり。こっちは省庁縦割りだし、ひとつのプロセスが終わらないと次のプロセスに移れない。法律で縛られているから。そのくせ失敗した場合に、外野からお説教してくれる人は大勢いる。でも、後から「後手後手」批判をしたくなかったら、こんな風にやればいいというお手本がここにあります。

〇それにしてもペンタゴンのHP、絵のわかりやすさもたいしたものだと思います。「日本ダメ論」を語る前に、もっとやるべきことがありますよね。


<5月27日>(木)

〇ワクチン接種がようやくわが国でも進み始めているようです。一昨日、大規模接種会場で受けられる方の話をご紹介したところ、私は普通に市区町村で接種しましたよ、とのお知らせも個人的に頂いております。

〇たまたま教えてくれたのは世田谷区の方だったのですが、「砧は早いけど、経堂は遅い」みたいな話があって、その理由はどうやら地元のお医者さんの協力度によるものらしい。となれば、この手の噂は一瀉千里を走りますから、今後はあちこちのお医者さんたちの間で「まずいぜ、これは」との声が上がり始めるのではないかと思います。

〇これぞ悪名高き「同調圧力」というものですが、これがあるからこそ、わが国は何事につけ導入時期に揉めて時間がかかるけど、動き始めるとそれから先が早いのである。お医者さんというものは、基本的に同じ医者の言うことしか聞かない人たちのようなのだが、その医者仲間が「まずいぜ、これは」とささやき始めたら、きっと動いてくれる(はずである)。

〇ついでに言えば、この国の厚労行政がまことに非効率なもので、彼らの中の「ムラの掟」を守ることだけに汲々としていることも、さすがに1年もたつとバレてきた。だから官邸は、自治体との連絡は総務省にやらせるし、大規模接種は防衛省に委託するのである。ちなみにワクチンの折衝は外務省だったらしいですね。彼らも少しは焦った方がいい。

〇昨日の当欄で、「アメリカってやっぱすごいよね」「有事対応って、こんな風にやらなきゃいけないね」という話を書いたところ、SNS界隈では受けたようなのだが、なあに日本国内でも有事対応がデフォルトになっている業界がひとつだけある。それは選挙である。

〇選挙になると、とにかく投票日という締め切りがある。何が何でも、それには間に合わせなければならない。そして負けたら政治家は、木から落ちてただの人にならなければならない。ちなみに今年の場合は、投票日は10月17日(日)友引であるとの観測がもっぱらで、先日も「ああ、うちはもうその日程で動いています。選対事務所もそれで借りました」などという話を某ベテラン秘書から聞いたところである。

〇で、選挙が昔から大好きで、選挙になったらバンバン横車を通すのが快感で、その事務所は永田町において当代きってのブラック職場と目されるお方が、今日は最高権力者の地位に就いておられる。おそらくは自分が無茶ぶりをして、皆が「まずいぜ、これは」と言いながら、いそいそと協力してくれるのが当たり前、それでも動かないやつは大嫌い、信賞必罰、ついてこれない方は辞めてもらいます、というのが行動原理である。

〇どうやらそのお方が、いまは「ワクチン→五輪→総選挙」という単純な方程式で再選戦略を描いている。「一点突破、全面展開」というやつでありまして、四面楚歌のときはこういう単純な作戦が良いものです。それに比べると、「五輪開催には反対するけれども、スポンサーは降りません」という某新聞社はやっぱインテリが度を過ぎている。彼らは今回も負ける運命にあると思います。


<5月28日>(金)

〇競馬ファンの皆様、今週末は待ちに待ったダービーであります。その有力馬を、競馬好きのマーケット・コメンテーター(不肖かんべえ含む)が以下のサイトで語っております。


●ラジオ日経「マーケットプレス」 スペシャル企画「私のダービー注目馬」


〇今年のダービーは、衆目の一致するところ皐月賞馬の@エフフォーリアがどうにも堅そうなのであります。メンバーの中では、東洋経済編集部のおはじみF氏がエフフォーリア推奨であります。もっともその場合は、配当がスズメの涙ほどになってしまいますので、皆さん、苦労して穴狙いを語っておられます。ものの見事に、誰一人予想がかぶっておりません。これだけ広がれば、さすがに誰か1人だけは当たることでしょう。

〇しかし何といっても秀逸なのが、本日のラジオ日経で中野雷太アナ相手に独自の競馬観を語ったオバゼキ先生であります。今はradikoという便利なものがございますので、どうぞお聞きになってください。「山崎元さんはセオリーの競馬、吉崎さんはファンの競馬、そして私は××の競馬」のくだりには思いきり吹きました。そして推奨馬は、とっても意外な大外のあの馬でありました。これは上海馬券王先生もビックリでありますぞ。

〇で、不肖かんべえの本命はKワンダフルタウンなのであります。ダービーにおける七不思議のひとつは、3週間前に同じ東京芝2400mで行われる青葉賞の勝ち馬が、一度も勝ったことがないこと。過去にはシンボリクリスエスやフェノーメノ、ウィンバリアシオンなどの名馬が青葉賞1着からダービーに挑みましたが、ことごとく2着に終わっている。

〇この青葉賞は、テレビ東京杯という冠がついていて、だから土曜日に行われる。なぜって日曜競馬はフジテレビ、土曜競馬がテレ東の放送だから。そのせいもあって、軽視されがちなのですが、これはテレ東関係者にとってはまことに悔しいことであります。なんとか青葉賞を盛り上げたいのに、なぜかダービーには手が届かないのです。いくら条件面で同じとはいえ、ダービー本番に近過ぎて馬体に疲労が残っているからかもしれません。

〇ところがですな、このワンダフルタウンは昨年秋に故障があったために、今年ぶっつけ本番で青葉賞に出走して勝利し、年明け2戦目でダービーに出走するというめずらしいパターンなのです。青葉賞は僅差の勝利でしたが、たぶんワンダフルタウンにとっては軽い「叩き」感覚。この2戦目が勝負、と考えると、「青葉賞馬は来ない」ジンクスが破られる絶好の機会なのではないか。

〇・・・などと言いながら、お前はテレ東のうすーい関係者の1人として、贔屓の引き倒しの理屈をこねているだけではないか、いわゆるポジショントークなのではないか、と突っ込まれると、正直ギクッとするところがあります。もうひとつ理由がありまして、それは鞍上の和田竜二騎手がこの馬を絶賛していて、「テイエムオペラオーに似ている」と言っていることであります。いや、テイエムオペラオーもダービーは3着でしたから、和田騎手はまだダービーを勝っておりません。だからワンダフルタウンが来たら、明後日は遠慮なく泣けるなあ、ということで、ここに期待を託するものであります。

〇ちなみに東スポの連載企画「G1はアンカツに聞け」によれば、安藤勝己先生は「エフフォーリアで大丈夫や」と言っておられます。以下、「最大のライバルは牝馬のサトノレイナス」「別路線組ではシャフリヤール、グレートマジシャン」「ワンダフルタウンは押さえまで」と続きます。当欄の愛読者の方には、さらに日曜朝に更新される予定の上海馬券王先生の予測もございます。つくづく日曜日の15時40分が待ち遠しく感じられます。


<5月30日>(日)

〇先週金曜日は北日本政経懇話会があったので、富山市へ行っておりました。と言っても、時節柄リモート講演会だったんですけどね。富山へ行くのは半年ぶりでしたが、あまり人には会わずに帰ってまいりました。

〇限られた体験の中で感じたのは、「コロナは都市と地方ではまるで別物」ということ。いや、もちろん富山市でも皆さんマスクをしているし、ソーシャルディスタンスもある。とはいうものの、見知らぬ人がそんなに大勢は居ないという地方都市においては、怖さの質が違うんですね。つまり都会では知らない人からの感染を恐れているが、地方では知っている人からの感染を恐れなければならない。

〇そんなのは当ったり前の話であって、都会と地方ではいろんなことが違っている。政治家との距離なんかもそうだ。地方の人たちは政治家の使い方を知っている。都会の人たちは、政治家と関係があること自体が恥だと思っている。そしてコロナは本質において都会の問題である。だってリスク高いのは大都市なんだもん。

〇いや、それだけのことであります。人間、移動する機会が減ると、当たり前のことに気づかなくなるのでありますな。

〇たまたま昨日は故き母の命日でありました。実家で寝ていたら、「あんた、えらい久しぶりやったねえ」という声が仏壇から聞こえてきたような。いや、コロナさえ収束すれば、私ももっと気安く帰省できるのですが。


<5月31日>(月)

〇今朝発表の鉱工業生産は強かったですな。指数は前月比2.5%増の99.6となりました。これはコロナ以前となる2020年1月(99.1)を上回る水準。しかもこれ、半導体不足によって自動車工業が低下しているにもかかわらず、であります。四番打者は不振だったけれども、他は軒並みよかった、ということになります。あいも変わらず製造業は好調なのです。

〇理由は簡単で、輸出が伸びているから。輸出はコロナ前どころか、2018年夏にトランプ政権が対中貿易戦争をおっぱじめる前の水準に戻りつつあります。コロナ下でわが国の生産は、輸出依存度が上がっているんじゃないかなあ。まあ、それくらい海外経済、そしてモノのトレードは活発なのであります。

〇そうかと思うと、5月28日に発表された労働力調査は弱かった。4月の失業率は2.8%と前月の2.6%から悪化した。雇用者数は3月の6003万人から4月は5960万人に減っている。やはりサービス業がよろしくないのだろう。緊急事態宣言の延長で、ますます悪化が続く懸念があります。

〇かくして日本経済は引き続き「K字型回復」が続いている。そういえば富山県は典型的な工業県ですが、今年も高校生の就職内定率は99.9%だったそうです。隣の石川県は観光業などサービス業中心なので、両県のデータを比べると面白い比較ができるかもしれない。

〇まあ、なにはともあれコロナが収束して、外食、ツーリズム、エンタメ関連で「リベンジ消費」が吹き荒れるようになってほしいものです。どこまで続くぬかるみぞ。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki