<1月1日>(木)
○読者の皆様、あけましておめでとうございます。とりあえず丑年だそうなので、牛のネタのジョークで始めてみたいと思います。
●封建主義
あなたは牛を2頭所有している。領主様がときどきミルクをお召しになる。
●社会主義
あなたは牛を2頭所有している。すべてのミルクは政府が巻き上げてしまう。
●共産主義
あなたは牛を2頭所有している。政府が1頭を召し上げ、それを隣の人に与えてしまう。
●全体主義
あなたは牛を2頭所有している。政府が両方を取り上げ、あなたに面倒を見させて、しかもミルクを売りつける。あなたは地下にもぐってサボタージュ活動を始めるしかない。
●資本主義
あなたは牛を2頭所有している。1頭を売って代わりに雄牛を買い、牛の数を増やして拡大再生産する。あなたはそれらを売り払って、引退してカリブ海に移住する。
●ウォール街金融道
あなたは牛を2頭所有している。将来のミルクを担保にして債券を発行し、それにサブプライムローンを組み合わせて高利回り高格付けの金融商品を組成する。ところがバブルが崩壊してしまう。
●ナニワ金融道
あなたは牛を2頭所有している。さらに牛を増やすために、高利回りを謳って資金を集める和牛商法を始める。ところが危ない人のお金を預かってしまったために、淀川に浮かんでしまう。
●キリスト教
あなたは牛を2頭所有している。あなたは1頭を残して1頭を隣の人に与える。
●共和党
あなたは牛を2頭所有している。隣の人は1頭も持っていない。で、それがどうしたの?
●民主党
あなたは牛を2頭所有している。隣の人は1頭も持っていない。あなたはそれを申し訳なく感じて、税金を上げようとする政治家に投票する。政治家は税金を上げるので、あなたは牛を売らなければならなくなる。政治家はその税金で牛を買い、隣の人に与える。あなたは正しいことをしたと実感する。
●アメリカ企業
あなたは牛を2頭所有している。1頭を売って株主に利益を還元し、残った1頭で4頭分のミルクを搾り取ったところ、死んでしまったので驚いた。
●フランス企業
あなたは牛を2頭所有している。でも3頭目がほしいからストライキに出かける。
●日本企業
あなたは牛を2頭所有している。10分の1のサイズで、20倍のミルクを出す牛に改良する。
●ドイツ企業
あなたは牛を2頭所有している。100年生きて、月に1回しか食べず、自分でミルクを絞るような牛に改良する。
●イタリア企業
あなたは牛を2頭所有している。でもどこに居るのか分からない。まあ、昼飯にしようか。
●メキシコ企業
あなたは牛を2頭所有していると思っている。でも、牛がどんなものか知らない。まあ、昼寝にしようか。
●ロシア企業
あなたは牛を2頭所有している。数えてみたら5頭になっていた。数えなおしてみると今度は12頭だ。まあ、数えるのは止めてウオッカを開けようか。
●中国企業
あなたは牛を2頭所有している。おおい、メラミンをもって来い。
●インド企業
あなたは牛を2頭所有している。あなたはそれを深く崇拝する。
○この世界では「古典」のギャグなんですけどね。新年早々、Politically
Incorrectな点はいつもの通り大目に見ていただきましょう。結論として、グローバルスタンダードというものは疑った方が良いようであります。これを本年年頭の所感ということにしておきたいと思います。皆様、本年もよろしく。
<1月3日>(土)
○年末年始は特にすることもなく、ぼんやりと定番のテレビを見る。これがまあ、悪くはないのである。
○大晦日は紅白歌合戦。いつも思うんだけど、こんなにカネと労力をかけた番組は他にないよなあ。今年は面白かった印象あり。視聴率も久々に4割台に乗せたそうです。「ポニョ」「ヘキサゴンファミリー」「おふくろさん復活」など、話題も豊富だったしね。詳しくは、このページをご参照。でも「赤勝て白勝て」というのは、そろそろ止めにしませんか?
○正月は天皇杯。わが柏レイソルが決勝戦に出てしまったので、とうとう最後まで見てしまった。白熱の好ゲームでしたが、延長戦の末、あと3分というところでゴールされて負けちゃいました。そりゃまガンバの方が地力では上だわな。石崎監督、お疲れさんでした。ところでこれって、パナソニック対日立製作所の戦いだったのですね。やはり最後は会社の勢いの差が出たか。
○二日三日は箱根駅伝。今年の駅伝は「名作」でしたね。ダニエルの「20人抜き」、モグスの「4年連続区間新」、「1年生が5区で激走」、「山くだりのマッチレース」あり、「学連選抜の健闘」あり、最後は東洋大の初優勝でした。早稲田、惜しかったね。それにしても大学駅伝には魔力があります。
○さて、そろそろ仕事をすることにしよう。実は一杯あるのです。
<1月4日>(日)
○日経ネットの「09年アンケート、サプライズ予想」に参加しました。ご参考。
http://markets.nikkei.co.jp/features/16.aspx/features/16.aspx?site=MARKET&genre=y6&id=MMMAy0000022122008
○上記を見ると、「非自民の新政権が発足」とか「ビッグ3という言葉が死語に」なんてのは、もうほとんどサプライズではありませんな。それくらい今年は大変な年だということでしょう。逆に「原油価格再び100ドル回復」「人民元は1ドル4元台まで一気に上昇」なんてのは、いかにもありそうな感じです。でも、原油価格の再上昇はご勘弁を願いたいですな。
○ワシからは、「オバマ政権の早過ぎるレイムダック化」を候補に上げておきました。
オバマ政権内で内紛発生。
発足後半年でヒラリー・クリントン国務長官が辞表を提出。支持率急落に慌てたオバマ大統領は、アフリカへの人道支援の米軍派遣により人気浮上を図るが、わずか1年でレイムダック化。経済政策は、ローレンス・サマーズ国家経済会議(NEC)議長による「院政」状態に。
○くれぐれもこんなことは起きてほしくないですね。でも、あるかもしれません。だからサプライズ予想。今年、ビックリするようなことがなかったら、そちらの方がよっぽど驚くべきことといえましょう。今年はひとつ、サプライズを楽しむ心構えで臨みたいものです。
○ということで、明日からワーキングデイの始まりです。明日は久々にJ-WAVEの「ジャム・ザ・ワールド」に登場します。角ちゃん、よろしくね。
<1月5日>(月)
○久しぶりに会社に出てみると、いろいろ刺激があってよろしいですな。ということで、今宵の不規則発言も、何となく興が乗ってあれこれ書いてしまいます。
◇ ◇ ◇
○オバマ人事は、9割方までうまくいったけど、最後のUSTRでつまづいた、てな話を昨年12月22日に書きました。今度はビル・リチャードソンが商務長官を辞退する、ということになりました。要するに「身体検査の不備」というやつで、後釜選びには苦労するでしょう。リチャードソンは一応、大統領選にも名乗りを上げた大物ですから、代わりに誰を持ってきても小粒に見えますからね。どうでもいいことですが、この人、お笑い芸人の「ルネッサ〜ンス」の人に似ているような気がするんだよな。お正月にお馬鹿なテレビを見過ぎたかな。
○オバマの売りは、アウトサイダーでクリーンでフレッシュ、ということだったのに、シカゴ政界の腐敗体質が背後にちらついたり、大物閣僚候補にもスキャンダルが出たり、ということで「オバマ・マジック」がちょっとずつ薄れてきた感あり。やっぱりワシントンDCには、魔物が棲んでおるのでしょう。大型経済対策も、一筋縄ではいかないような気がしてきました。
◇ ◇ ◇
○国内政治はと言えば、渡辺喜美先生がとうとう走り出したようです。今日付けで「麻生総裁に物申す」宣言をしています。賽は投げられたり、です。
○去年の暮れにお目にかかった際に、私はこんなことを申し上げたんですよね。
「新党を作るのに『裸一貫型』とか『裸単騎型』とか、面白いですけど、不真面目だと思われるかもしれませんよ。ここはひとつカッコよく、『桶狭間型』というのはどうでしょう。殿が一人で馬に乗って駆け出して、後から皆の者が追いかけていくというのは」。
○そしたらその場に居たT氏が、すかさず上手いことを言ったんですよ。
「そういうときはね、殿は後ろを振り向いちゃいけないんですよ。殿が振り向いた瞬間に、後ろの者はすぅーっと引いていきますから」
○まさしくその通り。織田信長もドン=キホーテも、後ろを振り向いちゃいけません。
◇ ◇ ◇
○本日発行の週刊ダイヤモンドの特集は「デフレ再来」、週刊エコノミストの特集が「デフレ深刻」。経済雑誌の見出しが重なることはけっしてめずらしくはありませんが、これはちょっと安直な企画ですな。まるで「デフレ」という言葉がインフレしているようであります。
○ウチの近所のスーパー内にある小さな「マクドナルド」店舗が、このところ行列ができる盛況振りになっている。家族連れ客が多いようなので、別段、「クォーターパウンダー」に惹かれているわけでもなく、やはり「安さ」が客を呼んでいるのでしょう。社内で聞いたところでは、衣料関係では「ユニクロ」が快調であるらしい。何のことはない、1998〜99年頃に快調だった「デフレ対応企業」が復活している。さて、「吉野家」はどうなんだろう。
○おそらく世界中で日本だけが、企業も消費者も「デフレ慣れ」している。それがいいことか、悪いことかは微妙なところですが。とはいえ、これだけ多くの人が「さあ、デフレだ」と構えているということは、かえって逆の可能性も気をつけた方がよさそうだ。資源関係の人たちからは、ほとんど悲鳴のような話ばかりが聞こえてきますけど、「こんなに急激に在庫を絞っていいのか」てな声もチラホラ。「デカップリング論の逆襲」なんてサプライズシナリオがあるかもしれませんぞ。
◇ ◇ ◇
○今宵は「ジャム・ザ・ワールド」に出演してきました。2001年秋にこの番組が始まってから、なんと8回目のお正月越えである。J-WAVEの西麻布スタジオ時代を知っている者としては、「ホントによく続くよねえ」と感心することしきり。だって他の曜日のナビゲーターは結構変わっているのに、角ちゃんはずっと変わってないんだもの。私のゲスト出演もこれで何回目になりますかねえ。
○「裏ジャム」あらため「ムービーパラダイス」もついでに収録しちゃいました。取り上げられたのは、「警察の腐敗をテーマにした日米の映画2本」です。来週くらいに配信されると思いますので、後で覗いてみてくださいまし。
<1月6日>(火)
○恒例バイロン・ウィーン氏の「びっくり10大予想」は、今年はこんなラインナップだそうです。(ストックウェザーさんの「勝どき通信」さんからいただきました)。冴えてますねえ。
(1)S&P株価指数は1200ポイントに上昇。
(2)金は1200ドルに上昇。
(3)原油はバレル80ドル復活。
(4)ドル円は75円、ドルユーロは1.65ドル。
(5)米10年債利回りは4%に上昇。市場の懸念はデフレからインフレに変化。
(6)中国の成長率は7%超。株式相場は反騰。
(7)金融業からの税収減でNY州が財政破綻の危機に、
(8)米住宅着工は秋に底打ち。第3、第4Qの実質成長率はプラス。
(9)米貯蓄率は3%を超えない。消費は戻る。
(10)オバマ大統領はイラク撤兵ペースを遅らせ、アフガン増派。
○サプライズ予想の名門が「デフレよりもインフレ」を予測している、というのが面白いですね。
○昨日の話の続きになりますが、特に食品の安全性の問題があれだけ相次いだ後に、「モノは皆、安ければいい」に戻るとはちょっと考えにくいと思うのですよね。この年末年始は、ウチの近所のコンビニでエビスビールだけが品薄になっていました。これがお正月だけの現象で、松が取れたら発泡酒に戻るのか、それとも消費者がプレミアムビールの味を覚えてしまったのか。即断はできないと思いますぞ。
○もう一点、こんな作品も頂戴しました。「2009年は碌なことがなさそうだから、カレンダーを1年飛ばして2010年になったことにしましょう」とG7が決めてしまう。すごいですねえ。ここに出てくる日本の財務相は、なぜか「口の軽い」尾身さん。ちょっとズレてます。
In a novel attempt to shorten the global
financial crisis, G7
countries will advance their calendar by one year to 2010
at midnight this coming Saturday, Jan 10th, according to
G7 finance ministers and central bankers.
They called on other countries to follow after their secret
meeting over the new years holiday in Basel.
"We know 2009 is going to be bad so we decided to cut it
short," said Hank Paulson, the out going US Treasury
Secretary. "It's like day light saving time. Next week is
2010"
As part of the deal, the US government will stage bankruptcies
for 35,000 companies and shut down 88 banks at noon on
Saturday which should entail write-offs of $1.3 trillion, layoffs
of 4.7 million workers and cancellation of pension benefits for
7.2 million.
At noon on Sunday, the Federal Reserve will re-capitalize about
5,000 companies and "immediately re-employ roughly 3.2
million
workers," said Federal Reserve Chairman Ben Bernanke.
UK agreed to shut down 13,000 companies and 32 financial
institutions including hedge funds and insurance companies;
Germany the same for 14,000 companies and 13 banks
and Japan for 18,000 companies and four insurance companies.
France, Italy and Canada are still finalizing their figures.
"Why prolong things over twelve months when we can
compress things over a weekend," said French Finance
Minister Christian Sautter.
"Wouldn't you rather have a weekend pregnancy than
something that is drawn out over nine months," said
British Finance Minister Alistair Darling. The comment
drew a sharp glace from Ms Sautter.
Following the surprise news conference by the ministers,
there was a series of back ground briefings concerning
market expectations. Anonymous sources close to the G7
said " the Dow Industrial should plunge to around 6200
towards
Friday but rebound hard on Monday. I speak from experience
on Wall Street," said the bald headed source.
"Topix should slide to 680 on Friday and rocket to 13,000
on Monday," said Japanese Finance Minister Koji Omi, who
is known for his slip of the tongue. BOJ Governor Mr. Shirakawa
said, "We expect what we should expect in the expected
currency market, which is our expectation at this time."
"Time is of essence so we will select these companies by
lottery based on their date of incorporation," said Mr.
Paulson
Research shows that July 13 happens to be the date on which
the largest number of US corporations have been incorporated,
he said.
Each country will keep the lottery going full speed until their
allotted number of bankruptcies are reached, said the German
Finance Minister Peer Steinbrueck.
Moscow said they declined the invitation due to their
"superior
form of market economy," but officials in Basel hinted that
the out-going Bush administration had "dis-invited"
Moscow
under strong urging from Vice President Dick Cheney.
Reaction around the world was mixed. Spokesman in
Beijing was visibly displeased at not being invited while
officials in New Delhi were out to lunch.
Response from man on the street was blunt if not poetic.
"What fools these mortals be," said a retired school
teacher
in Tokyo who only give his initials as MTA.
○とはいうものの、いつものことながら、経済が危機的な状態になるとジョークが冴えるようであります。
<1月7日>(水)
○所用があって早稲田大学に向かう。東西線の早稲田駅で下車して、地上に出たところで呆然。西も東も分からない。目印になるようなものが何もない。手元に地図はあるのだけれども、絶対にたどり着けない予感が濃厚。
○しょうがないので、道行く人をつかまえて「早稲田大学はどちらにあるんですか?」と聞いてみた。相手は少し困った様子で、「どちらに行っても早稲田大学なんですが・・・・」
○――われながらマンガのような状況でありましたな。とりあえず、何とか目的地の大隈会館を探し当てましたが、とにかく早稲田という所は塀もなければ表示板もない。正門前というバス停はあるけれども、正門らしきものは見当たらない。何なんだこれは。
○JR三田駅で慶応大学の所在地が分からないとか、御茶ノ水駅で明治大学にたどり着けないということはさすがにないと思うのだけど、早稲田はワシにとってラビリンスでありました。いやはや。
<1月8日>(木)
○またまたすごいネタを教えてもらいました。経済危機の後、グローバルブランド企業のロゴはどんな風に変化したか。下記をご参照。
http://www.businesspundit.com/after-the-crisis-a-parody-of-15-corporate-logos/
○しかしこれって、プロの作品ですな。日本企業が入っていないのは、うれしいような寂しいような。
<1月10日>(土)
○アメリカで史上初の黒人大統領が誕生する一方で、トヨタ自動車は14年ぶりに創業家から社長が出る。どちらも未曾有の危機に直面しているスーパーパワーを率いる身となる。かたや大抜擢、かたや世襲。面白い対比ですね。
○危機を迎えたときには、2つの方法があります。ひとつは、これまでにやってみたことのない新しい方法を試してみること。もうひとつは、原点に返り、自分がかつて得意とした方法にこだわること。どちらが正しいということはありません。また、アメリカ人だから前者を選び、日本人だから後者を選ぶ、なんてこともありません。追い詰められた日本企業が、大胆に新しい方法を試して成功した例はナンボでもあるでしょう。
○危機の時代の指導者にとって重要なことは、周囲が「この人でダメなら仕方がない」と思えることです。アメリカのオバマ次期大統領は、幸いなことに周囲がそんな風に捉えているようです。「オバマを失敗させちゃいけない」「この大統領が倒れるとアメリカの歴史に傷がつく」といった意識は、幅広く共有されているように思われます。
○それでは、トヨタ自動車の豊田章男次期社長がどうか、外部からは容易には窺い知れませんが、おそらく他の人を社長に担いで失敗することに比べれば、「悔い」ははるかに小さいはずです。要は下々の人たちに「納得感がある」ということが大事で、これを美しく言い換えると「求心力がある」ということになる。
○世界の大企業を見渡してみても、ファミリーが率いている例はけっして少なくない。身近なところではサントリーみたいに、上手にバトンタッチを続けている世襲企業もある。ファミリー出身のトップは、何よりも周囲が担ぎやすい。対外的にも説明しやすい。なにせ名前がトヨタさんなんですから。
○もちろん、世襲してダメになる企業の例もいっぱいあります。でもその場合は、今度は別の意味で踏ん切りがついて、日産のゴーンさんみたいな人を外から連れてくる勇気がわいてくるでしょう。要するに「世襲だからいい」ということもない代わりに、「世襲だから悪い」ということもない。いつものことですが、企業経営に原理原則なんてものはありません。
○逆に言うと、危機の時代に最も良くないのは、平時の文脈に固執することですな。日本政治にとっての2009年の課題は、「この人でダメなら納得が行く」という首相を見出せるかどうか。麻生さんや小沢さんでは、ダメだと思うんだがな。
<1月12日>(月)
○ご近所のTさんのお宅は、電話帳の登録が同居のお母様の名前になっている。すると、面白いように「振り込め詐欺」の電話がかかってくるのだそうだ。それこそ月に1回くらいのわりで、怪しげな電話があるのだとか。
○振り込め詐欺の電話は、男性であるTさんが出るとすぐに切れてしまう。ところがT夫人が出ると、適当なことを言って世間話に持ち込み、ややあって「ところでお宅のお子さんの名前は何ていいましたっけ?」と聞いてくる。「ウチには子供は居ませんけど」と言うと、そこでガチャリと切れる。要は子供の名前のサーベイを行なっているのであります。
○最近の振り込め詐欺は分業体制になっているらしく、電話帳で女性の名前(それもなるべく高齢者っぽい名前)を拾ってはランダムに電話をかけて、家庭事情を調べる担当があるみたいですな。そこで得たデータをもとに、今度は騙す担当者が電話をかけるのでしょう。お金を回収する係りはまた別にいて、それぞれが互いのことを知らない仕組みになっている。これでは一網打尽というわけにはいかない。
○結論として、「電話帳や表札の名前は、女性よりも男性にしておいた方がいい」らしいです。というか、最近は電話帳に名前を出しておいていいことは滅多にありませんな。ケータイにかかってくる電話は知人だけですが、固定電話にかかってくる用件はほとんどが売り込みですからな。ウチは税金対策も都内のマンションも墓地も要りませんってば。ぶつぶつ。
<1月13日>(火)
○サントリーのビールが好調だそうです。2008年はあの「プレミアム・モルツ」が「エビス」の売り上げを越えたとのことで、高価格帯ビールのトップが入れ替わった。ビール系飲料全体の販売数量でも、サッポロを抜いて3位に浮上。63年に本格参入したビール事業は、08年12月期になって初めて黒字化を達成できたらしい。
○しかし、よくまあこんなに長い間、サントリーはビール事業をあきらめませんでしたな。よその会社のビールは消費者が「飲んでやっている」から「お客様」ですが、赤字垂れ流しのビールは、「社長様」が「飲ませてくれている」ようなもの。ワシなぞはエビスから乗り換えたプレミアム・モルツのファンであるから、「よくぞビール事業をあきらめないでくれた」と感謝しなければならない。
○上場企業だったら、こんなムチャな経営はできなかったでしょう。幸いなことに、サントリーは非上場の同族企業ですから、赤字でも「やってみなはれ」が通用する。資本の論理に従って、「選択と集中」なんてことをやっていたら、サントリーのビール事業はとっくの昔にリストラされていたでしょう。
○日本企業はひとつの業界内で、「同質性のルール」で競争していることが多いです。でも、横紙破りの企業が1社でも入っていると、「秩序ある競争」にならなくてよいのですね。そもそも市場に参加している企業が、揃って合理的な行動をしているようだと、何かあったときに「皆こけた」になってしまう。ときには資本の論理を無視するような企業があった方が、競争は実のあるものになるし、消費者も利益を得るというわけです。
○逆に4位に落ちたサッポロビールは、奮起していただきたいですな。正月の大学駅伝はかならずサッポロがスポンサーをやりますが、しつこく繰り返される「サッポロは契約栽培」というCMは、ちょっと傲慢なものを感じました。「ウチはここまでやっている」と言う前に、なぜ売れてないかを反省すべきではないでしょうか。あれじゃ「値打ちの分からん消費者を教育してやる」と言ってるみたいですがな。
<1月14日>(水)
○紹介しなければならない本が増えております。そろそろ自分の本の宣伝もしなきゃいけないのですが、とりあえずは他人の本を優先することにいたしましょう。ということで、今日はこれ。
『会社は毎日つぶれている』(西村英俊)日経プレミアシリーズ
○どうだ、このタイトルは。衝撃的だろう。恥ずかしながら、これ当社、双日の初代社長が書いた本でありますぞ。
○当社が本当につぶれかかっていたことは、今さら洒落でも秘密でも何でもありません。ですからこの本、面白いことは掛け値なしです。社長業というのがどういうものか、なった人でないと分からないような話がいっぱい載っている。「自分は将来、社長になるかもしれない(or
なってやってもいい)」と思っている人は、とりあえず買っておいて損はありません。
○とはいうものの、この本は心配なんですよね。社員やOBや銀行や株主など、要は当社の関係者が読んだら激怒するようなネタまで書いてある。と言いつつ、日経出版のSさんに話をつないだのは、実はワシだったりするのだが。著者には一応、「この本は売れると思いますけど、そのせいで何が起きても知りませんよ」と警告は発したつもりである。
○もちろん西村さんこと、通称ニャンコさんは、そんなことを気にするような人ではない。ということで、日の目を見てしまった。これがどういう評価を受けるのか、ワシ的には一種、愉快犯のような心持ちである。
<1月15日>(木)
○新年、どこへ行っても明るい話がない、というのは、まったくニュースではない。ワシもいくつかの新年会に顔を出しているけど、嘆き節を聞く機会が多いですな。
○昨日聞いた木材業界における新春賀詞交歓会のご挨拶に、こんなものがありました。
「今年の住宅着工件数はどこのくらいか。110万戸くらい行くという人もいれば、80万戸という人もいる。80万戸というと悲惨に聞こえるが、それにしたってゼロにはならない。この国には1億2000万人も住んでいるんだし、建築基準法に合わない家を建て直すだけでも、すごい需要がある。大切にしていかなければ」
○こういう健気な発言が出ると言うことは、この業界はそんなに先行きは暗くないのだろうな、などと思いました。だいたい景気が悪くなるときは、最初のうちは「ウチはどこそこよりはマシだ」「あそこには負けるな」みたいな話になる。そのうち、「わが産業に存在意義はあるのだろうか」などと、発想が暗くなってくる。そして最後には、「でも山より大きなイノシシは出ないだろう」ということで開き直り、そこまで来ると出口は近いというのが、従来の不況期における経験則である。
○2009年の年頭に当たり、いちばん先行きが暗そうなのはメディア業界でありますな。思えばこの業界は、これまであまり深刻な危機を体験していない。1998年や2003年には、「日本経済の危機」を伝えつつも、どこか他人事のムードがあったと思う。ところが今年は、「新聞は果たして必要とされているのだろうか」とか、「テレビはネットに敗れ去るのか」みたいなことを、いよいよ本気で自問し始めているように見える。
○ちょっと気になるのは、メディア関係者が自分たちの先行きを悲観しているために、悲観的な報道が増えて、ますます消費マインドを冷やしているのではないかという点である。もっともこういうことを書くと、ネット界的にはいかにも「そうだそうだ」という声が沸きあがりそうなのだけど、そこはぐっと堪えて「いやいや、彼らにはもうそんな影響力も残っていないんじゃないか」てな意地悪を言ってみたくもある。
○どんな時代が来るにせよ、「産業としてのメディア」はきっと必要とされるはずなのだけど、既存の新聞社やテレビ局が必要とされるかどうかは分からない。だったら、なるべく早いうちに変身を遂げた方がいいのだけど、まだまだ彼らは同質性の競争をしていれば良かった栄光の日々を懐かしがっているようでもある。
○「不況期にこそイノベーションが生まれる」というのは、きっとメディア産業においても該当するのでしょう。みずからが快適だと思っているときには、改革への意欲など生まれてくるはずがありませんから。
<1月16日>(金)
○さて、今度は自分が関係している本のご紹介。今日、見本刷りが届きました。書店に並ぶのは来週かな。
世界経済 連鎖する危機
中島 厚志著
吉崎 達彦著
塚崎 公義著
定価:本体 \1,600+税
出版 : 東洋経済新報社
サイズ : / 224
ISBN : 978-4-492-39509-7
発行年月 : 2009.1
○正当派エコノミストのお二人を相手に、好き勝手なことを語っております。なかなか先行きを読むことの難しい時代ではありますが、本書のどこかにヒントが見つかればと思います。
○ということで早速ではございますが、ご予約を頂戴できれば幸いであります。ビーケーワンとか紀伊国屋とか丸善とか。アマゾンではまだ載っていないようですな。
<1月18日>(日)
○この週末は上海に行ってきました。駆け足の旅行でありましたが、あいかわらずよく食べて、よくしゃべってまいりましたぞ。
○今の時期の上海は来週に旧暦の正月を控えた「年末モード」。上海バンドの夜店では、牛の角を象った光るおもちゃを売っていたりして、「これからいよいよ丑年を迎える」状態なんですね。つまり現時点はまだ子年。「新暦で正月を祝うのは、アジアでは日本だけ」なので、これはそっちの方が正しい。
○で、現地の景気はどうなのか。輸出が減っているので、生産などのデータは軒並み悪化しているものの、消費が活発なのでまだまだ持ちこたえている、という様子でありました。馬券王先生いわく、「年末はタクシーが捕まらない」のだそうです。ほとんどバブル期の六本木状態ですな。馬券王先生&かんべえコンビは、シャングリラホテルのジャズラウンジでしばし密談しましたが、あそこの雰囲気は良かったね。
○ところでこの季節、洒落にならないのが「年末恒例の帰省」である。中華民族大移動のシーズンなのだが、「今年は田舎に帰ったら最後、戻ってきたときに職がなくなっている」=「今年の帰省は片道切符」などという噂が流れている。派遣切り、どころか工場が丸ごとなくなってしまう、てなこともあるらしい。ここで農村部が人口の受け皿になってくれればいいのだが、彼らはもともとが「余剰労働力」だった人たちなので、今後は農村部で不満がつのることになるのかも。
○それはさておいて、念願かなって「上海環球金融中心」(Shanghai
World Financial Center)に行ってまいりました。すごいですぞ、この「栓抜き」は。下から見上げてもすごいが、上に昇ってみるとこれまたすごい。高さ492メートルは、世界一というわけではないが、それは変なアンテナがないためであって、人が入れる高さという点では世界一であるらしい。
○ここの100階展望台は、なんと入場料に150元もとる。現在のレートでは1元=13円くらいであるが、生活実感としてはザックリ「1万円」であろう。とはいえ、100階の高さで足元が透けて見えるという体験は、滅多にできるものではない。あたしゃ本気で足がすくみましたな。別に高所恐怖症ではないのですが、人間の感覚というものは意外とあてにならないものであります。
○ちなみにギフトショップの一番人気は、このビルの形そのままの「栓抜き」である。このフォルムが気に入っているので、真剣に買おうかと思ったのだが、280元(!)という値段にひるんでしまった。恥ずかしながら、高価恐怖症でもあったようです。
○ところで、上海浦東地区の高層ビル街を眼下に見下ろすのはなかなかの快感なるも、残念なことに、窓の外はスモッグが立ち込めていて見晴らしがそれほどよろしくない。この空気をキレイにすることが、上海の次なる目標でありますな。とりあえずしばらくは、万博に向けての建設ラッシュが続くので、それどころではないのかもしれませんが。
<1月20日>(火)
○オバマ新大統領が誕生しました。家でテレビを見ながら、ホワイトハウスのHPをチェックしていたところ、ちょうど宣誓式のあたりで全体のコンテンツが消え、"We're Sorry --The page you
requested is temporarily unavailable."の文字が浮かびました。おそらく、さほど時間をおくことなく、新政権のホームページに切り替わるのでしょう。どんな風に変わるのか、ちょっと楽しみですね。
○2001年のブッシュ政権誕生の際にも、ホワイトハウスのHPは大きく変わりました。前のクリントン政権時代のデータがバッサリ消えてしまったことは、ちょっとした驚きでした。私はなるべくなら、前の政権のデータを残しておいてほしいものだと思うのですけどね。その方が資料性が高まるし、党派的な対立を避けることにもつながりますし。
○ところで日本で政権交代が起きたときには、官邸のHPはどうするんでしょうか。小沢民主党の関係者の皆様、今のうちから、ちゃんと考えておいてくださいね。
○さて、注目の大統領就任演説は、聞いていて今ひとつパッとしませんでしたな。歴史的な名文句、みたいなものは見当たらなかった気がします。今日はもう遅いので、明日の朝にあらためて全文を読み返すことにしますけど。彼のこれまでの演説の中でも、けっしていい方ではなかったのではないかなあ。1993年のクリントン就任のときも、期待が高かったわりには演説は肩すかしであったことを思い出しました。
○ひとつには選挙戦が終わってしまったので、オバマチーム全体が「戦闘モード」でなくなったことが原因なのかもしれません。これから先は、選挙に勝つためではなく、治世のための演説が必要になる。だとしたら、最も重要なことは「国民の期待値を上げ過ぎない」ことになります。支持率はもう十分高いので、ここでケネディのような美辞麗句を振りまくのがいいとは、かならずしも言い切れない。ということもあってか、やや地味目のInaugurationでありました。
○政策面から言うと、大統領就任演説はそれほど重要ではなくて、むしろこの後の一般教書演説の方が注目度が高くなると思います。こちらは内政や外政の中身を語らねばなりませんので、おそらく今頃はスタッフたちが必死こいて文言を練っていることでしょう。たとえばガザ地区の問題について、新大統領が具体的にどう語るのか。この一点だけでも、ものすごく悩ましい。
○日本の麻生首相もたしか所信表明演説が近いはず。こちらは各省庁が書いた「○○をXXいたします」式の短冊を持ち寄って、ホッチキスで止めて、最後にちょこっとだけ首相本人こだわりの一言を追加する、という作り方なので、間違っても感動的な演説にはならないようにできている。まあ、期待値が低いからリラックスしてできるというメリットもあるのだけれど。
○いずれにせよ、新しい時代が始まりました。たまたま今日、こんな本が到着しました。当社ワシントン店長の多田氏など、日米関係にゆかりの深い顔ぶれが、「オバマ時代の日本のあるべき姿」を熱っぽく語ったもの。この本の問題意識は、ちと耳の痛いものがあります。
オバマのアメリカ・どうする日本
日本のヒューマンパワーで突破せよ!
多田 幸雄共編
谷口 智彦共編
中林 美恵子共編
税込価格(予価): \1,890 (本体 : \1,800)
出版 : 三和書籍
サイズ : 19cm / 278p
ISBN : 978-4-86251-055-6
発行年月 : 2009.1
○オバマ新大統領を生み出したのは、アメリカ民主主義の活力にほかならない。これがあるから、経済危機でも戦争でもどんとこい、というパワーが生まれてくるわけだが、その辺が日本にはまったく伝わっていないのではないか。「新政権で日本が飛ばされると困る」式の身勝手で、志の低い議論ばかり行なわれている。いつまでも「政治はアメリカの指示待ち」「経済はアメリカの復活待ち」でいいのかよ、というキツイご指摘である。
○政府はあまり当てにならないから、ここは民間人がしっかりしなきゃ、ということになる。「閉塞感」なんてことを言ってちゃダメですよね。ホント。
<1月21日>(水)
○「オバマ演説は今ひとつだったね」と言うのは、三ツ星レストランに入って「評判ほど美味くはなかったね」と言うのと同じくらい、周囲をはばかるものがございます。特に絶賛している人が多い状況では。
○でも昨晩の演説は、今までのオバマ演説と比較すると、構成でもカリスマ性でも感動は薄かったと思う。アイオワ州党員集会での勝利演説(08/1/3)とか、シカゴでの勝利演説(08/11/4)に比べると、本人の高揚感も乏しかったようだし。パンチライン、歴史に残るフレーズ、というのも見当たらなかった。
○それも無理もないことなのかもしれません。オバマはもうアメリカの最高権力者になってしまったのだから、今までのように「選挙でライバルに勝つために」「目の前の有権者の1票を得るために」演説する必要は乏しいのです。そうではなくて、目の前の有権者に尽くすために語らなければならない。その重圧たるや、想像を絶するものがあるに違いない。意図してのことかどうかは分からないけれども、今後の彼の演説は今までとは違うパターンになるのでしょう。
○聴衆も勝手が違って困ったのではないかと思う。ワシントンのモールに集まった人たちの中には、"Yes,
we can."コールをしたくてウズウズしている人たちがいただろう。でも、オバマはテキパキと2401語を19分間で読み上げてしまった。いつもに比べると、演説に「溜め」がなかった。少しでも間をとれば、すかさず万雷の拍手で演説を中断してもらえたはずなのに。8万人の聴衆を屋外に集めた大統領候補受諾演説(08/8/28)では、オバマはそういう間合いを上手に取っていたのですけどね。
○大統領として行なう演説には、今までと違った「文法」が必要になる。となると、間もなく行なわれるはずの一般教書演説がますます気になりますね。
○ところでホワイトハウスのURLですが、昨晩の時点でフロントページのアドレスが微妙に変わってしまった模様。(今日の『ムーブ!』や『INsideOUT』などでご紹介しました)
(旧) http://www.whitehouse.gov/index.html Page
not found
(新) http://www.whitehouse.gov/ Change
has come to America
○少しずつページを増やしていくのかと思ったら、新ホワイトハウスのHPはエンジン全開でオバマ政権をアピールしています。さすがはネットに強いオバマ陣営。考えてみれば、準備する時間は十分にあったのだものね。オバマ時代はもう始まっているのです。
<1月23日>(金)
○最近、耳にしたワシントンの噂話で、なるほどなあと感心したもの。
○大統領就任式で、演説の開始時刻が定刻の正午から5分ほど遅れていましたね。実は式典の最初から最後まで、時間がどんどん遅れて、スケジュール通りに進まなかったのだそうです。それを見た人たちが、「うーん、クリントン時代に戻ったね」。共和党はそうでもないんですが、民主党は時間にルーズなカルチャーがあるようです。
○上院の公聴会で承認手続きが始まったガイトナー。税金支払いの不備という瑕疵は、どうやら見逃してもらえそう。共和党側も、ここでガイトナーを血祭りに上げたところで、それで株価が暴落した日には目も当てられない。そのガイトナーは議会からの質問に答え、「中国は為替操作を行なっている」と意見表明。なんとその日のうちに国債価格が下げた。こういうところも民主党らしいかな。
○「ブッシュは半径5メートル以内で会うととてもいい人。オバマは大観衆の中でとても光る人」――これは言いえて妙だと思いますね。面白いもので、前者は日本の政界でもゴロゴロしているのですが、後者は非常に希少価値ですね。小泉さんがちょっと懐かしい。
<1月24日>(土)
○昨日、成人病検診の結果が届いた。しかしこういうものは、晩飯前に見るものではあるまい。ということで、金曜夜に他人のオゴリでたらふく飲み食いした後で、こっそり開けて見ました。よかった。思ったほど、悪くない。
○自慢ではないが、若い頃からコレステロール値だけは飛びぬけて高い。数値を言えば、からなず他人から「そりゃ高い」と褒めてもらえる水準である。もちろん医者からは、「食事療法による管理・指導が必要です」と叱られる。ただしこれはウチの家系の全般的傾向で、調べてもらうと血管年齢はまったく異常がないそうなので、これは実害はないということにしている。
○後は「内臓肥満が疑われます」とある。いわゆるメタボである。BMIが25で心配されるのも片腹痛いが、これは流行ものゆえに仕方あるまい。とはいうものの、ワシはまだ「努力しないで痩せられるものなら、痩せてやってもいい」くらいの謙虚な気持ちは残っているつもりである。
○で、これは問題がありそうなのが血圧。昔は低かったんですが、3年くらい前からじょじょに上がってきて、「塩分を控えたバランスの良い食生活と適度な運動、規則正しい生活を心がけてください」とある。この年になって酒量が減らず、出されるものは全部食べる生活をしていると、どうしたってそうなりますわなあ。
○さて、今日のお昼は「王将」へ。先週は上海で中華料理を散々食べているのであるが、王将はこれはこれで美味いのである。ところが坦々麺セット(王将餃子とミニチャーハンつき)を食べているうちに、うむ、これはさすがに塩分が高いかもしれない、と実感する。やっぱり少しは気をつけるべきではあるまいか。
○今宵は先週サボってしまった町内会の防犯活動へ。寒かったけど、やはり適度な運動を心がけねばなりません。
<1月26日>(月)
○今日は旧正月。ということは、これから先の中国経済の動向に注目したいところです。1月18日付で書いたとおり、正月で帰省する労働者たちが、ちゃんと職場に復帰できるかという問題がある。それができないようだと、失業問題で農村部に不満が募るかもしれない。2月から4月にかけての中国経済は、果たしてどうなるか。
○今年の中国経済は、「何もしなければ成長率は5%程度」という声がある一方で、「4兆元の経済対策」にも期待がかかる。かと思うと、「10‐12月期は確かに悪かったが、12月のデータだけを見ると必ずしも悪くない」との指摘も聞く。先週、上海を訪れたときの感触でも、「輸出や生産などのデータは悪いが、消費全体のムードは悪くない」。つまり企業部門が悪い分を、家計部門の個人消費が穴埋めしている。「これだけ人口が多いと、どんな商売をやっても客はつきますわなあ」てな声を聞きました。
○さて、日本でも同じことが可能だろうか。つまり、個人消費による景気の下支えができるかどうか。12月の景気ウォッチャー調査を見ると、この調査始まって以来の低水準で、まことに血も涙もない感じである。そんな中で、こんなコメントもある。
・不景気感が強い状況だが、ガソリンや灯油の値下がりに伴い、価値のあるものであれば消費をする傾向がみられる。そのため相対的には変わりがない(北海道=美容室)。
・年金暮らしの客が多いためか、ガソリン価格が異常に高く物価も高騰していた数か月前の方がより深刻であり、ニュース等で報じられる状況ほど悪くはない(東北=一般小売店[医薬品])。
○「年金暮らしの人にとっては、去年よりも今年の方がマシ」というのは面白い現象だと思います。やはり高齢者にとってデフレは良いニュースなのだ。若者にとっては、あまりいいことではありませんけれども。
○日本における1998〜99年頃の不況では、IT分野というフロンティアがあった。2001〜2003年頃の不況では、中国へと草木もなびく感があった。今回はそういう元気分野が見当たらない。「フロンティアの不在」というのが悩ましい。とりあえず国内を見渡すと、典型的なデフレ銘柄であるユニクロとHISに元気があるようだ。
○ともあれ、景気指標はまだまだ「0勝10敗」状態が続いている。先週発表された1月の月例経済報告などは、「景気は、急速に悪化している」ですからね。政府の文書にこんな文言が使われるなんてことは、ほとんど見たことナッシングであります。いつ、どこで「1勝9敗」になってくるか。回復への兆しを見つけたいものであります。
○こうなると、1月場所における朝青龍のように、「誰もがもう駄目だ、と思ったところから奇跡の優勝」という筋書きにあやかりたくなります。ワシは日曜日の取り組みを見ていて、本気で感動したんだもの。「朝青龍が帰ってまいりました!」って、ホントにうれしそうだったもの。
○やくみつるさん他にお願いです。彼に向かって、品格がどうのこうのなどと責めないでください。ヒール(悪役)がいてこそ勝負は白熱する。「やはり横綱は強くなければ」(麻生太郎)。
<1月27日>(火)
○今日聞いて面白かった話。
○ゲーツ国防長官はCIA出身である。すなわち、情報のプロが転じて軍事の総元締めになった。しかも、ラムズフェルドの後のペンタゴンをうまく御している。ということで評価が高く、オバマ政権でも留任となった。という、この辺りまではほぼ常識の範囲内。
○そのゲーツ長官の演説の評判がいいらしい。冒頭に必ずジョークを入れる。以下はその一例。
「情勢分析を行なうものは、悲観論者であるべきだ。例えば花の匂いをかいだならば、近くに棺おけがあるのではないかと疑うようでなければならない」
○このジョークはいいですね。話し手の人柄がにじみ出ていると思います。情報の世界というのは、自己を客観視できなければならないので、ユーモアとは親和性があるのですよね。肩をいからせて、「国益を守るためにインテリジェンスが必要である」などというタイプは、きっとプロっぽくないと思いますよ。
<1月28日>(水)
○この2日ほど、猛烈な寒波に襲われていたのだそうで、上空から見るダレス空港は雪景色で、なんか『ダイハード2』を思い起こさせるような殺伐としたものがありました。空港の外の気温は摂氏0度だそうです。ぶるる。
○ところが実際に着陸してからは、機内で待たされ、イミグレは長蛇の列で、10本の指の指紋をとられて、しかも5問以上の質問を受けました。あまりフレンドリーな空港ではありませんな、ここは。思えば半月前に訪れた中国の方が、入国手続きは簡略であったような、というのは笑えないお話であります。オリンピック効果恐るべし。
○ということで、ワシントンDCに到着いたしました。雨模様で寒いです。でも不思議なもので、街を歩いているとすぐに土地勘が戻ってくるものですね。この街は、少なくとも外見は、そんなに大きくは変わらないようです。時節柄、ところどころに「売り家」の看板があったような気がしますけど。その一方で、街に住む人々の顔ぶれは、今は政権交代によって大きな変化が進行中なのでありましょう。
○今日はジョージタウン大学まで行って、東アジア言語文化研究部長のケビン・ドーク先生を訪ねました。本棚を埋めつくりしている日本文学の書籍、テーブルの上には『諸君!』や『Voice』などの雑誌類、さりげなく顔を覗かせている宮崎アニメ。どこをどう見ても、日本文化の研究室であります。あれやこれやと雑談。ところでこの建物、今を去ること17年前に、ワシが外部向け教育コースで通っていた場所であった。いやあ、懐かしい。
○今日聞いた中で面白い話をひとつ。当地のナショナル空港がレーガン空港に名称変更になってから久しいのですが、レーガン嫌いの人たちは今でも「ナショナル」と呼ぶのだそうです。それじゃなんだか台湾みたいですなあ。そういえばレーガンに対する評価について、オバマとヒラリーの間で論争がありましたっけ。
○今回の出張は、日程を緩めにしておくつもりだったのですが、気がついたら明日は5件も入っているではないか。まあ、ぼちぼち行きましょう。
<1月29日>(木)
○昨日のワシントンは、雪で学校が休校になり、今日も開始時間が2時間遅れたらしい。「ウチの娘たちは驚いていたよ。こんなの、シカゴじゃありえない」とオバマ大統領がテレビで言っていた。おいおい、この程度の雪で慌てるなよ、という北部州の皆さんのご意見を代表していたようです。首都としては面目ない次第ですが、お陰さまで昼頃から天候はかなり良くなりました。
○ワシントンの情報オタク紙、「ネルソン・レポート」のクリス・ネルソン氏と朝食。大型景気刺激策が下院を通過した後の政治情勢などについて伺う。メイフラワーホテルの「プロムナード」といういかにも通好みの場所で、後ろの方には「ネオコンの総帥」ビル・クリストルがいた。あはー、ワシントンらしいよね。
○USTRに行ったら、日本部長席には「小泉首相のポスター」と「戦国時代の日本地図」が貼ってあった。いとをかし。近頃は孤軍奮闘気味の麻生さんだが、所信表明演説で「自由と繁栄の弧」に言及しても、あっさりスルーされてしまい、むしろ「小泉路線からの離脱」ばかりに注目がいくのはツライ。しみじみ小泉首相の下でこそ、麻生外交は光ったのでありますな。
○夜はCSISにおいて、当地の日本人研究者の集まりへ。テーマは「日本のプレゼンスの低下をいかに防ぐか」。この本のプロモーションも兼ねてのディスカッションでした。昨今の日本はどうも「引きこもり傾向」で、"Self
Marginalizing"などと呆れられることも少なくないようです。政治の混乱の責任がいちばん大きいわけですが、当地における中国のプレゼンス増大とあわせて考えると、なかなかにこの問題は深刻です。
○研究会の幹事を務める中嶋圭介さんは、CSISのフェローに昇格されたよし。おめでとうございます。これは現在日本で活躍中のナベさん(渡部恒雄さん)以来の快挙ですね。もうひとりのナベさんこと、渡辺将人さん(ジョージワシントン大学)からも、いろんなお話を伺いました。東京財団での報告にはいつも注目しています。
○さて、オバマ政権が始まって向こう半年くらいが勝負どころかな、という気がしています。
(1)「最初の100日」ということがよくいわれるが、今回の場合はむしろそれを超えて、「トラブルが2〜3個発生してから」が政権の真価が問われるだろう、ということ。
(2)議会は冒頭から景気刺激策などで手一杯であり、いくら閣僚人事が早かったからといって、局長ポストまで埋まるのはやはり時間がかかると見られること。
(3)経済金融情勢の悪化がしばらくは続きそうであること。そうなると、財政政策などの発動がいつ頃になるかがきわめて重要になってくる。
○ということは、ワシントン情報は今年夏ぐらいまでがもっとも重要ということになると思います。
<1月30日>(金)
○ナショナルプレスセンターの中に、6つのテレビ画面が設置してある。今日の午後2時ごろ、そのうち4つまでが同じ画面になっていた。ホワイトハウスの記者会見の実況中継で、大写しになっているのは新任のギブズ報道官である。報道しているのはNBC、CNN、FOX、それにC-SPANの4局。同じ映像がこれだけ重なるというのもめずらしい。
○TV局のワシントン特派員のH氏によれば、このギブズという男、「絶対に失言や準備不足をしそうにない、取材していて張り合いのない相手」なのだそうである。確かに就任して1週間であるにもかかわらず、心憎いまでの落ち着き振りであり、何より37歳というのが信じられないほど老成した顔である。オバマ側近の典型みたいに手堅いタイプで、選挙期間中に感化してしまうんでしょうかねえ。
○練達のテレビマンであるH氏いわく。こんな「絵」を流していたら、普通はあっという間にチャンネルを替えられてしまいそうなもの。ところが各局が競って同時中継で記者会見をフルに流している。こんなところにも、オバマ政権に対する高い期待と関心が見て取れる、というのである。
○確かにすべり出だしは順調である。就任早々、男女均等賃金法にサインをして見せた、なんてのは民主党の基盤層に対するアピールで、この辺はかなり前から「仕込み」があったのでしょう。オバマ陣営は9月下旬くらいから、「これは勝てる」と踏んで、政権発足に向けた下準備を始めてきたらしい。が、この手の「仕込み」のタネはいずれ尽きる。勝負はそれからである。
○政権が発足すると、これまでの「キャンペーンレトリック」を「実際の政策や戦略」に落とし込んでいかなければならない。そして、こういうところに悪魔が潜んでいる。ガイトナー財務長官が、「中国は為替操作国」と発言したのはその典型で、選挙戦中のオバマ発言を引用したことで、中国の態度を硬化させてしまった。(もっともこの背景には、対中外交の窓口を国務省が取るか財務省が取るか、という鞘当てがあったのかもしれない)。
○似たようなことは、アフガン戦略についても当てはまる。「イラク戦争は失敗だった。テロとの戦いの主戦場はアフガニスタンだ」というのは、4年前のジョン・ケリーも言っていたことだ。それ自体が、多分に民主党の選挙レトリックであって、そのまま米国の軍事戦略として実行に移すのはかなり危なっかしい。本当は「君子危うきに近寄らず」で、アフガンなんて放置した方がいいんじゃないかと思うのだが、それは政治的にできない状態である。
○1月28日に下院を通過した景気刺激策(Stimulas
Package)も、地雷がいっぱいである。8190億ドル、そのうち財政支出が5440億ドル、減税が2750億ドルと「2対1」の比率になっていて、共和党側は全員が反対に回った。上院での審議は揉めそうだし、案の定、「バイアメリカン条項」が入ってしまった。インドやロシアが関税を上げるのは「ご愛嬌」だが、ご本尊たるアメリカが保護主義に走ると皆が真似するぞ、というリスクがある。
○上院では支出額がさらに増えている。数字は昨日のUSATodayから。
715億ドル(13%):雇用対策(フードスタンプなど貧困層への支援拡大)
1532億ドル(28%):医療支援(メディケイドなどの赤字を補填)
1030億ドル(19%):公共投資(ハイウェイ、橋、交通機関、連邦機関、水など)
1590億ドル(29%):教育関連(学校への支援など)
534億ドル(10%):科学技術(高速インターネット、環境、エネルギー計画など)
130億ドル(2%):住宅関連(公共住宅の修繕、ホームレス支援など)
○鳴り物入りの公共投資は2割弱であって、教育、医療、雇用というあたりにドドンとお金がおちることになっている。州政府などにとっては、ありがたくて涙が出るような内容ではあるまいか。公共投資は、日本で言う「箇所付け」が難しくて、おそらくは執行までに時間がかかる。それよりは、これまで日が当たらなかった分野にお金を流すほうが、即効性はあるだろうし、民主党の支持者拡大にも役立ちそうだ。
○目下のところ「ケインズ政策」へは支持が高いので、この巨額の支出は正当化されるのでしょう。状況的に、だんだん「オブチノミクス」に似てきたと思います。うまくいくといいのですが、それは何とも言いにくい。小渕政権時代のことを、思い出してみる必要がありそうです。
<1月31日>(土)
Let every nation know, whether it
wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any
burden, meet any hardship, support any friend, oppose any foe, in
order to assure the survival and the success of liberty.
In the long history of the world, only a few generations have
been granted the role of defending freedom in its hour of maximum
danger. I do not shrink from this responsibility--I welcome it.
And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for
you ask what you can do for your country.
My fellow citizens of the world: ask not what America will do for
you, but what together we can do for the freedom of man.
○アーリントン・ナショナル・セメタリーに行って、ケネディ大統領の墓の前に立つ。そこにはJFKの就任演説から上記のような言葉が刻み込まれている。まさに国民を鼓舞する名文句なるも、改めて読み返してみると、ほとんどが冷戦に勝つぞというレトリックであることに気づく。この時期のアメリカは、明確な敵を外に持っていた。だからこそ、若き大統領は英雄になった。なんと幸福だったことよ。などと考えつつ、観光客の群れにまぎれて、墓の前でしばし合掌。
○それに引き換え今日のアメリカはどうか。オバマの就任演説は、今ひとつ心を震わせるようなものではなかったけれども、それは今のアメリカにとっての敵が、「経済」という国内のものであったり、「テロ」という姿の見えにくいものであるからではないか。そうなると、鼓舞するような美しいメッセージは発せられない。"Hope"も"Dream"も"Yes,
we can."も消える。これでは名演説をすることもできず、オバマは英雄にはなれないのではないか。
○同じようなことを、誰もが感じているらしく、今宵の「サタデーナイトライブ」においては、オバマのそっくりさんが登場。「皆さん、今日は経済の話をします」と深刻な大統領モードで語りかけ、突然、「でもシカゴの演説を覚えているでしょ?イエス、ウィキャン」などと明るい候補者モードに転じ、再び大統領モードに戻る、というギャグをやっていた。大統領・オバマの苦悩が深いだけに、しみじみ候補者・オバマの演説が懐かしいのでありましょう。
○夜は、多田ワシントン店長と一緒に、話題の政治映画"Frost/Nixon"を見てきました。アカデミー賞5部門ノミネートだそうで、これが面白い。引退後のニクソンに、テレビ司会者のフロストが独占インタビューを試みる。4500万人が見たという伝説のインタビューをもとにした映画で、フロストが軽いノリのキャラである点がミソ。日本で言えば、田中角栄にみのもんたが挑むようなもの。これが双方、知略を駆使した真剣勝負となる。
○なかなかご理解をいただけないことが多いですが、テレビのインタビュー番組(特に生放送)というのは、この映画ほどではないにせよ、ホントに真剣勝負なんですよ。「もっとズバッと言え」などと、よくお叱りを受けますけれども。と言いつつ、『サンプロ』でのワシのコメンテーター業は、この2月末で終了の予定です。一応、告知しておきましょう。
○この映画、日本では『フロストxニクソン』という題名で3月に公開予定。とりあえず田原さんには見てもらわないと。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki