●かんべえの不規則発言



2018年12月





<12月2日>(日)

○ああ、もう師走である。人生は短いというのに、家でじっと米中首脳会談に関する情報を探したり、年末の講演会の資料を作っている。テレビをつけてみれば、福岡マラソンとか早明戦とか気になる中継をやっておる。ついつい気になるではないか。とりあえず服部勇馬さんと早稲田大学におめでとうと伝えたい。

○今現在、ホワイトハウスのHPを開けてみると、いちばん上に出てくるのは新NAFTAへの署名式のこと。それから犯罪司法改革、山火事のカリフォルニア州を訪問したことなどが続きます。米中首脳会談については、報道官がそっけない声明を発しているだけです。まあ、これは国民に受けるニュースじゃねえな、と判断しているのではないかと。

○あくまでも関税を30日間延長するから、その間にどれだけ前進できるかということでしょう。とはいえ、30日後と言えば中国は全人代の直前である。なんだかんだ言って「あと30日だけ延長」とかいうことになって、次の米中首脳会談は大阪G20サミットで、てなことになるのじゃないかなあ。

○ところでホワイトハウスのHPを見てみて、意外なくらいに力がこもっているのは、ブッシュ・父大統領の逝去に対するコメントです。いつもの"Very very Great"式のトランプ英語とはうってかわって、「これぞ追悼文」のお手本のような文章です。まあ、誰かが代筆しているのでしょうけれども、トランプさん、実はブッシュパパが好きだったんじゃないでしょうか。穏健派保守って最近は流行らないけれども、以前のアメリカにはこういう人が居たんですよねえ。

○ブッシュパパの最後はこんな感じだったそうです。なるほど、人が死ぬときはこんな風でありたいものです。謙虚な人にふさわしい旅立ちでした。

○ところで以下はブッシュパパが退任にあたって、1993年1月20日にビル・クリントンに送ったレター。いいですね、人格がにじみ出ていると思います。トランプさんは去り際に際して、後任者にどんなレターを書くことやら。

Dear Bill,

When I walked into this office just now I felt the same sense of wonder and respect that I felt four years ago. I know you will feel that, too.

I wish you great happiness here. I never felt the loneliness some Presidents have described.

There will be very tough times, made even more difficult by criticism you may not think is fair. I’m not a very good one to give advice; but just don’t let the critics discourage you or push you off course.

You will be our President when you read this note. I wish you well. I wish your family well.

Your success now is our country’s success. I am rooting hard for you.

Good luck

George



<12月3日>(月)

○今朝はモーサテへ。「プロの眼マンデー」は米中首脳会談を扱っております。題して「"一時休戦"も先行き不透明」

○「今日の経済視点」は、「G.H.W.Bush(41) G.W.Bush (43)」といたしました。すなわちお父さんブッシュ(ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ=第41代大統領)と息子さんブッシュ(ジョージ・ウォーカー・ブッシュ=第43代大統領)のことなんですが、実はお父さんは共和党穏健派、息子の方は保守派で、仲のいい親子でしたが、政策的にはかなり違っていました。そのことで息子ブッシュはずいぶん得をした。つまり党内穏健派は「あのお父さんなら大丈夫だろう」と考え、保守派は「アイツは親父とは違って信用できる」といいところ取りができたわけですな。

○お父さんブッシュは外交では冷戦終了や湾岸戦争勝利など、赫々たる戦果を治めました。しかるに内政では、"Read my lips, No new taxes!"(私の口を見なさいよ、増税はなぁしっ)と公約したのに、しっかり増税してしまったのです。これはOBRA90(1990年包括財政調整法)と呼ばれるもので、あの有名な「ペイゴー原則」(Pay as you go)を適用したことで知られます。でも、党内保守派からは総スカン状態で、1992年選挙ではブキャナン候補の造反を招きます。米国大統領選挙に置いて、現職は絶対的に有利な立場にあるのですが、それでも党内が割れた時にはこの限りではない。結局、ロス・ペローという第3政党候補が登場したことで、ブッシュお父さんは敗北します。

○てなことまでは言わなかったんですが、「お父さんブッシュ→息子さんブッシュ→トランプさん」とどんどん共和党は右に寄っている、という話をしたのであります。そしたらパックンが後で言ってました。「ブッシュお父さん、懐かしい。僕は支持してなかったけど」。おお、さすがはハーバード・リベラル。きっとデュカキスに投票していたんじゃないかなあ。でも、あの時代は良かったな、と思うのは、あながちノスタルジーだけじゃないような気がします。


<12月4日>(火)

○本日は年末恒例、常陽銀行さんのセミナー講師で茨城県日立市へ。初めて訪れる街です。ちなみに過去の記録は2014年つくば市、15年郡山市、16年神栖市、17年土浦市。いつも思うことですが、茨城県は奥が深いです。どうでもいいことですが、取手市や守谷市はウチから近くてよく立ち寄ります。

○日立製作所の企業城下町であり、常磐線「スーパーひたち」が近づくにつれて、車窓からの景色で昔の日立マーク(丸の時に「立」の字が入っている)が目に付くようになるのはご愛嬌。そういえばその昔、富山の実家に初めてやってきたカラーテレビは日立のキドカラーでありました。昔は家電製品が家に届くということは、一種のイベントだったのであります。

○日立市で産業が育ったのは、もともと銅山があったから。別子銅山から住友グループが誕生し、足尾銅山からは古河グループが誕生した。そして日立銅山は、久原財閥が誕生してそこから日産コンツェルンが形成された。そして鉱山で使われる機械を修理していたのが、日立製作所でありました。日産と日立の関係というのは、鮎川義介と久原房之介の縁戚関係に端を発するのですな。これが芙蓉グループの源流であったのでありましょう。

○そんな鉱山の街であったにもかかわらず、常磐線日立駅は海に面した綺麗な駅でありました。仕事を終えてから、駅にあるおしゃれなカフェに入りましたが、そこからは太平洋が見渡せる。海の手前を国道が走っていて、クルマが通り過ぎていく光景は見ていて飽きません。そして東の太平洋上に月がのぼるときは、とても大きくて美しく見えるのだそうです。今宵はそんな景色とは無縁でしたが、地ビールを頂戴しながら、しばし幸福なひとときでありました。


<12月5日>(水)

「エリートが地球の終わりを語る時、僕たちは月末に苦しんでいる」仏・黄色ベストは何に怒っているのか


○上記はパリの暴動についての記事ですが、なるほど納得であります。それにしても、「(軽油やガソリンを買うお金がなければ)電気自動車を買えばいい」だなんて、マクロン大統領はホントに言ったんでしょうか。そりゃあ政治家としてマズ過ぎるでしょう。ホントに現代のマリー・アントワネットですがな。

○もっとも意識高い系の人たちというのは、得てして「パリ協定を守る方が国民の暮らしよりも大事」みたいなことを本気で考えたりするので、そういうエリートさんたちはこの機会にとことん学習された方が良いでしょう。でないと、ホントに次はトランプ政権になりますから。もっともフランス版トランプ大統領が誕生すると、「デモをやっているのはイスラム教徒の移民たちだ!」みたいなことを言いかねないので、それはまた別の意味で心配になってまいります。

○そもそもマクロン大統領という人は、「マリーヌ・ルペンを大統領にするわけにはいかんでしょ!」という妥協で選ばれた人なわけなんで、アンタ、もともと人気ないんですから!ということをもう少し自覚された方がよろしいかと存じます。ホントに痛い人ですよね。

○さて、現在のパリ暴動がこの後どうなるかというと、「間違いないのはクリスマスまでには終わること」なんだそうです。その心は、「フランス人が大事な休暇を無駄にすることは考えられないから」。それはそれで健全なことかと拝察いたします。


<12月7日>(金)

○やれやれ、やっと今年の仕事も峠を越したかな、と思ったら今日、忘れていた宿題を思い出した。しまった、締め切りを二日も過ぎている。やれやれ。本日の予定を週末に回して、そっちを先にやらねばならない。とほほほほ。

○中間選挙と米中新冷戦に取り紛れていたけれども、2019年の経済予測もキチンと作らねばならない。そういえば週明けには7-9月期GDPの2次速報が出る。普通に考えれば、2019年は18年よりも悪くなりますよね、貿易戦争もあるしアメリカの利上げもあるしブレグジットもあるし、ということになる。とはいえ、これだけ多くの人が先行きに不安感を抱いているということは、意外とうまく行っちゃうような気もする。景気にとって一番の敵は慢心です。

○この時期恒例の日本貿易会の貿易動向見通しも今週発表されました。為替と石油価格の予測が微妙なので、2019年の予測はかなり難しいと思います。とはいえ、これも定番ですのでフォローしたいと思います。来年は世界貿易にとって正念場ですね。WTO改革が叫ばれる一方で、TPPが発効し、日欧EPAも始まる。

○それから来年の政治外交日程も作らねばならない。皇室行事が入って来るから、とってもややこしいぞ。難しいのは日ロ関係ですな。安倍さんはかなり前のめりになっているけれども、今朝の日経新聞で秋田浩之さんが書いている通り、平和条約の締結を急ぐ必然性は乏しい。特にプーチン大統領にはそんな動機はない。向こうはこちらに合わせているだけ、というときに交渉は進まない。もしくは付け込まれる恐れがある。

○内政については、「衆参ダブルですか」との声をよく聞く。別に1月4日に通常国会を召集しなくても、選挙日を遅らせば政治日程的にはダブルは可能です。ただしこんな風にみんなが身構えちゃうと、かえってやりにくくなりますよね。いつも言ってることですが、「投票箱が物理的に足りない」という問題もある。日本という国は、わざわざ候補者の名前を書かせる選挙をやります。紙に4つも書かせる選挙は大変ですよ。首長選挙が重なる地域もあるしね。

○てなことで、2019年の予測を作らねばなりません。でないと2018年が終わらない。はてさて。


<12月9日>(日)

○本日は町内会の忘年会。例年は土曜の夜にやるのですが、今年は駅前商店街で予約ができなかったとのことで、日曜の昼に招集がかかる。なんと、世間は景気がいいのでありましょうか。

○会場は中華料理屋。お味はまあまあなんだが、近年の人手不足もあるので、飲み放題メニューの追加を注文するときはちょっとばかり我慢が要る。まあ、いずこも同じ年の瀬の風景かもしれませぬ。今日は寒い、ということで紹興酒はお燗で頂戴する。

○こんな会話があったりする。

「うちの町会も酒量が減ったねえ」

「むかしは空き瓶がいっぱい並んだからなあ」

「注がれた酒を飲まないなんてあり得なかった。昔はパワハラ町会だったねえ」

「よく飲む人はみんな先に逝っちゃったからね。ほれMさん、Sさん、Yさん、Nさん・・・」

「え、でもここにいるYさんやSさんやOさんはどうなってるんですか」

「いやあ、それは何事にも例外があるということで・・・」

○なんだかんだいって、昼間から飲んでしまうのは昔とあんまり変わらない。少しは変わっているとは思うのだが。


<12月10日>(月)

○来年の政治外交カレンダーを作っていて気がついたこと。あれれれれっ。12月23日はもう天皇誕生日じゃないんだ。祝日ではなくて、ただの月曜日なんだっ!

○それはそうですよね。論理的帰結ですよね。再来年のカレンダーができたときには、現皇太子の誕生日である2月23日が新たな天皇誕生日となっているはずです。ちなみに2020年2月23日には、現皇太子(その時の天皇陛下)はちょうど還暦となります。畏れ多くも勿体なくも、皇太子さまは不肖かんべえと同じねずみ年生まれなのであります。

○それでは2019年の2月23日はというと、ただの土曜日であります。そしてその翌日は、「天皇在位30年記念式典」が執り行われます。おそらくこの週末を過ぎると、日本国内は「改元へのカウントダウン」一色になっていくでしょう。4月になれば新しい元号も公表されますし。4月27日からの10連休はどうしようか、も気になってまいります。3月末の予算成立とか、4月7日と21日の統一地方選挙なんて上の空ということになるでしょう。

○その辺はごく普通の話かと思うんですが、なんとなんと。2月24日には沖縄で普天間基地の辺野古移転を問う県民投票が予定されている。デニー知事、前でも後ろでもいいから、1週間ずらす方がいいと思うんですが、なんでそんな喧嘩を売るようなことをしますかね。沖縄がアイデンティティ政治になることを深く憂えるものであります。

○もうひとつ、年明けの通常国会の召集日はいつになるのか。今年はワールド・エコノミック・フォーラムが、1月22日から26日にかけてスイスのダボスで行われます。来年のG20議長国としては、ちゃんと出席して議論(たぶんWTO改革など)を聞いておくことが肝要です。だから安倍さんは出席するでしょう。

○なおかつ、その前後にはモスクワを訪問して日ロ首脳会談が行われるでしょう。通算で25回目の安倍=プーチン会談です。その次の日ロ首脳会談は、6月28-29日の大阪G20首脳会議に合わせて行われる。この間の半年の交渉で、日ロ平和条約の締結ができるかどうか。この間に河野外相は何度も日ロ交渉に臨むはずです。首相にとっては親の因果、外相にとっては祖父の因果。それぞれに背負っているものは重いものと思われます。

○とはいうものの、あたしゃ根本的に疑問を感じています。プーチン大統領には、日本との平和条約を締結する理由は乏しい。逆に日本の首相と外相は、個人的理由でその気になっている。この状況、元KGBのプーチンの眼にはカモがネギをしょっているように見えるんじゃないかと思います。日本外交は2島も取れないままに翻弄されるんじゃないですかね。

○話を戻して、通常国会の召集日は1月28日(月)と見ます。そこから150日を数えると、6月26日に閉会となります。その2日後がちょうどG20ですから、まあ、ぎりぎりセーフです。仮に日ロ平和条約が間に合ったとして、国民の信を問うために最終日の6月26日に衆議院を解散して、7月28日(日)に衆参ダブル選挙、というのは可能性としてはあり得ます。まあ、その前に誤りに気づくでしょうけど。

○来年の上半期は、とにかく改元関連の行事を滞りなく収めることが大事です。変な話、アメリカのトランプ大統領は5月下旬に国賓待遇で訪日し、6月に再びG20で訪日することになる。こんな無茶な日程、普通はありませんぜ。その上に解散だなんて、あまりにも乱暴すぎますがな。

○さらに消費税の先送りを絡めて解散、などと破天荒な話を言う人もいます。アホかと言いたい。7月28日の選挙結果を受けて、10月1日からの増税を止めるというんでしょうか。まして選挙で大敗したらどうするんですか。安倍首相の頭の中に、そんなシナリオは入っていないはず。参院選の後は、8月のG7サミット(フランス)とTICADZ(横浜)で頭が一杯でしょう。

○てなことを考えていると、どんどん人間が悪くなっていきますな。まあ、今に始まったことじゃないですが。


<12月11日>(火)

○2019年の日本経済を予測する際に、今年よりもよくなる理由と悪くなる理由を考えてみましょう。

●良くなる理由

*所得環境の改善(雇用情勢の好転)

*企業の設備投資の増勢(経常利益の増加)

*「改元」による新規需要と心理的効果

●悪くなる理由

*消費増税、および軽減税率導入に伴う混乱

*世界的な貿易戦争の影響

*中国経済の減速

*アメリカ経済の利上げとそれに伴う減速

*人手不足の深刻化

○両者を秤にかければ、たぶん「2019年は2018年よりも少し悪くなる」という結論になるのが普通かと思います。良くなる理由は限定的だけど、悪くなる理由は底なしの気がするし。もっとも、こういう「コンセンサス」が必ずしも当たるとは限らない、というのが景気予測の常でありまして、その辺は競馬とそんなに変わらない。逆にこれだけ見方が慎重に片寄っているときは、意外と2019年は良くなるかもしれない。景気にとって最大の敵は慢心ですから。

○それにしても気になるのは、昨日発表の7-9月期GDPが前期比で年率2.5%の悪化であったこと。同じ時期の鉱工業生産を見れば、豪雨や台風やら地震やら停電やらといった夏場の気候要因により、前期比▲1.2%減であった。だったらGDPに多少のへこみがあるのは分かる。そして10-12月期の鉱工業生産は、経済産業省の予測ではかなりの伸び率を示すことになっている。だったら足元の10-12月期はそんなに悪くないんじゃないかと思えてくる。

○この後、12月14日には日銀短観も出るし、貿易統計や鉱工業生産も注意してみていく必要がありそうです。それから昨日発表の景気ウォッチャー調査11月分を見ると、現状判断DIが51.0と久々に50を超えている。先行き判断は52.2となっている。その辺を見ていると、景気はそんなに悪くないかもしれんな、と思えてくる。まあ、もともと逆張りが好きなタイプですから、「2019年は意外と18年並み、あるいはそれよりもよくなる」という見立てを作ってみたくなります。まだ仕掛中の作業ではありますが。


<12月12日>(水)

日中経済協会の朝食会へ。講師を務めたのだが、「米中新冷戦時代を読む」という派手な演題にしたわりには、「すいません、正直なところよくわからないんです〜」という結論になったのは、我ながらあんまりカッコよくはなかったと思う。とはいうものの、こういうときに分かっている振りをするのは、それこそフェイクニュースになってしまうからなあ。

○午後は東京商工会議所江戸川支部の経済講演会へ。江戸川区しんきん協議会と江戸川区の共催がついている。こっちは来年の経済予測なのだが、これまたはっきりしたことが言いにくい。船堀タワーホールに100人以上のご参加をいただきまして、大変光栄でありました。

○強いて言えば、2019年の日本経済はこんな感じかな。「人生3つの坂があると言いますが、2019年はもちろん快調な上り坂ではなく、かといって極端な下り坂でもなく、さらに言えば『まさか』でもないでしょうなあ」。安心しきっているときに「まさか」が起きる。今は誰も安心してないもんなあ。まっさかさまに落ちる、という感じでもないと思うのです。


<12月13日>(木)

クラブ関西の午餐会講師で大阪へ。いったい今年は何回目の大阪なんだろう。クラブ関西は毎週木曜に定例午餐会があって、その年最後の会合では不肖かんべえが「来年の日本経済展望」というお題で一席伺うことが吉例となっている。なんと2013年から連続でやっているというから、今年で6回目。これだけ続けて呼ばれるということは、ワシの経済予測はそれなりに当たっているからであろう。

○・・・と思っていたら、「吉崎さんの明るい話を聞きたいという会員が多くて」と言われて拍子抜けする。ああ、そうか、ワシの話は分かりやすくて明るいのが売りなのか。というか、ワシは性格的に「難しくて暗い話」はできない。ただし経済に関する話は、世間一般的には難しくて暗くなりがちなので、そこに希少価値があるのかもしれない。

○関経連の関総一郎専務理事が来てくれていました。通産省時代からの長〜いお付き合いですが、とにかく2025年万博が大阪・関西に決まって良かった。一時はハラハラいたしましたけど。生粋の関東人である関さんが、大阪で万博誘致のために奮闘するというのも不思議で面白いご縁な気がします。

○でも考えてみたら、大阪は昔からよそ者の力を上手に使うところで、五代友厚は薩摩だし、松下幸之助は和歌山だし、小林一三は山梨だし、安藤百福は台湾だし、ランディ・バースはアメリカなのである。万博を契機に、そんな活気に満ちた大阪が戻ってくることを信じて、心から応援したいと思います。

○これからの関西財界では、万博への寄付金集めも大変なことになるでしょう。でも、こういうときに、生粋の大阪人は言うのであります。「大丈夫やて、兄ちゃん」("It's gonna be OK!")


<12月14日>(金)

○6週間に1度、溜池通信「市場深読み劇場」の締切日が重なる魔の金曜日がやってくる。本日はそれに該当しました。この日が来るのが怖くて、少し前からあれこれと抵抗を試みるのである。

○具体的には、先に「市場深読み劇場」の方をある程度書いておくのである。それにしたって、日曜日のレースの枠順は金曜日の昼にならないと決まらない。それがないと、分析がやりにくい。このところ、ちっとも競馬予想が当たってない身としては、そういう点も結構なプレッシャーである。

○そっちの目途がついてから、溜池通信に取り掛かるのであるが、こっちは日本経済を取り上げることになっていて、今朝発表の日銀短観が重要であったりする。案の定、強い中身であったからよかったけれども、これでDIが弱く出ていたら、あたしゃどういう風に書けばよかったのだろう。

○ところが今宵の日経新聞の夕刊を見ると、「大企業製造業の景況感横ばい  日銀12月短観、災害復旧需要で 先行きは不透明感強く」とある。 ええっ、今日の結果って、ポジティブサプライズじゃないんですかっ? 予定稿に引きずられているのじゃないんですかっ!


<12月15日>(土)

○やまげんさん、ぐっちーさん、不肖かんべえ、本日はターコイズステークスで中山競馬場に集結。中山は土曜日にしては混んでいる。というか、来週の日曜日はもう有馬記念なんだから、そういう時期なのかもしれない。

○山崎氏いわく。「今日は体重増の馬が多いですねえ。寒いから身体が絞れないんですね」――おっと、そういうことだったのか。確かに10キロ以上増の馬が多い。これだけ急に寒くなると、お馬さんも身体を動かすのが辛くなるのかも。

○夜は今年初めての町内会「火の用心」である。やっぱり寒いっす。来週以降はも少し暖かくなることを希望す。先月はひどい風邪をひいちゃったからねえ。

○打ち上げの席では、「桜田先生が有名になっちゃってさあ」という話題が出ていた。逆に言えば、最近の五輪担当大臣はすごい存在感である。柏市在住者としては、喜ぶべきなのか、恥じるべきなのか。


<12月16日>(日)

○先週の英エコノミスト誌の表紙は「マクロンの悲劇」でした。でもねえ、アンタ!そんなこと言ってていいの?オタクの国の方がよっぽどヤバいじゃん!と突っ込みを入れたくなります。メイ首相はEU離脱法案の下院提出を中止。保守党内の信任投票はかろうじて踏みとどまりましたが、党内の信認を得たというには程遠い結果でした。このままでは英国政治は、Brexitは、EUはどうなってしまうのでしょうか。

○こういうときもこのページが役に立ちます。いつものギャンブルサイトであります。こういうのを見ると、英国政治の相場観みたいなものがよくわかる気がします。なお、オッズは例によって英国式の分数ではなく、JRA方式の少数に換算してあります。


●メイ首相は交代する年は?

2019年     1.33倍
2020年以降  3.5倍
2018年中   12.0倍

●ジェレミー・コービン(労働党党首)が2019年1月1日に首相になっているか?

21.0倍

●英国は2019年3月30日までにEU協定50条を取消し、Brexitを止める。

NO 1.1倍
YES 6.0倍

●英下院で信任投票はいつ行われるか?

2019年        1.83倍
2019年末以降    3.1倍
2018年中       4.0倍

●次の総選挙はいつか?

2019  2.25倍
2022  2.75倍
2020  5.00倍
2021  8.00倍

●テリーザ・メイの次の首相は?

Jeremy Corbyn   6.0倍
Boris Johnson   7.0倍
Sajid Javid      8.0倍
Dominic Raab    9.0倍
Michael Gove    9.0倍
Jeremy Hunt    9.0倍


○メイ首相は来年には交代に追い込まれるだろう。来年には不信任投票がありそうだ。でも後継者は覚束ない人ばかり。ブレグジットを止めちゃえばいいのに、と思うけど、それはやっぱり難しいらしい。結論として八方ふさがりの英国政治という姿が浮かび上がってきます。うーん、まあ、やっぱりそんなところですかねえ。


<12月17日>(月)

○所用があったので、久しぶりに岡崎研究所に立ち寄る。応接室にはいつも通り、故・岡崎久彦大使が書かれた「出師の表」が屏風に飾ってある。あっ、これって昭和天皇崩御のときのものだから、もうじき30年になるんだ!と思ったら、ちょっとジーンときた。保存状態はとてもいいんで、引き続き岡崎研究所を訪れる人の目に留まるものと思われます。

○さらにハッと来たのは、1930年生まれの岡崎大使がこれを書いたのは、1989年のことであるから、ちょうど今のワシと同じくらいの年であったんですな。ああ、これはいけません。昭和ひとケタ世代のインテリは漢籍の素養があって、しかも国際情勢に通じていて、今の世代が到底及ぶところではないのです。今は皆さん、つまらんことで時間を費やしてしまいますからなあ。

○ワシは本来、諸葛孔明という人をあまり評価していない人なんですが、あらためて読むとこの「出師の表」は名文ですな。英語でいう"Manifest"とはかくあるべし、と感じます。もっともこの文章を受け取った劉禅が、「ふんっ、俺はオヤジとは違うもんね〜。お前なんか勝手にしろ〜」とふてくされた様子も若干目に浮かんだりするわけなんですが・・・。


臣亮言
先帝創業未半 而中道崩
今天下三分 益州疲弊
此誠危急存亡秋也
然侍衛之臣 不懈於内 忠志乃士 忘身於外者 蓋追先帝之殊遇 欲報之陛下也
誠宜開張聖聴 以光先帝遺徳 恢弘志士之気
不宜妄自菲薄 引喩失義 以塞忠諫之路也
宮中府中 倶為一体 陟罰臧否 不宜異同
若有作姦犯科 及為忠善者 宜付有司 論其刑賞 以昭陛下平明之治
不宜偏私使内外異法也

侍中侍郎郭攸之 費董允等 此皆良実 志慮忠純
是以先帝簡抜以遺陛下
愚以為 宮中之事 事無大小 悉以諮之 然後施行 必能裨補闕漏 有所広益也
将軍向寵 性行淑均 堯暢軍事 試用於昔日 先帝称之 曰能
是以衆議挙寵以為督
愚以為 営中之事 事無大小 悉以諮之 必能使行陣和穆 優劣得所

親賢臣 遠小人 此先漢所以興隆也
親小人 遠賢臣 此後漢所以傾頽也
先帝在時 毎与臣論此事 未嘗不歎息痛恨於桓霊也
侍中尚書 長史参軍 此悉貞亮 死節之臣也
願陛下親之信之 則漢室之隆 可計日而待也

臣本布衣 躬耕於南陽
苟全性命於乱世 不求聞達於諸侯
先帝不以臣卑鄙 猥自枉屈 三顧臣草盧之中 諮臣以当世之事
由是感激 遂許先帝以駆馳
後値傾覆 受任於敗軍之際 奉命於危難之間
爾来二十有一年矣
先帝知臣謹慎
故臨崩 寄臣以大事也
受命以来 夙夜憂歎 恐付託不効 以傷先帝之明
故五月渡濾 深入不毛

今南方己定 兵甲己足
当奬率三軍 北定中原
庶竭駑鈍 攘除姦凶 興復漢室 還於旧都
此臣之所以報先帝 而忠陛下之職分也
至於斟酌損益 進尽忠言 則攸之諱允之任也
願陛下託臣以討賊興復之効
不效則治臣之罪 以告先帝之靈
若無興徳之言 則責攸之允諱等之咎 以彰其慢
陛下亦宜自謀 以諮諏善道 察納雅言 深追先帝遺詔
臣不勝受恩感激 今当遠離 臨表涕泣 不知所云


<12月18日>(火)

○防衛大綱が出た、というニュースを聞いて、ふと思い立ってアマゾンで『空母いぶき』の10巻を注文し、ついでに11巻を予約しました。ちなみに9巻まではウチにあります。

○いや、なにしろ護衛艦いずもが本当に空母になっちゃうというから、未来を先取りしていたんですねえ。トランプさん対策で、日本政府はF35もいっぱい買うらしいし。もっとも日中関係は好転していて、まさかマンガのような事にはならないと思いますが。

○そういえば映画にもなるんだよねえ。こういうことは、あくまでもフィクションの世界であってほしいものです。


<12月19日>(水)

○今年もようやく仕事が峠を越えてきたので、朝目が覚める時間が遅くなってきた。端的に言うと「モーサテ」が始まる時刻になっても寝ている。うむ、明日くらいはちゃんと起きて、FOMCの結果を見なければなりませぬな。

○本日は休みを取って、先延ばしにしていた内視鏡検査を受けてみた。診療の待ち時間に、ボブ・ウッドワード『恐怖の男〜トランプ政権の真実』を読みはじめる。面白いのだが、ウッドワードの作品というのは、どれもこれも似たようなタッチになるなあ、と思う。とりあえず「これが今のホワイトハウスの真実だあっ!」というおどろおどろしい感じには欠ける。アメリカの政権というのは、歴代みんなどこか病んでいるのでありますよ。

○逆に言えば、当方が日々、トランプ劇場に毒されているからそんな風に感じるのかもしれぬ。お蔭でここ2年くらい、仕事がどんどん降って来る「トランプ特需」が続いているのであるが、来年ははさすがに少しは減速するだろう。だって飽きるもん、絶対(この点は先日、安井明彦さんと意見が一致した)。

○そういえば年賀状も準備せねばならぬ。それにしても今年はなんと喪中欠礼が多いのやら。数えてみたら10枚もあった。やはり天候の厳しい1年だったせいだろうか。くれぐれも身体にだけは気をつけたいものである。

○などと浮世の義理に追い立てられつつも、「競馬ブック」を買ってきて今週末の有馬記念の検討にも余念がないのであった。うむ、これは去年や一昨年よりはややマシな年の瀬という気がする。


<12月20日>(木)

「いやあ、昨日はソフトバンク上場だから、親会社の株を朝から空売りしてやりましたわ。午後に利益確定で手仕舞いしてから、引けにかけてもういっぺん売りました。今日も下げてますなあ。あはははは」

○・・・って、やっぱりいるんですなあ、そういう人が。くれぐれも、良い子は真似しちゃダメですよ。

○今日の日経平均は全面安で年初来安値更新。アメリカの利上げの動きもありましたが、2兆6000億円も市場からおカネを吸いあげた会社がフラフラなんですから、そりゃいかんでしょう。しかもIPOのためにCMまで流したわけですから、まことに罪深いと思いますぞ。

○それから本日発表の月例経済報告は、案の定、基調判断を据え置き。とうとう2018年は丸1年、基調判断が変わらなかった年ということになりました。こんなんで「戦後最長の回復期間に並んだ可能性」と言われてもねえ・・・。

○さて、今夜のNY市場はどうなるのか。トランプさんは何と言って吼えるのか。ジェットコースターのような日々が続きます。


<12月21日>(金)

○財務省の予算説明会へ。平成31年度予算政府原案が今日の朝、閣議決定したので、大学教授やシンクタンク研究員、経済誌の記者などを相手に行われる。

○もう10回以上出ていると思うのだが、ずいぶん雰囲気が変わってきたと思う。こういうと語弊があるけれども、昨今は財務官僚側にもエコノミスト側にも無力感がある。例えば消費税の軽減税率。その場に居る者の中で、あれが正しいと思っている者は1人もいないはず。ポイント制やプレミアム商品券だって、たぶん賛同者はほとんど居ないだろう。というか、真面目に考えれば、いくらでもいちゃもんをつけられる。

○とはいえ、今や大事な物事を決めるのは官邸たちであって、財務官僚もエコノミストもお呼びではない。自民党の税調でさえ、影響力をなくしてしまっている。いつの間にこんなに政策決定メカニズムが変わってしまったんだろう。外交政策は官邸主導、NSCを肝入り役にしてうまく回っているようだが、経済政策はひどいものなんじゃないだろうか。

○夜は忘年会のハシゴ。とはいえ、溜池近辺はほとんど空車が来ない。焦りましたがな。それでも不思議な偶然にも助けられ、短い時間にたくさんの人にお会いする。ああ、2018年が過ぎつつあるのう。

○途中でハッと気がついて、竜王戦第7局を確認する。がーん。羽生さんが負けている。勝てばタイトル戦100勝だったのに、負ければ最後に残った唯一のタイトルが失冠である。明日から羽生さんを何と呼べばいいのか。これもひとつの時代の変わり目なんだろうか。なんとなく脱力感がある。


<12月22日>(土)

○本日は有馬記念イブ。検討に熱が入る日でありまして、以下に参考資料のリンクを貼っておきます。いずれも東洋経済オンラインで本日アップされたものばかり。


平成最後の「有馬記念」はどんな決着になるか〜歴史的決戦が続いた過去29回を振り返る   高橋 利明氏(福島民報) 


ぐっちーさんの予測(ぐっちーさんの有馬は「オジュウ」が本命)


山崎元氏、吉崎氏の予測(山崎氏はブラストワンピース、吉崎氏はレイデオロ)


○いつも打ち合わせしているわけじゃないんですが、ちゃんと意見が割れて、しかも漏れが少ないのであります。

○これに加えて明日朝までにはオバゼキ先生上海馬券王が揃うことでしょう。ちなみに昨年は、キタサンブラックを予測したのは馬券王先生だけでした。さて、今年はどんなことになるのかな?明日の午後3時25分にご注目下さい。


<12月24日>(月)

○「平成最後の有馬記念!」ということで昨日は散々盛り上がっておりましたが、天皇誕生日であることをスカッと忘れておりました。われながら何と言う罰当たりな・・・。後から陛下の会見内容を聞いて、シュンとなってしまったのであります。

○今上天皇にとって85歳のお誕生日でありましたが、12月23日は天皇誕生日として最後のものとなりました。来年は天皇誕生日が存在せず、2020年には今の皇太子殿下の誕生日である2月23日が新たな天皇誕生日となります。こんな風にして、時代はどんどん移り変わるのであります。

○この日、皇居の一般参賀に訪れた人々は8.2万人。中山競馬場を訪れた人の数は10.0万人。筆者はたまたま後者の1人でしたが、前者の方々もそれと同じくらいの規模でいらしたのであります。いや、比べること自体がまことに罰当たりなことであるとは重々承知しておりますが。

○さて、平成の終わりが近づいてみると、とりあえず安室奈美恵は引退したし、いちじは七冠王であった将棋の羽生善治さんは先週で竜王を失って無冠となりました。そして昨日の中山競馬場、武豊騎手はほとんど空気のように目立たない存在になっていました。哀しいことですが、平成を彩ったスターたちが往時の輝きを失っているのであります。

○その代わりにどんな新しいスターが登場するのか。上海馬券王先生も言っていた通り、羽生善治前竜王の代わりがコンピュータ将棋で、武豊騎手の代わりが外国人騎手では寂し過いのう、と思っておりました。ところが有馬記念の勝ち馬は3歳馬のブラストワンピースで、鞍上は池添謙一騎手でとっても久しぶりの日本人騎手のG1勝利でした。こんな風に、予想はどんどん裏切られていくのであります。

○それはまことに結構なことでして、時代の精神なんてものは常に後になってから初めて分かるもの。ポスト安倍だってきっとそうですがな。われわれの浅知恵をあざ笑うかのように、時代はどんどん変わっていくのでありましょう。それはそれで、楽しみなことなのではないかと考えるものであります。


<12月25日>(火)

○今宵は宮家邦彦さんほかとしみじみ飲んでおりました。で、その宮家さんが本日発売の週刊ダイヤモンドで書いていた「中東・地政学」で予言していること。題して7つの起こらないこと。

@中東の民主化は進まない。

Aパレスチナ問題は解決しない。

Bイランの台頭は止まらない。

C米サウジ関係は悪化しない。

D宗教テロは終わらない。

Eホルムズ海峡封鎖はない。

F欧州への難民流入は止まらない。

○なるほど、これらは当たりそうだ。つまりは中東の地獄は続くということになる。

○上記の「起こらないこと」の中には、「アメリカの中東からの撤退はない」は入っていなかった。つまりはあり得るということである。トランプ大統領、とにかく海外の基地から米軍を撤退させたくて仕方がない。その辺のことは、ウッドワードの本の中にもしっかり描かれている。でも、その中には日本の米軍基地は入ってないんですね。なぜかは分かりませんけれども。いちばん撤退したいのは在韓米軍基地らしいっす。ジミー・カーター大統領もできなかったことですが、やっちゃうかもしれません。くわばらくわばら。


<12月26日>(水)

○12月は先週から米国発の株安が進行し、市場にとってはとんだクリスマスプレゼントとなった。株安の理由はたくさんあるが、@FRBの利上げ+資産減らし、A世界経済の減速懸念、B米中貿易戦争の深刻化、C米国における政府閉鎖、Dマティス国防長官の辞任などトランプ政権の先行き不透明、EBrexitなど欧州における政治イベントリスク、などいくらでも挙げられる。

○昨日は日経平均が1000円も下げて、久々に2万円の大台を割った。今日は一時は1万9000円台も割り込んだが、引けにかけて戻して、171円高の1万9327円で引けた。これをどう見るべきか。

○いつものことながら、株価を見るときは「東証時価総額÷名目GDP」が100を超えていれば割高、という「バフェットの法則」が役に立つ。それでいくと、月末の東証株価は2016年11月から25カ月連続で100を超えていた。特に今年9月末の時価総額675兆円はGDP比123%にも達していた。ということは、高過ぎたから今は売られているということになる。

○12月25日の終値はとうとう540.2兆円と7-9月期名目GDPの546.7兆円を割り込んだ。今なら買える水準、と申し上げておこう。いや、もちろん何を買うかにもよるし、そもそも投資は自己責任でお願いしなければならない。基本ですけどね。(→後記:12月26日終値は546.2兆円でした。案の定、27日は上げましたな)


<12月27日>(木)

○年賀状も昨日出してしまい、今日は年末年始の原稿予定4本のうち1本を出したので、ああもういいや、ということでとりあえずお仕事終了。明日はもう会社出ません。家で飲むビールがおいしいです。

○年末の過ごし方としては、今年はわりと楽な方のような気がする。何しろ年内はまだ4日もあるし、次の出社は1週間後である。ちなみに今週末の富山は雪が降るらしい。それはちょっと困るのだけど。


<12月29日>(土)

○林真理子『愉楽にて』(日本経済新聞出版社)を読了。日経新聞の連載(2017.9.6〜2018.9.2)は拾い読みしていたけれども、通して読むとなるほどこういうお話しであったか、と納得するところあり。

○この本の主人公たちと同じくワシも50代の男性であるために、ところどころ「うん、あるある」と思うところがある。他方ではこちらは別に御曹司でも企業経営者でもないので、まあ、お気楽な人たちだなとは思う。2人の主人公である田口と久坂では、ワシはどっちかというと田口ノリである。久坂はイヤなやっちゃ、と感じる。おそらくはそういう設計になっている小説なんだと思うけど。

○50代になって少しは余裕がある、という人はこの本からいろんなことを学習することができるだろう。例えば以下のようなことである。

●男はんは遊ばなあきまへん。

●でも、京都は怖いところですえ。

●ワインや茶道などというものに精魂を傾ける事勿れ。

●女などとは良くて引き分け、悪くても不戦敗を目指すべきである。

●教養は生涯役に立つ。少なくとも、それがない人を見下すことはできる。

●友達は大事にしなきゃいけない。古い友達は特に。

●さよならだけが人生さ。

○ふんっ、こんな世界は大っ嫌いさ、と言って無視してももちろん構わない。たぶん著者は、この小説がもっと流行ると思ったのであろう。ところが当世は、ここに描かれているような人物がそれほど多いわけでもない。憧れる人もそんなに多くはない。とりあえず平成30年ごろの今の日本を描いてくれて、歴史に留めてくれたことに感謝すべきではないだろうか。久しぶりに読んだ小説のこれがその感想である。


<12月30日>(日)

○富山市のガラス美術館で「ジブリの大博覧会」をやっている。入場料1400円だが、「50分待ち」という状況で、本当に50分近く待たされるのだからたいしたものである。空き時間にちょこっと見てきました。

○ジブリの全作品を見ているわけではないし、こうやって全作品を紹介されてみると、ああ、けっこう駄作も作っているんだなあ、ということを思い知る。とはいえ、トトロを見るとそれだけで嬉しくなってしまったりするので、これはもう病いみたいなものですな。周囲の子供連れの家族なんかは皆さんそんな感じで、会場を出たところにあるジブリグッズは非常によく売れておったようです。まあ、これは無理もないよね。ジブリさん、上手な商売をされております。

○この展示を見ていて、いちばん心に突き刺さったのは、鈴木敏夫プロデューサーが糸井重里氏と映画コピーのやり取りをしている過程を公表しているところでした。たぶん最高傑作は、『もののけ姫』(1997年)の「生きろ。」だと思います。ところがこの最終形に達するまでに、糸井氏はいろんな案を出していて、それがどれもこれも愚にもつかぬ案に見えるのです。そこで鈴木氏は「宮さんが違うと言っている」などと糸井氏に再考を求めるわけですが、これはまあなんと難しくて面白く、しかもやりがいのある仕事でありましょうか。

○今の我々は「生きろ。」という「答え」を知っている。あの映画はこの言葉と一体だと思います。たぶん今見返すと、「なんじゃこの映画は」「特に最後の30分、これはないだろ」みたいに感じるのではないかと思います。とはいえ、『もののけ姫』は、あの当時の日本人には突き刺さるものがあった。もう社会現象だったですからね。時代の求める映画であったし、時代を探り当てるコピーだったんじゃないかと思います。

○『紅の豚』(1992年)の「カッコイイとは、こういうことさ。」も、同様にすばらしい。映画の本質を言い当てて、なおかつネタバレにもなっていない。まあ、コピーの方にも駄作はある。ただしごく少ない優秀作が心に残るわけでありまして。

○名コピーを生み出すのは、ライターの工夫だけではなくて、製作者とのコミュニケーションである、というのも心に残るところでありました。『となりのトトロ』(1988年)のコピーは「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」なのですが、当初の案では「もう日本にはいないのです」だったんだそうだ。宮さんは「そんなことないよ!」と言ったそうですが。いや、なんて楽しいやり取りでしょう。ちなみに糸井氏は、さつきとメイのお父さん役でもあるのですよね。

○ああ、いい仕事がしたい。でも富山に来ると仕事にならん。年が明けてから、がんばろう。

(富山市ガラス美術館は、なんと正月3が日も公開しています。偉いねえ)


<12月31日>(月)

○ご帰国中の上海馬券王先生が帰省中である。ということで、とっても久しぶりに富山市で邂逅。気温35度Cのバンコクから雪の富山へ。なかなかに大変なことのようです。

○富山駅前で、さてどこに入ろうかと物色するも、大晦日で店が閉まっていたり、どう見ても観光客相手であったりして、なかなかに適切な店が見当たらない。昔に比べれば選択肢は増えたんですけどね。

○結局、駅前の「サイゼリア」に入る。安いワインをデカンタでぐびぐびやって、料理をばかすか注文するのであるが、信じられない安さである。なおかつ、ワインも料理もちゃんとしている。しかも少ない店員で多くの客を切り盛りしている。おそるべし、サイゼリア。

○ということで、いつものようにクイーンから宮崎アニメなどの森羅万象を語るのであるが、お互いに18歳でこの地を離れ、それからもう40年後である。いろいろあるけれども、お互いに無事で何よりである。さて、来年もこのままで行きましょう。皆さま、お疲れ様でした。良い2019年をお迎えください。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki