<7月1〜2日>(土〜日)
〇ワールドカップ準決勝。イングランドとブラジル、両方とも応援している方が負けてしまった。まことに惜しい。ベストエイトまでは、大きな番狂わせのない大会であって、それだけに「残って当然」のチームばかりが残っている。このまま全チームを残しておきたいくらいだが、試合が行なわれるたびに1チームが消えていく。ああ、もったいない。4年前にも同じことを感じましたが、これぞW杯の重みですな。
〇残り4チーム、南米勢がいなくなってしまうとは予想外の展開である。やはり2006年は欧州のための大会か。決勝戦はドイツ対フランスによる歴史的決戦もよし、イタリア対ポルトガルによる対照的なサッカーもよし。本当はイングランド対ドイツが見たかったのだけど。何度も再放送を見たが、イングランドはどうしても勝てないようにできていたゲームだったような。これはこれで試合として「名作」なのかもしれぬ。
〇今週末の宿題は、『ハゲタカの饗宴』の書評。最近、やっつけ仕事が多くなっているかんべえとしては、ひとつの文章をこれだけ何度も直すことはめずらしい。一度は断ったのだけど、フォーサイト編集部の粘り腰で引き受けてしまった。それがなければ、こんな面白い本には出会わなかったはずなので、しがいのある苦労といえる。
〇土曜日、今頃になって『ダヴィンチ・コード』を見てきた。滅多に混まない柏市の映画館が長蛇の列になっているので、「何事ぞ」と思ったら、毎月1日は映画の日で入場料が1000円である。ちっ、貧乏人の仲間入りをしちまったぜ、と舌打ちをしながら、一万円札で戻ってきた9000円のお釣りに気分の悪かろうはずがない。そうでなくとも、映画館で映画を見るのは良いものです。
〇しかるに映画の中身は・・・・・原作を読んでないので、謎解きは楽しく見ましたが、まあ、少なくとも賞を獲るような映画ではありませんな。だいたい、気安く回想シーンを使うような映画はろくなもんじゃありません。ちょっとカトリック教会に同情してしまうな。
〇ついでにこれも今頃なんだけど、宇多田ヒカルの"Ultra
Blue"を買ってきた。思えばここ数年、彼女以外のCDは買った覚えがない。ところが拙宅のコンポーネントは壊れて久しいらしく、しょうがないからPCで聞いてみる。こちらは裏切られませんな。同時代に信じられる才能があることは幸いなるかな。
<7月3日>(月)
〇今日は、バルカン半島情勢と安保政策に関する研究発表を聞く機会がありました。非常に勉強になったのだけど、本筋とは違う部分で、以下のような質問をしてみました。
(1)今回のW杯では、旧ユーゴ地域からクロアチアとセルビア・モンテネグロの2チームが参加していた。どちらも予選で敗退したが、仮にどちらかが決勝トーナメントに進んだ場合、負けた側はそれを応援しただろうか。それとも「畜生、早く負けろ」と祈っただろうか。
(2)次期日本監督として期待の高まるオシム監督は、ボスニア・ヘルツェゴビナ地域の出身であり、ユーゴチーム最後の監督である。果たして彼は今回、クロアチアとセルビア・モンテネグロのどちらに強く肩入れしていただろうか。
(3)今回のW杯において、上記のような視点からの報道がまったくなされていないように見えるのは、果たしていかなる理由によるものだろうか。
〇(1)と(2)については、誰も答えられる人がいませんでした。(3)については、以下のような解説を聞くことができました。
●そもそも現地に送り込まれているスポーツ記者には、バルカン半島の情勢や歴史的経緯についての基本的な知識がない。せめて、これがオリンピックであれば、まだしも国情についての報道が求められるが、W杯ともなると政治的な関心はゼロである。ファンもまた、その手の知識を必要としていない。
〇ということで、(3)については納得したのですが、(1)と(2)はどうなっているんだろう??−−と考えながら帰る途中で、ふと東京財団のリサーチフェロー、菅原出さんが「日本クロアチア協会事務局長」を務めていることを思い出した。で、すぐ電話。答えは以下のとおり。
(1)「あー、そりゃ早く負けろですよ。決まってるじゃないですか。戦争してたんですもの。あいつらにだけは負けたくないと思っていたはずですよ」
(2)「これは彼の出自を調べないと分かりませんねえ。ボスニアはクロアチアとも戦争しましたから」
〇これでスッキリしました。バルカン情勢はそれくらい業が深い。クロアチアは日本と同じ組でしたから、きっと「ブラジルには負けるだろうが、後の2つには勝てるはず」という甘い目算を立てていたことでしょう。日本との引き分けは「計算外」だったはずです。セルビア・モンテネグロは下馬評的にはかなり強そうだったが、これも入った組が悪く、アルゼンチンには6−0で負けてしまった。負けたもの同士で、ちょっとは心が通じたでしょうか。まあ、歴史的経緯を思えば、その程度で消えるような憎しみではないでしょうけれども。
〇日本国内では、「予選敗退は残念だったけど、韓国も負けてくれたからホッとした」という気持ちと、「アジアから誰も勝ち残れないのは残念なので、韓国には勝って欲しかった」という気持ちが混ざっているように思います。その一方で、こういう記事を読んだりすると、「ああ、やっぱり彼らにはついていけない!」という思いもあるわけでありまして。それでもアジアにおけるライバル関係は、バルカン半島よりはずっとマシなはず。
<7月4日>(火)
〇昨日のエントリーに対し、早速情報提供をいただきました。感謝してご紹介申し上げます。
●クロアチア・サッカーニュース http://nogomet.cocolog-nifty.com/hrvgo/
●セルビアのサッカーを描いた木村元彦氏(『オシムの言葉』の著者)の本2冊
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087473368/qid=1151979345/sr=8-2/ref=sr_8_xs_ap_i2_xgl14/250-8309608-7975423
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087472450/qid=1151979345/sr=8-4/ref=sr_8_xs_ap_i4_xgl74/250-8309608-7975423
〇さて、それとはまるで関係ないのですが、中央公論7月号に掲載された拙文は下記で読むことが出来ます。
●劣勢、日中広報戦争の挽回なるか http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20060630-01-0501.html
〇実は今頃になって気づいたのですが、毎日新聞の6月28日付文化欄で、中西寛京大教授が上記をご推奨いただいておりました。まことに恐縮であります。
「吉崎論文はワシントンの知識人の間で靖国神社内の『遊就館詣で』が流行しつつあるエピソードを取り上げて、靖国を反連合国史観の象徴と訴える中国の巧みな広報外交の成果と分析する。日本が中国との二国間関係に拘泥している間に、中国が西側世論の中で孤立化させつつあると見るのである」
〇再び話題は変わって、今週は先週とはうって変わって経済状況が安定して見える。昨日の日銀短観が予想通り(!)良かったこともあるのだけれど、「福井辞めろコール」も心なしか遠のいたようでもある。ふと気がつくと、今後の日本経済には下記のような電車道が用意されているのである。
●7月7日(金) 経済財政諮問会議で「骨太の方針」の答申、閣議決定〜「成長力・競争力強化」「財政健全化」「安全安心の確保」が3本柱。
●7月14日(金) 日銀金融政策決定会合〜ゼロ金利解除の確率は70%と言っておこう。
●7月15日(土)前後 平成18年経済財政白書の発表〜小泉構造改革を自画自賛する予定。
●7月15〜16日 G8サンクトペテルスブルグサミット〜小泉さん最後のサミット出席。
●7月19日(水) 月例経済報告〜読売新聞報道によれば、「年内のデフレ脱却宣言」があるとの見込み
〇まさに騎虎の勢い。ゼロ金利解除だ、デフレも脱却だ、マーケットよ、そこのけそこのけ、てな感じである。これで景気が崩れると目も当てられないのだが、諸般の状況を鑑みるにどうもそんな感じではない。日本経済に死角なし。今月一杯は強気でよろしいんじゃないでしょうか。
〇逆に8月になってくると、以下のような要素が「地雷」になってくるような気がする。
●8月6日(日) 長野県知事選挙〜先の滋賀県知事選に続き、田中知事大差で再選となれば、中央政界の動揺は大きいはず。
●8月11日(金) 4−6月期GDP速報値の発表〜意外と低かったらどうしましょ。
●8月15日(火) 全国戦没者追悼式〜小泉首相、靖国参拝決行なるか?
〇やっぱり焦点は8月15日でしょう。例えば福田康夫氏などは、この日が来るのをじっと待っている風情である。参拝決行となった瞬間に、「有終の美を飾る」となるか、それとも「あ〜あ、やっちゃった」となるか、世間の空気がどっちに転ぶかを読みかねているのではないでしょうか。
<7月5日>(水)
〇今朝のドイツ対イタリア戦は、今大会屈指の名勝負であったと思います。早い攻め、的確な守り、少ないイエローカード。ごくわずかな力の差しかなく、試合は延長戦に。後半残り5分を切った頃に、PK戦に絶対の自信を持つドイツは「何とか時間切れで」と思い、PK戦の苦手なイタリアは「何とかここで決めたい」と思ったのかもしれません。そして劇的な幕切れ。イタリア決勝進出。
〇ところが、こういういい試合を見ずに、ミサイルを発射したアホウがおる。大丈夫かね、ホント。ひょっとしたら「夜でも、雨でも撃てる」ことを見せたかったのかもしれんが、肝心の「テポドン2」は40秒で失速したそうじゃないか。ダメですねえ。でも、ひょっとしたらアラスカに届いたかもしれないものを、テメエ、本当に撃ちやがったな、ということでアメリカさんは重く受け止めています。過去にアメリカに直接、喧嘩を吹っかけたのは大日本帝国とビン・ラディンだけだよ。その後がどうなったか、あんたも知ってるでしょうが。
〇このタイミングで撃ったことで、中国と韓国のメンツもつぶしちゃいました。特に中国にとってはツライです。六カ国協議は無駄だ、ってことになりますからね。安保理ではとりあえず非難決議くらいはすぐ出るでしょう。来週末にはG8サミットもあるし。とりあえず日本は経済制裁発動ということになるでしょう。
〇北朝鮮の問題については、過去に何度も本誌では以下の論点整理をご紹介してきました。神谷万丈先生が「北朝鮮の行動パターン」を分析した結果で、こういう冷戦型の思考がピッタリ当てはまるのが北朝鮮外交なのです。
●北朝鮮問題に関する論点整理
(1)北朝鮮は、生存を望み、自殺行為をしない。
(2)北朝鮮は、成果の見込めない武力行使はしない。
(3)北朝鮮は、成果の見込める武力行使はする可能性がある。
(4)北朝鮮の意思決定は、経済合理性にのみ従っているわけではない。
(5)北朝鮮は、国際的合意を遵守するとは限らない。
(6)北朝鮮は、善意に基づく互恵の精神は期待できない。
(7)北朝鮮は、力の論理は敏感に理解する。
(8)北朝鮮は、いずれ核兵器も弾道ミサイルも保有する可能性が高い。
(9)北朝鮮は、国力のあらゆる指標から見て弱小国である。
(10)日朝関係が改善すれば、北朝鮮には大きな利益がもたらされる。
(11)日本には、日朝関係を改善しなければならない切実な理由はない。
〇どうも今回のミサイル発射は、上の法則を逸脱してきたように見える。「成果の見込めない武力行使」であり、ほとんど「自殺行為」に近い。これまでに西側の戦略家たちの間では、「金正日は自己の状況を認識しており、取引のできる相手」ということがコンセンサスだった。それが狂い始めたということは、やっぱり国内で何かあるのかもしれませんね。特に7発も撃ってきたというのが変。
〇明日は「渡辺よしみセミナー」でパネリストを務めますが、そういえば去年もセミナーの直前にロンドンの地下鉄テロが起きたんだよな。今年もワシは、「地政学的リスクを専門とするエコノミスト」にされてしまうのでしょうか。
<7月6日>(木)
〇渡辺よしみ衆議院議員のパーティーは例年この季節に行なわれるのですが、考えてみたらセミナーのパネリストは3回目である。実は毎回、タイトルが変わっていることに気がつきました。
2003年7月7日 “脱”経済非常事態セミナー
2005年7月8日 日本再生戦略セミナー
2006年7月6日 日本復活セミナー
〇この題名の変化だけ見ても、日本経済は着実に「復活」しているではありませんか。まあ、その代わりに北朝鮮の弾道ミサイルに狙われたりもするのでありますが。やっぱり経済はいいけど、政治と安全保障問題がこの夏の課題です。
<7月7日>(金)
〇ふとしたことがきっかけとなって、ある日突然、自分は非常に偏った人間であることに気づく。というのも、他人が熱心に語っていることに対して、自分はまったく何の興味も湧かないというとき、人は速やかにその内容を忘れてしまうことでしょう。ところが、あまりに見事なすれ違いであったために、「うわぁ、こりゃ凄い」と感心してしまう経験がありました。忘れないために、以下、書き留めておきましょう。
〇某日、古い付き合いのSさんが早期退職制度で退社されることになり、一緒にランチしたのであります。でもって、「これから何をやりたいか」を伺ったのですが、聞くことすべて耳新しく、ものの見事に当方の関心の領域外にある。Sさんはメーカーで環境対策やCSRを担当していた人なので、関心の向かう先が違うのは無理もないのだけど、「なるほどワシはこんなに無知であったか!」と感心したのであります。以下は、退社後のSさんがこれからやろうと思っていること。
●循環型農業:化学肥料を使わないことが重要であるらしい。「世界で一番、循環型農業がうまく行っているのはキューバであり、それはアメリカの制裁によって化学肥料が入ってこないからである」ことを学習。
●西アフリカ支援:例の「モッタイナイ」の人について、あれこれ聞いたのですが、哀しいかな何も思い出せない。きっと、「砂漠に水撒くのも大概にせーや」、などと思いながら聞いていたからに違いない。
●近所の山里の保護:「山里」と「里山」は違うものであるという説明を拝聴する。もちろん再現不能である。
●ビッグ・イッシュー:ホームレス支援の手法であるらしいが、その後、周囲の人に聞いてみても、この言葉を知らないのはかなり恥ずかしいことであるらしい。
〇結論として、かんべえはやっぱり人非人であるらしい。はっきり言ってワシは、感情が素直に顔に出てしまうタイプなので、さぞかし「あ〜つまんね」という態度で聞いていたはずである。Sさん、これ読んでたらゴメンネ。所詮は縁なき衆生でありますので。
<7月8〜9日>(土〜日)
〇この週末はとにかく爆睡状態。横になったらすぐ寝てしまう。で、W杯三位決定戦の時間には起きられませんでした。後からダイジェストで見ただけですが、たいへんいい試合だったようですね。試合終了後は、ドイツもポルトガルも満足感があったように見えました。
〇とくにドイツは、開催国としては最高の終わり方ではないでしょうか。変な話、決勝に進出していたら、闘将カーンの引退試合をこんな風に演出することはできなかったでしょう。サポーターも盛り上がって、後味の良いエンディングだったと思います。これでカーンが引退し、これから行なわれる決勝戦でジダンが引退する。次の2010年大会では、たぶんフィーゴも、ひょっとしたらベッカムも出てこない。でも、きっとその分、新しいスターが登場するのでしょう。
〇主審の上川さんもいい仕事をされたようです。選手たちよりも、一足先に審判の方が大きな舞台を踏むことになりました。結構なことだと思います。こういうことを積み重ねて、「審判は日本人に任せればいい」という評判ができたらいいですね。実際、日本人はあんまりウソをつかないというイメージがあるし、ルールには厳格だし、買収するにもあんまり適していない。審判には向いていると思うんですよね。
〇さて、決勝戦には起きられるかどうか。どうも寝てしまいそうな予感・・・・。
<7月10日>(月)
〇目が醒めたときには、すでにW杯決勝戦は延長戦でした。ともに消耗しているフランスとイタリアが、ややフランス押し気味でゲームを展開中。と、そこでアレが起きたのであります。ジダンの「かいしんのいちげき」が。
> http://ranobe.sakuratan.com/up/src/up121518.gif
〇ジダンがぶち切れてしまったのはなぜなのか。マテラッティは、果たして何を囁いたのか。う〜気になる〜。きっと今頃はいろんな説が飛び交っていることでありましょう。
〇もはや旧聞となりますが、2000年秋の「加藤政局」の際に、内閣不信任案への反対演説を行っていた松浪健四郎衆議院議員は、突如としてマジギレして壇上からコップの水を撒き、衆目を集めました。松波議員の神経を狂わせたのは、今年になって「メール問題」で辞任した永田議員の心無いヤジであったそうです。それは・・・・・「扇千Xと何発やったんだ?」
〇・・・・失礼しました。
〇さて、本日は岡崎研究所と上海国際問題研究所の第6回日中安全保障対話でありました。何とも劇的な日に重なったもので、わずか1日のセッションではありましたが、収穫は大きなものがありました。おそらく佐藤守さんもエントリーされるでしょうが、とりあえず今夜はもっとも関心の高い北朝鮮ミサイル問題について記録しておきます。
〇中国側は困っていましたね。中国にとっての朝鮮半島政策は、とにかく安定を保つことが最優先課題です。経済制裁を実施すれば、問題は複雑化するし、軍事行動につながるかもしれない。下手をすれば、何万、何十万という難民が発生する。中国側に在住する朝鮮族の問題とも重なるので、かかる混乱は絶対に避けなければならない。ということで、以下のようなタテマエ論が飛び出すわけです。
「北朝鮮の戦術的な振る舞いに対し、過剰に反応すべきではない。核開発とは違い、ミサイルそのものには軍事的な意味は小さいことは、皆さんはご存知であろう。いやしくも北朝鮮の体制より先に、六カ国協議の枠組みが崩壊するようなことを許してはいけない」
「経済制裁を実施しても、あの国の上層部には届かないし、庶民が困るだけだ。順序の問題もある。キューバの例をご存知だろう。外交の前に制裁をはじめてしまうと、効果がなくなってしまって後が続かない」
〇ということで、とにかく中国としては、安保理の非難決議で賛成票を投じることはとても不可能。棄権も困る、という状況。今日のところは、武大偉外務次官が平壌に赴いているが、しかるべき妥協を得られるかどうかは怪しいところである。そもそも金正日に会えるのか、という点からしてかなり心許ない。
〇北朝鮮は、「金融制裁を止めてくれれば六カ国協議に出てもいい」と言っている。が、そもそもアメリカは、あれが経済制裁であるとは言っていない。偽札や麻薬やマネロンといった違法行為を普通に取り締まっているだけだという認識である。それを元のように緩めてくれ、などということを、どの面下げて頼むのか。いささか道義的にも問題がありそうではないか。
〇そこで当方からは、こんな風に言ってみる。
「それは困ったことになりますね。アメリカの立場からすれば、いちばんありがたいのは中国が拒否権を行使して、安保理決議が流れてしまうことでしょう。その場合、『そこまでするということは、中国が責任を持つのだな』ということになりますからね」。
〇おそらく日本にとっても、同じ事が言える。仮に安保理決議が通ったとしても、中国は本気で経済制裁はできないだろう。だとすれば、決議を破綻させておいて、中国に対して負い目を与えながら、有志連合で北朝鮮を制裁する方が「お得」というものである。この際、日本としては制裁そのものに実効性があるかどうかよりも、とにかく「怒っているぞという意思表示する」ことが主眼となるからだ。
〇中国にとってそれ以上に怖いのは、アメリカの対中認識が一変してしまう可能性である。アメリカの外交政策は極端にぶれる。今は『中国は責任あるステークホルダーたれ』と言っているが、これで安保理決議に単独で拒否権を行使したら、『やっぱり中国は責任あるステークホルダー足りえない』ということになって、米中関係が根底から引っくり返るかもしれない。
〇こうしてみると、中国と北朝鮮の間のLove &
Hateも相当にドロドロの世界である。ひょっとして、ミサイル発射は中国を困らせるための弱者の恫喝だったのでは?などと思ったりもする。とりあえず日米の側は、安保理決議が通ればよし、通らなくても面白いという状況になっている。
〇さて、安保理決議の行方はいかに。明日の朝には結論が出ているでしょう。
<7月11日>(火)
〇何となく今朝も5時台に目が醒めた。でもサッカーはない。W杯のない日常が始まっている。
〇昨日の続き。第6回の日中安保対話は、昨年秋に行なわれた第5回とは大変な様変わりでした。この間、半年しか経っていない。確かに彼らから見ると、今回はアウェイでの戦いになるし、時間も限られている。だから結論を急いだのかもしれないが、1日の対話の中で靖国問題の「や」の字も出なかったというのは、思えば不思議なことである。これで相手が岡崎研究所でなくて、もうちょっとGuilty
Trapをかけられそうな相手であれば違ったのかもしれないが、とにかくひと言も触れてこなかった。諦めちゃったのかな? だとしたら、突っ張り通した小泉戦略は大成功ということになる。
〇中国側の、日米同盟に対する評価も変わったと思う。昨年秋の時点では、「日米同盟の強化が東アジアの不安定化につながっている」てな言辞が多かった。それがもうほとんど出ない。日本は「普通の国」に向かって動き始めており、日米は一枚岩となってしまっている。それはもう中国側としても認めざるを得ない。でも、それとは別に多国間もあるでしょ?中国は上海機構で上手にやってますよ、みたいな一歩引いた物言いになっていた。昨年秋の時点では、まだ「日米離間策」みたいなことを真面目に考えていたと思うのだが。
〇その上で中国側は、「東シナ海における日中衝突は危険なので、相互に信頼醸成措置を始めましょう」みたいなことを言い出した。具体的に言えば、日中間のホットラインの敷設などである。それって昨年秋に、日本側が「できることから始めましょう」と提案した内容じゃないですか。だのにあのときは、「まず日中間の原則の確認を」などと言って取り合わなかった。それに何より今回は、「東シナ海の問題はエネルギーではなくて領海の問題である」と認めてきた。結構なことである。東シナ海のガス田など、採算が採れるかどうかも危ういケチな代物である。昨年、そのことをうるさく指摘した当方としては、まことに喜ばしい。
〇やはりこの半年間で、中国側に大きな変化があったらしい。理屈は一杯つけてきますが、とにかく日本側に歩み寄っていることは間違いないと思う。「これは前進ですよね?」と念押ししたが、もちろんそういう問いに対して返事はなかった。返事がないということは、重要な問いであったということなのだろう。かんべえはやっぱり、5月末の日中省エネ環境フォーラムが重要な転機だったのではないかという印象を持っているのだが。
〇今宵は千葉7区補選で破れた斉藤健氏に会う。思えば「最初はグー」からもう3カ月近くたつ。現在は「自由民主党 千葉第七選挙区支部長 兼 幹事長政策補佐」という肩書きで、南流山に居を定めて再起に賭けている。「公務員を辞めて、いろいろできる機会をもらった。あと3年あるかもしれない時間を大事に使いたい」とのことでした。斉藤さん、近いうちにご近所でやりましょう。
<7月12日>(水)
〇今頃なんですが、『オシムの言葉』(木村元彦/講談社インターナショナル)はいい本ですね。ほっといてもベストセラーになりそうな勢いですが、とにかく読んでいて「こういう人間が居たのか!」という新鮮な感動があります。
〇まず、この人は顔がいい。かんべえは最近、「人間の顔って大事だな」と思うことが多い。先日、さる人が「経済ジャーナリズムは何をしていたのだ!村上世彰なぞ、あの顔を見て、誰も怪しいとは思わなかったのか?」と言っておられたのを聞いて、うーむ、そういうことって、たしかにあるよなあ、と思ったことがきっかけです。その点、オシム監督の顔は、近頃の日本人には見かけないような歳月の深さがあると思う。
〇次に、この人の言葉には味がある。言葉というのは、発する人の個性と一体となって効果を発揮する。オシムの言葉にはオリジナリティがある。だから凡人が真似をしてもダメだろう。たとえばこんな言葉である。
「残念なことに休みを与える(笑い)。ただ、忘れないで欲しいのは、休みから学ぶものはないという点」
「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか? 準備が足らないのです」
「シュートは外れる時もある。それよりあの時間帯に、ボランチがあそこまで走っていたことをなぜ褒めてあげないのか」
「そんなものに耐えられないならば代表監督などにならぬほうがいい」
「PKに運がない? 監督になる前からPKには運がない。ずっとそうなので、もう慣れたよ。PKで勝ったとしても、本当の勝ちではないと思うようになったからね」
〇思うに、重い人生を背負って初めて出せる言葉というものがある。オシムがユーゴのナショナルチームを率いていたとき、ユーゴは世界のどこでやるよりもホームでの試合が困難だった。なにしろサポーターが、他国のチームを応援しちゃうのだから。各共和国が分裂し、内戦状態になり、サラエボに残してきた妻とはまったく連絡が取れない。そこまで深い業を背負ってサッカーをした人は、少なくとも日本にはあんまり居ないはずである。
〇それから、オシム監督には教育者としての情熱がある。教育者というものは、多少、ベクトルが間違っていてもいいから、とにかく周囲を感化するような強烈な磁力を発しているべきものだ。トルシエはサッカーの戦術面はちょっと変だったが、熱血教師的な情熱はある人だった。ジーコは逆に、サッカーをよく知っていたにしても、教育者としての情熱は感じられない人だった。余計な話だが、かんべえは自分がその手の素養がスカッと欠けた人間であるために、トルシエはわりに好きであったし、ジーコは責められないと思っている。
〇今後のサムライブルーは、あんまり目覚しい活躍をしそうには思えないのだが、それでもオシムが監督をしてくれるのは嬉しいと思う。こういう外国人が、日本を気に入ってくれて、人生最後になるかもしれない仕事をしてくれるのは、それだけで得難いことではないか。
<7月13日>(木)
〇「戦争体験のある財界人」のお話を聞いてきました。中国戦線で実際に戦闘経験のある方なのですが、以下のような話は意外と知られていないのではないかと思います。
●太平洋戦争中の中国には100万の日本兵がいたが、その大半は「占領軍」であった。彼らは戦後日本におけるGHQのようなものであり、北京駐在の兵士などは、悪くない暮らしぶりであった。
●戦闘部隊の状況はこれとはまったく違った。例えば映画に出てくる軍隊では、「起床ラッパ」が出てくるが、前線の部隊にそんなものは存在しない。(敵方に起床時間を教えるような馬鹿な真似はしない)。いつ、何が起こるか分からない、文字通り「常在戦場」であった。
●そういう状況ではあったけれども、自分は上官に恵まれていたせいか、軍隊にいるのが嫌だと思ったことはほとんどない。本当の意味で戦争で苦労されたのは、南方戦線で飢えと戦った人たちや、ソ連に抑留された人たちではないか。
●戦争中、本土からの情報はまったく入らず、家族からの手紙1本届いたことはない。それでも終戦は分かった。なんとなれば、中国大陸では1945年7月26日から、日本軍の軍票がまったく通用しなくなったからである。それはポツダム宣言公布の日であった。
●その頃、中国人が「沖縄の歌」をよく歌うのを聞いた。「沖縄で大きな戦闘があったのだろうか」という噂をしていた。中国人がどうやって戦争の情報を得ていたのかは、まったく分からない。
●8月15日の終戦の詔勅は、当時のラジオの性能が悪かったこともあり、内容を聞き取れた人はほとんどいなかった。本当は、翌日の新聞を読んで終戦を知った人の方が多かったはず。天皇陛下の声に人々が涙するというシーンは、後から作られた記憶であるのかもしれない。
〇さて、明日は内外情勢調査会で大分に出張です。早起きしなきゃ。
<7月14日>(金)
〇大分市に来ております。こっちは好天です。
〇大分市というと、吉良州司さんの地元。吉良さんは日商岩井のOBであるというだけでなく、かんべえが入社したときの人事担当者なので、当方のことには若干の責任がある。ということに甘えて、「14日に行きますから遊んでください」と頼んでいたのである。が、さすがに世間は甘くなく、先日になって「ゴメン。東京で仕事が出来ちゃった」という電話がかかってきた。やっぱりアナタは私よりもオザワを選ぶのね、ふんっ。
〇その代わりに、本日は吉良さんの事務所、支援者、マスコミ関係者などに大変お世話になりました。ご案内いただいた由布院はすばらしい場所です。フグがこの季節に食べられるとは驚きました。そして大分市の繁華街の賑わいはたいしたものでした。本当はもっとあれこれ語りたいところなのですが、いかんせん今宵は飲み過ぎました。すいません、このままダウンしちゃいます。とってもとってもお世話になりました。ごちそうさま。ぐふっ。
<7月15日>(土)
〇今月初めに、三原淳雄さんから電話があって、どこで聞き込んだやら、「大分にいくんだって? いやあ、かんべえが大分のことを何て書くか、今から楽しみだなあ」などとプレッシャーをかけるのである。しょうがないから、「大分でお勧めの場所はどこですか?教えてくださいよぉ」と聞くと、「あー、別にたいしたものはないよ。だいたい大分はねえ、土地がせせこましくて、人間がよろしくない」などとおっしゃる。って、そりゃあ三原さんのことですか、という言葉を思わず飲み込んでしまったが、九州では「大分の県民性は佐賀県以下」などという悪口もあるらしい。
〇そこまで言わなくとも、とは思う一方で、大分県の意外な名産に「日銀総裁」がある。なんと井上準之助、一万田尚登、三重野康の3人がそうだというから凄いではありませんか。どれもこれも「男子の本懐」みたいな人たちである。というか、歴代29代(=27人)の総裁中、強烈な印象を残した人物というと、この3人のほかにはあんまり見当たらない。現在の日銀総裁は大阪出身のとっても柔和な方で、昨日は如才なくゼロ金利を解除しちゃいましたが、本来の日銀総裁というのは「大分県タイプ」であるのが正しいような気がします。
〇で、問題は大分県の地形であります。山がこう、独特な形なんですね。山脈でなし、丘陵でなし、ひとつひとつ個性的な山々が平野に迫り、海岸線を見下ろしている。このため、平地が狭くて細かく分かれており、「縄張り意識が強くて、まとまりの悪い県民性」(三原御大)を生んでいるということになる。歴史的にも、江戸時代の大分県内には8つの藩があり、日田の天領に加えて、他藩の飛び地まであったので、もともと県としての一体性は薄い。平松知事の名高い「一村一品運動」にしても、実は各市町村が独立心が豊かであったから、可能だったのかもしれない。
〇それにしても不思議なくらい、九州にある7つの県は、それぞれに地形が違う(すいません、長崎と熊本はまだ行ってませんけど)。そのせいだと思うけど、九州各県は実に個性豊かである。九州出身者は、「お前は大分か、ワシは熊本じゃ」などと、すぐに連帯する傾向がある。(これが四国になると、まるで一体感がない)。これは「九州」に求心力があるからではなく、各県のバランスが取れているからではないかと思う。世に言う道州制の論議に対して、かんべえはちょっと冷ややかであって、「県」という単位は意外と重要なんじゃないかと思っている。
〇ちょっと飛躍するけれども、今年4月に経済同友会が「今こそ日本ブランドの構築を」という提言を行なっていて、これが外国人の委員長の視点で書かれていて面白い。これによると、日本の最大の魅力は"Unparallered Diversity"(比類ない多様性)であるという。え、日本って、どこへ行っても同じじゃないですか?というのは大いなる勘違いというもので、これだけの国土の中で、スキーが出来て、マリンスポーツが出来て、風光明媚な場所や旧処名跡が多くて、うどんの出し汁だけでも50通りくらいある、なんて国は滅多にあるものではない。日本って国は、意外なくらいに多様性があるのであります。
〇話を大分県に戻すと、「チーム九州」の中での大分は、ちょっと変わり者のバイプレイヤーといったところだろう。その実力がやや過小評価されているところが、観光客としてはお買い得感がある。関アジ、関サバだとか、かぼすだとか、名物はいろいろあるのだが、「大分ブランド」というものが少ない。でも、気候は落ち着いているし、食べ物は安くておいしいし、別府や由布院のような温泉もある。それから今回学習したことは、「ふぐを食うなら下関より大分」。その理由は、行ってみてからのお楽しみです。
〇ひとつだけ問題点があって、それは空港の場所が不便なこと。大分市からでも1時間はかかるからなあ。もっとも、この交通の便の悪さが、由布院のような通好みの名所を残してくれたという面もある。大分の良さは、変わり者の良さなのかもね。
<7月16日>(日)
〇今日は恒例の町会の夏祭り。大変なんですよ、これが。
〇面白い経験をしました。祭りに使う氷を買いにいったんです。地図を頼りに製氷所を訪ねていくと、柏市郊外の小さな工業団地の中にありました。日曜日なので、事務所には人が一人だけ。で、「夏祭り用の氷を買いたいんですが」というと、ちゃんと倉庫から出してくれました。頼まれてきたのは「15貫目」で6000円である。これが安いのか高いのかは不明。1貫目ごとに切れ目が入っていて、素人でも簡単に割れるようになっている。15個の氷は、麦茶を冷やすのや、午後から子供たちに提供するカキ氷に使われる。
〇事務所の人によると、「最近は氷の需要も減ってねえ」とのこと。来週に予定されている柏祭りも、年々規模は拡大しているのに、氷の注文は減っている。自前の製氷装置をもっている商店の参加が増えて、縁日の業者さんの参加が減っているかららしい。氷屋さんから、「おいしいカキ氷の作り方」のコツをいろいろ伺う。要はちゃんとした氷を、ちゃんとした機械で削りなさいということで、そうすると売れ行きがまるで違うという。
〇でも、ウチの夏祭りは、事前に子供にカードを配ってあって、それを持っていけばカキ氷や焼きそばやヨーヨー釣りがついてくる、という方式なので、使う量はあらかじめ決まっているのです。で、子供たちの反応を見ていると、やっぱりカキ氷は人気がある。氷にシロップをかけただけの単純なスタイルなんですけど、真っ先に行列ができるものね。まあ、今日も暑かったし。
〇子供の頃のカキ氷はご馳走でした。そういえば金時や白玉なんてのは、長らく食べてない。ちゃんとしたカキ氷を出してくれるお店というものは、あんまりこちらでは見かけないもので。
〇ところで夏祭りのために、「サンプロ」を休んだのは顰蹙であったかもしれぬ。今日、出ておれば板倉雄一郎氏に会えて、馬英九氏に質問が出来たらしい。ちょっと惜しかったかも。番組からは、「その代わり8月は頼みますよ」といわれてしまった。へへっ。とりあえず来週はちゃんと出る予定です。
<7月17日>(月)
〇幕張メッセの「世界の巨大恐竜博2006」に行ってきました。なんだか毎年、夏になると子供と一緒に恐竜展を見に行っているような気がするな。毎年、見ている者からすると、この世界の進歩はなかなかに目覚しく、今日の展示も目玉のスーパーサウルスがまことにド迫力。それから、当時の恐竜の姿を再現しているCG映像も気が利いている。もっとも、お値段の方もド迫力であって、果たしてチケット代だけの価値があるかどうかは意見が分かれるかもしれない。
〇今週末にオープンしたばかりで、「当日券を買うのに行列が出来ている」と聞き、わざわざ柏駅の「みどりの窓口」でチケットを買ったのだが、そちらが20分待ち。ところが現地に行って見ると、雨のせいもあって当日券の窓口はガラガラであった。悔しい。ちなみに、「みどりの窓口」は、世間でやっている大概のイベントのチケットを売っているので意外と便利です。ただし混んでない駅であればね。
〇かんべえも子供の頃は「恐竜博士」だったクチなのだが、最近の恐竜研究の進歩たるやすさまじく、ワシの知らないことが一杯あるではないか。なおかつ、それをウチの子供が知っていたりするのがちょっと口惜しい。
〇恐竜が大全滅した中生代と新生代の境界には、巨大隕石の衝突であったという話は、かれこれ15年程前に決着がついたらしい。当時の地層には、その手の証拠がしっかり残っているのだそうだ。ワシが子供の頃には、恐竜絶滅の理由としては、氷河期が来たとか、哺乳類に卵を食い荒らされたといった解説がされていたものである。ま、その辺まではワシも聞いている。
〇今回初めて知ったのだけど、恐竜が登場するようになった古生代と中生代の間にも、「P−T境界」と呼ばれる大量絶滅があったのだそうだ。だいたい2億5000万年前のことである。ちょうどこの頃、パンゲア大陸の分裂が始まっている。そこで最近の学説では、地球内のマントルが噴出し、「スーパーブルーム」と呼ばれる現象が起きて、地球上で大規模な環境変化が生じたということになっているのだそうだ。地上の生物の95%が死に絶えるという、地球史上最大の事件であった。(追記:地質屋さんのこの方からご指摘あり。Superplumeなので、「スーパープリューム」と表記するのが正しい。ご指摘、ありがとうございました)
〇こういう大量絶滅はこれまでに都合、5回起きているらしい。そのたびに生物には進化が起きている。P―T境界の全滅後に恐竜が登場し、それが全滅して哺乳類の時代が始まる。なんとなく、シュンペーターの「創造的破壊」を髣髴とさせるけれども、破壊なきところに創造なしというのは、進化の根本的な姿であるらしい。
〇かんべえがまだ若かった頃、1987年10月20日にブラックマンデーという事件があった。「俺たちは今、世界的な大事件に遭遇しているなあ」と言ったところ、京大農学部卒のOという同期社員が、「なあに、社会の事件なんちゅうもんは、大自然のドラマに比べれば小さいもんや」と言っていた。Oというのは、一緒にNTT株の第1次放出分を買った仲間なのだけど、飲む、打つ、買うと何でもござれの不良商社マンで、褒めるところに苦労するような人間なのだが、そのときだけは妙に尊敬の念を感じたものである。
〇昔から、自然科学を追究している人たちというのは、なんとなく自分より偉いと思っている。この気持ちを忘れぬように、ときどき恐竜展やプラネタリウムなどを見に行きたいものである。
<7月18日>(火)
〇安保理決議やらG8サミットやら、いろんなことがある日々が続いておりますが、当不規則発言はここ数日、お気楽ネタが続いておりました。今宵は毎度おなじみ東京財団の若手安保研だったので、その辺のことについてちょちょいと触れておきます。
〇安保理決議は、まあ、あんなもんでしょう。日本外交の成果と胸を張るほどでもないが、中国にしてやられた、アメリカは二枚舌だなどと悔やむほどでもない。W杯のジーコ・ジャパンとは違って、事前の期待値はそれほど高くはなかったしね。ところで安保理の中で精一杯頑張ってみると、なるほど常任理事国の椅子には値打ちがあることが分かってきた。今回、日本が非常任理事国でなかったならば、それこそ犬の遠吠えに近い状態になったかもしれない。逆に悲哀をかこっているのが韓国であって、彼らは安保理に出てきて発言することも出来ない。気の毒過ぎ。敢えて言おう。「拒否権がなくてもいい。やっぱり常任理事国になりたい」と。
〇ところがサンクトペテルブルグのサミットを控えて、北朝鮮にばかり注目が集まるのは片腹痛いと思ったか、ヒズボラやらイスラエルやらがドンパチ始めてしまい、そっちの方が一大事になってしまった。ミサイルを人のいない海に向けて撃つのと、人のいる場所に向けて正確に撃つのでは、それは後者の方が問題は大きい。にもかかわらず、G8の最重要課題が北朝鮮問題であったかのような報道をしているわが国報道機関は、いったい何をしておるのであろうか。マーケットはさすがに賢くて、中東情勢の混乱を嫌って今日の株価は盛大に下げている。きっと日本の新聞を読んでいないからだろう。
〇この間、日本の安全保障政策を指揮していたのは、小泉総理がご出張中であったので、留守を預かる安倍官房長官と麻生外務大臣という超攻撃的2トップであった。で、まあ、これが「なかなかやるじゃん」という感じなのだが、ふと気がつくと「ポスト小泉政権って、もう始まっているんじゃないの?てゆーか、これってプレ安倍政権じゃん!」とはたと気がつく。
〇そうなんです。今の日本政治のシステムにおいては、首相はCEOで官房長官がCOOなんです。しかも首相が外遊中となれば、臨時首相代理の官房長官はまさにオールマイティ。そんなところへ安全保障上の問題が発生したのは、何か運命めいたものがあるのかも。これはやっぱり福田「箸休め政権」の可能性は低いんじゃないでしょうか。まさかと思うけど、小泉さんはそこまで読んでいた?
<7月19日>(水)
〇今日は自民党本部に斎藤健氏を訪ねて、「ポスト小泉時代のニッポン外交」について話を伺ったのですが、「エネルギー外交」についてこんな風に言っていたのが印象に残りました。
●1バレル70ドルで計算すれば、「赤字だから」ということで廃止された石油公団は立派に黒字であった。
●1バレル70ドルで計算すれば、サウジアラビアの石油埋蔵量は1200兆円になる。なんと日本の個人金融資産1500兆円よりも小さい。
〇エネルギーの世界に地政学が帰って来た。以前から、かんべえはそんな印象を持っている。1980年代に商社に入ってくるような学生は、半分近くは「エネルギーの仕事がしたい」などと言っていたものである。当時はまだ冷戦時代であったこともあり、オイルメジャーや巨大油田が出てくるような世界は、「ゴルゴ13」のようにカッコよく見えたのである。が、実際のエネルギー商売というものは、公益企業相手の地味な仕事であったり、資源開発も一社でリスク負って勝負するなんて事は滅多にあるものではなく、得てしてそういう幻想は打ち破られるものなのであった。
〇そのうち90年代になると、「石油は政治商品である」という幻想もまた、打ち破られることとなった。90年代末には、石油価格は1バレル10ドル台にまで低下し、「カネ出せば買えるじゃん」「日本の場合、そのカネもあるんだし」ということになった。この間、オイルメジャーも合併やらリストラやらが相次いで、技術者が大量に辞めてしまったりしたらしい。
〇かくして油断しきっていたところへ、21世紀になってから「中東の地政学的リスク」と「中国における需要拡大」がやってきた。これで石油価格は天井知らずとなり、上述のような次第となったわけである。今となっては、民間の石油会社は世界を相手にするには利益が小さ過ぎ、政府は石油公団のような手足を失ってしまっている。こんなので、オイルメジャーや中国の資源外交にどうやって太刀打ちするの、というのが現下の課題なわけである。
〇それでも日本の場合、「少子高齢化なので、需要はそんなに増えない」という利点もあるし、あいかわらず(サウジが買えるほど?)カネもある。とりあえず、「エネルギーは政府が関与すべき問題かどうか」という点をキチンと詰める必要があるのではないか。答えは自明だと思うけれども、こういうときの日本政府の常として、「アレは間違いでした」ということを認めるのが難しく、意外と手間取るのかもしれない。
<7月20日>(木)
〇昨日と同じテーマで、今日は神谷万丈さんに話を伺いました。聞く人によって、いろんな答えが返ってくるところがこのテーマの面白さであって、「まず国家目標の設定を」という人もいれば、対米、対中関係などの具体的な問題を挙げる人もいる。外交インフラであるところの、政治家のネットワークや外交官の力量、あるいは情報機能の問題を取り上げる人もいる。もちろん「憲法9条の改正を」といった国内問題に着目する手もある。その点、神谷さんのrecommendationsは一味違っていましたね。
〇日本外交に欠けているのは、「理念」であり、「価値」であり、「優先順位(priority)」である。さらに言えば、「説明能力」であり、「英語での情報発信」である。煎じ詰めると「言葉の力」が足りないということになりそうだ。そもそも日本は何がしたいのよ、という点が見えないために、日本外交は理解されず、他者に働きかける力が弱い。最近は「日本のソフトパワー」論が流行ですけど、理念という中核を抜きにして、アニメだ漫画だという枝葉で勝負しても、そこは限界があるのではないでしょうか。
〇こういう欠点は、日本企業の海外展開についてもそのまんま当てはまります。特に企業戦略に優先順位をつける、ということが得意じゃない。プランはついつい総花的になり、資料は手の込んだパワーポイントになるんだけれども、「要は何がやりたいんだよ」という単純なことが見えてこない。幸い、企業は「製品」という形でみずからを知ってもらうことが出来ます。「トヨタのクルマ」「ソニーのAV」など、商品の雄弁さによって、「言葉の力」不足を補うというのが、日本企業の常であります。
〇考えてみれば、小泉外交は、「いちばん大事なのは対米関係だ」とスパッと言い切ったところが偉かったのでしょう。つまり日本外交のpriorityを示したし、国民もそれに納得した。ところが対外的には、「小泉さんの言葉」は十分に届かなかったように見える。国内では「ワンフレーズ」が良く効いたんですけどね。次期首相の外交は、まずは気の利いたキャッチフレーズを考えるところから始める必要がありそうです。
<7月21日>(金)
〇今から十数年前に、「イオン」では大規模なお客様アンケートを行なったのだそうです。その結果、判明したことは、「お客様は立体駐車場が嫌いである」ということでした。これはスーパーマーケットにとっては、非常に重要なことを意味します。お客様は平面駐車場を望んでいる。しかも、できればスーパーの入り口近くにクルマを停めたいと考えている。だとすれば、スーパーは駐車場用に広い土地を確保する必要がある。ということは、駅前店ではダメだ。これが理由のすべてではないでしょうが、かくしてイオンの「郊外型大規模店舗」の展開戦略が始まったのでありました。
〇なるほど思い当たる節がある。かんべえが週末にスーパーに行くときは、いつも立体駐車場にクルマを停めている。なんとなれば、平面駐車場では雨が降ると面倒だし、夏場には車内が蒸し暑くなることもある。だったら屋根のついている立体駐車場の方が良いではないか(ただし屋上は願い下げである)。ところが世間の人たちは、不思議と平面駐車場を好むようなので、平面空き待ちのクルマが行列を作っていて、立体への入り口が塞がれていることがある。そういうとき、かんべえは運転席で「ふんっ、平面原理主義者めっ」と腹を立てるのであります。
〇偏見を承知でいいますと、平面原理主義者はクルマの運転がうまくない。縦列駐車なんてもってのほか、というタイプが多いのでありましょう。それで辛抱強く平面駐車場が空くのを待っている。最近、ウチの近所で出来ているショッピングモールでも、平面駐車場を広く取り、しかも入り口をたくさん作ってどこからでも入れるようにして、結果として「平面駐車場で入り口の近く」に多くの人が駐車できるように心がけている。もちろん立体駐車場もついているのだけれど、それは平面を諦めた人たちが仕方なしに選択しているらしい。
〇イオンはスーパーの郊外への出店で先鞭をつけましたが、同様な現象は全国の至るところで生じています。このことは、全国の地方都市において「駅前のスプロール現象」が生じるという副次効果を招きました。かんべえの知る限り、その現象が起きていない県庁所在地といえば、沖縄県の那覇市くらいでありましょう(もともとクルマ社会であったから)。
〇このままでは全国の駅前商店街がすたれてしまう、とばかりに「まちづくり三法」なんぞができたわけですが、郊外型店舗を求めるお客様の動機が、「なるべく平面駐車場にクルマを停めたい」というズボラな気持ちにあるのだとしたら、これはなかなかに解決の難しい問題であります。ワシはやっぱり、立体駐車場の方が便利だと思うけどなあ。
<7月22〜23日>(土〜日)
〇今日のサンプロ終了後、ランチの席上で思いついた話なのですが、「小泉首相の演説傑作選」のDVDを作ったらどうでしょう。これは売れると思うけどな。
〇まず冒頭は2001年春の総裁選から。田中真紀子さんに「男でしょ、立ちなさい」といわれて、「女性に立てと言われて立たないのはどうも・・・」と、下ネタ同然で事実上の出馬宣言。次はもちろん施政方針演説。「聖域なき構造改革」「米百俵」「恐れず怯まずとらわれず」など、この年の流行語大賞が続出。どうせだから、貴乃花優勝の際の「感動したッ!」も入れちゃう。
〇中盤では、2002年9月の日朝首脳会談、2003年3月の「イラク戦争支持宣言」などが重い。もちろん、「人生それぞれ」「自衛隊のいるところが非戦闘地域」などの問題発言も収録しないといけません。党首討論はいろいろありましたが、やっぱり菅さんとの頃がいちばん面白かったように思います。
〇終盤の山場となるのは、もちろん昨年夏の「郵政演説」。これは編集せずにフルに収録したい。9・11総選挙の応援演説もいくつか入れて、「小泉劇場」を振り返る。トータルで2時間くらいを目標とする。解説は田原総一朗。絶対に本を書きそうにない小泉さんですから、DVDを作ればいいんじゃないかと。
〇ところで昨夜は上海馬券王先生が来ておりました。またしても「木曽路」で一杯やりました。上海の繁栄ぶりはますますすさまじく、「このままではプロレタリア革命が起きるのではないか」とのことでした。座布団1枚。
<7月24日>(月)
〇言うまいと、思えど今日も雨ですなあ。
〇ひょっとすると梅雨明けはお盆の頃かもしれないという昨今、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。全国的にこれだけ雨が続くと、変な話、暑中見舞いだって出せませんよね。あるいは高校野球なんて、ちゃんと試合数を消化できるんでしょうか。いやいや、景気だって心配になってくる。7月10日発表の景気ウォッチャー調査なんぞでも、数値が思い切り悪化していて、ワールドカップと天候不順が犯人ということになっていた。農作物への影響も心配だ。1993年の冷夏の際には、真面目な話、秋におコメがとれなくて緊急輸入をした。ひょっとすると、今年もそんなことになるんじゃないか。
〇てなことで、ついつい悲観論が先に立ってしまうのだけど、弊社で環境がらみを中心に受託調査をやっているN君いわく。「これでCO2の排出量が減りますねえ」。−−そりゃそうだ。長雨が続くせいで、今年はあまりエアコンを使っていない。察するに、電力消費量も例年に比べれば少ないはずである。「マイナス6%」という目標が達成できるかどうかはさておき、CO2の排出量削減のためには、長雨はクールビズよりは貢献度が高いだろう。
〇しかしよくよく考えてみると、長雨の理由は何かといえば、おそらくは自然破壊が原因であって、CO2の排出量増加があるのではないか。とすると、CO2が増えることで地球が温暖化し、結果として雨の量が増えて、そのお陰でCO2が減るということになる。おお、これぞ神の見えざる手ではないのか。人間はちょこざいなことに、地球環境を守れ、CDMだ、リサイクルだ、ゴミは分別して出せ、などと偉そうなことを言う。が、所詮は人間も自然の一部。お天道様には逆らえないのである。
〇てな屁理屈はどうでもいいから、明日天気にならないかなあ。
<7月25日>(火)
〇昨日は統計研究会で講師を務めました。これで3度目。2003年夏が自民党総裁選、2004年春がアメリカ大統領選、そして今回はもちろんポスト小泉がテーマである。かくして面白そうな選挙があるたびに、伝統ある団体の錚々たるエコノミストの方々を前に、政治と経済を結ぶニッチに生きる男、かんべえに声がかかるのである。
〇座長の篠原三代平先生から、「君って富山だったの?」と言われ、高岡市ご出身の篠原先生としばし富山県談義になる。
〇「最近の富山は、強い力士がいないねえ」ともおっしゃる。いえいえ、そもそも強い日本人力士がおりませぬ。ちなみにワシは、日曜日にいい取組を見せた白鵬がちょっと気に入っている。ワシの子供の頃のお相撲さんのように、きれいな身体をしておるではないか。それに全勝優勝を逃した朝青龍が、「コイツ、俺より強いかも」という顔つきで、負けても悔しがらなかった。――ちなみに富山県は、相撲取りに限らずスポーツ選手不毛の地である。なにしろ、もっとも有名なスポーツ選手が、サッカーの“ヘタレ”柳沢であるからして。
〇ところで富山の立山連峰を描いた作品としては、昭和天皇が詠まれた和歌と、上杉謙信の漢詩が有名なのだそうだ。ところが越中の国司であった大伴家持は、二上山という小さな丘のことはよく歌に詠んでいるのに、立山連峰については記憶に残るような作品を残していない。晴れた日には県内のどこからでも見える、あの見事な景色は昔からあったはずなのに、何が気に入らなかったのだろう?
〇ちなみに、ここをチェックしてみたちころ、ゼロではないのですね。下記は数少ない作品です。
立山に 降りおける雪を とこなつに 見れどもあかず 神柄ならし
立山に 降りおける雪の とこなつに 消ずてわたるは 神ながらとそ
朝日さし 背向に見ゆる 神ながら 御名に帯ばせる
白雲の 千重をおしわけ 天そそり 高き立山
冬夏と 分くこともなく 白たへに 雪は降りおきて
古ゆ あり来にければ こごしかも 巌の神さび
たまきはる 幾代へにけむ 立ちて居て 見れどもあやし
峯だかみ 谷を深みと 落ちたぎつ 清き河内に
朝去らず 霧立ちわたり 夕されば 雲居たなびき
雲居なす 心もしのに 立つ霧の 思ひすぐさず
ゆく水の 音もさやけく 万代に 言ひつぎゆかむ
川し絶えずは
立山の 雪し消らしも 延槻の 河のわたり瀬 あぶみ漬かすも
<7月26日>(水)
〇弊社の図書室で購読しているけれども、ふだんは滅多に眼を通さないという雑誌のひとつに、財務省の広報誌『ファイナンス』がある。まあ、知っている人はあんまりいないでしょう。先日、パラパラとめくっているうちに、「明治憲法下の財政制度」という連載記事が目に入りました。今月号が第15回(ドイツへの巨額賠償請求と国際的な金本位制の崩壊)であって、ムチャクチャに面白い。書き手はなんと主計局次長なので、相当に偉い、かつ忙しい人であるはずだ。これは最初から腰を据えて読まねばならぬと、全部をコピーしてもらって持ち歩き、少しずつ読んでいる。
〇このシリーズ、2004年4月から始まっており、明治から戦前までの時代を「財政」という視点からひもといている。この視点が非常に新鮮だ。まず冒頭、「明治憲法下の財政制度については専制的で非民主的なものだったと思っている向きが大部分であろう」とかまして、以下、この誤解を見事に粉砕していく。ドイツ人の法律顧問が、なるべく議会が予算編成に関与しないような制度設計を薦めたところ、井上毅が「それは非立憲的だ」と却下してしまう。また財政規律も、226事件でタガが外れてしまうまでは、戦後の憲法下よりも厳しく運営されていたという。(第1章)
〇明治政府は借金漬けで発足する。明治維新は武家社会のリストラであったために、廃藩置県にせよ秩禄処分にせよ、とにかくカネがかかった。明治6年に地租改正が行われ、ようやく政府の財政基盤ができるのだが、リストラの原資は交付国債の発行に求めるしかなかった。そんなところへ、明治10年には西南戦争が起きて、当時の国家予算に匹敵する戦費がかかってしまう。日本は、激しいインフレに見舞われる。そこへ登場するのが松方正義大蔵大臣。いわゆる「松方デフレ」は深刻な不況を招くが、これによって明治国家は経済発展の基礎を作る。さらに松方蔵相は、所得税の創設や財政会計制度の整備なども行い、まさに明治を代表する財政家であった。(第2章)
〇明治23年、第1回帝国議会が開会されると、減税を求める議会により厳しい財政規律が課せられる。いわば議会によるゼロ・シーリングだ。なんと日清戦争勃発まで予算は横ばいだったという。そんな厳しい財政事情で、唯一、カネを使えたのが、今日も残る法務省の赤レンガ館である。立派な洋風建築を建てたのは、条約改正が明治政府の悲願だったからで、鹿鳴館と司法関係の建物だけは贅沢をしたのである。明治13年に刑法、23年に民放、32年に刑事訴訟法と民事訴訟法を整備。その甲斐あって、ようやく関税自主権を回復したのは、明治も終わりの44年になってからであった。(第3章)
〇日清戦争では、当時の一般会計予算の2.5倍に相当する2億円の戦費を必要とした。これが剰余金や会計間のやりくり、それに1億円の軍事公債の発行により、増税なしで賄われた。しかも戦後には、清国から3億1000万円の賠償金を得たのだからラッキーであった。が、清国の手元不如意を見透かしたロシアが接近し、4億フランの貸付の見返りとしてシベリア鉄道の敷設を認めさせた。しかもその上、三国干渉である。日本国民は「臥薪嘗胆」で増税に耐え、大海軍の建設を急ぐ。明治28年に1300万円だった海軍費は、30年には7600万円に急増するが、お陰で日英同盟のとっかかりができる。ちなみに松方蔵相は、「遼東半島なんかいいから、カネを取れ!」と進言したそうだ。半島を取らなければ、三国干渉もなく、日露戦争もなかったかもしれない・・・・。(第4章)
〇さて、いよいよ日露戦争。桂首相は、戦費調達のために、日銀副総裁の高橋是清に外債発行を依頼する。固持する是清。最後にとうとう引き受けると言ったら、桂が泣き出した。明治の元勲たちはよく泣いたのである。日本の歳入は2億5000万円、ロシアは20億円。無茶な戦いである。そして日露戦争の戦費は実に17億円に達する。ときの大蔵次官は「こと今日に至っては皆悪税です。皆さんの気に入るような適正な良い税は、もう哀しいかな国が小さいからありませぬ」と説明した。かくして成立したのが、その名も「非常特別税」。松方蔵相は「砂をかんでも戦をせにゃならんのに、増税ができないことがあるか」と督励したという。
〇他方、戦費調達のために、4分利付き英貨で出した外債は、80ポンドからいきなり60ポンドに暴落。開戦時には、誰も日本が勝つなんて思わなかったのだ。高橋是清はユダヤ系資本を味方につけて、かろうじて6分の利子で資金調達に成功する。逆にロシア側は、フランスの銀行家と組んでいたから戦費の心配はなかったのである。
〇戦い済んで、日本に残ったのは20億円の政府債務だった。利払いだけで年1億円を越えた。かくして日露戦争は、財政的にはほとんど負け戦であったが、国民は大国ロシアに勝ったと浮かれている。賠償金が取れぬと分かって、日比谷が焼き討ちされたほどだ。数少ない戦利品として、満州鉄道があった。アメリカの鉄道王ハリマンがやってきて、共同経営をしようと持ちかけたが、せっかくの勝利のシンボルをアメリカ資本に売り渡すわけには行かぬと断った。でも、この話に乗っておけば、おそらく太平洋戦争はなかったと思うなあ。(第5章)
〇こんな調子で書いていったら、いくら時間があっても足りぬ。が、これ以上は書かないのでご安心を。
〇思うに明治の指導者たちは、何がしたかったかが今から見ても明瞭である。これが昭和になると、何がしたかったのか分けが分からない。陸軍も海軍も外務省も、めいめいが勝手なことを考えて、物事が決まらない。非決定の状況が不作為を生むのはいつの時代も同じだが、それが作為を生んでしまったときに、対米開戦という悲劇が起きた。今でも日本社会の内部では、この手の話が尽きないのかもしれない。
<7月27日>(木)
〇欽ちゃん球団(茨城にあったんですか)も、極楽とんぼ(見たことないんですけど)もどうだっていいんですけど、あたしゃちょっとだけ腹ふくるる思いなのである。欽ちゃんのために、一連の経緯を惜しむものである。
〇子供の頃に見たコント55号は涙が出るほど面白かった。「欽ドン」や「欽どこ」をやっていた頃は、1週間の視聴率が100%を越えるといわれた。そんな萩本欽一が、今ではテレビに出るのは仮装大賞の司会だけ。でも、あれだけ世の中を楽しませた人なんだから、今さらそんなことどうだっていいじゃないの。欽ちゃんが最高だったときのことは視聴者の心の中で生き続けているのだし。
〇そんな欽ちゃん(60代だなんて、意外と若いんだね)は、もう他にすることがないから野球をやっている。それって結構、いい人生だなあ、と思っていたのである。でも、今度の事件で見えちゃったんだけど、まだまだ枯れてはいなかったのね。というか、野球をしている自分に満足していなかったのね。人間って、そんなものなんでしょうか。寂しいものです。
<7月28日>(金)
〇今週1週間は「ラジオ体操ウィーク」でした。町内会単位で、朝6時半に小学生を集めてラジオ体操をやるという行事です。親となって子供にラジオ体操をやらせる側に回ると、いろいろ感じることがあります。
〇ワシが子供の頃のラジオ体操は、お盆の1週間を除いて、8月31日まで毎朝やってました。今から考えると、当時の親たちは偉かったと思うのですが、それが当たり前だったのです。ところが今は非常に軟弱になっていて、今週1週間、最大でも5回出てしまえばそれでお終い。ちなみに月曜日は雨で中止になったので、都合4回だけで打ち止めでありました。まあ、昨今の天候を考えれば、4回でも上出来かもしれませんが。だからといって、親としては「ちゃんと夏休み中全部やりましょう!」などというシンドイことを言い出す気にもなれず。
〇ラジオ体操に出ると景品がもらえる。これは今も昔も「お約束」です。これも昔だと、「皆勤賞だとノート1冊、休みがあると鉛筆3本」みたいな、今から考えるととっても安上がりな景品でありました。それがですな、今の子供たちは「アイスクリーム引換券」がもらえるのです。それも1回出るごとに!4回出た子供は、4枚の引換券をゲットしたことになる。近所のコンビニに行くと、100円以下のアイスと交換してくれる。さすがにハーゲンダッツなんぞはダメです。でも、子供たちは「ガリガリ君」や「ホームランバー」が大好きなのであります。
〇ちなみに毎朝、ラジオ体操を第2までキッチリ繰り返すと、結構、ひざの裏側あたりに筋肉痛が走ったりする。困ったものである。本当は夏中、休まずにやったほうがいいのかもしれないけど。ということで、親も子供も軟弱になったものだということを痛感した1週間でした。
<7月29〜30日>(土〜日)
〇締め切りもサンプロもない優雅な週末でありました。土曜日昼は手賀沼湖畔の「西周」で鰻。午後は悠々と昼寝。にもかかわらず、夜は12時間睡眠。うー、なんという贅沢。途中、激しいにわか雨で起こされてしまったが、そういえば今週末は柏祭りであった。雨のジンクスは健在であったのだ。それでもどうやら、関東圏も梅雨明けしたようで。めでたいことです。
〇まだ人の出が少ない日曜昼に柏祭りをひやかす。お昼は台湾料理。いつものことなのだが、良い店なのに他に客がいない。いつまで続くか不安なので、「気は心」で書いておきますが、旧水戸街道沿いでケイヨーデイツーの筋向い側、本屋の隣です。お薦めは「ちまきご飯」と「あんかけビーフン」。
〇午後になって茨城県立自然博物館。「海辺の自然展」を目当てに行ったのだが、久しぶりだったので常設展を見るだけで1時間かかってしまう。いつも思うことですが、ここは「鄙には稀」な博物館です。
〇7月ももうじき終わり。夏休みモード入りでまいりましょう。
<7月31日>(月)
〇俳優のメル・ギブソンが飲酒運転でつかまって、保釈金5000ドルを払ったというニュースは、日本でも申し訳程度に報道されていますが、アメリカではこれが大ニュースになっちゃっているようですね。グーグルニュースのUS版を見ると、なんと1449本もの記事が書かれている。で、問題になっているのは、酔っ払って警官にこんな暴言を吐いたということ。
http://abcnews.go.com/Entertainment/wireStory?id=2254853
According to the report, in addition to
threatening the arresting deputy and trying to escape, Gibson
said, "The Jews are responsible for all the wars in the
world," and asked the officer, James Mee, "Are you a
Jew?"
〇まんま酔っ払いの戯言で、ちゃんとした大人の言うことじゃありませんわな。これが反ユダヤ主義である、という非難を浴びているわけですが、普通のときならともかく、今はレバノンで本当に戦争をやっているから、ますますシャレにならない。ちなみにギャラップの世論調査を見ると、この紛争に対してのアメリカの取るべき態度は、下記のようになっている。(7月21−23日)
●イスラエルを支持すべき 31%
●ヒズボラを支持すべき 0.5%
●どちらの肩も持つべきではない 65%
●分からない 4%
〇要は「かかわりたくない」が3分の2を占めている。もっともな反応だと思いますが、とにかくビミョーな時期であるということです。
〇これもどの程度関係しているのか分からないのだけれど、8月8日にコネチカット州で民主党の予備選挙が行なわれる。ここで同州選出のジョー・リーバーマン上院議員が、民主党の公認を外れてしまうかもしれない。リーバーマンは、2000年選挙でアル・ゴアのrunning
mateになったほどの有力議員だが、安全保障政策ではタカ派に属し、ブッシュ大統領のイラク戦争を一貫して支持している。民主党リベラル派は、これが気に入らない。対抗馬にラモント候補を立てて、現職リーバーマンを引き摺り下ろそうとしている。ラモント候補だと、共和党候補に負けてしまうかもしれないのだが、どうにも止まらない。仮にリーバーマンが予備選で負けるようなら、是々非々の中道路線を行く第三政党を立ち上げるんじゃないか、てな観測まである。
〇そしてリーバーマンは、安息日には政治活動をしないというくらい厳格なユダヤ教徒で、中東政策ではイスラエル断乎支持であると来ている。8月8日にどんな結果が出るか、中東情勢はそんなところにも影響を与えるかもしれない。
〇ところで現在、レバノンで起きている事態は、「第5次中東戦争」なのか、「第2次レバノン戦争」なのか、それとも「第1次イラン・イスラエル戦争」なのか。本当に悩ましいじゃありませんか。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki