●かんべえの不規則発言



2024年10月






<10月1日>(火)

〇本日は自衛隊OBの方々の会合に呼ばれて、米大統領選挙の話をするのである。聞き手の中に同業者がいるのでまことにやりにくい。

〇ひそひそ声で聞こえてくるのは、「石破さん、大丈夫でしょうかねえ」。「まあ、周りがしっかりしているから何とかなるでしょう」。「そう言えばかんべえさんも、昨日はひどく書かれてましたからねえ」(ギクッ!)・・・・そうだよね、長島昭久補佐官にも、しっかりしてもらわないと。お宅のボス、意外とわかってないみたいだからねっ!

〇今回の閣僚人事について、過去の怨念がいろいろ積もっている、てな声がチラホラ伝わってきます。非主流派の在庫一掃セールだの、身体検査は済んでいるのかだの。知らんがな。そんなこと。石破さんはあまりにも政界一人旅が長かったので、今となっては誰がどうなっているのかわかりにくい。

〇そこで過去5回分の石破さんの推薦人名簿を作ってみました。いやもう、上海馬券王先生の「10年トレンド」じゃないですが、歴史の重みというものを感じます。昔は平成研(津島派)に所属していたんです。それから派閥を捨てて、自前の派閥「水月会」を作り、それをまた解散して今日に至る。信望を頼って来る人も居れば、去っていく人も居る。白雲悠々去りまた来る。


●石破茂、慟哭の16年間と1勝4敗の歴史(出典:ウィキペディア)

  2008年 2012年 2018年 2020年 2024年
勝利者 麻生太郎 安倍晋三 安倍晋三 菅義偉 石破茂
その他対抗馬 与謝野馨
小池百合子
石原伸晃
石原伸晃
町村信孝
林芳正
なし 岸田文雄 高市早苗
小林鷹之
林芳正
小泉進次郎
上川陽子
加藤勝信
河野太郎
茂木敏充
推薦人代表 鴨下一郎(津島派) 鴨下一郎(無派閥) 尾辻秀久(竹下派) 鴨下一郎(石破派) 岩屋毅(無派閥)
選挙責任者 小坂憲次(津島派) 梶山弘志(無派閥) 古川禎久(石破派) 山本有二(石破派) 青木一彦(無派閥)
推薦人 赤沢亮正(無派閥)
伊藤達也(津島派)
今津寛(津島派)
小渕優子(津島派)
大塚高司(津島派)
岡下信子(津島派)
岡本芳郎(津島派)
木村隆秀(津島派)
倉田雅年(津島派)
竹下亘(津島派)
渡嘉敷奈緒美(津島派)
西銘恒三郎(津島派)
橋本岳(津島派)
林田彪(津島派)
原田憲治(津島派)
平口洋(津島派)
佐藤正久(津島派)
田村耕太郎(津島派)
石田真敏(山崎派)
後藤田正純(無派閥)
齋藤健(無派閥)
田村憲久(額賀派)
平将明(無派閥)
竹本直一(古賀派)
橘慶一郎(無派閥)
谷公一(伊吹派)
中谷元(古賀派)
永岡桂子(麻生派)
山口俊一(麻生派)
山本拓(無派閥)
石井浩郎(額賀派)
片山さつき(伊吹派)
小坂憲次(無派閥)
佐藤正久(額賀派)
中西祐介(麻生派)
三原じゅん子(無派閥)
石井準一(竹下派)
松村祥史(竹下派)
青木一彦(竹下派)
島田三郎(竹下派)
舞立昇治(石破派)
中西哲(石破派)
村上誠一郎(無派閥)
中谷元(谷垣G)
渡海紀三朗(無派閥)
橘慶一郎(無派閥)
伊藤達也(石破派)
田村憲久(石破派)
赤沢亮正(石破派)
平将明(石破派)
福山守(石破派)
田所嘉徳(石破派)
神山佐市(石破派)
冨樫博之(石破派)
門山宏哲(石破派)
八木哲也(石破派)
山下貴司(石破派)
後藤田正純(石破派)
舞立昇治(石破派)
中西哲(石破派)
村上誠一郎(無派閥)
中谷元(谷垣G)
渡海紀三朗(無派閥)
橘慶一郎(無派閥)
伊藤達也(石破派)
齋藤健(石破派)
赤沢亮正(石破派)
平将明(石破派)
福山守(石破派)
三原朝彦(竹下派)
神山佐市(石破派)
冨樫博之(石破派)
赤澤亮正(無派閥)
泉田裕彦(無派閥)
伊東良孝(二階派)
小里泰弘(無派閥)
門山宏哲(無派閥)
平将明(無派閥)
橘慶一郎(無派閥)
田所嘉徳(無派閥)
谷公一(二階派)
冨樫博之(無派閥)
長島昭久(二階派)
細野豪志(二階派)
村上誠一郎(無派閥)
八木哲也(無派閥)
保岡宏武(無派閥)
藤井一博(無派閥)
舞立昇治(無派閥)
山田俊男(旧森山派)



〇ここからはっきりと読み取れる傾向があります。


*最後まで尽くしてくれた人には報いている(赤沢亮正、平将明、橘慶一郎、中谷元、村上誠一郎など)

*途中で見限った人に対しては冷たい(伊藤達也、斎藤健、田村憲久、中西哲、古川禎久、山下貴司など)


〇まあ、プライドの高い人なんでしょうなあ。自民党の危機に登場したという点では「令和の三木武夫」的な感じがあるのだけれども、三木さんほどのバルカン政治家ではない。どこか評論家的なところがあって、野党支持者の信認はあるけれども、与党支持者の人気は乏しい。そうそう、SNS上で「石破茂」とか「野田佳彦」の記事を書いても、全然「いいね!」がつかないのだそうです。知らんけど。

〇とはいうものの、上記の表を作ってみて感じることは、石破さんはわれわれ俗人には考えられないような愛憎の中を生きてこられたのであろうな、ということであります。田中角栄の薫陶を受け、小沢一郎にくっついて離党し、竹下登のお陰で復党し・・・などという人生、とてもじゃないが想像を超えている。願わくばその経験値が、どうかこれから日本国のために活かされますように。


<10月2日>(水)

〇本日はアメリカ大統領選挙の副大統領候補討論会。仕切りはCBSで場所はニューヨーク。共和党からは「孤高のインテリ」JDヴァンス上院議員。民主党からは「愛すべきとなりのおっさん」ティム・ウォルズ州知事。ウェルズさんに関しては、「アメリカの森山幹事長」というのもいいかもしれません。どちらも「これ以上、偉くならなくてもいい」という欲のなさを武器としている珍しいタイプの政治家ですよね。

〇不肖かんべえの判定は「6対4でヴァンスの勝ち」ですな。いや、カメラをまっすぐに見据えて早口でまくし立てるのですが、多少、怪しい話も含めて自信満々なのである。対するウォルズ氏は、不安そうな表情が出やすくて押され気味に感じました。最後の「2020年選挙を認めるのか」などと攻め込んだところは見せ場になっていて、もうちょっと攻撃的になってもよかったのではないでしょうか。

〇今日の討論会では、@中東問題、A気候変動、B移民、C景気、D指導力、E中絶問題、F銃規制、Gインフレ、Hヘルスケア、Iファミリー・子どもケア、J民主主義、と幅広いテーマを取り上げたのですが、両候補はお互いに攻撃しあうものの、ほとんどちゃんと噛み合った議論になっていた点に新鮮な感動がありました。

〇しかも討論会終了後には、両者は握手を交わし、さらには両夫人も合せて紹介しあっておりました。なんだか麗しい姿に見えたのですが、考えてみたらドナルド・トランプが登場する以前はこれが当たり前だったのですよね。果たして2028年選挙では、これが当たり前になるのであろうか。そしてウォルズはともかく、ヴァンスは確実に2028年選挙に出てくるだろうな、と感じた次第である。

〇本日の「Nらじ」さんで、本件についてインタビューに応えました。どこかでお耳に入っていれば幸いであります。


<10月3日>(木)

〇本日はサクッと大阪に行って(一社)関西アジア倶楽部さんへ。米大統領選挙についてお話ししてまいりました。関経連及び大商の両専務理事さんもお見えでございました。それにしても鷲尾代表、本当によくやられてますねえ。

〇全体2時間の内訳は、プレゼンが30分で残りの90分が質疑。これが同会の流儀なんですが、ワシ的にはこういう時間配分は好きです。「パワポ抜き」というのも好ましい。「真剣勝負をやっている!」という感じがあります。

〇せっかく大阪まで行ったのですが、締め切りもいっぱいあるのでそのまま素帰り。「551」のお土産さえ買っていないのである。新幹線の中では、せっせと原稿を書く。ああ、なんてストイックな私。

〇ところで先日聞いたところによると、大阪・関西万博はどうやら目鼻がついてきて、海外パビリオンの建設もほとんどが間に合うらしい(サウジアラビア館がちょっとだけ心配とのこと)。さすがはニッポン、尻に火が付くと何とかなるのです。意外なことに、来年になったら「万博は成功したけど、維新は消えてなくなっていた」なんてことになっていたりして。


<10月4日>(金)

〇日本政治とアメリカ政治を代わる代わる追いかけている日々でありますが、そんな中で中東ではイスラエルとイランのドンパチがエスカレートしております。これぞ「オクトーバー・サプライズ」。かねてから、10月7日の「ハマスによるテロ攻撃1周年」がヤバいんじゃないかと思っておりましたが、NY原油が上がっていると聞くと、これはもう民主党側に打撃でありましょう。

〇イスラエルとしては、軍事行動を加速することにはほとんどリスクがない、と考えているのだろう。まさか大統領選挙の直前に、アメリカが自分たちを見捨てられるはずがない。そしてバイデン政権をいくら困らせても、次がトランプ政権であれば何の問題もない。

〇先日の副大統領候補討論会で、「そうかっ!」と思ったフレーズは、ヴァンス氏のこの一言だった。「40年間生きてきて、この国が紛争に巻き込まれなかったのはトランプ政権の4年間だけだった」。それは違う、違うぞ〜!と思ったけれども、ミレニアル世代の眼には、そんな風に映っているのかもしれない。

〇実際問題として、トランプ政権の復活はG7の視点からすればDisasterであろう。ところがG20目線で見ると、かなり違って見えるはずである。なんとなれば、G20(EUを除くと19か国)のメンバーには、「プーチン大統領(ロシア)」「習近平主席(中国)」「モディ首相(インド)」「エルドアン大統領(トルコ)」「MBS皇太子(サウジアラビア)」の5人は、皆さん揃ってトランプ第1期政権を記憶している。トランプ氏が第47代大統領になれば、「やあ、お帰り」と迎えられるだろう。25%以上がそうなんです。

〇それだけじゃないですよ。イランのハメネイ師、イスラエルのネタニヤフ首相なども以下同文です。彼ら独裁者ワールドから見たら、「おう、なんだ、アメリカにやっと話の分かるヤツが戻ってきたのか」ということになる。

〇その結果として世界は平和になる、かどうかはわからないが、たぶんハリス政権よりもマシなのではないか。バイデンさん外交のベテランで、彼なりにベストを尽くしたけれども、ウクライナ戦争を止められず、アフガン撤退では米軍が醜態をさらした。ハリス氏がそれよりも上手くやれるとはとても思われない。

〇まあ、ヤクザの親分さんたちが「ナシを打っといた」みたいな世界になってしまうのだろうが、どんなに悪い平和であっても、良い戦争よりはマシである。だからトランプ氏を応援しましょう、とまでは言い切れないのが悩ましいところであります。


<10月5日>(土)

〇今週末から封切りの『シビルウォー』。どれ、予約を入れようと思って映画館のサイトを見たら、副題に「アメリカ最後の日」とあるのに気づいて、一瞬、気持ちが萎えかけたのでありますが、「いや、これは仕事のうちだ」「講演会のネタにもなるだろうし」と気持ちを奮い起こし、行ってまいりましたですよ。東宝シネマズへ。

〇ちなみに原題を見たら"Civil War --Welcome To The Frontline"となっていて、正しい副題は「最前線へようこそ」である。本当に戦場(Frontline)、それも見慣れたアメリカ国内が戦場になっているという衝撃的なシーンの連続でありまして、なかなかすごかったですぞ、この映画。ワシントンDCの市街戦なんて、よくまあリアルに描けております。

〇内戦が発生した理由は、劇中ではほとんど説明されません。察するに、トランプさんみたいな大統領が登場して、任期が切れたのにそのまま居座って、FBIを解散してしまうなど好き放題をしている。そこで、業を煮やしたカリフォルニア州とテキサス州が、同盟軍(WF=West Forces)を作ってワシントンに向けて進撃を始めた、てな感じでしょう。ただし、そこをリアルにしてしまうと、この映画は一気に詰まらなくなってしまうわけでありまして。

〇何よりこの映画の中では、みんなが知ってるあのアメリカが、まるで中東かどこかのような破綻国家になっている。米ドルは暴落していて、カナダドルがハードカレンシーである。すでに19州が連邦を離脱しており、ミズーリ州やコロラド州では内戦は「ないこと」にされている、というのがまたリアルである。「いや、アメリカはひとつ間違えれば、こんな風になっても不思議はない」と思えてくる。

〇物語はアメリカ映画によくある「ロードムービー」の体裁をとり、主人公たちにニューヨークからワシントンDCへの旅(なぜかウェストヴァージニア州を経由する)をさせる。ジャーナリストの先輩と後輩、戦場カメラマンのベテランとひよっこ、などの人間模様を書き込んで、奥行きの深い映画が出来上がっている。ケイリー・スピーニーという若い女優さん、「いまどきのZ世代」という感じで、なかなか良かったですよ。

〇ただし万人にお勧めできる映画ではないらしく、終了後は明らかに「なんじゃ、これはぁ!」と憤然と席を立つお客さんがいらしたような気がいたします。音楽の使い方にクセがあって、ちょっと首をかしげるようなところもありました。ということで、アッという間に上映が終わってしまうかもしれませぬ。ご関心のある向きは、なるべく早めに映画館に行かれる方がよろしいかと存じます。


<10月6日>(日)

〇政界を引退された渡辺よしみ先生、こんなNoteを書いていらしたのですね。


●お笑い自民食堂 秋の料理祭り(フィクション) (9/19)


自民食堂の総シェフは日本料理組合の理事長を事実上兼ねている。広島風お好み焼きを得意とするキッシー総シェフが自民食堂の裏金料理人続出でケチがつき、客離れ防止のため辞任を表明した。秋の料理コンクールで優勝した料理人が後継者となる。

コンクールの投票権を持つのは自民食堂料理人と4000円の年会費を2年以上払った登録会員。1回目投票で過半数が取れなければ上位1、2位にによる料理人と都道府県代表による決戦投票となる。

一番人気は「鳥取風・梨ゴレン」のゲル・バシイ料理人。自民食堂では出戻り組である。過去4連敗してるので最後の戦いと位置づける今回は、5連敗のイメージを避け鳥取名産「猛者エビ」でエントリー。非常に美味なのだが、鮮度が落ちるのが早く地元でしか食べられない「幻のエビ」と言われている。果たして全国民に食してもらえる日が来るか。

二番人気はシンジロー料理人。親父さんは激辛路線の「横須賀変人カレー」で総シェフとなったが、倅は「横須賀エコカレー」のマイルド味で勝負する。誰にでも受ける口当たりマロヤカさが逆に災となり、中味のない「ポエムカレー」と揶揄され人気急落との評が出ている。ちなみに、親父は三度目の正直で優勝した。

三番人気はサナエ・タカ料理人。「奈良・三輪素麺」保守風味を掲げる。口当たりは滑らかだが、コシが強い。推薦人20人のうち13人が裏金料理人であるものの、人気は急上昇中。日本料理組合財務部の緊縮路線には反対、同銀行部の利上げにも反対。リーフレット30万部を郵送(一部250円だと郵送料だけで7500万円)したと批判されている。


〇「お笑い自民党食堂」が初めて登場したのは2001年のこと。当欄の2001年4月7日のことでした。なにしろ23年も前のことなので、今読み返すと何のことだかわからないかもしれない。親切なかんべえさんがちゃんと説明しておいてあげよう。


*「岡山かつ丼」:橋本龍太郎

*「横須賀の本格派カレー」:小泉純一郎

*「神の国弁当」:森喜朗

*「海の家ラーメン」:小渕恵三

*「福岡風シーフードサラダ」:麻生太郎

*「京都ド迫力御膳」:野中広務

*「広島風カメの子せんべい」:亀井静香


〇懐かしいねえ。自民党総裁選挙も随分変わりました。世の中はそれ以上の速度で変わっております。まあ、そういう世の中ですから、文句を言っても始まりませぬな。


<10月7日>(月)

〇石破内閣がヤバいぞヤバいぞ、自民党が分裂するかもしれない、てな声が多く聞こえてきますが、ワシはへそ曲がりなのでつい逆を読みたくなります。

〇まず、「裏金議員は非公認」という今回の石破首相の判断は、「当選してくれば、その後はお咎めなし」という意味ですから、自民党らしい実力主義ともいえます。選挙という「みそぎ」さえ済ませれば、説明責任を果たしたことになるのです。メディアや野党はうるさいことを言い続けるでしょうけど、党内的にはそこはもう関係ない。

〇次に「自民党が割れるかもしれない」という話については、確かに日本保守党へ逝きたい人が何人かいるかもしれませんけど、地元に自前の組織を持っている議員さんたちが真面目にそんなことを考えますかね? たとえ党内野党であっても、政権に近いところに居たい。理屈じゃなくて、利益で結びついているのが自民党というものですから。

〇それから今回の勝敗ラインですが、計算してみればすぐわかることです。自民党は現有議席を1割減らしても、単独過半数にはギリ届きます。自公連立では2割近く減らしても、なんとか与党過半数はキープできます。現時点の期待値は、せいぜいその中間くらいじゃないですかねえ。

〇野党は「自公を過半数割れに追い込む」と言ってますけど、彼らは10月15日の公示日までに選挙区調整を済まさなければなりません。あと1週間で、間に合いますかね?しかも立憲民主党の野田代表は共産党に喧嘩を売った直後です。さらに維新の会は落ち目です。どうやって連携するんでしょうか。そっちの心配をしている人を見かけないのが不思議です。

〇しかも彼らは国会が忙しくて、水面下で候補者調整をしているようには見えません。今から負けたときの言い訳をしているようにも見えます。その辺が利益じゃなくて、理屈で結びついている人たちの限界なんだと思います。

〇今から20日後の総選挙の結果がどうなるかは、もちろん神のみぞ知る世界であります。ただし、メディアが「ヤバいぞヤバいぞ」と騒いでいるのは、「そうなってほしいんだけどなあ!」という願望の表われでしょう。もしくは単なるリスクヘッジか。3年前に岸田さんが行った解散・総選挙の時も、彼らの予想が思い切り外れたことを皆さん、お忘れですか?

〇不肖かんべえ、米国大統領選挙はToss Upということで白旗を揚げますが、来る日本の総選挙は、自民党が負け渋る方に賭けたいと思いますね。石破さんって、見た目はキモいけど、可愛げがあって憎めない人ですからねえ。


<10月8日>(火)

〇本日は経済同友会の会員セミナーに呼ばれて、日本経済や日米の政治情勢をネタに熊谷亮丸さんと掛け合いをやる。この年になると、誕生日と言ってもめでたい気はしないのであるが、こんな風に「古巣」(といっても同友会に出向していたのは30年も前のこと!)に呼ばれるのはうれしいですな。

〇それから今朝の産経新聞にはこんな拙稿が載りました。石破さん、読んでくれますかねえ。


●<正論>石破内閣は令和の「富国強兵」を


〇でもって、明日はモーサテに出演です。明日予定の解散・総選挙について語る予定です。


(ということで、忙しさに紛れて各方面に不義理を重ねておりますが、どうかひらにご容赦を)


<10月9日>(水)

〇本日の党首討論、「石破vs野田」の部分だけを見ましたが、なんとも幸福な時間でありました。さすがはご両人。昭和なオヤジが共に舞台に立ち、論戦を演じるのでありますが、真剣に切り結びつつも、相互にリスペクトがあって、もちろんフェアープレイで、互いの良さを引き出しあうという見事な展開でした。惜しみない拍手を送りたいと思います。

〇おそらくはご両人にとって、「一生に一度でいいから、こういう論戦をやってみたい!」という舞台だったのではないでしょうか。石破さんが5度目の挑戦で首相の座を射止め、野田さんが野党第一党の代表に返り咲いたことで、この企画が実現した。さしずめ矢吹丈が力石徹やホセメンドーサとの戦いの中で、エクスタシーを感じているような時間であったかと拝察します。

〇どちらの勝ちか、と言えば、それはやはり鉄壁の守りを見せた石破さんでしょう。ごく一片の失言でも、3週間後の総選挙の命取りとなりかねない状態でしたが、「これはもう絶対に間違えてくれない」という藤井聡太七冠の終盤戦みたいでした。こういう安定感は、高市さんや進次郎じゃあ不可能ですよ。

〇もっとも今日は、党首討論というフォーマルな舞台でありました。これが反則あり、引っ掛けあり、何でもありの予算委員会となれば、おそらくは別の世界となり得るでしょう。石破さんと言えども、前のめりになってしまうかもしれない。自民党側としては、やはり早期解散に打って出たことが正解というものです。

〇何と言っても、野党に候補者調整をさせる暇を与えなかった。今年の共産党は、全国で200人も候補者を立てちゃうのですな。つまり「立憲共産党」にはならないということです。野田代表は最初からそのつもりだったでしょうが、自民党から見ればこの方が与しやすいでしょう。いや、ホント、今日は面白いものを見させてもらいました。


<10月11日>(金)

〇政経懇話会の仕事で函館へ。米大統領選挙の直前情勢と今後の日米関係(石破さん、大丈夫かしら?)みたいなお話しを一席。

〇最初に「どっちが勝つかはわかりません」と前置きするのがこの仕事のコツであります。だってねえ、7つのサイコロを振って、出た目を足して多い方が勝ち、みたいなゲームですから。ちなみに7つのサイコロとは、「PA19」「NC16」「GA16」「MI15」「AZ11」「WI10」「NV6」です。どっちがどっちに行くかで、無数の組み合わせが出来てしまうんですねえ。

〇今日は秋晴れ。街中に外国人があふれているが、これは今朝、クルーズ船が函館港に着いたからである。皆さん、せっせと観光をなさるのだが、混乱も少なくないらしい。タクシーに乗ったら、「日本人のお客さんを乗せるとホッとします」と言われてしまいました。

〇インバウンドが多いのは結構なことなれど、24万人都市としては人口減少に頭が痛い。間もなく選挙も始まる。ご当地北海道8区は、立憲民主党の重鎮、逢坂誠二氏の地元。ところがここへ自民党の女性落下傘候補、向山じゅん氏が挑戦している。地縁まったくなしで殴り込み、というのが「いまどき」チックな話である。注目の選挙区のひとつでありますね。

〇函館に来るのはこれが4回目である。函館駅近くの「土方歳三最期の地」に立ち寄りました。今宵は湯の川温泉に泊まります。いや、まことに結構なのであります。


<10月12日>(土)

〇朝晩の函館は上着がないと少し寒い。が、この冷えた空気が、内地からの旅行客にとっては何よりのご馳走である。朝風呂を浴びた後で散歩し、コンビニにて北海道新聞函館版を購入する。昨日の講演会で、自分の記事が出ていることをいちおう確認するのであります。

〇ありがたいことに、コンビニではちゃんと競馬新聞を売っていた(昨晩見たときにはまだなかった)。いつもの「優馬」を購入して、部屋に戻ってしばし今日のレースを研究。これから函館競馬場に行ってひと勝負するのである。

〇それにしても函館競馬場は恵まれた場所にある。空港から近く、湯の川温泉にも近い。海が見える競馬場、というのは他にないのではないか。函館市のいいところは、すぐ近くに青函海峡が見えて、朝獲れのイカが美味なことである。旅打ちにはもってこいではないか。

〇これで飛行機代が安くなれば、全国から多くの競馬ファンが押し寄せるのではないかと思う。あいにく函館空港はLCCが飛んでいないのだ。そして競馬ファンとは、競馬で4万円負けても平気だけれども、エアチケットに4万円払うのはツラいと感じるものなのである。函館開催の6〜7月だけでも、ご一考願えませんかねえ。

〇今の時期の函館競馬場は、パークウインズ(場外馬券売り場)になっている。さて、この時期にどれくらいお客さんが居るのだろう、と半信半疑で現地に来てみると、9時半の開門前にすでに近郷近在のファンが行列を作っている。良かった、よかった。

〇来る前にネットで見て買った「パドックシート」は、目の前に大スクリーンがあって、デスクには電源もついているのでありがたい。お代は400円也。あいにくお店はあんまり開いていない。ということで、お弁当持参のお客さんが居たりする。ああ、これで場内でイクラ丼が食べられれば言うことなしなのだが。

〇この3連休、今日は新潟と京都のレースである。明日は秋華賞(G1)があって東京と京都開催。明後日は東京と新潟開催という変則開催である。つまり今日はそんなに盛り上がる日ではない。ワシも一応、ちゃんと帰ってこなければならないので、7レースまでやって席を立つのである。でもって、すぐ近くの函館空港にて海鮮丼を頂戴するのである。

〇それでも今日は、新潟メインの飛翼特別(2勝クラス、芝1000m)を当てたので、しっかり浮いた。いや、今年は新潟の千直がよく当たるのです。これは羽田空港に着いてから確認。とりあえずこれで、JRAの10会場のうち8会場を制覇したのである。北から順に札幌、函館、福島、中山、府中、京都、阪神、小倉。残っているのは新潟と中京である。今後の楽しみにとっておきましょう。


<10月14日>(月)

〇わが阪神タイガースのシーズンは、CS連敗であっけなく終わってしまった。まあ、今年はやっぱり強いチームではなかったな。

〇だいたい今年のタイガースはホームランが出ないチームである。佐藤輝と森下が16本で大山が14本。クリーンナップの3人を足して大谷翔平ひとりに届かない。これでは迫力がないことはなはだしい。今から考えれば、もうちょっと補強しておくべきではなかったか。

〇とはいうものの、岡田監督はお疲れさまであった。もうちょっと続けてほしいところだが、まあ、いろいろ裏の事情がありそうでもある。そこはタイガースなんで、文句を言っても始まらない。「アレンパ」できなくてちょっと悔しい。

〇ところで日ハムっていいチームですなあ。いや、球場がいいのは知っていたけれども、新庄監督も実は名監督なのかもしれない。今日のCSでロッテの下克上を見事に封じたが、こうなるとソフトバンクとの死闘を見てみたい。日本シリーズは別にどうだっていいのである。


<10月15日>(火)

〇今朝、「飯田浩司のOK!Cozy up!」出演のためにニッポン放送に到着したら、スタッフの皆さんから「お久しぶりですね」。はて、ワシが前回出たのはいつだったっけ。そうか、斎藤健さん登場で、間もなく自民党総裁選が封切られるという9月3日であった。それが今日になったら衆院選の公示日である。いやはや。なんという早さでしょうか。

〇今日のうちに、ご近所の選挙掲示板には早くもポスターが貼られている。あと12日後には結果が出てしまう。そして投開票日にはキチンと集計がされて、翌日朝には大勢が判明している。そして翌日の夕刊には正しい得票数が掲載されている。素晴らしいことに全国くまなく同一ルールで開票が行われ、その結果に対してはほとんど疑義が出ない。さすがはニッポン。

〇これに比べれば、11月5日の米大統領選挙などは酷いものである。なにしろ「7つのサイコロを投げて、出た目を足し合わせて決まる」ような戦いなので、ほとんど予測ができない。それどころか、「いつになったら結果が出るのか」さえよくわからない。おそらくは選挙結果に対する裁判沙汰も起きるはずなので、はてさていったいいつになったら勝者が判明するのか。

〇そこで「激戦7州では、一体いつ頃に選挙結果が判明するのか」が問われ始めている。ここで大切なのは、「期日前投票分を、いつから計算し始めるのか」である。何しろ州ごとに選挙法が違うので、期日前投票に対するルールも違うのである。現時点でここまではわかっている


*アリゾナ州(EV11人):期日前投票分は、この州では受け取り次第カウントして良いことになっている。東部の激戦州よりも早く結果が公表されるかもしれない。

*ジョージア州(EV16人):郵便投票の封筒が切られるのは10月21日から。投票日前には片付いているだろう。当日の締め切り時間が午後7時と早いので、たぶん最初に結果が出る激戦州となるのでは。全体の流れが見えてくることになるかも。

*ミシガン州(EV15人):投票日の8日前から開票及び集票作業ができる。締め切り時間は午後8時なので、たぶんジョージア州の次に結果が判明しよう。

*ネバダ州(EV6人):郵便投票の集計は投票日の15日前から。全てを郵便投票で行うルールなので、時差が1時間早いアリゾナ州よりも早く結果が出るかも。

*ノースカロライナ州(EV16人):州の西部がハリケーンの被害を受けたため、25の郡で投票が困難になったということで、訴訟の嵐は今からほぼ確定。投票時間は午後7時半締め切り。シャーロットなどの大都市は被害を受けていないので、前回2020年との比較でハリス氏の勝敗が分かってしまうかも。

*ペンシルベニア州(EV19人):2020年に初めて期日前投票制を導入たので慣れていない。事前投票分は当日の午前7時まで開票されないかも。全ての票が数えられるまで、2〜3日を要するかもしれない。

*ウィスコンシン州(EV10人):2020年選挙ではジョージア州、アリゾナ州に次いで僅差だった。ペンシルベニア州と同様、投票日まで開票の前処理が始まらない公算が大。選挙の当事者は、もっと手早くできるように法律を変えてくれと懇願しているが、州議会の共和党は聞く耳もたず。


〇ジョージアとミシガンが早めに開いて、後は辛抱しながら開票を待つ、てなことになりそうですな。はてさて、日本時間ではいつ頃になるのやら。


<10月16日>(水)

〇某社の政治部デスクさんから聞いて「なるほど!」と感じたこと。


*公示前の世論調査はまったく別物と考えた方がいい。今週末に出る世論調査からが本番。

――そりゃそうだ。家の近所に選挙ポスターを見かけると、一気に総選挙が現実味を帯びてきますね。


*有権者が気にしているのは経済や社会保障。外交や「政治とカネ」問題の優先順位はさほど高くはない。

――まことにごもっとも。"It's the Economy, Stupid!"(阿呆、経済だけでいいんだ!)は選挙の鉄則です。


*例年に比べて、「まだ決めていない」有権者が多いようである。

――投票日の直前に決めるのはリベラル派よりも保守派に多い。アメリカでもそうです。


*若手の人材は野党よりも与党で育っている。

――これは実感です。コバホークは今年の総裁選の収穫でしたね。むしろ野党の若手が育ってないことが気になります。


*自民党には「追加公認」という必殺技があることにご用心。

――和歌山のSさん、兵庫のNさん、八王子のHさんなど、勝ちさえすれば自民党に戻れるんですよね。わざと時間を空けるかもしれませんけれども。


〇ということで、「みんながビックリ仰天するようなことにはならない」という結論には説得力がありました。もっともメディアとしては、「大変だ、たいへんだ」と言ってないことには注目してもらえないので、しばらくはマッチポンプのような記事が続くのでしょうね。まあ、その辺は百も承知で見てまいりましょう。


<10月17日>(木)

〇本日は内外情勢調査会さんの仕事で横浜市へ。

〇現地の支部長さんは意気軒高たるものであった。それはまあ、昨晩の巨人×DeNA戦を観た者としては、気持ちはわかる。確かに下克上があっても不思議はない感じ。・・・と、言いながら見ていたら今日も勝っちゃったよ。ベイスターズ、強いじゃあないですか。

〇前回、ベイスターズが日本一になったのは1998年だそうである。それって大魔神が活躍していた頃ですよね。まあ、昨年が1985年以来のタイガース優勝、今年が1998年以来のベイスターズ優勝となれば、確かに日本経済の転換点となるかもしれぬ。いささか気が早いかもしれませぬけどね。

〇もうひとつ。神奈川県は20もの選挙区があるのだが、8月頃には「今選挙があれば、自民党で国会に戻ってこれるのは3人だけ」と言われていたそうである。さしずめ菅さんと進次郎と河野太郎のことであろう。それ以外は死屍累々と考えると、いささか荒涼たる風景が目に浮かぶ。

〇ところが9月の自民党総裁選では神奈川県勢が目立ちまくったので、「これなら結構、行けるんじゃないか」という評価になっているとのこと。今朝の読売新聞を見てみると、以下の通りの序盤情勢である。


@松本(自)と篠原(立)がしのぎを削る。

A抜群の知名度を誇る党副総裁の菅(自)が優位に立っている。

B中西(自)が中村(立)を一歩リード。

C3選を目指す早稲田(立)が先行し、前回比例復活の山本(自)が追いかける展開

D優位に立つ国家公安委員長の坂井(自)に山崎(立)が肉薄している。

E古川(自)と青柳(立)による接戦だ。

F鈴木(自)と中谷(立)が横一線の争い。

Gベテラン江田(立)がややリードし、前回比例復活だった三谷(自)が追い上げる。

H党国対委員長の笠(立)が先行し、中山(自)が追いかける展開。

I元復興相の田中(自)が、金村(維)を一歩リード。

J党選挙対策委員長の小泉(自)が安定感を増している。

K阿部(立)と星野(自)が激しく競り合う。

L前回自民の甘利明・元幹事長を破った太(立)と、丸田(自)が互角の戦い。

M赤間(自)と長友(立)が一歩も譲らない展開。

N抜群の知名度を誇る河野(自)が優勢。

O後藤(立)がややリードし、義家(自)が追い上げる。

P元デジタル相の牧島(自)と佐々木(立)が一歩も譲らぬ展開。

Q元経済再生相の山際(自)と宗野(立)がデッドヒートを展開。

R組織力のある草間(自)と佐藤(立)の接戦となっている。

S区割り変更に伴う新設区で、甘利(自)と大塚(立)が激しく競り合う。


〇自民党、半分くらいは行けちゃうんじゃないだろうか。それにしても神奈川県は多士済々。党副総裁や党選対委員長、国家公安委員長や前デジタル相もいれば、不記載問題組や統一教会疑惑、そして銀座三兄弟もいる。いやはや、奥が深いのであります。


<10月18日>(金)

〇わが国の総選挙も気にはなるのですが、米大統領選挙もしっかりウォッチしなければならない。と言っても、どっちが勝つかさえ見通すことは難しい。本日分の溜池通信は、かなり苦しいなあ〜と思いながら書いております。

〇とはいうものの、「いったいどうなるんだ!?」という声は少なくありません。特にマーケット関係者のニーズは高いんじゃないかと思います。そこでこんなセミナーのご案内。


●【WEB】米国大統領選挙 投開票日直前スペシャル『識者に問う“新大統領決定後の世界経済のゆくえ”』


〇主催者はマネースクエアさん、11月2日(土)13時からとなります。

セミナータイトル 【WEB】米国大統領選挙 投開票日直前スペシャル『識者に問う“新大統領決定後の世界経済のゆくえ”』
レベル 初級〜中級
日時 11/2(土) 13:00 〜 16:10 ( 受付開始 12:45 )
会場 お手持ちのPC、スマートフォン、タブレット
参加条件 どなたでもご参加いただけます。
案内事項 YouTube Live によるWEBセミナーです。
講師 双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎 達彦 氏
現役ファンドマネージャー 西山 孝四郎 氏
マネースクエア 西田 明弘、津田 隆光、八代 和也、尾 和秀、奥谷 龍生
参加費 無料


〇皆様のご参加をお待ち申し上げております。


<10月20日>(日)

「最近、知らない人に話しかけるってことがなくなりましたねえ」

〇先日、なぜかそんな話になった。知らない場所で誰かに道を尋ねる、なんてことはめっきり減った。道は他人に聞くよりも、スマホに聞く方が早い。ちょっと古い映画の中では、「煙草の火を貸してくださらんか」などというやり取りがあって、見知らぬ同士の会話が始まる、なんてシーンが普通にあった。今ではいろんな意味で、「あり得ない」ことになってしまいましたが。

〇電車の中で、たまたま隣になった人と話がはずむ、なんてこともなくなった。今では電車の中では皆がスマホを睨んでいて、そのうちかなりの部分がメールやLINEなどで「誰か自分が知っている人」と会話している。今ではおそらく、「知らない人に話しかけるのはリスクが高い行為」と思われている。若い人が電話を取るのを嫌がる、というのも、たぶんその辺に理由があるのではないかと思う。

〇ただし、ほんのちょっと前までは、そんなことはなかったのである。道に迷ったら、その辺の人を適当に捕まえて聞くしかなかった。「フーテンの寅さん」みたいに、やたらと人懐っこい(馴れ馴れしい)人も周囲にはたくさんいた。それから飛行機や電車の中で、隣り合わせた人とあれこれ話し込む、なんてこともごく普通のことであった。

〇そこで突然思い出したのだが、国際線の中で隣の席のアメリカ人と仲良くなったことがある。こちらは日本に帰る途中で、向こうは生まれて初めて東京に出張する、というところであった。あいにくなことに、話の中身はほとんど覚えていない.。

〇別れ際に、「じゃあ、記念にこれを」と言って、一枚のテレホンカードを手渡した。当時はまだそんなものが流行っていて、ワシは普段から何枚もテレカをため込んでいて、ときどき「これあげる」とやっていた。そのときもごく自然にそうしたのであった。

〇するとしばらくたって、会社に手紙が届いた(ということは、たぶん名刺交換をしていたのであろう)。手紙によると、当人は成田空港から新宿まで移動して、そこで約束の相手と会うことになっていた。ところが刻限になっても相手が現れない。初めての異国でパニックになりかけたが、あなたにもらったテレホンカードのお陰で、なんとか相手と連絡をとることができた。いや、助かった。どうもありがとう、てなことが書いてあった。

〇いわゆる「ちょっといい話」なのだが、ケータイがなかった頃はみんなそんな風にしていた。たかだか30年くらい前のことである。この経験、世代が違うとまったく通じないんだろうな。いや、どうかすると自分でも全く忘れていたくらいなので。


<10月21日>(月)

〇しょっちゅうRCPをご覧になっている方は、既にお気づきのことと存じます。


●Top Battlegrounds RCP Average 〜7つの激戦州全てでトランプ氏がハリス氏をリードしている。(0.2〜1.8p差)


●Betting Odds 2024 U.S. President 〜賭け事の対象としても、現在はトランプ氏59.0対ハリス氏39.8と差が開いている。


〇いずれも今月になって、急に差が開いているのですよね。これをもって「やっぱり『ほぼトラ』だ」という声がポツポツ聞こえてくるようになりました。「カマラはとうとうボロが出た」みたいな解説も耳にします。さて、この動きをどう見たらいいのか。

〇「カマラはアル・スミスのチャリティ晩さん会に出てこない。やっぱりジョークに自信がないんだろう」なんてニュースを耳にします。そうかと思うと、「トランプはもうボケている。集会の途中に音楽を流したそうだ」てな声も聞こえてくる。まあ、選挙戦というものは、終盤戦になるとあられもないうわさが飛び交うもんです。今はちょうどそんな時間帯だと思います。

〇ということで、全然理屈になっていないんですけど、ワシの本能は「こんなデータは信じちゃいかん!」と告げております。「7つのサイコロを投げて出た目で決まる勝負」=「予測できるはずがない」というのが正しい見方だと思うのです。

〇投票日まであと2週間ちょっと、という現在は「危ない時間帯」です。何か情報を得てホッとしたい、信じられるものに出会いたい、と思っている時に、得てして耳にやさしいノイズがやってくるものです。いやもう、嫌な予感しかしない。トランプ氏がリードした状態で投票日を迎える、ということ自体が「なんか変」。認知的不協和を感じるところです。


<10月22日>(火)

〇本日からロシアのカザンにおいてBRICS首脳会議が始まりました。「ブラジル・ロシア・インド・中国・南ア」の5カ国に加え、今年から「イラン・エジプト・UAE・エチオピア」の4カ国が新たに加盟します。併せてロシア近隣国も招待を受けているので、かなりの数の国が集まると見られています。

〇ただし新たに加わる予定であったサウジアラビアは、土壇場で参加を回避した模様。たぶん「アメリカは次はトランプ政権かもしれないしな」(そっちの方が美味しい思いができるかも)てなことで、様子見に転じたのでしょう。イスラエルも似たようなことを考えている節があり、「バイデンを相手に急いで妥協することはないよな」てな思惑が見え隠れします。ひょっとするとクシュナーが中東で暗躍していたりして。

〇ともあれ、BRICSは今年で9カ国に拡大し、ますます広がっていくかもしれません。とはいうものの、こういう枠組みは「広がっちゃうと、薄まってしまう」のもよくある話で、G7がG7としてまとまっているのは、「新しい加盟国を増やさないから」という見方もできる。「グローバルサウス」なんて言葉はその典型で、猫も杓子も「グローバルサウス」を自称するものだから、輪郭がぼやけたものとなりつつある。

〇議長国のロシアとしては、「先進国何するものぞ」という姿勢を打ち出したいのでしょう。とはいえ、これで米ドル離れができるか、SWIFTの代替システムができあがるか、というとそこは大いに怪しい。まして「BRICS共通通貨」なんて完全にお笑い種です。EUの統一通貨ユーロでさえ、あれだけの試練をかいくぐってきたわけでありますから。

〇そんなことより、ロシアにとって来年は鬼門となるんじゃないかと思う。対ウクライナ戦争でいよいよ動員が出来なくなって、囚人を駆り出すだけでは足りなくなり、とうとう北朝鮮の兵士を借りる、なんてことに手を出した。これで北朝鮮軍の兵士がウクライナで捕虜になったり、敵前逃亡して亡命したらどうするんだろう。ロシアでは今でも「特別軍事作戦」という建付けなんだから、いよいよ兵士が足りなくなるのではないかと。

〇ウクライナ戦争は来年でとうとう3年目。双方ともに継戦能力の限界に近づきあるんじゃないだろうか。2025年はどうやって戦争を終わらせるか、という難問が浮上する年になるのではないかなあ、という気がしております。


<10月23日>(水)

〇本日をもって宗旨替えをいたしました。昨日までは、「どちらが勝つかわかりません」と言っておりましたが、今日からは「データを素直に読めば、トランプさんの勝ちになります」に替えました。もちろん米大統領選挙の予想についてです。それくらい、ここ1週間の世論調査データの変化は急なものがあります。ハリスさんは失速気味です。

〇2016年や2020年の選挙においては、「隠れトランプ票」の存在が確認されました。結果が出てみたらトランプ票は、明らかに世論調査よりも数ポイント高かったのです。そのために2016年はサプライズの結果になりましたし、2020年もいくつかの激戦州で「あわや」と思わせるほどの粘り腰を見せたものです。

〇この「隠れトランプ票」は、2018年や2022年の中間選挙では確認できません。これらの選挙はだいたい世論調査通りの結果が出ました。それでは2024年の米大統領選挙において、「隠れトランプ票」は残っているのか、と尋ねられたら、誠実な答えは「わからない」であります。

〇共和党の予備選なんかを見ている感じだと、もはや人々は「トランプ支持」であることを隠そうとはしておらず、現状の世論調査は正しく民意を反映しているのではないか、と思われてなりません。とはいえ、「隠れトランプ票」が激戦7州でそれぞれの人口の1%でもあると仮定したら、これは結構なリードにつながります。なんとなれば、RCPのTop Battleground Averageでは、7つの州全てでトランプさんがリードしてますので。

〇現状のRCPデータが正しいのであれば、この「隠れトランプ票」を味方につけたトランプ氏はかなりの差をつけてハリス氏に勝つことも可能でありましょう。それこそ民主党員が涙目になって、「2028年はどうやって戦えばいいのか?」と絶叫するような結果になることだってあり得ます。そりゃあね、3回連続で共和党の大統領候補になったトランプさんに対し、勝てたのはバイデンさんの1勝だけで、後はヒラリーさんとハリスさんの2敗となるわけですから。

〇そんなわけで、2週間後にどんな結果が出るかはまだ読めませんけれども、データを普通に読めばトランプさん再選だよね、ということになります。マーケットは既に先取りを始めているようでもあり、現在の円安の一部はそれが理由かもしれませんな。


<10月24日>(木)

〇朝からヒーコラ言いながら、今週分の東洋経済オンライン原稿を書く。テーマは今週末の総選挙と間近に迫った米大統領選挙について。ああ、悩ましい。

〇脱稿して、夕方からストリート・インサイツさん主催の錦秋の会へ。この時期、暑くなく寒くなく、屋外でビールを飲みながら、集まりし多士済々とともに語り明かすにはまことにいいタイミングである。そういえば来週のアレ、よろしくお願いしますとか、総選挙、ホンネの話、どうなりますかねえとか、ここだけの話、米大統領選に対する「答え合わせ」とか。

〇こんな風に面白い人たちと楽しいお酒が飲めることこそ、人生最大の歓びというものであります。でもって、こんなところで今日書いた原稿の補強材料をもらったな、とか、明日の会合はこんな風にやらなきゃいかんかな、などと軌道修正を図るのである。

〇われながらまことにいい加減に思えるけど、ワシの仕事の大半はこんな流儀で行われている。秋の夜長に乾杯。


<10月26日>(土)

〇本日、公開された東洋経済オンラインの原稿はこちら。


●日米の世論調査はいったいどこまで正しいのか


〇読者の方から教わりましたが、前回の2021年衆院選についてはこんな研究があるのですね。


●2021年衆院選の選挙予測のパフォーマンス比較


〇さらに世論調査について、こんなすごいサイトがあることを知りました。


●YORON Research


〇いやーすごいなー。知らなかったことがいっぱい書いてある。後でちょっとずつ勉強させていただこう。

〇本日は義理のある会合を欠席しておる。選挙の前日なんだから、応援に行きたい候補者もいるのであるが(ご近所の斎藤健さんなど)、締め切りが迫った原稿があり、来週の資料も作らねばならない。仕方がないから、せっせと家で作業するのである。ああ、ワシはいつまでこんなことをやっているんだろう。

〇そんな中で、ワールドシリーズ第1戦が行われて、今日はドジャースがヤンキースをサヨナラ勝ちで破る。いいですなあ。野球がとっても野球らしく思える瞬間である。さて、今宵は日本シリーズも始まるのでありますな。こっちはビールでも飲みながら見たいものである。


<10月27日>(日)

〇本日は「ワールドシリーズが始まる前に」ということで、朝9時台に投票所に行ってきました。「230番目」というのは、出足がいいのやら悪いのやら。とりあえず投票率はあんまり高くはならんのかな、という気がします。

〇「自民党が大敗するらしい」という噂が飛び交っているので、こんな表を作ってみました。こうやって過去と比較すると、明日の朝になって負け具合の「相場勘」が掴みやすいかと思って。やはり歴史は大切にしなければなりません。

総選挙期日 備考 内閣 命名 定数 投票率 投票結果
35 1979/10/7   第1次大平内閣 増税解散 511 68.01 自民248、社会107、公明57、共産39、民社35、その他25
36 1980/6/22 *不信任成立/ダブル選挙 第2次大平内閣 ハプニング解散 511 74.57 自民284、社会107、公明33、民社32、共産29、新自12、その他14
37 1983/12/18   第1次中曽根内閣 田中判決解散 511 67.94 自民250、社会127、公明58、民社38、共産26、新自8、その他19
38 1986/7/6 *ダブル選挙 第2次中曽根内閣 死んだふり解散 512 71.40 自民300、社会85、公明56、民社26、共産26、新自6、その他13
39 1990/2/18   第1次海部内閣 消費税解散 512 73.31 自民275、社会136、公明45、共産16、民社14、その他26
40 1993/7/18 *内閣不信任 宮澤内閣 政治改革解散 511 67.26 自民223、社会70、新生55、公明51、日新35、民社15、さき13、共産15、その他34
41 1996/10/20 *小選挙区制 橋本内閣 小選挙区解散 500 59.65 自民239、社民15、さき2、新進156、民主52、共産26、その他10
42 2000/6/25 *比例20議席減 森内閣 神の国解散 480 62.49 自民233、公明31、保守7、民主127、自由22、共産20、社民19、その他21
43 2003/11/9   第1次小泉内閣 マニフェスト解散 480 59.86 自民237、公明34、保守新4、民主177、共産9、社民6、その他13
44 2005/9/11   第2次小泉内閣 郵政解散 480 62.49 自民296、公明31、民主113、共産9、社民7、国民新4、その他20
45 2009/8/30   麻生内閣 政権選択解散 480 69.28 自民119、公明21、民主308、共産9、社民7、みんな5、その他11
46 2012/12/16   野田内閣 近いうち解散 480 59.32 自民294、公明31、民主57、維新54、みんな18、未来9、共産8、その他8
47 2014/12/14 *0増5減 第2次安倍内閣 アベノミクス解散 475 52.66 自民291、公明35、民主73、維新41、共産21、その他14
48 2017/10/22 *0増6減 第3次安倍内閣 国難突破解散 465 53.68 自民284、公明29、立民55、希望50、共産12、維新11、その他24
49 2021/10/31   第1次岸田内閣 未来選択解散 465 55.93 自民261、公明32、立民96、維新41国民11、共産10、その他14
50 2024/10/27 *10増10減 石破内閣 日本創生解散 465 53.85 自民191、公明25、立民148、維新38、国民28、共産8、その他27



〇最近、何かと話題の「40日抗争」があった1979年からにしました。

〇この年は自民党が大負けした。とはいえ、511議席中の248議席なので、単独過半数は割れているけれども、今の感覚ならそんなに大騒ぎする程のことはない。ただし「天の声にも変な声がある」で福田赳夫首相が退任した後だったから、大平首相に敗戦の責任を問う党内の声は強かった。大平派+田中派の主流派に対し、福田派+中曽根派+三木派+中川Gの反主流派の対立はどんどん先鋭化する。

〇憲法54条は「衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から30日以内に国会を召集しなければならないと規定している。今年の場合だと年内の政治日程が窮屈なので、たぶん11月7日か8日には特別国会が召集されるだろう。ところが1979年は「首相候補が一本化できなくて」国会を開会できなかった。10月30日に一応召集はしたのだが、首班指名をしないで閉会するという異常な事態となる。

〇それからも延々と党内抗争が続く。いやもう、凄いエネルギーである。1979年という年は、ソニーがウォークマンを発売したり、「江夏の21球」があったり、「ファーストガンダム」が放送されたりと、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(1979年刊行)と呼ばれるにふさわしいくらい日本経済が元気いっぱいな年なのだが、「経済は一流、政治は三流」(こんなことを言っていられた当時が懐かしい)を地で行くような情けない抗争が繰り広げられる。

〇11月6日にはようやく首班指名選挙が行われるが、同じ自民党から大平正芳と福田赳夫が両方出馬してしまう。もちろんどちらも過半数を得ることはできず、最後は野党を退けた決選投票となり、結局17票差で大平が勝った。大平首相は新自由クラブとの連立を模索するが、結局は11月20日に断念して第2次大平内閣が発足する。これが「40日抗争」の顛末である。

〇いやもう、なんという恥ずかしいことをやっていたのか。なおかつ反主流派の怨念は止まず、翌年にはハプニング解散を招いてしまう。なんと与党議員が大量欠席している間に野党の内閣不信任案が成立してしまい、選挙戦の最中に大平首相は憤死を遂げてしまう。結果は自民党の大勝利(284議席)。いやはや、昭和のオヤジたちのパワーはすごいのだ。

〇いや、何が言いたいかというと、世間には「自民党は大負けして2つに割れるかもしれない」などと嬉しそうに言っている人を見かけるけど、角福戦争当時のようなすさまじいエネルギーが今の自民党にありますか?とお尋ねしたい。もうね、軽々しく「40日抗争の歴史もある」なんて言ってほしくない。ちなみに1979年は、日本が初めてG7議長国を務めた年である。その頃ならば、こんな内紛を続けている余裕もあったんですけどねえ。

〇ということで、静かな心持ちで今宵の選挙速報を見たいと思います。


<10月28日>(月)

〇昨日の表に、今朝、結果を赤字で書き込みをした瞬間に、「ははん、やっぱりね!」と感じました。投票率が3年前を下回っている。ということは、今年の総選挙は2009年のように、無党派層が大挙して投票所に押し寄せたわけではない。むしろ自民党の岩盤支持層が石破政権にそっぽを向いてしまったので、それで崩れてしまったという構図なのだろう。つまり足し算ではなくて、引き算の選挙であった。

〇その証拠に、溜池通信の毎度名物、比例得票数の推移をご覧あれ。過去5回分と比較するとよくわかりますぞ。


  2024年
衆院選
2021年
衆院選
2017年
衆院選
2014年
衆院選
2012年
衆院選
2009年
衆院選
 
自民党 14,581,690 26.63 19,914,883 34.66 18,555,717 33.28 17,658,916 33.11 16,623,542 27.62 18,810,217 26.73 自民党
公明党 5,964,415 10.89 7,114,282 12.38 6,977,712 12.51 7,314,236 13.71 7,116,265 11.82 8,054,007 11.45 公明党
(希望の党)         9,677,524 17.36 9,775,991 18.33 9,628,483 16.00 29,844,799 42.41 民主党
立憲民主 11,564,217 21.12 11,492,115 20.00 11,084,890 19.88              
共産党 3,362,966 6.14 4,166,076 7.25 4,404,081 7.90 6,062,962 11.37 3,689,988 6.13 4,943,886 7.03 共産党
社民党 934,598 1.71 1,018,588 1.77 940,823 1.69 1,314,441 2.46 1,420,928 2.36 3,006,160 4.27 社民党
国民民主 6,172,427 11.27 2,593,375 4.51     5,245,586 8.72 3,005,199 4.27 みんなの党
維新の会 5,105,127 9.32 8,050,830 14.01 3,387,597 6.08 8,382,699 15.72 12,262,144 20.38   維新
れいわ 3,805,060 6.95 2,215,648 3.86                  
日本保守党 1,347,392 2.46                      
参政党 1,870,347 3.42                      
その他 42,239 0.08 900,181 1.57 729,207 1.31 2,825,182 5.30 4,192,952 6.97 2,705,987 3.85 その他
合計 54,750,478 100.00 57,465,978 100.00 55,757,551 100.00 53,334,427 100.00 60,179,888 100.00 70,370,255 100.00 合計
投票率 53.85   55.93   53.68   52.66   59.22   69.28    


(1)過去5回の選挙でコンスタントに1600〜2000万票を得ていた自民党が、いきなり1500万票割れしてしまった。察するに「旧安倍派=高市支持派」の岩盤支持層がごっそり抜けて、日本保守党や参政党に流れるか、もしくは家で寝ていたのであろう。結果として自民党の得票率は有意に低下した。これでは勝てないのも無理はない。

(2)大勝利と伝えられる立憲民主党は、比例における得票数は過去2回とほとんど変わらない。小選挙区の激戦区を多く勝ち残ったのが勝因であって、そもそも野党第一党が150議席くらいは取って当たり前と言えよう。しかるに比例が1100万票から伸びないのであれば、とても天下を取れる政党とは思われない。来年の参院選も、あまり期待しない方がいいと思いますぞ。

(3)公明党や維新の会を抜いて、比例得票の第3政党になったのは国民民主党。その昔の「みんなの党」的なポジションを得ているようです。先の東京都知事選挙(7/7)においても、SNSや動画CMの威力が示されたが、国民民主も望外の成果を得た。とはいえ、「石丸現象」の後生が良くないところを見ても、この現象は長くキープできるかどうかはわからない。ご用心を。

(4)公明党はついに600万票を割れた。シェア10%も次は危ういかもしれない。今年は池田大作先生が亡くなられて最初の選挙であり、何が何でも勝たねばならなかったのだが、哀しいかな党の代表が落選してしまうような状況である。創価学会パワーの凋落を感じさせる結果でありました。来年6月の東京都議会選挙が試金石となるでしょう。

(5)共産党も「れいわ新選組」以下の勢力となり、着実に衰退に向かっておられる様子。社民党も以下同文。「日本人の義理がたさ」が、かかる政党の延命につながっていることは、はたしていいことなのか、悪いことなのか。とはいえ、支持者は高齢者ばかりですので、おそらくは安楽死となるのでありましょう。

(6)自民党から離脱した「岩盤保守層」は、ざっくり400万票といったところだろう。日本保守党に流れたのはまだ一部だけで、「家で寝ていた」層が多かったのではないかと思う。とはいえ、その結果として旧安倍派の議員が多く落選したので、それが本当に彼らの望んだことであったのかどうか。なんとなく、このまま戻ってこない方がお互いのためかなあ、という気もする。

(7)ちなみに投票率の平均値は、昭和の時代は72.8%もあり、それが平成になると62.0%に低下した。令和になって行われたのはまだ2回だけで、平均値は54%くらいである。低いと言えば確かに低いが、これから上がるかというとまた別問題であろう。


〇いつものルーティーンの作業ではありますが、こんな風にして2024年のデータがまたも積みあがりました。ああ、ワシは一体、いつまでこんな面倒くさい作業を続けるつもりなのだろう。政党要件を厳しくするなどして、少しでいいから政党の数を減らしてほしいと切に思います。勘弁してくれえ!


<10月29日>(火)

〇昨日の表が一部で高評価をいただいているようなので、もうちょい加筆しておきましょう(溜池通信では古くから使っている手法なので、古い読者さんにはお馴染みかと存じます)


(1)日本の有権者数はざっくり1億人。投票率が50%なら投票数はざっくり5000万人。1%で100万人です。

(2)平成の30年間には都合10回の衆院選がありました。平均の投票率は62.0%です。ちなみに昭和の平均投票率からは約10p下げています。令和はたぶん52%くらいに収斂するのではないでしょうか。

(3)過去の投票率を振り返って、目を引くのは2009年の総選挙です。69%に達し、実に7000万人もが投票しました。普段の選挙よりも1000万人も増えたのです。滅多に選挙に行かない人たちがごそっと投票しましたが、こういうのを「風が吹く」とか「山が動く」というのでしょう。

(4)なぜ2009年はそうなったのか。@リーマンショックで景気が最悪だった、A団塊世代の先頭が60歳に達し、「会社離れ」を始めた最初の選挙だった、B当時の民主党が「政権交代。」をスローガンに煽った、などの理由が重なったからでしょう(この時すでに参院で自公は過半数割れしていた)。この時の民主党は、比例で2984万票というお化けのような票を得ました。

(5)ただしその後に来たのは「悪夢の民主党時代」でした。2009年に1回だけ投票した人たちは、二度と投票所には戻ってきませんでした。たぶん懲りたのでしょう。以後の5回の総選挙において、投票率は一度も6割を超えたことはありません。

(6)彼らがいつの日か戻ってきてくれる、そうすれば自民党政権を倒せる、と考えた野党支持者は少なくないはずです。しかるに2024年選挙はそういう選挙ではありませんでした。風は吹いていませんし、山も動いていません。むしろ自民党支持層の自壊作用、と考える方が実態に近いと思います。

(7)2024年選挙は、もともと不穏さを孕んでいました。それは2022年以来の物価高です。ほとんど経験したことのない「インフレ」と、その結果としての「可処分所得の減少」(本誌の8月30日号P3を参照)に対し、有権者は誰かを罰したくて仕方がない状態でした。しかるにこの怒りは、夏までは明確な矛先を持っていなかったのです。

(8)その怒りは、「裏金問題」という絶好の標的を見つけてしまいました。今まで「何となく自民党」だった人たちが離れたり、「石破はダメだ」と怒れる人たちが併せて500万人もいた、という点が問題でした。かくして選挙結果は2009年ほどではないけれども、2009年に次ぐ規模の被害を与党にもたらしました(この規模感は、10月27日分の表を見ると分かりやすいと思います)。

(9)問題の根源が「可処分所得の減少」にあったことを考えれば、今回、「国民の手取りを増やす」ことを公約していた国民民主党が、党勢を拡大したことは納得できます。とは言うものの、国民民主党が提案している政策はあんまり筋のいいものではない。可処分所得を増やすためには、迂遠なように見えても、今まで岸田内閣がやってきた通り賃金の上昇が浸透するのを待つのがいちばん間違いがないのになあ、とため息をつくほかはありません。


〇はてさて、この焼け跡のような状態からどうやって次の秩序を作っていけばいいのか。経済の「脱デフレ化」は始まったばかりですが、政治を「脱デフレ」させるのは難しいですぞ。


<10月30日>(水)

〇本日は内外情勢調査会の講師で愛知県豊橋市へ。

〇愛知県内で仕事というと、普通は名古屋市になるものである。しかるにワシの自慢は、過去に愛知県内で実に10か所で講演に呼ばれておることだ。名古屋、一宮、春日井、西尾、刈谷、岡崎、豊田、安城、さらに豊川と知多の商工会議所で呼ばれたこともある。普通の人はこの位置関係が分からないと思う。豊橋市は今回が初めてなのでちょっとうれしい。

〇豊橋市は東三河の中心都市である。西三河がトヨタ自動車を中心とする工業地帯なら、こちらは日本を代表する農業地帯。歴史が古い地域であって、以前にお隣の豊川市で豊川稲荷を見たときには、「このお稲荷さんは何事だ!」とカルチャーショックを受けたものである。そうかと思えば、ご当地の三河港は実に年間2.8兆円を輸出する港湾であり、輸出額では@名古屋港、A神戸港、B横浜港、C東京港、D大阪港に次ぐ日本第6位であったりする。自動車産業は偉大なのである。

〇ということで、本日は豊橋支部の皆様を前に、1週間後にせまった米大統領選挙についてあれこれと申し上げる。いやー、ここまでくると市場がほとんど「トランプ勝利」を折り込み始めていて、株高と円安が始まっている。以前から、「選挙戦を読む裏ワザ」と紹介していたTMTG社の株価は何と50ドルを超えて暴騰状態だ。時価総額も100億ドルを突破。トランプさん、笑いが止まらないだろう。

〇不肖かんべえは、先週水曜日の23日に「どっちが勝つかわかりません→データを素直に読めばトランプさんが勝ちます」に切り替えたのであるが、偶然にも同じ日にFiveThirtyEightの主催者、ネイト・シルバー氏がNYT紙に寄稿している。おおよそこんなことを言っている。


「データが50対50ということは、50対50と考えるのが正しい。『それでお前の直観はどうなんだ?』と聞かれたら、自分の勘はトランプを指している。しかし読者諸兄は直観を信じるべきではない。私のも含めて」


〇ネイト・シルバー氏は、アメリカ社会ではよくあるタイプの若き天才である。大学で統計学を学び、監査法人で働くかたわら、MLBのどの選手が伸びるかをデータから読み取り、若くして野球解説者として名を上げた。その後は政治予測に転じてFiveThirtyEightを立ち上げて、2008年と2012年の選挙をばっちり当ててみせた。あいにく2016年の予測は「ヒラリーが勝つ」であったが。

〇今回の選挙についても面白いことを言っている。「私のモデルでは、7つの激戦州のうち6つ以上を制する候補者が現れる可能性は60%もある」とのこと。つまり来週の選挙は、意外な大差となるかもしれないという。これは世論調査会社が、Outlier(外れ値)を発表しないからである。そりゃそうだろう。「黒人はトランプ支持者が多い」なんてデータを出そうものなら、SNSで炎上してしまうからだ。

〇世論調査に関しては、どうしてもこの手の隔靴掻痒がつきまとう。2016年選挙にしても世論調査が外れたのではなく、ちゃんと学歴補正(大卒未満の人たちはあまり調査に参加してくれないので、その分を増やして計算しておく)をやっておけば、ちゃんとトランプ勝利が見通せたはずだ、なんて話もあるくらいだ。果たして来週はどんな結果になるのやら。

〇さて、今朝の関東地方は大雨であったが、豊橋市に来たらすっきりと秋晴れである。これなら、ということで少々、市内を散策してみることにする。「どこかお勧めの場所はありますか?」と尋ねると、地元の方々が一様に困った顔をして、「うーん、あんまりないんですよねえ・・・」とのこと。「地方都市あるある」の光景である。

〇まあ、いいのだ。ワシも少しだけ予習してきてある。まずは豊橋駅のコインロッカーに荷物を預け、駅前から市電に乗る。自動車天国と言われる愛知県内で、唯一、残っている市電である。これで豊橋市役所前で降りれば、すぐ先に豊橋公園があり、その中には吉田城がある。

〇ここは中世から東西の勢力の交差点であり、東の今川氏、西の織田氏、北の武田氏が往来する中を、徳川氏が拠点として守り抜いた場所である。なるほど城の後背地は豊川が流れていて、天然の要害といった風情がある。その後は池田輝政が城主となり、江戸時代には幕府の譜代大名の定位置となった。宿場町でもあり、歌川広重の「東海道五十三次」にもこの城が描かれている。

〇それから公園内の豊橋市美術博物館へ。「トリエンナーレ豊橋」を開催中で、500円はかなりお値打ちであった。地元の歴史を伝える展示物も並んでいる。とまあ、ワシのような趣味の者にはこれで十分に楽しめるのだが、普通に「観光資源」を求めると、豊橋市、なかなかに苦戦しそうである。

〇そんな中で現在の豊橋市は、アニメ番組「負けヒロインが多すぎる!」の舞台として聖地巡礼のブームが到来している。いかほどのことやあらん、と思って地元の書店でマンガを1巻だけ買ってみた。が、ダメです、こんなラノベ発の作品にはおじさんの感性ではついていけません〜。

〇一方でご当地では、地元出身で地元育ち、地元在住漫画家の手による四コマ漫画、「だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!」がブームになっている。これが面白いのだ。名古屋市に対するビミョーな感情、東三河と西三河の違い、たまり醤油に岡崎市の八丁味噌、地元のお菓子ブラックサンダー(ちゃんと駅の売店でも売っている)など、愛ある地元ネタがいっぱい詰まっている。以下のようなセリフに、思わず「そうだったのか!」と膝を叩いてしまう。


「東三河の人間は保守的で内向的、新しいものが好きなのに、先陣切る人を後ろから撃つ人種だでねえ」

「浜松市が静岡県から独立したら、豊橋市はついていくでしょ?」「当たり前です。文化も言葉も遠州の方が近いっ」


〇ということで、最後は勢川西駅店で地元名物の「にかけうどん」。地方出張はやはり楽しく、学びも多いのである。今日みたいに天気のいい日は特にねえ。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki