●かんべえの不規則発言



2017年6月







<6月1〜2日>(木〜金)

○愛媛県新居浜市に行って、別子銅山に登ってまいりました。別子銅山というのは住友グループの原点でありまして、その源流を訪ねる旅、という企画です。もちろん、あたしゃ住友グループとは縁もゆかりもない人間なのでありますが、なぜそういうところに行ったかというと、毎年恒例の商社グループ調査担当者のアウティング企画でありまして、住友商事さんのご厚意によるものです。こんなことでもなければ一生、行く機会はなかったでしょう。

○今日は旧別子銅山を登ってきましたから、1日トータルで2万歩を超えました!すごいっ!!これで体重も相当に減ったはずなのですが、その後で温泉に浸かってビールを飲み、帰りの松山空港ではサバとアジまで堪能し、家に帰ってまたビールを開けております。ああ、元の木阿弥・・・・。

○それにしても、歴史研究がしっかりしている場合、たとえ愛社精神がない者が見ても、こういう産業史跡ツァーは面白いものですな。東の足尾銅山、西の別子銅山。別子の銅は、江戸時代には幕府の財源となり、世界的にも高品位で知られていました。明治以降も貴重な輸出商品でありましたが、1973年には掘り尽くされて生産中止となりました。それが今では、産業ツーリズムの材料となっている。

○ひとつだけ感心したことを記しておきますと、別子銅山は元禄年間から掘り始められたので、明治期には周囲は完全にはげ山になっていたのだそうです。これではいかん、ということで植林を始め、そのために住友林業という会社ができ、今、山に登ってみると見事に全体が緑に包まれている。100年ちょっとでここまで緑が戻るということは、まずは四国の湿潤な気候に感謝せねばなりませぬが、関係者のご努力に頭が下がります。

○その昔、日本はかな〜り金や銅が出る国でありました。資源国というものは、ついついそのことにあぐらをかき、為替が高止まりしたり、経済発展が止まったり、他国の企業にに支配されたりすることが少なくありません。しかし日本の場合は幸いなことに、銅山から発展してさまざまな産業がフルセットで発展し、ひとつの企業グループを作ってしまった。こういうところに、日本型資本主義の原型があるといえましょう。

○で、この間に世の中は「トランプ大統領がパリ協定を離脱!」ということで大騒ぎになっている様子。そんなこと、ワシは月曜日のモーサテでも、火曜日のくにまるジャパンでも語っておりますがな。

○そんなことより、パリ協定を脱退する3つの方法のうち、@協定の規定に則って4年かけて離脱する、というストレートな策を取ったことが驚きです。それよりもA「あれは条約だ、と言い張って上院に批准を求めて下駄を預ける」という手法の方が政治的に優れていたと思います。Bの国連気候変動条約から離脱する、という手はさすがに禁じ手と考えますが。

○つくづくトランプさんは、「俺が決めるんだ!議会の連中なんか信じちゃいない!」ということにこだわった様子。そんなこと言っても、4年間は抜けられないわけだし、次の選挙で民主党の大統領が勝ったら意味がなくなってしまう(そもそも、それが狙いでこういう規定が入っている)。しかもこの間、アメリカのグローバル企業はちゃんとCO2削減を進めるだろうし、州政府単位で気候変動に取り組むところもあるだろう。離脱と言っても、実質的な意味は乏しいのです。

○他方、アメリカを代表する企業トップなどが、気持ちよさそうにトランプ批判を繰り返している今の状況は、トランプ支持者たちから見れば、「おーおー、やっぱりね。あなたたちは俺たちの暮らしよりも、ヨーロッパの連中が言っているようなキレイごとが大事なわけね。よくわかったよ。やっぱり俺たちの気持ちを分かってくれるのはトランプだけだ」という結果になると思う。

○環境重視派の方々からは、「こんなバカな決定をするトランプは、早晩、アメリカ国民から見放されるだろう」という声が多いようです。でも、そういう人は「意識高い系」というか、トランプ大統領が狙っている「プロレス」のルールが分かっていない。これでしばらく、「トランプのコアな支持層」が戻って来るし、ホワイトハウス内ではスティーブ・バノンなどの経済ナショナリストが盛り返す。当溜池通信としては、そういう展開を予想しております。


<6月4日>(日)

○最近の不肖かんべえお気に入りサイトは「Axios」である。英文で書かれた情報系サイトとしては、こんなに便利で、当たりの多いものはほかに見当たらない。特にトランプ政権に関しては特ダネを連発している。「パリ協定抜けるぞ」という報道も、ここが一番早かった。いや、ホントありがたい存在である。

このページの解説を見ると、政治報道ポリティコの出身者2人が作ったサイトであるらしい。この手のニュース配信サイトにおける最前線ともいえるが、「Axios」はとことん読者の側に立っている点で好感度が高い。

○ジャーナリストの文章というものは、変に気取った導入部がついていたり、ポーズも含めて反体制の味付けがついていたり、世の中を慨嘆するオチがついていたりする。が、そのほとんどは読者にとって無駄なものである。知りたいのは新鮮なネタだけなのである。かくいう溜池通信も、本質とは関係のない枝葉の部分をいかに読ませようかという勝負をしていることは、長年の読者にはバレバレであろう。

○その点、「Axios」はタイトルと1枚の写真とごく短い文章で語り尽くされている。興味のある方は、クリックしてより詳しい記事を読むことができる。ところがそのときも、別のページに飛ぶわけではない。サクッと読んで、サクッと元に戻ることができる。このスピード感がまことにありがたい。

○あらためて考えてみると、ワシが寄稿している東洋経済オンラインも含めて、たかだか3000〜3500字の文章を4ページ程度に分割してしまうことが多い。あれはページビューを稼ぐための常套手段なのだが、読者にとってはこんなに馬鹿らしいことはない。

○これまたワシが寄稿していた(最近はお休みしているけど)、ウェブフォーサイトはそういうことがないけれども、これは有料制サイトだからである。

○最近の情報系サイトのほとんどは、記事にいろいろひねくり回した題名をつけて、「ヤフーニュースが拾ってくれれば儲けもの」「やった!これで10万ビューは行くぜ!」みたいなあほらしい競争をやっている。だれか「Axios」の真似をする人は出てこないかね。いや、これは「天に唾」であることは百も承知の妄言でありますが。


<6月5日>(月)

○このところ、阪神タイガースの試合を見ているとなかなかに好調である。この週末などは、プロ入り11年目の岡崎捕手が突如として覚醒して、初のホームランにサヨナラヒットと連日のお立ち台である。いったい何がおきているのやら。調子に乗って、日曜夜は柏レイソルの試合を見ていたら、浦和レッズ相手に勝ってしまった。これで8連勝で、暫定首位キープである。圧倒的ではないか、わが軍は。

○改めて今年のセ・パ交流戦を振り返ってみると、案の定、今年もパ・リーグが勝ち越している。とくに巨人とヤクルトはまだ1勝もしていない。まあ、巨人軍は11年ぶりの10連敗で、あと1つ負けると最下位に終わった1975年(長島監督の初年度)以来の珍事なんだそうで、これはもうほとんど病的な事態といっていいでしょう。そろそろ高橋監督を、休ませてあげたほうがいいのではないかなあ。

 
1 オリックス・バファローズ 6 6 0 0 1.000  
2 福岡ソフトバンクホークス 6 4 2 0 .667 2.0
2 広島東洋カープ 6 4 2 0 .667 2.0
2 東北楽天ゴールデンイーグルス 6 4 2 0 .667 2.0
2 阪神タイガース 6 4 2 0 .667 2.0
6 埼玉西武ライオンズ 6 3 2 1 .600 2.5
7 北海道日本ハムファイターズ 6 3 3 0 .500 3.0
7 中日ドラゴンズ 6 3 3 0 .500 3.0
9 千葉ロッテマリーンズ 6 2 4 0 .333 4.0
9 横浜DeNAベイスターズ 6 2 4 0 .333 4.0
11 読売ジャイアンツ 6 0 6 0 .000 6.0
11 東京ヤクルトスワローズ 6 0 5 1 .000 5.5


○なぜ、こんな風にパ・リーグが優勢になるのかというと、たぶん移動距離の問題があるからでしょう。なにしろセ・リーグは普段から楽をしている。球団の所在地が、東京・東京・横浜・名古屋・西宮・広島である。ほとんど新幹線だけで移動できてしまう。これがパ・リーグはといえば、札幌・仙台・所沢・千葉・神戸・福岡である。近いはずの「千葉から所沢」だって、かな〜り面倒ですよ。まして「札幌から福岡」なんて、気候からして全然違うんですから。たぶんセ・リーグの選手は、札幌や福岡行きの飛行機に乗った時点で、「ああ、こりゃ勝てんわ」という気分になっているのではないでしょうか。

○そこでハッと気がついたんですが、今年の交流戦、タイガースは日ハム(札幌)と西武(所沢)と楽天(仙台)の3つのカードを甲子園に迎える予定になっていて、ビジターになるのはロッテ(千葉)とオリックス(大阪)とソフトバンク(福岡)なんですね。こりゃあ、移動がえらい楽じゃありませんか。しかも対オリックス戦は京セラドーム球場ですから、この関西ダービーはどっちがホームなんだかわからない。交流戦って、年によって当たり外れがあるんですな。ということで、今年のタイガースは気張らなきゃいけません。

○なぜ突然、当不規則発言がプロ野球の話になったかというと、明日の文化放送「くにまるジャパン極」「極シアター」(10:03AM〜11:45AM)で、プロ野球セ・リーグについて語ることになっているからなのである。広島ファン代表が福井謙二アナで、阪神ファン代表が不肖かんべえで、ヤクルトファン代表が荒木大輔さんである。いや、もちろん野村邦丸さんが仕切るわけでして、ご本人は「消極的巨人ファン」を自称しています。これでは中日とDeNAファンの方はどうしたらいいんでしょうか。このお手軽さ、もしくはバランスの悪さがいかにも文化放送的でありますなあ。

○ということで、明日はタイガースとセ・リーグを応援いたします。今宵はその下準備ということで。


<6月6日>(火)

○くにまるジャパン極、本日はいつも通り「深読みジャパン」の出番を終えてから、「極シアター」でセ・リーグファン鼎談に出演。以下の部分はメモっておきましょう。


●わがチームの優勝のカギを握る選手は?
福井さん 菊池涼介
吉崎さん 能見篤史
荒木さん 山田哲人

(能見さん、防御率はいいのに勝ち星が少ない。打線の援護がいつも少ない。もっと勝ってくれないと困ります)

●今シーズンはこの選手がブレイクする!
福井さん サビエル・バティスタ
吉崎さん 糸原健斗
荒木さん 原樹理&星知弥

(守備はまだ心もとないけど、金本監督が我慢して使っている。新人王を獲ってほしいです)

●チーム史上最高の選手は誰?
福井さん 黒田博樹
吉崎さん ランディ・バース
荒木さん ボブ・ホーナー

(バースさまのことは拙著『1985年』でも書きました。あの活躍ぶりは忘れられません)

●あの選手がうちのチームにいてくれたら...
福井さん 本音はいらない。ただ左ピッチャーが何人かいてくれたら...
吉崎さん 大谷翔平と言いたいが、現実的には中田翔
荒木さん チームの空気を変えてくれる人...

(不動の四番打者になってくれそうだが、地元・大阪に帰った瞬間にスポイルされてしまいそうな予感も・・・)

●優勝に向けて怖いチームは?
福井さん 阪神タイガース
吉崎さん 己自身
荒木さん どこでもいいから勝ちたい...

(阪神が負けるときはいつも自滅です。他所のチームに負けるんじゃありません。昔からよく知ってます)


○荒木さん、福井さんからは、公共の電波じゃ言えないようなプロ野球の裏話もたくさん伺いました。役得であります。そして今宵、阪神は11安打11得点で3連勝。いやあ、この時期に貯金が2ケタもあるなんて幸せすぎます。交流戦も4勝2敗でまずまずじゃないですか。他方、巨人軍はエース菅野が登板しても6回5失点で西武に敗戦。連敗記録を球団ワーストタイの11に伸ばしました・・・。


<6月7日>(水)

○野球談義もそろそろ切り上げて、明日の英国総選挙に控えたいと思います。と言っても時差があるので、投票が始まるのは日本時間では午後3時から。9日(金)朝に投票が終わり、大勢が判明するのは昼ごろになるでしょう。ああ、昨年のBrexitを思い出しますなあ。あのときは6月23日(木)が投票日で、翌24日(金)に運命が訪れたのでありました。それにしても、なぜ英国は投票を木曜日にやるんでしょうなあ。

○下院は650議席。過半数は325議席。メイ首相率いる保守党の現有議席は330議席。ここから上積みできれば、メイ首相にとってはめでたい勝利。Brexitにも力が入るというもの。逆に議席を減らすようなら、現政権の政治基盤は揺らぐ。まして過半数割れとなったら一大事。よもや労働党(現有229議席)の勝利はないと思いますけれども・・・。

○為替は本日から1ドル110円割れの円高局面。「有事の円買い」が1日早く始まった形。市場としては合理的な反応と言えるでしょう。さて、明日、明後日はどう動くのか。例によって、最初に試されるのは東京市場となります。株価は日経平均で2万円割れしたものの、反応はわりと落ち着いているようなので、少し安心するところがあります。

○今週のThe Economist誌は"Britain's Missing Middle"というカバーストーリーを掲げ、今回の選挙に対する嘆き節を展開しています。いわく、労働党は論外だし、保守党もよろしくないので、今度の選挙では第3政党の自由民主党を支持するとのこと。それってほとんど勝ち目はないんだけれども、フランスの大統領選挙のように「右と左の既成政党が崩れて、中道のマクロン政権が発足するような」奇跡を望んでいる模様。英国はかなり苦しい。そんなことを痛感させる記事でありました。


<6月8日>(木)

○ひろぎん経済研究所さんの講演会で、日帰りで広島出張。

○広島駅に降り立ったら、外国人客の多さに目を奪われる。そのまま正面玄関に出ると、タクシーに長蛇の列ができている。ところが駅のロータリーにはひっきりなしにタクシーがやってきて、びゅんびゅん客を乗せていくので、みるみるうちに行列が捌けていく。さすがは有効求人倍率1.78倍の広島県。なんだか元気があふれている感じである。

○広島駅のすぐ近くに新しい高層マンションが2棟立っている。上の方は億ションで、一説によれば黒田博樹投手の住居も入っているんだとか。それにしても、「地方中核都市の新幹線から至近距離の高層マンションに住む」というのは、なかなかに魅力的なアイデアかもしれない。確か新神戸駅の近くにも高層マンションがあったよなあ。

○広島のサラリーマンの間では、昨今は挨拶の次に「昨夜のカープは…」という話になる。カープの話が終わると仕事の話になる。「カープと仕事の間に、せめて少しは賢そうな話をせんかい!最近の日本経済は・・・・とか、トランプ政権の動向は・・・・とか!」とは当地の某氏の嘆き。「12連敗の巨人はどうしたらいいか…」という話も、最近は盛り上がる鉄板ネタなんですが。

○昨年の流行語は「神ってる」(鈴木誠也外野手)であったが、今年の流行語対象の有力候補は「バティスる」(バティスタ外野手)。これ、福井謙二さんも言っていたなあ。育成選手として格安(4.7万ドルプラス出来高払いで6年契約)で契約したにもかかわらず、連日打つわ打つわ。お蔭で最近はマツダスタジアムのチケットが取れません。これも福井謙二さんが嘆いていたなあ。

○帰りは広島空港で、またお好み焼きで一杯やろうかと考えていたら、飛行機の便数が多過ぎて荷物検査に長蛇の列ができている。泣く泣く行列について「3階で一杯」を諦める。牡蠣の季節でなかったのがせめてもの救いか。たまには泊りがけで行きたいものである。


<6月9日>(金)

○某国首相が国会答弁で、「熟読してほしい」といった某Y紙に対し、「御用新聞」であるという批判が寄せられているらしい。とはいえ、Y紙はここ数年、政局がらみではスクープ連発で、特にTPP交渉の内幕などでは独走していたという印象がある。少なくとも「御用新聞」は、政府の考えをストレートに教えてくれるという点で、読者にとって有用性があると思う。

○これに対し、Y紙を批判している「反日新聞」には、いったいどんな値打ちがあるというのだろう。今の某国首相が嫌いで仕方がない、という読者はそれで溜飲を下げるのだろう。でも、政権を叩くことができるのなら、持ち込みネタでも何でも使うという姿勢では、いつか来た道ではないのだろうか。A紙には「2つの吉田事件」というものがあったと記憶するのだが。

○そもそも読者というものは、「どの新聞に何が書いてあったか」なんてことはいちいち覚えていないものである。「わが社のスクープだ」などというのは、当事者たちの自己満足であって、それで新聞が売れるわけではない。だって部数は引き続き減っているんでしょ?順調に。

○まあ、Y紙もA紙もワシ的にはどうでもいいことである。だって最近は、「株屋の新聞」であるところのN紙ばかり読んでいるから。あ、ちなみに自分がときどき寄稿しているS紙とM紙は、いちおう目を通していますけど。ワシもその程度には義理をわきまえているつもりである。


<6月11日>(日)

○今週は水曜日に神戸に行く予定があるのですが、そのときにはまだ間に合わないかなあ。

●鈴木商店モニュメントの設置・寄贈について(神戸市)


◆概要◆

 明治から大正にかけて、港町神戸繁栄の基礎の一端を築いた「鈴木商店」の歴史的な価値を後世に伝えるため、神戸開港150年を記念して、モニュメントが設置されることになりました。

◆製作・設置者◆

「辰己会・鈴木商店記念館」
モニュメントは完成後、神戸市へ寄贈されます。

◆設置場所◆

神戸市中央区栄町通7丁目地先 神戸市道上
(大正中期に鈴木商店本店があった場所の直近)

◆設置時期◆

平成29年6月下旬

◆除幕式◆

完成を記念して、関係者による除幕式が開催される予定です。
平成29年7月7日(金曜)11時00分〜
主催:辰己会・鈴木商店記念館


○この除幕式、関係者が多くてかなりややこしいと見えて、かんべえの同僚が連日のように長電話をかけて調整に努めております。ともあれ、神戸に鈴木商店のモニュメントができるということは、まことに喜ばしいことであります。


<6月12日>(月)

○まるで13連敗の読売巨人軍のように、愚痴しか出てこないのが今の英国政治である。なんで解散しちゃったのかねえ、とか、こんなに急速に支持率が下がるかねえ、とか。メイ首相、なおも強気の姿勢は崩れませんが、今頃は後悔の真っただ中だと思いますぞ。今までに何度、こういう局面をみてきましたことか。

○逆に意気上がるのがフランス政治。今月の議会選挙では、マクロン大統領が率いる新党が大勝の見込み。逆に与党だった社会党は、200人程度が落っこちて「元議員」になるらしい。こういうと、それだけで「メシウマっ!」と思う人が居るかもしれないが、そういう時は碌なことがないものです。きっと「馬の骨」がいっぱい当選してきますぞ。

○それでもとにかく、若い指導者が誕生することの効用は計り知れないと思います。アメリカだって、1992年に「クリントンとゴア」のコンビが当選した時には、一気に世の中が若返ったように思えたものである。逆に言えば、今のトランプ政権に止めを刺すためには、2020年に40歳前後の若い政治家が民主党から出てこなければなりません。さて、誰かいますかねえ。

○国内に目を転じると、東京都議会選挙が近づいている。小池都知事としては、「メイじゃなくてマクロン希望!」といったところでしょうが、果たしてそんなにうまく行きますかどうか。最近は「都民ファーストの会」のことを、「トイチ」(都一)と呼ぶんだそうです。うーん、いかにも借金が増えそうだなあ。ご用心。


<6月13日>(火)

○土日をまたぐと一気に雰囲気が変わりますな。先週は「英国総選挙」と「コミーFBI前長官の議会証言」で一色でしたが、今週になったら「FOMCと日銀金融政策決定会合」、そして「豊洲か築地か」ですものね。、

○6月13-14日に行われるFOMCについてひとこと。利上げはほぼ決定的ですが、むしろ関心はバランスシートの圧縮(あるいは再投資政策の変更)について、イエレン議長がどんなことを言うかでありましょう。記者会見は日本時間では15日(木)の午前3時30分からになりますが、世界中の市場関係者が注視することでしょう。木曜朝のモーサテでは、たぶん鈴木敏之さんが登板ですな。

○ここでふと思い起こすのは、4年前のバーナンキショックである。あのときは「テーパリング」という言葉が世界中を飛び交い、株価はそこらじゅうで下げたし、新興国通貨は大荒れになった。しかるにバーナンキ議長は丁寧に市場との対話を繰り返し、2013年末にはテーパリング開始への筋道をつけている。そして翌年2月にはイエレン議長にバトンタッチしている。後任のために、いちばん難しい仕事を片付けておいた、という形であった。

○現在は同じことが繰り返されている。イエレン議長の任期は2018年2月3日まで。となれば、後継者(再任の可能性もあるけれども)のために、今のうちにやっておかなければならないことがある。それが中央銀行家としての発想だと思うんですよね。前任者から受けた御恩を次の人につなぐ。もっともエコノミストに戻ったバーナンキ氏は、「バランスシート圧縮を急ぐ必要はない」と公言しているようですが。

○テーパリングというのは、QEという米国経済のドーピングをいかに止めるかでした。その後、ドーピングは2014年10月にめでたく終了し、その後はゆっくり利上げをしながら様子見を続けている。次に始めなければならないのは、バランスシートの圧縮といういわばダイエット。そのことについて、イエレン議長が何と言うか。気になるところです。

○ところで4年前のバーナンキショックの際は、ちょうどアベノミクスが始まったばかりの頃でした。安倍首相が成長戦略を発表している当日に、日経平均が1000円も下げたんですよね。あれからずいぶん経ったものです。もっとも当時の株価の高値は、日経平均でいいとこ1万6000円くらいでしたけど。4年前を思い起こすと、いろんなことに思い当たりますね。


<6月14日>(水)

○将棋の世界では、「緩手」<「疑問手」<「悪手」<「一手バッタリ」(その一手で勝ち目が無くなる)などといった表現がある。その中でも最上級の悪い手を、「ココセ」と呼ぶ。その心は「ここに指せ!」(そうしてくれれば、俺が勝ちなんだけどなあ)である。

○国会戦術の世界で「ココセ」が飛び出した。昨日、「共謀罪」ことテロ等準備罪の審議の最中に、民進党が金田法相、山本地方創生担当相の問責決議案を提出したのがそれである。与党から見れば、こんなにありがたい話はない。「そうか、あんたたちは真面目に審議に応じるつもりはないんだな!」と審議を打ち切る絶好の口実を得た。これで共謀罪は今週中にも強行採決できてしまうだろう。

○与党の側から見れば、いちばん嫌なのは審議の引き延ばし戦術であった。今国会の会期は6月18日まで。会期を延長すると、7月2日の都議会選挙に影響が出てしまう。それがこの調子であれば、会期の延長幅はごく短期間で済むだろう。国会さえ閉じてしまえば、「もり」だの「かけ」だのという話もどんどん遠ざかって行く。こんなにありがたい話はない。

○民進党が何を考えて問責決議案みたいな中途半端なカードを切ったのか、ワシの鈍い頭ではサッパリ分からない。最大野党がこんな調子だから、「安倍一強」になるわけであって、その責任は重いと言わざるを得ない。共産党の陽動作戦に乗っちゃったのかなあ。蓮舫さん、こういうときは「相手が一番嫌がる手を指す」ものであるますよ。

○そうでなくても、7月2日の都議会選挙が過ぎると、政界の景色が変わるはずである。「トイチ」こと都民ファーストの会はそこそこ議席を取るだろう。その分、自民党は減らす。とはいうものの、今の議席数は2013年に「候補者全員当選」という「勝ち過ぎ」で得たものである。少しくらい減るのは想定の範囲内。むしろ問題は民進党である。

○2009年の都議会選挙では、民進党はいきなり第1党に躍り出た。それが2013年の都議選では、共産党以下の第4党に没落した。それが今回は、さらに議席を減らすはずである。そもそも「トイチ」に亡命する議員が後を絶たない。結果として、来月になると「民進党の都議はほとんど居ない」ということになってしまいかねない。

○この姿、維新の会に議席を食われてほとんど空洞化してしまった大阪府議会と大阪市議会にそっくりである。つまり来月になると、民進党は「東京都と大阪府で手足を持たない政党」になる可能性が大である。そんなんで次の総選挙をどうやって迎えるのか。もともと西日本(中国・四国・九州)では議員数が極端に少ない政党である。ほとんどローカル政党になってしまうのではないか。

○ということで、とんだヘボ将棋の一幕を見ている感あり。お疲れ様であります。


<6月16日>(金)

○今週は神戸と熱海へ。先週は高松と広島。来週は仙台と大津へ。仮に新幹線にマイレージというものがあったなら、ワシは確実にゴールドカードである。

○などといろんな場所で講演会をやって、よく受ける質問にこれがある。「そうは言っても、やっぱりトランプさんは弾劾されるんじゃないでしょうか?」

○それは難しいですよ、という話は専門家の間では一種の常識となっている。少し先走ったことを言うと、リアリティがあるのは「弾劾よりも合衆国憲法修正25条でしょ」ということになる。

○これはケネディ大統領が暗殺された後の1965年に起草された条文である。条文の日本語訳(ウィキペディア)を引き写しておきましょう


第1節 大統領の免職、死亡、辞職の場合には、副大統領が大統領となる。

第2節 副大統領職が欠員の時は、大統領は副大統領を指名し、指名された者は連邦議会両院の過半数の承認を経て、副大統領職に就任する。

第3節 大統領が、その職務上の権限と義務の遂行が不可能であるという文書による申し立てを、上院の臨時議長および下院議長に送付する時は、大統領がそれと反対の申し立てを文書により、それらの者に送付するまで、副大統領が大統領代理として大統領職の権限と義務を遂行する。

第4節 副大統領および行政各部の長官の過半数または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないという文書による申し立てを送付する時には、副大統領は直ちに大統領代理として、大統領職の権限と義務を遂行するものとする。

その後、大統領が上院の臨時議長および下院議長に対し、不能が存在しないという文書による申し立てを送付する時には、大統領はその職務上の権限と義務を再び遂行する。ただし副大統領および行政各部の長官の過半数、または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務の遂行ができないという文書による申し立てを4日以内に送付する時は、この限りでない。この場合、連邦議会は、開会中でない時には、48時間以内にその目的のために会議を招集し、問題を決定する。もし、連邦議会が後者の文書による申し立てを受理してから21日以内に、または議会が開会中でない時は会議招集の要求があってから21日以内に、両議院の3分の2の投票により、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないと決定する場合は、副大統領が大統領代理としてその職務を継続する。その反対の場合には、大統領はその職務上の権限と義務を再び行うものとする。



○第1節は「大統領の空席」、第2節は「副大統領の空席」、第3節は「大統領の自発的引退」、そして第4節が「大統領の非自発的引退」である。長い条文だが、副大統領と閣僚の過半数が「大統領は職務の遂行ができません」と申告すると、更迭ができてしまう。要するに「明らかに不適切な大統領に対する宮廷クーデターのやり方」を定めた条項である。もちろん、過去に1度も発動されたケースはない。

○弾劾よりは、こっちの方が少しは確率が高そうである。それでもワシ的には、「トランプ政権は4年間続く」という方に賭けたいと思いますけどね。


<6月17日>(土)

○東京都議会選挙は6月23日公示、7月2日投開票ということになっている。どういう状況なのかと思ってこのサイトを調べてみた。うーん、関心がわかんのう。というか、そもそもワシは選挙権ないし。ついでに言えば、「豊洲か築地か」という問題もどうだっていいと思っている。決定を引っ張り過ぎて、鮮度が失われている感が否めない。

○過去に東京都議会選挙は、その直後に中央政界で生じる激変の先駆けとなったことがある。ひょっとすると、今回も「安倍一強」を揺さぶる大騒動の発端になるのかもしれないが、その後に国政選挙を控えているわけではないので、心安らかに見ていられそう。近年の投票率は概ね低くて4割から5割そこそこである。


●1993年6月27日:日本新党がいきなり20議席ゲット→直後の総選挙で細川内閣発足

●2009年7月12日:民主党が第一党に→直後の総選挙で鳩山内閣発足

●2013年6月23日:自民党が返り咲き→直後の参院選でも自民党勝利で安倍内閣が鉄板に


○せめて誰か面白い候補者はいないのかと思って探したら、世田谷選挙区でマック赤坂(スマイル党)が出馬することを発見。うーん、これは当選しちゃうかもしれないぞ。だって世田谷区は定数8で、4年前には2万1500票で生活者ネットワークの候補者が当選している。そこは有権者数70万人の世田谷区。それくらいの物好きはいるだろう。ここが最大の山場だったりして。


<6月19日>(月)

○ああ今日は外出も来客もない、こういう日はゆっくり仕事ができるわなあ、と思っていたら会社のPCのメールソフトがクラッシュ。いったいどういう罰ゲームなのか。見事に半日潰れてしまったし、何度も悲鳴と呪詛とため息を繰り返してしまう。まあ、せめて忙しいときでなくてよかったと、みずからを慰めるべきであるのかもしれない。

5月の貿易統計が公表された。日経夕刊の見出しには、「貿易収支4カ月ぶり赤字」とある。あのなあ、5月は連休で工場止まるんだから、輸出が減るのは当たり前だろうが。季節調整値で見ればちゃんと1337億円の黒字でしょ。ちなみに前回の赤字は1月で、これも年末年始の休みがもたらした数値である。だから原系列で議論するのは止めましょう。

○今の日本は金額のみならず、輸出数量が伸びている。それもアジア向け、EU向け、アメリカ向けと全部上向き。やっぱり為替レートはそんなに問題ではなくて、外需さえあれば輸出は伸びるのだ。逆に言えば、円安になっても輸出が増えるとは限らない。

○その外需は、@中国経済の回復、A半導体サイクルの好調、B資源価格の底入れ、という3つの要素に支えられている。ということで、しばらくぶりの輸出主導型回復。明後日の月例経済報告がこれを何と評するか。今から楽しみな気がします。

○もちろんここで、こんなツッコミを入れることも可能である。「@中国、A半導体、B資源だなんて、全部来年までもつかどうか怪しいじゃないか?」――それはその通り。でも年内いっぱいくらいなら充分にイケるでしょ。今のご時勢で、「向こう3年これで安泰です」なんてことはあり得ないんだから、文句を言ったら罰が当たりますよ。


<6月20日>(火)

○東北生産性本部さんの講演会で仙台へ。そういえば3年前にも呼んでいただいた。仙台は福岡や札幌と同様、地元愛の強い都市であります。(このデータを見ると福岡が圧勝ですな)。

○もちろん、野球も強いです。今年は楽天がいいですからね。先日、文化放送で荒木大輔さんの話を聞く機会がありましたけど、「楽天ゴールデンイーグルスは2番から4番まで外国人選手を並べている。あれでは上位打線ではほとんど作戦ができないということ。でも、それをやっちゃうんだから、梨田監督はすごい」とのことでした。

○特に「2番ペゲーロ」はまるで暴力装置のような打者ですわな。あんなのが2人目に出てくるのでは、相手ピッチャーは嫌でしょうなあ。そしてウィーラー、アマダーと続く。12球団一の強力打線であります。

○仙台空港もコンセッションが成功している。先々週に訪ねた広島では、「広島空港も早くやっとけ」みたいな話が起きていましたな。あそこは市街地から遠いので、そのうちリニアが開通した日には、新幹線の方が移動が早くなってしまうぞ、という危機感があるかららしい。

○今年は伊達正宗公の生誕450周年。来月になると七夕祭りも始まります。うむ、あんまり早く帰ってきちゃいかんなあ。


<6月21日>(水)

加藤一二三九段、引退

現役最年長棋士の加藤一二三九段(77歳)は6月20日、第30期竜王戦ランキング戦6組昇級者決定戦(対 野智史四段戦)で負け、現役引退となりました。

加藤九段は第75期順位戦C級2組で降級点が3回となりフリークラスへの降級が決定していました。C級2組で降級点を3回とったフリークラス棋士の定年は60歳のため、加藤九段は2016年度の出場していた残りの棋戦の最終対局日をもって引退となっていました。


藤井聡太四段、28連勝。歴代トップタイ

6月21日(水)に行われた王将戦一次予選、澤田真吾六段−藤井聡太四段戦は99手で藤井聡太四段が勝ちました。藤井聡太四段はこれでデビュー後負けなしの28連勝を達成し、神谷広志八段が昭和62年8月17日に成し遂げた歴代連勝記録の一位に並びました。


○この2つのニュースが1日違いで並ぶなんて、将棋界にとって何とラッキーなことでしょう。方や77歳の引退、方や14歳の28連勝。「AIに勝てなくなったプロ棋士」ということで、ボロボロになっていた昨年がウソのようです。

○もっともデビュー以来28連勝なんてのは、藤井四段がこれから成し遂げるであろういろんな偉業に比べれば、そんなにたいしたことではないようにも思える。名人位や竜王位をとってもらいたいし、羽生さんとのタイトル戦で死闘を演じてほしいし、できれば「藤井定跡」(藤井システムという振り飛車の戦型は、別の藤井九段が作ってしまっている)なんてものも残してもらいたい。それに公式戦では、まだそれほど強い相手と当たっていませんからねえ。

○将棋というゲームは、やはり人間同士が戦ってこそ華なのです。AIに勝てなくなりました、なんてことは忘れて構わない。中学生が大人相手に勝ちまくっている、というそれだけで、皆がこれだけ感動してくれる。ニュースにもなる。いや、やっぱり28連勝はすごい。

○そうかと思うと、「またTVのバラエティ番組に『ひふみん』が出演する!」などといって騒いでもらえるのも感動ものです。あんなにピュアでチャーミングな77歳は、他の世界では滅多に見かけませんものねえ。こんな真似、AIにはできませんから。


<6月22日>(木)

○京都信用金庫さんの講演会で大津へ。お久しぶりのクライアントである。場所は琵琶湖ホテル。お懐かしい会場である。絶景なる琵琶湖の水面をバックに、理事長さんから地方金融のそもそも話を伺う。

○明治政府は欧州の事例に学び、初期のうちから中小企業金融の重要性を自覚していた。経世済民のためには大銀行を作るだけでは足りず、身体で言えば毛細血管を整備しなければならない。そのためにはローカル金融の仕組みを、全国に張り巡らす必要があった。(この辺のことが分かってなくて、無駄な時間を過ごす途上国は少なくないのである)

○そこで全国に信用組合を配置しようとしたが、このときに役だったのが江戸時代に発展した二宮尊徳による報徳会ネットワークであった。至誠に基づいて勤労し、倹約して溜めたお金を他人のために使う。これを推譲と呼ぶ。つまり勤労→貯蓄→蓄積→投資という資本主義のサイクルは、江戸時代に既にこの国には根付いていたのである。

○大津から京都に至る道は、逢坂山を越える。これがなんだかいい感じで、現代ニッポンの風景の中に昔日がそのまま残っているように見える。かつて、ここより東が東国とされていた。百人一首の中で蝉丸が「知るも知らぬも逢坂の関」と詠んだのは、こういう道であったのか。いつの間にかタイムトリップしていたような気分でありました。


<6月23日>(金)

○本日聞いて感動した話。

「オーストラリアにも極右政党がある。が、いまひとつ盛り上がっていない。なぜならば、極右政党が求めるものは、『偉大な過去を取り戻せ』である。かつて偉大だった過去を持たないオーストラリアには、そういう動機が生じにくい」

○オーストラリアの人々に対して失礼な議論かもしれませんが、「偉大な過去を持たない国の幸せ」というのもきっとあるのでしょう。その逆の例はいっぱいありますから。

●中国。偉大な過去があるばっかりに、「150年に及ぶ汚辱の歴史」が気になって仕方がない。そのルサンチマンが経済発展や軍事増強の原動力ともなっているのだが、ときどき「痛い」と思えるときがある。

●中東。エジプトはエジプト文明、トルコはトルコ帝国、イランはペルシャ帝国、アラブはサラセン帝国。みんなが偉大な過去を持っているものだから、トラウマ同士がかち合っていつも大変である。

●日本。安倍・自民党が2012年選挙を戦ったときのスローガンは「日本を、取り戻す」であった。でも滑舌が悪いから、「トリモロス」と聞こえてしまったんだよな。わが国もその程度には、偉大だった過去があったようである。

●アメリカ。トランプ大統領のスローガンは"Make America Great Again."である。「かつては偉大であった」と感じる人がそれだけ多くなったのであろう。ちなみにトランプさんは2020年用に"Keep America Great."というスローガンを登録済みである。


<6月25日>(日)

○昨日の夕方、Biz Streetの放送のために、さあ、そろそろ家を出なくちゃ、と思ったらなんとケータイがない。弱ったな、どこへいったかなと探すけど見当たらず。だいたい「ウィニング競馬」を見終わってからゆるゆると出かける、というのがいつものパターンです。

○しょうがないから持たずに出かけて、落ち着かないままに夜まで過ごす。このままケータイが出てこなかったらどうしましょ、と考え始めると不安は募る。そういえば電話番号のバックアップもとっていなかった。なんとまあ、ワシは心がけの悪い人間であることか。

○今朝になって、おそるおそる昨日のお昼を食べた蕎麦屋に電話してみると、「ああ、携帯ですね」との声。おお、ありがたし。さっそく取りに伺い、今日の分の蕎麦を仕込中の親父さんから、問題のブツを受け取る。丸一日、行方不明だったことになる。

○こういうことで運を使ってしまったので、本日の宝塚記念は勝負を自粛。案の定、馬券王先生が鬱になるような結果でありました。

○今日のお昼はお気に入りの「クアトロ・スタジオーネ」。ちゃんと電話番号はケータイに入っている。いざというときのために、ちゃんとバックアップを取りましょう。


<6月26日>(月)

○とうとう聞いてしまいました。例の「このハゲー!」「違うだろ〜!」というヤツ。これはもうパワハラ発言というよりは、限りなく性格異常者という感じですな。笑っちゃいますなあ。いや、逆に笑えないというべきか。豊田議員、これはしばらく外を出歩けないかもしれません。まあ、自業自得ですけれどもねえ。

○自民党内では、「魔の2回生」というんだそうです。衆議院議員の2012年初当選組に、この手の事故が多いのだとか。不倫もあれば、金銭トラブルもあり、ストーカー行為もあれば、不規則発言もある。いやはや、最近の国会議員は・・・てなことになるのだが、別に昔の議員さんたちが品行方正であったわけでもない。要は今風にバレやすくなっただけではないかと思います。少なくとも昔は、秘書が親分の声を録音して週刊誌に売る、てなことは考えられませんでしたから。

○ワシの場合、2回生議員と聞いてすぐに思い浮かぶのは福田達夫さんである。お父さんもお祖父さんも総理大臣、という究極の世襲議員で、こんな議員はわが国の歴史でも初めてのケースであろう。もともとが三菱商事調査部出身なので、若い頃から業界づきあいで知っている。ご本人からは、「どうして三菱商事を辞めて、政治家になんかなったんですか?」と聞かれるのが困る、てなボヤキを聞いたことがある。

○で、この福田先生が事務局長を務める自民党内の部会に、何度かオブザーバー出席していて気付いたのだが、最近の自民党は「らしくない議員」が増えている。まず見かけからして政治家らしくない。若いし、女性も多いし、苦労があまり顔に出ていない。もっと言うとお洒落だったり、イケメンだったりする。そういう議員さんたちが、嬉々として政策論議に参加している。以前のように、「無理偏に頑固と書いて永田町と読む」みたいな人がのさばるご無体な世界ではなくなっているのである。

○よくも悪くも自民党は昔とは変わってきている。今では候補者を地元が面接して選ぶ。そうすると、高学歴や留学帰りやイケメンが選ばれる確率が上がり、叩き上げの秘書上がり、みたいな苦労人は選ばれにくくなった。その分、スクリーニングが手薄になって、変な人が選ばれてしまう確率も上昇したのだろう。後は派閥の教育機能が低下しているとか、党内におっかない人が居なくなったとか、これも今風の傾向が後押ししているように見える。

○一方で、「魔の二回生」からは、今後は政策オタクも誕生しそうである。そっちはそっちで楽しみがあると思う。世の中は、いいこともあれば、悪いこともあるものですよ。


<6月27日>(火)

○藤井聡太四段が昨日でめでたく29連勝。もっともこの中には、「NHK杯の予選で1日に3勝」(2月23日)みたいな勝ちも含まれていて、言っちゃ悪いが雑魚相手という面もなくはない。そういう意味で、もっとも価値があるのは竜王戦における勝利でありましょう。

○竜王戦というタイトル戦は、読売新聞社主催で「棋界の最高峰」という位置づけで1987年に創設された。そんなことを言ったって、将棋界には名人という江戸時代から続くタイトル戦があって、そっちの主催者は朝日新聞と毎日新聞を行ったり来たりして、現在は共催ということになっている。読売は「史上最高賞金」という形で将棋連盟を釣って、今ではアマチュア向けの免状を書くのも「竜王と名人」(かならず竜王が先に来る)ということになっている。何かにつけて、名人戦と張り合わなければならないのが、竜王戦の宿命なのであった。

○その名人戦は、A級ーB級1組―B級2組―C級1組ーC級2組という階層に分かれていて、1年かけてリーグ戦を勝ち抜かないとひとつ上には行けない。だからC級2組で入った若手がA級に上がるのは、最短でも4年後ということになる。藤井四段が名人に挑戦するのは最短でも5年後、19歳の時となる。14歳でプロ棋士になった加藤一二三九段こと「ひふみん」が、「18歳でA級八段」になったということは、まさしく奇跡的なことだったのである。

○これに対し、竜王戦は思い切りフレクシブルな制度設計を行った。1組から6組までに分けて、最下層の6組には「女流枠」「アマチュア枠」「奨励会枠」まで作った。しかも挑戦者決定トーナメントはパラマス方式を採用し、「最下層の6組優勝者であっても、竜王位挑戦の可能性がある」ようにした。極端な話、ある日突然、「月下の棋士」のごとき天才少年(天才少女だったらもっと好都合であろう)が登場したら、いきなりその年のうちに竜王に挑戦できてしまう。まことに過激な制度にしたのである。

○とはいうものの、そんなマンガのようなことが本当に起きるはずもなく、今まではごく普通に戦われてきたのです。それでも羽生さんは19歳で史上初のタイトルをこの竜王で獲ったし、佐藤康光九段(現将棋連盟会長)も同様。つまり「若くて勢いのある実力者が勝ちあがってくる棋戦」という位置づけになっているのです。

○そこへ藤井聡太四段が登場したからさあ大変。29連勝のうちには、竜王戦第6組のトーナメントを優勝した6勝が含まれている。しかもその初戦は、昨年12月26日の対「ひふみん」戦だった、というから出来過ぎている。そしてとうとう優勝した。余談ながら優勝賞金は46万円。そして昨日は、竜王戦決勝トーナメントの第1回戦を第5組優勝者の増田康宏四段と闘った。増田四段もトーナメント戦を勝ち抜いてきたわけだから、もちろん強いし勢いもある。ところが藤井四段が苦しい局面を挽回し、見事29勝目を挙げたというわけだ。余談ながら賞金は52万円である。

○次に当たるのは、4組優勝者の佐々木勇気五段である(賞金77万円)。それに勝つと次は1組5位の阿久津主税八段(賞金120万円)。さらに勝つと次は1組4位の久保利明王将(同165万円)。これも勝っちゃうと次は1組優勝の松尾歩八段ということになる(同450万円)。

○おそらく読売新聞社としては、「藤井四段、頼むからもっと勝ってくれ〜!」とお祈りモードであろう。何しろ「こんな風になってくれたらいいな〜」と考えて作った制度が、現実のことになりつつある。さらにマンガ的な展開を希望するならば、挑戦者決定3番勝負を争う相手は、なるべくなら昨年の竜王挑戦者の羽生善治三冠王であってほしいところ。いや、もちろん佐藤康光九段でもよいのですが。その先には、渡辺竜王との七番勝負が待っている。そこでのファイトマネーは勝者4320万円、敗者1620万円となっている。

(後記:昨年の挑戦者は丸山忠久九段でした。お詫びして訂正いたします)

○ということで、竜王戦は第30期目の今年、途方もない挑戦者に恵まれ、大盛り上がりを見せているというわけだ。そりゃあ読売新聞は号外も出しますよ。ワシでさえ興奮している。次の対佐々木五段戦は7月2日日曜日に予定されている。


<6月28日>(水)

○早めの夏休みを取って島根県松江市に来ております。松江と言えば、遊民経済学シリーズの第3回で取り上げた場所。美しい城下町で、観光資源にも恵まれている。もともとは2014年7月に行った時の経験がもとになっていたのだが、3年もたつといろいろ変わっていることが判明しました。

○その1。小泉八雲記念館が大幅に拡張されていた。リニューアルして約1年とのことだが、HPも立派なのでぜひご参照あれ。昨日がラフカディオ・ハーン氏のお誕生日だったようです。それから曾孫の小泉凡氏が、当館の館長に就任されたとのこと。39歳、単身で日本にわたってきたハーン氏が、ここで家族を得て多くの作品を残し、子孫もご健在とはさすが。出雲は縁結びの国なのであります。

○その2。島根県立美術館に行ってみた。ここから見える宍道湖の夕日が絶品なので、早い時間に閉館するのはけしからん、みたいなことを書いておったのである。それが今回行ってみたら、今日は午後7時25分が日没なので、その30分後まで開館しているとのこと。併設されているレストランは、なんと午後9時までやっているらしい。畏れ入りました。

○あいにく本日は曇天で、夕日を見ることはかないませんでしたが、タクシーの運転手さんに聞いたところでは、「夕日がきれいな日は大勢人が集まってきます」とのこと。うむ、美術館というものは、是非そんな風であってほしいと思います。

○明日も山陰地方をうろちょろいたします。仕事の電話やメールはしばしご遠慮くださいまし。


<6月29日>(木)

○本日訪れたのは、まず米子駅まで向かって植田正治写真美術館。境港出身の写真家ですが、見れば「ああ、あれか」と思うこと間違いなし。写真も面白かったけれども、雨にぬれる大山もまた見事なり。どこで誰に学んだわけでもなく、こういう芸術家が生まれてしまうというのは、日本という国はしみじみ奥が深い。

○続いて訪れたのは足立美術館。ここは日本庭園と横山大観のコレクションで有名です。これを作った足立全康は、安来市出身の実業家。いわば大阪でのし上がった「どてらい奴」なんですが、後半生はせっせと美術品を買いあさり、しかも庭園におカネを賭けた。こういう道楽者が地方に誕生してしまうというのは、これまた日本という国はしみじみ奥が深い。

○そこから山陰本線に乗って西に向かい、出雲市、大田市を経て温泉津(ゆのつ)へ。右手には日本海が寂しく見えます。今宵は温泉にて一泊。日本酒美味なり。(酔い覚めの冷水、さらに美味なり)


<6月30日>(金)

○朝、温泉津駅から大田市駅へ。大田市というのは「おおだし」と呼ぶ。大の字に点はつかない。太田市(おおたし)というと、群馬県になる。この大田市こそが、石見銀山の街である。

○まずは大田市駅からバスに乗って石見銀山世界遺産センターへ。いろいろ学習するが、要は別子銅山と似た感じかな、と思う。日本発の貴金属が全世界に羽ばたき、そのことは当地に利益をもたらし、働き手は「こんなに旨い話はない」とばかりに、近郷近在から人が集まってきた。石見銀山は最初に大内氏が発掘し、後に尼子氏がゲットし、これを毛利氏が奪った。最後は徳川幕府のものとなり、石見は津和野藩以外は天領となった。

○石見発の銀は世界に流通した。ある時期には世界の流通量の3分の1位を占めたとの説もある。古来、人類が掘り起こした銀はたかだか106万トン。うち4.3万トンが日本産だったのだそうだ。つくづく日本は貴金属に恵まれた国土を有していた。もっとも石見銀山は、江戸後期にはむしろ銅の発掘が多かったようである。

○世間は「今年はアップル社がiPhoneを発表してから10周年」ということで盛り上がっているらしい。当地では「石見銀山が世界遺産に認定されてから10周年」なので、この日曜日には記念イベント、土曜日には提灯行列もやるのだとか。ちなみに直前には豪華客船飛鳥が浜田港にやってきて、お客さんが大挙してやってきたという。そういうイベントにぶち当たらなかったのは、これ幸いという気がするが、少し惜しいという気もする。

○そもそも行いが悪く、というよりも梅雨なんだから仕方がないんだが、今日は午前中から雨。龍源寺間歩という銀山の廃坑を訪れるのが一種のハイライトなのだが、山道を片道2.3キロ往復するのは断念。いや、すいません。そこまで根性がないもんで。江戸時代の面影が残る町並みをゆっくりと散策。これはこれで面白い。

○ご近所の方が作った「はじめての石見銀山」という解説ページがある。なるほどと思える指摘をしている。

繰り返すが、石見銀山は、世界遺産の地であって、観光地ではない。
観光地というには、ハードに、ソフトに、多々要件に欠ける。
歴史の中の石見銀山が、世界史に大航海時代と呼ばれる、地球規模の大きな
時代のうねりの中の一角にあったことを知り、産出した石見銀が及ぼしもたらした
影響や効果、それを生み出した技術や知恵などを、現地の遺跡、遺物、文献など
から確認し、理解し、学ぶところだ。

○のんびりバスを待って下山。山陰本線に再び乗って益田市へ。石見の国は、東から順に「大田」(石見銀山の街)、「浜田」(有数の漁港)、「益田」(萩・石見空港あり)と並んでいて、これを「石見三田」と呼ぶのだそうだ。この地帯には、独特の赤い色をした石州瓦が目立つ。

○益田市には、大量の石州瓦を使った島根県立石見美術館、グラントワがある。まことに途方もない建物であった。ということで、明日に続く。










編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2017年7月へ進む

***2017年5月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki