●かんべえの不規則発言



2011年1月






<1月1日>(土)

○気が付いたらもう年が明けてしまったようで、皆様、新年おめでとうございます。天気予報では北陸は大雪ということになっておりますが、実は降るそばから溶けておりまして、そんなに大騒ぎするようなことはありません。借りたプリウスも好調であります。

○こんな風に普通の年末年始を過ごしておりますと、いろいろ発見があってよろしいですね。たとえば、「トイレの神様」なんて歌があったことを初めて知りましたし、各局がスポーツ総集編をやっているから、ワールドカップの勝ち試合を繰り返して見る、なんてこともできます。それから千葉テレビで「幼獣マメシバ」という変なドラマの再放送をやっていて、これが見ているとハマるんです。あの主演俳優は只者ではありませんな。なにしろかわいい犬と共演して、まったく動物に食われていませんから。

○で、年明けには干支について何か書くのがお約束でありますので、以下、ちょっとだけ能書きを書いておきましょう。もともとは社内向けに書いたものですが、こういうのは年間予測にはつきものということで。

干支で考える2011年

 2011年の干支は辛卯(かのと・う)である。

 十干のうちの【辛】(かのと)は、陰陽五行では「金」性の「陰」に当たり、宝石や貴金属、ナイフなど小さくて洗練された金属を象徴している。辛の字は刺青をする道具の「鍼(はり)」に通じ、堅く鋭いけれども自らは刺激に弱く、傷つきやすい繊細さを有している。

 確かに末尾に1のつく「辛」年は、前触れもなく訪れる唐突な事件が目立つ。9/11同時多発テロ事件(2001年)、湾岸戦争、ソ連邦崩壊(1991年)、サダト大統領暗殺(1981年)、ニクソンショック(1971年)、韓国軍事クーデター(1961年)、マッカーサー解任(1951年)、真珠湾攻撃(1941年)などである。2011年も突発的な事件に用心したい。

 十二支のうち【卯】(う)は、もっともポピュラーな動物である。兎は温厚で愛嬌もあり、人付き合いも如才ないが、口が災いして自らを滅すイメージがある。兎が登場する童話には、『ウサギとカメ』や『かちかち山』、『因幡の白兎』など、最後にどんでん返しのある教訓的な説話が多い。好調に見えても、最後まで用心を怠ってはならない年といえよう。

実際に過去の卯年を振り返ると、年の後半に意外な大事件が起きている。1987年のブラックマンデー(10月20日)、1963年のケネディ大統領暗殺(11月23日)などが典型だ。そうかと思えば、1999年の「Y2K」こと2000年問題は肩透かしに終わったし、1975年には第1回先進国首脳会議が行われ(11月15日)、日本からは三木首相がめでたく出席している。卯年は「年の後半に注意」が必要であり、「初めは処女の如く後は脱兎の如し」の精神で乗り切りたい。

 先の【辛卯】(かのと・う)はどんな年であったか。60年前の1951年9月8日、日本はサンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約に調印して独立を回復した。ときの吉田茂首相は、国内の全面講和論を押し切ってこれを決断した。家庭ではテレビが普及し始め、第1回の紅白歌合戦が放送され、プロレスの力道山がデビューした。文字通り戦後日本がスタートした年といっていいだろう。

 昨年の【庚寅】(かのえ・とら)と同様に、辛の「金」性と卯の「木」性は金属製の刃物が木を切り倒す(金剋木)ことを意味し、2年連続で「相剋」の年となる。「辛」の鋭さと「卯」のソフトさを両立させ、細かく空気を読みつつ、商社マンらしく抜け目なく行動してゆきたい年である。


○それでは皆様、本年もよろしくお願いします。


<1月2日>(日)

○富山空港前のトヨタレンタカーでプリウスを返却。「満タン返し」のために、セルフのガソリンスタンドで給油してみたら、ちょうど2リッターで266円であった。数十キロは走っているんですけども。おもしろい経験でしたね。で、天候不順を警戒して、飛行機は30分遅れで離陸したけれども、着陸してみると関東は好天である。富士山がくっきり見える。ほんの1時間の距離でも、これだけ違う。ゆえに富山空港でセーターを脱ぎ、羽田空港でコートを脱ぐ。これがニッポン。

○こちらに戻ってくる途中で、前嶋先生の『アメリカ政治とメディア』を読了しました。メディアの「リベラル・バイアス論」やインターネット選挙の変遷、大統領の「ゴーイング・パブリック戦略」など、このテーマに関する広範な最新事情が丁寧に書かれています。政治報道に対する信頼性の低下など、日本に通じる話題も少なくないので、そっちの面でも興味を引くのではないかと思います。

○個人的におもしろいなと思ったのは、大統領選挙の予備選における「フロント・ローディング」(前倒し)現象について1章を割いていること。以前は4ヶ月程度あった予備選挙プロセスが、どんどん前倒しになってきて、とうとう2008年には「1月3日、アイオワ州党員集会、1月8日、ニューハンプシャー州予備選、2月5日、スーパーチューズデー」というスプリントレースになってしまった。結果的には2008年の予備選は、オバマ対クリントンによる史上最大の決戦へと発展していったわけですが、仮に1ヶ月で終わっていたら、全米のごく一部の州だけで候補者が決められたことになる。

○体験的にいって、アメリカの予備選挙を説明していると、ここはよく「それって問題じゃないですか?」と突っ込まれるところです。当方としては、「仕方がないんですよねえ」みたいに答えることが多い。でもやっぱりこの問題、行き着くところまで来てしまっていて、手直ししないことにはどうにもならなくなっている。なおかつ、メディアの報道姿勢がフロント・ローディングを加速しているのも間違いない。素人が直感的に「おかしい」と思う問題は、やっぱり本質的におかしい。システムに慣れてしまうと、「変」が目に入らなくなる。アメリカ政治オタクとしては心しなければなりません。

○選挙資金問題も興味深い。大統領選挙が行なわれるたびに、新しい手法が開発されて、使われる資金量も増える。2000年にマッケインが「ネット献金」を始め、2004年にディーンがそれを本格化させ、2008年のオバマが手法として確立した。そうかと思えば、ブッシュは「バンドラー」という手法によって、従来の資金規制の壁を大きく乗り越えた。アメリカ版の「政治とカネ」問題も、規制と現実の追いかけっこなのだ。2002年選挙改革法の合憲判決の中で、オコーナー判事は「水というのは常に出口を見つけようとするものだ」とコメントしているという。これは日本の「政治とカネ」にも当てはまりそうですね。

○最後にもうひとつ。「メディアの政治報道がケシカラン」という声はあちこちで聞きますが、そもそもメディアとはそれほど信頼に足るものであったのだろうか。『ボウリングアローン』のロバート・パットナムによれば、「Social Capital(人間関係資本)が低い地域で、メディアへの依存が見られる」のだそうです。考えてみれば、人と人の絆が強い社会においては、メディア中心の選挙戦術などあり得ない。要するに「リア充」の社会においては、メディアやネットは最初から必要ない、つーことであります。


<1月4日>(火)

○今日から仕事が始まってしまった。仕事納めは先週の火曜日であったから、正月休みは正味1週間ということになる。が、なんと遠くに感じられることであろうか。これぞ日本の「年末力」である。2010年はリセットされた。そして2011年が始まったのである。

○この休み中、テレビをずいぶん見てしまった。が、こういうときでもなければ、世の中の流行を知る機会がない。そういう意味では、年末年始はテレビにはかき入れ時なのであろう。気のせいか、CMも力が入っているように見える。もちろん、駅伝やラグビーもある。駅伝について言えば、ここまでイベントを盛り上げた日テレと読売も偉いが、ずっとスポンサーを続けたサッポロビールの我慢もたいしたものといえる。年に1度だけなのに、十分「キリンのサッカー」に対抗できてしまうではないか。

○全体を通して言うと、年末年始はNHKが1人勝ち状態だったような気がする。とくに紅白。ちょっと番宣が多過ぎて嫌らしかったが、番組としては力が入っていたので、例年よりは視聴率も高かった様子。これはNHKの勝利というよりは、民放全体に力がなくなっているからであろう。私の知る限り、民放の報道部門は数年前に比べてものすごくおカネがなくなっている。だとしたら、ドラマやバラエティの制作部門は、それどころではない騒ぎであろう。

○かくして、お笑いタレントを呼んでおいて、そこに有名人を入れて、出たとこ勝負のトークショーで一本上がり、みたいな番組ができてしまう。クイズ番組なんかも同様ですな。「お試しかっ!」や「黄金伝説」も、くだらないと思いつつ、ついつい見てしまうような魔力がありますが、制作側としてはとにかく「安上がり」という点が魅力なんでしょう。

○逆に、「みなさまのNHK」は受信料を原資にわが道を行くことができる。「ダーウィンが来た!」なんかを見ていると、一瞬のスクープ映像に賭ける執念たるや真にすさまじく、この人たちは化け物か、と畏怖の念さえ覚える。それからこの1〜2年の大河ドラマは、撮影の手法がガラッと変わってしまい、いかにもデジタル時代の時代劇という感じになっている。あんなのを見てしまった後で、視聴者は春風駘蕩たる「水戸黄門」の世界に浸れるものなのかどうか。

○その一方で、年末年始はユーチューブにも傑作なものが多かったようです。以下はほんのお裾分けです。いやはや、世の中には奇特な人がいらっしゃるもので・・・。

●【自民党】石破茂政調会長が軍事評論家大西氏に論破された決定的瞬間

http://www.youtube.com/watch?v=0H61LB9y-XQ&feature=youtu.be 

●総統閣下はグルーポンのおせち料理に相当お怒りのようです

http://www.youtube.com/watch?v=hdza4zHa-LE&feature=player_embedded 

●雨にスーダラ節

http://www.youtube.com/watch?v=EeyoMsZXEBk 


<1月5日>(水)

○昨年に引き続き、ユーラシアグループが「2011年のトップリスク」を発表しました。レポートはこちらをご参照。同社は在ワシントンで、グローバルな政治リスクの調査機関ですが、いつも切れ味の鋭い予測を披露してくれます。今年のトップテンは以下の通り。

1. G-Zero (国際協調なき世界)
2. Europe (ユーロ圏の混乱)
3. Cybersecurity (サイバーセキュリティと地政学)
4. China (変わろうとしない中国)
5. North Korea (北朝鮮)
6. Capital Controls (資本移動)
7. US gridlock (米国のねじれ議会)
8. Pakistan (パキスタン)
9. Mexico (メキシコ)
10. Emerging markets (新興国市場)

その他:イラン、トルコ、スーダン、ナイジェリアにも注意

○何といっても「Gゼロ」ってのが上手いですな。つまりG7でもG20でもない、もちろんG2も論外。国際協調が成立しないGゼロ時代、というのが2011年の最大のリスクというわけ。情報を売る仕事というのは、こういうネーミングの巧拙が鍵であったりします。同レポートに曰く。「20年前のソ連崩壊でさえ、G7がG7+1になる程度の変化でしかなかった。今起きているのは、それを上回る新しい世界秩序の到来だ。それをGゼロと呼ぶことを提案したい」

○世界の主要国が指導力を脇におき、協調よりも対決を志向する。結果として、グローバル経済の成長や効率は犠牲になる。金融危機後の苦闘の中では、地球温暖化のための妥協は後回しにされる。IMFやG20においても、通貨戦争や貿易戦争を避けようという警告を発しつつ、各国の対立は容易に解消しない。日米欧の先進国でさえ、緩和か規律かで意見が合わない。2011年は、米中首脳会談やダボス会議はただのポーズとなり、G20やIMF総会は紛争になるだろう・・・・。

○こんなGゼロ体制では、核不拡散みたいな目標はまったく覚束ない。アメリカは相変わらずイラクとアフガンから足が抜けない。まあ、せいぜい地域間で協調体制を作って行きましょうか、ということになるのでしょう。その意味では今年のAPECホノルル会議は重要ですね。もちろんTPPも。いってみれば、日本の政治が動いてくれないので、名古屋や大阪など地方から動きが始まる、みたいな現象かもしれません。

○あらためてリストを見渡すと、中東ネタがちょっと少ない気がします。今週のThe Economist誌がカバーストーリーで取り上げているように、イスラエルとパレスチナがかなりヤバいようです。なんとシリアとイランが、ヒズボラにミサイル5万発を供給しているのだとか。イスラエルが「倍返し」に出ると、すごいことになってしまいます。でも、中東問題については、「市場への影響は乏しい」とスルーされています。サウジの王家後継ぎ問題やエジプトの選挙もありますので、今年の中東はかなりの火薬庫状態だと思うのですけどね。

○その前に、昨年のトップリスクがどうであったかも検証しておきましょう。昨年はこうでありました。

1. US-China Relations (米中関係)
2. Iran (イラン)
3. European fiscal divergence (欧州の財政ギャップ)
4. US financial regulation (米国の金融規制)
5. Japan (日本政治)
6. Climate change (気候変動)
7. Brazil (ブラジル)
8. India-Pakistan (印パ関係)
9. Eastern Europe, elections & unemployment (東欧)
10. Turkey (トルコ)


○1位の米中関係では「通貨戦争」が勃発し、3位の欧州ではギリシャ危機、アイルランド危機が表面化した。そして5位の日本は案の定、でありました。ただしこのリストには、北朝鮮による砲撃事件や、ウィキリークスによる情報漏洩は入っていない。そのために、2011年の予測では、3位にサイバーセキュリティ、5位に北朝鮮が入っているのだとお見受けしました。

○それにしても、「全世界を見渡してリスクを計量化する」のは、まことに面白い作業といえましょう。学ぶところ大だと思います。


<1月7日>(金)

○2011年の最初の1週間がもう終わりつつある。これで早くも1年の50分の1を消化したことになる。ああ、なんと時間の流れるのが早いことよ。

○今年の「あけおめメール」の中で、もっとも印象に残ったのは某著名エコノミスト氏からの以下の指摘でした。


紅白歌合戦は、目立つ紅組の努力も感じさせないまま、またもあっけなく白組の勝利に終わりました。紅白を象徴する小林幸子の衣装という決定的な目玉に加えて、AKB48という新戦略兵器までありながら、なぜこうもあっけなく紅組は敗れるのか。この姿は、日本企業の今日を象徴していないでしょうか。合戦といいながら、競争の努力がなされないないのはどういうことか、ここにも日本経済停滞の一面が見えていると思います。


○なるほど、その通りなのである。紅白歌合戦は、これで白組が6年連続勝利となった。ジャンケンでも、6連勝は難しい。なにしろ2の6乗=64分の1の確率である。ウチの次女は、紅白に分かれて行なわれる小学校の運動会において、1年から6年まで全部負けるという「快挙」を成し遂げた。このことは、たぶん今後の彼女の人生において、良きにつけ悪しきにつけ何がしかの影響を与えるであろう。紅白歌合戦における「6連勝(6連敗)」とは、それくらいにすごい記録である。

○おそらくかかる事態をもっとも憂慮しているのは、NHKそのものであろう。NHKにとっては、結果が適度にばらついてくれた方が都合が良い。世の中には、「紅組が負けるのが腹立たしいから受信料は払わない」という人だっているだろう。実際に昔は、紅組と白組の勝ち敗けは1〜2勝差にとどまっていた。おそらくは紳士協定(ここは紳士=淑女協定と呼ぶべきか)があったのか、あるいは適度な八百長が行なわれていたからであろう。しかるにデジタルTVが普及して、視聴者参加型の審査を大々的に打ち出すようになったら、こんなに結果が偏ってしまった。おそらくNHKの担当者は、「頼むから7連敗だけはやめてくれえ!」と祈っているのではないだろうか。

○もちろん、本気で勝とうと思えば、紅組にはいろんな手口があるはずである。今回だって、「KARA」や「少女時代」などのK-popを呼んでいれば、SMAPや嵐にもっと対抗できたかもしれない。ワールドカップの最中には、あれだけよく流れたSuperflyの「タマシイレボリューション」も登場しなかった。また、最終結果に直結するトリがドリカムで良かったか、という問題もある。あるいは本気で勝とうと思っていたら、少なくとも、「NHK朝ドラ関係者を紅組司会に選んだ年は負ける」というジンクスは避けるべきだっただろう。松下奈緒さんが悪いわけではないが、縁起が悪過ぎるからね。

○もちろん、今どき「紅白どっちが勝ったか」を気にしている人は、そんなに多くないだろう。ワシだって、こんなことの勝ち負けにこだわるのはアホらしいと思う。「本来、歌に勝ち負けなんてあるわけない」というのも正論であろう。が、「本気になっていないから負ける」「でも、表面的には悔しくはないという振りをする」「正直言って、次もあんまり勝てる気がしない」というのは、まさしく今の日本経済に重なって見えるではありませんか。

○実際に今年の新年会をハシゴしていると、「日本経済はまさに閉塞状況でありまして」などと言いつつ、「でも、スカイツリーと小惑星探査衛星はやぶさの技術力は世界に冠たるものでして・・・・」と続く、自己憐憫にも似たご祝辞を非常によく聞くわけであります。それってとっても痛いし、カッコ悪いと思うのですよね。ホントは勝てる力があるはずなんですが、というのは言い訳である。言い訳するくらいなら、負けて悔しい、死ぬ気でガンバロー、となぜ言わないのか。われわれは競争社会に生きているはずなのに。

○昨年の大ヒットに「もしドラ」があった。200万部も売れる本に、碌な本はないに決まっているのだが、1箇所だけ良いシーンがあって、それは主人公みなみが初めてドラッカーの本を手にして、「マネジメントの本質は真摯さである」というくだりを読んで涙するところである。(すいません、ワシは2冊買ったけど、2冊とも人にあげてしまったので、手元にないから記憶で書いている。間違っていたらゴメンナサイ)。

○ということで、今年の暮れに7連敗を避けたいと思ったら、まずはドラッカーから始めるべきだろう。真のマネージャーが紅組に乗り込んで、勝つための真剣な努力を始めなければならない。NHKが「勝敗をつけるのは今年から止めます」というのも確かに一案であるが、それにしたって6連敗で止めちゃうのでは面白くないだろう。ここは意地でも勝ちを目指さねばならぬ。レディーガガを呼ぶとか、山口百恵さんに大トリをお願いするとか、この際、やれることは何でも試してみれば良いではないか。

○真面目な話、こういうときに有力な手法として、まずは過去との絶縁を目指すべきかもしれない。この場合で言えば、紅組の象徴的存在であるところの和田アキ子さんをクビにすることであろう。が、こういう改革案を実行しようとした途端に、改革者が闇から闇に葬られてしまいかねないのが、昨今の日本の組織の問題点であるわけでありまして・・・・。でも、それこそが「閉塞感」の正体なのだと思うわけであります。


<1月10日>(月)

○どうでもいいことながら、ちょっと気になる話をいくつか。

日本国際問題研究所が「次期所長を公募」している。仕分けされそうになったので、外務省OBでない人をトップに据えたいらしい。でも、フルタイムで財団の長が務まって、海外研究の統括ができて、国際交流のために外国語に堪能な人を求めるのならば、「報酬: 本俸月額60.4万円、通勤手当を支給」はないだろう。これじゃまともな民間人は応募しないよ。・・・・などと言いつつ、誰が選ばれるのか、ちょっと気になります。

○タイガーマスクが復活し、伊達直人さんが脚光を浴びている。いい話だなんだけど、「ランドセルを贈る」という行為は、これ以上続けられない公算が大であろう。おそらく今、日本中どこへ行っても、「ランドセルを10個くれたまえ」などと言えば、「ひょっとすると貴男は伊達直人さん?」と言われてしまうはず。あれはまとめ買いするもんじゃないですからなあ。願わくば不特定多数の「伊達直人」が現れて、善行の後追いをするようでありたいものです。

○全国的に成人式。10年くらい前には、酔っぱらって荒れる成人式が話題になったものだが、昨今の若者は草食系で飲まないらしく、その手の騒ぎはめっきりと減った気がする。それでもこの日の朝刊には、昔から必ずサントリーの広告が載って、昔は山口瞳さんが、今は伊集院静さんが「お説教」を述べてくれる。今朝のもよくできていると思う。若者の心に届いているかどうかは知らないが、少なくとも私ならこんなに上手に決める自信はない。


<1月12日>(水)

○明けて出社も6日目であります。さすがにもう年始ムードは消えつつありますな。

○ここまでいろんな新年会があって、いろんな新年挨拶を聴く機会がありましたが、何といっても底知れない心理的ダメージを受けたのは、先週の日本貿易会、新年懇親会における某現役大臣の来賓ご祝辞でありましたな。要するに、何も考えずに壇上に立って、行き当たりばったり方式で語るという典型的な「オヤジ挨拶」だったんですが、それなりのVIPも来ていて、各国大使も来ていて、逐語訳で英訳も行なわれる挨拶で、あれは凄かったな。

●今から20何年前、私は自民党でナントカカントカをやっておりましたが、そのときの大臣が××さんで・・・(そんなこと知らんちゅうの)

●暖流と寒流が合わさるところが良い漁場となりますように、日本はやはり貿易立国でなければならないのであります。(意味不明)

●やはり中小企業対策をやらねばなりません。中小企業の方は、何かあったらこの私のところに言ってきてください。政治主導ですから、私がナントカいたします。(今どき、あり得ない)

○途中で「そろそろ終わりますから」などと言いつつ、いつまでたっても終わらない。途中で呆れて、退席してしまう人を数人見かけましたな。関係者としては、ハラハラしながらどうすることもできない。それにしても立派だったのはベテラン通訳のNさんで、ムチャな挨拶をちゃんとした英語にして、間髪を入れずにアナウンスしてしまったのだから、まさしく匠の技でありました。

○さて、大臣閣下は最後の最後になって、やっと「この場で受ける内容が何であるか」を発見したのでありました。

●政権交代があったんだから、何かひとつくらいいいことがなければなりません。TPPね、菅さんの背中を押して、あれをやらせます。あれは自民党じゃできませんから。細川政権のときだってウルグアイラウンドのコメ開放をやったでしょ。私がTPPをやらせますから。

○ここでようやく万雷の拍手が起きて、長い挨拶はやっと終わったのでありました。ああ、良かったよかった。それにしても、わが国の金融担当大臣(兼郵政改革担当)は、まことに恐るべき資質の持ち主でありました。さすが国民新党は奥が深い。

○さて、気の早い話でありますが、来年の新年懇親会の会場予約が問題になっているそうです。お手元のカレンダーをご覧ください。2012年は1月1日が日曜日でありますから、最初の週は4日(水)、5日(木)、6日(金)と3日しかありません。その週末は「成人の日」を含む3連休です。そうなると経済団体などは、この3日間のうちにすべての新年懇親会の予約を入れなければならなくなる。すでに都内のホテルは争奪戦状態らしいですよ。変な話です。


<1月13日>(木)

○都内某所で行なわれた投資家セミナーで、国際情勢リスクや国内政局についてディスカッション。「菅内閣は予算を通せるのか」という質問に対し、「谷垣・自民党には、予算関連法案を否決して、日本政府を機能停止に追い込むようなガッツはないでしょ」と答えましたところ、隣にいたロバート・フェルドマンさんが、「私も同感」とのことで続けて曰く。

「自民党はなぜまとまっているのか。
 答えは野党だから。
 政権を取ったら、このままでは済まない」

「民主党はなぜ分裂しないのか。
 答えは与党だから
 政権から落ちたら、このままでは済まない」

○あいかわらず上手過ぎます。おそらく上のセリフ、間もなくいろんな人がツィートして、あっという間に広がってしまうんじゃないでしょうか。

○さて、明日は内閣改造。個人的には、「流浪の政策職人」与謝野さんがどんな使われ方をするのか、気になって仕方がありません。本来なら重量級の閣僚で処遇すべき人ですが、しかるべきポストはほとんど埋まっているし、内閣補佐官では寂し過ぎるし。郵政民営化反対の国民新党や、何でも反対みずほたんの社民党と同じ内閣で働くというのも理解不能です。いやあ、政治が壊れていきますなあ。


<1月15〜16日>(土〜日)

○所用があってちょっとだけ富山へ。2週間前とは違って、今回は本格的な雪が降っていた。今年は豪雪になるのかも。バイロン・ウィーンの「ビックリ予想」ではないけれども、地球温暖化論はますます遠くなってしまうのかも。

○今年の富山湾は、ブリがとっても豊漁なんだそうだ。スーパーへ行くと、切り身ひとつを300円で売っている。紅ズワイガニも安い。買い占めて持ち帰りたいくらいであるが、そうもいかぬ。ああ、もったいない。

○あんまり雪が降るものだから、飛行機ダイヤも混乱。富山空港で1時間くらい待ったものの、上空で旋回していたANA機はとうとう小松空港へ。しょうがないから、チケットを払い戻してもらって、富山駅経由、電車を乗り継いで帰宅。

○後でチェックしてみたら、ちゃんと帰りの分のマイレージは消えていた。なるほど、ANAは手慣れておる。家に帰ってきたら、ちょうど防犯部の「火の用心」が終わるところであった。申し訳なし。今日の町内会の新年会はちゃんと出ますから。

○村田さんから「HP開きました」とのメールあり。そういえば、統一地方選挙は3か月後ですな。今度の内閣改造はどんな効果をもたらすのやら。


<1月17日>(月)

○週末の間に、またしても傑作が誕生したようです。こんなメールを貰ったら、載せないわけにはいかないじゃないかあっ!


 子供達にランドセルを背負わせたいのが伊達直人■■子供達に借金を背負わせたいのが菅直人
              必殺技を決めるのが伊達直人■■「俺に決めさせるな」が菅直人
          虎のマスクで顔を隠すのが伊達直人■■虎の威を借るのが菅直人
           フェアープレーで闘うのが伊達直人■■スタンドプレーで目立とうとするのが菅直人
          施設にランドセル贈るのが伊達直人■■中国にランド・セールするのが菅直人
                  贈与するのが伊達直人■■増税するのが菅直人
            リングで虎をかぶるのが伊達直人■■選挙で猫をかぶるのが菅直人
      
      仮面を被って戦うのが伊達直人■■仮免で国を動かすのが菅直人
          マスクを外すと一般の人が伊達直人■■マスクを外すと欲望の人が菅直人
       
    明るい春をもたらすのが伊達直人■■春の見通しがたたないのが菅直人


○見事であります。あの名作、「イチローと一郎の違い」シリーズを彷彿とさせます。こんな風に世間が「タイガーマスク」で騒いでいるときに、よりによって「苗字が二文字で、名前が直人(漢字も同じ)」でネタを提供してくれるとは。カン・チョクト総理は、「持ってる男」なのかもしれません。


<1月18日>(火)

○最近のIT業界で、ちょっと気になったことを一言ずつ。

○ジョブスの健康状態悪化でアップル社の株価が急落。こんなこと、日本企業では考えられないよね。そんなに働く優秀なトップなんていないもの。その点アップル社では、iPodもiPhoneもiPadもジョブスが陣頭指揮で作ってきた。でも今から考えると、神ならぬ一個人の才能の上に成り立っている会社の時価総額が、マイクロソフト社を抜いて世界一のIT企業になったというのは、やはり間違っていたのではないのか。アップル信仰のない者としては、株主の心理は見当もつかない。

○映画『ソーシャル・ネットワーク』をやっているせいか、急にフェースブックに関する記事や問い合わせが増えて、ときどき「お友だち希望」が舞い込んでくる。正直言って、フェースブックのどこが面白いのか、あたしゃよく分からないのですよ。まして会社の価値が500億ドルと言われたら、胡散臭くてしょうがない。まあ、久しく会ってないGretchenさんから、「Toilet Goddessを聞いて号泣しちゃったよ」なんて近況を聞けるのは、ありがたいことではあるのだけれど。

○今週のThe Economist誌の記事によれば、ウィキペディアが1月15日で10周年だそうです。いやあ、もうそんなになりますか。ネット上のボランティアたちの作業が、価値あるものを生み出すという「クラウドソーシング」のモデルが成立することを立証してみせてくれました。ただし英語版の寄稿者は、2007年3月をピークに減少に転じて今では33%減だとのこと。どうやって長く続けるのか。これから先が問題でありましょう。

○最後にグルーポンについて。あたしゃ食い物をネットで注文する人の気が知れない。まして値引きしているとなったら、販売元を疑うのが当然だと思うのだが。でもあれだけ皆が怒っているということは、こちらが少数派なんだろうな。ちなみに、あたしゃ「福袋」を買う人の気持ちも分からない。中身見ないでカネ払うのは、冒険過ぎると思うものです。ええ、ネットで買うのは本だけと決めてますが、何か?


<1月19日>(水)

○この記事を読んでハッと気がつきました。明日はあの演説があってから、ちょうど50年目の日となります。

http://www.npr.org/2011/01/18/133018777/jfks-inaugural-speech-still-inspires-50-years-later 


Let the word go forth from this time and place, to friend and foe alike, that the torch has been passed to a new generation of Americans.


Let every nation know, whether it wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship, support any friend, oppose any foe, in order to assure the survival and the success of liberty.


In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility―I welcome it.


And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you―ask what you can do for your country.
My fellow citizens of the world: ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.


○1961年1月20日、ジョン・F・ケネディはこの言葉とともに、第35代合衆国大統領に就任したのであります。ちょっと居住まいを正してみたくなります。全文をキチンと読み返したい、と思う方はどうぞこちらをご参照。

○このNPRの記事も良くて、お暇な方はインターネットラジオで聞いてみてください。この半世紀、この言葉がどれだけ多くのアメリカ人を勇気づけ、「自分には何ができるのか」を問いかけ、行動を促してきたか。人生のしかるべき時期に、自分を鼓舞してくれる言葉と出会えることは、とても幸せなことではないかと思います。

○昨日、ちょっとワルグチを申しましたジョブス氏は、スタンフォード大学の卒業式で素晴らしい講演を行なっています。あれも聞く者をinspireする言葉でありました。読み返したくなった方、当欄の2005年9月27日分をご参照ください。


<1月20日>(木)

○先日、全国の互助会さんの会合に出る機会がありました。互助会と言えばお葬式。日本は既に、「生まれる人より死ぬ人の方が多い時代」を迎えており、このことはほとんどの産業において「困ったこと」なのでありますが、おそらくこの業界においては追い風なのであります。

○ただしこの業界も、いずれ情報化の波に飲み込まれることでしょう。端的に言えば、リクルートが参入してくる。「月刊葬儀情報」みたいな雑誌が出来て、お葬式のノウハウやら仕組みやらが白日の下に晒されてしまえば、今までの利益構造はとことん破壊されてしまう。結婚式の世界は、とっくの昔に結婚情報誌によって様変わりしてしまった。おいしい儲け話が消えてなくなり、お仕着せパッケージ型のセレモニーは売れなくなった。おそらく同じことが、葬儀の世界にも訪れるのではないだろうか。

○関係者もそのことは自覚していて、「いやはや、この業界も透明性向上は待ったなしなんです」とのことでした。つまり情報化が顧客ニーズの多様化をもたらし、そうなったらサービスを提供する側も対応しなければならなくなる。そのうち「遺族が船に乗って散骨する葬儀」とか、「自費出版の”私の履歴書”を作ってくれる葬儀」なんかが、普通のことになるのではないか。そうなると、供給力次第で業界地図が一気に塗り変わったりする。つまりイノベーションの機会があるということだと思うのです。

○ただし、業界関係者はかならずしも先行きを楽観していないようでした。こんな話を聞いて、ちょっと背筋が寒くなりました。

「今の老人はいいのですよ。結婚しているし、子どもも大勢いる。でも、そのうち喪主のいない死者が増えるでしょう。そうなったら葬式もやってもらえない。既に葬儀の規模は小型化していて、昨今は小さな葬儀場が人気になる傾向があります」

○つまり本格的な「無縁社会」が到来すると、葬儀ビジネスさえ安閑としてはいられない。そういえば最近は「社葬」も少なくなりましたものね。サービス業というものは、しみじみ難しい。


<1月21日>(金)

○講演のために福岡へ。だいたい、年に1〜2回は行ってますね。飛行機の便数が多くて、空港が至近距離にあるのでとっても便利な街です。なおかつ、ナイトライフも魅力的だったりするので、ついつい泊まりたくなる。まあ、今日は我慢しましたけど。

○今日の会合は、鉄リサイクル協会九州支部さんの新年会。スクラップ業界もご他聞にもれず、大変な状況から少し蘇えってきたところ。で、足下の市況はちょっと強そうに見える。豪州クイーンズランド州が洪水で、石炭価格の上昇は必至。ということは、生産炭の価格が上がるので、スクラップの需要も上がるのではないかと。

○今年は全体に資源価格は強いと思うのだが、かといって2008年のような極端なことも考えにくい。では、どこでブレーキがかかるかといえば、おそらく新興国経済の明暗が分かれるような感じになって、そこで調整が起きるのではないか。同じ新興国でも、ちゃんと内需が強くて伸びている国と、それらの国への資源や食料品の輸出で儲かっている国とでは、やっぱり分けて考える必要があると思う。端的に言えば、中国やインドは本物かもしれないが、ブラジルやロシアはちょっと危ういような気がするのである。ましてメキシコやらアルゼンチンやらは・・・。

○ということで、午後7時頃まで新年祝賀会にお付き合いし、タクシーを拾って空港に向かえば、7時45分の飛行機に悠々間に合う。福岡空港はやっぱり偉い。そういえば空港のロビーでは、「ソフトバンク優勝の記録」という写真が飾ってあった。ああ、そうか、パ・リーグを制したのはホークスだったのね。日本一になったのは「下克上」ロッテ・マリーンズだったけど。完全に忘れられているのがいと哀し。


<1月23日>(日)

○なんと石破茂代議士が、ご自分のブログで「伊達直人と菅直人」を紹介されていました。ものすごい数のコメントがついてます。当欄の1月17日分がそのままキャリーされた模様。くれぐれも、私のオリジナルのネタではありませんので念のため。

○あらためて考えてみると、「タイガーマスクなのが伊達直人、総理大臣なのが菅直人」で始めて、最後は「明るい春を応援するのが伊達直人、明るい春が来そうにないのが菅直人」で締めると収まりがいいような気がします。とまあ、こんな風にして、ジョークは改良されていくのでありましょう。だんだん昨年の「日本には謎の鳥がいる」と同じようなパターンを描いているような。懐かしくなった方は、当欄の2010年1月12日分をご参照。

これを見ると、石破さんは昨日の屋台村では「辛口のチキンカレー」をプロデュースされたようです。ちょっと食べてみたかったかも。その後は「政策ワークショップ」を開催されたそうですが、こっちはちょっと、自民党らしくない。地方から来る人が多いことを考えると、「政策勉強会」とか「政策意見交換会」という命名にすべきではなかったかと考えるものです。

○ところで今日は自民党大会。会場が赤坂プリンス(正確にはグランドプリンスホテル赤坂)ということは、今年の3月末で閉鎖されてしまう場所である。おいおい来年はどうするんだ、などとツッコミを入れてみたくなる。赤プリは、政治がらみのイベントには昔から良く使われてきた場所なので、いろんな思い出があります。閉店までに、一度、トップオブ赤坂かポトマックに行っておかなければ。

追記:石破さんの特製カレーについては、日刊スポーツで詳しく取り上げられております。以下をご参照)

●支持率断トツ!石破カレー、自民党屋台村

http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp3-20110123-727863.html 


<1月24日>(月)

○民主党議員がこんなことを言ってたんだそうです。

●「与謝野大臣は、よその大臣みたいなんだよなあ」

――あまりにも素のままで、ひねりが足りないようですが、よく出来ております。こんなのもあります。

●「与謝野さんという名前は、『与党にも野党にも謝る』と書くんです」

――いいでしょ、これ。ロバート・フェルドマンさんに教えたら、馬鹿受けしました。「自分で考えたの?」てマジに聞かれちゃいました。

○さて、こちらはワシントン発、米中首脳会談をネタにしたジョークです。

●記者団に対し、胡錦濤主席はオバマ大統領との会談の歴史的意義をこう語った。「投獄されていないノーベル平和賞受賞者に会ったのはこれが初めてだ」

――考えてみたら、ノーベル平和賞受賞者は受難の人が多いんですよねえ。

●胡錦濤主席は公式演説をこんな言葉で締めくくった。「結論として、皆様方の最初の月の支払いと敷金はオマケしておきます」

――「大家と言えば親も同然」てことでしょうか。果たして、借りてる側は強いのやら弱いのやら・・・・。


<1月25日>(火)

●「与謝野さんという名前は、『与党にも野党にも謝る』と書くんです」

○昨日のこのネタに対し、中国語の達人である某先輩からご指摘を頂戴しました。すなわち、「謝」という漢字には、@ありがとう Aごめんなさい B拒絶(面会謝絶) C衰退、凋落の4つの意味があり、最後の意味を採用すれば、”与党も野党も謝(しお)らせる”とも読めるのだそうです。――なるほど、こちらの方が現実味があるかもしれませんな。まあ、二大政党がどうなろうが知ったことじゃないですが、一緒に日本経済も萎れてしまうのでは困ります。

○というのも、消費税を上げるぞと、口で言うのは簡単ですけれども、「いつから、何%くらい」を決めるのがとても難しい。与謝野さんに好きに決めてもらうことにしたら、「来年春から一気に5%上げて10%に」とか、「来年から向こう5年間、毎年2%ずつ上げる」などと恐ろしいことを言い出しそうです。でも、GDPデフレーターがマイナスの現状でこれをやると、一気にデフレスパイラルを招きかねないので、さすがに拙いんじゃないかと思います。

○それでは、消費税には一切触らないのが正しいのか。というと、これも怖いんですよね。どうやら3月にアイルランド総選挙が行なわれるようで、春には欧州の財政問題に火がつきそう。それが一巡したところで、6月には米国のQEUが打ち止めになる。その辺のタイミングで、今度はJGB格下げ攻撃、みたいなことが起きるのではないかと。こんな手口でヘッジファンドを儲けさせるのは、まことに片腹痛いではありませぬか。

○おそらく最善手は、「今通常国会において、消費税を来年春から2%だけ上げる」くらいの小さな決定を下すことではないかと思います。正直なところ、この局面で税収を5兆円ほど上げても、焼け石に水でありましょう。でも、察するにJGBに関する最大の課題とは、「この国の政府は、中長期的に必要なことを何も決められないのでは?」という海外からの至極もっともな疑問があることでありましょう。そんな発行体が出す債券など、外国人投資家が買うわけありませんわなあ。

○でも、超党派合意で2%上げが決まり、それで政権がつぶれるわけでもない、ということになれば、内外の認識も変わってくる。「な〜んだ、さすがに必要なことは決められるんだ」、「日本は課題先進国だから、自分のポジションがちゃんと分かっているわけね」ということになれば、今後の「先進国=巨額財政赤字時代」をなんとか生き延びられるのではないか。(もっともこのシナリオだと、外国人投資家がJGBを競って買うようになり、円高が進むという可能性もありますな)

○問題は、この決定を市場が評価しない場合であります。「来年春から2%上げるだなんて、来年春の首相はいったい誰なんだよ」と言われてしまえば、恥じ入るほかはありません。うーん、やっぱりC衰退、凋落なのか・・・・。


<1月26日>(水)

○今日は日本時間の午前11時から、オバマ大統領による一般教書演説(States of the Union)が行なわれました。最近のアメリカでは、これを"SOTU"と略すらしいですね。個人的には、ちょっとなじめない気がします。「ソツがない」の逆なんじゃないかと。まあそれはさておいて、当溜池通信の恒例の行事でありますが、今年の「SOTU」を読み解いてご覧にいれましょう。

○今年のテーマは、「スプートニク・モーメント」でありました。1957年、有人宇宙飛行をソ連に先んじられた当時のアメリカは、文字通り大ショックを受けました。そこから宇宙開発に全力を投入し、NASAなんて組織もその当時に誕生したのです。その甲斐あって、1969年にはアポロ11号のアームストロング船長が、人類初の月面着陸に成功。そのひそみに倣うことが求められている。そうでなくても、先週、胡錦濤国家主席の訪米があった後だけに、アメリカ国内には「いや〜な気分」が横溢している。オバマ大統領としては、「今はちょっと不調だけど、俺たちはやればできるんだ、これから頑張るぞ」というメッセージを打ち出す必要があったのです。

○そこで今回の「SOTU」では、アメリカ経済を振興する方策を説き、それでもって国民を鼓舞し、最後はアメリカンドリームを取り戻そうという建て付けになっている。最後の部分では、「昨年のチリの落盤事故では、33人の炭鉱夫を救出するトンネルを掘ったのは、実はアメリカの中小企業であった」という”ちょっといい話”を披露して、「アメリカという国は、普通の人がデカイことをするんだ」(We do big things.)と言って締める。まさに一般教書演説のお手本ともいうべき、キレイなまとめ方でした。

○いつもながら感心するのですが、こういうときにその中小企業の社長さんは、奥様とご一緒にちゃんと会場に呼んであって、カメラがそれを捉えるという心憎い演出があるわけです。おそらくこの「最後に使うエピソード」は、演説起草チームのスタッフが10個くらいのアイデアを競わせて、いちばん良いものを選んでいるのだと思います。それに比べれば、今週行なわれたわが国の施政方針演説はいかがなものか、という話をしたくなりますが、あまり言うと哀しくなるのでやめましょう。

○そんなわけで、一般教書演説としては今年はいい出来だったと思います。政権支持率もアップするでしょう。でも、これを「経済政策を伝える演説」と考えると、評点は厳しくせざるを得ません。世界が変わってしまったという現実を受け入れ、アメリカ経済を再生するための政策として、オバマは3つの分野への投資を提案します。それは「イノベーション、教育、インフラ再生」の3点。それぞれいいことは言っているし、途中で何度もスタンディングオベージョンが生じるのだけれども、具体的な数字はほとんど出てこない。クリーンエネルギー開発や新高速鉄道の建設をと言っても、「いつまでに、いくらの金額を投じる」というコミットメントがないのです。

○3分野への投資を説いた後で、今度はオバマは財政再建の必要性を説く。こっちは具体的な数字が登場する。支出を削減しなければならないと訴える一方で、「新たな投資が必要だ」と言っている訳で、だったら財源はどこにあるのか。つまり今回のSOTUは、政治学的には非常に良くできているけれども、マーケットの論理を納得させるものではない。マーケットの人々が信じるのは、投資よりは財政再建の方でありましょう。この演説を聞いて、「よし、これから環境関連の株は買いだ」という投資家がいるとしたら、それはちょっとおめでたいという気が致します。

○つまり連邦政府は、「ない袖は触れない」のです。そこに現在のアメリカの苦しい状況がある。でも、そこからオバマは再生戦略を説き、物語を作って、最後は聴く人に「よし、やったるで」と思わせる。ここが、一般教書演説の役割なのであります。

○変な話ですが、昨年の中間選挙で大敗したお陰で、オバマは生き生きしてきたのではないかと思います。要するに2008年選挙で民主党は勝ち過ぎた。期待値も高まってしまったので、ついつい民主党のコア支持者の言いなりになった。その結果、医療保険改革を通したけれども、それがとっても不評であったという現実を招いてしまった。極論すれば、彼がやり過ぎたばっかりに「ティーパーティー運動」みたいなお化けを生み出してしまった。ところが議会がねじれて、共和党に歩み寄らなければならない状況になったら、途端に彼の「ひとつのアメリカ」というロジックが現実味を帯び始めた。そして支持率も上がり始めた。今の方が、よっぽどオバマらしいと思うのです。

○これと同じことを、菅さんもやらなきゃいけない。日米二つの民主党政権は、非常に良く似た経緯をたどっていると思います。

@ともに選挙で大勝して、2009年に政権が発足した。
Aところが実際の政策は好評ではなく、「そんなことより雇用をナントカしろ」という批判を招くことになった。
Bその結果、2010年にどちらも選挙で大敗した(中間選挙と参院選挙)。
Cゆえに今後は中道寄りに転換し、プロ・ビジネス路線を選択しなければならない。

○菅さんが、オバマから速攻で学べる点がひとつあります。それは「野党を堂々とヨイショする」こと。今回のSOTUでは、特にアメリカンドリームの体現者として、「シンシナチで父が経営するバーの雑巾がけから人生を始めた人が、今私の後ろに座っている」(=下院議長になっている)と、共和党のベイナー新議長を持ち上げた部分が光ります。(ベイナーさんはとっても涙もろい人なので、これだけでウルウルしちゃったかもしれません)。

○そもそも、アメリカで1〜3番目に偉い人が、「ハワイで育ったアフリカ留学生の息子」(大統領)と「ペンシルバニア州スクラントンの労働者階級の息子」(副大統領)と「オハイオ州の貧乏人の子沢山の家庭に生まれた叩き上げの中小企業経営者」(下院議長)であるというのは、これがアメリカンドリームでなくてなんなのでありましょうか。一般教書演説のテレビ中継は、この3人を同じ画面で長々と伝えるわけですが、考えてみればアメリカ政治でこれだけ「非エリート」が雁首そろえている景色もめずらしい。思わずハッと思わされた瞬間でありました。

○最後にどうでもいい話をひとつ。今回のSOTUでは、日本はひとことも言及されませんでした。その一方で、韓国は4回登場しました。それぞれどんな文脈であったかと言うと、@韓国では教育者が尊敬されている、アメリカも見習わねばならん。Aネット環境は、今ではアメリカより韓国の方が優れている。Bこれから韓国とのFTAを行なうので、議会は協力よろしく。C北朝鮮の核開発は、同盟国・韓国と共に食い止めるぞ、という具合に、全部良い意味で使われているのですね。

○サッカーではPK戦の結果、めでたく韓国に勝つことができましたが、一般教書演説を舞台に行なわれた「国際的なプレゼンスでどっちが勝っているか」レースは、「4対0」で日本の大敗でありました。それがどうした、と言われると困るのですが、韓国に当サイトと同じように毎年、一般教書演説を分析している人がいるとしたら、今頃は欣喜雀躍していることでしょう。当溜池通信的には、「負けてるなあ〜」と感じるところであります。


<1月27日>(木)

○あらあら、JGBが格下げになっちゃった。欧州のソブリンにはまだ火が点かず、米国景気にちょっとした浮揚ムードがある(ワシは長続きしないと思うが)現在であれば、これで市場が浮き足出すようなことはないと思う。その意味では、悪いタイミングでなくて良かったね、ということになる。

○それにしても、さすがはWSJで、この記事はうまくまとまっておりますね。

●S&Pはリリースで「民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」と指摘した。

――まったくその通り。元財務大臣は多いんですけどね(与謝野、藤井、菅、野田)

●フィッチ・レーティングスのソブリン・アナリスト、Andrew Colquhoun氏は、人口高齢化が進むなか、日本が資金調達面で安定性を維持するには、より信頼に足る財政再建策を立案する能力が不可欠、と指摘した。

――これも反論の余地なし。

●JPモルガン・チェース銀行のチーフ・ストラテジスト、佐々木融氏は、日本国債の95%が国内の投資家による保有であることを指摘し、今回の格下げは国債市場に大きく影響しないだろうと述べた。

――これもまた否定の出来ない現実であります。

●自民党シャドウキャビネット財務大臣の林芳正氏は、S&Pの格下げについて「われわれ(自民党)が常々、予算に対して言ってきたことにに対する裏付けだ」とし、「大手(格付け会社)のこのような話は重く受け止める必要ある」と述べた。

――まことにごもっとも。

○ということで、一昨日1月25日の当欄を再読いただけると、あらためてうなだれるほかはないのであります。はてさて。


<1月29日>(土)

○エジプトの反政府デモが止まらないらしい。ワシは中東情勢には不案内だし、状況は混沌としているようだけれども、いくつか感想を。

○ネットの力で独裁政権が倒れる、みたいな報道があるけれども、ホンマかいな、と思う。エジプトの識字率がいくらかは知らないけれど、この人の情報によれば3割なんだそうだ。こういう場所では7割とされているが、実態は半分というのはありそうな話である。だったらツイッターやフェースブックを使いこなせる人は、ほんの一握りということになる。ネットを過大評価するのもいい加減にしたまえ、という気がする。

菅原さんによれば、エジプトは世界第10位の軍隊(46.8万人)を擁しているとのこと。だったら政権転覆は簡単ではないだろう。「治安部隊が上の命令を聞かなくなっている」という情報もあるようだが、こういうときに希望的観測からデマが飛ぶのはよくある話である。天安門事件のときにも、そんなことがあった。チュニジアがそうだったからエジプトも、というのはちょっと早計な気がする。少なくとも、1989年の東欧ドミノと一緒にしてはいかんだろう。

○長期政権が飽かれて、社会的不満から暴動が起きて、政府転覆に至るというケースはもちろんある。1986年のマルコス政権のパターンがそうだった。あのときは反政府側に、悲劇の未亡人コラソン・アキノという金看板があった。今回のエジプトにはそれがない。まさかムスリム同胞団というわけにもいくまい。こんなところでエルバラダイの名前が出てくるのも懐かしいが、たぶん国内的な知名度は低い。かの国のインテリは、出世のために国外に出てしまうので、得てしてそんなことになる。

○アメリカの対応が微妙である。穏健派のエジプトは、アメリカの中東政策における中心的な存在である。2009年6月、オバマの「イスラムとの和解演説」がカイロで行なわれたことはその一例だ。ムバラク政権が吹っ飛んで、人口8000万人の中東最大の国が政情不安に陥ることは避けたいところ。でも、民主化に反対するわけにも行かないので、たぶん生ぬるく成り行きを見守るだけだろう。その辺が昔のアメリカとは違います。

○さて今頃、ダボス会議はこの話で持ちきりのはずである。われらが菅さんはどうするのでしょう。「そういうことには疎いので」といってごまかしますしかないですな。ちなみに近年、ダボス会議に出席した日本の首相は、森さんと福田さんと麻生さんである。全員、出席から9ヶ月以内で辞めている。方角が悪いと思うのですが。


<1月31日>(月)

脱力さんがこんな非営利組織を立ち上げたんだそうです。

●自由報道協会(仮) http://fpaj.exblog.jp/ 

●設立趣意書(草案) http://www.craftbox-jp.com/data/FPA_prospectus110127.pdf 

○「脱記者クラブ」という理想を実現するために、開かれた記者会見の場を作ってしまえということのようです。そこで記念すべき第1回の記者会見を、2月3日午後に小沢一郎衆議院議員をゲストに行なうとのこと。

○と思ったら、小沢さんは今日、強制起訴でありました。さて、こうなるとゲリラ戦みたいなもので、当日はどんなことになるのやら。個人的には、記者クラブ問題にも小沢さんの起訴にも、そんなに関心はないのでありますが、何だか野次馬的な興味はわきますね。

○まあ、こんなことは溜池通信が宣伝しなくても、ツイッターなどでガンガン広がっていくのでありましょう。それにしても、このFPAJという組織、いろんな場所に「仮」とか「暫定」がついているところが、いかにも脱力さんらしい。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki