<11月1日>(金)
〇米大統領選挙がどうもきな臭い。当たり前か、もうあと数日で決まるのだから。両者、ファイナルメッセージの段階に入っている。
*10月27日、トランプ氏はなぜか激戦州ではなく、ニューヨークで大イベントを開く。そこに呼ばれたコメディアンが、「プエルトリコはゴミの島!」とやらかしてしまう。
*10月29日、バイデン大統領が、「トランプ支持者こそゴミ!」と言ってしまい、それが失言だということになって動揺が広がる。
*10月30日、前回はマクドナルド店員に扮したトランプさんが、今度はウィスコンシン州でゴミ収集車の運転手に扮してみせた。いわく「ゴミ収集の価格は、バイデン=ハリス政権で18.5%も上昇した」。
〇ううむ、この期に及んで何をやっておるのか。まるで木村十四世名人と升田実力制第四代名人の「ゴミハエ問答」みたいである(「名人なんてゴミみたいなものだ」「名人がゴミならお前は何だ」「ゴミにたかるハエみたいなもんだ」)。しかるにこの勝負、トランプさんの勝ちであろう。ここへ来てリベラル派は、「負けたときの犯人捜し」を始めているようにも見える。
〇そうかと思うと、市場の「トランプトレード」も週後半になって水を差されている。株安ドル安が進み、TMTG社の株価も35.34ドルに下落している。為替も1ドル153円から152円に戻している。いや、それは本来、日米金利差の問題なのだ、と言われれば、もちろんそっちが正しい。しかるに「トランプトレード」がまったくない、というのも無理のある説明であろう。
〇はてさて、いったいどう見たらいいのか。そういえば明日は午後1時から、ユーチューブ上でこんなイベントがありますぞ。事前申し込みは不要です。よろしければ覗いてやってくださいまし。
●【WEB】米国大統領選挙
投開票日直前スペシャル『識者に問う“新大統領決定後の世界経済のゆくえ”』
<11月3日>(日)
〇多くの人がやっている作業だと思うが、筆者はほとんど日課のようにRCPのデータをチェックしている。トランプさんとハリスさんの差は本日は0.3pに縮まっている。これに伴ってベッティングオッズも、一時はトランプ63.9%対ハリス35.0%まで拡大していたものが、現在は54.7%対44.1%まで接近している。まだまだわかりませぬぞ。
〇7つの激戦州の様子はと言えば、サンベルトの4州(ネバダ、アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナ)はいずれも1.7%以上の差をつけてトランプさんがリード。ラストベルトの3州は、ウィスコンシンとミシガンでハリスさんが若干のリード。天下分け目のペンシルベニア州はトランプさんが0.4p差でリードである。
〇サンベルト4州をトランプさんが押さえると、選挙人の数は268となる。過半数は270なので、それだけではまだ勝ちとはならない。ハリスさんがウィスコンシンとミシガンを取ると251である。結局はペンシルベニア州の19人を取った方が勝ち、ということになる。ちなみにラストベルト3州は、過去30年にわたっていつも同じ側を勝たせている。いやもう、痺れるような僅差の戦いではありませぬか。
〇とはいうものの、皆が当たり前に使っているこのRCPの信頼度はいったいどうなのか。各種世論調査の平均値を取れば、それが信頼に足る数字なのかというと、いまひとつ自信がない。統計の達人、ネイト・シルバー氏によれば、最近の世論調査はSNSなどでの炎上を恐れ、「アウトライアー」(異常値)を削除してしまう傾向にあるという。それでは平均した際に正しい結果がでなくなるかもしれないのだが、まあ、いろんな邪念が入るのが統計というものである。
〇場合によっては来週、かな〜り意外な結末が出て、「RCPっていったい何なんだったんだ!」と世間の怒りを買っているかもしれぬ。いや、そういうことも十分にあり得るのがこの世界。Never
Say Never。勝負は蓋を開けてみないとわからない。
〇さて、今さら心配しても始まらぬ。どれ、ビールを飲みながら日本シリーズでも見るか。ここまで来ると1998年以来のベイスターズ優勝というものを見てみたい。不思議な「外弁慶」シリーズですなあ。
<11月4日>(月)
〇明日の選挙(日本時間では明後日)では、上下両院の議員選挙も行われる。さて、上院はどんな塩梅じゃ、ということで天気のいい日に外出もせずに、家でせっせと予習をいたすのである。
●Senate
Race 2024(ElectoralVote)
●Battle
for the Senate 2024(RCP)
●2024
CPR Senate Race Rating(Cook)
〇それぞれに分析が違うので、一概には言えないけれども、とにかく面白い選挙区が少なくないのである。
*WV(ウェストヴァージニア州)は極度のレッドステーツ。そんな中で頑張ってきた民主党現職、ジョー・マンチンが引退を決めたので、共和党は置いてある饅頭を拾ってくるような楽な戦い。もうね、世論調査さえ行われていない。
*MT(モンタナ州)もレッドステーツ。そんな中で3期目を迎える民主党のジョン・テスター(D)はしぶとい現職だが、さすがに今年は苦しそう。挑戦者、共和党の実業家ティム・シーヒーがリードしていると伝えられるが、彼はメディアの取材を逃げまくっているとの噂もあって死角なしとせず。
*OH(オハイオ州)は急速に保守化しつつあるラストベルトの州。2年前には、あのJ.D.ヴァンスが現職ティム・ライアンを破って上院議員に当選している。今年、選挙を迎える民主党現職シャロッド・ブラウン(D)は州知事2期、上院3期のベテラン候補。共和党はここにトランプさんお気に入りの候補、元メルセデス・ベンツのディーラー、バーニー・モレノを投入する。接戦は必至。
*大統領選挙の主戦場となっているラストベルト3州は、いずれも上院選においても激戦区であり、民主党にとって守りの選挙となっている。WI(ウィスコンシン州)では現職タミー・ボールドウィンが3期目を目指すが、共和党は銀行家エリック・ホブデを投入する。MI(ミシガン州)では民主党現職が3期目72歳で引退し、民主党はエリッサ・スロットキン下院議員、共和党はマイク・ロジャーズ元下院議員を擁立している。そしてPA(ペンシルベニア州)は穏健派の民主党現職ボブ・ケーシーに対して、共和党が2年前には予備選でメフメト・オズ(懐かしい!)に敗れたデビッド・マコーミックをぶつける。3つともいい勝負になりそうだ。
*有名どころでは、MA(マサチューセッツ州)の現職、エリザベス・ウォーレン(75歳)やVT(ヴァーモント州)の現職、バーニー・サンダースお爺ちゃん(83歳)が再選出馬する。左派を代表する巨頭だから、選挙はテッパンでしょうな。しかし任期はあと6年ですぞ。こんな調子だから、上院議員はついつい高齢議員が多くなってしまうのです。
*それ以外の有名どころでは、MN(ミネソタ州)のエイミー・クロブチャ―(2020年の大統領選候補)、VA(ヴァージニア州)のティム・ケイン(2016年のヒラリーの副大統領候補)、NY(ニューヨーク州)のカーステン・ジリブランドなどが再選を目指しています。いずれも難なく選挙は通るでしょう。
*AZ(アリゾナ州)は、ジョー・マンチンと並ぶ「困ったちゃん」現職議員のキルステン・キネマが今年限りで引退する。空いたところへ、民主党からはルーベン・ガレゴ下院議員が手を挙げて、共和党からはトランプ信者のカリ・レイクが挑戦する。ここは民主党がやや優勢か。
*NV(ネバダ州)は1期目の現職、民主党ジャッキー・ローゼンが楽勝で再選されるかと思ったら、ここへきて期日前投票は意外と共和党の出足が良い、てな報道があって冷や汗たらり。共和党の挑戦者は退役軍人のサム・ブラウンである。
*共和党の現職は、皆さんレッドステーツで安泰な選挙かと思ったら、TX(テキサス州)のテッド・クルーズ、FL(フロリダ州)のリック・スコットは意外な接戦となるかもしれない。いずれもキャラの立ったセネターですから、負けたら「いい気味」と言われてしまいそう。
*その他、NE(ネブラスカ州)では2つの選挙が行われる。いずれも現職は共和党で、補欠選挙のピート・リケッツ上院議員(知事による指名)はほぼ当確だが、本選挙のデブ・フィッシャーには若干のリスクがある模様。
*そうそう、CA(カリフォルニア州)では、生きていたら91歳という民主党現職の大物ダイアン・フェインスタインが死去した空席を誰が埋めるかという選挙で、アダム・シフ下院議員が昇格する見込み。これは同州では稀有のことでありまして、白人で男性であることは、かの州においてはハンディキャップ以外の何ものでもありませぬので。
〇今年の上院の改選議席は34ですので、上記で紹介した17議席のほかにさらに半分ある、ということです。とりあえず上の半分を押さえておけば、選挙速報を楽しむには不自由しないことでありましょう。どれ、お疲れさまである。
<11月5日>(火)
〇米東海岸では既に朝。州によっては投票が始まっていることでしょう。これから先が長い一日の始まりです。
〇明日はこんな番組に登場いたします。
●ニコニコ生放送 https://live.nicovideo.jp/watch/lv346182237
【アメリカ大統領選】トランプかハリスか、解説付きで見守るニコニコ開票特番【通訳字幕付】
▼2024年11月6日(水) 午前10時〜
【出演】
神保哲生(ジャーナリスト、ビデオニュース・ドットコム代表)
@tjimbo
前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) @kmaeshima
吉崎達彦(双日総合研究所
情報調査室調査グループ
チーフエコノミスト) @tameikekanbei
西山隆行(成蹊大学法学部政治学科教授 [比較政治・アメリカ政治])
〇先発が前嶋先生でクローザーが西山先生。不肖かんべえは中継ぎ投手となります。たぶん午前11時から午後2時くらいにご覧いただくと、出演しているのではないかと存じます。
<11月6日>(水)
〇開票速報を見ていて拍子抜けいたしました。「データを素直に読めばトランプさんの勝ち」。そしてデータは大筋で有効でした。まだ当確は出ておりませんが、現時点でほとんど決定的。このままいくと、7つの激戦州はすべてトランプさんが取ることになりそうです。すべての州で有意な差がついておりますので、票の数え直しを迫るまでもない。これでは「シビルウォー」にもなりそうにない。
〇特にラストベルト3州は意外なくらいに差がつきました。典型的なブルーステーツであり、今回は副大統領候補のティム・ウォルズを輩出したミネソタ州において、トランプさんがわずか5p差に迫っていたのが印象的でした。直前の調査で民主党勝ちと出て、関係者一同が大慌てとなったアイオワ州は14p差、オハイオ州は11p差でトランプ勝利です。中西部は限りなく赤く染まってしまった感あり。
〇おそらくハリス陣営は、ラストベルト3州に途方もない選挙費用をつぎ込んでいる。たぶんトランプ陣営の3倍くらい。それでこの結果なのだから、これは大敗というべきです。ハリスさん、とりあえずその日のうちの敗北宣言は避けましたが、翌6日朝はなるべく早い時間にそうした方がいいと思います。2028年に本人が再チャレンジを望むかどうかはわかりませんけど。
〇とりあえずは敗因探し。そこで有効なのが出口調査です。CNNのものを見てみましょう。なぜCNNかというと、当溜池通信には2004年以降のCNNデータの蓄積があるからであります。
https://edition.cnn.com/election/2024/exit-polls/national-results/general/president/0
〇これをみると、アッと驚いた点は2つだけでした。ひとつはラティーノ票(全体の12%)でハリス56%対トランプ38%となっていて、前回のバイデン65%対トランプ32%から大きく差が縮まっていること。これは例の「不法移民問題」が原因でしょうね。つまり既にアメリカ国内に定着しているヒスパニック系の人々からすれば、不法移民は「招かれざる客」である。そんなのを大勢入国させて、治安を悪化させた民主党政権は評判が悪かった、ということだと思います。
〇本来、ラティーノ票は民主党にとって「お客さん」のはずです。過去の出口調査を見ると、2020年は65%、2016年は65%、2012年は71%、2008年は66%を獲得しています。ところが2004年はそれが53%になって、ときのジョン・ケリー候補の決定的敗因となりました。ブッシュ再選戦略を担ったカール・ローブが「同性婚反対」を上手にイシューにして、カトリックの多い彼らを味方につけたといわれています。
〇もうひとつ、これも象徴的なことかと思いますが。年収5万ドル以下の人たち(28%)でハリス48%対トランプ49%となっていて、おそらくは史上初めて「貧困層は共和党」という評価になったこと。逆に年収10万ドル以上(40%)の世帯では、ハリス53%対トランプ45%になっていますから、お金持ちはやっぱり民主党なんです。うーむ。
〇おそらくは中西部の貧困層にとっては、「DEI」だの「脱・炭素」だのといった民主党の主張は、「金持ちの道楽」に見えているのでしょう。ということは、この選挙結果は「意識高い系」(Woke)な人たちにとって決定的な敗北ということになります。
〇ということで、われわれは再び「トランプ占い」(トランプさんは一体何をするんだろう?)に戦々恐々としなければならない、ということになります。まあ、たぶん次の中間選挙(2026年)までの2年間の辛抱ですけどね。なんというか、以上はあまり深みのない「謎解き」ということになります。
<11月7日>(木)
〇米大統領選が片付いてようやく2日目。情報はまだ決定的に足りないのであるが、だんだん先のことも見えてくる。こういうのは誰かに質問してもらわないと、アイデアが出てこない。ということで、なるべくいろんな番組に呼んでもらえるのがありがたい。
〇今宵はWBSに出演。テレ東に行ったら、「次回は12月のこの日、その次は1月のこの日とこの日」などとアポが入ってしまう。察するに「トランプ占い」の需要があるらしい。ワシは「トランプ占い」の達人というわけではないが、たぶん他の人よりは慣れている。とりあえず「トランプさんの身になって考える」ことがそんなに苦痛ではない。もちろん当てる自信はないのだが。
〇ドナルド・トランプ氏の行動原理を読み解くポイントは、「実は先のことをまったく決めてない」点にあると思う。つまり「長期戦略」がなくて、「出たとこ勝負」である。交渉事が大好きだが、「ネゴシエーション」ではなくて、「ディール」と呼ぶ。「アイツは何をするかわからない」と相手を怯えさせておいて、時が来たらひらめきでパパっと決めるのが快感であるらしい。
〇とまあ、そんな人が世界最強国の指導者に就いてしまうのだから、周りが振り回されるのは当たり前である。石破さん、くれぐれも「安倍さんの真似をしよう」などと思わない方がよろし。あれは空前絶後のプレーであって、余人がどうこうできるものではない。期待値を下げて、目立たぬやり方で行く方が良いと思う。
〇ちなみに明日はラジオ日経、明後日はBSテレ東「ニュースの疑問」である。
<11月8日>(金)
〇「トランプが勝った!」ということで、さっそくお嘆きの方々が大勢いらっしゃるようです。そうなると別段、ワシもトランプ勝利がうれしいわけではないのだが、ついついこんなことを教えて傷口に塩を塗り込んでみたくなる(われながら悪い性格だ)。
〇今回、まだ数字は確定していないのだが、一般投票数(PV=Popular
Vote)で共和党が民主党を上回った様子である。これは2004年以来の椿事となる。2000年以降では選挙人数(EV=Electoral
Vote)では共和党の4勝3敗、PVでは共和党の2勝5敗ということになる。
共和党 | 民主党 | |
2000年 | ジョージ・W・ブッシュ知事 EV271、PV50.4MIL |
アル・ゴア副大統領 EV266 PV50.9MIL |
2004年 | ジョージ・W・ブッシュ大統領 EV286、PV62.0MIL |
ジョン・ケリー上院議員 EV251、PV59.0MIL |
2008年 | ジョン・マッケイン上院議員 EV173、PV59.5MIL |
バラク・オバマ上院議員 EV365、PV69.5MIL |
2012年 | ミット・ロムニー元知事 EV206、PV60.9MIL |
バラク・オバマ大統領 EV332、PV65.9MIL |
2016年 | ドナルド・トランプ氏 EV306、PV62.9MIL |
ヒラリー・クリントン元国務長官 EV232、PV65.8MIL |
2020年 | ドナルド・トランプ大統領 EV232、PV74.2MIL |
ジョー・バイデン元副大統領 EV306、PV81.3MIL |
2024年 | ドナルド・トランプ前大統領 EV312、PV74MIL? |
カマラ・ハリス副大統領 EV226、PV68MIL? |
〇しかもですな、過去3回の共和党は連続してトランプさんを党の指名候補にしているのだが、回を重ねるたびにPVは着実に伸びているのである。おそらくは得票比率で行くと、2016年よりも2020年、そして2024年はたぶん総投票数の過半数を超えている。すごいではないですか。
〇カマラ・ハリスは、4年前のバイデンに比べてPVを1300万票くらい減らしている。こんなに減らすと、2020年のバイデン票が嘘くさく思えてくるではないですか(郵便投票にイカサマがあったんじゃないのか?)。しかも彼女は、トランプ陣営の3倍近い選挙資金を集めていたというのに。
〇今ごろ民主党内部は大荒れですな。「やっぱりバイデンが悪かった」だけでは済まされそうにない。「硝子の天井論」でも誤魔化しきれない。「やっぱりタマが悪かった」というハリスさんへの非難も避けられないだろう。それだけではなくて、選挙戦略そのものを見直す必要があるのではないか。2024年選挙は、歴史に残る決定的な選挙であったように思われます。
<11月9日>(土)
〇中一日で今朝はまたまたテレビ東京へ。今度はBSテレ東で日経サタデー「ニュースの疑問」。ご一緒するのは細川昌彦先生と小谷哲男先生。トランプ政権復活でこれからどうなるかという話になるのだが、通商政策と安全保障政策で悩みは尽きないのである。
〇お昼からは大手町三井ホールに移動して、楽天証券のセミナーへ。こっちでご一緒するのは愛宕伸康さんと加藤出さん。こちらでは主に日米経済や金融政策について議論するのであるが、またまた違う形で心配事がある。面白いねえ。
〇休み時間に岡崎良介さんとダベる。このところご無沙汰しておりましたが、4年に1度のこの季節になるとお目にかかりますなあ。考えてみたら、お互いによくまあ元気にやっているものであります。さて、4年後はどうなっていることやら。
〇今週の米大統領選挙について、取り急ぎ東洋経済オンラインに寄稿。おっ、今のところランキング上位でありますぞ。
●「選挙圧勝」でも次期トランプ政権は簡単じゃない
<11月10日>(日)
〇4年に1度の季節労働はどうやら峠を越しつつある。いや、この後は「新政権の閣僚人事は?」など、お馴染みの問題が殺到してくるのだが、いちばんのキモである「どっちが勝つか」をいちおう当てて、「なぜこうなったのか」もだいたい見えているので、自分的には「2024年選挙は何とか乗り越えられた」という感触になっている。
〇その一方で、4年に1度の「またかよ!」という現象もある。アメリカの選挙結果はなかなか出ないので、なかなかデータが確定しない。ポピュラーボートの数はやっと落ち着いたようだが、明日の朝になったらまた変わっているかもしれない。上院の議席はまだひとつが未定である。下院議員の数が決まるのはいつになるのだろう?
〇細かい話をすると、CNNの出口調査のデータは後から数字が変わるのである。これ、昔、単行本を出したときにデータを使ったら、新潮社の校閲が発見してくれた。今回もやっぱりそうだった。東洋経済オンラインで引用した元データがもう変化している。大勢には影響がないけど、もう油断も隙もならない。
〇でも大丈夫、ワシは慣れておるのだ。こんなことは過去に何度も経験しているのである。とりあえず来週は、いろんな場所でこの選挙結果をご説明することになっておるので、手元のデータだけは神経質に修正しておく必要がある。
〇一方で嫌な予感もしている。4年に1度のこの季節には、得てして腰痛が発生するのである。上手に息抜きして自分を甘やかさないと、後で肉体的に苦しむことになる。いや、もう若くないんだし、そこまでは分かっておるのですが・・・。
<11月11日>(月)
〇トランプ政権のリスク・カレンダーというものを思いつきました。たぶん様々な「トランプリスク」は波状攻撃でやってくる。以下のような整理をするとわかりやすいのではないでしょうか。
(1)気候変動対策リスク(年内)→年明け後にアメリカがパリ協定を抜けることは必定。だったら今週からアゼルバイジャンで始まるCOP29において、各国が「CO2の削減目標」をコミットするのってあほらしくないですか?ということで、「脱・炭素」への取り組みが全世界的に遅れ始める。EVだって売れないし。ああ、あほらしい。
(2)地政学リスク(来年1月)→正式な大統領就任を待たずして、トランプ氏の「勝手外交」が始まる。狙いはウクライナ戦争と中東情勢だ。「この喧嘩、私が買い取った!」と大見えを切って決まればカッコいいが、かえって地政学リスクを高めてしまう可能性もある。まあ、ハリス政権誕生の場合よりはマシなはずですから、ここはお手並み拝見と参りましょう。
(3)アメリカ内政リスク(2025年1月20日以降)→政権発足後、すぐに手を付けるのはジャック・スミス特別検察官の解任や、「1月6日事件」の逮捕者に対する恩赦、あるいは「スケジュールF」を復活させて連邦政府の公務員を首切りできるようにするかもしれない。いずれにせよ、荒療治になるはず。議会では年明けとともに「債務上限問題」が復活しますから、下院では「フリーダム・コーカス」との不毛な戦いが再燃する恐れも。まあ、日本からは生暖かく見守っておけばよろしいかと。
(4)不法移民強制送還リスク(2025年春)→「最初の100日」の間に、トランプ大統領が「何か目立つ成果」を目指すとしたら、それは今回の選挙で示された民意、「不法移民問題」でありましょう。4月末までに大量の不法移民をメキシコ国境の向こう側に追い出す、ということで、何か派手な演出を仕掛けるかもしれません(お得意の「プロレス」かもしれないが)。
(5)通商問題リスク(2025年夏)→関税引き上げにはいろいろと手続きが必要なので、政権発足後にいきなり上げることは考えにくい。そしてトランプさんのことですから、関税引き上げを準備しながら、「やるぞ、やるぞ」と海外を脅して、米中首脳会談で何か「お土産」を迫るようなことをやるのではないか。いや、なにしろトランプさんは「決めてない」人ですから。
(6)財政リスク(2025年秋)→2026年度予算の審議が始まると共に、「トランプ減税」の恒久化とさらなる法人減税が議会の俎上に上がってくる。共和党が上下両院で多数を握っているので、リコンシリエーションプロセスを使えば確実に通るのですが、一方で財政赤字拡大を懸念してドル金利上昇も気になるところ。ああ、来年もやっぱり円安かなあ。
〇こうしてみると、2025年は文字通りの「トランプイヤー」となりそうですな。「あれもこれも心配!」などという前に、上記のように「どういう順序でリスクが訪れるか」を整理するだけで、ずいぶん印象は変わってくると思います。来年はいっそ、いろんなリスクを楽しんでみたいものです。
〇シェイクスピアの箴言にもいわく。「これが最悪だ!」などと言っていられる間は、まだ最悪ではない。(The worst is not, So long as you
can say "This is the worst".)
<11月12日>(火)
〇先週の大統領選挙からこれで1週間。だんだんデータも揃ってきたので、「反省会」が始まっている。とりあえず民主党内は大変だ。なんでこんなに負けてしまったのか。「責任者出てこい!」ということになってしまう。何しろ負け方が悪過ぎる。
(1)今回は7つの激戦州全てをトランプに取られてしまった。選挙人数では312人対226人という大敗だった。2028年はどう戦ったらいいのだろう。
(2)一般投票数でも負けている。こんなことは2004年以来の椿事である。しかもハリスは2020年のバイデン票8130万票から7156万票と1000万票も減らしている。
(3)投票率は65%と、史上最高だった2020年の66%並みに高かった。普通は投票率が高いと民主党が有利なはずなのに、それでも負けてしまった。言い訳できない。
(4)なおかつ選挙資金はハリス10.0億ドル、トランプ3.8億ドルと3倍近くも集めていた(これはバイデン氏が集めてくれた分を引き継いだお陰でもある)。
(5)上院は共和党が4議席増で多数を奪還。下院もおそらく共和党多数となる見込み。三権分立の行政も立法も司法も共和党に取られている。
〇犯人探しということになると、気の毒ながらバイデンさんやハリスさん自身が最有力候補となる。これから当分の間、思い切り叩かれ続けることでしょう。敗軍の将というのはそういうものであって、同情する必要はないのである。
〇とはいえ、細かくデータを見るとやはり2024年選挙は僅差の戦いと言うべきだったのではないかと思われてくる。仮に投票日が11月5日ではなくて10月5日であれば、ことによるとハリス氏が勝っていた戦いだったかもしれませぬ。
〇親の顔より良く見たRCPのこのグラフをもう一度御覧じろ。ハリスさんの支持率ピークは、テレビ討論会があった9月10日前後である。それからしばらくは水準を維持したけど、10月下旬になって失速した。逆にトランプさんの支持率が上昇し、10月末には横一線となっている。ワシが10月23日に思い立って宗旨替えをしたのは、たぶんそんなに間違ってはいなかったのであろう。
〇もうひとつ、CNNの出口調査が証拠物件である。
●投票行動をいつ決めましたか?
トランプ支持 | ハリス支持 | ||
3日以内 | 4% | 47% | 41% |
先週 | 3% | 54% | 42% |
10月中 | 6% | 40% | 47% |
9月中 | 7% | 42% | 54% |
9月以前に | 79% | 50% | 49% |
〇政治的分断化が行きつくところまで行ってしまった今のアメリカでは、「直前まで決めていない」(Undecided)有権者は貴重な存在です。昔は1割くらいはいたんですけどねえ。逆に固定票はほぼ半々に割れていて、最後の瞬間に雪崩をうった人たちがトランプさんに動いた。その理由はどこにあったのか。
〇逆に言えば、なぜハリスさんは最後の1週間に見放されたのか。それはビヨンセとかレディガガとか、いわゆる「セレブ」を選挙戦に呼んでコンサートさせたことがマイナスだったんじゃないかと思います。トランプ支持に靡くような白人ブルーカラー層は、ああいうの好きじゃないでしょう。むしろ「ああ、この人は自分のような人間とは無縁の存在なんだ」と思わせてしまう効果の方が大きかったと思います。トランプ支持者の絶望感の深さを、彼女はたぶん最後まで理解できなかったのでしょう。
〇さらには、「ああいうのは逆効果になるから、止めた方がいいですよ」と言ってくれるようなスタッフが、たぶん彼女の周囲にはいなかった。高学歴の民主党支持者たちは、ビックリするほど多様性のない思考法をするものです。「テイラー・スウィフトが支持してくれれば民主党は勝てる」みたいなこと言って、お前ら本気かと。セレブなんて、崇め奉っているのはごく一部の人たちのはずなのに。
〇ということで、勝負は最後の1週間でした。しかるに今回の大敗は、アメリカ政治の行方を決定づけるだろうし、民主党はこのマイナスを取り戻すのに何年かかるかわからない。特に司法の問題を考えるとね。2024年選挙は歴史的な「僅差」であり、同時に「大差」でもあった。投票日から1週間を経て、こんな逆説を噛み締めるところであります。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki