●かんべえの不規則発言



2003年3月




<3月1日>(土)

○今日の日経新聞によると、ニューヨークの広告業界が「幻のテレビCM」で大騒ぎになっているらしい。アウディやBMWなど、ドイツ高級車の映像が流れた後、低く脅すような声で「あなた、本当にドイツ車を買うのですか?」と視聴者に警告をするCMが全米に放映されているという噂に、ドイツメーカーが血相を変えたとか。ドイツ憎くけりゃ、クルマまで。この辺の直情径行さが、いかにもアメリカらしい。

○というわけで、読者からのメール。「他人事じゃあありませんね。これがアメリカです。議会の前で東芝のラジカセを叩き壊しちゃう国ですから。あー、小泉内閣でよかった」。ワシもそう思う。

○最近のアメリカのひとこまマンガでこんなのがあった。ハンバーガーショップで、ハンバーガーと飲み物だけ持った客が、「ポテトだと?俺はフランス野郎が嫌いなんだ!」と怒鳴っている。そう、アメリカではフライドポテトのことを、フレンチフライと呼ぶんですよねえ。「ご一緒にポテトはいかがですか?」というセールス文句は、もちろんアメリカが震源地である。そのうちマクドナルドは、ポテトの呼び方を変えるんじゃないだろうか。そんなことで売り上げが落ちちゃかなわないからね。

○1995年にフランスが核実験をやったとき、日本ではフランス嫌いが急増したけれども、フランス製品のボイコットはまるで盛り上がらなかった。これは日本人がオトナだからだろうか。それとも、怒りが本物でなかったからだろうか。よくわかんないけど、アメリカ人はあんまりオトナじゃないし、怒るときは本気で怒ってしまう。心しておきましょうね。


<3月2日>(日)

○昨日の続き。ワシントン在住のこの人からは、こんなお知らせが。

●アメリカでは、「フレンチフライ」を「フリーフライ」と呼び変えて売っている店が増えているそうです。どこかのレストランで始めたのが人気になっているとの事です。本当に直情的ですよね。

○思わず気になる。フレンチドレッシングやフレンチトーストは大丈夫なんでしょうか。はたまたジャーマンポテトは?いっそのこと、フランスも反撃したらどうだろう。アメリカン・エクスプレスのカードをみんなで捨てちゃおうとか。

○それから西海岸在住の留学生の方からは、こんな感想も。

●フレンチバッシング、こっちのメディアはかなりあおってますよ。CBSの60 minuites という番組では、「ノルマンディを忘れたのか?」という事をさんざんいっておりましたし、Late night showでは、連日フランスの悪口をネタに、観客もかなり盛り上がっております。

○ノルマンディで死んだアメリカ兵士はとっても多いです。彼らは自由を守るために死んだ、ということになっている。でも実態としては、あまりに不甲斐ない負け方をしたフランスを助けるために死んだ。てめえ、誰のお陰でナチスを追い払えて、誰のお陰で国連の常任理事国になれたんだあ、てなことを言ってるんでしょう。正味な話、フランスの悪口のネタならナンボでもある。

●私、個人的に、イラク攻撃には反対ですし、この国(政府およびマスメディア、ハリウッドも含みます)は好きではありませんが、日本政府の対応には敬意を持っております。

○湾岸戦争のときは、アメリカに住んでいる日本人がとっても肩身の狭い思いをしました。これはもう理屈抜きに怖い。ホントに極端な社会なんだもの。あの「ナイーブな帝国」は。


<3月3日>(月)

○昨日、外出のときにマスクをしてみたら、ちょっと気になるけど、とっても楽だということを発見。やはり花粉症は本物です。今日などは目も痒い。耳鼻科でもらった薬は切れてしまったので、伊藤園のしそジュースなどを飲んでみる。つらい季節の始まりです。

○イラク問題で取材を受ける機会が増えています。今日、来社された記者はちょっと驚きました。いきなり分厚い「溜池通信」のバックナンバーを取り出し、付箋のついた場所を開けては、「この個所についてですけど・・・」。ここまで予習をしてこられては、こちらも居住まいを正して対応しなければなりません。正直申しまして、「分からせてみよ」みたいな記者さんだっていないことはないんで、素直に感心しました。どこの新聞かは一応ナイショ。

○ところで今日、宮脇俊三さんが亡くなられたとのこと。合掌。

○かんべえが昔、企業PR誌の編集を担当していた頃に、仕事をお願いしたことがあります。「世界の鉄道事情」というテーマで阿川弘之さんと対談してもらうという、いかにも企業PR誌らしい企画でした。こちらは鉄道には何に知識もなかったんだけど、本当に楽しませてもらいました。印象に残っているのは、鉄道ファンというのはおそろしく時間に正確な人たちだということ。阿川さん&宮脇さんは、もうちょっとで編集部より先に会場入りするところでした。(あのときはあせった)。加えてこの号は、すべての原稿が締め切り前に届くという快挙を成し遂げました。

○てな具合に、「宮脇俊三さん=鉄道ファン」ということで語られることが多いと思います。その一方で、宮脇さんは中央公論社の編集者として、北杜夫の「どくとるマンボウシリーズ」を手がけた人でもあります。宮脇さんがいなければ、おそらく「青春記」や「航海記」は生まれなかったでしょう。かんべえは小さい頃から「マンボウもの」を繰り返し読んできましたが、あれだけ再読に耐える本は少ないでしょう。「北杜夫を発掘してくれた名編集者・宮脇さん」に感謝したいと思います。


<3月4日>(火)

PART1

盤上はすでに終盤を迎えていた。飛車角の二枚落ち。上手は駒台の上にあった香車を取り上げ、静かに2四の地点に置いた。伊豆七島は御蔵島産の柘植材で作られた、見事な盛り上げ駒である。香車は力強く、2八の地点にいる下手の王将を睨んでいた。下手は反射的に駒台の歩を手に取り、2七の地点に打ち下ろそうとした。が、止めた。

ややあって下手の老人が静かにつぶやいた
「ここまで、かな」
上手、羽生五冠王が静かに肯いた。
「1八玉ならば、あと15手で詰みます」
すでに百歳になんなんとする老人は、敗戦に子供のように頬を赤らめていた。そして悔しそうに言った。
「ふむ。今日は先生にいい手を教わったな」

老人はふと中腰になり、意外な膂力で重そうな将棋盤を持ち上げた。そして180度ぐるりと回転させて畳の上に置いた。上手と下手の立場は入れ替わった。
「先生ならば、このような局面になったときにどうされますかな」
老人の子供っぽいしぐさに羽生五冠王は苦笑した。
「投了ですね」
「なぜですか」
「口幅ったいことを申し上げますが、プロは人に見せるために将棋を指します。恥ずかしい棋譜は残せません」
「それでは」老人はさらに畳み掛けた。「先生がプロでなければ?」
「最後まで指すでしょうね。最前手を続ければ、少なくともあと15手は続けられます。その間に相手が間違えるかもしれないし、心臓麻痺で倒れるかもしれない。万一の僥倖を当てにして、持ち時間をすべて使うでしょう」
「しかし、奇跡は起こらない」
「まあ、普通はそうでしょうね」

老人は立ち上がって、縁側から遠く大磯の海岸を見つめた。そして振り返らずに言った。
「先生、この局面は、まるでこの国の経済のようだとは思われませんか」
「そのようなことは、分かりかねますが」
「もう20手以上前から、この将棋は勝てないことは分かっておった。それでも途中で止める必要はないし、指している間は将棋は楽しい。だが、いつか終わりが来る。王様の頭に金が乗って、詰まされる瞬間がやってくる。それが分かっていて、止められないのだ」
老人の言葉には、ほとばしるような激しさがあった。
「それであれば、投了してもう一局指した方がよいのではありませんか」
その言葉に、老人の背中が反応していた。だが、老人はやせ我慢するように、湘南の海をながめるばかりだった。

PART2

老人の指令が下ったのは、その数日後だった。日本の戦後史に絶大な影響を与え、最後のフィクサーと呼ばれる「大磯の御前」は、顧問弁護士や会計士、あるいは闇の勢力の代表に至るまでなど、彼の王国を支えて来た部下たちをすべて招集した。

「わしにはもう時間がない」
老人は切り出した。
「すべての財産をキャッシュに代えて欲しい。なるべく早くだ」
「恐れながら」部下の一人が言った。「それをやりますと、株価や地価に影響が出るかと存じますが」
「構わん。どうせあの世には持っては行けぬ。それに海外の資産もあろう。それらをすべて、いつでも動かせるようにして欲しい。わしはこの世で最後の大博打を打ちたい。このままでは死んでも死にきれぬのだ」

実際、老人の財産は莫大なものであった。内外の株、債券、不動産、そして金塊。これらが一度に市場に流出した数ヶ月は、それぞれの市場が混乱を来すほどであった。「大磯の御前、動く」の報は、日本の政官財のリーダーたちを震撼させた。老人の次の一手は何か。そしてその日は、意外な形で訪れたのであった。

PART3

その日、日本の政官財の主だったものたちが大磯の私邸に呼び出された。老人は全員に白紙を渡して告げた。

「ここに好きな金額を書きたまえ」
呼び出されたリーダーたちは面食らいながら顔を見合わせた。
「わしは君たち全員に退職金を払いたいのだ。金額は青天井だ。即金で払う」

しばしの沈黙が流れた。
「そのようなものを頂戴するいわれはありませんが」
事務次官の一人がおそるおそる言った。
「何もただでとは言わん。X月X日をもって、君らには退場してもらう。なるべくなら、その後はこの国を離れて、邪魔にならんようにしてほしい。退職金には、その分のプレミアムも含まれておる」

「そんな金は要らない」かねてから気骨がある、と定評のある一人の銀行経営者が老人を見据えていった。「われわれにも名誉というものがある。こそこそ逃げ回るような人生は御免だ」
「名誉だと?」老人の言葉に、裂帛の気迫がこもった。「この国の経済のどこに名誉があると言うのだ。皆が自分の身を守ることだけに汲々とし、問題を先送りして逃げ切りを図っている。リスクを取ろうとするものはどこにもおらん。今の生活が良ければそれでいいと思っている。だが清算のときはかならずやって来る。日本国債の値段がいつまでも上がり続けると思うか?株価がこのままの水準で決算ができるのか?それが分かっているのに、危機を先延ばししている。そういうごまかしが、ますます問題を悪くしているのに気がつかぬのか。――いいか、この国の経済は、もう詰んでいるのだ」

沈黙が流れた。
今度は腹黒いと評判の政治家が手を挙げた。
「この申し出を断ったらどうなるのですか」
「金だけがわしの力の源泉だと思ったら大きな間違いだ」老人は笑みを浮かべた。「月夜の晩ばかりではない、とだけ申しておこうかな」

PART4

かくして「Xデイ」がやってきた。百人近い指導者が、一斉に日本から消えた。それと同時に、あらゆることが一気に動き始めた。

まずメガバンクが揃って公的資金の注入を申請した。それも数兆円単位で。各行は保有債権の洗い替えを実施し、不良資産をバランスシートから落とした。かくして不良債権処理問題は新たな展開を迎えた。経営陣が一新されたことで、モラルハザードやら国民負担云々といった批判は出なかった。そもそも一部マスコミのトップまでもが、「退職金」を受け取っていたのだから世話はない。ある経済紙のトップなどは、丸裸になって逃げたそうである。

政府予算も、大幅な支出削減によってプライマリーバランスを達成した。もちろん財政赤字が解消するには、長い年月がかかることは明らかであったが、ともあれ発散することは避けられそうであった。大胆な改革ぶりを見て、ムーディーズはJGBの格付けを上方修正した。海外の資金は、日本のアセットを買い続けた。

株価は天井知らずの暴騰を続けていた。そんな状況を、今では無一文になってしまった「大磯の御前」は満足げに見つめていた。最後に残った大磯の私邸も、間もなく人手に渡ることになっていた。
「まあ、いいのさ」老人は言った。「わしの人生も投了の瞬間が近そうだからな」

エピローグ

ところでこの日本経済のハッピーエンドに、苦虫をかみつぶしたような顔をしている人物が一人いた。T金融担当大臣である。実は彼は、ETFの先物を大量に売っていたのであった。


<3月5日>(水)

○国際大学主催の公開セミナー「日米同盟はどう変わるか」へ。時節柄いろんな話が出て、簡単にまとめられるものではないのだが、北岡伸一先生のこんな発言が印象に残った。

「北朝鮮問題を抱えた日本は、日米同盟を揺るがすわけにはいかない。そのように考えることをさびしい、卑屈だ、などと考える必要はない。戦略とは、本来そういうものだ」

○岡崎久彦氏が、こんなことを言っていた。

「男性を前にした女性がこう考える。『この人は見てくれも悪いし、稼ぎも悪そうだ。結婚するのは止めておこう』。――女性にとって、これは立派な戦略だが、そういうことは口にすること自体が憚られる。戦略を語ることは難しいものだ」

○戦略とは、大声で語るものではない、ということを学びました。

○さて、ひとつ無責任な予想をしておきましょう。開戦のタイミングです。3月7日(金)がブリクス委員長による追加報告。その後に米英が新決議案の採決に向けて動き出す。短い決議案なので、答えが出るのは早いはずだが、そこはそれ、時間をかけるだろう。それが来週の注目点。これが通るにせよ、不首尾に終わるにせよ、武力攻撃は行われる。で、それはいつか。

○平日ではあるまい、というのがかんべえの予想。アフガン戦線も、2001年10月7日日曜に始まっている。米国本土は翌8日がコロンバスデーの祝日だった。開戦の翌日が休日、というのは何かにつけて都合がいい。逆に株式市場が開いていたりすると、余計な心配をしなければならない。だったら今回の場合は、土曜日ということになるんじゃないだろうか。

○そこでふと、こんな言葉を思い出してしまったのである。

Beware the Ides of March!

「シーザーよ、3月15日に気をつけろ!」(シェイクスピア)というわけ。この文句、いかにも"The Economist"が見出しに使いそうじゃありませんか。『ジュリアス・シーザー』の中で、占い師はこう言って警告する。シーザーは「夢を見ているのだ」と相手にしない。その日が来ると、「おい、3月15日になったぞ」と占い師をからかう。占い師は、「シーザーよ、3月15日はまだ終わっておりませぬ」と言う。それでもシーザーは元老院会議に赴き、暗殺者の血に染まるのである。

○つい気になったので調べてみたが、"Ides of March"という言葉に特段の深い意味はない。ローマ時代のカレンダーでは、3月、5月、7月、10月の15日をそう呼んでいたんだと。なぜか他の月においては、Idesは13日になるらしい。だからシーザーは13日は気をつけていたんだが、15日はうっかりしていたのだ、という説もあるんだそうだ。ま、そんなことはいい。紀元前44年と同じように、2003年のIdes of Marchも歴史に残る日となりますかどうか。


<3月6日>(木)

○"the Ides of March"がさっそく使われている、という読者からのご指摘。ニューヨークタイムズで、お馴染みウィリアム・サファイアが使っておりました。3月6日付のコラム"Give Freedom a Chance"の最後のセンテンスがこれ。

This campaign near the Ides of March will make us safer, allaying our fears; it has the potential of making the world freer, justifying our hopes.   

○ご指摘いただいたファンドマネージャー氏はおくゆかしく、「当然ご覧になっているでしょうが、ご連絡まで」だなんて、当然見逃しておりましたがな。深謝申し上げます。

○塩野七生『ローマ人の物語X〜ユリウス・カエサル/ルビコン以後』では、"the Ides of March"はこんな風に紹介されている。

ラテン語で「Idus Martiae」としようが、英語で「The ides of march」としようが、イタリア語で「Idi di marzo」としようが、「3月15日」と書けば、西欧人ならばそれがカエサル暗殺の日であることは、説明の要もないくらいの知識になっている。西欧史でも屈指の劇的な一日、ということだ。

○その3月15日が、ことによると「西欧の衝突」(米英VS仏独)の記念日となるかもしれないというところに、なんとも因果なものを感じます。

○今日はまた、別の読者から「米国外交官の辞表」というメールも頂戴しました。サファイアのように「サダム撃つべし」と信じるアメリカ人もいる一方で、「こんなことしてていいのだろうか」と思い悩む人もいる、ということのようです。


U.S. Diplomat's Letter of Resignation

The following is the text of John Brady Kiesling's letter of resignation to Secretary of State Colin L. Powell. Mr. Kiesling is a career diplomat who has served in United States embassies from Tel Aviv to Casablanca to Yerevan.

Dear Mr. Secretary:

I am writing you to submit my resignation from the Foreign Service of the United States and from my position as Political Counselor in U.S. Embassy Athens, effective March 7. I do so with a heavy heart. The baggage of my upbringing included a felt obligation to give something back to my country. Service as a U.S. diplomat was a dream job. I was paid to understand foreign languages and cultures, to seek out diplomats, politicians, scholars and journalists, and to persuade them that U.S. interests and theirs fundamentally coincided. My faith in my country and its values was the most powerful weapon in my diplomatic arsenal.

It is inevitable that during twenty years with the State Department I would become more sophisticated and cynical about the narrow and selfish bureaucratic motives that sometimes shaped our policies. Human nature is what it is, and I was rewarded and promoted for understanding human nature. But until this Administration it had been possible to believe that by upholding the policies of my president I was also upholding the interests of the American people and the world. I believe it no longer.

The policies we are now asked to advance are incompatible not only with American values but also with American interests. Our fervent pursuit of war with Iraq is driving us to squander the international legitimacy that has been America's most potent weapon of both offense and defense since the days of Woodrow Wilson. We have begun to dismantle the largest and most effective web of international relationships the world has ever known. Our current course will bring instability and danger, not security.

The sacrifice of global interests to domestic politics and to bureaucratic self-interest is nothing new, and it is certainly not a uniquely American problem. Still, we have not seen such systematic distortion of intelligence, such systematic manipulation of American opinion, since the war in Vietnam. The September 11 tragedy left us stronger than before, rallying around us a vast international coalition to cooperate for the first time in a systematic way against the threat of terrorism. But rather than take credit for those successes and build on them, this Administration has chosen to make terrorism a domestic political tool, enlisting a scattered and largely defeated Al Qaeda as its bureaucratic ally. We spread disproportionate terror and confusion in the public mind, arbitrarily linking the unrelated problems of terrorism and Iraq. The result, and perhaps the motive, is to justify a vast misallocation of shrinking public wealth to the military and to weaken the safeguards that protect American citizens from the heavy hand of government.

September 11 did not do as much damage to the fabric of American society as we seem determined to so to ourselves. Is the Russia of the late Romanovs really our model, a selfish, superstitious empire thrashing toward self-destruction in the name of a doomed status quo? We should ask ourselves why we have failed to persuade more of the world that a war with Iraq is necessary. We have over the past two years done too much to assert to our world partners that narrow and mercenary U.S. interests override the cherished values of our partners. Even where our aims were not in question, our consistency is at issue.

The model of Afghanistan is little comfort to allies wondering on what basis we plan to rebuild the Middle East, and in whose image and interests. Have we indeed become blind, as Russia is blind in Chechnya, as Israel is blind in the Occupied Territories, to our own advice, that overwhelming military power is not the answer to terrorism? After the shambles of post-war Iraq joins the shambles in Grozny and Ramallah, it will be a brave foreigner who forms ranks with Micronesia to follow where we lead. We have a coalition still, a good one. The loyalty of many of our friends is impressive, a tribute to American moral capital built up over a century. But our closest allies are persuaded less that war is justified than that it would be perilous to allow the U.S. to drift into complete solipsism. Loyalty should be reciprocal. Why does our President condone the swaggering and contemptuous approach to our friends and allies this Administration is fostering, including among its most senior officials? Has 'oderint dum metuant' really become our motto?

I urge you to listen to America's friends around the world. Even here in Greece, purported hotbed of European anti-Americanism, we have more and closer friends than the American newspaper reader can possibly imagine. Even when they complain about American arrogance, Greeks know that the world is a difficult and dangerous place, and they want a strong international system, with the U.S. and EU in close partnership. When our friends are afraid of us rather than for us, it is time to worry. And now they are afraid. Who will tell them convincingly that the United States is as it was, a beacon of liberty, security, and justice for the planet?

Mr. Secretary, I have enormous respect for your character and ability. You have preserved more international credibility for us than our policy deserves, and salvaged something positive from the excesses of an ideological and self-serving Administration. But your loyalty to the President goes too far. We are straining beyond its limits an international system we built with such toil and treasure, a web of laws, treaties, organizations, and shared values that sets limits on our foes far more effectively than it ever constrained America's ability to defend its interests. I am resigning because I have tried and failed to reconcile my conscience with my ability to represent the current U.S. Administration. I have confidence that our democratic process is ultimately self-correcting, and hope that in a small way I can contribute from outside to shaping policies that better serve the security and prosperity of the American people and the world we share.


○こういう国務省職員もいるということでしょう。ただし、「長官、あなたの大統領への忠誠心は行き過ぎです」てな部分は、ちょっと作り物くさいかな。ま、いいでしょう。このメールも、また例によって全世界を飛び回るんでしょうから、その片棒を担ぐべく、ここに全文を掲載しておきます。


<3月7日>(金)

○今日聞いて笑っちゃった話。

○毎年、3月危機の時期になると、政府・日銀はウルトラCを発動して難を逃れようとする。銀行に公的資金を注入した年、量的緩和策を発動した年、それに空売り規制を発動した年もあった。2003年にも秘策を用意していた。それは日銀にETFを買わせるという手段。新しい総裁に因果を含めようと思ったところ、「いや、日銀の資産のポートフォリオを考えれば、それはむしろ望ましいことだ」という望外の返事を得た。ふふふ、こりゃ3月は株高だぜい、というシナリオができた。

○ところがどっかのお馬鹿さんが、絶妙なタイミングで「ETFを買えばかならず儲かる」などと言ってしまったために、それができなくなってしまった。お馬鹿さんとしては、自分のお陰で株が上がるんだ、ということを誇りたかったらしい。でも、それは手品の種を明かしてしまったも同然。それどころか、責任ある立場のお馬鹿さんが、証券取引法違反で後ろに手が回るかもしれないというお粗末である。かくしてせっかくのウルトラCは発動できず、今日も株価は下げるというわけだ。

○このお馬鹿さん、同様な前科がいっぱいあって、いつも大事なところで判断を間違える。ゼロ金利解除に賛成したこともあったし、ITバブル崩壊の瞬間にIT戦略をぶっていたこともあった。いわば"Mr.Reverse Indicator"ですな。この半年も、騒ぐだけ騒いで成果はほとんどなし。おーい、柳澤さん、そろそろあんたの出番かもしれないよ。


<3月8日>(土)

○一昨日掲載した米国外交官の辞表、NYTimes紙のコラムでクルーグマンが引用しています。

http://www.nytimes.com/2003/03/07/opinion/07KRUG.html

○あの中で引用されていたラテン語はなんじゃろう、と思っていたらこういうことだった。

"Oderint dum metuant" translates, roughly, as "let them hate as long as they fear." It was a favorite saying of the emperor Caligula, and may seem over the top as a description of current U.S. policy.

○なんと出典はカリギュラ帝であった。ふとカミュの戯曲を思い出す。あれは掛け値なしの名作です。それにしてもローマ時代の話が続きますな。なぜでしょう?


<3月9日>(日)

○日本で公演した「還暦」ローリング・ストーンズは上海に向かうのですね。実はロックファンでもある上海馬券王が、こんなことを言ってます。

ストーンズが上海にやってくるYah Yah Yah!

いやぁ、凄いです。あのローリングストーンズがなんと上海で公演をすることになりました。マじかよ!

に、似合わねぇ。中国の音楽シーンは甘ったるいポップスとかバラードは全盛で、これほど正統派ロックが受け入れられない国はない。日本の音楽だって受けてるのは、濱崎あゆみとか、宇多田ヒカルとかKIROROとか、毒にも薬にもならない、ふ抜けた音楽ばかりだし。

大体彼らの音楽は「演奏」というよりは、「演芸」。歌詞でもメロディでも演奏能力でもなく、「間」と「気合い」と「演奏者のプレゼンス」と言う、例えて言えば日本の落語に近いところにその本質があるわけで、この本質を理解するには、聴く方にもそれなりのバックグラウンドと経験が要求されるわけなのである。ヘヴィメタでもハードでもないごく普通のロックコンサートで「音量が大きすぎて難聴者続出」なんて見出しが新聞の社会面に躍るこの国の連中に、「BROWN SUGAR」とか「STREET FIGHTING MAN」とか「START ME UP」とか本気でやるのかね君たちは。いくら「有望な市場」だからと言って、おいたが過ぎますぞ。

2万人収容の体育館で、チケットは最高3000元(45000円)、中国の中でも飛びぬけて所得の高い上海でもこれは、一般人の月収の2か月分以上にあたるわけで、きっと来るのは「高けりゃなんでもいい」という、なんにもわかってない現地成金と外国人ばかりであることは、今から予想がつくのでありますが、考えてみればストーンズももう60過ぎの老人集団だし、これを逃したら次はないかもなどと考えて、1580元のB席を注文する私であった。ああ、財布が傷む。

ミックよ、キースよ、現地人が見当はずれなリアクション示してもむくれるんじゃないぞ。俺はちゃんと聴いてるからな!

○中国人がロックを聞くようになり、そのうちロックミュージシャンも出てくるんだろうけど、その真髄を理解するまでにはちょっとした時間がかかるんでしょう。どっかで見た景色ですな、これは。たとえばF1に参戦するようになった日本が、とうとう優勝するまでになり、ある日ふと気がつく。俺は何も分かっていなかったんじゃないかと。

○ところで以下はちょっとした「親ばか」です。中学生が課外活動で作ったHPなんですけど、長女Kとその仲間の作品。ちょっと覗いてやってみてください。

http://contest.thinkquest.jp/tqj2002/50334/ Once upon a Time...

http://contest.thinkquest.jp/tqj2002/50334/100/index.html 百人一首


<3月10日>(月)

○案の定、というか、安保理決議1441が成立してから、しばらく鳴りを潜めていたPNACのHPが、1月末当たりから賑やかになってきた。パウエルの国際協調路線がうまくいかず、アメリカの国際的な孤立が目立ち始めたことで、本来の保守・タカ派たちが声を上げ始めたのである。

http://www.newamericancentury.org/whatsnew.htm

○たとえば1月31日には、ロバート・ケーガンがワシントンポストに"Politicians With Guts"(腹の据わった政治家)と題し、ブレアやアスナールなど米国側に立ってくれた欧州政治家たちを称えている。ケーガンは名うての欧州バッシャーで、それが奥さんの仕事の都合で欧州に帯同駐在している。喩えていえば、ジェームズ・ファローズが東京で不平不満をかこっているようものか。ケーガンの舌鋒は予想通りきびしい。

「アメリカの対テロ戦争は欧州人のものでもある、などとやつらが言っても気にすることはない。EU外交の中心人物であるソラーナが最近認めたように、ほとんどの欧州人は国際テロの脅威などは感じておらず、むしろオサマ・ビン・ラディンよりもブッシュの方を恐れているのだ」

「トニー・ブレアが毎日仕事に通うロンドンにおいては、英国を代表する人々が流麗な言葉づかいとオックスブリッジのアクセントで、パット・ブキャナンばりの陰謀論を語っており、『ネオコン』
(ユダヤ、と振り仮名をふる)がアメリカ外交を乗っ取っている、などと言う。これがパリにおいては、全員が石油と『帝国主義』(ユダヤ、と振り仮名をふる)になる。マドリッドでは、これにフランコ政権(ユダヤ、と振り仮名をふる)への支持が追加される。つい最近参加したバルセロナの会議では、立派なスペインの知識人が真摯に尋ねるのである。アメリカは大量破壊兵器を製造する邪悪な独裁者を排除したいなら、なぜイスラエルに侵攻しないのか?と」

「そう、アメリカ人自身もこういう質問をする。ブキャナン族もいれば、ゴア族もいる。しかしこれこそアメリカ人が理解しなければならない点なのだ。欧州においては、こういう偏執狂的かつ陰謀論的な反アメリカ主義は、極左や極右に見られる現象ではないのである。まさに本流の人たちの見方なのだ」

「欧州の本流がこれだけ反米に埋め尽くされたことはかつてない。60年代のベトナム反戦でさえ、80年代の反核運動でさえ、欧州の反米主義はいつも反共産主義によって打ち消されてきた。真の問題は赤軍やソビエトの全体主義にあり、ニクソンやレーガンや米国ではない。彼らに問題はあっても、自分たちを悪から守ってくれるものだとほとんどの欧州人が信じていた」

○これまでケーガンの文章を何度も訳したせいもあって、彼のロジックに中毒してしまったのか、こういう反欧州プロパガンダに思わず納得してしまう。だから溜池通信2月7日号で、「安保理は出来レースで、フランスは必ず落ちる」みたいなことを書いてしまうのである。やっぱりワシは欧州のことが分かっていないのだ、とちょっとだけ反省する。まあ、この点については、"The Economist"紙も読み違えていたようだし、やむなしとしておこうか。

○PNACのホームページでは、2月13日にかのリチャード・パールがNYで語った対イラク政策についてのメモが掲示されている。これがまた示唆に富むので、注目点を抜書きしておこう。

●国連について

「国連憲章51条は固有の自衛権を認めている。われらは皆自国を守る権利があり、ときには国連の賛同がなくても行動することがある。フランスは国連抜きに象牙海岸に行ったし、われわれと同盟国は国連抜きでコソボに行った。先例がないわけではないのである。そしてもし、安保理の他の4カ国が賛成してくれないから、わが身を守ることが出来ないということになったら、大統領は防衛のために憲法の下の責任を遂行するだろうと思う。国連の支持は望ましいし、国連の賛同も望ましい。だが、アメリカ政府は自国の防衛を、国連やその他の誰かの手に委ねることはできない」

●ドイツとフランスについて

「ドイツとフランスの政策は違う。われわれと同様に、ドイツ人も世論調査に基づいて選挙を行う。これはリーダーシップの否定だが、あいにくわれわれも同じことをしている。シュレーダー首相は反戦・平和感情に訴えているうちに、どんどんコーナーに追いつめられ、国連の決議があったとしてもドイツはフセインへの軍事行動に参加しないという非常に極端な政策に立ってしまった。これではアメリカが頻繁に批判されるユニラテラリズムの一種とかわらない」

「フランスの動機はこれとは違う。率直に言って、フランスはフセインとの取引がある。制裁が解除された瞬間に、契約の束が動き出すだろうが、それはフランスにとって重要なのだ。私の試算では400〜600億ドルになる。商業的な利益がかかっている一方で、彼らはアメリカの目当ては石油だと批判するのである。皆さんに保証するが、われわれの石油に対する国益は、国際市場でそれを買えることである。そのためには戦争をするよりも、制裁を解除した方がいい」

「フランスにはもう一つの理由がある。われわれはそこをしっかりつかんでおく必要がある。フランスはEUを米国への『対抗勢力』にしたいと思っている。『対抗勢力』という言葉は、フランス人によってもっとも頻繁に使われている。長い間、アメリカとフランスは同盟国であった。しかし『対抗勢力』などという言葉で語られるような関係は、同盟関係ではない。

●欧州の反戦感情について

「われわれが理解しておくべき要素がある。アメリカ人やアメリカの指導者たちが感じている脅威は、まったくそうは感じない人たちがいるということである。オスロでコーヒーとりんごケーキを前にしている誰かが、同様に恐怖を感じるとしたらその方が驚きだ。9月11日の結果として、われわれが持つ感情を、欧州の友人たちや同盟国が共有してくれると期待すべきではない。9月11日はアメリカの政策担当者、なかんずく大統領に大いなる影響を与えた。われわれはもはや、脅威が発展していくことを座視することは出来ず、それらに対する行動に失敗することはできない。それこそが9月11日の教訓である」

●なぜ今、イラクなのか

「われわれは遅すぎたし、もっと以前に行うべきだった。そしてもっと早く行わなかったという事実、査察官の追放を容認したことが、リーダーシップの弱体化を招き、今日の事態に至ったのだ。クリントン政権は実質的に対応することを選択しなかった。大変な間違いだった」

「われわれは悪の枢軸の3カ国すべてに対応しなければならない。ひとつずつにだ。イランについては、聖職者たちが不人気であるために没落していくだろう。少し時間はかかるかもしれないが、きっとそうなる。北朝鮮の場合は、非常にデリケートな状況だ。なぜなら北朝鮮は韓国に対してすぐさま打撃を与え得るからだ。ゆえに韓国の懸念に対して気を遣わねばならない。われわれはいつか、あるときになれば処理しなければならない」

○アメリカの論理はこんな感じである。安保理の対立は根が深そうだ。


<3月11日>(火)

○ブッシュの戦争(Bush at War)を興味深く読んでおります。ボブ・ウッドワードの本はどれもハズレがなく、本書も当然のことながらよくできています。「9・11」後のホワイトハウスが何をしていたか、貴重な記録となっています。

○ただしひとつだけ文句をつけたい。本書には目次がないのです。そんな馬鹿な、と思うでしょ?480ページもある大判の本で、巻末には索引もついている。非常に良心的です。でも目次がない。なんでやねん?

○邪推させてもらいますと、おそらくその答えは帯にある。「イラク攻撃はこうして決断された!」とある。どうも出版社は、読者が本書を対イラク戦争を描いたものだと誤解することを望んだんじゃないか。でも本書が描いたのは「9・11」からアフガン戦線にかけての「戦争」です。察するに、目次があるとそこを見た瞬間にそれがばれてしまう。「な〜んだ、そんな古い話ならいいや」と思われるかもしれない。だから敢えて目次をつけなかったんじゃないだろうか。

○いうまでもなく、イラク問題を知りたいと思って本書を購入(2200円+税)した人は、読んでから愕然とするでしょうね。ちょっとあこぎな商売じゃないでしょうか。日本経済新聞社様。


<3月12日>(水)

○訂正です。『ブッシュの戦争』の原著"Bush at War"にも目次がないことが判明。早とちりでした。日本経済新聞社様、ゴメンナサイ。

○昨日、ルック@マーケットの出演者の打ち上げの席で、「ブッシュの対イラク戦争が石油利権が目的だなんてとんでもない」という話をしたら、内山さんから「それ、面白いからちゃんと書いておいて」とリクエストされました。自分ではこんなの常識の範囲内だと思うのだけど、今夜もまた別の場所で同じ話を繰り返してしまったので、以下にまとめておきます。


@石油を目的とする戦争は割りが合わない。損得勘定を考えてみればよい。
アメリカがイラクの日産300万バーレル(最高時の水準、現在はもっと少ない)の石油を手に入れるために、いくらかかるのか。
戦費におよそ1000億ドル、老朽化した石油掘削インフラの整備にさらに200億ドル、戦後の占領コストも相当にかかるだろう。
一方で、戦後の石油価格は1バーレル10ドルくらいまで落ち込むことが予想される。投資対効果を計算してみよう。

$10X365X300万バレル

つまり、年間およそ100億ドルにしかならない。
1000円の弁当を売ったときの儲けが、けっして1000円になることがないように、
戦争をしたときの儲けは、年間100億ドルをはるかに下回ることになる。
つまり、この投資は明らかに失敗だ。
オイルメジャーといえど、最近はMBAを出た頭のいい連中が経営している。
「こんなROAの低いプロジェクトは駄目だ」「リスクが大きすぎる」と言うだろう。

Aそもそも戦争で勝ったからといって、その国の石油利権を横取りするなどということが可能だろうか。

クウェート政府は湾岸戦争で国を失い、アメリカに助けてもらって国土を回復した。
しかし、石油利権はすべてクウェート政府に返還されている。
あのときアメリカが、「おい、お前の石油、俺に半分寄越せ」といえば、とうてい嫌とは言えなかっただろう。

だが、そんなことをアメリカが口にするはずがないのである。
そしてそんなことを大統領が口にしたら最後、次の選挙では必ず落選するだろう。

Bイラクの石油は、イラク人のものである。戦争が終われば、ポスト・フセイン体制の構築が始まる。石油による利益は、そのために使われるべきであろう。これが正論というものだ。

仮に対イラク戦争が石油利権のためだったとすれば、アメリカ民主党にとってこんなにめでたい話はない。2004年の選挙の時に、「米軍が血を流したのは石油の為だったのか」と訴えることができる。ブッシュは落選するだろう。

アメリカ国民は自分たちの兵士が死んで、それが石油利権のためであったなんてことは、絶対に許さない。でも独裁者を退治して、中東を民主化するためだったら許してくれるのである。アメリカはそういうナイーブな国なのである。


○最近、ブッシュ政権が対イラク戦争にこだわる理由として、「シオニズム勢力の影響」とか「ネオ・コンサバティブ派の台頭」「キリスト教原理主義」など、いろんな理由を挙げる人が増えている。「石油利権説」や「軍需産業説」も盛んである。(結構、インテリの人までが大真面目に言っているので、恥ずかしくなることもある)。そんな怪しげな補助線を何本引いたところで、アメリカ国民の多数がブッシュ政権を支持し、対イラク戦争に賛成しているという事実は動かせない。

○「9・11」でアメリカは変わった。欧州や日本は何も変わっていないから、そのことに気がつかない。だが、ブッシュ大統領の眼から見れば、「9・11」からイラクへは一本道なのである。テロ攻撃によるトラウマを抱えたアメリカは、当分の間、過剰防衛に走り続けるだろう。フランスやロシアが反対しようが、イギリスや日本がなだめようが、それは止められない。そもそもが外国の忠告を聞きいれるような国ではないのである。でも、いつかは気がついて自分で修正する。「9・11」のトラウマもいつの日か克服するだろう。そこは信じていい。

○・・・・ビンラディン逮捕説が流れていたので、ついついCNNを流して夜更かししているが、どうもガセだったかな。皆さん、おやすみなさい。


<3月13日>(木)

○これはですねえ、『クイズ、日本人の質問』に使えそうなネタですよ。

○昨晩、NPO法人岡崎研究所の理事会があり(そうそう、会員募集中ですよ、よろしくね)、その後の会食の席上で元提督たちと話しているうちに、「あの『ようそろ』ってのはどういう意味なんですか?」てな話になった。そう、海の男たちが、舵取りのときにやる掛け声で「よ〜そろ〜」というやつ。

「ああ、あれは『良う、候』なんです。つまり『このまま真っ直ぐ』という意味。不思議でしょう?平安時代の頃からの言葉を使ってるんです」

○この説明には感心しました。ついでなので、「取り舵」と「面舵」も聞いてみました。これがまた面白い。

取り舵=十二支の「酉(とり)」から来ている。
面舵=十二支の「卯(う)」で、「うのかじ」が転じて「おもかじ」になった。

○十二支で正面を「子(ね)」とすると、酉は90度左、卯は90度右となる。ゆえに、取り舵は「左へ行け」、面舵は「右へ行け」です。それじゃあ「馬舵」は退却ですか、という声が上がったけど、さすがにそういうのはないそうだ。

○ただし船の上での掛け声は、機械の音や風の音などで聞こえないことが多い。そこで、イントネーションを変えて、聞き取りやすくしているのだそうだ。太字の部分にアクセントを置いて発音してみてください。

(直進)よぉろ〜
(左へ)とぉ〜りかぁ〜じ〜
(右へ)おもぉ〜かじぃ

○この説明を聞いているうちに、なぜか咸臨丸の上で、「ようそろ」を指示している勝海舟の姿が目に浮かんだ。きっと昔見たNHKの大河ドラマかなんかで、そういうシーンがあったんだろう。海の国ニッポンでは、船の上ではこんな昔からの言葉を使い続けているんですね。変なカタカナ言葉が氾濫する昨今、ちょっといい話だと思いませんか?あたしゃなんだか、こう、胸がうずいちゃったな。


<3月14日>(金)

○ブルームバーグ特別セミナー「国際情勢と市場の行方」でパネリストを務めました。マーケットは昨晩で大きく変わったようなので、なんとも話しにくいところで、いわば"Too Timely"でしたかね。ちょっと歯切れが悪かったかもしれません。

○今週号の本誌では、「3月中にX-dayがある」という前提で書いていますが、その前提が崩れた場合がどうなるかということも、考えておかないといけませんね。戦争はないに越したことはありませんが、その場合、アメリカはどうやってこぶしを下ろすのか。これはこれで悲劇的な結果につながると思います。

○アメリカ経済の行方に対しては、慎重な見方が多かったですね。ねこやんさんは、「大型利下げあり」と言ってました。そう言われると、本当にありそうな気がしてきた。でもFFレートは1.25%しかない。いよいよ日本経済に近づいてきたのかな。


<3月15日>(土)

○先日、神谷万丈先生から面白い話を聞いた。国連における常任理事国は、米、英、仏、それといまだに「ソ連と中華民国」になっているんだと。つまりプーチンはソ連代表というのはまだいいにしても、あわれ胡錦濤は中華民国代表なのである。怒れ中国。国連憲章を見てみたら、なるほどそうなっている。

第5章 安全保障理事会
【構成】
第23条
安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。

安全保障理事会の非常任理事国は、2年の任期で選挙される。安全保障理事会の理事国の定数が11から15に増加された後の第1回の非常任理事国の選挙では、追加の4理事国のうち2理事国は、1年の任期で選ばれる。退任理事国は、引き続いて再選される資格はない。

安全保障理事会の各理事国は、1人の代表を有する。


CHAPTER V
THE SECURITY COUNCIL
Article 23
1. The Security Council shall consist of fifteen Members of the United Nations. The Republic of China, France, the Union of Soviet Socialist Republics, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the United States of America shall be permanent members of the Security Council. The General Assembly shall elect ten other Members of the United Nations to be non-permanent members of the Security Council, due regard being specially paid, in the first instance to the contribution of Members of the United Nations to the maintenance of international peace and security and to the other purposes of the Organization, and also to equitable geographical distribution.

2. The non-permanent members of the Security Council shall be elected for a term of two years. In the first election of the non-permanent members after the increase of the membership of the Security Council from eleven to fifteen, two of the four additional members shall be chosen for a term of one year. A retiring member shall not be eligible for immediate re-election.

3. Each member of the Security Council shall have one representative.

○とっとと直せばいいようなものの、いざ改定となるとそれでも、いろんな国がいろんなことを言い出すのでまとまらない。国連憲章は、過去に3回改定されているが、最後の改定は1971年。限りなくパンドラの箱に近いんでしょう。なにしろ国の名前を変えられないくらいだから、日本を常任理事国にせよとか、旧敵国条項をはずしてくれとか、そんな贅沢が通らないのも全然不思議じゃない。つくづく、国連に変な幻想を持つのはやめましょうね。

○余計な話ですが、The Economist誌などは非常任理事国(Non-permanent Members)のことを、Rotating Membersなどと表記しています。この物言い、ちょっとアタマにきませんか?

○ところで5つの常任理事国は、第2次世界大戦の戦勝国なわけですが、フランスは実質的には敗戦国でした。なぜそれが常任理事国に潜り込めたかというと、イギリスが後押ししたからです。イギリスの思惑としては、@欧州から2つ入れることによって、欧州の地位を高める。Aドイツに対する押え、Bフランスに恩を売る、などの理由があったと言われています。こういうところが老大国の知恵の深さで、なかなかに真似のできない発想ですね。もっとも、今ではBは完全に忘れられているようですが。

○あの岡本呻也さんが、こんな新作を考えているようです。題して『話を聞かないアメリカ、空気が読めないフランス』。売れそうだよねえ。

○今日は3月15日。「気をつけろと言ってたけど、何もないじゃないか」とおっしゃるなかれ。3月15日はまだ終わっておりませぬ。それに、とうとう来ちゃいましたよ。ディエゴガルシア島にB2爆撃機が。


<3月16日>(日)

○反仏感情の高まりから、「フレンチフライ」を「フリーダムフライ」に言い換えるようなことをしているとどうなるか。実はフランス語に起源を持つ英語は結構多くて、言葉狩りを続けるとエライことになってしまうのである。以下のコラムは、クリスチャン・サイエンス・モニター紙が3月14日に掲載したもので、その名も"English Sans French"(フランス語抜きの英語)。"Without"を"Sans"にしているところが可笑しい。


The Franco-American dispute falling out over the best approach way to disarming Iraq take away Iraq's weapons has resulted in perhaps the highest level of anti-French feeling in the United States Lands since 1763.

A French-owned hotel innkeeping firm, Accor, has taken down the tricolor three-hued flag. In the House of Representatives Burghers, the chairman leader of the Committee Body on Administration Running Things has renamed named anew French fries "freedom fries" and French toast "freedom toast" in House restaurants eating rooms.

To which the question asking arises: Why stop with Evian, Total gasoline, and the Concorde (just only the Air France flights)? Let's get to the heart of the matter thing: A huge big percentage of the words in modern today's English are of - gasp! - French origin beginnings. What if, as a result of the current diplomatic dispute today's falling out between lands, the French demand ask for their words back? We could all be linguistic hostages captives.

It is time for English-speaking peoples folk to throw off this cultural imperialism lording-it-over-others and declare say our linguistic freedom. It is time to purify clean the English language tongue. It will take some sacrifices hardship on everyone's part to get used to the new parlance speech. But think of the satisfaction warm feeling inside on the day we are all able to can all stare the Académie Française in the eye and say without fear of reprisal injury: "Sumer is icumen in...."

http://www.csmonitor.com/2003/0314/p10s02-comv.htm


○なんとRestaurantはEating Roomsになってしまうし、United StatesさえUnited Landsにしなければならない。フランス起源の言葉をいちいち言いかえると、とっても面妖な英語ができてしまうのである。こういうのをエスプリというんでしょうかね?――おっと、いけない、ウィットと言い換えましょうか。


<3月17日>(月)

○500系のぞみに乗っています。イヤほんと、早いっす。目指すは山口県。今日は岩国、明日は徳山で内外情勢調査会の講師を務めます。先月、宇都宮と小山に行った日には北朝鮮のシルクワームが飛びましたが、今日も「米英西アゾレス諸島会談」で、安保理決議抜きの武力行使が近づいたということで、「ルック@マーケット」さんほかから、「今日は出られませんか?」というお電話をいただいています。ゴメンネ。ただ今、関ヶ原当たりを通過中です。

○もっとも、今日の時点であらためて言うべきことも思いつきません。パウエル・シナリオが崩れたのは残念だ、とか、これでまたブッシュ政権はタカ派の天下になる、とか、「西欧の衝突」は重傷だ、とか、ほかの人と同じようなことばかりですね。

○ひとつだけ、ちょっと八つ当たりみたいなことを書きます。「ブッシュを止めろ」などという途方もない記事を載せるどっかの週刊誌は、せめて同じ号に「有名大学合格者一覧」みたいな情けない特集を載せるな。志を疑うぞ。


<3月18日>(火)

<09:41am>

○昨日は岩国市で講演し、今朝は徳山市のホテルでこれを書いています。昼からも講演をやって、夜には家に戻ります。間もなく始まるブッシュ演説は、ホテルで衛星放送で見ることになりそうです。知り合いのあるジャーナリストは、こんな含蓄のあるコメントをしています。

世界屈指の産油国に原子炉を売ったフランスが、なんだか平和の旗手を演じ。
イランに対処するためフセインを育てたアメリカが、正義の戦争とやらを断行する。

○これぞわれらが世界、われらが時代。別に厭世的になる必要はなくて、こういうことを繰り返しているのが、われらが歴史でもある。あとはまた、追って書きましょう。

<10:46am>

○ホテルの中で、衛星放送でブッシュ演説を見たところ。フセイン親子は48時間以内に国外退去を、と。それがない場合は開戦、ということでしょうから、日本時間では20日(木)の午前10時には警戒水域になる。やっぱり今週末でしょうか。

○こういうとき、かんべえがいつも見るのはギャラップのHPですが、案の定の傾向が見られます。緊張が高まるにつれて、軍事行動への米国民の支持率は上昇する。あと数日で、戦争賛成は8割くらいにまで達するんじゃないだろうか。

http://www.gallup.com/poll/specialReports/pollSummaries/sr030224.asp

今週号でも書いた通り、対イラク戦争は単独でもできるが、復興作業には国際的な協力が必要になる。だから米国としては、単独行動主義でこと足れりとするわけにはいかない。外交努力が失敗に終わったことは素直に認めるとして、どうやって収拾するかを考えなければならない。つまり誰かが米欧間の橋渡しをしなければならない。ここまでの時点で、幸いなことに日本外交は疲弊していない。期待は大きくないと思うが、小泉外交に出番があるかもしれませんぞ。

<16:55pm>

○博多の空港でこれを書いております。本日は株価が上げたようですね。開戦が秒読み段階になったことにより、「地政学的リスク」のうち、不透明な部分が消え去って、目に見えるリスク(石油、金利、為替、消費マインドなど)だけを考えればよくなったわけだから、これは当然でしょう。そして石油だの金利だのといったリスクは、投資家がいつも相手にしているリスクゆえ、そんなにあわてることはない。しばらくはラリーが続くものと見ます。

○問題は日本の株式市場。日本株が下げているのは、ほとんどが国内要因であって、その結果、たとえば「シティグループが日本を見捨てる」といった問題が起きている。しかし「地政学的リスク」による下げの部分が皆無であるはずがなく、そこそこの戻り(米国の半分くらい)は期待できるのでしょう。3月末を控え、これが「神風」になるというのは期待のし過ぎでしょうが、ちょっとはムードがよくなるんじゃないのかな。

<23:58>

○羽田から会社に立ち寄って帰宅しました。いろんな場所を移動するうちに、少し考えがまとまってきました。

○昔、高校生くらいの頃に、「枯尾花の時代」という安部公房のエッセイを読んだ。以下、細部は違うかもしれないが、だいたいこんな内容だったと思う。

○人間の知的な活動というものは、わからないことに名前をつけることだ。未開人にとってライオンは恐るべき外敵であるが、それを「ライオン」と名づけることによって、怖さは半減する。人を襲うとっても恐い生き物、ではなく、「ああ、あれはライオンか」となる。そのうち人間は、たとえばライオンは火に弱い、といったことを学習し、ライオンへの恐怖を克服することができる。このように、人間の科学というものは、およそ幾多の幽霊を枯尾花に変えてしまうことであった。しかし、この世には名前をつけられないものも存在していて、その中に文学というものがある・・・

○ふと思い当たったのは、地政学的リスクというのもこれに近いものだったのだなあ、ということです。イラクや北朝鮮が恐い、というのは相手が何をしでかすか分からないし、アメリカがそれにどう対応すればいいかも分からないし、さらにはそのことの是非を国連で議論しなければならず、それがどんな結果になるか見当もつかない、という非常に曖昧な状況が恐かったわけです。市場は不透明性を嫌う。ブルにもベアにもなれない。それが「地政学的リスク」という問題の本質であった。

○ところが今日になって、ひとつだけとてもクリアになったことがある。それは「ブッシュは本気である」、そして「アメリカは武力行使する」ということ。それさえはっきりしているのなら、不透明性のほとんどは消えたようなものである。この先に待っているのは、不気味な「地政学的リスク」ではなく、ただの「戦争リスク」である。つまり幽霊は枯尾花になった。なんだか訳の分からなかった状況に、はっきりとした道筋が見えてきたのである。

○戦争だったら、市場にとってはお手のものである。なーんだ、そんなもん、わしら知っとるわい。気をつければいいのは、@石油価格高騰、A金利上昇、Bドル安、株安、C消費者心理、そんなところでしょ?ということになる。前例のあることに対しては、人間は非常に鈍感になれる。この先、「バグダッド市街戦で数百万人が死ぬ」とか、「イラクの死にもの狂いの抵抗で、中東全域の油田に火が点く」とか、「対米テロが続出する」とか、そういったリスクが消えたわけではないのだが、それはもう十分に想像力の範囲内のことである。なにしろわれわれは、戦争に対しては経験を積んでいるからだ。十分すぎるほど。


<3月19日>(水)

○マーケットアナリストの清水洋介氏から、こんなお知らせをいただきました。

>直接市場とは関係ないが面白いメールがきたのでご紹介しておく。

>「ご存知だと思いますが、フセイン先物なるものがあり、(フセイン政権が いつまで持つかを賭けるもの)の3 月物(3 月31 日には彼が今の地位に留まっていない)は、先週木曜の18%->48%まで上昇したと言う。ちなみに 4 月物は 88.9%、5-6 月物は共に大統領でいない確率は91%と4 月末までには、決着がつくと参加者の殆どは感じているようです。」

○どこにあるのかと思ったら、↓のHPの右下の部分にありました。面白いことやってますねえ。

https://www.tradesports.com/

International Events
President/Leader of Iraq
Will Saddam hold power?
Trade This Now!

○ひとこと。速水さん、お疲れさまでした。


<3月20日>(木)

○午前9時半、丸の内のブルームバーグテレビジョンに入る。みずほ総研の武内氏がちょうど出演中。そうかと思えば真壁氏も登場。皆さん、それぞれに語ることは「戦争と相場の行方」。なにしろ今日の午前10時には、ブッシュが切った48時間の期限が来る。かんべえが呼ばれたのも、「午前10時に大統領演説か?」という読みに基づいてである。なにしろ日本時間午前10時といえば、アメリカ東部時間が午後8時のゴールデンタイム、バグダッドが午前4時という、ちょうど狙い目の時間帯だ。

○しかるに演説も攻撃も始まらない。キャスターの曽宮さんと、「これからどうなるでしょう」という掛け合いをやって出番を終える。予想通り、アメリカでは戦争開始への支持率が上昇している。そりゃそうだ。こうなったら安保理が賛成しているかどうかなんて過去の話。興味深いことに、イギリスや豪州でも戦争支持の意見が増えている。ブレア首相も、「あれだけ叩かれても筋を曲げないのは偉い」という声が上がり出したようだ。なにしろもう世界は戦時モード。こういうのを「アングロサクソン現象」と呼んでもいいかもしれない。

○思えば「アメリカ」「イラク」「その他の国々」という三角形は、それぞれが伸縮自在で落ち着かなかった。アメリカではタカ派とハト派が混じり、パウエルが独仏を説得している後ろから、「古い欧州」などという悪口を投げかける者がいたりした。イラクは例によってのらりくらり。そしてその他大勢がああでもない、こうでもないと口やかましい。ところが今週、ブッシュが「リーチ」を宣言。イラクも「亡命せず」と突っ張ったから、2辺とその間の角が固まった。そうなると三角形の形は決まる。他の一辺であるその他大勢は、何を言ってももう関係ない。ドバルピンが何か言ってるみたいだが、え?俺たちも戦争に入れてくれ?知るか。

○それから大手町の日経新聞社に移動。日経CNBCへ。ここでの共演者はみずほインベスターズ証券の佐藤さん。控え室で番組開始を待っていたら、突然後ろが騒がしくなった。バグダッド上空で爆音、というニュースをフジテレビが伝えたのだ。「何でしょうね?」と言ってるうちに、午前11時45分、フライシャー報道官が表れ、「イラク武装解除の最初のステージが始まった」と宣言。30分後には大統領演説が始まるとのこと。来たか、と思ったところで、「それではスタジオへ」。

○正午から始まった番組は、12時15分からアジア版CNBCに切り替え、ブッシュ演説を放映。ブッシュ大統領は赤いネクタイだ。大統領の勝負ネクタイは赤、というのはアメリカのお約束。48時間前の演説ではネクタイは青だった。演説中、同盟国に言及した部分はほとんどなし。純然たる国内向けのメッセージだ。

○「米国と欧州の和解は可能か」という渡辺キャスターの質問に対し、「あれは夫婦喧嘩みたいなものですから、仲直りするときは早いでしょう」と答える。「じゃあ、相思相愛になりますか?」と言うから、「お互いに成熟した関係ですから、余人のはかりしれない部分は覆い隠して、よりを戻すんじゃないですか」と答えて、自分で受けてしまう。番組終了後、隣りの佐藤さんがボソッと、「夫婦関係も冷え込んじゃうとなぁ」。――あはは、ドキッとするじゃありませんか。

○いったん会社に立ち寄り、それから今度はBSジャパンへ。勝手知ったる『ルック@マーケット』。株価が上昇したので、なんだか皆ニコニコしている。木村喜由さんによれば、非常にいい形の上昇なんだそうだ。内山キャスター、「戦争のお陰であく抜けですね、といったら不謹慎かな」。いやいや、地政学的リスクという不透明なものが、戦争リスクという計算可能なものになったのだから、当然のことですよ、と申し上げる。石油が劇的に下げ、ドルがしっかりしている。まったく読み通りではないか。

○終わってから再び会社に戻る。1階ロビーでワシントンの多田店長とバッタリ出会う。「この戦争、どうやって終わりにするんだろう?」が多田さんの疑問。なるほど、Regime Changeを目標に定めてしまったから、フセインを追い出すか、殺すか、とにかくどの瞬間で終わりになるかが分からない。こんなの、従来の国際法の概念にはないから、ブッシュ政権も決めていないかもしれない。「たまにはワシントンにおいで」と言われて、お別れ。

○見ればお台場の海には、屋形船がたくさん浮かんでいる。なんとも平和な光景。第二次湾岸戦争が始まった日は、1日に3回も番組に出るという不思議な日になりました。


<3月21日>(金)

○ついついテレビでイラクの戦局に見入ってしまう一日ですが、その他の世界にも目配りが必要ですね。

○第二次湾岸戦争は、中東を舞台にしたアメリカの戦争ですが、おそらくこれでイスラム社会全体が傷つくし、アメリカもヨーロッパも疲弊する。世界を見渡すと、東アジアだけが安泰である。東アジアにとっては石油価格だけが心配の種だが、それは思い切り下落しそうな感じである。石油価格というものは、コントロールの悪いピッチャーのようなもので、ストライクゾーンにはなかなか入らない。大暴投の次は、いきなりワンバウンドになってしまうことが多い。ということで、東アジアはこの戦争の隠れた「勝ち組」になる可能性がある。

○とくに今月、世界中がイラク問題で大騒ぎしている最中に、中国は着々と新体制への移行を済ませている。常任理事国としてはほとんど目立つことなく、政治的資源を浪費していない。お上手です。ロシアが対米関係を悪化させ、なおかつ何も得ていないのと比べると大差といえましょう。

○市場関係者などで、「イラク問題が片付いても、北朝鮮のリスクは残る」といった声があるらしい。これは「分かっちゃいないなあ」である。北朝鮮がきな臭い動きをできるのは、世界がイラク問題に集中しているからである。イラク問題が片付いたら、身動きひとつできなくなるだろう。逆にいえば、イラクで戦争をやっている最中に大いに動いておく必要がある。歳川隆雄さんの情報によれば、「戦争中にノドンが飛ぶ可能性あり」だそうだ。確率5割、と言っておこう。


<3月22日>(土)

○小泉首相への支持率は急落しているようです。日経新聞では支持42%、不支持41%と拮抗状態。朝日新聞では42%対45%だそうだから、おそらくこんなものなんでしょう。いろんな解釈が可能でしょうが、かんべえの感想は下記のようなものです。

「不人気に決まっている戦争支持を明言して、国民への説明義務を十分に果たしたともいえないにもかかわらず、なおかつ4割もの支持があるのは凄い。他の首相では到底不可能な快挙である」

○先月から、内外情勢調査会の講演などでは、こういう言い方をしてきました。「日本がアメリカの武力行使を支持する理由は何か」。3通り考えられると思います。

(1)勝ち馬に乗る――アメリカは高い確率でこの戦争に勝つ。その後の国際情勢はアメリカの天下になる。だったら国益になる方に賭けるべきだ、という議論。日本人は計算高い国民なので、これで納得してくれる人も少なくはないが、あんまり大声で語れる話ではない。

(2)北朝鮮とのリンケージ――多くの国民は「北朝鮮の脅威があるから、アメリカを支持せざるを得ない」と腹の底では思っているようだ。しかし、「だったら北朝鮮がなければ反対するのか」ということになる。また、日本がそこまで北朝鮮に脅えているように見せることは、間違ったメッセージを送ることになりかねない。

(3)日米同盟を守る――ということで、国論を定めるときは、なるべくならシンプルな議論で決めたいもの。ゆえに「これしかない」。

○振り返ってみると、小泉さんは(3)を貫いてくれたわけで、(1)や(2)の補助線を使わなかった。(1)は言わずもがなだし、(2)について言及しなかったことで、「日本はアメリカについていく」姿勢を鮮明にできた。つまり日米同盟を守ることは、諸般の情勢には左右されない国是だ、ということになった。わが国の安全保障を考える上で、これは大きな一歩だと思います。金正日から見れば、日米間にクサビを打ち込めないわけだから、これは困った、日本には手を出せないということになる。さらにいえば、このメッセージは中国首脳部も重く受け止めたはず。それもこれも、余計な条件をつけなかったお陰である。小泉さんは偉い。

○今度のことで、「日本の国連重視外交が頓挫した」てなことをおっしゃる方がいる。しかるに国連なんてものは、冷戦期にはほとんど機能しなかったじゃありませんか。その間の日本外交は、しっかりアメリカ追従をやっていたのです。その結果が軽武装路線であり、高度経済成長であった。国連重視なんて、ただの建て前だったはず。そのことを忘れてもらっちゃ困ります。

○今晩、午後9時から日経CNBC「マーケットトーク」に出演して、第二次湾岸戦争と世界経済の行方について語ります。よかったら見てね。


<3月23日>(日)

○本誌3月14日号「X-day後の世界を読む」で書いた通りの展開になっていて、ちょっと自分でも恐いくらいですな。とにかく石油は下がり、ドルはしっかりし、米国株は上がっている。ここまではめでたい。問題は日本の株が上がるかどうか。明日が気になります。

○昨日の番組で雑談したところでは、三原淳雄さんはけっして楽観しておらず、日本の市場は「株価対策」と称していろんな規制を加えてしまった結果、信用売りが減っているから反発力も弱いのではないかとのこと。それでも、最低でも石油安と円安のメリットは働くから、「アメリカが出力100とすれば、日本も出力50くらいはいくだろう」という気もする。日経平均で8500円くらいまでは行けるんじゃないだろうか。

○この辺の微妙なところは、下記のような番組に出演してみるのがいちばんよく分かる。ちょうどいい具合に明日も3レンチャン。さて、明日はどうなるか。

@午後4時〜 BSジャパン『ルック@マーケット』 キャスター:内山敏夫氏、中井亜希氏
A午後9時半〜&午後11時〜 日経CNBC『ビジネスToday』 キャスター:多田記子氏、コメンテーター:今井 澂氏
B午後9時半頃〜 J−WAVE『Jam the World』 ナビゲイター:角谷浩一氏、レポーター:内田佐知子氏


<3月24日>(月)

○午後5時、BSジャパン『ルック@マーケット』が終わったところへ、次の日経CNBCから電話。「フセイン大統領が歴史的な演説をするらしいんですが・・・」。おーっと、「私は身を引く」などと言い出すんじゃあるまいか、と思ったが、もちろんそんなことはなくて、1時間後には「なんだか、国民は戦えといっていますね」というお知らせ。そりゃそうだ。「私の首を差し出すから、国民を苦しめるのは止めてくれ」なんて、殊勝なことを言うタイプの人ではない。

○「フセインは死んだ」説が流れていることもあって、「フセイン政権は統制を失い始めた」(ラムズフェルド国防長官)といった声も出始めたところである。それを打ち消すために姿を表したんでしょうが、こうなってくると情報戦もいいところですね。もっとも、長男のウダイは死亡説が有力なようですし、今日のフセインも椅子に座って原稿を読んでいたので、あんまり元気そうには見えませんでしたな。

○考えてみれば、日本の歴史は「自分の首を差し出して、兵士や民衆の命を守った」立派な話に満ち溢れている。江戸城明け渡しや、終戦の詔勅なども、なかなかできることではない英断である。そこへ行くとメソポタミアの歴史は、アジアと欧州とアフリカの交差点である。異民族同士や宗教戦争の歴史の中では、こういう美談はあんまり生まれようがない。やっぱり日本人は甘いのかな。


<3月25日>(火)

○このページでも何度か紹介しましたが、かんべえが日本貿易会で参加してきた「中国と商社研究会」から、こんな本が出たので紹介しておきます。

http://www.jftc.or.jp/research/publish/2003_03_china_shosha.htm

中国ビジネスと商社 ―巨大市場へのあくなき挑戦―


編著者 関  志 雄
出版社 東洋経済新報社
定 価 本体1,600円+税
構 成
序 章 変わる中国・変わる商社の対中ビジネス
第1章 日中貿易の歴史と商社の歩み
第2章 商社の挑戦―対中ビジネス事例に見る「商社の機能」
第3章 中国経済・本当の実力
第4章 21世紀の日中関係と対中ビジネスモデル
第5章 これからの対中ビジネスと商社

○第3章の「対外政策」の部分を担当しています。お手にとっていただければ幸いです。CM終わり。

○閑話休題。

○3月19日(日本時間20日)の開戦が、CIAによってもたらされた情報によって早まった、という事実をどう考えればいいのでしょうか。本来であれば米軍は、「Shock and Awe」作戦により、約3000の拠点を48時間に空爆するという劇的な幕開けを予定していました。ところが19日午後に現地から、フセイン以下の首脳がバグダッド市内のビルに集まっているとの情報が入り、ラムズフェルド長官が巡航ミサイルとステルス戦闘機による「フセイン殺害攻撃」を進言した。ブッシュは最後の3分前まで熟慮して決断したそうです。

○結果はご承知の通り、一時はフセイン死亡説も流れたけど、どうやら狙いは「外れ」だったようだ。惜しかった、ともいえる。ただ、結果論かもしれないけれども、この予定変更はブッシュにとって「悪手」だったと思います。

○たしかに短期終結を目指すには、これほど簡単な方法はない。独裁国家はトップが倒れてしまうと非常にもろい。しかし「スパイがもたらした情報が世界を変えた例はない」というのもひとつの経験則でしょう。てなことを言うと、「いや、そういう事件は歴史には残らないんだ」、という反論がありそうだけど、麻雀でイカサマ師がかならずしも勝つと決まっていないように、裏の手を使ってうまく行くことは世の中そんなには多くない、というのがかんべえ流の人生観です。ついでに言っておくと、「暗殺で世の中がよくなったこともない」という経験則もある。

○フセイン暗殺の機会があれば、米軍は今後も躊躇なくそれを試すでしょう。しかし、開戦のタイミングそれを試したことは、仮にこの戦争が短期終結になった場合でも、若干の後味の悪さを残しそうです。国際法上の位置づけが曖昧な戦いであるだけに、ここはやせ我慢しても予定通りの開戦にしておく方が良かったのではないでしょうか。「アメリカは真珠湾をやっちゃいけない」のひとことで、キューバ侵攻を思い止まったケネディ大統領の故事を思うと、今度の開戦時のフセイン狙いの爆撃は、アメリカ史にかすかな汚点を残したような不安を感じます。

○ブッシュが決断した理由はいくつか考えられます。まず「フセインは悪(Evil)だから、汚い手も許される」という彼なりの正義感。しかしこれを言ってしまうと、相手がアンフェアな手を使って来たときに反論できない。現に捕虜の扱いが微妙な問題を投げかけています。次に米兵の死傷者を最小限に食い止めたいという心理。もっともなことではあるけれども、「この戦争は落とし所が見えにくい」という事情が手伝っている。

○なにしろ体制転換(Regime Change)を求める戦いであるから、フセインを除去することがもっとも分かりやすい終わり方である。この場合、@殺害、A身内の造反、B亡命などの可能性がある。BはOKだが、本人にその気はないし、Aも限りなく望み薄のようだ。問題は、@フセイン本人は死んだようなのだが、それを確認できないから戦闘を止められない、といったケースで、この間の犠牲は本当の無駄死にになってしまう。

○第二次世界大戦の終盤では、ヒトラーが自殺したので連合国は誰と交渉すればいいのか分からなくなる局面があった。そんなことまで考えると、「とにかくフセインの首を」と思う米軍側の気持ちは分からないではないが、そのための焦りが開戦当初に出てしまったとしたら、ちとマズイのではないかと思いました。


<3月26日>(水)

○このところ戦争を食い物にしている罰が当たったか、季節外れの風邪を引いて午後にダウン。いかんですねえ。休んで再起を期す。

○愛読者から教えていただいたんですが、日経ビジネスWEB版にこんな記事が出ているそうです。

2003.03.26
ブッシュ政権のイラク政策を動かしたシンクタンク

あさって以降皆様の手元に届く3月31日号の「世界鳥瞰」欄に、ブッシュ政権のイラク政策を動かしたある小さなシンクタンクの話が出てくる。
  この頃日本でよく聞くようになった「ネオコン」こと「ネオコンサーバティブ」、すなわちレーガン政権の衣鉢を継いで米国覇権の再定礎を目指す新保守主義の人たちが集う組織だ。

  記事はこの人々が1998年クリントン大統領宛てに出した手紙の中で既にイラクの政体変更が提言されていたことを紹介し、同公開状に署名した18人のうち多くは後にブッシュ政権入りしたことをもって、今日のイラク政策の萌芽をそこに認めている。

  The Project for the New American Centuryというのがシンクタンクの名前。
http://www.newamericancentury.org/ から辿っていける。ワシントンに本部を構えるものの、保守派論客やかつてレーガン政権の国防関連ポストに就いていたことのある人たちによる、ほぼバーチャルな組織のようだ。(以下略)

○PNACもだんだん有名になってきましたね。ところでこの記事、書き手は筆者がよく知っている谷口智彦編集委員。中国に行っていたはずなのに、もう帰って来たのかな。また連絡してみよう。


<3月27日>(木)

○今日の『ルック@マーケット』の出演者は、レギュラーの木村喜由さん、ゲストはイェスパー・コールさん、歳川隆雄さん、かんべえが紹介した軍事ジャーナリストの芦川淳さん(初登場)と、とっても「濃い」メンツ。そこで奇妙な事件が発生したのであります。

○番組開始15分前、歳川さんが週刊朝日の表紙を見せて、驚くべき事実を指摘したのです。

●週刊朝日の表紙:http://www3.asahi.com/opendoors/span/syukan/image/a20030404.gif

○イラクに展開する海兵隊の兵士たちの写真なのですが、全員のヘルメットに沖縄の守礼門のマークがついている。週刊朝日編集部でさえ気づいていなかったそうですが、これは沖縄の兵士がイラク戦に参加している何よりの証拠ではないか、というわけ。海兵隊の兵士にとって、守礼門がお守りになっているのですね。

○キャスターの内山さん、それを見てピンと来て、急きょ財布から千円札を2枚取り出し、スタッフを銀行に走らせました。いわゆる「やらせ」というやつですね。番組開始直前に届いたピン札の2000円札を、誰が財布に入れるかでひと悶着あり、誰もが納得する人選に落ち着いた。かくして番組中で歳川さんがそのネタを振ったとき、内山さん「誰か2000円札を持ってませんか〜?」と聞き、イェスパー・コールさんが「ほら、ここに」とやったわけです。

○番組終了後、反省会の席上で内山さんが「ああっ」と叫びました。とき既に遅し。コールさんは2000円札を財布に入れたまま、帰ってしまったのでした。2000円は内山さんのポケットマネーだったのに。「こうやって外資にやられるんだよなぁ」という声がもれたけど、これって自業自得ですよね。芝公園スタジオからの帰り、コールさんもタクシーから降りるときに、財布を開けて「ああっ」と叫んだんじゃないでしょうか。

●追記:その後、芦川淳さんが念のために確認したところ、週刊朝日の表紙になっていたのは海兵隊ではなく、米陸軍の第101空挺師団に所属する第187歩兵連隊(本当は第101空中強襲師団第1旅団第187歩兵連隊が正しい)、通称ラッカサンズ、であることが判明。落下傘という日本語がRakkasanになった、という話は、少し前にこの人が書いていたと思います。じゃあ、なんで彼らが守礼門をマークに使っているのか、というと、たぶん日本に駐留していたからではないかとのこと。

●追記の追記:Rakksasansについて読者から訂正の指摘をいただきました。@あれは守礼門ではなく「鳥居」。101空挺師団の第187歩兵連隊は、日本に一番乗りして駐留した舞台であり、そのときにニックネーム「Rakkasans」と、「鳥居」のマークができたもの。A所属は第1旅団ではなく、第3旅団が正しい。――以上、深謝してご報告まで。


<3月28日>(金)

○午前中は風邪の治りかけのくしゃみだったのだけど、昼過ぎから花粉症のくしゃみに変わっていくのがハッキリ分かる一日。こんないい天気の日は、さぞかし花粉が飛んでいることでしょう。職場があるお台場は、海の真ん中にあるようなものなので昼間はまだ楽なのです。夜になってお台場から新木場に着くと、とたんに花粉が濃くなって鼻水が止まらなくなりました。風邪は治ったからいいようなものの・・・

○さて、年度末が近づいたことで、いろんな人がお別れの挨拶に来られます。これもまた春の風景のひとつには違いない。お昼に遠くから見えられたKさん、とってもお世話になりました。今後ともよろしくお願いします(ここだけ私信)。

○家の近所の桜が、そろそろつぼみが爆発寸前といった風情。来週中には咲きますね。


<3月29〜30日>(土〜日)

○ブッシュ政権はイラク戦争を読み違えていたのではないか、という声が高まってきた昨今です。たしかに軽く考えていたきらいはあって、本誌の1月17日号「春までは静かな2003年」で紹介した話ですが、たとえばCSISのルトワーク氏は次のように語っている。(1月15日、産経新聞、下線は筆者)

■消えた“アフガン型”電撃作戦 米CSIS上級研究員 エドワード・ルトワク氏

(前略)ラムズフェルド国防長官と国務省政務担当アドバイザーたち、さらには米空軍は「電撃かつ一気に勝利する戦略」を強く支持してきた。つまり、二種類の軽装陸軍部隊をバグダッドに集結させることで勝負を決めるという戦略だ。

 この戦略はもちろん歩兵戦闘車や自走砲を駆使して大規模な戦闘を行った一九九一年の湾岸戦争を参考にはしているが、今回はせいぜい米二個師団と英一旅団を中心に全体として五万人規模で問題ないというものだ。この戦略の要はノンストップ空爆の援護を受けながら、クウェートからバグダッドまで一気に攻め込みイラク軍の反撃の機先を制し、米軍がバグダッド郊外に到着した時点でクルド族やイスラム・シーア派たちが立ち上がってフセイン政権を倒すだろうという予想を前提にしていることだ。

 この案ではその後、占領状態を確立するため最精鋭の空挺及びヘリコプター部隊約二万人がバグダッド郊外に派遣され、南から侵攻してくる米機甲師団と合流。さらにイラク第二の都市、バスラとイラク南部についても海兵隊を動員して、イランがイラク南部のシーア派居住区を占拠するのを防ぐことになっている。

(中略) しかし、当初から空軍を除く米国防総省参謀部の軍幹部たちはそうした電撃作戦に反発した。反対派は陸軍は単に二個師団ではなく、最低でも四個師団、加えて海兵精鋭の上陸部隊を投入するなど大規模部隊が必要だと主張したのである。ペンタゴンの制服組は執拗に電撃戦に反対し、時には軍人の責務の範囲を超えてまで「(電撃戦を)主張する人たちはベトナム戦争に参加しなかった連中であり、そんな連中がわれわれに危険な作戦を強いている」とまで米議会に対し訴えたのである。(後略)

○いわゆるネオ・コン派の対イラク戦争観は、上記のようなものだったと考えていいだろう。彼らの意見が通っていれば、1月末ぐらいに5万人規模の電撃作戦が行われていたかもしれない。今から振り返ってみると、どうも甘いというか、理屈倒れのきらいがある。

○実際にはフランクス司令官たちの巻き返しによって、現行の25万人規模の攻撃準備が行われたわけである。フランクス司令官は陸軍出身で、実戦経験も豊かなだけに、上記のような空爆中心の計画はとても信じられなかったようだ。「ネットワーク型の制御」や「ハイテク兵器の効果」に対しても懐疑的だったのじゃないだろうか。良い軍人は、現実的で保守的なものである。だから「将軍たちは、ひとつ前の戦争を戦う」などといった警句があったりする。しかしこの場合、結果論になるけれども、ルトワークよりもフランクスの方が正しかったことになる。

○ルトワークという人は、いってみればタカ派を絵に書いたような研究者で、99年夏のForeign Affairsに"Give War A Chance"という論文を書いたこともある。この論文、題名のユニークさもあって、当時はかなり話題になった。「戦争にはいい面もある。少なくとも敗者は勝者の言うことを聞くようになる。最近は紛争段階で、超大国や国際機関が介入してしまうので、中途半端な平和を作ってしまう。結果として次の紛争の火種を残してしまうから、火事は消すより燃え尽きさせた方がいい」てなことを書いていた。ルトワークもたしか、軍歴はなかったと思う。


<3月31日>(月)

○なんだか、とーっても疲れてしまった。今日は年度末。お別れ挨拶やら、新年度の準備やら、何もしてないのに1日過ぎて行く。ふとみると株価はどかっと下げている。イラク戦争の早期終結シナリオも怪しくなっていて、これでは完全な脱力モード。大島農相が辞任。このポストはしみじみ呪われていると見える。代わりに誰を持ってくるのか。上海馬券王、例のSARS (Severe Acute Respiratory Syndrome)のせいで、ローリング・ストーンズの上海、北京講演がドタキャンになったそうで憤慨している由。

○さる人から、こんな日の気分にピッタリのメールをいただく。

Subject:    What Economists Actually Do
> >
> > Do you have any economists where you work?
> >
> >
> > Here's what you always suspected economists do all day:
> >
> > click on the link ...
> >
> > THEN DRAG YOUR MOUSE OVER THE GRID ...
> >
> > http://www.foulds2000.freeserve.co.uk/economists.htm

○エコノミストとは何ぞや。状況の後を追うだけでは、何の役にも立たぬ。あたしゃ、リスクを取って発言するぞ、でなきゃやってる意味がない、とあらためて思う。一日の終わりに、台湾から帰国中のらくちんさんに会う。これだけは収穫でした。どうもありがとう。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki