●かんべえの不規則発言



2015年9月





<9月1日>(火)

○またまた北陸新幹線に乗ってしまいました。先月もお盆に乗ったが、これで3月の開通以来、ほとんど毎月のように乗っている。今回はお昼の時間帯なので、「はくたか」でありました。今回の富山出張は北陸電力さんの仕事で、スポーツジャーナリストの増田明美さん(先週の「北京陸上」の解説から帰ったばかり!)と一緒に、水力電力について語るという役回り。当方は、「北陸における水の恵み」についてご説明する。ああ、なんて温くていい仕事なんざんしょ。

○で、14時18分に富山駅で降りたところ、信じられないことにドドッとお客が降りるのである。普段は金沢行きのお客が圧倒的に多いのであるが、今日は富山駅のホームに団体客の旗が何本も林立している。そりゃそうだ。今日から3日間は「越中おわら風の盆」である。ホームでは「八尾駅へお乗り換えの方は高山線へ」などというアナウンスをやっておる。今日は新幹線開通後、初めての9月1日ゆえ、混雑すること間違いなしなのである。

○タクシーの運転手さん曰く。「この3日間は、わが社にとっても1年で一番大事な日です。こういう日に休もうものなら、後で何を言われるかわかったもんじゃありません」。ホントにそうらしい。夕方に私用でタクシーを呼ぼうと思って電話をしたら、「今日の予約はいっぱいです」と言って断られてしまった。富山における観光ビジネスとしては、それくらい勝負どころの三日間である。

○で、仕事が終わったら、さっそく一同で増田さんをお連れして八尾に向かう。ワシも一応富山市出身であるから、おわら節は小さい頃から何度も聞いているし、踊ったこともあるけれども、「風の盆」の八尾は行ったことがない。八尾町と言うと、高校時代の恩師だとか同級生の誰それだとか、すぐに思い浮かぶ顔がいっぱいあるのだけれど、リアルな八尾は知らぬのである。

○ということで、勢い込んで八尾町に乗り込むと、雨が降り出した。雨が降ると、おわらの行事は中断となる。楽器(三味線や胡弓)が湿気に弱いからである。これでは風の盆、ピンチである。当方は「弁当忘れても傘忘れるな」という越中人の心得に従って折り畳み傘を取り出すも、小さ過ぎてあまり用をなさぬ。うーむ、これではワシも困るではないか。

○ところが夜の八尾町は、ドキドキするような風情がある。まず、変なネオンや看板がない。コンビニもない。だから昔気質のタバコ屋さんが残っていたりする。明かりと言えば、「おわら」を描いた数千のぼんぼりだけ。その中を、浴衣や法被の男女が、静かに石畳の坂を登っていく。北日本新聞の報道によれば、この夜、小さな町に9万人の観光客が訪れたそうである。この数字は、どっかのデモとは違って固い数字であるはずである。

○日ごろの行いが良かったか、それとも「晴れ女」であるところの増田さんの霊験あらたかというべきか、現地で食事を終えたら雨が上がっていた。お蔭で演舞場では最後の踊りに間に合った。でも、ホントにいいのは、観光客が帰ってしまい、深夜に地元の人だけになってからであるとのこと。

○越中おわら節には物悲しい響きがある。これが「阿波踊り」や「ねぶた祭り」であれば、観光客は多々ますます弁ずであろう。観光客が増えれば増えるほど祭りは盛り上がる。が、八尾町の11の町内が細々と300年にわたって続けてきたこの踊りは、あんまり大勢で見ちゃいけないのではないかと思わせるものがある。できれば、こっそりと盗み見るくらいでありたい。「押すな押すな」はいけません。

○それというのも、おわら節はエロチックなのである。編み笠で顔を隠した男女が、感情を抑制しながら踊っている。最初のうちは、立山がどうしたとか、八尾良いとことか、他愛のないことを唄っている。だんだん後の方になってくると、ドキッとするような歌詞が飛び出す。


三千世界の松の木は枯れても あんたと添わなきゃ 娑婆に出た甲斐がない


○今から考えると、小学校の運動会で使うには危ない歌である。町内会の盆踊りでも、少々憚られるところがある。そして、「唄われよう、わしゃはやす」(歌いなさいよ、わたしは囃す)という合いの手が入るたびに、エロチシズムは深みにはまっていく。


見送りましょうか 峠の茶屋まで 人目がなければ あなたのへやまで


○今の世の中であるから、いかに鄙びた八尾町と言えども、「編み笠をとったら茶髪のね〜ちゃんだった」といったことがあるとも聞くのだが、石垣の上に作られた古い街並みには、きっとたくさんの恋物語が隠されてきたことでありましょう。和服姿の女性たちが、急に危険な生きものに思えてきます。


浮いたか瓢箪 かるそに流れる 行先しらねど あの身になりたや


○川の流れに身を任すように生きていきたいけど、いろんなしがらみがあってままならぬ。そうですよね。「何があってももういいの」なんてことは、歌の世界だから言えることなのでありまして。子どもの頃から何度も聞いてきた哀愁の調べには、いろんな機微が歌い込まれていたのでありました。うむ、深い。


<9月2日>(水)

○朝8時の富山発北陸新幹線に乗ると、午前11時前には都内の某証券会社さんに到着してしまい、11時半からの講演会に間に合ってしまう。すごい。なんという技術革新であろうか。

○その証券会社で聞いた話。NYの売りが出たから、東京も今日は下げるかと思ったら、日経平均が1万8000円を割りかけると、どこからか買いが出てくる。そのご本尊はGPIFではないのか。株式比率を25%にするにはまだ買いが足らず、しかも株価が下がると自動的に比率が下がってしまうから。だから株価が下がると、機械的に買ってくれているのではないかと。

○聞くからに危なっかしい話ではあるが、年金資金を預けている側からすると、そういう底値買いをしている限りは、GPIFの損は限定的であろう。間違っても、日経平均2万円以上では買ってほしくないものである。もっとも、それが事実であるとしたら、あんまり中国の株価対策を嗤ってもおられませんなあ、ご同輩。

○夜は商社担当の新聞記者さんたちとの立食パーティー。皆さまの関心事項は、@中国経済はこれからどうなるのか、ATPP交渉に望みはあるのか、Bアメリカ大統領選挙はどうなんでしょ、などなど。そりゃ私の方が聞きたいくらいだが、いずれも面白いネタであることには違いがない。ドナルド・トランプ現象への関心はやっぱり高いですね。当溜池通信にとっては飯のタネ、であります。


<9月3日>(木)

○商社業界の保険関係者の集まりへ。何でも来年から保険業法が改正になるので、直接、金融庁の監督下に置かれることになり、それを考えると今からとってもブルーであるとのこと。まあ、商社マンとして育った人たちにとっては、コペルニクス的転換になることは想像に難くない。

○端的に言いますと、商社業界が所属する経済産業省ワールドというものは、どっちかというと性善説でありまして、「ゴメンナサイ」が通じる世界である。ところが金融界というのは、基本的に性悪説に立たねばならず、仮に不祥事があったりすると、「御免で済むなら金融庁は要らない」である。前者から後者に行くのは結構な不安を伴うものと思われます。逆はきっと楽だと思いますけど。

○2つの世界の境界線では、いろんなことが起こりうるというお話でした。


<9月4日>(金)

○某新聞社からG20についての取材を受ける。

○もともとG20ができたのは2008年秋。リーマンショック後の混乱で、「世界経済の現状は先進国だけでは解決できない!」ということで、新興国も集めてG20を作ったわけである。それから今年で8年目。首脳会議は今年11月のアンタルヤサミットで10回目になる。

○ところが因果はめぐる糸車。2015年になったら危ないのは新興国経済になってしまった。中国でさえ危ないし、ロシアやブラジルは言うに及ばず。インドネシアなんぞは、高速鉄道の購入を辞めてしまった。そりゃそうだよね、ルピアがどこまで下がるか、わかんないものね。

○だったらG7は、今の新興国経済の苦境を救えるか。そりゃあ無理と言うものであります。せいぜいFRBが利上げを遅らせるくらいでありましょう。かといって、いまさらG20は無駄だというわけにもいかぬ。だってまだ、議長国をやってない国が残っているんだもの。日本も含めてね。

○などという事も含めまして、3日分をまとめて更新です。


<9月5日>(土)

「外国人はあまり手帳を持ち歩かない。ところが日本人は、ほとんどが手帳中毒である」

○上記を聞いてハッとした。ワシは重度の手帳中毒である。スマホを持たないせいもあって、電車の中などではしょっちゅう手帳を見ている。「えーと、次の締め切りは○○か。何を書けばいいんだろう。それおより今週の溜池通信はどうしよう」などと考えている。何か思いついたら汚い字でメモをする。手帳は紙に限る、という頑固なアナログ派である。

○では、なぜ外国人はあまり手帳を使わないか。見ていると、どうやらその日の日程表だけを持っていて、ご自分の今後の日程については秘書任せであるらしい。これはまあ、わからんことではなくて、ワシも昔に秘書をやっていた時期に、「トップが自分で決めてしまった約束を秘書が知らなかった」というトラブルを恐れたものである。

○まあ、大多数の日本人は秘書など持たないし、ワシもそうだし、できれば自分の日程は自分で決めたい。「このメンバーでまたメシ食いましょう」という話になって、「俺の秘書にメールしといてくれる?」などという偉い人にはなりたくないものである。手帳は自由の象徴である。

○で、手帳をなくすと大変なことになる。先日、ハッと気が付いたら手帳がない。弱ったぞ、あれをなくすと財布と同じくらいに困る。なにより、ワシは時々手帳にお金を挟んでおく癖があって、そのときも数枚の万札が入っていたのである。さて、どこへやったか。家に忘れてきたか、それとも変なところにしまってしまったか。

○ふと思いついて、少し前に立ち寄った喫茶店に立ち寄ってみた。まさかとは思ったが、「手帳落ちてませんでしたか?」とダメもとで聞いてみた。すると無邪気な店員が笑顔とともに、ワシの手帳を持ってきてくれたではないか。「こちらでしょ?」と言われて、腰が抜けるほど安心した。中に入っていた「×万円」も無事であった。たぶんまったく気づかれていなかったようである。

○それ以来、なるべく近所のセブンイレブンではなく、その喫茶店でアイスコーヒーを買うことにしている。少し高いですが、義理ですよ、義理。落としたものが帰ってくる国っていいですよね。


<9月7日>(月)

○このデータ、面白いと思うんですよねえ。出典は今朝も報道があった「モーサテ・サーベイ」です。

○この調査、たぶん株価と為替ばかりが注目されていると思うのですが、日本とアメリカ経済に対する見方が面白い。特に「アメリカの利上げ開始は」の設問は、この1か月間でこんなにも変わっている。

調査日時 9月 10月 12月 来年1月 来年3月 それ以外
8月7〜9日 74.19% 12.90% 12.90%
8月14〜16日 72.00% 12.00% 16.00%
8月21〜23日 56.67% 6.67% 36.67%
8月28〜30日 29.63% 22.22% 37.04% 3.70% 7.41% 0.00%
9月4〜6日 22.22% 37.04% 33.33% 3.70% 3.70% 0.00%



○お盆の頃まで「7割が9月説」であった。それが「8/24ショック」で雰囲気が激変した。今朝発表された分では、とうとう2割になってしまった。いちばん多いのが10月説で、Fedウォッチャーの鈴木敏行さんは「9月に予告して、10月に実施すればサプライズにならない」という解説をされています。

○ちなみに不肖かんべえは「来年1月説」に票を投じております。3.7%ということは、わぶんワシひとりなんだろうなあ。ココでも書いた通り、「今の米国の状況は、2000年夏に日銀がゼロ金利解除を決めたときとよく似ている。利上げはそう簡単なことではないし、なるべく急がない方が良い」と思うんですよね。

○まあ、そこはアメリカのことですから、「他所の国のことなど知ったことか。ウチの金融政策は、アメリカ国内の指標だけを見て決める」(キッパシ!)と言われてしまうかもしれません。まあ、それもあり得るんだよな。ただそそれにしたって金曜日の雇用統計の数字は、利上げのストライクゾーンを外れていたと思いますけどねえ。

○モーサテ・サーベイはほかにもいろんな設問がありますので、モーサテ・コメンテーターたちの意見がどんなふうに動いているかがハッキリと見て取れます。この企画、この春から始まったんですが、やっといて良かったなあ、と思っております。


<9月8日>(火)

○自民党総裁選には幾多のドラマの歴史があります。今日のように「挑戦者なし、無投票で再選」という結果であっても、その水面下では幾多のドラマがあったことでしょう。

○昔、何度か総裁選に挑戦しようとした渡辺よしみ先生から聞いた話ですが、「推薦人を集めようとしていると、締切日の当日になって『ゴメン!』という電話をかけてくるヤツがいる。だから20人の推薦人を集めるためには、歩留まりを見込んで多めの人数を確保しなければならない」。きっとそういうことが、過去に何度かあったのでありましょう。

○今回の挑戦者の野田聖子さんがどうであったか、当方には何の情報もありません。最後は一桁だったという報道もあったようですが、察するに官邸が肝を冷やすような瞬間があったのではないでしょうか。つまり、瞬間風速で推薦人が20人近くになり、慌てて切り崩しにかかったのではないかと。だって今は自民党の議員は、衆議院で289人、参議院で113人、合計で402人も居るんですもの。いくら一枚岩でも、5%くらいは居るでしょ、変わり者が。

○もちろん、これで総裁選が始まってしまい、9月20日の投開票日まで国会審議が停まるというのも困りますので、今日の結果はやむなしなのでありましょう。野田さんは、安倍首相の「仕返し手帳」に名前が載ってしまいましたけど、まあ、その程度は女の勲章というものでありましょう。ほかの男たちにはできなかったことですしね。

○ただひとつ、個人的に異和感があったのは、「義を見てせざるは勇なきなり」というキャッチフレーズでした。なんで昔のお爺さん政治家みたいな言い方をしたんでしょ。今どき、論語じゃないと思うんですよね。なにかもっと、本人の素直な感情の吐露があればよかったと思います。こういうのは、ないものねだりですかねえ。


<9月9日>(水)

○本日の報道によりますと、米中首脳会談の日程がやっと決まったそうです。


●25日に米中首脳会談 南シナ海問題など焦点に

2015/9/9 13:30日本経済新聞 電子版

【ワシントン=吉野直也】オバマ米政権は国賓待遇で迎える中国の習近平国家主席のワシントン訪問の日程を固めた。オバマ米大統領と習主席のホワイトハウスでの首脳会談を25日午前に開くとともに、同日夜に公式晩さん会を催す予定だ。24日はオバマ氏と習主席との夕食会を計画している。中国側が非公式に打診していた米議会での演説は見送る。(以下略)


○さて、この発表において、ワシントンDCでは記者からはどんな質問が出たんだろ、と思って探してみたんです。そしたらですねえ・・・・、


●Press Briefing by Press Secretary Josh Earnest, 9/8/2015 (ホワイトハウス)


●John Kirby Spokesperson Daily Press Briefing Washington, DC September 8, 2015 (国務省)


○どちらも中国のことなど全然出てないじゃありませんか。さて、どういう形で発表があったのか。メディアはどこから情報を得ているのか。わけがわかりませんねえ。

○上記の報道によりますと、習近平国家主席は24日にはワシントンに入り、25日の首脳会談、公式晩さん会の後はニューヨークに移動して国連総会に出席する。するということは、9月26日から訪米するという安倍首相と日程が一部重なるわけですね。ひょっとするとアメリカでの日中首脳会談が成立するかもしれません。

○その一方で気になるのは、9月16日にはCNN主催の第2回共和党候補者ディベート大会が、カリフォルニアのレーガン大統領記念図書館で行われます。ここで候補者たちから、中国に対してどんな発言が飛び出しますか。なにしろフロントランナーたるドナルド・トランプ氏は、「習近平氏に公式晩さん会は必要ない。私ならマクドナルドのビッグマックでもてなす」と言っておりますので。ことによると、国賓に向かってビッグマックを投げつけるお馬鹿さんが出てくるかもしれませんなあ。


<9月10日>(木)

○今日はジェトロ神戸さんのセミナー講師で、神戸ポートピアホテルへ。

○到着してから少しずつ思い出したが、ここには以前泊まったことがある。2003年10月の日本ニュージーランド経済人会議のときである。確か日本経済が不況のどん底にあった年で、ホテルも一泊7000円くらいの信じられない低価格であったと思う。そうそう、日経平均が6000円台になった年である。その日経平均は、昨日は1300円も上げて、今日は470円下げた。いやはや、なんというジェットコースターか。

○で、2003年秋に聞いたことは、「船賃が上がってしまってどうにもならない。これじゃNZはどうなるんだ」という話であった。ちょうど中国などBRICs経済の快進撃が始まり、資源を大量に消費するタイプの経済成長が始まった頃である。それから12年が経過し、サイクルはいよいよ一巡したようである。今は中国経済が減速し、資源価格も下がっている。で、そろそろ先進国経済が頑張らなきゃいかん頃合いである。

○終わってから、神戸のジェトロ会員さんたちとお話しさせてもらう。さすがは神戸で、面白い会社がありますねえ。

○まずはカブキグラスについて。歌舞伎やオペラのファンには、とってもいいんじゃないかと思います。こういうものを作って、世界に輸出したいという起業家がいらっしゃるんですねえ。

○それから自動車部品メーカーさんから聞いた話が面白かった。

「今の日本はバイクの売り上げが年間でわずかに40万台。業務用の配達バイクも併せての数字ですよ。逆に電動アシスト自転車は50万台。そっちの方がよく売れるんです」

「『仮面ライダー』や『ワイルド7』の時代は遠くなり、今じゃ尾崎豊の歌にある『♪盗んだバイクで走り出す』という歌詞が若者たちから非難されてしまう。もう日本じゃバイクは売れません。あなたのバイク買い取ります、という宣伝は、日本の中古車バイクがそのままアジアでは高価で売れるから成立している」

「そのくらい、アジアではバイクが売れまくっている。東南アジアでは数百万台。さらに世界で最もバイクが売れているのはインド。特に日本製の『脚を揃えて乗れる』スクーターがインド人女性に受けている。だってサリーを着てたら、バイクには乗れないじゃないですか」

「国内では全くバイクが売れなくなった日本だが、世界中でバイクを売りまくっているのはHondaでありヤマハでありカワサキでありスズキである。変ですねえ」

○こんな風に、いろんなところに出かけて行っては、ネタを仕込んでくる日々なのでありました。


<9月12日>(土)

○溜池通信の最新号でご紹介した共和党候補者選びのオッズですが、全体はこんな感じになっています。(8月15日時点)


Candidate Odds 単勝
Jeb Bush 4/1 5.0
Marco Rubio 5/1 6.0
Scott Walker 7/1 8.0
Rand Paul 10/1 11.0
Donald Trump 10/1 11.0
Ben Carson 12/1 13.0
Mike Huckabee 15/1 16.0
Chris Christie 20/1 21.0
Ted Cruz 25/1 26.0
John Kasich 30/1 31.0
Bobby Jindal 35/1 36.0
Lindsey Graham 35/1 36.0
George Pataki 35/1 36.0
Rick Santorum 40/1 41.0
Rick Perry 40/1 41.0
Carly Fiorina 50/1 51.0
Field 80/1 81.0


○海外のオッズは「何対何」という形で表すのが、ちょっと分かりにくいですよね。そこで日本風に「単勝倍率」にしたもの右端に加えておきました。分数で表すオッズは英国生まれの「フラクショナル式」と言いまして、元本を含めない配当額だけを示すんですよね。日本のように小数で表すのは「デシマル式」と呼ぶんだそうです。

○日本風に言いますと、単勝で5倍以下の馬がいないということは、とんでもない荒れ場ですね。ジェブが5倍でトランプが11倍、というのは「まあ、そんなものかな」と思います。と思ったら、リック・ペリーが早くも撤退とか。オッズは刻一刻と変化していくでしょう。

○一番人気が単勝で5倍台、ということは明日の京成杯がそんな感じです。いよいよ今週から秋競馬が始まります。うむ、中山競馬場がワシを呼んでおるなあ。


<9月13日>(日)

○勢い込んで中山に出かけたものの、京成杯とセントウルステークスがとんでもない結果に終わってしまった。フラアンジェリコ(13番人気)とアクティブミノル(10番人気)って、いったいそりゃなんじゃ。ということで、今のワシは少々腹立ち紛れである。

○ということで、書いてしまうのだが、ワシは今年のJRAのCMシリーズが嫌いである。まず、いきものがかりの主題歌が変に健康的な感じでイヤである。さらに出ているタレントが、3人とも競馬をやりそうにないキャラであって、まったくリアリティがない。とくに鶴瓶のような「いい人」キャラを、こんなところで使うなよ、と言いたい。

○察するにJRAは、競馬ファンを増やそうとして、敢えて「ギャンブルをやらないような人」を使っているのであろう。しかるに長年のファンからすれば、実にあほらしい。誰のカネで経営していると思っているのか。CMだって元はといえば、ワシらが払った(負けた)カネで作っているのではないのか。

○ところがだ。「夢の第11レース」というCM(30秒版60秒版120秒版)があることを知った。これは素晴らしい。実に感動的だ。ホントにどうやって撮ったんだろう。なおかつ、馬の配列や実況中継などのディテールが、競馬ファンの心をわしづかみにするくらいによくできている。

○週末の思い出(Weekend Memories)、というメッセージも素晴らしい。ちゃんとMemoryが複数形になっている、という点も好ましい。今日もまた一つ、哀しい敗戦を増やしてしまったけれども、こういう喜怒哀楽が後に競馬の記憶として結晶していく。そしてこの記憶は、多くのファンが共有している。まあ、カネはかかるんだけどねえ。


<9月14日>(月)

○うーん、われながらどうしてこういうことを考えてしまうかねえ。でも一昨日からの流れで行くと、どうしてもこうなってしまうんだなあ。


●GOP杯(レーガン・ライブラリー競技場)9月16日 主催:RNC、放映:CNN

@ ドナルド・トランプ ゴールドシップ 実力ナンバーワン。ただし、走るかどうかは当日にならないと分からない。
2 A ジェブ・ブッシュ キズナ 現役最強馬のはずなのだが、最近トンと噂を聞かない。
B マルコ・ルビオ ドゥラメンテ 若さで押し切れ。くれぐれも怪我にはご用心。
C スコット・ウォーカー エピファネイア 実績は折り紙つきだが、いまひとつ線が弱そうな・・・。
D ランド・ポール フェノーメノ 実力馬なるも、ゴールドシップ激走の陰ですっかり霞んだ感あり。
E ベン・カーソン スピルバーグ 突然、大化け。レースの流れを変えるか?
F カーリー・フィオリーナ ラキシス 唯一の牝馬。末脚は鋭いぞ。
G ジョン・ケイシック キタサンブラック どことなく演歌が似合いそうなお人柄。好位置につける。
H テッド・クルーズ サトノクラウン 怖いもの知らず。若さで目指せ長距離。
I クリス・クリスティー リアルインパクト 復活に向けて、まずは馬体重を減らす努力が必要かと。
J マイク・ハッカビー ペルーサ なめたらいかんぜよ。
K リック・ペリー ウィンバリアシオン あっ、すいません、もう登録抹消してました。



○GOP杯を勝った馬は、この後、最強牝馬ジェンティルドンナ(誰の事だかわかるよね?)と決戦を戦うことになります。いやあ、こうなるといっそのこと、ゴールドシップの勝利を見たくもあるような。


<9月16日>(水)

○今日は浜松市に行ってきました。若い頃に2度ほど行ったことがあるんですが、とっても久しぶりでした。

○今日は中日新聞主催の講演会で、演題は「米中経済の行方を読む」。6月頃に決めたタイトルなんですが、まあ、なんとピッタリのことでしょう。時節柄、中国経済の動向には関心が高いですし、アメリカ経済は今日明日が運命のFOMCです。果たして利上げはあるのか、ないのか。それが決まらないと、来週の予定が立たないじゃないですかっ!ついでに、安保法制はなるべく混乱は少なめで、ちゃんと通ってほしいです。きっと日付をまたぐんだろうなあ。

○現地で聞いたお話。数年前に物議をかもしながら完成した富士山静岡空港が、中国路線が就航してから絶好調であるとのこと。この夏も外国人観光客が多くて、浜松市にも大勢やって来ているらしい。とは言うものの、元々がHondaにスズキにヤマハという工業都市で、観光資源が豊富とは言えないお土地柄。いったい何を売りにしたらいいのか。

「鰻は避けたいですね。そうでなくても、最近は台湾の人たちが鰻の味を覚えてしまいましたから」

「浜名湖のボートレースはいかがですか。ああいうのは、中国にはないでしょう。是非、大いに散財してもらいたい」

○お主もワルよのう、というセリフが出かかったところで、ふと思い出したら田沼意次はこの遠江国相良藩(現牧之原市)の城主だったのでありました。

○最近、「なぜ中国の経済政策はおかしくなったのか?」という疑問に対し、不肖かんべえの仮説は「腐敗撲滅をやっているから」です。賄賂を取ろうと思ったら、役人は現場のことに詳しくなる。子分も抱えるし、頼みごとも聞いてやらねばならないし、喧嘩があれば仲裁しなければならない。だから現実的な政策が実施できるようになる。ところが習近平体制の下で腐敗撲滅運動が始まったら、役人は何もしない方が利口だということになる。つまりは「指示待ち族」になってしまう。結果として、現場のことが分からなくなっているのではないか。

○わが国においても「コンプライアンス不況」なんて言葉がありましたけど、賄賂をモチベーションとして物事が動いていた社会において、腐敗防止を急にやったらそりゃいろいろ問題が起きますよ。かといって、腐敗を野放しにしておくと、中国共産党の正当性が問われることになる。習近平さんのお立場は、なかなかに難しいところだと思います。

○ちなみに本日発表された観光局(JNTO)の8月データによれば、中国経済減速にもかかわらず、インバウンドの勢いは止まっていないようです。

●2015年8月の訪日外客数は、前年同月比63.8%増の181万7 千人で、これまで8月として過去最高だった2014 年(111 万人)を70万8 千人上回った。

●市場別では、中国が、前年同月比133.1%増の59万人と、2ヶ月連続で50万人台を記録し、全市場を通じての単月過去最高も更新。

●累計では、中国が7月までで275万6千人となり、早くも2014年の年計(240万9千人)を上回った。

○明日朝は早起きしてモーサテです。菅野雅明さんとご一緒に、9月FOMCの行方を語るという趣向です。


<9月17日>(木)

○今朝はFOMCを迎えたモーサテです。


特集:アメリカの利上げ開始時期は?

今日のオマケ 菅野雅明さんと


○今日の経済視点は「FOMC/安保法制」としました。その心は、「早く決めてくれないと落ち着かないし、来週の予定が立たない」。だって国内政治や世界経済の話は、何も書けないんですよ〜。ああ、今宵もそれで頭が痛いのです。


<9月18日>(金)

○ある安全保障関係の友人が語ってくれたこと。


「あなたが大事にしてきたお守りは、実は何の意味もなかったんですよ、と教えてあげても、何十年にもわたってそのお守りを大事にしてきて、その結果、自分は無事でいられたと信じ込んでいる人は、けっしてお守りを捨てることはないでしょう」


○長年にわたって日本を守ってきてくれたのは、憲法九条の存在ではありません。それは幸福な誤解、もしくは幸福な偶然というものです。日本を守ってきたのは、自衛隊を中心とするわが国自身の防衛努力であり、日米安保条約の存在であり、米軍基地であり、米軍の核の傘であったはずです。少なくとも、お守りのお蔭ではない。ところが残念ながら、人は自分が見たくないものを見てくれません。しょうがないですわなあ。

○別の安全保障専門家が言っていたこと。


「われわれからすると、安倍内閣は妥協に次ぐ妥協を重ね、新安保法制はほとんど役に立たないものとなってしまいました。あれだけ苦労したのに、これでは名を取って実を捨てたも同然。ただし法律とは関係のない部分で、日米新ガイドラインの中に隠れた前進があったりする。世の中、捨てたものではありません」


○日本人の悪い癖は、ついつい現状維持を自己目的化してしまうこと。ただし、少しは前進もある。国会は旧態依然のようですが、牛歩の歩みを信じたいと思います。


<9月20日>(日)

○経済の研究会で出た話の備忘録。

○「長期停滞論」が出回る昨今であるが、ここ数年の世界経済で大きな問題となっているのが"Slow trade"である。なぜ貿易の伸びが停滞しているのか。いろんな仮説が飛び交っている。


●Global Value Chainが出来上がってしまったので、為替の変動が起きても微調整で対応できてしまう。ゆえに貿易の伸びが止まったように見える。

――美しい説なのだが、それだけにちょっと信用しかねるところがある。

●中国が「世界の工場」となっていく過程では、中国とそれ以外の国の貿易量が伸びて行ったが、それが一巡してしまった。

――もはや中国は「輸出主導型の成長」はできなくなった、ということにもなります。一方で、ブラジルと中国の貿易量なんかも減っているんでしょうね。

●新興国の資源多消費型の成長が一巡し、資源や食糧の価格が下がり始めたので、結果として貿易額も減っている。

――船賃も一緒に下がっているのではないかと思います。

●実は保護主義が静かに強まっていて、貿易拡大の障害になっている。

――TPPに対する反論が強いところを見ると、現実はむしろ逆なんじゃないでしょうか。


○そういえば、最近は通商白書も読んでいなかった。今年の分を見ると、ドイツがうまく対中貿易を増やしているのに、日本はそうなっていない、という指摘がある。だって中国人は、メルセデスはありがたがるけど、レクサスはそんなに喜ばないわけですからね。逆に今後のドイツは苦労する、ということかもしれません。


<9月21日>(月)

○シルバーウィークとは言うものの、昨日、競馬に行った以外は仕事ばかりしておる。それというのも、先週までは「安保法制とFOMCが終わるまでは何も決まらない!」状態であったからだ。安保法制が無事に通って、FOMCの利上げが見送りとなったので、やっと仕事ができるようになった。慌ただしくFOMCに関する原稿を書き、安倍政権の経済政策についてのレポートを書き、安倍外交に関するコラムを書いている。我ながら粗製濫造の感あり。

○しかも今宵は「日経プラス10」に出演。午後9時にテレ東のスタジオに入る。このところ、すっかり朝の人になってしまったので、夜のテレ東に入るのはとっても久しぶりである。もちろん小谷さんとはとってもご無沙汰である。ゲストの相方は、アメリカ大統領選オタク仲間の安井明彦さんである。しかもこの日の番組では、日経スタジオ側が鈴木亮さん(先日も一緒に飲んだばかり)と滝田洋一さん(こないだも一緒に上海に行った)である。なんと心地よい空間であろうか。

○打ち合わせ中に、WBSに出る予定の熊谷亮丸さんと会った。シルバーウィークだというのに、週5回もスーツ着て深夜の番組に出るというのは、ほとんど拷問のようなものではないだろうか。まことにお疲れ様であります。

○これで明日は「邦丸ジャパン」もある。明後日はNHKマイあさラジオがある。木曜日の講演の準備やら、金曜日の国際会議の下調べやら、そして今週は溜池通信もあったりする。うーむ、全然連休という感じがしない。7年に1度というこの惑星配列、ワシにはあんまりご利益がないのであるぞ。さあ、明日も楽しく仕事をしよう。


<9月22日>(火)

○習近平国家主席が、今日から国賓待遇で訪米日程に入ります。最初はシアトル、それからワシントンDCに行って公式晩餐会、そして首脳会談。その後はニューヨークに回って、国連総会に出席するとのこと。どうでもいいことですが、オバマ大統領は公式晩餐会にドナルド・トランプ氏を呼ぶととっても面白いと思います。なにしろ「私が大統領なら習近平氏をビッグマックでもてなす」という人ですからねえ。

○中国の首脳が最初にシアトルに入るのは「吉例」で、過去にはケ小平、江沢民、胡錦濤が揃って訪問しています。ワシントン州は中国とビジネスのつながりが多いので(ボーイング、マイクロソフト、スターバックス)、ここに行っておけばとりあえず間違いがない。もっとも習近平がそれを踏襲したということは、安全策を採ったという見方もできる。例えばサンフランシスコに入って、カリフォルニア州向け高速鉄道のトップセールスを図るという手にあったわけです。でも、今はあんまりリスクをとれるようなタイミングではなかったのでしょうね。

○今回の米中首脳会談には、「人民元・南シナ海・サイバー攻撃」という恐怖の3点セットがあります。アメリカ側としては、手ぐすねを引いて待ち受けているという感じ。もっとも米中間には、「北朝鮮対策、イラン核協議、対テロ対策、COP21の気候変動問題」といった協力事項もあります。ポートフォリオになっているから、崩れない。「米中関係は絶えざる変転と小さな振幅」(高木誠一郎教授)なんですね。ついでに言えば、「AIIBとTPP」という経済テーマも隠れていたりしますので、個人的にはその辺が気になります。

○それでも中国側としては、そういうサブスタンスはどうだっていいんだと思います。訪米となったら、ちゃんと大国のトップとして遇されているところを国内にアピールしなければなりません。言ってみれば、自撮り棒で写真をパシャパシャ撮って、それを国内でたくさん「いいね!」してもらうことが主要目的となります。

○ところが、4月に安倍さんがやった議会演説を、「オレにもやらせてくれ」と言ったらダメだった。そりゃそうでして、あれば米国政府ではなくて連邦議会の招待なんですよね。議会が呼ぶとなると、ネタニヤフでもパククネでもいいですが、とにかく民主主義国でないとカッコが付きません。ところが中国は、この辺の事情が理解できなかったらしい。それで慌てていたようなので、アメリカ側は「ふーん、この手は使えるのか」と腹黒くなっている様子。訪米本番中に、いろんなメンツつぶしの嫌がらせが飛び出すかもしれません。

○今回の訪米には、「キツネ狩り」という隠れた目的もある。「ハエも虎も叩く」という昨今の腐敗撲滅運動ですが、海外にカネを持ち逃げしている腐敗官僚も大勢いるらしく、それらをキツネと称しております。特に大物である令計画の弟の令完成(変な兄弟なんです。長男から順に、令方針、令政策、令計画、令完成という名前なんだとか)をどうするかが懸案となっておりました。

○そしたら今朝の産経新聞が、こんなベタ記事を紹介しています。いやあ、面白いねえ。


●2015.9.21 21:59更新

胡錦濤氏元側近の弟引き渡しか 「米中合意」と香港紙報道

 21日付の香港紙、東方日報は、中国の胡錦濤前国家主席の最側近だった令計画氏=党籍剥奪と収賄容疑で逮捕決定=の弟で米国在住の令完成氏について、米国が中国に引き渡すことで両国が合意したと報じた。真偽は不明。

 同紙によると令完成氏は、中国の政治や経済、軍事に関する大量の機密文書を令計画氏から受け取って米国に渡り、中国が米国に引き渡しを求めて交渉していた。

 中国は、令完成氏が米国内で保有する約6億ドル(約720億円)相当の資産返還を求めないなどの交換条件を提示。米国が受け入れて令完成氏の引き渡しに応じたという。(共同)


○新聞に出ている記事なのに、「真偽は不明」というのはいかがなものか、と突っ込みたくなりますね。それはさておいて、普通だったら絶対に表には出てこないやり取りが、こういうときには垣間見えてしまう。令完成はカリフォルニアに豪邸を買って、ゴルフ三昧の暮らしをしていたようですが、去年の秋から消息を絶っている。その辺のお話は、この夏にウォール・ストリート・ジャーナル紙なんかにしっかり出ております。

○それにしても、6億ドルとは恐れ入りますな。そんなカネを合法的に海外に持ち出す、なんてことは不可能に違いないですから、この令完成も相当なワルだったのでしょう。察するに、機密文書は既にアメリカ政府が所有するところとなり、彼は用済みとなってしまったのでしょう。それを考えると、少し哀れではあります。ワシと同じ年だし。それにしても、機密文書にはどんな情報が含まれていたものやら。いやはや、米中間の闇はまことに深いのであります。


<9月23日>(水)

○共和党の候補者選びで2人目の脱落者が出ました。意外なことに、一時は「打倒ブッシュの一番手」と目されていたスコット・ウォーカー知事(ウィスコンシン州)でした。このグラフを見ると、ピーク時には17.3%と首位を走ったこともあったのに、現在は1.8%まで落ち込んでしまった。たぶん大口のスポンサーから「君はもうダメ!」と言われてしまい、選挙資金が続かなくなってしまったのでしょう。ご愁傷様です。

9月17日付のオッズを見ると、ウォーカー株はすでに10対1まで下落していますね。当初は17人居た候補者の中では、リック・ペリー知事(テキサス州)に次ぐ撤退となります。考えてみたら、現役知事は日常の業務があるわけですから、選挙戦ばかりにかまけているわけにはいかないんでしょう。お疲れ様でした。

○2012年選挙では、ティム・ポーレンティ元知事(ミネソタ州)が似たような感じでした。中西部のブルーステーツで、財政再建に成功した知事、というパターンです。アメリカ大統領候補の「釣り書き」としてはいいんですが、ご本人に適性があるかどうかは保証の限りではない。それもアメリカ大統領としての適正ではなく、苛烈な大統領選挙を勝ち抜く力があるかないかが問われるわけですから。

○変な話、今みたいに10人で討論会をやっていたら、アドリブの上手なドナルド・トランプ氏が勝っちゃうのは無理もないところでしょう。なにしろ人気リアリティ番組のテレビ司会者ですからね。でも、それがアメリカ大統領として重要な資質であるかと言えば、大いに疑問があるところです。

○もっとも9月16日に行われた第2回討論会では、「ヤツは長時間の討論会になると後半は集中力が途切れる」、「ワンフレーズは得意だが、長い議論はできない」という弱点が露呈してしまった。しかも「あの顔で大統領なんて、あり得ねえ」と暴言を吐いた相手のカーリー・フィオリーナ女史から、「あなたの発言は全米の女性がはっきり聞いた」とやり込められて、さすがに人気も頭打ちとなっているご様子。奢れるものは久しからず、です。

○そもそも大統領候補を判断するのが、「世論調査の数字」というところに、根本的な問題があるような気がします。なにしろ有権者は移り気です。政治アナリストのエイミー・ウォルター氏曰く、"When it comes to picking candidates for president, summer is for dating and winter is for mating."(夏はデートの相手を探すけど、冬は結婚相手を探す)。実際に予備選挙が始まる来年年明けになれば、雰囲気は一変していることでしょう。

○世論調査というのは便利な道具ですが、あんまり振り回されてはいけません。突然かかってきた電話に対して、有権者は得てして心にもないことを言ってしまう。だから数字を鵜呑みにしちゃいけません。この辺は、最近の日本でも通じる話だと思いますけど、その辺はまた別の機会に。


<9月25日>(金)

○先日の岸田外相訪ロに続いて、今度はロシアの安全保障会議書記のパトリシェフ氏が訪日しています。この人は、プーチン大統領の腹心であります。そして9月28日に、ニューヨークで安倍=プーチン会談が決まったとか。プーチン大統領は国際的に孤立しているものだから、わざわざ国連総会に出てくるのだと思いますが、そこで日ロ首脳会談をやろうというのですから、安倍外交の積極性が目立ちますね。(→プーチン大統領としては、「俺は孤立していないぞ!」というアピールになるというわけ)

○領土問題について、ロシア側の態度が頑なになっているさなかに、何で安倍政権はここまで積極的なのか。たぶん安倍首相の立場になってみると、悲願の安保法制は実現してしまったわけで、任期である向こう3年間はたいした課題もない。もとより経済にはあんまり関心はない。ということで、日ロ平和条約の締結と領土問題の解決に、向こう3年間を賭けてレガシーを目指してみよう、みたいな考えがあるんじゃないかと思います。

○安倍首相とプーチン大統領の共通点は、「任期が2018年まで」ということであります。だったら二人でとことん協議して、歴史的な大業を成し遂げられないか、なんて助平根性があるんじゃないか。その点、オバマさんなんぞはどうせ来年になれば居なくなるんだし、そんなに気を遣わなくてもいい、という計算は確かに成り立ちます。

○ただし、何もこんな時にこっちから手を差し伸べなくても、という気もする。ここは無視しておいて、経済制裁と石油安でいよいよロシア経済が悲鳴が上がりそうになった頃に、おもむろに手を差し伸べる方が得策なのではないのか。あんまり拙速に働きかけるのはいかがなものか、ロシア人に甘くみられるだけだよ、という批判が出るのは無理のないところだと思います。(→佐藤優さんなんかが言ってます)

○実は昨夜から今日にかけて、都内某所で「ウラジオストック・フォーラム」に参加しておりました。つまり極東ロシア在住のインテリゲンちゃんたちと議論をしておったのであります。いつもの袴田茂樹先生一門の「安保研」なのですが、この一派は今の安倍政権の対ロ姿勢は少々前のめりで危うい、という印象を持っております。

○もっとも、袴田一門の思考法は、対ロ関係における「表千家」みたいなものでありまして、「裏千家」の考え方だって十分に成立する。つまりこのまま放っておいても、北方領土が帰ってくる確率はゼロなんだし、ロシア側にプーチン大統領というカリスマ型リーダーがいる今の状況は、日本にとって滅多にないチャンスと言える。だったらここはせいぜい恩を売って、じっくり様子を窺ったらいいじゃないか。3年もあればいずれチャンスは来るよ、という見方です。

○不肖かんべえは表千家の末端に身を連ねておるわけですが、裏千家の思考法もまあ、アリかなと考えています。日本の方が有利な立場であるからこそ、日本側が下手に出る必要がある、と達観してみるのも良いかと思います。ということで、個人的には、「安倍さん、対ロ外交、やってみなはれ。どうせ失うものはそんなにないんだし」という感覚があります。理想は高く、期待値は低く、時間軸は長く。いい仕事をする時は、そういうマインドセットが大事なんじゃないかと思います。


<9月27日>(日)

○ニューヨークに飛んだ安倍さん、早速、いろんなことをやっておられます。それから訪米中の習近平さんも、ローマ法王の前にはさすがに影が薄い。それからジョン・ベイナー下院議長が辞任を宣言したのには、ちょっと驚きました。

○ということで、年内の主要日程を作ってみました。随時、修正するかもしれませんが、とりあえずのご参考まで。



9月26日(土) 安倍首相が米国、ジャマイカ訪問に出発 →国連改革を目指すG4会議に出席
9月27日(日) 通常国会会期末 →長い期間、お疲れ様でした。
9月28日(月) 日ロ首脳会談(NY →プーチン大統領訪日なるか?
9月29日(火) 安倍首相が国連総会で演説 →積極的平和主義をアピール
  安倍首相がバイデン副大統領と会談  
9月30日-10月1日 TPP閣僚会議(アトランタ) →大筋合意か、それとも「形作り」か
10月1日(木) 日銀短観 →チャイナショックを受けて企業の景況感は?
10月3日(土) 安倍首相が帰国  
10月6-7日 日銀金融政策決定会合 →追加緩和は?
10月7日(水) 内閣改造・自民党役員人事 →稲田氏登用、塩崎氏留任など
10月中旬 マイナンバーの交付始まる  
10月22日〜28日 安倍首相が中央アジア5か国を歴訪 →「一帯一路」計画を牽制
10月27-28日 FOMC →利上げ確率はまだ低い
10月30日(金) 金融政策決定会合 →物価安定レポート
10月内 辺野古埋め立て作業に着手  
10月内 中国で五中全会  
10月31日―11月1日 日中韓首脳会談(ソウル) →パククネ大統領と初のl公式会談
11月1日(日) 維新の党代表選  
11月上旬 臨時国会召集 →所信表明演説、補正予算編成など
11月15日(日) 自民党結党60周年  
11月15-16日 G20首脳会議(トルコ) →今年も三連荘。
11月17-18日 APEC首脳会議(フィリピン)  
11月19-21日 東アジアサミットなど(マレーシア)  
11月22日(日) 大阪府知事市長ダブル選挙  
11/30-12/11 COP21(パリ)  
12月中 来年度与党税制大綱決定 →軽減税率はどうなる?
12月15-16日 FOMC →利上げ確率は高い
12月末 来年度予算案決定  



<9月28日>(月)

○どうも内閣府辺りに、安倍さんに悪知恵を授けている人がいるんじゃないだろうか。例の「GDP 600兆円を目標とする」には、こんなギミックがあるんですねえ。


●GDP基準改定、次は16年度 研究開発投資も計上 (2015/9/21 日経電子版)


内閣府は国内総生産(GDP)統計の作成基準を5年に一度改定している。次の改定は2016年度。08年に改められた国際基準も取り込んで、GDP統計の精度を高めようとしている。

次回の改定の柱となるのは企業の研究開発投資を投資として計上することだ。今の基準では経済的な利益を直接生み出す投資ではないとみなされ、計上されていない。

13年に新しい国際基準に切り替えた米国では、02〜12年の名目GDPの実額が3.0〜3.6%増えた。14年に切り替えたドイツも10年のGDPが2.7%上振れした。

内閣府の試算では、研究開発投資を算入することで01〜12年の名目GDPは3%強膨らむ。国内の生産設備を増強する投資が伸びにくいなか、研究開発投資の重要度は増している。ただ、成長率に及ぼす影響はごくわずかだ。


○つまり来年度になってGDPに新しい国際基準を取り込むと、名目GDPが3%程度増えちゃうんですねえ。ざっくり言って、今の500兆円がいきなり515兆円くらいに増えるわけでして、この目標値は最初からゲタを履いているようなもの。まあ、最初から「いつまでに」とか「どうやって」を言っていないので、一種の「気合い目標」なんだと思うのですが・・・・。


<9月29日>(火)

○上杉隆氏『新国立競技場 悪いのは誰だ!』(扶桑社新書)を読了。あいかわらず仕事が早いねえ。

○新国立なんて、多少はカネがかかってもいいから、当初のザハ案でやりゃ良かったのに、と思っているワシとしては、「血税を何だと思っている!」式の小市民的な怒りというものが気に食わない。そんなもんアナタ、日本の社会保障費に比べれば屁みたいな額ですがな。1%も削れば、お釣りが出ますよ。しかも社会保障費は使ったきりで価値を生まないが、東京にモニュメントができれば観光客を呼ぶなどして付加価値を呼んでくれる。前向きの投資の数千億円を惜しんで、毎年1兆円ずつ増える社会保障費は仕方がない、というのはバランスの悪い考え方だと思いますよ。

○その一方で、本書を読むとJSCという組織のいい加減さには、さすがのワシでも腹が立ちますな。そもそも文科省の役人に、建築物のチェックなんてできるわけがないのであります。ところが彼らが文教族の議員を持ち上げて、どんどん変な方向へと向かっていく。1964年の東京五輪の時は、もっと日本政府が一丸となっていて、変な縦割り主義はなかったはずなのですが。

○ところで「悪いのは誰だ!」という問いかけに対し、多くの人が想像するのは、身体の大きな、さる高齢の政治家のことでありましょう。ところが本書の最後に出てくるのは、意外な真犯人というか、小柄な若めの政治家なんですよ。それが誰であるかは開けてみてからのお楽しみ。まあ、立ち読みでいいですから、第6章をご覧ください。下村大臣がちょっと気の毒に思えてきます。


<9月30日>(水)

○金沢に来ています。またも北陸新幹線に乗ってしまった。数えてみたら、軽井沢行きで乗ったのも合わせると都合7回。ちょうど毎月1回のペースで乗っていることになる。

○今回は商社の調査担当者の連絡会「水曜会」の視察旅行である。考えてみたら、当会の行先は去年は福井県であり、一昨年は富山県であった。3年連続で北陸シリーズが続いている。念のために申しておきますと、ワシがそうなるようにと画策しているわけではないのでありますよ。

○ということで、まずは金沢城にやってきました。平日だというのにすごい人出です。なおかつ、外国人比率が高い。金沢城というのは、明治維新の後は陸軍第6旅団の司令部となり、戦後は金沢大学が置かれてきた。それが大学の移転とともに石川県が買い取り、それから江戸時代の城の復元作業が始まった。これがまことに本格的な作業であって、玉泉院丸庭園などは念入りな時代考証によって、原型に近づく努力を果たしている。歴史で売る街、というのは歴史に対して誠実でなければならないのですね。

○そして兼六園。これを維持するコストも大変なものでありましょう。江戸時代の加賀百万石は、さぞかし春風駘蕩とした世界であって、察するに「天下泰平が永遠に続く」と考えていた人たちが、いろんな工夫を重ねてこれだけのものを作ってしまったのでしょう。ふと顧みて、今の日本にはそういう心の余裕みたいなものは残っているのでしょうか。その後、加賀料理のお昼をいただいた後で、ひがし茶屋街をさくっと冷やかしましたが、これまたみやびで贅沢な空間でありました。

○それから小松市に移動してコマツの粟津工場へ。ここで建設機械の現状についていろいろ窺う。ICTを駆使したブルドーザーの実演やら、バイオマスによる地域貢献やら、最新鋭の製造工程やら、まことに興味深い。意外なことに、世界に冠たるコマツ製品の売り先は、中国は今では6%しかないんですね。今は「戦略的市場」(いわゆる新興国市場」向けが減少し、「伝統的市場」(日米欧の先進国)で補っているとのこと。なるほど、世界経済の動きが一発で見えますな。

○夜は金沢市に戻って、県庁職員の「カニ王子」こと表さんのお話を伺う。今年の金沢は、新幹線効果で大いに潤っているものの、「バブル化」でリピーターができなくなることが心配の種。近江町市場も、量が減って値段が上がった、なんて評判もあるらしい。とはいえ、この街が積み上げてきたアセットは絶大なものがあるので、いろんなやりようが考えられそう。数々のイベントを仕掛けてきた表さんいわく、「観光は人次第」。まことにごもっともであります。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki