●かんべえの不規則発言



2010年9月






<9月1日>(水)

○本日の話題は、なんと言っても「小沢政権ができたら日本はどうなるか」。民主党代表選で菅さんが勝ったら、別に今のままでたいした変化はない。でも、そうでなかった場合は、久々に世の中の先がまったく見えない状態が待っている。とりあえず、組閣がどうなるかちょっと考えてみましょうか。


内閣総理   小沢一郎
総務大臣   原口一博
法務大臣   鈴木宗男
外務大臣   鳩山由紀夫
財務大臣   海江田万里
文部科学   輿石 東
厚生労働   福田衣里子
農林水産   赤松広隆
経済産業   中山義活
国土交通   松野頼久
環境大臣   樽床伸二
防衛大臣   田中真紀子
内閣官房   細野豪志
国家公安   中井 洽
国家戦略  山岡賢次
行政刷新  田中美絵子
沖縄担当  川内博史
少子化担当 谷 亮子

幹事長   松本剛明
政調会長  廃止

○うーん、冗談のつもりで始めたが、途中からだんだんマジになってしまったぜ。さて、どうするニッポン。


<9月2日>(木)

○政局の陰に隠れておりますが、明日の午後9時半になると8月の米国雇用統計が発表されます。ということは、その後は株安、円高、金利安など、何でもありということになります。日本政府が為替介入をするのなら、明日の午後10時、というのが狙い目かもしれません。いずれにせよ、為替介入は当局が黙って静かにやるべきものでありまして、首相やら首相候補やらが「断固として行なう」などと虚勢を張る性質のものではありません。そういうことをしているから、日本政治は市場参加者になめられるのです。

○で、問題はこの雇用統計が、サッパリ改善が見られないことです。われらが日本経済はいざ知らず、アメリカ経済は「景気が良くなりゃ雇用は増える」というのが、これまでのパターンでありました。それが今次景気後退局面においては、かくも深き雇用減少が生じ、なおかつ回復局面にあっても改善が遅れている。いったいどういう理屈でそうなっているのか。多くのエコノミストが、この問題に対して首をかしげているところです。

○今週のThe Economist誌で、Economic Focus欄が興味深い指摘を行なっている。従来のアメリカにおいては、労働市場の柔軟性が非常に高かったために、景気がちょっとでも良くなると、人々が雇用を求める産業や都市に大胆に流入していった。何しろアメリカは広いので、地域格差が大きい。東海岸がダメなら西海岸があるさ。西海岸がダメなら、南部か中西部でやり直してみよう。そんな移動性の高さが、アメリカの労働市場の柔軟性をもたらしていた。

○これは結構、思い当たるところのある話で、アメリカ映画の中には「この街では自分はうまくいかなかった。だから、他の街に行ってやりなおそう」てな話が良く出てくる。ダメだったからといって、主人公はさほど暗くならない。例えば『アパートの鍵貸します』では、上司にゴマすりしていたサラリーマンが、最後は会社に見切りをつけて、恋人とともに別の街を目指すところで終わる。いかにもアメリカがアメリカらしい光景である。

○それがなぜ、今は機能しなくなっているのか。ひとつには日本経済でもよく言われているとおり、「雇用のミスマッチ」があるからだろう。建設業で職を失った人たちが、いきなり介護や農業に行けるかよ、という話である。とくにホワイトカラーの職は昨今は専門化が進んでいるので、ミスマッチが起きやすくなっている。それはまあ、わからんではない。だから金融緩和で失業は救えないのだ、というのもなるほどという話である。

○Economic Focusの記事"Bad Circulation"では、さらに2つの点が指摘されている。@「(今のアメリカでは)住宅価格以上の借金を抱えている人が多く、彼らは仕事の多い地方に引っ越すことが難しい」――つまり住宅市況の悪化が、労働市場が本来持つ流動性の高さを損ねているというのである。もうひとつは、A「共働き世帯の増加も、労働者の移動を難しくしている」――つまり2つのキャリアの移転を考えねばならないとなれば、それだけ困難度は上昇するというわけだ。子どもの教育事情なんかも、これに加えてよいでしょう。

○なるほど、労働市場はこれらの構造的な要因により、それだけ柔軟度を失っているわけだ。これは目からウロコの指摘である。さて、明日はどんな数字が出るでしょうか。とりあえず、非農業部門雇用者増減数は10万件のマイナス、失業率は9.5%ってあたりがストライクゾーンではないかと思います。そこから大幅に外れてくると、いよいよ明日夜も、金融市場は大荒れということになりかねません。


<9月3〜4日>(金〜土)

○つい先ほど発表された米雇用統計は、▲5万4000人というポジティブサプライズでした。ただし失業率は9.6%へと0.1p悪化。このデータをどう読み解くべきか。円高への影響はどんな風か。なかなかに読みにくい情勢が続きます。

(と、ここまで書いて、昨晩は寝てしまった。すんません。続きは以下の通りです)

○米労働省が発表する雇用統計の中でも、特に「非農業部門雇用者増減数」のインパクトはまことに甚大です。株式市場や為替市場から見たら、ワガママな暴君もいいところ。それくらい、この数値はぶれる。予想が外れる。逆に言えば、失業率はそれほど外れない。考えてみれば、有効求人倍率なんかもそうだけど、百分率のデータはそんなに予想が外れないのです。ところが雇用者増減数は実数だから、現実の都合で大きく動く。もちろん、世の中をシャープに反映するのは後者なのです。

○思えばさまざまな経済指標の中でも、「雇用」と「物価」が最も重要なデータでありましょう。この2つには「痛み」がありますから。それに比べれば、「GDP」や「鉱工業生産」、はたまた「企業業績」なんぞは、そんなに切羽詰ったものではありません。ゆえに政治が目指すべき経済政策の最大の目標は、「完全雇用」と「物価の安定」でありましょう。そして「物価」が安定して久しいことを考えれば、それだけ「雇用」に力点が置かれるのは当然のことであります。

○で、「景気が回復しても、米国の雇用が改善しないのはなぜか」が、アメリカで大きな議論になりつつある。これなんかも典型です。(当欄の9月2日で紹介したEconomic Focusは、その理論面の裏付け記事ということ)。この記事によれば、米国の構造的失業率は、従来の5.0%から6.0〜6.75%に上昇している。だったら景気刺激策は以前ほどには効かない。金融緩和や財政出動を行なっても資源の浪費、ということになる。そこで何をすべきかというと、@住宅ローンの担保割れを救済せよ、A職業訓練を支援せよ、というのがThe Eocnomist誌の結論である。

○日本の民主党代表選でも、菅さんは「雇用、雇用、雇用」と叫んでいるし、小沢さんは「国民の生活が一番」と標榜している。雇用をどうやって増やしていくか、キチンとした議論を望みたいところです。でもお二人とも政策よりも政局の人で、経済にはあまり強くなさそうなんですな。民主党の経済政策論議は、「木によりて魚を求むる」の類でありましょうか。

○どうでもいいことですが、小沢さんのキャッチフレーズ、「僕には夢がある」には吹きました。きっとその後は「♪持病がある〜」と続くのでありましょう。「1年半に1度くらい、仲間が信じられなくなるというビョーキ」(c:原口総務相)が・・・・。


<9月5日>(日)

○明日はアメリカではレイバーデイの休日。ということで、中間選挙関連の話があちこちで見かけます。最近、始まったフォーサイトのウェブ版にも、こんな記事が載っています。

●オバマ政権の命運を決する米中間選挙のメカニズム (渡辺将人)

http://www.fsight.jp/article/5681 


先日の溜池通信と、チャーリー・クックのまったく同じコメントを引用しているのが面白い。やっぱり同じことが気になってるんですねえ。


"I know this isn't true and sounds naïve, but listening to the president in these meetings, you'd think he really doesn't care if he gets re-elected or not."(原文)

「実際にはその限りではないし、ナイーブに聞こえるかもしれないが、会合で大統領の発言を聞いていると、大統領は本当に自分の再選に興味がないのだと、そう思えるはずである」(渡辺訳)

「こんなことは真実ではないし、ナイーブに聞こえるかもしれないが、大統領に同席していると、この人は自分が再選されるかどうか気にしていなんじゃないかと思えてくる」(吉崎訳)


○政治家が再選を気にしない、なんてことは普通はありえないのですが、そこがオバマさんですから普通じゃない。仮に22世紀に歴史の教科書にオバマさんが載るとして、そこに羅列されるべき項目はほぼもう出尽くしている。だったら大統領職を長く続ける必要もない、と考えているような気がする。でも、そんなに達観されると、他の人の立つ瀬がないんですよね。

○てなことを、明日のモーサテでお話しする予定。今夜は早く寝よ。


<9月7日>(火)

○アメリカの雇用統計のページを見ていて、面白いことを発見しました。さて、クイズです。

「アメリカ全体の失業率は現在9%台ですが、全米50州の中でもっとも雇用が良い州の失業率は何%くらいでしょうか?」

○何人かに試してみましたが、「6%くらいですか?」という答えが多いようです。まあ、その辺が常識的な線でしょう。実はですね、3.6%などという州があるのです。ノースダコダ州です。逆に悪い方で言うと、ネバダ州が14.3%もある。何と同じ国の中で、失業率が10%以上も違うんですね。

○ソースはここです。ちょっと面白いでしょ。


Table A. States with unemployment rates significantly different from that of the U.S., July 2010, seasonally adjusted
--------------------------------------------------------------
State | Rate(p)
--------------------------------------------------------------
United States (1) ...................| 9.5
|
Alaska ..............................| 7.7
Arkansas ............................| 7.4
California ..........................| 12.3
Colorado ............................| 8.0
Delaware ............................| 8.4
Florida .............................| 11.5
Hawaii ..............................| 6.3
Iowa ................................| 6.8
Kansas ..............................| 6.5
Louisiana ...........................| 7.2
|
Maine ...............................| 8.1
Maryland ............................| 7.1
Michigan ............................| 13.1
Minnesota ...........................| 6.8
Montana .............................| 7.3
Nebraska ............................| 4.7
Nevada ..............................| 14.3
New Hampshire .......................| 5.8
New Mexico ..........................| 8.2
New York ............................| 8.2
|
North Dakota ........................| 3.6
Oklahoma ............................| 6.9
Oregon ..............................| 10.6
Rhode Island ........................| 11.9
South Carolina ......................| 10.8
South Dakota ........................| 4.4
Texas ...............................| 8.2
Utah ................................| 7.2
Vermont .............................| 6.0
Virginia ............................| 7.0
Wisconsin ...........................| 7.8
Wyoming .............................| 6.7
--------------------------------------------------------------
1 Data are not preliminary.
p = preliminary.


○本来であれば、もっと労働人口の移動が起きて、全体的に数値が収斂するはずなのですが、そうなっていない。やはり住宅ローンの担保割れなどの問題が尾を引いているのでしょうか。また、アメリカの労働人口が、以前に比べて高齢化している、共働きが増えて移動が難しくなっている、という点も見過ごせないところです。


<9月8日>(水)

○民主党代表選が行われる9月14日まで、残り少なくなってきました。果たして勝つのは菅さんか、それとも小沢さんか。ちょっと考えてみましょうか。

○まず前提として、「党員サポーター票=34万人」(300p)と「地方議員票=2937人」(100p)では、各種報道による通り、菅さんの勝ちが決定的です。党員サポーター票は普通の世論調査と似たような配分になり、しかも全国300小選挙区別の勝者にポイントを割り振りますから、いくら小沢陣営が動員をかけたところで届くとは思えない。また、地方議員は来年春に統一地方選挙が迫っているので、支持率がとっても低そうな「小沢民主党」で戦うのはご遠慮願いたい。ですから、議員票以外では、たぶん菅さんが大差で勝つ。

○「議員票=411人」(822p)の行方については、毎日新聞が右のように報道している。すなわち、「小沢さん186人、菅さん175人、未定50人」。つまり小沢陣営が一歩リード。グループごとの基礎票を積み上げることを考えると、これは菅陣営が想像以上に頑張っていることを意味している。民主党内には、一定数の「浮動票」があるので、これは最終日になるまで分からない(しかし、当日まで決められない議員というのは、そのことを有権者にどう説明するのか。ちょっと疑問である)。

○双方を勘案すると、以下の4通りのパターンが考えられます。

(T)議員票でも菅さんが勝って、完全勝利を収める場合。

(U)議員票では小沢さんが勝つけれども、最終的に菅さんが勝つ場合。

(V)議員票では小沢さんが勝って、最終的に小沢さんが勝つ場合。

(W)白票が出て、過半数を得る候補者がいない場合。規定により国会議員で決選投票となるので、この場合は小沢さんが有利となる。

○それぞれの場合について、どんなことになるかは以下のようになります。

●シナリオ(T):小沢陣営が力を失う。若手議員たちは、「2年後の代表選で世代交代」を目指すので、68歳の小沢さんからは急速に離れていく。菅首相は自らのイニシアティブで内閣改造を行い、「小沢イジメ」をしながら政権浮揚を目指す。

●シナリオ(U):菅首相は党内に睨みが利かなくなり、「挙党体制」と言いつつ、実際にはトロイカ体制を重視した内閣改造を実施(例えば小沢代表代行、鳩山外相)。要するに今までとあまり変わりばえしない政権となる。

●シナリオ(V):小沢政権が発足。ただし、「党員票で負けたのに議員票で勝って首相になった」ということで、正統性には疑義がつきまとう。勢い野党やメディアは「早く解散・総選挙を実施して国民の信を問え」の大合唱となり、連立交渉などはできなくなる。

●シナリオ(W):スッキリしない印象を与えるので、シナリオ(V)以上に弱い小沢政権の発足となる。

○こうやってみると、「この難局を、小沢総理に任せてみたい」という声は結構、あちこちにあるけれども、小沢政権ができるときには思い切り脆弱な政権地盤となるので、こればかりは首相のキャラとは関係がない。まして、閣僚名簿が揃ったときには、当欄の9月1日付で紹介したような衝撃的な名前がズラズラと並ぶことになる。あ、そういえば法務大臣候補は、とうとう有罪が確定してしまいました。指揮権発動の余地がなかったのは、これは慶賀すべきでありましょう。


<9月9日>(木)

○今日聞いて感心した話。現在の円相場について、「ブブカ相場」という呼び名があるんだそうだ。為替は普通、乱高下するものだが、今年の相場はきわめて変動が小さい。そして小刻みに、少しずつ着実に円高に向かっている。1円刻みで上がっていく様子が、1センチずつ棒高跳びのバーを上げて世界記録を何度も繰り返して更新したブブカ選手に似ているのだと。

○昨今、講演会などの席で、「この円高はどこまで進むんですか?」と聞かれることがある。尋ねている人は、察するに製造業関係の方で、かなり困っている(ないしは腹を立てている)様子である。そういうときは、正直、確信はないのだけれど、「とりあえず1995年の79円を抜くところまでは行くんじゃないですか。ただしそれを過ぎると達成感が出てくるので、流れが変わるかもしれない。介入をするなら、そういうタイミングを狙うべきである」なんてことを言ってます。もちろん根拠のある話ではないし、そもそも為替の予想など、滅多に当たるものではない。

○もっとも、これが「ブブカ相場」であるとしたら、80円を割るまでには結構時間がかかるだろうし、79円を過ぎたからといってそこで止まるという保証もない。そして現時点では、円を売ろうという人はあまりおらず、逆にドルやユーロを売りたい人はかなり居たりする。他方では、BRICsや資源国通貨が幅を利かせるようになったので、市場参加者の間には、「円?、ああ、そういえばそんな通貨もありましたよね」的な感覚もある。「円高を止めてくれ」と懇願しても、周囲はさほど聞く耳を持ってくれない、というのも哀しいかな事実であるわけでありまして。

○「断固として円高を止めよ」「日本単独でも介入すべし」といったことを声高に言っていると、得てして壁に向かって卵を投げつけるような結果を招きかねません。こういうときは、できれば「痛くても痛くない振り」ができるといいのですけれども。


<9月11日>(土)

○さすがは歳川さんですね。ネタ元はここです。


●国会議員票:菅直人366ポイント(183人)、小沢一郎372ポイント(186人)、不明82ポイント(41人)。

●地方議員票:菅64ポイント、小沢36ポイント。

●党員・サポーター票:菅220ポイント、小沢80ポイント。

●総合:菅650ポイント、小沢488ポイント、不明82ポイント


○決戦の14日まで残りわずかとなりましたが、どんなことになりますか。


<9月12日>(日)

○町内会で地デジ対策の説明会。いつもの集会所が満杯である。こういう話だと、普段は見かけない人も集まってくるから面白い。最近はテレビでもしょっちゅう宣伝しているので、さすがに皆さん気になっているらしい。

○ウチの町内は、大型マンションの陰の難視聴区域ということになっていて、マンションの上に共同アンテナを立てて、そこから各戸に電波を配信している。で、今般このアンテナをデジタル化する工事を執り行なうこととなり、めでたく補助金もおりることになった。町内の合意も成立しているので、あまり心配することなどないのである。とはいえ、ウチのケーブル軸は換えた方がいいらしい、などといった有益な情報も入ってくるので、とりあえず出ておいて損はない。

○もちろん各家庭でUHFアンテナを上げて、自前で受信してもよい。その場合、東京タワーとスカイツリーでは場所が違うので、アンテナの向きを変えなきゃいかんのではないか、という話がある。これが面白いことに、わが柏市からは東京タワーとスカイツリーがちょうど一直線上に並ぶので、変えなくてもいいのだそうだ。なんだか得した気分。これはめずらしい現象かもしれません。

○あるいは自前でCATVに加入する人も結構な数になっている。なんにせよ、締め切りがあるお陰で世の中は少しずつ動き出しているようだ。地デジでもエコカー補助金でも、締め切りが近づいてくると、かならず「ここは延長を」という声が出てくる。そういうのは、もっともらしく聞こえることが多い。でも、そこは最初に決めたとおりにやった方がいい。締め切りがないと、ワシだって仕事しませんもん。


<9月13日>(月)

○WSJ日本版はまことにありがたい存在ですが、この記事は渾身の出来でありますね。

●日本のキングメーカー、ついに首相の座に動く http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_102145 

○この記事が見過ごしているかもしれないな、と感じる点を下記しておきます。

(1)小沢さんは、自分の露出を「出し惜しみ」することで影響力を強めてきた人。人が会いにきても会わず、ときには姿を消してしまうことが力の源泉だった。仮に首相になったら最後、何時何分に何をしたまでメディアに見張られるので、そのカリスマ性が失われるのはきわめて早いはず。

――日本版のキムジョンイル、と言ったら、信者に怒られますかねえ。

(2)「小沢一派が党を割って出る」というオプションはほとんどない。明日の代表選では半数近い票を得るだろうから、このまま党内に居座ればいい。また、本人が党を割ると言った場合、ついて出る人はほとんどいないはず。小選挙区選挙というのは、もともとそういうものですから。

――重い恩義を感じる相手というのは、ときにはうざったい存在になりますからね。

(3)若手議員に小沢支持が多いのは確か。でも、彼らは「今どきの若者」なので、68歳の小沢さんにどこまでも着いていこう、などとは考えない。2012年の代表選では、若くて人気のありそうな首相を担ぐはず。むしろこの際、トロイカの3人が「一丁上がり」になってくれるのを要領よく待っている。

――そんなこと言わずに自前で政権を取りに行け、と説教したくなりますが、そこは草食系の世代ですからねえ。

○上記のようなポイントは、古いタイプの政治記者の盲点になっているような気がします。


<9月14日>(火)

○今日の昼過ぎに、「党員サポーター票の開票は菅165、小沢62、未開票73。地方票は菅1300、小沢720」という未確認情報が流れていた。「うーん、やっぱり漏れてくるもんだなあ」と感心しながら、「やっぱり議員票以外は菅さんが圧勝じゃないか」と思ったものですが、あにはからんや、党員サポーター票の結果は249対51であった。すると、先ほどの情報は何だったんだ?

○最終結果はここに出ています。得票数では9.0万対13.8万だから「四対六」の分かれだけど、300小選挙区の"Winner take all"方式を取るので結果は大差となる。この辺は自民党総裁選とよく似た現象ですね。概ね世論調査の結果と違わないのも、自民党の党員票と同じです。

有権者数 投票数 小沢一郎 菅 直人 無効票
342,493 229.030 90,194 137,998 838
    51p 249p  


○面白いのは、国会議員票ではほぼイーブンなのに、300小選挙区はほぼ5対1になってしまったこと。それぞれの小選挙区を代表する議員としては、「自分の後援者と意見が合わなかった」人が相当数居る、ということです。

○たとえば鳩山さんは小沢さんを支持したはずですが、北海道の選挙区で小沢さんが上回ったのは、松木謙公氏の選挙区だけ。原口さんや細野さんといった若手の小沢派議員も、自分の選挙区は菅さんに行っている。普通だったら「真面目にやらんかい」と顰蹙を買いそうなことですが、たぶん当人たちはさほど気にしないことでしょう。あと2年くらいたてば、「トロイカ」は一丁上がりになるだろうから、それまで待ってりゃいいや、てな感じなんじゃないでしょうか。

○本日は毎日新聞で座談会を収録いたしました。明日の朝刊に掲載されますので、よろしければご笑覧ください。不肖かんべえは、毎日ここで書いているようなことしか言ってませんが、田中秀征先生と御厨貴先生のご高説はたいへん、ためになりましたぞ。

(こちらをご参照。民主党代表選:菅首相続投 3氏座談会 「小沢不人気」で信任)

http://mainichi.jp/select/seiji/minshudaihyousen/news/20100915ddm010010167000c.html 


<9月15日>(水)

○本日の夕刻、日本記者クラブで行なわれたリチャード・アーミテージ氏の講演会にもぐりこむ。すでに記事になっているようですね。

●時事通信:日米関係を「中国が試す」=漁船衝突事件−アーミテージ氏

●毎日新聞::尖閣諸島沖:中国の強硬姿勢「試している」アーミテージ氏

●日経新聞:アーミテージ氏「尖閣沖衝突で中国は試している」

○なるほどアメリカから見ていると、中国が南シナ海でやっていることを、今度は東シナ海で試している、という解釈になるのです。南沙・西沙諸島での中国の恫喝に対しては、ARF会議でクリントン国務長官が堂々と啖呵を切って、東南アジア諸国が拍手喝采、という反応になった。そして今度は尖閣諸島でモーションをかけてみたところ、日本の民主党代表選ではまったくスルーされてしまい、外務省や国交省が淡々と処理している。でも、その方がよっぽど安心で、現にアーミテージ氏も「日本は正しい判断をし、過剰反応もしなかった」と評価している。つまり、「政治主導」よりも「官僚依存」の方がよっぽど安心だ、というのが現状なわけでありまして。

○今日の質疑応答の中で、最後に司会役の高畑さん(産経新聞)が、「クリントン国務長官が、アジアの同盟国に言及する際に、いつもの『日本、韓国、豪州・・・』という順序を変えて、『韓国、日本、豪州・・・』と呼んだことは、どんな意味があるのか」と聞きました。これに対する答えがふるっていて、「そんなことを知っているアメリカ人は誰も居ない。気にするアメリカ人も居ない。気にするのはHyper sensitiveな日本のメディアだけだ」――ここで大爆笑。

○それはそれとして、最近のゲーツ演説、クリントン演説などが示していることは、「アメリカは太平洋に戻ってくるぞ」というメッセージでありますから、これは日本としてもちゃんと反応しなければなりません。ところが、日本国内が完全に内向きになっていて、そういうことに気が回っていない。なんとも、残念なことであります。


<9月17日>(金)

○会社を出てTBSの角を曲がろうとしたら、マック赤坂がまた変なパフォーマンスをやっていた。でも、誰も振り向かない。もうすっかり、いつもの風景なんですねえ。選挙があるたびに東京選挙区から出馬する泡沫候補で、実際に赤坂の某高層マンションにお住まいだそうですが、不思議な方であります。

○そこから青山に移動。青山学院大学のオープンカレッジの講師を務める。こちらはずっとお洒落な街並みであり、国連大学の前では「生物多様性」に関するパフォーマンスが行なわれている。赤坂とはえらい違いである。

○青山はお洒落なスーツが似合う街、赤坂はドブネズミ色のスーツで安心できる街、半袖ワイシャツが似合うのは新橋ってところでしょうか。ワシはもうすっかり赤坂が板についてしまいましたなあ。


<9月19日>(日)

○久々の中山開催へ出勤。いやー、馬の現物を見るのはいいですね。やっぱり競馬は競馬場で見るものであります。天気もよく、暑くもなかったので、競馬に出かけるには絶好の日和でありました。しかもなぜか今日は入場料がタダであった。

○今日の中山10Rは、「ゆめ半島千葉国体 千葉大会開催記念」で、中山競馬場に森田健作知事が来ていた。テレビカメラに向かって、手を振っている姿はどう見ても芸能人である。知事の仕事って、県のPRだけではないはずなのであるが、首長の仕事など誰がやっても大差はないと割り切れば、いっそのこと芸能人を選ぶのが得策かも知れぬ。東国原さんは二度目は出ないそうですが、この4年間の宮崎県は「セールスマン知事」をこき使って、結構、得したんじゃないでしょうか。

○ということで、今日は競馬を堪能したんですが、いつもと違ってパドックでよく見てしまうと、どの馬もよく見えてしまって勘が当たらない。アロマカフェが勝てないのはまあ、そんなもんだろうけれども、アパパネってあんなに弱い負け方をするかぁ? と、まるで上海馬券王先生のようになってしまう。そういえば、秋のG1レースは2週間後のスプリングステークスであります。


<9月20日>(月)

○いい加減、遅レスもいいところなんですが、シュワルツェネッガー知事の訪日騒ぎ、あれって皆さん、分かっててやってるんでしょうか。まさか、もうじき辞めちゃう知事を歓待して、新幹線を買ってもらおうだなんて、本気で考えてるんじゃないでしょうね? あれはもうじき任期が終わるから、「ご苦労さん出張」みたいなものであります。そもそもカリフォルニア州にはカネがないんだし。新幹線、買うも買わないも、決めるのは次に当選する知事さんですから!

○今回の中間選挙において、カリフォルニア州は非常に面白いことになっています。典型的なブルーステーツなんですが、上院議員選で3期18年を務めたバーバラ・ボクサー女史(民主党)に対し、元ヒューレットパッカードのCEO、カーリー・フィオリーナ女史(共和党)が挑戦して、結構いい勝負になっている。この女の戦い、むちゃくちゃ面白いですぜ。

○さらにシュワちゃんの次の知事を争う選挙もすごいことになっている。

Open seat (R). Gov. Arnold Schwarzenegger (R-CA) is term limited so the biggest prize of all in terms of possibilities to gerrymander House districts is up for grabs. The Democrats nominated former governor Jerry Brown (D) while the Republicans nominated former eBay CEO and billionaire Meg Whitman (R), who has already spent over $120 million of her own money on the race. Despite being a very blue state, California has had many Republican governors. Furthermore, Brown is an extremely erratic campaigner. He might even decide to go off to an ashram to meditate instead of campaigning this Fall. Whitman has a real shot at it, especially if she continues to outspend Brown 10 to 1 in this vast state.

○共和党は知事選でも大金持ちの女性候補を立てている。今年は国勢調査があるので、次には選挙区割りの見直しが控えている。カリフォルニア州のような大きな州で、好き勝手に区割りができる(ゲリマンダー)となれば、その効果は非常に大きい。なにしろ、共和党はカリフォルニア州知事選では意外と勝率がいい。過去にはニクソンやレーガンも輩出している。ということで、この勝負も激戦でありましょう。

○ところで今回の中間選挙について、こんな秀逸なコメントがあったのでメモしておきましょう。

http://www.electoral-vote.com/evp2010/Senate/Maps/Sep19-s.html#5 

*All politics is local. 
*All politics is national.
*Money talks.
*Money doesn't mean a thing.
*It's the economy, stupid.
*We're tired of war.
*We're tired of taxes.
*Voting can be cathartic.

○かんべえ流に意訳すると、こういうことですね。

「すべての政治はローカルである。と同時にナショナルでもある」
「選挙資金は重要である。だからといって、すべてではない」
「アホウ、公約は経済だけでいいんだ。外交だとか、余計なこと言うな」
「わしらは戦争はもう嫌だ。税金ももう嫌だ」
「いっちょ選挙に行ってお灸を据えてやろう、さすればスッキリするはずだ!」

○要するに、米国の有権者はものすごくイライラを募らせている。6週間後の選挙では、果たしてどんな民意が示されることか。これってたぶん、日本政治にとっても、「明日は我が身」でありますな。


<9月21日>(火)

○尖閣諸島の問題で、中国が賭け金を吊り上げてきました。こういうときに、「粛々と国内法に基づいて対応する」というわが国政府の「木鼻対応」は、まことに見事というほかはありません。好感度高いよね。察するに今頃、南シナ海で泣き寝入りをしているベトナムやフィリピンは、「ガンバレ、ニッポン!簡単に降りるなよ!」とお祈りモードでしょう。欧米諸国も「中国に負けるな!でも、ウチが当事国でなくて良かった」とばかりに、興味津々で情勢を窺っているようです。

○とはいうものの、日中はどこかで矛を収めなきゃいけない。そのタイミングと理由付けが難しい。日本側が「国内法に基づいて淡々と処理した」と対外的に発表し、中国側が「日本は最終的にわれわれの言い分を認めた」と国内向けにアピールする、といった「擦れ違い」を上手に作る必要がある。ちなみに、この対立が長引くと、来月末の「ASEAN+3首脳会議」と「東アジアサミット」に持ち越されてしまう。後者にはクリントン米国務長官も出席する。ということは、中国側はそれまでに幕引きをしたいと考えるでしょう。

○そのためには、どこかの時点で対応を「官主導」から「菅主導」に切り替えて、ソフトランディングを図る必要がある。おそらく、中国側からも何らかのサインが出るでしょう。で、問題は誰がパイプ役になるの?ということです。うーん、意外と野中さんあたりだったりして。これって結構、寒いかも。


<9月22日>(水)

ローレンス・サマーズNEC委員長が辞任、とのことです。ピーター・オルザクOMB局長と、クリスティーナ・ローマーCEA委員長がすでに辞めてますので、オバマ政権の経済スタッフはほとんど総入れ替えに近いですね。残っているのはティモシー・ガイトナー財務長官くらいで、こうなると彼の動向も気になります。まあ、彼は草食系に見えるけど、意外としぶとい人なんじゃないかと思います。

○大統領の任期2年目で、スタッフが入れ替わるのは良くあることですが、これだけ米国経済が難局を迎えている情勢で、まったくの新人を起用しなければならないのはツライと思います。リーマン・ショック以来の継続性もありますからね。特に長官クラスが入れ替わった場合、中間選挙後に民主党が議席数を大きく減らした議会で、承認人事がすんなり決まるかという問題も出てくる。

○オバマ政権の初期の経済政策は、成功であった言っていいでしょう。とにかく国際金融危機を収拾したのだから。その点は、司令塔であったサマーズの功績が大だと考えます。そこまでは良かったが、医療保険改革を追いかけたところから間違いが始まった。あれさえなければ、ここまで国民の意識と乖離することはなかっただろうし、ティーパーティー運動が燃えさかることもなかった。

○ということは、悪いのはオバマ自身の野心である。歴史に残る大統領になりたいという彼の思いが、結果的に政権を窮地に追い込んだ。スポーツでも良くあることですが、ファインプレーをやった後は、ついついスケベ根性が頭をもたげるものであります。


<9月23日>(木)

○毎週木曜日は、産経新聞の「幕末から学ぶ現在」(山内昌之東大教授)が掲載される日です。このシリーズ、とってもいいですね。ここ3週間は、西郷隆盛をテーマにしていました。気に入った部分を、自分用に書き留めておきます。

●敬天愛人の政治(9月9日)

「一度動き始め進路さえ決まれば、後は比較的簡単に処理できるのも政治運動のメカニズムなのである。その多くは、西郷より器量が劣る人間でも自動的に出来る仕事だという指摘も基本的に正しい」

「天はすべての人を同一に愛するがゆえに、われわれも自分を愛するように人を愛さなければならない。こうした敬天愛人の思想、あるいはそれに匹敵する政治理念をもつ哲学的政治家が果たして現在いるのだろうか」

●手段よりも人物こそが宝(9月16日)

「立派な男子たるものは、偶然の幸運を頼んではならないのだ。大事なときには、何としても機会を作り出さなければならない。歴史上の英雄が果たした事績を見なくてはならない。人為的に作り出した機会は、後世から見ると偶然の幸運のようにも見えるが、そうではことに注意を払うべきだと西郷はいうのだ」

●「正義」「正道」信じ生きた(9月23日=本日分)

正義のために正道を歩み、国家と一緒に倒れてもよい精神がなければ、外国との交際は満足にできない。その強大さに畏まって小さくなり、揉めずに形だけすらすらと進めばよいと考えるあまり、主権や国威を忘れてみじめにも外国の意に従うならば、ただちに外国からあなどりを招く。その結果、かえって友好的な関係は終わりを告げ、最後には外国による命令を受けることになる。

○このシリーズ、すでに79回目になっており、普通の人が知らないような人物が取り上げられている。以下のような話も、あたしゃ知りませんでしたなあ。

●椋梨藤太(8月26日) 「藤太がすべての責めを自分が負うと潔く罪をかぶったことも大きい」

●武田耕雲斎(8月19日) 「人間は貧しいとどうしても観念的になりがちである」

●志賀重昂(8月12日) 「寸毫も卑屈な点がないのは、武士のリアリズムや誇りがあったからである」

●姉小路公知(8月5日) 「太刀を持った侍臣の1人が卑怯にも逃げたのに、肩に深手を負っても笏などで凶漢に立ち向かい、自邸に戻って絶息したことである」

○ということで、イスラム研究の第一人者である山内教授が、日本史に関する薀蓄を傾けながら、現代政治をバッサリと斬る名コラムであります。最近では滅多にそういうことをしなくなりましたが、ここ2か月分くらいは新聞のコピーをとってスクラップを作っております。


<9月25日>(土)

熊本日日新聞社さんの講演会で熊本へ。金曜昼に熊本市で、夜に八代市でダブルヘッダー。一泊して帰宅。

○で、現地ではこんな発見をしました。「熊本では男は政治家、女は演歌歌手」

○熊本出身の政治家というと、松野頼三&頼久親子、園田直&博之親子、坂田道太、野田毅、松岡利勝など男くさい顔ぶれが並ぶ。裏方に回って鋭いタイプが多くて、見事に曲者ぞろいである。永田町に渋い脇役を供給する悪役商会といったところか。そういえば現職の蒲島知事も、政治学者出身で参謀タイプなんですな。

○さらに正確には地元出身ではないのだが、細川護煕元首相も挙げなければならないだろう。つくづく評価の難しい人である。県知事時代には「殿」と呼ばれていたそうだが、陰で「シムラ」との呼び名もあったとのこと。何というか、時代ですなあ。

○熊本出身の演歌歌手というと、八代亜紀、水前寺清子、石川さゆり。前2人はご当地の名前を苗字にしているので、まったく違和感がないけれども、石川さゆりはてっきり東北の人だと思う人は少なくあるまい。だって北の方の歌ばかりじゃないですか。ちなみに彼女、紅白歌合戦では過去に「津軽海峡冬景色」と「天城越え」を6回ずつ歌っている。ご本人は「熊本は演歌にならんたい」と言っている由。そりゃあ、その通りばい。

○似たような話で、来年3月に開通する九州新幹線は、「さくら」と「みずほ」という名前になるのだそうだ。「さくら」はいいけど、「みずほ」は水田の中を走るんじゃないとマズイだろう。あんまり九州のイメージじゃないと思う。なんで「あそ」にしないんだろう。鹿児島が反対するのなら、「お宅は桜島の“さくら”があるじゃないか」と言えば良いのではないか。

○ところでホテルの近くにある小泉八雲の旧居にふらりと入ったら、彼が当地でこんな言葉を残していることを知った。


The future greatness of Japan will depend on the preservation of that Kyushu or Kumamoto spirit - the love of what is plain and good and simple, and the hatred of useless, luxury and extravagance in life. (Jan 27, 1894)


○100年以上前の言葉だが、今でも通じることだと思う。日本はやっぱり保守主義でありますな。


<9月27日>(月)

○これを口に出して言う人は少ないですが、ホントはみんな分かっていることだと思います。尖閣諸島をめぐる今回の日中の喧嘩は、「落ち目の紳士」と「上り目のヤクザ」の勝負ですから、もとより紳士の側の勝ち目は薄い。紳士は体面を守らなければならないが、ヤクザは何でもやれますからね。なおかつこの紳士、ゆくゆくは当のヤクザの懐を当てにしなければならない立場であったりする。

(なにしろ先週訪れた熊本城でさえ、観光客の3人に2人は中国人でしたから。それにしても彼らは、何が面白くて西南戦争の展示物を見ているんでしょうねえ)。


○今までなら日本には、アメリカという「ヤクザ紳士」の強い味方がありました。かんべえ流に言えば、「ジャイアンとスネ夫の友情関係」というやつですね。ところが昨今の日米同盟は、「喧嘩が弱くなったジャイアンと、お金のなくなったスネ夫」状態。ということでヤクザ紳士も最近は、本気でヤクザに対抗してはくれません。自分のことで手一杯ですから。しかも日本で民主党政権ができてから、この友情関係もかなりヒビが入ってしまった。

(もっとも、クリントン国務長官の口から、「尖閣諸島は日米安保の対象の範囲内」という言質が得られたのは上出来でした。共和党政権は安心なんですが、民主党政権はときどきこれをネグりますからね)。

○日本国内には、「ヤクザ紳士は嫌いだが、ヤクザが威張るのは平気」な人が少なからずいて、そういう人たちが今の民主党政権を作っていたり、支持していたりする。でも、そこそこ責任ある立場に立てば、「ヤクザ紳士を味方にしてヤクザに対抗する以外にない」ことは自明なんだろうと思います。何しろ世界中が財政難で軍縮を急いでいる中で、あそこだけは軍事費毎年二桁増ですから。これがあと10年続いたらどういうことになるか。マジで怖いじゃありませんか。

(一方で、「自分はヤクザとホットラインを作った」「自分ならヤクザと腹を割った話ができる」とか言って、政権への返り咲きを狙う人もいるようですから、懲りてないですねえ、ホント)。

○真面目な話、軍事力を使わずにヤクザを封じ込めようと思ったら、アメリカ、豪州などの「太平洋の先進国=現状維持勢力」が連絡を密にとって、さらにインドなども引き込み、できればロシアも味方につけて、もちろん東南アジア諸国の喝采を浴びつつ、21世紀版ウィーン体制みたいなものを志向するくらいしかない。つまり究極のスマートパワー外交ですな。ところが、そういうことに関しても、先方はなかなかに抜け目がないですから。この喧嘩、つくづく当方に分がありません。

(ぶっちゃけ司法に責任を押し付けて船長を釈放する、という決着は、カッコ悪かったですが、9月21日の当欄で書いたような「擦れ違い」の条件は満たしていると思います)

○せめて腹いせにレアアースの件について、世間の誤解を少しだけ解いておきましょう。世間が思っているほどに、レアアースは「レア(希少)」ではありません。17種類のほとんどは十分に在庫があったりして、「これが止まると○○が止まる」なんて物資はそれこそレアでしょう。そしてレアアースの供給が本当に危ないということになれば、@中国以外の地域で採掘が進む、A製造業が代替手段の技術を開発する、Bリサイクルが盛んになる、などの経緯をたどるので、結果として需要は減ってしまうでしょう。つまり、中国としては自分の首を絞める行為となりかねません。

(レアアースを輸入しているどこかの商社も困るわけですが、そんなこと知ったこっちゃないですよね。まあ、怒りに任せて決めた行動は、後悔することが多いってことです)


<9月28日>(火)

○朝、「くにまるワイドごぜんさま〜」へ。この番組、来週からは「くにまるジャパン」という番組に衣替えをするのだそうです。不肖かんべえの火曜日担当レギュラーというポジションは不変でございますので、どうぞ今後ともよろしく。ちなみに「本日のごぜんさま〜」では、中国の海洋戦略という話をご紹介しました。

○本日のお題は、「突然終わってしまうこと」だったので、「南柏の洋食店『港』が閉店したのが哀しかった」と言ってみたところ、港のおやじさんのご親族の方から「聞いていてビックリしました」とのメールが番組宛に届きました。まことにありがたいことで、今もお元気な様子のおやじさんに、どうぞよろしくお伝えくださいまし。

○夜はテレビ東京の天王洲スタジオへ。「田原総一朗、どうなるニッポン!?」の収録。7時前に到着して、局の弁当を食べていたところ、スタッフが分厚い台本を持っているではないか。いちおう出演者なので、「見せてくれ」と言ってもらって読んでみると、事細かに「ここで○○、適当に流す」などと、いろんなことが書いてある。なんという無駄なことを。皆の衆はタハラの怖さを知らぬと見える。

○案の定、収録が始まったら田原さんやりたい放題で、開始早々、日中問題でムチャ振りを連続。用意したビデオにもダメ出し。司会の小島慶子さんがだんだん呆れてきて、最後の頃はほとんど喧嘩腰状態であありましたな。(小島さんっていいですねー。TBS時代のイメージがちょっと変わりました)。で、8時半から始まった収録が、終わったのが11時半。隣の蓮舫さんが、「だからナマ放送じゃないとー」と言ってましたな。まったく同感でありんす。

○これで明日午後7時からの放送がどんなものになっているのか。ハッキリ言って、ワシは自分で見る勇気はないっす。

○ついでにもうひとつ。ネットの取材でこんなインタビューを受けました。クリックよろしく。


●賢いお金の知恵「アメリカ経済の行方」 http://doraku.asahi.com/money/chie/100928.html 


<9月29日>(水)

日銀短観が発表されました。9月調査は大企業製造業などで6期連続で改善しているが、3ヶ月後の先行き見通しは悪化しており、ことによると2010年7-9月期が景気のピークとなったかもしれない。だとすると、2009年3月にボトムを打った景気は、わずか1年半で終わったことになる。

○とりあえず景気の現状は、「足踏み状態」もしくは「踊り場」と見るべきなのでしょう。これらの表現が使われるのは、だいたい半年くらいの長さであることが多い。2〜3か月程度の場合は、「踊り場」などとは呼ばない。また、半年を越えて景気が同じ水準に留まることもあまりない。従って来年の春くらいまでには、景気は再び上昇軌道に戻るか、それとも下降局面に向かって「下ぶれ」「二番底」といった言葉が使われるようになるか、そのいずれかでありましょう。

○方向性を決めるのは、単純に外部環境ということになる。警戒すべきは、@米国経済の不透明性、A欧州の財政危機、そしてB新興国におけるリスク(含む日中関係)の3点でしょう。国内にはとりたてて良くなる理由もない代わりに、予想を超えて悪くなる材料も見当たらない。だからあんまり気にしても始まらない、ということです。

○さて、日銀短観の業況判断を少し長いレンジで見た場合、バブル崩壊後の景気回復では1996年、2000年に短いピークをつけ、その直後に悪化に転じている。ところが2002年に始まった回復過程は、何度かの「踊り場」を超えて息の長い回復(いざなぎ超え)となった。2010年はどちらのタイプになるのだろうか。過去の3パターンを整理してみると次のようになる。

●ケース1. 1997年型(×):増税を急ぐという政治リスクによって景気が腰折れし、金融危機(山一・北拓破綻)などの事態を招いた。

●ケース2. 2001年型(×):ハイテクバブル崩壊と9/11同時多発テロ事件という外的な要因により、景気が悪化した。

●ケース3. 2003年型(○):イラク戦争、SARSなどのリスクはあったが、小泉政権下で政治は安定し、輸出主導型の景気回復が続いた。

○今の菅政権はちょっと橋本政権に似た感じがあるので、ケース1の怖れが無きにしも非ず。また、日中関係などを考えるとケース2もあり得る。他方、「非不胎化型」の為替介入が行なわれているらしい、という点では(ちょっと強引だが)、ケース3の可能性もある。さて、どれでしょう?










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki