●かんべえの不規則発言



2005年10月





<10月1日>(土)

〇愛・地球博の猛虎会会長さんの呼びかけで、神宮球場へ。ヤクルト阪神戦である。もはや消化試合でありますから、JFKはベンチ入りしてないし、矢野も出場しない。ファンとしては、「勝たんでもええぞー、お疲れさん」と思っているのだが、個人記録が懸かっている選手はもちろん手抜きは出来ないし、こういうときだからこそ使ってもらえる控え選手は、ここでいいところを見せなきゃという心根であろう。そしてファンも、神宮球場を黄色に埋め尽くす阪神ファンの群れに身を投じると、「負けてもいい」なんて気分は瞬間的に蒸発してしまうのである。

〇1回表、いきなり金本と今岡の連打で2点先取。もー負ける気がしない。5回にはアニキ金本が弾丸ライナーのスリーラン。拍手喝采。6回には鳥谷のタイムリースリーベースなど、堪えられない展開でサクサク進む。ピッチャーの安藤は、毎回のようにヒットを打たれながら、何とか抑えてゼロ行進。しかし魔の6回裏、阪神ファンたちが風船を膨らませるのに熱中している間に、安藤が火だるまになってしまって5点を献上。気がつけば、ライトスタンドにも色とりどりの風船が並ぶ中に、健気にも東京音頭を踊っている一団がいるではないか。毎度のことながら、あなたたちの球場を埋め尽くしてしまってどうもすみません。

〇9回表、またまた阪神打線が大爆発。代打桧山のヒットに、阪神ファンの熱狂はとどまるところを知らず。周囲の人たちと万歳、万歳を繰り返す。いつもテレビで放映されているものは、実態の5分の1程度しか伝えていないのではなかろうか。次女Tを連れてるから、早めに家に帰らなきゃ、なんて気持ちはとうの昔に吹き飛んでしまっている。最後は10対5で、何度も六甲颪を合唱してゲームセット。

〇どうでもいいことですが、ウィキペディアで「阪神タイガース」を検索すると面白いです。9月30日に見た時点で、もう下記のような文言が掲載されていました。

●後任には1985年の日本一にも貢献した岡田彰布が就任し、1年目の2004年こそ4位であったが、翌2005年には、JFKと呼ばれたウィリアムス、藤川球児、久保田智之の救援陣の活躍や、シーツ、金本知憲、今岡誠によるクリーンアップの安定した成績により、同年導入された交流戦でセ・リーグ1位となる好成績を収めた。そして2005年9月29日の対読売ジャイアンツ戦で2年ぶり5度目のセリーグ制覇、通算9度目の優勝を成し遂げた。JFKが流行語に。

〇なおかつ、執筆者の間で意見の不一致から内紛が起きているというのも、いかにもタイガースらしいことではないかと思います。それにしても、下記のエピソードは知らんかった。てっきり「虎の雄たけび」であると思ってました。

●球団歌、『阪神タイガースの歌』(六甲颪)は球団結成と同時に『大阪タイガースの歌』としてつくられたもので、戦前から現在まで用いられている球団歌は他にない。他球団の応援歌は、歌詞に問題があったり、球団が消滅するなどして、いずれも現在では使われていないが、『大阪タイガースの歌』だけは、歌詞中の大阪タイガースという単語を阪神タイガースに改めただけで現在も使われている(歌詞中の「オウオウオウオウ」という部分は雄叫びではなく元の歌詞「おおさかタイガース」の頭の字余り部分)。


<10月2日>(日)

〇本日は、上海馬券王先生と一緒に中山でスプリンターズ・ステークスを勝負し、めでたく両人共に勝利。そのままご一緒に柏市の「木曽路」に突入する。まずは乾杯すると先生、「うーん、日本のビールはうまい」。次にしゃぶしゃぶが来ると、「うーん、日本の牛はうまい」などと、感心することしきり。そういや中華料理では、牛肉をあんまり食わないものね。でもね、ここは所詮、チェーン店の「木曽路」ですがな。感心したって、たかが知れてますがな。ということで、ついつい肉をお代わりすること2回。たいへんよく食べました。

〇いわれてみれば、日本社会におけるこの手の生活水準の高さは相当なものかもしれない。「木曽路」はワシも久しぶりに入ったけど、この味とサービスでこの値段はたいしたものではないかと思う。この10年ほどの間で、外食のチェーン店が急速に伸びて、無視できない勢力になっている。代わりに、夫婦だけで細々とやっている名店みたいなものが、どんどん衰退している。「地方経済の衰退」という現象も、中央の資本が全国展開することによって、地場の外食店がつぶれてしまうことが一因になっている。

〇いってみれば、有名チェーン店という「食文明」が、地場の商店という「食文化」を滅ぼしていく過程ともいえる。一方で、B級グルメ道の世界では、ラーメン屋の修行をする若者なんぞがいたりして、新しい食文化の創造がないわけでもない。総じて食に関しては、日本の消費者は世界で一番、要求水準が高いので、供給する側も鍛えられる。「食は日本にあり」ではないかと思う。

〇さて、かんべえは来月、生まれて初めて中国に行く予定なので、「上海にいったら何をしよう」という相談をする。有名な上海蟹にしても、「あらかじめ身をほじってある店」があるんだそうだ。まあ、それもいいのですが、個人的には馬券王先生が、いつも日曜日にどんな状況で競馬をしているのか、それを是非見てきたいものだと思っております。

〇思えば馬券王先生とは、高校時代に化学部の部室で意気投合して以来、もう30年近くなる。お互いに長いもんですな。当時からの仲間の一人だったMという男は、38歳のときにぽっくりと逝ってしまった。残った者は、相変わらず他愛のないことを言いつつ、競馬をしたり、飲んだり食ったりして今日も遊んでおる。文句を言ったらバチが当たるような人生を送っておる。とりあえず、今日もこんな風に過ごしてしまったことに若干の罪悪感を覚えつつ、深い感謝の念で一日を終えたいものである。


<10月3日>(月)

〇今日は日経センターの政治講演会に行って、いろいろ面白い言葉を教わってきました。

「3ない政治」:小泉さんの政治手法。「根回しなし、挨拶なし、お礼なし」の3つを指す。従来の永田町では、田中・竹下派の「3配り」(目配り、気配り、カネ配り)が主流であったが、これに真っ向から逆らっている。もっとも普通の日本社会において、これをやったら顰蹙を買うのは必至であろう。抵抗勢力も、つまるところこれが我慢できなくなって、切れちゃったのかもしれない。

「ツー・プラス・ワン」:03年衆院選と04年参院選において、「ツー・プラス・ワン政党制」が誕生した。これは「自民党と民主党+公明党」というわけですね。ところが05年衆院選が終わったら、これが「ツー・プラス・ワン与野党制」になってしまった。すなわち与党が3分の2、野党が3分の1というわけ。

「みなし一院制」:衆議院で与党が3分の2の議席を得たということは、有権者が参院の存在を否定したということ。仮に衆議院が「参議院の定数を100人にしましょう」という法案を提出すれば、参議院がいかに抵抗しても通ってしまう。さすがにそんなことはしないでしょうが、向こう4年間というもの、参議院は衆議院が可決した法案を否決しないよう、ビクビクしながら過ごさなければならない。

「逆一区現象」:全国47都道府県において、与党は「32勝15敗」であった。これまでは自民党が1区で勝てないという「一区現象」があったが、それが完全に裏返った形。それだけじゃなくて、与党の小選挙区勝敗は東京で24勝1敗、千葉で12勝1敗、神奈川で17勝1敗、愛知で9勝6敗、大阪で17勝2敗、兵庫で12勝ゼロ敗、福岡で9勝2敗。つまり都市部では連戦連勝だった。

「郵政選択選挙」:小泉首相が掲げたシングル・イッシューは郵政民営化だったので、これは言うまでもない。これに対し、造反自民党が掲げたのは「自分選択選挙」であり、民主党が掲げたのは「政権選択選挙」であった。なるほど、国民新党や新党・日本が埋没していったのは無理もない話である。

「リバタリアン小泉新党」:小泉さんが掲げている理念は、新保守だとか新自由主義だとかいろんな名前で呼ばれているけれども、実はアメリカでいう「リバタリアン」がもっともしっくりいくのではないか。つまり究極の「小さな政府」主義というか、個人の自由を尊重する考え方である。小泉さんが来年引退したら、小泉チルドレンが自民党を割って「リバタリアン新党」を作るというのも面白いかもしれない。

〇日経新聞論説委員の芹川洋一さん(前政治部長)は、この手の造語の天才かもしれませんね。もう一人の講師である曽根泰教・慶應大学教授からも、いろいろ興味深い話があって、とってもお買い得な講演会でした。


<10月4日>(火)

〇FMぐんまが開局20周年を記念して、「1985年」をテーマにした特番を企画したのだそうです。「1985年って何があった年だっけ?」と探しているうちに、そういう本があるということが知れて、かんべえにお声がかかりました。ということで、本日は群馬県前橋市へ行って来ました。群馬県は、関越自動車道でよく通るほかは、伊香保温泉に2回ほど行った覚えがある程度で、前橋市は初めてである。

〇1985年の群馬県は、関越自動車道の全線開通と冬季国体の開催、「群馬県民の日」の制定、それに御巣鷹山の事件が県内上野村であったりして、話題の多い年であった。思えば日航機墜落事故の際には、かんべえも藤岡市の体育館に行った覚えがある。地元にとってもつらい記憶であるらしい。そうかと思えば、昨年廃止になった高崎競馬が1985年に場外売り場を新設した、とか、群馬銀行がニューヨーク駐在員事務所を開設した、なんてニュースもある。

〇そういえばこの時期、上越新幹線と関越自動車道が相次いで開通し、そのお陰で80年代後半には若者の間でスキーがブームになるのである。それ以前の学生にとっては、スキーというのは孤独なスポーツであって、女の子を誘っていくなんて発想は少なかったたと思う。ガーラ湯沢みたいに軟弱なスキー場が増え、神田の古書街がスキー用品店の町となっていったのは、元はといえば田中角栄のお陰であった。

〇番組の方は、午後4時からの「ビタミン・カフェ」という生番組にゲスト出演し、それから10月11日正午に放送予定の特番の収録を済ませてきました。面白いもので、FM放送のスタジオの機材はJ−WAVEで見たのとまったく同じ。明らかに違う点としては、交通情報がやけに簡単なことくらいか。番組中にも視聴者からのメールが届いていましたが、なるほど地方局の方が聞き手との距離が近いなと思いました。


<10月5日>(水)

〇近々、さるところで台湾についての報告をしなければならない。こういう話をしようという腹積もりはあるのだが、今ひとつ中身に自信がない。そこで肝試しと新ネタ取材をあわせて、厚かましくも金美齢さんのところへ話を聞きに行った。そしたら周英明さんも出てこられて、ご夫婦で台湾の歴史や最近の情勢について、長時間にわたってレクチャーしていただいた。まるで町内の将棋大会に出るために、羽生善治四冠王に稽古をつけてもらうようなものである。なんという無茶なことを。

〇夜、社内で元インド駐在員を集めて「ヒンドゥースタン研究会」を開催する。インドへの関心が高まっているものの、中国に比べるとはるかに遠い国であり、情報源も限られている。とにかく基本的なことをひとつ聞くたびに「へぇ〜」がたび重なる。

「インダス文明を築いたのは、強力な中央集権国家ではなかった」

「カーストの最上位、バラモン階級はビジネスをやらせるとまるでダメだが、レストラン経営には強い」

「インドの東半分は湿潤アジアであり、西半分は乾燥アジアである」

「究極のベジタリアンであるジャイナ教徒は、根菜類も食べない。理由は『地中の虫を殺すから』」

「ボンベイでは夏の次に梅雨(モンスーン)が来る。雨が降り出すと、気温が下がるので駐在員はホッとする」

〇こんな風にして、日々是勉強であります。われながら、贅沢をしているという気もする。


<10月6日>(木)

〇パスポートの更新を済ませてきました。10年もので、本当は来年の3月に期限が切れるのですが、今月下旬に台湾に行く予定になっていて、台湾ではパスポートが残り半年以上なければ入国できないとのことで、前倒しで新しいものを作ってきました。

〇以前の記憶では、パスポートの更新は半日仕事であったと思ったのですが、今回はビックリするくらい簡単でした。先週の木曜、午前8時半に柏市役所に立ち寄って戸籍抄本をもらい、その足で松戸駅前の旅券事務所に行き、インスタント写真を撮影し、申請作業が終わったのは午前9時20分でした。てっきり昼ぐらいまでかかるかと思っていたのに、拍子抜けしました。

〇パスポートの受け取りは、普通の日は午後4時半までなのですが、松戸の事務所は火曜と木曜は午後6時半まで受け付けてくれるので、今日は早めにオフィスを出ることでちゃんとゲットすることができました。そういえばこの間、仕事のIT化は進んだし、住民基本台帳という本人チェックに便利なものも出来た。お役所仕事というものは、思ったより進化しているのかもしれません。

〇さて、ここにまっさらなパスポートがあるのですが、最初に押されるスタンプはROC-Taiwanということになります。そして来月になると、今度は初の中国出張を予定しておりますので、2つめのスタンプはPeople's Republic of Chinaになるのでしょう。果たして、パスポートを見たときの入国管理官の反応やいかに。ことによると、中国政府にとって好ましからざる人物と判定されるかもしれません。いや、事実そうだという説もあったりして。危うし、かんべえ。


<10月7日>(金)

〇村上ファンドは何を考えているのか。こういうときは、プロのご意見を聞いてみましょう。

●村上ファンドの行方・・・・阪神電鉄の攻防(ぐっちーさん)

〇納得であります。それに比べると、こちらは論壇か二階堂ドットコムか、かなり怪しげでな情報であるけれども、舞台が阪神球団であるだけに、こうした怨恨が背景にあっても不思議ではありません。

●村上ファンドの裏に謎の外国人?(ボーガスニュース)

〇どうでもいいことですが、「この悔しさは忘れはしない」というくだりで、「宇宙猿人ゴリ」のテーマを思い出しますね。

〇さて、阪神タイガースが上場された場合、今の株式市場から考えて、外資が買う可能性があります。それであれば、ぜひ外国人も阪神ファンにしてしまう必要があるでしょう。先日、ニューヨークの愛読者から、こんなものを送っていただきましたので、ここで紹介しておきます。


●六甲おろしの英語版(一番)

六甲颪に颯爽と                  Standing Tall against a Down Blowing Rokko Wind

蒼天翔ける日輪の                 The Rising Sun Waving in the Clear Blue Sky

青春の覇気美しく                  The Ambition of the Youth so Beautiful

輝く我が名ぞ阪神タイガース            Our Name Shines so Bright, Hanshin Tigers

オウオウオウオウ阪神タイガ−ス         Oh Oh Oh Oh, Hanshin Tigers

フレフレフレフレ                   Go Go Go Go。。。


<10月8日>(土)

〇誕生日も45回目となると、もううれしくないどころか、「四捨五入すると50代」という現実に鬱だったりするのですが、今週号の"The Economist"誌のカバーストーリーは、なんだかお祝いをもらったような気になりますね。

The sun also rises 〜Japan's chances of prosperity and influence look surprisingly bright

http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=4488690

〇これはビル・エモット編集長の手によるもの。彼は日本支局長であった1989年に『日はまた沈む』という本を出版し、バブル期の日本経済の将来を悲観してみせました。「頂門の一針」というべきタイミングであり、今から「お見事」な予想でありました。当時読んだ記憶では、「かくかくしかじかの理由で日本は沈む」というような本ではなく、大局観として「沈むかもしれないよ」と警告する内容であったと思います。

〇そのエモット氏が、今度は『日はまた昇る』という。別に皮肉ではなしに、このタイミングで日本復活を予言することは、ジャーナリストとしてはリスクの小さな賭けでしょう。現在、訪日中で、あちこちで講演していているのも商売上手です。何より、「この人もそう言っている」というお墨付きに値打ちがあるわけで、「2005年は日本悲観論がリセットされる年」を代表するような指標といえるでしょう。

〇この3連休はちょっと忙しいので、いつものような要約を作るのはパスしますが、この最終部分だけはちょっと触れておきたい。

If all that is done, however, great prizes are within reach: rising productivity, rising living standards, a rising international reputation and, above all, a rising chance to face up to China on equal, or even superior, terms. Japan's relationship with China is a scratchy, tense affair; the latest dispute concerns gas and gunboats. If conflict--diplomatic or military--is to be avoided, Japan needs to become stronger, but also to foster other Asian alliances, perhaps through European-style regional institutions. To its Asian neighbours, the Chinese hare is impressive but also worrying. A Japan that showed itself to be a steady, prosperous and reliable tortoise would be an appealing counterweight. In Japanese fables tortoises do win races, but they are also something else: they are symbols of potency.

〇生産性、生活水準、国際的な評判などが続々と向上することにより、日本は中国と対等、あるいは優位な立場につく機会がある。中国をウサギ(Hare)、日本をカメ(Tortoise)に喩えていて、「近隣国にとって、ウサギは目覚しいが困った存在でもある」「日本のおとぎ話では、カメはレースに勝つ」としている。そう、15年間も停滞していた日本は、「ドジでのろまなカメ」だったのです。

〇最後はちょっと下品なギャグになっている。「それにちょっとしたオマケもある。カメは復活(potency)の象徴でもあるのだ」。potencyとは、言うまでもなく「インポテンツ」の反対語であります。日本はカメだったから、バイアグラが不要だったのですね。


<10月9〜10日>(日〜月)

〇この夏に帰省した際に、母親がこれを持っていけ、と言って渡されたのが「不老林」である。んなもん、要らん、と言ったら、もらいものなんだけど、ウチじゃ誰も使わないから、などと言う。まあねえ、考えたら自分も間もなく40代後半になるし、そういうものの世話になるかもしれんなぁとつい弱気になり、帰りのクルマのトランクに入れてしまった。

〇自慢ではないけれども、昔からヘアリキッドの類をつけたことがない。単なるモノグサなのだが、床屋で「何つけますか?」と聞かれるたびに、「要らん」と答えている。どうでもいい話だが、消費者物価統計がいかに当てにならないかという話の一例として、「男性用化粧品のサンプルが、つい最近まで“MG5”であった」というエピソードがある。MG5なんて、今時誰が使ってるんだろう。まさか総務省や日銀の職員にファンが多いとは思えないのだが。

〇それでですな、先日、鏡を覗き込んでつい弱気になった風呂上りに、この不老林をつけてみたのです。そしたら、くっせーのなんのって! ただ臭いんじゃなくて、オヤジ臭い。もう一度頭を洗いなおそうかと思うくらい、激しく後悔。これはもう、よっぽど切羽詰らない限り使えません。ほんのちょっとでも営業利益が出ている会社は、本気でリストラなんて出来ないものですが、「いつかは利益が出なくなるようなあ」という焦りだけはある。そんな困った状態です。

〇昨年のこの時期、冬服のズボンがきついことにショックを受けて、「毎朝の腹筋30回、腕立て20回」を始めたところ、なんとか1年近く続いている。効果のほどは不明だが、体重が減ったわけではない。でも、止めるときっと太るんだろうな。そういえば昨年の成人病検診では、コレステロール値が高すぎたような気が。今年もそろそろ受けなければ。こんな風にして、加齢が気になる40代後半。


<10月11日>(火)

〇これはチャイナウォッチャーのT氏から教わった話です。先々週の時点で、「中央電視台が放送する歴史ドラマの中で、国民党軍が日本軍と戦闘するシーンがあった」とのこと。へえ〜!であります。

〇1938年から45年まで続いた日中戦争において、日本軍と会戦したのは主に国民党軍であり、共産党軍の役回りはもっぱらゲリラ戦でした。そんなことは、まあ常識でありましょう。ところが「抗日戦線勝利」は、中国共産党にとっての金看板ですから、日本軍を打ち倒したのは共産党軍でなければ困るのです。「国民党軍も頑張った」ということは、従来から中国共産党も文書の上では認めていたことですが、それを中国人民向けのテレビ番組で認めるのは、なかなかに画期的なことではないかというご指摘です。

〇この点に関する中国共産党の従来の態度はなかなかに見事なもので、9月21日にゼーリック米国務副長官が米中関係に関する講演を行った際も、こんな痛烈な皮肉を寄せている。

●中国がねえ、第2次大戦中にこうむった損失に照らして、日本に正しい歴史認識を要求するのは、まあ理解できるわさ。それでも中国の歴史認識にも偏りがあるよね。ワシは満州事変の発生地に建てられた歴史資料館を見たことがあるけどさあ、大戦の記述が1941年の日米開戦から、いきなり1945年のソビエト参戦まで飛ぶのってどうゆうことよ。唖然としたね。アメリカは1941年から45年まで、太平洋で日本軍と戦ったわけ。その記述がまったくないっていうのは、これはいったい責任ある大国の歴史記述でしょうかね。

〇上記のようなご指摘は非常に大事なことであります。声を大にして申し上げたいですが、日本はアメリカに原爆を落とされて降伏したわけであります。中国共産党軍に負けたわけではないのであります。ビシッと言っておくんなさいまし。日本の歴史認識も威張れたものじゃあありませんが、中国共産党のそれには意図的な嘘が入っておるのです。

〇ところが中国共産党は、ここへ来て重大なカードを切ってきた。それは抗日戦線における国民党軍の活躍を認めるということで、それはみずからの存在意義を貶めるリスクを孕んでいる。このことは9月3日の「中国抗日戦勝60周年式典」の席上で、胡錦濤主席がはっきり言明している。こんな言い方をしている。

●国民党と共産党が指導する抗日軍は、正面の戦場と後方の戦場での作戦任務を分担し、日本の侵略者にともに抵抗・反撃する戦略態勢を形成した。・・・・抗日戦争初期において上海などの戦役で、国民党軍が日本軍に大打撃を与えた。

〇歴史ドラマに国民党軍が登場するのは、こういう下敷きがあってのことでありましょう。中国共産党は、なぜそんなギャンブルに打って出るのか。おそらくは反国家分裂法の制定によって、態度を硬化させた台湾の人心を掴む狙いがあるのでしょう。この春には連戦国民党主席(当時)が訪中し、台湾でも好意的に報道された。連戦の後を次いで党主席に就任した馬英九台北市長は、若くてハンサムで人気があって、2008年の総統選挙に出馬すると見られている。逆に民進党側は、陳水扁現総統が任期切れになってしまうと、2008年には適当なタマがいないという悩みがある。つまり、今のうちから第三次国共合作を仕込む、という狙いがあるのだろう。

〇こうして見ると、9月3日の胡錦濤発言は非常に重要であったことが分かる。面白いので、9月4日の新聞各紙における胡錦濤演説の報道振りを比較してみた。(かんべえも、たまには新聞を読むのであります)。それぞれの見出しは以下の通りでした。

●日経新聞「抗日戦、国民党軍が主力 中国主席演説 台湾独立派けん制」

●毎日新聞「中国抗日戦勝60周年式典 胡主席、陳政権揺さぶる 国民党軍を賞賛 台湾野党に秋波」

●読売新聞「抗日戦勝式典 胡主席演説 『歴史』で求心力維持 日中関係『安定』を重視」

●産経新聞「対日戦勝60周年祝賀行事 『日本は反省を行動で』 中国主席、靖国参拝をけん制」

●朝日新聞「中国が戦勝60年式典 抗日・友好二つの顔 総選挙の行方注視 外交論戦肩すかし気味」

〇短い記事の中に、「国民党軍」の重要性をメインに取り上げている日経新聞がワシ的には1位ですね。毎日新聞はもう少し詳しくて、中台間の細かな心理のひだにも触れているので、これも得点高し。その2紙以外は非常に点が低くなる。読売新聞は紋切り型の記事になっている。それでも記事の最後の部分で、国民党軍を英雄と表現した、と触れているから及第点。産経新聞は、いささかイデオロギー的な取り上げ方になっていて、国民党軍の件についても触れていないので失格。

〇最悪なのが朝日新聞ですな。なんなんだこれは。たまたまこの日は総選挙の1週間前で、各紙が一面で「自民党圧勝」の予想を出しているのだが、胡錦濤が「総選挙の行方を注視している」などとあらぬことを書いておる。わざわざ匿名の「政府系研究者」のコメントを使い、「靖国神社参拝を止めない日本の指導者に対する批判は不可欠だが、一方で日本との友好関係も大切、うんぬん」などという余計なお説教が入っている。そして長文の記事を書きながら、「胡錦濤が国民党軍を称賛した」という肝心の事実を見逃しておる。

〇朝日新聞よ、中国共産党の意向をちゃんと伝えてくれないと困るではないか。勝手に歪曲すると、怒られるよ。


<10月12日>(水)

〇日本貿易会の貿易動向調査会、秋の会合が始まる。2005年度、2006年度の予測を作るので、かなりの難行である。なにしろ今年の場合、予測の入り口時点からして分けがわからない。現時点から将来を推測する場合、「円高ですか?円安ですか?」「石油は何ドル?」といった前提条件を決めなければならないのだが、この時点ですでに方向性を定めにくい。ああ、なんでこんな面倒な年に幹事役が回ってきたのやら。

〇まず為替については、足下の円安の理由がわからない。外国人投資家がせっせと日本株を買っているのに、なぜ円高にならないのか。日本の民間資金が外貨預金をするくらいで、本当に円安になってしまうのか。まあ、かんべえの場合、ここ2年ほどずっと「日米金利差拡大で円安」と唱えてきたのだが、ここまで来てしまうとドル金利が4〜5%に上昇していくのと、円金利がひょっとすると0から1%になるかもしれない衝撃度を考えると、これは後者が大きいに違いない。転換点は近いのか、それとも遠いのか。

〇石油価格については、どう考えても現時点の価格が正当化できるはずがないのだが、さしあたって急落するようにも見えない。となれば、どこか適当な水準を定めなきゃいけないのだけれど、あとで後悔しない数値を選び出すのは一苦労であろう。

〇金利も難しい。物価はゼロかややプラスになりそうだが、GDPデフレーターはまだまだマイナスであろう。となれば、GDPは名実逆転が続くはず。でもって、量的緩和政策はどこで終わるんでしょう?

〇アメリカ経済はどうでしょう。毎年のように「住宅バブル崩壊論」が起きるけれども、「もうはまだなり」を続けている。経常赤字も、今年は8000億ドルペースになってきたので、あるいは「来年は1兆ドル」の声が出るかもしれない。これでも大丈夫か、といわれると、アメリカ経済に関しては強気を続けてきた不肖かんべえでも、さすがにたじろぐ。少なくともピークは過ぎているだろう。

〇中国経済も悩ましい。例の「中国経済・政治主導5年サイクル説」によれば、2007年の党大会に向けて、来年は少し落ち着くはずである。その一方で、「9%成長が7%成長になったら国が持たなくなる」という説があったりする。そんな風に、米中の経済が減速するとなれば、世界経済にはそれに代わる牽引役があるだろうか。あとはユーロ圏もNIES、ASEANも、原油高に弱い地域ばっかりではないか。

〇こんな風に議論百出で見通しを立てにくい中で、これだけは自信を持って予測できる、ということがひとつだけある。それは「日本経済は底がたい」ということ。考えてみれば、世界経済のボラティリティが上昇する中で、国内は安定しているということは、こんなにありがたいことはないではないか。

〇ちなみに貿易動向調査は12月5日(月)に発表予定です。マスコミ関係の方々、よろしくお取り上げの程を。


<10月13日>(木)

〇帰りの電車の中で、佐藤優氏の近著『国家の自縛』(産経新聞社)を読み始めたところ、昨今の中国について次の指摘に感心したのでご紹介まで。

●実は私の見立てでは、中国で初めて中華思想ではなく、中国史における中国民族という、欧米でいうところの民族ができていると。ネーションビルディングが行なわれていると見ているんです。これは産業化と一緒に起きてるんです。産業化で流動性が担保されるときに統一の空間というのが出てくる。結論から言うと、その時に「敵のイメージ」がとっても重要になるんです。

〇今年の春に荒れ狂った反日運動は、中国人が日本という敵を作ることで、史上初めて「中国人」という意識を確立しつつあるからではないのか。それをもたらしたのは、急速な経済発展なのではないか。――実は溜池通信の今週号では、久々に中台関係を取り上げているもので、いろいろ考えさせられました。詳しくは明日の号で。

〇そうそう、明日はテレビ東京のWBSに出ます。地上波は久しぶりだなあ。


<10月14日>(金)

〇雑駁ながら、楽天のTBSへの提携呼びかけについての感想。というか、ほとんどのことはWBSで言ってしまったので、言い残したことについての追加を少々。

〇テレビ局に入社する人で、「金儲けをしてやろう」と思っている人はいないでしょう。「面白い番組を作りたい」「報道で真実に迫りたい」といった動機で入ってくる。それは大いに結構なことだし、視聴者としては是非そうであってもらいたい。ところがそういう人が出世をし、会社の社長になると今度は困ったことになる。儲けることに才覚がなかったり、「株価が上がると困る」みたいなことを言ったりする。株主の立場になると、こんな困った経営者はいない。結局、テレビ局はちゃんとしたプロの経営者を雇えばいいと思うのだが、古い会社だとそういうことができない。

〇他方、楽天やライブドアのようなIT企業も独特な条件下にある。彼らは「金儲けをしてやろう」としか考えていない。それは大いに結構なことだし、株主としては是非そうであってもらいたい。ところがビジネスは年商400億円でも、時価総額は1兆円などといった馬鹿げたことになると、とにかく株価の下落を恐れるようになる。実はこの世界、将来性はあんまりないのだけれど、キャッシュはあるし、身軽に行動するのも得意だ。動かないと株式市場に見放されてしまうから、とりあえず目立つことを考える。でもって、テレビ局を買おうなどとしてみる。

〇ホリえもんのときにも感じたことですが、三木谷氏は「ネットとメディアの融合」なんて本気で考えているんでしょうかね。本当にそれが成功するのであれば、誰かがとっくの昔にしているはず。悪いけど、三木谷氏が世界で最初の成功者になるという絵は、かんべえの想像力の範囲外にあります。彼の場合、「ホリえもんより、ちょっとだけ上手に動く」くらいが関の山なんじゃないでしょうか。


<10月15日>(土)

〇昨日は遅かったのに、今日は朝から子供のドッジボール大会に駆り出される。秋の恒例の行事。今年は19回目なのだそうだが、その前は「ポートボール」をやっていた由。あったなあ、ポートボールって。いかにも文部省が考えましたって感じのゲームでした。あれだと少人数しか出られないので、一度に大勢出られるドッジボールになったのだそうだ。

〇大会ルールが決められている。1チーム12人。顔面セーフ。お助けボールあり。死人ボールなし。2人に当たったら最初の人だけアウト。ラインを踏んだらラインアウト。そういえば、ワシらの頃は「ヒザ下セーフ」もあったなあ。注意事項の中に、「応援または保護者からのアピールは認めない」とあるのがよろしいな。見ている親の方が、得てして熱くなってしまうのである。

〇それにしても小学生のドッジボールでさえ、延長戦になれば双方盛り上がるし、ラッキーボーイが誕生したり、流れが変わる一瞬があったり、負けると泣き出す子がいたりして、スポーツらしくなる。地区対抗なので、人数の少ないウチの町会は最初からほとんど勝ち目がない。近所のマンションと連合チームを作るのだが、ここも築1984年なので子供の数は少ない。やはり強いのは出来たてのマンションの子供たちですな。あとは歴史の古い名門町会。

〇幸いにも天気がもって、無事終了。われらが町会は、高学年の部は1回戦負け、低学年の部は2回戦負け。まあ、こんなもんでしょう。子供たちはお弁当を食べて、お菓子と参加賞をもらって午後の部へ。って、誰かの家で遊ぶだけなんだけど。

〇当方はこんな平和な週末ですが、世の中には荒れる週末もあるらしい。2ちゃん議員板でこんなスレがありました。どうか無事にすみますように。

●【機動隊】鹿児島県伊仙町長選【出動】  http://society3.2ch.net/test/read.cgi/giin/1127819383/ 


<10月16〜17日>(日〜月)

〇文化放送で番組の収録。日曜朝の竹村健一さんの番組です。『1985年』をテーマにお話ししましたが、案の定、プラザ合意や中曽根首相、前川リポートなどの話で盛り上がりました。放送日は未定です。

〇以前からちょっと気になっていたことがあります。『1985年』の冒頭で取り上げた「日本の国運における40年周期説」は、最初にどこで聞いたのか記憶が曖昧なのである。だから本の中でも、出典をぼかしてある。うっすらと、竹村健一さんがラジオで話していたのを聞いたような記憶があって、以前から確認してみたかったのだ。今日、ご本人に聞いてみたところ、「ああ、それは僕が昔、よく話してたことや」と言っておられたので、どうやら正解だったようだ。

〇竹村さんとは別に、かなりアカデミックな形で「40年周期説」を検証していた人もいたらしい。『1985年』について朝日新聞のコラムで取り上げてくれた山脇論説委員に、加藤純一さんという方が情報を寄せてくださった。それによると、樋口久喜さんという方が1980年代から「社会変動40年周期説」を唱えていたらしい。またの名を「再来(さいくる)曼荼羅」法則ともいって、易経や景気循環論も盛り込んだかなりユニークかつ精緻なものであったという。サイクル論というのは、非科学的なところもあるのだけれど、奥が深いものなのだ。

〇などと、書いているうちに、千葉ロッテマリーンズの優勝が決まった。おめでとう。プレーオフではずっとロッテを応援していたので、正直うれしい。千葉県のチームということはさておいて、なんというか変に熱くて、いいチームだと思う。ロッテファンの応援も良い。熱狂度では、わが阪神タイガースといい勝負であろう。日本シリーズの相手としては、城島を欠いたソフトバンク・ホークスよりも、31年ぶり優勝のロッテ・マリーンズの方が、カードとしても新鮮で面白いと思う。

〇えっと、今日はニュースの多い日なので、あと少し。イラクの憲法制定国民投票はなんとか可決の見通し。いいニュースです。この問題においては、@スンニ派も投票に参加して可決される、のが最良で、次善はAスンニ派が参加して否決される、ことでした。仮に、Bスンニ派が参加せずに可決されたりすると、それはもう民主主義の否定になるので、あとあと大変なことになるところでした。今度の投票は、1月に行なわれた議会選挙よりも投票率が高かった様子。こういう点をまったく抜きにして、日本の都合だけで自衛隊が撤退すべきかどうかを議論しているのは、ちょっといかがなものかと思ったりする。

〇最後に小泉首相の靖国神社参拝について。上海馬券王先生から「4月の上海騒乱は皐月賞でした。今週末は菊花賞。やはり何事かあるのでは・・・」とのメッセージあり。やはり靖国参拝は日中関係にディープインパクトでありましょうか!


<10月18日>(火)

〇経済3団体主催のグリーンスパン連銀議長の講演会が行なわれる。場所は東京會舘。とっても大袈裟である。午前10時半開始だけど、警備のために10時20分に来てくれといわれ、あとから10時35分開始になりましたという連絡が届く。高をくくって10時25分頃に到着すると、東京會舘の近くは狂ったような大渋滞である。会場に入ってみると、これまたギッシリ入って椅子が足りないほど。知り合いの顔があっちこっちに。そういや、伊藤洋一さんは居なかったのかな?

〇グリーンスパン議長の到着は、ほかならぬその渋滞のために遅れる。ややあって、経済同友会の事務局の方から、「ただ今、議長が1階に到着されましたが、少し休ませてくださいということですので、恐縮ですがもうしばらくお待ちください」というアナウンスがある。そりゃ仕方がない。ご高齢なのだし、もしものことがあれば世界全体の損失である。というか、それがきっかけで世界恐慌が起こったらどうしましょ、てなもので、誰も怒らない。

〇しばらくして、グリーンスパン議長ご一行が入場である。福井日銀総裁、北城経済同友会代表幹事などとご一緒。今日の講演のテーマは「エネルギー問題について」。そっけなく、講演始まる。例のぼそぼそとしたしゃべり方なので、何を言っているのかほとんど聞き取れず。石油とロックフェラーの話など、エネルギー問題の歴史から説き起こしているのはわかるのだが、どうせお帰りの際には講演録が配られるのは分かっているのだし、中身なんて別にどうだっていいのだ。ワシは有名人を見に来ただけなのだ。

〇それにしても眠気を誘う話し方である。草稿を読みながら、読み違えると最初から読み直したりする。10分を過ぎると、周囲でスヤスヤと就寝される方が続々と。右隣のオヤジなどはいびきをかいている。面白いもので、通訳のレシーバーを耳に当てている人の方がよく寝ている。皆さま、大カリスマを一目見ようという心根で集まっているので、土産話ができればそれでいいのである。「こないだグリーンスパンの講演を聞きに行ったよ。え?内容?もちろん寝ちゃったよ」

〇かくして、大カリスマは質問を受けることもなく、静かに去っていったのでありました。めでたし、めでたし。

〇さて、こんなグリーンスパン議長訪日を祝福するかのように、今週号の週刊エコノミスト誌の特集は「米国経済の崩落」とある。インフレに火が点くとか、住宅バブルが破裂するとか、リスクがあるのは認めるけれども、「崩落」はねーだろう。そもそもアメリカ経済の成長率は、悪くとも3%台ですから、日本よりも高いっすよ。循環論的に言えば、アメリカの景気はそろそろピークを過ぎて、来年は減速に入るだろうというのが常識的な読みである。「暴落」や「崩落」はカンカンの強気のときに起きるものであって、今みたいに峠を越したあたりで、普通大崩れはしない。

〇それよりも心配なのはブッシュ政権のほうである。昨年の選挙で得た「政治的資源」は、あらかたなくなってしまったようだ。今年になってからのブッシュがいかにツイテないか、数え上げてみると呆れるほどである。

<ブッシュ>

1.鳴り物入りで掲げた「公的年金改革」がまったく不評で失速。

2.夏休暇中の別荘に、イラク戦死者の母親が「会わせろ」と言いに来て、シカトしたら反戦団体が母親応援団を結成。

3.百年に一度のハリケーン来襲でニューオーリンズ市が壊滅状態。不手際が相次いで政府に非難集中。

4.CIA機密漏洩疑惑で腹心のカール・ローブがピンチ!

5.続いて下院の共和党実力者トム・ディレイが汚職容疑で提訴。

6.さらに上院の院内総務ビル・フリストもインサイダー取引疑惑。

7.最高裁判事に自分の元側近女性を指名したら、保守派やネオコンが総スカン。

〇さて、これと同じことが全部、小泉さんに起きたとしたら、どうなるでしょうか。

<小泉>

1.一枚看板である郵政民営化法案が大差で廃案に。

2.イラクの自衛隊で死者が出る。歌舞伎見物しているところへ、犠牲者の親族が押し寄せる。

3.大型台風で宮崎市が壊滅。

4.飯島秘書官に致命的なスキャンダル。

5.森元総理が汚職容疑。

6.青木参議院議員も身動きとれず。

7.日銀総裁に片山さつきを指名したら、大ヒンシュク。

〇これだけ続いたら、さすがの小泉政権ももたないでしょうな。いや、ホント、ブッシュの不運と小泉の豪運は、見事な対比をなしております。


<10月19日>(水)

〇今週末から日本シリーズが始まるのですが、ロッテの主催ゲームは、見事に東京モーターショーと重なってしまったのですね。千葉マリーンスタジアムは幕張メッセから至近距離にあるので、「クルマで行ける野球場」というメリットがあるのですが、モーターショーのお陰で駐車場は満杯状態。予期せぬ事態となってしまったようです。ロッテファンは「今年はプレーオフに出たい!」を合言葉に応援していましたが、まさか優勝して日本シリーズを戦うとは思っていなかったのかも。

〇ちなみに千葉市長は、「優勝したらドーム球場にする」と言ってるらしいので、勝てばまたまた大騒ぎになるでしょう。それにしてもロッテというチーム、千葉市を中心としたローカルなチームでしたが、意外とこれが全国区になるチャンスかもしれません。千葉県はもともと巨人ファンが多いし、とりあえず「千葉市の野球チーム」から、「千葉県の野球チーム」という地位を固めるだけでも、ファンを増やすことができるはず。千葉県は600万人以上いるはずなので、それだけでもデカイですからね。

〇考えてみれば、西武ライオンズも所沢のチームであって、埼玉県のチームという印象は薄い。横浜ももちろんそうですね。しかし野球チームを支えるファンは、都市よりは地域や都道府県が単位であるのが理想でしょう。先日、北海道に行った際に、釧路駅にでっかく「日本ハム応援ツァー」の垂れ幕がかかっていたのを見ました。北海道は全道あげてファイターズを応援しているような感じでした。

〇とはいえ、日本シリーズはもちろん阪神タイガースがいただきますよ。でないと、「2005年と1985年は似ている」理論が崩壊してしまいます。


<10月20日>(木)

〇読者の方が、「こんなのあります」と教えてくださいました。

●うどん屋かっちゃん http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=407761&log=20051018 

ネットで拾ったオモシロイお話。

「東アジア各国の代表4人が集まって、互いに誰が一番存在感があるかを勝負しようという事になった。

 北朝鮮の将軍は、大量の軍事予算を計上し、核ミサイルを配備した。
 韓国の大統領は、北朝鮮にエネルギーと食料を大量に支援すると発表した。
 中国の首席は、予算と人材を惜しげなく注ぎ込み有人宇宙船を打ち上げた。
 日本の首相は、神社にコインを一枚投げ込んだ。」

うふふ。かんべえさんあたりが喜びそうなアネクドートでつね。


〇かんべえのテイストはそんなに有名なんでしょうか。でも、これは確かにかんべえ好みです。

〇実は先日から気になって仕方がなかったのです。小泉さんが靖国神社で投げたお賽銭は、果たしていくらだったのか。できれば500円玉であってほしいと思うけど、テレビでちらっと映った感じだと、100円玉っぽいですね。そうだとすると、有人宇宙飛行船万歳と、中国の善男善女が沸き立つなかで、小泉さんが投げた100円玉の存在感はアッパレといえましょう。「月と6ペンス」ってな対照の妙があります。

〇当初、中国側であがった怒りの中に、「こんなめでたいときを狙って参拝しやがって」という声があったそうです。もちろん、日本側ではそんな深いことは考えていないのですが、当日の中国のテレビ局はお祭り騒ぎ一色になっていたので、小泉ケシカランというニュースを流す十分な枠がなかった。それを読んで参拝を仕掛けてくるとは、小泉はなんてズルいんだ、というわけ。もちろん、そんなのは考え過ぎで、その日がたまたま秋の例大祭だったからに過ぎないのですけれども。

〇中国によるこの手の過大評価は枚挙に暇がなく、尖閣諸島の灯台の所有権を政府に移転した日が、偶然にも中国の旧正月だった。そうなると、大学生がデモをやりたくても、ほとんどの学生は田舎に帰省してしまっている。これも「日本にしてやられた!」という怒りを呼んだそうです。官邸や外務省が、その手の計算をきっちりしているようなら、日本外交ももうちょっと見どころがあるのですけどね。

〇ちなみにチャイナ・ウォッチャーT氏の見立てによると、今回の小泉非難のボキャブラリーは従来のものと比べるとかなりトーンが低く、中国共産党としては「もうこの件に構いたくない」というメッセージが読み取れるとのこと。そうだとすれば、今週末の上海馬券王先生は、心行くまで菊花賞に専念できるということになります。青の7番、ディープインパクトの疾走が目に浮かぶようであります。ふん、ワシはその頃、台湾に行っておるので見られないんだよっ。日本シリーズの第2戦もねっ!

〇ところで今週号のNewsweek日本版では、副編集長のコラムが「中国の宇宙飛行に騒がない日本人って、とっても大人でいい感じじゃん」という意味のコメントしている。きっと彼は、スプートニク・ショックの際のアメリカ人の動揺を覚えている世代なんでしょう。Newsweek誌としては、「日本が中国に負けた!」「NASDAは何をやってる!」という怒りの声が全国で澎湃と湧き上がる「絵」を思い描いたのかもしれません。でも、日本人は宇宙開発にはあんまり燃えないんですよね、昔から。

〇いつも思うことですが、日本人は幸福なことに、歴史に対するトラウマが薄い。もちろん、太平洋戦争で負けて、原爆を落とされたという痛みはあるわけだけれども、それは戦後の経済発展でほとんど帳消しになったと思っている。さらに、「わが国はこれで世界一」とネタが民間部門にいっぱいあるので、わざわざ政府が国威発揚をする必要も感じない。もっといえば、税金の使い道に対しても最近は厳しくなっているようだ。

〇中国が宇宙衛星に、北朝鮮が核ミサイルにのめりこむのは、合理的な判断であるとは思われません。極論すると、国を失ったことがある民のトラウマがなせる業なのではないでしょうか。それでは彼らに同情するかというと、情の薄いかんべえさんは、「そういうのって、イタイよなあ」と思ってしまうのでありますが。


〇追記:上海馬券王先生から、衝撃の新作が届きました。その名も「特報!VIPたちの菊花賞展望」。ジョークの本棚をご参照あれ。


<10月21日>(金)

〇その後のTさんからの追加情報によれば、10月20日午前に中国では党中央・国務院で鳥インフルエンザ対策会議が開催されたらしい。これは大事件であって、下手をするとSARSのときのような騒ぎになるかもしれません。こんなときに北京や上海で反日デモが起きたりしたら、田舎から出てきた保菌者が人ごみに紛れ込んだりして、それこそ目も当てられない。駄目ダメ、デモなんて絶対禁止。ということで、小泉非難も新聞では小さな扱いになっているとのこと。

〇要するに、中国共産党は靖国参拝問題はスルーしたいんですよ。そんなものに構っちゃいられないくらい、緊急の問題がたくさんあるんだから。それでも日本の某新聞あたりは、「頼むから反日デモが起きて欲しい」と願っているんじゃないでしょうか。悪い癖だよね。中国共産党の意図をちゃんと正確に伝えなきゃダメだっつーの。


<10月22日>(土)

〇千葉県は朝から雨です。これは日本シリーズ第1戦は中止かもしれませんね。セパ両チームともドーム球場でないのは久しぶりだそうですが、そういう点では不便です。

〇明日からしばし台湾に行ってきます。それはそれで楽しみなのですが、下記のチャンスを失うのであります。

(1)明日の菊花賞で、ディープインパクトが三冠馬となる瞬間を見られない。(まあ、ゴール直後に武を落馬させたノーリーズンの例もありますけどね。それはそれで見物ではあるし、どんな組み合わせでも万馬券誕生でしょう)

(2)日本シリーズで、阪神タイガースが勝つのを見られない。(世間は「31年ぶり優勝」のロッテに同情的であるらしい。そりゃま岡田監督よりは、ボビー・バレンタインの方が可愛げがあるしなあ。ホントはちょっと不安だぞ。今年の井川は信用できないもんなあ)

(3)明日の柏市長選挙に投票できない。(現職市長に共産党候補だけが挑戦する無風選挙。争点になっているのは、新たに導入されたゴミ袋の是非。というわけで、不在者投票をする気にもなれないのである)

〇26日水曜日の夜に帰ってまいります。台湾ではいつもと同じホテルですので、更新もできると思います。そうそう、昨晩の10時35分頃にフロントページのアクセスカウンターが300万を超えました。ご愛読深謝です。


<10月23日>(日)

〇案の定、井川は滅多打ちであった。およそ日本シリーズの歴史において、初戦で10対1で負けたチームが、最後には優勝したなんてケースはあったでしょうか。おそらく今の日本のムードは、総選挙後の自民党と同じで「阪神タイガースの勝ち過ぎ」を嫌気しているのではないか。阪神タイガースの強みは、1985年も2003年も甲子園では負けてないということで、その点は心強い。だが、今の日本では、空気も天気もロッテの応援をしているような気がするぞ。

〇それからディープインパクトよ、おめでとう。三冠馬が単勝100円とはどういうことでしょうか。2位のアドマイヤジャパン(小泉首相が買ったと伝えられる?)が複勝で400円。馬連7―6が1260円。上海馬券王先生はゲットされたのでしょうか?いろいろ気になるのだが、気にしないことにしよう。だってワシは台北に来てしまっているのだから。

〇今度の出張は御難続きである。まず、更新したばかりのパスポートが行方不明になってしまった。先週月曜日に気がつき、火曜日はまだ余裕をかましていたが、水曜日の夜になっても見当たらないので心底焦った。こんな馬鹿なことで台湾にいけなかったら、招いてくれた人に申し訳ないだけでなく、かんべえの信用失墜も甚大である。正直、悪夢を見て明け方に起き出し、家さがしを始めたところ、配偶者が起きてきて「まだ見つからないの?」 

〇まるで出来すぎた話のようだが、彼女が探し始めたら、ものの5分で失われたパスポートを見つけ出してしまった。そうでなくても頭が上がらないのに、これでまたまた大きな借りを作ってしまったのである。金曜日の夜に最後に取り出したときに、寝ぼけ眼で変なところに片付けてしまったのが原因でありました。

〇しかもですな、昨晩になってPCがインターネットに接続できなくなった。理由は不明。ネットにつなげないPCを出張に持っていくのもあほらしいのだが、まあ急なこととて仕方がない。それが、ホテルにチェックインして、ダイヤルアップしてみたらちゃんとつながった。お陰でこうやって更新できる。ちなみにこのホテルは、2002年8月と2004年1月に泊まったのと同じホテルで、今回来てみると部屋にLAN回線が来ていた。でも、セッティングに自信のないかんべえは、あいかわらずニフティの海外ローミングを頼るのであった。

〇ということで、まるで台湾の話にはならないのであるが、それはまた後で。


<10月24日>(月)

〇日米台三極戦略対話のために台北に来ております。なんというか、昨晩から今日一日かけて、とっても雰囲気が重いのである。地元、台湾シンクタンク(民進党系)の人たちが置かれた政治状況の深刻さというか、閉塞感のようなものに唖然とすることが多い。それに比べれば、日本の政治経済はまるでおとぎ話のように明るい。「小泉さんは良かったねえ、それに比べてウチの場合は・・・」という気分が、台湾とアメリカの両方の参加者に漂っていたりする。

〇あまり討議の内容を書くわけにはいかないので、その代わりといってはなんですが、第2セッションのスピーカーを務めた信田先生の秀作ジョークを、深い敬意を込めてご紹介しておこう。

レディが"No"と言ったら、それは"Maybe"のことである。
レディが"Maybe"と言ったら、それは"Yes"のことである。
レディが"Yes"と言ったら、それはもうレディではない。

外交官が"Yes"と言ったら、それは"Maybe"のことである。
外交官が"Maybe"と言ったら、それは"No"のことである。
外交官が"No"と言ったら、それはもう外交官ではない。

小泉さんが"Yes"と言ったら、それは"Yes"のことである。
小泉さんが"No"と言ったら、それは"No"のことである。
小泉さんが"Maybe"と言ったら、それはもう小泉さんではない。

〇かんべえが泊まっているホテルでは、NHKの衛星放送が見られる。昨晩はちゃんと日本シリーズを放映していたそうだ。ふんっ、誰がそんなものを見るものか。ということで意地でブルームバーグをつけております。


<10月25日>(火)

〇今日の台北市は雨。そして10月25日は、台湾における「光復記念日」である。1945年の8月15日に終戦の詔勅があって、9月2日に戦艦ミズーリでの降伏文書調印があって、それが中国に伝わった翌9月3日が中国における「抗日戦線勝利記念日」である。そしていかなる理由があったのか、さらに遅れて10月25日に台湾は当時の中華民国に帰属したことになっている。韓国では「光復」は8月15日であり、大いにお祝いをする。台湾における10月25日は、そこらじゅうに「慶祝光復60周年」の看板がかかっているけれども、人々はそれがどうしたよ、ってな感じである。そんな中で、さすがに国民党本部は「抗日戦勝60周年」を大いに祝っていたようである。

〇総統府の前で、街宣車とデモ隊を見かけた。とっても古くさいバンに乗った5〜6人の右翼風の男たちが、「祝60周年」と「李登輝は国賊だ」といって意味のプラカードを掲げていた。だからといって大事にはならず、写真を撮っただけでそそくさと帰った様子。これが人民日報でどんな風に報道されるのか、ちょっと興味深くはある。

〇総統府を訪れた岡崎研究所一行に対し、陳水扁総統はこんな風に言った(とワシには聞こえた)。今日は光復記念日であるけれども、それは台湾が台湾の人々の手に戻ったことを意味するのであって、台湾が中国に帰属したことを意味するのではない。中国では60年後の今年になって初めて光復記念日を祝っているが、これに参加している野党の政治家や軍のOBたちがいるのは遺憾である・・・・」――さっそく夕方のTVニュースで伝えていたようです。

〇溜池通信の10月14日号でも紹介したとおり、中国共産党は今年になって初めて「日本軍と正面で戦ったのは国民党である」ことを認めた。これまでは「抗日戦線勝利」が中国共産党の金看板であったから、「日本の帝国主義を破ったのは中国共産党である」ことになっていた。違いますよねー。日本はアメリカに負けたんですよねー。百歩譲って中国戦線で勝てなかったのは、国民党軍が頑張ってからですよねー。共産党軍はゲリラ活動をしてただけです。

〇それはそれとして、国際会議に出ていると下腹部は突き出してくるし、顔の輪郭は丸くなる。ホテルに閉じこもって、身体を動かすことなく議論をし、食事はきっちり出て、食べ残すと申し訳ない気になってしまう。それだけではすまなくて、せっかく台湾に来ているのだからと、昨晩は屋台村へ繰り出して上海蟹をトライしてみた。ビール3本100元(350円くらい)の店で、上海蟹は一杯200元もする。まあ、日本で食べるのに比べれば、ドロボーみたいな値段である。

〇さらに今夜は、夕食前にホテルを抜け出して、信田先生ご推奨のシャオロンポウの美味しい店に繰り出す。一人10個ずつ食べて、何食わぬ顔して夕食講演会(スピーカーは岡崎久彦氏である)に出かけていったら、なんとお隣に座ったのが黄昭堂先生である。ついつい行儀良く、出されたコース料理を残さずに食べてしまう。実はこんな風に、いくらでも食べられてしまうのはワシの隠れた特技&欠点である。夕食講演会の後は、ホテルのバーで痛飲。気がついたら店は看板で午前1時半。

〇明日は9時から記者会見ですよ、なんておっしゃいますけど、もう話すことなんて何もないっす。ホテルのチェックアウトもしなきゃいけないし、明日の最終日は慌しく日本に帰ってまいります。


<10月26日>(水)

〇駆け足でかけめぐった三泊四日でした。今回の台湾出張のまとめを以下の通り記しておきます。

〇個人的には嫌いで、使わないようにしている言葉だが、「閉塞感」という言葉がピッタリ当てはまるのが今の台湾ではないかと思いました。5年目を迎えた陳水扁政権は支持率25%まで低下。立法院では野党が多数派なので、政治課題がまったく動かない。国民党は、あたらしい馬英九主席の下で、2008年に政権を取るぞと意気上がるが、あいにくなことにカネがなくなってきた。かつて蒋介石が植民地時代の日本の資産を接収したために、「世界で一番金持ちの政党」といわれた国民党が、今や資産を切り売りしつつ凌いでいる。逆に与党・民進党は、ここへきて金銭スキャンダルが発生したりして、かつてのクリーンなイメージが台無し。両方とも、まったく何をやってるんだか。

〇以前の三極会議では、「このままだと政治でも経済でも中国の勢いが強まってきて、飲み込まれてしまうんじゃないか」といった話をよく聞いた。それがとうとうシャレにならなくなってきた。パソコン大手のエイサー、スタン・シー会長(「スマイル・カーブ」の提唱で有名な人)が、中国政府のイジメにあって引退を余儀なくされた話の内幕などを聞くと、まことに暗澹たるものがある。スマイル・カーブは「付加価値の低い中間部分は、コストの安い中国へ移してしまえ」という議論であったが、それがご本人の命取りになってしまったことになる。(訂正:中国のイジメに遭ったのは奇美実業グループの許文龍さんの間違いでした。ああ恥ずかし)

〇台湾にとって、おそらくそれ以上に悩ましいのは「アメリカが当てに出来なくなってきた」こと。2002年夏の会議では、アメリカは今にもイラクへ攻め込みそうだが、それさえ片付けば、後はさらに強力になったアメリカが、アジアに睨みを利かせてくれるだろうという期待があった。日本でも北朝鮮問題について、同様な期待があったものだ。しかしアメリカはイラクから抜けられない形になってしまい、なおかつ道義的にも政治的にも傷ついて、アジアに関与する余裕がなくなってしまっている。

〇今後、中台海峡で武力紛争が生じ、「イラクでお忙しいことでしょうが、こっちの面倒も見てくれませんか?」という話になったとき、アメリカ議会(というよりアメリカ世論)が、どっちの方向に針が触れるかは、正直なところ見当がつかない。「民主主義を守れ」ということになって、即介入になるというのが従来の見方であったけれども、紛争発生のプロセス如何によっては「中国を刺激した台湾の自業自得だ」といった議論が出ても不思議ではない。まして中国は巨額の対米黒字を蓄え、せっせと米国債を買い込んでいる。だんだん中国に対して、モノが言いにくくなってくるかもしれない。

〇アメリカ側から出てくるメッセージは「俺は忙しいんだ。こんなときに中国を挑発するなよ」(独立反対)となる。これに加え、「かならず俺が守ってくれるなどと思うなよ。自分の身は自分で守るという気概のない国を、俺たちが軍事援助したりはしないからな」ということも加わる。これを具体的に言い表すと、「だから俺んところの武器を買え」となる。ところが、この武器購入のための特別予算が、台湾のGDP比3%もする。日本だったらザックリ15兆円規模だ。武器購入の予算案は、野党の反対で何度も立法院で否決されており、われわれが滞在中に34回目だったかの廃案の報があった。

〇武器の中身をめぐる議論もある。もっとも警戒すべきは中国の潜水艦である。1996年の中台海峡危機の際には、米軍の空母2隻が到着して事なきを得た。しかし現在の東シナ海の軍事状況では、空母は怖くて出られない恐れがある。その事態を回避するためには、かつて冷戦期にソ連の原潜を海上自衛隊のP3Cがきっちりマークしたのと同じ努力が必要になる。だからP3Cを台湾に買ってもらい、日米台で情報を交換していければいいのであるが、高い金を払って専守防衛の武器を買うというのでは、納税者の受けはあんまりよろしくない。

〇どうせだったら攻撃的な武器を買えばいいじゃないか、てな声が出てくる。たとえば長距離ミサイルを買って、上海に照準をあわせたらどうだ。あるいは当方も潜水艦を買うべきではないか。国民感情的にはそれも分からんではないのだが、それこそ中国を刺激することは間違いなく、この辺がいかにも悩ましい。ちなみに、対岸から台湾に照準を合わせている中国のミサイルは、すでに700基くらいに増えている。2004年1月には500基以下だったのに、年間100基くらいずつ増えていくのだから仕方がない。

〇台湾の出席者が、頻繁に口にした2つのキーワードがあったと思う。ひとつは「ゼーリック演説」で、9月21日に米国務副長官が行なった米国の対中政策を論じたもの。全般に現実主義路線でまとまっており、「中国は責任ある大国(responsible stakeholder)として振舞うべきだ」とお説教をしている。この欄の10月11日分でも一部ご紹介したが、中国を全体として肯定的に受け止める一方で、突っ込むべきところは突っ込んでいる。おそらく中国側は、この対中姿勢を高く評価しているだろう。台湾から見ると、「そうだそうだ」と言いたいことが入っている一方で、米中が接近して自分たちが置き去りにされているような、一抹の寂しさを感じさせる内容である。

〇もうひとつのキーワードが「2+2」である。2月19日に行なわれた日米の安全保障協議の席上で、「中台海峡に関する問題についての平和的解決を促すこと」が、日米の「共通戦略目標」になった。これは台湾から見れば、自分たちが忘れられていないという一筋の希望の明かりである。ちなみに「2+2」の意義については、不規則発言の2月20日と21日に詳しく解説してありますのでご参考まで。

〇かくして、アメリカが今ひとつ当てにならない状況下、台湾側の気持ちは乱れてしまうのである。武器を買いたいけど、高い。買わずにいると、「そんなやつは守ってやらない」と言われそうだ。でも、守ってもらえないのなら、買う必要もないという「鶏と卵」になってくる。ひょっとすると、彼らは商売が目的なのかも、という恐れも、心の隅のほうにあったりもする。そのうち、北京に守ってもらったほうがいいのかなあ、などという考えも頭をもたげてくる。

〇そんな微妙な状態にある台湾から見ていると、キラキラと眩しく見えてしまうのが日本なのである。小泉首相の総選挙大勝利に、陳水扁総統は大いに刺激を受けたのだそうだ。「内政問題に特化することで、こんな大勝利を得られるものなのか」というのがその理由であったらしい。経済もよくなっているし、ひょっとするとアメリカが当てにならない分、日本が味方してくれるんじゃないか。というのは買いかぶりもいいところだが、日中の対立が激しくなっている折りから、日本政治や東シナ海の状況まで、いろんなことに関心が高まっていることは間違いがない。

〇とまあ、こんな具合です。かんべえの守備範囲たる経済問題では、さしたる収穫はありませんでした。FTAに関する議論が不毛なのはいつもの通りですし、中国経済の動向など、今さら議論してもしょうがないという雰囲気でしたな。その辺は想定の範囲内なのですが、台湾経済が本当に空洞化しているのかどうか、その辺のことが確かめられなかったのはやや残念でした。

〇ところで台湾に行っていたお陰で、不愉快極まりない日本シリーズを見ないで済んだことは、ささやかな幸運でありました。それなのに、わざわざメールで毎日戦況を教えてくださった巨人ファンのI先輩のご親切には、ありがたくて涙が出たであります。でも、久々に「ダメ虎」を見てどこか安心するような気持ちがあるのは、いったいどういうことなのでしょうか。


<10月27日>(木)

〇うーん、日本に3日いないと、ずいぶん流れから取り残されているような気が。気になるニュースはたくさんあるのですが、とりあえず一番驚いたのは、下記のニュースの被害者がかんべえの知り合いであるYさんであったこと。

●朝日新聞、靖国問題で社内乱闘 http://www.zakzak.co.jp/top/2005_10/t2005102121.html 

〇全治10日とのこと。お気の毒です。でも、彼が人を殴った側でなくて本当に良かったのかも。

〇もうひとつ、今週末の秋の天皇賞はなんて難しいレースなんじゃい。まるで検討つかず。とりあえず2枠(黒)と5枠(黄色)は消しかな、などと自虐的な発想から抜けられない。まあ、野球のショックを癒すには競馬しかなさそうなのだが。


<10月28日>(金)

〇米韓同盟に関する研究会に出席。「韓国ってどうなってるの?」という声があちこちから漏れる昨今、専門家に聞いてみると確かに青瓦台が無茶苦茶な暴走を繰り返すので、アメリカとしては苦りきっている部分があるのだけれど、一応やるべきことはやっているというのが現状であるらしい。「へー、意外とまともじゃん」という反応が多かったですな。

〇それじゃあ日米同盟はどうなんじゃ、というと、普天間の問題の解決への過程を見る限り、あんまり誉められたものではないらしい。外務省ルートで聞く話と防衛庁ルートの話がまるで食い違う。どうやら激しい行き違いがあって、最後は官邸が寄り切ったようである。アメリカから見た場合、戦略上の重要性という観点から行けば、日本は韓国よりもはるかに重要なので、多少のワガママは大目に見る傾向がある。それをいいことに、結構な迷惑をかけているのかもしれない。少なくとも、日米は米韓のお手本だなどとは考えてはならないようであります。

〇でもって、普天間の移転はあれでいいんでしょうかね。かんべえの目には、この問題がイラクの新憲法と重なってしょうがない。どちらも妥当な結論が出てよかったねえ、という点では同意するよりほかにないのだが、沖縄県民とスンニ派の素朴な感情としては、「もうちょっと何とかならなかったのか」という悔いが残っているだろう。でも、それを言っても詮無いことであるので、「賛成だなどとは口が裂けても言えないが、とにかく早くワシらを押し切ってくれい」という感じなのではあるまいか。


<10月29〜30日>(土〜日)

〇あー、12時間も寝てしまった。とはいいつつ、今日も地元のバザーの勤労奉仕や、次の中国出張の準備などがあって、そんなに心和む休日ではないのである。

〇さて、明日になればどうせ分かってしまうことではあるし、予想の難しさは折り紙つきで、喩えて言えば今日の天皇賞のように「あっ!」と驚く結果になることは分かっているのだけれど、やっぱり気になる明日の組閣。以下は当てるつもりはさらさらなくて、「こんな風になるんじゃないか」「なったらいいのに」ということで作ってみたリストです。

●組閣予想

総理 小泉純一郎(無)
副総理 兼沖縄・北方担当  山崎 拓(山)
→X
総務 麻生 太郎(河)
→総務・郵政民営化 竹中平蔵
法務 森山 真弓(高)
→法務 杉浦正健
外務 町村 信孝(森)
→外務 麻生太郎
財務 与謝野 馨(無)
→財務 谷垣禎一
文科 中川 秀直(森)
→文科 小坂憲次
厚労 久間 章生(旧橋)
→厚労 川崎二郎
農林 松岡 利勝(旧亀)
→農林 中川昭一
経産 安倍 晋三(森)
→経産 二階俊博
国交 北側 一雄(公)
→国交 〇
環境 川口 順子(参・無)
→環境 小池百合子
官房 小池百合子(森)
→官房 安倍晋三
防衛 愛知 和男(二)
→防衛 額賀福志郎
金融・経済財政 竹中 平蔵(参・無)
→金融・経済財政 与謝野馨
国家公安・防災・食品安全担当  石破  茂(旧橋)
→国家公安・防災 沓掛哲男
地域再生・構造改革特区担当 渡辺 喜美(無)
→規制改革・行政改革 中馬弘毅
科学技術・IT政策・行革担当 林  芳正(参・旧堀)
→科学技術・食品安全・IT 松田岩夫
                               
→少子化・男女共同参画 猪口邦子
幹事長  武部  勤(山)
→幹事長 〇
総務会長 二階 俊博(二)
→総務会長 久間章生
政調会長 谷垣 禎一(谷)
→政調会長 中川秀直
幹事長代理 尾身 幸次(森)
→幹事長代理 逢沢一郎
国対委員長 園田 博之(谷)→

〇こうやって作ってみると、ついつい能書きを垂れたくなるのでありますが、まあ、それはじっと我慢してこのままにしておきます。まあ、2〜3人分当たれば上出来といったところでしょう。小泉さん、明日はどんな陣容でわれわれをビックリさせてくれるんでしょうか。


<10月31日>(月)

〇今日は午前中が経済同友会でASEANの勉強会。お昼は外国人記者クラブでアメリカに関する雑談会。午後は週刊SPA!による景気循環に関する取材。夜は「国連はいかにして誕生したか」の研究会。でもって、本日の焦点は、それらとはまったく無関係な閣僚人事なわけでありまして・・・・・。

〇いやあ、昨日の予想はじぇんじぇんでありましたな。赤字で正解を書いておきましたが、福田康夫を切るところと、武部留任を読んだところまでが当たりで、あとはボロボロ。サプライズなし、というのもひとつのサプライズで、「どうせ当たらない」という予想が当たったことをもって、みずからの慰めとせざるを得ません。それでも、いろいろ思考実験をしてみたお陰で、「小泉流」の思惑の一端が見えた気がするので、以下、外れた言い訳を縷々書いてみます。

〇まず武部幹事長留任というのは、合理的な選択であると思います。今後の幹事長に残っている仕事といえば、来年9月の総裁選挙を仕切ることぐらいで、それまでは選挙もなければ人事もない。逆に「ポスト小泉」と目される人が幹事長になったりすると、これぞ身の不幸というべきである。それだったら「偉大なるイエスマン」を下手に動かすよりも、そのまま据えておいた方が余計なことを考えなくて済む。と、ここまでは読めた。同じ日に党役員人事と閣僚人事を一気にやってしまうくらいだから、党役員は留任が多いのだろうという予測もあった。

〇昨日の予想の中で、与謝野馨、久間章生、二階俊宏、中川秀直といった人たちが重用されるであろうというのは、なんら目新しい読みではありません。論功行賞という意味では、それぞれ政調会長、総務会長、総務局長、国対委員長という形で汗をかいた人たちですから。年下の官房長官の下で我慢してきた杉浦副官房長官を法務大臣にするなど、意外と情の細やかなところもあったりする。

〇ただしその他の論功行賞では、たとえば森山真弓(懲罰委員会の損な役回り)、松岡利勝(亀井派切り崩しに貢献)などはスパッと無視している。さらにいえば、盟友たる山崎拓はいわば「死に場所」を求めていると思われるのに、遠慮なく無視してしまった。この辺のアンバランスさが、いかにも小泉流。

〇そうかと思うと、さりげなく「在庫一掃」もやっている。中馬氏の閣僚入りは河野グループにとっての長年の課題。参議院からの要請である松田、沓掛氏をすんなり入れたのも、一見、小泉さんらしくない温情のように見える。しかるに参議院との関係を考えると、向こうはもう戦々恐々といった状態であるのだから、ここで面目をつぶして悦に入るよりも、貸しを作ってあとは恐れ入れ、という判断なのだと考えれば違和感は少ない。

〇さて、この内閣を命名するとしたら、「地雷処理内閣」というのが適切なのではないかと思います。小泉内閣、残り1年弱の任期には、たくさんの地雷が埋まっているので、あだやおろそかでは務まらないという事情がある。

●総務大臣(竹中)→郵政民営化が骨抜きにされないように推進。三位一体改革における地方との関係処理。

●法務(杉浦)→憲法改正。国民投票法案。人権擁護法案。

●外務(麻生)→対中関係の改善。
(町村外相が替えられた理由は、小泉首相として「俺が対中強硬論を言っているのに、お前が止めないでどうするんだ」(空気読め)という苛立ちがあったのではないでしょうか)。

●財務(谷垣)→増税&政府系金融機関のリストラ&特別会計の見直し。

●文部科学(小坂)→教育費の地方負担

●厚生労働(川崎)→年金問題

●農水(中川)→BSE&ドーハラウンド&農協改革。
(農水族のお前に任せたぞ!というお達し)。

●経済産業(二階)→資金不正処理疑惑。東シナ海のガス田開発問題もソフトランディングの要あり。

●防衛(額賀)→沖縄基地問題。日米関係の要。

〇どれ一つとして手が抜けない。小泉さんは先の総選挙で大きなPolitical Capitalを得たことになっているのだけれど、下手にそれを使おうとはしないで、受身に構えているのは賢明だと思います。この先何が起きるか分からないのですから。

〇と、こんな風に考えていくと、「サプライズ」を入れるような遊びは厳に慎まざるを得ない。「小泉シスターズ」についても、最大の功労者の小池氏を留任させたのが関の山で、あとは女性閣僚を作るとしたら「少子化・男女共同参画」くらいしか残っていなかった。そうなると「母親」である真新しい女性議員は猪口さんくらいであって、彼女にとってはまことに不本意なことでしょうけれども、変な形で大臣ポストが回ってきた。

〇さて、こんな風に閣僚人事を読み解いた上で、「ポスト小泉」を占うとしたら、たぶんこんな感じになるのだと思います。

本命◎ 麻生太郎 (ただし対中関係を改善することが条件)
対抗〇 谷垣禎一 (ただし財務省に切り込むことが条件)
穴馬▲ 安倍晋三 (ただし内閣の調整をソツなくこなしつつ、過激な発言を慎むことが条件)
大穴△ 中川昭一 (ただし農水族としての過去を否定しつつ、大胆に行動することが条件)
注意X 竹中平蔵 (ただし郵政民営化をキチンと完遂することが条件)

〇見事に「改革を競わせる」という形になっているではありませんか。以上、後付けの理屈の集大成であります。









編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2005年11月へ進む

***2005年9月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki