●かんべえの不規則発言



2020年6月







<6月1日>(月)

〇トランプ大統領が今月下旬(たぶん6月25〜26日)に計画していたG7サミットを、9月に延期して実施するとのこと。しかも新たなメンバー国として、ロシアと韓国と豪州、インドを招待したいとの意向だそうだ。いやー、モノを知らないというのは怖いものでありますな。

〇G7サミットの歴史においては、メンバー国以外を招くというのは普通に行われていたことであります。「アウトリーチ会合」呼びまして、昔は中国や南アみたいな国を呼んでおいて、「いや〜、あなたもこういう晴れがましい会合に出られて嬉しいだろう」てなことをやったものであります。2008年にG20ができて以降は、さすがにそういう「上から目線」は通用しなくなりましたが。

〇逆にメンバーを増やそうと思ったら、それはそれは大変なことでありまして、1990年代にロシアを入れてG7をG8に拡大したときは、それこそ3年がかりくらいで実現したものです。あのときはクリントン大統領がエリツィン大統領を気に入って、いろいろ工作したわけでありますが、「ロシアは政治会合には入れるが、経済会合には入れない」など、さまざまな「意地悪」を受けたものであります。

〇ちなみに当時の日本外交は、ロシアをG7に入れることに反対した。いつもアメリカに追従しているわけではないのです。2014年にクリミア併合が起きて、ロシアがG8から排除されたときは、「私はあのとき反対しましたよねっ!」と言える立場でありました。

〇そんな世界でありますから、7か国の会合をいきなり11か国に増やす、なんて身勝手が通るはずがないのであります。こんな横車は、トランプさんだからといって通るものではなく、というよりもトランプさんだからこそ通らない。なにしろ1975年から続いている会議なんです。定例飲み会のメンバーだってそうでしょ? 「アイツを入れるなら俺は出ない!」と言い出す人がかならず出るのだから。「慣性の法則」を侮ってはなりませぬ。

〇去年と同じことをするのは簡単だ。しかし去年と違うことをするのは非常に難しい。そもそも9月になったら大統領選挙が佳境に入っていて、サミットの準備なんてできなくなりますがな。というか、今はジョージ・フロイド氏の暴行死亡事件を皮切りに、全米の15州とワシントンDCで暴動が起きております。いつ収まるやら見当もつかず、しかも暴動を通してますます感染が広がるかもしれない。

〇とにかく、今月下旬に対面でG7サミットを開けるような気が全然しない。もういいじゃないですか、テレビ会議で。リアルで会うのは、国際協調の機運が高まってからの方が良いのではないかと思います。


<6月2日>(火)

〇本日はニコニコ生放送「激論!!コロナ第2ステージにどう立ち向かうか?」に登場しました。石破茂、岡本三成、村上世彰、三浦瑠璃、という方々を相手に、モデレーターをやりつつ言いたいことも言え、というお達しでございました。いや、面白かった。4000人くらいの方が、生放送をご覧になったそうです。

〇後で放送を見かえしてみると、視聴者の声が字幕で流れるのね。誰の話が好評かとか、この話は長くて飽きられているとかが一発で分かってしまう。油断なりませんな。どなたかは存じませんが、「かんべえ、がんばれ」と言ってくださった方もいらしたような。御礼申し上げまする。

〇今日の議論では後半に2次補正の話が出てきて、これはたまたま今朝の産経正論に寄稿した内容とバッチリ重なっていたので、試験のヤマが当たった学生の気分でしたな。しかし2次補正はたいへんですよ。論点が満載と言う感じです。

〇たまたま今日の産経新聞には、世論調査が掲載されていて、「ポスト安倍、石破氏が再びトップ」という記事が出ている。「ご感想は?」と尋ねてみたところ、「わが党支持者は今の総理がトップですから。私はなぜか立憲民主党支持者に多い」などと韜晦しておられました。

〇こう言っては失礼ですが、この2カ月くらいは石破さんはほとんど目立っていなかったと思います。ところがこの間に内閣支持率がどんどん低下し、他のポスト安倍候補者もどんどん失速していった。その結果、相対的に浮上した感じがありますね。これはこれで、リスクをとったことへのリターンだったのではないかと思います。

〇そういえば、外為どっとコムの原稿もアップされていたのであった。道理で忙しかったはずだ。てなことで、あちこちにリンクを張る次第であります。


<6月3日>(水)

〇本誌がいつも注目しているラスムッセンのデータについて、最近、ちょっとした変化がありました。

〇この世論調査会社は、「トランプさん御用達」であります。ウィキペディアを見ると、"The Rasmussen polls are often viewed as outliers due to their favorable Donald Trump approval ratings." (ラスムッセンはドナルド・トランプの支持率が高く出るので、しばしば異常値(outliers)とみなされる」と書かれている。

〇まあ、いいんです、大事なのはトランプさんがそれを信じていて、毎日のようにチェックしていて、いい数字が出るとそれをツィートして自慢するのですから。しかも最近では、世論調査の名門・ギャラップ社が毎日の調査をやらなくなってしまい、こんな調査をタダで公表してくれる奇特な会社はほかにないのです。

〇で、この数値が5月27日に史上最低値を付けたのです。支持する(Total Approve)が42%、支持しない(Total Disapprove)が57%でした。15P差は初めてのこと。ちなみにこの日は、「強く支持する」(Strongly Approve)が30%、「強く不支持」(Strongly Disapprove)が47%でありました。この日はコロナウイルスによる死者数が10万人を突破した日ですから、それもむべなるかな、であったのです。

〇ところが、であります。この日の2日前にミネソタ州ミネアポリス市で、例のジョージ・フロイド氏が警察官の暴行により死んでいる。この件はたちまち広がり、ちょうどこの27日ごろから抗議活動がエスカレートする。28日にはデモが暴徒化し、ミネソタ州知事は州兵を動員する。

〇そして5月29日には、トランプ大統領がこのツィートを発する。


....These THUGS are dishonoring the memory of George Floyd, and I won’t let that happen. Just spoke to Governor Tim Walz and told him that the Military is with him all the way. Any difficulty and we will assume control but, when the looting starts, the shooting starts. Thank you!


〇THUGSという黒人を指すスラングを使ったこと、「略奪が始まったら、即銃撃だ」というセリフが1960年代にマイアミの警官が使った有名なセリフだとのことで、大反響を呼んでしまう。これに対し、ツィッター社はこんな表示をつけて読めなくしてしまう。


このツイートは、暴力の賛美についてのTwitterルールに違反しています。ただし、Twitterではこのツイートに公共性があると判断したため、引き続き表示できます。詳細はこちら


〇その後のゴタゴタに関しては省くけれども、結論として、現在のトランプ支持率は40%台後半に戻っている。彼は狙い通り、強いメッセージを発して自分の支持者たちに働きかけたのだ。ジョージ・フロイド氏の死に伴う暴動は全米ではもう丸1週間続いていて、この間にいろんな人が怒ったり、あきれ返っているわけだが、トランプさんは「しめた」と思っていることでしょう。おそらくは「俺の支持者はかならずついてきてくれる。やっぱラスムッセンは使えるわ」などと。


<6月4日>(木)

〇本日は将棋のヒューリック杯棋聖戦、挑戦者決定戦である。対局者は永瀬二冠対藤井七段。藤井七段はおとといの準決勝で、佐藤天彦九段をかるーく破っての対戦である。対する永瀬二冠は27歳で叡王、王座のタイトルを保有し、17歳の藤井七段とはそれほど年は離れていない。世間は「藤井七段が史上最年少タイトル挑戦か?」で盛り上がっているけれども、永瀬二冠にとっては渡辺棋聖に挑戦して勝てば三冠となる。それも結構な大事件であるはずなのだが、ま、それが世間というものだ。

〇永瀬二冠、今日は家を出る前から考えてきた作戦があったようで、振り駒で先手番になったらさっそく新手を試しにきた。相掛かりに誘導して、藤井七段に8七歩、と打たせる。たちまち乱戦模様になるのだが、これはどうみても新手のご利益で、先手が大幅リードであるように見える。

〇ところが攻めが一段落したあたりから、後手が妖しい手を繰り出してくる。3六銀ってこりゃなんだ、と思ったら、もはや先手に嫌なムードが漂っている。高校生棋士の眼には、数十手前からこの局面が見えていたのであろうか。永瀬二冠が長考に沈む。どうも「こんなはずではなかった・・・」と考えているようである。

〇柄にもなく、ハラハラしながら見てしまった。最後は永瀬の二枚馬、藤井の二枚龍が相手玉に迫るのであるが、やはり藤井玉は遠かった。皆が予想していた通り、最年少挑戦者の誕生である。

〇世の中の大勢と同じく、将棋界もここ2〜3カ月は停止状態であった。それが緊急事態宣言解除とともに動き出したので、なんと棋聖戦五番勝負は週明け月曜日からである。それどころか、来期の一次予選などは気の毒なくらいの密集モードの対局となっている。さあ、17歳の新棋聖が誕生するのか、それとも渡辺棋聖の防衛か。第91期の棋聖戦は面白いですぞ。


<6月5日>(金)

〇久しぶりに会社に出勤して同僚に再会する。お昼は外出して古い友人たちとランチをして、諸般の情勢を語り合う。お互いに外食は久しぶりであるらしい。お店の配慮で、席にはガラスで仕切りがあったりするのだが、これもいかにも今風の景色と言えましょう。散会してから、その中の一人とちょこっとだけお茶する。ああ、なんて人と会うのは楽しいのでしょうか。リアルはいいなあ。

〇終わってからオフィスに戻り、本日分の溜池通信を書き上げる。ああ、今回も無事に義理を果たすことができた。そして電車が込み合う前に帰宅する。結構なことである。来週は週に3回くらいは出社することといたそう。でも在宅勤務にも良さがあるのだよな。


<6月7日>(日)

〇緊急事態宣言は解除されたけれども、今週末も土日はなるべく外出を避けて、日中は競馬に熱中して、夜はビールとワインである。(競馬新聞の買い出しでコンビニに出かけるのは例外とする)。こんな暮らしもずいぶん長くなった。来週くらいから、ぼつぼつ外食も復活させましょうかね。

〇などと刺激の乏しい日々を過ごしているのだが、アメリカは大変なことになっている。ジョージ・フロイド氏の死をきっかけに、抗議活動が全米各地で起きている。それで感染が広がってしまったら、果たしてどうしたらいいのだろう。トランプさんは、あいかわらず火に油を注ぐような言動ばかりで、「世の中を分断している」と非難されている。でもそれはいつものことで、彼は「良識ある」人々を怒らせることで、自分の支持者を鼓舞するといういつもの手口を使っているだけだ。

〇何よりこんな状況になって、全然めげてないところがトランプ流である。普通の人だったら、死者が10万人を超えたところでビビるだろう。しかし、あいかわらずマスクはしないし、8月の共和党大会はソーシャルディスタンスなしの完全な形でやると言っている。ホワイトハウス内では、ペンス副大統領と一緒にいる時間が長くて、「それじゃリスクヘッジになりません!」と怒られたりもしたらしい。

〇加えて2ケタ台になってしまった失業率がある。2月までは3.5%という史上最低ラインだったが、4月にいきなり雇用者数が2000万人も減った。5月もさらに数百万人減るかと思ったら、あにはからんや250万人の増加に転じた。これを素直に寿いで、「ジョージ・フロイド氏も喜ぶだろう」、などと言ってしまうのがトランプ流である。ダメです。そこで怒ったら、まんまと彼の手口にはまるだけなので。

〇それはさておいて、5月の失業率は13.3%になったが、率直に言ってこんな数字で大統領再選は難しいですぞ。もっともこの先の雇用の数字がどうなるか、てんで予測がつかないのがつらいところです。5月に増えた雇用のうち、"Leisure and Hospitality"(娯楽及び宿泊)が半分を占めている。ということは、コロナによるレイオフは限定的で、飲食業の回復とともに戻りは意外と早いのかもしれない。

〇新規失業保険申請者件数が急速に増えたのは、経済対策によって政府からの「割り増し失業手当」があったことが一因となっている。それは6月末で打ち切りになる。となれば、7月になれば求職活動が一気に増えるのだろうか(→後記、新たな景気対策によって延長されました)。いや、それもすべては感染状況に懸かっている。結局、不透明性がなくなるわけじゃないのです。

〇そういえば2012年の大統領選挙の時も、雇用統計が注目されたことがあった。あのときは11月6日(火)が投票日で、11月2日(金)の雇用統計が7.9%と出て、これはそのときのムードから行って「かなり良い」数字であった。こういうことがあるたびに、「政権に忖度して作られた数字なんじゃないか」という声が出るものだが、まあ、統計の数字というものは専門家が真面目に作っているものなので、滅多なことはないと思います。とはいえ、その手の陰謀説がSNSで流れやすい世の中になりましたので、つくづく難しいものです。


<6月8日>(月)

〇「どうしてこんなに株価が高いのか?」――と、よく聞かれます。今日なんて日経平均が2万3000円台を回復しちゃいました。「コロナ以前」の高値に迫っております。

〇かんべえが付き合いの古い某ストラテジスト氏は、3月くらいに「すべての株式を処分すべき」とリポートの中でアドバイスしてました。いや、正しいことを言うなあ、と感心していたのですが、彼のアドバイスを受け入れた人は今頃、損をしていることになります。だからと言って、彼のことを恨んでいる人は居ないでしょうけれども(投資は自己責任です)。

〇今週はメジャーSQが控えているので、日本株の先物を売り込んでいた人たち(たぶん常識的な判断をしていた人たち=カモ)が慌てて買い戻さなければいけません。ということで、今週後半はますます株が上がることになりそうです。いや、まことに結構なことであります。

〇アメリカの雇用統計サプライズも追い風です。何しろ「コロナショックは4月が最悪だった!」かもしれないのです。"Sell in May."(5月に売れ)を実践していた人は今頃は大損であります。このまま感染の再拡大さえなければ、V字回復だって夢じゃないかもしれない。

〇いや、そうはいってもBlack Lives Matterの抗議デモはどうなのよ、トランプ大統領だって再選が危うくなって無茶苦茶をするかもしれないし、来年からはバイデン新政権がアンチ・ビジネス政策を始めるかもしれないんだよ!という人がいるかもしれない。それは常識的な判断というべきで、そういう善良な方々に対しては、あなたはカモです、と言ってあげなければならない。

〇こんな相場格言があります。


Bull markets are born on pessimism, grow on skepticism, mature on optimism and die on euphoria.

(強気相場は悲観とともに生まれ、懐疑とともに成長し、楽観とともに成熟し、熱狂の中に終わる)


〇つまり今は「懐疑とともに成長し」のプロセスにあるわけで、悪材料があるからこそ株は買われる(売り手も出てくる)のであります。皆が半信半疑である、という点がポイントで、これで日経平均が2万5000円を超えたら、それこそ皆が買おうとすることでしょう。そうなったら「楽観とともに成熟し」の段階ですから、後は言わなくてもわかりますよね。

〇恥ずかしながらウォーレン・バフェットが航空株を全部売って「世界は変わった」と言ったときに、ワシも釣られてANA株を売りかけたのですが、余計なことをしなくて正解でした。若い頃ならともかく、今のバフェットはただの人なのかもしれません。今回のことで、いったいどれくらいの損をし出したんだろう?

〇それにしても理解に苦しむのは、政府が資本注入枠を用意して、航空会社に公的資金を投入する用意をした瞬間に、皆がそれを予想して株価が上がってしまったということです。これでは2次補正の資金はどうなるのだろう。「予備費を敢えて使わない」というのも、勇気が必要なことではないかと思います。「敵に水鉄砲しかないと見せると、使う必要が出てくるが、バズーカ砲を見せれば使う必要はない」(ハンク・ポールソン)という名言を思い出しました。

〇もっとも国会は、電通に払うしょぼい金額の方に関心がありそうです。そういう人たちは「カモ」と呼んであげましょう。いや、善良で常識的な人たちなんでしょうけれども。電通は五輪が延期になって大打撃なんだから、そのくらい許してやれよ、とあたしゃ思うけどね。


<6月9日>(火)

〇昨日の棋聖戦第1局は名局でありました。藤井聡太七段の先手番で矢倉戦に誘導。後手の渡辺明棋聖があっけなく馬を作ったので、これは十分の態勢だろうと思ったら、そうではなかった。いつの間にか、少しずつ藤井七段が良くなっている。

〇あれれれれっ、と思った瞬間、ノータイムで藤井七段が飛車を切る。そのままバタバタと金銀を打って、渡辺玉は逃げ場ナシになってしまう。ここから渡辺棋聖が、王手王手で藤井玉を攻める。それこそ126手から延々と157手まで。で、最後は合い駒に打った桂馬が逆王手になって、ここで投了。すごい。すごすぎる。お前ら、どんだけ読んでいたんだよ。

〇渡辺棋聖の感想はここをご参照。「藤井七段は@1三歩の変化も読みきりでした」だなんて、こんなこと書いていいのか。藤井君に読まれたら恥ずかしい、などとは考えない鈍感力が渡辺棋聖の持ち味である。それでこそ。

〇渡辺棋聖は本日は三重県に移動して、明日からは名人戦挑戦の第1局を迎える。こちらは二日制である。体力的にはまことに辛そうだが、たぶん豊島名人は昨日の高校生ほど強くはないはずなので、遠慮なく当たればいいのではないかと思う。意外と「棋聖位は失ったけど、代わりに名人位を得た」なんてことになるのかも。


<6月10日>(水)

〇今日、グーグルアースでワシントンDCの地図を拡大してみたら、16thストリートのHストリートからKストリートまでの交差点の間が、ちゃんと”Black Lives Matter Plaza"と表記されていました。ワシントン市長もグーグルも、なかなかやりますね。

〇ワシントンDCの地理に詳しい人であれば、この16thストリートこそが街の縦軸であることをご存じかと思います。この16thストリートは北はまっすぐメリーランド州につながっていて、ここまでいくとワシントンDC市長の権限は及ばなくなる。逆に南は東西に走るHストリートと交差したところで行き止まりである。その向こう側がラファイエット広場になっていて、この広場の南側にホワイトハウスがある。ラファイエット広場とホワイトハウスの間にはペンシルベニア・アベニューがあって、ホワイトハウスの住所は1600 ペンシルベニア・アベニューとなる。やはり16thストリートこそが南北の中心線なのです。

〇これに対し、東西にはアルファベットを冠した通りが走っていて、特に有名なのがKストリートである。著名シンクタンクやロビイスト事務所、企業の支社などが立ち並ぶ。さらにはザガットサーベイで星が付くようなレストランもあったりして、これぞ政治都市ワシントンの銀座通りといったたたずまいである。ワシントンDCの東西の横軸がKストリートである、といってほぼ間違いはないだろう。

〇南北に走る16thストリートはぶっとい通りであって、いざと言うときには戦闘機が着陸できるようになっていると聞く。ハリウッド映画などでは、ホワイトハウスはしょっちゅう宇宙人やテロリストや軍産複合体の利益の代弁者たちによって襲撃を受け、そのたびに大騒ぎになるのであるが、16thストリートからラファイエット広場越しに見えるホワイトハウスは定番の風景となっている。

〇16thストリートから広場越しにホワイトハウスを睨んだ場合、すぐ左手にあるのが聖ジョン協会(セント・ヨハネ教会)である。先週末のトランプさんは、軍に命じてわざわざ催涙弾でデモ隊を退けたうえで、この教会まで「大名行列」をして、そこで写真を撮影した。どうせなら、撮影だけじゃなくてちゃんと教会の中に入り、お祈りの真似事くらいすればよいのであるが、教会前で写真を撮ったらとっとと帰ってしまうのがトランプ流である。

〇かかる態度はまともな宗教関係者を怒り沸騰に導くはずであるが、一方でトランプさんの金城湯池たる福音派の人たちは、「政治家なんて所詮はそんなもの」と割り切っている様子である。本当に信心深かったブッシュ息子大統領(2001〜2008年)は、意外と自分たちのために尽くしてはくれなかった。同性婚反対という公約も、「やるやる詐欺」みたいなものであった。その点、信仰がテキトーであるドナルド・トランプ氏は、形だけとはいいながら、ちゃんと自分たちとの公約を果たしてくれる。後者の方が使い勝手がいいね、と思われている様子である。

〇いつも感じることですが、こんな風にトランプさんは追い込められているように見えて、実は固定的な支持者をガッチリと固めている。メインストリーム・メディアにはそういう視点が欠けていて、「今度という今度はトランプ政権はおしまいだ!」と報道するのであるが、本音のところは「そうであってくれ!頼む!」というお祈りのモードなんじゃないだろうか。

〇ともあれ、今年2月までは「再選確率50〜60%」と言っていた不肖かんべえも、コロナ後は「40〜50%」と答えるようにしている。その程度の変化は確かにある。が、「もうトランプ再選の眼は消えた」などと考えていいものではあるまい。それは希望的観測というものである。


<6月11日>(木)

〇昨日はスカイプ、おとといはWebExを使った講演会をやりました。そして来週月曜日はAdobeを使ったパネルディスカッションをやる予定。そのたびにシステムが変わるので面倒である。「どうせだったら全部Zoomにしてくれればいいのに!」と思う。

この記事によれば、Zoomの創業者であるエリック・ユアン氏は、中国からシリコンバレーにわたってきて、最初に勤めたのがWebExだったのだそうだ。それがシスコシステムズに買収され、「携帯電話で使えるビデオ会議アプリ」を提案したところ、却下されたので独立してZoomを設立したのだそうだ。WebExもZoomも、昔は似たような人たちが作っていた、というのがいかにもこの世界らしい。

〇Zoomは安全保障上の問題がある、とよく言われるのですが、あれはコロナのせいで使用者数がいきなり全世界3億人に増えたために、それまで考えていなかったバグが噴き出たのだそうであります。現在のZoom5.0ではそのリスクは低いのだ、という説もあるんですけど、日本の役所や企業では回避するところが多いですね。

〇その分、Zoom飲み会なら構わんだろう、ということで、そっちは急速に普及しつつある。今週末も、それがちょっと楽しみだったりする。そういえば、こんなジョークを教わりました。


昔の飲み会、終電でお開き。今の飲み会、充電でお開き。


<6月12日>(金)

〇ヴァーチャルではしょっちゅう会っているナベさんに、今日はたまたまリアルで会ったら、こんなことを耳打ちをされたんです。

「読みましたか? YA論文」

〇いや、噂になっているから気にはなっているんだけど、実物はまだ読んでない、と正直に答えたら、「アメリカン・インタレスト誌でちゃんと読めますよ」と。いや、ありがたい。こういうヒソヒソ話は、ビデオ会議じゃできないんですよね。ここはリアルのありがたさ。

〇で、すぐに記事は見つかった。しかも最初のアクセスはどうもタダらしい。ありがたい。著者については、"Y.A. is an official of the Government of Japan." とだけ記されている。


●The Virtue of Confrontational China Strategy


〇これは日本の外交官が匿名で寄稿した論文である。言わんとすることは、「トランプ外交は確かに無茶苦茶だ。しかしその前のオバマ外交を思えば、ちゃんと中国に向かって啖呵を切っているだけ、日本外交から見ればマシである」てな内容である。よくぞ言ってくださいました。

〇要はアメリカのリベラル左派の対中観はまるでナイーヴで、「オバマ政権は最後のころまで、中国は変わり得る(民主主義的な方向に!)と思っていた」と遠慮がない。その点、トランプさんに対しては、安倍さんが当選直後から乗り込んで行って「教育」したので、「北朝鮮への圧力外交や『自由で開かれたインド太平洋』、東南アジア重視などは、程度の差はあるけれども、日本側から持ち込んだアイデアだった」と評価している。

〇トランプ外交に上手に乗っかっている日本外交、というのは、アメリカの民主党系人脈の顰蹙を買っているはずである。「バイデン政権になったら、ほえずらかくなよ」みたいなことを思われている恐れもある。そこで「でも、僕らから見たら、アメリカの対中政策って、ずーっとこんなんだもん」とぶっちゃけている。わかる人には、わかってもらえると思います。

〇故・岡崎久彦さんが現役の外交官であったら、涼しい顔でこういう論文を書いていたかもしれませんな。あるいは今頃、天国で、「最近の外務省も、若い連中はなかなかやるねえ」とくすくす笑っておられるかもしれません。


<6月13日>(土)

〇番組宣伝です。明日はNHK「日曜討論」に出演します。3年ぶりですねえ。よろしければ見てやってくださいまし。



日曜討論 「社会経済活動 新たな段階へ 暮らし・経済をどう再建する」

チャンネル
[総合]
2020年6月14日(日) 午前9:00〜午前10:00(60分)

ジャンル
<ニュース/報道>討論・会談

番組内容
緊急事態宣言の全面的な解除から約3週間。社会経済の活動レベルが段階的に引き上げられています。感染拡大を防ぎながら私たちの暮らしや経済をどう再建するのか、考えます

出演者ほか
【出演】西村康稔,小方尚子,坂本史衣,末冨芳,吉崎達彦,【司会】伊藤雅之,中川緑


<6月14日>(日)

〇最近、外交・安全保障関係についていくつか教わったことのメモ。


〇宮家邦彦さんから。今度出版された『キル・チェーン』という本はすごいぞ。アメリカの防衛戦略の大転換を示している。とはいうものの、翻訳されてないし、たぶんされそうもない。そこで要点を産経新聞に書いておいた

――お陰様で大変助かりました。要は尖閣諸島は、日本が自分の手で守らなければいけない、ということでありますな。


〇アメリカは1920年代に移民の数が激減した。その中で日系移民への排斥運動も起きるのであるが、欧州からの移民数はもっと減っていた。従来は、「第一次世界大戦後のアメリカは孤立主義に向かった」と理解していたのだが、同じ時期に「スペインかぜ」が流行ったことも一因だったのかもしれない。

――当時のアメリカにおける第一次世界大戦による死者数は12万人、スペイン風邪の死者数は67万人。2つの記憶はごっちゃになっている。ベルサイユ会議(1919年)に出席したウィルソン大統領は、スペイン風邪のせいで役に立たなかったとのこと。


〇ドイツはなぜロシアに対して甘いのか。冷戦時代には、NATOの対ソ向け核兵器を配備されていたこともあったのに。「独ソ戦」であまりにもとことん戦ったために、意外と後くされが少ないのかもしれない。ちょうど太平洋戦争後の日米関係のように。

――ドイツとロシアは「黒パン文化」を共有している(中間にあるポーランドにはない)という接点もあるとのこと。このほか、ラムシュタイン空軍基地と沖縄基地の類似性など、岩間先生、面白過ぎでした。


<6月15日>(月)

〇つらつら鑑みるに、新型コロナウイルスというものはその国の弱点を突くようである。

〇わが国の場合は、かねがね「政治のリーダーシップ」が弱点でありまして、見苦しい右顧左眄やおぼつかない牽強付会を散々見せつけられた後で、「勝ちに不思議の勝ちあり」の境地にたどり着いたのはご同慶の至りであります。いざというときの現場力が健在であれば、この国は何とかなるのである。少なくとも短期戦であれば。

〇どうでもいいことでありますが、この「勝ちに不思議の勝ちあり」(c:野村克也監督)というヒントを与えてくれたのは、双日株式会社でこのたび副社長に昇進したH氏である。その昔は不肖かんべえが「賭けマージャン」で遊んでもらった先輩の一人である。そういえば同様な先輩に吉良州司氏が居て、昨日のNHK「日曜討論」の終了直後に熱い、アツいメールを頂戴したものである。

〇アメリカの場合は、医療アクセスへの不平等とか人種による社会分断という構造的な問題があったことが、この機会に一気に吹き上がった。これは当分は収まらないでしょう。デモが全米に拡大している映像を見るたびに、あ〜あ、この人たちの感染は大丈夫かと心配になりますが、そこは理念の国。理屈っぽいのであります。

〇アメリカは既に新型コロナに敗戦している。「11万人が死亡」という落とし前を、これからどんな形でつけていくのだろう。それはもう、この先の大統領選挙を見ていくほかありませぬ。トランプさんは相変わらず「負けたくない、負けるのは嫌だ」と思っているようですが、投票結果がそのように出た場合は、意外とあっさりと身を引くのではないかと思います。なぜって2期目にやりたいことなんて存在しないのだから。

〇EUが抱える問題点は「南北の格差」でありました。人口比の死者数で行くと、実は欧州各国はアメリカよりもずっとひどいのです。なぜ死亡率トップがベルギーなのかはわかりませぬが、全体的に見て南の国でひどく、北の国はひどくない、という結果は、EU内の亀裂を一気に拡大する恐れがありました。

〇ところがここへきて、ドイツのメルケル首相が思い切った手に出ました。今週後半に行われるEU首脳会議では、EU復興基金7500億ドルが最終決定に至る見込みです。「倹約4か国」(スウェーデン、デンマーク、オランダ、オーストリア)はなおも反対のようですが、ドイツが賛成に回ったことは大きい。コペルニクス的転換ですね。ドイツの健全財政主義は、これまでEU統合の障壁でした。ドイツ国内でメルケル人気が上昇したことで、こんな離れ業が可能になりました。

〇感染症が広がることは、その社会におけるカリスマの失墜をもたらします。それがこれから起きそうなのは、たぶんロシアでありましょう。プーチンさんは、さすがに今回は生き残れないのではありますまいか。民主主義的な裏付けが乏しいロシアでは、政権支持率こそが正当性の根拠となります。それが落ち始めたら、プーチンはレイムダック化するでしょう。愛国心を鼓舞したり、いろいろやるでしょうが、5割を切ったらただの人、であります。

〇この辺のいろんな不透明性は、今年10月に一斉に火を噴くような気がします。要はOctober Surprisesであります。イランや北朝鮮も、「アメリカに一泡食わせてやりたい!」と虎視眈々と狙っておりますぞ。今年の9月から10月にかけては、楽しみなことになりそうです。


<6月16日>(火)

〇在宅勤務に慣れてしまうと、週に3回の出勤が肉体的にはしんどく感じる。今日は文化放送「にくまるジャパン極」に出て、それから出社して、それから参議院議員会館にて「ナイトタイムエコノミー議連」へ。

〇いやー、久しぶりに人の集まる会合に出たら、これまたどっと疲れが出ましたな。しかも、この会のテーマは「夜の街の振興」である。新宿歌舞伎町でクラスターが相次いで発生し、「夜の街」が悪者にされている現状では、まさに問題山積である。「働きたいのに働けない」という不条理の極みみたいな方々が多く参集されていて、要望書や嘆願書を持参しているのである。

〇新型コロナのせいで営業ができないナイトクラブは、毎月の家賃をどのように処理しているか、って、そりゃあ苦労の連続なわけであります。業者であるテナントは、賃貸オーナーとどのように渡り合っていけばいいか、という話を興味深く伺いました。

〇新型コロナのせいでインバウンドは急減し、ツーリズムは危機に瀕し、人が集まること自体がリスクを伴う世の中においては、わが「遊民経済学」はまさにピンチなのである。そうはいっても、「不要不急でない」生産活動などは、現代社会ではたかが知れている。逆に不要不急な「遊び」は、需要に限界がない。これを上手に伸ばしていくことが、これからの日本経済には欠かせないと思う。

〇とはいうものの、GO TO キャンペーンひとつ取り上げても、世の中は逆風に満ちている。一方では「3業種のガイドラインの概要」という話も聞きました。3業種とは、「接待を伴うクラブ等の飲食業」「ライブハウス」「ナイトクラブ」であって、それぞれに細かな指示がある。「利用客同士のお酌、グラスやお猪口の回し飲みは避けるよう注意喚起」だなんて、お前ら真面目に考えとんのか!

〇イベント開催制限なども、この後は段階的緩和が進むようです。今週金曜日(6/19)になれば、プロ野球が無観客試合で実施されます。これが7月10日になるとステップ3に移行し、5000人または会場キャパの50%を上限とするプロスポーツが開けるようになる。さらに感染状況をみつつ、8月1日からはさらに緩和となる。それでも会場キャパの半分でやれ、と言われたら、なかなか採算をとるのは難しいでしょう。

〇さて、「ナイトタイムエコノミー」は、これから着実に再生への道を歩むことができるのか。それとも第2波の到来とともに再び混乱に向かうのか。とは言うものの、ワシは今宵も早々に自宅に帰って、6時半には缶ビールを開けているのであった。夜遊びはもう少し先になってからね。


<6月17日>(水)

〇本日は約4か月ぶりのリアル講演会。ただし一部はZoomによる参加者あり。2時間フルにお話ししてみると、なるほど腹が減るものでありますな。ビデオ会議のときとは、ずいぶん肉体の受け止め方が違います。それでもいろんな方からの質問を受けてみると、いや、勉強になりますね。

〇思えばこの間に、ずいぶんリモートのセミナーをやりました。Zoomあり、WebExあり、Teamsあり、Skypeあり、Adobeあり、電話会議あり、ただしワシ自身は技術的なことをまったく理解していない。そのうち競争に生き残るツールとそうでないものに振り分けられるでしょうね。これはまったくの感触ですが、社内のやり取りならTeams、大学の授業ならWebEx、飲み会ならばZoomが生き残るような気がしています。

〇そういえば、講演会は「録画」という手もあるのですね。これは明後日、試すことになりそうです。今週は、一度は吹っ飛んだ講演会のリスケジューリングみたいなご連絡が相次いでいます。とはいえ、第2波到来の可能性を考えると、そんなに楽観していてはいかんのでしょう。まだまだ先は読めません。


<6月19日>(金)

〇本日は「経済倶楽部」で講演会。といっても録画であって、後でストリーミング方式で会員に配信されるとのこと。東洋経済新報社の社内で、90年近い歴史を持つ講演会なれど、新型コロナのお陰で一種のイノベーションが起きている様子。会員の中からは、「自宅で聴けるし、途中で止めることもできるし、何度でも聞き返せる。この方がよっぽどいい」との声があるそうだ。

〇溜池通信も普通に仕上げて、ホッとして家に帰ってくると、ちゃんとナイターをやっている。巨人×阪神戦である。ビールと枝豆でこれを見物していると、開幕投手の西勇輝が先制ホームランである。あはは、こんな馬鹿げた展開が誰が予想できようか。これぞプロ野球。筋書きのないドラマ。

〇こんな形で日常が少しずつ帰ってくる。ありがたいねえ。おっと、西が打たれた。阪神、ここはしっかり守らねばなりませぬ。こんな感じで金曜の夜が更けていく。


<6月20日>(土)

〇東京都知事選が始まりました。有権者数から行くと、日本最大の首長選挙であります。以前は統一地方選挙と連動していましたから、それなりに投票率も高かったのですが、石原慎太郎さん、猪瀬直樹さん、舛添要一さんと3代続けて都知事が途中で辞めちゃったものだから、投票日はぐちゃぐちゃになりまして、まあ、あんまり盛り上がりには欠けている感じです。小池百合子さん(67)は任期をフルに務めた久々の都知事です。

〇どう考えても現職の小池さんの再選は動かないようです。一時は「猪瀬直樹の430万票が目標」などというゴーツクな声もあったようですが、それは2012年衆院選とのダブル選挙になった年ですので、投票率が62%もあったときのこと。今回の投票率はいいとこ5割程度でしょうから、彼女は「前回2017年にとった290万票を超えられるか?」(投票率59%)が課題でありましょう。それはけっして容易なことではないと思いますぞ。

〇むしろ面白いのが2位争いです。手が届きそうなのは宇都宮健児さん(73)、山本太郎さん(45)、小野泰輔さん(46)の3人で、誰が来るかまったくわからない。普通に考えれば実績のある宇都宮さん、化けるかもしれないのが山本さん、自主投票の自民党票が流れそうなのが小野さんなので、向こう2週間ではいろいろありそうです。その結果次第では、左翼陣営が大混乱するかもしれませんな。

〇もっと訳が分からないのがN国でありまして、党首の立花孝志さん(52)がホリエモン新党から出馬して、しかもホリエモン新党からはほかに2人が出馬している。まあ、同じレースで馬主が2頭、3頭と出走させるのは良くある話ですが、ポスターに同じ党の候補者が3枚並ぶというのはわかりにくい。先日、上杉さんからいろいろ事情を聞いたんですけど、ややこしくてよく理解できませんでした。ちょっと工夫が過ぎましたかな。

〇それ以外の候補者がますます面白い、というのが東京都知事選でありまして、いやー、いろんな政党があるのですなあ。幸福実現党、日本第一党、スーパークレイジー君、トランスヒューマニスト党、庶民と動物の会、国民主権党・・・・独自の戦いというものは、これはこれで楽しいものであります。ドクターやマック赤坂氏が居ないのがちょっと寂しい。

〇まあ、ワシ的には選挙権もないので(千葉都民)、生ぬるく見守るしかありませぬ。都民の皆さん、どうか7月5日には投票をお忘れなく。


<6月21日>(日)

〇この土日も家に籠る日々である。今日は朝から競馬三昧で、手ひどく負けてしまった。それというのも、オバゼキ先生の挑発に乗って、WIN5に手を出したからである。上海馬券王先生曰く、この時期のWIN5はお御籤と変わらない。いや、全くその通りなのであります。

〇しかも阪神タイガースは巨人相手に三連敗。いやもう、矢野タイガースはやることなすこと裏目であります。

〇それでもささやかな幸福は、父の日ワインが娘から届いたことと、NHK大河が再放送となって『国盗り物語』をみられたことであります。いやー、懐かしいわあ。特にナレーションの声が。『国盗り物語』のラストは、「光秀の死をもってひとつの時代は終わる・・・」というナレーションで終わるのですが、それがまざまざと思い起こされました。1973年の番組なんですが。

〇それから斎藤道三を倒したのは、ウルトラマンのムラマツキャップであった、ということを発見しました。あの当時はそんな感じだったのね。過去を発掘すると、いろんなことが思い浮かばれます。

〇全然関係ないけど、明日は「モーサテ」出演です。見てやっておくんなさいまし。


<6月22日>(月)

〇話題のジョン・ボルトン本の電子版を入手しました。これってご本人的には暴露本のつもりではなくて、国家安全保障担当補佐官として真面目に書いた証言のようなんですが、そこはそれ、いろんな読み方ができるわけです。

〇例えば本書には日本のカウンターパートである谷内正太郎氏が頻繁に登場します。そこで軽い気持ちで"Yachi"を検索してみると、おいおいおい、こんなことが書いてあるけど、いいんですかっ?


Later in the morning, I met with my Japanese counterpart, Shotaro
Yachi
, who wanted me to hear their perspective as soon as possible.
Tokyo’s view of the looming Trump-Kim meeting was 180 degrees from
South Korea’s -- in short, pretty much like my own. Yachi said they
believed the North’s determination to get nuclear weapons was fixed, and
that we were nearing the last chance for a peaceful solution. Japan wanted
none of the “action for action” formula that characterized Bush 43’s failed
Six-Party Talks. “Action for action” sounded reasonable, but it inevitably
worked to benefit North Korea (or any proliferator) by front-loading
economic benefits to the North but dragging out dismantling the nuclear
program into the indefinite future. The marginal benefits to Pyongyang of
even modest economic aid (or release from pain, like easing sanctions)
was much greater than the marginal benefits to us of the step-by-step
elimination of the nuclear program. Kim Jong Un knew this just as well as
we did. At that point, Japan wanted dismantlement to begin immediately
upon a Trump-Kim agreement and to take no longer than two years. I
urged, however, based on the experience in Libya, that dismantlement
should take only six to nine months. Yachi only smiled in response, but
when Abe met Trump at Mar-a-Lago the following week (see chapter 3),
Abe asked for dismantlement to take six to nine months! Yachi also
stressed North Korea’s abduction of Japanese citizens over many years, a
powerfully emotional issue in Japan’s public opinion and a key element in
Abe’s successful political career. At Mar-a-Lago and later, Trump
committed to pursuing this issue and followed through faithfully in every
subsequent encounter with Kim Jong Un.


〇ホントにパラパラ見ているだけなんですが、昨年のトランプ大統領国賓訪日のことやら、大阪G20サミットからDMZでの米朝首脳の会合まで、かなーり機微に触れることが書いてあります。おそらくトランプさんに関する暴露は「んなこたぁ〜みんな知ってるよ」ということで大勢に影響しないのでしょうが、こういう外交上の内幕をこんなに早いタイミングでバラされてしまうのは同盟国としては困ります。普通さあ、こういうのって書くとしても普通は10年後くらいじゃないですか。

〇でもまあ、ボルトンは印税に目がくらんだのでしょうな。「大統領は私益と国益の区別がつかない人だった」と言いたかったのかもしれないけど、それは後付けのような気がします。


<6月23日>(火)

〇タクシーを捕まえて、「銀座へ行ってくれ」と頼む。その時点でもうハラハラドキドキ、なんだか悪いことをしているような後ろめたい気分になるから不思議である。

〇そんな気持ちを知ってか知らずしてか、運転手さんが余計なことをよくしゃべるのである。「そういえば、さっきのお客さんも銀座でしたねえ。出勤途中のママさんでしたけど、同伴前に美容院に行くんですって。高速使って、3000円くらいでしたよ」。よく言うわ、と思うが、まさしく世の中は経済活動再開の方向に向かっているようである。めでたいことである。

〇長年続いている定例会のメンバーが、めずらしいことに全員が欠席なしで集結した。普段であれば、海外出張している人が1人くらいはいるものであるが、その海外出張ができるのはいったいいつになることやら。お互いに会うのもずいぶん久しぶりである。なかにはヴァーチャルの会議で何度も会ってる人もいるのだが、リアルで立ち話ができることが新鮮である。というか、夜の外食自体が何カ月ぶりかであったりする。

〇家に帰ってきて風呂を浴び、体重計に乗ってみたら、せっかく自粛期間中に減った体重がまた2キロほど増えている。いかんですねえ。今日も残さず食べちゃったし、ワインも遠慮なく飲んじゃったし。明日は在宅で地道に仕事しよう。


<6月24日>(水)

〇IMFのWEO6月修正版が公表されました。A Crisis Like No Other, An Uncertain Recovery(類例のない危機、不確実な回復)という表題がついています。親切なことに、日本語版の要約があるので、リンクを張っておこう。後でゆっくり読むことにいたしましょう。とりあえず冒頭部分は下記の通り。


2020年の世界経済の成長は-4.9%と予想される。2020年4月の「世界経済見通し(WEO)」の予想から、さらに1.9%ポイント低くなっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2020年前半の経済活動に予想以上のマイナス影響を及ぼしており、回復は従来の予想より緩やかになると見込まれる。2021年の世界の成長は5.4%と予想される。この結果、2021年のGDPは全体として新型コロナウイルス流行前の2020年1月時点の予想より6.5%ポイントほど小さくなる。とりわけ低所得世帯への打撃は深刻で、1990年代以降大幅に進展してきた世界的な極度の貧困の削減が危うくなっている

2020年4月WEOの予想と同じように、今回の予想も通常より不確実性が高い。ベースライン予想は、パンデミックの影響に関する重要な想定に基づいている。感染率が低下している国々で、今回の予想でこれまでより回復ペースが鈍化しているのは、2020年後半にかけても社会的距離の確保が続くこと、2020年の第1および第2四半期のロックダウン期間中の経済活動への打撃が予想以上に大きかったことによる影響(供給能力へのダメージ)の拡大、さらには危機を生き延びた企業が職場の安全や衛生への取り組みを強化する中で落ち込む生産性を反映している。感染率の抑制に苦しんでいる国々においては、ロックダウンの長期化によって経済活動にさらなる打撃が生じるだろう。それに加えて今回の予想では、2020年4月WEOの公表以来緩和してきた金融環境について、全般的に現在の水準にとどまると想定している。当然ながらベースラインシナリオとは異なる結果になる可能性はあり、その要因はパンデミックの動向にとどまらない。「国際金融安定性報告書(GFSR)2020年6月改訂報告書」で詳述するとおり、このところの金融市場のセンチメントの回復度合いは、その土台となる経済見通しの変化と乖離しているように見受けられ、今後ベースライン予想以上に金融環境がタイト化する可能性が生じている。


  2019年 2020年 2021年
世界 2.9% −4.9% 5.4%
先進国 1.7% −8.0% 4.8%
アメリカ 2.3% −8.0% 4.5%
ユーロ圏 1.3% −10.2% 6.0%
日本 0.7% −5.8% 2.4%
新興国 3.7% −3.0% 5.9%
中国 6.1% 1.0% 8.2%
インド 4.2% −4.5% 6.0%
ロシア 1.3% −6.6% 4.1%
ブラジル 1.1% −9.1% 3.6%



〇ロックダウン解除で世界的に「ホッ」とするところがあったようですが、まだまだ先は大変な感じです。上記の通り、景気の回復力は弱い。IMFはその理由として、「ソーシャルディスタンスが続く」「ロックダウン期間中の打撃は予想以上に大」「生き延びた企業も今後の生産性は低下」を指摘している。特にCovid19による打撃の大きい国、例えばブラジルなんかはえらいことになりそうです。

〇前回、4月に出たWEOは、Covid19後の世界経済への「相場観」を作ってくれました。今回はその修正版ですが、「もうちょっと下をみろ」と言ってくれているようです。取り急ぎ。


<6月25〜26日>(木〜金)

〇私用アリ、木曜日は有休休暇をとって都内までドライブ。かなりの時間、クルマで走り回って、都知事選の掲示板も実物を拝見する。いやー、すごいね、これは。まったくどうなっているのやら。この中から「東京の顔」を誰かひとり選べと言うのは、なんだか罰ゲームをやらされているような。これに比べれば、増田寛也さんに鳥越俊太郎さんが出ていた4年前はまだしもガチンコの勝負であったかなあ、と。

〇それだけではなく、半端ではない数の選挙ポスターが貼られている、ということに気が付く。それもそうか。衆院議院の任期は来年10月まで。残り1年と少しなのだから、ここでやらないでどうするのか。それにしても流山市の齋藤健さんといい、小金井市の長島昭久さんといい、個人的な知り合いはいい笑顔で映るものだなと変なことに感心する。それから菅原一秀くんは不起訴みたいだけど、ちゃんと反省しなきゃダメだよ〜。

〇金曜日は山崎元さんのマネーサロンに登場。ダイヤモンド社がフェイスブックを使って顧客向けに情報提供を行っている企画である。山崎さんの事務所に伺って、アメリカ大統領選挙をネタに1時間くらいお話をして、あとは質問コーナーがあり、最後はZoom飲み会がある。これがなかなかにいい雰囲気で、本音トークが続く。こちらはニュージーランドワインも用意していただいて、上機嫌でお付き合いする。

〇山崎さんとの掛け合いなものだから、当然、「週末の宝塚記念は?」みたいな話も出る。山崎さんはサートゥルナーリア、当方はラッキーライラックから。何しろ今年の宝塚記念は久々の18頭フルゲートで、しかもG1馬が8頭という豪華メンバー。本件につきましては、是非日曜朝にアップされる上海馬券王先生の分析も参考にしてください。

〇実は今宵は名人戦の第3局もあって、初日に優位を築いた豊島名人に対し、挑戦者の渡辺三冠が驚異の粘り腰を発揮し、これはてっきり逆転したかと思ったところが最後はギリギリ届かなかった。今年の将棋界は競馬界と同様に好カード、好勝負が続いているので目が離せない。


<6月27日>(土)

〇そうそう、忘れないようにこれを書き留めておこう。

〇昨日は「ラジオ日経交流戦」に電話出演したのですが、相手役が小林雅巳アナウンサー。競馬ファンなら、誰もがその声を知っていると思います。ユーチューブをチェックしてみたら、ちゃんと実況集が作ってあった「これだ、これがディープインパクトだ!」「ロードカナロア、世界のロ〜ドカナロア!」といった実況がなんとも懐かしい。ちょうどアテネ五輪の体操ニッポンが、「栄光への架け橋だ!」という名セリフで記憶されているのと似ている。

〇で、本番前の打ち合わせの時に、「今年のヴィクトリアマイルで、ゴールインの直後に『現役最強馬、アーモンドアイ、ここにあり!』と言ったでしょ? ああいうのはその場でパッと出るものなんですか」と尋ねてみた。そしたら、「いやー、あの日はアーモンドアイが勝つだろうと思っていたので、そうなったらこれでいこうと事前に考えてました。『アーモンドアイ、G1レース7勝目!』とかだと、全然普通で届かないと思ったので」。

〇なるほど、競馬の実況中継は難しい。ほんの数分後にどんな結末が出るかがわからない状況で、レースを見ている人の心に届くような言葉を、即興で紡ぎ出さなければいけない。なおかつ混戦で、どの馬が勝ったかすぐにはわからないことだってある。もちろん間違えたら一大事。何しろほかのスポーツ中継と違って、おカネが懸かっている(お前のせいで当たり馬券を破ってしまった!という人が出るかもしれない)。

〇今年のヴィクトリアマイルのゴール前、クリストフ・ルメール騎手はステッキを一度も使うことなく、しかしアーモンドアイは楽に馬群を抜け出て、後続に4馬身差をつけてゴールした。あまりにも楽に涼しげに勝ってみせたので、なんだか拍子抜けするくらいだった。まったく、なんという牝馬であろうか、と皆が思った瞬間に、「現役最強馬!」という小林アナの声が届いたのである。もう、忘れられません。

〇あいにくその直後の安田記念において、アーモンドアイはグランアレグリアに交わされて2着となり、「現役最強馬」の称号にはケチがついてしまった。ロードカナロア産駒は一戦燃焼タイプが多いようで、連戦になると今一つなんですよねえ。でも、秋の府中(天皇賞orジャパンカップ)に再び姿を現すときは、きっと強いアーモンドアイが戻ってくるだろう。

〇ちなみに明日の宝塚記念も、実況中継は小林アナです。私もグリーンチャンネルで、小林アナの実況を聴く予定である。フジテレビ「みんなの競馬」なんて軟弱な番組はダメですからね。さて、どんな「ゴオォォォルイン!」が聞こえてくるだろうか。そういえば小林さんは、ブラストワンピースを狙っているみたいだったなあ。


<6月28日>(日)

〇宝塚記念も終わって、間もなく2020年も上半期が終わってしまうのですが、そういえばキャッシュレスのポイント還元制もあと2日を残すのみなのである。

〇もともとは昨年10月に、消費増税による景気対策として始まったもので、「6月に終わるとそこで崖ができるだろう」という声もあったのだけど、「まあ、そのときは東京五輪もあるから」ということで皆が納得していたのである。ところがオリンピックは延期、新型コロナで消費は蒸発し、世の中はひっくり返ってしまったのだが、それでもキャッシュレスは延長しないとのこと。

〇そもそもの予算は3000億円程度の話であったから、予備費の10兆円を使えば簡単に延期できる。しかも世間的には、「現金の受け渡しよりも、カードやスマホ決済の方が感染予防にもなってありがたい」との声があるのだから、これを辞めちゃう理由がよくわからない。

〇とりあえずこの制度を上手に使いたい人は、明後日までに大型の買い物をネットですればよい。そういえば今月になって、家電5品目の売上が前年比でプラスになっているとのこと。長いこと家の中にいたので、「外出できるようになったらこれを買い替えよう!」と考えていた人が多かった様子。どうせなら、このポイント還元も使っていただければよろしいかと。すると7月には「反動減」が出ることになるかもしれませんが。

〇おそらくこのポイント制、流通業界内の評判がよろしくなかったのではないでしょうか。大手に対する逆差別みたいなところがありますからね。その辺のことを言わないで、こっそり取り下げる、というのはどうなんでしょうね。政策と言うのは、終わるなら終わるでちゃんとレビューしなきゃいけませんよね。


<6月29日>(月)

クック・ポリティカル・レポートを読んでいたら、「エディー・マイが死んだ」ことが紹介されていた。5月3日に逝去して、享年83歳。古き良き時代の共和党系コンサルタントで、ブッシュお父さんと仲が良かった。往時の共和党は今よりもずっと穏健派で中道であった。今のトランプさんみたいなことを口にしたら、どれだけ顰蹙を買ったことか。

〇その昔のエディー・マイ事務所には、仲良しだったジョナサン・大谷が勤務していて、ワシは彼からまた聞きでいろんなことを学習した。アメリカの選挙の実務とは、とか、共和党系政治家のキャリアパスがどうなっているのか、など。その中には、昭和の時代における永田町の礼儀作法に通じるようなものもあって、政治の世界はどこの国でも大差ないんだなあ、なんてことに感動したものだ。

〇令和の日本政治が昭和の美風をほとんど失っているように、アメリカの21世紀政治も古き良き時代のエートスを微塵も残していない。エディーはいい時代を過ごして、きっと最後は「こんなはずじゃなかったのに・・・」などと思いながらこの世を去ったのではないかと拝察する。

〇ワシがワシントンに居た当時、エディーは今の自分よりも若かったのか、と言うことに気づいて、ちょっと悄然とする。ワシらが上の世代から学習したことは、果たして次の世代に引き継ぐことができるのだろうか。ジョナサン・大谷は、「大丈夫ですよ」てなことを言っていたけれども。


<6月30日>(火)

〇名前を言えばだれでも知っているある全国組織で、そろそろ各県の「事務局長会議」が行われる季節なのだそうだ。例年は東京か大阪に各県代表が集まることになるのだが、今年は「時節柄、東京にだけは行きたくない」という声が全国各地から澎湃として起きているのだそうだ。

〇そりゃあ、そうだろうなあ。この期に及んで、毎日のように50〜60人の新規感染者が出ているのだから。そもそもこれだけ報道されているのに、新宿歌舞伎町のホストクラブに通う人が減らないというのは、いったいどうなっているのかと。東京人は節度がなさすぎる!家族や周囲の人のことを考えていないのか?という批判が起きても全く不思議ではない。

〇他方、東京人からすれば、1300万都民のうちの50人くらいが感染したところで、俺には関係ないよなあ、ということになる。いや、正直なところ千葉都民のワシも、その感覚は共有するものである。もっとも人口40万人の富山市民が、「えっ?1日に50人も感染者が!」という反応になるのも、これまた容易に推測ができるのである。

〇日本の総面積の2割を占める東北地方は、総人口では1000万に満たない。その人たちから見たら、東京はやっぱり変なんじゃないか。あの人たちが近所にやってくるのはちょっと怖いけど、それでも観光業もあるからやっぱり少しは来てくれないと困るしなあ、てなことで悩んでおられるのではないかと拝察する。

〇結論として冒頭の事務局長会議は、Zoomなどのヴァーチャル会議になるのではないかと思う。そんな場で、「東京一極集中」が批判されるというのも、いかにもありそうな展開である。まあ、確かに東京は変である。そのことは、今週末に投票日となる都知事選の候補者を見ているとよくわかるのだが。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki