●かんべえの不規則発言



2020年3月





<3月1日>(日)

〇世の中がどんどん変わっていきますな。スーパーからトイレットペーパーが消えるのは、ちょっとあきれました。トイレットペーパーみたいに安いものを、中国から輸入しているわけないじゃないですか。船で運んで、どうやって利益を上げるんですか。てな突っ込みは無用なことで、これは国民がパニック心理になったときの一種の通過儀礼みたいなものでありましょう。

〇競馬の世界では、この週末から無観客試合が始まりました。昨日は四位騎手の引退レースがありました。ファンがいない引退式は寂しいですな。それでも四位騎手、3Rでは白星を挙げ、5Rでは斜行して騎乗停止処分を受けている。サッカーでいえば、最後の試合でイエローカードをもらうようなもので、これはご愛敬ですな。四位騎手はこれからは調教師として活躍する予定。

〇家でグリーンチャンネル(現在無料)を見ていてハッと気が付いたんだが、競馬新聞の売り上げが落ちますな。これは気の毒。JRAの売り上げもどれくらい落ちるんだろう。「久々にパチンコ屋がにぎわっている」という声も聴くので、やっぱり「ギャンブルは現金で」という人が多いんだろうな。パチンコ屋よりも競馬場の方が、オープンスペースでいいと思うけどな。

〇ひとつ気になるのは、これで大相撲を無観客でやった場合、八百長っぽい取り組みが増えるのではないか。それから「物言い」がついたときに、「ただ今の取り組みついて・・・」というアレがどうにもカッコつかないんじゃないかとか。チケットは払い戻ししたんでしょうけど、その作業も大変であります。

〇などと言いつつ、ワシのこの週末といったら、昨晩、防犯部の「火の用心」最終回を終えたのと、スーパーに買い物に行った後は、久しぶりに家の中の掃除でありましたな。当面は地味な週末、地味な平日を過ごす所存です。

<3月2日>(月)

〇先月もご紹介したジョンズ・ホプキンス大学のデータは、本校執筆時点では以下の通りです。繰り返しになりますが、Dその他=ダイヤモンド・プリンセス号となります。

  感染者

Total Confdiermed

死者

Total Deaths

回復者

Total Recovered

全世界 89,197 3,048 45,150
@中国大陸 80,026 2,918 44,546
A韓国 4,335 26 30
Bイタリア 1,694 34 83
Cイラン 978 54 175
Dその他 705 6 10
E日本 256 6 32
Fフランス 130 2 12
Gドイツ 130 0 16
Hシンガポール 106 0 72
I香港 98 2 36


〇「日本は6番目です」ということを言うと、「検査が足りてないだけだ。ホントは何万人もいるに違いない!」と言って怒りだす人がいる(なぜか女性に多い)。でも、死者の数はさすがにごまかせないので、今の致死率から割り引くと、だいたいこの程度の感染者数で合っているのではないかと思う。

〇そうやって見ると、世界全体の致死率が3.4%くらいで、これは中国の3.6%をほぼ反映していると考えればいいのだが、イランは高過ぎ(5.5%)、韓国は低過ぎる(0.6%)。ある程度、時間がたつと収れんするのかもしれないが。気づいたらドイツとフランスの感染者を足すと、ほぼ日本と同数になってしまう。イタリアからの感染が止まらなくなっているのだろうか。こうなると欧州も国境検査がないだけに大変なことである。

〇もうひとつ、目を引くのは回復者の数で、中国は感染者の半数以上が回復していることになる。時間がたつとそうなるのかもしれない。再発もあるみたいなので、もちろん油断してはならないのだろう。とはいえ、1か月後の日本国内で感染者の半数が回復しているとしたら、その時点で少しは安心感が漂うのではないだろうか。

〇中国内部では、そろそろ各都市が「再開率」を競い始めているという話も聞く。最近では、日本や韓国から中国に入国すると、ホテルで隔離、もしくは14日間の健康観察に処せられる、なんてこともあるらしい。この辺がよく言えば中国の変化の速さ、悪く言えば節操のなさであって、個人的にはついていけないと感じる部分である。それでも今年後半には、ふたたび中国人観光客が大挙して銀座や京都を席巻することになっていても、決して驚いてはいけないのだろう。

〇医学的知識のない身の上としては、結局、上のようなデータを見ながら、「だいたい今はこの辺かなあ〜」という推測を立てるしかありませぬ。でも、それはそんなに難しいことではない。幸いなるかな。


<3月3日>(火)

〇今日はスーパーチューズデー。その直前になって、ピート・ブティジェッジとエイミー・クロブシャーが相次いで戦線離脱を宣言。雁首をそろえて、ジョー・バイデンをエンドースすることになった。穏健・中道派は急速にバイデンでまとまりつつある。おそらくは民主党内で強力な同調圧力が働いたのでありましょう。「わかっているだろうな?え!」などと。

〇しかるにですな、若いブティジェッジ(38)とクロブシャー(59)が引いたことで、現職のドナルド・トランプ(73)に挑戦するのが、サンダース(78)、バイデン(77)、ブルームバーグ(78)という後期高齢者トリオになってしまうというのは、果たしてどんなもんでしょうか。いや、一応、エリザベス・ウォーレン(70)も残っておるのですが、生き残った全員が70代であるというのは、うーむ。

〇なぜこうなったかというと、2月29日のサウスカロライナ州予備選挙でバイデンは思った以上に強い勝ち方を見せた。なんと48.4%を得票し、サンダースの19.9%に大差をつけた。「ファイヤーウォール」は健在だったようだ。黒人有権者の間では、なおもサンダースは人気がある。彼らはオバマ時代への回帰を望んでいて、「レボリューション」を求めているわけではない。ということで、急にバイデン株が上昇した。

〇それでもスーパーチューズデーでは、バーニー・サンダースが独走してしまうかもしれない。この日に14もの州で一斉に開票が行われ、一斉に決まる代議員数は全体の3分の1を超える。特にカリフォルニア州とテキサス州の存在は重要だ。この2つの州はヒスパニック票が多い。そしてネバダ州党員集会では、サンダースがヒスパニック票を多く獲得している。

〇ということで、日本時間の明日になれば結果はわかるのだが、どうもサンダースが圧勝しちゃうんじゃないのかな。やっぱり4年前に、ヒラリー・クリントンを無理やり勝たせたことがしこっている。その時の負い目もあって、民主党主流派(エスタブリッシュメント)はサンダースを止められない。「バーニー・ブラザーズ」と呼ばれる強固な親衛隊は、その時の恨みを忘れていない。

〇先週、ここでも書いた通り、今年の大統領選挙の焦点はサンダースだと思う。4年前に「まさかトランプが・・・」と言い続けて大外しした身としては、「まさかバーニーが・・・」とは口が裂けても言えません。The Economist誌が危機感を抱いて報道していることも全く同じ。さて、明日はどんな結果が出ますでしょうか。


<3月4日>(水)

〇スーパーチューズデー、終わってみればバイデンの大逆襲。当欄の昨年12月8日分で、「バイデンはもしかしたら強い候補なのかもしれない」説(前嶋和弘教授)をご紹介しましたが、いや、ホントにそうだったのかも。2月29日のサウスカロライナ州予備選挙からほんの3日間、ブティジェッジ、クロブシャー、そんな人がいたことさえ忘れていたオルークの支持まで取り付けて、大逆襲とあいなりました。

〇それにしても、まさかテキサスで勝っちゃうとはねえ。さらにノースカロライナ、バージニア、マサチューセッツと大きいところで1位になり、テネシー、アラバマ、オクラホマ、アーカンソーで勝利。いや、恐れ入りました。かつて1992年のクリントンがスーパーチューズデーで復活し、「カムバックキッド」(復活野郎)の異名をとった顰に倣うと、これは「カムバック・グランパ」(復活お爺ちゃん)ですかね。

〇サンダースは最も大きなカリフォルニア州を抑え、コロラド州、ユタ州、そして地元のバーモント州で勝利しました。この3日間に行われた中道派のマジックは、「バーニー・ブラザーズ」から見たら「エスタブリッシュメントの奴らめ、なんてズルいことしやがるんだ!」と映っていることでしょう。だから今日の戦いは、「帝国の逆襲」ならぬ「エスタブリッシュメントの逆襲」というタイトルをつけてもいいでしょう。

〇5億ドルという巨額の選挙資金を投入したブルームバーグ氏は、ふたを開けてみたら2位にさえなれない体たらく。唯一、ここだけは勝てたのが米領サモアの党員集会、となったら悲しくなります。でも、彼は最初から「ブローカード・コンベンション」が狙いなので、こんなところで気持ちが折れることはないでしょう。まあ、「撒き餌」みたいなものです。党大会が近づいて、他の候補者が資金を使い果たしたときに勝機が出てくるという人ですから。

〇ウォーレンは地元のマサチューセッツ州も取れずに3着。はっきり言って不甲斐ない結果です。でも、彼女の立場は少し微妙で、女性の候補者がいなくなるのは寂しいし、いざとなったら左派と中道派の妥協の産物として役どころが回ってくるかもしれない。だったら慌てて降りる必要はないはず。後はお財布と相談してゆっくり決めてください、てな感じでしょうか。

〇ということで、3月3日の「決戦の火曜日」はバイデン大復活となりました。しかるに代議員数の現状はここをご参照あれ。バイデンが453でサンダースは382でその差は思ったほどではありませぬ。この調子でいくと、代議員数の過半数、マジックナンバーたる1991に届くのはいつのことになるのやら。そうなると結局は党大会勝負となり、悪名高き「スーパーデリゲート」たち771人の出番となる。これは民主党としては望ましくない展開です。

〇だから共和党みたいに「ウィナー・テイク・オール」方式にすれば早く決まるのに。いつまでこの「比例配分方式、ただし15%未満は足切り」ルールにこだわるんですかねえ。おそらく2008年のヒラリー対オバマの時のような消耗戦になりますぞ。まあ、こっちはその分、長く楽しめていいんですけれども。

〇ところで今日の結果に対し、トランプさんが物議をかもしそうなツィートをしています。

「民主党エスタブリッシュメントが結託して、バーニー・サンダースを粉砕しやがった。しかも2度目だ。エリザベス・ウォーレンが諦めていないことがバーニーの痛手になって、スリーピー・ジョーが予想外にマサチューセッツで勝っている。まったくひどい偶然だ。まだいっぱい州が残っているからな、ジョー」

〇トランプさんがバーニーに肩入れするのは、これはまあ人情というものでしょう。そのほうが戦いやすいから。やっぱり一番やりにくい相手はバイデンなのでしょう。一方で、民主党で内紛が起こればメシが旨い、てなことも考えているらしい。まったく煮ても焼いても食えません。


<3月5日>(木)

〇一夜明けたら、ブルームバーグが選挙戦から撤退であるとのこと。すごいですね、スーパーチューズデーのたった1日のために、見切り千両ならぬ見切り5億ドル。とにかくトランプを倒すことが大事なので、バイデンが皆を代表してその役割を果たしてくれるのなら、自分はもう用がないとの割り切りなのでしょう。いやー、もったいない。使ったお金の千分の1でいいから俺にくれ、と思う人は少なくないでしょう。

〇一方でこの5億ドルが何に使われたかというと、ほとんどは地上波のCM料である。それがいかに効果がないものであるかが、今回、明らかになってしまった。はっきり言って、地上波は斜陽産業である。世論に対する影響力も低下しているのであろう。あんなものに広告費を払うのは、今時遅れてるよね、ということを身をもって示してくれた。各州のテレビ局にとっては、干天の慈雨であったかもしれませんが。

〇逆にバイデン候補77歳は、一度も足を踏み入れなかった南部諸州でも1位になっている。現物のバイデンを見てしまうと、「あー、やっぱり老けたなあ」とか、「昔はもっと早口で活舌が良かったものだが・・・」などと思われてしまうので、なるべくご当人が姿を現さないほうがいいのかもしれない。演説はさせない、討論会も出ない。本人を隠して選挙に勝つ。さすがは「残念力」の人。そういう新戦術もありかもしれません。

〇バイデンにそれほどまでに期待が集まったのは、「トランプに勝てそうな候補者だから」。ただしそれはケインズの言う美人投票のようなもので、「たぶん皆がそう思うだろうから」という計算の上に成り立っている。実際に戦ってみないと、本当のところはわからない。まだまだ山あり谷あり。そうでないと、アメリカ大統領選挙らしくありません。


<3月6日>(金)

〇このご時勢に、今週は飲み会2件。なるべく換気の良い広い部屋で、などというのだが、要は元気で、気にしない人ばかりが集まる仕組みである。そうでなくとも今は飲食店は受難の時代である。いい店にはなるべく行ってあげないと。

〇「皆さま、お飲み物は?」と聞かれて、10人中ビールが3人だけ、というシーンがあった。なんとノンアルコール・ビールの方が多いのである。理由は簡単、クルマで来ている人がいるから。大学教授などは、日常の移動が自家用車という人が意外と多いのである。なるほど車内という個室で移動していれば、感染のリスクは高くならない理屈である。

〇その一方で、電車通勤者がこれだけ多い首都圏で、それほど感染者が増えていないというのは、意外と電車内での感染リスクは低いのではないか、との指摘もある。駅ごとにドアが開くから、実は換気が良いのかもしれない。だったら快速よりも各駅停車に乗るほうがリスクが低い、なんてこともあるのかも。

〇「新幹線がガラガラだったよ」との声あり。特にグリーン車はもともと外国人が多いので、その分だけでも大減収だろう。考えてみれば、ワシの講演会も今月だけで金沢と仙台と千葉の3か所が取りやめになっている。人の移動が減って、その分、テレワークや電話会議などが増えるのだろう。もっともテレワークというもの、現状では電波状況が悪いとブツブツ途切れるので、あまり評判がよくないようだ。やはり本格的な5G時代にならないとダメなんでしょうか。

〇「不動産ブームもそろそろ終わりかね」なんて声もあった。近年、首都圏では高額物件が売れまくっていたが、それは都心に人が集まることのメリットを評価してのことであった。「いや、別に離れていてもいいんだ」ということになれば、前提が一気に変わってくる。

〇ウイルスというやつは、所詮は人体の中でしか生きられない哀れな生命なのだ。だから近くに他人がいなければ安全。そうだよねえ、お花見だって、一人でやる分にはリスクがない、ということになる。それはそれで寂しい話なのだが。


<3月7日>(土)

東洋経済オンラインの「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」に、オバゼキ先生が初登場です。ぐっちーさんが昨年9月に亡くなって半年、新メンバーでのトリオ再発足となります。


ついにアメリカの巨大バブル崩壊が見えて来た(小幡績・慶応義塾大学准教授)


〇新型コロナウイルスが問題なんじゃない。これはアメリカの巨大バブル崩壊のきっかけに過ぎぬ、という議論である。そうだとしたら、まだまだ下値がありそうでいかにも怖い。もっともオバゼキ先生は、かなり前から「バブル崩壊」を唱えていたので、「もうはまだなり」になるかもしれない。さて、どっちでしょう。

〇競馬予想の方は3月8日(日)の弥生賞。オバゼキ先生はオーソリティーが本命。ちなみに山崎元さんはサトノフラッグと言っていて、ワシはどうせならブラックホールを買いたいと思っている。だってゴールドシップ産駒だし、いかにも「世相馬券」じゃないですか。誰も一番人気のワーケアを評価していない、という点がいかにも、である。

〇やまげん、オバゼキ、かんべえ、の3人となりますと、「将棋ファン」という共通点もある。それぞれにご贔屓の棋士がいて、順に森内九段、行方九段、佐藤康光九段となっている。競馬と将棋、というのは親和性があるらしく、それは負けた時の悔しさが強烈であるからではないかと思う。つまりはマゾヒスト体質、ということであって、実はそれはエコノミストという仕事とも親和性が高いような気がする。

〇ということで、新トリオでまだまだこの連載を続けてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。


<3月8日>(日)

〇昨晩は町内会の防犯部の打ち上げ。柏一小通りの「五平」さんは、お隣の個室では30人くらいの大宴会が入っていて、このご時勢にも繁盛しておられる様子。結構なことであります。

〇さて、あらためて本日現在のデータを確認しておきましょう。Covid-19は全世界での感染者数が10万人を突破。死者3594人、致死率は3.38%ということになる。その一方で、回復者が59,965人と半数を超えるようになっている。これは中国大陸の数値をそのまま反映したもので、かの国では「どうにか峠を越した」とホッとしているところではないか。ランキングは以下の通り。


  感染者

Total Confdiermed

死者

Total Deaths

回復者

Total Recovered

全世界 106,165 3,594 59,965
@中国大陸 80,695 3,097 57,094
A韓国 7,134 50 118
Bイタリア 5,883 233 589
Cイラン 5,823 145 1,669
Dフランス 949 11 12
Eドイツ 800 0 18
Fその他 696 6 40
Gスペイン 525 10 30
H日本 461 6 76
Iアメリカ   433 17 8



〇既に感染者数では、フランス、ドイツ、スペインにも抜かれております。あいかわらず、Fその他=ダイヤモンド・プリンセス号を合算して報道する向きも少なくないようですけどね。中国からの距離を考えれば、日本はよくまあこれだけでとどまっているものだ、と感心するくらいの水準です。

〇東京五輪を開催できるかどうか、という問題も、日本が危ないか危なくないか、ではなくて、今年の夏時点で全世界がスポーツの祭典を行えるような環境なのかどうか、に懸かっているものと思われます。

〇それにしても、韓国のデータがちょっと変。感染者数が7000人を超えているわりには死者数が少ない。ひょっとすると、検査をやり過ぎて軽症者も感染者にカウントしているのではないだろうか。この場合、軽症者が病院のベッドを占拠してしまうので、あとから重篤な人や交通事故の患者を受け入れられなくなってくる。まして感染者は大邱市など狭い地域に集中しているので、診療は修羅場になっているのかもしれない。

〇検査の件数を惜しんで、「なるべく家にいてください」という日本のやり方は、評判は悪いけれども意外と正しいのではないだろうか。医療というリザーブには「代わり」がありませんから。


<3月9日>(月)

〇今日は盛大に株が下げました。直接のきっかけは新型コロナウイルスかもしれませんが、アメリカの10年物金利が1%割れして、再び長短金利が逆転していることも不気味です。オバゼキ先生が言う通り、10年にわたる米国株高の最終局面なのかもしれない。そして原油価格も暴落している。こちらはサウジとロシアの見解が一致しないこともある。が、世界経済の減速を予測していることも間違いないだろう。

〇それは別として、今日発表された「2月分景気ウォッチャー調査」はどエラい悪さでした。現状判断DIは41.9(1月)→27.4(2月)の▲14.5、先行き判断DIは41.8(1月)→24.6(2月)▲17.2でした。これはもう、リーマン級ですね。ここまで急激に悪化すると、気の利いた面白いコメントが見当たらなくなってしまう。とにかく悪い。そしてコメントの3つに2つは「新型コロナウイルス」が入っている。

〇今回の景気悪化局面においては、インバウンドの減少や自粛ムードによる消費の需要減が問題の中心なので、対策の打ち方が難しい。公共事業をやろうにも、そもそも入札ができるのか、工事の人手は足りるのか、新たなウイルス蔓延の機会を作ってしまうのでは、みたいな疑問が生じる。それでは減税か。あるいは定額給付金か。それはたぶん消費に回らずに、貯蓄に回ってしまう確率が大である。

〇古いおなじみの小林慶一郎教授が、「コロナ・ショックへの経済対策:株式買支えと個人向け緊急融資を」という提言を寄稿している。ポイントは2点。@「株式買い支え策」は日銀がETFを買ってくれるからいいとして、A「個人向け緊急融資」はもろ手を挙げて賛成したい。財政再建派の小林先生としては、かなり思い切った内容じゃないかと思う。


 コロナ・ショックで収入が途絶するなどして生活苦に陥った人は、マイナンバーを申告しさえすれば無審査・無担保・無条件で国から毎月10万円まで1年間、借りることができるとする。緊急の融資なので無審査だが、所得を偽る不正を防ぐために、事後的に国(税務当局)が必要な調査をできることにすればよい。返済は3年間猶予して2024年度から開始する。2024年度までは金利ゼロとし、その後は、借入残高には年率1%程度の金利を付ける(あるいは、たとえば30年物国債の利回りと同じにする)。

(中略)

 仮に1000万人がこうした融資制度を利用すると仮定すれば、最初の貸出のために12兆円ほどの政府支出が必要になり、その分だけ国債を新たに発行しなければならなくなるが、コロナ・ショックで消費が抑制され、貯蓄が増えるので、難なく国債は消化されるだろう。また、将来的に、12兆円の大半は利子つきで国庫に返済されるので国民負担はほとんど生じないはずである。



〇飲食店やイベント関係で日々の糧を得ている非正規社員、もしくは自営業者は相当な数になるはずである。そのうえ、小さなお子さんがいたりすると大変だろう。融資でいいのか、とか、窓口をどこにするのか、などの問題はあるものの、とにかく急がなければならない。明日には新型肺炎の対策第2弾が発表されるはずだが、「予備費の2700億円」では到底足りないはずである。何しろ医療関係に投入すべき緊急資金もあるのだから。

〇ついでに言えば、円高対策も難しい。あのトランプ政権が、円高防止の協調介入に付き合ってくれるとは思えない。だからと言って、単独介入ではたぶん効かない。さて、どうしたらいいのか。あまりいい知恵はありませんが、かといって座しているわけにもいかない。

〇明日は新型インフルエンザ対策特措法の閣議決定もあるはず。ここから先はスピードの勝負となるはずであります。


<3月10日>(火)

〇週明け9日のNY株式市場は大暴落。ダウ平均は2013ドルの下げを演じました。下げ幅では史上最悪、下落率は7.79%で、リーマンショック後の2008年10月15日以来の大きさでした。NY証券取引所はサーキットブレーカーを発動し、株式の売買は15分間中断されました。

〇本日朝の朝刊では、そろって「新型コロナウイルス感染拡大で景気後退への懸念から」と説明されている。それ自体は自然な流れでしょう。ただし、今回はどうやら原油価格急落による売りですね。コロナが原因だったのは先週までで、今週は3月6日(金)のOPECプラス会合で、産油国の交渉が決裂したことがトリガーを引いたと考えます。

〇なにしろWTI価格が、一時1バレル27ドル台を付けたとあっては尋常じゃありません。年初には60ドルを超えていた原油が半値以下になったのですから。新型コロナウイルスの感染拡大で、原油の需要が低下するのはやむを得ないこと。問題は産油国の協調減産ができないどころか、増産に向かうようになったことです。

〇サウジは当初、OPEC非加盟国であるロシアに対し、1日150万バレルの減産に参加するように要請しました。ロシアはこれを拒否。それどころか既存の減産合意の延長もできず、こちらは3月末に失効するので、4月1日からは各国が好きなだけ生産できるようになった。とはいえ、増産余力があるのはサウジとロシア、後はUAEくらいなので、ここから先はサウジとロシアの意地の張り合いということになる。

〇ここでハッと気が付くのは、MbSことムハンマド・ビン・サルマン皇太子と、ウラジミール・プーチン大統領という2大権力者は、どちらもあとに引けない立場なのですね。MbSは昨年12月、虎の子の国営石油会社アラムコを国内で上場し、次は海外でも上場させて、改革に必要なキャッシュを得ようとしている。ところが油価の値下がりにより、現在の株価は公募価格を割り込んでいる。ここまで来たら、「アラブの盟主」なんてことは言ってられない。価格競争、受けて立とうじゃないか、ということになる。

〇ロシアも困っている。ちょうどプーチンは、みずからの退任後のフリーハンドを得るべく、憲法改正を提案している。4月22日に国民投票を実施し、5月9日には対独戦勝75周年記念をモスクワで派手に祝う。後はインフラ整備にカンガン金を使ってロシア経済を浮揚させ、円滑な権力交代と優雅な退任生活に思いをはせていたところである。そこへ降ってわいてきたのがコロナウイルスで、原油も急落では踏んだり蹴ったりと言ったところ。ちなみにロシアの予算は、1バレル60ドルを前提条件にして組み立てられている。

(安倍さんはこの5月9日にモスクワへのご招待を受けている。おそらく強烈なお誘いなのであろうけど、元敗戦国の代表がどの面下げて行きますかねえ。賭けてもいいけど、領土問題の前進はないはずである)

〇ところでロシアやサウジ以上に、石油下落でアメリカ経済がひどい目に合うのじゃないか、むしろこれは産油国が「油価戦争」を仕掛けているのではないか、という観測もある 。なんとなれば、今や世界最大の産油国はアメリカだ。そしてシェール企業は規模が小さく、経営体力が脆弱なので、価格競争についてこれないのではないか、というのである。

〇前回、2016年の石油下落局面では、シェール企業は意外なしぶとさを発揮して生き残った。むしろ痛い目に遭ったのは、安値攻勢をかけたサウジ側であった。シェール企業は開発済みの井戸をそのまま放置しておいて、値段が上がって採算が取れるときだけ採掘する、といったゲリラ戦を展開した。この辺がいかにもアメリカ企業である。開発の手法もどんどんイノベーションが進み、予想を超えた安値でも対応ができたのである。

〇もうひとつ、彼らにはハイイールド債という武器があった。そこはアメリカの金融市場、ちゃんと危ない企業にリスクマネーを提供する仕組みが存在するのである。ちなみにこのハイイールド債、昔はジャンクボンドと呼ばれていた。物は言いよう、途上国を「エマージング(新興国)」と呼び換えたのと同じですな。

〇心配なのは、このハイイールド債市場がどう見てもバブルになっていることだ。こういう格付けの低い社債をパッケージにして、高金利で売るCLO(ローン担保証券)なんていう金融商品も出てきた。これってどう見ても昔、サブプライムローンを世界中の投資家に売りつけたCDO(債務担保証券)とどこが違うの?と聞くと、イヤーな沈黙が広がるようになっている。

〇リーマンショックも遠くなりにけり。何しろ2008年と言えば、ひと回り前の子年でありますからな。みんな忘れちゃっているんですよ。ちなみにグーグル検索で「CLO」と入れてみてください。ついでに日本の銀行の名前が2つ出てきます。そこはCLOをいっぱい買ってしまっている、ということでしょう。長引く低金利は、リスクを取っちゃいけない人にリスクを取らせてしまっているのではないでしょうか。

〇ハイイールド債市場の約15%はエネルギー関連銘柄だと言われている。石油価格の下落は、「第2のサブプライム問題」を招きかねないことには注意が必要だ。これが当面、最悪のシナリオでありましょう。ここまでくると、「リーマンショック並み」という言葉が現実味を帯びてくる。さて、明日はどうなるのでしょう。


<3月11日>(水)

〇3月10日の「ミニ・チューズデー」では、バイデン候補が強さを見せつけました。

〇南部のミズーリやミシシッピで勝つのはいわば当たり前。勝負所は2016年にトランプに奪われたミシガン州。そこで大差をつけて勝って見せた。サンダースが優位とみられていたワシントン州でも、いい勝負を演じている。

Michigan (125) Votes Percent Del. 99%
Biden 832,451 52.9 53  
Sanders 574,600 36.5 35  
Gabbard 9,439 0.6 0  
   
Missouri (68) Votes Percent Del. 100%
Biden 399,439 60.1 40  
Sanders 229,638 34.6 23  
Gabbard 4,879 0.7 0  
   
Washington (89) Votes Percent Del. 67%
Biden 333,414 32.5 17  
Sanders 335,498 32.7 17  
Gabbard 8,550 0.8 0  
   
Mississippi (36) Votes Percent Del. 98%
Biden 212,622 81 29  
Sanders 39,071 14.9 2  
Gabbard 966 0.4 0  
   
North Dakota (14) Votes Percent Del. 77%
Biden 4,366 42.3 5  
Sanders 5,000 48.4 5  
Gabbard 65 0.6 0  
   
Idaho (20) Votes Percent Del. 99%
Biden 52,503 48.9 9  
Sanders 45,639 42.5 7  
Gabbard 864 0.8 0  



〇それではこのままバイデン候補が突っ走るのだろうか。ワシは意地悪なので、どこかで「ええっ、そんなはずじゃなかった!」的な瞬間が来ると思うんだよねえ。ジョー・バイデンはやっぱり老けているし、魅力的でもないし、失言も多い。息子のハンター・バイデン氏のことを突っ込まれると、今でも逆切れしかねない。そして2月29日のサウスカロライナ州予備選挙で勢いがついたけれども、それからまだ10日しかたっていない。長い戦いですから、山あり谷ありだと考えるほうがいい。

〇民主党支持者の間では、今は「いちばん勝てそうな候補だから」ということでバイデンが支持されているわけなので、これは2004年のジョン・ケリーと重なってくる。あのときも、左派のハワード・ディーン候補の人気が途中で急落し、ベテランの上院議員を選んだわけですが、最後は今一歩打倒ブッシュには届かなかった。

〇本日は会社をお休みして、勝手に時々テレワーク。昼間は水戸市まで行って、茨城県近代美術館(名画を読み解く)と茨城県立歴史館(特別展佐竹氏)を訪れてきました。人が多く出ている偕楽園はパスで、クルマで出かけて、空いている場所ばかりを訪れてきました。お天気が良く、お散歩には良い一日でしたな。家に閉じこもっている手はありませぬ。


<3月13日>(金)

〇このところ、「なんちゃってテレワーク」になっていて、自宅や自宅近くの仕事場(本を置いているアパート)などで仕事をする時間が増えております。本日の溜池通信も、いろんな場所で書き連ねたものの集大成となっております。どうも我ながら、注意力散漫な文章になっているような気がするな。

〇その一方で、滅多に見られない平日昼間のご近所の光景に出くわすこともあるわけです。ビルの取り壊し作業が始まった工事現場とか、コンビニに脱脂綿とガーゼを買いに来たマスクの老人が、外国人店員とかみ合わない会話をする様子とか、配偶者と一緒にランチに行ったカレー屋さんとか。これはこれで面白いもので、どんなことでも「初めてやることには意味がある」との思いがしています。

〇そうかと思えば、今日になって急遽出ることになった「ゆうがたサテライト」の控室で、ちょこまかとPCを開いて作業もしました。細切れで仕事していると、なかなか集中しにくいですよね。とはいえ、自営業というのは本質的にそういうものではないか、という気もする。ちなみに今日は池谷キャスターがテレワークの日で、番組は塩田キャスターとご一緒でした。


<3月14日>(土)

〇今日はホワイトデー。と思ったら首都圏では雪が降りましたな。正直、今日は外出の用事がなくてラッキー!と思う寒さでありました。

〇この日を祝うべく、高輪ゲートウェイ駅の開業とか、常磐線が9年ぶり全線開通とかが予定されていた。でもイベントは中止になっている。しょうがないよねえ。それでも鉄ちゃんは高輪に集まったらしいが。くれぐれも「クラスター」にならぬことをお祈りいたします。

〇アメリカではトランプ大統領が非常事態を宣言し、WHOのテドロス事務局長は「欧州がパンデミックの中心」であると述べた。日本国内でも新型コロナの感染者が増えているけれども、いつもの国際比較を見ると、今日はもうスウェーデンやオランダやデンマークや英国にも抜かれている。おそらくこの4か国の人口を全部足しても日本には及ばないのだから、やはりわが国では進行が遅いと考えていいのではないか。

〇逆にどんな国で感染が広がっているかといえば、目立つのはイタリア、イラン、韓国である。さて、この3か国にはどんな事情があったのか。

〇イランの場合はもともと経済制裁が効いていて、医療体制が脆弱だったのであろう。また、石油ビジネスを狙って中国人が多く入っていたことも想像に難くない。そして年初からのゴタゴタ(忘れてませんか?ウクライナ航空機撃墜事件)もあって、国内の強権体制に対して国民の信認は低下している。これはもう「今年は踏んだり蹴ったり」で、お気の毒さまである。

〇イタリアはどうか。「中国人観光客が年間300万人も来ていた!」との報道があったけれども、それって「日本の3分の1」に過ぎない。まあ、確かに「一帯一路にG7で最初になびいた国」などという土壌はあったけれども、それが主因ではあるまい。

〇より大きな問題は医療現場であろう。もともとイタリアはEUの財政再建要請を受け入れ、医療機関を極限まで減らしてきた。それに対する反発もあって、今のポピュリスト連立政権が誕生しているわけだが、こういう脆弱な政権は「人気取り」政策をやる。というより、やらなければならない。そこで医療現場は無理をする。軽症の患者も引き受けて、重篤な患者を受け入れられなくなる。そして医師や看護婦が疲弊する。それが最悪の結果を招く。

〇韓国の場合も、多分に似たような事情が働いているのではないかと思う。「わが国の対策は世界の手本」などと、文在寅大統領が自画自賛するのを笑っちゃいかんです。彼は来月15日の総選挙に政治生命がかかっているのです。それで負けたら、後は歴代の大統領と同じように悲惨な目に遭うことは避けられないわけですから。くれぐれもあの国はお手本にしちゃいかんです。

〇逆に台湾の対応が褒められているけれども、これは蔡英文政権が再選を決めた直後であり、政治的求心力が最高潮のタイミングで起きた事件だったことが追い風になっている。たぶん1年前の蔡英文総統だったら、今の指導力の半分も発揮できなかったのではないか。古い親台派の一人としては、最近の「にわか台湾礼賛論」にはちょっと心もとないものを感じている。

〇つまり、こういうことだ。世界的に増えている「ポピュリスト政権」は、パンデミックという事態に対する対応で下手を打ちやすい。特に心配なのがトランプさんだ。いや、ホント。今の米国も欧州諸国も、ポピュリスト政治が蔓延している。そういうのはウイルスの拡大には非常に好都合だということになる。くれぐれも政治は、ワイドショーやSNS世論なんぞに耳を貸してはいかんです。

〇ということで、いいことがない週末になっているが、こんな寒い日に東京は開花宣言。宴会は自粛しても、花をめでる気持ちは忘れないようでありたいものです。


<3月15日>(日)

〇うってかわって今日はいいお天気。午前中に柏市内の大堀川を散歩してみたら、桜並木は今にもつぼみが開かんばかりのような状態でありました。今週中には開花しますな。

〇それにしても、市民ランナーは多いねえ。こっちは歩くだけだけれども、実にたくさんの人が川べりを走っている。そういえばマラソン大会も、たくさん中止になっているのだなあ。それから国道16号線は、結構トラックが多い。経済活動が完全に停滞しているわけではないらしい。たとえ新型肺炎で「非常事態」であっても、なるべく生活は「いつも通り」であるほうが望ましい。家に閉じこもっていると、疲弊してしまいますから。

〇昨日、「ポピュリスト政権はパンデミックの時に危うい」と書いたら、ボリス・ジョンソン首相が国民向けの演説を行って、これがなかなかに評判が良いようだ。@ちゃんと専門家の意見を聴いたうえで、Aわかりやすい言葉で国民に向けて語り掛け、Bしかも言いにくいこと(感染が広がるにつれて、多くの家族が身内や親友を失う)を正直に言っている。特に最後の点が偉いといえる。ジョンソン首相は僥倖を当てにしていない。「神風が吹く」みたいな発想は全くない。

〇ちなみにわが国の場合は、首相から新聞の社説までが揃って、「東京五輪を予定通りに開催する」ことに疑義を挟めないでいる。でも、本音を言えば、もうじき到着する聖火をどうしたらいいか、各都道府県は困っていると思うぞ。ニュースでは全世界的なパンデミックの状況を伝えながら、その合間には「TOKYO2020が楽しみだ」というCMも流れる。この決まりの悪さはまことに困ったものです。

〇ジョンソン首相のメッセージは、コロナウイルスの拡大を「封じ込める」ことをそろそろ諦めて、「流行を遅延さぜる」作戦に切り替えるという趣旨である。そうすることによって、英国の医療機関(NHS)への負荷を下げる。だからなるべく病院に行くな。発熱の場合は自宅隔離を、と言っている。患者の数は無限大に増えるかもしれないが、医者の数は有限である。だからNHSというリザーブを守らなければならない、という判断は、有事における国家の指導者としてはまことに妥当なものであるように思える。

〇ちなみにこの逆のやり方は、「医者は患者のために存在するのだから、医者は死ぬまで患者のために働け」と言って玉砕してしまうことである。わが国は、下手をすると本気でそういうことをやりかねない国である。くれぐれもわが国のお医者さんたちが、「竹槍精神」を発揮しないでもらいたいと思う。今のところは厚生労働省が生ぬる〜く構えていて、PCR検査なんて無理をさせないようにしている。それは結構、賢いやり方かもしれない。それをあえて言上げしないことも含めて。

〇さて、ジョンソン首相の方針については、いろいろ批判もあるだろう。何より、狙い通りに「集団免疫」ができるという保証はない。もう少し、「封じ込め」作戦を粘るべきかもしれない。また、コロナウイルスがどんどん変化していく恐れもある。それでも少なくとも彼は、ポピュリスト的ではないアプローチをとっているという点を評価したい。それこそ国難に直面したチャーチルがそうだったように振舞おうとしているのではないか。いや、真面目な話、ちょっとだけ見直しましたですよ。

〇内心ではめちゃめちゃ動揺しているのだけれども、あえて何でもないふりをするという「やせ我慢」こそが、英国紳士の流儀なんですよね。好きです、そういうの。


<3月16日>(月)

〇今度のコロナウイルスによる世界経済の混乱を何と呼ぶべきだろう。今月に入ってから世界同時株安は、明らかに2008年のリーマンショックに似ていて、あの時は「100年に1度の国際金融危機」と呼ばれたものだ。だとしたら、今回のは「10年に1度」になるのだろうか。それも少々、変ではないだろうか。

〇むしろ世界経済はリーマンの時の後遺症から癒えておらず、広い意味での危機がずっと続いていたのだという見方もできる。いくら景気拡大が続いても物価は上昇せず、従って長期金利も上がらない。そして中央銀行がそろーりそろーりと政策金利を上げようとすると、たちまち市場が反乱を起こして長短金利の逆転が起きてしまう。それがこの10年であった。

〇今回、FRBは3月15日に緊急会合を実施し、FF金利を1.0%下げて0〜0.25%とした。もともと下げる余地は100bpしかないところを、全部下げてきた。普通、拳銃に弾は一発は残すもの、と言われるが、敢えて残さなかった。この評決は賛成9、反対1だったそうなので、圧倒的大差といえる。

〇同時に、「目先数か月で米債の保有額を少なくとも5000億ドル、MBSの保有額を少なくとも2000億ドル増加させる」とした。すなわちQE4が始まるということだ。Fedのバランスシートは2008年の約8000億ドルから3次にわたる量的緩和政策によって膨張し、ピーク時には4.5兆ドルにまで達した。これを2017年秋から徐々に引き下げ、昨年夏には3.7兆ドルまで下がっていたのだが、やっぱり資金供給が必要だということになって、直近の3月9日には4.3兆ドルまで回復している。ここにあと0.7兆ドルを加えることになる。5兆ドルは越えますな。

〇さらにフォワードガイダンスとして、「新型コロナ乗り切ったと確信持つまで金利をゼロ近辺に維持」することをコミットした。いやもう、お見事としか言いようがない。切れるカードは全部切った。あとはトランプさんにいくら嫌味を言われても、「われわれの仕事は既に完了です」といえてしまう。それくらい今朝の発表は強烈なものがありました。

〇これはもちろん日欧などの中央銀行当局とは打ち合わせ済みであったようで、日銀も苦しい懐事情ながら今日は緊急の会合を開き、ETFの買い入れ額の倍増などのカードを切っている。

〇しかるに、これだけやっても株価の反応は思わしくはない。そりゃそうだ。金融政策によってウイルスが収束するわけではない。そしてとうとう、世界中のほとんどで金利がなくなってしまった。言葉を換えれば、「日本化」が世界を覆いつくしている。さて、これから先に何が待ち構えているのだろう。

〇これから先は財政政策の出番だ、と言われる。その前にG7のテレビ会議があって、これはもう今年のG7会合はそれで済ませるのが良いかもしれません。その前に、先進主要国としてはお互いが「××ファースト」で自国だけが助かればいいのではなくて、ちゃんと手を携えてウイルスと戦うのだという姿勢を見せなければなるまい。そうでないと、一足先に危機を脱出する中国のお説教を聞かなければならなくなるかもしれない。そりゃあ、問題ですよ。

〇明日の株価はどうなるのか。あ、NYダウは2200ドル下落で始まったようだ。明日の「モーサテ」を見るのが怖い。「WBS」は見ないで寝よう。そういえば、今日も「ゆうがたサテライト」に出てしまったな、ワシは。


<3月17日>(火)

〇昨日の米連銀による利下げと、各国中央銀行による協調は、どうも違うボタンを押していたらしく、NYダウの下落幅は史上最大の2997ドルとなった。ほんの1か月前には3万ドルに手が届こうとしていたものが、今では2万ドルを割りかかっている。まあ、それでも2016年11月のドナルド・トランプ当選のタイミングでは、1万7000ドルくらいであったから、これでトランプ政権の功績が一気に瓦解したわけではないのであるが。

〇とりあえず明らかになったのは金融政策の限界である。それでもリーマンショック時のような信用不安を回避するためには、今回の措置は役立つはずである。以前から指摘している通り、今回の新型コロナウイルス拡大に伴う経済危機の最悪のシナリオは、石油価格の下落と連動してシェール事業者の連鎖倒産を招き、ハイイールド債の暴落を招くことである。それをやると、日本の金融機関にも飛び火しちゃうかもしれない。怖いですぞ、これは。

〇それではコロナ危機に対する正しい対処法とは何か。もちろん今回のような事態に対しては、「こうすればいい」という経済学の教科書があるわけではない。皆で必死になって考えるほかはなく、なおかつ試行錯誤は避けられないところである。さっそく今日、東京財団が「経済学者による緊急提言」を発表している。これは今後の議論のたたき台になってくれるのではないかと思う。

〇当溜池通信なりの意見を述べるならば、こういうときの経済対策のあるべき姿は、何はさておきマクロの財政支出である。それも所得税や固定資産税の減税などよりは、定額給付金のようなわかりやすい形が望ましいと思う。何よりこの手の減税をやってしまうと、「では、いつになったら元に戻すのですか?」という問いが生じてしまう。不安心理が強いさなかに、将来の「財政の崖」を作るべきではない。さらにまずいのは消費税の減免措置であって、だったら今の軽減税率をどうするのか、という問題が浮上してしまう。願いあげましては、仕入れが8%と10%と5%になりまして・・・・などと言われたら、全国の税理士さんと中小零細企業が卒倒してしまいますぞよ。

〇定額給付金といえば、完全に忘却の彼方であるかもしれないが、リーマンショック直後の2008年12月に麻生政権が行った「生活防衛のための緊急対策」の中に組み込まれている。「定額給付金」の実施(1人12,000円、65歳以上及び18歳以下に8,000円を加算)等で事業規模2.0兆円とある。こんな素人くさい政策は、費用対効果を分析されることもなく、翌年夏に誕生した民主党政権とともに速やかに忘れ去られてしまった。しかるに今のように消費が「蒸発」してしまっている際には、それなりに有効な手段であるものと考えます。

〇2番目に考慮すべきは、6月末に終わってしまうキャッシュレス・ポイント還元制をどうするかである。規模は小さいけれども、早いとこ決めなければいけない。7月にこの制度が終わると景気にマイナスになるかもしれないが、それは東京五輪もあるから大丈夫でしょ、ということで締め切りが設定されている。しかるに東京五輪はどうなるかわからない。キャッシュレス化はせっかく軌道に乗りつつあるのだし、費用対効果も優れているので、「7月からは規模を倍にします」というやり方もアリではないかと思う。政府与党内では、マイナンバーカードを使ったポイント還元への移行を考慮していたと仄聞しているが、それでもいいからとにかく切れ目を作ってはならない。

〇3番目に、特定の産業や地域に対するテコ入れを考えなければならないだろう。端的に言えば、観光産業であり、北海道である。何しろインバウンドは当面、縮小すると考えざるを得ない。こういうターゲティング政策は「どこからどこまでで線引きするのか」が難しいし、政府との癒着みたいな問題も起きやすいという問題がある。しかし、「ツーリズムこそは21世紀の重要産業である」という遊民経済学のコンセプトから行けば、「外国人がしばらく来なくなる今こそ、日本人がもっと国内を移動すべき」と考えることに意義があると思う。

〇おそらく今のコロナ騒ぎが落ち着いたときには、強烈なペントアップ需要が生じるはずである。要するに「我慢の限界」というやつだ。そうなったときに日本国民は何をするだろう。たぶん、田舎の温泉に出かけるんじゃないかと思う。いいですよぉ、温泉は。料理に日本酒、加えて感染リスクが高いわけでもない。以前に群馬県がやっていたような、「温泉旅行の割引クーポン券」みたいな発想も、規模は小さくてもやってみる価値はあると思う。何より、先々の楽しみができるではありませんか。

〇夢のある政策を考える、というのも重要なポイントだと思います。人生に必要なことは、愛と勇気と少しだけのお金(Some Money)。これが景気対策に肝要な精神であると考えるものであります。


<3月18日>(水)

〇コロナウイルスで世の中は大変なことになっているけれども、FXの会社では「やっと為替が動いたので、お客さんが動き始めてくれました」というし、ネット証券では「コールセンターの電話がじゃんじゃんなり続けている」と聞く。確かに今の株価を見ると、ほんの1か月前には考えられなかったくらい安いので、これはいっちょ出動してみようか、という気持ちになるのはよくわかる。

〇そういえば中国株が意外としぶといのは、家に閉じ込められている人たちが、暇に任せてネットでバンバン株式を注文しているからだ、という噂もある。今回の事態は国境の壁をどんどん高くしているけれども、自宅で何でも用が足りるよう結構な時代になりつつあって、テレワークやウーバー・イーツなんかが急速に定着しつつある。個人投資家にとっては、自宅に居ながらにして何年かに1度のチャンスをつかむチャンスかもしれない。

〇とはいうものの、これもリーマンショックの時の体験に学ぶならば、大規模な市場の混乱が起きたときには、二重、三重の事故が起きがちである。そもそも2008年の時だって、@パリバショック(2007年夏)→Aベア・スターンズ救済(2008年3月)→Bリーマン・ブラザーズ社破綻(2008年9月)という三段活用だったのだ。さらにその後も、米下院が不良債権買取法案を否決したり、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が暴落して企業間取引ができなくなったり、なんてサプライズが続いて二番底、三番底を体験したのでありました。

〇今回もコロナウイルスが市場をかく乱したら、元に戻ることをついつい期待してしまうけど、二次災害のことも心配したほうがいい。以前から何度も書いているように、「石油価格の下落」→「米シェール企業の経営悪化」→「ハイイールド市場の暴落」→「社債市場の混乱」→「日本の金融機関にも大損害」というシナリオだってあります。が、それだけではないはず。

〇目先で心配なのがイタリア国債である。人口6000万人の国で3万人もが新型コロナに感染していて、既に2500人が死んでいる。これを日本の人口に当てはめれば、6万人の感染者と5000人の死亡者ということになる。そうなったときの混乱を想像すれば、国債が暴落しても(長期金利が高騰しても)、何の不思議もなかるべし。こんな状態で、あの脆弱なコンテ連立政権が存続できるのか。そもそもイタリアがこんな風になってしまったのは、EUが定めた財政規律を守るために、医療予算をカットしまくったからである。これを契機にイタリアがEUを脱退することになるのも、十分にありうるシナリオだと思います。

〇サウジアラビアの動きも気になります。なんでロシアとの価格競争(増産)になったかというと、MBS皇太子が兄の石油大臣との意地の張り合いが原因だった、なんて説まである。まあ、昨年末にアラムコを国内で上場した時点で、サウジの王族は皆さん、こぞって株を買わされたことでしょう。それが公開価格を下回っているという現状は、MBS皇太子にとっては針のムシロなんじゃないでしょうか。おいおい、これじゃ国王にはなれないぞ。そういえばビジョン・ファンドって大丈夫なんですかねえ。

〇などと「危機の連鎖」が気になりだしてきました。正直、明日もモーサテを見るのが怖いです。果たしてどうなっておりますか。まあ、とりあえず今夜のところは、ワシは風呂にでも入るべえ。


<3月19日>(木)

〇昨日、外為どっとコムさんで収録したビデオクリップがアップされたようです。以下、ご参考まで。


●【緊急配信】吉崎達彦氏「この先の為替を見る上でのポイント」2020/3/18 https://media.gaitame.com/entry/2020/03/18/180749


〇米連銀が決めた緊急利下げは、「効果がなかった」ということで非難の声が多いようです。ただし、あそこでゼロ金利を決めてしまったことは、後のことを考えればかならずしも悪手ではなかったと思います。とりあえずパウエル議長は、今後、トランプ大統領からいかなる圧力を受けたとしても、「私共の仕事は終わっております」(あとは連邦政府の仕事ではないですか)と居直ることができる。FRBの組織防衛としては、意外と賢明な手法であったように思われます。

〇足元の状況を言えば、とにかく皆さん、資産を現金に換えようとしていて、その過程においては信じがたいことにゴールドまでが売られている。まさにキャッシュ・イズ・キング。この場合、キャッシュとはドルのことですから、ドルが上昇するのは当然のことです。「安全資産としての円買い」がなくなったように見えるのも、むべなるかなであります。

〇とはいうものの、今後も米連銀のバランスシートは拡大を続け、最低でも5兆ドルは越えてくる。その過程においては、ドル供給はいつかかならず過剰になってくる。そうなったら、円高局面もありべし。そんな風に見ておけば、よろしいかと存じます。

〇もうひとつ、注目点はトランプ政権が打ち出す財政政策ですね。早くも「1兆ドル!」という声が飛んでますが、その裏にあるのは「オバマの景気対策≒8000億ドル」を超えたいといういつもの性分が頭をもたげているからに違いありません。国民に1000ドル配る、というヘリコプターマネー政策が、実現するかもしれません。これはこれで、面白い。ヘリマネというものを、一度でいいから見てみたい。それは他の政策の選択肢と比べても、そんなに悪くはないのではないかと考える次第です。


<3月20日>(金)

〇3月10日の産経新聞「正論」欄に、「コロナウイルスとの戦いには縦深性が大切」という話を書いたのですが、わりと受けているようで、何人かの方から言及いただきました。

〇縦深性、というのは本来は軍事用語でありまして、具体的に言うと「北京を落とし、首都の南京も陥落させたから、当然、相手は降伏するかと思ったら、なんと重慶にまで逃げ込まれて徹底抗戦された」みたいなケースを指します。ちなみにこれをやったのは共産党軍ではなくて、国民党軍ですからね。習近平君はそこんとこ、間違えないように。つくづく中国やロシアのように、奥深い国土を相手に戦争するもんじゃありません。

〇われわれ島国の住人はそこが違っていて、ついつい敵を水際で食い止めようとするわけです。そこを突破されると気力がなえてしまって、すぐに「本土決戦」とか「竹槍精神」になってしまうのですよね。もとより日本列島は、縦深性が乏しい地形なので、そういう風になりがちなのですが、できれば人間が二枚腰、三枚腰で抵抗し、相手に「えん戦気分」を持たせるようでありたいものです。

〇もちろん新型コロナウイルスが「えん戦気分」になるわけはないのですが、彼らの目標が「一人でも多くの人間に取り付いて種族の繁栄を目指す」ことだとしたら、そこはやはり攻めやすいor攻めにくい国があるはず。たとえば人口が少なくて、しかも人が互いに離れて住んでいて、なおかつあまり接しないような場所であったら、これは難儀な場所ということになるでしょう。

〇対策を打つ場合も、縦深性を意識しておきたいものです。「学校を休校にします!」→「学童保育は開いてください」→「あ、シングルマザーのために休業手当をやります!」という現状は、いかにも場当たり的で、明日なき戦いという感じがします。これでは国民の側も疲れてしまう。政策は先々まで考え抜いておいて、「これがダメなら次はこれ」という風に縦深性を持たせてもらいたいものです。これはないものねだりなんでしょうか。

〇そういえば、全国にはまだ感染者が出ていない県がいくつかあって、わが出身地の富山県もそのひとつです。たぶん人口密度が低いとか、外食文化が乏しいとか、自動車通勤が多くて道路が混んでないとか、家が広いとか、いろいろ理由があるんでしょうなあ。何らかの形で「縦深性」を有しているのかもしれません。


<3月21日>(土)

〇2020年3月21日というと、これは特別な日なのであります。それは富山市の路面電車が南北で接続する日。それだけのことが、地元でほとんどお祭りのようなお祝い事になってしまう。筆者のように、富山駅の北側に実家があって、そちら側で幼少期を過ごしたものとしては、「とうとうその日が来たか!」という感慨があります。

〇これは明治時代に富山駅ができてから、ずっと続いてきたことなのですが、線路で街が南北に分断されてしまったのです。これは全国の県庁所在地や城下町ではありがちな現象でして、初めて線路が敷かれるときはだいたい街の周辺部を通る。そして駅を境にして、「発展する側としない側」がくっきりと分かれてしまう。富山市の場合も、戦災で市街地の99.5%を焼失したりもするのですが、基本的に駅の南側が繁栄して、「北側には何もない」「富山駅の北口は裏口」という時代が長く続きました。

〇ところがよくしたもので、都市開発には「後発メリット」みたいなものがある。空き地の多い「駅の裏側」は、得てして後から発展することになる。富山駅の北口にも北陸電力の本社が移転してきて、市内でもっとも目立つインテックビルが建った。そんな中で、2006年にはライトレールが誕生し、富山市のイメージを一新することになる。北口には環水公園ができ、そこには「世界で一番美しいスタバ」なんてものができ、富山県美術館も移転してくる。これまで不毛の地であった北口に、「駅周辺の観光スポット」が続々と誕生したわけです。

〇ただし駅を挟んで街が南北が分断されている、という現実は変わらなかった。2015年3月には、北陸新幹線が開業する。今月でちょうど5年目になるのですが、富山駅の北側の住民は、相変わらず地下道をくぐらないと駅にたどり着けない。新幹線は高架だけれども、在来線が1階部分を走っているものだから、わざわざ人間が地下に降りなければならなかった。考えてみたら、これって不条理ですよね。

〇そこでどうしたかというと、5年かけて工事をして、在来線を2階に上げてしまった。そうすると富山駅の1階部分を人が南北に移動できるようになった。それでもって、駅の南側に元からあった市電と、北側にあるライトレールを接続して、一つの交通システムにすることにした。それが今日なのです。

〇交通システムというものは、元来が機械の集大成ですので、鉄道でも自動車交通でも巨大なインフラになってしまいます。そうすると、得てして人間の側が、機械の都合に合わさなければならなくなる。駅を挟んで街が二分されてしまう、なんてのはその最たるもので、そんな例は日本中にたくさんあることでしょう。地方都市の駅は、どこでも大体似たような形をしている。駅前には必ずロータリーがあって、電車で運ばれてきた人を次はクルマで運ぶことが合理的だ、というわけです。

〇しかしここへきて、少し考え方が変わってきた。例えば駅へのアクセスは、クルマよりも歩行者を優先すべきではないのか。まして今後の高齢化社会においては。富山駅の場合は、今後は南北から市電でやってきた人たちが、そのまま新幹線に乗り入れることができる。これはかなり先進的な試みではないでしょうか。

〇もっとも地元民的には、「岩瀬浜と南富山がひとつの路線で結ばれる」というだけで十分に感動的です。強いて問題点を挙げるなら、ずいぶん時間がかかりましたなあ、でしょうか。もっとも駅の南側は私鉄で、北側は三セクだったから、これをひとつにすること自体が、結構な政治的魔法の産物という気もする。ともあれ、関係各位のご努力に深甚なる敬意を表するものであります。


<3月22日>(日)

〇今日は大相撲が千秋楽。普段はあまり相撲を見てない不肖かんべえでありますが、とりあえず無観客試合が無事に終わって何よりでした。力士が一人でも発症したら、エラいことになったはずですからね。ついでに言えば、朝乃山が大関になれそうな感じなのでホッとしています。昨日の取り組みは、鶴竜に負けてないですからね。

〇NHK将棋トーナメントは今日が決勝戦。深浦九段対稲葉八段の戦いは、一方的な大差で深浦九段が勝ち。初のNHK杯選手権者となりました。おめでとうございます。将棋はいいよねえ。周りにギャラリーが居なくても関係ないから。本日の決勝戦で解説していた佐藤会長が、こんなメッセージを送っています。


●将棋愛好家の皆様へ


〇要は、ファンとプロ棋士が直接、接する機会が減るのはつらいけれども、ネットを通して楽しんでいただくことはできますよ、ということであります。そういえば大阪王将戦の決勝戦はフルセットにもつれ込んで、来週は第7戦が行われる予定。渡辺王将の防衛なるか、それとも広瀬八段のタイトル奪取なるか。たぶん将棋連盟ライブのアプリで観戦することになるでしょう。

〇競馬はこれで4週目の無観客競馬が行われました。テレビやラジオの実況を通じてネットで勝負、というのはどの程度広がっているのですかねえ。あれはやっぱり目の前で、「差せ!」とか「そのまま!」と叫びながら楽しみたいものですが、それはまだしばらく先のことになりそうです。


<3月23日>(月)

〇いよいよ東京五輪の延期の可能性が語られ始めました。今週26日には聖火リレーが福島県で始まる予定なのですから、あまり引き延ばすとお気の毒になります。ここまでくると、東京で開けるか開けないかではなく、世界各国が選手団を送れるかどうかの問題になっている。だったら今更もう、開催国のメンツなどにこだわる必要はありますまい。

〇IOCが「中止は検討しない」というのは当然でしょう。東京五輪が中止となれば、今後、立候補する都市はなくなってしまうでしょう。となれば次に決まっているパリ五輪以降は、大会を開けるかどうかがわからなくなってしまう。そうなったらIOCの自己否定もいいところです。だったら延期するとして、どの程度伸ばせばいいのか。落としどころをどうするのか、という問題になります。

〇これは先日のBS11「インサイドOUT」でも申し上げたのですが、こんな方法はいかがでしょうか。「あらゆる国際競技を向こう2年間、後ろにずらす」というアイデアです。東京五輪だけじゃダメです。その次のパリ五輪だって、今のフランス全土がどんなことになっているかを考えれば、おそらく2024年では無理でしょう。陸上や水泳だって、しばらく世界大会は開催できないのではないでしょうか。

〇何しろスポーツの本場は欧州であって、国際競技の団体の多くはスイスにある。そのスイスの感染者数は8234人、死者102人(本校執筆時点)。ちなみにスイスの人口は857万人しかありません。冬季五輪やサッカーワールドカップも、以下順送りに2年間の先送りとすることにする。スポーツ界には空白の2年間となってしまいますが、この病気の鎮圧にどれだけ時間がかかるかが見えない状況にあっては、しかるべき時間を確保すべきと考えます。

〇2年先、ということになれば、選手は選びなおしになってしまいます。「アスリート・ファースト」ではなくなります。ただし無理をすれば、五輪の歴史がここで終わってしまうかもしれない。オリパラの伝統を次の世代につなげることを、今は何より優先すべきではないでしょうか。

〇その上で2022年夏には「TOKYO2020+2」を開催することにする。もっともそのためには、日本が他国に先駆けてコロナウイルスを終息させる必要がある。この3連休でかなり国内的に緩んだ感じが出てきましたが、図に乗ってはいかんです。くれぐれも。

後記→結局、東京五輪は1年程度の延期だそうです。それだとまだ、ワクチンができていないかもしれないのが心配です。でも、これでいくしかないのでしょう。そして賭けてもいいですが、こんな難しい調整ができる国は日本だけでしょう)


<3月25日>(水)

〇最近、よく聞かれる質問に、「トランプ大統領はコロナウイルスを理由に、11月の選挙を延期して居座っちゃうんじゃないでしょうか?」というものがあります。んなわきゃないっしょー、とお答えするのですが、ときどきマジで怯えたような眼をして問われる方がいらっしゃいます。そこで正解をここに記しておきます。

〇以下の文章は、合衆国憲法の迷路を案内してくれています。11月3日に選挙が行われなかったときにどういう結果になるか。いやー、面白いことになるんですよ。以下の翻訳はポイントだけ。


●Can Trump cancel the November election?


*トランプ大統領が負けそうな場合に、11月の選挙を延期、もしくは中止にするという恐れが生じるのはもっともだろう。幸いにも、議会が認めないことにはそれは不可能だ。大統領、上下院の選挙はすべて「11月の最初の月曜日の次の火曜日」と連邦法で定められている。共和党が変更を望んでも、下院民主党が認めないだろう。

*そして憲法修正20条は、「正副大統領の任期は1月20日正午まで」と定めている。仮に投票が中止されても、ドナルド・トランプとマイク・ペンスの任期は予定通り終わる。問題は誰がそれを引き継ぐかである。 

*同じく修正20条に基づいて、2年の任期を務めた下院議員全員と、3分の1の上院議員も1月3日には任期が切れてしまう。

*もしも正副大統領が空席となれば、普通は下院議長が継承するのが定めである。しかし選挙がない場合には、1月3日以降はペローシ下院議長(カリフォルニア州選出)も不在となる。その次は上院仮議長という儀礼上のポストに大統領職が回る。現在は共和党のチャック・グラスリー上院議員(アイオワ州選出)である。

*しかしちょっと待て! 多くの上院議員の任期は1月3日に終わる。うち23議席は共和党、12議席が民主党なので、選挙がない場合は民主党が上院の多数を得る。上院民主党が新たな上院仮議長を選出できるのだ。その場合はパトリック・リーヒ上院議員(バーモント州選出)である。

*さらに事態は複雑になる。憲法修正17条は、空席の上院議員を知事が暫定指名することを許している。全ての州がそうできるわけではないし、2020年に選挙が行われない場合は、空席となった知事がどうなるかも定かではない。さあ、上院はどっちが多数になるのか。次の大統領はグラスリーか、リーヒか


〇グラスリーもリーヒも、普通の人は知らんでしょう。そんな人が大統領になりました、と言われても、国民はついていけませんがな。ましてパンデミック対策の最中なんだから。ゆえに「2020年選挙が中止されることはないだろうし、その結果がトランプ大統領の延長であることも考えにくい。もっともありそうな結果は混乱である」とこの記事は締めている。まことにごもっとも。


<3月26日>(木)

〇ひょんなことから書いた経済エッセイが、Saigon Timesという新聞に掲載されました。ベトナムのビジネスマンが読む媒体だそうです。


●Confronting "Uncertainty" for the third time


〇中身はいつも書いているようなことで、コロナウイルス問題による経済の落ち込みを取り上げて、「山より大きなイノシシは出ない」"There is no wild boar bigger than the mountain it lives”なんてことを書いております。果たしてベトナム人の心に届いてくれますかどうか。

〇そういえば、タイに駐在中の上海馬券王先生はどうなさっているでしょうか。たぶん今週末には、高松宮記念の予想を送ってくれるんじゃないかと思います。この週末は天気も悪いそうなので、家で競馬観戦ですかねえ。


<3月27日>(金)

〇東京都でコロナ感染者が259にも達し、ああ、やっぱり今までのは単なる幸運だったのかとイヤーな雰囲気が漂い始めた昨今ですが、まだコロナ感染が出ていない県も5つあるのですね。都道府県別の感染者数はNHKのサイトを参照ください。ちなみに昨日までは6県あったようですが、本日、鹿児島県が陥落したそうです。焼酎による消毒では間に合わなかったのでしょうか。

〇残る5県は下記のラインナップです。


*岩手県(ミイラの県)

*山形県(天狗の県)

*富山県(薬の県)

*鳥取県(妖怪の県)

*島根県(神様の県)


〇わが富山県の場合は、はっきり言ってここまで残っている理由がわかりません。製造業が多い県で、中国進出企業も多いんですけどね。でも、せっかくここまで来たのだから、最後まで残ってほしいと思います。


<3月28日>(土)

〇コロナ不況は最初に株価に表れたけれども、次に影響が出るのは雇用のデータではないだろうか。

〇普通は雇用というのは遅行指標であって、景気が悪化してもしばらくは持ちこたえる。先に悪化が現われるのは、鉱工業生産とか企業業績とかであることが多い。2008年秋のリーマンショックの際は、11月にトヨタ自動車が利益の1兆円下方修正を行った「トヨタ・ショック」で皆が青ざめた。逆に言うと、それまでは皆が「日本経済はまだ何とかなるだろう」とタカをくくっていたのであった。

〇ところが今回の場合、例えばニューヨーク市などでは、外出禁止が呼びかけられた瞬間に、大勢のレストランのウェイター、ウェイトレスがクビになっている。3月26日に公表された新規失業保険申請件数が過去最多の328万件!と聞いて、おったまげました。328万人といったら、ざっくり2%分の失業率に相当します(全米の雇用者は1.6億人)。ということは、来週4月3日の雇用統計では、失業率がいきなり2%上がって5.5%、なんてことになるかもしれない。ぶるぶるぶる。

〇日本はまだ、「君、来週から来なくていいからね」とまでドラスチックなことはやらないと思うけど、それに近いことはこれから急速に増えるはずである。とにかく対面で行われるサービス業は、需要が瞬時に蒸発している。そしてエンタメ系などの「興行」ビジネスも、大変な試練に直面している。東京ディズニーリゾートから小劇場まで、人が集まるビジネスは全部だめ、ということになってしまった。幸いなことに今週末も競馬は無観客で行われて、今日は日経賞、明日は高松宮記念があるのだが、これだって騎手や競馬関係者に感染者が出たらアウトかもしれない。

〇思うに「テレワークになっちゃってさあ・・・」などと嘆いている人たちは、まだ恵まれた身の上なのである。それはPCを使って行うホワイトカラーの仕事をしているからで、そういう人はコロナ不況でもすぐにはクビにならない。まあ、その仕事は近い将来に、AIにとってかわられてしまうかもしれないのだが。ワシなどもその部類であって、「もうこの年だから、まっいっか〜」などと思っている。

〇ところがサービス業、特にお客様が来るのを待っている業態からすれば、現在の状況は死刑宣告もいいところである。なにしろ外出自粛要請ですから。これがエンタメ系の人たちになると苦境はさらに深い。落語家からK-1のレスラーまで、人が集まってくれないことには仕事にならない。もっとも彼らこそは、けっして未来社会においてもAIに取って代わられることのない、鉄壁のジョブ・セキュリティを有する人たちなのですが。

〇シンクタンク業界などというテレワークOKの世界にいると、この辺の想像力が失われてしまうおそれがあるので、雇用形態のギャップには気をつけたいと思います。ということで、今回のコロナ不況においては、次は雇用のデータに注目する必要がある。来週は特に重要です。

<来週の重要経済統計>、

3 月 31 日 (火) 2 月鉱工業生産(経産省)
          2 月労働力調査(総務省) 有効求人倍率(厚労省)
4 月 1 日 (水) 3 月日銀短観
4 月 3 日 (金) 米雇用統計(米労働省)


<3月29日>(日)

〇今宵はBS朝日「激論!クロスファイア」に出演しました。うーむ、テレビ朝日に来たのはいつ以来だったか。

〇金子勝先生とご一緒でした。いやー、とってもお久しぶりでした。そろそろ枯淡の境地になられたかと思いましたが、舌鋒は以前と変わっておられませんでした。いつもフレッシュな怒りを維持しておらます。「サンプロ」の頃を思い出しました。

〇確かリーマンショックの時に、日経CNBCか何かの番組で、金子先生とご一緒したことがありました。どうしてこう恐慌とかこの世の終わりみたいな経済状況になると、番組でお会いするんでしょう。なんだか因果な仕事をしているような気がします。

〇番組終了後、金子先生のツィッターをまとめて読んでみて、ああ、なるほどこういう文脈で今のコロナ対策に怒っていたのか、というのがだんだんわかってきた。なるほど、そういうことでしたか。全部が全部を共有はできませんけれども、たいへん勉強になりました。

〇田原総一朗さんもまことにお元気でした。何しろ「朝生」で徹夜した後なのですから。いやはや、自分は年上の方の「毒気」(げんき)に育てられてきたのだな、と感じました。願わくば、自分が下の世代に同じことを残せますように。

〇そういえば明日はモーサテに出演です。明日からは実質、新年度入りですね。


<3月30日>(月)

〇「4月2日(木)ロックダウン説」が流れる今日この頃。明日の年度末までは株価のこともあるので動けないけれども、4月1日になったら非常事態宣言を出せるようになり、その翌日に小池都知事が決断する、などというもっともらしい説明がついている。が、菅官房長官がきっぱりと否定しました。

〇そりゃあ、そうでしょう。政府が非常事態宣言をしたからと言って、今と大きく違うことができるわけではない。外出禁止にしたって所詮はお願いベース。民間施設を借り上げて病院にする、なんてことも、実際問題としてできるかどうか。政府としては、あんまり気乗りがしない「伝家の宝刀」なんです。

〇その一方で、「ロックダウン」(都市封鎖)とか「オーバーシュート」なんて横文字言葉が独り歩きし始めると、「一度でいいから、この目で見てみたい」などという不謹慎な発想が頭をもたげてくる。、ニューヨークやロンドンやフランス全土もすなるというロックダウンを、東京もしてみむとてするなり、なんて助平根性もあったりして。

〇まして東京五輪の1年延期が決まって、急に元気が出てきた小池都知事にとっては、目の前が急にキラキラし始めているのではないでしょうか。ここで目立っておけば、7月の選挙も再選へのダメ押しになりそうだし。でも、それって結構、地獄への道かもしれませぬぞ。ご用心召されよ。

〇ハッと気が付いてみたら、首都圏の知事さんたちはテレビ界出身の方ばかりになっている。東京都はテレビ東京、神奈川県はフジテレビ、千葉県は俳優(その前任者はTBS)、そして埼玉県も中東問題のコメンテーター。これで政府が本当に非常事態宣言を出して、「知事さんたち、どーぞ、ご決断を」といった場合、果たしてどんな反応になるのか。ちょっと怖い。

〇首長さんなんてものは、もっと地味な人を選んだほうがいいと思うんだけど、都会の人たちは見栄っ張りだからねえ。本当は、地方自治に明るい行政のプロ、みたいな人であってほしいと思います。


<3月31日>(火)

〇自民党農林部会から生じた「和牛券」構想、さすがに党政調会が受け入れるところではなかったようで、却下されました。それはさすがに良識というものでしょう。そしたら今度は、「学校給食で高級和牛を食べてもらう」構想が浮上しているとのこと。いやもう、まったく懲りない人たちであります。

〇なんだか自民党農水族は、どんどん先祖返りしているのではないでしょうか。斎藤健農水大臣、小泉進次郎農水部会長、福田達夫農水副部会長の時代の改革路線は、やっぱり一時期のあだ花だったように思われます。とにかく、今は新型コロナで高級食材の在庫がたまっている。そこで国産牛にお金をつけて消費しましょう、というアイデアが出てくる。たぶんWTO違反なんですが、「いや、緊急避難的には認められる」みたいな抜け穴があるらしい。

〇ところがそれだけでは足りなくて、「和牛券では、北海道の酪農牛をつぶした分が救済されない。『お肉券』で行こう」という話が出てくる。頭痛いっす。さらに「マグロやホタテも在庫がたまっている。『お魚券』もやってくれ!」という声が出てくる。今はそんな時ではないだろうし、優先順位が違うと思うのですが。

〇そうかと思ったら、昨今はコメ農家が喜んでいるのだそうだ。外食産業が買い付けているコメの量が減少し、逆にスーパーなどで買いだめ需要が発生している。この場合、スーパーに卸す方がコメは高く売れるので、逆に外食産業は散々に買いたたく。結果として、農家の収入はトータルで増えることになる。

〇消費者が在庫を増やそうとすることは、だいたいが裏目に出ます。マスクでもコメでもトイレットペーパーでも一緒ですな。それはそれとして、今は高級食材を安く買うチャンス。遠慮なくいただきましょう。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki