●かんべえの不規則発言



2013年2月







<2月1日>(金)

○以前にぶっつぶれたことを嘆いていた柏駅西口の映画館なんですが、明日2月2日から新しい映画館がスタートすることとなりました。TKPシアター柏といいまして、キネマ旬報社の経営であります。かかる映画はキネ旬ベストテンに選ばれた作品なんだそうです。どうだこの渋い上映スケジュールは。新しい時代の名画座みたいな感じですかねえ。

○何はともあれ、街の映画館の復活を喜びたいと思います。街にはやはり、映画館と、カレーのうまい店が必要なんですよ。そして柏市には、ボンベイというカレーの有名店が東口にあっていつも行列ができているんですが、今年から西口店もオープンしました。映画館からはちょっと歩くんですが、これまためでたいことだと思います。

○年をとると、ちっとやそっとのことで悲しくなったりはしないものである。しかし涙腺は限りなく緩んでしまい、「お殿様、落城でございます」程度の映画でも泣けてしまう。つまりは感受性は摩耗していくけれども、心の奥底ではいつも水分を求めている。乾ききっているからねえ。

○ということで、柏市の映画館復活を祝うものであります。だからといって、今週末に行けるかというと、締切もいろいろあるんだよねえ。あ、そんなことだから、乾いちゃうんだなあ。


<2月3日>(日)

○今週末の3つの締め切りのうち、1つだけ仕上げてから競馬場へ。東京新聞杯はドナウブルーから買ったらクラレント、きさらぎ賞ではバッドボーイで盤石かと思ったらタマモベストプレイ。まあいいさ、いつものことさ。ふんっ。

○それよりも大事なのは、今日はアンカツこと安藤勝巳の引退式があるってこと。レース終了後の京都競馬場で行われました。こんな映像で、笑顔がとってもいい感じでした。去年の10月9日のアニキ金本の引退式を思い出しました。これに比べれば、ゴジラ松井の引退会見は微妙な表情でありましたわなあ。

○アンカツという騎手を一言で表現すると、「馬に無理をさせず、もちろん自分のことも大事にして、自然体で戦う勝負師」だったんじゃないかと思います。勝負をしてたら、普通はそうはいかないわけで、無理を重ねるからいろんなことが歪んでいく。その点、この人はあり得ないようなモノグサ勝負師でした。なにしろ本場馬入場の直前になって、武豊に「これ何メートルだっけ?」と聞いた、などという逸話があったりします。

○できればラストランを見たかったけれども、JRA10年間でG1レース22勝を含む通算1111勝と聞くと、切りのいい数字で終わりたいという気もわからんではない。考えてみれば、ワシと同じ1960年生まれが、まだスポーツ選手を現役でやっているということ自体が一種の奇観といえよう。42歳で地方競馬から中央競馬へ。それから10年の間に、ずいぶん勝ちまくったものである。迷った時にはずいぶんお世話になりました。特に最終レースではね。

○「騎手で買う」というのは、そうそうできることじゃありません。アンカツが去って、競馬の楽しみがひとつ減りました。寂しいねえ。願わくばどっかのBSで、「アンカツの地方競馬放浪記」なんて番組を作ってはもらえませんかね。きっといい味が出るんじゃないかと。

○夜になって、もう一つの締め切りを片づけたところで今宵は店じまい。なにせ明日は今年初めての「モーサテ」でありますから。


<2月5日>(火)

○あ、そうか。それは論理的帰結というものですな。なんでこの可能性に気づかなかったんだろう。


●白川日銀総裁、前倒しで来月19日に辞任=安倍首相に伝達  時事通信 2月5日(火)18時33分配信

 日銀の白川方明総裁は5日夜、首相官邸で記者団に、前倒しで3月19日に辞任すると安倍晋三首相に伝えたことを明らかにした。 


○3月19日には2人の副総裁の任期が来る。新総裁の人事は、「3人セット」(おそらく学者が1人、MOF出身が1人、BOJ生え抜きが1人)で選定作業が行われていて、2月15日ごろには発表されるとのことであった。国会同意人事なので、ある程度は時間に余裕を見ておかないといけないからだ。つまり、正副総裁トリオの候補者は、今週末くらいには漏れちゃうかもしれないというわけ。

○それだったら、3人が同時に変わった方がいい。だって元々がそういう仕組みだったんだもの。速水総裁も福井総裁も、就任日は3月20日でした。現在、副総裁2人の任期が3月19日までで、総裁だけ任期が4月8日になっているのは、2008年の国会同意人事で民主党が反対に回ったお陰で、「日銀総裁の不在時期」が出来てしまったからなんですよね。正統派日銀マンである白川さんは、そのことをずっと気にしていたんだと思います。

(どうでもいいことだが、あのときのワシは本当に腹が立って、「小沢民主党はサイテーだ!」と怒り狂っていた。当欄の2008年3月18日の記述にその残骸が残っております)

○だとすると、新体制の発足はかつてのように3月20日からというサイクルに戻る。ちょうどイラク戦争開戦の10周年に当たる日ですね。福井総裁が誕生したのが、ちょうど10年前のこの日でありました。となれば、新体制下による金融政策は4月26日からではなく、4月3日・4日の金融政策決定会合で発表されることになりそうですね。

○ついでに次期総裁の人選について、予測めいたことを少しだけ書いておきます。5年というのはあっという間ですが、いろんなことが起きるものです。5年前には、まだリーマンショックも震災もありませんでしたからね。これから先の5年間も、いろんなことがあると心得ておくべきでしょう。

○で、これから5年後を考えた場合、中央銀行にとって一番大切なことは国債の暴落に備えることだと思います。もちろん、それが起きてから危機対策を打つよりも、未然に予防する方がずっといいわけだけど、こればっかりは分からない。だからMOF出身者に総裁をお願いしておくのがいいと思います。目の前のアベノミクスより、5年先のJGB。そのときになって、「やっぱりリフレはヤバかった」と言っても遅いんだから。


<2月7日>(木)

○このところ、いろんなものを書いております。

●米大統領にアベノミクス語れ(産経「正論」

―来る日米首脳会談をどうするか。難しいねえ。

●日銀総裁、私の推薦は「・・・」(東洋経済オンライン

―日銀擁護派の魂の叫び、のつもり。

○そして今夜には溜池通信の最新号も出るはず、であります。


<2月8日>(金)

○本日は昼も夜もアメリカ政治の研究会。いやはや、勉強になったなあ。そして楽しかったなあ。

○その合間を縫って、本日発行の溜池通信では「オバマ第2期政権」について書いております。少々思い切った仮説を書いてみたつもりですが、なるべくなら外れてもらいたい。

○そうそう、『秘密戦争の司令官オバマ』(菅原出/並木書房)は役に立ちますよ。これはお勧めです。


<2月10日>(日)

○久々に出張で日本に戻ってきたという友人が曰く。「東京って、景気がよくなってるんじゃないのか」。こちらもたまたま今日、浅草を散策していたら、すごく賑わっているのに驚いたところであった。とりあえず2割ほど円安になると、外国人観光客はてきめんに増えている感じである。

○先週金曜に発表された「景気ウォッチャー調査」でみると、1月は現状判断DIが49.5で、先行き判断DIが56.5であった。昨年10月がそれぞれ39.0と41.7であったから、わずか3か月でそれぞれ10pと15pも改善したことになる。これだけ劇的な回復というのもめずらしい。コメント欄を見ると「高額品の需要が堅調」だとか、「財布のひもがゆるみつつある」などといった文言に新鮮な感動がある。こんな言葉を見るのって、5年ぶりくらいじゃないだろうか。

○気分が明るくなっている理由として、これは言いにくい話だけれども、「民主党政権がやっと終わってくれたことの安心感」があると思う。だってこれ、アルジェリアの人質事件とか中国のレーダー照射事件とかが、鳩山首相や菅首相のときだったら、どんなことになっていたか・・・・。とまあ、その辺の話も尽きないところではあるんだけれど、あまり気づかれていない部分として、国民の間に一種の「改革疲れ」みたいなものがあるんじゃないかと思う。

○民主党政権下の3年間は、「統治機構の改革」みたいなことを始終試してきた時期であった。事務次官会議の廃止に始まって、国家戦略局の設置やら政務三役会議やら、仕分けやら、いろいろありましたわな。それが自民党政権に戻ったら、ほとんど全部が元の木阿弥になってしまった。なおかつ、あんまり惜しまれてもいない様子である。せめて記者クラブの開放くらいは、継続しても良かったんじゃないかと思うけど・・・・。

○ぶっちゃけた感じで言えば、有権者の気持ちは、「もうシステムは変えなくていいから、普通にやってくれ、フツーに!」という感じなんじゃないかと思う。そして旧来のシステムに戻ったところ、物事が普通に決まっていくことにホッとしている。やっぱり慣れないことはするもんじゃないなあ、と思っているんじゃないだろうか。

○「統治機構の改革」ということについては、維新の会の方がもっと過激なことを言っていたんだけど、そっちも急速に関心が薄れてきた。だから橋下さんも最近は歯切れが悪いように見える。「とりあえずシステム論はもういいよ」というのが今の政治の雰囲気なんじゃないかと思う。そんな中で、「日本版NSC」の議論が始まるわけなんだけど、これもどんなふうに評価されるのか、ちょっと微妙なんじゃないだろうか。ワシも「日本版NSC」はあった方がいいとは思うけど、単なる「組織いじり」に終わっちゃう公算が高いと思うんだよねえ。

○参院選に向けて、何が争点になるかが見えにくくなっている。野党側はやりにくい時期だとは思うけど、とりあえず「統治機構の改革を」みたいな議論はしばらく封印する方が賢明なんじゃないかと思う。将来的にはいろいろ変えなきゃいけないことはあるんだろうけど、今はせっかくホッとしているところなんだから。


<2月12日>(火)

○今宵はみずほ総研で第2期オバマ政権に関するコンファレンス。滝田洋一さんと中山俊宏さんがパネリストで司会は安井明彦さん。・・・って、なんだ、そりゃ内輪の放談会かよ、てな感じの集まりでありました。おかげさまで個人的にはとても楽しかったんですが。

○日本時間では、明日の午前11時からオバマ大統領の一般教書演説。この素晴らしいタイミングで、北朝鮮は3度目の核実験をやったわけですが、ふと思い出しました。2度目の核実験は、2009年4月5日、オバマ大統領のプラハ演説(核廃絶を訴えたやつ)の直前だったんですねえ。オバマ大統領、あのときはこんなことを言っていたんです。(詳しくはこちらをご参照)


Just this morning, we were reminded again of why we need a new and more rigorous approach to
address this threat. North Korea broke the rules once again by testing a rocket that could be
used for long range missiles. This provocation underscores the need for action -- not just this
afternoon at the U.N. Security Council, but in our determination to prevent the spread of these
weapons.

Rules must be binding. Violations must be punished. Words must mean something. The world must
stand together to prevent the spread of these weapons. Now is the time for a strong international
response -- (applause) -- now is the time for a strong international response, and North Korea must
know that the path to security and respect will never come through threats and illegal weapons. All
nations must come together to build a stronger, global regime. And that's why we must stand
shoulder to shoulder to pressure the North Koreans to change course.


○つまり、あのときもオバマ演説の直前だったんです。ここまで来ると、ほとんどストーカーですね、北朝鮮は。私がオバマ側近であれば、明日の一般教書演説では一切この件に触れないようにすることを進言します。この手の愚かな行為に対しては、「憎しみ」よりも強い「無関心」で対応すべきではないかと思うのです。

○とはいうものの、プラハ演説でオバマは、「ルール破りは許されない」と言ってたんですが、その後は有効な対応策を打ち出せなかった。しかるがゆえに、今回の事態を許しておるわけです。北朝鮮の側では、こんなことを言っておるかもしれません。「オバマってやつは風呂屋の窯みたいなもんやな。湯う(言う)ばっかしや」

○そのことはオバマさんだって気にしているんです。だって、彼は何もしないのに、ノーベル平和賞をもらっちゃった人なんです。その重圧は、余人のよく知るところではないでしょう。だから明日の一般教書演説では、核弾頭の数を減らす、なんてことも言おうと予定してました。今日になってリーク記事が流れてましたけど。プラハ演説という大風呂敷を、少しは畳まなきゃいけないと思ってるんでしょうね。

○さて、今日のみずほ総研コンファレンスでは、またまた素晴らしい質問をいただきました。それはこんなものです。

「オバマが大統領になった2008年は、初の黒人大統領が誕生した歴史に残る年だというけれども、本当にそうだろうか。1960年にケネディが大統領になったときは、彼がカトリックであることが大問題だった。しかるに今は、JFKがカトリックであったということを知らない人が増えている。だったら数十年後には、黒人大統領だって当たり前になっているかもしれない。なにしろアメリカ社会は、いずれ白人人口が半分を切るようになるわけだし」

○これはちょっと目が覚めるような質問でしたな。ちなみにこの人からでした。なにしろアメリカ人の記憶容量は日本人みたいに長くないですから、そんなことになる可能性は十分にあると思います。オバマ大統領が特別な存在でなくなるということは、それこそまさに歴史的な評価になるのだと思います。

○ところでカトリックと言えば、近々こんな映画が撮影されるとか、されないとか。『ベネディクト、法王辞めるってよ』。


<2月13日>(水)

○オバマ大統領の一般教書演説を聴いてみる。まあ、毎年のお約束ということで。

○ほとんどが内政問題でありました。全文をプリントアウトしたら8ページと4行となったのですが、外交に関する部分はわずかに1ページ弱。例の北朝鮮に関する部分はこれだけ。たったこれだけですよん。


Of course, our challenges don't end with al Qaeda. America will continue to lead the effort to prevent the spread of the world's most dangerous weapons. The regime in North Korea must know they will only achieve security and prosperity by meeting their international obligations. Provocations of the sort we saw last night will only further isolate them, as we stand by our allies, strengthen our own missile defense and lead the world in taking firm action in response to these threats.


○そんなこと言ったって、北朝鮮は孤立を恐れてないし、これ以上、制裁されたところでほとんど痛みを感じない。安保理決議が出ても関係ない。アメリカとしては軍事行動に出る気がないので、オバマさんが何を言っても「湯うばっかし」なんですな。そこのところはバッチリ見透かされている。

○ちなみにユーラシアグループの「2013年TOP10リスク」では、北朝鮮は番外にされている。去年とおととしは5位になってたんだけど、とうとう圏外に追い出されてしまった。その理由は、「どうせ分かんないだし、見てたってしょうがないでしょ」。身もふたもない話ですが、「あそこはほっとけ」という感じなのであります。

○それにしても、今年の「SOTU」は内向きでありました。「中国」に関する言及はまったくなし。"China"が登場したのは、「中国でさえクリーンエネルギーをやってるんだから、我が国もやらねば」という1か所だけ。"Japan"も同様で、「キャタピラーは日本から撤退した」(製造業の国内回帰が始まった。雇用が増えるぞ)という文脈で1回出てくるだけ。キャタピラーは単にコマツに負けているだけだと思うんですが・・・。「韓国」は今年はゼロでしたね。こんな調子です。

○そうそう、TPPに関する言及がありました。欧州とのFTAもやると言ってます。わが政権は貿易自由化に前向きで、それは輸出を加速して雇用を生み出すためであると。せっかくだから、抜き書きしておきましょう。


Now, even as we protect our people, we should remember that today's world presents not just dangers, not just threats, it presents opportunities. To boost American exports, support American jobs and level the playing field in the growing markets of Asia, we intend to complete negotiations on a Trans-Pacific Partnership. And tonight, I’m announcing that we will launch talks on a comprehensive Transatlantic Trade and Investment Partnership with the European Union -- because trade that is fair and free across the Atlantic supports millions of good-paying American jobs.


○全体を通してみると、あいかわらずオバマの達者な面が出ていました。先月の第2期就任演説よりも、「らしい」出来であったと思います。特に最後に銃規制を訴えた部分は迫真の出来でした。ベイナー下院議長も立って拍手してましたが、これはさすがに座っていられなかったことでしょう。

○他方、中間層の雇用や所得、インフラ投資を呼びかけた部分は「痛い」という感じがしました。だって政府に金がないんだもの。つくづく高齢化時代にリベラルな大統領であることは難しいと思う。ない袖は振れないから、オバマは「最低賃金を時給9ドルにしよう」と呼びかけていたりする。でも、それを言ったら雇用回復にはマイナスでしょ。

○日本で左派政党の衰退が著しいのは、「どうせ政府には金がないんでしょ。綺麗ごとを言っても信用しないよ」と国民が見切っているからだと思う。アメリカはまだその点、まだまだ将来への期待が強過ぎるような気がする。オバマの「あと4年」はその辺を調整していく時期になるんじゃないだろうか。


<2月14日>(木)

○まことに不思議なことが起きている。「TPPの伝道師」を自認する不肖かんべえとしては、まことに恥ずかしいことながら、安倍政権はTPP交渉参加を言い出さないだろう、とあきらめておりました。ところがここへきて、意外とやっちゃうかもしれない雰囲気が広がりつつある。普通に考えれば、とてもではないが7月の参院選を考えたら、TPP交渉参加には乗り越えられない壁がある。ところが来週の訪米で、思い切って踏み込んじゃうかもしれない。この変化、ここ1週間くらいの間に急速に動き始めてきた。

○もともと自民党が先の総選挙で公約していたのは、「聖域なき関税自由化の交渉には参加しない」である。これは伝統的な自民党の修辞学から言えば、「ぶっちゃけ、やっちゃうと思いますけど、その節はよろしくお願いします」を意味する。なんとなれば、「聖域なき関税自由化交渉」なんてものはこの世に存在しないのです。少なくとも、あたしゃ見たことがない。喩えて言えば、それは「打算が全くない結婚」みたいなものであって、世の中は綺麗ごとだけじゃ済まないから、少しは打算が入るのです。よっぽどのことがない限りは。

○だからと言って、他人の結婚式に出かけて行って、ご祝辞の段になって「新郎は新婦の実家の財産に目がくらんで結婚を決めたわけであります」などと言う阿呆はおらんわけです。というか、それは人の世においてありうべからざることですから。同様に、貿易自由化交渉にこれから参加するというときに、「少しは聖域がありますよね」というのはとっても無粋なことと言えましょう。そんなもん、あるに決まっておるわけですから。既にアメリカは、TPP交渉において「砂糖は例外だ」と言っている。これが聖域でなくて、なんだというのか。

○ところが、です。仮に今年の秋くらいにTPP交渉がまとまってしまって、その後から日本がこそこそと参加しようとすると、「聖域」が認められないということになってしまう。既に合意ができてしまってから、「アメリカの砂糖が認められるんなら、わが国のコメも認めてくれ」と言っても手遅れである。「われわれは交渉して妥結したのだ。交渉に参加していない日本は、この合意を丸呑みするかしないか、どちらかしかない」と言われてしまう。交渉に入ってしまえば、「コメは聖域だ」と言い張ることもできるけど、参加自体をためらっていると、そのチャンスも失われてしまうのです。

○だったら、今すぐ参加を表明した方がいい。このタイミングを逃してしまうと、参院選が近づくにつれて自民党議員に対するプレッシャーは強まるだろう。それこそ、議員さんたちが何回も踏み絵を踏まされてしまうのです。それで参院選が終わった後に、「やっぱりTPPに参加します」などと言ったら、これはやっぱり許されなくなってしまう。だったら、今ここで決断する方がいい。

○つい先日発表された読売新聞の世論調査で行くと、安倍政権の支持率は7割を超えている。これはある意味で危険水域であって、こんな状態で安全策を続けていると、7月の参院選に向けて支持率は確実に低下していく。国会が開いている限りにおいて、内閣支持率低減の法則が働くのです。だったらここは、むしろ冒険をする方が合理的になる。せめて1個くらいは冒険をしないと、「安倍政権は理念がない」みたいな評価を受けてしまう。だったらここは、TPP交渉参加を決断する方がいいのではないか。

○おそらく来週、安倍首相の訪米の際に、こんな会話が行われるのでしょう。安倍首相は、「私はオバマ大統領と会談した。その結果、TPP交渉には聖域がありうることを確認できた。ついては、私を信じて皆さん、ついてきてください」と言う。これに対し、ホワイトハウスは、「オバマ大統領はそんなことは言ってない。TPPはあくまでも聖域なき自由化交渉を目指す」とこれを否定する。それを受けて、自民党内では「やっぱり聖域は少しはあるとんじゃないか」という大人の結論が下される。後は「安倍さんを信じてついていきましょう」。こんなシナリオが描かれているのではないか。

○正直なところ、まだ半信半疑なんですが、今週の北朝鮮の核実験もこういう流れを後押ししているように見える。半分あきらめかけていたTPP交渉参加が、意外とできてしまうかもしれない。三日見ぬ間の政治かな、であります。


<2月16日>(土)

○新しいパソコンを買いました。会社で使っているのと同じThinkPadなんですが、T420とT430という違いがあるために、エンターキーやデリートキーの位置が微妙に違う。ああ厄介だ。でも、PCを乗り換えるのは昔は半日仕事だったのに、今はわりと簡単です。ということで、新しい機械からの更新です。

○といっても、何もないとさびしいので、先日ご紹介した"Breakout Nations"の邦訳が出ましたよ、というお知らせです。

http://www.amazon.co.jp/dp/4152093587 

○版元は早川書房で、帯には小生の名前でこんな推薦文が書かれています。

「BRICsの時代は終わった。今後も成長を続ける新興国はどこか?
シャルマの見立ては10年に1度の卓見というべきだ」

○翻訳した鈴木立哉氏は、実は大学の同級生なのである。妙にご縁の重なる本である。ということで、どうぞよろしく。


<2月17日>(日)

○青森県八戸市に来ております。明日は地元紙である東北デーリー新聞の講演会がありまして、前日から乗り込んでおります。

○で、全然知らなかったのですが、2月17日は年に1度の「八戸えんぶり」というお祭りの日だったのです。夜に八戸支庁(八戸ではなぜか市役所とは呼ばない)の前で、子供たちが演じる「かがり火えんぶり」を見ることができました。

○えんぶりは春を待ち、豊穣を祈るお祭りです。毎年2月17日からと決まっている。当地の天候は朝から雪が降っていて、まだまだ春は遠そうですが、おそらくこれから先は少しずつ暖かくなっていく時期なのでしょう。

○そういえば、ちょうどJRAではフェブラリーステークスである。毎年、2月下旬のこの時期に行われるダートのG1レースは、競馬ファンにとってはそれこそ「もうじき春」を告げるものといえるでしょう。そうそう、「えんぶり」で使われる烏帽子は、馬をかたどったものなのであります。なにしろここは馬の産地でありますので。


<2月18日>(月)

○せっかく八戸へ来たんだから、朝市でも覗いてご当地B1グランプリ(祝!)の 「せんべい汁」を食べなきゃと思っていたんですが、今朝は二日酔いで午前中グロッキー。11時くらいには何とか復活したので、今日の務めは無事に終わったのですが、いかんですねえ。ちなみに以前、当地を訪れた某講師も前夜したたかに堪能され、講演はしどろもどろになった、なんてことがあったそうです。あんまり若くもないことですし、くれぐれも飲みすぎには気をつけましょう。

○ということで、以下はにわか知識です。

○青森県のこの一帯を「南部」と呼びますが、これはもちろん大名の名前です。「南部氏」というのは甲斐源氏の流れをくむんだそうで、もともとは鎌倉時代に奥州藤原氏を源頼朝が滅ぼした時の論功行賞で、この一帯に封せられたんだそうです。なぜ南部氏が強かったかというと、それは馬を持っていたから。兵器のイノベーションが権力構造を変える、という典型みたいな話でありますね。なおかつ、当地は馬を育てるには絶好の場所であったわけであります。ただしコメの取れ高はそれほど多くはなくて、江戸時代には盛岡8万石と八戸2万石と言っていたそうですから、今の広大な面積を考えると驚くほど少ないですね。

○南部と何かと対立関係にある「津軽」は、もともと一代の梟雄・津軽為信が戦国時代に南部氏から造反して独立したものなんだそうです。気候も違うし言葉も違うしで、おかげで青森県は東西で仲が悪いということになっています。ただし、県があれだけ広いわけだし、対立関係があるからこそバランスが取れているということもあるのではないかと思います。

○先日、下北半島をぐるっと回ってきたばかりですけれども、まだ八甲田山も十和田湖も竜飛岬も白神山地も行ったことがない。これ、全部行こうとしたら大変だと思いますよ。とりあえず本日のところはおとなしく戻りましたが、八戸駅で買った鯖寿司、まことにうまかったです。


<2月19日>(火)

○今朝の「くにまるジャパン」で取り上げられたネタは、「麻生財務相が大企業の交際費、損金算入拡大を検討」のニュースでした。いやあ、麻生さんらしいねえ。

○交際費というのは、本来は世の中の潤滑油みたいなものですが、政治献金と同じでまじめに考えると正当化が難しい存在です。特に1990年代以降は、「企業は株主のもの」という常識が普及したので、「社員の飲み食いに会社の金を使うのはもってのほか」という「正論」が幅を利かせるようになりました。昔であれば、偉い人が「まあ、硬いこと言うな」といえばそれで済まされたことですが、詰めた議論をするとどう考えても交際費に明日はない。まして会社の業績が悪いとなると、真っ先に切られるのが交際費、交通費、広告費の3Kということになるわけです。

○この手の「正論」は今日ではかなり幅を利かせておりまして、たとえばお昼を使った会議に弁当を用意すると、「お前たち、どこにいたって昼飯は食うだろう」という理屈で、「だから一人千円ずつ徴収ね」みたいなことになる。そしたら参加者の中から、「この弁当が千円は高いだろう」という声が飛び交ったりして、人間関係がギスギスしてくる。さらには会議の生産性も低下したりします。まあ、簡単に言ってしまえば「貧すれば鈍する」というやつで、組織が負けパターンになってくると、この手の「べき論」がどんどん幅を利かせるようになってしまうのです。いやあ他人事ではありませんなあ、ご同輩。

○確かに交際費を使って企業単位で遊ぶ、というのは褒められた話ではありません。そうでなくても「社畜」が多いと言われる日本の会社社会です。この際、交際費などは減らして、その分社員の給料を上げて、個々人で自分の好きなことに使ってもらうのが望ましい。これもまた、反対が難しい「正論」というやつです。ところが実際問題はどうなったかというと、交際費を減らしたところで給料は全く増えなかった。会社の金を使って遊ぶ機会は減り、たまの会費制の飲み会は安い場所ばかりとなり、コミュニケーションも少なくなり、さらには夜の街が冷え込むということにあいなったのです。

○そこで提案なんですが、この際、交際費の枠を拡大して、「国民諸君はもうちょっと会社の金を使ってよろしい」という方針を打ち出すのも、一つの考え方ではないかと思います。そりゃあ褒められた話ではないし、ワークライフバランスの観点から言っても問題大ありなんですけど、現状は明らかに行き過ぎてると思うもん。税制というのは一種のメッセージですから、この制度に「麻生税制」と命名してアピールするのもよろしいんじゃないかと思います。

○ただし一点だけ気になるのは、「景気回復のために、企業の交際費の損金算入を拡大せよ」というのは、福岡は中洲のクラブ「ロイヤルボックス」の藤堂和子ママ(じゃんけんが強いママとしてつとに有名です)が、かねてから持論として言ってたことで、ワシも2〜3年前に聞かされたことがある。おそらく中州で遊んでいると思われる麻生さんも、同じ話を吹き込まれたんじゃないのかなあ。いや、それだったらそれも結構で、いっそのこと「中州税制」と命名するのもよろしいかと。

○こういう政策が組み込まれると、「アベノミクス」も深化と拡大が進むというものです。大事なことは、景気回復に全力を尽くすことでありまして、不毛な「正論」こそが日本企業から競争力を奪っている諸悪の根源であると危惧するものであります。


<2月20日>(水)

○2月16日付の当欄」でご紹介したとおり、当溜池通信が注目していたルチール・シャルマ著『ブレークアウトネーションズ』の翻訳が書店に出ております。これはまことにうれしい偶然だったんですが、これも以前の本誌で取り上げた"Coming Apart"の日本版がこのたび誕生しました。草思社の編集者の方がわざわざ献本を送ってくれました。これはやはりご紹介しなければなりますまい。

階級「断絶」社会アメリカ 新上流と新下流の出現 チャールズ・マレー 草思社

○ちなみに溜池通信で本書を取り上げたのは、昨年3月9日号でした。いま読み返すと、共和党予備選挙がまるで遠い昔のことのようですが、まだ1年弱しかたっておりません。もっとも出版社の方は、それから版権をとって、翻訳し、刊行にこぎつけてしまうのですからたいしたものですね。

○いずれにせよ、こんな分厚い話題作がもう日本語で読めるのですからありがたい話です。アメリカ研究の学徒のみならず、なるべく多くの人の目に留まりますように。

○さて、もう一冊。こちらは今日読み終えたばかりなのですが、面白くてなおかつ幸せな気分になれる本です。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ クレイトン・M・クリステンセン 翔泳社

○名著『イノベーションのジレンマ』で知られるクリステンセン教授は、近年はがんを患っていたのだそうです。そこから生まれたのが、HBSを卒業する学生たちに向けての「人生をいかに生きていくべきか」という講義でした。経営学のセオリーを援用しつつ、キャリアや家庭生活を築いていく上で重要なことが多く語られています。なんといっても、著者の誠実さがにじみ出てくるような語り口が素晴らしい。自分もこの本の良さがわかる程度には年をとったんだな、と思うと少しうれしく感じられます。

○昨晩の帰りの電車で読み始めて、そのまま熱中し、今朝の電車の中で読了しました。もちろんこんなことは日本語だから可能なわけで、翻訳のありがたみを痛感しているところです。


<2月21日>(木)

○本日は造船関係の方々とお話しする機会があったのですが、やはり為替に関する関心が高いですね。「円高是正というんだったら、できれば1ドル90円じゃなくて100円まで行ってほしい」「韓国との競争がキツイので、対ウォンレートも問題」というのが本音とのようです。

○他方では電力業界のように、円安で泣いているところもあるので、一概に100円が望ましいとも言えないだろうと思います。それでも、円高でヒイヒイ言っていた造船業界に、明るさが戻っている様子は感じられました。韓国については、「ソウルのスーパーで白菜の値段が上がっている」(キムチの材料が大変だ!)いう現実があり、さらに李明博政権時代への反省から、「経済民主化」(財閥の利益ばかりじゃなくて、もっと庶民のことを考えます)が一大テーマになっている今の韓国では、いつも通りのウォン安介入発動というわけにはいかないらしく、対韓国ではしばし日本勢が優位になってくれるんじゃないかと思います。

○そういえば明日2月22日は「竹島の日」でしたね。安倍さんは訪米しちゃったんで、この点はうまくすり抜けたかもしれません。安倍首相はワシントンで演説をすると聞いておりますが、これは当然、1月18日のお蔵入り演説「開かれた、海の恵み」の続編ということになるでしょう。どんなメッセージが飛び出すのか、それに対するアメリカ人の反響はどうか、非常に関心の尽きないところです。

○造船業のような「海の男たち」からすると、まさに日本は「海の恵み」を目指すべきだということになる。だったら安全保障上の配慮と同時に、海洋開発(メタンハイドレードなど)にも力を入れるべきでしょう。そこまで踏み込むと、海洋国家ニッポンのリアリティが増してくる。アベノミクスには、そんなメニューを加えてもいいんじゃないでしょうか。


<2月22日>(金)

○鉄鋼関係の団体の講演会で大阪へ。景気はどうですかと聞いてみると、建設用の需要が強いのでちょっといい感じであるが、自動車業界は相変わらず厳しいことを言ってくるので、全体としてはそんなに甘くない。それでも原材料費は上昇傾向なので、業界的にはさあこれから値上げだ、と思っているけれども、果たして物価上昇2%と行きますかどうか。

○物価と言えば、先日、NTTさんで聞いた話が面白かった。電話料金というと、今はほとんどが携帯電話なので、競争が厳しいからとても値上げは考えられない。てゆうか、今の料金制度はあまりにも複雑だから、簡単には他社と比較できないんだけどね。固定電話は今でも公共料金だが、こちらは最盛期は全国6000万台だったものが、今は3000万台まで減っている。特に若い世帯はあまり持っていない。これはもう、値上げなんてありえない世界であると。やはりIT関係の業界では、物価上昇は起きにくいのである。

○そうかと思えば、月曜日に行った青森県で話題になっていたのが東北電力の値上げ申請。震災の被害があり、再建の費用があり、火力発電の燃料費増があり、しかも円安が加わり、女川原発は動かせず、東通原発は活断層があると言われてしまった。会社としては我慢の限界であったのだけど、地元紙に「電気代値上げは復興の妨げ」と書かれてしまえば抗弁はできない。関係者に、「せめて3月11日まで待てばよかったんじゃないの?」と聞いたら、値上げ申請は2月に行っても認可は7月くらいになるので、大口需要家からは「値上げするなら早めに上げ幅を提示してくれ」と言われ、やむを得なかったとの弁。何ともお気の毒な状況である。

○てなことで、物価を巡る泣き笑いがある日本列島である。安倍首相は日米首脳会談のお土産に、「輸入牛肉の規制緩和」と「ハーグ条約批准」を持参したらしいが、米国産牛肉といえばやはり牛丼。月齢20か月の牛よりも、30か月の牛の方が脂がのっていて牛丼向きなのだという。これで規制が緩めば、牛丼が「安くなって旨くなる」かもしれない。久しぶりに吉野家に行ってみようかしらん。

○仕事が終わってから、当地の旧友、大谷信盛氏と合流してミナミへ繰り出す。通天閣を下から見上げると、「安心と信頼の日立グループ」とある。「Inspire the Next」ではないんですよねえ。ここはディープ大阪なんですから、やっぱりそうでなくてはならない。

○アーケード街の串焼き屋で生ビールを2杯。「二度づけ禁止」「一度にたくさん頼まない」など、厳格なルールを守りつつ串焼きを堪能。ふりで飛び込んだ店にしては大当たりでした。串の数を数えて精算すると、二人で4000円でお釣りがくる。ディープ大阪万歳。


<2月23日>(土)

○なるほど、この文章はよくできてますね。

THE WHITE HOUSE
Office of the Press Secretary
February 22, 2013

Joint Statement by the United States and Japan

The two Governments confirm that should Japan participate in the TPP negotiations, all goods would be subject to negotiation, and Japan would join others in achieving a comprehensive, high-standard agreement, as described in the Outlines of the TPP Agreement announced by TPP Leaders on November 12, 2011.

Recognizing that both countries have bilateral trade sensitivities, such as certain agricultural products for Japan and certain manufactured products for the United States, the two Governments confirm that, as the final outcome will be determined during the negotiations, it is not required to make a prior commitment to unilaterally eliminate all tariffs upon joining the TPP negotiations.

The two Governments will continue their bilateral consultations with respect to Japan’s possible interest in joining the TPP. While progress has been made in these consultations, more work remains to be done, including addressing outstanding concerns with respect to the automotive and insurance sectors, addressing other non-tariff measures, and completing work regarding meeting the high TPP standards.


○「すべての分野を交渉する」(All goods would be subject to negotiateion)けれども、「両国ともセンシティブ分野があるので」(both countries have bilateral trade sensitivities)、「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」(it is not required to make a prior commitment to unilaterally eliminate all tariffs )ことを両国政府が確認しましたよ、となっている。ただし「TPP首脳が2011年11月12日に発表したTPP合意に基づいて、包括的でレベルの高い合意を目指すものである」となっている。

○当欄の2月14日で予想したよりも、両国政府が一歩踏み込んで利害調整したことが窺えます。これで週明けの自民党は、反対派も矛を収めてシャンシャンと手打ちをするのでありましょう。この辺が「決められる政党」の強みというもので、おそらく一番ショックを受けているのは民主党でしょう。その民主党は、明日に党大会を催すことになっている。ちゃんと綱領はできているんでしょうか。なんでわざわざ東京マラソンの日に重ねて行うのか、ちょっと疑問を感じます。

○それから安倍首相は、CSISで演説をしましたが、その内容はここで見ることができます。冒頭から、「アーミテージ3で懸念されていたように、日本はTier2 Nationを目指すことはしない」と宣言していることをうれしく感じました。ひょっとしたら産経正論に寄稿した内容を読んでくれたのかしらん。ま、それはともあれ、日米首脳会談が成功裏に終わってよかった、良かった。


<2月24日>(日)

○ふと気が付くと、今週はいきなり冒頭からお騒がせなネタが並んでおりますね。

●日本銀行総裁人事

○安倍首相が帰国したら、いよいよ発表も間近。明日の日経が抜くのかと思いましたら、すでに「黒田氏」の名前が出回っているような。本誌の推奨は"Non Sugar"でありますが、ここは"Black Coffee"でも可ということで。馬連だとはずしちゃうけど、枠連ならばとれているとか?

○ちなみに今日の中山競馬場では、9レース、10レースと全部外し、あ〜あと外れ馬券を見直していたら、信じられないことにマークシートミスの馬券が当たってた。瞬間、「俺はこんな馬券は買ってない」と破り捨てようかとも思ったけれども、「まあ待て、当たったつもりがマークシートミスで外れることだったあるんだから」と考え直し、エイやっとメインの中山記念のナカヤマナイトにつぎ込みました。大正解。おほほほほ。

●イタリア総選挙

○いつの間にやら10年物国債の利回りが4%大に低下していて、ふーんイタリアの危機は収まったのかあ、おそらく大儲けしている人もいるんだろうなあ、と思っていたら、今日から始まった選挙では意外や意外、ベルルスコーニ率いる中道右派連合が健闘しているらしい。あんたたち、そんなことでいいのか。

○ところでイタリアの議会というのは、上院の定数が315で下院が630もあるんですな。人口は日本の半分くらいのはずなのに、なんでそんなに大勢議員がいるんでしょ。「増税や歳出削減の前に、まず議員の数を減らせ」という声が出そうなものですが。

●韓国大統領就任式

○明日が就任式。日本からは麻生副総理が出席するそうです。うーむ、大丈夫かなあ。

○パククネさんは、ああ見えてとっても怖い人なんだそうです。ご進講中にご機嫌を損ねると、だまーってしまって、部下の顔をまじまじと見るんだそうです。で、同じ失敗を2回やらかすと、二度と呼ばれなくなるんだそうです。これが浸透しているから、大統領政権移行チームは鉄の結束になっているんだとか。麻生さん、頼むから失言しないでね。


○てなことで、来週もいろいろ楽しみな感じでありますなあ。


<2月25日>(月)

○今宵は経済同友会時代の出向者の同窓会。何しろもう20年前のことなので、一同、年をとっている。サラリーマン生活も残り少なく、話題も孫自慢やら健康談義やら。

○一番驚いたのは、某米薬品会社の方のご発言。

「HIVについては、もうしばらくで特効薬ができます。だからAIDSになってもご心配なく。アルツハイマーのワクチンも、あと3年くらいでできるでしょう。今からご心配な方は、ご用意ください。それからViagraの特許はあと1年で切れます。そのうちマツキヨで買えるようになるかもしれません」

○まさに日進月歩。アメリカ企業の底力を感じさせるイノベーションであります。


<2月26日>(火)

○ふと気がついたのですが、安倍さんの訪米が当初の予定通り1月に行われていた場合、今回のような成功を収めることはなかったでしょうし、少なくともTPP参加を持ち出すことはとても考えられなかった。1月時点では、とてもそこまで安定していなかった。ということは、今の安倍さんはツイているのでしょう。

○そのアメリカから帰ってきたその日に世論調査が発表されて、内閣支持率が共同通信で72.8%(2/23-24)、日経新聞で70%(2/22-24)、産経新聞で69.6%(2/23-24)と出た。こりゃとても逆らえません。民主党から見れば、「自分たちが2年かけて決められなかったTPPを、自民党が承認しようとしている」わけで、その心境は複雑でしょう。他方、自民党側では、「いつまでも反対していると、民主党と同じだと思われてしまう」ので、TPP反対派に対する一種の抑止力が働く。これもラッキーな現象だと思います。

○それにしても、民主党がなぜわざわざ東京マラソンの2月24日に、都内(ニューオータニ)で党大会をやったのかわからない。まさか目立ちたくなかったということはないでしょうけれど。ついでに離党者も出たので、今日の参院採決で補正予算は1票差で可決された。これはもう、票読みできる話ではなくて、どう見てもツイているとしか思えない。まあ、大勢に影響ないと言えばそうなんだけど、自然成立に比べるとずっと感じがよろしい。

○ところでこのドサクサに紛れて、月例経済報告の発表が1日伸びた。こういうこともめずらしい。明日の会議で使う予定だったから、あたしゃそれで焦っちゃったんだけど、おかげで夜の予定をキャンセルしたりして、こちらはちょっとツイてない。ううむ、安倍さんのツキを分けてもらいたい。


<2月27日>(水)

○一日遅れた月例経済報告は、2か月連続の上方修正となりました。基調判断の文言はこんな風に変わっています。


12月:景気は、世界景気の減速等を背景として、このところ弱い動きとなっている。
 ↓
1月:景気は、弱い動きとなっているが、一部に下げ止まりの兆しもみられる。
 ↓
2月:景気は、一部に弱さが残るものの、下げ止まっている。


○各論では「個人消費」「生産」「企業業績」「業況判断」が上方修正されました。お見事に景気は上向きです。やはり昨年10月がボトムでありますね。資料編を見ていると、生産の動向あたりは驚かないのですが、消費マインドの持ち直しはまさに衝撃的なほどです。なんでこんなに上向きなのか。現金給与は全然増えていないのに、消費は伸びているという点が面白い。

○おそらくは株価の上昇により、資産効果がでていることがひとつ。特に団塊世代の方々の多くは、いわゆる「2007年問題」当時に退職金を受領し、リーマンショック前に投資信託などを買ったケースが多いと聞きます。その場合、元本割れして塩漬けになったりしていると思われますが、昨今の株価上昇はある種の「癒し」効果があるのではないか。「俺たちに現金給与なんて関係ない。でも気分がいいから、久々にちょっと景気よく行こうか」、ということなのでしょう。

○もうひとつ、不動産が動意づいているという話をよく聞きます。これはもうモデルルームが一杯だとか、売値より少し下で指値したら入札になっちゃったとか、それも東京都内や軽井沢あたりの高級物件がそうなっている模様。おそらくはキャッシュポジションを極限まで高めていた富裕層が、「これで本当に物価上昇が始まったら面白くない」とばかりに、今まで見向きもしなかった不動産投資に関心を向けているのでありましょう。「3/11」以降は、ニューヨークの物件を物色する動きもあると聞きますので、いやはやあるところにはあるものですな。

○他方、いろんな方面から寄せられる質問のナンバーワンは「アベノミクスで景気はいいみたいだけど、これで本当に日本の賃金は上がるのかね」です。直感的に言って、答えはノーでしょう。儲かっている企業はとりあえず賞与を増やすかもしれませんが、定昇やらベースアップやらは躊躇するはずです。そもそもこれだけ非正規社員の比率が増えてしまったのは、医療やら年金やらで正社員を抱えるコストが上がってしまったからでしょう。つまり高齢化社会のコストを安易に企業に負わせたことのツケが、全体的な賃金の伸び悩みという形になっている。

○なおかつ失業率は4%台と、先進国では珍しいくらいに低いわけで、ちゃんとワークシェアリングも行われている。これで賃金の上昇をと言われても、あんまりリアリティは感じませんなあ。この矛盾、いつどこで表面化するのでしょうか。


<2月28日>(木)

○今日、シェールガス関係の話を聞いて思ったこと。よく「シェールガス革命」という言い方をしますけど、革命というものは関係のないところに飛び火して、Winners とLosersを作っちゃうものなのですね。当人は何も悪いことをしていないのに不運に見舞われる。あるいは何もいいことをしていないのに幸運に恵まれる。革命時には、その手のとばっちりがよく発生します。

○アメリカ国内でいうと、勝ち組になったのは"Dakotas and Carolinas"でありましょう。安倍総理のCSIS演説の中には、あまり前後の脈絡なしにこんなフレーズが登場します。おそらく今のアメリカの流行言葉なんでしょうね、これ。


「いま、世界でいちばん大きなエマージング・マーケットは、ミドル・アメリカなんだと言う人がおります。ダコタとか、カロライナのことです」。


○逆に負け組になっているのがアラスカ州なんだそうです。そりゃそうでしょう。あんな寒いところに行かなくても、石油やガスが採れるんだったらそっちの方がいいに決まっている。そのうち、アラスカ州から日本向けに資源を売りたい、という話が出てくるかもしれません。環境保護団体は反対するでしょうけどね。

○シェールガス革命の結果、国際的に負け組になっている代表選手がロシアでしょう。世界的に天然ガスの値段が下がったおかげで、自分ところの商品がだぶついている。プーチンさんが領土問題や極東開発で思わせぶりな発言を繰り返しているのは、ここに一つの理由があるのかもしれません。

○また、アメリカでは電力用に使われていた石炭が行き場をなくしたので、国際的に石炭がお買得になっているらしい。原発再稼働に時間がかかる日本としては、しばらくCO2のことは目をつぶって、石炭でつなぐというシナリオが考えられますね。最新型設備であれば、それもかなり減らせるみたいですし。

○ところがご近所の中国では、「PM2.5」という問題が生じている。まことに間の悪いことに、石炭火力を増やしにくい状態になっている。これもツイてない。まあ、中国はちゃんと石炭火力に脱硫装置をつければいいんです。願わくば日本製のをね。

○逆にガスや石炭の恒常的な買い手である日本としては、まさに神風みたいな現象です。そうでなくても貿易収支は赤字になり、円安になって購買力が落ちているところへ、エネルギーを安く買えるかもしれないチャンスが転がっている。しかもアメリカ国内ではシェールガスの値段が下がりすぎていて、このままでは開発コストが回収できないという水準になっている。こりゃもう輸出するしかない。誰が買うって、そりゃあ日本でしょう。

○どうやら日本は革命の恩恵を受ける側らしい。少なくともこれは気分が悪くないものであります。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki