●かんべえの不規則発言



2022年7月 






<7月1日>(金)

〇地下鉄銀座線の三越前駅で降りて、三越日本橋店の中を移動する。エスカレーターで1階に上がり、ティファニーとカルチエの間を潜り抜けると、外には運転手付きの黒塗りのクルマが並んでいる空間がある。ここに来るといつも、「日本の富裕層は健在だなあ」と感じるものである。ついでに言えば、ごく希に運転手が居ないクルマもあるのだが、それはツーシーターのフェラーリであったりする。

〇そして冷房の効いた百貨店内から、外へ出た瞬間に感じるのは、「暑い、アツいよ!勘弁して!」である。今日の首都圏は全く途方もない暑さである。幸いなことに、歩く距離はそれほど長くはない。ワシがこの駅で降りるときは、非常に高い確率で東洋経済新報社に向かうときである。今日は経済倶楽部の講師を務めるのである。

〇申し上げにくいことながら、この会の会員はご高齢の方が多い。今日みたいに暑い日は、できればご自宅で夕方になってから送られてくるリンクをクリックして、ご自宅でリモートで視聴される方が良いのではないかと思う。が、会場にはかなり多くの方が来ていらっしゃる。まったくありがたいことである。

〇それにしても、経済倶楽部でリアルとリモートを選択できるようになったのは、コロナ下におけるこの2年間の偉大なるイノベーションではないかと思う。経済倶楽部へのご入会ご希望の方はこちらまで。ちなみに来週は三浦瑠麗さんの出番です。

〇演台に立って会場を見渡すと、ナベさんこと渡部恒雄さんが聞きに来ているではないか。しまった、これでいくつか使えないネタができてしまった(例:Highway Off-Ramp→当欄の6月4日分参照)。去年だったか、ナベさんが講師のときにワシが聞きに来たことがあるのだが、その敵討ちに遭っている感がある。

〇まあ、そうはいってもそこは互いに気心が知れているので、講演終了後は最初に手を上げて質問してくれるのである。しかもCSISがらみの新たなネタを振ってくれる。まことにありがたし。

〇帰りにナベさんと一緒に三越の地下食品街を通ったら、たまたま弁松の弁当を見かけた。「これ、田原さんが好きなんですよねえ」。田原総一朗さんとご一緒に出張すると、新幹線の中でご一緒するのがいつもこれ(並六)なんですよね。いつも弁松を用意してくれていたOさんの思い出話を二人でしながら、銀座線でお別れする。こういうの、いいよねえ。


<7月2日>(土)

〇本日は半年ぶりに「モーサテサタデー」に登場。本日の中身は@昨日発表の日銀短観の分析と、Aロシアのエネルギー問題を中心とするお話。

〇今日は「ロシアが日本からサハリン2を召し上げる」という話も飛び出したんで、ちょっと焦りました。そこはまあ長い付き合いの池谷さんが相手なんで、融通無碍に話は進みます。

〇「モーサテ・プレミアム」って、なんか家族的な感じがありますな。そんなことを感じた本日の放送でした。


<7月3日>(日)

〇昨日のテレビ東京「ウィニング競馬」を観ていたら、新人・今村聖奈騎手が出ていた。このインタビューがまことにハキハキしていて、絶大なる好感度なのである。そうかと思えば、カメラの前で同期の角田大河騎手をいじるところなどは、どう見てもフツーの18歳の女の子なのである。

〇その今村騎手、本日は小倉競馬場でCBC賞(GV)に重賞初出場である。確かに彼女、ルーキーながら早くも10勝以上上げて絶好調なのだが、これは騎乗依頼をしたテイエムスパーダの馬主さんもいい度胸と言えよう。とはいうものの、確かに48キロの斥量は恵まれている。こんなに軽いの、初めて見るぞ。

〇で、今日のレースはテイエムスパーダから流したのだが、これがすごいレースであった。思い切りよく先頭に立って、4角から後続を突き放すのである。アナウンサーが、「後ろからは誰も来ない!」「重賞初騎乗、初制覇!」「1分5秒8!」(=日本レコード)と絶叫する。唖然、呆然、いやはやなんという強さ。

〇あいにく2着、3着は人気馬だったので、ワシが買った三連複は激安馬券となってしまったが、いいものを見させてもらった。スターが誕生する瞬間に立ち会えた。そういうときの馬券は、当たる方が当たらないよりはずっといい。

〇実をいうと、ファストフォースが蹄鉄打ち直しになって出走が遅れた瞬間に、「こりゃあダメになったかなあ・・・」と思っていたのである。でも彼女のメンタルは微動だにしていなかった。Wikiによれば、彼女の座右の銘は「人馬一体」だそうである。


<7月4日>(月)

〇今朝の朝刊が参院選終盤の情勢分析を掲載しておりますな。


●自公が改選過半数の勢い 立民伸び悩み、維新は伸長(日本経済新聞)

●参院選終盤調査 与党、改選過半数の勢い維持(産経新聞)

●与党が改選過半数の勢い・立民は伸び悩み・維新は大幅増の公算(読売情勢)


〇読み比べてみると、さほどの違いはない。というか、序盤戦における共同通信や朝日新聞が行っていた分析とも大きく違わない。思ったよりも維新が強いな、といったところだろうか。

〇それでも過去の参院選においては、投票日の直前に大きく流れが変わって、与党がお灸をすえられた、というケースがいっぱいある。衆院選は与党が狙ったタイミングで実施できるが、参院選は毎回、暑いこの時期に行われる。そこへ不測の事態が飛び込んで、与党幹部に不規則発言が飛び出して、というのが毎度のパターンである。

〇今年の場合も、「物価が上がる」+「急に暑くなった」+「電力不足である」+「悪い円安」などの条件が重なっていて、いかにも直前に与党が大崩れしそうな条件を備えている。ところがドル円レートは何とか135円で踏みとどまっていて、今週は急に台風が来るらしくて気温が下がり、あとはAUの障害は不平が会社に向かうので、岸田内閣はやっぱり強運だ、という見方もできそうである。

〇個人的に気になっているのは、選挙予測の手法が今まで通りでは駄目だろう、ということである。昨年秋の衆院選では、NHKの出口調査が大間違いをやらかしてしまった。そりゃそうだろう。聞く側も聞かれる側もマスクをしているのだから、今までのように答えてくれるはずがない。逆に今の有権者は、ネット調査に対してはホンネで答えてくれるらしい。世論調査も手法も過渡期にありと見る。

〇SNSの影響力がどれくらいあるのか、というのも未知数のテーマである。ガーシーってのがホントに当選しちゃったりするようなら、既存の選挙戦術は根幹から揺るがされることになるだろう。もっともその場合、「SNSで啓発された若者が、選挙に関心をもって本当に選挙に行く」という行動変容をもたらしたわけだから、それは効果大なりという見方もできよう。

〇近年の国政選挙でイノベーションを果たしたのはNHK党である。彼らは、「当選者を増やすことよりも政党助成金を増やす方が大事」という新ルールを開発して、独自の戦いを展開している。泡沫政党が、同じ選挙区に複数の候補者を立てるというくらいはご愛敬だが、NHKの日曜討論で歌ってしまうだなんて、もうええ加減にせいや。

〇てなことがあるので、来週日曜日の夜になって開票速報を見れば、やっぱり世の中の景色が大きく変わって見えたりするのではないだろうか。それはそれで楽しみなことである。


<7月5日>(火)

〇電力不足が起きてしまって、「太陽光などの自然エネルギーは、とっても使いにくいのですよ」という説明をすると、ときどき「じゃあ、でっかい蓄電池を作ればいいじゃないか」と事も無げに言う人がいる。あのねえ、そんな簡単な話じゃないのでありますよ。電力は通信と違って、日進月歩でもハイテクでもないのであります。

〇そのうちテスラのEVがその代わりをしてくれるでしょう、などとおっしゃる方もいる。でもね、おそらく先週の首都圏における電力不足を、ギリギリのところで救ってくれたのは揚水発電所でありましょう。揚水発電の仕組みはこちらをご参照

〇水力発電所の水を上げたり下げたりするという原始的な仕組みですが、午前中に急上昇する太陽光の電力をため込んでおいて、夕方になって出力が弱くなった時にこれを開放することができる。こういうギリギリの作業の積み重ねによって、「あと3%!」みたいな電力供給の瀬戸際が避けられているわけでありまして。

〇普通の生活者もケータイなどを小まめに充電して使う時代です。これからは電力供給事業も、貯めたり放出したりを繰り返すことになるのかもしれません。そうだとしたら、電気を蓄えるインフラはなるべく多くした方がいいですよね。

〇ちなみにテスラの電池も揚水発電も、3割程度のロスが発生します。もったいないけど、仕方がありません。でも同じ条件であったら、自然に対する負荷はたぶん電池よりも揚水発電の方が小さいはず。だったらもっと揚水発電所を作ったらいいと思うのですが、そういう声は残念ながら聞こえてこないんですよねえ。


<7月6日>(水)

〇以下は自分用のメモ。


●東京都選挙区 (34人中6人当選)

――自現、自新、公現、立現、立新、共現、社新、れ元、維新、都ファ新、幸新、N新×5、諸新×15、無新×3


●神奈川選挙区(22人中5人当選)

――自現、自元、公現、立新、立新、共新、国新、社新、維元、幸新、N新×4、諸新×6、無新×2


●埼玉県選挙区(12人中4人当選)

――自現、公現、立新、共新、維新、幸新、N新×3、諸新、無現、無新


●千葉選挙区(14人中3人当選)

――自現、自新、立現、共新、国新、維新、幸新、N新×3、諸新×4


〇なんと1都3県で82人も候補者が立っているのです。うち当選するのが18人と考えると、なんと無駄ダマが多いこと、と少々呆れます。もっとも東京都は昔からずっとそうだったわけで、たまたま今回は神奈川、千葉、埼玉でも2けたの候補者が立候補している。とりあえず千葉の2桁は初めてだと思います。つまり3県の「東京化」が進んだということでしょう。

〇自分は当選できるとは思わない、でも言いたいことがあるから出馬する、供託金なんぞ笑って払ってやる、という人たちは昔から居ました。いわゆる「独自の戦い」というヤツです。ちなみにこの表現、現在は使われなくなっています。だって新聞が序盤情勢分析で「××候補は独自の戦い」と書いた瞬間に、その人の選挙戦は終わってしまうから。だから「党勢拡大を目指す戦い」とか、「知名度の浸透を図る」など、いろいろ工夫した表現が使われているようです。

〇問題は「とにかく目立てればそれでいい」という人がとても多い世の中になったということです。確かに自分がユーチューバーであったら、「とりあえず選挙に出てみよっか。ネタにもなるし〜」などと考えるかもしれません。昔はそういうのはお笑い芸人くらいであって、今は一般人がそれに近い考え方をするようになったということでありましょう。

〇それにしてもあきれるのは、NHK党が1都3県で15人も立てていること。1人も通らなくていいから、とにかく1票につき「選挙区で250円、比例区も合せると500円」の政党助成金が入るというのが狙いでありまして、これはもう従来の選挙の概念を突き崩す動きであると思います。

〇結局、2022年参院選とは歴史的に見てそこがキモであり、ゲームチェンジャーであったのか、ということになるのかも。与野党の大番狂わせがなさそうだとなると、今度は少数政党の浮沈が気になりますなあ。


<7月7日>(木)

〇以下は今週のThe Economist誌のリーダーズから。まずは今週号(6月30日付)のカバーストーリー。


●How to win Ukraine’s long war After doing well early in the war, Ukraine is losing ground. What next?


〇序盤戦はウクライナ側の勝ちでも、今度はロシアが盛り返している。ただしこの戦争は他人事ではない。われわれ自身を守る戦いなのだ。プーチンに成功体験を与えてはいけない・・・・と語っている。そしてこんな風に締められている。


In the long war ordinary Russians will suffer and Ukrainians endure unspeakable pain for Mr Putin’s vanity. To prevail means marshalling resources and shoring up Ukraine as a viable, sovereign, Western-leaning country?an outcome that its defiant people crave. Ukraine and its backers have the men, money and materiel to overcome Mr Putin. Do they all have the will?


〇格調の高い覚悟のほどを示していて、さすがはジョンブル、その意気よな、と思うのであるが、今日になったらこのニュースである。


●Clownfall A doomed prime minister and a stricken country


〇"Clownfall"というのは、「道化の失墜」でいいんでしょうね。もちろんボリス・ジョンソン首相の退陣を求める論考でありまして、まあ、それはいいんだけれども、こんなタイミングでリーダーを交代させるようでは、ウクライナの戦争はどうなってしまうんだろう、と誰だって思うわな。

〇この調子でいくと、ジョンソン首相が掲げた「インド太平洋戦略」も空手形になるのでしょうな。まあ、日本としても、そんなに当てにしてはおりませんでしたが。つくづく大英帝国は長期没落の過程にあるのでしょうな。ちなみに今日の論考はこんな風に締められている。


Britain is in a dangerous state. The country is poorer than it imagines. Its current-account deficit has ballooned, sterling has tumbled and debt-interest costs are rising. If the next government insists on raising spending and cutting taxes at the same time, it could stumble into a crisis. The time when everything was possible is over. With Mr Johnsons departure, politics must once more become anchored to reality.


〇どうやらアメリカのように「内向き」になっておられる様子。西側ってつくづく駄目な国ばっかりなのね。プーチンの高笑いが聞こえてくるように思えるのだけれども、誰かそれは気のせいだと言ってほしい。


<7月8日>(金)

〇今度の選挙で退任が決まっている渡辺よしみ先生が、まだ血気盛んであった頃にこんな話を聞いたことがある。

〇選挙期間中に、沖縄の同士から応援に来てくれと言われた。それで飛行機に乗って、那覇空港に降り立った。もちろんその日のうちにとってかえして、また次の日程が控えている。ところが那覇市内はとんでもない交通渋滞で、選挙会場にたどり着くまでどれだけ時間がかかるかわからない。

〇困ったなと思っていたら、当の候補者のスタッフがバイクに乗って現れて、「先生、後ろに乗ってください!」――そこで誰だか知らない人の背中につかまって、全速力で会場を目指してむかったのさ、と。

〇それを聞いていた人が、「先生、それは危なすぎます。大事な身体なのに、無茶はいかんです」とお諫めした。するとヨッシーはこんなことを言った。


「馬鹿野郎、俺たち政治家にとって選挙は戦場なんだ」


〇政治家の方々と接していると、ときどきそういう凄みを感じることがあります。そうか、この人たちは本当に命を張っているのだなと。政治家が人前に姿を現すときは、いつもリスクを背負っているのでしょう。たとえSPが付いているにしても。

〇今日、安倍晋三元総理が選挙応援演説中に凶弾に倒れられました。どういう背景があるのやら、さっぱり分かりませんが、安倍さん自身はこれは「戦死」だと思っていることと思います。やりたいことはまだまだたくさんあったはずですが、返す返すも残念なこととなりました。

〇安倍さんとは個人的にもいろんな接点がありました。思い出は尽きません。合掌。


<7月9日>(土)

〇今週は、東洋経済オンラインの締め切りが木曜日で、溜池通信が金曜日という6週間に1度のハードな日程だったのですが、金曜日に安倍首相が撃たれたので、夜になって東洋経済オンラインの記事をきゅうきょ加筆しました。


●「安倍晋三首相の死」で為替は円高方向に向かう


〇お陰さまでアクセスランキングはずっと上位なんですが、こういうタイミングでこういう話を書くのは、われながら人の道に外れているというか、褒められた話ではないような気がします。

〇それはそれとして、本来寄稿するはずであった明日の「七夕賞」に関する予想をスッパリ落とすことになってしまいました。これはちょっと残念なことで、何しろワシはコロナ以前はこの季節、ずっと福島競馬場に通っておったわけですから。

〇せっかくなので、「ホントはこんなことを書く予定だった」という原稿を、以下に貼り付けておきましょう。いや、荒れる七夕賞ですから、当たるとはまったく思わんのですが、この思い、少しは福島に届いてほしいと思いますもので。



 ここから先は競馬コーナーだ。

 東日本大震災の翌年から、筆者はいつもこの時期に福島競馬場に通い続けてきた。今年もその七夕賞がやってきた。いちおうインターネットで指定席券の申し込みをしてみたが、武運拙く抽選は「外れ」となった。そりゃあそうだろう。何度も通ったからよく知っている。福島競馬場が、帰省客でごった返している風景が目に浮かぶよ。コロナ下で「おうちで競馬」がデフォルトとなって久しい。七夕賞も3年連続で、自宅から参戦と参ろうか。

 福島競馬は番狂わせが多く、簡単には勝たせてはくれない。そして七夕賞は小回りコースでハンデ戦。しかもこの時期は暑かったり雨だったり、天候にも左右される。とにかく荒れるのは当たり前。常識的に考えちゃいけないのである。

 出馬表を見て、「まあ、格から行ったらヒートオンビートかな」と考えるのが最初の「罠」である。だいたいこの馬、2000mでの勝ち鞍がないではないか。

 「そうだなあ、福島の芝2000mで勝っているのはアンティシペイトか」というと、これも「罠」である。春の福島民報杯の勝ち馬だが、斥量が1.5キロ増える点に不安がある。

 そこで本命はヒュミドールとする。昨年の福島記念(2000m)でパンサラッサの2着がある。そして鞍上のミルコ・デムーロ騎手は、先週の福島で1着2回、2着3回、3着1回と好調だった。

 ここから流す相手としては、七夕賞の常連ヴァンケドミンゴ、芝状態がいいときに来るディープ産駒のレッドジェネシス、そして福島得意の戸崎圭太騎手が騎乗するモズナガレボシ。ヒモ荒れ狙いで、昨年の七夕賞で4着だったマウントゴールドも少しだけ買っておきたい。



〇ということで、明日は参議院選挙と七夕賞の両方の投票を忘れないようにしたいものである。それにしても明日の福島競馬場は、柴田善臣に田中勝春、江田照男に内田博幸と、かなりのおっさんたちが勢揃いしていて壮観である。ホントに荒れちゃいそうだなあ。


→後記:

七夕賞は6番人気のエヒトが勝利。鞍上の田中勝春騎手は3年ぶりの重賞勝利であった。先週は今村聖奈ちゃんが劇的な初重賞、初勝利を飾ったけど、今週はオヤジが大活躍する晩でした。

〇ハッと気が付いたら、福島民報の高橋利明記者が「穴はエヒト。ここ2戦着順ほど内容は悪くない。緩みのない流れで54`なら決め手が生きる。この4頭(アンティシペイト、ヒートオンビート、ヴァンケドミンゴ)の争いだろう」とバッチリ当てていた。

〇いつの日か、これくらいバッチリと七夕賞を当ててみたいものである。毎年、ひどい負け方をしているからなあ。今日はその後に12R彦星賞を当てて、トータルで1000円浮きにまで挽回したから、まだマシな方なのである。

〇さて、今宵はもう一つの投票の方をしっかりウォッチせねばなるまいて。


<7月10日>(日)

○今回の選挙結果について、とりあえずの印象を下記しておきます。


*投票率の52%は上出来だと思います。ほっとけば2回連続で50%割れかと思ってましたが、数%分の「安倍効果」があったのではないでしょうか。

*ただし安倍効果は自民党票を押し上げたかというと、そんな風にも見えない。自民党の比例得票は1800万台とまあまあいい方なんですが、得票率でみると34%と久しぶりに35%を割り込んでいる。これは参政党など「ユルイ右」の新党に票を食われているせいではないか。

*安倍さんが居なくなった、というのは自民党にとって悪い知らせです。右派は「安倍ちゃん」が大好きで、安倍ちゃんがすることならなんでも受け入れてくれた。その安倍ちゃんは自分の後継者を作る前にこの世を去った。今後、安倍支持の右派票が自民党離れしないか、高市さんなんかが党を割るんじゃないか、と心配することになりそうですな。

*立憲と国民は1人区で4県しか勝てず。しかも長野は、投票日直前にスキャンダルが飛び出す(投票日直前まで相手は伏せていた)という敵失による勝利。そして沖縄は3000票差。山形は「勝って当然」のところを、自民党が急に立てた候補に2.7万票差に追い詰められている。比例の得票率も両党合わせて2割に及ばず。これだけ負けたら、そろそろ一緒になれるのではないかな? なんで喧嘩しているか、もう世間は忘れていると思うぞ。

*東京都選挙区では、都民ファーストの荒木さんが乙武君を下回っている。こりゃあ驚いた。小池都知事の神通力に衰えが出始めたか。そういえばコロナ記者会見以外の場で、百合子さんを見かけなくなって久しい。

*維新の会は「華のお江戸」では勝てず。神奈川県で勝った松沢さんは、昨年わざわざ辞めて横浜市長選挙に出た「出戻り」候補者ですからね。やはり関西以外ではなかなか勝てない。なぜかというと、「維新の党」自体が「反・東京」をアイデンティティとしているから。「大阪」でないと勝てないのだが、「大阪だから」京都で勝てなかったりもする。難しいね。


〇データなどは午後に出揃ってからまとめようと思います。すいませんね、出遅れました。


<7月11日>(月)

〇比例代表という仕組み、どうやって決まるのか、あらためてご紹介しておきましょう。

〇1段目に比例の得票総数を入れて、2段目はN/2、3段目はN/3、4段目はN/4という風に数字を入れて除していきます。エクセルでやれば簡単ですよ。こうやって数字の大きな順に選んでいって、合計50人に達したところで終了となります。(ごぼう193千、幸福148千、第一109千、くにもり77千、 新風65千は省略しました)


●2022年参議院選挙委 比例代表党派別得票数

単位:千 自民 維新 立民 公明 共産 国民 れいわ 参政 社民 N党
1 18,258 7,845 6,769 6,181 3,681 3,159 2,319 1,768 1,258 1,253
2 9129.00 3922.50 3384.50 3090.50 1840.50 1579.50 1159.50 884.00 629.00 626.50
3 6086.00 2615.00 2256.33 2060.33 1227.00 1053.00 773.00 589.33 419.33 417.67
4 4564.50 1961.25 1692.25 1545.25 920.25 789.75 579.75 442.00 314.50 313.25
5 3651.60 1569.00 1353.80 1236.20 736.20 631.80 463.80 353.60 251.60 250.60
6 3043.00 1307.50 1128.17 1030.17 613.50 526.50 386.50 294.67 209.67 208.83
7 2608.29 1120.71 967.00 883.00 525.86 451.29 331.29 252.57 179.71 179.00
8 2282.25 980.63 846.13 772.63 460.13 394.88 289.88 221.00 157.25 156.63
9 2028.67 871.67 752.11 686.78 409.00 351.00 257.67 196.44 139.78 139.22
10 1825.80 784.50 676.90 618.10 368.10 315.90 231.90 176.80 125.80 125.30
11 1659.82 713.18 615.36 561.91 334.64 287.18 210.82 160.73 114.36 113.91
12 1521.50 653.75 564.08 515.08 306.75 263.25 193.25 147.33 104.83 104.42
13 1404.46 603.46 520.69 475.46 283.15 243.00 178.38 136.00 96.77 96.38
14 1304.14 560.36 483.50 441.50 262.93 225.64 165.64 126.29 89.86 89.50
15 1217.20 523.00 451.27 412.07 245.40 210.60 154.60 117.87 83.87 83.53
16 1141.13 490.31 423.06 386.31 230.06 197.44 144.94 110.50 78.63 78.31
17 1074.00 461.47 398.18 363.59 216.53 185.82 136.41 104.00 74.00 73.71
18 1014.33 435.83 376.06 343.39 204.50 175.50 128.83 98.22 69.89 69.61
19 960.95 412.89 356.26 325.32 193.74 166.26 122.05 93.05 66.21 65.95
20 912.90 392.25 338.45 309.05 184.05 157.95 115.95 88.40 62.90 62.65
                     
  自民 維新 立民 公明 共産 国民 れいわ 参政 社民 N党
2022 18 8 7 6 3 3 2 1 1 1



〇だいたい100万票で1人が当選する計算となります。今回、いちばんギリギリで当選したのは立憲民主党の7番目の議員(967.0千)で、石橋通宏さんということになります。

〇さて、当溜池通信いつもの手法です。比例代表の得票数をバロメーターに、各党の勢いをチェックしてみましょう。なお、過去に存在した「みんなの党」やら「新党大地」やらは省略してあります。新党って、むちゃくちゃ数が多くてすぐに消えるんですよ、この国ではね。

  2022年
参院選
2019年
参院選
2016年
参院選
2013年
参院選
2010年
参院選
自民党 18,258,791 34.40 17,712,373 35.40 20,114,788 35.90 18,460,335 34.07 14,071,671 24.03
公明党 6,181,431 11.70 6,536,336 13.10 7,572,960 13.50 7,568,082 13.97 7,639,432 13.05
立憲民主 6,769,885 12.80 7,917,720 15.80 11,751,015 21.00 7,134,215 13.17 18,450,139 31.51
国民民主 3,159,014 6.00 3,481,078 7.00 (↑民進党)   (↑民主党)      
共産党 3,618,342 6.80 4,483,411 9.00 6,016,194 10.70 5,154,055 9.51 3,563,556 6.09
社民党 1,258,623 2.40 1,046,011 2.10 1,536,238 2.70 1,255,235 2.32 2,242,735 3.83
維新の会 7,845,995 14.80 4,907,844 9.80 5,153,584 9.20 6,355,299 11.73    
れいわ 2,319,159 4.40 2,280,252 4.60            
その他 3,615,762 6.80 1,707,167 3.40 2,795,269 6.90 2,547,229 4.70 3,642,246 6.22
合計 53,027,002 100.00 50,072,192 100.00 54,940,048 100.00 54,183,498 100.00 58,553,464 100.00
投票率 52.05%   48.80%   54.70%   52.61%   57.92%  



〇自民党が35%取って、これに公明党が10数%上乗せするから負けない。これが与党の「勝利の方程式」です。だが、ちょっと怪しくなってきました。公明党は以前は確実に700万票以上とれていたんですが、だんだん地力が落ちてきている。自民党は前述のとおり、安倍さん亡き後に「保守タカ派票」がどこまでついてきてくれるかが不安です。岸田さん、そういうのあんまり得意じゃない気がするし。今後、まともな右派政党が出てきたら、自民党は焦ることになりますぞ。

〇ちなみに、公明党と並ぶ組織政党である共産党も長期低落傾向が続いています。これは高齢化が響いているのか、あるいはコロナ下のせいで、「人と会っちゃいけない」ために選挙運動ができなくなっているのか。考えてみれば、れいわ新選組や参政党はネットを使った選挙で票を伸ばしているので、これは選挙手法が変わりつつあるという見方ができるでしょう。

〇立民と国民は、とうとう足して2割(or 1000万票)に届かなくなりました。彼らから見ると、落ち目のはずの共産党がなかなかしぶとかったり、社民党が2%を取って政党要件にしがみついたり、れいわ新選組が伸びてきている、という現象に食われていることになります。そろそろ元のさやに収まった方がいいんじゃないでしょうか。お互いにもうあんまり贅沢は言っていられない状況だと思います。

〇逆に社民党が頑張って政党要件を守ってしまったことは、果たして日本のリベラル勢力にとってよかったのか、悪かったのか。もはや左派ポピュリスト「れいわ」の方が、はるかに得票能力があるというのに。「平和とくらしを守るため」ではなく、「政治家と党職員を守るため」に政治活動を続けているように見えて仕方がありません。

〇維新の会の784万票は大事件でした。「はしもっちゃん」がいた頃よりもたくさんとっている。堂々の野党第一党です。とはいえ、「どんな人たちが通ったのか・・・?」と見てみると唖然といたします。演歌歌手にスポーツライターに元東京都知事ですか。いったい彼らは、どんな人を総理にしたいと思っているのでしょうか。「安倍さん」という答えはナシですよ。


<7月12日>(火)

〇これを言ったのは田中六助さんだったですかね。「遺産相続はお通夜の夜で決まることだ」って。

〇うろ覚えの記憶ですが、大平正芳首相が死んだ後に、鈴木善幸を担いで暗躍したのが田中六助元官房長官。岸信介経由で福田赳夫を説得し、田中角栄の了承も得て、あれよあれよという間に次期総裁選出を演出した。前尾繁三郎が、「幕が開く前に芝居が終わっていた」と嘆いた際に、「おしゃべり六さん」は上記のようなセリフを吐いて誇ったとのこと。まあ、後世の作り話かもしれませぬけどね。

〇昨晩の安倍さんのお通夜は、まことに盛大な規模であったとのこと。不肖かんべえの知り合いも多数参列していて、「献花まで1時間以上待った」(第七波が来ているのに?)とか、「手荷物検査はなかった」(テロリストは居なかったのか?)とか、ちょっと不安を感じさせるような状況であった由。とはいえ、これが政治の世界であり、お葬式というもの。今日も多くの人が増上寺に集まったとのことであります。

〇もしも田中六助氏のように目端の利く政治家がいたならば、今頃は「安倍派を誰が継承するのか」で秘かに暗躍しているはず。ただしこれは結構な難問となりそうです。清和会は多士済々かつ魑魅魍魎でございますので。「お願いです、森さん、戻ってきてくださいっ!」てなことになるやもしれませぬ。

〇こうなると松野博一官房長官や萩生田光一経済産業大臣は、公職にあるがために動きにくい立場となる。逆に言えば、下村博文派閥会長代理や西村康稔派閥事務総長は動きやすいわけで、お葬式なんぞを取り仕切る立場となられます。他方で世耕弘成参議院議員会会長とか、稲田朋美事務局長とかもいらっしゃるわけで、合意形成はなかなかに難しそうである。

〇となれば、ここは塩谷立会長代理や衛藤征士郎最高顧問にお出ましいただいて、ワンポイントリリーフを仰いで集団指導体制はどうか、などと心は千々に乱れるわけであります。知らんけど。

〇また、こんな言葉も思い起こされる局面であります。「楕円の論理」(by 大平正芳)。

〇国家や組織や社会は、楕円形のように2つの焦点を持っている方が安定する。かたや自由党(吉田茂、池田勇人、佐藤栄作)、こなた民主党(鳩山一郎、岸信介、三木武吉)が、1955年に合流して誕生したのが自由民主党である。前者は「経済重視、軽武装」、後者は「自主憲法、自主外交」を理念としてきた。それがズブズブ、グダグダにほどよく溶け合ってきたのが今の自民党で、だからこそ組織として強いのですよね。

〇それから幾星霜、前者は平成研と宏池会となり、後者は清和会となって今日に引き継がれている。宏池会会長の岸田文雄首相は、今までは安倍さんをときに刺激しながらも、とにかく安倍さんがオッケーしてくれれば「もうひとつの焦点」を抑え込むことができた。ところが安倍さんは、後継者を定める前に凶弾に倒れてしまった。こうなると自民党は片方の焦点を失った楕円形のごとし。これは日本政治にとって危うい状況ではないのか。

〇とにかく安倍派の跡目が決まらないことには、内閣改造もままなりませぬ。早いとこ決めてくれ〜と思う一方で、清和会が分裂したりするとまたまた面倒なことになる。問題は今の永田町に、田中六助さんみたいなトリックスターが居るかどうかですな。


<7月14日>(木)

〇海外メディアを見ると、"Fomer PM Shinzo Abe assasinated."と書かれている。なんか違和感があるんだよなあ。あれって本当に暗殺だったのか。とっても不幸なただの事故だったのではないのかと。

〇誰かさんが、「教団に倒れる」などという不謹慎なダジャレを言っていた。永田町の古株の皆さんにお聞きすると、〇〇教会とか××学会というところは、政治家の事務所に対して手弁当の秘書を派遣してくれる。しかもこの秘書たちが無茶苦茶によく働く。どうかすると、頼みもしないのにパーティー券を買ってくれたりもする。ありがたいなあ、と思っていると、いつの間にか侵食されてしまうのだそうだ。いやはや、怖い世界でありまする。

〇とにかく、この国は信じられないような失敗をやらかしてしまった。たまたま「銃もどき」が使われた事故で、それも信じられないような偶然が重なっていて、この1週間というもの日本全体が後味の悪い思いを共有している感がある。

〇最近、ACの広告でコンビニの会計でおばあちゃんと若者がラップを演じるというのをよく見かける。「これ、面白いじゃん」ということで印象に残るのだけれども、それはCMの自粛があいついでいるから、結果的にACの放送が増えているからなのだそうだ。この1週間、日本全体が喪に服しているようなものだ。

〇とはいえ、起きてしまったことは今さら取り返しはつかない。麻雀でいえば、役満を振り込んでしまった直後のようなやりきれなさがある。馬鹿馬鹿、俺の馬鹿、なんであそこでイーピンを切ったんだ。思い起こせば、あそこでああしておけば、という後悔が嫌というほど思い起こされる。それでも取り返しはつかないのである。

〇例えていえば、本能寺の変みたいなものだ。たまたま織田信長は、わずかな供回りと共に京都に滞在していた。たまたま明智光秀は1万の軍勢を率いて、備中に向かうように命じられていた。そこで悪魔に魅入られたように、老ノ坂まで来たところで、「わが敵は本能寺にあり!」という出来心に負けてしまった。

〇これから先は清須会議の出番である。誰が上手に動き回るのか。誰が羽柴秀吉になって、誰が柴田勝家になるのか。意外なことに、菅義偉前首相の存在がクローズアップされてくる、てな動きは、まさしく「寸前暗黒」の永田町劇場そのものでありまする。


<7月15日>(金)

〇人間の記憶というものは不思議なものである。脳のどこかにそれを司る機能があるのだろうが、それらは日々変化する。昔はどうでもよかったようなことが、ある年代になって急に気になったりする。あるいは幼い頃の記憶が、突然に蘇ったりもする。その代わりに、忘れてしまっていることも少なくないはずだ。おそらく人間の記憶というものは、何度も反芻されながら形を変えていくものなのであろう。

〇その昔、不肖かんべえは品川正治さんという財界人の下で仕事をしていた。品川さんは経済同友会の副代表幹事・専務理事であり、こちらは事務局の一員としてその指示を仰ぐ立場にあった。品川さんは日本火災の社長、会長を務めた方であり、すばらしいリーダーシップの持ち主であった。およそ品川さんを知る人の中で、そのことに疑いを持つ人はほとんどいないであろう。

〇経済同友会を1995年に卒業してから、年に1度、品川さんを囲む会でお目にかかることができた。昔の秘書たちが5〜6人集まって、中華料理をつつきながら品川さんのお話を拝聴する会である。これが毎年7月(品川さんのお誕生日の頃)に延々と続いたのである。

〇お年寄りの話だから、いつも同じことの繰り返しかと思ったら、そうではなかった。品川さんの昔話は、80歳を超えた頃から明確に変わり始めた。戦争体験(品川さんは帝国陸軍所属で、中国戦線で終戦を迎えた)を語り始めて、その中には「えええええっ」、と驚愕するようなエピソードが多く含まれていた。それまで抑圧されていた記憶が、公職を離れてからちょっとずつ解き放たれたのかもしれなかった。

〇そのうちに品川さんは、「護憲派の財界人」ということになって、この国の反戦・平和運動の中で重きをなすようになった。しまいには日本共産党御用達の財界人みたいになったので、1990年代の品川さんとはずいぶん違った人になってしまった。ただしどっちの品川さんがホンモノであったのかはよくわからない。そもそも人間はどんどん変わるものであって、何が本当で何が偽りかなんてことは、余人には判じ難いことなのである。

〇品川さんは2013年8月に亡くなられたが、ずっと定期的にその昔話を聞けたことは、自分には幸運なことであった。「年寄りの昔話はいつも同じことの繰り返し」ではなくて、どんどん変化することを知ることができた。たぶん人間、70代と80代では自分の人生の対する評価も変わるし、そもそも過去の記憶自体が変化しているのではないかと思う。自分はまだその境地には程遠いけれども、この後自分が加齢を重ねるにつれて、今と違う記憶を持つ違う人物になるのかもしれない、と考えるとちょっとだけ愉快なことだと思う。

〇それで何を思うかというと、早死にしてしまった人は気の毒であるな、ということだ。先週の金曜日に、67歳でこの世を去った安倍晋三さんは、ひょっとすると70代や80代になったらまったく違う人になっていたのかもしれない。そして「あのときはこんなことがあってねえ・・・」と余人には窺い知れぬ物語を語り始めたかもしれないのである。

〇それを考えると、つくづく先週の奈良で起きた事件が悔やまれる。われわれはもはや、安倍さんのオーラルヒストリーを聞くことができない。例えばある日、安倍さんは突然に「今から思うとトランプさん(or プーチンさん)は酷い人でねえ・・・」みたいなことを語ってくれたかもしれないのである。が、その機会は永遠に失われた。

〇人間の記憶というものは、もちろんそれがファクトであるとは限らない。とはいえ、ファクトなんてつまらんものではないだろうか。生身の人間が、自分の人生をどんな風に覚えているのかが面白いのである。歴史はもちろんファクトを積み上げて作られるべきであるが、HistoryとはイコールHis Storyのことなのだそうだ。人が死ねばそのStoryも失われる。つくづく惜しいことではないだろうか。


<7月16日>(土)

〇本日、柏市の体育館にて4度目のワクチンを接種してまいりました。4回全部モデルナであります。とりあえずこれまでのところ、感染することもなく無事に過ごしておりますので、ありがたいことでありまする。

〇とはいえ、明日締め切りの原稿が1本ありまして、なんとか副反応は控えめにお願いしたいところであります。さて、今宵はビールは自粛いたすとしよう。


<7月17〜18日>(日〜月)

〇ワクチンの副反応と共に過ごす3連休である。腕の痛みは昨日でとれたが、まだ頭がボーッとしている。まあ、しょうがない。

〇そうなるとついついPCの画面を見ている時間が長くなるのだが、いいニュースは少ないねえ。朝日新聞の川柳欄なんて、そういうものが嫌だからあの新聞を取らないのに、わざわざSNSで教えてくれるやつがいる。困ったものだ。ああいうものを読んでいるとカルマが溜まるぞよ。

〇棋聖戦で藤井五冠王が防衛に成功。永瀬王座の挑戦を下しました。これが10代最後のタイトル戦というのだから、まことに畏るべき天才である。先週の王位戦第2局が感動モノで、豊島九段を相手に腰掛け銀の新研究を披露。1五歩から1五香車と走って、取った歩を桂頭に打つ。その昔、腰掛け銀戦法には木村定跡、升田定跡、大山定跡と揃っていたけれども、あらたに藤井定跡が誕生したかもしれません。

〇昨日の函館記念。普通にマイネルウィルトス(1番人気)からサンレイポケット(3番人気)とアラタ(2番人気)に馬連とワイドを流し、最後にふっと思いついてハヤヤッコ(7番人気)とのワイドを1000円だけ買ってみた。来ちゃうんだな、これが。それにしてもダートと芝の両方で重賞を勝つ馬なんて、いつ以来なんだろう。その昔、レパードSで特大万馬券をとらせてもらい、この白馬には恩義がある。ワイドは高くなかったけれども、とにかく取れてよかった。

〇次は札幌記念でソダシと共に白馬決戦ですか。これもまた楽しみなことであります。


<7月20日>(水)

〇昨晩のBS11「インサイドOUT」と今朝のテレビ東京「モーニングサテライト」、諸般の事情により自宅からのリモート出演となりました。


●「岸田政権は”黄金の3年間”か? 安倍氏亡き政界の今後」(BS11)


●参院選+安倍元総理亡き後の日本政治の行方(BSテレ東)


〇この辺の話は今週末の溜池通信でまとめようと思っています。要するに「楕円の理論」ってやつですな。


<7月21日>(木)

〇安倍さんの国葬、9月27日(火)*仏滅という日程になったのはどんな理由があるのでしょうか。この後の日程はとりあえずこんな感じ。


7月26-27日 米FOMC→今年4度目の利上げへ

8月1日〜 NPT検討会議(NY)←岸田首相出席

8月3〜5日 臨時国会召集→参議院正副議長を指名+安倍元総理追悼演説

8月15日 全国戦没者追悼式

8月下旬 ジャクソンホール会合(米カンザス州)

8月27-28日  TICAD [(チュニジア)

8月末   概算要求締め切り

9月上旬  内閣改造+党役員人事

9月11日  沖縄県知事選挙

9月21日〜30日 国連総会一般討論(NY)

9月27日  安倍元総理国葬(日本武道館)

9月29日  日中国交正常化50周年

秋      中国共産党大会

11月8日  米中間選挙


〇国葬の日程を考慮するときには、@皇室関係、A外交関係、Bご遺族の関係、C政局、D会場となる武道館、などのご都合を調整する必要がありますね。どういう消去法をたどって9月27日に落着したのか。とっても知りたいわん。

〇とっくに見抜かれていると思うけど、ワシ的には「国葬是か非か」みたいなことには全く関心がありません。国葬でも、国民葬でも、内閣自民党合同葬でも、会費制お別れの会でも一行に構いません。政治は日程なり。その思考経路を知りたいと思うものです。

〇実は「その日だったら行ける」と言っている某大物元首がいる、と想像するのも一興ではありませぬか。次のうちから、安倍さんの国葬に来そうな人物に丸を付けよ(複数回答可)


@ドナルド・トランプ、Aウラジミール・プーチン、B習近平、Cナレンドラ・モディ、Dレジェップ・エルドアン、E金正恩、F尹 錫悦


〇ちなみにバイデンさんは無理だわな。中間選挙があるし、今年はもう1回来ているし。

〇ついでに言えば、ワシはこの日にとあるシンポジウムの予定が入っているのだが、それって影響を受けないんだろうか、という関心もある。さすがに休日にはならないみたいですが。


<7月22日>(金)

〇昨日のワシの疑問に対し、この記事は以下のように説明している。


決断を受けて、政府は7月22日の閣議で、日本武道館での開催日程を決定する段取り。今のところ遺族との調整で、ニューヨークで開催される国連総会(9月21日〜27日)の最終盤となる9月27日に執り行う方向だ。


〇岸田さんはこの後、8月1日にNPT再検討会議でNYに出張し、さらに9月には国連総会にも出かけるみたいです。それで戻ってきてから国葬ですか。秋の政治日程は、既にかなり細かいところまで詰まっているようです。

この記事の題名が、「岸田首相『安倍氏の国葬決断』で見せた驚く大変身〜結論を先送りする"検討使"から脱却した?」とある。書き手は、岸田さんを昔から知るジャーナリストの泉宏氏でありまして、その泉さんが「驚く大変身」ということは、安倍さんが死んで岸田さんは変わったのかもしれませんな。


<7月23日>(土)

『危機の外交』(岡本行夫、新潮社)を読む。コロナに倒れた元外交官の自伝である。

〇冒頭、ご両親の話が延々と続くのだが、お父様はかの731部隊の一員だった、というところで絶句させられる。岡本行夫さんは何度かご一緒したことがあったけど、とにかく明朗快活な湘南風の先輩、という印象が強い。でも、この本は一種、ハードボイルドなのである。本人はおそらく涙を流しながら書いているし、読者も泣かされてしまう本である。

〇岡本行夫さんと言えば、湾岸危機から湾岸戦争の時の北米一課長で、大変なご苦労をされたということが知られている。1990〜91年当時の内幕を読み返してみると、なるほどこれは確かにひどい。いや、自分も当時は商社で30歳前後であり、会社の同期はフセインの「ホスト」(人質)となったし、4月からはワシントンDC赴任を控えていたから、事態の成り行きを心配したものである。そしてまあ、日本政府の七転八倒ぶりはまことにカッコ悪かった。

〇当時の日本がいかに「平和主義」に縛られていたか、あるいは霞が関全体が「省あって国なし、局あって省なし」の状態であったかは、今ではかなり忘却の彼方になっているのではないかと思う。思えば当時は民間企業においても、「次の社長をどうやってウチの本部から出すか」みたいなことに血道を上げていたくらいだから、若い人にはどこか他所の国のお話に聞こえるかもしれない。でもね、昔の日本は確かにこんな感じだったよ。

〇さらに本書は沖縄を語り、イラク戦争を語り、歴史問題を語る。そうやって登場する人たちが、超重量級の人ばかりである。なるほど後藤田さんは海外派兵を許してくれないし、橋龍は気障だけど根はいい熱血漢であり、梶山静六は超重量級で好判断をするし、小泉純一郎はやっぱり予想通りなのである。こういう人たちと一緒に、歯ぎしりしたり涙を流したりして仕事をしてきた岡本さんは、ある意味幸せな外交官人生だったのかなあ、と感じる。

〇本書には多くの外務省関係者が登場する。ひとりひとりへの評価が面白い。が、ネガティブな評価が見当たらないところを見ると、たぶん嫌な思いをした人のことは一切取り上げなかったのであろう。中でも、「副官格」の宮家邦彦氏と一緒に米軍支援策を検討するシーンなどは、まるで梁山泊みたい雰囲気である。日米関係はこういう人たちが支えてきたのだなあ、ということを感じる。

〇昔の日本の組織って、今とは比べ物にならないくらいの重圧があったけど、ときどき自由奔放に仕事ができる空間があって、そういうときはとても楽しかったものである。今は政治家も組織も小粒になってしまって、「涙を流しながら」仕事をする機会なんて限りなくゼロに近いんだけど、はてさてどっちがいいのやら。


<7月25日>(月)

〇滅多にないことゆえ、ここにメモして記録と記憶に残しておきましょう。

〇昨晩、PCが急にWiFiにつながらなくなってしまった。再起動してみてもダメ、朝になってからやり直してみてもダメ。いやー、ついてないな、これはどうしたもんかいな、と悩んだ末にThinkPadのサポートデスクに電話してみる。これはもう長期戦覚悟である。まず電話はつながらないものと覚悟せねばなるまい。

〇ところがなんとなんと。まず、電話はあっけなくつながった。それからワシの電話は、違うダイヤル当てであることが判明した。まあ、よくあることである。かけなおせばいいのかと思ったら、対応してくれた人は当方の連絡先を聞き(電話が途中で切れてしまったときのため)、相談内容を登録したナンバーを告げ、転送してくれたのである。

〇電話は無事に別の場所に転送され、丁寧なアドバイスと共に見事に問題は解決したのであった。この間、20分程度。いやー、こういうこともあるのですねえ。PCのサポートに電話するときは、だいたい3回くらいキレてしまうものである。が、今日はほとんどノーストレスであった。

〇感謝の念と共に、今日の電話番号は大事にメモしておこう。いやはや、めずらしいこともあるもんだ。


<7月26日>(火)

〇気が付いたら今日はオールスターゲームなのね。そしてわが阪神タイガースは、借金なしで前半戦を折り返した。開幕戦の9連敗、ピーク時には16もあった借金が消えてしまったのは、なんという伴天連の秘法であろうか。広島と同率2位で首位ヤクルトまで11ゲーム差。おそらくこれから先は、「クラスターを起こさなかったチームが勝つ」みたいな展開が予想されますな。

〇とりあえず今日は佐々木朗希の快速球に、ド派手な三振で応える佐藤輝明が見てみたい。そうか、大山悠輔も初出場なのね。ピッチャーでは湯浅京己と伊藤将司が初出場。いい思い出を作ってほしいです。

〇まあ、いろいろあるけど、とにかく野球ができるのはありがたいことじゃないですか。お陰でタイガースの応援ができる。もう行動制限はいいよね。「ゼロ・コロナ」は中国だけでいいっす。


<7月27日>(水)

〇IMFのWorld Economic Outlookの7月版が出ました。表題は"Gloomy and More Uncertain(陰り見え、不透明感増す)"

  2020年 2021年 2022年 2023年
全世界 -3.1% 6.1% 3.2%(-0.4) 2.9%(-0.7)
アメリカ -3.4% 5.7% 2.3%(-1.4) 1.0%(-1.3)
ユーロ圏 -6.4% 5.4% 2.6%(-0.2) 1.2%(-1.1)
日本 -4.5% 1.7% 1.7%(-0.7) 1.7%(-0.5)
中国 2.2% 8.1% 3.3%(-1.1) 4.6%(-0.5)
インド -6.6% 8.7% 7.4%(-0.6) 6.1%(-0.8)
ASEAN5 -3.4% 3.4% 5.3%(―) 5.1%(-0.8)
ロシア -2.7% 4.7% -6.0%(+2.5) -3.5%(-1.2
世界貿易量 -7.9% 10.1% 4.1%(-0.9) 3.2%(-1.2)
原油 -32.7% 67.3% 50.4%(-4.3) -12.3%(+1.0)
物価(先進国) 0.7% 3.1% 6.6%(+0.9) 3.3%(+0.8)
物価(新興国) 5.2% 5.9% 9.5%(+0.8) 7.3%(+0.8)


〇なかなかに難儀な状態です。アメリカ経済の下方修正は厳しいですな。今までは3.7%(22年)→2.3%(23年)の見通しだったものが、2.3%→1.0%なんですから。まあ、これだけ急な金融引き締め(明日の0.75%利上げで政策金利はほぼ中立金利に到達してしまう)では無理もないですか。

〇7月28日には4−6月期GDP速報値も公表されるが、これが2四半期連続のマイナス成長になる、という気の早い話もある。念のために言っておくと、前回の1−3月期GDPの中身はそんなに悪くはなかったし、これでリセッション入り、と騒ぐのは少々気が早い気がします。雇用のデータが非常に強いことも忘れてはなりませぬ。

〇日本経済がパッとしませんなあ。1.7%成長が3年連続の見込みとなっている。もうちょっと何とかなりませぬか。せっかく行動制限がない夏なのだから、もうちょっと派手に行きたいところであります。


<7月28日>(木)

〇お礼の品ということで、ニュージーランドワインとマヌカハニーを頂戴した。たいへん、ありがたし。

〇ワインはとってもお久しぶりの「クラウディ・ベイ」である。確か2000年頃に、「ニュージーランドでも最近はワインを作るようになりまして、これだけは美味いんですよ。ただし白に限るんですけどね」と言われて飲んだのがこれであった。

〇クラウディベイは、南島北端のマールボロ地方を代表する品種。ここは2008年秋に訪れたことがある。川下りをしながら、地元のムール貝と共にソーヴィニオンブランを飲んだものだから、以後は「マールボロの白」が癖になった。最近では、日本人が作っている「キムラセラーズ」という品種もあって、結構人気になっているようだ。

〇さて、クライディベイは最近おいくらくらいなのか。NZワイン専門のボクモワインで検索してみたら、あっと驚いた。ひえ〜、円安憎むべし。こんなに値上がりしてしまったのね。NZワインはいいとこ3000円くらいで、ブルゴーニュの6000円くらいのクオリティがある、というのがお値打ちなんですが。

〇まあ、ブルゴーニュはもっと上がっているはずなので、この道楽には厳しい時代かもしれませぬ。マヌカハニーも健康にいいんですよ。そういえば長らくNZには行っていませんなあ。


<7月29日>(金)

〇ゴールデンカムイの最終巻31巻を読了。いやー、とうとう終わってしまいました。

〇「大団円の最終回!!!」と自ら名乗っているくらいだが、本当にそういう終わり方であった。ネタバレ御免で書いてしまうけど、尾形上等兵の謎解きはちゃんとしておった。白石は最後まで白石らしかった。そして杉元はもちろん不死身である。「故郷へ帰ろう、アシリパさん」。まあ、後は適当に察してくれい。

この記事によれば、「二瓶鉄造を退場させた時点で、この連載の評価は定まった」とのことである。それはすご〜くよくわかる。「あ〜っ、もったいない!」と思った直後に辺見和雄が出てきて、あーっ、「またまたもったいない!」と思ったら、今度は、「江渡貝くうぅぅん」が登場するんだから。

〇ワシ的には土方歳三がサイコーであった。あんな老人になれたら素晴らしいと思う。「死にたくなければ、死人になれ!」という言葉を大事にしていきたい。


<7月30日>(土)

〇東洋経済オンライン、今週の駄文はこちら。


●異常な日本はいつまで経っても賃上げできない 「恐怖の五段活用」で浮き彫りになる日米の違い


〇これって6月のモーサテでも語ったネタなんですが、意外と受けが良くて今日はお昼くらいまでずっとアクセスランキング1位でしたね。世の中の雰囲気に合っていたのか、編集F氏のタイトル付の妙のお陰というべきか。

〇まあ、何にせよ読んでもらえるのはありがたいことである。反応がないのがいちばん寂しい。








編集者敬白




不規則発言のバックナンバー


***2022年8月へ進む

***2022年6月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki