●かんべえの不規則発言



2015年10月





<10月1日>(木)

○水曜会の2日目は、突然岐阜県に移動して飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデの見学である。すごいっ!

○その実態は、神岡鉱山の地下1000メートルに掘られた巨大な円柱です。中には浜松ホトニクス社製の光電子倍増管(思ったよりも大きいです!)1万2000本が並んでいて、そこに5万トンの純水が入っている。どの方向から突き進んでも1000メートルを超える岩盤に妨げられているこの物体に、到達できるのは素粒子の一つであるニュートリノだけ。それがごくたまにもたらすチェレンコフ光を捕らえることにより、ニュートリノの実態に迫るという巨大な実験装置です。

○いくら説明を聞いても、よくわかっていないので、間違ったことを書いているのかもしれないのだが、ワシに理解できた範囲でいうとこういうストーリーである。この実験装置、1991年に工事が始まって、1996年に観測が始まった。ということは、バブル時代の産物と考えてよろしいのではないか。つまり、加賀百万石の太平が豪華な金沢城と兼六園を残したように、バブル期の高揚感が物理学の基礎研究に巨額の予算を付けることを可能にした。

○もっとも、このことを非難がましく考える必要はない。この世に終わりがあるかもしれないが、よもや東京大学がつぶれることはあるまい、という確信を皆が共有しているからこそ、こういう巨大実験装置の建設が可能になる。だからこそ、息の長い研究が可能になる。それに比べれば、中国共産党などは累卵の危うきに近し。果たして、これに匹敵するような実験装置は中国でも作れるのだろうか(もう作っているようだったら、ごめんなさい)。

○今もこのSuper-Kでは24時間体制で研究が続いていて、研究者たちの探究心は止むことがない。さらに100万トンの超大型タンクを使って研究を加速しようという「ハイパーカミオカンデ」なる構想もあるという。いやあ、こんな風に一度始めてしまったら止められないというのは、わが国の美風というか欠点というか。などと神岡鉱山の地中深くでしみじみと考えたのである。

○ところで皆が知っている小柴教授のノーベル物理学賞であるが、その成果はSuper−Kの前身たる「カミオカンデ」で得られたものである。1983年に、3000トンの水をたたえて発足したプロトタイプ装置は、偶然にも1987年に大マゼラン星雲で起きた超新星爆発からのニュートリノの観測に成功する。これによって「ニュートリノ天文学」なる新分野が誕生し、ノーベル賞につながるのである。今から考えてみるとむちゃくちゃラッキーなのだが、人生ってそういうものだよね。

○思うにバブルは悪いことばかりではない。バブルがなければ巨大建造物は断たないし、人類の財産となるような基礎研究も進まない。金沢城/兼六園とスーパーカミオカンデを続けて見るという稀有な体験から得られる教訓は、あんまりセコイことを考えなさんな、ということになる。景気が悪いから設備投資を止めておこう、なんていう世界をしばし忘れた経験でありました。


<10月2日>(金)

○いつものホテルオークラが改装中なので、今年の新潮社のパーティーは帝国ホテルで。

○小林秀雄賞と新潮ドキュメント賞の表彰式がありました。今年は後者の受賞作が『ブンヤ暮らし三十六年』。

○とっても久しぶりに著者の永栄潔記者と再会しました。受賞あいさつのキメの言葉がカッコいい。

「朝日新聞は嫌いでも、新聞記者のことは嫌いにならないでください」

○つくづくこのラインの原型を生み出した前田敦子は偉い。いや、それはともかくおめでとうございます。


<10月5日>(月)

○本当に「実質合意」なのかどうか、正直まだ疑っているのですが、どうやらあとわずかで記者会見も始まるようで、5年以上も続いたTPP交渉は最終局面が近そうです。

○日本が安倍内閣の下で参加を正式表明したのが2013年3月。本当に参加したのが同年7月。それからまだ2年と数カ月に過ぎないわけですが、よくまあここまで来たものだと褒めてあげたい気がします。それこそW杯における日本ラグビーと同じような「隔世の感」があります。

○まず、これまで何度も交渉が漂流しかけたときに、「日本が悪い」という声がついぞ聞こえてこなかった。これがウルグアイラウンド交渉の頃は、農業分野で全く妥協が出来ず、最後は周囲の国に押し切ってもらった、というのが実態でしたから。「日本の特殊性」を訴えるばかりで、自分からカードを切って交渉をリードする、なんて考えたこともなかった。

○国際交渉のたびに複数の役所の代表が出かけて行って、行く先々で喧嘩をするものだから、「日本政府は誰と話をしたらいいのかわからない」などと言われたのも遠い記憶となりました。TPP交渉は、窓口が担当閣僚と首席交渉官に一本化されていますから、そこは当然そうあるべきなのですが、担当者を途中で替えなかったのも良かったと思います。

○ゲームプランもしっかりしていました。投資ルールや自動車では攻めて、農産物は守って、でも牛肉と豚肉ではカードを切って、原産地規制では譲歩して、バイオ医薬品では仲介役を買って出るなんて、日本がそんなちゃんとしたプレイヤーになるなんて、情けなかった往時を知る者としては、まことに信じられない思いがします。

○しかも10月3日夜時点では、やれバイオだ乳製品だと自国のことばかりに捉われているフロマン通商代表に対し、甘利TPP担当相が「ゲームをやっている時間ではない」と叱りつけたそうです。いやはや、世の中変われば変わるもの。ついでにいえば、その瞬間の他の10か国の代表は、きっとテーブルの下で拍手をしていたんじゃないでしょうか。

○国内をちゃんと抑えてあった、という点も良かったと思います。少なくともこの1年くらい、農業団体の動きは非常に抑制されたものでした。反TPP本も見かけなくなって久しいし。たぶん農業対策費の準備はバッチリ終わっているのでありましょう。あとは補正予算を待つばかり。

○あとはもう、甘利さんが無事に帰ってきて、10月7日の内閣改造に間に合うことを祈るばかりです。だって認証式の際には、大臣は宮中に行かなければなりません。「あのー、甘利君は飛行機が間に合わなくて欠席ですから、陛下、後で一人分だけ残業をお願いします」なんて、とてもじゃないけど言えませんわなあ。

○今、WBSをつけたら、大江さんが「実質合意」を告げています。いやあ、よかった。ホントなんだ。この問題では過去に何度もブレまくった当溜池通信としては、本当にホッとしております。


<10月6日>(火)

○昨日のノーベル医学・生理学賞の大村智教授に続き、本日は物理学賞を梶田隆章・東大宇宙線研究所長が受賞されました。おめでとうございます。しかも業績は、ニュートリノ研究に対して与えられたものだとのこと。不肖かんべえとしては、先週1日に見てきたばかりのスーパーカミオカンデが生み出した成果に、奮えるような思いを禁じ得ません。

○スーパーカミオカンデでは、東大の学生たちが1日3交代制で「見張り」をしています。しかも昼間は2人、夜と朝は1人だけなんだそうです。地中1000メートルにおいて、なんという孤独でありましょうや。しかも一昼夜、計器類を見張っていても、ニュートリノが巨大な水槽でチェレンコフ光を発するのは、いいところで1日2〜3回であると聞きました。ましてや超新星に出くわすなんて幸運は、何年がかりで待ち続けるほかにない。かくも地道な努力の上に、ノーベル賞は舞い降りたのであります。

○われわれ「水曜会」一行がスーパーカミオカンデを訪れた時に、当直だった2人の東大学生はいずれも外国人でした。一同はいかにも頭の良さそうな中国人学生から、達者な日本語で説明を聞いておったのですが、ちょっとだけ複雑な心境がなかったというとウソになります。とはいえ、スーパーカミオカンデ内に横溢していたエートスは、まぎれもなく日本的な「匿名性の功名心」でありました。今宵のノーベル賞は、きっと「努力、友情、勝利」を絵に描いたような世界であったことと想像いたします。


<10月7〜8日>(水〜木)

○7日は四国新聞社さんの政経懇話会で高松市へ。講演の中身はノーベル賞(スーパーカミオカンデ)と、TPPの合意と、日本経済についてと、今後のアベノミクスについて。とても天気が良くて、栗林公園は相変わらず美しい。これに比べると兼六園は雪が降る、という必殺技を有しているものの、総合力ではこっちの方が上ではないだろうか。もっとも、「雪つり」のために専門の職員を5人も用意しているという石川県も、そこはさすがなのであるけれども。

○8日は神奈川新聞社さんの政経懇話会で横浜市へ。講演の中身は、前日のものにちょっと変化を持たせてみる。とても天気が良くて、山下公園はいい気分である。日本郵船の氷川丸に乗ってみた。古い豪華客船で、往時をしのばせるものがある。仮に日本版IR法案が成立し、カジノを作るという話になる場合は、この埠頭が候補地になるらしい。さて、どんなふうになるのだろうか。

○夜は富山市の会合。ここでも「梶田さんのノーベル賞」が話題沸騰。やはり神岡鉱山は富山から近いのだ。岐阜県だけど、北陸電力の電気を使っているし。1週間前にスーパーカミオカンデを訪れたものとしてはおお威張りモードである。

○それとは関係ないのでありますが、本日で55歳となりました。ふとフェイスブックを開けたら、膨大な「おめでとうコメント」がついていた。もったいなくも、ありがたい。好日に感謝です。


<10月9日>(金)

○本日発行の溜池通信本誌でも書いたことですが、11月にかんぽ財団の経済セミナーをやりますので、御用とお急ぎでない方はどうぞご来場くださいまし。


●かんぽフォーラム2015

【日時】 平成27年11月18日(水)14:00〜16:20

【会場】 文京シビックホール 小ホール

【基調講演】 「世界経済の潮流と日本経済の展望」 (株)双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎 達彦氏

【パネルディスカッション】

(株)双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎 達彦氏
日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト 北井 義久氏
BNPパリバ証券(株) 投資調査本部長 チーフクレジットアナリスト 中空 麻奈氏

【コーディネーター】 NHK解説副委員長 関口博之氏


お申し込みは、下記のかんぽ財団のURLからどうぞ。入場は無料ですので、多数のご来場をお待ちしております。

http://www.kampozaidan.or.jp 


<10月10日>(土)

○先日、このページの新しい編集者と話していた際に、「どうして競馬ファンと将棋ファンは重なるんでしょう?」という話になった。

○言われてみれば、ワシの周囲だけを見渡しても、オバゼキ先生馬券王先生も将棋には造詣が深い。山崎元さんに至っては東大将棋部である。きっと強いんだろうな。お互いに指したことはないけれども、「羽生時代はあと何年続くか?」みたいな話になったら、きっと盛り上がるんじゃないかと思う。そういえば『3月のライオン』が実写映画化されるんですって?見たいような、見たくないような・・・・。

○たまたま今朝の日経新聞「交友抄」で阿久津主税八段が、「将棋界には競馬好きが多い」「競馬界にも将棋好きが多い」という話を書いている。やっぱりそうなのか。プレイヤー同士が通じるくらいなら、ファンに通じるものがあるのも当然であろう。

○さて、この2つの競技、どこがどう親和性が高いのか。いろいろと考えてみた。


(1)「読み」と「勘」が問われるゲームである。が、実戦においては「読み」も「勘」も得てして外れてしまう。

――まあ、どちらのファンも「熱中力」にかけて人後に落ちない、ということは間違いないですな。要はオタク、ってことですけど。

(2)勝ち負けがデジタルに決まる。勝ったときのうれしさ、負けた時の悔しさは尋常ならざるものがある。

――日曜午前のNHK将棋トーナメントは、正午までには確実に結果が出る。勝ち馬投票券は、数分後には配当か紙くずに化ける。現実の社会では滅多にないような潔さである。特に、負けた時の悔しさに耐えられるような「マゾ気質」がないと、この趣味は続けられません。え?阪神タイガース?今日は何があったんでしたっけねえ?

(3)将棋ファンも競馬ファンも、「昔の勝負(レース)」を語るのが大好きである。

――「5七銀」といえば中原名人の絶妙手であるし、「1998年秋の天皇賞」といえばサイレンススズカである。そもそも記憶力には自信がある、というタイプが少なくない。

(4)「棋譜」と「馬柱」を読んでいると飽きない。

――門外漢の方には「なんじゃそれ?」でしょうけれども、いずれも小さなスペースに大きな世界が詰め込まれております。

(5)女性ファンが少ない。

――もっと増えてほしいです。競馬場だって、一人で来ている女性は少ないですからねえ。


○たぶん当溜池通信をご愛読の方々にも、将棋ファンと競馬ファンが結構な比率で居らっしゃるんじゃないかと思います。この2つの趣味は、年をとればとるほど面白くなるんですよねえ。ご同輩。


<10月12日>(月)

○来週18日日曜の観艦式の予行演習を見るべく、とっても早起きして横須賀へ。それにしても、連休、午前5時の柏駅にはなぜこんなに人がいるのか。

○2時間半かけて横須賀に到着。JRの駅のトイレでジム・アワーさんとバッタリ遭遇。「え?これから行くの?じゃ、また会おうね〜」とお互いに確認するも、あまりにも人が多くて、二度とは出会えないのであった。

○一昨年は朝霞駐屯地で観閲式、去年は百里基地で航空観閲式を見ているので、今年は観艦式の番である。が、ご招待は来なかったのである。ところが拾う神あり。防衛大学校の神谷先生が、「チケットが2枚あるんですけど・・・」と子の予行演習に誘っていただいたのである。やっほー。

○ワシらが乗る船は観閲艦のくらまである。観閲艦には総理大臣が乗り込むので、ヘリコプターが着艦できる必要があるからなのだろう。もちろん、今日は予行演習なので、くらまに乗っているのは想定海幕長、想定防衛大臣などである。そして午前11時ちょうどに、想定総理大臣がヘリで到着する。

○観閲部隊は先頭に立つのが先導艦むらさめである。続いてわれわれが乗っている観閲艦くらま、随伴艦のうらが、てんりゅう、しらゆき、ちはや、ちょうかいが縦一線になって進む。少し離れて観閲付属部隊も並んでいて、こちらはあすか、あぶくま、とね、くろべ、こんごう、きりしまと並ぶ。わが国海上自衛隊が誇るイージス艦隊がなぜこんなところに来ているのか。北朝鮮のミサイル発射はないと完全に見きっているのだろうか。

○これに対し、観閲を受ける側の受閲艦艇部隊は、戦闘が旗艦あたご、第1群しまかぜ、おおなみ、第2群、きりさめ、さみだれ。そして第3群にはひときわめだつ巨体のヘリ空母いずもが居る。さらに第4群はずいりゅう、こくりゅう、うずしお、第5群にぶんご、つしま、はつじょう、ひらしま、たかしま、みやじまが行く、第6群はましゅう、おおすみ、第7群はおおたか、くまたか、しらたかなどである。本番になると、これに豪州、フランス、インド、韓国、アメリカという招待国海軍が続く。いやはや壮観である。

○正午になると、相模湾沖でこの2つの艦隊がすれ違う。観閲のプロセスはわずか26分。その後は、「祝砲発射」「戦術運動」「潜水艦の潜航と浮上」といったイベントが続く。最後は航空自衛隊のブルーインパルスが登場する。いやはや、立派な姿であります。

○今日は好天に恵まれ、個人的にもすっかり日焼けして、充実の一日でありました。帰りは「横須賀カレーパン」を買って帰りましたぞ。しかし横須賀は遠い。連休最終日は大消耗でありました。


<10月13日>(火)

○毎週火曜日の朝は「くにまるジャパン」のレギュラーなんですが、その日に何を話すかは、いつも当日の朝になってから決めています。できれば前日までに2つ候補があって、「どっちにしようかな〜」と迷っているくらいの時がちょうどよろしい。その日の朝のニュースとか、天候とか気分とかを勘案して決める、というのが吉例であります。

○で、今朝も二択問題でありました。昨日行ったばかりの「観艦式の予行演習」か、それとも10月1日に行った「スーパーカミオカンデ」か。前者は大勢の人が参加していたけれども、後者はそうそう現物を見た人は居ない、ということで、後者を選択しました。ちなみに先週の火曜日は「TPP合意」の話をしたんですが、その日の夜になって「梶田先生、ノーベル物理学賞を受賞」という報道がありましたから、ニュースとしてはちょっと古くなったんですよね。でも、「ノーベル賞発表の5日前にSuper-Kを訪れていた」というのは、われながら強運以外の何物でもないと思いますので、こっちで正解だと思います。

○ついでに言えば、梶田先生は「東京大学宇宙線研究所長」であり、この研究所があるのは東大の柏の葉キャンパスなんですよね。だから今現在、柏駅東口のそこうには「祝ノーベル賞」という垂れ幕がかかっています。なおかつ、先週お目にかかった森雅志・富山市長は、「先生のご自宅が富山市内にある!」と喜んでおられましたし。富山市と柏市の両方にご縁がある、ということですから、ワシ的にはほっとけないではありませんか。

○ちなみに今日の北日本新聞には、こんな風に書かれています。


 ノーベル物理学賞を受賞する梶田隆章・東京大宇宙線研究所長が13日、出張先のスペイン領・カナリア諸島から帰国して羽田空港で取材に応じ、「だいぶ落ち着き、素直にうれしく思う。皆さんからおめでとうと言っていただき、本当にありがたく思う」と述べた。

(中略)

 梶田さんは16日に富山市の自宅に帰る予定といい「家を富山に持ったのは、スーパーカミオカンデの研究の初期の段階で一番忙しい頃。腰を据えて研究に専念できたのはすごくよかった」と振り返った。


○梶田先生が柏市の職場と富山市のご自宅を行き来するときは、新幹線なんでしょうか、それとも飛行機なんでしょうか。岐阜県飛騨市に通うには富山空港が近くて便利なんですが、柏市に行くには北陸新幹線の上野乗り換えが便利です(もちろん大宮乗り換えも可能)。まあ、余計なお世話ではありますけど。

○ちなみに来週火曜日の「くにまるジャパン」は、ちょうど北海道苫小牧市で「日本ニュージーランド経済人会議」がありますので、久しぶりにお休みをいたします。代打ちはぐっちーさんに頼んでしまいました(なんと安直な・・・)。問題は、苫小牧で話す準備が全然できていないことであります。まあね、TPPが最終的にどうなるかが分かっていなかったから、中途半端に準備ができなかったという言い訳はあるのですけれども・・・。


<10月14日>(水)

○今日のお昼に埼玉新聞社さんの政経懇話会に出かけたのですが、新橋駅から大宮駅までは「上野ー東京ライン」の一本で行けて、まことに便利なのである。呆れたことに、新幹線と速さが変わらない。これは上野―大宮間を、新幹線が手加減して走っているからだけですけどね。群馬県、栃木県、茨城県の3県から、首都圏を通過して神奈川県方向に向かう場合、途中乗り換えなしで行けてしまうのは大変ありがたい。最初のうちは慣れなかったけど、常磐線沿線の住民として、最近はこのダイヤ改正の効果を享受しています。特に品川駅経由で羽田空港に向かう、なんてのは楽になりましたな。

○実際に上野駅と東京駅の間の部分は、もともと線路の隙間があまり残っていなかったので、上野ー東京ラインの一部は新幹線の上を走っている。これはその昔、新幹線を作った時の人たちが、「この上の部分はどうせ使わないのだけど、将来のために強度を高めておこう」と配慮してくれたお蔭なんだそうだ。こういう話を聞くと、鉄道、電気、通信といったインフラ産業は、しみじみ息の長いビジネスであることを思い知らされます。

○こんな風に、既存のインフラに後から知恵を加えることによって効率性を高めるという手法は、成長戦略の手段としても有効なんじゃないかと思います。1時間かけて移動していたところを、40分で動けるようにする。あるいは乗り換えなしで行けるようにする。いかにも日本的な手法と言えますが、「インフラをスマートにする」ことは今後の有望な改善可能性となり得るのではないか。

○それというのも、中央公論新社から『インフラストック効果』という本が出ているのです。これは国土交通省の若手官僚たちの研究会の産物なんですが、なかなか面白いのであります。本書によれば、今年3月、首都高中央環状線の大井―大橋間が開通した。その結果、首都高は画期的に混まなくなった。クルマの台数が5%減っただけだけど、渋滞が5割減った。それだけ高速道路の利便性が向上し、経済が効率化されたことになる。実際に杉並区に住んでいる人に聴いてみたところ、「羽田空港に行くときに、電車で行くのと新宿からリムジンバスで行くのの速度が同じになった」とのこと。だったら乗り換えのないバスの方がいいですわなあ。

○上野ー東京ラインでも首都高速でもいいですけど、「インフラのスマート化」というのは、今後の日本経済の課題として面白いんじゃないかと思います。スマート化というのは、なにもITに限ったことではありません。大きな予算をかけることなく、知恵を使ってインフラの効率を上げていく。結果として日本経済にプラスの効果を与えることができる。

○例えば圏央道の料金を思い切り下げて、首都高よりも安くしてしまったらどうか。そうしたら、名古屋方面から仙台方面に向かうトラックはそっちに流れて、首都高はさらに混雑が減るでしょう。ところが高速道路の料金は、新しいものは高くて古いものは安いことになっている。だから首都高は安くて、圏央道は高くなる。それをエイヤッと変えてみたら、「スマート化」ができるのではないか。いかにも日本的な「カイゼン」手法ですが、もっと試してみたらいいと思います。なにしろカネのない時代を迎えておるのですから、あとは知恵を出すしかないのであります。


<10月16日>(金)

○チャイナウォッチングを3題。

○その1。以前にも当欄で書いた話ですが、先月の米中首脳会談の懸案になったのが「キツネ狩り」。容疑者・令完成の引き渡しが行われるかどうかが注目されましたが、どうやらアメリカ側は中国側の要望を一蹴した模様。これでは習近平も面目は丸つぶれで、今後の米中関係や中国国内事情に響きそうです。

○この令家の一族は山西省の出身です。もともとは少数民族で、「令狐」という独特の苗字だったんだそうです。そこでお父さんの代に、普通の漢族らしく「令」という一字名前に替えたんだとか。つまり名前の一部に「キツネ」が隠れていたのですね。「虎もハエも叩く」「キツネ狩りをする」という場合の「狐」とは、実は令家の一族のことを指していたのかもしれません。

○ところがですな、令家を一網打尽にしようとして、令「計画」はちゃんと捕まえたが、弟の令「完成」を逃したとあっては、画竜点睛を欠くこと甚だし。中国共産党のキツネ狩りは、「計画は良かったんですけど、完成してないんです」・・・・って、誰がそんな上手いこと言えと言ったんだ! 

○その2。10月中に行われるはずだった五中全会は、どうやら10月26日から北京で開催されるとのこと。五中全会では、「2016年から始まる次期五か年計画の策定」「国有企業改革」「汚職追放で空席となっている政治局員の補充」といった大問題が控えている。特に五か年計画は重要で、「自前の五か年計画を建てて初めて総書記は一人前」なんだそうで、それまでは「前の書記長の路線を引き継いでいる」ことになる。中国が年末のCOP21で、CO2削減策を打ち出すということになっているのも、この五中全会がひとつの壁だったのでありましょう。

○ところがこの重要なタイミングに、習近平総書記は訪英しているんですねえ。原子力発電所建設の契約があるとはいえ、あるいはAIIBへの英国参加に対する御礼があるとはいえ、いったい目的は何なのか。何かサプライズが飛び出すかもしれません。中英関係、ちょっと怪しげに見えてしまいます。

○その3。最近の中国経済減速の理由は何なのか。10月19日には、7-9月期のGDP速報値が発表されますので、そこでどういう数字が出るのか。7%を下回るのか、その場合はどれくらいまで落ちるのか、とっても気になりますねえ。

○今の中国経済の変調は、ワシ的には「製造業中心の経済成長が限界に達した」ことだと解釈しております。製造業というのは、資本投下と労働力投入があれば、ちゃんと生産は増えるわけでして、だからこそ「GDPの4割が投資」という奇妙な経済が成立した。でも、それを続けていくと、至る所で採算割れが発生してしまう。下手をすると、そこらじゅうが不良債権の塊になってしまいます。

○中国のエコノミストの間には、「これからの中国経済は第三次産業です!」と力強く宣言する人が多いようです。そうだよね、流通業がうまく行っているようなら、こんなに大勢、日本にやって来て買い物するはずがないよね。中国経済の構造転換は、果たしてどんな形で進んでいくのでしょう・・・?


<10月17日>(土)

○そういえば来月はこんなイベントもあるのだった。


●お金のEXPO https://moneyforward.com/event/mf-expo/ 

2015/11/22 Sun.(いい夫婦の日)
09:30-19:30 品川インターシティホール


○うーん、それにしても「竹中平蔵さんにぐっちーさんに不肖かんべえ」、というラインナップは何事であろうか。有料のイベントではありますが、よろしければ覗いてみてくださいまし。


<10月18日>(日)

○実は今日から苫小牧市にて「第42回日本ニュージーランド経済人会議」が始まっている。明日はワシの出番があるものだから、この週末はにわか準備で忙しい。

○まあ、でもTPPが合意してくれたんで、暗い会合にはならなくて済みそうだ。なおかつ、今朝早朝には、オールブラックスが因縁の相手であるフランスを破り、無事にベストフォーに駒を進めた。次の対戦相手は南アであるが、まあ、日本が勝った相手であるから、これも勝てますよ、てなことはきっと誰かが言うだろうなあ。

○それはそれとして、苫小牧に行くに当たって、ふと思い出すのがこれである。


しぼったばかりの夕日の赤が
水平線からもれている
苫小牧発・仙台行きフェリー
あのじいさんときたら
わざわざ見送ってくれたよ


○たまには吉田拓郎も良いですなあ。ワシ、この歌のサビの部分が好きである。


みやげにもらったサイコロふたつ
手の中でふれば
また振り出しに戻る旅に
陽が沈んでゆく


○「すってんてん」とか「フーテン暮らし」って言葉が懐かしい感じですな。この歌が流行っていた頃には、こういう言葉にそこまで悲壮感がなかった。今だと「ホームレス」とか「下流老人」になっちゃうものね。いっちょ苫小牧で「落陽」を見てこようかと思っております。

<10月19日>(月)

○ということで、本日は苫小牧に来ております。北海道で国際会議なんだから、なんで札幌じゃないんだろ、と思っておりましたが、こちらに来てみれば一目瞭然。だって新千歳空港からクルマで30分。札幌よりもこっちの方が近いんですもの。

○まして会場はグランドホテルニュー王子であります。お昼から王子サーモンに北寄貝カレーに滝川鴨ラーメンですから。これはもう王子製紙さんの太っ腹に感謝するしかありません。会場は広いし、部屋も立派だし、Wi-Fiはもちろん無料だし、まことに好都合。

○日本ニュージーランド経済人会議は、ここ3年ほど出ておりませんでしたけど、出ているメンバーは思ったほど変わっておりませんでした。もちろん会社によっての新旧交代はあるのですが、私のことを覚えてくれている人が多いのでうれしかったです。考えてみれば、今年で42回目の会議に出るのがこれで17回目なんですから。出席率4割、ってわれながらすごいですよね。

○しばらくサボっていた間に、大きく変化していることもあった。それは資料の配布方法。昔は国際会議のたびに山のような書類を持ち運んだものですが、今ではネットで配布してダウンロードするんです。印刷したい人はどうぞご自由に、という方式です。昨日のお昼になってやっと送った不肖かんべえのプレゼン資料もちゃんとアップされている。うーむ、これは時代の趨勢でありますよね。

○とりあえずはTPP合意ができて良かったね、W杯ではお互いにいい成績で良かったね、という話になります。予選敗退とはいえ、日本は何しろ3勝1敗ですから。あんまり負けた気はしないですよね。オールブラックスは、たぶんこのまま優勝するんじゃないでしょうか。史上初のW杯連覇、それから北半球の大会における初優勝ということになるんじゃないかと思います。

○今日聞いた話ですと、NZでは乳製品の値段が下がっていることが問題になっているとのこと。やっぱり中国での消費量が減っているんでしょうか。こんな風に、南半球から見た世界経済について触れることができるのがこの会議のいいところです。明日も会議は続きます。


<10月20日>(火)

○日本NZ経済人会議の近年の傾向として、技術やイノベーションや教育が議題として取り上げられる機会が増えています。そうなると必然的に、スピーカーは学者や官僚の出番が増えるのでありますが、本来はビジネスマン同士の交流を目的とするものですから、ちょっと消化不良気味になる傾向があります。

○そんな中で、本日窺った話はまことにビックリものでした。NZで新たなサクセスストーリーを打ち立てたのは、誰もが知っている「紳士服のコナカ」さんでした。そりゃま「青山」も「はるやま」もあるわけですから、もとより競争は厳しい世界。しかも「クールビズ」などという習慣も加わって、あんまり先行きは明るくないように見えるのであります。

○ところが同社は「ニュージーランドウール」に商機を見出したのです。湖中謙介社長から伺いましたが、豪州産のウールに比べてNZ産はあきらかに毛が長く、しかも色が白い。「これだっ!」ということで、初めて現物を見たその日のうちに契約を交わし、大々的に「ニュージーランドウール」のスーツを作り出したんだそうです。これが当たった。

○今のコナカは、「ニュージーランドプロジェクト」もやっている。こうなると、「次にNZに行くときはぜひ、コナカのスーツで」という話になりますよね。NZを舞台とするサクセスストーリーとしては、非常に新しいものが登場した感があります。

○こういう話が、「紳士服業界」で起きるというところがまことに面白い。環境エネルギー分野が大事だとか、ロボット技術がどうのこうの、という話はあるんですけど、むしろ古いインダストリーの方が商機は多いのではないですかね。いやはや面白い。

○もうひとつ、これは備忘録として。北海道は今やどこでもインバウンドでにぎわっておりますが、富裕層における必勝パターンは、「洞爺湖のウインザーホテル→登別温泉の滝の家」なんだそうです。うーむ、一度試してみたいものですな。今の季節の北海道は、紅葉がとても美しいですぞ。


<10月21日>(水)

○苫小牧最終日の朝は、せめて海を見なければと思ってタクシーを走らせ、「ぷらっとみなと市場」へ。本日は水曜日につき市場はお休みなんですが、食堂は朝7時から開いていて、今日いちばん早いお客となりました。「カニイクラ丼」を注文。1400円也。せっかく来たんだから、これくらいは思い出づくりということで。後でホテルに帰ってから、朝食券を使ってコーヒーだけいただきましたが。

○市場に近い岸壁では、朝早くから釣りをしている人たちを見かけました。「落陽」に出てくるフェリー乗り場は、この苫小牧市場とは反対側にあります。そっち側には膨大な石油備蓄基地が並んでいます。「苫東」と呼ばれる工業地帯ですね。高度成長期に1万ヘクタールを開発したんだけど、重厚長大産業の需要がぱったり止まってしまったので、一時は米軍基地を持ってきたらどうか、なんてことを言ってた時期もありましたなあ。

「落陽」という歌に描かれているのは、1970年頃に挫折感を抱いて北海道に流れてきた若者が、博打ですってんてんになった地元の「じいさん」と、なぜか一晩意気投合して、生きていくうえで何か大事なことを学習する、というお話です。平均寿命がまだ短かった当時のことですから、「じいさん」はきっと60歳くらいなんでしょうね。無頼派でカッコ良く見えて、たまに面白い昔話を話してくれる。昔はそういう「じいさん」が一杯いましたなあ。

○今の時代の「じいさん」たちは、70歳を超えていても妙に元気だったり、単に人生の逃げ切りを狙っているだけだったりして、若い頃の話を聞いてもあんまり面白くない人が少なくありません。これが80歳以上だと、まだまだ血沸き肉躍る世代がいるんですけどねえ。概して昭和ひとケタから上は面白い。「落陽」に出てくるじいさんも、きっとそういうタイプだったのだと思います。

○ふと思うのですが、「サイコロころがし 有り金なくし」という競技は、あの時代ですと丁半博打ではなくてチンチロリンでしょう。戦前は丁半が主流だったけれども、いかさまが多いので戦後はすたれて、どんぶりにサイコロを落とすというスタイルのチンチロリンが流行った。胴も回り持ちで民主的になった、という話は『麻雀放浪記』の冒頭部分に登場する。チンチロリンのルールを知ってる人って、今はどれくらい残っていますかねえ。

○そうだとしたら、じいさんが渡してくれたサイコロは2個ではなく3個でなければならない。なぜ2個だったのか。などと考えると、物語の奥行きがまた広がります。作詞家の岡本まさみという人は、同じ吉田拓郎作曲で「襟裳岬」も作っていますけど、あの当時の北海道の海はいろんな物語を生み出してくれたみたいです。

○などと言いつつ、昼過ぎには会社に戻って真面目に仕事に精を出しておりました。これも「ふりだしに戻る旅」ですかね。


<10月22日>(木)

○一昨日発表になった朝日新聞の世論調査(10/17-18)にちょっと驚きました。内閣支持率が上がった、不支持を逆転した、くらいは想定の範囲内なんですが、TPPに関する部分がちょっと驚いた。


◆日本やアメリカなど12カ国の間で、貿易など経済の自由化を進めるTPP、環太平洋経済連携協定について、うかがいます。日本がTPPに参加することに、賛成ですか。反対ですか。

 賛成 58  反対 21

◆TPPに参加することは、日本の経済にとって、どんな影響があると思いますか。(択一)

 とてもよい影響  6

 ややよい影響  54

 やや悪い影響  24

 とても悪い影響  5

◆TPPへの参加で、日本の農業がどの程度、打撃を受けると思いますか。(択一)

 大いに打撃を受ける   19

 ある程度打撃を受ける  58

 あまり打撃を受けない   16

 まったく打撃を受けない   1


○TPPって、こんなに支持が高いんですよ。変な批判をいっぱい受けた往時(2010年から12年ごろ)がまるで夢のようであります。

○もっとも北海道では、「ドーシン」さんを読んでも、地元ラジオ局から聞こえてくるニュースでも、「TPPへの不安」が色濃く出ていましたね。そういう意味では、地域差は相当にあるのかもしれません。


<10月23日>(金)

○今週はいっぱい仕事をしたんで、充実してたー、と思う一方で、来週も重要日程満載で、大変なことになりそうであります。


10月26日(月) 中国で五中全会始まる(〜29日まで)。

10月27-28日 米FOMC

10月29日(木) 日本の鉱工業生産が発表

10月29日(木) 米下院議長選挙

10月30日(金) 日銀の金融政策決定会合

11月1日(日) ソウルで日中韓首脳会談


○まずは五中全会から。ここでは@次期五か年計画(2016〜)を策定する、A汚職追放でパージされた政治局員の空きを埋める、B国有企業などの構造改革、といった重要課題が控えております。そんな状態であるにもかかわらず、今週の習近平総書記は訪英にうつつを抜かしていたわけでありまして、そんなんでこの難局を乗り切れるのか、ホントのGDPはいったい何%だよ、という疑問があります。賭けてもいいですが、11月1日にあるとかいう日中韓首脳会談のことなど、どうだっていいと思っているでしょう。

○アメリカの10月FOMCは、おそらく何事もなく過ぎるでしょう。それというのも、債務上限問題の期限が11月3日(と、少なくともルー財務長官は言っている。ホントはもっとのり代があることは想像に難くない)に控えているので、ここで利上げなど最初からできるわけがないのです。そこで重要になってくるのが、10月29日に行われる下院議長選挙でありまして、ここでポール・ライアン下院議員がちゃんと選ばれてくれないと、翌週にかけての綱渡りができなくなる恐れがあります。

○10月30日の日銀金融政策決定会合は、追加緩和のあるなしは確率半々だと思います。ぶっちゃけて言ってしまうと、前日に発表される鉱工業生産が鍵を握っていると思います。ここで「前月比マイナス」ということになるようだと、いよいよ7-9月期GDPが前期比マイナスになってしまうので、「何もしないリスク>何かをするリスク」となるわけです。ちなみに経済産業省の予想値は、9月は+0.1%となっていて、いつも下の方に外れるというバイアスを勘案すると、マイナスになる確率は極めて高いと思います。

○ということで、来週は不透明性がとっても高い一週間。当方としましては、無責任にワクワクしちゃったりして。


<10月25日>(日)

○今週は金融政策が焦点、ということなんですが、差し当たって今週のFOMCでの利上げを予想する人はほぼ絶滅したことと思います。明日のモーサテ・サーベイがどんなことになってるか、楽しみであります。やっぱり利上げは、年明け後じゃないですかねえ。

○ここへ来て米国経済の指標が悪化している。そりゃあ、当ったり前の話でありまして、あれだけ中国経済が減速しているのに、中国への依存度を高めている米国企業が無事でいられるはずがない。間接的にじわじわ来ますよね。「米国経済の独り勝ち」というわけにはいきません。

○典型的なのアップル社であります。あそこはモノづくりを完全に中国にゆだねている。自分たちは脳の役割に専念して、手足は中国というわけ。その手足が麻痺し始めたけど、脳だけは大丈夫というわけにはいかんでしょう。米国経済の行方は中国次第。米国の金融政策が、国内だけで決められるという時代は終わったのだと思います。

○ちなみに先月からiPhone6が発売されたことで、夏ぐらいから日中台間のハイテク関連貿易が活性化しているのだそうです。ところが米国にはまったく影響がない。そりゃそうだよね、スマホの部品なんて作ってませんから。利益が転がり込むからそれでいい、というのが米国の発想。

○でも、それって健康的じゃないと思うんですよね。やっぱり適度に手足を動かした方が、脳もボケないですむというものです。せめて日本経済くらいは、「口ばっかり達者で、手足を動かすことを惜しむ人は軽蔑される」という健全さを維持したいものだと思います。


<10月26日>(月)

○本日発売の「週刊東洋経済」からメモ。(アベノミクス第2ステージの全貌、P84-85 )

●本田氏や山本氏らのようなリフレ派はアベノミクス第2ステージの策定作業から除外されていたようだ。

●「中国リスク拡大で急速に円高が進むなら話は別だが、為替水準は今がもっとも心地よい。これ以上の金融緩和は望まない」との声が官邸筋から聞こえてくる。

●従来のアベノミクスでリフレ派と並ぶブレーン役だった経済産業省は、第2ステージでも中核に居続けている。

●名目GDP600兆円の目標が喧伝されるが、これはもともと安倍政権が目標としていた名目GDP成長率3%の言い換えに過ぎない。

○うーむ、そうなんですか。そうだと考えると、いろんなことの辻褄が合ってきます。で、官邸の考え方がこんな感じだとすると、10月30日に日銀が追加緩和する理由は乏しいですねえ。


<10月27日>(火)

○お昼は担担麺デート。ということで、本日は飯田香織さんのブログに登場しました。

○「よかろう」というのは昔の飯野ビル時代からの名門です。霞ヶ関界隈ではファンが多いです。担担麺ではなく、「だんだんめん」と呼んであげてください。本日はとんかつが乗っかった「ぱいこうだんだんめん」をいただきました。塩分控えろ、とは言われておるのですが、まあ「ラーメン二郎」に比べれば罪は軽いということにしておこう。

○担担麺としては、個人的には虎ノ門交差点近くの「瀬佐味亭」の方が評価高いです。それからちょっとお値段が張りますが、赤坂「WAKIYA」のが懐かしい。もっとも、飯田さんのブログには膨大な種類の担担麺が登場します。狭いように見えて、とてつもなく奥行きのあるジャンルなんですよねえ。

○それはさておき、飯田さんのサイトは我々が会えないような人たちを紹介してくれて、なおかつメモも小まめにとってくれていて、非常にためになります。写真が多いのもありがたいですね。当サイトは字ばっかりで恐縮であります。


<10月28日>(水)

○重大決定が迫ると、得てしてこんな落首が飛びこんできたりする。


●待てと太郎、待たぬと東彦、あべこうべ


――「あべこうべ」とは「安倍首」ということですね。わかります。


●意地と意地とがぶつかり合って、みそかの結論維持となり


――「みそか」とは「30日」のことなんですね。明後日ですなあ。


○関係者ご一同様におかれましては、まことにお疲れ様でござりまする。


<10月29日>(木)

○今日は今井澂先生とランチ。とてもお久しぶりです。80歳になられたそうですが、ホントに変わらない。「歯が丈夫」なんだそうです。秘訣を聞いたら「塩で磨くこと」だそうです。今度真似してみましょうかね。

○いろいろ情報交換した後で、「おすすめの映画はなんですか?」と尋ねてみました。「ううん、そういえば、最近はないなあ・・・」としばし考えられた後で、「アデライン 100年目の恋」を挙げられました。「日比谷シャンテでやっていたよ」とのこと。いや、畏れ入りましてござりまする。


<10月30日>(金)

○十年一昔と申します。今を去ること10年前、「姉歯事件」というものがありました。格安マンションを作るための構造計算書の偽装が発覚したことで、2007年6月に建築基準法改正が行われました。第3者機関による構造審査が義務づけられたり、建築確認の審査期間も延長されたりしました。その翌月からは、住宅着工件数が大幅に落ち込んでしまいました。それも奈落の底に落ちるような減り方でありまして、長年エコノミストをやっておりましても、これだけ急激な変化のグラフは滅多に見たことがない、という種類のものでした。

○どこかにそのグラフの残骸が残っていないかと思って探してみたところ、あった、ありました。平成19年10月の月例経済報告の中の7ページ目「住宅の動向」をご覧あれ。規制を強化したら、民間の企業活動が一気に萎縮した。これを見た時は、「なんという馬鹿なことをやったものか・・・」と思って絶句したものであります。

○時は流れて、最近は姉歯事件の再現のような事件が起きております。人呼んで「傾斜マンション」。今回の横浜のマンションは、2007年12月に完工しているのだそうです。タイミングから考えると、同年6月の法改正直前の「駆け込み」で杭打ち工事が行われた公算が高い。「もうすぐ厳しくなるから、今のうちにやっておけ!」ということですね。

○今後、中古マンション市場では「2006〜07年に建てられた物件は怪しい」ということになるかもしれません。その一方で、おそらく今回の事件を機にまたまた建築規制は強化されることでしょう。そうなると、再び法改正の直前に手抜き工事が駆け込みで行われるのではないでしょうか。なんとも不毛ないたちごっこ、であります。

○話は代わって、これは昨晩書いた記事。「アベノミクス2.0」の真意について触れております。ついでに「10月30日の追加緩和はないよ」とも。とりあえず本日はその通りになってホッとしております。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki