●かんべえの不規則発言



2023年12月






<12月1日>(金)

〇本日は2023年の新語・流行語大賞が発表されました。大賞は予想通り「アレ」でありました。そらそうよ。「アレのアレ」まで達成して日本一ですからね。阪神タイガースは。

〇この大賞、いつも野球が上に来るんですよねえ。去年が「村神様」、一昨年が「リアル二刀流/ショータイム」ですから。それにしても岡田監督、すっかり「今年の人」ですね。あーん。変に若ぶったりしないで、「昭和のまんま」で振舞っている様子がワシ的には好感度大です。そらもうアレよ。

〇こうなると今度は、12月12日発表の「今年の漢字」が気になるところです。やっぱり物価高に関連して、「騰」とか「耐」とかでしょうか。

〇この辺の話が出るようになると、いよいよ師走で今年も残り少ないですよね。2023年は残り1か月。「いい年だった」と言えるようにしたいものです。


<12月2日>(土)

〇上海馬券王先生お勧めの北野武作品 『首 Kubi』を見てまいりました。いやー、なかなかに痛烈な映画でありましたな。

〇NHK大河ドラマが、ホームドラマみたいに大甘になっている昨今においては、こんな風にあられもないドラマは、いっそすがすがしいものを感じます。どう考えても、こっちの方が史実には近そうですものね。人の命の値段がとっても安かった戦国時代、簡単に生首が飛んでしまう。いやもう飛びます、飛びます。

〇たぶん誰もが同じ感想でしょうけれども、とにかく加瀬亮が演じる信長が凄過ぎ。「第六天魔王」の名に恥じません。あたしゃ北野作品をほとんど見てなくて、「アウトレイジ」も知らないんですけれども、とにかく途方もない役者さんですね。お父さんの豊さんのことは、昔からよく存じているのですが。

〇お話しは「本能寺の変」の謎解きという趣向です。この問題について、不肖かんべえは一通りの知識はありますが、「なるほど、この手があったか!」と感心いたしました。カギを握るのは荒木村重でありまして、確かに彼は落城後も生き延びている。その後は毛利家に匿われ、後に堺で茶人となっている。そして本能寺の変の4年後に死亡。

〇これは以前からの持論ですが、光秀の裏切りを秀吉と官兵衛の二人はある程度は予想していたのではないかと思います。でないとその後の「中国大返し」が、あまりにもファインプレーに過ぎるから。この映画の中では、羽柴秀長を加えた3人がそういう陰謀を楽しんでおられます。

〇ビートたけし演じる秀吉が、「無能な人」という設定になっているので仕方ないのですが、高松城水攻めが官兵衛の献策であるというのはちょっと無理があると思います。あれは土木工事の天才、秀吉が自分で考案したことでしょう。官兵衛さんも築城は得意としてましたが。そもそもあんなにカネのかかる軍事作戦は、トップでなければ決断できませんので。

〇ともあれ、あの時代のことを描いたドラマとなれば、見過ごすことはできません。うーん、それにしてもワシは北野作品をほとんど見ておらんのだなあ。


<12月3日>(日)

〇本日はとっても久しぶりに国立市へ。一橋大学の感謝の集いというのがありまして。この季節の国立市は紅葉がとてもきれいです。この景色は40年前と変わっていないはずなのだが、さて、あのときもこんな風だったのだろうか。

〇ワシは一応「基金功労者」ということになっていて、呼ばれていくと「ご褒美」がついている。それは自分が書いた卒業論文と再会できる、というもので、これは上手い企画だよね。恥ずかしいに決まっているのだけれども、何しろ卒業からは40年もたっている。死ぬ前に一度見ておきたい。いっときの恥の感情などは、押し殺すべきである。

〇ということで、再会を果たしてきたのであります。いやー、予想通り酷いものでありました。いちおう今ではワシは売文業者の端くれなのだが、大学時代にこんなことを書いていたとは。テーマは面白いけれども、リサーチは全然甘いし、そもそもまるで論文になっていない。

〇ただし原稿用紙に肉筆で書かれた文字は、確かに自分が書いた字なのであるが、今では信じられないくらいにきれいで読みやすい。これ、確か万年筆で清書したんだよなあ。今じゃ字は汚くなってしまって、とてもこんな風には書けません。

〇40年前はそんな感じでした。ワープロなんてなかったし、コピーを取るときは青焼きでした。1984年に会社に入ったら、勝手にコピー機を使えることに感動したくらいです。社内文書も手書きが多かったから、字がきれいであることは財産だったんですよね。今ではすっかり忘れられている文化でありますが。

〇さて、明日は早起きしてモーサテに登場します。


<12月4日>(月)

〇今朝はモーサテへ。「悲惨指数」のネタをご紹介。アメリカの歴代大統領の表もさることながら、日本のそれも結構衝撃的なグラフになりますね。

〇本日、ご一緒したゲストはバークレイズ証券の門田さん。アメリカの利上げは、過去には「ゆっくり上げて、慌てて下げる」パターンだったけれども、それは景気重視だったから。今はインフレ重視になっているので、「慌てて上げて、ゆっくり下げる」パターンになるだろう、とのこと。なるほど。

〇来年のアメリカで、市場がトータル「1%分」の利下げ(0.25%×4回)を見込んでいるのは、ちょっと欲張り過ぎでありましょう。最初が6月か7月、その上で秋にもう1回。トータル2回。その辺が妥当な読みじゃないでしょうか。

〇その上で、日本は4月にマイナス金利を解除するだろう。あとは様子見の1年。ゼロ金利解除はもうちょっと先になる。となれば、日米金利差はすこーしだけ接近するので、少しだけ円高に修正というのが、来年のメインの読み筋になるわけです。とはいえ、そういうのって当たらないのだよなあ。

〇たまたま今宵はエコノミスト同士の会合で、「1年前に予想した為替」の答え合わせをしたところ、現状の150円前後の円安を予想していた人はほとんどいなかった。まあ、そんなもんですわなあ。皆さん「こんな円安では海外に行けない!」と大不平大会でありましたから。

〇他方、インバウンドの消費が今の日本経済を支えているのも事実なので、円安さまさまという面もある。なんとも悩ましい年の瀬の日本経済。それでもこんな風に、気の合う仲間が気軽に集まれるようになったのは、まことにありがたきことかな。


<12月5日>(火)

〇本日は常陽銀行さんの講演会でつくば市へ。

〇会場はつくば国際会議場である。年季の入った建物ではあるけれども、講師控室の隣では英語のセミナーが行われていたりするのが、「さすがはつくば市」である。県内では"Mito"よりも"Ibaraki"よりも、"Tsukuba"の方が国際的な知名度は高いと言われている。まあ、そうでしょうな。

〇それは元をたどれば、1985年の「つくば科学万博」のお陰だというから、ますますビックリである。それって阪神タイガースが前回優勝した時のことだから、もう38年の前のことじゃありませんか。とはいうものの、一度行った場所のことは人は忘れないものである。ましてそこでビックリ体験をしたときには。

〇はてさて、2025年に行われる大阪・関西万博は、後世にどんなものを残せるだろうか。ワシ的には大阪・関西はけっして捨てたものではないと思う。ただし最近は自信喪失気味であることで、それはちょっとよろしからぬかなあ、と感じることがときどきあります。


<12月6日>(水)

〇11月末から年末にかけて、来年の予測を作るのはほとんどルーティーンのような世界である。データを集め、各方面と意見交換をし、「今年のヒット商品」や「新語・流行語大賞」や「今年の漢字」をチェックする。これが楽しい作業なのでありますよ。

〇当「溜池通信」においては、経済はもとより国際情勢に加え、永田町政治の滑った転んだみたいなことまで全部フォローしようとするので、これがまた楽しいのである。本日もまた、一杯ネタを仕込んでしまったのである。まあ、おいおい小出しにしてまいりますが。

〇こんな例年の作業を、面白がってくれる読者もそこそこいらっしゃるようなので、明日以降も情報収集、ネタ拾いに精が出るのであります。あ、そうそう、明日はラジオ日経の「ザ・マネー」に出没いたします。午後2時半から4時まででござりまする。


<12月7日>(木)

〇この季節恒例、日本貿易会の貿易動向見通しが本日発表されました。貿易会のホームページには明日には掲載されると思います。



1.商品別貿易の見通し(通関ベース)

● 2023年度 〜 輸出は過去最高を更新、輸入は資源価格の低下により大幅に縮小、貿易赤字は継続

輸出総額は 2022 年度比 1.9%増の 101 兆 1,490 億円となり、初めて 100 兆円を超え、過去最高額となる。内
訳は、輸出数量が同0.6%減少、輸出価格が同2.5%上昇。世界経済の減速により数量は減少するものの、物価
高や円安の効果などにより、幅広い品目で輸出価格が上昇する。
輸入総額は 2022 年度比 11.6%減の 107 兆 1,920 億円。内訳は、輸入数量が同 1.8%減少、輸入価格が同
10.0%低下。鉱物性燃料の数量減や価格下落により大きく減少するものの、2 年連続で 100 兆円超となる。
この結果、通関貿易収支は 6 兆440 億円と 3 年連続の赤字となるものの、赤字幅は大幅に縮小する。

●2024年度 〜 輸出拡大・輸入減少が継続し、資源輸入の減少などにより貿易赤字が一段と縮小

輸出総額は2023年度比2.1%増の103兆3,020億円。内訳は、輸出数量が同1.6%増加、輸出価格が同0.6%
上昇。世界経済が減速する中でも世界貿易は復調する一方、円高により価格の上昇は限定的。
輸入総額は2023年度比1.7%減の105兆3,890億円。内訳は、輸入数量が同1.3%増加、輸入価格が同3.0%
低下。国内景気は減速するものの内需の緩やかな回復が継続することから数量は小幅増。資源価格は小幅に
上昇するものの円高の影響もあり、価格は低下する。
通関貿易収支は 2 兆860 億円の赤字と 4 年連続で赤字が継続するものの、赤字幅は一段と縮小する。

2.経常収支の見通し

●2023年度 〜 貿易赤字が大幅に縮小、第一次所得収支の黒字拡大により、経常収支黒字は大幅増

経常収支黒字は 25 兆 5,530 億円となり、2022 年度の 7 兆 9,950 億円から大幅に拡大する。輸出が増加する
一方で輸入が大きく減少するため、貿易収支の赤字は 2 兆6,820 億円となり、赤字幅が縮小することが主因。外
国人観光客の回復によりインバウンド需要が持ち直していることもあり、サービス収支の赤字が 4 兆 280 億円
と、2022 年度の 5 兆3,620 億円に比べて約1.3 兆円の縮小となる。第一次所得収支は、投資収益の改善や円安
の影響を受けて過去最高の 36 兆1,030 億円となり、2022 年度に比べて約1.4 兆円の上積みとなる。

●2024年度 〜 貿易収支赤字の縮小が継続、経常収支黒字は 2 年連続で過去最高を更新

経常収支は、26 兆9,520 億円の黒字となり、2023 年度に続き、2 年連続で過去最高を更新する見通し。貿易収
支は、1,440 億円の赤字となり、赤字額が一段と縮小することが主因。サービス収支は、インバウンド需要の回
復が一巡することもあり、赤字が 3 兆 9,100 億円と 2023 年度とほぼ同水準となる。第一次所得収支は、世界経
済の減速や円高へのシフトの影響により、34 兆 7,840 億円と前年から約 1.3 兆円の減少となるが、高水準を維
持する。


〇なにしろヘッドラインが「輸出拡大・輸入減少、貿易収支は改善、経常収支黒字は過去最高へ」なんで、景気がよろしいのである。まあ、何しろ輸出と輸入が、23年度も24年度もいずれも100兆円越えですから。

〇かかる名目ベースの伸びは、着実に日本企業を潤すはずである。とはいえ、実質ベースで見るとかならずしも日本経済を潤すとは限らない、というツッコミもあり得るところなので、そこをどう判断するかが難しい。ともあれ、商社の業界団体である日本貿易会としては、「まことに結構な見通しで・・・」ということになる。


<12月8日>(金)

〇パーティー券問題で安倍派が大ピンチとなっている。中でも切羽詰まっているのが松野官房長官で、安倍派5人衆の中でもっとも安全な人だと見られていただけに、事の展開はまことに意外なものであります。

〇仮に官房長官を替えるとなると、これはなかなかに難問です。今の日本政府は首相がCEOだとすれば、官房長官はCOOでありますから。官邸経験がまったくない人や、現閣僚との接点がまったくない誰かを外から連れてきて、それでピタリと当てはまる、ということはなかなか考えにくい。さて、誰だったらいいのだろう。


*加藤勝信氏・・・官房副長官経験者で閣僚経験も豊富だが、茂木幹事長と一緒の派閥でいいのかどうか。

*中谷 元氏・・・元首相補佐官で岸田首相との関係も良いけれども、やや器用さには欠けるか。

*後藤茂之氏・・・前経済再生担当大臣で現閣僚はよく知っているが、日に2回の記者会見でしくじってしまうかも。

*林 芳正氏・・・前外相であり、官房長官としての仕事ぶりを見てみたい気はするが、その場合の宏池会会長ポストはどうなるんだろう。

*齋藤 健氏・・・前法務相であり、リリーフ役としての仕事には定評あり。無派閥というのも「買い」か。


〇安倍派内の混乱は、岸田首相にとってプラスなのかマイナスなのか。年末に向けて、落ち着かない政局が続きそうです。


<12月9日>(土)

〇年の瀬、慌ただしく富山市を訪れて、浮世の義理をいくつか果たす。今日の富山市は、この季節としては信じられないくらい暖かくて、立山連峰がくっきり見える。明日はおそらく天気が崩れて、寒々しい一日になるのではないかと拝察す。この時期の北陸はそういう天候が普通です。

〇なぜかと言うと、「富山に行ってぶりしゃぶを食いたい」という友人が4人ほどいて、「それでしたらご準備いたしましょう」と言ってしまったのである。そうは言っても、お気に召さなかったらどうしよう、とか、ホントにみんな来てくれるのだろうか、いや、それ以前にブリが不漁だったらどうしよう、などと幹事としては考え出すときりがない。ちなみにお呼びしたのは、企業経営者と霞が関幹部とシンクタンク研究員と某ジャーナリストという組み合わせである。

〇それでもこちらの店にご案内したところ、皆さまちゃんとご満足いただけたのでありました。ああ、良かった、ホッとした。ちゃんとよその方をお連れしても、恥ずかしくない街になっているのであります。最近のわが故郷は。それにしても今宵の富山駅界隈は、若い人たちが大勢繰り出していて、ずいぶんと賑わっておりましたなあ。

〇寒ブリは今月と来月が旬であります。なんでも今週は、富山湾にブリが1600本も上がったそうでして、途方もない豊漁です。これはおいしくいただくのが人の道であり、SDGsというものであります。皆さま、北陸新幹線でブリを食べに行くなら今のうちであります。


<12月10日>(日)

〇富山に行っている間も、ちょこまかといろんな原稿を書いていたのですが、先週末に某所に入稿した国内政治がらみの原稿は全面書き直しですわな。まあ、政局入りしているのだから仕方ありません。官房長官の更迭くらいでは済まなくて、内閣改造になるのか、それとも総辞職まで行ってしまうのか。はたまた年明け冒頭解散か。

〇しかも月曜日は新聞休刊日と来ている。メディア関係者の恨み節が聞こえてきそうだが、ここまで来ると何でもありそうです。安倍派5人衆全員に罰点がついてしまうかもしれないし、他の派閥にも飛び火するやもしれず。元はといえば、しんぶん赤旗のスクープ記事であって、朝日新聞も嬉々として「安倍派」を叩いている。

〇安倍派の影響力が弱まるということは、日銀が出口政策に向かいやすくなることを意味するでしょう。さっそく「裏に財務省が居るに違いない」みたいな陰謀論も飛び交ってますけど、財務省がこんなおいしいネタを持っていたとしたら、彼らは安倍政権時代に使ったことでしょう。むしろ旧・統一教会の復讐劇という方が、ありそうな気がするけどなあ。

〇ということで、永田町は寸前暗黒です。ただし岸田さん自身はお元気みたいですね。さすがの鈍感力と言えましょう。ホンネが外に出にくいことが、あの人の最大の強みでありますね。


<12月11日>(月)

〇先日、少し上の世代の先輩とお話ししていたら、こんなご指摘を頂戴した。


「おい、なんで世間では、『物価と賃金の循環』と言っているんだ?」


〇年間2%で物価と賃金が上がるということは、別に好ましいことかどうかは人によるだろう。場合によっては「悪循環」だと受け止める人も居るはずだ。政府や日銀は、なんでそこに「好」という価値判断の文字を入れるのだ?・・・・この方、元NHK勤務だっただけあって、言葉遣いには厳しいのである。

〇ごもっとも、である。確かに企業内部の人間にとっては、名目で年間2%伸びる経済はありがたい。政府だって財政赤字の金利が上がるのは歓迎じゃないけれども、インフレで実質赤字が減るのは歓迎である。しかるに年金生活者の立場からいえば、今まで通り「年間0%」の均衡の方がありがたいかもしれない。だって下手に動かなくていいんだもの。

〇余ったおカネは普通預金に預けておけばそれでよくて、ゼロ金利でもとりあえず目減りはしない。それでオッケーだった世の中が30年くらい続いて、これからはちゃんと金利が復活する世の中だという。でも、金利って何のこと?知らない世代がとっても多くなってしまっているのである。

〇世論調査を行ってみると、「実質金利」の意味を正確に理解できるのは、60代以上の世代に限られるらしい。ワシもそうだが、郵貯やワリコーの金利が8%以上だった時代を記憶している人たちである。ところがバブル崩壊後の世代は、そもそも金利のある経済をイメージできない。住宅ローンだって変動金利で借りている。それがこれからどうなるのか。

〇リスク回避の性向も、あまねく世代に広がっているらしい。まあねえ、「モーサテ見てます」なんて人たちは、この国では絶対的な少数派だしなあ。そのうち新NISAでいい目を見る人たちが出てくると、猛烈なバッシングが始まってしまうのかも。貧しきを憂えず、等しからざるを憂う。それこそ日本社会の悪循環になってしまうのだが。


<12月12日>(火)

〇本日はメインバンクに行って、私有財産の運用方針のご相談。もちろん大きな額ではないですが、とりあえず、昨年のこの時期に始めたドル定期預金は成功でありました。利率は良かったし、為替も抜けたので。さて、2024年の運用方針はいかにあるべきか。

〇ふむふむふむとお話を伺って、やはりシンプル・イズ・ベスト、この戦略で行くのがよさげかなあ〜と考え始めたところで、こんな風に言われて唖然としてしまいました。


「始めるのは来週からでいいと思うんです。今夜は米CPIですし、今週はFOMCもありますし」


〇あああああっ、恥ずかしい。ワシは痩せても枯れてもモーサテのレギュラー・コメンテーターである。CPIもFOMCも日程はちゃんと頭に入っているはずなのに、自分の投資のことになるとてんで結びつかないのである。「紺屋の白袴」というか、「医者の不養生」というか、「大工の掘立小屋」というか。

〇それに引き換え、メインバンクさんは「餅は餅屋」であり、「蛇の道は蛇」なのである。なるほど、金融の世界というのはこんな風になっているものなのか。大変有益なアドバイスをいっぱい頂戴したのであります。

〇新型NISAをどうするかも考えなければならない。ただし経験則から行って、皆が証券会社に殺到するようなときは、年明けの株価は下げるものではないのかなあ。少し時間をおいてから踏み出す方がいいかもしれませぬ。これもまた別途ご相談なのである。


<12月13日>(水)

〇その昔、40年くらい前に『ハウリング』というホラー映画があった。この映画のキャッチフレーズがふるっていて、「5分前は人間だった」といった。

〇このコピー、ホラー映画の本質を言い表しているようなところがある。普通の人が、ある日突然に狼男とかゾンビとかフランケンシュタインに変身してしまうから怖いのである。嫌でしょ?そんなの。しかるに変身してしまったら、もうみんな普通の日々には戻れない。ハイ、怖いですね、コワいですね。

〇政局もまた、先週までは普通だったのです。そりゃあ岸田内閣の支持率は低下していたけど、その気になれば与党は予算や法案が通せたのです。アメリカ議会に比べれば、100倍くらいマシですよね。あっちは何しろ、ゼレンスキー大統領が陳情に来ているのに、ウクライナ支援予算が通せないくらいなんだから(まあ、最終的には通すと思うけど)。

〇ところが怖いことに、化け物が出てしまったのです。世にいう「パーティー券事件」というのは、永田町的には普通に行われていたことであって、それ自体を罪に問おうと思ったらなかなかに大変なのです。なにしろあっちでもこっちでも行われているし、証拠固めも難しいし、それが悪いことだとしてしまったら、さっそく秘書のお給料の支払いが止まってしまう、みたいな悲しい現実もあるのです。

〇ところがですな、最大派閥の元事務総長が、「恐れながら・・・」と資料を持ち込んだと思いねえ。ご本人はもちろん、司法取引の対象となる。東京地検にとっては、文字通り宝の山というわけです。ご本人としては「仲間を売った」ことになるわけですが、これはいわば私怨晴らしの自爆テロ。そんなにあの方が憎かったのか。いや、まあ確かに仲間外れは怖いです。

〇ということで、この事件は確実に何人かは挙げられますな。政策面への影響も甚大です。要するにアベノミクスが詰んでしまった、ってことになるのではないかと。日銀のマイナス金利解除は、てっきり4月だと思っていたけれども、この分だと1月かもしれませんなあ。


<12月15日>(金)

〇今年も例年同様、いろんな形で「来年の予測」を行っているのですが、これがいちばんの労作かもしれません。ユーチューブ映像なんですが、本日公開です。よろしかったら、見てやっておくんなさいまし。


●理事長対談 Vol27 2024年の世界と日本を占う

世界が直面する経済や安全保障のリスクはどうなるか。日本にチャンスはあるか――。2024年の世界と日本を見通すうえで欠かせない7つの論点と向き合い、いま起きている事象を分析し、その先行きを展望しています。

(この対談は2023年12月6日に収録しました)


〇みずほリサーチ&テクノロジーズ社の中尾武彦理事長から、「ランチでも、どう?」と誘われて、喜んでホイホイと出かけて行ったら、やっぱりこの世にフリーランチはなかったのである。「世界を読む・日本を語る」という対談シリーズのお相手を仰せつかってしまいました。どれ、と思ってバックナンバーから、岩間陽子先生の「ヨーロッパの時代は終わったのか」を見てみたら、ものすごい力作ではありませんか。そもそもユーチューブ映像で尺が45分間という時点でかなりぶっ飛んだ企画です。

〇ともあれ、中尾武彦さんとご一緒に、以下の7つの項目を語っております。全体で48分もあります。倍速で見ても、結構かかりますぞ。


1.世界経済の状況

2.地政学リスク

3.アメリカ大統領選挙

4.中国の習近平体制

5.日本経済は買いか

6.国際秩序のゆくえ

7.2024年の世界は明るいか


〇元財務官・元アジア銀行総裁である中尾さんを相手に、溜池通信3本分くらいのネタをまとめてぶつけるという贅沢な企画であります。高度な道楽、といったらバチが当たるでしょうか。

〇しかるに収録した12月6日時点では、その1週間後には「パーティー券裏金問題」で岸田政権が大荒れになるなんて、思ってもみませんでしたがな。ホントにこの先、どうなるのでありましょうや。別途、「永田町を占う」というバージョンも必要かもしれませんな。


<12月16日>(土)

〇本日はこんなことも書いております。うーん、こんな風に言い切っちゃっていいのだろうか、ワシ。


●日銀のマイナス金利解除はズバリ「2024年1月」だ

〜いよいよ文字通り「デフレ経済と決別する年」〜


〇まあ、ホントに日銀が1月に動くのだとしたら、週明けの12月18‐19日のMPMで何か「ヒント」が出るはずなので、それを確認すればいいだけの話である。19日の総裁記者会見は大注目ですな。植田さんから注目発言が飛び出せば、一層の円高が進むかもしれません。

〇こんな風になってみると、黒田東彦氏の「私の履歴書」は、11月のうちにやっておいて正解だった、なんてことになるのかも。もっともマイナス金利をゼロにすることはできるけど、ゼロ金利をプラスにするのはかなり先のことになりそうだ。円高は期間限定、ということになるのかもしれない。難しいところやね。

〇競馬の予想の方は、そんなに自信があるわけではないので(東スポ2歳Sでシュトラウスに単勝取らせてもらったから)、明日の上海馬券王先生の方を信頼される方がよろしいかと存じます。まあ、2歳馬のレースはリトルリーグみたいなものなので、なかなか予想は難しいのですけどね。


<12月17日>(日)

〇夕方から東北新幹線「こまち」に乗って、秋田市に移動する。今年2回目である。夏に来た時とは大違いで、とっても寒いのである。

〇宿泊の秋田キャッスルホテルまでは、駅から徒歩7分というから、大したことないと思って歩き出したら、これがとっても難行苦行なのである。雪はたいしたことないんだけど、風が強いから顔に当たるととっても痛いのだ。うおおおおおお。

〇ということで、なんとかチェックインしたけれども、明日、明後日と秋田さきがけ政経懇話会の講師を務めます。さて、明日はどんな作戦でいこうかなあ。


<12月18日>(月)

〇秋田県大館市を訪れるのはこれが3回目である。最初は内外情勢調査会の仕事で、2004年1月。次が今回と同じ政経懇話会で2011年12月。そして今回と、見事に3回とも雪景色なのである。しかも秋田市からは結構遠い。移動時間中は、雪景色を見続けることとなる。

〇以前に秋田市県南の風力発電所を視察したことがあるけれども、由利本荘市からにかほ市にかけて、海岸が見事に風車が並んでいるのを見て驚いたものである。今日は県北に向かうのだが、男鹿市から能代市にかけての海岸も風車が立っている。もともと秋田は風が強くて、江戸時代から防風林が作られてきたお土地柄である。その風が今日では再エネとなって「食い扶持」に化けるだから不思議なものである。

〇ということで、大館市での講演会終了。そこそこ受けていたんじゃないかという気がする。それにしても、たまには雪景色ではない大館市を訪れてみたいものである。機会あれば、またどうぞお声がけ、よろしくお願いいたします。

〇2時間かけて秋田市に戻るも、雪の中をホテルから出かける気になれず。昔はこんな天気であっても、せっかくの機会だからと川反の歓楽街を隅から隅まで歩いたりしたものだが、この年になったらさすがにそんな元気はないのである。だって寒そうなんだもん。

〇夜になったら当地にて勤務されているMさんと合流。比内地鶏ときりたんぽ鍋、それに地元の高清水を頂戴する。いやいや、寒い季節にはこれがいちばんでありまする。明日も天気予報は雪でありますが、湯沢市に出没いたします。


<12月19日>(火)

〇秋田県は縦長の長方形をしているが、昨日訪れた大館市は右上隅にあり、今日の会場である湯沢市は右下隅にある。そして秋田市は左辺の中央あたりに位置している。果てしない雪景色の中をクルマで移動しているのだが、秋田県はとっても広いのである。

〇ちなみに秋田県湯沢市は、過去に2人の有名人を送り出している。ひとりは小野小町、そしてもう一人は菅義偉である。「なんだ、そのアンバランスさは?」などと言わないでください。片方は半分伝説で、もう片方は現実で、ご実家もちゃんとあるそうです。

〇「湯の沢」というだけあって、地熱には恵まれていて、温泉が多い。以前に訪れた川原毛(かわらげ)地獄という場所は、富山の立山地獄谷にそっくりでありました。それから稲庭うどんで有名な佐藤養助総本店はここにあります。

〇ということで、湯沢市の仕事も完了。そこから大曲駅に行き、帰りの新幹線こまち号に乗車。車中にて本日の日銀、植田総裁の記者会見を聞くのである。もっとも東北新幹線、岩手県内を全速力で走り出したらWiFiがぶつぶつ切れちゃいましたけど。

〇今日聞いた感じだと、何が何でも1月にマイナス金利解除っていう感じではなさそうですね。だったらあの12月7日の「チャレンジング発言」は何だったのか、という気もする。実際に為替はいきなり2円ほど円安にブレました。

〇日銀としては、なるべく選択肢を広げておきたいのでありましょう。やっぱり4月が本命であるけれども、1月の可能性もまだあると見たいです。

〇面白かったのは、「来年、アメリカで利下げがあったら、ゼロ金利解除はやりにくくなるのか?」というテレビ東京・大江麻理子さんの質問に対し、植田さんは形の上ではノーと答えていたけれども、やっぱり気にしている感じでしたね。実際のところ、3月FOMCの利下げがないわけじゃないし。今の日銀にとっては、「待つコスト」がけっして高いわけじゃあないんだけれども、「待つリスク」はそれなりにありますからな。


<12月20日>(水)

〇3日ぶりに都内に帰ってきたら、いろんな人から話しかけられるのである。皆さん、関心事は同じであるようでして。


「有馬記念は何が来ると思いますか?」


〇そんなことはですなあ、最近、好調の上海馬券王先生にお伺いを立てる方がずっといいと思いますぞ。それでも不肖かんべえとしては、牝馬スルーセブンシーズで勝負したいかな〜と考えております。理由は以下の通り。


(1)夏のグランプリ、宝塚記念でイクイノックスにクビ差の2着となった。イクイノックスをそこまで苦しめた現役馬はほかにない。ゆえに彼女が最強である(三段論法)。

(2)秋は凱旋門賞に出走して、勝ち馬と3馬身差の4着と善戦。今年の凱旋門賞は温暖で馬場が荒れず、疲れは残っていないはず。昨年のタイトルホルダーとは大きな違い。

(3)凱旋門賞では58キロの斥量を背負ったこの馬が、次走・有馬では56キロと2キロ減になる。

(4)それに比べて、三歳馬で菊花賞から直行するタスティエーラ(2着)とソールオリエンス(3着)は1キロ減に留まる。

(5)今年の有馬は牝馬が6頭も出走するが、過去10年間で牝馬はクロノジェネシス、リスグラシュー、ジェンティルドンナと3勝もしている。

(6)鞍上は池添謙一騎手。有馬記念では過去に4勝のグランプリレース男。

(7)なおかつ池添騎手は2009年にスルーセブンシーズの父、ドリームジャーニーで有馬記念を制覇。今年は親子制覇が懸かっている。

(8)さらに有馬記念はドリジャの弟オルフェーヴルが2回、ゴールドシップが1回とステイゴールド産駒が過去に4勝している。

(9)中山競馬場ではステゴ産駒を黙って買え。特に芝2500mのような非根幹距離は強いんです。スルーセブンシーズは過去に中山で7走して4勝と大得意。

(10)馬名の意味は「七つの海を越えて行け」。カッコいいじゃないですか。これで枠順が青帽の7番だったらサイコーなんだけどなあ。


〇困ったことに、スルーセブンシーズは妙に人気になっていて、当初は単勝で10倍見当の人気だろうと思っていたら、スターズオンアース、タスティエーラ、ジャスティンパレスに続く4番人気だとか。まあ、それでも日曜日が待ち遠しい今週の中日であります。


<12月21日>(木)

〇本日は今年最後の溜池通信をせっせと書き溜める。明日には出さなきゃいけないので。ところが明日はいろいろ行事が入っていて、いろいろ面倒なのである。明日は令和6年度予算が閣議決定されるので、毎年恒例の財務省、予算説明会もありますし。

〇でもって、朝はニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy Up!」に登場いたします。午前6時半から8時までの予定。それにしても何なんだ、今週のこのラインナップは。


12/18(月)評論家 宮崎哲弥
12/19(火)日本経済新聞コメンテーター 秋田浩之
12/20(水)ジャーナリスト 佐々木俊尚
12/21(木)経済アナリスト ジョセフクラフト
12/22(金)双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦 


〇ミヤテツさんと秋田さんとクラフトさんの後である。まことにやりにくいではないか。

〇しかしよくよく考えてみると、ほかならぬワシが22日の出演を指定されたということは、「明日は有馬記念の話をしろ」ということかもしれない。飯田さん、結構、競馬好きだし。それなら別に準備など不要なのである。とりあえず、明日は寝坊をしないようにせねばなるまいて。


<12月22日>(金)

〇今日も盛りだくさんの一日だったのですが、とりあえず無事に済んだので余は満足である。

〇本日は丸の内ビルでランチをしたら、なんと眼下に巨大な工事現場が見える。あれれれれ。あそこにあったのはどの会社のビルだっけ。興銀の跡地に新しいみずほの本社が出来たのは知っているけれども、果てさて?

〇おお、あれは東京海上の跡地ではあるまいか。あの赤いビルはもうなくなってしまったのか。その昔、丸の内のビルがすべて10階建て止まりだった頃に建てられて、「天皇陛下のお住まいを覗く不埒なビル」として右翼に糾弾されたあのビルが。

〇ビルの建て替えというのは、企業にとっては改革のチャンスです。ワシが知る某社の前社長は、本社ビルの建て替えを機にOBが入ってこれないようにしてしまい、自分が退任した後は外部から招いた社長がバッサバッサと改革するのをニコニコと見守っていて、なおかつ自分に対する事前説明がないのは当然だと割り切っている。従って、その会社で現在進行中の改革は文字通り2代がかりということになる。

〇東京海上も次の社長は33人抜きの抜擢人事だそうですが、会社は是非そんな風でありたいものです。組織が長く生き残っていくためには、ときどき乱暴なことをしなきゃいけない。ビルを建て替えるなんて、安い投資です。


<12月23日>(土)

〇昨日、登場した「飯田浩司のOK!Cozy up!」の放送内容がユーチューブにアップされています。


●2023年12月22日 https://www.youtube.com/watch?v=-_1R4DNJsWQ


〇なんかいろいろ書き起こしがありますね。


「安倍派の機能麻痺」でアベノミクスは終わり、財政再建派が力を増してくる(ヤフーニュース)


専門家が予測する日銀の2024年「マイナス金利解除」のタイミング(ニッポン放送 News online)


ダイハツ不正 「車が不可欠」な地方で新車納車されず(楽天ニュース)


〇まあ、あっという間に消えてしまうでしょうが、とりあえずこんな話をしましたよ、ということで。

〇個人的にいちばん面白かったのが、飯田さん、新行さんと一緒に「黒ひげ危機一髪」をやったところでした。仕込みは何もなしで、ちゃんと5発目で飯田さんが当ててくれたんで、番組スタッフ一同が大歓迎でした。

〇しかもその後に、「黄色で当たりが出たということは、有馬記念はジャスティンパレスか?」などという会話が続くところが、いかにもなのである。ちなみに有馬記念に対する恒例の3人組予測はこちらをご参照


<12月24日>(日)

〇今年は喪中欠礼はがきを多数いただいている。ふと気になって書き出してみたら、以下のような衝撃的なデータができてしまった。


*母、96歳
*母、96歳
*母、94歳
*母、108歳
*父、87歳
*母、94歳
*母、90歳
*父、93歳
*夫、83歳
*父、92歳
*母、92歳
*父、95歳
*母、91歳
*父、93歳
*母、87歳
*父、95歳
*不明


〇17通のうち男性が7人、女性が9人、不明が1人。うち70代以下がゼロ、80代が3人、90代が12人で、平均値を取ると92.875歳。100歳越えがいるのに驚かれるかもしれませんが、実はウチの遠縁でありまして、母方の祖母も100歳まで生きました。

〇上記は(いまどき)年賀状を送り続けている人、というバイアスのあるサンプルに拠るデータなんですが、いかにも日本は長寿の国なのであります。

〇もっともこの中には入っていないのですが、私と同世代で、年の暮れに奥様に先立たれたという哀しい事例もあって、先日、弔電を打ったところです。皆さんが「大往生」なわけではありません。当たり前ですけどね。

〇クリスマス・イブになんちゅう話題かと自分でも思うのですが、時節柄、年賀状をどうしようかと悩んでいる人は少なくないと思いますので、ご紹介いたしました次第であります。


<12月25日>(月)

〇今宵は「松井孝治さんを京都に送り出す会」へ。

〇松井さんが故郷の京都に戻って、来年2月4日の市長選挙に出馬するというので、お別れにお仲間数人でしみじみ飲みましょう、というのがもともとの趣旨だったのです。今宵はクリスマスだけど、慶応SFCにおける松井教授のリアル講義(リモート講義はまだ残っているらしい)最終日で、後はもうこちらには戻りませんから、ということで予約を入れたのです。

〇そしたら松井さんの「落語仲間」とか、「行革仲間」とか、「通産省同期」とか、「おなじネズミ年生まれ仲間」などがどんどん集まってきて、最終的には100人を超えてしまいました。政治家やメディア関係者もいっぱいいらっしゃいました。党派を超えて、というところが松井さん流でありまして、進次郎さんも落語仲間でありましたとは。いやはや。

〇松井さんを「京都に送り出す会」というのは、本来はちょっと変なのです。京都育ちなんだから、「京都に送り返す会」というべきでしょう。しかし、それではまるで松井さんが不良品みたいであるし、ホンネを言えばわれわれとしてはお返ししたくはないのです。できれば引き続き首都圏に居ていただいて、「いやね、東十条にいい店があるのですよ」みたいなお付き合いを続けたいのであります(世に隠れた居酒屋の名店を見つけ出すことにかけて、途方もない嗅覚をお持ちの方なのです)。

〇それでも京都が松井さんを必要としているのであれば、ここは気持ちよく送り出す以外にありますまい。その代わり、勝ってもらわないと困るのでありますが。京都というところは、それはもうとっても怖いところでありまして、イブキングとか共産党とか前原さんとかお茶屋さんとかお寺さんとか、いろんな勢力が複雑に入り乱れているらしい。今宵はその辺の話もたくさん伺いましたどすえ。人口147万人のところへ、年間5000万人の観光客が来るって、かないまへんがな?

〇不肖かんべえはおなじネズミ年(1960年)仲間なのでありますが、この年になって全く新しいジャンルの仕事に飛び込んで、4年単位の仕事に取り掛かるという意欲に深い敬意を表するものであります。簡単には真似ができませんが、せめて応援はいたしたいと考える次第であります。


<12月26日>(火)

〇台湾総統選挙、頼清徳と候友宜の差が接近してきて、「あと3週間で何が起きるかわからん!」という声が上がったかと思ったら、今日になって「また差が開いている」てな報道もある。いったい何が起こっているのやら。


●総統選支持率、頼氏と侯氏の差広がる=美麗島 2023年12月26日 17:29NEW


○2000年から始まった台湾総統選挙の民主主義サイクルは、これまで陳水扁(民進党)が2期8年、続く馬英九(国民党)が2期8年、そして直近は蔡英文が2期8年を務めてきた。都合、8×3=24年で、来年の総統選挙を迎えることになる。

○この次、頼氏が勝つと「民進党の3期目」という史上初の状態が起きる。ただし、「金魚鉢の水は、ときどき換えた方がいい」というのが二大政党制のメリットである。積極的に国民党にやらせたいという気持ちはないのだが、「3回連続の民進党」に対してもなんとなく忌避感がある。つまり2大政党の両方に対して「アンチ」が起きている。

○その分の「無党派層」は、第三政党である民衆党が受け皿となる。どうやら柯文哲は総統にはなれそうもないのだが、おなじ1月13日に行われる立法院選挙で、民衆党が8議席程度を押さえれば、文字通り、「味方につけた方が与党」になる可能性がある。これはもう粗略には扱えないのである。

○わずか24年の民主的選挙の歴史ではあるのだが、こんな風に「第三政党」の効果を学習しつつあるのだから、台湾の民主主義の進化のスピードはまことに早い。これから先も、まだまだ波乱があるのではないかなあ。


<12月27日>(水)

○今年ももう残るところ4日間。2023年の仕事がどんどん片付いていく。いやはや結構なことである。ホントのことを言えば、ないことにしてしまっている仕事とか、忘れている仕事もありそうなのである。それでも「今の幸せ」は大事にしたいから、終わったことにしておこう。大事ですよ、「今の幸せ」って。得てして幸福とは、失われて初めて気づくものなのです。

○年の瀬になって、改めて考えるのであるが、この世の中は本当に紙一重である。うまく行くか、行かないか。それはもう本当に運しだいである。ほんの出来心で大事をしくじることもあるし、考えに考えた挙句に人の道を踏み外すことだってある。途方もない不運が天から降ってくることもある。

○「競馬に絶対はある」というファンも一部には居るけれども、それは絶対に間違っている。というか、ロマン主義に過ぎる。100回やれば、100通りの結果が出るのがこの世の中というものである。そんな風に考えるのがリアリズムというものであろう。

○今年1年を振り返ってみると、あのWBS準決勝対メキシコ戦のサヨナラ勝ちが思い浮かぶ。2塁に大谷翔平、1塁に吉田、そしてバッターボックスに村上。打ってくれたから良かったけど、そうでなかったら日本は準決勝敗退となっていた。勝つと負けるでは大違い。その後の大谷は不振に陥り、ホームラン王はなく、ドジャーズへの7億ドル移籍もなかったかもしれない。逆に村上は凡退後に奮起して、今年のセ・リーグはヤクルトが優勝して、阪神の日本一はなかったかもしれない。

○とまあ、それくらい紙一重の世の中にわれわれは住んでいる。だから「安心・安全」なんてことは考えちゃいかんのです。それはないものねだりだから。同じ四文字熟語なら、「自己責任」でなければならない。そういえば本日のワシは、久しぶりに株の買い注文を入れたのであった。この人がここまで言うのだから、たぶん間違いないだろうなと思って。

○ついでに、明日のホープフルステークスの予習もやっておこう。いや、ギャンブルはいいものです。勝てばもちろん楽しいし、負けても所詮はカネで済むことですから。


<12月29日>(金)

○IMFのWEOデータベース(2023年10月版)を使っていろいろ遊んでみる。

○まずG20各国の名目GDPを並べてみる。23年と24年はIMFの推計値である。なるほど、日本とドイツが逆転して、2023年にはドイツが世界第3位となる見込みである。


  (十億米ドル) 2020 2021 2022 2023 2024
1 United States 21,060.45 23,315.08 25,462.73 26,949.64 27,966.55
2 China 14,862.56 17,759.31 17,886.33 17,700.90 18,560.01
3 Germany 3,884.62 4,281.35 4,085.68 4,429.84 4,700.88
4 Japan 5,050.68 5,011.87 4,237.53 4,230.86 4,286.19
5 India 2,671.60 3,150.31 3,389.69 3,732.22 4,105.38
6 United Kingdom 2,706.54 3,123.23 3,081.87 3,332.06 3,587.75
7 France 2,645.30 2,958.43 2,780.14 3,049.02 3,183.49
8 Italy 1,895.69 2,115.76 2,012.01 2,186.08 2,284.08
9 Brazil 1,476.09 1,649.63 1,920.02 2,126.81 2,265.12
10 Canada 1,647.60 2,001.49 2,137.94 2,117.81 2,238.57
11 Russia 1,488.12 1,836.63 2,244.25 1,862.47 1,904.34
12 Mexico 1,120.74 1,312.56 1,465.85 1,811.47 1,994.15
13 Korea 1,644.68 1,818.43 1,673.92 1,709.23 1,784.81
14 Australia 1,360.85 1,645.30 1,702.55 1,687.71 1,685.67



○ただしこの3位と4位、たまたまユーロ高と円安を前提にするからこういう予想になる。来年が円高、ユーロ安になると、またわからなくなる。そんなことより、5位のインドがすごい勢いで成長しているので、日独は近い将来に抜かれる公算が大である。遠からず、世界の中でG3は「米中印」ということになるだろう。

○そもそも2022年時点で第3位の日本経済は、第1位のアメリカに対して6分の1、第2位の中国に対しても4分の1である。あまりにも差がついているので、「世界第3位」などと名乗るのは恥ずかしいので、いい加減、止めておいた方が良さそうである。

○次に面白いことに、2022年の世界のGDPはちょうど100兆ドルである。世界の総人口を80億人として割り算すると、一人当たりでは1万2500ドルとなって、おお、世界はずいぶん豊かになったものよの、と感心させられる。

○ちなみに過去にさかのぼってみると、世界の名目GDPが50億ドルを超えたのは、実に2006年のことに過ぎない。2005年は47.9兆ドルだったが、2006年は51.8兆ドルである。そこからわずか17年で倍増したことになる。この間、日本のGDPはほとんど横ばいなので、世界の中に占める比率はどんどん低下していることになる。

○そんな中でアッパレなのはアメリカ経済である。2022年時点で25.5兆ドル、すなわち世界の4分の1のシェアをキープしている。昔は「日米を足して世界の4割」なんて時代もあったのだが、こちらはわずか4%になってしまった。

○それから世界第2位の中国(17.9兆ドル)に、インドの3.4兆ドル、ブラジルの1.9兆ドル、ロシアの2.2兆ドルを加えると、25.4兆ドルとなってちょうどアメリカと肩を並べる。中国が「BRICS会議を拡大しよう」と考えるのは理に適っているし、西側諸国がインドとの関係を強化して、中印の離間を図るのはいずれも戦略として正しいことになる。

○さらにそこから、ユーロ圏(14.1)+日本(4.2)+加(2.1)+豪(1.7)+韓(1.7)=23.8兆ドルとなり、これも4分の1弱ということになる。つまり「その他の西側先進民主主義国」を全部足すと4分の1で、アメリカと足してざっくり世界の半分ということになる。あくまでも現時点の瞬間風速ということですが。

○アメリカが4分の1、その他西側が4分の1、BRIC4か国が4分の1、すると残りの新興国がトータル4分の1ということになり、これが「グローバルサウス」ということになる。2023年の国際政治においては、「グローバルサウスをどちらが取り込むか」がテーマとなったが、これは「天下4分の計」であると考えるとわかりやすい。

○などと、世界経済の景色はかなり変わったということになる。日本経済が「現状維持」を続けている間に、「その他大勢」がぐんぐん伸びたので、プレゼンスはとっても低下している。逆に言えば、1992年当時の全世界名目GDPは25兆ドルで、日本が4兆ドルですから、日本は世界の6分の1だったんですよねえ。「悪目立ち」していたんです。

○最近、同世代から上の人たちが集まると、「日本はいつの間にこんな貧乏な国になっちゃったの?」という円安嘆き節が止まらなくなる。とりあえず足元は141円まで戻しておりまして、古来、年末年始は円高が進むものですが、さて、来年はどうなりますでしょうか。


<12月30日>(土)

○これも毎年この時期のルーティーンですが、JRAの2023年の経営成績をチェックしておきましょう。


●売得金:3兆2745億6790万0700円(前年比+0.66%)

●総参加人数:1億9644万6179人(前年比▲0.2%)

●入場者数:462万4106人(前年比+65.7%)


〇いつものことながら清々しい思いがします。12月28日にホープフルSが終わると、ピシッと100円単位で結果が出る。もちろん後日、修正されることもない。経済指標はかくあってほしいものです。

〇2023年の馬券の売上高が丸めて3.3兆円。これは昨年とほとんど変わらない。わずか+0.7%とはいえ、「12年連続で前年越え」ということになり、ヘッドラインとしては悪くない。最終日、ホープフルステークスで1番人気(馬券王先生の本命馬)のゴンバデカーブースが、当日午前に出走取り消しとなり、おそらくは十億円単位の返還があったと思われるので、それがなければ・・・と惜しまれるところではある。

〇コロナ下で順調に売り上げを伸ばしてきたJRAとしては、今年はやや不本意な成績であったか。ちなみに近年の売得金は、+3.1%(19年)、+3.5%(20年)、+3.6%(21年)、+5.3%(22年)と順調に増え続けてきた。23年が伸び悩んだのは、「コロナ明けになって、競馬ファンがほかのことにカネを使うようになったから」でしょう。それはまあ、わからん話ではない。

〇競馬場に足を運んだ人の数は、昨年の279万人から462万人に一気に増えた。これはもう実感で、最近はG1レースともなると指定席券はまず買えません。家で楽しむのがフツーになってしまいました。もっともジャパンカップや有馬ともなれば、昔は10万人越えが当たり前だったので、その辺はまだまだ警戒して半分程度にとどめている。来年はコロナ前の「年間600万人台」ということになるのだろう。

〇ところが問題なのは、総参加人数が前年比でわずかな減少となっていること。競馬ファンは全体的に高齢化しているし、いくら若いタレントをCMに使っても、なかなかファンの総人口は増えにくくなっている。つまり競馬というビジネスは、「少子・高齢化」という天井に突き当たっているのではないか。

〇JRAがさらなる成長を志向するならば、1人当たりの売上を増やすか、海外のファンを増やすくらいしかない。前者はギャンブル依存症の問題があり、後者は「馬柱をどうやって読んでもらうか」などの問題が生じる。まあ、博打の胴元としては判断が難しいところですな。

〇来年はJRAの創立70周年なんだそうで、こんなキャンペーンを始めるそうです。CM楽曲は星野源さんですか。来年のCMが今から楽しみです。


<12月31日>(日)

〇年末年始はテレビを見る時間が長くなる。昨日は『ドキュメント72時間』の総集編、そして『映像の世紀 ビートルズとロックの革命』を延々と見ちゃいました。いや、もう私、NHKが好きなんで。『ブラタモリ』の総集編もできればやってくれませんかね(ちなみに鶴瓶は嫌いなんで、合同の新春スペシャルは歓迎しません)。

〇普段はテレビ東京がらみのマーケット番組モノか、BSのニュース番組くらいしか見てないので、これがとっても貴重な時間であるように感じられる。なんというか、自分がいかに狭い世界に生きていて、世の中のフツーの人の関心から隔絶しているか、ということを思い知らさせるので。

〇だから大みそかの夜はちゃんと『紅白歌合戦』を見なければなりません。でも、近年の傾向から行くと、午後10時を過ぎたら『孤独のグルメ 2023大晦日スペシャル』に浮気してしまうと思います。五郎さんは今年はどんな災難に見舞われるのか。

〇これで年が明けるとニューイヤー駅伝と箱根駅伝があるわけですので、まさしくテレビ漬けであります。年末年始を海外で過ごすという人の気持ちがわからない。そういうことですので、皆さまもどうぞ良いお年をお迎えください。










編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2024年1月へ進む

***2023年11月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki