●かんべえの不規則発言



2009年7月






<7月1日>(水)

○今日は新装なった経団連ホールで、「故速水優お別れの会」が開催されました。日銀関係、双日関係、同友会関係、さらにはマスコミや大学関係者などが千客万来。政治家も多かったようです。私は一応、主催者側の人間なので、後のほうでこそっと献花をしたつもりでしたが、すぐ後ろの列にいたのが(たぶん遅れて来場した)福田康夫さんでした。わあ、びっくりした。


●1200人が献花。速水日銀総裁お別れの会 (産経ニュース)


○重々しい「社葬」などと違って、「お別れの会」という形式はいいですね。故人をしのびつつ、懐かしい人同士で話ができる。私が「経済同友会代表幹事」であった故人のスタッフをやっていたのは1993年から95年にかけて。つまり「政権交代」があった時期です。当時のことを次々に思い出しますね。だってホントに1993年と2009年は似てるんだもの。

○夕方から虎ノ門パストラルで、林芳正参議院議員のセミナー兼懇親パーティー。セミナーのテーマは「市場と国家」で、パネリストは島本幸治さんとこの私め。3人で掛け合いをやっている最中に、林さんのところへ秘書がメモを入れる。はて、何があったのかな?と思ったら、それが「経済財政担当大臣に就任要請」であった。たちまち押し寄せるカメラの群れ。セミナー終了と同時に記者会見開始。

○普通の政治パーティーのはずが、そのまま大臣就任おめでとうパーティーへ。こういうことって、あるものなんですねえ。壇上に立って挨拶する人たちが口々に言うことは、「こうなることを読んで、この日にパーティーを設定するとは、さすが林先生」。もちろんそんなはずはないのだけれど、前回、福田内閣で防衛大臣に指名されたときは、北海道へ家族旅行中だったことを考え合わせると、今度はやけに手回しがいいのである。


●自民党人事は見送り・・・新経済財政相に林芳正氏 (朝日ニュース)


○個人的な事情としては、セミナーの時間帯が「午後5時開演、6時終了」という微妙なところだったのが幸いしたと思います。後で島本さんと二人でしみじみ語り合ったのですが、

「まさか大臣就任だなんて、知らなくて良かったよね。知ってたら、普通に話せないじゃない」

「目の前にいるのが経済財政担当大臣だと知っていたら、それこそ目いっぱい陳情しちゃいますよ」


○林芳正さんのパーティーは、かならず最後に国会議員のバンド「Giins」(ギインズ)のコンサートが行なわれます。今日はおなじみの浜田防衛大臣が来てたので、二人のパフォーマンスは「Daijinz」(大臣ズ)になりました。うーん、こんなことが現実になるとは。ほんの2時間差で、「お別れの会」と「お祝いの会」を続けて経験するという、とってもレアな一日でした。


<7月2日>(木)

○昨晩発表された注目の米雇用統計。6月の非農業雇用者数は46万人減。失業率は9.5%に悪化。たしか1〜5月の雇用減はトータルで290万人だったので、これで上半期にざっくり350万人の雇用が減った計算になる。ということは、2月に大型景気刺激策を打ち出したときにオバマが言った「350万の雇用を創出する」というのは何だったのか。ここを指摘されたらぐうの音も出ない。政治的にはかなりキツイ数字といえましょう。

○2008年の雇用減は通年で308万人だったので、今年は既に前半でそれと同じくらいの減少が起きてしまったことになる。(過去のデータはここをご参照) さらにいうと、アメリカの労働力人口はざっくり1億5000万人くらいなので、1%は150万人。2%で300万人。ということは、失業率は「2008年は2%悪化。2009年は上半期だけで2%以上悪化」というわけ。

○でも、アメリカの雇用情勢はまだまだ底打ちした感じはありません。GMの影響が出てくるのはこれから先でしょう。まだまだ大変です。


<7月3日>(金)

○どうしたんだこの静けさは。G8サミットが来週に迫っているというのに、われらが太郎ちゃんがイタリアのラクイラに行くというのに、メディアの関心事はそこにはない。「で、イタリアから帰ってきたら、解散できるの?」――そんな声が聞こえてきそうである。

○麻生首相がサミットから帰国して、すぐに7月12日が都議会選挙。うまい具合に7月14日には西松建設事件の判決が出る。で、そこで解散。投票日は8月2日か9日。9日では長崎市民に失礼だという声があるようなら、8日土曜日でどうだ、土曜日の投票は前例があるぞ、というのが麻生戦略であるらしい。でも、都議会選挙で大敗するようなら、そこで辞めろという話になる恐れがある。それから先は寸前暗黒だ。

○でも、サミットの中身にもちょっとは関心を持っていただきたい。35年のサミットの歴史を振り返ると、そこには「荒れるイタリア開催」のジンクスがある。2001年のジェノバサミットでは、13万人規模のデモが発生した。1994年のナポリサミットでは、金日成主席死去の報が首脳たちを揺るがした。1980年のベネチアサミットでは、直前に大平首相が急死して大来佐武郎外務大臣が代理出席した。総じてサプライズが多いのが「イタリア場所」の特色である。

○議長役を務めるベルルスコーニ伊首相は、なんと3度目のお勤めである。サミット自体に登場するのは8回目だが、1994年、2001年といずれも首相に就任した直後に開催国の輪番が回ってきたという「強運」の持ち主。超長期政権だったコール独首相は出席16回、ミッテラン仏大統領は13回であったが、それでも議長経験は2度だけである。そりゃあ7〜8年に1度しか回ってこないのだから、ベルルスコーニ首相の怪記録は当分、誰にも破られることがなさそうだ。

○これだけ面白そうな条件を備えているのに、盛り上がらないのはやることがないからであろう。金融関係の国際調整機能は、もっぱらG20に持っていかれてしまった。次は9月にピッツバーグで行なわれるとのことで、どうしたってそっちに注目が行く。気候変動問題も、12月のコペンハーゲンが勝負である。その前に先進国がどうやって新興国を説得するかだが、それをG8でやろうというのは無理筋である。つまるところ、G8サミットは「中二階」になってしまったのである。

○ラクイラでは、史上最多の40の国・地域が集まるらしい。質でダメなら量で勝負、というのだろうか。35年目のサミットは、非常に悩ましい時期を迎えているように見える。


<7月5日>(日)

○アメリカの独立記念日があった今週末、いろんなニュースがあったようです。

○財政難の米カリフォルニア州、ついに「借用証」(IOU)を発行

――今のところは赤字260億ドルのうち33億ドルで、10月2日が換金期限で金利は3.75%。これって、金融機関に持ち込んだら割り引いてくれるのかしらん? もちろん返済の保証はないですぞ。シュワ知事が好きな人は、買ってみると面白いかも。

○北朝鮮が弾道ミサイル7発を日本海に向けて発射

――米独立記念日に合わせたらしいんだけど、ミサイルを発射した時点ではアメリカは7月3日。ひょっとして、北朝鮮は時差の概念がない? それともこれは主体思想のゆえ?

○サラ・ペイリン知事(アラスカ州)が辞任

――2010年の任期切れを前に、今月末をもって辞任することを表明。どうも2012年の大統領選挙出馬を目指しているらしいが、ちょっと「痛い」感じも。この辺はいかにも本邦の東国原知事を髣髴とさせるものが・・・・。


<7月6日>(月)

○先日聞いた話ですが、「百貨店業界では、リーマンショックは2回あった」んだそうです。この話、講演などで使うと受けるんですよ。

○昨年前半、投資銀行業界はそろそろヤバイという感じになった頃に、「月にカードで500万円以上お買い上げになる」ような超得意先の動きが、パタリと止まったのだそうです。つまり「われわれの想像力が及ばないようなおカネ持ち」が、最初に逃げ出した。おそらくはご自分で来店することはなく、外商さんがご自宅をお訪ねするような客層なのでしょう。

○その後に、普通のリーマンショックが来た。つまり中小企業のオーナーに医者、弁護士といった「われわれの想像力の範囲内のおカネ持ち」が店内から消えた。おそらくは運転手つきのクルマでご来店されるような客層なのでしょう。

○2つのリーマンショックの後に、さらなるショックが百貨店に追い討ちをかけた。それが「H&Mショック」である。これでとうとう、普通の人も百貨店から消えてしまった。

○・・・・この最後の部分は余計で、H&MなんてGAPと同じで、そんなにありがたがるようなものではないと思うんですけどね。わが国の百貨店業界のブランド力復活を陰ながら祈るものであります。


<7月7日>(火)

○村上春樹著『1Q84』が増刷で200万部到達だそうです。すごいですねえ。その割りに、「読んだ」と言ってる人が周囲にはこの人この人くらいしかいない、というのも興味深い現象です。察するに、買っただけで読んでない人が多いのではないでしょうか。だって、あれだけ長い小説なんだもの。ワシはけっして買わんし、読まんぞ、と今のうちに言っておこう。

○ところでワシも多少はあの会社のことを知っておる。新潮社が200万部、と言うときは本当に200万部かっきりを意味している。この世界、数字を丸めたり、サバを読んだりすることは当たり前でして、実売3万部なのに10万部突破!、などと称する戦国大名みたいな出版社は少なくありません。でも、新潮社って、「養老先生の『バカの壁』、ただ今、98万部です」みたいなことを平気で言っちゃう、変にストイックな会社なのである。

○この際だから、4年前に書いた拙著『1985年』を『1Q85』と改題して店頭に並べてはどうだろう。などとぼやいていたら、三重編集長いわく、「あの本、きっと村上さんが読んでますよ」。――そうかもしれんわなあ、とちょっとだけ慰められました。

○それにしても『オバマは世界を救えるか』は、もうちょっと何とかなりませんかねえ。


<7月8日>(水)

○今年は完全に無風状態で、それこそ「マイケル・ジャクソンの追悼式よりも報道価値が低い」とさえ見られていたラクイラG8サミットですが、「荒れるイタリア場所」のジンクスは健在でした。ウイグル暴動で中国の胡錦濤総書記がサミットを欠席することと相成りました。いろいろと考えさせられる事件だと思います。

○今や中国は世界の希望の星であるといっても過言ではない。中国の景気回復に、世界中が期待をかけている。チャイナマネーは、米国債を買い支えるだけでなく、秋葉原で没落したラオックスを買収してくれたりもする。そして外交の世界でも、「今や中国のいない会議では何も決まらない」のが現実である。

○G8の地位がなぜ低下しているかといえば、金融面の調整機能をG20にとられてしまい、気候変動や貿易問題などでも中国やインドの意向を無視しては何も決められなくなっているから。さらに、7月下旬にはワシントンで、初の「米中戦略及び経済対話」が行なわれる。つまりこれは事実上の「G2」ですな。「会員制秘密クラブ」のG7とG8は空洞化し、「立食パーティー」であるG20と、「究極の内緒話」であるG2の間で、中途半端な「中二階的存在」になってしまった。

○これくらい存在感を増している中国だが、その中身は依然として共産党の一党独裁体制である。そのことは、チベットやウイグルで何かが起きたときに不意に明らかになる。「あああ、やっぱりね」というのが、多くの国の印象であろう。おそらく今頃の中南海は、「G8に焦点を合わせた海外の策謀によって、わが国の面子は丸つぶれ」的な陰謀論で一色に染まっているのではないだろうか。

○そんな中で、日本はどうするのか。まずは35年の歴史を持つG8を再興させる必要がある。「アジアで唯一のG8メンバー国」という金看板は、やはり失うには惜しい。そのためには、G2とG20の板ばさみ的な存在になってはいけない。そこでロシアを外し、できれば豪州や韓国も加えて、「西側先進民主主義国の集まり」という性格に近づけていけばよい。

○と思ったら、ビル・エモットさんが似たようなことを言っていた。下記ご参照。

●【サミット】英誌元編集長「露除いてG7に」

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/090707/erp0907071856006-n1.htm 


<7月9日>(木)

○日経センター大阪支所の昼食講演会の講師で大阪へ。「ムーブ!」があった頃は毎月来ていたけど、今日は4ヶ月ぶり。高速道路の上から、「カンバン募集中のカンバン」が目立っていたりして、どうも不況色はぬぐいがたい様子。

○「この季節の大阪は暑いでしょう」といろんな人にいわれましたが、なあに日本中どこへ行ってもそれはかわりませんって。昨日、来ていたニュージーランド人もこの気候には呆れておりましたがな。ニュージーも四季はありますが、こんなウェットな時期はないんだそうです。お気の毒様です。

○帰ってきてから朝日ニュースター「ニュースの深層」へ。キャスターの葉千栄さん(初対面)と重信メイさんの3人で、G8サミットに関する話で盛り上がる。胡錦濤が帰ってしまったことについて、葉さんは「会議に出たくなかったからじゃないですか?」とのこと。今の状況だと、環境問題でも貿易問題でも、中国が譲らなければならない問題ばかりで、出ているとろくなことがない。だとするとウイグルの問題は、「渡りに船」だったことになる。

○ところで「米中戦略及び経済対話」は7月下旬ということになっていて、正確な日取りが分からない。いくらなんでも、もう決まっているはずだと思うのだが、この件については日本での報道が少な過ぎるんじゃないだろうか。G8サミットが終わったら、次の焦点はこちらだと思いますぞ。


<7月11日>(土)

○少し前に『世界経済評論』という雑誌の座談会に出て、ひとつ学習したこと。「国際経済論と世界経済論はどう違うか?」 ――ワシがまったく知らなかったというのは、この仕事をしているものとしては恥ずかしいことであるかもしれないのだけれど、いたく感動したので書き留めておきます。

○国際経済論というのは19世紀のイギリスで誕生した学問で、比較優位などの貿易理論に基づくもの。ところが実際の世の中は理論の通りには動かず、自由貿易となるはずのところが、植民地の略取だとかとんでもないことが起きてしまう。そこで後になって、ドイツを中心として誕生したのが「世界経済論」で、ここにはより広範な概念が入ってくる。つまり政治や軍事も取り込んで、実態に即した学問となったのだそうだ。

○面白いもので、「国際経済論」は学問的にしっかりしているけど、世の中の役にはたたない。「世界経済論」は面白そうだけれども、学問としての地位は低そうである。両者を線引きをするのは、単なるアカデミズムの勝手であって、普通の人にとってはさほど意味がない。グローバルな経済の動きを解き明かす学問には、狭くて高尚で役に立たないものと、広くて低俗で役に立たないものの2通りがあると覚えておけば良いのであろう。

○どちらが面白いかと言えば、圧倒的に後者である。ワシなんぞも某商社の禄をはんで25年と少々になるわけですが、商社の現場というのはもちろん「国際経済」ではなく、「世界経済」の側にある。理論はまったく相手にされないけど、怪しげなウンチクは結構愛される。「溜池通信」は、当然のことながら後者に属する、ということのようです。

○ところで明日の「サンプロ」にゲストで呼ばれております。4ヶ月ぶりだなあ。「どうなる?今年後半の経済」を竹中さんと語るという趣向です。


<7月13日>(月)

○都議会選挙から一夜明けたら「政局」でした。昨日の時点で、「自民党が40議席に届かないらしい」という声がありましたが、蓋を開けてみれば38議席。選挙結果はサプライズではなかった。それでも今日はやっぱり大騒ぎ。

○都議会選挙の結果は、2007年参院選を髣髴とさせるものでした。具体的に言うと、以下のような特色がありました。

(1)投票率が伸びる

(2)ベテランが落ちて新人が通る。男性よりも女性が通る

(3)これまで金城湯池としていた1人区で自民党が勝てない

(4)共産・社民が伸びず、野党は民主党の一人勝ち

○この流れは次の衆院選にも引き継がれるでしょう。つまり有権者は「しがらみを断ち切りたい」と考えており、「いっぺん民主党にやらせてやれ」と思っている。この流れを止めることは難しいと思います。

○さて、イタリアから帰ってきた麻生さん、すぐさま河村官房長官に対して「7月14日解散、8月8日総選挙」という指示を出したようです。これは内角高め、ビーンボールまがいの直球です。通常国会の会期は7月28日まであるけれども、どうせ野党が不信任案と問責決議案を出してくる。前者は否決すればいいが、後者は通るだろう。その瞬間に、参院での審議はストップしてしまう。これでは船舶検査法などが通らない。国会を開店休業にするくらいなら、14日解散は妥当な選択です。

○でもこれだと党内の反発は強いし、何より公明党の協力が得られない。そこで落としどころとして、今日の昼に「7月21日解散、8月30日総選挙」という案が浮上する。おそらくはこっちが最初から本命。7月14日だと解散詔書を皇太子殿下にお願いしなければならず、やはりここは17日に陛下がカナダからご帰国されるのを待った方がいい、という判断が働いたのではないでしょうか。そして公明党も、お盆明けなら、ということで了承。もちろん自民党内のゴタゴタは続くでしょう。

○どうでもいいことですが、総選挙の候補日となった8月8日、8月30日はどちらも大安吉日です。面白いね、政治って。

○気になるのは民主党の対応です。民主党としては、麻生さんを相手にする方がやりやすい。だとすればこのまま8月30日総選挙は望むところでしょう。だったら、北朝鮮船舶検査法は、さっさと通した方がよろしい。北朝鮮船籍の船荷をチェックするのは、国連安保理決議に基づいてやるわけですから、日本が「ウチは法律がないから、できないんですぅ」などと言ったら、「そもそもお前がうるさいことを言うから、この決議を通したんじゃないか!」と怒られる。とってもカッコ悪い。民主党も、自分が政権取った後のことを考えたら、問責決議はしばしお休みした方がいい。さて、できるかな?

○他方、自民党内の雲行きも気になるところ。東国原知事の担ぎ出しは、自民党にとって大マイナスであることが判明した。興味深いことに、街頭インタビューなどで聞く分には「東国原さん、いいんじゃない?」などと皆さん答えるのですが、世論調査で「東国原さんを国政に引っ張り出すことをどう思われますか?」と聞くと、コアな自民党支持層には強い反発がある。やっぱり使えないタマだったようです。最後はビートたけし師匠に引導を渡されちゃいました。

○では、他に仕えるタマはないのか。別の世論調査を見てみると、舛添厚生労働大臣がビックリするほど評価が高いんですね。これは自民党のコア層でもそう。ということで、「麻生おろし」の最後の猛攻撃があるとしたら、舛添さんがらみかもしれない。まあ、そういうジタバタはやめて、自民党は腰をすえて麻生さんを担いで戦った方がいいでしょう。その方が、まだしも明日につながる負け方になる。


<7月14日>(火)

○都内某所で北朝鮮問題に関する研究会。将軍様の跡継ぎは三男の正雲で決まり、という情報が流れているが、実は違うんじゃないかという観測もあるのだそうだ。どうも長男の正男がそういう噂の発信源になっていたりして、偽情報を流す意図があるんじゃないかとのこと。と、言われても、だったら次はどうなるのかが分からない。

○結局、北朝鮮の内情というのは、知的遊戯の世界なのかな、などという気もする。これだけ怪しげな情報が飛び交っていると、どれが正しくてどれが間違っていたかという検証もほとんどできやしない。しかもわが国を代表するコリア・ウォッチャーさんたちは個性豊かな方々が多いので、ますます誰を信じていいのかが分からなくなる。てなことを書くと、現在、ワシントンDCで日米韓会議に出ている武貞兄さんが哀しむでしょうか。

○それでも世界中のコリアウォッチャーたちの意見を総合すると、「やはり年内に一大事が起きるのではないか」という点に集約される。将軍様の身にもしものことが起きるのか(本当は4人いる将軍様の替え玉の命が危ういのだという説もある)、それとも跡継ぎをめぐって国が割れるのか。何が起きるにせよ、政権交代後の日本政治を揺るがすことになるんじゃないかと心配になる。1993年に誕生した細川政権だって、政治改革だけやればいいと思っていたのに、ウルグアイラウンド妥結によるコメ開放と、日米通商摩擦への対応に追われて、それで政権の寿命を縮めてしまったのだから。

○今日、初めて知りましたが、来年2010年は日韓併合百周年なんだそうですね。これはもう、かの国は大騒ぎになることは必定で、それは3年後の大統領選挙で左派が返り咲くためにも重要なイベントとなってくる。日本でも協力したがる人はいっぱいいるでしょうから、その辺もちょっと心配であります。


<7月15日>(水)

○13日月曜日の日経朝刊「領空侵犯」のコーナーで、不肖かんべえが登場して「総理経験者を大使に」という論を張りました。そしたら「日経ネットPLUS」の中で、「ちょっと待った領空侵犯」というページがあって、拙論をマジで議論してくれている人がいることに、今日になって気がつきました。ご関心をお持ちの皆様、ご参加いただけるとありがたく存じます(日経ネットPLUSは、いちいち登録しなければならないのがちょっと面倒です)。

○拙論は、「日本には総理経験者が大勢いるけれども、有効利用できていない」「そこで例えば小泉さんをアメリカ大使に、福田さんを中国大使にしてはどうか」「現在の麻生さんは、ゆくゆくはアキバ財団を設立し、マンガ大使になって日本のポップカルチャーを海外に広めていただきたい」というものです。顰蹙は覚悟の上だ、どうだ文句あるかあ、という心意気であります。

○暴論に対する反響で、ひとつだけ意外に感じたのは、「総理経験者には生涯SPがつく。そういう待遇を受けるのだから、その分は働いてもらいたい」という部分が妙に受けているらしいということです。いちおう調べてみましたが、SPというのは普通の警官と同じ給与体系になっていて、一概にいくらとはいえないのですが、こう言っちゃ悪いけど、所詮はその程度のコストに過ぎません。

○それに比べると、ほんの一時期でも首相を務めることによって生じるコストはまことに膨大なものがあります。1回サミットに送り出すだけで、世界に向けて発信する情報量はいかほどのものがあるか。ところがそんな首相でも、1年で辞めてしまえば国際的には忘れられてしまうわけで、まことにもったいない。安倍首相や福田首相を世界に向けて発信した費用は、まるまる「サンクコスト」になってしまっている。これって優に数百億円〜数千億円単位の損失ではないかと思うのです。

○ところが、世間的には「SPの費用が何千万円」と言ったほうが通りがよい。その方がイメージしやすいからでしょうね。でも、日本政府は腐っても超大国。SPの経費ごときではびくともいたしません。総理大臣を総理大臣らしく見せるために、その程度のコストは笑って払うことができる(SPの皆さん、ゴメンナサイ)。逆に笑えないのは、日本政府が有形無形に膨大な投資をしたはずの元首相たちが、この国にとっての不稼動資産になってしまうことです。

○最近は「生活者の目線」という言葉が妙に受けてしまうという傾向があって、先日の都議会選挙もまさしくそういう結果でありました。でも、それって大きな勘違いをしている恐れがある。東京都がオリンピックを誘致すべきかどうか、都民の意見はほぼ半々だそうですが、「五輪誘致にかかるコストを、医療や介護に費やすべきではないか」というと、おそるべき比率で賛同が得られるのだそうです。

○これぞまさしく、経済が縮小均衡に陥るときのパターンだと思います。いわゆる「合成の誤謬」というやつで、都民が夢や理想を失って、自分の老後の心配だけをするようになったら、それこそ世界に冠たる大東京といえど没落は必至でありましょう。TOKYOを世界に向けて売り込み、プレゼンスを高めて投資を呼び込み、観光客も呼び込み、拡大再生産を目指してこそ、激増することが予想される福祉や医療のコストをまかなうことができる。

○そのために五輪誘致がベストな方策かどうかは議論の余地があるでしょうけれども、「歯を食いしばってでも前向きな投資を行なうぞ」「東京は世界に冠たる都市であるべきだ」という勇気が必要なのではないかと思うのです。そうでなかったら、「アジアを代表するのは北京か上海か香港か」みたいなことになるかもしれない。それは日本経済全体にとっての損失になります。

○つまり「生活者の目線」も大切だけど、同時に「経営者の目線」を持っていたほうがいい。前者を口にするのはカッコいいけれども、後者はエリートっぽくて聞いていて腹が立つ――なーんてメンタリティを持っていると、みずからの未来に唾することになってしまうのではないか。生活者だとか庶民感覚とかいう言葉には、つくづく用心したほうがいいと思いますぞ。


<7月16日>(木)

○4−6月期の中国のGDP成長率が発表されました。7.9%だったそうです。先週時点で葉千栄さんは、「どうやら7.8%らしいですよ」と言っていた。エコノミストのコンセンサスも、「7%台後半」というところにあったので、つまりはノーサプライズ。とりあえず「景気失速で社会不安発生」というリスクは消え去り、今後の懸念はむしろインフレということになるでしょう。

○思えば2002年頃、「中国の経済統計は当てになるのか」という議論があって、当時の溜池通信でも取り上げたし、「フォーサイト」にも寄稿したりしました。(ところでフォーサイトって、創刊20周年なんですってね。おめでとうございます。この雑誌に書くと、仲間内の信用が上がるという得がたい雑誌でありました)。

○その当時に比べると、中国の経済データは種類も増えたし、信頼度も上がってきたようです。「明らかにこれって変」と感じることも少なくなりました。でも、これだけサプライズが少ないというのは、中国経済の透明度が高いからというよりは、むしろ低いからなんでしょうね。つくづく奇妙な世界であります。


<7月17日>(金)

○「ウェブはバカと暇人のもの」という本を読みました。光文社新書で中川淳一郎という人が書いたものです。これ、いいですね。書いてあることのほとんどに同意しちゃいます。「現場からのネット敗北宣言」という副題がついている。要は「ネットなんて駄目だあ!」という話がいっぱい詰まっている。Web2.0みたいな議論よりも、よっぽどこちらの方が実感に近いと思います。

○特になるほどと納得した点をメモしておきます。

●新聞は特オチを怖れるが、ネットニュースは後追いでいい。

●ネットはテレビのネタが大好き。どちらも無料だから。でも、お金を払わなければならない雑誌はネタがかぶらない。

●企業や知識人はネットに過剰な期待を持っているらしい。

○不肖かんべえも、こんなページを作ってからずいぶん長くなりまして、来月でちょうど丸十年になります。なんでこういうサイトやらニューズレターを始めたかという経緯は、このページでかなり詳しく説明しております。これを書いた頃というのは、まだネットも参加者が少ない時期でありまして、ちょっと探せば無名のすごい才能がゴロゴロ見つかったものです。今はブログだけでもとんでもない数になってしまって、「これはすごい」というものにはなかなかお目にかかれなくなってしまいました。

○私自身も、昔の方がキチンと書いていましたからね。今読み返してみると、2000年とか01年ごろはそれこそ「暇人」だったこともあって、今読み返しても感心することがあったりします。最近は忙しかったり眠かったりで、ついつい手抜きモードが多いです。それでもほとんど毎晩のように、「何か一言」を10年にわたって書き続けているわけで、ここまでくると質よりも量が大事、と開き直ってみたくもある。

○やはり人間というものは、最初から与えられている権利は大切にしようという気にならないのだと思います。旧世代としては、「自分で作ったサイトで情報発信ができる」ということに、当時はすごい感動があったのです。これこそルネッサンスだ、と思いましたもの。「物心ついた頃には既にネットがあった」という世代には、これは理解しがたいことかもしれません。

○ということで、「すべての運動はその初期において頂点に達する」というのは、まことにその通りだったのかなと思います。久しぶりに伊藤師匠の声を聞いてみたくなりましたな。


<7月19日>(日)

○恒例の町内会の夏祭り。今週末は蒸し暑い中の勤労奉仕です。

○ウチの町内というのは国道6号線と16号線が交差している呼塚交差点が近いので、柏駅方面への抜け道に使うドライバーが少なくない。それでも子供たちが山車を引いて町内を練り歩くので、事前に警察に届けを出して交通規制を行ないます。それでも入ってくるクルマがいるので、誰かが待機してて「ダメダメ、あっち行って〜」という嫌われ役をやらなければなりません。いろんなクルマを観察していると、なかなかに面白い。

○まずはタクシー。通り抜けに使うクルマが多いので、当初は多く見かけるのだけれど、しばらくすると急に来なくなります。おそらく無線で連絡を取り合うのでしょう。さすがはプロ、無駄な動きはしないのであります。

○次に宅急便。最近は近所にトラックを止めて、徒歩で荷物を運ぶパターンが多くなっているので、あまり問題は起きません。問題は町内の人たちのほとんどが、お祭りのために外出してしまっていることでありますな。

○普通に通り抜けを目指しているクルマ。これは回り道をしてもらいます。「もっと早く言ってよ〜」といった苦情も頂戴します。すんませんねえ。でも、それほど深刻なケースはありませんでした。他方、「すいません、6号線にはどうやって抜ければいいんですか?」という迷子のドライバーもいらっしゃいまして、これは「今来た道を引き返してください」というしかないのであります。

○ちょっと困っておられたのは家電量販店の方。区域内のお宅に商品を届けなければならず、なおかつ地元の地理に詳しくないドライバーの方でした。回り道をお願いしましたが、どうやら無事に到着したようで何よりでした。

○ということで、今日はたくさん汗をかいて、たくさんビールを飲みました。日焼けも少々。町内会の集会場には、現職のS議員も挨拶に見えておられました。今年の夏は暑くなりそうであります。


<7月20日>(月)

○あたしゃ正直、鰻はかなりの好物でありますが、年に一度のこの時期は避けたいと思うものです。だって、土用の時期は店が混んでいるし、業者はこの季節にあわせて鰻を大量に作ってくるし、下手をすれば売れ残りを食べさせられてしまいますもん。年越しのそばは縁起物だし、バレンタインデーのチョコは「自分だけもらえないと寂しい」てな感覚があるけれども、土用の丑の日にこだわる理由はあんまりないと思うのですね。

○ところがですな、昼前に「大和田」の前に20人くらいの行列を見かけて、ギョギョッとしましたな。この暑いのに、1時間は覚悟の心意気である。あんたらひょっとして、昨晩の『サザエさん』を見て影響を受けてしまったか。「大和田」というのは柏市内では屈指の鰻屋でありまして、以前は自転車屋の2階で細々と営業していたものが、今ではデザイナーズ系のお洒落な店舗を構え、着実に発展を遂げて今日に至っています。

○ウチの町内にCさんという人がいて、かなりのご高齢の方なんですが、よく文庫本などを手にして大和田の開店を待っていることがある。パナマ帽が涼しげで、いかにもダンディである。鰻屋さんに通うときは、是非あんな風でありたいものである。ちなみに市内でもうひとつ挙げるなら、柏銀座通りの奥の方にある「芳野屋」がお勧めですね。今日も繁盛してたでしょうか。

○大和田の盛況ぶりに触発され、ついつい我孫子の「西周」(さいしゅう)に行ってみました。「準備中」の札が降りていて、どうも貸切になっていた模様。致し方なしであります。ご近所の老舗「宇田川」さんもクルマが入りきれないほどでありました。手賀沼周辺は、鰻の名店が多いです。しかも西周の場合は、コストパフォーマンスも高いです。ほとぼりが醒めた頃に、また訪ねてみたいものであります。――でも、今年って、7月30日にも土用があるらしいんだよね。

○で、今日のお昼に何を食べたのか。我孫子駅南口の蕎麦屋「きみ吉」さんで、とっても久しぶりの穴子天重のセットでありました。


<7月21日>(火)

○いよいよ解散。これから8月30日の総選挙投票日まで、長いながい夏が続く。もはや勝負あった、などとはゆめゆめ思ってはなりませぬ。勝てると思っても安心してはならないし、ダメだと思ってもあきらめてはならない。この夏を制するものが最後は笑う。ま、受験生のようなものですな。

○そんなことより、明日の天気が心配であります。あれだけ大騒ぎしていたのに、皆既日食が見られないかもしれません。ま、ワシの場合は明日のその時間は新幹線の中にいるので、どっちにしろ見られないのですが。でも実は部分日食は結構頻度が高いし、日本に限らなければ皆既日食を見る機会だってそこそこあるらしいです。下記のような機会は、なかなかに魅力的ではありませんか。

2010年7月11日 イースター島

2012年11月14日 オーストラリア・ケアンズ

2013年11月3日 アフリカ・ガボン(この日は、皆既日食と金環日食の両方が見られるというハイブリッド型です!)

○どうしても日本で、ということならば、2035年9月2日にチャンスがめぐってきます。富山から茨城にかけてのゾーンで見られるのだとか。そのときは、富山の岩瀬浜か茨城の大洗海岸か、捲土重来を期したいものであります。とりあえず26年後まで生きていなければ。


<7月22日>(水)

○日食は、今日はどこまで見えたやら。新幹線の中にいたので、サッパリ分かりませんでしたが、世紀の天体ショーを楽しむことができた人はまことに幸いなるかな、であります。

○お昼に姫路市で、神戸新聞社さん主催の「播磨政経懇話会」の講師を務めました。講演会自体は普通だったのですが、実は姫路に来たのは今回が初めてで、いやしくも「かんべえ」というハンドルネームを使う者としては、これはちょっと恥ずかしいような気がする。黒田官兵衛という人は、今でこそ結構有名でありますけど、ワタクシの場合はその昔、中学生時代に読売新聞紙上で司馬遼太郎『播磨灘物語』の連載が行なわれる以前からのファンでありまして、それなりに筋金入りのつもりです。でも、官兵衛が生を得て、人生を歩みだした姫路城を訪ねたのは、齢48歳になってからなのです。

○講演終了後に姫路城に登ってみました。いやはや、壮大なものでありまして、こんな城郭がよくも残っていてくれたものだと思う。江戸時代には大火にあわず、明治の時代の荒波にもさらわれず、太平洋戦争時の空襲にも焼け残り、今日の姿をとどめているのはほとんど奇跡的かもしれない。世界遺産の霊験あらたかというべきか、外国人観光客が非常に多い。(もっとも姫路出身のこの人に聞いたところでは、昔から外国人は多かったとのこと)。海外の人びとに向かって、「日本の城とはこういうものでした」という具体例が存在することは、この国にとってまことに幸運なことだと思います。

○とはいうものの、これだけの木造建築を維持するということは大変なことでありましょう。姫路市では来年春から大規模な補修工事を行なうとのことで、どの程度の人手と予算をつぎ込むかは見当もつきません。昭和の姫路城改修は、NHKの「プロジェクトX」で取り上げられたというくらいの難事業でしたが、平成でもメンテナンスが求められるはずです。この城を預かるからには、責任重大といえましょう。

○姫路城は歴史上、大きな戦闘が行われたことのない城なのだそうです。むしろ池田輝政が大増築して以降は、西国の外様大名たちに向かって徳川幕府が、「君たち、軍勢を率いて江戸に向かおうとしたって無理だからねー」ということを示すための象徴的建造物であって、美しいことは筋金入りだけど、それほど実戦的な作りであったとは思われない。後にこの城を預かることになる親藩大名たちは、「こんなきれいな城があるばっかりに、カネがかかってしょうがねえ」などとぼやいたかもしれません。

○夕方に大阪に移動して、「グロービス大阪校」の勉強会で講師を務めました。大阪で企業勤めをしながら、夜間や土日に経営学を学んでいる若い人たちが相手なので、ディスカッションに活気があって面白い。2時間少々で切り上げて、近所の飲み屋で宴会。お一人様3000円、というのもお値打ち価格であります。(今宵、阪神タイガースが勝っていれば、さらに安くなったかもしれないとのこと。残念でした)。

○言うまでもなく、グロービスとは「日本版MBAスクール」を標榜する教育機関ですが、やっていることは意外と異業種交流勉強会のノリに近いですね。ワタクシなんぞは、その手の会合をいくつも掛け持ちしてきたので、とっても懐かしい感じでした。なんだか元気を注入してもらったような気がしましたな。


<7月24日>(金)

○神奈川県は造反の季節なんでしょうか。山内康一議員が自民党を離党したかと思ったら、今度は浅尾慶一郎議員が民主党を離党。そう言えば、今回は「世襲」小泉進次郎候補だとか、河野洋平議員の引退後の小田原三つ巴の争いとか、神奈川県は注目の選挙区が多いですね。

○浅尾さんのことは、私もまんざら知らないわけではなし。離党の話だって、以前からチラホラ聞こえてきておりました。それにしても、このタイミングの離党は本物の勇気というべきでしょう。自分の損得を考えたら、絶対に出てこない結論です。個人的に、拍手を贈りたいと思います。

○これに対し、民主党内から「利敵行為」という批判が出るのは当然ですし、処分を受けるのも当たり前でしょう。とはいえ、「次の防衛相がちゃんと次の防衛大臣になれる、あるいはちゃんと防衛政策の舵取りをできる」という保証があるのなら、浅尾氏も離党はしないはずです。本当にやりたい政策がやれるのだったら、そんなチャンスを逃すはずがない。

○「政権与党になれたとしても、所詮は小沢の言いなりか」という屈折した思いが、民主党の若手議員の中にはある。「ウチは風通しの良い民主的な政党です」と本気で言えるのだったら、民主党は「浅尾、外の空気を吸って苦労して来い」と彼を送り出せばいい。自信がないからこそ、「利敵行為」という言葉が出てくる。昔ならそんな料簡の狭い言葉は出てこなかったはず。

○民主党は小沢イズムを受け入れることで、「政策より政局」の政党になった。その結果として、政権にリーチがかかっている。でも、昔の民主党は政策論議が好きな書生集団だった。浅尾氏の離党の報を聞いて、「そういえば民主党ってそういう集団だったなあ」と懐かしく感じました。


<7月26日>(日)

○今週末は、柏まつりでした。柏まつりといえば雨がつきもので、土曜の朝が不穏な空模様だったので、「ああ、今年もジンクス健在か」と思ったけれども、そこから奇跡の挽回を遂げて、見事な夏空となりました。西日本の皆様が身代わりになってくださったのでしょうか。ちょっと申し訳ないような盛夏でありました。

○せっかく晴れたのに、出かけてみるとあんまり暑いものだから、買い食いも見物もそこそこに引き上げてしまいました。(琴欧州の応援をしなければならない、という配偶者の強いリクエストもあり)。柏まつりは、昔は単なる地方都市の縁日みたいなものでしたが、近年はパレードあり、コンテストあり、柏ねぶたありで、駅前の東口、西口の両方で交通規制をかけるという大掛かりなものになっております。J1陥落寸前の柏レイソルは、ちゃんと恒例の「選手を囲む会」をやったのでしょうか。勝って欲しいです。

○不思議なもので祭りというものは、普通の客になってしまうとさほど面白くはないのでありますな。いつも町内会の祭りの次の週なもので、なんとなく脱力モードで終わってしまうのです。その次の来週は、恒例ですと手賀沼の花火大会があるのですが、今年はきびしい経済情勢を反映して中止だそうです。ちょっと寂しいですな。


<7月28日>(火)

○世の中に「戦略対話」(Strategic Dialogue)は何種類あるのでしょうか。きっと膨大な数になるはずですが、いくら世界が広くて国の数が多いからといって、「戦略的な関係」がそんなにたくさんあるとは思えません。

○これはきっと、Strategicを「戦略的な」と訳すから生じる誤解なんだと思います。誤解を避けるためには、この言葉を「とても大事な」と訳せばいい。つまりStrategic Dialogueとは、「とても大事な対話」のことなのです。Strategicとは、中身のない関係に箔をつけるための外交用語であると見つけたり。

○この法則に沿って考えると、従来の米中関係はまさにStrategicのオンパレードでありました。クリントンは中国をStrategic Partner(とても大事なパートナー)と呼び、ブッシュはStrategic Competitor(とても大事な競争相手)と言い換えた。大事だ大事だ、と言ってるだけなので、言われる中国の側も悪い気はしなかったはずである。

○両国間では、2005年8月からStrategic Dialogue(SD)=「とても大事な対話」という次官級会合が発足する。米側はゼーリック国務副長官、中国側は戴秉国外交部長が窓口だった。それが2006年になると、Strategic Economic Dialogue(SED)=「とても大事な経済対話」という年2回の大臣級会合ができる。米国側はポールソン財務長官、中国側は当初は呉儀副首相、後半は王岐山副首相が窓口となり、通商摩擦や人民元レート、知財や政府系ファンドなどをめぐって意見交換を行った。なるほど、どれもこれも「とても大事」なことばかりではありませんか。

○オバマ時代を迎えて、米中関係はますます重要性を増してくる。今までは「米国が使い、中国が作る」という分業体制をとることで、いわば米中がサクセスストーリーを共同制作してきた。2008年のリーマンショック以降は、今度は事態の収拾策を米中で共同しなければならず、互いの信頼関係はますます深まることになる。米中はお互いに、相手に向かって言いたいことがたくさんある。でも、今は我慢している。だってお互いにResponsible Stakeholdersだから。こういう関係は、米中対立でも蜜月でもなく、「米中融合」と呼ぶのがふさわしいと思います。

○米中両国は7月27日と28日両日にかけて、ワシントンで第1回のStrategic & Economic Dialogue(S&ED)を開催しました。ここまで来ると、さすがに「戦略及び経済対話」と呼ばざるを得ません。すなわち、クリントン国務長官と戴秉国国務委員が「戦略問題」を語り、ガイトナー財務長官と王岐山副首相が「経済問題」を語る。外交・安保と経済・金融のダブルドラックで、世界でもっとも重要な二国間関係を討議する。前述の2つの対話が合流した形となっており、米中間の相互交流はそれなりの歴史を積み重ねてきたというわけです。

○もはや両国関係は「G2」以外の何ものでもないですね。そういえば昔、日米中トライアングルなんて言葉がありましたけど、ほとんど空洞化しちゃいました。さあ、どうするニッポン外交。Strategyはどこにあるのでしょう??


<7月29日>(水)

○西日本政経懇話会の講師で福岡県久留米市へ。ブリジストンの城下町で、鳩山邦夫さんの選挙区でもある(選挙の行方は予断を許さないとのこと)。松田聖子・藤井フミヤ、松本零士からミヤテツちゃんまで、多くの有名人を輩出した街でもある。生まれて始めて訪れましたが、なるほど風情のある街とお見受けしました。

○旧日商岩井で同期入社であったK氏が、当地で家業の会社で健闘中である。ということで、K氏と久々に再会。福岡市中洲で痛飲。3次会まで。中小企業経営の難しさと、歓楽街・中州の奥の深さを学習する。なるほど。

○明日は北九州市へ伺います。やっぱり福岡はいいところであります。


<7月30日>(水)

○今朝は早起きして、西鉄グランドホテルから程遠くないはずの福岡城を見てくるつもりであったのです。そうすれば、先週の姫路城に続き、中1週間で黒田官兵衛の人生の始まりと終わりの城を見ることができたわけです。でも、起きられませんでした。いやもう、ホントに深酒でして。帰りを心配せずに呑めてしまうので、午前1時半に入った店で「すいません、満席なので」と断られたりする。中州、おそるべし。

○クラブ・ロイヤルボックスにて、「じゃんけん必勝ママ」こと藤堂和子さんと対戦しました。もちろん負けました。単純にじゃんけんをして、5勝以上差がついたら勝ち、というルールで、ママが百戦百勝なのです。TVなどでも紹介されているらしく、ネット検索すると関連ページがボロボロ出てきます。ちなみに店の女の子の言によれば、「ママは時々、八百長で負けてあげることもある」のだそうで、勝ち負けはほとんどコントロール可能であるようです。必勝法は何なんだろう。ペースの速さにトリックがあるような気がするのですけどねえ。

○藤堂ママ、「中州通信」という雑誌の発行人も兼ねていて、この雑誌が記事といい、レイアウトといい、なんだか懐かしい感じなのである。不肖かんべえが1980年代後半に、会社の広報誌を作っていた頃の感覚に近い。古きよき時代を感じます。正直なところ今のワシは老眼なので、この雑誌の活字は小さ過ぎる。でも、お洒落さを保つためには、このサイズでなければいけないんだよなあ。

○ということで、藤堂ママの怪気炎を全身で受け止めることになりました。「景気対策に有効なのは、交際費の枠をなくしちゃうことですよ。今度政治家の先生方に会ったら言っといてちょうだい」と言われましたので、ここに書いておきます。この政策、政党のマニフェストに入れることはためらわれますが、確かに有効な手段であるように思われます。


<7月31日>(木)

○この月末に出た主要な景気指標の総ざらいをしておきましょう。

鉱工業生産:2008年2月には110.1までいったものが、2009年2月には69.5まで落ち込んだ。わずか1年で3分の2以下になってしまったことになる。それが6月には81.0まで戻すことができた。同じく製品在庫率も、2月の158.5から6月は129.1まで改善している。結果として4-6月期は+8.3%というV字回復。

今までの落ち込みが激しかった分、戻りも早いわけだけれど、その先はというと7、8月の生産計画は+1.6%、+3.3%とやや伸び悩む。全体に輸出の伸びの堅調さに比べると、鉱工業生産の伸びはいまひとつという感じ。やはり設備投資が伸びていない点が心配である。4-6月期GDPはプラス成長は間違いないところだが、不肖かんべえが予測していたほどではないかもしれない。さて、8月17日にどんな速報値が出るのだろうか。

労働力調査:6月の失業率は5.4%と0.2ポイント悪化。史上最悪だった2002年の年平均値と並ぶ。2002年といえば、一般刑法犯が280万件となって史上最悪となった年。この国では失業率と犯罪件数の間に明確な相関関係が見られるのだ。足もとの治安が悪化しているのか、それともこれから悪化するのか。非自発的失業者数が前月比で20万人も増えたとのこと。これでは不況感は払拭しがたい。

ちなみに有効求人倍率は、0.43と史上最悪を更新。「サラリーマンの値打ちが、史上もっとも高まった状態」である。1年前(08年6月)には0.90だったのに、一気に半分以下になってしまった。これほどの雇用情勢の悪化はみたことがない。0.4台だなんて、本格的な少子・高齢化時代を迎えた日本において、こんな数字と二度見えることがあろうとは、正直なところ夢にも思いませんでした。

消費者物価:生鮮食品を除く総合の全国CPIは▲1.7%と史上最大の下げ。これは昨年の石油製品価格上昇の反動が出ているから。いくらこの国は物価下落に慣れているからといっても、デフレスパイラルがいよいよ怖くなってきた。仮に民主党政権誕生で、ガソリン税の暫定税率が廃止され、ついでに高速道路も無料化されたら、物価下落はますます記録的になるかもしれない。

消費支出:名目では減っているのだけど、物価下落のお陰で実質では+0.2%に。エコカー減税+補助金による新車販売台数の増加や、エコポイント制による家電販売の好調などの効果を反映している。つまり政策による不要効果が小さくない。問題はこれから先であって、政策効果が切れた後で真価が問われよう。

○総じて言うと、あまり楽観的にはなれません。そこでひとつ楽観的な指標をご紹介しておきましょう。

●「笑点」の視聴率が低下しているので、景気は良くなる公算が大。

○この手の分析は、宅森昭吉氏さんの独壇場である(そういえば、水曜日に羽田空港で宅森さんとバッタリ会ったっけ)。今週、ブルームバーグで流れた宅森さんの分析は以下の如し。


 ビデオリサーチの1週間ごとの視聴率ランキングで四半期ごとに「その他娯楽番組」の視聴率で「笑点」が第1位をとった回数が調べられるが、その回数が実質GDP成長率と相関がかなり高い。

 通常、「笑点」が第1位をとるのは各四半期だいたい0〜1回である。しかし、実質GDP成長率が前期比年率2ケタマイナスだった10〜12月期、1〜3月期は各々6回、5回とかなり多かった。景気が悪く暗い状況になるとお笑いで嫌な気分を吹き飛ばしたいという人が増えるのだろう。また、日曜日の夕方に外出せずにテレビを見ている人は、外でお金を使わないという状況下や、生産調整で日曜だけでなく平日にも休みがあるといった状況下で増加しやすいのだろう。

 「笑点」の第1位は4〜6月期では1回にとどまった。「笑点」の視聴率からみて実質GDP成長率は改善しそうだ。なお、7〜9月期は7月19日まででまだ第1位になっていない。


○なるほどマインドは好転しつつあるようだ。問題はこの先であって、どうも8月は何か不穏なことが起きるような気がして仕方がない。天候不順とか円高とか、どうも1993年パターンを踏襲しそうなんだよな。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki