<10月1日>(日)
○やはりオリンピックイヤーであった1996年、ニュージーランドのクライストチャーチで行われた「日本ニュージーランド経済人会議」に参加しました。この会議で、ウィルソン・ウィナレーさんという地元の大企業の会長さんが、晩餐会のスピーカーとして登場したことをよく覚えています。ウィナレーさんはただの経営者ではなく、あのオールブラックスの元キャプテンなのでした。若いときは世界最強のラグビーチームを率いて各地を転戦し、その後は同国を代表する企業の役員として活躍し、現在は第一線を退いた日々とはいえ、要するに文武両道、ニュージーにおいては一種の国民的英雄なのでした。
○そのウィナレーさんのスピーチは見事なものでした。冒頭からえんえんと馬鹿話を始めて思い切り聴衆を笑わせ、それからスポーツと経営の共通点について存分に語りました。そして最後に、「オリンピックは価値があると思うか?」を問いかけました。最近のオリンピックは金がかかりすぎるし、国歌の威信を背負ってしまっているし、薬物使用の問題はあるし、こんなことをいつまでも続けてどうするんだ、という誰もが感じている疑問です。
○でもいいじゃないか。オリンピックのおかげで、世界中から集まったアスリートたちが、「あの年の1ヶ月間、僕らは世界中の人たちと同じ釜の飯を食べたんだよ」と言えれば、それで十分じゃないか。ウィナレーさんの結論はそういうことでした。そして「今宵、同様に皆様と食事をともにする(break
the bread)機会を得たことを、無上の光栄に存じるものであります」と言って締めた。拍手。
○オリンピックが問題山積であることは、見ている人はみんな知ってます。でもまあ、こうやって世界が平和で、200カ国もがスポーツの祭典に参加するってことが悪い話であるはずがありません。開会式が不手際だらけでも、審判に間違いがあろうが、ドーピング疑惑が繰り返されても、所詮は人間がやることなんだからそれでいいんです。ありがとうシドニー。
○ちょうど1週間後に、筆者はまたまたニュージーランドのクライストチャーチに行き、経済人会議の仕事をしてきます。今度はシドニーオリンピックの直後。ウィナレーさんは出てきませんが、ふと4年前を思い出してしまった閉会式の今日。
<10月2日>(月)
○1992年のことでした。某経済誌の記者を務めていたS氏が、「シマゲジを呼んで勉強会をするから来ないか」とのお誘い。当時、すでに島桂次氏はNHK会長の座を追われ、失脚状態にあった。こちらは『シマゲジ風雲録』なんぞを読んだ直後だったから、ほいほいと出かけてみれば、なんともシャビイな会場でシャビイな弁当が用意してある。こんなんで本当にシマゲジ御大が来るんかいな、と思っていたら、ちゃんと黒塗りのクルマに乗って現れた。
○聞き手として集まったのは、30歳前後のジャーナリストや政治家秘書たちである。シマゲジさんは、「日本の政治をどうしたらいいか」「マスコミはどうあるべきか」といった、言ってみれば新味のない話を延々と飽きずに続けた。海千山千の中を泳ぎ渡り、高い地位にたどりついた人のわりには、熱いものを持ちつづけた人なんだということはよく分かった。当時旗揚げしたばかりの日本新党に期待を寄せる一方、「細川なんて佐川のカネもらってるのに、どうするんだ」などとも言っていた。
○その日、集まった聞き手の中には、その後たいへん長いお付き合いになるK氏がいたという話は別の機会に譲るとして、正面に座っていたアイビールックの男が印象に残ったのである。永田町の現実を語っていたかと思うと、突然「そんなことでは平成維新は出来ない」などと理想論が飛び出す。あとで名刺交換をしたら、石原伸晃衆議院議員の政策秘書だと分かった。それから話はいきなり6年後に飛ぶ。
○1998年6月、岡崎研究所のKJシャトルという日韓の国際会議に、半分冷やかしでもぐりこんだ。会場となる広島県呉市のホテルに到着したら、泊まるべき部屋の鍵が開かない。相部屋の人間が先に到着して中から鍵をかけ、そのまま寝てしまったらしい。前日アメリカから着いたというだけあって、なかなか起きてくれない。夕方になって、「ああよく寝た」といって現れたのが6年前のアイビー男である。「どこかで会いましたよね」。彼はその後、ワシントンに移って政策研究を続けていたのだった。それが長島昭久氏なのである。
○会議では当方はほとんど役立たずだったが、長島氏は大活躍だった。当方が早々と寝こんでしまうそばで、翌日のプレゼンテーションの準備を夜遅くまで続けていた。聞けば、「日韓の和解は僕のライフワークなんです」などと言うではないか。私と年はあんまり変わらないのだけど、よっぽど偉いのである。その後も長島氏は、安全保障関係の論文を方々に発表して、論客としての評判を高めていた。ということで私もちょっとだけ心を入れ替え、あとからCSISへの論文を書いたりした次第である。
○研究者としての道は、長島氏の最終目的ではなかったようだ。このたび帰国して、選挙に出馬することになった。山本譲司・前衆院議員の議員辞職に伴う衆院東京21区の補欠選挙に、民主党から立候補する。前回の選挙で次点だった自民党の候補者と、無所属で立候補している川田龍平君の母君(薬害エイズ事件の原告)が相手。典型的な落下傘候補だが、なにしろタマはいい。10月10日告示、10月22日投票、ということだから、ここで宣伝するのは選挙違反にはならないよね。東京都立川市あたりなんだけど、お住まいの方は気にとめてください。
<10月3日>(火)
○オリンピックが終わったと同時に、ユーゴでもパレスチナでもきな臭くなってきました。日曜日までは、みんなテレビでオリンピックを見てたんだろうけども、ふと我に返ると現実に対する怒りが込み上げてきた、てな感じじゃないでしょうか。ルワンダの内戦が、サッカーの放送がある日は下火になったという故事もある。オリンピックは平和の祭典とまではいえないが、少なくとも内紛の抑止力程度の効果はあるらしい。
○そうそう、98年2月にアメリカが今にもイラク空爆をやりそうになったことがあった。あのとき、日本政府がもっとも心配したことは、「長野オリンピックの最中に、戦争が始まったらどうしよう」だった。でも、見方を変えれば、アメリカ政府側には「イラク空爆を始めたその日に、アメリカ人選手が金メダルを取ったらどうしよう」という悩みがあったはず。余人はいざ知らず、クリントンがそれを考えないはずがない。もしも長野五輪がなかったら、あのときアメリカはイラク空爆をやっていたかもしれない。
○で、問題はイスラエルである。93年9月の「歴史的合意」からえんえん7年かけた交渉が、もとの木阿弥になりつつある。双方のフラストレーションは相当なものだろう。やはり95年11月のラビン首相暗殺が決定的だったと思う。なにしろこの問題、ユダヤ人側が思い切り譲歩しないことには片付かない。それを国民に説得できる指導者なんて、そうそういるもんじゃない。ラビン後のイスラエルは、ペレス、ネタニヤフ、バラクと首相が入れ替わったが、そんな決断が出来るような勇気と政治的基盤を持った政治家は現れていないと思う。ということで、相当な事態の悪化を織り込まなければならないでしょう。
○ところでパレスチナ人が投石しているのに対し、容赦なく機関銃をぶっ放している映像がしょっちゅう流れてくる。あれは印象が悪いなあ。いっそのこと人工降雪機を用意して、イスラエル全土に雪を降らし、イスラエル対パレスチナの大雪合戦大会をやってもらってはどうだろう。双方にとっていい「ガス抜き」になると思うがなあ。・・・・というのはいささか不謹慎でした。ハイ。
<10月4日>(水)
○いよいよ米国大統領選挙の第1回テレビ討論会が実施されました。忙しいからHPを見に行く暇なし。でも大きな波乱はなかったようで、それだったら気にしなくてもいいか、と自らを慰めています。波乱がなければ、小さくてもリードしている方が有利なわけで、そういう意味ではゴア有利。でも最近の株式市場の大荒れムードを見ると、何があってもおかしくはない感じ。
○ひとつだけ気になったことを書いておきます。なんで二人とも「ダークスーツにえんじ色のネクタイ」なの?両者ともにいちばん無難にまとめてきたわけですが、ここはファッションで点を稼ぐ大きなチャンスだったのではないかと思いました。そうなると気になるのは、「次はどんなスーツとネクタイで出てくるか」。せめてネクタイくらい、遊びがほしいと思います。
○次は10月5日(木)に副大統領候補同士の討論会があります。リーバーマン対チェイニーという対決も、これは大いに見物。というより、大統領同士よりも面白いかもしれない。ゴア対ブッシュを、「カンガルーの戦い」(後ろ足の方が、前足より強い)と呼ぶくらいですから。「こっちの方が、よっぽど大統領らしく見える」みたいなことを言う人がかならず出てくるだろうな。筆者はリーバーマン演説を方々で推奨してしまいましたので、こっちは本当に見てみたい。忙しいんだけど。
<10月5日>(木)
○今日は1年ぶりの成人病検診。あと3日で40歳だというわりには悪いところはなくて、「体脂肪率19%」と「血圧が上が120で下が80」というのは看護婦さんに誉められました。「視力が両目とも1.5」は、小学校の頃からずっと続いていることなのですが、今日の感じでは左目はもっと小さくても見えそうでした。ほとんど老眼が始まりかけています。問題はコレステロール値で、これは毎年「C」の評価をいただいています。たぶん今年もそうでしょう。
○検診の最中、同じ10月生まれで間もなく40歳を迎える同期のKと一緒になりました。元ラガーマンで、文字通り殺しても死なないような頑強な男なのですが、今日話したら「オレ、去年、胆のうを取ってねえ」と言うではないか。ひえーっ、そんなことになったら、ワシなんか死んでしまいそう。Kが言うには、人間の臓器にはなくても支障がないものが結構あるんだそうで、そりゃ心臓と肝臓はさすがにまずいけど、手術で取り去ることができる臓器は少なくないんだそうだ。まるでウィンドウズのプログラムみたいな話だが、人間の体は再インストールは効かないよね。
○大学生のときに奥歯が1本根っこから化膿して、痛い思いをして抜き、現在そこはブリッジをかけています。歯の1本だってなくなるのは悲しいことで、できればこの後は1本だって失いたくありません。歯並びが悪いので、昔は抜いて矯正しようかと思ったこともあったのですが、その後は「自前」にこだわることに決めて今日に至っています。なんとも小心な話なんですが、「健康は命より大切」。そのためには嫌なバリウムだってちゃんと飲みます。
○問題はしかるべき健康法が皆無なことで、スポーツなどまったくやってない。方々で不義理を重ね、出張を前に宿題を山積みにし、今日も会社ではいっぱい冷や汗をかいてしまった。家に帰ると、10時から延々と今週の「溜池通信」を書き、午前0時からはウイスキーを飲み始め、1時を過ぎたらこんな駄文を書いている。これが連日なんだから、ストレスを作っているのか、解消しているのか。と、いささか愚痴っぽくなったところで、いい加減にして寝ることにいたします。皆様も体には気をつけて。
<10月6日>(金)
○これを書いている現在、ダイエーはロッテを1点差で追いかけていい勝負をしています。西武は勝ちそうな感じです。このあと波瀾があって、今夜のうちに優勝が決まればいいなと思います。親会社は満身創痍の状態ですが、今夜決めれば、土曜日の明日から優勝セールができます。ダイエーにとっては「干天の慈雨」でしょう。
○さて、本誌のloyal readerであるS君から、こんなメールを頂戴しております。こないだの「官兵衛とかんべえ」で巨人の悪口を書きましたが、「巨人ファンの私でさえ、今年のシリーズはダイエーの圧勝を期待しています」とのこと。
「工藤、江藤を取り采配いらずを選択した巨人に対し、その工藤を抜かれてなおリーグを制したダイエー王監督。ON対決というお祭りではありません。大自然の猛威に人間の英知が挑むという構図ではないでしょうか。やすきよ漫才とかOFF対決とかいわれてしまいますが、私は王監督の采配と人心の結集能力を見せ付けて欲しいと思います。
と、ここまで書いて恐ろしいシナリオが浮かんでしまいました。巨人をめったうちにして2年連続日本一になったダイエーナイン。勇躍更改にのぞむが微増さえ獲得できず、主力が続々と某金持ち球団にトレードされてしまう。まあそれはありませんよねえ、今年は…」
○付け加えるべきことは何もありません。こういうファンの声が、ナベツネさんや長嶋さんに届いてほしいと思います。
<10月7日>(土)
○国会が荒れております。いわゆる非拘束名簿式というやつが原因。与党は完全に党利党略で新制度を入れようとしているわけですが、野党の頑なな反対姿勢も理解しにくいところがあります。
○選挙制度は、議員さんたちにとってみずからの生き死ににかかわってくる問題です。サラリーマンの給与、官僚のポストと同じくらい切実な問題なのです。だから選挙制度を変えるときは、「議員立法」で「与野党相乗り」で決めることが慣例になっています。要するに「お手盛り」が普通なわけ。衆議院における小選挙区制導入で、いくつもの内閣がつぶれました。今年の年初には、参院定数を20減らすためにひと騒動していたのも記憶に新しい。今回のように与党が数で押し切るというケースはめずらしいのですね。
○だからといって、選挙制度問題を国家の一大事のようにいわれても共感は出来ませんわなあ。個人的には名簿に順位があるよりは、ないほうが透明性が高くなっていいと思うし。今回の制度改正は、「これだけ人気が落ちると、もう“自民党”とは書いてもらえない」という焦りとともに、自民党内部が「名簿の順位付けができないくらいに統制が取れなくなった」ことも意味しているわけで、だったらやりたいようにやらせておけばいいのに、というのが正直な印象です。
○国会議員が選挙制度問題に真剣になっているのを見ると、非常に興ざめな感じがしてなりません。「悪いけど、有権者はそんなこと気にしちゃいないんだけど」と言ってあげたいな。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki