●かんべえの不規則発言



2016年12月








<12月1日>(木)

○今年の新語・流行語大賞が発表されました。年間大賞は「神ってる」でした。うーん、去年の「トリプルスリー」もそうだけど、流行語大賞はプロ野球を贔屓しておるようにみえますな。というか、12月1日の発表日当日に、確実に来てもらえそうな受賞者ということになると、この時期に暇なプロ野球選手になるのかもしれませんな。

○例えば小池都知事(「都民ファースト」や「盛り土」などが候補)を呼べるかと言うと、流石に本日はご多忙であったようであります。なにしろ彼女には、「日本で一番嫌われている森さんを敵に回している限り、自分の人気は安泰」という戦略がありますからな。しかしこんな風に対立の図式を作って、その分、工事が遅れるのでは関係各方面に迷惑が及ぶし、結果的にコストアップにつながるような気がしますぞ。

○それはさておいて、「神懸っている」という言葉が転じて「神ってる」になるのは、いかにも「言葉は生き物」という感じがします。「神懸り」というと、いかにもおどろおどろしい雰囲気になってしまうけど、明るいマツダスタジアムのカープ女子たちにそれはなじまない。鈴木誠也選手も今風の若者なので、やっぱり「神ってる」方が適しているのでしょう。

○ちなみに本日、不肖かんべえは仕事で茨城県鹿嶋市に行ったついでに、鹿島神宮に参拝してきました。今日のように雨の降る日にパワースポットを歩いていると、いかにも神様が上から見ているように思われて、少しだけ自分が「神ってる」ように思われたのでした。いや、別に霊験あらたかで、サヨナラホームランを打てるというわけではないのですが。


<12月2日>(金)

○IR法案ことカジノ法案が衆院の内閣委員会を通ったとか。いやあ、ホントにここまで来ましたか。まだまだ参院もあるので、先は分かりませんが、公明党が大人の対応をしてくれたということでありましょう。

○博打好き人間の端くれとして、少しでも同法案へのご理解を得たいと存じます。以前に連載していたウェブ・フォーサイト「遊民経済学への招待」で、IR法案についてこんなFAQを作りました。この問題、まことに初歩的な誤解が多いので、ギャンブル嫌いの皆様におかれましては、とりあえず以下の程度のことは知っておいた上で、ご批判をいただきたいと願うものであります。


Q:カジノを作れば、反社会組織の温床となるのではないか?

A:新たなカジノ組織は農水省傘下のJRAのように、どこかの官庁の外郭団体になるわけではなく、ラスベガスと同様な委員会方式で、民間のカジノ事業者を規制する方式が取られるだろう。ラスベガスがマフィアの影響力から脱するようになったのは、1959年にネバダ・ゲーミング・コントロール法が作られ、厳しい管理と監視が行われるようになってからである。犯罪者と犯罪組織関係者は、カジノ経営に携わるのはもちろんのこと、顧客として入場することや従業員として働くことも規制される。


Q:誰でも簡単にカジノに入れるようにするのは危険なことではないか。

A:カジノでは外国人客は無料だが、日本人客からは数千円の入場料を取る予定。ちなみにシンガポールのカジノでは、外国人はフリーパスだが国民に対しては1日8000円、年間パスだと16万円程度の入場料を課している。ひとつには、国内の既存巨大産業であるパチンコとの「棲み分け」を考えなければならないという理由がある。パチンコは日常的な庶民の娯楽(とはとても思えないのだが)、カジノは非日常感覚を楽しむ大人の道楽、という位置づけになるだろう。


Q:それでも依存症は出るのではないか。

A:2005年にシンガポール政府がカジノ導入を決定した時も、この点が最重要課題となった。そこでさまざまなセーフガード措置(未成年者の立ち入り禁止、第三者要請による顧客排除プログラム、広告の禁止、ATM設置の禁止など)がとられた。ただしギャンブル依存症はかならず出ると考えなければならない。これはカジノを認めることに伴う社会的コストの一部であるから、カジノは業界を挙げて取り組むべきである。依存症対策についてはアメリカでも多くの先行事例があり、リスクをコントロールするためのさまざまな努力が行われている。この点、日本国内で既に行われているギャンブルであるパチンコ、公営競技、宝くじなどとは対照的といえないだろうか。


Q:カジノを認めるだけで、それだけ大きな産業になるのだろうか。

A:今日のカジノ経営においては、ギャンブル以外の家族向けアトラクションも用意しなければならない。そしてお得意様に対しては、「コンプ」と呼ばれるきめ細かな割引を実施する。大きく賭けて遊んでくれるお客さんには、宿泊費や食事代はオマケしてくれる。さらには巨額な賭けをしてくれる「ハイローラー」と呼ばれる超お得意様に対しては、ジェット機での送迎に始まるVIP待遇でもてなす。今日のカジノ産業は複合的なサービステクニックの集大成であって、単なる「ギャンブルができる場所」ではなくなっている。日本でカジノを開く際には、日本ならではの付加価値を付けられるかどうかがカギとなるだろう。


○これ、誰かがかならず言い出すと思いますが、日本に投資したいと念願している最有力企業はラスベガス・サンズというカジノ運営の上場企業です。そして同社会長のシェルドン・アデルソン氏は、ドナルド・トランプ次期大統領にとって最大の支援者なんですよね。職務権限の問題がありますから、「ラスベガスサンズが大阪湾の夢洲に投資をし、そこにトランプ・カジノが誕生する」なんてことはできないでしょうけれども・・・。


<12月3日>(土)

日経CNBC全国行脚ツァーで二子玉川へ。ワシは一応「豪華ゲスト」ということになっておるのだが、そんなんでいいのだろうか。

○柏から二子玉川までは遠かった。しかもルートがほとんど無数にある。悩まないように、上野と表参道経由という、もっとも分かりやすいルートを選ぶ。1時間20分くらいかけて二子玉川駅に着いたが、周辺の施設があまりにも多く、しかも地図も不親切なものだから、なかなか会場にたどり着けない。さらに天気のいい土曜日のお昼なもんだから、イベントも多いし、人も多過ぎ。

○先日、東急グループの人と話した時に、「今沿線でいちばん活気があるのはどこですか?」と聞いたら、「そりゃあもう断然、二子玉川ですよ」と力強く言われた。内心、自由が丘とか田園調布とか中目黒といった名前を予想していたので、ふふーん、そんなに変わったのか、と驚いたものである。独身寮時代は宮前平に住んでおったので、いちおう田園都市線沿線の住民であったのだ。

○ということで、二子玉川のお客さんを相手に、トランプ次期政権とマーケットへの影響に関する見立てをあれこれ語る。とはいうものの、トランプさん自身がよくわかっていないものを、ワシらがどうやって予想すればいいのか。

○その一方で、台湾の蔡英文総統と電話会談した、なんて話が飛び込んできた。これは中南海に激震が走ったことでしょう。中台関係の現状を変えてしまいかねない行為ですからな。この報道を見ると、米台双方でいろんな下工作が行われていたようである。ちなみに共和党のプラットフォームで台湾に関する記述が長かった、という話は当欄の今年7月20日付で触れております。ご参考まで。


<12月4日>(日)

○本日は午後から群馬県太田市へ行ってまいりました。そこで聞いた「ニューイヤー駅伝」に関する噂を少々。


●群馬県庁からスタートして県南部を回り、再び県庁がゴールとなる。道路状況がよく、高低差は少なく、元日に雨や雪が降る確率もきわめて低く、駅伝にはうってつけと言える。風が強いことは、まあ、適度な試練ということで。

●県南部の主要都市を、前橋→高崎→伊勢崎→太田→桐生と反時計回りに回る。桐生市は後になってから、「やっぱりウチも入れてくれ」とねじ込んできて加わった。コースに入れない館林市や渋川市としてはあまり面白くない。

●沿道に面している広めの家に住んでいる人は、お正月になるとお友達が一杯やって来る。テレビを見ていて、「おっ、そろそろ来たぞ!」となると皆で外に出て応援する。テレビに映ると、「お前を見たぞ」というメールが入る。

●今ぐらいの時期から、練習のためにコースを走る実業団ランナーが増え始める。沿道の家は、ときどき地元の地理に明るくないランナーから、「トイレ貸してください!」と頼まれることがある。

●お正月に中継地点である市役所辺りに出かけると、街中の主要な人物が揃っているので、まとめて新年のあいさつを済ませることができる。地元の富士重工関係者などは一網打尽である。


○そうなんですよねえ。正月2日からは箱根駅伝なんだけど、お正月はニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)に限ります。といっただけで、山崎パンのCMまで思い浮かんでしまう。TBSにとってはまことにありがたい番組じゃないかと思います。

○芸能人がいっぱい出てくるようなバラエティ番組が苦手な一家としては、正月三が日の昼間は駅伝に限りますよねえ。どこを応援しているわけでもないのに、つい見てしまいます。箱根と違って、変にナショナリスティックにならないところも好感が持てます。

○ナショナリスティックといえば、本日のイタリアの国民投票とオーストリアの大統領選挙はどうなるんでしょう。Brexitやトランプの時と違って、皆さん心の準備ができているから、サプライズということはないと思いますが。


<12月5日>(月)

○ふと思いついたのですが、カジノ法案が通るということは、解散はしばらく先になるのではないでしょうかね。

○とりあえず公明党さんは、来年6月の都議会選挙が最優先で、その前後3カ月間の選挙は止めてくれ、と言ってるらしい。そこで自民党側が、わかりましたよ、来年の秋以降にするから、その代わりにこっちの要望も聞いてくださいよ、とねじ込んだのがカジノ法案だったのではないか。そこで公明党としては、大人の対応をした。

○今の幹事長は観光族であるし、官房長官は地元横浜にIRを誘致したい。そして維新の会はもとよりカジノ賛成です。大阪の自治体におカネが落ちるし。実は民進党内にもカジノ賛成派議員は大勢いるのですが、今は声を潜めているようです。

○解散が先に延びるということは、対ロ関係であまり大きな前進が期待できそうにない、という現状とも整合性がある。そりゃあプーチンさんの身になって考えてみれば、ヒラリー・クリントン政権は究極の反ロ政権になるけど、ドナルド・トランプ政権ならば当面は高みの見物だからね。

○そうかと思ったら、安倍さんが真珠湾に行くと言い出した。明後日12月7日は真珠湾攻撃75周年なんですが、そういう特別の日ではなくて、ごく普通の日に行く。オバマさんは当然、付き合ってくれます。ご自分の地元だしね。これって、「悪いなあ、先日はトランプさんのところへ駈け込んじゃったけれど、けっしてアンタのことを忘れたわけじゃないからね。いろいろあって、俺も辛いのよ」というフォローかもしれませんな。

○まあ、考え過ぎかもしれませんけれども、こういう機微は面白いですな。


<12月7日>(水)

○今日はアメリカでは真珠湾攻撃の75周年です。日本では12月8日となります。これは日付変更線をまたいでいるからで、そのこと自体は広く知られている事実でありましょう。

○真珠湾奇襲攻撃を描いた日米合作映画『トラ!トラ!トラ!』の中には、なんとあの渥美清が登場して、これの日付変更線について講釈するくだりがあります。ベテラン炊事兵に扮した寅さんが、松山英太郎演じる新米の炊事兵に向かってこんなことを言ってからかう。

「お前、今日が何日だか知ってるか?」

「12月1日だろ」

「違うんだなあ。11月30日だよ」

「冗談言うなよ。なんで今日が昨日になっちまうんだ」

「そんなこと言うなら、今は13時なのに、なんで俺たちは晩飯の準備をしているんだよ」

○新米の炊事兵はこの理屈がなかなか理解できない。そこでとうとうこんなことを言う。

「その日付変更線をまたいで戦争になったら、大変なことになるよな。だって、今日の味方が撃った弾は、昨日の敵には当たらないだろう」

○この理屈には寅さんも参ってしまい、目を白黒させるのでありました。ごく短いシーンですが、『シン・ゴジラ』における片桐はいりさんのお茶くみシーンのように鮮烈に記憶に残ります。ちなみにこのシーン、アメリカで公開されているバージョンではカットされています。なぜならアメリカ版では、「パールハーバーは12月7日」で統一されているから。

○とまあ、こんな風に日米ではいろんな「すれ違い」が存在します。だからこそ修復が必要なわけでありまして、安倍首相が真珠湾を訪問するというのは非常に良いことだと思います。12月26-27日という日程は、たぶん日中韓首脳会談のために空けておいたのでしょうが、パククネさんが来れそうにない現状では、ハワイ行きがピッタリ間に合ったというわけ。

○あらためて考えてみれば、第2次世界大戦の歴史を閉じるためには、「オバマさんと一緒」でなければならなかった。これがトランプさんが相手じゃ、ぶち壊しになりますものね。最後の安倍=オバマ会談が年末にハワイで行われることになる。願わくばいい演説といい写真が残りますように。

○来年1月20日にトランプ次期政権が発足したら、あらためて日米首脳会談の時期を模索することになるでしょう。その場合は、きっとゴルフも一緒ですね。2月だとまだ寒いから、「フロリダでゴルフやろう」なんてことになるのかも。トランプさんという人は、あからさまな嘘をつく人ではありますが、ゴルフの約束は違えないような気がします。


<12月8日>(木)

○その昔、プロ野球が今よりも華やかであった頃、タイガースが勝った翌日にワシはしばしばデイリースポーツを買ったものである。阪神ファンとしては、基本ですよね。ところがトラキチの仲間には、「巨人に勝った翌日は、敢えて報知新聞を読むのが通である」という同志も存在した。報知新聞を読むと、巨人ファンの歯ぎしりの音が聞こえてくる、ああメシが旨い!というのである。

○これには単なる嫌味以上の一面があって、阪神ファンの目には「掛布の打球はライトスタンドに高々と舞い上がり・・・」と映ったのと同じ試合が、巨人ファンの目には「江川の100球目は魅入られたように甘いコースに入り・・・」と記憶されているのである。つまり相手の側から見ると、同じ試合でもまったく違った景色になる。だからときには人間、逆の側から物事を見るような習慣をつけるべきでありまする。

○で、何が言いたいかというと、岩波書店の『世界』1月号がとっても面白いのである。具体的に言うと「トランプのアメリカと向き合う」という特集がすばらしい。その中でも白眉は、渡辺将人北海道大学准教授の手による『アメリカ政治の壁とリベラルの敗北』である。勝った側のトランプ陣営からではなく、負けた側のヒラリー陣営側から今回の米大統領選を描いている。米民主党の歯ぎしりがうっすらと聞こえてくる、といったら怒られるだろうか。

○どんな政党にも「利益で支持する人」と「理念で支持する人」がいる。余計なことを言うと、日本の民進党がなぜダメかというと、後者の人ばっかりで前者が足りないからだと思う。その点が永遠に、自民党に追いつけない差なのであろう。しかも「理念で支持する人」は、どうかすると「利益で支持する人」の存在を低く見たりする。政党としては、それじゃダメじゃん春風亭昇太です〜、になってしまうのだ。

○2016年米大統領選挙において、民主党はフェミニストにLGBTに環境保護派など、「理念で支持する人」が多くなり過ぎた。文化的なリベラル旋回をやってしまったのだ。このことは同性婚や人工妊娠中絶に反対するカトリックの離反を招いた。石炭地域たる「コールベルト」も敵に回してしまった。確かにペンシルベニア、ウェストヴァージニア、ケンタッキー州など炭鉱が多い州では、共和党票が4年前に比べて優位に増えている。支持者をどんどん狭めてしまったのだ。

○その一方で、民主党を「利益で支持する人」は、トランプ陣営に引っ張られてしまった。何しろ彼は、「大きな政府の共和党」というハイブリット候補である。労組から見ると、インフラ投資もやってくれるし、TPPにも反対してくれるからありがたい。マイノリティに対して不寛容なトランプを警戒しながらも、「トランプでいいこともある」という事実は厳として存在した。

○ともあれ、勝てるはずだった大統領選挙を落とし、議会でも共和党に多数を握られ、来年で逆転するはずだった最高裁判事の比率も元の木阿弥となって、民主党の前途は明るくない。ここからどうやって立ち直るか、という議論はデイリースポーツには書いてなくて、報知新聞を読まなきゃいけない。いや、いつもの『世界』はワシにとって、まったく読むところが見当たらない雑誌なのでありますが。


<12月9日>(金)

○山梨中央銀行さんの講演会で甲府へ。9月に山梨県立文学館の「北杜夫展」に行って以来である。

○いつも通り、日帰りであっという間に帰ってしまうのだが、いくつか山梨県について学習したことをメモしておきます。

1.懇親会のテーブルに置いてあるのは地元産のワインである。最近は「乾杯条例」を作って、乾杯の時は必ず地酒で、というところが増えておりますが、ブドウの産地、山梨県としてはやっぱりワインなのであります。

――本日、いただいたなかでは、特にシャトレーゼの白ワインが旨かったな。今度買って来よう。

2.「富士山効果」で、インバウンドが急増している。外国人観光客が都市部から地方に拡散しているといういい例でありますね。そういえば、行きの「あずさ」の中にも、車内に賑やかなインド人一家がおりましたな。

――これは地元の方によるクイズ。「外国人の中には、せっかく来てくれたのに温泉に入らない人が居る。どこの国の人か?」→「答えはイギリス人。その心は、『いい湯(EU)には入らない』」

3.最近の地元におけるもっぱらの話題は県内出身の卓球選手、平野美宇(16歳)。国際卓球連盟からも、「もっとも躍進した選手」として表彰を受けたようです。

――すでに本人は活躍の場を中国に移しているそうですが、地元では「まだ妹(世和ちゃん)がいるから」とのこと。


<12月10日>(土)

○昨年、新潮ウェブフォーサイトで連載しておりました「遊民経済学への招待」がようやく本になりました。新潮新書からです。詳しくはこちらをご参照ください。



気づいたら先頭に立っていた日本経済

吉崎達彦/著

864円(税込)

発売日:2016/12/16


金融を緩和しても財政を拡大してもデフレは一向に止まらない。それは先進国に共通した悩みである。しかし悲観することはない。経済が「実需」から遊離し、「遊び」でしか伸ばせなくなった時代、もっとも可能性に満ちている国は日本なのだから。ゲーム、観光、ギャンブル、「第二の人生」マーケットと、成長のタネは無限にある。競馬と麻雀を愛するエコノミストが独自の「遊民経済学」で読み解いた日本経済の姿。




○ようやく見本刷りが手元に届いたところ。書店に並ぶのは来週後半になります。もしもよろしければ、今からアマゾンで予約注文 していただきますと、まことにありがたく存じます。そうすると、「お、この本、売れそうじゃない」ということになって、「重版出来」が近づくという算段でございます。

○そういえば週明けはいきなりIR法案が佳境を迎えます。本書にとってはいいタイミングかもしれません。トランプ疲れには「遊民経済学」がちょうどいいと思いますぞ。


<12月11日>(日)

○この季節恒例の日本貿易会、貿易動向調査が12月7日に発表されておりました。こちらをご参照。

○特に今年は参考資料がよく頑張っていると思います。

1.「スロー・トレード」の影響が出ている!

*スロー・トレードの背景は・・・
世界経済の停滞や投資不足、中国等における内製化の進展、グローバル・バリューチェーンの飽和など

*日本貿易への影響は・・・
  ・輸出入の停滞・・・対中国電気機器など
  ・自動車、原動機・建設機械などの一般機械で海外現地生産シフトが進展し、
  ・部分品の内製化や現地調達の動きも

*今後、世界的に保護主義が台頭し、メガFTA交渉の停滞といった事態が現実のものとなった場合は、貿易の拡大ペースが一段と抑えられる可能性もある。

2.足元の貿易黒字は、輸出の増加ではなく、主として資源価格下落による輸入減少によってもたらされている!

*「スロー・トレード」下で貿易額の大幅な増加が見込めない中、資源価格が収支を大きく左右する貿易構造になっている。
*2016年度は6年ぶりに貿易黒字に転化するも、2017年度は原油価格の上昇で貿易黒字は縮小。

3.日本の稼ぎ方の幅が広がってきた!

*第一次所得収支・・・海外からの利子・配当等により高水準で推移
*サービス収支・・・旅行収支の黒字傾向が定着


○ひとつひとつ実感するところです。スロートレードだけど、資源価格は下がっていて、保護主義がちょっと心配、という今の世界経済が良くえがかれています。

○とはいえ、全体に今年は2017年の予測が円高(1ドル105円)を前提としておりますので、輸出(70.5兆円)はこの予想以上に伸びると思います。輸入はほかにもいろいろ学ぶべき点が見つかると思いますので、ご覧いただければ幸いです。


<12月12日>(月)

○本日は新社屋になったテレビ東京の「モーサテ」に出演。新しいスタジオは天井が高くて爽快でした。

○特集テーマは「カジノ法案を解剖」。臨時国会閉幕まであと2日、果たしてどうなりますか。

○今日のオマケはこちらです。新装なって広々とした報道局で撮影しております。

○今日の経済視点は「遊民経済学」。厚かましくも拙著の宣伝をやらせてもらいました。

○今週は非常にイベントの多い週ですね。特に15日木曜日は重なります。@FOMCの利上げ(日本時間)、Aプーチン大統領の訪日、B日銀短観、Cトランプ次期大統領初めての記者会見、などです。これらの材料をマーケットがどのように消化するのか。非常に見どころの多い1週間の始まりとなります。


<12月14日>(水)

○トランプ次期政権の国務長官に、レックス・ティラーソン・エクソンCEOが指名されました。うーん、大丈夫なのかなー。いちおう、副大統領、下院議長の次のポストということになっているんだけど、やっつけ仕事で決めたように見えてしまいます。そもそも大統領と国務長官が揃って元経営者、政治経験ゼロ、ってこりゃあ前代未聞でしょう。議会対策なんてできるのかなあ。え?「国務副長官にはジョン・ボルトンを付けるから」、ってそれじゃますます心配になってしまいますがな。

○まあ、細かいことを言い出したらきりがありません。例えば、国防長官や安全保障担当補佐官(二人とも元軍人)との相性はどうなんだろう。本来ならば、「外交チーム」は3人をセットで選ぶ方がいいと思うんですけどね。やはりトランプさんは「国務省とCIAは敵」と思っていて、職業外交官やインテリジェンスコミュニティをまともに相手にしないのかもしれませんな。

○と思ったら、さっそく上院外交委員会でマルコ・ルビオが「彼はロシアと近過ぎる」と文句を言っている。この人事、すんなり議会を通らないかもしれませんぞ。なにしろ上院は共和党52人対民主党48人ですから、共和党議員を3人切りくずせば人事は止められるんです。そして上院共和党には、ジョン・マッケインのように真っ当な人から、テッド・クルーズやランド・ポールのような変人まで居るんです。3人はそんなに難しいことではないと思いますぞ。

○もっと笑ってしまうのが、エネルギー長官にリック・ペリー元テキサス州知事という声が上がっていること。彼は2012年の共和党予備選挙に出馬した際に、皆がけっして忘れてくれないような素晴らしいパフォーマンスを演じてしまったのですよ。こんな感じです。


ペリー「歳出の削減が必要だ。そこで私は行革のために3つの省庁を廃止してみせる。まず第1に商務省、それから第2に教育省。それから第3、あれっ?第3はなんだったっけ?」

隣の人(助け舟を出して)「・・・環境庁、かな?」

ペリー「おお、そうだそうだ」

司会「えっ、本気で環境庁をつぶしちゃうんですか?」

ペリー「いや、そうじゃないんだ。環境庁も改革は必要なんだが。私がつぶすべき3つ目の役所は・・・・ああっ、ここまで出かかっているのに!」

司会「おちついて、もう一度、最初からどうぞ」

ペリー「私がつぶしたい役所は、教育。それから・・・・・あ、商務か。・・・・うーん、どうしても3つ目が出てこない」



○お暇な方はユーチューブで「Rick Perry Oops」で検索すると出てきます。かなりたってから、彼は自分が廃止するつもりだった第3の役所がエネルギー省であることを思い出したのですが、これだけの粗忽者を大統領にするわけにはいきませんわなあ。で、トランプさんがそういう人をエネルギー長官に指名する、ってこりゃあネタにしてもすばらしい。

○それにしても、誰の身の上にも起こり得る「ど忘れ」を、あんなにも天然に演じられるペリーさんは、きっとすごーくいい人なんでしょうね。なにしろテキサス州知事になる前は、ジョージ・ブッシュ州知事時代の副知事だったというくらいですから・・・。


<12月15日>(木)

○大阪市のクラブ関西で午餐会の講師。これで4年連続で、「来年の日本経済」が演題となる。だんだん予想がツラくなってきた感あり。昨日発表になった日銀短観も、足元の業況判断は良くなっているのに先行き見通しがよろしくない。「円安株高で企業業績は良くなるが、来年の世界の視界不良を考えると悩みは深い」といったところか。

○それにしても今年の日本経済は変な感じである。とにかく浮いているとも沈んでいるとも思われない。つまり方向感がない。良いとは思えないが、それほど悪くもない。こういうときに、いつも指標にしている内閣府「月例経済報告」の基調判断は、今年4月から11月まで8カ月連続で据え置きとなっている。それも、こんな変哲もない言葉である。

景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

○今月分は12月21日に公表予定だそうですが、さすがに上方修正するんじゃないかなあ。

○夕方になって京都に移動。滅多にないことである。若い頃に訪ねた京都は、あんまりいい印象が残っていない。それでもこれだけ馬齢を重ねると、少しは良さが分かるんじゃないかという気がしている。ちょうど40歳を過ぎてから、日本酒を旨いと感じ始めたように。

○それにしても関西は奥が深い。京阪電車というものに生まれて初めて乗車したところ、車内で「その昔、××さんの結婚式でお目にかかった○○です」と呼びとめられた。すいません、こっちは覚えてなくて。

○今日はアメリカで利上げがあって、プーチンさんが日本にやってきて、それからIR法案がめでたく成立して、トランプさんの初の記者会見は延期になって、とにかくいろんなことがあった日なのですが、なぜか私は京都にいるのです。でも、締め切りの原稿もあったりして・・・。


<12月16日>(金)

○いつも通り「モーサテ」の時間に起きて、そそくさと身の回りの用意をして旅立つ。外は雨。さらば京都よ。タクシーがすぐに捕まるのがありがたい。新幹線で一路東京へ。

○不思議なもので、新幹線の車内は仕事がはかどる。本日発行分の溜池通信は、かなりの部分を京都―東京間で書いておるのです。本日は久々の経済ネタ。いつも通り綱渡りで完成にこぎつける。

○出社してみたら、プーチン訪日に関する情報が飛び交っておる。当社はハバロフスク空港の案件を受注したらしい。当方も共同通信のプーチン座談会があったりして、終日バタバタであった。

○夕方から関西学院大学丸の内オフィスに行って、国際情勢分析講座「米国新政権とアジア・日本の関係を語ろう」。お馴染みナベさんとご一緒である。考えてみたら、このコンビ、今までに何回やっているのだろう。

○終わってからテレ東さんのカラオケ大会に参入。今日は師走の金曜日でプーチン大統領も来ているから、都内の道路は大変であったような。ということで、われながら派手な一日であった。

○拙著『気づいたら先頭に立っていた日本経済』は、いよいよ本日から店頭に並んでおる。皆様どうぞよろしく。


<12月17日>(土)

○本日は映画『ローグワン』を見に行く。『スターウォーズ』シリーズのスピンオフというから見に行ったが、まことに残念な内容。ディズニーも、なんでこんな映画を作るかねえ。エピソード7『フォースの覚醒』がファン迎合型の無難な路線だったので、冒険してみたつもりなのだろうか。到底、このシリーズのファンが期待していたような作品とは思えず。衝撃に耐えかねて、家に帰ってから約2時間昼寝。

○夕方から復活して、TBSに出かけて『Biz Street』に出演。本日のテーマは「カジノ解禁」「日ロ首脳会談」「米利上げ」。なんだか全部ワシの守備範囲みたいで、しかも米利上げのゲストは加藤出さん。これはありがたし。「トレンド」の「スマホで拡大する電子チラシ」というネタも面白かった。この番組、夕方からスタジオに出かけて、お弁当をいただいたりしながらゆるゆると準備をして、本番となる9時台に集中するというのがコツのようである。次回は米大統領就任式直後の1月21日(土)に登場いたします。

○拙著『気づいたら先頭に立っていた日本経済』は、複数の方から「いかにも売れそうな本のタイトルですね」とのご指摘をいただく。筆者としては、むしろ『遊民経済学』という言葉を打ち出したかったので、このタイトルはあんまりピンと来ていない。でも、今はそういう世相なのかもしれない。ここは新潮新書のベテラン編集者であるY氏の感覚を信用するしかあるまい。

○ちなみに福島民報のベテラン、高橋記者によれば、「今年の有馬記念は、気づいたら先頭に立っていたキタサンブラックで決まりかも」とのこと。うーん、ワシ的にはサトノダイヤモンドの方がいいと思うがなあ。その前に、明日の朝日FSが超難問である。明日の上海馬券王先生のご託宣に期待しましょう。


<12月18日>(日)

○今年初めての防犯活動、いわゆる「火の用心」が始まった。かれこれ10数年になるが、今宵も町内会の皆様とご一緒に町内を練り歩く。暖かい夜なのでまことにありがたい。

○終わってから集会場で、「鹿島アントラーズ対レアルマドリード戦」を見ながら皆で軽く一杯。白熱の好ゲームも、延長戦で2点取られて敗戦となる。まあ、天下の最強チームを相手に、立派な戦いぶりだったのではないか。

○その間にも、ご近所の噂に関して有益なる情報交換が行われる。駅前の中華料理「T」は旨くて安い店なんだけれど、最近はお昼に行くと注文が出てくるのがてんで遅い。最近、料理人が辞めたのが原因だとか。なるほどねえ。

○こういう話は「食べログ」なんかではできませんなあ。やはりちゃんとした「口コミ」は必要でありますよ。


<12月19日>(月)

○今月はあっちこっちで「トランプ次期政権」についてご説明をする機会をいただいております。今日は午前中と夜のダブルヘッダー。なおかつ午後はネット番組の収録もやっちゃいました。

○その米大統領選システムにおいて、実は本日は重要な日であります。すなわち、「12月の第2水曜日の次の月曜日」でありまして、この日は「11月の第1月曜日の次の火曜日」に行われた選挙で、選ばれた538人の選挙人が、それぞれの州の州都において投票を行う日なのです。いや、もちろん単なるセレモニーでありまして、これで結果が変わるなどということはありません。ときたま「造反者」が出て、ニュースになることはありますけれども。

○現在のエレクトラル・カレッジ方式という制度は、日本で言えば江戸時代の頃から続いているものです。従って、今日の社会には適していない部分もある。選挙人という「代理人」を選ぶ間接選挙の形をとっているのも、その昔はマスコミがなくて候補者に関する情報が得られないから、ご近所の賢者で「まあ、あの人が言うんなら間違いないだろう」という人を皆で選んだのが始まりとされております。

○いにしえの日々においては、各州の投票箱は馬車に揺られて首都ワシントンに送られ、年が明けた1月6日に連邦議会で開票されます。そして上院議長(現職の副大統領が兼務している。2017年の場合はジョー・バイデンがこれを務める)が結果を読み上げ、「おのおの方、これでご異存はありますまいな?」と呼びかけて新大統領が決まるというのが「お作法」となっております。

○従いまして、今日を過ぎてしまうと、「本当はヒラリーが勝っていた」とか、「ロシアのハッキングが選挙結果を曲げた」とか、「一般投票では280万票も多かったのに」などという議論がやりにくくなります。今から考えると、トランプ氏が12月15日に予定されていた初の記者会見を延期したのは、誰かが耳元で「12月19日が過ぎるまで待った方がいい」と囁いたからかもしれませんな。

○ということで、本日12月19日もまた重要なマイルストーンなのです。トランプ次期政権、果たしてどんなことになるのでしょうか。


<12月20日>(火)

○本日の日経夕刊の報道によると、明日発表予定の月例経済報告は基調判断を上方修正するらしい。溜池通信の最新号で予測した通りである。変更は9か月ぶり、上方修正は2015年3月以来となる。

(2016年)

12月(↑)景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
11月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
10月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
9月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
8月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
7月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
6月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
5月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
4月(→)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
3月(↓)景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
2月(→)景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
1月(→)景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

(2015年)

12月(→)景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
11月(→)景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
10月(↓)景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
9月(なし)景気は、このところ一部に鈍い動きもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
8月(→)景気は、このところ改善テンポにばらつきもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
7月(→)景気は、緩やかな回復基調が続いている。
6月(→)景気は、緩やかな回復基調が続いている。
5月(→)景気は、緩やかな回復基調が続いている。
4月(→)企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている。
3月(↑)企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている。
2月(→)景気は個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。
1月(→)景気は個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。


○もちろん、いろんな指標の改善を受けてのことであり、そういえば昨日発表の貿易統計も良かったんだよな。

○それ以上に、GDP統計の基準改定が効いていると思う。以下はメモしておきましょう。こういうこと、あんまり新聞には出ないんだよね。


●2013年度から15年度にかけての平均値

*実質GDP 旧基準+0.7%→新基準+1.2% (+0.5)

*名目GDP 旧基準+1.8%→新基準+2.5% (+0.7)


○日本経済の潜在成長率は0.5%程度、と言われておりますので、上記は「ものすごく頑張ったでしょう」である。とりあえず体温計を換えてみると、ずいぶん雰囲気は変わりましたな。


<12月22日>(木)

○今日は17年度予算案が決定。歳出総額は97兆4547億円だそうです。昔風に語呂合わせをするならば、「97(クナシリ)4547(ヨコシナ)」ってところでしょうか。ああ、なんて品がない。というか、ロシアはエトロフも返せよな。

○例年、政府予算案の閣議決定は12月24日と決まっております。それが今日に前倒しになったのは、24日が3連休の中日になったこともあるけれども、「働き方改革」によるものなのだとか。何もそんなことまで官邸の言いなりにならなくても・・・という気もするが、各省庁にとっては早めに数字が決まる方が良いはずである。

○昔は「復活折衝」などという変なセレモニーがあって、それぞれの大臣に花を持たせるために、霞が関全体が12月28日まで働いていたものである。それが1週間早く終わって、関係諸氏がクリスマスや忘年会や有馬記念を楽しむことができるのは、わが「遊民経済学」の見地から言ってもたいへんにめでたいことである。

○で、本日は恒例の予算説明会。滅多にないことですが、今年は質問をさせていただきました。大よそこんな内容です。

「先日、GDPの基準見直しがありましたから、名目GDPは約30兆円増えましたよね。そのことによって、例えば防衛予算は旧基準で行けば本年度予算で対GDP比1%を超えていますが、新基準で行くと1%未満となります。同じようなことが予算全体でも生じると思うのですが、どんな影響が出たか教えていただきたい」

○国家予算に関するベンチマークは、ほとんどが対GDP比を使っている。それらを全部直さなければいけないので、おそらくは大変な作業量だろうなあ、と思って尋ねたのだが、案の定、予算全体にかかわる数字は年明けに作業することになるというのが財務省側の回答でした。

○どうも先方は、私が防衛費の拡大に反対していると思われたらしく、「防衛費の1%枠というものは既になくなっておりまして・・・」てなご説明もいただいてしまいました。いえいえ、いちおうその辺の理屈は存じておりますし、ワシ的には防衛費は対GDP比1.5%くらいまで増やしてもいいんじゃないかと思っているくらいでありまして、むしろ世間相場的にはタカ派と呼ばれる側なのでありますが。

○ほかにも例年通り興味深いやり取りがあって、時間をオーバーして説明会が終了。これもまた年末の貴重な会合のひとつなのであります。


<12月24日>(土)

○「働き方改革」のお蔭で、今年は予算を早めに済ませて中央省庁もお休みだというクリスマスイブに、当方は仕事が終わらなくて家でヒーヒー言っております。それというのも、明日は朝から有馬記念に出かけるわけでありまして、今日中にいろんな仕事にめどを付けなければならないのです。

○そうかと思ったら、馬券王先生から「阪神カップ」(番外編)のご案内も来ているではありませんか。先生、昨日は万馬券3連発の大当たりだったようで、最近ではめずらしい躁状態のようです。ああっ、阪神カップ、行きたいなあ・・・。でも仕事も終わらないし、年賀状も書いてないし、夜は火の用心だし、何がクリスマスじゃ〜。

○ちなみに東洋経済オンラインでは、本日はこんな企画を出しております。「大波乱になる?有馬記念と2017年を予想する」(ぐっちーさん、山崎元、吉崎達彦)。明日の有馬記念と来年の経済予測、両方のご参考になれば幸いです。ちなみにサトノダイヤモンドから薄目に流すのは、アルバートとシュヴァルグランを考えております。

○ということで、メリークリスマス。読者の皆さまのご多幸をお祈り申し上げます。


<12月25日>(日)

○酉年に関するいくつかの豆知識。

●日本人が鶏肉や卵を食べるようになったのは江戸時代になってからである。それ以前は神社などで飼われている「時を告げる神聖な鳥」であった。

●闘鶏に凝りに凝った英ヘンリー8世は、細かなルールの体系を作り上げた。現在、その多くはボクシングに引き継がれており、「ヘビー級」「バンタム級」などの言葉は闘鶏に由来する。

●日本で「クリスマスにはチキン料理」が定着したのは、1970年代に普及したKFC(ケンタッキーフライドチキン)の功績である。サンタさんの服を着た店長さんが、クリスマスパーティーに活躍したのが発端だとか。

●浅草の鷲神社(おおとりじんじゃ)などで行われる「酉の市」。もとは日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東国征伐に向かう際に、この神社で戦勝祈願をしたのが11月の酉の日であったから。ちなみに縁起物の熊手は武具だったそうです。

●酉年はしばしばアメリカの新政権発足と重なります。1969年はニクソン政権、1981年はレーガン政権、1993年はクリントン政権。ちなみに2004年は、ブッシュ第2期政権でありました。2017年は、もちろんトランプ政権の発足となります。果たして世界はどうなるのでしょうか?


<12月27日>(火)

○本日、エンバーゴになったようですので、当欄でもお知らせです。


朝まで生テレビ

2016年12月31日(土) 深夜1:00〜5:50


激論!2017 ド〜する?!ド〜なる?!ニッポン

2017年を占う新春激論!各界の論客が集結!
 

トランプ次期政権、混迷のEU情勢、中東情勢…
東アジア情勢、北方領土、日中関係、南シナ海、南スーダン…
ド〜なる?!激動の国際情勢
 
“生前退位”、日米同盟、集団的自衛権、自衛隊、沖縄、原発…
9条・憲法改正、アベノミクス、円安・株高、カジノ…
ド〜する?!山積課題の日本 


大みそか・深夜1時放送開始
4時間50分拡大スペシャル!


番 組 進 行:渡辺 宜嗣(テレビ朝日) 村上 祐子(テレビ朝日)
司   会:田原 総一朗
パネリスト:山本一太(自民党・参議院議員、元国務大臣)
       細野豪志(民進党・衆議院議員、党代表代行)
       小池晃(日本共産党・参議院議員、党書記局長)

       青木理(ジャーナリスト)
       井上達夫(東京大学教授)
       荻原博子(経済ジャーナリスト)
       小林よしのり(漫画家)
       竹田恒泰(作家、明治天皇玄孫)
       津田大介(ジャーナリスト、メディア・アクティビスト)
       中林美恵子(早稲田大学准教授、元米連邦議会職員)
       三浦瑠麗(国際政治学者、東京大学政策ビジョン研究センター講師)
       森本敏(防衛大臣参与、拓殖大学総長)
       吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト)


○紅白歌合戦の最中にお迎えがやってきて、新年はテレビ朝日で迎える予定です。それまでにまだ締切が2本。負けないぞっ。


<12月28日>(水)

○都内を移動するときに、最近はあっと驚くほど景色が変わっていることがあります。大手町なんてすごいですね。先日、「大手町のグランキューブへ来てくれ」と言われて、自信がなかったからタクシーに乗ったんですよ。でも、運転手さんも知らないんです。新しいビルだから、そりゃそうですよね。

○タクシーの場合は、最近は地図を見せるよりも、住所を告げる方が早いです。それくらいカーナビが普及しているというわけですが、そもそも暗い車内で地図を見ていても良くわからんですわな。特に「食べログ」とかの地図は見にくい。ネットの地図というのは、もうちょっと何とかならんですかねえ。

○で、現地に着いてみたら、ああ、そうか、昔の政策投資銀行(もっと昔は開発銀行)の跡地じゃないですか。ところがその周囲の景色も変わっている。特に三井物産がなくなっている、というのがすごい喪失感ですな。それにしても、昔の開銀の場所であれば、ウチの会社からは千代田線ですぐに行けたのに。ああ、もったいない。変なカタカナ名前をつけるのがまた混乱の原因である。

○で、今宵はテレ東さんの忘年会に行ったんですよ。こんな風に告げましたね。「昔のIBMがあったところ。六本木一丁目の三角形の真ん中あたり」。だってさあ、「六本木グランドタワーに行ってくれ」というより、その方がずっと親切だと思うんだよね。


<12月29日>(木)

○安倍首相の真珠湾訪問について、ひとこと感想を書いておきましょう。

○簡単に言っちゃうと、「パールハーバー」という言葉が持つ意味が、随分変わったのだな、ということになります。不肖かんべえは1991年、真珠湾50周年の時にアメリカに居りました。そのときに見た報道番組で、当時は湾岸戦争に勝った英雄であったシュワルツコフ将軍が登場し、「真珠湾攻撃は純軍事的に見ると、すばらしい作戦だった」てなことを言っていたことを記憶しています。

○そのときに学習したことは、真珠湾攻撃がアメリカに残した教訓とは、「日本は憎いやつだ」ではなくて、「油断していた自分たちが悪かった」であったということです。だからこそ、こういうキャッチフレーズが誕生した。"Remember Pearl Harbor -- Keep Alert America"(真珠湾を忘れるな。アメリカよ油断をするな)

○ところが2001年9月11日にとんでもないことが起きてしまった。なにしろニューヨークの貿易センタービルと、ワシントンのペンタゴンがテロ攻撃を受けたのである。これはもう、過去のトラウマが吹っ飛んでしまうほどの新しいトラウマであった。爾来、アメリカはかたときも油断をすることが許されなくなった。例えばそれまでは、飛行機だってもっと簡単に乗れたんだよねえ。

○それから真珠湾が奇襲攻撃を受けたときは、ハワイはまだアメリカの属州であった。当時のアメリカは48州であって、50州とはなっていなかった。アラスカとハワイは戦後になって州に昇格しているんですよね。その当時に比べると、9/11同時多発テロ事件は、あまりにもキツイ衝撃だった。だからこそ、アフガン戦争やイラク戦争が起きたのでした。今でこそ評判が悪いこれらの戦争ですが、当時は大多数のアメリカ人がこれらの戦争を支持したのでありました。その証拠はいくらでも残っています。

○今では新たな脅威がたくさん増えて、リメンバー・パールハーバーなんて死語になっちゃった。サイバー攻撃なんてものできちゃったし、今じゃアメリカよ油断をするな、なんてって当たり前のことじゃないですか。つまり時間の経過とともに、真珠湾が持つ意味がまったく変わってしまったのです。日米の和解というとカッコいいですが、それくらい時間がたって中身が風化した、ということになるのだと思います。

○もうひとつ、セレモニーの席上では安倍首相とオバマ大統領がそれぞれに思い入れの深い言葉を残しましたが、こういうPublic Diplomacy(広報外交)はどこまで健在なんだろうか、とも感じました。言葉の力でいい印象を残して、ソフトパワーを得るという外交のことであり、2015年春の米議会合同会場における演説もその一環でした。

○しかるにトランプ次期大統領やドゥテルテ大統領のことを考えると、そういう洗練された外交はどんどん庶民からかけ離れたものになっているのではないか。今では「ぶっちゃけ」型のコミュニケーションが優位な時代になっていて、そういう時代を招いたのは、ほかならぬオバマさんでありましょう。つまり8年間も名演説を続けてきたために、皆が飽きちゃったのじゃないか。

○てなことで、いまひとつ素直に感動できなかった自分がいる。なんだか申し訳ない気がするのですが。


<12月30日>(金)

○本日、今年最後の仕事(義理)を果たして、晴れて自由の身になった不肖かんべえである。ああ、自由な空気はおいしいぞ。

○たまたま一昨日片づけた仕事が、今朝になってアップされていた。当方としたら、不人気なIR推進法案にいっちょ応援演説をしてやろう、ついでに拙著の宣伝もしてやろう、というくらいのつもりで書いた駄文なのであるが、編集者が巧みに煽るようなタイトルを付けてくれたおかげで、本日、東洋経済オンラインで一番読まれた記事になっていた。1日で「40万アクセス」というからすごいではないか。

○ちなみにこの「不規則発言」のアクセス数は、平日で9000件、休日は7000〜8000といったところである。それだって、結構な数字だと自分でも思うけどね。

○東洋経済オンラインの拙稿には、喧嘩腰のも含めて膨大な数のコメントがついている。その中には、「このタイトルはちょっと・・・」という意見も入っている。そりゃそうだよね。ネット媒体というものは、アクセスしてもらえば「勝ち」なので、タイトルは意図して煽る。まあ、その辺は大目に見てやってくださいまし。タイトルが大袈裟になるのは活字媒体でもよくある話だが、「炎上結構」というところがネットならではの感覚であるかもしれない。

○たぶん東洋経済オンラインにおける拙稿では、これが歴代第1位ということになる。だったら、拙著もガンガン売れるんじゃないかと思ったら、アマゾンの順位はあんまりパッとしませんなあ。まあ、年の瀬に「1位」は望外の快挙ということにしておきましょう。


<12月31日>(土)

○大晦日であります。普通だったら回想モードになったりするものですが、深夜からのお勤めを控えているのでそんな気分にはなりません。とりあえず今宵は禁酒だなあ。紅白歌合戦の終わりごろにお迎えが来て、新年はテレビ朝日で迎えることとなります。アルコールはお雑煮とともに明日朝までお預け。

○朝生に出るのは久しぶりなのと、いつもは午前4時半に終わる番組なんですが、本日分は午前5時50分までやる5時間バージョンなんで、あたしゃ最後まで持つかどうかちょっと不安です。まあ、仕事をし過ぎた1年の締めくくりには、こういうのも悪くないかもね。わざわざ起きてて見るほどのものではないと思いますが、個人的には何か勉強してこようと考えております。

○てなことで、皆さまどうぞよいお年をお迎えください。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki