●かんべえの不規則発言



2016年2月





<2月2日>(火)

○今日は何度もこのページを確認しちゃいましたが、なるほど味わいのある数字が出るものですね。さすがはアイオワ州。


●Democratic 99.9% Reporting

H. Clinton 49.9%  代議員29人

B. Sanders 49.5%  代議員21人

M. O'Malley 0.6%  代議員ゼロ


○なんという僅差。ヒラリーさんとしては、「これでも首位」を喜ぶところでしょう。8年前にオバマ、エドワーズに次いで3着に終わった屈辱のアイオワ。ここで負けると次のニューハンプシャー州は、サンダースさんがお隣りバーモント州の上院議員なので勝ち目が薄い。2連敗は避けたい。まあ、どうせ南部や西部へ行けばヒラリーさんが勝つんだろうけれども、「アイオワ、ニューハンプシャーで連敗した候補」になるのは嫌だ。首の皮一枚の差だけれども、この勝利は貴重です。彼女のプライドからすれば、「ホントは圧勝じゃなきゃいけないのっ!」てなところでしょう。あの「くだらないメール問題」は意外と効いているのかもしれません。

○逆にサンダース陣営は、「これなら首位(も同然)」を喜ぶところでしょう。全体の数では僅差ですが、獲得した代議員の数では大差をつけられている。これはカウンティ(郡)ごとにまんべんなく票を獲ったクリントン候補に対し、サンダース候補はバラつきが大きかったからでしょう。もっとも代議員の数なんて、誰も覚えちゃいません。大事なのは「アイオワ州では写真判定だった」ということで、天下の大本命候補を相手にサンダースにはモメンタムがあると確認されたこと。ちなみにニューハンプシャー州の状況は今はこんな感じです。


●Republican 99.9% Reporting

T. Cruz    27.7%  8

D. Trump   24.3%  7

M. Rubio    23.1%  7

B. Carson    9.3%   3

R. Paul      4.5%   1

J. Bush     2.8%   1

C. Fiorina    1.9%

J. Kasich    1.9%

M. Huckabee  1.8%

C. Christie   1.8%

R. Santorum  1.0%


○一時は失速したかと見られたテッド・クルーズ候補ですが、どっこい生きておりました。首位。「これは保守派の勝利」と喧伝することでしょう。アイオワ州はなにしろ福音派の多いお土地柄ですから、信仰心の強い人が勝ち残る。2008年はハッカビー、2012年はサントラムが勝っている。が、クルーズがその後継者、ということになると、あんまりゲンが良い話ではない。

○注目のドナルド・トランプ候補は2位でした。これは敗北と言っていいでしょう。事前の期待値が高過ぎたから、たとえ首位でも3割に届かなかったら、ツライところでした。案の定、空中戦ばっかりで地上戦が足りていなかったのでしょう。やはり選挙は組織を作って、小口の選挙資金を集めてナンボの世界です。

○ところでトランプ候補は、見かけほど選挙にはお金をかけていません。自家用ジェット機を使ったりするのは、彼にとっては日常に過ぎません。そして彼の場合、選挙用のCMなんて打たなくても、どんどんメディアに取り上げてもらえるんですから。そこは「数字(視聴率)を持ってる」候補の強みです。本当は大統領になるつもりなどなくて、「『ザ・トランプ』という商品の安上がりなパブリシティ」を楽しんでいるのかもしれません。

○アイオワにおける実質的な勝利者は、第3の男、マルコ・ルビオでしょう。あのトランプに肉薄し、代議員数では並んでいる。同じ穏健派候補であるジェブ・ブッシュ、ケイシック、クリスティーの3人を併せても届かない。もともとルビオは、「アイオワで3位、ニューハンプシャーで2位、サウスカロライナで1位」というストーリーを描いていた。ホップ、ステップ、ジャンプというわけ。4位に大差をつけた価値ある3位です。

○ということで、共和党の候補者選びは、「保守派のクルーズ×非主流派のトランプ×穏健派のルビオ」、という3者に絞られつつあります。もっともニューハンプシャー州の状況を見ると、ケイシックとブッシュにもまだワンチャンス残っているようですが。2008年にマッケイン、2012年にロムニーを応援した当溜池通信としては、当然、ルビオ押しです。

○アイオワ州と言えば、ケビン・コスナー主演の『フィールドオブドリームス』を思い出します。トウモロコシ畑が広がる大地ですから、お隣の家はとっても遠いところにあるんです。「ご近所の集会場に集まる」と言っても、歩いて行ける距離ではないんですよねえ。まして今の季節は寒いし、雪も降っている。平日の午後7時に、2時間はかかるという党員集会に出かけるのは大変なことなんです。託児所もあったりするそうですが。これぞアメリカの草の根民主主義ですな。

○つまり党員集会は、熱心な人だけが投票に参加する。だから事前の世論調査が当たらない。そしてまた、今日のように含蓄ある数字が出るのです。候補者たちの能書きや、政治アナリストたちのたわごとをさんざん聞いた後では、有権者の叡智というものはなかなかに奥が深いように思われます。


<2月3日>(水)

○先週末に発表された世論調査で、いずれも安倍内閣の支持率が上昇したことが驚きをもって受け止められています。「閣僚が辞任したのに、内閣支持率が上がるなんて、そういうことってアリなのか?」


●共同通信(1/30-31)53.7%←49.4%(12/25-26)

●読売新聞(1/30-31)56%←54%(1/8-10)

●毎日新聞(1/30-31)51%←43%(12/5-6)


○それはきっと甘利明大臣の辞任が、日本人が大好きな「痩せ我慢の美学」に殉じていたからだと思います。辞任表明の記者会見のことを「私の晴れ舞台ですから」と言っていたそうですから、ご本人としては望み通りの展開だったことと思います。邪推しますと、たぶんこんな気分だったんでしょう。

「3年間にわたってアベノミクスの司令塔となって、TPP交渉もまとめあげたこの私が、たかだか50万円を受け取ったくらいのことで辞めていくんですよ。それというのも、安倍首相を守るためなんですっ!」

○しかも明日2月4日には、ニュージーランドでTPP署名式があるという晴れがましい瞬間があるのに、それも諦めちゃうわけですから。いやあ、なんてカッコいい。大嫌いなフロマン通商代表と堅い握手を交わす、なんて感動的な瞬間を放棄しちゃうんですから。それもこれも、「秘書の監督責任」「閣僚の責務」「政治家としての矜持」が理由なんです。これが男の美学でなくてなんなんでしょう。あたしゃ「泣いた赤鬼」というおとぎ話を思い出してしまいましたよ。

(とはいうものの、大臣室でカネを受け取るなんていうのは信じがたいルーズさでした。大臣室なんて、出入りしている人は当然チェックされているし、下手すりゃ警察庁が盗聴していると思うんですけどねえ)

○ということで、あまりにもカッコいい「甘利さんの辞任劇」を見て、安倍内閣の支持率が上がるのはむしろ当然ではないかと思うのです。

○さて、ここで発想が飛躍するのですが、人間の去り際というのは大事なものであります。かつてドナルド・トランプ氏がエグゼクティブ・プロデューサー兼司会者を務めていた『アプレンティス』という番組があります。「お前はクビだ!」(You're fired!)というアレです。あの番組で、トランプ氏からクビを宣告された候補者はどうするか、皆さん、ご存知でありますか。

○これぞアメリカ、という風景なのでありますが、クビを宣告されたジョン君は、生き残ることができたロバート君と握手をして、そのままこわばった表情で立ち去っていくのです。トランプタワーのボードルームを出て、派手なエレベーターを降りると、玄関にはイエローキャブが待っている。それに乗ったジョン君は、ニューヨーク市内をどこへともなく去っていくのであります。いやあ、これまた男の美学ですねえ。

○さらに発想が飛躍して、「お前は2位だ!」とアイオワ州民から宣告された「ザ・ドナルド」はこれからどうするのでしょうか。「トランプ」という名前は、勝者にこそふさわしい。さもなくば、いっそ破滅する方がよろしい。なにしろそこは、離婚と破産を併せて合計7回体験している人ですから。だから、未練たらしく大統領選挙のレースに残ることを潔しとしないのではないか、と思うのです。

○アメリカのメディア界としては、「これから落ちていくトランプを見てみたい」とほくそえんでいることでしょう。ただし、ドナルド・トランプたるもの、その手に乗るかどうか。意外とあっさりと、「大統領選挙というものを、心の底から楽しませてもらったぜ」などと言って、カッコよく場外に去っていくのかもしれません。そのときは、きっと甘利さんのような「晴れ舞台」を演出することでしょう。そしたらトランプ株はまたまた天井知らずになってしまう・・・・って、考え過ぎでしょうか。


<2月5日>(金)

○ご近所でアパートの建設が相次いでいる。おそらくは低金利に耐えかねて、「何かしなくっちゃ!」と思った土地のオーナーさんたちが、不動産経営に乗り出しているんでしょう。けれども、これから若い世代の数が減ることが分かっているのに(そして空家がいっぱいあることが分かっているのに)、ちっちゃなアパートを建てていったい誰が住むんだろう、と思うことしきり。まあ、ワシが心配することじゃないですけどね。

○察するに超低金利時代というものは、本質的にリスクを取っちゃいけない人たちに、リスクを取ることを強いてしまうものなのでありましょう。そういう行為は大概が裏目に出るものであります。でも、日銀が責任を取ってくれるわけじゃないですからね。特に地銀や第二地銀の皆さまは、くれぐれもご用心なされまし。、

○ここで急に話はマクロに飛ぶのですが、石油安と金利低下に悩む今の世界経済の問題点とは、簡単に言っちゃうと「需要が足りない」ということでありましょう。逆に言えば貯蓄はある。しかるに先進国は高齢化が進んで、皆がおカネを使うことに慎重になっている。そして新興国は中国経済を筆頭に、インフラ建設ブームが一巡してしまったので次の一手が見えなくなっている。さて、どうしたらいいのか。

○答えは二つあって、ひとつは金融政策で、これはもうやり過ぎるくらいやってしまった。これはもう忘れる方がいい。もうひとつは財政政策で、これはローレンス・サマーズが以前から主張している。いわゆる「長期停滞論」(Secular Stagnation)への処方箋として、彼はアメリカの既存のインフラ(多分にガタがきている)を建て替えろと言っている。仮にヒラリー・クリントンが大統領になった場合、この政策が発動されるのでありましょう。もっとも、共和党議会がそれを受け入れるかどうかは大いに怪しいところです。選挙をやっても、少なくとも下院の共和党多数は動かないでしょうからねえ。

○だとしたら、ここで考えられるのは「アジアにおける質の高いインフラ投資」というやつであります。これ、今年の伊勢志摩G7サミットのテーマとしてバッチリじゃないですかね。AIIBに対する牽制にもなりますし。とにかく、質の高いインフラでなきゃいけません。しょぼいアパート経営なんて考えちゃいかんのです。


<2月7日>(日)

○アメリカ大統領選挙について、日本での報道はしばしば「やっぱりアメリカでも『格差』が問題になってきました」と評されます。でもね、ちょっと得心がいかないのです。その場合の「格差」って、英語で何というのでしょうか。

○民主党のバーニー・サンダース候補は、確かに"Income / Wealth inequality"を問題にしている。所得格差と資産格差ですね。だから最低賃金を上げましょう、大学の授業料をタダにしましょう、と言っている。現実味はあまりないのですけれども、とりあえず若者の支持を集めて一大ブームを巻き起こしている。

○ちなみに日本人が格差に言及するときは、もっぱら所得の格差に限られます。いくら資産を持っていても、相続税で召し上げられて3代たてば誰でもタダの人になる、という税制の問題もさることながら、もともと「アイツはいくらもらっているのか」への関心が異常に強い社会だからでありましょう。でも、ホントのお金持ちは、年収がいくらかなんて気にしていないと思うんですけどね。

○ところでアメリカ政治における「格差」には、"Inequality"よりもずっとキツイ"Divide"がある。それはかつて、オキュパイ運動が「1%と99%」と評したような絶望的な差であって、所得でも資産でもかけ離れた世界ができてしまっている。加えてここに人種の問題が絡んでくる。黒人の少年が白人の警官に撃たれてしまう、という散々繰り返されてきたような悲劇がある。これを「格差」なんて言葉で表現しては申し訳ない。思うに「文化戦争」(Culture War)は、「階級闘争」(Class War)よりもはるかに重いのである。

○ということで、2月9日のニューハンプシャー州予備選挙では、サンダースがクリントンを押さえて首位に立つでしょう。ただし、その次のサウスカロライナ州予備選挙(2/27)になると、おそらくクリントンに負けてしまう。南部では彼の「格差論」が通用しないから。そこがヒラリー・クリントンにとっての"Fire Wall"(防火壁)となっている。

○ということで、アメリカ政治を語る際には、「格差」という言葉を気安く使わないようにしたいと考えるものであります。


<2月8日>(月)

○さて、明日はニューハンプシャー州予備選です。結果が出るのは水曜日の午後になるでしょうが、とりあえずは明日の見どころを考えてみましょう。

○ニューハンプシャー州は北東部の小さな州です。2万4000平方キロの面積(長野県+岐阜県くらい)に人口が130万人(岩手県くらい)。その気になれば、とことん絨毯爆撃でどぶ板選挙が可能な規模です。それだけに、過去には名勝負が行われてきました。1992年には不倫と徴兵逃れ疑惑で窮地に立ったビル・クリントンが、奇跡の2位を獲得して生き残ったこと。2000年には圧倒的なジョージ・W・ブッシュを相手に、ジョン・マッケインが逆転劇を演じたことなどが思い起こされます。

○端的に言うと、へそ曲がりな選択をすることで知られています。往々にして、アイオワ州とは違う結果が出る。今回の場合で行くと、民主党ではアイオワでヒラリー・クリントンさんが勝ったので、今度はバーニー・サンダースさんの番でしょう。まあ、サンダースさんはお隣のバーモント州の上院議員さんですから、それだけで有利なことは間違いありません。しかもニューハンプシャー州では、ヒラリーさんの3倍のテレビCMを投入しているとのこと(280万ドル対80万ドル)。いやあ、勝ちに来ていますねえ。

○共和党が大混戦です。先行するドナルド・トランプ候補を、マルコ・ルビオ上院議員、テッド・クルーズ上院議員、ジョン・ケイシック知事、ジェブ・ブッシュ前知事の4人が一団になって追うという展開。これは読めない戦いです。だいたいニューハンプシャー州の有権者は直前に決めますから、事前の世論調査が当たらないことで有名です。先週土曜日に行われた討論会では、せっかくいい形で来ていたルビオ候補がいいところなしで、クリスティー知事やトランプさんが冴えていたとのこと。ますます分からなくなりました。

○ひとつだけ確実なのは、このニューハンプシャー州が終わると多くの候補者がギブアップ宣言をするだろうということです。次は2月20日のサウスカロライナ州予備選挙ですが、ここで勝てなかった候補者は「もうカネが続かん!」ということになるのです。逆に言えば、ニューハンプシャー州では財布を逆さに振ってでも勝負しなければならない。ここで負ければゲームセット。でも、いい数字が出れば続行可能。ということで、総力戦となります。

○せっかくですので、過去のアイオワ州とニューハンプシャー州における共和党の戦績を掲示しておきましょう。

Year Iowa Caucus NH Primary GOP Nominee President
2012 R.Santorum M. Romney M. Romney Barack Obama
2008 M. Hucabee J. McCain J. McCain Barack Obaka
2004 --- --- G. Bush Jr. G. Bush Jr.
2000 G. Bush Jr. J. McCain G. Bush Jr. G. Bush Jr.
1996 Bob Dole P. Buchanan Bob Dole Bill Clinton
1992 --- --- G. Bush Sr. Bill Clinton
1988 Bob Dole G. Bush Sr. G. Bush. Sr. G. Bush Sr.
1984 --- --- R. Reagan R. Reagan
1980 G. Bush Sr. R. Reagan R. Reagan R. Reagan


○ニューハンプシャー州はアイオワ州とは違う候補者を選ぶ、という点だけは法則性があるんですが、その後の展開についてはまちまちなんですよね。アイオワ州は中西部の農業州であり、保守的な気風で知られている。共和党員として登録しているのは、ボーンアゲインと呼ばれる宗教心の厚い人々です。従って、ここでは「家族の価値」などの社会問題が重視される。対照的にニューハンプシャー州は、北東部の歴史が古い州であってリベラルな風土がある。なにしろ州のモットーが"Live Free or Die"(自由か、さもなくば死を)ですからね。こちらの共和党員は経済的保守派が多くなり、「小さな政府」「財政保守主義」などが重要課題となります。

○ということで、ニューハンプシャー州はトランプさんが勝っても不思議はないと思います。ただし勝ち方が問題で、2位以下を引き離さなきゃいけない。端的に言えば、得票率が3割以下だったら、首位でも「な〜んだ」と言われちゃうでしょうね。つくづく予備選挙は、「期待値コントロール」が難しいんです。


<2月9日>(火)

「昨日の表、バラク・オバマがバラク・お馬鹿になってますよ!」と、複数の読者からご指摘を受けました。ありゃりゃ、ホントだ。あな恥ずかし。これってフロイト的な間違いというんでしょうか。われながら面白いので、わざと直さずにおきましょう。ゴメンナサイね、お馬鹿さん。

○で、今日はニューハンプシャー州どころか、株が盛大に下げました。「2016年は円高株安」予想の不肖かんべえとしましても、「115円、1万6000円」の下げはちょっと早過ぎますね。たぶん東証の時価総額が、久々に終値で500兆円を割り込んでいるんじゃないでしょうか(明日の朝の日経新聞の「市場体温計」の欄を見ると出ています)。そうだとすると、久々に名目GDPよりも安くなったことになります。

○東証時価総額が名目GDPを超えたのは、2014年11月上旬のことでした。つまり黒田さんの追加緩和の直後というわけ。今回は「マイナス金利」というバズーカを撃った直後にもかかわらず、それ以前の水準に下がってしまったということで、事態の深刻さが浮き彫りになります。もっとも、1月末にマイナス金利が発動されていなかったら、今頃は1ドル105円だったかもしれない。世界同時株安の様相を呈していますね。

○なぜ石油安は円高につながるのか。たぶん3つの経路があるのだと思います。

(1)アメリカのシェール開発がさすがに滞る。彼らは高金利の資金を調達しているので、シェール業者が破たんするとハイイールド債市場が混乱する。だからドル安になる。

(2)産油国のソブリンウェルスファンドがドル資産を売って自国に持ち帰る。だからドル安になる。

(3)日本の貿易収支がますます改善されるので、実需の円買いドル売りが増える。昨日発表された2015年の経常収支は、16.6兆円の黒字でありました。誰ですか、日本は双子の赤字になると言っていた人は。

○ということで、円高株安は継続ということになります。今日の日本株、みずほFGの株価終値は170.3円です。1株配当が7円50銭ですから、配当利回りは何と4.4%です。170万円出して1万株買うと、税引き前で7万5000円の金利がつくというわけ。いまどき信じられないような高利回りです。

○でも、みずほFGの株価が売られているのは、マイナス金利で銀行の収益が下がると見られているから。みずほ銀行さんの立場になってみれば、国債は利回りゼロになるし、貸し出しは伸びないし、いっそのこと自社株を買うのがいちばん高利回りじゃないか、なんて洒落にならない事態になってしまいます。そんなこと考える前に、早いとこ減配した方がいいんじゃないかと思いますけど・・・。


<2月10日>(水)

○ニューハンプシャー州予備選挙の選挙速報はこちらをご参照。本稿執筆時点で、民主・共和両党とも92%ですね。

○民主党はバーニー・サンダース候補、共和党はドナルド・トランプ候補の大勝利で、どちらも2位に大差をつけています。「自称・民主社会主義者」「不動産王兼テレビ司会者」が二大政党のフロントランナーです。信じられないことが起きているわけで、こりゃもうマイケル・ブルームバーグ氏が第三政党から出るのもまことにごもっとも。だってこの3者で争うとしたら、誰がどう見たって元ニューヨーク市長がもっとも次期大統領には適任でしょう。少なくとも行政経験があるわけだし。

○民主党では大本命、ヒラリー・クリントン候補が20ポイント以上も引き離されました。「心に訴えかける理念の人」が、「頭で理解できる現実的な候補者」にせり勝った。いかに今の民主党が左にシフトしているか、そしてクリントン候補に新鮮味がなくて、仕方なしに支持されているかがわかります。しかるに今後、戦いが南部に移るとサンダースの勝ち目は薄い。彼が標榜する「格差」(inequality)は所詮はおカネの話。南部に行けば、人種問題という別の「格差」(divide)がある。予備選日程が進むにつれて、マイノリティに人気があるクリントン候補が盛り返すでしょう。

○とはいえ、ヒラリーは民主党のコアな支持者にとって「心に響かない候補者」であることが明らかになりつつある。古い世代は、「共和党に勝つために仕方がなく」に彼女を応援する。ところが若い民主党支持者は、サンダースが語る「政治革命」や「最低賃金時給20ドル」「公立大学の授業料無料化」といった大胆な考え方に魅力を感じている。クリントン候補は今後、左にシフトした党内の声を味方につけなければならない。例えば「TPPに賛成!」とは言いにくくなる。もしも次期大統領になったとしても、そのことは彼女の足を引っ張るでしょう。辛いですなあ。

○共和党ではドナルド・トランプ候補が全体の3分の1以上の票を集めました。さすがに半年間、共和党内でトップを独走してきただけのことはあります。正直なところ、仮に1位になっても得票が3割以下だったら、「な〜んだ」という評価を受けたことでしょう。これで少なくともトランプ氏は、1996年のパット・ブキャナン候補(ボブ・ドールを相手に首位になった政治評論家)以上の足跡を残したことになります。アイオワで勝ったテッド・クルーズとともに、長期間にわたって予備選レースに残ることになるでしょう。それは共和党主流派にとっては、痛しかゆしといったところがあります。

○穏健派(主流派)の中からは、ジョン・ケイシック知事が2位につけました。経済保守派が受けるNH州では、もともと好まれるタイプです。そしてブッシュ、ルビオ、クリスティーの順となりましたが、こうなると主流派の候補の絞り込みには時間がかかりそうです。ルビオ上院議員は、先週土曜日の討論会の不首尾が尾を引いた。せっかく若手の候補者が出てきたというのに、クリスティー知事などのオヤジ世代が寄ってたかって芽をつぶしにかかった格好です。よく言えば若手を鍛えているわけですが、悪く言えば年寄りが若者に嫉妬しているようにも見える。最近の日本社会でも、こういうシーンが増えているような気がします。

○民主党のクリントン陣営から見れば、いちばん出てきてほしくない相手はマルコ・ルビオでしょう。1970年代生まれを相手にするとしたら、彼女の最大の武器である「経歴」はかえって重荷になってしまう。「そんな昔のことはどうでもいいから、未来のことを話しましょうよ」と言われてしまうからです。なおかつ、ルビオには「歴史上初のヒスパニック系大統領」という付加価値がある。それを言ったらヒラリーには「初の女性大統領」という大義名分があるわけですが、それは多分に色あせていることが否めない。少なくとも、民主党内の若い世代には受けていないように思われます。

○ということで、今までの戦績をまとめておきましょう。いやあ、いつものことながら、これら2つの州はドラマを生み出しますなあ(NHの数字は、開票率100%になったところで更新してあります)。

<民主党>

  民主党 得票率  代議員数 
アイオワ州党員集会 @ヒラリー・クリントン 49.9% 29人
  Aバーニー・サンダース 49.6% 21人
ニューハンプシャー州予備選 @バーニー・サンダース 60.4% 15人/36人
  Aヒラリー・クリントン 38.0% 9人/38人


<共和党>

  共和党候補 得票率  代議員数 
アイオワ州党員集会 @テッド・クルーズ 27.6% 8人
  Aドナルド・トランプ 24.3% 7人
  Bマルコ・ルビオ 23.1% 7人
  Cベン・カーソン 9.3% 3人
  Dランド・ポール 4.5% 1人
  Eジェブ・ブッシュ 2.8% 1人
  Fカーリー・フィオリーナ 1.9% 1人
  Gジョン・ケイシック 1.9% 1人
  Hマイク・ハッカビー 1.8% 1人
ニューハンプシャー州予備選 @ドナルド・トランプ 35.3% 10人/17人
  Aジョン・ケイシック 15.8% 4人/4人
  Bテッド・クルーズ 11.7% 3人/10人
  Cジェブ・ブッシュ 11.0% 3人/3人
  Dマルコ・ルビオ 10.6% 3人/7人
  Eクリス・クリスティー 7.4% 0人/0人
  Fカーリー・フィオリーナ 4.1% 0人/1人
  Gベン・カーソン 2.3% 0人/3人
  Hジム・ギルモア 0.0% 0人/0人



<2月11日>(木)

○英国のギャンブルサイトで見る米大統領選マーケットに変化が出ています。


  1月3日 2月3日 2月11日
  年初 IA後 NH後
クリントン 1.73 1.83 1.90
サンダース 19.00 8.00 8.00
       
トランプ 5.50 8.00 4.50
クルーズ 8.00 13.00 13.00
ルビオ 6.00 3.75 9.00
ブッシュ 19.00 41.00 13.00


●クリントン候補は依然として大本命なるも、オッズは低下傾向。

●この間にサンダース候補が「リアル」さを増している。

●トランプ候補はアイオワでこけて、NHで復活。現在は2番人気。

●ルビオ候補がアイオワで伸びて、NHで落ちる。若さを露呈したか。

●ブッシュ候補がひたひたと伸びてきている。現在、クルーズと同じ。


○NHにおいて、「ブッシュ4位、ルビオ5位」となったことが響きそうです。ブッシュはここでダメだったら、さすがにルビオを支える側に回ったかもしれないが、こうなると同じフロリダ州同士の意地の張り合いが始まってしまう。なにしろ母上まで動員しているので、ブッシュ家の名誉が懸っている。しかもおカネはある。その結果、「保守派はクルーズ、非主流派はトランプ」で固まっているのに、いつまでたっても穏健派が一本化できないという問題が生じる。2月6日の討論会でルビオを苛めていたクリスティー候補は、NHの終了後に撤退を宣言しましたが、何とも罪作りなことをしますなあ。

○などと言っている間にも、イエレン議長の議会証言を受けて為替市場ではドル安円高が進んでいます。1ドル110円を付けたと聞くと、いくら円高予想の当溜池通信としても驚きますな。これでは日本企業は、3月決算の見通し修正を迫られそうです。米大統領選を気にしている暇があるのか、と言われるかもしれませんが、そういう話はほかの方にお任せしたいと存じます。


<2月12日>(金)

○金融政策も安全保障も米大統領選も、「まったくわからん!」ことの多い2016年でありますが、そんな中で「ベッキー不倫」だとか、「SMAP解散」だとか、「清原の覚せい剤」とか、「育休パパの議員辞職」といった三面記事が豊富なのも2016年の特色ですなあ。

○オタク同士、真面目なネタで盛り上がった後で、ふとこの手の芸能ネタに転じると、そこから先が意外と深かったりいたします。「ベッキーは真剣に守ってくれる人がいなかったねえ」とか、「雉も鳴かずば撃たれまい、とはまさにイクメン議員のことだったねえ」などと聞くと、なんだか人生に関する深い学習をしたような錯覚がするくらいです。

○まあ、芸能ネタというものは、どんな場所でも使える通貨のように便利なものであります。「なぜ清原の供給源は群馬県だったのか」なんて、そりゃあ誰だって知りたいじゃないですか。その点、「マイナス金利の功罪」とか、「ラブロフ外相とケリー国務長官の裏交渉」とか、「サウスカロライナ州予備選の観測」(あそこはとっても汚い手が横行するんですって!)なんて話は相手を選びますからね。

○そうかと思うと、意外な人が「重力波」について造詣が深かったりします。うーん、今日もいっぱい情報交換をしたなあ。


<2月13日>(土)

*この季節に初めての耳鼻科に行って、花粉症の薬をもらう。

*その待ち時間中に、「積読」状態になっていた英語の経済論文を読む

*ジレットの替え刃を買う(高い!)

*4年半たって電池が弱ってきたガラケーを買い替える

*クリーニング屋に立ち寄る、ビールを買う、その他いろいろ週末のルーティンを片付ける


○ああ、いっぱい懸案を片付けた。これで今宵は町内会の「火の用心」。今年もあと3回だけとなった。義理を果たす、というのは悪くないものです。


<2月14日>(日)

○最近はさすがに聞かなくなりましたけど、「景気を良くするためには、金利を上げればいい」という怪説がありましたな。金利を上げれば年寄りが安心して金を使うようになるから、というのである。まあ、確かに金利が上がってくれれば、年金のことなど気にしなくてよくなるから、それだったら遠慮なくカネを使えるようになる、という人は世の中には少なくないはずです。

○でも、これは極めて初歩的な勘違いで、そもそも金利を上げたらふつう、景気は悪化しますよね。というか、それ以前に中央銀行は短期金利を動かすことはできますけど、長期金利はあくまでも市場原理(需要と供給)で決まるものです。短期金利を上げたところで、長期金利が上がるとは限らない。金利というのはおカネの値打ちですから、貸し手(老人)がたくさんいて借り手(若者)が少なくなったら、金利が下がるのが当たり前なのです。

○今は政府がせっせと借りてくれているからいいようなものの、これで財政再建が進んだら、いよいよ借りてくれる人が誰も居なくなる。なにせ企業部門は資金余剰でも、賃上げや設備投資に後ろ向きなくらいですから。だったら政府がなぜカネを借りているかというと、予想以上の少子・高齢化が進行して、医療費や年金でカネが必要だから。それがあるから、当分、財政赤字は減らないのでしょう。はてさて、鶏が先なのか卵が先なのか。

○で、その金利がマイナスになるらしい、ということで世間の高齢者が震え上がっているようだ。そもそもマイナス金利が始まるのは16日からですし、あくまでも中央銀行と金融機関の間だけの話であって、普通預金の金利がマイナスになることはさすがにあり得ない(その場合、壮大な規模の「預金引き出し」→「タンス預金」が発生してしまう)。この1週間くらいは、さすがに大騒ぎし過ぎのように思われます。とはいうものの、ただでなくても低い金利がますます下がってしまう、というのは高齢者にとっては深刻な恐怖なのでしょう。

○ということで、実質金利を下げるために、日銀が合理的に考えて導入したマイナス金利によって、世間ではますますデフレ心理が強まってしまった。なにしろ金(ゴールド)が買われているというのだから深刻です。かといって、アパート経営はおよしになったほうがいいですよ。毎年生まれてくる子供の数が100万人を割りかけているこの国で、賃貸経営が成立する地域はごくごくわずかです。つくづく、人は常に合理的に行動するとは限らない。いや、人は常に不合理な存在である、特に老人は不合理に行動する、と肝に銘じるべきではないでしょうか。

○こうなってみると、昨年の今頃に流行っていたトマ・ピケティの言説ってなんだったんでしょうね。g(経済成長)<r(金利)であって、金利はどんな時代でも大よそ5%だった、だから貧富の差が拡大する、なんて今では悪い冗談にしか思えません。考えてみれば、長生きをすることがめでたいことではなくて、純粋なリスクであると考えられるようになってのは、たかだかこの20年くらいのことでしょう。それは長い人類の歴史においても、ほとんど初めてのことなのですから。

○そうなったこと自体は、人類の歴史から考えればめでたいことである。が、個人ベースで言えば、まったく恐ろしいことである。それを素直に喜ぶと、「アンタはおめでたい」と言われてしまう。つくづく人は社会的動物であって、経済的動物ではないのでありましょう。


<2月15日>(月)

○今朝発表の10−12月期GDP速報値は前期比で年率▲1.4%でした。なんと成長率の低いこと。実額ベースで行きますと、実質GDPが527.4兆円、名目GDPが499.4兆円となります。うーん、この調子では600兆円への道は遠そうだ。

○ところが今日の日経平均は気持ちよく1000円も上げて、1万6000円台を回復しました。とはいえ、今宵のアメリカは祝日でお休みであるし、上海市場だってどうなるかわからない。欧州の金融機関の経営が危ない、なんて話が突然出てきたりする。世界経済は、当分は不安定な状態が続くのでありましょう。

○そんな中で、政治の安定は不思議なくらいです。Wall Street Journal日本語版が、こんなことを書いている。(アベノミクス、行き詰まりへの道 "How Japan’s ‘Abenomics’ Reached an Impasse")


 安倍首相にとって発見の一つは、有権者は力強い成長を期待しているわけではなく、それを得るのに必要な混乱を伴う変化を恐れているため、公約を実現できない政治家に制裁を加えるようなことはしない、ということだ。米国、ドイツ、フランスでは有権者の怒りに訴えかけ、さらにそれを煽る政治家が混乱を生んでいるが、日本の政治は数十年来で最も安定した時期にある。

 最近の世論調査で安倍内閣の支持率は50%以上に持ち直しており、連立政権は今夏の参議院選挙で勝利を収める見込みだ。安倍首相の支持率が低下したのは、安全保障関連法の成立を強行した際だけだった。


○日本人は高度成長を望んでおらず、むしろ安定を望んでいる。株価が下がっても、円高になっても、物価上昇が2%に達しなくても、あんまり気にしていないように見える。だからドナルド・トランプやバーニー・サンダースは出てこない。それは大いに結構なことですが、野党はちょっと"Low Energy"過ぎるかもしれませんな。

○WSJの観察は実に鋭くて、結論はこういうことになっている。日本人の未来への期待値の低さを、すっかり見透かされているようであります。


 アベノミクスが失敗に終わっても日本経済が崩壊するわけではなく、安倍政権発足前の状態への回帰という穏やかな挫折にとどまるだろう。日本の政府債務残高はGDP比200%以上と膨大だが、金利低下のおかげでさほど差し迫った問題ではないように思える。政府は目下、ほぼ無利息で借り入れができるばかりか、借金をしても投資家から収入を得ることすらできるのだ。


<2月16日>(火)

茨城新聞政経懇話会で鹿嶋市へ。どうやって行くのかと思ったら、東京駅八重洲口から高速バスが出ている。しかも1番乗り場である。どうやら並み居る高速バスの中でも、もっとも頻度が多く、乗客も多い路線であるらしい。考えてみれば、鹿嶋市にはコンビナートもあれば、J1のアントラーズもある。人口も増えている。だからバスの利用者が多いのである。

○所詮はバスのことだから、時間など読めないだろうと思っていたら、これが予定通り1時間半で到着した。東関道自動車道はだいたいが空いているけれども、最後は潮来インターで降りて、水郷地帯を抜けて走る。昔見た『さらば愛しき大地』という映画を思い出す。根津甚八と秋吉久美子が出ていた。いい映画だったが、今の若いもんには受けないだろうなあ。

○会場は鹿島セントラルホテルという綺麗で立派なホテルであった。別にいちゃもんをつけるつもりはないのだが、「原口あきまさ&テツandトモ  爆笑お笑いライブ&ディナー」の看板がかかっていることに、少々の「場末感」を覚える。そうか、あいつら元気でやっているのか。まあ、ワシだって、同じ場所で仕事をもらっているくらいだから、似たようなものかもしれんのだが。

○鹿嶋市というのは、もともとは鹿島神宮の門前町である。ここは出雲の国譲りに登場する建御雷神(たけみかづちのかみ)を祭っている。国を譲った側の大国主命は出雲大社とともに有名であるが、天照大神のために国をもらった側の建御雷神はあんまり知られていない。ちなみに建御雷神に一蹴されて、信州諏訪湖に逃げた大国主命の息子を祭ったのが諏訪大社である。鹿島神宮が、それよりも格下であってはいけないはずである。

○ということで、本来であればこの機会に、鹿島神宮や鹿島コンビナートや鹿島スタジアムも見たいのであるが、仕事もあることゆえ早々に退散する。ちなみに帰りは混むかもしれんと思っていたが、ピッタリ91分で東京駅日本橋口に到着した。ひょっとすると、非常に高度な運転技術を擁しているのかもしれない。

○夜は日経チャンネルマーケッツの「マーケッツのツボ」に出演する。今日が100回記念ということで、伊藤さゆりさん(ニッセイ基礎研究所上席研究員)、柯 隆さん(富士通総研主席研究員)と3人で「ホンネ激論!どうなる世界経済」である。米欧中、いずれも問題含みの昨今ではあるが、マイナス金利は本当に始めてしまってよかったのだろうか。2016年2月16日という日は、わが国においてマイナス金利が始まった日として、長く記憶にとどめられるべき日であるのかもしれない。大丈夫かねえ。


<2月18日>(木)

○今日は東商の杉並支部で講演会の講師を務める。昔、20代の頃に南荻窪に住んでいたので、荻窪駅に着いた瞬間からとっても懐かしい。

○仕事は午後2時からの予定だったので、少し早目に出かけてどこか懐かしい店でランチをと企む。まだ小さかった長女を連れてよく行ったカレー屋の「トマト」を目指す。記憶を頼りに適当に歩いたら、すぐに発見できた。が、いかんせん「定休日」である。がーん。

○気を取り直して、今度はうなぎの「安斎」を目指す。少し値は張るし、時間がかかるかもしれないが、この際、構わないと決める。適当に歩いたら、これもあっけなく発見できた。しかるにここも定休日である。ががーん。

○うーん、定休日って普通は月曜とか、水曜にするもんじゃないんだろうか。なぜ、思い出の店が2つ揃って木曜定休なのか。

○仕方がないので荻窪駅南口を諦め、北口に回る。この際、確実にやっている「春木屋」に入って中華そば。魚介系のだしがよく効いている。元祖・ラーメン激戦区の荻窪でも、「丸福」なんかよりもずっといいと思う。最近のワシは、すっかり「ジロリアン」になってしまっておるが、こういうのもたまにはよろしい。

○講演会場は、これまた懐かしいタウンセブンの8階である。昔よく買い物をした場所だ。地下の魚売り場が充実している。覗いてみたら、今も繁盛していた。しかし7階にあった「藪そば」はなくなっていて、代わりに和幸とサイゼリアが入っていた。これはちょっと惜しまれる。

○荻窪は今でも古本屋や喫茶店が多い。ちょっと変わったけど、あんまり変わっていないいい街だと思う。今度、木曜日以外にまた来てみたい。


<2月19日>(金)

○最近聞いて「へ〜、そうなんだ」と思った話のご紹介。


「リオ五輪のときのジカ熱なんて、心配いりませんよ。8月のブラジルは冬のさなかですから。蚊はいませんって」(→後記:読者から「リオは8月でも結構暑いですよ」とのご指摘がありました。やっぱりご用心ください)


「イランにおけるシーア派の僧侶の役割は、いわば弁護士です。離婚とか財産分与とか、身近な問題をイスラム法で裁いてくれます。彼らの口からありがた〜いお話なんて、聞いたことないです」


「中国経済は最初は輸出主導だった。リーマンショックの後はインフラ投資だった。現在は『一帯一路』と称して、インフラの輸出に望みを賭けている」


「マイナス金利は、日銀OBの間では意外なくらいに評判が良い。逆にマーケット関係者の間では評判が悪い」


「金利低下、円高、株安。電力会社にとっては文字通りトリプルメリットです。ここ5年ほど、辛い思いばかりしてきたけれども、ここへ来てホッとしています」


「今般逝去した米最高裁判事の最保守派スカリア氏は、最リベラル派のギンズバーグ判事との間で友情を育んできた。二人は法律の解釈は違っていても、憲法と最高裁への尊敬で一致していた」


「テッド・クルーズはTed Cruz、トム・クルーズはTom Cruise、ごっちゃにしてはいけません」


○明日、2月20日は、アメリカでは共和党はサウスカロライナ州予備選挙、民主党はネバダ州党員集会。週明け月曜日になってみたら、米大統領選挙はまたまた状況は激変しているかもしれません。


<2月21日>(日)

○20日の投票結果が出たようです。

民主党:ネバダ州党員集会はヒラリー・クリントン候補が53%対47%で勝ち。やっぱりCaucusだとヒラリーが勝つんですね。次の日程は27日のサウスカロライナ州予備選挙。世論調査では、ヒラリー優位である。来週、連勝すると、かなりサンダースを引き離すことができることでしょう。

共和党:サウスカロライナ州予備選挙はドナルド・トランプ氏が勝ち。アイオワ2位、ニューハンプシャー1位の後ですから、これはもう堂々たる大本命候補です。ただし得票率は33%で、これから先4割の壁を越えられるかどうかが問題。4年前もミット・ロムニーがそれで苦労した。共和党予備選挙をLandslideで勝つことは容易ではありません。

○2位はマルコ・ルビオ(23%)。僅差でテッド・クルーズ(22%)を抜きました。地元のニッキ・ヘイリー知事の支持を受けたのが大きかったようです。彼女はインド系アメリカ人で44歳。ルビオが大統領候補になれば、有力な副大統領候補ということになります。テッド・クルーズはここで2位に立てなかったのは痛い。「南部で宗教票を掘り起こして勝つ」のが彼の基本戦略ですから。

○それ以上に大きかったのは、ジェブ・ブッシュが8%の4位に終わり、撤退宣言をしたことです。サウスカロライナ州では、母バーバラや兄ジョージを動員していましたが、ここまでやってダメなら支持者も納得でしょう。ここまで来ると、共和党は事実上の三つ巴決戦。非主流派のトランプ、保守派のクルーズ、本流派のルビオという図式になります。

○共和党の次の日程は23日のネバダ州党員集会。その次はお待ちかね、3月1日のスーパーチューズデーとなります。詳しい話はまた後程。


<2月22日>(月)

○明日のネバダ州党員集会の世論調査はこんな感じ。ここでもトランプ氏が首位を行く勢いだが、得票が4割を超えるかどうかが見どころ。あなたが強いのはもう十分わかったら、4割を超えてlandslideで勝てるかどうか。トランプ氏の場合、共和党内に「お仲間」が少ないので、誰かと同盟関係を組むということが難しい。党内の有力者が、「トランプ支持」を表明することも考えにくい。「反主流派」の候補者であるから、孤立しているのである。真面目な話、彼が大統領候補になったら、副大統領候補は誰か。サラ・ペイリンだったら、やっぱそりゃ拙いでしょ。

○さらに今後の予備選挙においては、大きな州はそれぞれ、テキサス州(3/1)はテッド・クルーズが、フロリダ州(3/15)はマルコ・ルビオが、オハイオ州(3/15)はジョン・ケイシックが、地元の利を生かしてゲットするだろう。そうなると、なかなか過半数の選挙人を抑えることは難しい。なにしろ今後はWinner Take Allの州が多くなりますので。

○もう一つ、ネバダ州での焦点は、テッド・クルーズとマルコ・ルビオの2位争い。クルーズは3月1日のSuper Tuesdayでの大勝利を狙っているし、ルビオはサウスカロライナ州の2位で勢いがついている。さて、どっちが上か。ヒスパニック系が多いネバダ州ですから、ここは両候補にとって力が入るところ。とはいっても、キューバ系移民とメキシコ系では違う、という意見はあるのですが。

○さらに今後の言動が注目されるのはジェブ・ブッシュ。2016年選挙ではいいところなしで撤退することになったが、党内にはこれでホッとしている人が少なくないだろう。こう言っては何だが、「過去にブッシュ家にお世話になった人」があまりにも多いからである。で、後はジェブとしては、カッコ悪くない形で誰かをエンドースしなければならない。でないと、今後は影響力皆無になってしまうかもしれない。ま、当面は「癒し」期間でしょうかね。

○逆に民主党側はしばしお休みです。やはりネバダでヒラリーが勝ったことは大きかった。後は南部諸州が開くので、だんだん良くなるホッケの太鼓、みたいな展開です。もっともサンダースも一定数は取って粘りそうなので、そうなると党大会では、3割くらい「サンダース支持派」が陣取るかもしれない。そこでどうするか、というのもヒラリーにとっては悩ましいことであります。


<2月24日>(水)

○福岡に出張してきました。ということで、福岡市の噂話を少々。


*かつては模倣していた神戸市をとうとう人口で抜いた。日本の三大都市圏は東京、大阪、福岡だと思っている。(名古屋のことは忘れているし、横浜なんぞは目じゃない)

*「5大ドームツァー」で嵐やエグザイルが福岡に来ると、いきなりホテルが取れなくなってしまう。

*札幌になくて福岡にあるもの、それは大相撲九州場所だ。でも、最近は客の入りがいまひとつ。

*ソフトバンクホークスの圧倒的な強さには自信があるが、正直、昨年のCSではロッテの「下克上」を本気で怖れていた。

*中国人観光客の「爆買い」に圧倒される日々。某ショッピングセンターには、「日本人専用レーン」ができてしまった。

*中国人観光客は船で到来し、バスで乗り付け、嵐のようにお買い上げになるが、しっかりキックバックを取るので、地元としてはあまり儲からない。

*今までヤフオクドームの近くで活動していたHKT48が、いよいよ天神に活動拠点を移す。

*福岡は若い女性が多いので、美容院の数が半端なく、エステやマッサージが繁盛し、化粧品の売り上げも多い。

*福岡の路上観察ブログ「Y氏は暇人」が単行本、『福岡路上遺産』になった。「ブラタモリ」で取り上げられる日も近い?


○とりあえずグランドハイアットはいいホテルでありましたし、「太郎源」の魚はフグからのどぐろまで絶品のオンパレードでありました。ああ、また行きたいなあ。


<2月25日>(木)

○今日は久しぶりにテレビ東京で「モーニングサテライト」に出演。本日の特集テーマは「米大統領選が映し出すアメリカの現状」。先日の溜池通信で取り上げたネタであります。

○本日のゲストは三井住友銀行のチーフエコノミスト、西岡純子さん(くれぐれも「すみこ」と呼んじゃいけませんよ)とご一緒でした(実は今日が初対面でした)。そして本日のオマケは、こんな感じ。朝から美女たちに囲まれてハッピーだったんですが、西岡さんからは、「母が吉崎さんのファンなんです」と言われて、わしゃあそんなに年を取っていたかと軽くショックを感じていたのであります。

○それはさておき、ネバダ州党員集会の結果は衝撃的なものでした。なにしろドナルド・トランプ氏が、「(得票が)46%でヒスパニックで1位! I'm really happy about that!」と絶叫してしまったくらいです。個人的には、「トランプは4割は超えられないだろう」と見てましたので、ご本人が喜ばれるのは当然のことでしょう。それよりも、「メキシコとの国境に壁を作る」と言っている人を、ネバダ州在住のヒスパニック有権者が1位で支持する(2位と3位はキューバ移民の子どもなのに!)という現象には呆れるほかはありません。まあ、ヒスパニック有権者の大半は民主党支持だとは思いますけれども・・・・。

○マルコ・ルビオはネバダ州で2位につけて、「トランプ旋風を止められる共和党の唯一の可能性」であることを示しました。これに対してテッド・クルーズは、金城湯池たるべき宗教的右派の票でトランプに負けてしまっている。これはもうあきまへん。来週、3月1日のSuper Tuesdayでは、彼の地元である大票田テキサス州が開票しますけど、ここでトランプに負けるようだったらその瞬間に退場でしょう。ちなみにテキサス州の世論調査はここをご参照。今日時点では、@クルーズ〜Aトランプ〜Bルビオの順ですね。

○予備選プロセスもここまで来ると、もう支持率はさほど関係ありません。選挙人の「数」がモノを言います。テキサス州は選挙人の数が155人も居る。トランプ候補が今までに獲得した選挙人の総数が82人ですから、とってもでかいのであります。それから、この州には「20%足切りルール」がありますので、ルビオはなにがなんでも2割の壁を越えなければなりません。同日に開票するジョージア州(選挙人数76人)でも、同じことが言えます。まさに天下分け目のスーパーチューズデー。

○さらに今後の日程は下記の通りです。


<今後の共和党日程>

●3月1日:アラバマ州(50)、アラスカ州(28)、アーカンソー州(40)、ジョージア州(76)、マサチューセッツ州(42)、ミネソタ州(38)、オクラホマ州(43)、テネシー州(58)、テキサス州(155)、バーモント州(16)、バージニア州(49)、ワイオミング州(29)

●3月5日:カンザス州(40)、ケンタッキー州(46)、ルイジアナ州(46)、メイン州(23)

●3月8日:ハワイ州(19)、アイダホ州(32)、ミシガン州(59)、ミシシッピ州(40)

●3月12日:ワシントンDC(19)、グァム(9)

●3月15日:フロリダ州(99)、イリノイ州(69)、ミズーリ州(52)、ノースカロライナ州(72)、オハイオ州(72)


○ルビオが大逆転を果たすためには、いくつもの条件が課せられます。まず、@スーパーチューズデーには、最低でもどこかの州で1位になること(彼はまだ1回もトップを取っていませんから)。Aテキサス州とジョージア州で2割以上確保し、選挙人を獲得すること、Bその後の2週間でも小まめに稼ぐこと。C3月15日には、地元フロリダ州でWinner-take-allを実現して99人を確保すること、Dそしてオハイオ州、ノースカロライナ州などでも大躍進を遂げること・・・・。

○これらの条件をすべて達成すると、打倒トランプが現実味を帯びてきます。その確率の低さはJRAの「WIN5」並みで、思わず頭がクラクラしてしまいますけれども、個人的にはその可能性に賭けたいと思います。ご案内の通り、ワシは昔からギャンブラー自己中心派なのである。


<2月26日>(金)

○最近似ていると思うもの。民主党とシャープの取締役会。

○あなたたちが合併しようが身売りしようが、誰も関心を持ってはいないのに、当人たちの自己愛が強過ぎて、意思決定に時間がかかり過ぎ。そんなんじゃ与党にはなれないし、会社としての復活もおぼつかない。シャープは今日になって偶発債務が発覚したとか。それじゃあ、身売りもできないじゃないですか。

○それでは民主党が、維新の党と合流した後の新党名はどうなるんでしょうか。今週、某メンバーで新党名を考えていた時に出たアイデアを下記しておきましょう。

(1)新党みんみん

――かわいらしさを狙ってみました。やっぱり新党の名前はひらがなに限りますよね。「みんなの党」がなくなったので、ひらがな名称は有力だと思います。

(2)民進党

――台湾の与党からいただきました。党首はもちろん蓮舫さんにお願いします。蔡英文さんと党首会談すれば、反中国票が期待できるかもしれません。

(3)時代力量

――これも台湾の新党名からのパクリです。ひまわり運動の担い手たちは、本邦の「シールズ」たちよりは達者だと思います。

○ところが衆知を結集すると、下記のように素晴らしいアイデアが集まるのですね。これはもうほとんど大喜利状態。座布団を差し上げたいようなアイデアが満載です。

https://twitter.com/hashtag/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%85%9A%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%85%9A%E5%90%8D%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B 

○衆知を集めるというよりは、ひたすら羞恥を集めている感じですね。お後がよろしいようでございます。


<2月28日>(日)

○今日の中山競馬場は混んでおりましたねえ。天気がいいから、ではなくて、中山記念にドゥラメンテが出走するから。G1レース並みの熱気でしたな。なにしろ去年、皐月賞とダービーをぶっちぎって、そのまま骨折で9カ月の放牧明け。これに対し、先輩格のイスラボニータ、ロゴタイプ、ラストインパクト、加えて同期のリアルスティールらが出てくるのですから見どころ充分。

○で、ドゥラメンテは見事にやってくれました。中山のスタンドで見ておりましたが、第4コーナーからの加速は「神降臨」でした。アンビシャスに流していなかったから、馬券は取れなかったけどね。これはもう日本競馬界の至宝でありまして、今度こそ凱旋門賞が勝てちゃうかもしれません。いやはや。

○ところで今日は、@ドゥラメンテ―Aアンビシャスという見方もできるが、騎手から見ると@デムーロ、Aルメールというコンビでもあった。それってこないだのフェブラリーステークスもそうだったし、そもそもデムーロは今日でJRA通算500勝ですから。お二人ともJRA騎手になって大正解ですな。

○で、こんな風に外国人アスリートが大成功を収めるということは、いかに今までの日本人騎手たちがぬるま湯状態だったか、ということでありましょう。だんだん相撲界みたいになってきましたな。でも、海外から強者がやってきてくれるということは、日本競馬界をさらに強くしてくれているわけで、くれぐれもけち臭いことを言わないようにしたいものであります。

○さて、以下は全くそれとは無関係な話ですが、この季節、いよいよ花粉が飛んでワシなんぞも苦しんでおります。先日、同じ苦しみを分かつ某氏とともに、「ポケットティッシュはやっぱりエリエールに限りますよね〜」などということで盛り上がったのですが、問題は使用済みのティッシュをどうするか。いつも捨てる場所が近くにあるわけではない。そこでいいアイデアがあるのです。

○JRで新幹線などの切符を買ったときにくれる袋がありますよね。あれを上着のポケットに入れておく。これがティッシュのゴミ入れにはぴったりなんです。ゴミ箱を見つけた時には、袋ごと捨てることができる。幸いなことに、今は切符は自動販売機でも買えますから、実はあの袋は取り放題なんです。いや、もちろんごそっと持って行っちゃいけませんよ。遠慮しながら、少しだけ失敬しております。


<2月29日>(月)

○明日のスーパーチューズデーの見どころをメモしておきましょう。選挙人の数がとっても多いことにご注目ください。明日はこれらがいっぺんに開きます。今までの4州は、序盤戦に過ぎなかったわけですね。


  方式 GOP  DEM 
TX テキサス州 Primary 155 237
GA ジョージア州 Primary 76 112
VA バージニア州 Primary 49 112
TN テネシー州 Primary 58 77
MA マサチューセッツ州 Primary 42 121
MN ミネソタ州 Caucus 38 94
CO コロラド州 Caucus 37 77
AL アラバマ州 Primary 50 58
OK オクラホマ州 Primary 43 42
AR アーカンソー州 Primary 40 37
VT バーモント州 Primary 16 23
AK アラスカ州 Caucus 28 18
合計   632 1008



○民主党側はヒラリー・クリントン候補の勝ちでだいたい決まったと思います。土曜日のサウスカロライナ州予備選挙は圧倒的でしたし、南部に行くとやはりクリントン夫妻は人気があるのです。ついでに言うと、ほんのちょっとでもオバマ大統領の批判すると、南部の民主党支持者(特に黒人有権者)の間では評判が悪くなる。その点、サンダースさんは、「あの人はやっぱり北東部の人」という評価になったのではないでしょうか。

○で、問題は共和党側です。トランプ旋風が、このまま火曜日に全米12州を席巻するかどうか。実は結構、その確率は高いです。最新の調査でも、彼はジョージア、テネシー、マサチューセッツ州などで他候補を引き離しています。テキサスはさすがに地元選出のテッド・クルーズがとるでしょうけれども、その他の州はかなりの比率でドナルドに行っちゃいそうです。

○そんな中で、今になって起きている事件は「KKKがトランプを支持した」という話。かつて、レーガンが大統領候補だったときは、同団体の支持を即座に却下しました。トランプはそのことに対して躊躇し、「俺はそんな連中知らんぞ」といってごまかした。これがゲームチェンジャーになるのかどうか。まあ、余計なことは言わないで、おとなしく結果に聴いてみるしかないですな。さて、どうなりますことやら。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki