●かんべえの不規則発言



2004年2月






<2月1日>(日)

〇「30を過ぎて子供のいない独身女性は人生の負け犬」とかいう本が売れているんだそうだ。あほらしいし、わざわざ読む気もしないので、いちいち内容を確認するつもりもないけれども、とりあえずこういう本は売れるんだろうなーと思いましたな。

〇出版業界には、「本はコンプレックスで売れる」という通説がある。世の中には、「英語ができるようになる」「痩せてきれいになる」「女にモテるようになる」「ゴルフがうまくなる」といった本があふれている。その手の本を買ったからといって、読者の問題は絶対に解決しないんだけど、需要は尽きない。なんとなれば、英語なりダイエットなりに対しては、コンプレックスを抱いている人があまりにも多いからだ。人は怒りや悲しみでは本を買ってくれない。だが、なぜかコンプレックスと本は相性がいいらしい。

〇「30を過ぎて子供のいない独身女性」というのは、いわば潜在的なコンプレックスを発掘したことになる。もちろん、そんなことでコンプレックスを感じる必要はさらさらないと思うのだが、当人にとってそれが人生の一大事であれば、十分に「市場」として成立する。実際にダイエットやゴルフに悩んでいる人たちは、他人から見ると「あんたのどこが問題なの?」と不思議であることの方が多い。だからこの企画は、あえて「負け犬」というキツイ言い方をしたところがポイントですな。

〇ここで話が飛躍するのだけれど、例の古賀潤一郎氏の経歴詐称問題も、全然たいした問題ではないにもかかわらず、誰もがコンプレックスを持ちがちな「学歴」がネタであったことで注目を集めてしまったと思う。昨今はたとえ聞いたことのない名前のない大学でも、アメリカの大学を出たというだけで、「きっと英語もできるんだろうなあ」的な羨望を受けるという地合いがある。そしたら古賀氏ときたら、在米生活15年でも実態はサッパリらしい。そういうのがバレるというのは、マスコミ的には実においしい話題となる。

〇まあ、経歴を詐称すること自体が、本人のコンプレックスの強さを示しているようなもので、同情する余地はほとんどありませんけどね。


<2月2日>(月)

〇久しぶりに円より子先生の勉強会に顔を出しました。本題は公共事業についてだったのですが、その後の飲み会の雑談が面白くて、映画は『ロード・オブ・ザ・リング』はいいけれども、『ラストサムライ』はスカだとか、『マトリックス』が打ち立てたSF映画の世界の意義だとか、著名エコノミストの某氏は結婚が4回目だとか、それだけ離婚できるのは本人が真面目な証拠であろうとか、別れた男でも偉くなってくれれば女はうれしいとか、その手の話。

〇で、本日、いちばん受けた話。題して「微笑ましき学歴詐称」。

〇かんべえが毎週末、一緒に「火の用心」をやっている町内会防犯部のTさんは、江戸っ子で、実は60代なんだけれど、とてもそうは見えない元気なおじさんである。町内でいちばん声が大きくて、いちばん顔が広くて、年に1度のお祭りや総会にはいつも欠かせない。「火の用心」のときも、声がよく通るので、この人だけはマイクがいらない。それこそ、拍子木の音とともに、夜のしじまに抜けるような声を聞かせてくれる。

〇某日、見回りの後で一杯飲んでいたら、途方もない昔話を語ってくれた。Tさんはその昔、「東京球場のヤジ将軍」だったのである。東京球場といっても、どこにあったか私もよく知らないんだけど、たしか川崎に行く前のロッテオリオンズのフランチャイズだったと思う。Tさん自身は東映フライヤーズのファンで、試合がある日は連日のように通っていたらしい。

〇声がよく通るTさんのヤジは球場では有名で、三塁側の自由席の切符を買って入ると、「お、あいつが来たぞ」とすぐに東映ファンの誰かが金網越しに、指定席の切符を渡してくれた。でもって、三塁フライが上がったりすると至近距離から、「おうい有藤、そいつは大丈夫だ。取れるぞ〜」などと声をかける。そうすると選手たちは皆、Tさんの声を知っているから、変に意識してどうってことのないイージーフライを落としたりするのである。たちまちTさんは三塁側の英雄になる。ちなみにそのときの有藤選手は、試合後にTさんを捕まえて、「頼むから止めてよ。お礼に何でも奢るからさぁ」とマジで頼み込んだそうである。

〇なにしろ昔のパ・リーグの試合、それも東京球場であるから、客もそんなに多くはないし、春風駘蕩というか、アットホームというか、選手と観客の間に濃密なコミュニケーションがあった。試合が終わったら選手と一緒に飲みにいく、なんてこともめずらしくはなかったらしい。Tさんは下町の印刷工場勤務だったが、昼間から「今夜はどんなヤジを飛ばしてやろうか」と研究を怠らなかった。相手チームのことを事細かに調べ、どう言えば相手を怒らせ、どう言えば受けるかを始終、検討していたという。(ご本人の名誉のために付け加えると、Tさんは腕のいい職人さんなので、会社も野球狂いを大目に見ていたらしい。その証拠に、Tさんはとっくに定年を過ぎた現在も現役で働いている。)

〇で、Tさんが語る「会心のヤジ」というものがある。一塁側のベンチに向かって、こんなことを叫ぶのである。

「おーい、大沢。立教大学っていうのは、カネさえ払えば、卒業できるんだってなぁ」

〇当時はまだ若かった大沢親分であるが、この瞬間、ベンチ内には殺気が走ったであろう。おそらく球場全体が固唾を呑んだ次の瞬間、Tさんは二の矢を放つのである。

「俺は東大出だけど、苦学したぜぇ」

〇今でも日曜日の朝のTBSの番組を見ると、大沢親分が「カァツ!」などと叫んでいる。あれを見るたびに、「大沢の野郎、絶対に俺のことを覚えているだろうなあ」とTさんは言うのである。たぶんそうだろう。仮に忘れていたとしても、Tさんのよく通る声を聞いた瞬間に、「テメエ、あんときはよくも・・・」と沸騰しちゃうのではないだろうか。

〇ね、ちょっといい話でしょ?これ。


<2月3日>(火)

〇午前中、しばらく前から懸案になった耳鼻科の治療に出かける。ついでもって午後も会社を休むことにし、これも懸案になっていた『シービスケット』を見る。平日だけあって空いていた。案の定、いい映画でした。お陰で『ラストサムライ』の脱力感から立ち直りました。

〇肝心の馬、シービスケットが登場するまでの約1時間、映画は3人の主要人物の前半生を描くことに集中する。ほっときゃいくらでも時間がかかるところ、映画は快調に飛ばしつつ、後段部分の伏線を上手に散りばめつつ、3人が体験した悲哀をコンパクトに紹介する。こんな風に脚本がよくできている映画は、安心して見ていられる。そして3人は馬主と調教師と騎手として出会う。必要なときに必要な人と出会える幸福。彼らを結びつけたのが、運命の馬、シービスケットであった。

〇シービスケットは軽量級の馬である。見たところ450キロ程度だろうか。なんとなく、わが愛しのステイゴールドを髣髴とさせる。劇中に登場する強敵、ウォーアドミラルは550キロはありそうで、JRAの馬に例えるならば文句なくシンボリクリスエスである。この両者が激突する。ステイゴールドがシンボリクリスエスに挑戦する、というと無謀に思えるが、そこはそれ、映画である。でもってこの映画、分かりきった結末に向かってまっしぐらに進む。それでも十分にワクワク、ハラハラさせてくれる。迫力のあるレースシーンはもちろんだが、何よりシービスケットが3人の男の夢を乗せているからだ。

〇騎手を演じるトビー・マグワイアは、『スパイダーマン』とはうって変わった変貌を遂げている。騎手を演じるために10キロ減量したそうで、なるほどまるでペリエ騎手のように見える。喧嘩っ早い性格は、後藤浩輝騎手といったところか。調教師のクリス・クーパーは、いかにも古臭い西部の男である。沈着冷静で、レース展開を的確に読むことができる。こういう人が近くにいれば、競馬ファンにとっては百人力だろう。

〇そして馬主のジェフ・ブリッジス。この男、なんとなく顔がジョージ・ブッシュに似ている。そう思ってみていると、一見愚鈍に見えるところ、こうと決めたら変えないところ、部下思いのところ、そして愛妻家で、微妙に屈折しているところなど、行動パターンも似ている。大統領としてのブッシュについては、ご承知の通りいろいろあるわけで、彼に(いちおう)肯定的な評価を与えている不肖かんべえでさえ、仮にアメリカ大統領選挙の選挙権を得たとしたら、投票の際には思い切り悩んでしまうと思うのだが、とりあえず田舎の馬主さんとしては、こんな適材はいないだろう。

〇そしてシービスケットは彼らの夢を乗せて走る。ここで畏敬する競馬ファン、上海馬券王先生のご意見を引用させてもらおう。

これを見て思い出すのはトーカイテイオーの「奇跡の復活」劇。骨折明け、一年ぶりぶっつけ本番で出た有馬を勝ったあのレースです。あれを見て感動の余り皆が泣いた。ファンだけじゃない。馬主も泣いた。調教師も泣いた。罰当たりの田原成貴も大泣きした。井崎脩五郎みたいなすれっからしの競馬親父まで涙ぐんだ。(告白するが私も目頭が熱くなった。あな恥ずかし。)

そして、そして、一人平静だったのは勝ったテイオー本人だけだった。彼は感動で盛り上がる人々を「おまえら、なにやってんの?」という目でいぶかしげに見つめていたのである。

馬は決して人間の理屈では走っていない。人が馬に寄せる思い入れは、おおむね根拠のない自分勝手な妄想だ。でも、テイオーの(そしてSEA BISCUITの)あの走りは、素人だけじゃなく、調教師や騎手等「馬の理屈」を知っているはずの人々の心まで大きく揺さぶった。

人が競馬にかかわるのは一義的には博打であったりビジネスであったり道楽であったりするのであるが、心の奥ではこういう「本物の馬の本物の走り」が見たくてかかわっているのに違いないのであります。強い競走馬の走る姿には、理屈もへったくれも無く、人間の本能に直接訴えかける何かがあるのであります。『畏敬』なのです、ほとんど『宗教』なのです。

〇上のように、何かと理屈をこねたがるのは、競馬ファンの癖のようなものである。そしてこれは映画ファンの癖でもある。そういえば、競馬ファンと映画ファンは似たような気質があると思う。馬券王先生や不肖かんべえは、両方において重度のファンであり、理屈をこねだすと際限がない。そういえば今年は、競馬は今のところ1勝1敗。映画も1勝1敗ですな。どれ、今夜はWOWOWでも見てやろうか。


<2月4日>(水)

〇スーパーセブン、あるいはミニチューズデーの結果が揃いました。以下は情勢分析です。

●PRIMARY RESULTS: February 3

http://edition.cnn.com/ELECTION/2004/primaries/pages/dates/02/03/ 

ケリーは7つの州のうち5つを制し、それもすべて4割以上の得票という大勝利でした。ケリーはこれらの州ではあまり活動をしていないのですが、それでも勢いというのは恐ろしい。アイオワとニューハンプシャーで勝ったことで、「民主党の予備選挙」をメディアが報道するときには、かならず先頭にケリーが来るようになった。他の候補に対する言及は相対的に少なくなります。これが世に言う「ニューハンプシャー効果」というもので、予備選挙は「先行逃げ切り型」に限るという寸法です。

〇そんなケリーも、昨年までは文字通り「死に体」でした。しかし11月には選挙参謀を更迭。12月には選挙への公的資金のマッチングを受け取らないことを宣言し、身銭85万ドルを注ぎ込んだ。(必要あれば、さらに追加すると宣言している――すげぇ!) でもって、持てるすべての資源をアイオワ州に注ぎ込んだ。このギャンブルが成功した。

〇「負けてなお強し」を感じさせたのはエドワーズ。「ここで負けたら撤退する」と宣言し、文字通り背水の陣をしいたサウスカロライナ州で45%を取り、ケリーに15%の差をつけた1位。オクラホマ州でも30%を取るなど、「南部で勝てる候補」を印象付けた。これはとても重要なことで、俗に「アメリカ大統領はBubbaが決める」ともいわれる。Bubbaとは南部人に対する蔑称みたいなもの。実際、過去に民主党が大統領になったのは、JFK以後はすべて南部出身である。

ディーンは7つの州で、3位が4つ、4位が1つ、5位が2つ。とってもシリアスな負け方です。ディーンのブログを見ると、「この7つの州は捨てた。3月2日のスーパーチューズデーにすべてを賭ける」ということのようだ。それはかなり「無理筋」な戦略というもので、大逆転は不可能でしょう。ブログの方も、コメントにレスが付く数が急速に減ってしまっている。資金もショートしつつあるらしい(不規則発言1月30日既報)。本当にあと1ヶ月、頑張りきれるのか。

〇ディーンはほんの半月前まではチャンピオンだった。まあ、このページをご覧あれ。これだけたくさんの支持を受け、これだけたくさんの地方組織を作った候補者はほかにいない。ここで撤退してしまうと、全国の組織に対して申し訳ない、あるいはせめて3月2日にニューヨーク州やカリフォルニア州の結果を見たい、という気持ちになるのは当然でしょう。まあ、でもその前に、2月7日のミシガン州、ワシントン州の結果が以下同文であったら・・・・やっぱり苦しいか。

クラークは不満足な結果で終わりました。サウスカロライナ州でシャープトンに遅れをとる4位というのはちょっと・・・・どうもやることなすこと、ちぐはぐな感じです。次の目標はどこに置くんでしょうか?

〇そしてリーバーマンは戦線を離脱した。アイオワ州をパスし、ニューハンプシャー州では2ヶ月間住み込んで勝負にかけたものの5位に終わった。次は出身地、コネティカット州に近いデラウェア州で「最後のお願い」をしてみたものの、ケリーの50%に遠く及ばない11%。即日の撤退宣言となりました。しかし気持ちは挫けてはおらず、"I pledge to support whoever the Democratic nominee may be to deny George Bush a second term."と言っている。「誰でも応援するぞ」という心意気。

〇結論として、ケリーが優勢なるも、残る候補者の間で、3月2日の最終決戦に向けて選挙戦は続くのでしょう。とはいえ、民主党の最終目標はブッシュの再選を阻止することですから、そのためのベストな選択をしなければなりません。すでに身銭まで注ぎ込んでいるケリーとしては、少しでもお金は本選挙のために残しておきたいところでしょう。

〇民主党としては、やはり「ケリー&エドワーズ」のチケットを組むのが最適でしょう(当欄の1月26日付け参照)。The Economist誌も、今週号のカバーストーリー"The man to beat Bush?"でこんな風に書いている。この「二人のジョン」は誰が見てもいいコンビだと思うのだ。

Mr Edwards has an appealing optimism and a credible interest in domestic policy, but, with not even one term completed in the Senate, he has yet to prove himself in foreign policy. His best use to his party would probably be as Mr Kerry's running-mate -- a southern populist balancing the Yankee patrician.

〇エドワーズは98年初当選組なので、本来ならば今年は上院議員の再選を目指さなければならない年である。ところが、大統領選挙に専念するために上院議員としての2期目は狙わないと宣言している。ということは、ここで降りると来年は仕事がない。だったら適当な地点でレースを降りて、副大統領候補を受けた方が得策じゃないだろうか。

〇ブッシュの再選を阻止することは、民主党にとっては限りなく"Mission:Impossible"だったけれど、一筋の明かりが見えてきたといって良いかもしれません。


<2月5日>(木)

〇最近、頂戴した本について。

●日露戦争 長山靖生 新潮新書 700円+税

〇日露戦争は、銃後の日本国民たちにとっては、非日常的な「娯楽」でもあった。とかく偉大な時代として描かれる明治であるが、人々の暮らしはたぶんに江戸時代を引きずっており、今から考えると「へぇ〜」な話が多い。当時の新聞によると、戦争によって木賃宿や料理屋、寄席などは不振をきわめたが、遊郭は大盛況であった。「これが最後」と遊びに行く兵士と、大勝利の号外がきているのに女房なんぞ相手にできるかという「愛国的女郎買い」の結果であったと。

〇明治の群像の反応も面白い。東大講師だった夏目漱石は、本籍を北海道に移して徴兵を忌避した。そのくせ戦争を称えるへたくそな長詩『従軍行』を書き、それを非難されると自己嫌悪に陥り、『吾輩は猫である』を書き始め、散文の世界に入っていった。森鴎外は第二軍に従軍し、こちらは堂々たるロシア討つべしという長詩を書いた。そして軍医部長として戦場で多くの死を目の当たりにしつつ、それを何とも思わなくなる自己を客観視し、虚無的で凄みのある自己表現の境地に至っている。

〇今年は日露戦争百周年。この時代のことをもっと知りたいですね。

「人間力」のプロになる 岡本呻也 実業之日本社 1300円+税

〇思わず電話をかけてしまいました。「この本って、いったいどんな人が買うの?」 岡本氏、慌てず騒がず、「んー、どんな人でしょうねえー」。ビジネス本なのか、メンタルヘルスの本なのか、お説教本なのか。どうも「EQ」の概念を、分かりやすく換骨奪胎したようでもある。「この本のキモは茶道(の精神)でしょ?」と聞いたら、「あたりー」と言ってました。なるほど、それならやっぱりいつもの岡本ワールドなわけですな。

〇「僕は人間力がないから、こういう本を書くんです」とも言ってました。何をおっしゃいますやら。彼を良く知る者の間では、彼の異才は知れ渡っておりますが、問題は知らない読者にそれをどうやって伝えるかですね。

●ベーシック 国際関係入門 日本経済新聞社編 日経文庫 874円+税

〇国際政治の入門書はいつも求められている。大判にしてみたり、マンガにしてみたり、いろいろ工夫はしてみるけれど、なかなか「楽しく分かりやすく」はならない。本書は93年に作られたロングセラーで、一見、教科書的な路線で書かれている。こういうものを作るのは難しいでしょうね。

〇本書によれば、国連は発足から5年目まで、本部がなかった。1950年になって、ロックフェラー家とニューヨーク市から土地を譲り受け、アメリカ政府から6500万ドルを無利子で借り受けて建設された由。そうなんだよね。国連はアメリカが作ったんだよね。


<2月6日>(金)

〇アメリカ大統領選、なんだか私の周りではエドワーズ上院議員が人気ありますね。ということで、今週号で書き漏らしたことなどを少々。

〇エドワーズは弁護士出身。医療過誤訴訟を得意とし、裁判ではむちゃくちゃに勝率が高かったらしい。保守的なノースカロライナ州で、共和党の現職を劇的に破って1998年に当選。上院議員としてわずか2年のうちに、クリントンの弾劾裁判などで名をあげ、2000年選挙の際にはゴア候補の副大統領候補の最終リストに残っていたという。非常に鮮烈なデビューでありました。

〇個人的には2002年頃だったか、ワシントンの某リベラル派の情報通が、「2004年はエドワーズだ」と言っていたのを聞いて、へぇーと思った覚えがある。とにかく見てくれが良い。弁舌もさわやか。民主党の候補者選びで、よーいドンの瞬間には、資金の集まり具合がいちばんよかった。(不規則発言、2003年5月5日分参照)。

〇エドワーズは苦労して身を起こしただけに、一種、捨て身の強さがあるのかもしれない。だいたい、上院議員の最初の任期の途中でいきなり大統領選に出るというのは、あのヒラリーでさえ遠慮しているくらいだ。ところが思い切りよく大統領選に出て、上院議員の再選は目指さないという。まあ、失職すればいつでも弁護士に戻ればいいわけで、生活には困らないのだろうけれど。先日のミニ・チューズデーではサウスカロライナ州に賭けていて、「ここで負けたら撤退」と明言していた。こんな風に、「勝負!」と出られるところが若さの強みであろう。

〇どうもこの人、見かけは優男だけど、相当に芯が強いというか、野心家であるような気がする。おそらくある時点で、「俺は大統領になるぞ」と決めていたんだろう。明日のミシガン州、ワシントン州の予備選も、綱渡りの勝負になるだろうが、これから先のレースでは文字通りのキーマンですね。


<2月7〜8日>(土〜日)

〇今日はちょ、ちょっとショックなことが・・・・・・。お昼に久しぶりに、南柏にある「港」という洋食屋に行ったんです。そしたら、店が閉まっているんです。どうも廃業したらしい。前々から、そうなるんじゃないかなぁ、という恐れはありました。なにせ、職人肌のおやじさんがただ一人でやっているのに、いつ行ってもガラガラで、おやじさんがやる気をなくした瞬間に終わってしまいそうな店でしたから。さらにマズイことに、南柏の駅前は大型の再開発が進んでいて、この店の界隈はどんどん寂れていく一方。お隣の店もどこかへ行っちゃったし、そろそろ時間の問題かなあ、と思っていたのです。

〇だいたいが私はいつも同じ店にばかり通いたがる方で、この点はいつもこの人から文句をいわれている。「港」は1月に1回行ったきりで、今日が今年2回目のつもりでした。うーん、そんなことなら、もっと行っておけばよかった。白服のよく似合うおやじさん、どこへ行ってしまったのか。まあ、たしかに隠居しても不思議はないお年ではあった。それにしては、店がまるで投げ捨てられたように放置されている。張り紙さえもない。

〇ご近所で聞き込んだ結果、驚くべき事実(正確には噂)が判明。おやじさんは1月下旬に店を畳み、今月から中国に渡ってしまったのだそうだ。上海近郊で(といっても100キロは離れているらしいが)洋食店をやっている友人に呼ばれたとのこと。なにしろ「港」のおやじさん、腕は確かなのである。特にオムライスは絶品。そりゃまあ、向こうじゃ米も卵も鶏肉も条件は違うと思うが(とくに鶏はインフルエンザが怖いぞ〜)、なんとも惜しい話である。

〇韓国の半導体産業を育てたのは、日本の総合電機でリストラに遭った技術者たちであったという。似たような人材流出は、いろんな場所で進行しているんじゃないだろうか。日本国内が正当に扱わないんだもの、そりゃ仕方がないですわな。「港」のおやっさん、中国人の連中にうまいものをたんと食わしてやっておくんなさい。でも、気に入らないことがあったら、また南柏に戻ってきてくだせえ。そしたら今後は月に2回は通いますから。

〇それにしても慣れ親しんだ「お気に入り」と別れるのは悲しい。ふと、こんな名セリフを思い出した。出典はここ

別れの理由:別れの理由は、たいてい、付き合い始めた最初に気づいていたことなのだ。


<2月9日>(月)

〇用事があって議員会館へ。しみじみと館内の案内を見てみると、なんと大勢の知り合いがいることか。「どうも!」の一声で入っていけそうな代議士が二桁近くあるような。こんな時代になるとは、つくづく不思議です。どの事務所に行ったかは、とりあえずナイショ。

〇夜はロシア情勢についての研究会。3月14日の大統領選挙は、プーチンの圧勝で決まりかと思ったら、落とし穴が2つあるらしい。その1は、「投票率が50%に達しない場合は、選挙そのものが無効になってやり直し。この際、1回目の選挙に出馬した人は、2度目は出られない」というルールがあること。つまり有力な対抗馬が出ないと、現職プーチン大統領の「信任投票」になってしまい、投票率が半分以下になるかもしれない。そうなると、プーチンはやり直し選挙に出られない。だから、そこそこの対抗馬を出さないとマズイ。

〇もうひとつの落とし穴は、ロシアの選挙においては「すべての候補者に反対」という選択肢があること。これが最大数になると、これまた選挙がやり直しになってしまう。現に昨年12月に行われた下院議会選挙では、3つの選挙区で再選挙が決まっている。プーチンの再選を防ごうとする場合、下手に誰かを応援するよりも、「すべての候補者に反対」するように呼びかけるのがもっとも効果的ということになる。

〇それにしても、上の2つのルール、日本でも導入した場合、先の大阪府知事選挙などは真っ先に無効になってしまいますな。一見、面白くはありますが、どちらかというと民主主義を危うくする制度のような気がします。

〇もっともプーチンの側にも反撃の手段があって、そんな制度は3月14日前に変えてしまえばいいのである。なんとなれば、12月7日に行われた下院選挙では、450議席中225議席が与党の「統一ロシア」が取ったのだけれど、その後、その他の会派からの入党が相次ぎ、今では306議席に膨れ上がっているという。これは68%に相当するので、憲法改正に必要な3分の2を満たしている。要は何でもできちゃうって話。

〇憲法改正がいつでもできるということは、プーチンの3期目も十分にあり得るということ。そろそろ「ポストプーチン」(今度は髪の毛がふさふさの人が怪しい)の出番かと思ったら、それは当分先になるのではないかと。ロシア流の民主主義は、しみじみ厄介なものですな。

〇さて、以下はまったく関係のない話。「六か国協議を2ちゃんねる風にやるとどうなるか」。最後の「必死だな」に感動しますた。


小泉 「おい、おまいら!!そろそろ会談だから板門店に集合しる!」 
北 「人道支援キボーヌ」 
ブッシュ 「テロ国家認定しますが、何か?」 
北 「米帝キターーーーーーーーー」 
南 「キターーーーーーーーーー」 
ブッシュ 「テロ国家認定ごときで騒ぐ奴は逝ってヨシ」 
中 「オマエモナー」 
北  --------終了------- 
小泉  --------再開------- 
北 「再開すなDQNが!それより食料うpキボンヌ」 
台 「独立しますた」 
中 「↑誤爆?」 
南 「協調age」 
ブッシュ 「おまいらがんがれ>家族」 
小泉 「神降臨!!」 
北 「食料age」 
小泉 「糞国家ageんな!sageろ」 
北 「人道支援age」 
ブッシュ 「人道支援厨uzeeeeeeeeeeee!!」 
ロ 「支援希望って言ってればもらえると思ってるヤシはDQN」 
国連 「イタイ国家があるのはこの半島ですか?」 
南 「氏ね」 
中 「むしろゐ?」 
北 「食料age」 
ブッシュ 「北 、 必 死 だ な ( 藁 」

〇あぼ〜ん?


<2月10日>(火)

吉野家の牛丼がいよいよ販売停止。(中止のお知らせ、およびFAQをご参照のこと)。それにしても吉野家という会社、ここまでのところは上手にこの危機に対応しています。世間の関心はずっと高いし、お客は減らないし、同情さえ集まっている。世の中に吉野家ファンがこんなに大いとは知りませんでした。

〇かんべえがスキャンしている経済雑誌4誌、東洋経済、ダイヤモンド、週刊エコノミスト、日経ビジネスのすべてに、安部社長のインタビュー記事が出ていたと思います(あたしゃ新聞は読まないけど、雑誌はわりによく見ているのだ)。BSEの問題により、「牛丼一本槍」の経営が窮地に陥っているのは間違いない。しかし、それは収益力を高めるために取っていたリスクであって、そうでなきゃ年間150億円なんて営業利益が出るはずがない。今度の事態はあくまでも予想の範囲内のことであって、対応は可能だという論旨です。食品業界の危機管理の失敗をあれだけたくさん見た後では、久々にちゃんとした経営者を見た気がします。

〇なにより、豪州産の牛肉などで間に合わせをしないという決断が立派だと思います。思うに吉野家にとっては、客が来なくなることがリスクなのではなく、下手に代替物を出してブランドイメージが崩れることがリスクなのですね。昔、キーコーヒーの社長に聞いた話ですが、食べ物の仕事にはこんな金言があるのだそうです。

「高いと言って去った客はまた戻ってくるが、まずいと言って去った客はけっして戻らない」

〇吉野家は今度のBSE危機を、ブランドイメージの防衛戦争だと捉えている。そこが偉い。今後、米国産牛肉の輸入が再開された日には、大々的に牛丼の販売が再開されるでしょう。そのときは並盛350円でも500円でも行列ができるんじゃないでしょうか。

〇ここで話題転換。以下は本日、教わった新ネタです。これ、どうやって作ったんでしょう?

State of the Union Address - Director’s Cut

http://www.archinect.com/discuss_cgi/groups/2783.html 


<2月11日>(水)

〇読者から頂戴した作品です。


ニューヨーク・タイムズ紙早版では、戦時下のイラクに駐留する部隊のうち、日本の自衛隊がもっとも安全であることがわかったと報じている。先日フセイン元大統領が潜んでいた穴から、ゲリラ戦やテロ活動をしている部下向けに指示した戦闘命令書を見つけたとペンタゴン筋があきらかにしたのだ。問題のフセイン大統領からの極秘の戦闘命令書には次のような記載がなされていた。

 ●アメリカ軍と遭遇した場合、
「必ず逃げるべし。無敵のアメリカ軍に戦いを挑んで負けた場合は銃殺刑に処す」

 ●イタリア軍と遭遇した場合、
「必ず戦うべし。万が一にもイタリア軍と戦って、負けた場合は銃殺刑に処す」

 ●日本軍と遭遇した場合、
「必ず捕虜にすべし。高額な身代金を要求できる日本兵を殺した場合は銃殺刑に処す」


〇他国の兵士が、「ワシらも自衛隊に入りたい」と思ったりして。


<2月12日>(木)

〇朝から、お台場―虎ノ門―浜松町―大手町―お台場―虎ノ門と動き回った一日。これだけ回ると材料が一杯という感じなのだけど、あらためて考えてみると、書くべき適当なネタがない。さて困ったね。ということで、米予備選挙の情勢について。

〇2月10日、テネシーとバージニアでケリーが圧勝した。ここへきて、「決め」のセリフが見つかったようだ。それは"Bring it on." 演説の終わりに、これを聴衆とともに何度も連呼する。「ブッシュが安全保障問題を争点にしたいって?"Bring it on !"」てな感じで使う。「来るなら来い」とでも訳すんでしょうか。こういう文句が定着するのは、選挙戦がうまく行っている証拠です。

〇その一方で、あらら、クラークが撤退宣言ですね。"Folks, this old soldier will not fade away,"だなんて、同じアーカンソー出身の将軍、ダグラス・マッカーサーを気取ってみたりして。でも、南部で得票率一ケタ台の3位とあっては致し方ありません。どうやら2004年選挙では、アウトサイダータイプが拒否されている。昨年秋頃には、本命ディーン、対抗クラークといわれたのが嘘のよう。やはり"Electability"最優先となると、政治経験豊富な候補者の方が魅力的に映るのでしょうか。

〇もっともクラークの場合、選挙戦を降りてもまったく困らない。テレビコメンテーターもよし、ロビイストもよし、投資銀行でもよし。ケリー政権での国防長官ならますます結構、てなことを考えているのかも。その辺はお気楽な立場です。

〇クラークの退出に伴い、同じ南部を地盤とするエドワーズは、3月2日のスーパーチューズデーまで突っ張りとおすでしょう。3月2日のジョージア州、あわよくば3月9日のテキサス、フロリダ、ルイジアナ、ミシシッピまで結果を見たいと思っているのかも。最後までケリーにくらいつくのはこの男でしょう。

〇それにしても気になります。2004年のノースカロライナ州上院選には、クリントンの首席補佐官を勤めたボウルズが出馬することが決まっている。つまりエドワーズの場合、来年は無職ということがほぼ確定している。保険をかけずに戦っているわけで、いったいこの頑張りはどこから来るのか。まったく、たいしたタマです。

〇ディーンは南部での勝負をあきらめて、3月17日のウィスコンシン州で「最後のお願い」の構え。ただし勝負はほぼついている。CNNによれば、"A recent American Research Poll in Wisconsin showed Kerry with 41 percent of respondents' support, Clark with 15 percent, Edwards with 10 percent and Dean with 9 percent."とのこと。来週中で投了かもしれません。

〇ということで、このページがこんなことを書いている。

So, now that we've awarded the nomination to Kerry, let's get back to "The Long List" of realistic VP possibilities: Bob Graham, Evan Bayh, Dick Gephardt, John Edwards, Bill Richardson, Wes Clark, Tom Vilsack, Mark Warner, Mary Landrieu, John Breaux, Blanche Lincoln, Gary Locke, Ed Rendell, Rod Blagojevich and Max Cleland... are we missing anyone? Hey, to be mischievous (or imaginatively unorthodox), let's even add John McCain to the list.

〇チェイニーがハリバートン社の疑惑問題で叩かれているだけに、副大統領選びは文字通り鍵になるでしょう。それにしてもジョン・マケインですか。まあ、今のところは何でもありということでしょうか。


<2月13日>(金)

〇共和党穏健派で、知日派のワシントン・インサイダーの某氏をお招きし、アメリカの選挙について話を聞きました。ついでもって苗字がFirst Nameみたいな人、と言ってしまうと関係者には分かってしまうかな? ともあれ、非常に勉強になりました。

〇最初に9ヶ月先の投票日は"Far away"であり、"I have no idea."であるとのこと。これはまあ、常識。それでも、いろいろ発見はあるわけで、たとえば「へぇ〜」だったのは、「下院は共和党の優勢が揺るがないが、上院はどうなるか分からない」とのこと。その根拠は、下院はゲリマンダー(現職候補による恣意的な選挙区の線引き)があるので、現状の共和党優位が継続するだろう。しかし上院は各州ごとに「全県区」なので、そういうごまかしが効かない。だから大勝利もあり得るし、大敗もあり得る。なるほどね。

〇大統領選挙については、ブッシュの支持率は下げトレンドの上に、ここへ来てやばい話がいっぱい出てきた。ブッシュの州兵時代の記録だとか、チェイニーに関するさまざまな疑惑とか。ハリバートン社がナイジェリアで賄賂を贈っていた、という話などが直撃弾になったりすると、副大統領候補を別途探さなければならなくなる。これは結構、苦しい。

〇確かに思うのだけど、これで「ブッシュ&チェイニー」対「ケリー&エドワーズ」の戦いになるとすると、副大統領候補は「チェイニーVSエドワーズ」になる。これって、どう見ても「ダースベイダーVSルーク・スカイウォーカー」の戦いである。

Cheney"Young Skywarker, The dark side of the force is wonderful." 「ルークよ、権力の暗黒面は素晴らしいぞ」
Edwards "Father, Please!" 「父さん、お願いだ!」

〇と、面白いマンガがすぐにできそうだ。この場合、ダース・ベイダーが優勢になればなるほど、見ている側はルークを応援したくなるだろう。

〇てなわけで、共和党が危なくなってきたところで、超ド級のネタが飛び込んできた。それも発信源は、アメリカ版の「噂の真相」もしくは「論壇同友会」ともいうべき、ドラジレポートである。なんとケリー候補には女性問題があった。2001年から2年間にわたり、若い女性と浮気していたらしい。マスコミが追いかけているが、その女性は現在、難を逃れるためにアフリカに行ってしまっているという。以下がその特ダネ。

http://www.drudgereportarchives.com/dsp/specialReports_summary.htm 

皮肉なことに、ドラジレポートはあのモニカ・ルインスキー事件のネタ元でもある。この情報が昨晩あたりから、全世界をインターネットで飛び交っているという。アメリカ大統領選挙は、一気に新展開を迎えたかもしれない。(現にIowa Electronic Marketでは異変が起きている。95セントまで上昇したケリー株が、74セントあたりまで下落している)

〇ここまで順調にやってきたケリー候補が、初めて守勢に立たされることになる。彼がブッシュ父を破ったクリントンを目指すなら、この危機を乗り越えなければならない。「マスコミ対応」と「家庭内政局」を同時にクリアして、なおかつ対立候補の攻撃にも耐える必要がある。これに対し、ディーンは急に元気を回復したようだし、クラークも早すぎた撤退宣言を悔やむかもしれない。

〇というわけで、今宵のゲストである某氏いわく、これは"The dirtiest presidential election in the history"ではないかと。いやはや、2004年選挙には驚くことばかりです。


<2月14〜15日>(土〜日)

〇土曜日に行われたネバダ州とワシントンDCの民主党コーカスは、ケリーがしっかり押さえて勝った。CNNによれば、ネバダ州でケリーが63%、ディーンが17%、エドワーズが10%だという。DCでも47%を取っている。今のところ、不倫報道の影響は限定的なようだ。ここの表現によると、"KERRY AFFAIR" REDUX: MUCH LESS THAN IT APPEARS. ということになる。

Iowa Electronic Marketの反響が面白い。ケリー株は終値ベースで2月12日には73セントに暴落。翌13日は83セント、14日は86セントと少しずつ戻している。その分、エドワーズ株が一時的に上げた。ディーン株はほとんど影響を受けていない。なにしろこれはゼロサムゲームなので、誰かが沈めば、その分ほかの誰かが浮く。ほとんど消化試合に見えたマーケットが、一瞬、盛り上がった様子が見て取れる。

●値動き(終値ベース)

2月 10日 11日 12日 13日 14日
ケリー

94.5

94.0

73.0

83.0

86.0

エドワーズ

2.0

1.9

20.0

10.1

7.0

ディーン

1.0

1.1

1.9

1.9

2.1


〇面白いのは、外国のメディアの方が素直に反応しているという点。やはりドラジレポートの後追いは、国内の正統派メディアはやりにくいのでしょう。そんな中で、オーストラリア誌がペンシルバニア州を訪れて、件の女性(24歳)の両親にインタビューしている。そうかと思えば、英国の大衆紙"The Sun"が女性の写真を載せている。ちなみに"Telegraph"誌の写真はちょっと雰囲気が違う。ま、どうでもいいか。

〇不倫報道、即ケリーに不利、と決め付けるのも適当ではないだろう。筆者の勤務先のお隣にある某テレビ局のHさんは、「ケリーじゃ数字が取れないだろうなあ」と言っていた。テレビ的な感覚で言うと、ディーンの方が「イェ〜イ」と叫んだりして、「キャラが立っている」んだそうだ。この際、「女性問題がある」と分かった方が、関心を高めるには有利かもしれない。あのクリントンなどは、何度も女性問題を噂されつつ、それで知名度を上げて当選している。もっともケリーの場合、それで家庭内の不和を招いて失速したんじゃシャレになりませんが。

〇どうもこのニュースに対し、皆さんどのように反応すべきかを迷っているようです。私も分かりませんな。とりあえず、コーカスはわりと偏った結果が出やすいので、17日のウィスコンシン州のプライマリーの結果を見るべきでしょうか。


<2月16日>(月)

〇やっかいな原稿2本をやっと終えたので、本日は前から買ってあった『アニマトリックス』を見る。オタクな世界へ逃避するワタシ。今ごろ編集者は「吉崎さ〜ん、こんなんじゃダメですぅ〜」と言っているかもしれんが、知ったこっちゃないもんね〜。

『アニマトリックス』は、その名のとおりアニメで作ったマトリックス・シリーズの短編集。マトリックスシリーズは、はっきり言ってこれが最高峰ですな。本編の映画よりも、こっちの方がはるかに優れている。9本の短編は、日米のスタッフが入り乱れて作っているが、両者のクリエイティビティを比較すると、ワタシが見る限り日本側の圧勝である。日本人スタッフが監督・脚本をしている作品の方が文句なく面白い。

〇マトリックスの世界観を前提にして、その中でどうやってアニメの持ち味を出すか。古典的な意匠でチャンバラをやってみた『プログラム』の美しさ、1950年代のハードボイルド小説の世界を再現した『ディテクティブ・ストーリー』の粋、そしていかにも日本の街角に、なぜかタルコフスキーの世界が顔を出したりする『ビヨンド』。ちなみに『マトリックス・リボリューションズ』の中に出てくる正体不明の少年は、このシリーズの中の『キッズ・ストーリー』が元になっている。もうオタクパワー全開。まったくなんという才能だろう。

〇日本のアニメの質が高いのは、日本の伝統文化の豊穣さと、海外の文化を消化する貪欲さがあるからではないかと感じました。個々の人間が持つ才能というのは、おそらく国によってそんなに違わない。しかるに社会全体が有している文化的環境が、さまざまに才能を刺激するのではないかと。それに加えて日本には、アニメには蓄積がある。たとえば、人類が機械との戦いを繰り広げる『セカンド・ルネッサンス』のストーリーの中で、手塚作品(たとえば『火の鳥、復活編』)がちらほらと顔を出す。

〇なーんてことを書くと、より重症のオタクたちから、「まだ見てなかったんですか」「事実誤認があります」みたいなメールが山と来そうである。さて、そろそろ押井守作品も見ておくべきだろうか。


<2月17日>(火)

〇かんべえの勤め先の筋向いに、こんな時期に吉野家が新たにオープンした。どんなメニューを置いているか、お昼に覗きに行ってきました。

〇もちろん牛丼は置いてない。代わりに並んでいるのは「焼き鳥丼」「カレー丼」「豚キムチ丼」の3種類でした。ほかに「納豆定食」や「鮭定食」を食べている人もいるので、選択肢は意外と多い。以前のような単品商売に比べればとんだ様変わりで、これらをテキパキと並べるのは存外難しい。吉野家に来る客は回転が速いので、お会計のお客が続いたりするとすぐにてんてこ舞いになる。

〇「豚キムチ丼」を食べてみました。味はまあまあ。値段の450円は妥当だと思いましたが、吉野家のメニューとしては割高かもしれません。こうしてみると、「牛丼並」の280円は本当にすごい価格だったと感心します。たしか吉野家が280円に値下げした年は、戦後初めて米の消費量の減少が止まった年でした。うーん、ないとなったら、並盛500円でもいいから、食べたいなあ、吉野屋の牛丼。

〇これは京セラの稲盛さんの言葉だったと思いますが、「値付けは経営なり」。いやしくも値段を決めるときは、営業部長に任せたりせず、社長が自分で決断せよという教えです。さて、いつの日か牛丼復活となったとき、お値段はいくらになるのでしょうか。

〇さて、以下は牛丼とは全然無関係。「と」学会推奨の(嘘です)HPです。その名も「煙の行方」。世の中にはとんでもないことが好きな人がいるもんですなあ。ホンマ、感心しました。

http://nick-yama.web.infoseek.co.jp/ 


<2月18日>(水)

〇アメリカ大統領選挙はつくづく奥が深いです。日本時間の今日、ウィスコンシン州予備選挙が開票されましたが、またまたサプライズ。事前の予想では、ここでケリーが5割以上の得票で独走してディーン、エドワーズを振り落とし、3月2日のスーパーチューズデーを待たずして事実上の勝利を収めると見る向きが多かった。しかるに結果は、ケリー40%、エドワーズ36%、ディーン18%である。1位と2位の差が4%ということは、これから先の2週間、「2人だけの戦い」が続くということになる。

〇エドワーズの善戦をどう見るべきでしょうか。ドラジレポートでケリーのスキャンダルが流れたとき、Iowa Electronic Marketではエドワーズ株が買われた。つまり市場は、「ケリーがダメならエドワーズ」と認識している。エドワーズは資金不足から、まずはサウスカロライナ州、それからこのウィスコンシン州と選挙活動の場を限定して戦ってきた。そして選挙活動をした州では、確実に成績を上げている。やはり、「タマがいい」ということでしょう。そして北部のウィスコンシン州で善戦したことは、「俺にもElectabilityがある」という証拠になる。

〇残っている候補者の中では、たしかにケリーはElectabilityが高いように見える。しかし、彼の強さは、「民主党がもともと優位な州(ブルーステーツ)は確実に押さえられる」という程度の強さであり、共和党が優位な南部や西部山岳州で通用するかどうかは未知数だ。そこへいくとエドワーズは、政策手腕などでケリーには劣るだろうが、「ひょっとするとジョージア州でも勝てるかもしれない」という可能性を秘めている。2004年の選挙では、民主党は「共和党がもともと優位な州(レッドステーツ)」をひっくり返さなければ勝てない。それだったら、「エドワーズでギャンブルしてみる」のは十分に合理的な選択といえる。

〇もうひとつ、エドワーズの訴えが功を奏している部分がある。エドワーズは、「ケリーもディーンも、NAFTAを支持したじゃないか」という批判を展開している。貿易自由化がアメリカの雇用を奪っているではないかという主張だ。これはちょっとズルイ。NAFTAが締結された1993年の時点では、エドワーズはまだ政治家にもなっていなかった(彼は1998年初当選組。投票行動が少ないから、叩かれる理由も少ないという利点がある)。ケリーはまっとうな自由貿易主義者であり、それが安心感のひとつでもあるのだけれど、そこが非難されているのである。

〇1992年の民主党予備選挙では、ボブ・ケリー上院議員(彼もベトナム戦争の英雄だったが、ジョン・ケリーとは無関係)が立候補していた。彼は選挙の序盤選で、「アイスホッケーのゴールの前に立ったCM」を製作し、「日本からの輸入品は私が止める」とやらかした。このCMが大変な不評で、以後、保護主義的な主張は選挙戦から消えた。この時点のアメリカ国民は、「アメリカ経済の問題はアメリカ国内にあり」と賢明にも見抜いていたのである。そしてこの年の選挙戦をモノにしたビル・クリントンは、当選するやいなや「NAFTA批准」「ウルグアイラウンド妥結」「APEC首脳会議開催」という貿易自由化に関する三大政策を実現した。かくのごとく、予備選挙は政策の人気を測るバロメーターになるのである。

〇2004年の予備選挙を見ると、景気は回復局面にあるのだが、雇用面の不安はやはり根強く、保護主義的な主張が受ける地合いにあるようだ。この調子では、仮にブッシュが再選されるとしても、2005年以後に貿易自由化を強く進めることはためらわれるだろう。すなわち、ドーハ・ラウンドや米州FTAの推進には逆風ということです。困ったね。

〇次に、ディーンの戦いはほぼ終わったと見ていいでしょう。もともと2月17日以後は各州への遊説の予定はなく、自家用飛行機のレンタルもしていない。ウィスコンシン州が文字通り「最後のお願い」だった。この人の出方を予想するのは止めておいた方が無難だけれど、この辺が潮時というものでしょう。そしてディーンのブログを見ると、「頼むからエドワーズを支持すると言ってくれ。ケリーなんて嫌だ」と言っている支持者が多い。ディーン支持者はアンチ・エスタブリッシュメントですから、これは理解できる。

〇それにしても、ディーンはなぜ敗れたのか。アメリカ政治を見ているものにとっては、これほど興味深いテーマはありません。30P以上の差が、ほんの数日で逆転した。1月19日の「アイオワ崩れ」から2月3日の「ニューハンプシャー州」にかけては、おそらく大統領選挙予備選の歴史の中でも特筆対処すべき大事件です。ディーンの支援者たちのサイトを覗いてみると、早くも「反省会」が行われています。そういう話をスキャンしていると、「なるほどなあ」と感じる点が少なくありません。

●そもそもディーンの30Pのリードは実在したのだろうか。今日では大多数の有権者は、投票日の直前になって意思決定をする。ディーンを支持していたのは、予備選挙が始まるずっと前から、「イラク戦争には反対だ」「ブッシュは間違っている」「その点を明確にしているのはディーンしかいない」と決め打ちで考えていた人たちだった。そういう人たちが全米で「ディーン旋風」を巻き起こしたが、その数は思ったよりも少なかった。「ディーン優勢」という事前の読みは根本的に間違っていた。

●ディーンに一度も会ったことのないような人たちが、全米各地でディーンを応援する運動を展開し、草の根の応援組織を作った。お陰で選挙資金も集まったし、世論調査では高い数字が得られた。しかし運動に参加した人たちは、かならずしも投票に行っていない。ディーン選対の運動は、政治活動というよりは社会運動に近く、ディーン候補を売り込むよりも、自分自身を売り込んでいたきらいがある。また、彼らは自分たちと似たような考えの人を集めるばかりで、普通の有権者に働きかけたわけではなかった。アイオワ州やニューハンプシャー州でも、よその州から来た熱狂的なディーン支持者たちばかりが目立ち、地元の人たちはかならずしも積極的ではなかった。

●インターネット主体の運動という限界もあった。ネット上で「ディーン頑張れ」と訴える分には、お金はまったくかからない。だが、「ではディーン支持者で集会を開きましょう」ということになると、場所代にせよ交通費にせよコストが発生する。では誰が、どんな風に負担するのか。そういう面倒な話は、PCにかじりついている人たちは不慣れである。ヴァーチャルな選挙運動は、リアルな政治風土に接したとたんに行き詰まってしまう。これは「2ちゃんねる」あたりでもよくある話だが、ネット上では大いに盛り上がっているように見えることでも、実際に参加している人はごく少数で、リアルな世界とは相当にずれていることが少なくない。

●まして緒戦はアイオワ州の「党員集会」だった。すなわちコアな民主党員以外は参加しにくい。普通のディーン支持者には敷居が高かった。そして秘密投票ではないから、「えーっ、アナタ、ディーンなんて応援するの?」てな周囲の視線もあったかもしれない。さらにこのとき、お隣のミズーリ州出身のゲッパート下院議員が、ここで負けたら後がないとばかりに、ディーン叩きに血道を上げていた。投票日の3日前になって投票行動を考え始める人たち(すなわち大多数の人たち)にとっては、「どっちもどっちだな〜」とムードが流れていたのではないか。そうなると、ケリー&エドワーズが新鮮に見えた理屈である。

〇というわけで、冒頭に戻ります。アメリカ大統領選挙は本当に奥が深い。いやはや。


<2月19日>(木)

〇昨日たくさん書いたので、今日はちょっとだけ追加。

〇民主党の予備選挙は、当初は「ディーン対その他大勢」の構図だった。ここでは中心議題はイラク戦争の是非、そして反ブッシュ姿勢だった。ところがディーンは昨日で選挙活動を停止。これから3月2日に向けての2週間は、「ケリー対エドワーズ」の構図となる。中心議題は経済と雇用、ということになるだろう。

〇しかし、ディーンのいない民主党の候補者選びは盛り上がらないのではないか。"Electability"だけを考えて候補者を選ぶと、選挙戦はつまらなくなる。そしてまたケリーは、そんなに面白い人物ではないのである。下のようにマンガのコーナーもできたけど、なるほど「数字の取れない」人のように見える。

http://cagle.slate.msn.com//news/Kerry/main.asp 

〇そしてまた、ディーンも本当にこのまま沈黙してしまうようには思えない。Official Pageを見ると、「これは始まりであって終わりではない」というメッセージが載っている。これを読んでいると、「この人、ひょっとして第三政党を立ち上げるんじゃ・・・」という気もする。

This Party and this country needs change, and you have already begun that process. I want you to think about how far we have come. The truth is: change is tough. There is enormous institutional pressure in our country against change. There is enormous institutional pressure in Washington against change, in the Democratic Party against change. Yet, you have already started to change the Party and together we have transformed this race. Along the way, we’ve engaged hundreds of thousands of new Americans in the political process, as witnessed by this year’s record participation in the primaries and caucuses.

ブログの方も活況を呈しているみたいだし、もう1回くらい世間を騒がせそうな気がします。たしか1992年のロス・ペローだって、いったん身を引いてからまた出直してきたんだよな。


<2月20日>(金)

〇めずらしいことに、飲み会に遅刻してしまった。夕方に飛び込みの取材があったりしたものだから。それでそろそろ中締めという頃に会場にたどりついたのだが、最初「あれ?こことは違うんじゃないか」と思ってしまった。並んでいる人たちが、やけにシニアであるように見えたからである。

〇しかるに会場は間違ってはいなかった。経済同友会に出向していた人たちの1年ぶりの同窓会。なにしろ出向していたのは10年も前のことだから、かつて30代だった仲間が40代になっている。すると中には見違えてしまう人もいるわけである。きっと私も、はたから見ればさぞかし相変わってしまっていることと思う。悲しいことよのう。

〇この年になると、サラリーマン川柳がだんだん身に沁みて思えてくる。かつては「あと何年サラリーマンをやっているのだろう」と思っていた人間が、「あと何年サラリーマンでいられるのだろう」などと考えるようになる。そういえば来月いっぱいで、私のサラリーマン生活もちょうど20年だったりして。


<2月21日>(土)

長島昭久衆議院議員が、昨日の予算委員会で「台湾質問」を行ったそうだ。本日分の「今日の一言」に下記のようにある。

日本は、台湾総統府に対し、唐突に「口先介入」して以来、そ知らぬふりを決め込んでいる。明らかにバランスを失しているではないか。言うまでもなく、バランスというのは、北京に対して傾斜しすぎているという意味である。

〇まったく同感。長島議員の勇気を称えたいと思います。

〇期せずして、年初、ご一緒に台湾に行った谷口智彦氏は、昨日の地球鳥瞰の中でこんな記事を寄稿している。

2004.02.20 UPDATE Japan has no balls

李登輝氏に言われてしまいました、日本人には「タマ」がないと。台湾の英字紙Taipei Times2月18日の報道によれば、前総統は「Japan has no balls」と言ったのだという(中国語でナンと言ったか分からない。それから日本人といっても、男性だけ指しての話なのだろう、きっと)。

〇なにしろ李登輝さん、「皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ」と旗を掲げる東郷平八郎の心境である。(とご本人が言ったのを、谷口さんもかんべえも岡崎研究所一行として聞いている)。「日本の武士道はどこへ行ったのだ?」くらいのことを言われても、まったく抗弁の余地はない。3月20日の総統選挙に向けて、思い切りボルテージが上がっているだろう。

〇台湾で、独立派の若手学者とこんな会話をしました。

「日本の人たちは、台湾の状況をどんな風に見ているのですか?」
「いや、ほとんど知りません」
「では、この状況を説明してください」
「もちろん、そうします。でも、こんなややこしい状況は、日本人は理解できないかもしれませんよ」

〇そんなわけで微力ながら「溜池通信」などを通して、「台湾は大変ですよ〜!」と言っておるわけです。もっと言ってしまうと、われわれの説明が十分なものであれば、聞いた人はきっと台湾に肩入れしてくれるのではないかと思う。

〇あと1週間で「2・28」である。この日、100万人を動員して、台湾を北から南まで人の輪で結ぼうという空前のデモンストレーションが計画されている。これから1ヶ月、台湾からは目がはなせません。

(追記:その後、長島議員による質疑の内容が手に入りました。一人でも多くの方の目に触れるように、掲載しておきます)

QTE:

 長島昭久議員(以下、長島と略す)
「民主党の長島昭久です。民主党安全保障部会を代表して質問をさせていただきます。

さて、今日は台湾の総統選挙公示日でございます。この台湾の総統選挙、あまり報道されておりませんけれども、わが国の安全保障にとっては大変重要な出来事であると言うのはご案内の通りであります。今日ちょうどですね、産経新聞に中嶋嶺雄さんが一考を投じておられます。

『今回の選挙は台湾の命運を左右する大きな意味を持っている。日本の国益にも関わる岐路になるかも知れない。台湾人の政党である民進党が勝つのか、中国人の政党である国民党が政権を奪還するのか、という選択だ。仮に民進党が敗北し、中国が期待する国民党・親民党政権が誕生すれば、李登輝前総統が12年間に渡って蓄積してきた台湾民主化と台湾人としてのアイデンティティ深化の路線が大きく揺らぐことになろう。そうなれば、近年ますます強大化しつつある中国が台湾を呑み込んでしまうことにもなりかねない。』と、こういう大変示唆に富むご指摘をされておられます。

煎じ詰めればですね、今回の台湾の総統選挙というのは、アジアにおける民主主義の真価というものを問う大変重要な試金石であると同時に、この事態を中国というこれから伸びていく、伸び盛りの大きな大国がどう扱っていくのか、どうやってそのような事態に対応していくのか、中国の対外姿勢の成熟度も示す試金石になると思います。中国大陸から来た人たちではなくて、いま台湾の人口を占めている8割の台湾人による、台湾人のための政権、台湾人の自由な意志に基づく政権作りをしていこうという、この今回の大変意義深い総統選挙。
96年で初めて李登輝政権が民主選挙を行いました。そして、2000年には日本もあまりやったことがない政権交代をしっかり実現をしたこの台湾。今回この台湾人の民進党政権がどうなるかということは、大変重要な、私ども日本にとっても重要だと思うんですね。

そして、この台湾の民主主義については、私ども日本人の多くが、心ひそかに応援をし、そしてその成熟振りに拍手を送ってきたと思います。
1972年、日中国交正常化の時に台湾と断交を致しまして、以来、非公式な関係に留まっておりましたけれども、その非公式ながら、文化やあるいは経済の分野で日本と台湾は大きな交流を続けてまいりました。いまや、人の交流だけとっても年間200万という大変な交流がありますし、経済・貿易の総量で見ても、アメリカ・中国・韓国に次ぐ、日本の貿易相手国としては第4番目の相手国となっております。

こういう台湾で行われる今回の総統選挙、今回、陳水扁政権は総統選挙にあわせて、公民投票、わが国で言えば国民投票でありますが、公民投票をやろうという、こういう発表を致しました。ところがですね、この国民投票は中国から大変評判が悪い。アメリカもたしなめた経緯があります。再選を目指す陳総統がとった手段というのは、中国のミサイルの脅威 ― 中国は台湾に向けて496基のミサイルを射程におさめている。この脅威はもう尋常な脅威ではありませんね。私どもも明治の時代にあのロシアの南下政策で相当な脅威を被った歴史的経緯があります。こういう強大な国がまさに両岸を挟んで存在するということ、そしてそういう中でギリギリの立場で選挙をやる。そういう中で、ミサイルの脅威に対して台湾はどうしたらいいでしょうかという公民投票を陳水扁政権がやろうということ、これに対してですね、日本の外務省は「待った」をかけましたね。なぜでしょうか。」

川口順子外務大臣(以下、川口と略す)
「台湾についてのことでございますが、まず、そもそも台湾に対するわが国の立場ですけれども、これは日中共同声明にある通りでございまして、「2つの中国」とか「一中一台」と言われる立場はとっていないわけでございます。台湾の独立も支持をいたしておりません。わが国としては、台湾をめぐる問題が当事者間の話し合いを通じて、平和的に解決をされること、そのための対話が早期に再開をされるということを望んでおるわけでございます。それで、先生が「待ったをかけた」というふうに仰られましたけれども、わが国としてはこの公民投票の実施を含む台湾の動向につきまして、台湾海峡及び地域の平和と安定の観点から、わが国としては関心を持って注視をしているところでございまして、昨年の末に慎重な対処を希望するということを台湾側に申し入れたということでございます。」

 長島
「それは外務省が申し入れたということですか。日本国の外務省が申し入れたということでしょうか。」

 川口
「これは、日本政府として、相談をした上で、具体的に申し入れた人間というのは、交流協会の所長が申し入れたということでございます。」

 長島
「申し入れの内容についてもう少し詳しく説明していただけませんか」

 川口
「これはまず大きく言って2点ございますけれども、最初に、台湾に対するわが国政府の立場は、日中共同声明にある通りであり、わが国としては台湾をめぐる問題が当事者間の話し合いを通じて平和的に解決されること、そのための対話が早期に再開されることを強く期待している、ということです、これが1点目です。
2点目ですけれども、しかし、最近の陳水扁総統による公民投票の実施や新憲法制定等の発言は、中台関係を徒に緊張させる結果となっており、わが国としては台湾海峡及びこの地域の平和と安定の観点から憂慮している。わが国としては、現在の状況が今後さらに悪化することは回避する必要があると考えており、陳総統が就任演説で行った「4つのノー、1つのナッシング」を遵守され、この地域の平和と安定の為、慎重に対処していただくことを希望する、とそういうことでございます」

 長島
「重要な問題が2つありますね。正式な国交の無い日本と台湾であります。この大不幸な歴史がありました。にも関わらず、日本政府が外交チャンネルを通じて、台湾に向かって“ああだこうだ”と言うというのは、これは公式のチャンネルではないのでしょうか。」

 川口
「交流協会の所長、つまり台北事務所長から申し入れたというふうに先ほど申しましたけれども、交流協会というのは日台間の交流を円滑に進めていく為の民間ベースの実務処理機構ということで、台湾の各方面との間で協議・交渉を行っているということでございまして、このこと自体、これは日中共同声明に反するものでもなければ、こういったことを行うということについては問題はないと思います。」

 長島
「本当に問題ないですか。台湾のどなたに交流協会の所長から、 ― 私手元に持っていますよ― わが国政府の立場を伝達したのですか。文化交流や経済交流なら問題ないんです。極めて政治的な、高度な政治性のあるものについて、外務省はわが国政府の立場を交流協会の所長を通じて、台湾のどなたに伝えましたか。」

 川口
「この相手方でございますけれども、邱義仁総統府秘書長であります。」

 長島
「台湾の場合はちょっと名称がわかりにくいのですが、秘書長というのは、日本に例えていえば官房長官であります。これは立派な公式チャンネルではないでしょうか。公式チャンネルの行使をしたということをお認めになりますか」
「もう一言申し上げましょう。交流協会のカウンターパートは、本来、台湾の亜東協会ではないですか。カウンターパートである亜東協会に言えば済むことではないですか。それを飛び越してわざわざ相手様の官房長官をやっているような方に申し入れをした。これ、全然問題ありませんか。」

 川口
「交流協会は日台間の交流を円滑に進めていくというための組織でございまして、今回、交流協会が行ったようなルートでこういう種類の話をするということは問題があるとは考えておりません。」

 長島
「これは問題大ありですよ。中国だって戸惑っているんですよ。中国はですね、申し入れをした次の日に「よくやった」とうような外務省のコメントを出しているんですね。しかしその後、「待てよ?」と。これは公式のチャンネルを使ってやっていることではないかということで、中国もかなり戸惑っているそうなのですが、全く問題ないと本当にお考えですか。72年に断交してから、こういった政治的な問題に、日本国政府の意思をこういう形で伝達した前例はありますか」

 川口
「中国の反応でございますけれども、唐家セン国務委員・王毅外交部副部長はじめ、中国政府からは“日本政府の態度表明を評価する”という反応が出ております。そして、この交流協会から申し入れたということ自体は、日中共同声明との関係でこれに反するものではないと考えております。
それから、こういうような問題について今まで申し入れたことがあるかということでございますけれども、何をもって「政治的な問題か」ということにもよりますが、例えばこれまでも交流協会を通じまして漁業の問題、つまり排他的経済水域の問題ですね。そういうことについては、台湾側に対してわが国の立場を申し入れているということでございます。
ただ、他方で地域の平和と安定に関する問題、地域の平和と安定という観点から日本の立場について、台湾側に申し入れたというのは今回初めてであります。」

 長島
「そうなんですよ。これは政治的には大変高度な問題なんですよ。しかもね、この公民投票というのは総統選挙と一緒にやるんですよ。これはあからさまな選挙干渉じゃないですか。内政干渉と同時に、選挙干渉に当たるんですよ。そういう効果についてどれだけ政府の中で議論があったんでしょうか」

 川口
「まず、これにつきましては、台湾海峡および地域の平和と安定という観点から、わが国の主体的な判断に基づいて申し入れたわけですけれども、政府としての意思決定を行ったうえで行っています。」

(野次が飛ぶ)

 長島
「今、質問が後ろから飛んでおりますけれども、どういう形で政府の意思決定がなされたのか、ご説明下さい。閣議ですか。決定の責任者が誰か、あわせてお答え下さい。」

 川口
「これはきちんと官邸も含めて決済を頂いております」

(「影の外務大臣か!」の野次)

 長島
「この問題はギリギリ突っ込んで行ってもいいんですけれども、次の質問に行きましょう。
中台関係を徒に緊張させる結果となったというんですね、この公民投票の実施や新憲法の制定といった発言が。中台関係を徒に緊張させるってどういうことですか、具体的に説明して下さい。」

 川口
「96年の選挙のときのことを思い起こしていただきますと、この時は米国が空母を派遣し、そして中国が様々な行動をとったというような事態があったわけでございます。こういった台湾海峡および地域の平和と安定に関しての、その観点から注視をしているというのはわが国だけではありませんで、例えば米国につきましても、それからフランスにつきましても、それぞれこういうような主旨の意見の表明ということをやっております。」

 長島
「今、アメリカとフランスもやっているから日本もやるんだというお話がありましたけれども、フランスはほとんどこの地域に対して関心ありませんから問題外だと思いますけれども、アメリカはですね、外務大臣ご存知のように、一旦緩急あれば(つまり)中国が武力行使に出てくるような事態になれば、最後まで責任をとるというような台湾関係法があるんですよ。

独立は許さないといいながら、もし中国側が武力行使をしてきた場合には、アメリカは飛んでいって助けると、ブッシュ大統領も温家宝首相が行かれたときに、例の、今回は現状を変更することになりかねないから慎んだほうがいいと発言した、その同じ文脈で、もし中国が武力行使に出るようだったら、“we will be there”って言ったんですよ。我々はそこに駆けつけるだろうという、そういう言い方をしているんですよ。アメリカは最後まで責任をとる覚悟と能力があって介入しているんですよ。日本は空手じゃないですか。

しかも、96年の話を前例として引かれましたけれども、96年の時だってわが国は耐えがたきを耐え、偲びがたきを偲んで沈黙を破らなかったんですよ。今回、沈黙を破った緊急性、どこが96年当時あるいは2000年当時と状況が違うのか、今回どこに緊急性があったのか説明して下さい。」

 川口
「96年の時点でも同じようなことがあったわけでして、公民投票ですとか、新憲法制定の動きとか同じような動きがあったということでございます。それから、先ほどアメリカのケース、アメリカは最後に責任をとるつもりだからというふうに言われましたけれども、アメリカは何を言っているかと言いますと、これは中台いずれの側であろうと、現状を変更するいかなる一方的な動きについては反対である。台湾指導者による最近の言動は、現状の変更を一方的に決定しようとしている可能性を示すものであり、米国はこれに反対である。最後は(長島議員が)仰ったような形で、最終的に色々なことが出来るアメリカですら、こういうことを言っているわけでございます。わが国としては、台湾というのはわが国のすぐ近くに存在する“地域”であって、台湾海峡が平和安定であるということはわが国の平和と安定に密接な関係を持っている、非常に強い影響を持っているわけでございます。そのような観点でわが国としては申し入れたということでございます。」

 長島
「仰ることを伺っていると、アメリカが現状変更をすることは許さないと、だから慎んで欲しいという、その理由付けを外務大臣も正しいと思っておられるようなんですが、公民投票をやることがなぜ現状を変更することに繋がるんでしょうか。ご説明下さい。」

 川口
「96年の例を申し上げましたけれども、台湾海峡あるいはその地域の平和と安定と言っていますのは、今回起こったような様々な動き、あるいは前回起こったような様々な動き、ということの観点からしますと、まさに公民投票あるいは新憲法制定の動きということがもたらしうる“結果”、これを懸念しているということであります。」

 長島
「どういう結果ですか、はっきり言って下さい。これは国民もインターネットを通じて見ているんですから。どういう結果がもたらされるのか、明確にお答え下さい。」

 川口
「まさに先ほど申し上げました通り、96年に起こった、台湾海峡をめぐる緊張、そういうことを見れば、そういうことが再来をすることは望ましくないということであると思います。」

 長島
「私たちは民主主義の国に住んでいるわけですね。民主主義の要求というのはブレーキ利かないんですよ。公民投票をやるというのは、民進党結党以来の党の党是なんですよ。その民進党を台湾の人たちは選んだんですよ。したがって党是に基づいて、公民投票をやろう。
今回、公民投票の問題で、茶々を入れました外務省、これから永久にこういう問題になったら介入していくようになるんですか。積極的に。まぁ、それも一つの手ですよ、それも一つの道ですよ。

今回、大きな方向転換をしたんでしょうか。お答え下さい。」

 川口
「どういう状況で他国にものを申し入れていくか、これはその時その時の状況によって総合的に判断をしていく話であるというように考えております」

 長島
「もうこれは“ぬえ”のように逃げ回るだけなので・・・。
でも、この部屋におられる皆さん、あるいはインターネットを通じてこのやり取りをご覧になっている皆さんは、恐らく相当重要な問題が起こっているなということを感じていただいたと思うんですね。

はっきり申し上げて現状を変更しているのは、変更しようとしているのは、中国ですよ。496基のミサイルを毎年50基から70基増やしてきているのは中国ですよ。台湾の人たちがやっているということは民主主義をそのまま深化させていこう、公民投票もやろう、自分たちの憲法もつくってみよう、これは自然な発露じゃないですか。

日本は実力も能力も意思も無いのに、今回のような火遊びはやったらいけないんですよ。沈黙するというのもあるときには必要な外交手段だと思います。私たちにとって、中国にとっても、アメリカにとっても、日本にとっても、一番重要なことは、現状を維持することです。だからアメリカは曖昧政策をとっているんですね。どういうときに介入するか分からない。でも、最後の一線を越えたら我々は踏み込むかもしれないとこの現状維持というのは、今の中国と台湾との関係、先ほど私が申し上げました ― 中国がどんどんどんどん国際社会において大きくなっていく、経済も大きくなっていく、両岸の交流もある。どんどんどんどん、このまま何もしていかなかったら呑み込まれるトレンドなんですよ。海の上に小さな小舟を浮かべて、漕がなかったらどんどん潮の流れに流されて移動していくじゃないですか ― 台湾が今やろうとしていることはそういう現状維持を何とか維持し続けていく為に、たゆまぬ努力をしている。それを今回のまさに浅はかな、川口大臣が恐らく責任者だと思いますけれども、こういうことで、それを逆の方向へ振れようとしてしまったということ、是非責任を痛感していただきたいと思います。

UNQTE


<2月22〜23日>(日〜月)

〇先週号の溜池通信で、「ドル円レートの転換点は近いのではないか」と書いたら、ちょうどいいタイミングになったようですね。1月17日にやった日経CNBCのセミナーの際には、筆者は「3月までに天井、105円の壁にタッチした後は円安」と予測しているので、ちょっといい気分である。いえ別に、自分でドル買いを入れてるわけじゃないんですけどね。ドル預金をしている人は一安心かもしれません。

〇さてアメリカ大統領選挙では、第三政党のラルフ・ネーダーが出馬宣言。情報源のここが"I told you so!"と書いている。まあね、民主党の候補者がディーンであればいいけど、ケリーが出るのだったら黙っちゃいられないということです。しかしネーダーの出馬は確実にリベラル票を何百万票か奪う。結果としてブッシュを利することは間違いない。2000年選挙だって、ネーダーがいなければゴアの楽勝だった。分かっちゃいるけど止められない。

〇日本でいえば、民主党内でディーン・田中康夫旋風が地に落ちて、ケリー・鳩山由紀夫が独走、エドワーズ・樽床伸二がかろうじて後を追うという態勢だ。そうしたら、「このままでは憲法が改正されてしまう」とばかりに、ネーダー・福島瑞穂が出馬宣言した。しょせんは蟷螂の斧なんだけれど、ここは黙っていられない。ネーダー・福島の眼から見るとブッシュ・小泉とケリー・鳩山は大差がないのである。

〇日本だって、社民党と共産党が存在しなければ、民主党が政権を取るチャンスは格段に上がるだろう。彼らの存在は、結果として自民党を利しているのである。不思議なもので、日本でもアメリカでも保守派は大同団結するけれど、リベラル派はなかなかそうはいかない。特に今年のように、Electabilityを最優先して候補者を決めようとすると、「あんなのが候補者だなんて許せない」という人がどうしても出てくる。

〇筆者が気になっているのはディーン支持者の動きである。今はディーン自身が「ブッシュを倒すためなら何でもする」という気持ちだが、彼を支持している人たちは、民主党がケリーを候補者とすることに満足しないかもしれない。ここの議論を見ていると、いろいろ葛藤があるようですね。はっきりしているのは、ディーンの運動停止宣言以後もコメントの数が減っていないということです。つまりディーン支持層は、まだまだあきらめてはいない。

〇ケリー・鳩山は、ディーン・田中支持者を取り込めるかどうか。なかなかキツイと思いますぞ。


<2月24日>(火)

〇昼、某所でアメリカ大統領選挙についてオタク話をする。この先、週に3回程度はこういう機会が続く。そろそろ「誰が勝つか」ではなくて、「どういう政策論議が行われるか」に視点を移す必要があると感じています。今週号あたりはそれで行きましょうかね。

〇夜、東京財団で安全保障問題についてディスカッション。昨年夏から続いてきたメンバーで、これが4月から正式なプロジェクトになる予定。リーダーにされちゃって、うーん、大丈夫かよ俺。

〇かねて懇意の林芳正参議院議員を講師に招いたら、うーん、と唸るようなアイデアがいっぱいでした。

「日本は大陸法体系なので、すべての立法に法制局が権限を持つ。アングロサクソン法の体系では、後からできた法律が優先され、既存の法律とコンフリクトが生じると裁判で決めている。今のようなフロンティアの時代には、アングロサクソン型の方が向いている」

「冷戦が終わって、仮想敵が消えた。しかるに新しい種類の脅威がでてきた。これにどう対応するか。テロ特措法など、小泉首相独特の勘と運でかろうじて乗り切ってきたのが現実」

「Nation Statesが誕生した時期に、警察と軍隊が分離した。今の時代は『新しい中世』という見方がある。そうだとすると、これから再び警察と軍隊が融合する時代になるのかもしれない」

「アメリカの軍事行動において、アフガニスタンは既遂(9・11)であり、イラクは未遂(大量破壊兵器)だった。新しい時代の脅威には判例が少ないので、これらが先例となっていくだろう」

「安全保障問題について、日本人は『マトリックス』のような仮想現実の世界に生きていた。目覚めた今となっては夢の世界に戻りたくもあるが、それは不可能である」

〇果たして日本の安全保障論議は「まとも」になるのかどうか。世代的なギャップとか、いろいろあるけれども、「日本人のことだから、そうと分かれば意外にキャッチアップは早いかも」というのがとりあえずの結論としておきましょうか。


<2月25日>(水)

〇今日も虎ノ門へ。本日のお目当ては日本国際問題研究所。諸般の事情により、遅刻して到着。今朝はアメリカの某選挙責任者を囲んで、いろいろ話を聞くという趣向。終わった瞬間、隣の席にいた日経新聞の伊奈さんがニコニコしながら、「冒頭を聞いてなかったと思うけど、今日の話はオフレコだからね。かんべえに書いちゃダメだよ」。――悔しい。しょうがないので、当り障りのないコメントを2点。「従来の予想を修正する必要なし」、および「世の中にはワシ以上のオタクが大勢いる」。

〇ウチは関係ないからいいんですが、ヤフーBBの顧客情報流出って、これだけで会社がお取りつぶしになっても文句をいえないような失態じゃないでしょうか。ところが、顧客情報もムリョ460万人となると、あきらかに"Too big to fail"である。「ヤフーBBにもしものことがあれば、日本のブロードバンドインフラはどうなる?」ということになる。なーるほど、最初からそれが目当てで駅前で配っていたわけか。こりゃ参ったね。

〇日本でブロードバンドが急速に普及したのは、ひとつは電信柱のお陰。住宅密集地で、光ファイバーやCATVのケーブルを手早く展開できますからね。そしてもうひとつはヤフーBBの存在。おそらくIT戦略会議やe-Japan計画よりも、そっちの貢献度の方が高いような気がする。というのは、いかにもワシ好みの見方かな。


<2月26日>(木)

〇唐突ですが、以下は大統領選挙の関係者のうち、イェール大学を卒業した人たちの学歴です。

George Bush(1946生) B.A. Yale 1968 →MBA Harvard Business School 1975

John Kerry(1943生) B.A. Yale 1966 →J.D. Boston College 1976

Howard Dean(1947生) B.S. Yale 1971 →M.S. Albert Einstein College of Medicine 1978

Bill Clinton(1946生) B.A. Georgetown 1968 →Rhodes Scholar 1970 →L.D. Yale 1973

Hillary Clinton(1947生) B.A. Wellesly College 1969 →L.D. Yale 1973

〇生まれた年がそんなに変わらないので、大学ではどの程度重なっているのかが気になって調べてみました。案の定、ちょっとずつズレていて、それぞれに時代の影響を受けたように見えますね。この5人の青春時代を描いたドラマ、というのはちょっと面白そうな気がします。

〇さて、上の5人のうち、ブッシュとケリーの学生時代に共通する点は何でしょう? それはSkull and Bonesというフラタニティ組織に入っていたことで、これにはブッシュのパパ(1924生、1948卒)と祖父、さらにケリー夫人の前夫であるハインツ上院議員(1938生、1960卒)も入っていた。創立は1832年と古く、1学年から15人しか入れないエリート集団。陰謀論の好きな人たちの間では、「悪の秘密結社」などといわれている。2004年の大統領選挙は、Bonesman同士の対決となりそうだから、そのうち話題になる機会も増えるでしょう。

〇こういう組織は秘密であるうちが華で、マスコミ報道の対象になったりすると、おそらくガッカリすることになるんだろうと思います。飛行機のファーストクラスと一緒で、カーテンの向こうにあると「何をやってるんだ」と気になりますが、実際に中に入ると「なーんだ」ということになるのではないかと。まあ、こういう話を聞くにつれ、ますますブッシュとケリーが「小泉さんと鳩山さん」に重なってくる今日この頃。


<2月27日>(金)

〇近頃電車の中で座ったりすると、速攻で寝てしまうのである。でもって、5分くらいで慌てて目が醒める。会社でも集中力を欠いている。今日になって気がついたんだけど、これは花粉症のクスリを飲んでいるからですな。

〇かんべえの花粉症は、毎年この季節のクラシック・トライアル戦線の頃から本格化する。でもって、皐月賞の当たりにピークを迎える。5月の連休を過ぎると油断をして、そこでクスリを飲むのを止めてしまうのだが、そうなるとダービーあたりでまたぶり返す。結局、沈静化するのは宝塚記念の頃である。

〇一昨日あたりから花粉が飛んでいることは、ときおり右目がヒクヒクすることで感知している。幸いなことに今年は1月からクスリを飲んでいるので、たいしたことなくこの季節を迎えている。それでも今夜も電車の中で寝てしまった。10時半頃にケータイに電話をくれた方、どうもゴメンナサイ。


<2月28〜29日>(土〜日)

〇六カ国協議。こうなると分かっていたとおりの展開。思わず溜池通信の昨年10月10日号を読み返す。半島情勢は当分新しい動きはないと思うぞ。

〇今朝の報道番組では安倍幹事長が大活躍。「サンデープロジェクト」にも登場していたが、なるほどこれに間に合わせるために、テレビ朝日は自民党に「詫び」を入れたのかと納得する。テレビ局というものは、たとえ自分に非があってもなかなか認めないものですが、安倍晋三という視聴率が取れる政治家がいたために、仕方なく折れたというのが面白い。ジャニーズ事務所に頭が上がらないのと同じ理由、と言ったら失礼ですかね?自民党にとって、安倍幹事長は強力な武器といえよう。

〇台湾。「2・28」記念の人間の鎖は、このニュースでは150万人、このニュースでは220万人を動員したとある。もちろん多少の誇張はあると思うけど、当初の目標の100万人は軽くクリアしたのは良かった。台湾の全人口が2200万人だから、驚くべき参加率である。日本で人口の5%を集めるイベント(625万人)はちょっと不可能でしょうね。

〇それにしてもこちらの件の報道は少ない。朝鮮半島の10分の1でいいから、中台海峡に関心を向けた方がいいと思うのだが。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki