<2月2日>(日)
〇「トランプ劇場Season2は、Season1と違って手際がいい」と申し上げましたが、実務をなめているようなところは相変わらずであります。2月1日から関税引き上げ、と言っても、通関手続きの現場にそんな通達は届いていないでしょうから、メキシコとカナダの国境にある税関には大変な混乱が生じることになる。しかも後付けて「カナダ産原油は例外措置」だとか。無茶ですがな。税関職員がお気の毒です。
〇ということで、実際に関税が引き上げられるのは2月4日からになるとのこと。IEEPA(国際緊急経済権限法)というカーター時代の法律を初めて適用するのだそうです。これで実態経済がどうなるかと言えば、「やってみないとわからない」としか言いようがない。ちなみにホワイトハウスHPのNews欄を見ても、関税引き上げに関する布告はまだ掲載されていません。いかにドタバタで動いているか、ということでしょう。
(→失礼、たったいま=日本時間午前10時前後=に掲載されました。下記ご参照)
https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/02/fact-sheet-president-donald-j-trump-imposes-tariffs-on-imports-from-canada-mexico-and-china/
〇USMCAはこれで崩壊ですね。NAFTAが成立して約30年になりますが、北米自由貿易圏は突如として終焉を迎えることになります。内外の自動車会社がいっぱい作ったメキシコやカナダの工場はどういうことになるのか。後で「朝令暮改」ということになるかもしれませんが、アメリカ市場に対する信認は大きく傷ついたことになります。
〇トランプ政権が発足してまだ2週間もたっていません。今回の関税発動は「予定の行動」と言うよりは、先週の飛行機事故で「頭に血が上ってやっちゃった」ように思えます。周囲に「Grown-ups」(大人たち)が居なくて、イエスマンばかりになっている政権なので、暴走し出すと止まらなくなる。これからも続くでしょうな。まあ、行くところまで行くのでしょう。
〇日本に対する関税はまだお声が懸かっていない。「史上初のフロリダ政権」なので、アジアに対する関心が薄いのは、こういうときにはありがたい。とはいえ、石破さんは2月7日に首脳会談を控えている。果てさて、どうしたものでしょうか。
<2月3日>(月)
〇つくづくコワい世の中になったものである。
〇もう見られなくなったはずの「ドクターイエロー」が、ときどき有楽町駅の交通会館近くで見られるチャンスがあるのだそうだ(ドクターイエロー記念館はこちら)。
〇すると噂を聞きつけて、近郷近在から「撮り鉄」さんたちが集まってくる。もちろん盛大な撮影機材を抱えてのことである。
〇ところがこのタイミングを見計らって、その場で立会演説会を行う候補者さんが居た。すると遠目には、「なんだかすごい大集会が行われている」ように見える。
〇候補者さんは、その光景を切り取って動画サイトに上げて、「自分はこんなに動員している」という「絵」を拡散するのである。パッと見では数千人が集まっているように見えてしまう。
〇昨日行われた千代田区長選挙では、さすがにこの候補者は落選したそうである。良かったですねえ。動画サイトばっかり見てると騙されますよ。現にその手口で当選したり、当選しかかったりする人が出ちゃう世の中ですから。
〇ということで、たまにはこの不規則発言なども読んで、社会勉強をした方がよろしいかと存じます。
<2月4日>(火)
〇トランプさんの関税攻勢は、本当なら今日からカナダとメキシコ相手の25%が始まるところだったのに、両国とは国境管理に関する合意ができましたということで、施行は30日間の延長になりました。こういうところが「プロレス」流儀でありまして、つくづく「マジレス」してはいかんのであります。
〇他方、中国は報復関税として今週から米国産の石炭、LNGに対して15%、原油、農業機械、大型車、ピックアップトラックに10%の関税を課すとのこと。こっちは米中ガチンコ決戦になりそうです。こっちは時間がかかりますね。春ごろにトランプさんが訪中してディールになるんじゃないでしょうか。
〇トランプ政権が発足してこれで2週間ですが、今のところまだ日本に対する直撃弾がない。心配なのは「イジメ」よりも「シカト」だったりする。こういうところが「フロリダ政権」の有難みかもしれませぬが、この後は日米首脳会談が控えております。
〇トランプ大統領の海外首脳との会談は、@イスラエル(2/4)、A日本(2/7)、Bインド(2/13)という順番になっている。この順番は面白いですね。@は間違いなく重要なところだし、ネタニヤフは勝手知ったる相手である。Aの対日関係は、まずもって失敗がないという点がお値打ちなところでしょう。そしてBの対印関係も大事だし、モディ首相も第1期政権からよく知っている。
〇つまりはトランプ外交としても、こんなところで躓くわけにはいかないと考えているのでしょう。日米首脳会談もたいへんに気がかりなところではありますが、そんなに心配は要らないのではないかと思います。
<2月5日>(水)
〇今日、ちょっとうれしかったこと。
〇会社でずっとやっていた確定拠出型年金を、そのままずっとほったらかしにしている。たまたま年に1度の報告書が届いたんですが、見たら去年より150万円も増えていた。そりゃそうだ。資金の半分がTOPIX連動型になっているから、昨今の株高のお陰でワシの資産が増えているのである。
〇この制度、60歳を過ぎたら「卒業」扱いになってしまい、それ以降は資金を投入できない。逆に資金の受け取り方は自由自在である。仮にワシが60歳時点でこの年金を一括で受け取っていたら、金額は今よりもかなり少なかったことだろう。その後の株高を考えると、「放置プレイ」は大正解だったことになる。
〇こうなると、どんな形で受け取るのがベストかをいろいろ考えてしまう。うーん、×年間で受け取ると月々いくらぐらいになるのか、などという計算である。みっともない感じもするが、つくづく確定拠出年金はいいですね。なにしろ自分が途中で死んでもちゃんとおカネは返ってくる。「これは自分のカネなんだ」という感覚がある。
〇逆に言うと、国民年金と厚生年金は40年以上も納めているけれども、その辺がブラックボックスである。自分が途中で死んだら年金はもらえない。おカネを稼ぎ過ぎていても、やっぱりもらえない。まあ、「所詮は(長生きしたときの)保険でしょ」と言われてしまえばそこまでなんですけど。
〇そんなことより、新型NISAなども使って資産運用をしなきゃいけません。亡くなった山崎元さんであれば、この辺のことについて血も凍るようなリアルなコメントを浴びせかけてくれたんじゃないかと思います。そういえば先日、アメリカの某投資信託に投資したんですけど、山崎さんなら言うだろうな。「ちょっと、手数料が高いんじゃあないですか?」
<2月7日>(金)
〇本日は全国の信用金庫さんの会合に参りまして、「しんきんトップセミナー」の講師を務めました。日米首脳会談を間近に控えて、トランプさんへの関心が大変高い当節ですので、タイミング的には良かったのではないかと思います。
〇それにしても全国の信金さんから150人くらいというから壮観でありました。懇親会の立食パーティーともなると、まさに全国津々浦々という感じで、当方も割と日本国内はくまなく回っておる方ですから、ローカル話が楽しくて仕方がない。
〇あっという間に時間が過ぎて、中締めのあいさつに立ったのが石川県代表の方々。「能登地震の折は全国の皆様に大変お世話になりました。信金でよかった、と思いました」という言葉には、思わずホロリと来るものがありました。
〇コロナ期の「ゼロゼロ融資」の返済時期になって、突如として「金利のある世界」が到来したことで、いろいろ大変なこともあろうかと存じますが、ああ、日本経済にはこんな形の毛細血管があるのだなあ、ということを感じた次第。
<2月8日>(土)
〇日米首脳会談が終了しました。石破さん、上手くやりましたなあ。この感じだと令和7年度予算も何とかなりそうだし、参院選で大負けさえしなければ、長期政権への道もうっすらと見えてきた。「石破ギライ」の人たちが、若干ヒステリックになっているようですけど、まあ、そんなのはほっとけばよろし。
〇面白かった点をいくつか。
〇「対米投資1兆ドルへ」というフレーズを考えた人、とっても賢いですね。昨日の溜池通信でご紹介した通り、月例経済報告1月分の関係閣僚会議資料に「日本の対外直接投資残高」のデータが載っている。2023年時点の投資残高は288.9兆円、うち3分の1がアメリカで、総額は100.9兆円。つまり1ドルが100円になった瞬間に、1兆ドルの目標は達成されてしまいます。しかも石破さんは「いついつまでに」とは言っていない。とっても楽ちんな目標なんです。、
〇さらに言いますと、わが国には年間30兆円を超える巨額の第一次所得収支があります。日本企業が海外で稼いでいるおカネなわけですが、かなりの部分がトヨタさんなどの北米における儲けであって、その多くはドルのまま現地に積み上げられ、そのまま再投資に向けられます。この分を上乗せしていけば、たぶん1兆ドルの達成は時間の問題でしょう。「またしても日本がカネをむしられる」とか、「これでまた円安が進む」などと悲鳴を上げている方がいらっしゃいますが、そんなことないっす。
〇次にアメリカのLNGを輸入する話。それ自体は大いに結構なことですが、アラスカの天然ガスをパイプラインで開発輸入するのは無理っぽいと思いますよ。かなり割高なLNGになっちゃいますし、開発を始める段階で、環境保護団体が騒ぎ出すでしょう。さらに4年後に民主党政権が誕生した場合、いきなり事業停止命令が下ってしまう可能性もあります。アメリカの「環境正義派」の人たちは、化石燃料は悪だと思っていますから。
〇つまりトランプさんが「ドリル・ベイビー・ドリル」(ここ掘れワンワン)と旗を振っても、民間企業としては今後の政治リスクを考えるとなかなか手が出せない。日米合弁で、と言っていましたが、たぶんアメリカ側の石油開発業者がしり込みするでしょう。それとは別に、普通にアメリカ産LNGを買うのは大歓迎です。LNG供給源の多様化はそれ自体が望ましいことですし、太平洋を渡ってくる船は、ホルムズ海峡とかマラッカ海峡といった「チョークポイント」を通らなくて済みますからね。
〇3点目。日本製鉄さんはホッとしたことでしょう。トランプさんが「買収でなく投資ならいい」と言ってくれたのだから。逆に「ダメなものはダメ」と言われたら、その時点でゲームセットになっていたでしょう。あのクリーブランド・クリフス社の品のないゴンカルベスCEOが大笑いしたかと思うと、それだけでも欣快事だと申せましょう。
〇会談前日の2月6日には、USストールのブリットCEOがホワイトハウスに呼ばれている。本件に関しては、日本製鉄とUSスチールが一心同体になっている、という点がポイントでありましょう。なにしろ一緒になって訴訟を起こしているくらいなのだから。あらためて振り返ってみると、3週間前に描いたこの記事はわれながらいい線を行ってたね。
〇本件に尽力された関係各位のご努力に心から敬意を表したいと存じます。
<2月9日>(日)
〇日米首脳会談前日に、NYT紙がこんな風に書いていた。
●Japan’s
Leader Is Rushing to Meet Trump. Is It Worth the Risk?
Prime Minister Shigeru Ishiba is hoping for
reassurances Friday that the alliance is still strong. But in
this White House, even a meet-and-greet can be a gamble.
――石破茂首相は金曜日、同盟関係は依然として強固であるという確証を得たいと考えている。しかし、このホワイトハウスでは、挨拶を交わすことさえも賭けになりかねない。
〇この議論、まったく常識的なものである。例えばこの記事の中で、グレン・フクシマ氏は「トランプ氏と過ごす時間が長くなればなるほど、トランプ氏が新たな要求を突きつける可能性も高まるだろう」と述べている。いや、まったくその通り。というより、みんな知ってまんがな、そんなこと。
〇それでも日本の首相がアメリカ大統領を敬遠していたら、それだけで極東におけるわが国の安全が脅かされてしまう。ワシントンへの参勤交代は義理や惰性で行くのではない。文字通りお家のために、身体を張って行くのである。中国とロシアと北朝鮮に隣接しているというコワさは、たぶんアメリカの有識者たちにはピンとこないのでしょう。
〇そこで石破首相はリスクを取って、トランプ氏と首脳会談をする2番手となったわけだが、「同盟国を100%守る」と言ってもらい、「尖閣諸島は日米安保第5条の対象範囲」「台湾海峡の平和と安全の重要性をあらためて確認」などの言質も取ったのだから、よかったじゃあないですか。後からいろいろ注文が来るかもしれないけど、それは国の安全には代えられません。
〇ところが一夜明けたら、新聞の紙面は「相互関税が怖い」だとか、「貿易赤字の縮小を迫られる」など、あいかわらずの被害妄想的な評価ばかり。こういう紋切り型の論説が多いから、新聞への信頼が失われるのではないかなあ。まあ、読者が被害妄想的だから、それに合わせているのかもしれませんが。
〇今後の日鉄のディールを心配する声も多いようです。でも、「買収はダメだが投資ならいい」というヘンなお言葉は、あの会社にとっては「起死回生」のマジックワードです。とりあえずバイデン前大統領の停止命令は意味がなくなったし、大統領判断に対する勝ち目のない裁判を続ける必要もなくなった。もちろん違約金を支払う必要もね。
〇まあ、世の中にはトランプが嫌い、石破を絶対に認めたくない、という人たちが少なくないので、ついつい判断も歪んだものになるのかもしれません。そういうのって、くだらないと思いますけどね。
<2月9〜10日>(日〜月)
〇9日の夕方から講演会の前日ということで、愛媛県松山市にやってきた。先月行った高松空港行きの便は、羽田空港ではバスで移動する500番台のゲートになるのだが、松山空港行きの便は60番ゲートというかなりいい場所から飛ぶのである。どちらもANA便なのだが、なんでそうなるのだろう?
〇2月9日は愛媛マラソンが行われたとのことで、市内は文字通りごった返している。これはマズイ。これではきっと道後温泉も混雑しているだろう。とはいえ、せっかく松山に来たのに温泉に入らないという法はあるまい。勝手知ったる市電に乗って、いざ目指さん、道後温泉へ。もちろんSUICAが使えます。
〇道後温泉に着いたらちょうど日が沈む頃であった。道後温泉本館に行ってみたら、改修工事は既に完了していて、観光客の長蛇の行列ができている。いや、いくら何でも、そんなに混んでいるお風呂に入りたいわけではない。それでも何かあるだろうと思って歩いてみたら、ちゃんと別館ができていた。「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」と言うらしい。中のつくりは本館と大差なく、新しい建物だけに中もキレイである。うん、こういうのでいいんだよ。
〇ということで、別館にしてしばし身体を温めてから、再び夜の街に出かけるのである。軽くひっかけたいのだが、温泉街の観光客相手の店ではよろしくないのである。松山市内に戻って探してみることにする。松山市は何年振りかだが、やたらと「鯛茶の店」が増えている。特に宇和島式の卵を使った鯛茶が人気になっているようである。
〇そういえば2017年夏に宇和島に行った際には、桜内文城さんに連れて行ってもらったお店の鯛茶は絶品であった。それとは別に、松山には鯛を丸ごとご飯に炊き込んだ「鯛めし」の伝統もあるとのことで、鯛を使った料理が観光資源になっているらしい。
〇そこでハッと思い出したのだが、松山市と言えば故・岡本呻也の出身地ではなかったか。この町の春風駘蕩とした雰囲気を、そのまま体現したような人物であった。本当ならばご実家をお訪ねして、お線香の一本を上げねばならないところなるも、そういうことを嫌がる人だったような気もするし、ワシもそこまで義理堅い人ではないので、軽く手を合わせるだけで済ませることにする。あなたには本当にお世話になりました。
〇ということで、宇和島風鯛茶の店を探してみるのであるが、あまりにも仰山あるので、これでは「孤独のグルメ」のテーマとしても失敗である。また、いくら美味そうに見えても、行列ができていたり、外国人向けに店先に英語のメニューが出ているような店は、ポリシーとして退けるべきであろう。しばしその辺を散策した後で、名前がいいから、ということで入ったのが「まともや」さん。生ビールと、いよかんサワー、それに鯛茶。ご馳走様でした。
〇ホテルに戻ってからは、例によって仕事に励むのである。やれやれ、であります。PHPのこの仕事、いつも旅先でやっているような気がするぞ。
〇月曜朝、ロープーウェーを使って松山城に登ってみた。きっと秋山兄弟や正岡子規も登ったはずである。幸いにも天気が良くて、これぞ本当の「坂の上の雲」ですな。天守閣に登ると、松山市内も瀬戸内海も望むことができる。余計なことですが、ロープ―ウェーの中は中国語だらけでありました。
〇ワシも日本各地の城を見ている方であるとは思うが、松山城のように城郭全体がきれいに残っているところは少ないのではないだろうか。しかも石垣の積み上げがとても高く、そのカーブがまことに美しい。これは名城でありますぞ。
〇城の建築技術は時代を経るごとに高度化しているので、関ヶ原の戦い(1600年)以降に作られたものの方が明らかに出来が良い。そうかといって、金沢城みたいに遅い時期に建てられたものは、ヘンに美意識があり過ぎて、「お前ら、戦闘のときのことをまったく考えてないだろう!」と突っ込みを入れたくなってしまう。
〇その点、松山城は加藤憙明が築城を開始したというから、かなり実戦的である。だいたい城づくりが上手だったのは、無数の城攻め経験値を有する羽柴秀吉軍団でありまして、松山城もご多分に漏れずである。江戸時代の建物だけれども、気分はちゃんと戦国時代なのである。
〇とまあ、そんなことで、内外情勢調査会の仕事を終えて帰ってきたのである。今あらためて数えなおしてみたら、松山市は5度目の訪問でした。
<2月11日>(火)
〇先週7日の日米首脳会談について、当日のトランプ大統領の行動が面白い。SourceはWashington
Daily Briefingから。
大統領の今日の行事と関連の話題
トランプ大統領は午前11時30分日本の石破首相の訪問を受け首脳会談、11時50分から昼食を交えた会談、午後1時10分から共同記者会見を行う。午後2時、宗教信仰事務局を創設する大統領令に署名。午後3時にはホワイトハウスを発ち、アンドリュース米軍基地からフロリダ州パームビーチに向かう。5時25分パームビーチ着、5時50分マーラ・ラーゴ着。
〇日米首脳会談は会談〜ワーキングランチ〜記者会見までおよそ2時間と少々。まあ、それはいいのです。
〇午後3時にホワイトハウスを出てから、マー・ア・ラゴのご自宅に戻るまでにDoor
to Doorで3時間かからないのです。ワシントンからフロリダまでがですよ? 晩ごはんは余裕でおうちで食べられるのです。
〇そりゃあまあ、前後はシークレットサービスが先導するわけだから、早いのは当たり前だけれども、これはトランプさん、気分がいいことでしょう。この政権はやっぱり「フロリダ政権」なのだという思いを強くした次第である。
<2月12日>(水)
〇2月10日に公表されたNHKの世論調査で、石破内閣の支持率が44%(前月比+5p)、不支持率が35%(同▲5p)となった。44%というのは久しぶりの水準で、2023年5月、広島サミットを控えた岸田内閣が46%である。日米首脳会談の効果が早速出たようである(調査期間は2月7日からの3日間)。
〇政党支持率を見ても、自民党が31.3%(+0.8)、立憲民主が9.2%(+1.1)、国民民主が6.8%(+0.4)、公明3.5%(+0.8)、維新3.2%(▲0.4)、共産2.2%(+0.9)と並ぶ。青木率で見ると44%+31%=75%とほぼ安泰な水域になっている。自民党、結構戻しているではないか。
〇と言って、こんなことで安心してはいかんのではないか、という気もする。まず2〜3月は確定申告のシーズンということだ。ワシだって計算しておるが、この時期になると税に対する不満が募ってくる。「政治とカネ」問題は、軽く見るといけませんぞ。「そろそろ国民は裏金のことを忘れただろう」などとは、けっして考えてはなりませぬ。
〇もうひとつ、これまた2月10日公表の1月景気ウォッチャー調査の中身が良くないのだ。現状判断DIは48.6(▲0.4p)、先行き判断DIは48.0(▲1.4p)である。飲食関係が手ひどく悪く、住宅関連、小売関連、雇用関連もよろしくない。やっぱり物価、特に食品価格の上昇が家計を圧迫している。これでトランプ関税で輸出が冷え込めば、景気後退局面かもしれぬ。
〇以下のような不景気なコメントが並んでおる。身につまされるような話ばかりではないか。石破さん、くれぐれもご用心召されよ。
・野菜や卵などが高くなったという声が多い。98円均一セールなどの商品に魅力がなくなっていることから、客の買物かごの中身が減ってきている(中国=スーパー)。
・新年の営業開始がいつもより遅かったため、開店以来最も悪い状態で、赤字である。客からはインフルエンザによる高熱で来店を控えていたという話や、中小企業の経営者から景気が悪くなっているという話を聞く。また、物価高で外出しづらくなっている客の様子もうかがえる(北陸=スナック)。
・価格転嫁の話題が取り上げられる機会が増え、運賃値上げの気運が高まってきている感はあるが、実現には至っていない。燃料を始めとした資材価格の高騰が止まらないなか人手不足が更なる状況悪化を招き、厳しい環境下にある(南関東=輸送業)。
・求職者が少ないほか、高い時給を求める傾向にあるため、マッチングに苦戦している(近畿=民間職業紹介機関)
・今年は、食料品、燃料費等の多くが値上げするとの予想が消費者に浸透しているため、財布のひもは固くなる一方である(北関東=衣料品専門店)。
・建築資材が高騰しているため、物件の売値も比例して上がり、今後の売行きに影響が出ることが不安である(東海=住宅販売会社)。
・米国向けの製品を多く輸出しており、大統領交代により関税の問題が起きることが予測されていることから、出荷量への影響を懸念している。また、国内においては賃上げの流れはあるものの、市場全体の景気は停滞しており、一般客向けの製品の販売が鈍い(中国=一般機械器具製造業)。
<2月13日>(木)
〇気がつけばピート・ヘグセス国防長官はもとより、ロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官、さらにはトゥルーシー・ギャバ―ド国家情報長官まで正式に議会で承認されてしまった。ひとりくらいは撥ねられるかと思ったけれども、上院共和党は皆さん、トランプ大統領に逆らえない様子。いいのかねえ、こんなことで。例えばわが国の内閣情報官は、カウンターパートとなるギャバートさんとフルに情報交換していいんだろうか??(情報がロシアに筒抜けになったりして)
〇トランプ政権発足以来、「やりたい放題」の状態が続いていて、民主党の反撃も今ひとつ届いていない感があるのだが、果たしてこの勢いどこまで続くのか。USAIDを解体しちゃって、本当にいいのだろうかとか、公務員の解雇もあんまり進めちゃうと本当に政府が機能しなくなるのではないかとか、見ていてだんだん心配になってくる。
〇それではこの勢いがどこまで続くかと言うと、やっぱり止まるポイントはあるはずだ。ひとつは予算のCRが途切れる3月14日がある。この日までには予算を成立させないと、さすがにマズい。「もう一回CR(暫定予算)で凌ぐ」場合は、財政責任法の決まりで「予算の強制削減」が起きてしまうのだそうだ。
〇理屈から言うと、共和党は上下両院で多数を握っているので、「財政調整措置」(リコンシリエーション)という手続きを使って、予算を通すことができるはず。ところが下院共和党には、フリーダムコーカスと呼ばれる「分からず屋さんたち」がいて、トランプさんが望むこと(大型減税、チップ非課税、不法移民強制送還予算、化石燃料開発予算など)を全部入れると、そんな放漫財政は許せない!と反対に回ってしまうのだ。その数、25人以上。
〇ジョンソン下院議長としては苦しいところで、だったら民主党を味方につけるという事も考えたいのだが、その場合は「イーロン・マスクを何とかしろ、馬鹿野郎!」と言われてしまう。そりゃあそうですわな。議会の拠って立つところは「予算を決めるのは俺たちだ」ということ。マスクさんが政府機関を相手にするやりたい放題は、自分たちの権限をないがしろにされていることである。
〇ということは、バレンタインデーの今はいいけれども、ホワイトデーが来る頃にはしっぺ返しがやってくるということだ。リコンシリエーションという手続きは、ややこしいことが多い連邦議会における「伝家の宝刀」である。ところが共和党下院議員の6割は、2017年には居なかった人たちなんだそうで、この辺の理屈がわかっておられない。
〇つまり「トランプを止めてくれるのは、身内の共和党議員」ということになる。面白いねえ。
<2月14日>(金)
〇昨日の続きである。
〇トランプ氏が中間選挙で勝とうと思ったら、そのための最低条件は2017年のトランプ減税法案を延長することである。そのためにはリコンシリエーションを上手に使わねばならないが、その前にもうひとつハードルがある。すなわち債務上限問題である。
〇以前、1月にも当欄で書いたように、債務上限のタイミングは6月にやってきそうである。G7サミットが6月15〜17日に予定されていて、どうもその前後にかかるのではないかという予感がする。米国債が格下げになりかねないので、扱いは慎重でなければならぬのだが、いかにも粗雑なことをやらかしてしまいそうでもある。
〇ともあれ、このまま行政府の独走を議会がいつまでも傍観していることはないだろう。アメリカにおける三権分立システムは強靭なものなので、予算を武器に議会がトランプ行政府に対して「ならぬものはなりませぬ」というタイミングがいずれ来るだろう。そうなった瞬間に、イーロン・マスクが厄介者になったりするかもしれない。
〇そうなったときに、トランプさんが容赦なくFirst
Buddyを切り捨てるかもしれない。これもこれで、皆が納得する展開であろう。トランプさんとマスクさんの関係は、「友情と打算の二重構造」と見つけたり。
<2月16日>(日)
〇今週の国会は予算が山場です。衆院通過はギリギリ3月2日までは待てるけど、そうなれば今週中に修正案を固めなければなりません。さて、どうなるのか。
〇今の感じだと、立憲民主党が修正案を出してきて、予算に賛成してくれそうな感じ。他方、国民民主党と維新の会はハードルを上げている。参議院選挙のことを考えると、ここは喧嘩別れしておく方がいい、という計算があるのかもしれません。
〇その点、立憲民主党は野田代表が予算に賛成したいのでしょう。これはこれで立派な精神と言うべきで、今は「大連立」をするほどの状況ではないけれども、予算が不成立になって「国会が石破内閣に仕事をさせてくれません」という状況に追い込むべき程とも思われない。となれば、少数与党をアシストする意義はあると思います。
〇というか、世界中の民主政治を見渡しても、中道右派を中道左派が支援して予算を通す、なんて麗しいことをやっているのは日本くらいではありませぬか。アメリカをごらんなさい。左から右へと思い切り振れている。ああいうことをされると、皆が困ります。困るけれども、どうしようもない。その点、中道政治はありがたきかな。
〇問題は予算が通った際に、立憲民主党の支持率が上がるのか、むしろ下がるのか、という点であります。あるいは党内から「造反」が出る怖れもなしとしません。実際のところ、よくわからんのです。予算が通ったら、「石破首相やるじゃないか」となるかもしれないが、「野田さんに借りを作った」と言われるかもしれない。
〇あんまり過去にない状況なので、どういうことになるのかよくわからない。生暖かく見守っていくほかはない。トランプさんはあいかわらず荒れまくっていて、ウクライナ和平はどうなるのかわからないし、日本も関税が降りかかってきそうではあるし。
〇先日も書いた通り、景気がちょっと心配でもある。その前に明日はQEで10−12月期GDP速報値も出ますな。なんともビミョーな1週間の始まりとなります。
<2月17日>(月)
〇先日、ある高齢者施設に伺った際に感じたこと。
〇お年寄りたちが大勢でお茶を飲んでいるラウンジで、大画面で1970年代の音楽が流れていた。いわゆる「懐メロ」というやつで、ほとんどが演歌である。三波春夫とか、美空ひばりとか、ワシから見ても「お〜古いわ」「そういえばそんな曲があったなあ」(ちっともいいとは思わんけど)、というラインナップであった。ただし周囲のご老人たちは、いかにも居心地よく感じているようであった。
〇そこでハッとするのは、ワシも最近は1970年代の曲を聞いていたりするのだが、そこは中島みゆきだったりユーミンだったり吉田拓郎だったり、いわゆるニューミュージック系が多い。いや、中島みゆき御大はやっぱりすごいのだ。『ホームにて』(公式)って、あの『北の国から』にも使われていたけれども、なんという深い世界観なことか。今さらながら、「ネオンライトでは燃やせない」って、何のことなんでしょうね。でも、「お前らは負けて逃げ出すんじゃ」という大滝秀治の声が重なってくる。
〇みゆき御大の初期の傑作と言うと、『時代』とか『世情』とか『アザミ嬢のララバイ』なんてところが有名です。が、なんかのはずみで記憶の扉の奥から、『店の名はライフ』とか、『狼になりたい』とか、『タクシードライバー』のメロディーが流れてくると、これはもう止まらなくなります。深夜だと特に。
〇どうやらワシが懐かしく思い起こす「70年代の曲」は、上の世代の人たちが愛した「70年代の曲」とはまるで違っている。両者が同じ時代に歌われていたことが信じられないくらいに違っている。同じ時空であっても、その時代に40代だった人と、中高生だった人では受け止め方が違うから、記憶に残る歌も違ってくるのであろう。
〇こんな風にして「世代交代」が起きる。こればかりは人類の歴史そのものということになる。天動説から地動説へのパラダイム転換は、古い理論が論破されてそうなったのではなく、単純に天動説を信じていた世代がくたばってくれたから、地動説が当たり前の世の中になったのだそうである。古い世代が頑張っていると、「老害」ということになる。心せねばなるまいて。
〇そして高齢者施設の常として、皆さんの個室にはかならずテレビが置かれている。見ているのはほとんど地上波のようであった。これはこれでのどかな風景であって、「どうしてもネフリの番組がみたい」などと言われても、施設としてはいちいち対応できないのである。
〇しかるにもう少し時代がたつと、すなわちワシくらいの世代が高齢者施設に入るようになると、「テレビはいいからパソコンを部屋に置いてほしい」などと言い出すようになるのではないか。これは大変なことですぞ。そのうちにSNSで、老人たちが日常の不満を発信するようになるかもしれぬ。そうなると介護スタッフの方々に新たなストレスを与えるのではないか。
〇「一日中ぼんやりとテレビを見ていてくれる年寄り」というのは、実はとてもありがたい存在であって、遠からず「ネットで徒党を組む困った老人たち」の時代がやって来るかもしれない。いやはや、これぞ老害の極みというもの。でも、きっとあっという間ですぞ。何しろ団塊世代が既に後期高齢者ですから。
<2月19日>(水)
〇今朝7時のNHKニュースで、トランプさんが自動車関税について「25%程度」と言ったことがトップニュースになっていた。ダメだなあ、そんな片言隻句に反応してどうするんですか。
〇いつも言っている通り、トランプさんは次にどうするかを「決めていない」人です。常に自分が「何をするかわからんぞ」と見せかけて、相手を疑心暗鬼にしたうえで取引を仕掛けてくる。土壇場で態度を変えてもそれは全然OKで、損なディールをするくらいなら、何もしない方がマシ、と割り切っている。つまり「出たとこ勝負」の相手なんです。
〇ところが日本の組織というのは、先々まで事細かに予定を立てたくて仕方がないという困った性癖がある。真面目な話、「中期経営計画」って、いったい何のために作っているんでしょうかね。企業はあれにかけている時間と労力を、もっとほかのことに割けばいいのになあ、と思えて仕方ありません。
〇そんなわけで、今日は自動車株が軒並み下げました。対米輸出比率の高いマツダよりも、現地生産比率が高いホンダの方が下げているのはいかなることならむ。やっぱりこの国は、アメリカにシカトされるよりは、イジメられる方がうれしいのだろうか。
〇でも、基本はイジメっ子が相手なんだから、「関税なんて痛くない」という振りをした方がいい。あんまり大騒ぎをしていると、「そうか、日本はそんなに自動車関税を怖れているのか」ということになって、「キジも鳴かずば撃たれまい」になってしまう怖れがある。要は我々全員が馬鹿正直すぎるんです。
〇やっぱり皆さん、これだけ長くトランプさんと付き合っているのに、リタラシーが低いんですよ。いや、そもそも親分自体が成り行き次第で、カオスの中から政策が生まれてくるような政権ですから、まともに予想しちゃいかんのです。ところが世の中には、「関税を上げればインフレになるのではないか」みたいな分かり切った議論をしたがるヤツが多過ぎ。
〇個人的に驚いたのは、昨日のモーサテで森田長太郎さんが「トランプ政権の経済政策は反・新自由主義」と言っていたこと。トランプさんが、ジニ係数なんて気にするわけがない。間違っても「成長から分配へ」ではないですからね。「忘れられた人々」のことを気にしてはいるけれども、それよりもはるかに成長志向です。それもぶっ飛んだ規模で。
〇トランプさんの考え方の基本はこんな感じなんだと思います。
どいつもこいつも、民主党政権時代に変に”お行儀よく”なりやがって。何がDEIだ。何が気候変動だ。紙のストローなんて、ホントは誰も好きじゃなかったんだろう?
俺たちは旧大陸から渡ってきた開拓者の子孫なんだぞ。この国は本来、もっとワイルドだったはずなんだ。フロンティア・スピリッツはどこへ行っちまったんだ。
オバマみたいに高学歴でお高く止まった連中がのさばるから、皆が委縮してしまっているんだ。お前ら正直になれ。理想じゃメシは食えねえぞ。
まして外国の連中に遠慮することなんてないんだ。アメリカ・ファーストでいいじゃないか。あいつらはタカリみたいなもんだ。まして不法移民なんてもってのほかだ。
民主党政権が残した規制なんか全部ぶっこわしてやる。これからは宇宙もサイバー空間もAI開発も思いのままだ。アメリカがもう一度世界を制覇するんだ。文句あっか!
〇間もなくトランプ政権が発足して1カ月となります。不肖かんべえは明日はBSテレ東「日経ニュースネクスト」に登場いたします。
<2月21日>(金)
〇えー、前から苦しんでおりました仕事がやっと日の目をみました。こちらであります。
●政策シンクタンク PHP総研 「開かれたジャパン・ファースト宣言」
〇柄にもなく「座長」なんか引き受けたものだから、最初のうちはメンバーと楽しくやってたんですが、とりまとめの段になって往生しました。ホントにもう、出張先の福岡でも札幌でも高松でもこの原稿を書いていたんだもん。
〇しかも最後の頃になって、次々に新しい事態が発生して、「あああっ、これはどうやって取り込めばいいのか!」と悩むことしきり。特にトランプ政権の責任は重大です。アナタのお陰でわれわれがどれだけ苦しむことになったのかと。
〇ひとりでも多くの方の目に、この提言が目に留まればありがたく存じます。ああ、ホッとした。
<2月23日>(日)
〇本日、府中競馬場に行っていたんですが、さすがに豪華でありましたな。中山競馬場とは段違いであります。考えてみたら、中山開催は1月と3月と9月と12月。要は寒かったり、暑かったりする時期である。それに引き換え、府中は2月と5月と10月と11月である。ダービーも秋天も冷暖房要らずである。そりゃあまあ、そういうものか。
〇とはいえ、この豪華さは「世界第2位の経済大国」であった時代の名残みたいなものである。確かに芝は奇麗だし(最終日なので、内側はかなり痛んでいたけれども)、人は大勢集まってくるし、食い物も贅沢である。競馬を楽しむにはまことによろしい。ただし本日行われたG1レース、フェブラリーステークスの賞金は1億2000万円ぽっちである。
〇同じ日にサウジアラビアでは、同じダートレースであるサウジカップが開催されていて、そちらの賞金は1000万ドルである。1ドル150円で計算すると15億円で日本の10倍以上である。せめてもうちょっと円高になってくれれば、いいんですけどねえ。
〇このサウジカップを制したのが日本馬フォーエバーヤングである。去年の安田記念を勝った香港馬、ロマンチックウォリアーとの死闘を制した感動的な勝利であった。これで馬主の藤田さんは12億円、矢作調教師は1億5000万円、坂井騎手は7500万円をゲットしたことになる。
〇そして2025年のリーディングジョッキー(と言っても2か月分だけど)は、川田、坂井、松山、西村というトップ4人は全員がこの週末はサウジに行っている。でもって、坂井騎手はネオムターフカップというG2レースも勝って、ルメール騎手も1351ターフスプリントというG2で勝っている。馬も騎手も賞金が高いレースを狙うのは当然ですよね。
〇かくして日本に残っているのは、人馬ともに二軍ということになる。日本でいちばん優秀な選手が、アメリカにわたってしまう野球界みたいなものです。ちょっと寂しくはないですか。
〇そして今日のフェブラリーステークスを制したのはコスタノヴァで、鞍上はレイチェル・キング騎手だった。英国人ジョッキーで、主戦場とする豪州ではすでにG1を5回も勝っている猛者である。その彼女が今日、「JRAで女性初のG1勝利」を成し遂げた。たいへんおめでたいのですが、すいません、賞金は600万円=4万ドルぽっちしかないのです。
〇つまり世界基準で見た場合、日本はとっても貧乏くさい国になっている。今じゃもう「GDP世界第4位、シェアは4%の国」になっているのだから、それは仕方がないことではある。でも府中競馬場で遊んでいる限り、そのことにはなかなか気づかないような仕組みになっている。
〇日本馬は確かに強いんですけどねえ。どうやったら日本経済をもっと豊かにして、為替に一喜一憂しなくて済むようにできるのか。そのためにも「開かれたジャパン・ファースト宣言」を是非、読んでください、と申し上げておきましょう。
<2月24日>(月)
〇ドイツ総選挙の結果が出たようです。投票率84%とは高かったですね。これってJDヴァンス演説が呼び水となって、左派票を動員しちゃったせいなんじゃないでしょうか。
Share(%) | 増減 | 議席数 | |
CDU/CSU | 28.52 | +4.38 | 208 |
AfD | 20.80 | +10.42 | 152 |
SPD | 16.41 | ▲9.29 | 120 |
Green | 11.61 | ▲3.11 | 85 |
Left | 8.77 | +3.90 | 64 |
BSW | 4.97 | +4.97 | 0 |
FDP | 4.33 | ▲7.10 | 0 |
〇いやはや恐ろしい。ドイツでは「5%ルール」があって、得票率が5%に満たないと議席がゼロになってしまうのだが、歴史あるFPD(その名も自由民主党)が、とうとう議席ゼロになってしまいました。昔はこの政党が、CDUとSPDのどっちに着くかで政権交代が起きていたんですが。FDP党首だったゲンシャー外相なんて、1974年から1992年まで18年間も外相を務めたんですけどねえ。
〇しかしまあ、難しいのは次期首相になるメルツCDU党首が、SPDと大連立を組むしかないということ。しかもその場合は、議席数630のかすかす過半数とならざるを得ない。ホントだったらFDPが生き残ってくれていたら、うまく連立の「つっかえ棒」になってくれたでしょうに。緑の党を入れちゃうと、エネルギー政策の転換ができなくなりますからなあ。
〇それというのもAfDが大躍進して議席を倍増させ、第2政党になったから。SPDが第3政党になるというのは、戦後初めてのことなんだそうです。これでフランスの国民戦線、英国のリフォームUK、ドイツのAfDという右派勢力が、英仏独でしかるべき地位を占めつつあることになる。トランプさんやイーロン・マスクがまたしても良からぬことを企みそうな予感。
〇CDU党首のメルツ氏は69歳。党内ではこれまでずっとメルケルさんに歯が立たず、いつも悔しい思いをしてきたとのこと。しかるにやっと首相の地位に就けると思ったら、メルケルさんが増やした移民の問題で足を引っ張られ、メルケルさんが甘やかしたロシアと対決していかなければならない。
〇今日はウクライナ戦争発足から3周年。このタイミングでトランプさんは、ウクライナ支援からロシアとの「平和」調停へと大きく舵を切りつつある。今日はフランスのマクロン大統領がワシントンに駆け込み、27日には英国のスターナー首相が訪れるとのこと。しかるに連立交渉には時間がかかるだろうから、メルツ新首相がトランプさんに会いに行くのは相当先になってしまうのではないか。
<2月25日>(火)
〇今朝は「モーサテ」へ。本日の「プロの眼」のテーマは「米トランプ政権の『快進撃』を止めるものは」でした。「快進撃じゃなくて暴走だろう!」というツッコミは、もちろんよくわかるところではあるのですが、公約を実施することに関しては、これほど熱意のある政権は滅多にないので、そこはまあ「快進撃」でよろしいのではないかと考えます。
〇この番組、4月からはNYからの放送を復活させることになり、片渕キャスターが念願かなってNYに赴任するとのこと。彼女が「モーサテ」のメインを引き継いでからちょうど丸2年。すごいラーニングカーブを目撃させてもらった感があります。しかしそうでなくても大江麻理子さんが抜けてしまうテレ東、後をどうやって埋めていくのか。上層部はとっても頭を抱えていると思うぞ。
〇ちなみに池谷さんいわく。「誰かが居なくなって困る、なんてことはないんです。そういうものなんです」。ワシの長年の職場経験からいっても、エースが抜けた職場というものは、かならずすぐに次のエースが育つものである。そうやって組織は回っていくものである。ちなみにエースが存在しない凡庸な組織は、いつまでたっても凡庸なままである。不思議なくらい、そういうものである。
〇もうひとつ、ビックリしたのは、上海支局長の菅野陽平さんがスタジオに来ていたこと。いつもは上海からお送りしている「チャイナエコノミー」を、今日は東京から放送したんですよね。菅野さんとは昨年、上海に出張した際にお会いしました。日本のメディアでほぼ唯一、中国に関するポジティブな情報を伝えている希少なコーナーなんじゃないかと思います。
〇「モーサテ」に出た日は一日が長い。それでも今日は、めずらしいくらいいろんな人から、「今朝の見てましたよ」と言われました。中には「ヴァンス演説をユーチューブで見ると面白い、と言っていたから本当に見てみました」という人までいらっしゃいました。俺って影響力あるじゃん。そんなことが妙にうれしい一日でありました。
<2月26日>(水)
〇今日のお昼、某社の打ち合わせランチにお呼ばれして、アークヒルズクラブに行った。ああ、久しぶりだなあ、いつ以来かなあ、と思ったら、そうそう、ここは松尾文夫さんの「アメリカ会」の定例会場であった。
〇それから「あっ、今日は2・26だ。松尾さんの命日だ」ということに思い当たった。そうなのだ。松尾文夫さんは祖父、松尾伝蔵大佐が同郷で義兄でもある岡田啓介首相の身代わりになって凶弾に倒れた日にこの世を去った。場所は出張先のアメリカ、シラキュースであった。享年85歳。あれは2019年、令和元年のことだったから、今日は七回忌ではないか。
〇アメリカ・ウォッチャーの偉大な先達からはいろんなことを教わったものだが(例:「トランプとニクソンは重なるんだよ」)、唐突にこんな記憶が蘇った。何かのはずみで、松尾さんがこんなことを言い出したのである。
「瀬島龍三という人はうちの親戚だけどね、とても字がきれいな人だった。それで陸軍が天皇陛下にお見せする文書は、いつも彼が清書したものだった」
〇何となく突き放した口調であった。ご親戚とはいえ、あまりいい感情を持っていなかったのかもしれない。聞いた当方は結構驚いて、「なんと、参謀本部作戦課が瀬島を手放さなかったのは、そんなことが理由だったのか!」と愕然としたのであった。
〇当方にとって、瀬島龍三は「郷土の偉人」ではあるけれども、会ったこともないし、持ち上げるつもりも貶めるつもりもない。こんな話は普通だったら、墓まで持っていくのがお作法かもしれないけど、世の中はどんどん変化していくし、そのうち「戦前は公式文書も全部手書きだった」みたいなことがわからなくなる時代が来るかもしれない。
〇だったらまあ、この辺で書いちゃってもいいのかなあと。だって単なる偶然とは思えなかったんだもの。
<2月27日>(木)
〇今日は正論大賞の授賞式である。大賞が宮家邦彦さんで新風賞が小泉悠さんである。これは万難を排して駆けつけ、お祝いを申し上げねばなりませぬ。
〇宮家さんにはしょっちゅうご意見を拝聴しているし、小泉さんはこれで「同じ賞をもらった仲間」になったので、ちょっとうれしい。ちなみに新風賞の初代は櫻田淳さんで、今日はとっても久しぶりにお目にかかることができました。奥様にも初めてお会いしました。
〇ところでこのイベント、「フジサンケイグループ 代表 日枝久」の名前で案内状が送られてくる。「取締役相談役」ではないのである。今日は「日枝さんが辞めた!」というニュースが流れていて、「ああそうか、今日のこの会合が終わるまでは辞められなかったのか」と思ったら、辞めたのは「経営諮問委員」であったとのこと。自宅で転倒されたとの報もあり、本日もお見えではありませんでした。お大事になさってくださいまし。
〇本日の会合には石破首相は祝電のみでしたが、岸田前首相はわざわざお見えになってご挨拶をいただきました。ちゃんと「紙なし」のご挨拶でした。やればできるんじゃん。
〇産経新聞のパーティーに出席すると、よく佐藤康光九段がいらっしゃいます。「永世棋聖」のタイトルホルダーだからなんですが、今日はご欠席でした。だって今日は「将棋界の一番長い日」。そう、A級順位戦の最終戦なのであります。そりゃあ、そっちが優先ですよね。たぶんアベマTVの解説に出ておられるのではないでしょうか。
<2月28日>(金)
〇今朝は某シンクタンクが主催するセミナーへ。時節柄、第2期トランプ政権の動きを論じるのだが、並みいる著名な学者から「理解不能なパラレルワールド」とか、「米国政治情勢は複雑怪奇」といった弱気な声が洩れる。「米中共にヘタを打っている」などというご指摘も。
〇まあ、トランプさん自身が、朝言ったことと夕方言っていることが違ったりするので、こんな政権をまともに論じろと言われても、真面目な方であればあるほど困ってしまうだろう。「ゼレンスキーが独裁者だって、俺、そんなこと言ったか?」って、アナタ、そりゃあないでしょう。
〇司会者から「ご質問は?」と聞かれて、誰も手が挙がらなかったから、「トランプ現象は、SNS上などでは既に日本でも始まっているんじゃあないでしょうか」と尋ねてみる。確かにリベラルへの敵意とか、ファクトを大事にしないところとか、似たような潮流はありますわなあ。後から何人かの方から、「あれはグッド・クエスチョンだった」と言っていただきました。
〇夜は某勉強会にて発表役を務める。これがとってもストイックな会であって、真面目な議論の応酬に身の引き締まるような緊張感である。ああ、こういう雰囲気、長らく忘れてた。近頃のワシは夜7時を過ぎるとどこに居ても飲んだくれていて、午後9時を過ぎて素面なんてことがない。
〇たまにはもっと真面目に勉強しないと、シンクタンク研究員ではなくてただの漫談士になってしまう。と言いつつ、きっと週末にはただの馬券師になってしまいそうな予感。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki