●かんべえの不規則発言



2013年12月







<12月1日>(日)

○先日、"Black Tie Requested"のセレブなパーティーに出てしまったために、いろいろ余波が生じている。例えばこんな具合である。

●同じテーブルにプロのピアニストが居た。

●「家内が最近、オペラのファンになりまして・・・」などと余計なことを言う。

●ほとんど必然的にジャパンアーツから案内が届いてしまう。

●つい見栄を張って、トリノ王立歌劇場の切符を買ってしまう。

●見に行く(←今ここ)

○ということで、上野の東京文化会館へ出かけてヴェルディの「仮面舞踏会」を見ることになった。生涯初オペラにしては、我ながらずいぶんと張り込んだものである。途中で寝ちゃうんじゃないかと心配していましたが、いやあ、いいもんですな。オペラってものは。心から楽しんでしまいましたですよ。

○舞台が植民地時代のボストンで、アングロサクソンの総督がなぜかリッカルドという名前で、どう見ても行動パターンがイタリア人である。部下の妻に横恋慕したり、占い師を皆で見に行こうなどと言う。そこで怪しげな予言があって、これがもちろん事後的に的中してしまうのであるが、愛の賛歌があり、衝撃の対立があり、憎悪の応酬があり、それでも冷静と寛容があり、最後は関係者全員が仮面舞踏会で顔を揃えてクライマックスを迎える。コロガリがよく、キャラが書き込まれ、オリンも効いていて、ヤマも見せ場十分というドラマでありました。

○変なもので、これで不肖かんべえがオペラに嵌るかというとそうではなくて、「イタリアのオペラがこれだけ面白いものなら、歌舞伎も見てみようかねえ」などとあらぬ方向に行ってしまいそうである。なんにせよ、食わず嫌いはいけません。人生を狭くしてしまいますからね。


<12月2日>(月)

○原発ゼロ発言で久々に注目を集めた小泉純一郎さんですが、お蔭でいろんな噂を聞くことが多くなりました。もちろん、「石油資本に買収されている」とか、「新党結成を目指している」とか、「安倍さんに嫉妬している」などというおバカな噂はさておいて、ちょっと本物らしくって、いかにも小泉さんだなあ、と思える話をピックアップしてみました。


●あの人は昔からフィンランドが好きだった。首相として最後に訪れたのがフィンランドで、他の国はすべて1泊だったのに、フィンランドだけは2泊だった。こだわった理由は、「シベリウスの生家へ行きたかったから」

――エルビス・プレスリーだけじゃなかったんですねえ。「オンカロに行ってみましょう」と誘われたのは、渡りに船だったのかもしれません。

●昔、YKKでしょっちゅう飲んでいた頃は、いつも「じゃ、俺は先に」と言って帰るのが常であった。小泉が姿を消した次の瞬間、加藤&山崎は、「アイツは変わってるよなあ」と顔を見合わせたものであった。

――ちゃんとお代は払っていたんでしょうか。気になります。

●よく一人で赤坂を飲み歩いていた。1店ごとの滞在時間は非常に短く、しばしば他の客からは「今の誰?」という声が出たものだ。

――「あれだけ孤独を愛する人だったから、5年間も総理が務まったのだろう」との解説もあります。

●歌舞伎やコンサートも一人で見に行って、幕が下りるとすぐに席を立ち、カーテンコールを背に劇場を立ち去るのが常であった。

――なんとなく、情景が目に浮かぶような気がします。

●総理としては、「それはいい」「それはダメだ」などと指示がはっきりしていて、仕事のやりやすい人であった。

――政治家は細かい話は知らなくてもいい、いや、知るべきではない、と考えていた節もあります。

●とにかくへそ曲がりな人だった。郵政民営化も靖国参拝も、周りが止めれば止めるほどムキになった。

――「原発ゼロ」も、なるべく周囲が「ご説明」をしない方が得策かもしれません。

●純ちゃんは昔から、寂しくなると一発かます癖があった。

――今回の言動の動機としては、これがいちばん説得力があるような気がします。


○こうやってみると、やっぱり憎めない人ですよねえ。てゆうか、上記はすべて裏の取れてない話ですので、ご使用の際にはご注意くださいまし。


<12月3日>(火)

○今年も押し迫った12月X日。永田町に衝撃が走った。銀髪をなびかせた小泉元首相が、突如として総理公邸に安倍首相を訪ねたのである。二人だけの密会。しかも師匠と弟子の関係。さらに両者は、このところ「原発」の問題を巡って対立している。いったい何が話し合われているのか。

○記者団が固唾をのんで見守る中、80分後に姿を現した元首相はこのように語ったのであった。


 自民党のみんなが心配してる。国民も心配してる。もう少し、何か知恵があってもいいんじゃないかというのがみんなの声じゃないか。私も昨日今日といろんな人たちと会って意見聞いてもみんな、やっぱりそう(原発ゼロだ)ね。政治家だけでなく言論界も。

 (首相が)すしぐらいとってくれるのかと思ったら、出てきたのは世界各国のビール。公邸にこれしかないんだって自分で抱えてきたよ。ビール十本を二人で飲んで、なくなったからもうビールないのかと聞いたら、ないと。冷蔵庫開けてみろといったらない。それで持ってきたのがウーロン茶。出してくれたのは、ひからびたチーズと、サーモンみたいなもの。それしかない。かんだけど硬くて食べられない。こんな待遇で一時間半も。

 はっきり言って、オレもサジ投げた。みんな努力してあんたの意見に賛成して、(原発に)反対の人までが賛成して、それで再稼働やってその人たちを苦しめて何の意味があるんだって言った。

 (首相は)おれの信念だ。おれは殺されてもいい。それぐらいの気構えでやっている。だから再稼働させてくれ、と手を握られた。再生可能エネルギーのため努力している人たちが路頭に迷うようなことがあったら君はどう責任とるんだ、と言ったら(首相は)仕方がない。おれは総理大臣だ。おれは再稼働をやるって言い続けてきた。だから絶対に通してくれ。努力してくれ。輸出だって好んでやってるわけじゃない。

 いろんなことを私は説いた。成長戦略、日本版NSC、中国の防空識別圏、バイデン副大統領来日、予算、税制も。これだけ問題抱えて、政治空白、これだけは政治家として容認できない、やっちゃいかんと。そう言ったら(首相は)再稼働してくれれば問題ないと。もういっぺんよく考えてみてくれんかと言ったら、変わらないと。もうこうなると変人以上だな。

 (けんか別れかと記者団に問われ)けんか別れなんてしないよ。そんなもん、仕方ないじゃない、同じことを繰り返しているだけで。もうちょっといてもいいと思ったけど、ビールはなくなったし、お茶もなくなったし。歯が痛くなるようなこんなもん食わされて。腹も減ってくるし。

 (首相を支えるかと記者団に問われ)個人の情としてわからんではないけど、仲間もいるし。党のみんなも私も苦労して野党から与党に戻して、党を大事にしてきた。そう考えると、安倍さんにいつまでもこだわっていてもいかんなという気持ちにもなりかねない。むなしい、わびしい気持ちもある。長い政治生活でひょっとしたら(首相と会うのは)これで最後かもしれん。

 (再稼働を阻止するのかと問われ)僕は何も権限はない。阻止なんてできない。何かいい案があったら教えてくれよ。


○どこかで聞いたような話に、一同、デジャ・ブー感覚を禁じ得ないところであったが、そうだとしたら二人示し合わせての出来レースなのかもしれない。ともあれ、久々の「小泉劇場」は、「5000万円劇場」や「特定秘密法案攻防」「TPP交渉」などをしのぐ存在感を示したのであった。

○以上、虚構新聞に出そうなネタでした。そういえば読者の方からこんな追加情報もいただきましたよん。


●純ちゃんの好みの女性は「色白でぽっちゃりタイプ」。ただし堅気のお嬢さんには手を出しません。


<12月5日>(木)

○今宵はエコノミスト懇親会。黒田日銀総裁と安倍首相が来賓であいさつされてました。国会は昨日に続いて揉めておりますが、総理が抜け出してホテルオークラ別館まで来れるってことは、特定秘密保護法案はどうやっても通るってことなのでありましょう。

○さて、来年の政局をつらつらと考えますと、いちばん楽しみなのは東京都知事選であります。ええ、もちろん猪瀬さんは辞任に追い込まれるだろう、っていう読みであります。だって普通に考えると、今のままでは東京都の予算は、都議会を通りませんわなあ。もちろん都知事には都議会を解散する権利がありますが、それをやったところで次の展開は開けそうにない。さらに言えば、ここですんなり辞めておけば、さすがに刑事事件には発展しないでしょう。「あの借用証書は本物なのか?」などという質問もスルーすることができるはずです。

○東京都民でないわが身からすれば、こんなに無責任にエンジョイできる選挙はほかにありません。なにしろ魑魅魍魎の棲む東京都知事選。過去にはいろんなことが起きてます。とにかく、普通の人では通らない。破格の人でないと、誇り高き都民の信認は得られない。その反面、山本太郎を参議院議員にしてしまうのも東京都民です。果たして鬼が出るか蛇が出るか。誰が出るかを考えただけで、まことに楽しいではありませんか。


●現職政治家枠

石原 伸晃:実は最初から猪瀬都知事はワンポイントリリーフで、次は石原家への大政奉還という筋書きが書かれていた。

舛添 要一:前回(1999)も出ました。問題は自民党の推薦が得られるかどうか。なにせあの小沢一郎でさえされてない、「除名」をされておりますので。

鳩山 邦夫:前回(1999)も出ました。お金もあります。でもちょっと無理な気がします。つくづくあのお兄さんさえいなければねえ。

東国原英夫:前回(2011)も出ました。去年の衆院選で維新の会所属で当選しましたが、次の出番がなかなかなさそうなのが辛いです。

渡邊 美樹:前回(2011)も出ました。でもあの時は民主党推薦で、今度は自民党参議院議員からになるんでしょうか。

松沢 成文:前回(2012年)も出ました。でも、あまり覚えている人は少ないような気がします。


●作家枠

田中 康夫:最近、お見かけしませんけど、いかにも考えておられるような気がします。

大江健三郎:直木賞の青島、芥川賞の石原、大宅賞の猪瀬を超えるためには、やはりノーベル文学賞しかないのでは?


●女性枠

小池百合子:これも順当かもしれません。都知事になられたら、ぜひトルコなど中東歴訪をお願いします。

安藤 優子:フジテレビから政界進出。ついでにお台場カジノもよろしくお願いします。

小谷真生子:テレビ東京から政界進出。あ、そういえばWBSでは小池さんの後輩にあたるわけですね。

蓮   舫:国政よりも面白いかも。東京都を思い切り仕分けしちゃってください。

櫻井よしこ:都知事が安倍首相の指名で決まるのなら、こんなに分かりやすい選択肢はありません。


●スポーツマン枠

橋本 聖子:2020年東京五輪を迎えるには、やはりオリンピアンが都知事になるべきでは?

馳   浩:2020年東京五輪を迎えるには、やはりオリンピアンが都知事になるべきでは?

アントニオ猪木:怖いものは何もない。もう誰も止められません。


●泡沫候補枠

ドクター中松、マック赤坂など多数。これも都知事選の楽しみのひとつです。ポスターも政見放送も、まことに型破りでありますからねえ。


○こんな顔ぶれが並んで、なおかつ国政選挙ではないから政局への影響は限定的である。こんなに無責任に楽しめる選挙がほかにあるでしょうか。


<12月7日>(土)

○来年の予測がボツボツ出始めています。これはWEFによる"Outlook on the Global Agenda 2014"というものですが、ちょっとユーラシアグループのTop 10 Risksのパクリっぽいですねえ。ま、それは言わないことにして、メモしておきましょう。


1. Rising societal tensions in the Middle East and North Africa
2. Widening income disparities
3. Persistent structural unemployment
4. Intensifying cyber threats
5. Inaction on climate change
6. The diminishing confidence in economic policies
7. A lack of values in leadership
8. The expanding middle class in Asia
9. The growing importance of megacities
10. The rapid spread of misinformation online


(1)中東・北アフリカ地域の緊張

(2)所得格差の拡大

(3)構造的失業の長期化

(4)サイバー空間への脅威

(5)地球温暖化への不作為

(6)経済政策への信認の低下

(7)指導力の価値喪失

(8)アジアにおける中間層の拡大

(9)巨大都市の重要性

(10)誤情報の拡散


○これが来月のダボス会議のネタになるんでしょうね。とりあえず「MENA」(中東・北アフリカ)が1位になっているということは覚えておきましょう。シリアにイラン、エジプトにサウジにパレスチナ。どこで何が起きても、不思議はない感じですからねえ。


<12月8日>(日)

○町内の集会所が賑やかである。そうか、今日は「友の会」の日か。一瞬顔を出して、「今週末から火の用心をよろしく」、と挨拶して帰ろうと思ったら、案の定、とっつかまって長居することに。

○鍋もので盛大な酒盛りが行われている。ちょうどビンゴゲームの最中で、町内の元気なお年寄りがほとんど集まっている。昔に比べれば、お酒の消費量はやや減ったような気がするが、とにかく圧倒的なパワーである。最近は、「サロン」と称する平日昼のお茶会も人気になっていて、ダーツや「日本地図ゲーム」などが人気なのだそうだ。全国的に見て、かなり恵まれたコミュニティと言えるかもしれない。

○つい先日、自民党税調の方から伺った話なのであるが、小泉時代の最大の失敗は、公明党の要請を受けて、高額医療への保険適用を認めたことなのだそうだ。病院の待合室が老人で一杯になるというのは、笑い話としてはよくあるけれども、保険制度としては別に問題でもなんでもない。金額的にもたかが知れている。老人は毎日病院に通って、自宅で寝てくれるのが一番ありがたい。

○ところが入院されるとご本人も辛いし、周囲も気の毒で、保険費も膨大なことになる。それこそ毎月何億円などという負担が生じることもある。だから軌道修正を図らなければならない、とのことであった。高齢化時代には、町内会も重要なんじゃないかと思った次第である。


<12月9日>(月)

最新号の溜池通信で、「雇用者数が史上最高になっている」「男性は増えずに、女性が増えている」という件を指摘したところ、いくつか反応をいただいております。

○その中でも、「あっ、そうだったのか!」と感心したのは、某自動車会社勤務の友人からのメールでした。


「男性は昔から就業率が高く、年代による就業率差もないので、就業者数は人口動態に従って減少局面にある。

女性は、高齢者層は就業率が低い時代のままであり、この層が退出し、就業率が高い若年に移動すると、就業者数は増加する」


○なんでも、免許の保有率が同じパターンをたどっているとのことで、男性は世代移行による変化がないので総数が減少し、女性は若い層ほど免許を持っているので総数が増える。従って、これからますます軽四の比率が上がるだろう、というのが業界の読み筋なんだそうです。さすがはT社。

(個人的には、スポーツカーを乗り回す女性がカッコいい、みたいなブームが起きたらいいな、と思います。先日も当社の若手研修会に参加して、最近の女性総合職はすげえな、と感心したところでありましたので)。

○さて、このように女性の雇用者が増えるとなると、それはデフレ脱却には果たして有効なのだろうか。ひょっとすると、介護や福祉など年収が高くない職種ばかりで女性の雇用が増えて、全体の賃上げには寄与しないという見方もできる。他方、共働き世帯の可処分所得が増加するといった形で、個人消費には確実に貢献するのでしょう。

○世間的には、「非正規の雇用は、いくら増えてもけっして評価してはいけない」的なこだわりがあるような気がするのですが、正規でも非正規でも雇用者総数が増えることは良いことです。さらに言えば、有効求人倍率が既に0.98まで上昇していることを考えると、ゆくゆくは賃金上昇圧力が生じるという楽しみもある。雇用者数の増加は、2013年の日本経済にとって収穫であることは間違いありません。


<12月10日>(火)

○思いがけず、いろんな人に出会う一日でした。お昼にとっても久しぶりのNさんとランチして、ベトナムがどうしたこうしたという話をして、地下鉄に乗ったら別のNさんとバッタリ。当社OBの方で、これまた昔話をしていたら、別の駅でさらに3人目のNさんが乗ってきた。おやおや。

○この3番目のNさんという人が、少し前に「諸般の事情で社長の座を追われた」という人で、雑誌沙汰になっていたので気になっていた人なんです。でも、基本が明るい人なんで、「いやー、普通では体験できないようなことを体験しちゃいまして」「本日、新しい会社の登記ができましたんで、またよろしく」とのこと。あいかわらず日焼けしているのは、ゴルフじゃなくてサーフィンのせいなんでしょう。

○「自分で作ったつもりの会社を追われてしまいましたから、最近ではミドルネームをSteveにしました」とのこと。「お、ジョブズですね。前の会社ではパソコンを作ったから、次の会社ではiPhoneの番ですか」「あはははは」。・・・・いやはや、畏れ入りましたでござりまする。アニマル・スピリットというのは、こういうものでありますな。倍返しでお願いいたしまする。


<12月11日>(水)

○まことに信じがたいことに、明後日の締切日を前に、アメリカの議会超党派協議会が予算案で合意したそうである。


[ワシントン 10日 ロイター] -米議会超党派委員会の民主党代表を務めるマリー上院予算委員長と共和党代表のライアン下院予算委員長は10日、約850億ドル規模の予算案で合意したことを発表した。

予算案は依然として上下両院の本会議で承認される必要がある。

超党派の財政合意は、歳出削減の規模は控えめとなったものの、3年近く続いた民主党と共和党の対立を終わりに導く可能性がある

マリー委員長は「非常に長い間、妥協は禁句とされてきた」と述べ、3年間にわたる議会の対立がもたらした不透明感は「米経済の回復に深刻な打撃を与えた」と指摘した。

ライアン委員長は「分裂した政府では望むものを必ずしも得られない」と述べた上で、「合意は現状を明らかに改善するものだ。これにより1月の政府機関閉鎖が確実に回避される。10月に再び閉鎖されるシナリオもなくなる」とし、特に共和党保守派の批判を和らげようとした。

議会の財政合意は、歳出強制削減の幅を2年間で630億ドル縮小し、強制削減の影響を軽減。10年間で200億─230億ドルの財政赤字を追加的に削減するという内容。

これまで財政協議でほとんど妥協点を見いだせず、土壇場で一時しのぎの措置を取ってきた民主、共和両党にとって今回の合意はまれ

下院は休会前の13日までに採決する見通しで、上院での採決は来週になる可能性がある。


○いやー、やればできるじゃないですか。おっと、ちょっと待て。来年1月に財政の問題が消えるということは、いよいよ来週のFOMCはテーパリング開始かもしれない。先週の雇用統計も強かったことだし。これってエド・ハイマンさんの読み通りではありませんか。これはこれで、マーケットにどんな反応が出るか、来週に向けて要注目です。

○政治面でいうと、とんでもないことが起きている。ここをご参照。世論調査のグラフというものは、本来、そんなに激しく変化することはないものなんですが、こんな形、ちょっと見たことがありません。10月の政府閉鎖により、共和党が見放されて民主党への信頼が高まったのだが、その後のオバマケア問題で、12月になったら共和党支持が上回っている。

○2014年の中間選挙は、「ブラントイメージが悪化した共和党」vs.「6年目のジンクスを迎えるオバマ民主党」の戦いで、どっちも弱点を抱えている中での消去法の選択、という形になっている。ここで合意ができるようなら、共和党の株が上がりますわねえ。そしてオバマケアは本当に来年1月のスタートが切れるのかどうか、怪しくなっている。ほんの2か月で様相が変わっている。久々にアメリカ政治が面白くなってきました。


<12月13日>(金)

○大阪に行ってきました。この季節になると、東京もそうだけど(特に霞が関)、銀杏の紅葉がきれいですね。特に御堂筋は立派なもんです。地元の人は、「昔ほどじゃなくなった」と言っておられましたが。春の桜に比べると、ほとんどありがたがられないのですけど、12月の銀杏って悪くないと思うんですけどね。

○2時間ほど空きがあったので、あべのハルカスを見てきました。正式なオープンは来年3月7日で、それまでは展望台にも上がれないんですが、高さ300メートルで日本一の威容は既に完成しております。近鉄百貨店も客がぎょうさん入っておりました。ただしですなあ、道路(市電が走っている)の間際まで建物がせり出しておりまして、このビルを眺めるのに適当なスポットがないんですよ。察するに、近鉄阿倍野駅の真上のスペースを使って、容積率を制限いっぱいにして建てたのでありましょう。近鉄さん、きばりましたなあ。

○ご近所の繁華街を歩いてみると、いかにも「名物・アベノミックス焼き」などと書いたお好み焼き屋がありそうである(ないない)。あべのハルカスの周辺には、とってもディープな大阪が広がっているわけで、このギャップが面白い。『ブレードランナー』か大友克洋か。ともあれ、いかにも日本的な光景といえましょう。

○ところで昨日発表された「今年の漢字」は「輪」だったようです。「倍」の方が良かったと思うがなあ。さて、今度はこれを有馬記念にこじつけなければなりません。これも年末のお約束のひとつですから。


<12月14日>(土)

○「みんな(=WE)の党」)が、「W党(渡辺)」と「E党(江田)」に割れちゃいました。WとEのどっちが大きいのか、ちょっとだけ気になりますが、とりあえず割れたら、もう「みんな」ではありませんわな。一方で、割れる理由が「政界再編を実現するため」というのもよく分からない。表面的には、ますます政党が増えるだけではないか。

○あたしゃ以前からずっとそう思っているのだが、有権者が記憶できる政党の数は7つまでで、それ以上の数の政党は、「無駄」とは言わんが、「無理」だと思う。1週間が7日なのは、そういうことだと思うんだよねえ。ところが今の政党助成金という制度は、ミニ政党にとってありがた〜い制度なので、いよいよ選挙で見放されるまでは、頑張ってしまうんですよねえ。政党も相撲の親方みたいに、「株」を発行して全体の数を制限したらどうでしょう。

○江田〜細野〜松野で、野党再編が進むという話もありますが、この3人を称して「枝の細い松」と言うんだそうです。うーん、なるほど、言い得て妙。この人によれば、某元首相の発言なんだそうですが、察するところ「ハトもとまれない」ということなんでしょうか。

○そうそう、大阪で聞いた噂話ですが、「東国原氏は衆議院議員を辞めて、大阪の首長選に出るんじゃないか」ですって。東京都知事は「オリンピックやるのに、無理でしょ」だし、宮崎県知事選も地元では「今さら・・・」って感じでしょうけど、大阪だったらまだ新鮮な感じがあるし、「お笑い系」が強いところだけにあり得るんじゃないか。あるいは、橋下さんと何か密約があるんじゃないかとか。なんとなくありそうな気がするんで、いちおうメモ。


<12月15日>(日)

○羽田空港国際ターミナルに来ております。これから社業により上海に飛び立つのでありますが、まことにめずらしいことに中国東方航空というエアラインなのである。というと、まるで不肖かんべえが中国政府による無謀なADIZ設定になびいて、日本のエアラインを見放したかのように見えるかもしれない。が、単なる偶然なのである。「日曜の午後に出かける便」(羽田空港→虹橋空港)を探してもらったら、ANAもJALもないものだから、「じゃ、いいよ、そのMUって会社で」と決めちゃったのである。

○まあ、そっちの方が安いし、何事も経験だから、と思ってこれからおそるおそる乗ってきます。ちなみにMUは、JALとアライアンスを組んでいるようです。マイレージも付くみたいです。こんな風に、民間航空会社は限りなく融合している時代に、軍が空の一部分を指して「ここからは俺の領域!」というのは、、あんまり意味のあることとは思えませんなあ。とはいえ、本件は中国側がかなり前から用意をしてきた話であって、日本にケンカを売るというよりは、アメリカの出方を窺っての試みのようであります。

○ところが「何事も経験だから」と思ってお昼に覗いてみた羽田国際ターミナルの江戸小路は、あんまりいい店がありませんなあ。高くてガラガラな店と、安くて長蛇の列の店に二分されていて、どうも失敗しておるような気がします。それでは再見!

(13:34)

○どうということもなく、無事に上海に到着いたしました。日曜の夜だというのに、道路は混んでます。当地における古い友人のNさんと会って、到着初日から上海蟹を食べてしまいました。ちなみにオスでありました。なんという罰当たりな・・・。

○でも、当地は習近平総書記の贅沢禁止令が行き届いているらしく、レストランには「惜福」(Cherish Hapiness)なんて標語が書かれていたりします。しかも政府系機関は、今年はカレンダーや新年あいさつ上の送付はまかりならぬというお達しがでていたりして、いつもとは違う年の瀬のようです。詳しい話はまた明日にでも。

(23:47)


<12月16日>(月)

○今日は朝からずっと雨なのである。上海の巨大なビル群が雨に濡れている様子は、SF映画『ブレードランナー』に出てくる未来都市のようである。おそらくは雨の中に、大気中のPM2.5が溶けているはずなので、ぬれると身体には悪そうである。

○そうはいっても、「先週の金曜日は参ったよね。視界が真っ白だったよ」なんて声も聴くくらいなので、今日はまだ恵まれているのかもしれない。PM2.5の正体は、クルマの排気ガスと燃料用の石炭が主力であるらしく、冬場になるとひどくなるのだそうだ。公害はあるし、土地は上がるし、交通マナーが悪くて、従業員の給料は毎年1割ぐらいずつあげなきゃいけなくて、などと考えてみると、まったく1970年代の日本のようである。

○この秋くらいから、日本への中国人観光客が増えていることは、ビザの発行数などからも確認できるのだそうだ。一人平均10万円くらい(交通費除く)使っているとの試算もあり、相当な経済効果を上げていることは想像に難くない。為替が円安に働いていることもあり、以前は1人民元=12円で計算していたのが、今は17円になっている。その分、当地における日本人の購買力は低下しているのだが、逆に中国人が日本に行くとなんでも安く見えるのであろう。

○問題なのは、その正反対に、日本から中国を訪れる観光客は「8割減くらい」なんだそうだ。いくら尖閣問題にPM2.5があるからと言って、そこまで落ち込むのも考え物じゃないだろうか。一方で、ビジネス客の往来は相変わらず盛んなようである。日中関係の現状は、「政冷・経熱・旅寒」といったところか。

○日本では今年の忘年会は明るいところが多いけれども、こちらの日本人社会では「日中関係はまだまだ大変ですなあ」というわだかまりを残しての越年となる。どうも日中関係が良くなりそうになると、絶妙なタイミングで次の問題が起きるという繰り返して、三中全会が終わった直後のADIZ(防空識別圏)騒ぎなどは「あ〜あ、またか」という感があった。たぶんどこかに、日中関係が良くなると困る人がいるのであろう。まあ、おそらくは内政問題なんでしょうねえ。

○さて、年の瀬の当地においてもっぱらの評判なのが、官官接待の自粛である。接待される側とする側の数を制限するとか、ツバメの巣とフカヒレはいかんとか(北京ダックと上海蟹はOKらしい)、縦横無尽にネガティブリストができちゃっているらしい。習近平政権はアメリカにケンカを売ってる一方で、意外と国内でやっていることはみみっちいのである。

○面白いことに、安倍内閣と習近平政権はやってることがまるで正反対である。片やアベノミクスによる超緩和策で、片やリコノミクス(この言葉はもう死んだ、との観測もある)による緊縮策。そして中国が接待禁止なら、日本は大企業の交際費を半分まで経費として認めるという。

○いっそのこと、中国人が食べなくなった高級食材を、日本企業が交際費を使って上海で食い尽くす、というのはどうだろう。まあ、私も出張中くらいは少しくらい太ってもいいから、ちゃんと食うことにしよう。


<12月17日>(火)

○上海に来て、いくつかこれだけはチェックしておかなきゃ、と思ったことの確認を何点か。

●上海自由貿易試験区

○「細則」がまだ出てこないので、日本企業は全体に様子見ムードである。そんな中で、メガバンク3行はすでに手を挙げているとのこと。「指示待ち」してるんじゃなくて、お前らのやりたいことを持ってこい、さすればそれをベースに自由化を進めるぞ、という動きもあるらしい。

○日本企業がビビりモードなのは、この試験区の言いだしっぺである李克強首相が前面に出てこなくなっているのに、本当に信じていいの?という躊躇いがあるから。他方、上海市政府の中にも、2006年に陳良宇党書記が逮捕されたトラウマがあるために、今一つ熱気が足りないとの声もあるとのこと。

○問題は、中国共産党内がどうなっているのか、端的に言うと「習近平with李克強」なのか、それとも「習近平vs.李克強」になっているのか、今一つ見えないという点にある。そもそも目先の大問題が「官官接待のコントロール」だという政権が、聖域なき構造改革に挑むとか、アメリカを相手に大立ち回りを演じるなんてことは考えられないではないか。

●日中首脳会談

○当分無理でしょう、とは思うけれども、来年はAPEC首脳会議が中国の番である。おそらく秋に北京で行われることになるのだろう。そのとき、まさか安倍首相に向かって「お前は来なくていい」とは言わないであろうから、そのときにどうなるかが見ものである。まさか安倍さんの方でも、「PM2.5が怖いから、北京には行かない」とまでは言わないだろう。さて、そのときどうする。

○アメリカやロシアの首脳がいる前で、日中の首脳会談が行われないというのも変なので、とにかく立ち話でもなんでもやることになるのであろう。だとしたら、秋に向けて日中間でそれっぽい雰囲気を作らなければならない。例えば、来年はTPP交渉が進むだろうから、それにかこつけてRCEPや日中韓FTA交渉を進めるという手がありそうだ。あるいは消費税対策の景気刺激策として、中国向け観光ビザの拡大といった手を打つことが考えられる。さて、そんな風に大人のゲームができるだろうか。

●その他

○不動産バブルだとかシャドーバンキングだとか、その手の流行の話は諸説入り乱れてわかりっこないので、最初から触る気がしない。でも、ルチル・シャルマ『ブレークアウトネーションズ』を読み返してみたところ、ちゃんとシャドーバンキングに関する記載があったんですよ。2012年春に出た本なんですが。やっぱり彼の分析は信頼できますね。

○いちばんわけがわからないのは朱建栄さんの動向。少し前に開放間近との噂が流れたが、はっきりしたことはわからない。結構、大きな問題なのかもしれぬ。

○てなことで、PM2.5に視界を遮られたような状態のまま、明日には帰国しまーす。



○以下はちょっとした宣伝です。

●商社の変化とオプティミズムの共有 http://toyokeizai.net/articles/-/24809 

――10月10日に行った「商社シンポジウム」の記録です。

●M2J新春プレミアムナイツ 2014年為替相場見通し http://www.m2j.co.jp/seminar/seminardetail.php?semi_seq=2056 

――オバゼキ先生とかんべえが対談します。

●Japan’s Job Data Deserve a Closer Look  http://blogs.wsj.com/economics/2013/12/17/japans-job-data-deserve-a-closer-look/?KEYWORDS=tatsuo+ito 

――WSJのブログでコメントが紹介されました。例の「雇用者数」の話であります。


<12月18日>(水)

○以下は上海滞在中に聞いた話の備忘録。

自動車産業:中国の自動車販売台数は、今年は2000万台に達するとのことなので、今年絶好調のアメリカ市場を(少なくとも台数では)上回る。ところが、当国にはまだ確立された中古車市場というものが存在しない。まだまだ「初めてクルマを買う人」が多いからである。が、こんなにクルマが売れるようになったのは2009年からなので、そのうち「買い替え需要」が発生し、「中古車市場」もじょじょに充実していくはずである。これはビッグチャンスでしょうねえ。

――そうなると、中国市場において初めて「リセール・バリュー」という概念が誕生することになる。もともと減価償却費の概念が乏しい国ではあるが、3年で査定額ゼロになるクルマと、元値とほとんど同じで売れるクルマが存在することが「発見」されるのではないか。となれば、これは日本車にとってはプラス材料でありましょう。逆に100社を超えるという国産自動車会社は、さすがに再編と淘汰が進むでしょうなあ。

ワイン:中国人がワインを飲み始めた。カネに任せてフランスのボルドーを買い漁っていたかと思ったら、最近ではとうとう豪州やチリにまで手を出しているようだ。逆にかつての「乾杯」文化は影をひそめ、白酒(パイチュウ)なんぞの出番が減っているのだそうだ。健康を考えると、それは結構なことではないかと思う。

――さる事情により、現在、ワシの手元にはニュージーランドのPeregrine Pinot Noir 2011 Central Otagoてなワインがあって、ちょっと幸せな気分なのである。ふふふ。誰にもあげないよ。

北京=上海:二大都市が揃ってPM2.5に見舞われ、飛行機も欠航になることがたびたびなので、移動に鉄道を使うというビジネスマンが増えているとのこと。ちょうどアメリカにおいて、テロ対策があまりにも煩雑になったために、飛行機から鉄道へと客が流れたのと似たような感じかなあ。

――ワシも1回くらいは中国の新幹線に乗ってみたいと思うのだが、北京の駐在員に聞いたところでは、「車両は悪くないけれども、6時間もかかる上に、窓の外の景色が単調で面白くない」とのこと。日本人的な「鉄道オタク」の感覚には程遠いようです。

PM2.5対策:日本企業の間では、空気清浄機の導入やマスクの配布などは当然のこととして、「定期健康診断におけるCTスキャンによる肺の検査」を始めたところもある。レントゲン検査よりも正確なんだそうだ。この検査を受けたら、早速、初期のがんが見つかってすぐに除去できた、という人がいたとのこと。この場合、PM2.5のお蔭と考えるべきなんでしょうかねえ。

――洒落にならない話ですが、中国ではPM2.5の原因は、「風が吹かなくなって空気が滞留しているから」とされているんだそうです。おいおい、「臭いにおいは元から断たなきゃダメ」なんじゃないんでしょうか。

年末年始:上海の街角には、クリスマス仕様の飾りが少なくない。日本人と同じで、信仰心はないけどクリスマスは祝うのである。そして新年があって、旧正月(春節:今年は1月30日から2月5日まで)がやってくる。ただし休日は1月1日のみ。この間の飲み会はすべて「忘年会」とされる。

――うーむ、今年も残り少なくなったが、忘年会らしい忘年会をやっていないなあ。まあ、今週末には有馬記念があるから良しとするか。


<12月19日>(木)

○アメリカのFOMCがついにTaperingに踏み切りましたね。本誌11月22日号の予想的中、であります。


●少し早めのTaperingにご用心

となると、QE3における資産買い取り額の縮小、いわゆるTaperingは思ったよりも早いのかもしれない。

Taperingはもともと「9月説」が濃厚で、9月18日のFOMCで「見送り」になったときには皆が拍子抜けしたものである。ところが10月に政府閉鎖と債務上限問題が起きてみると、その後はいきなり「3月から6月」説が流れるようになった。しかるに昨今の景気指標から行くと、「12月か1月」と見るのが適当であるように思える。


○米連銀がTaperingに踏み切るためには、「景気が堅調であること」と「政府の財政問題にめどがつくこと」が条件でしたが、いずれもクリアしたといっていいでしょう。雇用統計は2か月連続で良かったし、特に先週の与野党合意は劇的な感がありました。ただし「ホントに今で良かったのか?」という疑問は尽きないことでしょう。Fedウォッチャーの第一人者である鈴木敏行さんの意見を聞くと、ちょっと危ない橋を渡ったかな〜という印象もあるところです。

○なぜ来年1月でなくて今年12月であったかは、もちろんいろんな理由があることでしょうが、バーナンキ議長の思考にはこんな狙いがあったのではないかと思います。「もしも間違えるとしたら、ここで間違えてしまう方がいい。そうすれば俺の責任になって、イエレン次期議長に傷がつかない」。

○一種の引き際の美学でありますが、次期議長がローレンス・サマーズになるよりは、イエレンになる方がずっと良い、とバーナンキは思っていたらしい。だったら、できる限りのことをしてやりたい。前任者が完璧であるよりも、少しばかり困ったチャンであった方が、後任者としてはやりやすい。バーナンキ議長が就任した時は、前任者のグリーンスパンが「神様」で「マエストロ」だったから、おそらく非常にやりにくかったに違いない(しかも退任後もグリーンスパンはいろいろ金融政策について発言して、周囲を翻弄していた)。

○如水黒田官兵衛は、その死期が迫ったときに、急に部下に対して当り散らしたりして、人が変わったようになった。息子の長政があわてて、「父上、どうされたのですか」と様子を見に来た。すると官兵衛曰く、「お前のためにやっていることだ。心配するな」と。つまり、名君と呼ばれた人が亡くなると、得てして「若殿は頼りない。先代は良かったなあ」という反応がでてしまう。だったら、先代が最後に見苦しいところを見せておいた方が、次の代がやりやすいだろう、という究極の親心なのでありました。

○これに類する思いがバーナンキ議長にあったのではないかなあ、などと考えた次第です。

○最後にこれは、上記とは全く関係のないギャグであります。

猪瀬都知事:"Money in the Banks."(×東京都にはお金があるんです!→○貸金庫には5000万円入っているんです!)

滝川クリステル:"O-To-Shi-Ma-E."


<12月20日>(金)

○今週のかんべえは、日、月、火は上海でずっと雨だったし、水、木、金とこちらでも雨に降られている。なんだか上海の雨を、自分が連れてきたような気がする。さすがに1週間も雨が続くと辛い。今日は昼ごろに日が差したかと思ったら、2時ごろにはみぞれが降って往生しましたがな。あした天気になあああれ、と切に願う。

○さて、来年の景気について少し考えてみた。消費税増税の影響がどうなるか、という点が最大の焦点であって、そこが論議の的である。意外と小さいのではないか、という気がしてきた。1997年の前例があるために、「怖いぞ、こわいぞ〜」という話についついなるのだが、当たり前のことだが1997年と2014年ではかなり事情が違う。特に人口動態が違う。

○ここでご登場いただくのは「加瀬家の親子」である。お父さんは当社双日の会長さんであり、息子さんは著名な俳優さんである。そしてお父さんは1947年生まれの団塊世代、息子さんは1974年生まれの団塊ジュニア世代である。この2つが、日本においては人口の「こぶ」を形成している。この親子のような家庭は、日本中には非常に多いはずである。

○前回の1997年の時には、お父さんが50歳で息子さんが23歳だった。お父さんは会社でベテラン社員、息子さんが大学を卒業したころである。いずれも人生で、おそらくは最も消費性向が高い年代である。かねて藻谷浩介氏がよく指摘している通り、日本の消費が最も盛んだったのは90年代後半である。それは人口動態によるところが大きかった。

○このタイミングで、消費税増税(3%→5%)が行われた。2つの人口の「こぶ」が、モノを買う意欲が旺盛な時期であったために、巨大が駆け込み需要が発生してしまった。そしてその反動減も大きなものになった。そして反動減で景気が冷え込んでいるさなかにアジア通貨危機が起きて、さらに金融不安が拡大してしまった。これが1997年のストーリーである。

○ところが2014年になると、状況はかなり違っている。お父さんは会長なので会社に残っているが、さすがに同期入社の人たちはもう社内に居なくなっている。ほとんどは年金暮らしになっているだろう。この世代は、モノはもうあんまり買わなくなっている。むしろ消費の中心は、旅行だとか医療といったサービスに向かっているはずだ。そしてサービス料金は、モノと違って値上げがやりやすい。

○息子さんの方は来年で40歳になる。こちらはいよいよ物入りな年代なのだが、団塊ジュニア世代は親の家があったりするし、そもそも結婚年齢は概して遅く、子供の数もあんまり多くない。過去の経緯から見ても、一戸建てとかマイカーとかといったモノにはあんまり執着しない世代のようである。ゆえに以前の世代ほどにはお金を使わない。

○そんなわけで、今回の消費税増税ではそれほど大きな駆け込みは発生しないのではないか。となれば、反動減も大きくないということになる。そして増税分の価格への転嫁も、少なくとも1997年当時よりは易しいのかもしれない。

○本当のところはどうなのか。この親子のちょうど中間にあたる1960年生まれの者としては、一度、加瀬家の親子に聞いてみたいものである。ちなみにワシは、前者に対しては割と馴れ馴れしい口をきく関係にあるが、後者には会ったことがない。せいぜい映画で見るくらいである。


<12月21日>(土)

○今日はやっと晴れてくれた。でも、上海以来、鼻の調子がよろしくない。もっとも、その前からおかしかったような気もする。問題なのはPM2.5なのか、それとも花粉症なのか。はたまた帰りの飛行機の中で、『還ってきた台湾人日本兵』(河崎眞澄/文春新書)を読んで、機中にてハラハラと落涙したのが影響してるのか。

○本日は高校時代の同窓会に出て、それから今年2度目の町内会防犯活動(火の用心)を実施。こんなことしてていいのか、ってくらい仕事はたまっているのでありますが、明日も中山に出動しなければなりませぬ。

○せっかくなので、明日の有馬記念の予想を書いておこう。と言っても、上海馬券王先生の方が信頼に足るとは思いますし、山崎元さんの予想も奥が深くて参考になります。当方の予測はいつものような一発ギャグでありまして、それは以下のようなものであります。

C=E 

○オルフェーヴルとウインバリアシオンの馬単両建て。対戦成績は、ウインバリアシオンの1勝5敗であり、ダービー、神戸新聞杯、菊花賞では悔しい2位を体験している。それをオルフェ―ヴルの引退試合で初めて破るとしたら、これぞ見事な「倍返し」ではありませんか。もちろん、4度目のワンツーフィニッシュでも異存はありません。ウインバリアシオンが、2005年に三冠馬ディープインパクトを有馬で破ったハーツクライ産駒である、というのもちょっとした因縁でありましょう。これは面白いのではないかと。

○馬券は自己責任で買いましょう。って、当然か。


<12月22日>(日)

○今年の有馬記念は1位オルフェーヴル、2位ウインバリアシオンとなり、上記の予測はめでたく的中しました。パチパチパチ。今朝は午前中から中山競馬場に参戦し、4Rから買ってたんですがほとんど当たらず、いい加減、落ち込んでいたところで「倍返し」となりました。

○やっぱり今年の漢字は「倍」だったんじゃないでしょうか。ということで、来年は感謝をこめてウインバリアシオンを応援することにしたいと思います。はい。


<12月23日>(月)

○金曜日に「団塊&団塊ジュニア世代」の消費について書きましたが、時代はその次の「ヤンキー消費」なんだそうです。東洋経済の命名ですが、理解した範囲で説明するとこんな感じです。

地方に住んでいて、生まれた場所からあまり離れようとせず、小さい時からの友人を大切にする。
若くして「デキ婚」して、子どもには「きらきらネーム」をつける。
家族が大事で、出世意欲は低い。現状維持で十分。
週末はイオンで買い物をし、Round1(ラウワン、と呼ぶ)で遊ぶ。消費意欲はそこそこ強い。
浜崎あゆみや長淵剛を愛する。
政治的には保守的。リベラル派や中国・韓国は嫌い。
反知性主義。新聞など読んだことがない。

○なるほど、こういう潮流があるのだと考えると、「地元志向」の『あまちゃん』がヒットし、「勧善懲悪もの」である『半沢直樹』がヒットした理由がよく分かる。今から考えると、どちらも「反都会」「反エリート」を隠し味にしているものね。それにしても、「首都圏で7割を売る」と呼ばれる東洋経済が、よくまあこんなものを「発見」できたものだと感心する。

○このヤンキー現象、以前に溜池通信で取り上げたアメリカのNew Upper Class とNew Lower Classの話にそっくりですな。理屈っぽい都市在住のインテリは、得てしてこういう存在に気づかない。もしくは、そういう話を聞くと怒り出したりする。アメリカの現象を解き明かしたチャールズ・マレーの"Coming Apart"(『階級「断絶」社会アメリカ』という題で、草思社から翻訳が出ております)は、そういう人たちに向かって「アンタたち、こういう階層の分裂に気づいていないでしょ」と挑発しながら論を説き起こしている。

○「ヤンキーの発見」は、消費でも政治でもこれからのカギになるんじゃないだろうか。


<12月26日>(木)

○今年もいよいよ押し迫りまして、残る仕事もだんだん少なくなって・・・・いるはずであるが、まだまだ結構残っている。今宵は岡崎研究所の忘年会であったが、まだまだ「今年を忘れる」にはいろんな山谷を超える必要がありそうだ。

○とりあえず明日はこんな仕事が残っております。

NHKラジオ 「ニュースで読み解く2013」午後5時05分〜6時50分

御厨 貴さん(政治学者・放送大学 教授)
柳田 邦男さん(ノンフィクション作家)
荻原 博子さん(経済ジャーナリスト)
吉崎 達彦さん(エコノミスト)

○安倍首相は今日の政権1周年に、靖国神社に参拝。これも年忘れに必要な一コマだったのか。いささか「炎上商法」的な感じもするけれども。2013年もあと5日を残すばかりなり。


<12月27日>(金)

○仕事納めの日に想ったこと。

○私は今のエコノミストという仕事が好きだ。もう10年以上、同じポジションで同じ仕事をしているけれども、退屈したとか飽きたとか思ったことがない。以前、岡崎久彦大使が「情報の仕事は面白いねえ。お金もらうのが悪いくらいだよ」と言っておられたけれども、それとほぼ同じ気持ちで日々を過ごしている。たぶん年末ジャンボ宝くじで7億円を当てたとしても、今の仕事を辞めたりはしないと思う。こんな風に思えるのは、ありがたいことだと思う。

○ただし残念ながら、エコノミストの仕事は「達成感」に欠けるきらいがある。予想はたてるけれども、それが当たったのか、外れたのかはよく分からないことが多い。そういう点では、競馬はありがたい。なにしろ出走してからほんの数分間で、答えが明確に出てしまう。しかもリターンが金額で示される。これに対して、経済予測の仕事はもっと漠然としていて始末が悪い。また変に「言い訳」が効くという点も宜しからずである。

○しかもエコノミストやストラテジストに対しては、世間は「正しい時には皆が覚えておらず、間違った時には誰も忘れてくれない」ものである。思えば三原敦雄先生は、オフィスの机の上に"When I am right, nobody remembers. When I am wrong, everybody remembers."という標語を貼っておられたものだ。もっとも、この標語には"When I am doing well, SOMEBODY remembers."という一言を追加することができる。そういう「誰かさん」が居てくれるから、この仕事のモチベーションを持続できるわけである。

○それでも、忘年会の時などには、「ああ、今年もこの仕事で1年が過ぎたなあ」という形の達成感、ないしは安堵感がある。2013年が間もなく終わる。5日後には2014年が始まる。ということで、しょっちゅう馬鹿騒ぎをしながら、去りゆく年を惜しむ日々が続いている。

○もっとも、今日も仕事納めなどと言いつつ、「新潮45」と「正論」と「Quickエコノミスト情報」と「北日本新聞」と「市場深読み劇場」などを年明けには入稿せねばならず、なおかつ年賀状もまだ何もしていない。まだまだお正月が来そうにはない。もちろん大掃除など夢のまた夢というものである。さて、明日は何から手掛けるべきだろうか。


<12月30日>(月)

○2日間頑張ったら、少し仕事が進み、ああ何とか年が越せるかなという状態まで来ました。明日は大みそかですが、くにまるジャパンはちゃんとありますぞ。

○さて、ワシは世事に疎い。だから「嵐のコンサートで東京ドーム4日間満杯」などと聞くと、素で驚いてしまう。ええっ、すると「6万人x4日=24万人」、ということは「有馬記念x2」じゃありませんか。まして有馬記念は入場料200円ですが、嵐のコンサートは抽選方式で、お値段もかなりしますから。それにしても、いつの間にか日本には「5大ドーム」ってものができてたんですね。いやあ、知らんかった。

○こんな風に、普通の人が知ってることを知らないワシが、少しは遅れを取り戻すのが年末年始というものであって、そのためには阿呆なテレビも見なければなりません。例えば今頃になって知ったのが、「恋するフォーチュンクッキー」を踊る企業や自治体がとっても多いということ。ユーチューブを見たら、そういうのがゾロゾロ並んでいるじゃありませんか。

○なかでも神奈川県版はすごい。県内名所の数や動員人数もすごいですが、黒岩知事が一番踊りがうまい、ってところがCXノリであります。この黒岩知事に促されて作ったと見える富山県Verもある。さすがに石井知事はお堅いですが、これも県内要所をちゃんと押さえている。ちなみに最初にやったのは佐賀県なんだそうですな。これを見出すと切りがありません。ええ、仕事の合間にちょくちょくはまってます。

○皆さんがこの歌の振り付けを練習するために、ユーチューブのAKB48公式版は、アクセス件数が1500万件を超えてます。ええ、ワシもこれを見て某所で練習したんです。あれは参加者が一番盛り上がるんですよねえ(もちろんユーチューブには出てませんから、探しても無駄ですよ。念のため)。

○ワシにとっては、初めてAKB48で知ってる曲ができた、てな感じです。これ、代表作になるんじゃないですかねえ。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki