●かんべえの不規則発言



2015年7月






<7月1日>(水)

○今日は三重銀行の講演会で四日市市へ。昨日の事件があったせいか、新幹線は心もち空いているように見える。個人的には、誰かがガソリンをまいて火をつけたとしても、車両が燃えないということが分かったのだからたいしたもので、あんまり大騒ぎするような話ではないと思うのだが。こういうものは、騒ぎ過ぎると得てして模倣犯が出ますからねえ。

○というわけで、スカスカ状態の車両を見渡すと、長身の紳士がこっちへ歩いてくる。派手な服着とるなあ、と思って見ていたら、こちらを向いて「お久しぶり」と言うではないか。なんと同志社大学の村田晃嗣教授(学長)であった。ご出張帰りのご様子。お疲れ様でございます。

○名古屋駅で近鉄に乗り換え。驚くべきことに、午前9時35分時点で名古屋駅の高島屋には開店を待つ長蛇の列ができていた。やはりいま日本で一番栄えている百貨店ではないだろうか。おそるべし、名古屋。

○約20分で四日市駅に着く。当地ではふつうに「四日市駅」というと、近鉄四日市駅のことを指すのだそうだ。JR四日市駅もあるけれども、それは1.3キロも離れていて、微妙に中心地からは離れているとのこと。こんな風に私鉄が優位であるというのは、関西ではよくある現象である。もっとも他所者にとっては、「どっちに乗ればいいのか」でつい迷ってしまう。

○三重銀行の本店はこの四日市市にある。なんでも昔は四日市銀行と呼ばれていたくらいなので、てっきり地銀は県庁所在地に本店を置くものかと思っていたら、ここはそうではないのである。なにしろ四日市市は人口は津市の倍くらいあり、工業地帯であり、企業の数も多い。県内の経済の中心地はこっちの方なのである。

○三重県ではやはり「来年の伊勢志摩サミット」が大ニュースである。普段はあまり目立たないお土地柄であるが、サミット関連でどんどん地元が報道してもらえるというのがありがたい。また、三重は伊勢神宮から鈴鹿サーキットまで、観光資源は豊富でありながら、もっぱら国内向けという印象があった。それが今後はインバウンドという期待も出てきた。会場周辺では、ホテルやヘリポートの拡張といった工事も行われるだろう。もっとも当日の警備などでは、関係者は胃が痛い思いをすることでしょうが・・・・。

○伊勢志摩サミットは、早々と「2016年5月26〜27日」と決まった。なんでも雨が多い地域なので、梅雨の季節は避けたいとの配慮があった由。ついでに言うと、2008年の洞爺湖サミットでは、当日が雨でせっかくの景色があまり見えなかったのだそうだ。

○そういえば先週末に行った上海では、「来年のG20は北京ですからね。忘れないでくださいよっ」と念を押された。つまり2016年は、G7が日本でG20 が中国なのである。今年も、安倍首相の訪米に続いて9月に習近平国家主席の訪米が予定されているが、どうも日中が張り合っているような印象がある。日本としては、来年のG7でどんなアジェンダをセットするか、今から知恵を絞る必要がありそうです。


<7月3日>(金)

○ごく近しい何人かの方から、「遊民経済学、読んでますよ」と言われてギョッとしている。こちらとしてはそもそも有料サイトであるし、あんまり読者が広がるようなネタでもないし、できればなるべく目立たない形で書き続けてゆきたいと思っている。幸いなことに、新潮社はとっても校閲がうるさい会社なので、地道に長く書いていくには適した媒体なのである。

○で、なんで「遊民経済学」という題名なのか。裏話をすると、ワシは学生時代に「夢の遊眠社」の舞台をよく見ていた。たぶんそれがあるから、この言葉でないとしっくりこないのである。当時は彼らが、駒場小劇場から紀伊国屋ホールなどの商業施設に移行する時期であって、文字通り劇団として日の出の勢いであった。そして野田秀樹は、作家としても演出家としても俳優としても、掛け値なしの天才だったのである。

○たまたま先日も、Discuss Japanの編集会議に出たら、編集長であるところの神谷万丈先生が、「私は昔から野田秀樹のファンでして・・・」と言い出して、ああそうか、東大でも年齢が近かったんだなと納得したのだが、「実は私もよく見てたんです」の一言がどうしても出なかった。恥ずかしかったのである。なにしろ当時、ワシは野田秀樹に対しては単にファンというのではなく、もっと複雑な感情を抱いていたものだから。

○当時、ワシは学生演劇サークルの一員であった。そして一橋大学のそれはとってもshabbyなものであったから、夢の遊眠社に対抗するどころか、向こうを見てしまうとつい模倣したくなる程度であった。つまり、ライバル視するのもおこがましいくらいの格差があった。ところが若いうちはとかく素直にはなれないものだから、遊眠社の芝居を見てあまりにも面白いと感じると、今度はそういう自分自身に対して腹が立ってしまうのであった。

○でまあ、そういうときに凡庸な人間がよくやることとして、舞台の中のごく小さな欠点を見つけては、「野田の今度の芝居はダメだねえ」みたいなことを仲間内で言いあっていた。今から思えばその小心、まさに笑止千万である。ちなみに少し後になって、鴻上尚史の第三舞台というのが出てきた時に、本多劇場かどこかに見に行って、「ふん、この程度ならば許してやる」と考えたものである。ああ、さらに恥ずかしい。

○余計なことであるが、野田秀樹氏には一度だけバスの中で会って、サインをねだったことがある。その時のノートは、今でも探せば出てくるはずであるが、あまりにも恥ずかしいから見たいとは思わない。その野田氏は、今も世界各地で活躍されていて、同世代の日本人の誇りであると思っている。

○とまあ、そんな記憶が「遊民」という言葉の中に隠れている。「ユーミン」は関係なくて、「遊眠社」なんです。われながらちょっと恥ずかしい打ち明け話でした。


<7月5日>(日)

○ギリシャの国民投票が行われております。賛否は拮抗しているようですが、これはきっと終わってから、「不正投票があった」とか、「実は成立していない」とか、「いや、そもそも違憲であった」などと、後から蒸し返すような話が一杯出てくるんでしょうねえ。

○今週のThe Ecnomist誌の表紙は、"Europe's future in Greece's hands"であります。ギリシャ人が泣きついてチプラス首相を放り出すにせよ、緊縮を拒否してGrexitに至って地獄に落ちるにせよ、その判断を機にEUはユーロの矛盾に向き合わなければならない。そりゃま、仰るとおりでありますが、うまい手は見当たりませんなあ。

○それよりも面白いのは、今年1月にイスラムテロの襲撃を受けた『シャルリー・エブド』誌の先週号の表紙。IMFのラガルド専務理事がまるで魔女のように描かれている。で、こういう風にのたまっている。

“Save Europe, drown a Greek”

○すごいですねえ。まあ、アメリカの漫画もこんな風に遠慮がないです。さて、どういう結果になるんでしょ。日本にとってはあんまり関係がなくて、むしろ週明けも「遠くのギリシャより近くの中国」を意識する展開となりますでしょう。


<7月6日>(月)

○ギリシャの国民投票が大差で否決されたことを受けて、賛成派の今の気持ちに同調してしまったら、以下の歌詞がふと心に浮かびました。


さよなら(作詞作曲:小田和正)


もう終わりだね ユーロが小さく見える
僕は思わず 財布を抱きしめたくなる

「私は泣かないから このまま分離にして」
君のほほを涙が 流れては落ちる

「ギリシャは自由だね」 いつかそう話したね
まるで今日のことなんて 思いもしないで

さよなら さよなら さよなら もうすぐそこに政府紙幣
下ろしたのはたしかにユーロだけ 60ユーロだけ

通貨は哀しいね 僕の代わりに君が
今日はロシアの胸に 眠るかも知れない

ドイツが怒るから 誰も見ていない道を 
寄り添いメルケル寒い日が 君は好きだった

さよなら さよなら さよなら もうすぐそこにインフレーション
下ろしたのはたしかにユーロだけ 60ユーロだけ(*)

(*)繰り返しX2回

ユーロは今日も売り やがてパリティになって
利上げのドルの前に 降り積もるだろう 降り積もるだろう


○このような事態になった時に、ふつうだったら「それでも私は弱者の側に立つ」というエコノミストが居るものです。ジョー・スティグリッツとか、ポール・クルーグマンとか。どっちもノーベル賞ですけどね。そういう人たちでさえ、今日のギリシャを弁護することを慎んでいる。せいぜいトマ・ピケティが、「ドイツだって戦時賠償を返してねーじゃん」というイケズを言っていたくらいですね。でも、きっちり返そうとしたドイツと、今のギリシャを同列にしちゃあいけません。カネを借りている側のマナーがここまで悪いと、味方する人が阿呆に見えてしまいますわね。

○これから先はおそらく一瀉千里であります。ギリシャ政府は現金不足になって、借用証書(政府紙幣)を乱発して、それが事実上のドラクマということになり、その後はたぶんGrexitまでは一直線。とりあえずいったんはユーロから切り離して、それから思い切り切り下げして、ユーロに戻すくらいしか事態回収の方法は思い浮かびません。でないとギリシャもユーロも救われない。

○もっともこんな風に暗くなってしまうのは、明るい日差しの南欧らしくないともいえる。ユーロに別れを告げるにしても、いっそ明るくふるまうのがいいのかもしれません。いつだって絶望は、愚か者の結論であります。どうせ歌うなら、こんな風に明るくやっちゃうのもよろしいかと存じます。さよなら、ではなく、さらば、と。


ラバウル小唄  作詞 若杉雄三郎 作曲 島口駒夫


さらばEUよ、又来るまでは
しばしわかれの 涙がにじむ
恋し懐かし 欧州見れば
青い小旗に 十二星

為替のしごきで 眠れぬ夜は
物価上がるよ ドラクマ売りで
ドルがまたたく 市場を見れば
くわえ煙草も ほろにがい

赤い夕陽が 波間に沈む
果ては何処ぞ アクロポリスよ
今日も遥々 地中海
海運王国 オナシスよ

さすがギリシャと あの娘は言うた
燃ゆる思いを チプラス掲げ
ゆれる心は 古代のはるか
今日はプラトン、ソクラテス


○お後がよろしいようでございます。パロディは穏健に替え歌は控えめに。よろしくご協力をお願い申し上げます。


<7月8日>(水)

○警戒すべきは、「遠くのギリシャよりも近くの中国」などと言っておりましたら、とうとう今日は上海株に引きずられる形で日本株も暴落。日経平均は久々に2万円台割れです。

○先月末に上海に行っていた4人の仲間ウチでは、「今の中国の株式市場は、ちょうど1992年くらいの日本ですかねえ」ということで衆目が一致してました。その辺の珍道中については、小林慶一郎さんが寄稿しているのでご紹介まで。(有料サイトですんません)。それにしても「ギリシャ危機と、嵐を呼ぶ(?)上海道中記」というタイトルは、よく言ったものであります。

○あの当時の日本と今の中国には共通点が多いです。政府が良くわからずにPKO(株価維持政策)を発動するのだが、それまでは市場に介入することで成功体験を続けてきた政府のこと、今一つピントがボケている。ところがグローバルな市場の力には抗するべくもなく、打つ手打つ手がつい後手に回ってしまう。今の中国政府も、「あ〜あ、そんなこと、やらない方がいいのに・・・」と思うようなことをずいぶんやっております。将棋でいうと、「悪手が悪手を呼ぶ」というパターンでありますな。

○そもそも今の上海総合指数は、年初からわずか半年で倍にまで駆け上がった異常な株価である。政府や証券会社が買い支えに入ったりすると、もともと持っていた投資家にとっては、ここが絶好の売り場ということになる。ということで、介入は負けになってしまうのでありましょう。まあ、その辺は勉強代みたいなものですが、これで中国がやり始めたいろんな金融自由化政策は、しばらくセットバックを余儀なくされることでしょうね、さらに言うと、バブルとしては日が浅かったことが何よりもの救いでしょう。国全体が本格的な「勘違い」をする前にバブルが崩壊してくれるのは、まことにラッキーなことだと思います。

○今日の日本株では、伊藤忠商事さんが派手に1割近く下げてました。別にわが商社業界を弁護するつもりじゃないですが、日本の商社は6つも7つもあるんですから、ひとつぐらいは「当社は中国市場と心中します!」という会社がなくてはいけない。そりゃあ、中国が世界第1位の経済大国になるシナリオだってあるわけですから。そして岡藤社長によれば、「CITICへの5000億円の投資がパーになっても伊藤忠はつぶれない」んだそうですから、これは賭けてみてよろしいのではないかと。もっともその場合、あんまり高いROEの目標を掲げるのはいかがなものかという気もしますが。

○日本経済にとっての当面の警戒事項は、これで「中国爆買い」が一気にしぼんでしまうかもしれないこと。インバウンドの数字も、これから先は注意深く見ておくべきでしょう。「錯覚いけない、よく見るよろし」なんてことになりませんように。


<7月10日>(金)

○御厨貴先生の『知の格闘』(ちくま新書)を読んでいる。どこを切っても面白い本だが、「なぜオーラルヒストリーに小泉純一郎を呼んではいけないか」という話が特に面白い。とっても納得のゆく理由が3つあります。

(1)自分に関心のあることしかしゃべらない。

――かつて、ある会議のメンバーが、「どうしても総理に話したいことがある」と言って官邸を訪れたことがある。すると小泉首相は、「B級映画のドラキュラの話」と「人肉食」の話を延々と続けて止めない。その場をとりなそうとする努力もすべて無駄に終わる。自分ほどドラキュラ映画を見ている人は居ないだろう、とのこと。

(2)しゃべりたいことしかしゃべらない人である。

――1時間の予定の講演を20分で切り上げて、すたすたと帰っていく、てなこともあるそうです。相手があって自分がいる、とは考えない人なので、これではオーラルヒストリーは無駄だろう。

(3)既に記憶を失っている(らしい)。

――やったことを次から次へと忘れて行ってしまう。だから5年も総理が務まった。自分に関係のないことは受け付けないし、記憶もしない。だからあれだけ元気でいられた。

○いやー、納得であります。それにしても、小泉時代はとっても政治に安定感があって良かったんだけどなあ。「株価に一喜一憂しないっ!」なんてセリフ、習近平さんに教えてあげたいなあ。


<7月12日>(日)

○ギリシャ問題も中国株安も、とりあえずはどうでもいいから今日は七夕賞。ということで、4年連続で福島市に行ってきました。七夕賞はG3なんですけど、どうもワシ的には最近はG1レース以上のイベントになっております。

○福島駅に降りると、気温が何と36度。もう梅雨は明けたのかもしれませんが、いくらなんでも暑過ぎです。しかも今日は福島市議会選挙の日であって、駅前には巨大な選挙用の看板が立っている。ああ、そんなことちっとも知りませんでしたがな。するということは、4年前は震災の4か月後に選挙をやっていたんでしょうか。4年後の現在、当地における政治課題はいったい何なのか。ポスターを見ただけでは、ピンときませんでしたなあ。

○さすがに4回目ともなると、市内を歩いても道には迷わなくなりました。たぶん円盤餃子の「満腹」も、今ならまっすぐに到達できます。とはいえ、これは競馬場がある東口側だけのことでして、西口の方は降りたことがない。まあ、その辺は来年以降の課題といたしましょう。

○で、ひとつくらいは観光をということで、御倉邸なるところへ行ってきました。ここは旧日本銀行の支店長宅なんですが、古い建物がキレイに保存されています。場所的に言うと、ちょうど福島県庁の裏手当り。その昔、福島市は東北で最初に日銀の支店ができた街なのでした。今は維持費がかかり過ぎるということで日銀が手離し、福島市が市民のコミュニティ活動に使える公園として管理しています。まことに太っ腹なことに入場料はタダ。映画の撮影なんかにピッタリではないかと思います。

○中に入ると、とにかく和室の数が多いので驚きます。ホテルのなかった時代においては、日銀の支店長宅とは、財界人が集まって議論したり、食事したり、どうかすると寝泊りする場所でもあったようです。つまり仕事場でもあった。端正に手入れされた庭の向こう側に見えるのは阿武隈川。7月の日差しを浴びてキラキラと光っている。ああ、そうなのか、福島市というのはこの水運が作った街であったか、と納得した瞬間でありました。

○明治時代の日本にとって、主要な輸出品目は絹とお茶でした。しかもお茶はすぐに売れなくなってしまい、絹こそが長らく日本の貿易を支えた主要品目なのでした。その点、福島は江戸時代の城下町の頃から蚕種、生糸、織物の集散地として栄えてきた。その昔、競馬で「シルクジャスティス」など「シルク」がつく馬が多かったのは、福島市の馬主さんによりものだったとか。そういえば、最近は見かけなくなりましたねえ、シルクなんとか。

○この支店長宅から日銀福島支店までは、歩いてみたら10分くらいでした。とはいえ、もちろん支店長殿が徒歩通勤するはずもなく、御倉邸にはちゃんと人力車の車夫が控える場所なども用意されていたようです。それにしても、福島市内は歩いている人が少ない。クルマで移動がデフォルトになっているのは、最近の地方都市の常でありますけど。まあ、暑いしねえ。

○ちなみに今日のランチは、その日銀福島支店のすぐ近くの中国四川料理の石林(シーリン)にて。味はなかなかに本格的な四川でしたが、今日は団体さんが入っていたようで、店内がバタバタ状態だったのがちと残念でした。

○さて、日銀の支店と並ぶ当地の誇りが福島競馬場なのである。その辺の事情は、今日のネット競馬で矢野吉彦アナが書いていた「開設から一度も移転していない福島競馬場」という記事をご参照のこと。なんとあと3年で百周年を迎えるとのこと。福島市に競馬場を開くまでには、ご当地の先人たちの労苦があったのでした。

○それはさておいて、本日の主目的は勝負である。本日はミルコ・デムーロ騎手が福島初挑戦。先週の土日は、クリストフ・ルメール騎手が初めての福島で、ラジオNikkei賞(G3)をはじめ、実に6勝を挙げて行きました。今週のルメール騎手はなぜか中京競馬場に回っている。そして今日も1位2回、2位3回と荒稼ぎしておったような。どうもこの二人、仲が良いのはいいけれども、互いに食い合いをしないように日程を調整しておるのかもしれませぬ。

○ところが今日の福島は、有力どころが1回ずつ勝って星を分け合うという麗しい展開。デムーロ騎手も5Rで1回勝ったきりである。そして福島県出身の田辺騎手や江田照騎手も、まるで図ったように1回ずつ勝っている。ということは、今日の七夕賞の1番人気、デムーロ騎乗のレコンダイトは切っても良いのではないか?

○11R のパドックを見ると、2番人気のグランデッツァが断然良く見えた。福島民報の高橋利明記者も、今日は「グランデッツァ万全」と書いているではないか。ということで、今年の七夕賞は川田騎手騎乗のグランデッツァで勝負。これがめでたく来てくれまして、単勝ゲット。パチパチパチ。

○しかるに本日は〆てみると大敗である。どうもこのところ調子が悪いっす。取れたと思った3連単が1個ずれているとか、複勝で買った馬がゴール直前で4着になるとか、そういうのばっかし。これで福島における通算成績は1勝3敗。とはいえ、浮いた去年も新幹線料金(1万7480円)を引くとトントンだったので、勝ったなどとは恥ずかしくて言えませぬ。

○帰りに一つ発見。東北新幹線のキオスクにはサントリーのビールを置いていなかった。ひょっとすると、今でも佐治敬三さんの「クマソ発言」が尾を引いているのではないでしょうか。善良な人たちを怒らせると後が怖い、という典型のようなエピソードでありました。

追記→福島駅ではちゃんとサントリー商品を売っているようです。それどころか、5月にキオスクでプレミアムモルツの福島限定缶を置いたところ、売れすぎて在庫切れになってしまったとか。先日、くりこま高原駅に行った時もヱビスとスーパードライだけだったので、てっきり勘違いしてしまいました。お詫びして訂正いたします)


<7月13日>(月)

○元ベテラン銀行員に聞いた話。

○その昔、ギリシャ政府に貸した金が返ってこない、調べて来い、ということで本店からロンドン支店に指令が来た。さっそくロンドンからアテネに飛んで調査に当たる。いろいろあって、幸いなことに中央銀行の幹部にアポが取れた。勇躍、ギリシャ中央銀行に乗り込んだ。

○7月の暑い日であったけれども、なぜかエアコンが停まっていて、皆が汗をかきながら働いている。「どうしたんですか?」と聞くと、「ご覧のとおり、ここまで節約して頑張っている」との説明であった。なるほど、借りた金を返す気はあるらしい、と感心して本店に報告書を書こうとした。

○すると、危ないところで教えてくれる人がいた。「ははーん、君も引っかかったな。あれは奴らがいつも使う手だよ。お客が来る時だけエアコンを停めるんだ。素直に信じちゃだめだよ。もともと、そういう人たちなんだから」

○もうひとつ、これは造船会社の人に聞いた話。

○ああ、今でもギリシャには海運王がいますよ。それはもう、億円単位じゃなくて、兆円単位でカネを持っていそうな人たちが。でも、ちゃんと税金払っているという話は聞いたことがないですなあ。たぶんスイスの銀行辺りに隠しているんじゃないですかねえ。

○いずれも本当かどうか、保証の限りではありませんので、話半分に聞いておくのがよろしいかと存じます。それでもワタシがEUの首脳であったら、わざとチプラス首相がブチ切れるような対応をして、向こうからGrexitに走ってくれるように努力すると思います。そりゃあよその国よりはEUの方が、そしてEUよりは自分の国の方が大事ですからねえ。


<7月14日>(火)

○昨日発表されたNHKの世論調査(7/10-12)で、安倍内閣に対する支持と不支持が逆転しました(支持する41%、支持しない43%)。世論調査業界の中では、NHKの調査は保守層の意見が強く出ることで知られています。でもそれって当ったり前の話で、家の固定電話に「こちらはNHKですが・・・」という電話がかかってきた瞬間に、叩き切ってしまうような人の声は最初から反映されないということであります。

○問題はこれで明日、衆院の委員会で新安保法制の強行採決があった場合にどんな反応が出るかであります。そうでなくても今後1か月ちょっとの間に、「70周年談話」とか「原発再稼働」が予定されているわけで、支持率はどこまで下がるのか、という点が気になるわけです。

○実は、安保の件は皆が理解してないからあんまり下がらなくて、そんなことよりも国民の関心事は「新国立」の方にあるのかもしれません。夕方のテレビでこのニュースが流れると、視聴率がグングン上がるのだとか。ちなみにNHKの調査によれば、「納得できる」が13%、「納得できない」が81%ですからねえ。ザハ案の新競技場、つくづく評判が悪いっす。

○この後の日程では、7月31日にクアラルンプルでIOC総会が予定されている。ここで2022年の冬季五輪が北京(中国)かアルトマイ(カザフスタン)か、という勝負が決まり、新しく追加する競技も決まったりする。仮に新国立をあきらめて予定を変更するとしたら、この日がタイムリミットということになるでしょう。

○逆に安倍首相が突如としてこの問題に介入し、抜く手も見せぬ早業で森喜朗・オリパラ会長に引導を渡してしまい、新しい「新国立」案に白羽の矢を立てたりしたら、あっという間に支持率が回復しちゃうかもしれません。その場合、森さんは「なんでこの俺が・・・」などとブツブツ言うでしょうけれどもね。まあ、秋のプーチン訪日の時にご恩を返せばいいんですよね。

○しかるにいくら内閣支持率が下がっても、選挙がないことには仕方がないのであります。野党としては、1年後に予定されている参院選を待つしかありません。それまでは、9月6日の岩手県知事選、10月25日の参院補欠選挙などで汗を流すくらいしかありませんなあ。政策で政権は倒れません。選挙がないことには、ちょっと今の内閣は倒れない。

○しかもNHKの調査をよくよく見ると、自民党の支持率はさほど下がらず(34.7%)、民主党の支持率がかえって下がっている(7.7%)。これって実感だよなあ。


<7月15日>(水)

○内外情勢調査会の仕事で山口市へ。今日は地元経営者ではなく、山口大学経済学部3回生の学生さんたちがお相手。皆さん20歳前後と圧倒的に若い。1995年くらいの生まれ、と考えると、果てさて何を話せばいいのか。お題は「日本を取り巻く経済情勢」なんですが、これは50代の人間にとってと、成人を迎えたばかりの世代ではおのずと受け止め方が違うだろう。

○当方、もうこの先は20年か30年か、そんなに遠い先を考える力もないし、そんな必要もない。ところが今が20歳であると、半世紀先くらいまでを見通しておく必要がある。たとえて言えば、今の50代は「中国がますます強くなったらどうなるか」を考えるだけでいいのだが、もっと若い世代にとっては、その中国も衰えてしまった後の世界はどうなっているのか、みたいなことを視野に入れなければならない。きっと晩年には、そういう時代を生きるでしょうから。

○あるいは、今は少子高齢化と言って騒いでいるけれども、30年から40年くらい先になると高齢化の次の事態がまっているはずである。こう言うと語弊があるが、要するに団塊世代の方々があの世に行ってしまわれると、たぶん日本国内には膨大な量の「空いた老人ホーム」ができてしまうのではないか。つまり「医療介護サービスが大不況を迎える時代」というものが、いつか来るはずである。でも、それってなかなかに怖いと思うぞ。

○ということで、山口県に行って、いつもより少し先のことを考える機会ができました。松陰先生にはとてもなれませんが、ちょっといい体験でした。


<7月16〜17日>(木〜金)

○昨日は一般社団法人 日本玩具協会さんの役員研修会で軽井沢へ。こちらは内外の経済情勢などについて講師を務めるわけですが、その後は一杯やりながら玩具業界のことについて教わりました。いやあ、面白い。あっと驚くような話が一杯ありました。「遊民経済学」のいい取材になりました。以下はちょっとメモ。


*玩具業界は輸入が9割。人形作りも中国が増えてます。だから今の円安はとっても痛いです。

*昔のおもちゃは、繊維や自転車と並んで外貨獲得に貢献してました。車内には「輸出貢献企業」(通産省)なんて表彰状が残っています。

*プラザ合意の後はせっせと海外に進出しました。だいたい1人当たりGDPが1万ドルを超えると、おもちゃの生産には適さなくなります。

*少子化の影響を受けたのは、幼児関連業界の次に早かった。今いる企業はみんな「生き残り組」です。

*今後は高齢者向けの暇つぶし需要に期待しています。でも、高齢者はプライドが高いから商品作りが難しいんですよ。

*GWや夏休みもありますが、おもちゃはもっぱら年末に売れる商売。ある程度の規模がないとやってられません。

*面白くないおもちゃは値引きしても売れません。在庫はそのまま産業廃棄物。辛いです。

*面白いおもちゃは高くても、消費税が上がっても関係なく売れます。アイデア次第です。

*日本の親は基本的に子供に甘いです。とは言いつつ、最近は親よりも祖父母が甘いです。

*欧州ではおもちゃはGender Neutrality(性別不問)の時代に。そういえば日本でも、おままごとセットは売れなくなりました。


○オーナー社長さんが多い業界ですが、40代から60代までバランスよく集まっていて、跡継ぎに困ってはいない業界のようでした。その一方で、本日は任天堂の岩田社長のお葬式だとか。後継者選びが難しいですね。いつの時代も子どもたちは、遊びをせんとや生まれけむ。その子どもたちのために、いつまでも頑張ってほしい業界です。


<7月19日>(日)

○この土日は恒例、町内会の夏祭り。子どもの数は減っているものの、関係者一同が意地になって続けております。

○今年は新機軸ということで、土曜日の夜にバーベキューをやってみました。参加費一人500円、という設定にして、どれくらい集まるかなあ〜と思っていたところ、蓋を開けてみたら千客万来。小雨が降る中をテントを張ってやったのですが、今まで「町内会の集会場は入りにくい」と思っていた人たちがどっと来てくれた模様。なるほど、いつもと違うことをやってみると、今まで気づいていなかったことがわかるものですなあ。

○子どもの数が減って高齢者の数が増えると、高齢者が参加しやすいイベントを作らなければならない。じゃあ、夜に何かやりましょう、というのが発端でした。さて、来年はこれがどんなふうに発展するのか。とりあえず生ビールは旨かった。今年は寄付金の集まりもよかったので、採算的にもたぶんプラスになったようです。

○日曜日はうってかわって晴天。というより、かな〜り暑かった。今年も交通規制をやっていたんですが、考えてみたら、これだけ長時間、日光にさらされたのは先月のアスコット競馬場以来である。お蔭でまた日焼けしてしまった。ああ、明日が休みで良かった。


<7月20日>(月)

○せっかくの休みなので、どれ久しぶりに映画でも、と思って見に行ったのが、『ターミネーター/ジェニシス』(なんでジェシスじゃないんでしょうねえ?)。うん、予想通りひどい映画だった。こういう内容であれば、割引なしの一般料金1800円を支払って、まったく惜しくはない。

○ターミネーターのシリーズは、「4」だけは見ていないのだが、1から3までは見ている。最初の作品は、ワシが大学を卒業して社会人になった1984年の作品である。ああ、なんて懐かしい。当時のシュワちゃんは、ボディビルダー上がりの俳優ということで、「コナン・ザ・グレート」で一発当てただけの存在だった。その後、いくつものヒット作品に恵まれ、俳優としても成長を遂げ、なぜかカリフォルニア州知事も2期務めて、もういい加減、引退して余生でもよさそうなものなのに、映画俳優業復活である。まあ、アメリカ人には悠々自適なんて発想はないのかもしれませぬ。新しいターミネーターは3部作になるのだとか。本作にも最後に思わせぶりなシーンがあって、なんとも欲深であります。

○第1作は600万ドルの低予算映画でした。「未来から送り込まれてきた殺人サイボーグ」というのは、本来であれば使い捨てのアイデアであったはず。未来における人間と機械の戦争シーンは、あまりにもチャチな代物だった。ただしこれが名作だったのである。シュワちゃんが"I'll be back."と言うシーンで、笑いがこみあげてきたのを今でも覚えている。最初はだらしのないウェイトレスだったサラ・コナーが、見る見るうちに戦士に成長していく過程はまことに見事であった。音楽も印象的で、まるで『ロッキー』がそうであったように、この映画は大まぐれの名作で、シリーズ作品となることを運命づけられていたのである。

○ただしこの映画、タイムパラドックスがテーマである。そういうSFは長く続けちゃいけない。だってかならずボロが出るから。まあ、いいよ。うるさいことは言わぬ。そんなことよりも、関係者一同の無事を祝いたい。シュワちゃんは還暦過ぎて元気にアクション映画をやっているし、ジェームズ・キャメロンは『タイタニック』と『アバター』という大成功を収めたし、リンダ・ハミルトンはキャメロン監督と結婚して離婚して、その後は躁鬱病をカミングアウトしたそうだが、まあ、皆さん、こうやって映画の続編が作られるということは、まことにめでたいことではないですか。

○自分の過去の作品が忘れられずにいるということは、皆が自分を愛してくれたという証拠であるし、自分の人生が無駄ではなかったことを意味している。普通の仕事は何ということもなく、時間の経過とともに忘れ去られていく。あるいは再現不能、理解不能になってしまうもの。その点、映画っていいもんですねえ。なにしろ30年前のことまで一緒に思い出せてしまうのですから。

○見る側としても、こうしてあるSF映画の30年にわたる変遷に立ち会えたということは、自分が健康に過ごしてきたことの何よりのご褒美みたいなもの。そういえば、年末からは『スターウォーズ』もやるんですよねえ。なんでもディズニーが1年おきにエピソード7からの3部作を作って、間の年にも外伝を作るんだとか。こんな風に映画が、大きなビジネスになっちゃっていいんですかねえ。ワシのように昔から見ていたものはいいけれども、今から見始める人たちがちょっと気の毒な気がするな。


<7月21日>(火)

○ということで、昨晩はついつい買ってきた「ターミネーター」(1984年)のDVDを見てしまいました。そしたらとっても感動してしまいました。低予算映画とはいえ、大傑作であることを確認したわけですが、今の若い人が見るときっと下記のようなことが非常識に思えて、理解不能なのでありましょう。

○以下はネタバレになりますので、これから本作を見ようと思っている人は是非スルーしてくださいまし。逆に「昔見たけどよく覚えていない」という人は、下記を読むともう一度本作を見たくなるかもしれません。





*未来から1984年のロサンゼルスにやって来たターミネーターが、サラ・コナーを発見する手がかりは「公衆電話にある電話帳」である。

――個人情報の極致ともいうべき自宅の電話番号が、昔は広く共有されていて、まったく無防備な状態であったのですよ。

*留守番電話、という機械が物語上で重要な役割を果たしている。

――ポケベルなんかも瞬間的に出てくるんですよね。きっと平成生まれの人たちには理解不能の器材でしょう。

*「人間と機械の戦争」という未来社会についての説明を受けるサラ・コナーは、まったく理解不能なのだが、「もうじき核戦争が起きる」という話になるとピンとくる。

――1984年当時はレーガン政権下でソ連との冷戦状態でありましたから、そういう予兆は常にあったのです。ちなみに物語の冒頭で核戦争が起きる大友克洋『AKIRA』の連載開始は1982年でした。

*自動車を奪って逃走するシーンが頻繁に出てくるが、スイッチをいったん切ってつなぐとエンジンがかかる。

――今の電子キー主流のクルマではまったく意味をなさないでしょうね。

*自動車を運転するシーンで、誰もシートベルトを締めていない。

――ちなみに日本で運転手(!)のシートベルト着用が義務付けられたのは1985年9月1日です。それ以前は、単なる努力義務だったんです。

*刑事の上司が部下に向かって、「タバコくれ」というシーンがある。

――昔は職場で堂々とタバコが吸えたんです。今じゃ信じられないでしょうけれどもねえ。

*身の危険を察知したサラ・コナーは「ディスコ」の喧騒の中に身を隠す。今の「クラブ」とはずいぶん雰囲気が違う。

――入場料が4ドル50セントだった、というのも今となっては衝撃的なお値段です。



○こんな風に挙げていくと切りがありません。今の感覚で見ると、サラ・コナーの母親が殺されるシーンは残虐過ぎるし、そうでなくてもターミネーターは乱暴過ぎます。当時はそれが快感だったんですけどね。シュワちゃんの供述によると、警官たちと一緒に本作を見ていたところ、ターミネーターが"I'll be back."と言ってその直後に警察署をぶっ壊してしまうシーンで、拍手喝さいが起きたんだそうであります。人間だったら許されないことが、機械がやることだから許される。今から思うと、そういう価値観の破壊が本作の新しさだったんです。

○こんな風にして、時代の記憶は風化していく。例えば1960年生まれの筆者は、赤線というものがあった時代を想像できませんし、ましてや従軍慰安婦なんてものは見当もつきません。ところが世の中には、今の価値基準で過去を責めることに執念を燃やす人たちがいるんですよ。たかだか31年前の映画でさえ、こんなに感覚が変わっているのにね。

○そうそう、あの当時、片山まさゆき『ぎゅわんぶらあ自己中心派』という麻雀漫画があって、本作をパロディ化した「ヤーメネーター」というネタがありました。麻雀はド下手だけれども、信じられないような根性を持つ雀士が、負けても負けても「あと半荘」と言って迫ってくる。あれってとっても面白かったんだけど、あの感覚はドロドロになって賭け麻雀をやった人でないとわからないだろう。たぶん平成世代になると、「泣いて拝んであと半荘」という心境自体が理解不能なんじゃないかと思います。まあね、政治家には今でもときどき「ヤーメネーター」がいるけどね。


<7月22日>(水)

○先日からいろんな場所でこんなことを言っております。


「チプラス首相は、ギリシャにおける菅直人首相である。@市民運動家出身で、A小政党を率いるバルカン政治家であり、B個人的な人気が頼りで、C対外的な摩擦を恐れず、D権力欲がすさまじく強い」


○もっともこれを言うと、「何もそこまで悪しざまに言わなくても・・・。チプラス首相に悪い」と言う人が少なからずいます。この反応も興味深いですね。

○考えてみれば、菅直人首相もチプラス首相も国難というべき瞬間に立ち会って、そこで「とにかく自分の政権を守る」ということをすべてに優先して、信じられないような粘り腰を発揮したわけです。それが国のために良いことであったかどうかは、非常に疑問なのでありますが・・・。


<7月23日>(木)

○内外情勢調査会の行使で名古屋に行ってきたので、その際に聞いた話のメモ。


*名古屋駅の新幹線側の出口を「太閤口」と呼ぶ。これは名古屋駅の西側が中村区で、豊臣秀吉が生まれたとされる辺りであるから。

――しかし秀吉を「太閤さん」と呼ぶと大阪みたいなので、どうせなら「木下口」とか「藤吉郎口」と読んだらどうでしょうねえ。

*絶好調の愛知県経済における3つの楽しみ。@リニア(JR東海=名古屋駅周辺の用地買収が始まった)、AMRJ(三菱重工=あと1年くらいで飛ぶ予定)、BFCV(トヨタ自動車=夢の燃料電池車)

――すべて乗り物関係、というのが面白い。いまどき「製造業中心の景気回復」というところがユニーク。

*最近、名古屋に赴任した人の感想〜名古屋は人の動きが早い。首都圏に比べると通勤時間が短いせいか、朝は8時台に動き出すし、お昼は11時半になると人気店に行列ができている。

――そういえば味噌煮込みうどんの山本屋、ひつまぶしの蓬莱軒など、名古屋の名物には行列がつきものですなあ。


○これで来年は「伊勢志摩サミット」もあるんですから、中京圏の経済は楽しみが多いです。後は、名古屋駅から近鉄さんと名鉄さんへのややこしい導線部分を何とかしてほしいですね。


<7月24日>(金)

○昨日のモーサテに出演した際に、「今日の経済視点」を「下半期の課題」としました。2015年は下半期が始まってもう4週目なんですが、「上半期に予定されていたことが、下半期に後ずれする」ことがいっぱいあるんですよね。


●米国経済:年初は6月だと言われていた利上げ時期が9月以降に先送りになった。(個人的には年内も怪しいと思ってますが)

●中国経済:「新常態」を目指して市場メカニズムに基づく改革をやる予定でしたが、株価下落でむしろ景気優先になってしまった模様です。

●石油価格:「夏に向けて反転」と言われていましたが、ここへ来て再び1バレル50ドルを割ってしまいました。

●日本政治:通常国会の会期中に、雇用制度改革やカジノ法案を上げるという予定でしたが、新安保法制の視界不良で成立が怪しくなってきました。

●日本の景気:夏までにはもう少し良くなると思っていましたが、4-6月期はマイナス成長の可能性が出てきました。

●TPP交渉:「2月の大筋合意」なんて声もありましたけど、米議会がやっとTPA法案を通してくれたのでこれからが本番です。来週ハワイで行われる閣僚会議で、どこまで行けるかな?

●原発再稼働:九州電力川内原発の再稼働は、年初には3月と言われていましたが、現在は8月中旬との見通しです。

●拉致被害者調査:北朝鮮が開始すると言ってから、もう1年を過ぎてしまいました。何をしているのやら。


○こんな風に、いろんなことが先送りされている中で、これはちゃんと上半期の締め切りに間に合ったものと言えば、「AIIBの設立協定調印」と「イラン核開発交渉の合意」くらいですね。政治のリーダーシップの弱体化を感じます。


<7月26日>(日)

○ウチの車庫にツバメが巣を作っている。2011年以来の珍事である。4年前と同様、巣からはフンが落ちてくるので、わがクルマもたいへんである。が、まあ、その辺は大目に見ることにしよう。

○ちょっと気になるのは、母子ともに元気がないように見えることである。巣の中にはヒナが3匹くらいいるのだが、あんまり母がエサを持ってくるところを見かけない。憐れなことに、巣から落ちて死んでしまったヒナもいた。

○こういうとき、人が手を出してはいかんのである。大自然の掟に従って、我慢して見ているしかない。死骸はそっと片づけました。

○毎朝、新聞を取り出すたびに、今日のツバメ親子はどうなっているかと気になっている。今朝はめずらしくちゃんとエサを届けに来ていた。だが、その割にヒナたちが静かなのである。こういうとき、もっとピヨピヨと大騒ぎするものではなかっただろうか。

○そもそも巣作りからしてタイミングが遅かったし、どうもやさぐれたお母さんツバメなのかもしれない。どうかヒナたちが育ってくれますように。なにしろウチは軒先を貸している。大家と言えば、親も同然でありますぞ。


<7月27日>(月)

○霞山会の午餐講演会の講師を務める。テーマは「AIIB設立と日本の対応」。慣れたネタではあるのですが、なにしろ「日本と中国を見つめて1世紀」、東亜同文会の流れをくむ霞山会であります。中国語が全くできないこのワシが、チャイナウォッチャーの錚々たる方々を前に一席ぶつのであるから、われながらいい度胸である。こんな風にして、またちょっとだけ生来の鈍感さに磨きがかかったような気がする。

○世間一般で語られている中国とは、「戦略的」で「したたか」で「挙国一致」で、しばしばアメリカや日本を出し抜いてカラカラと大笑いしているような「悪辣」で「外交上手」な印象があります。ただしよくよく見ていくと、意外と思慮は浅いし、作戦は詰まってないし、しょっちゅう路線は変更するし、あちこちで顰蹙を買っているし、政治家の足の引っ張り合いは激しいし、役所間の縄張り争いも熾烈だし、ときどき「お宅はそんなんで大丈夫なんですか」と突っ込みを入れたくようなところもある。

○問題は日本側が変に意識してしまっていて、中国は心底怖いと思っていることではないかと思います。でも、彼らのやることが成功するのは面白くないから、「ほーら、失敗した」と言いたくて仕方がない。だから株価が下がると、「これで中国はバブル崩壊だ」と大喜びしたり、「日本にも影響する」などと大騒ぎしてしまう。AIIBにしても、「日米が孤立している」と言ったかと思うと、「習近平が赤っ恥をかいた」みたいなことを言ったりする。そんな大騒ぎすることないですって。

○同様な歪みはアメリカウォッチングにもつきものでありまして、そんなわけないのに「貧困大国」みたいなことを言いたがる人がいる。要するに自分に対する自信のなさの裏返しでありますよね。そういう点で、NHK出版新書の新刊『アメリカのジレンマ 実験国家はどこへ行くのか』(渡辺靖)はいい本でしたよ。相手を等身大に見る、というのは意外と難しいことであります。


<7月29日>(水)

○昨日からTPP閣僚会議がハワイで始まっておりますが、もうひとつ気になるのは今日からクアラルンプルで始まったIOC総会です。

○日本国内的には、「新国立競技場の見直しで森さんがお詫びに行く」会合ということになっておりますが、そんなことより2022年の冬季五輪を決める会合なんですよね。候補は2か所に絞られていて、それが北京(中国)とアルトマイ(カザフスタン)。いやあ、ハラハラするじゃありませんか。これでアルトマイに決まった時に、31日の上海株価がどれだけ下がるか。

○いやまあ、普通に考えたら北京が勝つでしょう。でも、それだと2018年平昌(韓国)、2020年東京(日本)、2022年北京(中国)というアジア3連荘が成立してしまうんですけど、いいんでしょうかね。ひょっとすると、いまどきオリンピックを自国で開催したいという国は、希少価値になってしまったのかもしれません。

○ところで今回、正式に辞退することになった「新国立」のザハ案ですが、ちょっとだけ弁護をしておこうと思います。みんな都合の悪いことは忘れちゃいますからねえ。

○あれを決めたのは2012年秋のことです。それは震災の翌年で、2011年の訪日観光客数は円高と風評被害も重なって621万人。今年の上半期(914万人)よりもずっと少なかった。つまり2020年に東京五輪が取れるような気は全然しなかったし、大勢の外国人が日本を訪れてくれる、なんてことは夢にも思えなかった頃のことです。ついでに言えば、当時は民主党政権で、日本全体がとっても内向きになっていました。

○そのときに新国立の選定委員が考えたことは、おそらくこんなことだったのだと思います。「こんな時に日本人の案を選ぶのは考え物だ。イラク生まれの英国人女性の案を選んでこそ、日本が海外に開かれている証になるし、東京五輪も実現するかもしれない・・・・」。

○時は流れ、2020年の東京五輪が決まった時の感動は薄れてしまったし、日本にやってくる外国人は呆れるくらいに増えた。そうしたら、急に値段が高いことが気になってきた。世の中にはほかにもいろいろ腹が立つことは多いけど、これが一番わかりやすい案件だった。だから国民の怒り爆発。そこで安倍首相が急きょ森さんをとりなして、急きょ見直しと言うことにあいなったわけでして。

○そんなこと言ったって、世の中には無駄な出費はいっぱいあるのだし、東京に目立つ建造物を作ることは、けっして後ろ向きな投資ではありません。あんまりいい例じゃないですけど、原発が停まっていることで日本が余分に買っているLNGは年間3.6兆円。これなんて、CO2を出すだけで、後には何も残りませんよ。森さんの「たった2500億円」というのはある意味健全な感覚なんじゃないでしょうか。

○つくづく身勝手な話だと思いますが、「釣った魚に餌は要らない」という言葉通りでありまして、わが国にとってザハ案は不要になったわけです。その代わり、新国立はたぶん少し安くて凡庸な建物になるでしょう。だからといって、別に誰も困らない。強いて言えば、東京は画期的な新名所を作る機会を逃したかもしれない、というくらいです。

○そこで筆者はふと妄想するわけですが、こんなシナリオはどうでしょうね。この後、何かの間違いでIR法案が国会を通過して、いよいよ日本にカジノを作るという話が動き出す。そうしたら大阪の夢洲に、アメリカ資本が5000億円を投じて統合リゾート(Integrated Resort)を作るでしょう。そこにはホテルやテーマパークなどいろんなものが建つわけですが、そこにザハ案の建物を作るというのはどうでしょうか。

○このことは大阪市民にとって朗報となるはずです。「東京が作れんかった建物を、大阪はタダで作ってもうたわ!」

○ゼネコンは当然、竹中工務店ですよね。いえ、別に筆者はザハ案が好きなわけじゃないです。ただ貧乏人根性が嫌いなだけで。


<7月31日>(金)

○この本がとっても面白い。『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(井上達夫/毎日新聞出版)

○すぐにわかると思いますが、これはAKB48に関する前田敦子の歴史的名言をもじっている(「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください!」)。あられもなくこういう言い方をしなければならないところに、今や窮地に追い込まれたリベラル派の危機意識があるのかもしれません。

○法哲学者の井上達夫氏によれば、今のリベラル派と言うのは偽善と欺瞞とエリート主義に陥っていて、本物のリベラリズムとは全然違っている。リベラルの基本的な価値は自由ではなくて正義である。正義に立脚したリベラルは、まことにラジカルであって、朝日新聞的なリベラルを徹底的に糾弾する。保守主義者がダブルスタンダードを使うのはいいが、リベラルがそれをやっちゃお終いだろ、とおっしゃる。護憲派も平和主義者もけちょんけちょんである。

○こういう正義の体系を提示されると、偽物ではない「リベラリズム」に対する敬意がおのずと湧き上がってきます。「憲法9条は削除すべし」「軍隊を持つならかならず徴兵制を」などという議論はまことに首尾一貫していて突っ込むすべがない。お見事!と言わざるを得ません。

○その一方で、「リベラリズムって近寄りがたいなあ」という印象も避けられないものがあります。結果的には、本のタイトルとは真逆の感想に誘導されてしまう。端的に言えば、いやあ、やっぱワシはリベラルにはなれまへんわ、と思ってしまう。

○保守派の根源にあるのは、「ま、固いことは言うなよ」(世の中理屈通りにはならないんだからさ/人間だれしもそんなに立派じゃないんだからさetc.)という諦念ではないかと思います。ワシはそっちの方がいいと思うな。もとよりAKBのことはどうだっていいと思っているし・・・。


(追記:こういう題名でなければ、ワシも本書を買ったりはしなかったわけで、その意味で毎日新聞社の企画の勝利と言えましょう)









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by Tatsuhiko Yoshizaki