●かんべえの不規則発言



2003年6月




<5月31日〜6月1日>(土〜日)

○今日はサミットよりもダービーである。遠くのG8より近くのG1、と言うではないか。って、言うわけないか。2000年生まれの三才馬、約9000頭の頂点に立つのはどの馬か。とりあえず今日のところはそっちの方が、米欧の衝突や中東和平、北朝鮮問題よりも重要である。

○しかるにかんべえは不調である。中山開催が終わり、舞台が府中に移ってからというもの、ノーホウラが続いている。スランプからどうやって復調するか。この1週間、いろいろ悩んだのである。いっそ買わないで家で見学するか、それとも奇をてらった買い方をしてみるか。(例:「SARSに白装束、時代は白、だから枠連@―@」とか、「今年は70回、古希になるわけだから、名前にコとキがつく馬を探そう」など)。まあ、でも「いつもと違うことをしてみよう」という発想が、長期不調への入り口みたいなものだから、ここは難しいところである。

○迷った挙げ句、ゲン直しに家の掃除を始める。正直言って、掃除や整理整頓は嫌いである。それでも松下幸之助翁の教えを実践し、スランプを脱出するためとあれば仕方がない。少なくとも玄関と階段はきれいになった。このゲン直し、有効ではあるのだが、ひとつだけ留意事項がある。それは「終わった後に、家族の感謝の言葉を期待しないこと」。日曜日、お父さんがにわかに掃除を始めることは、得てして家族にとっては迷惑なのである。

○そんなわけで、静かな心で迎えた本日のダービー。選択はまことにまっとうにLネオユニヴァースの単勝とL―@の馬連。配当は低いけれども、二強の実力は折り紙付きだからしょうがない。その心は、「ネオユニヴァースがリードするサクラプレジデント」(ネオコンがリードする大統領)。だったら馬単じゃねえかといわれそうだけど、そこは大統領にも敬意を表することに。ここへ来て実力を伸ばしてきたBゼンノロブロイも気になるけど、これはないことにした。

○終わってみれば、ネオユニヴァースの強さばかりが目立つダービーでした。ゲートインしたときから泰然自若とした余裕。ごく自然なスタートを切り、第四コーナーでは当然のように好位置につけていた。鞍上のデムーロ騎手は、ほとんど鞭を入れていないように見えた。差されるかもしれない、などとは露ほどにも思わなかったのではあるまいか。ネオユニヴァースはこれで皐月賞と並ぶ二冠馬。いやはや強い。若くしてこの安定感はなんだろう。そしてこれから、どこまで強くなるのだろう。

○若き天才、というのはいいものです。負けて苦労して強くなる馬もいいが、ネオユニヴァースのように勝ち続けて成長していく馬はまぶしいほどだ。秋には嫌でも「三冠馬」の期待が高まるだろうし、現役最強のシンボリクリスエスやファインモーションとの勝負も楽しみである。ぶっちぎりのスピードで記録を残すというよりは、しぶとく勝ち数を重ねるタイプの馬になるような気がする。

○結論として、馬券が取れた外したと騒ぐではない。いい勝負が見られればそれでいいじゃないか。さて、今夜はもうひとつ、弱い巨人を連破して溜飲を下げるとするか。井川、ガンバレ。


<6月2日>(月)

○ちっ、昨日、あんなことを書いたら、阪神のサヨナラ負けを見てしまったぜ。土曜の夜は8回裏に2点取られたところで風呂に入ってしまい、9回表の大量得点を見逃してしまった。それに懲りて日曜夜は最後まで見ようと思ったら、今度は高橋のサヨナラ・ツーラン・ホームランだもんなあ。まあ、打たれたウィリアムズは守護神とは言うものの、どう見ても1年続くようには見えないし、ムーアの神通力もそろそろ薄れて来た。そもそもタイガースがこのまま一直線でゴールするはずもなし。2位に7ゲーム差あっても、ちっとも安心できないのが阪神らしい。

○ところで皆さん、この歌、知ってました?

『テトペッテンソン』

テトペッテンソン テトペッテンソン
テトペッテンソンタントン
タトペッテンソン タトペッテンソン
タトペッテンソンタントン
テトペッテンソン タトペッテンソン
トテペッテンソンタントン
リンシュレカットン シュレリンベットン
タットレペッテンソン

パラトゥッタティ パラトゥッタティ
パラトゥッタトッタティン
ペレトゥッタティ ペレトゥッタティ
ペレトゥッタットッタティン
パラトゥッタティ ペレトゥッタティ
トレラッタットッテソン
リンシュレカットン シュレリンベットン
パットレペッテンソン

○NHKの「みんなのうた」で、突如として流れて来たこの歌、あたしゃもう、目が点になりました。唄っているのは井上順、途中で少年少女のコーラスが入ってきて、とっても不条理な世界。しかしてその正体は、『だんご3兄弟』の佐藤雅彦さんによる企画作で、フランスの童謡『ル・ボー・タンブール』にひたすら語呂のいい歌詞をつけたもの。アニメーションがとっても楽しいです。

○昨年秋から流れているそうですが、主に中年男性からの「あれは何語ですか?」という問い合わせがNHKに殺到しているよし。こういう歌が創造できてしまうところが、「みんなのうた」の底知れないところです。学生時代に筒井康隆の『バブリング創世記』を読んで、言いようのない衝撃を受けたことを思い出しました。


<6月3日>(火)

○NHKの「みんなのうた」には、こんな人気投票もあるんですね。ダントツ1位は「ママの結婚」。これはとっても納得です。昨年、大ブレイクした「大きな古時計」は意外なことに20位。そして「テトペッテンソン」は18位。これが今年の紅白歌合戦に出られたら面白い。皆さん、応援よろしくお願いします。

http://www.interq.or.jp/orange/mitumi/utakan/tohyo/tohyo5_0.htm

第5回 Best of みんなのうた 投票結果一覧

1 ママの結婚  
2 遠い空
3 ぶたが逃げた
4 ばぶるばす
5 ちっちゃなフォトグラファー
6 雨のちスペシャル
7 潮騒のうた
8 ママのイヤリング
9 まっくら森の歌
10 メトロポリタン美術館
10 夏恋花
12 ヒピディ・ホプディ・パンプ
13 へんな家!
14 僕は君の涙
15 ベスト・フレンド
16 あいこでしょ
17 キャンディの夢
18 テトペッテンソン
18 海へ来て
20 大きな古時計

○朋あり遠方より来たる。ということで、今宵は旧ワシントン同窓会。今のブッシュ大統領の親父さんの頃、イラク戦争ではなくて湾岸戦争の頃、ワシントンDCでごろちゃらしていた仲間が集まって、やれ誰それは何をしている、あいつはどうしている、などと語りつつ、午後7時から12時まで延々と飲み続ける。

12年間もたつと、この間に成功あり失敗あり、結婚あり失恋あり、順風満帆あり波瀾万丈あり。昔の美青年が、今では笑福亭鶴瓶のごとき顔になってたり、昔も今も変わらなかったり。いちばん大きな変化としては、当時は徒手空拳だった連中が、今では日本の国会議員が2人(この人この人)、アメリカ人ロイヤーが1人。すなわち、輝かしい成功を収めたことになるわけだが、なんだか昔の方が良かったように思えてくるから不思議である。

○さてさて、10年後のこの顔触れはどうなっているのか。飲んだくれているうちに、昔の元気が戻ってきて、ちょっとだけ希有壮大になったような気がするところがマジックといえようか。「青雲の志」なんて言葉を久しぶりに思い出してしまった虎ノ門の夜。


<6月4日>(水)

○昼間に国際大学の信田さんがやってきて、一緒に不審船を見に行こう、というから、雨の中を連れ立って船の科学館へ。2001年12月22日、日本の巡視船の追撃を受け、最後は自爆して中国の経済水域に沈んだ船である。引き上げ後は中身を精査されて、国籍も北朝鮮とばれちゃっているので、もう不審船と呼ぶのは適当じゃない。ここでは「工作船」と呼ばれている。

○着いてみたら、行列ができていた。列についてから、不審船の前に出るまで約20分。最初3列に並び、それから6列になり、少しずつ見学コースに入れていく方式。好天だった一昨日は、お昼で40分待ちだったとのこと。あんまり人が多いので、午後5時閉館の30分前には締め切ってしまうそうなので、これから出かけようという人はご注意ください。

○入場料は無料です。船の科学館に入る必要はなく、建物の向かって左手側に「それ」が展示されています。前後で待っている人たちは、田舎から出て来たらしく、「東京は人が多いなあ」てなことを話している。思わず、(あんたらが来るからでしょうが)と声に出さずに突っ込みを入れる。みんな、何がそんなにうれしいのか、工作船を見るのにワクワクしている。見学コースは簡単で、船をぐるりと一周すれば終わり。ものの10分とかからない。

○それでも海底から引き上げられた船は一種、異様なムードを漂わせている。ひとことで言うと、とってもボロイ船です。威嚇射撃のお陰で船体には穴が一杯あいている。それでもスクリューが4本もついていて、ロシア製のディーゼルエンジンで、速度は30ノット(時速55キロ)も出るとのこと。武器もロケットランチャーや2連装機銃など、やけに強力そうなものを積んでいる。どう見ても、犯罪目的のために作られたとしか思えない。

○8人が乗船していたとのことですが、生活感はまるでない。乗り心地はとっても悪かっただろう。なるほど不審船とはよく言ったもので、こんなものに乗って、薬物の運搬に携わっていたのだとしたら、つくづく「ようやるよ」である。でも、こんな船を深海から引っ張りあげて、わざわざ展示までしている日本側も相当な根性といえましょう。

○この展示を主催しているのは財団法人 海上保安協会。なるほど、海上保安庁としては、「日本近海には、こんなのが実際に活動しているんです」ということをアピールしたいのだと思う。この不審船追撃の際には、巡視船が実際に被弾して怪我人も出ており、それに対する正当防衛として射撃を実施している。それでも文句を言う人はいるだろうから、論より証拠、これ見て頂戴、ということなのだろう。

○ところでこの工作船、無理して引っ張り上げたのでとっても痛んでいる。展示を続けるにはお金が要るので、出口では募金を行っています。かんべえは500円玉を1個、入れてまいりました。それくらいの値打ちのある展示物だと思います。海上保安庁は、ぜひ「法に従い厳正に対処」してもらいたいものです。



<6月5日>(木)

○今日のお昼、若い安全保障の研究家と話をしていたら、「アメリカは戦略がないからねえ」という話になった。変に思われるかもしれないけど、本当にそうだと思う。だって、本当に戦略のある国だったら、安保理に決議を出して可決されないとか、戦争を始める直前に「うちの基地使っちゃ駄目」って言われるとか、倒したはずのサダム・フセインの居場所が分からないとか、あるといってたはずの大量破壊兵器が出てこないとか、そういうカッコ悪いことがあるはずないでしょ。

○大軍に作戦ナシ、という言葉がある。今のアメリカくらいに国力があると、変に戦略などなくても自分の意思は通せてしまうのだ。ボブ・サップが素人相手に喧嘩をするとしたら、いちいち策を弄したりはしないだろう。戦略がないと滅んでしまうのは、むしろ弱者の方である。

○それにしても最近は、「国家戦略」という言葉が大好きな人が増えたと思う。「アメリカは国家戦略で動いている」と言って悔しがり、「日本は国家戦略がない」と言って嘆く。例えば、第2次世界大戦後にアメリカが日本に優しくしたのは国家戦略だった、という。それは大筋では正しい。だが、米軍兵士が日本の子供たちにチョコレートをくれたのは、上官の指令があってそうしたわけではなく、単に気前が良かったからに過ぎない。「アメリカ人は感情で動いている」というのもまた事実なのである。

○だいたいが国家戦略などというものは、作ったら作ったで面倒なものである。末端まで浸透させるとか、ちゃんと実行するとか、成果をアセスするとかして、なおかつ時代遅れにならないように見直しもしなきゃいけない。今の日本に国家戦略がないのは事実だが、それは間違った戦略を持つことに比べれば、はるかに幸せな状態だと思う。

○この点、企業戦略とまったく同じで、などと言い出すと、何かと差し障りが出てきそうなので遠慮するが、「戦略」という言葉の魔力にはまっているオジサンたちは困ったものだと思うぞ。


<6月6日>(金)

○「テロ放棄」と「入植地撤去」。ブッシュ大統領の中東での会談は想像以上の成功を収めたといえるでしょう。とにかくシャロンとアッバスが、「われわれの目標は、パレスチナとイスラエルの二つの国が平和裏に共存することだ」と言ったのですから。

○1993年のオスロ合意は、2000年のキャンプデービッド会談まで続けられた。この間の中東和平は、クリントン大統領が調停者だった。元が弁護士だけに、双方の言い分を聞いて、細かな条件を積み上げるような交渉スタイルだった。最後の頃には、クリントンはエルサレムの街の構造を完璧に把握していたという。

○それに比べると、今度のブッシュによる調停はまるでヤクザの喧嘩の仲裁である。まず近所のうるさ方であるフセインの大親分を一撃のもとにぶち倒す。シーンとなったところで周囲の親分たちを集め、そこへ御大が出かけていって、「この喧嘩、この次郎長が預かった」と見得を切った。細かいことは言わない。当の喧嘩相手同士は、「こりゃ逆らわない方が身のためだな」と思っておとなしくしている。少なくとも当面は。

○弁護士が失敗した後だけに、ヤクザのやり方は新鮮味がある。ひとつだけ確かなことは、ヤクザの手法が失敗したら、いよいよ後がないということだ。ブッシュの中東和平、うまくいくでしょうか。


<6月7〜8日>(土〜日)

○韓国の盧武鉉大統領が訪日中です。かんべえは最近、「朝鮮日報」日本語版のHPを見る機会が増えているんですが、これによると以下のような質疑応答があったようだ。念のため、「朝鮮日報」は保守派の新聞だそうで、盧武鉉大統領に対してはきびしいトーンの記事が多い。

http://japanese.chosun.com/

Q:「北朝鮮が事態を悪化させる行為をする時とは、どのような段階を意味するのか」

A:「北朝鮮が事態を悪化させる行動をすれば、韓米日の対応があるのではないかという思考があるのは事実」、
「しかし、前提となる行動が何かを、前もって規定しているわけではなく、そのような前提を充足することは起こらないと楽観する」

Q:「9日、新潟港に入港する北朝鮮の萬景峰(マンキョンボン)号に対する日本の検索強化方針について」

A:「麻薬など国際共助の取り締まりに該当することであれば、当然の措置」、
「しかし、厳しい調査は、自然に核問題や拉致問題に対応した強硬措置として理解される時期的、心理的構造がある。こればどのような名分であれ、見る人にとっては、強硬措置として評価される可能性がある」

Q:「北朝鮮による日本人拉致問題について」

A:「基本的に北朝鮮と日本の問題であるが、国際社会においては人権と主権の問題であり、過去のことではあるが非人道的で、国際的主権に対する侮辱的な行為に違いない」

Q:「日本自民党の麻生太郎政調会長の「創氏改名」妄言と関連して」

A:「日本政府の公式的な態度である場合は、外交的な公式対応が必要だが、それ以外の、日本の1人の政治家、1人の国民の適切でない発言を、一々政府が対応するのはあまり生産的でない」と述べた。

○なかなかに見事な答弁ではないか。日本と米国の顔を立てつつ、自国の反発を最小限にとどめるような配慮がされている。少なくとも、自分の立場を守るために、「反日カード」や「反米カード」を多用するような困ったちゃんではない。現実主義の政治家のように見える。

○盧武鉉氏のような苦労人(ないしは成り上がり)の政治家は、ときどきこの手の用心深さを備えていることがある。近いところで言えば陳水扁ですな。しかもこの人、あんまり苦労が顔に出ていない。後はクリントンのような融通無碍さが加われば、鬼に金棒。最近は支持率の低下や身内のスキャンダルに悩まされているそうですが、意外と危ない道をするする抜けて行く、したたかな政治家に化けるかもしれませんぞ。


<6月9日>(月)

○本日、この不肖かんべえは、何とあの、竹村健一さんと対談をしてしまったのであります。文化放送の日曜朝の番組を収録したんですが、あいにく放送がいつかは未定です。日曜朝、というところが問題でありまして、最近は春眠暁を覚えず、『報道2001』さえ見てない日の方が多いものですから、当日もきっと起きられないだろうなあ。(そういえば長島さん、こないだ『報道2001』に出たんですって?ちゃんと事前に教えてくださいよ〜)。

○でもって、本日は天下の竹村健一さんを相手に、「アメリカの論理」を語るという試練でありました。しかし考えてみれば当方は、日々、J−WAVEの角谷浩一氏とか、『ルック@マーケット』の内山キャスターとか、とんでもないワガママな人たちを相手に生放送を切り結んでおるのですから、いくら23分とはいえど、収録番組など何程のことやあらん。(と自らを鼓舞する)。でも、そこはかつて「電波怪獣」などと呼ばれた竹村さんですから、マイクの向こうで突然、大滝秀治に変身して、「お前の話はつまらん!」と哀れ、かんべえは一刀のもとに切り捨てらるかもしれない。(ないない!)。

○本題に入り、「ネオコンの論理というのは、Clarity(名詞:清澄さ,透明さ,明快,明瞭さ)という言葉がキーワードであるように思います」と申し上げたら、電波怪獣の体がぴくっと動いた。(ような気がした)。クラリティ、というのはダイヤモンドの価値を示す単位でもあるんですが、要は透明度、ということですね。道義的な明晰さ、という概念を外交政策に持ち込んだことが、ネオコン思想の特徴的なところだと思うのです。

○ウィリアム・クリストルやロバート・ケーガンの著作を読んでいると、「アメリカは正々堂々、みずからの価値観に照らし合わせて、いささかも恥じるところがあってはならない」という意識をつとに感じるわけです。そういう立場から見ると、ブッシュ父政権の対イラク政策は、あまりにも清濁併せ呑むようなところがあって、「自由よりも安定を重視してしまっている」となる。その結果、フセインの自国民弾圧を見逃してしまったという不作為がどうにも許せない。その後のクリントン政権はといえば、今度は「軍事力の行使にあまりにも消極的で、正義を行う機会を逃している」ということで、これも我慢がならない。つまり共和党的な価値観と、民主党的な価値観を両方、切り捨ててしまっている。

○てなことを言ったら、竹村さんいわく。「そういえば小泉さんもクラリティが高い人やね。だからブッシュさんと合うんやろうか」。――なるほど、それは面白いですね。ネオコン派の著作はとても旗幟鮮明で、文章も非常に分かりやすい。小泉さんも「ワンフレーズ・ポリティクス」で、とにかくハッキリしている。あい通じるところがあるのかもしれません。

○最後の方は「アメリカ大統領選挙と参謀列伝」みたいな話になって、楽しいオタク話をしてまいりました。そのうち日曜朝、ゴルフ場に向かうクルマの中などで、放送を聞かれることがあるかもしれません。その節はよろしく。ちなみに提供は電気事業連合会さんだそうです。(ヨイショ!)

○夜はとある会合に出たのですが、ここでもテーマが米国政治。非常に真面目な会合で、なるほど勉強にはなったのですが、正直なところ楽しいという感じではなかった。思わず大滝秀治に変身し、「お前の話はつまらん!」と荒れたくなりましたが、シャレにならない場所だったので堅くかたく自粛いたしました。


<6月10日>(火)

○今日、取材を受けたときに答えたのですが、先週1週間の世界的な株高はそれなりの理由があったのではないかと感じています。というのは、この1週間で国際情勢の見通しがずいぶん変わったからです。

○ひとつはG8エビアンサミット。ブッシュが中座したりしたものの、とりあえず終わってみればいつものG8であり、「米欧の衝突」なんていうことにはならなかった。イラク復興問題などの面倒な課題は先送りになったし、複雑な心境になっている首脳もいる。それでも、とにかく世はいつも通りであることが分かった。国際関係は「平常への回帰」を果たしつつある。

○2番目が中東和平で、これは6月6日にも書いた通り、ブッシュの「ヤクザの喧嘩、仲裁方式」が悪からぬ成果を上げている。今週のThe Economist誌のカバーストーリーも、そのものずばり"A good beginning"である。あのシャロンがよくも妥協したものだと思うが、中東からフセインが消えたことで安全保障環境がガラリと変わった。これでもうイラクがスカッドミサイルを撃ってくる心配もなければ、自爆テロのスポンサーをすることもない。イスラエルとしては、これなら交渉に乗ってもいい。パレスチナとしては、ここで交渉に乗らなかったら後がない。アラファトやハマスは納得していないだろうが、それでも上出来の展開といえる。

○この点でブッシュ大統領の活躍はもっと高く評価されていい。「大統領選挙が近いときに中東和平に手を出してはいけない」というのは、常識以前の問題であり、クリントンも2000年の任期切れ間際になってから本腰を入れた。ところがブッシュは、「バグダッド経由エルサレム行き」という予定を着実に実行に移しつつある。「私はやるといったらやる男だ」と言うのは伊達ではない。しかも本件の担当者にはパウエルとライスを指名し、ネオコン派を排除している。立派ではないか。

○もうひとつあげると、SARSも沈静化しつつある。これでイラク戦争後の「地政学的リスク」は、ずいぶん片付いたような気がする。先週はその上、「アメリカの強いドル政策を確認でき」、「欧州もやっと利下げをした」わけだから、贅沢を言ったらバチが当たるというもの。さて、それから先の楽観シナリオが書けるかどうか。


<6月11日>(水)

○ここにB5版両面印刷、合計238pの私家版の印刷物がある。あるジャーナリストが、上海での滞在経験をまとめたものである。描かれているのは日々姿を変えていく街の姿であり、ちらほらと見えてくる租界時代の輝きの残滓であり、中国共産党の苦悩の深さであり、村上春樹のファンである中国人青年との会話であったりする。見聞の中から、戸籍制度やら人民元レートなど、馴染みの深い問題が取り上げられる。その辺、説明し出すと切りがないのだが、最大の魅力はしっとりした語り口にある。

○今日は移動時間や時間調整が多かったので、お昼に受け取ったこの冊子をとうとう読み終えてしまった。ちょうど柏駅に着いたところで後書きが終わり、読後感にしばし呆然としてしまった。こんな風に読書を楽しめることはそうあるものではない。実際、この冊子はほぼ本として完成されている。決まってないのは題名だけで、題名があるべき表紙の右肩には、「題名」とだけ書いてある。誤植や脱字もない。本当のことをいうと1個だけ見つけたが、まあ、それは実際の出版物でもよくあることだ。

○この冊子、お昼に受け取った。著者からは、出版される予定がないので、せめて知ってる人に読んでもらいたい、ということだった。何人の編集者がこれに目を通したことか知らないが、たぶん世の中にはその編集者の数X2の節穴があるのだろう。残念な話である。何となれば、私はこの本について誰かと話したくてしょうがないのだ。とりあえず、上海馬券王に読ませて、感想を聞きたいと思う。

○今更ながら、分かったことがある。なぜ人が私に向かって「出版おめでとう」と言ってくれるのか。私はとっても運が良かったのだ。そうとしか思えない。


<6月12日>(木)

○鳥取県の片山知事による「東芝不買運動」発言は、どう考えてもいただけませんな。

○第一に、公僕が民間企業を脅す、という構図が浅ましい。西室会長個人を批判されるのはご自由だが、会社の製品に怒りをぶつけるというところは筋が通らない。まあ、この点はみんなが言っているから、あらためて繰り返すまでもない。

○第二に、この発言は身のほど知らずである。鳥取県の人口は60万人。切り上げ御免で、衆議院の小選挙区の定数が2になっている、という小さな県である。たぶん柏と松戸の人口を足した方が多い。そんなんで「よく言うよ」である。東芝も紳士的に正論で返すだけでなく、「そんな知事のいる県では、恐くて企業活動ができない」くらいのことを言い返してもいいのではないか。いまどき企業嫌いの首長のいる自治体は、それだけで不利になるということが分かっておられないと見える。

○第三に、この発言は確信犯である。片山知事も自治官僚出身であれば、この問題における真の敵が財務省であることは百も承知であろう。西室会長に向けられるべき批判は、そのまんま財務官僚に向けるのが適当なはずだ。ところが首長としては予算を握っている主計局を敵に回せない。だから民間企業に八つ当たりをする。なんちゅう情けない話であろうか。

○田舎の知事さんはお殿様になる、というのは本当のようですな。鳥取県のイメージダウンは重症だと思います。


<6月13日>(金)

○久々にこんなネタが引っかかりました。

Galileo: great mind
Einstein: genius mind
Newton: extraordinary mind
Bill Gates: brilliant mind
John Forbes Nash Jr: A Beautiful Mind

George W Bush: never mind...

○ちょっと小ネタでしたかね。頭脳(Mind)には素晴らしいものもあれば、そうでないものもある。思わずベストセラー『バカの壁』(養老武司)を思い出しました。

○そういえば、昨日の鳥取県知事問題に賛同のメールが3通。いちばん過激な方は、「田舎者のぶら下がり健康法もたいがいにしろ」と怒っておられます。そうかと思えば山陰出身の方が、「鳥取と言えば『武士の家計簿』の中でも、算術に力を注いでいなかった藩と名指しされており・・・(中略)・・・今回は算術どころか胸算用も上手く行かず、江戸末から現在に至るまで何の進歩も無いじゃないと悲しくなってしましました」と嘆いておられます。

○都市住民と地方住民の間には、『バカの壁』があって、まっとうな話が通じないのでしょうか。


<6月14日>(土)

○こないだお昼頃、仕事中にふと足を動かしたら、スーツのズボンが「びりっ」といった。その場は素知らぬ振りをして、ややあってからトイレに立って、個室の中でしげしげとズボンを調べてみた。ありゃりゃ、内股の部分の生地が裂けてしまっていて、こりゃもうどうにもなりません。注意して見ないと外からは分からないので、普通に動く分には問題がない。それでもその日の午後は心持ち内股になり、何をやるにも自信なさげになってしまったのである。

○理由は単純、このスーツはもう10年も着ていて、いい加減生地が弱っていたからだ。体重は5キロ近く増えているのだけど、幸いなことに体型が変わらないので、衣装棚には10年もののスーツやらワイシャツやらがしぶとく残っているのだ。普通の人はそうは思っていないだろうが、かんべえにとっては「スーツに流行ナシ」なのである。

○それにしても10年は長い、と言われれば、まったくその通り。この10年の間に、いつも買っていたJ−PRESSは柏高島屋を撤退し、柏そごうでも店じまいしてしまった。お陰でますますスーツを買う機会が減ったというわけ。これでは紳士服業界が衰退するのも無理はあるまい。

○ところで今週は、今度はブレザーのボタンが取れてしまった。これも相当に年季が入っているから仕方がない。設備投資を怠っていた企業が、いよいよ製造ラインの老朽化という現実に直面しているようなものである。まあ、体型が変わっちゃって、全部買い替えを迫られるよりはだいぶマシなんだけど。


<6月15日>(日)

○競馬もそろそろオフシーズン。後の楽しみは月末の宝塚記念くらいである。今日のエプソンカップは、ローマンエンパイアの復活がちょっと気になるが、なにせ天気が悪いと競馬を止めてしまうという困った馬なので、あんまり気乗りがしない。

○そこでたまには、と柏市内の映画館に出かけてみた。あいにく『マトリックス・リローデッド』が始まってしまったところだったので、もうじき始まるところだった『めぐりあう時間たち』(The Hours)にした。ずいぶん路線が違うが、そもそも競馬を映画に変更した後なので、この際気にしないことにする。ちなみに前者は「お立ち見」、後者は日曜日だというのにガラガラである。これだったら、時間をずらしてマトリックスを2回流せばいいようなものだが、そこは良心的な映画館なのかもしれない。

○『めぐりあう時間たち』は1923年、1951年、2001年という3つの時間を生きる女性たちをパラレルに描いている。それぞれ英国の田舎、ロサンゼルスの郊外住宅、ニューヨークのアパートメントが舞台である。それぞれの筋書きがどう関わりあっているかは、最初のうちは分からない。しかも心を病んだ人が大勢出てくる。――こういう作品、余人はいざ知らず、かんべえは嫌いじゃないのである。『愛と哀しみのボレロ』なんぞ、何回見たか分からない。要は登場人物が多くて、込み入った話が好きなのである。きっと人間的に歪んだところがあるんだろう。

○笑わせるじゃない、びっくりさせるじゃない、スターで客を釣るじゃない。この映画は3人の女優の演技をじっくり見せる映画である。その中でも、ヴァージニア・ウルフを演じたニコール・キッドマンが圧倒的である。この映画のほかの部分は忘れちゃうかもしれないが、眉間にしわを寄せた彼女の美しさは記憶に残るだろう。で、おめでとう、アカデミー主演女優賞。

○ほかの2人も助演女優賞の候補になったようだが、全体に演技の水準が高い。ちょっとしか出てこないキッドマンの召し使い役や、メリル・ストリープの娘も不思議な存在感を示している。ちなみにこの「娘」の父親が誰なのか、ずっと気を持たせつつ話が進行するのだが、最後にあっと驚く答えがさりげなく紹介される。本筋とは関係ないのだが、妙に感心しました。

○人は誰しも自分のために人生を生きている。でも、諸般の事情で、気がついてみたら他人のために生かされていた、なんてことがある。そんなの嫌だ、と思っても、そこを変えようとすると得てして周囲に不幸をもたらす。3人の女性はそれぞれにいろんな選択をし、後味の悪い結果を招いたりもするのだが、見終わった印象は暗くない。

○それでもこの映画、人に勧める気はしないなあ。「頭の変な女性が大勢出てくるクライ映画じゃねえか」と言われたら、まったくその通りだもの。休日の過ごし方としては、『マトリックス・リローデッド』や競馬の方が、気が晴れていいかもしれません。ローマンエンパイア、何を思ったかクビ差の2位でやんの。お前はまったくもう・・・・


<6月16日>(月)

○本日発売の東洋経済で、塚崎公義さんが興味深い指摘をしています。日本の消費者物価はすでに上昇しつつあり、アメリカでは鈍っている。すでに日本とアメリカのインフレ率は逆転している。ひょっとすると、一足先にデフレに突入した日本の方が早く脱出し、アメリカはこれから本格的なデフレ時代を迎えることになるのではないか・・・・。

○現時点で、「日本のデフレは終わったかもしれない」という仮説はかなり大胆といえましょう。それこそ今夜のJ−WAVEじゃありませんが、少子化で人口が減るという国においては、不動産価格が上昇するという理由がない。内需の先細りは避けがたいという現実がある。その一方で、最近の異常なデフレ論議を聞いていると、そろそろ風向きが変わっても不思議はないと思う。デフレが100年続くだなんて、そしたら2103年のJRの初乗り料金はいくらになっているんでしょうかね。「リフレ派」エコノミストの議論に観念的なものが多く、ごくまっとうな日常感覚が欠落しているように感じます。

○塚崎さんのホームページでは、6月1日付で「米国のデフレ懸念」という記事を掲載していて、これも参考になります。これからのアメリカ経済は、いろんな意味で90年代の日本経済が「他山の石」となる時代を迎えるのではないでしょうか。

○具体的に言えば、これからのアメリカ経済ではおそらく以下のような現象が予想されます。というか、これらはすでに生じつつある事態と言ってもいいかもしれません。

(1)デットデフレーションで企業は困る
(2)「価格破壊」のお陰で家計はそれほど困らない
(3)株価はゆるゆると上昇する
(4)金利は周囲が驚くほど低下する
(5)雇用と実感のない景気回復

○ところがアメリカの場合は、以下のような点で日本とは事情が違う。

(1)金融機関は比較的安全
(2)バブル崩壊のもとが不動産ではなくIT関連投資
(3)政府の財政・金融政策が果断で大規模
(4)アメリカには日本という先例あり
(5)移民が多いので少子化問題とも無縁。〜合成特殊出生率は米2.13(2000年)、日1.32(2002年)

○このような条件を勘案すると、日本よりは傷が浅くて済むはずです。以前も「東西デフレ事情」という記事を書きましたが、もう一度、日米のデフレ問題を扱ってみてもいいかなと思っています。

○ところで、中東ではいよいよブッシュ政権が本気でハマス退治に乗り出したようです。だから言ったでしょ、甘く見ちゃいけないって。てな話を下記でお話ししております。ご参考まで。

http://www.multexinvestor.co.jp/editorial/EditorialContent.asp?edid=120030616


<6月17日>(火)

○日経平均がとうとう終値で9000円台を回復しました。阪神タイガースの快進撃みたいなもので、皆さん半信半疑というか、素直に受け止めていない様子。それでも先週号で書いた通り、今月に入ってから「地政学的リスクが本格的に消えた」ことを考慮に入れれば、キャッシュポジションを高めていた投資家が「とりあえず何でも買い」になることに意外感はないと思います。この株高、意外と続くだろう、と思います。

○それにつけても残念なのは、BSジャパンの「個人投資家のためのホンネの情報番組」、『ルック@マーケット』がいよいよ来週一杯で終わってしまうこと。スポンサーのつかない番組とはいえ、仮に日経平均が1万2000円程度あれば、番組打ち切りなどということはなかったでしょう。2001年の秋から何度もこの番組に出演してきた不肖かんべえとしても、何かこう、胸に迫るものがあったりするわけです。

○最近では、「2ちゃんねる」の株式板で、【BS】ルック@マーケット【ジャパン】 なんてスレッドが立っているんですね。そこには途中から、本物の内山敏夫キャスターが書き込みしていたりして、番組終了を惜しむ熱烈なファンがいろんなメッセージを寄せてくれています。そこはもちろん「2ちゃん」ですから、キツ〜イ言葉も一杯ありますけどね。

http://money.2ch.net/test/read.cgi/stock/1051510874/l50

○ほんの数ヶ月前には、著名な株式アナリストが「もう日本の株式市場は死んだ」てなことを書いてました。内山さんも、「死んだネコでも、地面に叩き付ければ少しは反発する、というのになぁ」と、動かない市場を嘆いていたものです。それでも、極端な悲観が出るときは相場の底が近い、という経験則は今回も生きていたようです。そういうタイミングで番組が終わってしまうのは、なんとも惜しい。その反面、「死人が出ると、相場は反転する」という経験則もあるんだそうで、『ルック@マーケット』は尊い人柱なのかもしれません。

○いよいよ最後だから湿っぽくなるかと思いきや、いろんな企画が押せ押せになって、番組制作の現場は活況を呈しているそうです。それはいいんですが、お陰で不肖かんべえのところまでお声がかからない。先日、「番組終了までに、1回くらいは出させてくださいよ」と催促したら、「では金曜日あたりに」ということになった。何の話になるやら、現時点では見当もつきませんが、内山さん、頼みますよ、ホント。私もこの番組が大好きなんですから。


<6月18日>(水)

○とうとう届きました。ヒラリー・クリントンの"Living History"です。アマゾンで取り寄せたら、28ドルの本が2774円。送料もあるはずなのに、なぜこんな金額で収まるのか、ちょっと不思議です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0743222245/ref=ed_ec_fb_cs_4_2/250-2597251-1287462

○結構、大きな本です。中身はまだほとんど読んでないのですが、手に持ってみるだけでも楽しい。何といっても、たくさん載っている写真がお値打ちです。若気の至りのような学生時代のビルとヒラリーは、どう見てもヒッピー。うーん、こんなのが大統領夫妻になっちゃったのか・・・・と感心することしきり。

○ただし衆目の一致するところ、本書に関する最大の関心事は、「あのこと」でありましょう。かんべえの職場でも、周囲が見たがるのはその一点に絞られていましたね。「あのこと」は、464ページ目から始まる"August 1998"にでてきます。クリントンが彼女に対し、「7ヶ月前には話せなかったこと」を告白する。それに対する彼女の反応は、以下の通り。

I could hardly breath. Gulping for air, I started crying and yelling at him, "What do you mean? What are you saying? Why did you lie to me?"

I was furious and getting more so by the second. He just stood there saying over and over again, "I'm sorry. I'm so sorry. I was trying to protect you and Chelsea." I couldn't believe what I was hearing. Up until now I only thought that he'd been foolish for paying attention to the young woman and was convinced that he was being railroaded. I couldn't believe he would do anything to endanger our marriage and our family. I was dumbfounded, heartbroken and outraged that I'd believed him at all.

Then I realised that Bill and I had to tell Chelsea. When I told him he had to do this, his eyes filled with tears. He had betrayed the trust in our marriage, and we both knew it might be an irreparable breach. And we had to tell Chelsea that he had lied to her too. These were terrible moments for all of us. I didn't know whether our marriage could -or should -survive such a stinging betrayal, but I knew I had to work through my feeling carefully, on my own timetable.

○「娘のチェルシーにも告げなければならない」と言われて、クリントンが泣いちゃったというんだから、まるでメロドラマのようなシーンです。ヒラリーは怒りに我を忘れながら、「でも慎重にしなければ」と感じている。そこはやっぱり政治家ですね。

○世の中には自叙伝を書くような立派な人はゴマンといるでしょう。ただし、それらが面白いかどうかは、読んでみなければ分からない。評判になるかもしれないし、すぐに忘れ去られてしまうかもしれない。ところが噂のヒラリー本においては、誰もが「あのこと」について興味津々なものだから、本が出るというだけで評判になってしまう。ということで、初版が100万部。こんなに上手なパブリシティはないでしょう。

○松田聖子が離婚と結婚を、叶姉妹がセクシーさを売り物にしているように、ヒラリーはモニカ・ルインスキー事件を利用して本を売る。それを足がかりにして、今度は自分が大統領の座にチャレンジできるかもしれない。なんともたくましい話です。政治家と芸能人は、やっぱり似ているのかな。

○実際、今の民主党の候補者の中では、ブッシュに勝てそうなタマといったら、彼女しかいないような気がする。こんなのはどうでしょう。2004年、奇跡が起きて、ヒラリーは初の女性大統領に就任する。そして2008年、共和党から挑戦するのはジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事だった。かくしてアメリカの二大政党制は空洞化し、ブッシュ家とクリントン家による二大王朝制が始まったのである・・・・。

○ところで本書の中で、73番の写真のクリントンが、彼らしい、とてもいい表情をしている。それについている彼女のキャプションが、これまたいいのである。

「私がビル・クリントンについて最初に気づいたのは、彼の手の形だった。彼の手首は細くエレガントであり、長い指は器用で、まるでピアニストか外科医のようだ。法学部で初めて私たちが会った頃、私は彼が本のページをめくるのを見るのが好きだった。今では彼の手には年齢が表れつつある。何千もの握手、ゴルフのスイング、そしてたくさんの署名にねじまげられて」

○こういう文章を読むと、年を取るのも悪くはないという気がしますね。さて、後は明日、日帰り出張の新幹線の中で読むとしましょうか。


<6月19日>(木)

○内外情勢調査会の出張で滋賀県大津市へ。琵琶湖のほとりのホテルにて講演。大津は琵琶湖のどん詰まりにあるわけだが、ここから見える湖畔の景色はとても広い。もうちょっと居たかった気もしましたが、予定通りすぐに新幹線に。今日の講演は自分でちょっと納得がいってないので、さて来週の分はどんな風に変えてみようか、などと考えてみる。

○以下は"Living History"に出てくる、ヒラリーとビルの若き学生時代の追想から。

○人々は、「あなたは、ビルがいつか大統領になると知っていただろう」というけども、もちろんそんなことはない。でも、こんな不思議なことがあった。ある夏、ヒラリーはカリフォルニア州バークレーで仕事を見つけてくる。そしたらビルは、南部でマクガバンの選挙を手伝うという仕事を放り出し、彼女についてきた。二人はバークレーでアパートを借りる。というわけで、ヒラリーは仕事があるけど、ビルは仕事がない。それで本ばかり読んでいた。

○ある日、ヒラリーは仕事で遅くなり、ビルとの約束に大幅に遅刻する。約束の場所に彼はもういなかった。ヒラリーはウェイターをつかまえて、こんな人はいなかったかと尋ねる。すると、近くにいた客がこんなことを言った。「その男ならここに居て、ずっと長い間本を読んでいたよ。私は本のことで彼に話しかけたんだ。どんな名前かは知らないが、彼はいつか大統領になるね」。――ヒラリーはその発言を気にとめず、「まあ結構ね。で、あなた、彼がどこに行ったか知らない?」と尋ねる。

○偉くなる人には、この手の「若い頃の不思議な予言」がひとつか二つはあるもので、中国の古典などは、この手の奇談が一杯です。これがヒラリーの作り話でも一向に構わないんだけど、実話だと考えた方がもっと楽しい。私ならば、その行きずりの客が「そうか、彼の名前はビル・クリントンというのか。覚えておこう」と言って立ち去った、という尾ひれをつけちゃうな。この本が売れることで、30年前のバークレーの予言者が名乗り出たりしないかしら。


<6月20日>(金)

○本日は電通さんに伺いました。汐留に聳え立つ47階建てのシオサイトビルです。初めて行きましたが、なるほどすごかったな。エレベーターがとてもとても多い、という点が面白い。社内の打ち合わせが多い業態だからだそうです。ちなみに、ブーメランのような形をしているのは、海風の影響を計算してのことだとか。

○噂の新しい名刺というのも拝見しました。100通りの色の中から、自分が好きな色を選んで裏側に使うことになっている。普通だったら組織ごとに色を使い分けるところですが、各人が「これが自分の色」というのを決めて、Identeificationに役立てるわけです。こんな形にすると、社員同士でも名刺を交換したくなりますね。

○あるお客さんに会ったところ、電通の社員3人が出した名刺が揃って薄紫色(ただし若干のグラデーションあり)で、出した方がビックリしてしまったとか。こういうとき、3人は息がピッタリ合っているということなのでしょうか。色の好みというのは、やはり性格によるところが大きいでしょうし。

○あらためて考えてみると、自分ならどんな色を選ぶかと考えると難しい。ネクタイみたいに、毎日変えるわけにもいかないし。やっぱり青系統かな。さて。


<6月21日>(土)

○なんでベッカムがあんなに人気なんだ、と怒っているオジサンがおりまして、まあ、ほっときゃいいようなものなんですが、これは結構、面白いテーマではないかと思います。

○デイビッド・ベッカムのスポーツ選手としての実力に文句をつける人はいないでしょう。ただ、それだけではなくて、カッコイイとか、美人の奥さんとか、髪型をしょっちゅう変えるとか、いろんなオマケがついている。もうひとつ、ベッカムが他のスポーツ選手ときわだっているのは、愛想がいいことでしょう。くだらないイベントでも、嫌そうな顔をみせない。つまりアンジョンファンくらいカッコ良くて、中山ゴンくらい気さくである。これはまあ、人気が出るのも不思議じゃないと申せましょう。

○ベッカムのインタビューの英語は実に聞き取りにくい。分かってみると、実にたわいのないことを言っている。おそらく、ボキャブラリーが極度に少ないのであろう。まあ、でも少なくとも彼は無愛想ではない。これだけでも、他の芸能人やサッカー選手と比べると、特筆すべき美点と言っていいような気がする。

○おしなべて言うと、サッカー選手はインタビューの際の発言が面白いと思う。中田英寿の試合後のコメントなど、実に深い。対照的に、お立ち台の野球選手はつまらない。いまだに「チームに貢献できてうれしい」とか、「思い切り、振り抜きました」で、最後は「応援よろしくお願いします」である。これが相撲取りとなると、「うっす」「一生懸命、行くだけっす」と、ますます絶望的であるが、そもそも聞く側もたいした期待はかけていないので、まああんなものなんでしょう。

○もうひとつ、「ベッカムがスペイン(レアル・マドリード)に行ったら、日本での人気が落ちるかもしれない」という見方もできる。日本人は英国が好きですからね。去年のW杯の際に、明らかにイギリスとドイツとイタリアは人気があった。やはり昔の同盟国のよしみは残っているのではないか。そしてロシアが相手になると、この国の国民は燃える。そういう点では、フランスはどうでもいい国で、敗退してしまったときに少しも惜しむ声が出なかった。

○そういえば、今朝の対フランス戦は惜しかったようで。私はどうもジーコ・ジャパンが見ていて心配なんですが、そう悪くもないのかな。


<6月22日>(日)

○ああ、今夜もタイガースがジャイアンツを翻弄するのを見ながら至福のひととき。昨夜も8回表に連打で10点取るのを見ながらビールを飲んでいたら、あまりの気分の良さにそのまま寝てしまった。今宵はもうちょっとビールを我慢してこのまま見続けましょう。現在は5−0。ゲーム差10が11になったら、ちょっと申し訳ない気もするけど。


<6月23日>(月)

○先月は休んだ勉強会PACで、今宵は山崎養世氏を招き、「高速道路無料化論」を語っていただく。今朝の朝日新聞にこんな記事が載ったこともあり、いわば旬の話題である。

●「3年以内に高速道無料化」 菅代表がマニフェストで

 民主党の菅代表は22日、鳥取県米子市内で講演し、次の衆院選に向けて作成中の具体的な政策公約集「マニフェスト」に高速道路料金の無料化を盛り込む考えを表明した。また、自由党や社民党との連立政権樹立を視野に、共同でマニフェスト作りを進めたい考えも示した。

 菅氏は「政権交代したら3年以内に高速道路の料金を無料化したい。日本経済、地方にとってもプラスになる」と強調。日本道路公団などの多額の累積債務については、例えば大型トラックなど営業車が年間10万円、普通車が年1万円を負担することで解消できるとの見解を明らかにした。

○高速道路の無料化論については、以前にも当欄の5月12日で紹介しています。アイデアは面白いと誰もが言うけれども、実現が難しいことは容易に想像がつく。つまるところ何が足りないかといえば、「動機づけ(motivation)」なのだと思う。つまり、道路族のセンセイ方に、「これをやると道路事業費は減りますけど、その代わりいいことも一杯ありますよ」と説得できるかどうか。悲しいかな、国会議員にはあまりにもその手の人が多すぎるので、この点で楽観的になるのは難しい、というのがプロ筋の見方のようだ。

○それでも、高速道路が無料になってメリットが生じるのは、農林水産業、自動車関連、住宅産業、観光業など、要するに保守の地盤に広がっている。もちろん、普通のドライバーにとっても福音であるわけだが、政治的にどの程度の力を持ち得るかは未知数であったりするわけだ。もちろん、それを試そうとする民主党の努力は立派なことだと思うけど。

○極論すると、この提案は抵抗勢力たる道路族を巻き込まないことには成立しないだろう。そのためには新たな利権を掘り起こして、「ま、これで勘弁してくださいよ」みたいな取引も必要になってくるのだろう。政治というのは「政策」(politics)と「政務」(policy)の掛け算であるから、どちらかがゼロなら答えもゼロになるわけで、その手の話をまったく抜きにすることは現実的ではない。多少、情けない話ではあるけれども。

○それにしても、「高速道路無料化」が地方経済にとって本当にプラスなのかどうか、その点がちょっと分からない。内外情勢調査会の仕事で地方都市を訪れると、どこでも駅前はさびれていて、ロードサイド型の店が繁栄している。これすなわち、鉄道の衰退とモータリゼーションを意味しているのだと思う。行政としては、「どうやって駅前の活気を取り戻すか」という議論はするけれども、「クルマ社会の一層の繁栄を」といった政策は採りづらいのではないか。「運転できない人はどうする」という声が出るに決まっているからだが、そこはそろそろ発想の転換が必要なんじゃないかという気もする。

○全然関係ないけど、明日はBSジャパン『ルック@マーケット』に出演します。今週一杯で終わってしまうので、文字通りこれが最後の機会。ちょっと寂しいですね。


<6月24日>(火)

○さる著名エコノミストとの会話から。金融の再生は非常に困難な課題だが、景気さえ良くなればけっして不可能ではないかもしれないと。で、「どのくらい良くなればいいんですか?」と尋ねると、「そうだね、名目で2.5%くらい」。

○ええっ、そんなんでいいんですか?とかんべえ驚く。それって、まるで、百万円あれば一家心中しなくてもいい、みたいな話じゃありませんか。成長率は2002年度だって1.5%はあるんですから、あと一息でしょう、と早とちりすると、同氏はおいおい、俺は名目と言っているんだよ、と。

○2002年度の名目成長率は−0.7%である。これを+2.5%に嵩上げするためには、3%以上持ち上げなければならない。仮に全部を財政政策で満たそうとするならば、GDP500兆円に3.2%をかけて、「真水で16兆円+アルファの景気対策」となる。さらに2.5%成長というのは、1年限りの瞬間風速ではいけないわけで、何年かにわたって安定的に続ける必要がある。16兆円の景気対策を何年も続ける、となったら、確実にどこかの時点で財政は破綻しますわな。長期金利が高騰して、それこそ金融機関はお手上げになってしまうだろう。

○逆に言えば、名目の成長が安定的に続く限り、金融の再生はもちろん、株価も上昇するだろうし、財政の悪化にも歯止めがかかるだろうし、年金制度の破綻だって避けれられるかもしれない。現下のいろんな経済問題のほとんどが、「持続的な名目ベースの成長」によって解決できるのである。では、どうやって?

○リフレ政策や円安誘導ですべて解決、という意見もあるけれども、かんべえには信じがたい。少なくとも、それで少子・高齢化現象は止められないだろう。そして人口が減る社会において、地価が上がるとは思えず、需給ギャップはますます拡大する。デフレは構造的である。

○ほんの少し前まで、日本経済は成長率が3.5%を下回ると不況感が出る、などと言ってた時代があった。「名目で2.5%」という目標は、なんとも慎ましく思えてしまうが、今となってはなんと高いハードルであろうか。


<6月25日>(水)

○内外情勢調査会の講師で愛知県の西尾市と刈谷市へ。いずれもトヨタ自動車の関連会社が多く、アイシン電機などの優良企業がひしめいている。ということで、地場の金融機関も優良経営なんだそうだ。景気が良ければ金融も良くなる、という昨日の話を裏付けるような地域なのだ。

○昼と夜のダブルヘッダーである。昼の出来はいまひとつ、夜の方が良かった。最近は「企業エコノミストが見た小泉政権」をテーマにして、少しずつ話のブレンドを変えながら演じている。これで4回目なんだけど、なんか話していて釈然としないなあ、とずっと思っていたのだが、帰りの新幹線の中で理由が分かった。分かってみれば簡単なことであった。

○全体の流れを思い切り縮めてしまうと、自民党総裁選はあんまり盛り上がりそうにないし、日本経済も良くないし、経済政策はズレているし、先行きは期待できませんなあ、となるのである。これじゃ何の意外性もない。「お前の話はつまらん!」である。会場に大滝秀治さんが居なくてよかった。

○私はシンプルでユニークな話が好きだ。シンプルでもなくて、ユニークでもない議論や文章は願い下げである。でも、小泉政権や日本経済を語ろうとすると、なかなかシンプルかつユニークに、というわけにはいかない。そういう時代に生きているんだよ、と言ってしまうとそれまでなんだけど、それで納得する気にもなれないので、何か工夫を考えなければならないのだと思う。

○ところでこんな本があります。

「素人のように考え、玄人として実行する:問題解決のメタ技術」

カーネギーメロン大学 金出武雄教授
PHP研究所出版、1500円、ISBN4-569-62457-X
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/456962457X/qid%3D1055173008/249-0251681-2114717

○非常に賛同することの多い本でした。金出氏はアメリカでロボット工学の最前線で活躍されている方らしいのですが、そういう世界における方法論が「シンプルかつユニーク」であることが興味深く感じました。知的な世界の格闘術を語っている本ですが、コンピュータと人間の関係、アメリカ社会と日本社会の文化論なども含まれていて、ちょっと知ったかぶりができるようになるという功徳もついています。お勧めです。

○どうでもいい話なんだけど、カーネギーメロン大学というと、1回だけ行ったことがある。変な理由で、ピッツバーグで行われた会議のワープロ要員に駆り出され、ホテルで缶詰になりそうになったときに、3時間だけ空き時間があった。タクシーに飛び乗って、「3時間だけあるから、観光がしたい。どこへ行けばいい?」と聞いたら、運転手が「それならばカーネギー博物館だろう」と乗っけてくれた。そこから歩いて、この高名な大学のキャンパスに侵入し、しばし芝生で寝そべってから帰って来た。不思議なことに、博物館の方は何を見たか、まるで覚えていない。最近はまるでモノグサな人間になってしまっているのだけど、あの頃は元気だったなあ。


<6月26日>(木)

○衆議院議員の河野太郎氏の「ごまめの歯ぎしり」6月25日号がこんなことを書いています。

橋本派の反抗勢力(下地とか大村とか)ではない若手議員も、ワタナベヨシミなら改革が進むから、総裁選挙の候補者に良いのではないかなどと言う。橋本派内でも、時計の針を戻してどうするという声があるようだ。

どちらかというと私はさっさと若手の候補者を決めて、政策を打ち出して、世の中に訴えようというほうだが(お前の言うのは塩崎だろ、と言われるが)、時期を待つべきだという若手も多い。早く仕掛けると、上に潰されるから、というのが理由だ。

下地代議士が橋本派を除名されれば、それを機に動けるではないかと思うが、なかなか除名にならない。それを待っているうちに、こっちが自民党を除名になったりして!?

○来たる自民党総裁選挙で、若手議員が独自候補者を立てる動きがあるようです。単に「小泉対亀井」の決戦では面白くないので、ぜひ三つ巴以上にして、論戦を盛り上げてもらいたいものだと思います。1998年の「凡人、変人、軍人」の戦い、そして2001年の「自民党食堂」(ああ、なつかしい。当欄の2001年4月7日分をご参照)決戦のような、中身の濃い経済政策論議を期待したいところです。それにしても河野さん、こんな形でリークしちゃうと、せっかくの水面下の動きがつぶされてしまうかもしれませんぞ。

○「ワタナベヨシミ」こと渡辺喜美衆議院議員は、7月7日(月)に赤坂プリンスホテルで政治パーティーを予定しています。午後5時からのセミナーでは、渡辺氏自身に加え、滝田洋一さん&かんべえの3人がパネリストを務めることになっています。せっかくだから、ここで宣伝しておきましょう。 お値段2万円はちょっとお高いですが、面白い発言が飛び出すかもしれませんよ。


●「渡辺喜美“脱”経済非常事態セミナー」

期日 平成15年7月7日(月)
時間 17:00 セミナー
18:00 懇親会
場所 赤坂プリンスホテル五色(2F)
会費 20,000円



<6月27日>(金)

○最近のかんべえ、木曜夜の頑張りが利かない。昨日もあっけなく寝てしまった。本当なら、さっさと今週号を書き上げて、午後4時からの最後の「ルック@マーケット」に出てやろうと思っていた。本日はオールゲスト総出演だと聞いていたもので。でも、お昼に来客があったりしたもので、書きあがったのが午後3時半。これはもう間に合わない。ということで、午後5時を少し過ぎた頃に、芝公園スタジオの番組終了パーティーにたどりついた。

○いやはや、いろんな人が来てましたぞ。週5日の番組を2年半も続けただけのことはある。いろんな声が飛んでました。「ルック@マーケットは、株式市場関係者の“トキワ荘”でした」「株価が歴史的な底値をつけた後なのに、番組中止は残念」「こうやって惜しまれるうちに終われるのは幸せ」などなど。白石キャスターの挨拶がいちばん立派だった、と書いておこう。

○会場には伊藤洋一さんも顔を見せた。と、思ったら自分の番組である「ネクスト経済研」の収録のためにスタジオに来たのだった。この番組も「ルック@マーケット」とともに終了となる。残念ですねえ。そういえば、かんべえがこの番組に呼ばれたのは、伊藤さんが無理に押し込んだことがきっかけだった。

○内山キャスターにはとってもお世話になりました。あらためて御礼申し上げます。それからお疲れさまでした。番組終了後、東京タワー下で奢ってもらったビールは通算で何杯になったでしょう。あそこでの会話がいちばんの勉強でした。

○それにしても今日でこの番組はおしまい。ここで出会った人たちと、また一緒に仕事がしたいものです。幻の「個人投資家のためのホンネの情報番組、ルック@マーケット」を懐かしむ人は、この掲示板でお会いしましょう。

●ルック後いどばた会議 http://www.21styles.jp/bbs/ucci/index.html

○ところで今日の会場では、「かんべえファン」を名乗る方から朝日オープン将棋選手権の扇子を頂戴しました。うれしいぴょん。


<6月28日>(土)

○柄にもない話をいたしますが、安岡正篤著『新編 百朝集』の勉強を始めたのである。東洋哲学の大家が撰した百の詩歌、文章がまとめられた小冊子である。読んでいてなるほどねえ、と思うことが多い。

○(44)は「一利一害」。耶律楚材による言葉である。「一利を興すは一害を除くにしかず。一事を生やすは一事をへらすにしかず」。デフレ時代のきびしいリストラを目の当たりにしている身には、まことに痛切に感じられるものがある。思えばかんべえの新入社員当時の上司は、組織の仕事を増やさない人であった。一見、消極的に見えるけれども、長い目で見るといつもそれが最前手だった。「やさしい問題はやさしく解け」という、とても重要な原則を教わったことを思い出した。

○(47)は「三学」。佐藤一齋の「言志晩録」から。「若くして学べば壮にして為すあり。壮にして学べば老いて衰へず。老いて学べば死して朽ちず」。生涯学習は大事だよ、ということなんだろうが、オレもそろそろ「壮にして学ぶ」ことに疲れてきたなあ、とはたと気がつく。最近は講演会などに行ってもノートをとらなくなった。新しいことも、片端から忘れてしまう。で、何か大事なことを発見したら、とりあえずHPに書いておけばいいや、などと思っている。あ、そうそう、読者からのメールの返事も、すっぽかすことが増えております。

○と、ここから先の話は急速に落ちる。午後から汐留のWINSに出かけて上海馬券王と合流する。できて1周年ということだが、非常に空いている。ここは本当に場外馬券場というものだろうか。購入の最低単位が500円というのがケシカラヌ。これでは三連複が買えないじゃないか。それでも建物は新しいし、いつでも椅子に座れるし、じっくり勝負するにはいい環境である。

○馬券王センセイ、例によって点数をたくさん買っている。大穴こそないもののちょこまかと当たって、しっかり浮き。当方は福島、函館のレースはかすりもしなかったが、阪神の11、12レースがバタバタと当たり、めずらしくちゃんと浮く。2人とも勝つというのは滅多にないことゆえ、本来であれば祝杯を上げに行くべきところながら、諸般の事情により帰宅。

○上海馬券王とかんべえは高校時代の同級生。互いに「若くして学べ」だった仲間なわけだが、二人とも42歳ともなると疲れも溜まるし、体もあちこちガタが来ている。しみじみ感じるのだが、あと3年くらいしたらガクッと学習能力が落ちるだろうと思う。その後はどうなるのか、「老いて学ぶ」方法というものもあるんだろうけど、まだそれは見当もつきませぬな。馬名が覚えられなくなったら、どうやって競馬をするんでしょう。

○それはさておき、勝負は明日の宝塚記念ですな。予想をしっかり書くように、馬券王センセイにプレッシャーをかけておきました。


<6月29日>(日)

○このニュース、たぶん明日には大騒ぎになってしまうんでしょうね。嘘ではないようです。

http://www.sanspo.com/keiba/top/ke200306/ke2003062901.html

【宝塚記念】驚愕!ミラクル単勝1200万円買い

 29日開幕する第44回宝塚記念の土曜前売りで<5>枠(10)番ヒシミラクルの単勝を1222万円も買った男性がいたことが分かった。この大口投票でミラクルの単勝は一時、1.7倍。最終的には昨年の年度代表馬でファン投票1位の(5)シンボリクリスエスがトップに立った。

 その中年男性が東京・港区のウインズ新橋に姿を見せたのは、28日午前10時55分ごろ。高額払い戻し窓口に安田記念の的中馬券を差し出すと、計算機の金額表示は1222万円余。すると、男性は大金に直接手を触れず、「(10)番ヒシミラクルの単勝を全部買ってくれ」と売り場の女性に伝えた。昨年の菊花賞を10番人気、今春の天皇賞を7番人気と、低評価でGI2勝した芦毛の4歳馬だ。

 男性が記入したマークカードを受け取ったJRA職員らは、自動券売機を通して発券。券面の上限が50万円のため、24枚以上の馬券が男性に手渡された。

 前日発売開始から約2時間後の大口投票で、ミラクルの単勝は1.7倍の1番人気に跳ね上がった。午後になっても1番人気のままで、午後3時過ぎにクリスエスがトップに立った。土曜前売りの最終オッズは、この大口投票があり、クリスエスの2.8倍に次いで4.3倍の2番人気。ミラクルの単勝は土曜だけで1636万4100円売れ、そのうち74.6%が中年男性の購入分だ。

 JRA関係者によると、男性は特に金持ちという雰囲気ではなかったという。果たして、1220万円余りがさらに大きく転がるのか、それとも夢と消えるのか−。結果は29日午後3時40分過ぎに明らかになる。

○昨日、午後2時ごろにウインズに行ったとき、単勝一番人気がヒシミラクルだったので変だなあ、と思ったんです。「よっぽど大口の買いが入ったんだろう」と上海馬券王も言っておりました。それが1220万円ですと?これが外れていれば、単なる大馬鹿野郎で済むわけですが、当たってしまったということは、この人、タイムマシンで未来からやってきたんでしょうか。それとも、文字通りの「メークミラクル」なんでしょうか。

○ヒシミラクルの単勝は1630円。ざっと2億円ですか。いやはや、恐れ入りました。


<6月30日>(月)

○お知らせを何点か。

(1)先週号の中で「Living History」の部分訳を紹介しましたが、その中でヒラリーが週末に行くことを予定していたMartha's Vineyardというのは、そういう名前の葡萄畑があるわけじゃなくて、ケープコッド沖にある島の名前であることが判明。ニューイングランド地方では著名な避暑地なんだそうです。親切な読者からのご指摘でした。サンクス。

(2)毎度、お世話になっている政治ジャーナリストの角谷浩一氏が、明日の衆院イラク特別委の参考人質疑に参考人として出席します。持ち時間は9時30分から10分間です。今夜会ったときに「すごいね」って言ったら、「俺、何を語ればいいんだよ」ととぼけたことを言ってました。テレビ中継、ありますよね。ご注目。

(3)マルテックス・インベスターで受けたインタビューの後編がアップされました。見ておくれやす。

http://www.multexinvestor.co.jp/editorial/EditorialContent.asp?edid=120030630





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by Tatsuhiko Yoshizaki