●かんべえの不規則発言



2021年8月







<8月1日>(日)

○ちょっと熱っぽいなと思ったら、37度台でありました。これはワクチンが仕事をしているということでありましょう。せっせと水分を取って、頻繁にトイレに立って、後は延々と五輪中継を見る。

○松山英樹選手をずっと見てましたが、ゴルフという競技はこんな暑い中でたいへんですなあ。霞ケ関カンツリーはさすがに美しいコースなるも、なんでこんなに頻繁にバンカーに入っちゃうんだろう。いやはや、こんなに辛そうなスポーツを、道楽でやる人が居るとは信じられない。

○ということで、エアコンの効いた家の中で8月4日に出演予定の「モーサテ」の準備をする。と言っても、ネタは夏枯れ気味である。ホントに何を取り上げたらいいんでしょうねえ。どれ、午後6時を過ぎたら缶ビールを開けることにしましょう。


<8月2日>(月)

○本日から緊急事態宣言が6都府県(東京&沖縄+埼玉、千葉、神奈川、大阪)に拡大したようであります。それにしては、今朝の風景はさほど変わっていないように見えましたな。

○そりゃあ無理もないことだと思います。正直、「ああ、またか」ですもん。つくづく政治家は、「自分たちの言ったとおりに国民が動いてくれる」などと考えない方がいい。介入効果は効かないのです。立法権を持っている政治家たちが、より強力な外出制限だって国会を通せばできるはずなのに、それを回避して「お願い攻撃」に逃げている時点で、説得力なんて皆無なのですから。

○感染症の専門家たちにも同じことが言えます。「国民の意識の変容」などというテーマを掲げている時点で、あまりにも「上から目線」ではありませんか。国民にお願いをするのなら、医療の受け入れ態勢についても何か言ってくださいまし。それが嫌なら、せめて「8割おじさん」みたいにトラックレコードの悪い人は黙らせてください。あなたたち全体の信用が落ちますからね。

○それよりも何よりも腹が立ったのは全国知事会でしたな。「県をまたぐ帰省や旅行など原則禁止を」ですと。東京の大学にいる学生諸君、あなたたちの故郷はこんな風に言ってますよ。彼らは何年後かに手のひらを返すように、「Uターン就職を検討してくれ」などというかもしれませんが、そんなの信用しちゃいけませんよ。つくづく危機の時こそ、人間のホンネは顕れるものですな。

○同じ人たちが、コロナが沈静化した後に「旅行に来てください」というかもしれませんが、それも以下同文です。こういう排他的な精神が、地方経済の衰退を招いているということが、なぜわからないのでしょう。「貧すれば鈍する」と言いますけれども、地方の味方をしてきたことが情けなく思えてきます。

○つくづく恐怖心は人を愚かな生き物にします。恐怖を克服するには、まずやせ我慢から。それが出来ないという人は、いやしくも人の上に立つべきではないと思います。


<8月3日>(火)

○本日は日本貿易会主催の商社エコノミストのシンポジウム(もちろんリモート形式)へ。勝手知ったる仲間と、「アフターコロナの経済」について語る。こんな回答をしました。


●アフターコロナのHOPEとして何に注目するか?→38兆円の家計貯蓄(FY2020)

●アフターコロナのダウンサイドRISKとして何を懸念しますか→ゼロリスク症候群

●アフターコロナで商社のビジネスにどんなChangeが出るか→「貿易→投資→ソリューション」


○中身は適当にお察しくださいまし。

○日本貿易会は長らく過ごした浜松町の貿易センタービルを離れ、現在は虎ノ門のコモンゲートビルに移転している。新しいオフィスはフリーアドレスになっていて、会議室や応接室もまことに立派。窓の外からは国会議事堂や議員会館を見下ろすことができる。

○今朝、文化放送に行ったときに、「貿易センタービルが建て替えになったときに、果たして皆さん戻ってきてくれるんでしょうか?」と心配されていましたが、確かにちょっと難しいかもしれません。

○さて、明日はモーサテに出演いたします。早起きされる方は見てやってくださいまし。


<8月4日>(水)

○商社エコノミスト業界、昨日、皆で会ったのが久しぶりだったこともあり、今日になっても互いにメールが飛び交うなど余韻が残っている。

○「そういえば6月の輸出は単月で7兆円超えていたけど、これっていつ以来?」と聞いてみたら、Sサンからの回答は「2007年7月〜2008年9月(除く2008年4月)と、2018年10月と、そして、2021年6月だけですね」。つまり2018年の瞬間風速の1回だけと、あとはリーマンショック前の貿易が絶好調だった時、ということになる。今年は7月の輸出入もたぶん強そうなので、現在の貿易は「リーマン前以来の絶好調」ということになる。

○「いやあ、こんなの実質輸出入を見ていたら気が付かないよね。価格の効果がいかに大きいかってことだよね」てなことに気づいた次第。今週は各企業の4-6月期決算が相次いでいて、トヨタ自動車さんの純利益が過去最高になったとか。そりゃそうだ、決算に大事なのは名目であって、実質じゃないんだもん。商社決算もまずまずで、従来型のビジネスが意外なくらいに好調であるとのこと。

○昨日は、「DXになると商社の従来型ビジネスもなくなるよね」みたいな話をしていたのだが、それはそれ、これはこれ。現実は直視しなければいけなくて、コロナ下の景気は意外と堅いのかもしれない。それ自体が一種のサプライズだと思いますが。


<8月5日>(木)

○今日は新規感染者数が東京都で5000人超、と聞くと瞬間ドキッとししますけど、「なに、それがどうした」と慌てていないふりをするのも、こういう世の中では大事なことだと思います。プリンス・オブ・ウェールズ号が日本海軍に撃沈されたときのウィンストン・チャーチル首相が、本当は激しいショックを受けていたのだけれども、議会ではさりげない振りを装ったというハッタリ術に学ぶべきところがあると思います。

○ときどき長文メールを頂戴する地方在住のお医者さまから、またまた心温まるメールをいただきました。当方が日々、乱暴に発するメッセージに対して、丁重なレスポンスをいただくので恐縮の限りであります。パンデミックのさなかにあって、当方はただ一人の命も救えない口舌の輩でありますので、内心忸怩たるものがございます。

○今この瞬間、全国各地に「今目の前にある為すべきことに対して、黙々と取り組んでいる」人が大勢いらっしゃることに対して、心から感謝と応援を申し上げる次第であります。その気持ちは、多くの人に共有されていることを確信するものであります。


<8月6日>(金)

○案の定、本日のNHK午後7時のニュースで、76年目の広島への原爆投下を取り上げるニュースは全体で5番目であった。コロナとか東京五輪とか、ほかにも伝えなきゃいけないニュースがたくさんあったからである。

○しかもこの日、広島市に乗り込んだ菅首相は、平和記念式典のあいさつで一部をすっ飛ばしたそうである。そうでなくても棒読みなのに、せめて正確に読んでくれよ、いや、それくらいお疲れなんだろう、間違いは誰にでもあるよ、などといろんな詮索が飛び交うところである。

○ワシはいわゆる「8月ジャーナリズム」が好きじゃない人なので、この手の「不謹慎」を責めたいとは思わない。8月6日→8月9日→8月15日という年中行事は、それが無意味とは言えないまでも、マンネリ化を厳に避けるべし、と思っている。ジャーナリズムの反対語は、アカデミズムではなくてマンネリズムですからね。

○戦争の記憶を風化させてはいけない、と言うのは簡単だ。しかしできっこないはずのことを、皆で出来る振りをする、という偽善も褒められたものではない。「日本は核兵器禁止条約を批准せよ」という議論も、「はいはい」と聞き置きつつ、本当にそうしてはいかんと思う。ロシアと中国と北朝鮮が完全に非核化してくれたら、考えても良いけれどもね。

○だって、もう昭和じゃなくて平成でもなくて、令和なんだもん。いかんなあ、また嫌われるようなことを書いてしまった。


<8月7日>(土)

○本日付の東洋経済オンラインに寄稿。タイミングがよかったせいか、よく読まれているようです。


●8月13日以降「菅降ろし」が始まるかもしれない


○それにしても、菅首相に対して「ボウヨミシャドー」という馬名を進呈したところ、昨日の広島原爆忌では棒読みもままならず、1ページすっ飛ばしてしまったそうで。いや、それはマズいぞ。明日の東京五輪閉会式後は、ますます風当たりが厳しくなるのではないかと思います。

○ということで、幻の永田町レースを取り上げてしまいました。その代わり、いつもの競馬予想がお留守になってしまいました。ただし明日のレパードステークス(G3、新潟11R、ダート、1800)は、不肖かんべえとしてはめずらしく、過去2年連続して高めの三連複を当てている縁起のいいレースなのである。せっかくなのでここで予想を書いておきましょう。


◎本命:オセアダイナスティ

○対抗:メイショウムラクモ

▲単穴:レプンカムイ

△ルコルセール

△ノースザワールド

△ハンディーズピーク


○もちろん当たるかどうかなんてわかりませんが、ここ2週間、五輪狂いで競馬を休んでいたので、イイ感じに来るかもしれません。まあ、その辺は自己責任でお願いいたしまする。

後記:メイショウムラクモ(○)が勝利。3着はレブンカムイ(▲)でしたが、2着のスウィープザボード(10番人気)は買えませんなあ。オセアダイナスティ(◎)は6着でした。


<8月8日>(日)

○東京五輪もとうとう終わり。まだ見ていない名勝負がたくさん残っている。とりあえずワシは、男子サッカーの決勝戦(ブラジル対スペイン)を見たいぞよ。それからバスケットボール女子の決勝戦も見ておらん。アメリカ相手に75対90で負けたというのは、かなりいい勝負だったのではないですか。というか、いつの間にこんなに強くなっていたのよ、女子バスケットボール。

○と思ったら、NHKが「見逃し動画のページ」を作ってくれているのですね。サッカーの決勝戦もここで見られます。実況は英語のみですが、民放のタレントから解説を聞かされるより結構であります。これはたいへん太っ腹な企画でありまして、全世界から見られてしまう。ちなみにNBCがやっているネット放送はログインが必要であるらしく、この点、NHKはご立派です。うむ、これで当分、暇を感じないで済む。

○ところが明日からは、夏の甲子園大会なのですね。開会式は、いきなり台風に見舞われそうですが。ともあれ、見るべきコンテンツはたくさんありますな。


<8月10日>(火)

○Axiosが取り上げた東京五輪に関する報道で、"Winners and losers of the summer games"という記事が面白い。果たしてどんな勝ち組と負け組が居たのか。


●勝ち組

メンタルヘルスへの気づき米体操の女王、シモーネ・バイルズ選手の棄権騒動は、大坂なおみの件が伏線になっていたこともあって、絶大なる支援を得た模様。

LGBTQコミュニティ:実に182人のアスリートがカミングアウトした。トランスジェンダーの競技参加問題も一歩前進か。

アメリカ合衆国:最終日に女子バスケットとバレーボール決勝に勝って、金メダル1個差で中国を超えたのだから、ご機嫌が悪かろうはずがない。

女性:今回の参加者は全体の49%が女性アスリート。東京五輪は過去のいかなる大会よりも、ジェンダー平等が達成されていた。


●負け組

NBC:視聴率は惨憺たる結果に終わった由。まあ、時差の問題もあったし、ストリーミングで見る人口が増えたせいもあるんでしょうけどね。

五輪禁止事項:「国家ぐるみドーピング」という罪状により、ロシアはROCになったけど、メダルはいっぱい獲得したし、国家と国旗掲揚がなかったこと以外は全然オッケーだった?

記録保持者:東京五輪は新記録ラッシュで、どんどん過去の記録が塗り替えられている。そりゃあまあ、道具もどんどん良くなっているしね。

ベラルーシ:アスリートがポーランドに亡命してしまい、非難の矢面に立っているのはルカシェンコ大統領。と言っても、これで悔い改めるようなタマじゃないですな。

Airbnb:そういえばそんな会社もありましたねえ。そういえば「民泊」って言葉も忘れ去られて久しいものがあります。


○わが国における東京五輪最大の負け組は「オジン世代」でしょうな。森会長から始まって、最後は名古屋市長に至るまで「未だに昭和の感覚」の老害がいかに見苦しいかが見せつけられました。なるべく早くお引き取りいただきたいですなあ。時代はもう2020年代ですぞ。


<8月11日>(水)

○今月号の文芸春秋は、巻頭インタビューが蔡英文台湾総統である。いやあ、時代を感じますなあ。


●日本によるワクチンの提供は「まさかのときの友こそ真の友」の証です。


○インタビュアーは船橋洋一さんなので、これは英語で行われたインタビューなのだろう。「まさかのときの・・・」の英文は、"A friend in need is a friend indeed."なんでしょうな。世が世なら中国政府がものすごい抗議をしただろうが、今やその片棒を担ぐような勢力はどこにも見当たらず、日本の世論は「中国が嫌がることをするのが正義」となっておる。しかるにそんな風に仕向けたのは、ほかならぬ中国外交というものである。

○「なんとなく反中」の気分は、西側社会全体に共有されている。どこかの英文紙が書いておりましたぞ。「東京五輪では開催に抗議する人たちが居た。すばらしいことだ。半年後の北京では、そんな人たちは見当たらないだろうから」などと。

○そうかと思ったら今月の中央公論は、「昭和の戦争、令和の視点」が特集である。いわゆる「8月ジャーナリズム」を嫌っているワシであっても、こういうちゃんとした研究は真剣に読みたいと思う。特に「満州事変」〜「盧溝橋事件」〜「第二次上海事変」〜「ノモンハン事件」という論文の連作は勉強になります。

○ところで今月の文芸春秋と中央公論には、どちらも北村滋前NSS局長が登場している。果たしてどんな意味があるのやら。せっかくお盆で時間があるのだから、こういうものはじっくり読みたいですな。


<8月12日>(木)

○とうとうマズいと考えたのでしょうかね、彼らも。


●東京人出5割削減を、分科会提言 医師会の積極関与も要請 8/12(木) 14:22配信

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は12日、深刻な感染拡大を受け26日までの2週間で集中的に対策を強化し、東京都の人出を昼夜を問わず緊急事態宣言直前の7月前半に比べて5割減らす必要があるなどとした提言を公表した。これまで新型コロナに対応してこなかった医療機関にも協力を求めたほか、各都道府県が地元の医師会に積極関与を促すよう要請した。


○分科会が初めて、「これまで新型コロナに対応してこなかった医療機関にも協力を求めた」そうです。これまで1年以上、ず〜っとその状態を放置してきたのですけどね。逆に国民の側に対しては、あーしろこうしろと「意識の変容」を求めてきたわけです。分科会の感染症専門家たちというのは、厚労省や医者仲間に対しては、強いことを言えない人たちだったのですな。

○その彼らが、いよいよ同業者に向かって、「あなたたちもちゃんと対応してくださいよ!」と言ったというのは、これはこれで画期的なことなのでしょう。裏を返せば、それくらい事態が深刻だと認めたことになる。ところが国民の側は、今までの経緯に辟易していて、「このうえ5割削減?よく言うよ」というモードになっている。そりゃあいくら言っても聞かないし、効かないでしょうよ。

○もっともこんな状況に立ち至ってしまったのは、都合のいい時だけ専門家に責任を押し付けてきた政治の責任でしょう。「東京五輪開催の是非」みたいなテーマでは、彼らは諮問を受けてませんからなあ。


<8月13日>(金)

○注目の時事通信社8月世論調査が出ました。


●内閣支持、横ばい29% コロナ対応「評価せず」半数超


  支持 不支持 立憲民主 自民 無党派 青木レシオ
Aug-21 29.0% 48.3% 3.9% 23.7% 61.4% 52.7%
Jul-21 29.3% 49.8% 4.5% 21.4% 63.9% 50.7%
Jun-21 33.1% 44.2% 2.9% 22.8% 63.2% 55.9%
May-21 32.2% 44.6% 4.4% 21.4% 64.8% 53.6%
Apr-21 36.6% 37.7% 4.2% 22.5% 62.2% 59.1%
Mar-21 35.0% 41.0% 4.8% 23.0% 62.4% 58.0%
Feb-21 34.8% 42.8% 3.8% 25.5% 61.2% 60.3%
Jan-21 34.2% 39.7% 3.1% 23.7% 62.8% 57.9%



○きっとここで青木レシオが50%を割るのではないか、そうなればきっと菅降ろしが進むぞ、と思ったのですが、なんと2pも上昇しております。

○それにしても立憲民主党の3.9%は情けない。こんなときに野党第一党の支持が下がるというのは、どれだけ信頼されていないのでしょうか。何しろ公明党の4.5%を下回るというから深刻な状況である。

○うーむ、こんなことになるのでは、週明け8月16日の4-6月期GDP速報値も、意外な結果が出るのかもしれんなあ。普通に考えれば「横ばい、ややプラス」くらいなんですが・・・。


<8月14日>(土)

○横浜市長選挙は案の定、盛り上がっておりますな。


●横浜市長選、政権運営に影響 総裁選・衆院選占う

 22日の横浜市長選投開票まで1週間あまりとなった。菅義偉首相は衆院神奈川2区選出で横浜市はお膝元になる。首相は元国家公安委員長の小此木八郎氏を支援する。選挙結果は今後の自民党総裁選や次期衆院選といった政権運営を左右する。

今回の市長選が注目されるのは、首相が小此木氏を支持すると明言したためだ。7月29日発行のタウン誌で「全面的かつ全力で応援する」と訴え、党役員会でも支援を呼びかけた。

小此木氏は2020年総裁選で菅陣営の選挙対策本部長も担った。地方自治体の首長選に現職閣僚が辞任して出馬するのも、首相が地方選の候補への支持を表明するのも珍しい。市長選が国政と密接にかかわる構図になった。

8月8日に告示された後、首相が横浜市内に入って小此木氏を応援したことはない。

一方で告示後の小此木氏の「第一声」には、神奈川県選出の河野太郎規制改革相や甘利明党税制調査会長、坂井学官房副長官が駆けつけた。小此木氏と衆院初当選同期の野田聖子幹事長代行も参加した。国政選挙並みの態勢を敷く。


○横浜市長選挙の争点はIR誘致の是非だ、とよく言われます。が、皆さん、IRの何たるかをあまりご存じない様子。特に反対派の方々が。例えば、「横浜市は、IRを断念して中学校給食をやってくれ」などという声を聴きますが、中学校給食を始めるための財源確保のためにもIRの建設を、と林市長は考えているはずです。

○ただしIRをめぐる状況は一変しました。ひとつには世界的なコロナの蔓延でありますが、それよりも大きいのはラスベガス・サンズ社が日本市場から撤退したことです。その経緯は、当欄の昨年5月13日分でご説明しました。財務省がお馬鹿な(欲張りな)ルールを作ったために、「そんなら、やめとくわ」という合理的な判断をしたということです。ギャンブルの胴元は堅い商売ですから、下手なギャンブルはしないのです。同社のオーナー、シェルドン・アデルソンは今年1月に亡くなられましたが、正しい決断だったと言えましょう。

○サンズ社が参入していれば、それこそ横浜には100億ドル(1.1兆円)規模の投資があったことでしょう。その可能性が消えた時点で、横浜IRに参加してくれそうなのはアジアのしょぼいオペレーターしか残っておらず、うまみはさほど残っておらんのです。さらにウィズコロナの時代となりますと、カジノに併設する巨大な見本市会場やショッピングセンターやアトラクションも、根本的な計画の見直しを迫られることになります。こうなると、せっかく通したIR法案も、「MICEを作る」といった大きな話ではなくなってしまいます。

○さびれた観光地をテコ入れするためのカジノ、みたいな話であれば、なにも横浜でやる必要はないのであります。それこそ小樽とか和歌山とか佐世保とかでやればよい。それはそれとして、大阪が夢洲で計画しているMGMとオリックスによる大型IR建設は頑張ってほしいと思います。せっかくIR法案を通したのですから。

○菅さんは、「見切り千両」で地元へのIR誘致をあきらめたのだと思います。それはたぶん現実的な判断だと思います。ただし横浜市長選挙の争点は、「菅支持か、反菅か」になってしまったのではないでしょうか。要するに小此木さんが勝つか、そうでないか。そのことは、政局に直接響いてくる。

○菅さんは政治家としては、意外とギャンブラー体質だと思います。そのことは、ワクチン接種計画や五輪開催の経緯を見てもよくわかりますよね。ここが勝負だ、と思うと「エイやっ!」と賭けに出ちゃうタイプなんです。今回の横浜市長選挙でも、誰を支持するかをぼかしておく手もあった。でも、小此木支持を明確に打ち出してしまう。こうなると8月22日の勝負がどうなるか、まことに興味深いところであります。


<8月15日>(日)

○「東京五輪ロス」から再びアニメの世界に舞い戻り、先週からアマゾンプライムで見始めたのが『ODD TAXI』なのである。全13話、やっと見終わったのですが、これってすごい名作ですなあ。

○表向きはよくできたミステリーです。主人公がタクシードライバーで、犯罪組織が出てきて、警官も出てくるが、もちろん善良なヤツばかりではない。謎や伏線がいっぱい出てくるんだけれども、最終回では全部キレイに解き明かされる。そして気のきいたセリフがいっぱい飛び交う。登場人物が皆、動物の格好をしているのが不思議に感じられるが、とびきり秀逸なハードボイルド・ドラマなんです。

○この物語には、売れてない漫才コンビ、売れかけのアイドルとその熱狂的ファン、バズりたがっている学生、ゲームで心が壊れてしまったサラリーマンといった、きわめて今風なキャラクターが登場する。そして小道具として、SNSやらドラレコやら、出会い系サイトやら動物集めゲームなどが登場する。いやー、知らんかった、今の世の中ってそういうことになっていたのね、と学習することしきりであった。

○ワシも昔はミステリーものが好きで、大沢在昌とか高村薫とか宮部みゆきとか馳星周とかを読んだものである。ところが変な話、ケータイ電話が普及し始めた頃から、なんとなく読まなくなった。ハードボイルド小説の主人公は、無数の「お使い」を果たしながらいろんな人に会い、謎を解き明かしていくのが「お約束」であった。ところがIT革命やらDXやらの時代になると、主人公がほとんど動かずに情報収集ができることになってしまう。これではハードボイルドにならんではないか。

○その点、「オッドタクシー」は、誰もがスマホを持つようになってしまった時代において、ちゃんとハードボイルドなドラマを構築できることを立証してみせた。さまざまな野心を持つ男女が登場し、彼らの浮き沈みが残酷に描かれる。その中には、主人公を惑わすヒロインや、助けてやらなきゃいけないダメな友、気遣ってくれる得難い友などがいる。彼らが行き交う姿は、何度も見る者の意表を突く。そして舞台はもちろん東京である。

○しかもこれ、アニメでないと絶対に作れない世界なのである。「エヴァンゲリオン」は実写版が作られるそうだし、「ゴールデンカムイ」も完結後には是非そうして欲しいと思うけれども、「オッドタクシー」の実写化は不可能なのである。いやあ、これはよくできている。

○敢えていちゃもんをつけるとしたら、ドラマ最終盤のたび重なる「どんでん返し」には快感を覚えたけれども、オーラスの種明かしはちょっとだけ後味が悪かったなあ。まるで作者が、「どうだ、参ったか!」と言っているように思えたもので。いや、ここは素直に、「参りました」と言うべきなのかもしれない。だって、掛け値なしに面白かったんだもの。


<8月16日>(月)

○アフガニスタン全土をタリバンが制圧してしまいました。なんという速さでしょうか。来月の9月11日は同時多発テロ事件20周年だから、今月末までに米軍はアフガンから撤退する、とバイデン大統領は宣言していた。それを過ぎると、アフガンの政権は吹っ飛ぶかもしれんなあ、と思っていたのだけれども、そのはるか前に首都カブールは陥落し、ガニ大統領は国外に逃亡してしまった。「速い、速過ぎるよ!」

JDさんのメルマガによれば、政府軍は30万人、タリバンは6万人なのだそうだ。それがなんでこれだけワンサイドゲームになるかと言えば、前者には戦うメリットがなく、むしろ汚職で得たおカネなど守るべきものが多かったのだろう。だから彼らは米軍に支援を要請することもなく、一目散に逃亡してしまった。逆に後者は失うものがなく、信仰だけはある。アメリカの撤退宣言に、勇気百倍という状態だ。これでは勝負になりませんなあ。

○アフガニスタンは近代的な国民国家以前の、部族の集合体のような国である。気候は厳しく、地形も険しい。過去には「帝国の墓場」と呼ばれ、大英帝国やソ連が侵攻したけれども、ごく短期間で撤退している。アメリカのアフガン戦争は「9/11テロ事件」の翌月から始まり、きっかり20年で終わったことになる。この地に足を踏み入れて調子が狂ったのは、古くはアレクサンダー大王に始まるというから、もって瞑すべしであろう。

○こんな風になったからには、1996〜2001年のようなタリバン支配が復活するのであろう。とはいえ、支配はできるけど、統治ができないのが彼らの悪い癖である。国境線を守るとか、税金を徴収するとか、ケシ畑に代わる産業を興すとか、真っ当な外交関係を樹立するとか、コロナ対策をするとかといった職務には適していない。なにしろ宗教政権なのですから。

○20年前にタリバン追い落としに功があった北部同盟も健在である。ドスタム将軍、というまるで『機動戦士ガンダム』に出てくるような名前のウズベク系の戦士が居て、この人も今回はとっとと逃げてしまった。とはいえ、彼は機を見て戻ってくるだろう。その際には『ドスタム将軍の逆襲』編が見られるはずである。これはこれで、ちょっとだけ楽しみではある。

○それにしてもアメリカは、なぜこのタイミングでアフガニスタンを見捨てたのか。せめてこれが冬場であれば、過酷な気候がタリバンの攻勢を妨げてくれたはずである。が、そんなことを考えないのが古来、アメリカ外交というものである。かつて米外交官ジョージ・ケナンは、"Democracy fights in anger."(民主主義国は怒って戦争をする)という名言を残した。中山俊宏教授がツィートで、これに"and retreats, not in defeat, but in fatigue."(そして敗退はしないまでも、疲労困憊とともに退却する)という後段を加えていた。

○それを不肖かんべえは、こんな風に拡張してみた。

民主主義国は怒りとともに戦い、
不安とともに駐留し、
長期化とともに非難を浴び、
疲労困憊とともに撤退する。

○いやもう、これがアメリカ外交でなくして何だろうか。彼らは「帝国」になる十分な国力を備えているのだが、どこかナイーヴ過ぎる。残酷になり切れずに、どこか課題を残して撤退する。アフガンからの撤退はトランプ前大統領が言い出したことで、バイデン大統領もその路線を踏襲した。アメリカ世論的にはそれが正義なのである。共和党はこの件を使ってバイデン政権批判を展開するだろうが、それはどこか腰の引けたものになるはずである。

○今ごろ、中国は怒り狂っていることだろう。「アメリカはなんという無責任なことをしてくれるのだ。アフガンと国境線を持つ(ワハン回廊)国として、中国はタリバン政権と接触し続けなければならない。あの狂信者どもが新疆ウイグル地区の分離独立に手を貸そうものなら、目も当てられない。国境を接することがもたらす緊張感を、アメリカは永遠に理解できないのだろう」などと。

○日本としても、他国と国境線を持つなどという緊張は勘弁したいものである。ああ、島国でよかった、と心から感じるところである。


<8月17日>(火)

○再び話は「オッドタクシー」に舞い戻る。このドラマを見て、ワシが感心したことのひとつに、「今の若い人たちは『自己肯定感』に悩んでいるのか!」ということがありました。

○アイドルを目指す女の子の1人は、「自己肯定感なさ過ぎでしょ!」と相方から突っ込まれ、「小さい頃に、親から『お前にはできない』と言わ続けて育ったから」と痛い告白をする。また、SNSでバズりたいと願っていた学生は、幸運にもユーチューバーとしてブレイクするのだが、あっけなく馬脚を現してしまい、自分が敵としてつけ狙っていたオヤジから、「お前の自己承認欲求が強いのは、自分に自信がないからなんだ」などと痛いところを突かれてしまう。

○他方では自己肯定感が強過ぎるキャラというのもいて、それはそれで自分の野心と現実とのギャップに悩んでいたりする。真面目な話、フォロワーの数や「いいね!」の数が自分の価値であるかのように勘違いしている人たちにとっては、毎日が苦痛だ言うことになりかねない困った世の中になってしまった。

○ワシが生まれて初めて真面目に英語の勉強をし始めた頃(ちなみに30歳前後であった)に、"Self Esteem"という言葉の意味で悩んだことを覚えている。辞書を引くと「自尊心」と書いてあるのだが、ちょっと違う。今から思えば簡単で、「自己肯定感」のことなんですな。とにかく昔からアメリカ人にとっては、このSelf-Esteemが大問題であった。他方でイギリス人は、「アメリカ人が悩むSelf-Esteemほどくだらない問題はない」などと言い切っていて、「わが意を得たり!」と拍手したものである。

○思えば、昔からアメリカは競争社会で、「個の自立」がないと生きていけない社会であった。端的に言えば、そうでないとカネも入ってこないし女にもモテない。この2つがなかったら生きている甲斐などないのがアメリカ社会であるから、だからこそ「自己肯定感」を持つことが重要なのであった。

○ところが昭和の頃の日本社会は、どこかの会社員になった瞬間に「滅私奉公」で生きていくことが決まっていたので、そんなことは考えなくて済んだのである。また、人知れぬ苦労を誰かが見ていて、ちゃんと評価してもらえた良き時代であった。後世の人たちは、それを「社畜の幸せ」などと言って非難するのであるが、会社人間が跋扈していた時代には、「自己肯定感」などは不要なシロモノだったのだ。

○それが今では日本も、立派に「個の自立」が必要な世の中になってしまい、長期雇用慣行や年功序列制賃金は唾棄すべきものとされて久しい。それで若者たちに対して世の中は、お前たちガンバレよ、会社は面倒を見ないけど、自費でリカレント教育もできますよ、自己研鑽してイノベーションを起こしてね、日本経済の未来はあなたたちに懸かっているぞ、などと言っているわけだから、これはなんとも罪深い世の中になってしまったものである。

○なんてことを、昔からカケラほども会社人間ではなかったワシが言うのも不届き千万なのであるが、「今の若い人たちは大変なんだねえ」と今ごろになって気づいた次第である。まあ、昔は昔でほかにいっぱい大変なことがあったから、あなたたちに同情はしないけどねえ。


<8月18日>(水)

○アフガニスタン情勢に戻りましょう。

○タリバーンの天下が戻ってきて、皆が心配しているのはカブール国際空港の混乱や、せっかく向上した女性の地位がまた貶められるのではないかということだ。特に女性の地位は過去20年の前進なのだから、失われてほしくはないものである。「大人になった」(少なくともそういう振りをしている)タリバーンは、表向き「われわれは昔とは違う」(女性はイスラム法の範囲内で守られる←それが怖いんですけど)と言っている。

○今から20年前、世界がアフガニスタンに対して抱いていた心配は、「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」であった。イスラム原理主義者が「偶像崇拝だ」ということで、AD5〜6世紀に作られた貴重な世界文化遺産たる巨大仏像を破壊することが惜しまれたのである。それと同じ時期には、アフガニスタンでは干ばつによって100万人の餓死者が出ていたというのに。

○古代の遺跡よりも、生きている人間の方が心配されるようになったのは、たかだかここ20年程の「進歩」なのかもしれない。まあ、それはそれとして、古代の遺跡もちょっとだけ気にかけておく方が良さそうではある。


<8月19日>(木)

○初めての仕事に取り掛かるのは楽しいものであります。こんな年になってもというか、こんな年になったからこそ、新しい仕事には値打ちがあるというものです。

○ひとつは「週刊 金融財政事情」という雑誌で連載を始めたこと。この週末に出る8月24日号から登場しますが、「コロナ下のリーダー群像」というシリーズです。コロナ対策に苦しむ世界の指導者を取り上げるという企画で、とりあえず3回分までは入稿済み。4回目以降は、少しやりやすくなったかもしれない。

○それから土曜日には、「モーサテサタデー」に初登場すること。自宅からのリモート出演になるのですが、これってSkypeでやっているんです。本日、池谷さんと打ち合わせをしたのですが、ウチのPCでスカイプ使ったの初めてでしたよ。池谷さんとの掛け合いは久しぶり。しかも長尺ですので、話はどこまで広がることやら。

○初めてやる仕事には不安がある。そこがいいのですなあ。ちょっとだけワクワクしております。


<8月21日>(土)

○ということで、本日は「モーサテサタデー」に初出演しました。


●日本の行方 経済と政治


○このモーサテサタデー、金曜日のNY市場をチェックできるので便利なんですよね。いつもこれを見てから、「モーサテサーベイ」のアンケートに答えるようにしています。

○今日は前半は貿易統計について、後半は日本の政局について語っております。全部見ると1時間超えちゃいますので、興味のある部分だけでもどうぞ。池谷さんが上手に聞き出してくれています。

○ユーチューブというのは速報性はあまり関係なくて、あとからちょっとずつ視聴が増えていく感じなんですね。それからチャットで飛び交う会話が面白い。さて、どれくらい視聴が伸びてくれますか。おっ、鈴木敏之さんの回は7万越えですか。こういうのを競ってしまうのが、ネットの怖さなんだけどなあ。


<8月23日>(月)

○昨日の横浜市長選挙はゼロ打ち(午後8時当確)でした。小此木八郎さんはこれで政界を引退なんだとか。あたしゃGi !nz(ギインズ)のコンサートで、八郎さんが"My Way"を歌うのを聞いたことがあるだけなんですが、なんだか惜しいなあ、と思います。

○逆に当選した山中さんはこれから先がたいへんでしょう。横浜市会(なぜか市議会とは呼ばない。昔からそうなのらしい)では、全部で85議席中、与党は立憲・国民フォーラムの20人と日本共産党の9人だけなので、これから先は針の筵なんじゃないでしょうか。自民(36人)と公明(16人)はどうするのか。今後が見ものです。

○以前にも当欄で書いた通り、「横浜IR」はほとんど終わっていた話。いちおうは「ゲンティン+セガサミー+大林組+鹿島建設+綜合警備保障」と「メルコ」の2グループが審査を通過していたのですが、シンガポールやマカオのオペレーターじゃ所詮は力不足となったことでしょう。面白いことに、今日のセガサミーの株価は上がっていた。ここを先途と売ってくる投資家が居る一方で、「知ったら終い」とばかりに買いに回る側もいる。そりゃあ後者の方が賢いよねえ。

○IRについてはすでに法案が通っていて、日本政府としては「大型を2か所と小型を1か所=合計3か所」を想定していたのだが、この調子でいくと「大型は大阪だけ、小型は和歌山と長崎」みたいな妥協をすることになるのかもしれません。その場合は「大型1か所と小型を2か所」となる。ただし首都圏で東京都にはそんな余力が残っていなさそうだけれども、千葉県はまだワンチャンあるんじゃないかなあ、というのがカジノ好きのワシのドタ勘です。

○あらためて選挙結果をひもといてみると、いろいろ興味深いことがわかります。


◇横浜市長選開票結果    

506392 山中 竹春 無新=当

325947 小此木八郎 無新

196926 林  文子 無現

194713 田中 康夫 無新

162206 松沢 成文 無新

62455 福田 峰之 無新

39802 太田 正孝 無新

19113 坪倉 良和 無新

       (選管最終)〔共同〕



*1:小此木票と林票を足すと52万2873票で山中票を上回っていた。保守が分裂して、立憲民主と共産が協力すると、そりゃあこうなりますわなあ。

*2:トータルの票数が約150万票で、トップ当選が50万票ということは約33%。とりあえず再選挙にならなくて良かったね。

*3:元長野県知事が元神奈川県知事を上回るのはいかがなものか。まあ、田中康夫さんは「どっちにも入れたくない有権者」にとってい絶好のタマだったのかもしれません。

*4:供託金240万円は有効投票数の10%以下なので、約15万票が足切りラインというのは妥当だったのかなあと。


○それにしても解せないのは菅首相の言動です。


●首相、総裁選出馬の意向「考え変わらず」


○もうちょっと含みを持たせる表現をすればいいのに、これではますます「よーし、そこまで言うならとことん地獄を見せてやろうじゃないか!」との地元反発を招きかねない。横浜市長選挙も、「IR誘致の是非が焦点」などと言われていたのは序盤戦に過ぎず、最後の頃は「菅政権を認めるか、認めないか」が争点になっていたような気がします。

○仮に菅さんがこのタイミングで、「いろんな人の意見を聴いて決める。自民党総裁としての私の任期は、安倍前首相から託された9月末まで。そこまでは全力で走り切りたい」とでも言えば、いきなり「いい人」になれたはずです。さすれば自民党総裁選はますます盛り上がり、野党の動向など一顧だにされなくなったはずです。党のためにも日本のためにも、それが最善手だったのではありますまいか。

○ただし不肖かんべえの感慨は、プロの政治記者から見るとまったくナイーブの極みなんだそうで、「あの人なら総裁選前の解散もやりかねない」という見立てであるらしい。最近の菅(すが)首相はとにかく周囲の言葉が耳に入らなくなっていて、どれくらいそうなっているかというと、菅(かん)首相なみなんだとか。国家の危機管理として、それはちょっと怖いぞ〜。前回は震災で今回はコロナ。頼むから何とかしてくれえ〜。


<8月24日>(火)

○来月になると、1年ぶりで自民党総裁選挙が行われることになる。ところが今回の議員票は383票になる、と聞いて???となりました。だって去年は393票だったんですよ。この1年で、自民党議員は衆参合計10人も減ったことになる。さて、どう計算すればいいのか。

○たぶんこういう計算になるのだと思います。間違っていたら、どなたかお知らせください。


(1)議員辞職によるもの    菅原一秀氏、 吉川貴盛氏

(2)選挙戦出馬による辞職  岩井茂樹氏(静岡県知事選)、 小此木八郎氏(横浜市長選)、 林芳正氏(衆議院への鞍替え)

(3)不祥事による離党  松本純氏、大塚高司氏、田野瀬太道氏(いわゆる銀座三兄弟)、 白須賀貴樹氏

(4)特殊事情による離党  橋本聖子氏(オリパラ組織委員会会長就任に伴うもの)


○こうやって10人の顔ぶれをしみじみ思い起こすと、やっぱりポジティブには捉えがたいものがあります。しかも吉川氏の補選は不戦敗、岩井氏と小此木氏は負けちゃっています。それだけ党勢は落ちていることになる。

○この1年間の菅内閣、これはやっぱりマイナスだったと思うなあ。ま、あたしゃ党員じゃないのですけどね。


<8月25日>(水)

○横浜市のIR誘致に対する準備が、どれくらい念の入ったものだったのか、このページをご覧いただくとよくわかります。


●横浜イノベーション IR(公式ウェブサイト)


○これだけ準備したものを辞めるわけですから、新市長はたいへんだろうと思います。とりあえず官僚機構は抵抗するでしょう。まして横浜市会(市議会にあらず)で立憲民主党は少数与党ですし。ついでながら、「ハマのドン」がやるぞ、と言っている構想のHPはこちら。上記と見比べると、結構笑えます。


●一般社団法人 横浜港ハーバーリゾート協会


○まあ、それもこれも民意なんだから仕方がありません。でも、1回の市長選挙でIR事業が推進不能になる事例を見てしまった後では、海外のカジノ運営会社が日本市場に参入するリスクは重く感じられるでしょうね。大阪、和歌山、長崎の構想だってどうなるかわかりませんぞ。まあ、大阪は府も市も維新がガッチリ押さえているようですけれども。


<8月26日>(木)

○日々、せっせと締め切りをこなしております。で、ハッと気が付いたら、「週刊 金融財政事情」で始めた連載の第1回が、ダイヤモンドオンラインに転載されてました。


●コロナ下の指導者の条件とは?日本で目立つ「謝り下手」の政治家たち

連載セミナー「コロナ下のリーダー群像」第1回 コロナ前後で一変した世界とその指導者たち

吉崎達彦:双日総合研究所チーフエコノミスト


○この第1回が総論編で、第2回以降は各論編として個別の海外指導者を取り上げていきます。現在、第4回分のボリス・ジョンソン編を執筆中。まあ、気にかけていただければ光栄でございます。


<8月27日>(金)

○「だいけいだい」こと大阪経済大学の客員教授の仕事は、この春で一区切りついたのでありますが、来週はこんな機会を頂戴しました。


●大経大特別講座

2021年9月2日(木)14:00〜15:00

ウィズコロナ時代の日本経済を読む

講師:吉崎達彦氏

株式会社双日総合研究所 チーフエコノミスト

<オンライン講演会>

Web配信です

<参加要項>

@定員 100名(先着順)

A受講料 無料

お申込みページはこちらから


○オンライン会合ですから、多少の人数オーバーは構わないと思いますので、お暇な方は是非どうぞ。無料ですし。


<8月28日>(土)

○東洋経済オンラインの今朝の寄稿です。


●もう日本に「カジノ施設」は永遠にできないのか〜横浜市長選であぶり出された「IR」の無理な構造


○思うに最後に週末のJRAレースの予測がつく、というこの連載のフォーマットが、これほどピッタリ合う原稿も珍しいですな。カジノもこのまま出来ないみたいだし、つまんない世の中になってるみたいだし、まあ今週の競馬でも考えるか、という実感がこもっているような。

○正直、今みたいに貧乏くさくなった日本では、シンガポールのマリーナベイサンズとか、韓国のパラダイスシティみたいに贅沢なIRを作ることは難しいのではないかと思います。どちらも自腹で見に行きましたが、国際基準のIRというものは、それこそバックヤードに至るまでたいしたものですよ。「賭場を認めるのか?」などという感覚ではありませぬ。

○個人のクリエイティビティは、わが国でもアニメ作品などを見る限りまだまだ健在なんですが、集団になって大資本がバックにつくと途端にダメになるのが最近の傾向でありまして、「五輪の開会式もパラは良かった」などと言われている。見てないけどね。

○それというのも、ガバナンスがどうたらコンプラがどうたらという外野が多過ぎる。これではダメでしょう。スポンサーというものは、カネは出すけど口は出さない、でなきゃ面白いものなんて創れませんがな。頭はいいけど、肝っ玉が小さい人が増え過ぎたのが、この国の不幸でありましょうか。


<8月29日>(日)

○昨日の東洋経済オンラインの記事で、とっても久しぶりに競馬予想が当たった。これはつまり、カジノのことなど考えずに競馬に専念せよというご託宣であろうか。

○ちゃんとレイハリアが勝ってくれて、勝利インタビューでは亀田温心(はーと)騎手が顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。いやー、G3勝利だよ、レイハリア4連勝だよ、よかったね〜。ついでにレイハリアからワイドで流したエイティーンガールも2着に来てくれたんで、これもそこそこついてくれた。いやあ、ありがたい。

○予想は当たったけどロジックが間違っていた、予想は当たったけど自分がその通りに買っていなかった、予想は当たったけど他のレースで大負けして沈んでしまった、といったことがこの世の中では多いものです。それが今日に限っては、ロジックも間違ってなかったし、自分で言った通りちゃんと買って当たったし、その他のレースもまあまあだったから、こういうラッキーなこともあるもんなんですねえ。

○逆に言えば、これまでどれだけ外し続けていたんだよ、ということになる。まあね、ギャンブルは普通は負けるものなんですよ。それでもトンネルを抜けた瞬間、外の景色のまぶしさに心ときめく思いをすることがある。いやあ、今宵は酒が旨い。


<8月30日>(月)

○本日、野党が要求していた自民党総裁選挙前の臨時国会召集を、政府が見送ることを決めたそうです。なるほど、そうなりますか。

○自民党総裁選挙は9月17日(金)告示、9月29日(水)投開票という日程です。だったらその前に臨時国会を開いておいて、29日に菅さんが再選されたら30日に国会を解散し、10月中に選挙なのかな、と思っておりました。ところがそんなことをしなくても、任期満了の場合は閣議決定で投票日を決められるのだそうだ。以下は産経新聞から 「衆院選、10月17日投開票が軸 任期満了選挙が現実味」


次期衆院選について、菅義偉首相が衆院を解散せず、45年ぶりとなる衆院議員任期満了(10月21日)に伴う閣議決定による衆院選が現実味を帯びている。この場合の投開票日は10月17日。憲法が4年と定める議員任期内に新たな議員を選ぶのが「憲政の常道」だとの意見が首相周辺で強まっている。これまで新型コロナウイルス対策を優先させて解散しなかったことに加え、自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)の日程なども影響している。

衆院解散のない任期満了選挙となれば、昭和51年の三木武夫内閣以来、戦後2例目となる。首相が事前に記者会見などで表明した上で、任期満了日の30日前となる9月21日に閣議決定する案などが浮上している。

公職選挙法は任期満了日前の30日以内に投開票を行うと規定しており、今回は9月21日〜10月20日が該当する。総裁選の日程が正式に決まり、岸田文雄前政調会長の出馬表明を受け無投票にならない見通しとなったため、衆院選の選択肢は総裁選後の「10月5日公示−17日投開票」にほぼ限られる。


○週末に菅首相が二階さんたちと打ち合わせしていたのは、上記のような内容なんでしょう。「10月5日公示ー17日投開票」は、六曜でいうと赤口と友引ですな。ちなみに菅さんは、意外とお日柄を気にする人なのだそうです。

○問題は菅さんが総裁選で負けちゃった場合であろう。産経の記事は、その場合の「総総分離論」にまで言及しているが、そりゃあ無茶に決まってますがな。新総裁の下で臨時国会を召集し、首班指名をやって新内閣発足、ついでに所信表明演説と代表質問までやってから、新首相が解散するのが筋でありましょう。その場合は、10月解散で総選挙は11月ということになるのでしょう。例えば10月20日解散(大安)→11月9日公示(友引)→11月21日総選挙(友引)はどうでしょう?

○政治カレンダー大好きな当溜池通信ですが、これはかなりの難問の部類です。個人的には、できれば自民党総裁選挙は菅対岸田の一騎打ちになって、「どっちが勝つかわからない!」という局面になったらいいなあ、と思っております。3人目が出ると、一気に菅さんが有利になっちゃうからね。


<8月31日>(火)

○本日でアメリカ軍がアフガニスタンから撤退。ビジネスも同様ですが、新しく戦線を切り開くよりも、退却戦の方がはるかに難しい。まして「××までに引き上げます」なんてことを明言してしまった場合、いくらでもつけこまれる余地を作ってしまう。8月中に撤退、なんてことを言ってしまったのは、バイデン政権として非常にまずかったのではないでしょうか。

○同じ退却戦でも、金融政策の方は非常に上手にやっていると思います。テーパリングは、いわば量的緩和政策の撤退戦ですからね。こちらはジャクソンホール会合で「年内に始めます」という期待を醸成したところ。もちろんコロナ感染次第では、後ずれの可能性も含みを持たせている。

○軍事と金融、なぜこんなに違うのか。まあ、テーパリングの方は2014年に前例があるので、さすがに皆、やり方を覚えている。逆に軍事の方では、1975年のサイゴン陥落については、直接的な記憶を持っている人が今の米軍にはほとんどいない。

○経験に学ぶことは容易だけれども、歴史に学ぶことは難しい。要は世の中に賢者はあまりいない、ということなのかもしれません。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki