●かんべえの不規則発言



2022年3月 







<3月1日>(火)

〇本日は東京商工会議所、葛飾支部のリモート講演会の講師を務めるために亀有駅で下車する。

〇しょっちゅう通っている常磐線だけれども、亀有駅で降りるなんてことは滅多にないのである。降りてみたら、案の定、あっちにもこっちにも『こち亀』の両津巡査の銅像が立っておる。なにしろ1976年から連載していたマンガでありますからな。

〇ついつい交番の写真を撮っていたら、おまわりさんに声をかけられた。おそらくは似たような観光客が多いのであろう。いわく、「こちら南口ではなくて、マンガのモデルになったのは北口の交番です」と。おおお、失礼しました。なにしろ正式名称は、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』でありますから、亀有公園がなければならない。

〇なるほど、北口の方に亀有公園という小さな公園があって、その前に小さな派出所がある。亀有公園の裏側には「たいせい」という有名なラーメン屋があって、ここで昼飯にしようかと思ったのだけど、残念ながら定休日であった。やむなし。時間がないので、ここは駅前の日高屋で妥協することにする。

〇東商の葛飾支部があるのは「テクノプラザかつしか」。ここはタクシーで移動するしかない。葛飾区は東を江戸川、西を荒川に挟まれ、中央を中川が流れている。東西に走る鉄道はたくさんあるのだが、南北の移動手段が限られている。これぞ葛飾の地政学である。

〇葛飾区というと、ワシ的には亀有と青戸と柴又帝釈天くらいしか思い浮かばなかったのだが、実は金町も、水元公園も、新小岩も、堀切菖蒲園も、京成立石も、四つ木も、みーんな葛飾区なのだ。へえ〜である。

〇葛飾区のヒーローといえば、両津巡査もさることながら、「フーテンの寅さん」を忘れるわけにはいかない。実はもうひとつ「キャプテン翼」というご当地キャラもあって、ちゃんと銅像がある(作者の高橋陽一氏が葛飾区出身)。以前はヨーロッパなどからも観光客が来ていた、という。

〇ということで、下町は深いです。いつの日か、葛飾区、江戸川区、足立区、荒川区、台東区、墨田区、江東区の位置関係を、きちんと頭の中に入れたいものである。この辺は歩いているだけで面白いからね。


<3月2日>(水)

〇本日は午前11時から、バイデン大統領の一般教書演説がありました。事前に予想していたより、ずっといい演説だったと思いました。

〇本日の連邦議会下院には、3年前までと同じようにフルメンバーが呼ばれている。そしてマスクをしている人が数えるほどしかいない。なるほど、バイデンさんが"tonight I can say  we are moving forward safely, back to more normal routines. "(今宵、われわれは安全に動き始めるし、より普通の暮らしに戻れると申し上げたい)と言うとおりである。

〇冒頭ではウクライナ問題に多くを割きました。「アメリカとNATOには準備ができている。ロシアは弱くなり、世界は強くなるだろう」とアピールしていました。今日の議会では、「青に黄色」のウクライナ国旗風ファッションが目立っていた。あれはきっとウクライナ系の議員さんなんでしょうね。バイデンさんは1週間前から急に「戦時大統領」になった。この機会に大いにあおって、超党派の支持を取り付けたいところである。

〇内政面では、民主党左派の政策(最低賃金を上げる、選挙法改革、女性の権利保護など)を取り上げる一方、「国境を守る」「警察には予算をつける」などと保守的なアジェンダも強調していました。共和党議員が立ち上がって拍手する場面もあった。

〇分断からの和解という点では、最後に4つの「統合のアジェンダ」(Unity Agenda)を提唱した。すなわち@オピオイド禍を打ち破れ、A子供たちのメンタルヘルスを守ろう(SNSからも)、Bベテラン(軍のOB)を支援しよう、C癌をなくそう。――これは反対のしようがない。

〇いかにもバイデンさんらしいのは、最後に満場の喝采を受けている最中に、まったく何の脈絡もなく”Go get him!”(ヤツを捕まえろ!)と口走ったことだ。どう考えても、プーチンのことを言っているとしか思えない。おいおいおい、てな感じで、バイデン氏の失言記録に新たな1ページが加わったけれども、この言葉はネット上でバズっているようである。

〇トランプ時代を経て、一般教書演説(States of the Union)はちょっとだけSOTUらしさを取り戻した。国としての団結を取り戻すにはほど遠いかもしれないが、ちょっとだけ安心したぞ。まあ、そのためにロシアという「敵役」を必要としたのかもしれないけど。


<3月3日>(木)

〇先月くらいから、岸田首相が今月後半にはインドを訪問するのではないか、という観測があります。5月〜6月にはクワッド首脳会議を日本国内で開催するので、その前に日印リアル首脳会談を済ませておきたい(バイデン大統領とのリアル会談はまだ実現していない)という思惑があるからでしょう。

〇とはいえ、そのための外交日程はそれこそ針の穴を通すようなもの。何しろ国会ではまだ予算を審議中ですからね。その令和4年度予算は、先月22日に史上2番目の速さで衆議院を通過しました。憲法上の規定によりまして、3月22日には自然成立の運びとなります。

〇となると、参議院は必死になってそれ以前に予算を成立させようとします。そうでないと「参議院不要論」につながりかねないから。ところが22日の前は3連休ですから、何が何でも3月18日(金)までに成立させる必要がある。ちょっと苦しいかもしれませんけどね。

〇3月18日に予算が成立するのであれば、岸田首相は遠慮なくその後の3連休を使えることになる。そこで訪印。まあ、あり得ないことじゃないですよね。もっともインド側からすれば、「ウチは歴史的にロシアとはいろいろ関係があるからねえ。今来られても、正直、困るんだけどなあ〜」という思いはありそう。クワッドに参加しているからといって、簡単にロシア非難決議に乗ってくれるような相手ではございません。

〇本日、岸田首相は3月6日に期限がくる31都道府県の「マンボウ」を、13県ではそのまま解除に、残る18都道府県では3月21日まで延長する方針を固めたことを表明しました。東京などの1都3県では、3月27日まで3週間の延長という判断もあり得たところで、その辺を見ると、「うむ、やっぱり訪印はありかな?」という気もいたしますな。


<3月4日>(金)

〇今からちょうど1か月前の2月4日。2人のヤクザの親分が、良からぬことを話し合っている。


「おう、モスクワの。あんたもいろいろ抱えていることは承知しとるがのう、ウチはこれから客人をぎょうさん招くんじゃ。派手な祭りになるんじゃが、2月20日に終わるまでは、辛抱しておってくれんかのう。ワシも面倒なことは好かんでのう」

「何を言うかと思ったら、北京の。俺とあんたの仲じゃ。こっちも久しぶりの喧嘩(でいり)を控えて、いろいろ準備で忙しいんじゃが、あんたにだけは迷惑はかけんつもりじゃ。最初からそのつもりで考えとる。2月20日より先に手を出すようなことは絶対にせん」

「かたじけない。実はもうひとつあっての。3月4日には、また客を呼んでもうひとつ別の祭りをせにゃならん。正直、こっちはあんまり気が進まんのだが、浮世の義理というやつかのう。すまんが、そっちのことも、ちょっとだけ気にかけておいてくれんかのう」

「お安い御用じゃ。2月20日から3月4日までは2週間もある。大丈夫、弱っちい相手なんじゃ。3日と言いたいところだが、1週間もあれば十分に片が付くはずじゃ」

「さすがは兄貴。こんなことをわざわざ言いたくはなかったが、こう見えてワシも気が小さくての。堪えてくれい」

「あははは。こう言っちゃなんだが、同じ祭りは8年前にもウチでやったが、そのときは閉会式の直後にサクッとしばき倒して、取るものとって、翌月には知らん顔して次の祭りをやっておいたわ。それでも、だーれも面と向かって文句を言うやつはおらんかったわ。納豆組の連中は根性なしばっかりだわ」

「納豆組の連中はワシも好かん。今日は一緒に非難声明を出しておこう」

「それは結構。ついでにガスの長期契約も頼むわ。お安くしとくで」

「ついでに新しくできた大粕組にもヤキを入れておきたいんだが」

「あんなシーパワーの3人組には何もできん。とまあ、そういうところを、わしらランドパワーの2人でこれから見せつけてやろうかのう」


〇ここでお互いが大物ぶって呵々大笑したのだが、案の定、兄貴分の喧嘩は長引いてしまって、格下相手に苦戦している。ゆえに北京の親分はおかんむりである。これではせっかくの祭りが台無しだ。とはいえ、兄貴の喧嘩がどうなるかは、次は自分が狙っている喧嘩の絶好のシミュレーションとなる。ここは生ぬるく応援するしかない。

〇といってもそこはヤクザの世界である。兄貴がコケたら、そんときは知らん顔をしよう。あるいは「まあまあまあ・・・」と仲裁に入って、「この喧嘩、私が買った!」とかなんとか言って、両方に恩を売るのも悪くないかもしれない。任侠道は厳しいのだ。どれ、そろそろ開会式が始まったかのう。


<3月5日>(土)

〇今回のウクライナ問題で、バイデン政権は最初からずっと腰が引けていた感がある。それもまあ、無理のない話であって、例えば2月11日時点の世論調査はこんな感じであった(CBS News)。


●ロシアとウクライナの交渉で、アメリカはどうすべきか?

STAY OUT:53%

SUPPORT UKRAINE:43%

SUPPORT RUSSIA:4%


〇しかもこの内訳が面白い。今のアメリカって、こんな感じなんですねえ。

  Democrats Independent Republicans
Support Ukraine  58% 35% 41%
Support Russia 5% 3% 4%
Stay Out 37% 61% 55%


〇民主党よりも共和党の方がSTAY OUTなんです。いかにもトランプ流の「アメリカ・ファースト」ってことですよね。さらに言うと、上の世代はSUPPORT UKRAINEで、若い世代に行くほどSTAY OUTになる。ワシのようなおっさん世代としては、こういうときのアメリカは「自由を守れ!」と立ち上がるものではないのかと思うのですが、近年はそうではないらしいです。

〇そこでバイデン政権はどうしたか。最初から「ウクライナに派兵することはない」ことを表明しつつ、それでもロシアに対して厳しい態度に出ようとした。例えば昨年12月30日のプーチン大統領との電話協議では、「ウクライナに侵攻した場合は断固とした措置を取り、経済政策を含む対抗措置を準備している」と告げている。そんなことを言ったって、この時点ではドイツなどはロシアのSWIFT外しにも反対していたのだから、あんまり脅しにはなっていなかったことだろう。むしろプーチンさんの「安保脳」は、逆の意味に受け止めた可能性もある。

〇その一方で、アメリカ国務省はこの世論調査の翌日、2月12日にウクライナ大使館の米国人職員に退去命令している。後になって分かったことだが、アメリカのインテリジェンスは非常に正確にプーチンの出方を把握していた。インテリジェンスというものは、本来は表に出さないものであって、そうでないと貴重なヒューミントが殺されてしまったりする。ところが、今回の件に関しては、アメリカは積極的に手の内を公開して、ロシアに対するけん制手段としていたようであった。

〇ウクライナ介入に対する国民の支持がないのであるから、対抗策は経済制裁を中心に考えるし、この際、インテリジェンスも積極的に活用する。何しろバイデン政権としては、昨年夏にアフガニスタンから撤退したばかりなのに、新しい戦線を作れるか、という問題がある。トランプ支持者を味方につける、という観点からいっても、ここはSTAY OUTでなければならない。ちなみにアメリカ議会は、昨年末に成立した国防予算において、ウクライナに対する3億ドルの軍事支援を決定している。

〇ここから先は筆者の偏見となってしまうのだが、民主党系の外交・安保専門家たちというのは、とにかく軍隊を使うことに対して消極的で、なおかつ「安全保障上の最大の脅威は気候変動問題である」などと言いたがる人たちである。まあ、今回の事態で、それが間違いであることは自明になりました。彼らはあまりにもWoke(意識高い系)なんで、プーチンさんのようなお下劣な人のことがまったく理解不能なのでありましょう。

〇こうして考えてみると、バイデン外交には以下の2通りの評価ができるだろう。

@そもそもアンタがプーチンに誤解をさせたのではないか。昨年6月のジュネーブ会談では、「こいつ、中国だけしか見てねえじゃん。これなら動いても大丈夫だな」となめられてしまったのではないか。大統領がトランプであったら、こんな事態には至らなかったはずだ。

A欧州との相互信頼も取り戻したし、国内の支持が不確かで、部下たちも腰抜けだらけな中でようやっとるわ。インテリジェンス機関は、トランプ時代にあまりにひどい目にあったから、現政権にご奉公しているんだろうなあ。お疲れ様です。

〇筆者としては、3対7くらいでAの方に肩入れするものであります。


<3月6日>(日)

〇この週末に東洋経済オンラインに寄稿した拙稿では、こんなことを書きました。



●ロシアへの「究極の制裁」で西側が浴びる「返り血」


@ 新型コロナによるパンデミックはとうとう3年目に突入した。各国は金融緩和や財政支出を乱発し、経済活動を何とか維持してきた。

A ところが世界各地でサプライチェーンに問題が続出し、とうとう昨年夏からは欧米を中心にインフレが広がり始めた。

B そこでFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は、今月から利上げなど金融引き締めを開始する見込みである。

C そんな中で、2月から誰も予測していなかったウクライナ戦争が始まった。勃発から1週間以上が経過、ロシア軍は首都キエフに迫っている。

D これに対して、西側諸国は強力な対ロ金融制裁に打って出た。石油大手BPやシェルなど、ロシア事業からの撤退を宣言する民間企業も相次いでいる。

(←今このあたり!)

E その結果、石油価格が1バレル=100ドルを一気に超えるなど、エネルギー価格は高騰を続けている。ウクライナの主要輸出品目である小麦の国際価格も上昇しそうだ。

F 金融制裁により、ロシアの通貨ルーブルは史上最安値を更新中。今後、ロシア国債のデフォルトなどが発生すると、新たな国際金融危機を招くおそれも。

つまり世界経済は、「パンデミック→インフレ→金融引き締め→戦争勃発→エネルギー危機→新たな金融危機?」という形で進行している。後世の歴史家は、この「7段階活用」をどんな風に描くのだろう。



〇パンデミックにせよ、40年ぶりのインフレにせよ、そしてあまりにも古式ゆかしいロシア軍のウクライナへの侵攻にせよ、まずは滅多にあることではない。しかもここへきて、「核オプション」と呼ばれていた経済制裁策が発動されている。ロシアみたいなでっかい資源国をSWIFTから外して、しかも中央銀行まで制裁対象にするなんて。しかも中立国のスイスまで制裁に参加している。いやもう、ここまでやっていいんでしょうか。

〇この「7段階活用」、それぞれに玉突きになっていて、いわば「一難去らずにまた一難」。一言で言ってしまえば「悪い流れ」です。この流れを断ち切ろうとしているわけですが、どうにも対ロ制裁がうまくいくような気がせんのですよね。とりあえずマーケット関連として考えると、頭を抱えたくなるような事態です。

〇まあ、いっそ開き直って、「パンデミックでもインフレでも戦争でも、こうなったら矢でも鉄砲でももってこい!」とふてぶてしく構えるしかありませんな。2020年から22年にかけてのごく短い期間のことを、後世の歴史家はどんなふうに描くのでしょうか。ほんの数行で済まされてしまうんだろうなあ。


<3月7日>(月)

〇今日の日経新聞の経済教室、「中ロ抜き経済再構築備えよ」という論考は大変勉強になった。いや、それは実はネガティブな意味でなのだが。

〇これを書いたトーマス・セドラチェクというのが、どういう人なのかは詳しく存じ上げない。たぶんヨーロッパの知性と呼ばれるような人なんだろう。ところがこの人が、とんでもないナイーヴなことをのたまうのである。

「私たちは昨日までと違う世界に目覚めてしまった」という書き出しである。おそらく今回の事態に対して、本気でショックを受けているのだろう。ロシアという国の尻尾の方と向き合っている国の住民としては、おかげさまでそれほど深刻ではない。もちろんウクライナ侵攻には虚を突かれたが、まあ考えてみればあり得ない話ではなかったし、これまでプーチンさんに本気で向き合ってこなかったなあ、という反省はあるけれど。

〇ところがこのセドラチェク氏が衝撃を受けているのは、「このことでグリーンディールが吹っ飛んでしまうこと」なのである。


換言すれば、現在の形のグリーン・ディールには誰も関心を示さないということだ。私たちは新しいものを示さなければならない。緑の革命が生き残るためには、根本から作り直す必要がある。私たちがすっかり忘れていた戦争がここにあるからだ。第3次世界大戦に近い状況は急速に悪化する可能性がある。新しい経済は従来の構想とは全く異なる展開を見せるだろう。


〇去年の暮れに、英グラスゴーで語られていたような話はほぼ吹き飛んだ。それはそうでしょう。2050年のカーボンニュートラルなんて、土台から無茶な話をしていたのに、その上、戦争が始まったのだから。原発の再稼働や石炭の利用は当たり前。その前に始まるのは、化石燃料の奪い合いでしょう。天然ガスをどうやって調達するか、世界中が眼の色を変えているんですから。ついでに言わせてもらえば、COP26の最中から新興国の多くは、「あいつら何、言ってやがんでえ」と心の中でつぶやいていたはずなのだ。

〇およそ大事なことほど、「直線的アプローチ」で進めてはいけない。かならず「迂回アプローチ」を採るべきである。そんなことは、大人ならみんな知っているはずである。ところが欧州の頭のいい人たちは、「石炭火力をいきなり全部止めろ」みたいなことを言っていた。そりゃ駄目に決まっているでしょう。エネルギー問題を、なんでそんなに簡単に考えますかねえ。ところがセドラチェク氏はこんなことを言って嘆くのである。


たとえ今後ウクライナ情勢が緩和に向かったとしても、私たちは戦時経済に置かれる。例えば防衛費にもっと多くのお金を費やすことになる。ロシアが天然ガスを止める決断をしなくても、欧州全体、そして世界全体で、エネルギー自給の必要性が全く新しいレベルの緊急事態に跳ね上がる。

今回の事態で世界の生態系はどう変わるのか。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を実施する際に、ロシアとどう折り合いをつけるのか。互いに戦争をしている今、温暖化ガス排出の削減を語れるのか。ロシアや場合によっては中国と何らかの衝突をしながら、どうやってグローバルな行動を呼びかけられるのか。国連さえも継続できるのか。ロシアが組織的に私たちに嘘をつき、その間に戦争の準備をしていることを知っていながら、どうやってロシアと合意できるのか。


〇そりゃあそうでしょうよ。ドイツはGDP比2%まで軍事費を増やすと言っている。再エネに投資すべきおカネはひっ迫するでしょう。それからロシアは、もともと脱・炭素なんてやる気ないですよ。だって化石燃料に国運が懸かっているんですから。欧州の人たちはかくも大真面目に「グリーンの夢」を追っていたのか、と唖然としてしまう。

〇ところがグリーンの夢を追っていた人たちが、いきなりロシア憎しになって、石油ガスの全面輸入禁止に走ると言い出した。金融制裁はやるにしても、ガスくらい買ってもいいのではないですか。ロシアだって売りますよ。今まで原油の29%、天然ガスの51%をロシアに依存していた人たちが、いきなりゼロにしようとするのは無茶ですよ。どうしてそんなに極端から極端に走りますかねえ。

〇確かにロシアってひどい国ですよ。シリアではずいぶんひどいことをやりました。今はそれと同じことを、ウクライナでやろうとしている。そしたら欧州は、そっちは受け入れられないらしい。それって少々、二重基準っぽいよね。われわれアジアの人間から見ると、ロシアも立派な欧州の一部ですけど。とにかく、欧州の知性がこんな風にヒステリックになっているということ自体に感心する。あの人たちは、自滅への道をひた走っているのではないだろうか。

〇まあね、あたしゃこんな風に思うんですよ。大丈夫、この世は続くんです。パンデミックが3年続いても、気候変動で水面が上がっても、21世紀に19世紀のような戦争が起きても、ロシアが核兵器を使っても。それがこの世の終わりを意味することにはならない。人類はきっとゴキブリのように生き延びる。こういう考え方、「意識高い系」の人たちには無理かなあ。

〇てなことで、日経新聞さんには多謝あるのみです。いや、ホントに勉強になりました。


<3月8日>(火)

〇本日は大阪府大東市へ。どういうところかというと、高校野球がとっても強い、あの大阪桐蔭高校の地元です。

〇大阪の仕事というのは、ほとんどが大阪市内で済んでしまうので、今日のように大阪府を東西に移動することはめずらしい。いろいろ発見がありそうなので、できればもっと東大阪周辺を探検をしたいところなのですが、「戦争が始まると忙しくなる溜池通信」の伝統は健在でありまして、本日も日帰りでありました。

〇ところで業務報告です。お薬をお送りいただきましたUさま、どうもありがとうございました。私信を送ろうとしたのですが、昨年末にPCがぶっ壊れた余波でアドレスがわからなくなりまして、この場を借りて御礼申し上げます。

〇つくづく多くの愛読者に支えられておることを実感いたします。多謝あるのみでございます。


<3月9日>(水)

〇安全保障の世界の人たちの間で言い古されてきたこと。「日本人は中国を恐れ、ロシアを軽く見る。欧州人はロシアを恐れ、中国の脅威を感じない」。――お互いに目の前のライバルが大きく見えるというのは、それこそ洋の東西を問わない真理なのでありましょう。

〇アメリカではトランプ政権あたりから、「やっぱりロシアじゃないわな、真に警戒すべきは中国だろう」ということになり、このマインドセットはバイデン政権にも引き継がれているようである。とりあえず、最近のワシントンの政策コミュニティは「チャイナシフト」になっていて、これには「コロナ被害の逆恨み」という要素も加わって、当分は消えそうにない。

〇ところが今回のウクライナ侵攻では、ロシアという国の恐ろしさ、危うさがあらためて思い知らされた。いやホント、隣の国まで戦車で攻めていく、なんてことが21世紀にもあり得るだなんて、思ってもみませんでしたがな。それも、曲りなりも欧州の域内の出来事なんですから。

〇ロシアとウクライナの関係というのは、つくづくDV兄弟みたいな業の深さがある。よその家から見るていると、直視しがたいものがある。兄があまりにも弟を苛めすぎて、とうとう弟が欧州に向かってNATOに入れてくれ、と言い出したら兄がますます逆切れして、攻撃がエスカレートしている。安全保障論で考えるよりも、こういう家庭内悲劇と考える方が、よっぽど現状を説明できるのではないかと。

〇昨日くらいからフレデリック・フォーサイスの『悪魔の選択』を古本で読み始めた。冷戦期に書かれたフィクションなのだが、ソ連共産党政治局員会議の様子なんかが、まるで「見てきたように」描かれている。なるほど冷戦期の欧州の人たちは、ソ連がホントに怖かったのだなと感じる。本書には、ウクライナのロシアからの独立を目指すゲリラなんかが出てくるので、「なるほど、そういうことだったのか!」と膝を叩きながら読んでいる。

〇この手の怖さを見てしまうと、なんだか「中国の方がまだマシじゃん」という気もしてくる。もっとも中国には、ロシアとは別の種類の怖さがあって、彼らであればもっと巧妙な手口を使ってくるだろう。ただし現状では、台湾の人たちが「ウクライナ、頑張れ!」と盛り上がっているようなので、今の中国にとっては面白くない展開なのであろう。

〇真の懸念はこの先の事態ではないかと思う。ウクライナ危機が一件落着して、プーチンは放逐され、ロシアは国際司法裁判所で追及を受ける。ロシアはウクライナに対する原状回復の経済的負担を課され、制裁の後遺症もあっていよいよ経済が困窮する。そうなるとロシアは、いよいよ中国の軍門に下って安いエネルギーを供給するくらいしか存在意義のない国となる。これは悲惨なシナリオだが、そうなる確率は低くないと思うぞよ。

〇そうなった場合の中国は怖いですよ。何しろ勝手にロシアが転んでくれて、資源が安く手に入るんだから。日本としては、そっちの方を警戒すべきでありましょう。


<3月10日>(木)

〇ガソリン価格があんまり上がるんで、最近になって言われ始めているのが「トリガー条項の復活」である。で、それって何のことか、皆さん覚えておられますでしょうか?

〇トリガー条項とは、かつて民主党政権時代の2010年に導入された政策であります。例えば3カ月連続でガソリン価格がリッター160円を超えたら、リッターあたり53.8円のガソリン税のうち、25.1円分を引き下げるというもの。今だったらリッター170円のところが145円になるわけだから、確かに消費者には恩恵が及ぶことになる。

〇ただし翌年には東日本大震災が発生して、トリガー条項は凍結されることになった。何しろこの政策、1年続けると国と地方を併せて1兆円の財源が必要になる。明日はいよいよ「あの日から11年目」を迎えるわけですが、あのときは復興財源のために増税したくらいなので、トリガー条項はひっこめざるを得なくなった。今はちょうど税金の時期でありますから、「いつまで続くんだ、この復興特別所得税ってやつは!」と怒っておられる方が全国各地におられることと拝察いたします。

〇念のために申し添えますと、所得税額に上乗せされる2.1%の復興特別所得税は2037年(令和19年)まで徴収されます。うーん、あと15年間かあ。そのときまでワシは仕事をしているのだろうか・・・。ちなみに復興特別住民税の方は、来年で終わるようですからめでたい限りです。個人的にはこの2.1%があるために、源泉徴収の計算がとってもややこしくなるのが腹立たしい。せめて、もっと切りのいい数字にしてくれればよかったのに。

〇今は当時に比べて金利も低下していて、コロナ下でもあることから、財政規律の方も緩みがちである。ゆえに「もうええやん、トリガー条項ぐらい」という声があるかもしれない。しかるに2010年に好評であった税制が、2022年になっても(偶然ながらどちらも寅年だ)有効かというと、けっしてそうではないと思うのだ。いやしくも「脱・炭素」を目指しましょうと言っている世の中で、「皆さん、どうぞ遠慮なくガソリンを使ってください」という政策を行うのはいかがなものでありましょうや。

〇今の政府・与党もトリガー条項には前向きではなくて、だからこそ「石油元売りに補助金を出す」という「二階から目薬」みたいな手法を使っている。そういう中にあって、「ぜひトリガー条項の復活を!」と主張しているのが国民民主党である。ノスタルジーがあるんだろうなあ。つくづくあの人たちは、「褒められたくて仕方がない」人たちなのであります。それに加えて、公明党も乗り気になっている、というのがますますワシ的には気に食わない。

〇せめてトリガー条項を復活するのであれば、ガソリン税の使途の一部を道路建設から環境保全目的に切り替えるなどの工夫が必要なんじゃないかと思う。単にガソリンを安くするだけだと、EVの導入も進まないことになりますし。あるいはハイブリット車のガソリン代だけ安くするとか。ということで、「ひねりなさい、もっとひねらんかい」と考えるものであります。


<3月12日>(土)

〇今日は日台関係研究会のために渋谷へ。渋谷駅を降りてみると、スクランブル交差点は全くいつも通りに人があふれている。そこは日本だから、ちゃんと皆さんマスクをしてはいるのだけれども、とりあえず「コロナ警戒モード」ではなくなっている。まあ、「マンボウ」もあと10日くらいの辛抱だし、何より春が来ている。上着が要らない、というのはよろしいですな。

〇毎日ニュースが流れるたびに、「今日の新規感染者数は××人」というのを聞かされる生活はいつまで続くんだろう、と思っていたけれども、最近はウクライナ情勢が冒頭に来るようになった。そりゃそうだ。遠い場所のこととはいえ、あの不条理さは群を抜いている。あのニュースを見た後で、コロナの心配をするのは気が引ける。

〇ちなみにここのデータによれば、今日現在、ロシアのコロナによる死者数は35万2437人、ウクライナは11万2459人である。同じデータでは日本の死者数は2万5927人であった。総人口ではロシアと大差ないんですけどね。ちなみにアメリカのそれは96万7165人で世界最悪である。

〇ともあれ、コロナの危機は終わっていないけれども、人々の関心がほかへ行く。それはまことに健全なことではないかと思います。どんなにひどいことでも人はかならず慣れる。そして飽きる。どうかすると忘れる。

〇ということで、「一難忘れてまた一難」ですな。どんなひどいことが起きているときでも春は来る。ウチの近所、北柏の松ヶ崎城址では河津桜が満開。「マンボウ」が明けるころにはソメイヨシノも咲くでしょう。まことにありがたいことである。


<3月13日>(日)

〇本日は、NACSこと「公益社団法人 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会」西日本支部の会合のために大阪へ。会場は「大阪産業創造館」で、堺筋本町にある。ここはちょっと前まで双日の大阪支社があったところで、よく来たところである。大阪商人の本場、という感じのところである。

〇今日は消費者向けのお話を、と言われると当方はあんまり慣れていないのだが、こういうご時勢であるから語るべきネタは無限にある。なにしろコロナだしインフレだし戦争だし。とりあえずエネルギー価格は上昇必至だし。

〇コロナ下につき会場は30人程度なるも、リモートのお客さんは3桁台だったそうで、テキストベースのご質問もたくさん頂戴しました。そこそこ盛り上がってくれたかなあ、と思います。ハイブリットの講演会は、最近は本当に普通になりましたねえ。

〇大阪日帰り出張のときは、よく「551の豚まん」を土産にするのですが、今日は趣向を変えて新大阪駅構内で中之島ビーフサンドを買ってきました。やっぱり関西は肉と言えば豚よりも牛ですよね。


<3月14日>(月)

〇溜池通信の前号で、2月に行われたCBSニュースの世論調査をご紹介しました。STAY OUTが53%で、SUPPORT UKRAINEが43%だった、というのは少々ショッキングに感じられたものです。

〇昨日、同じCBSニュースの新しい世論調査が出ました。ウクライナで始まった戦争をアメリカ人はどう見ているのか。非常に気になるところです。

〇まず、対ロ石油ガス制裁には前向き(SUPPORT 77%、OPPOSE 23%)で、そのことによってガソリン価格が上がっても良し(SUPPORT 63%、OPPOSE 36%)、としている。これに関しては党派色はほぼなく、民主党支持者(84%)も共和党支持者(76%)もひとしく賛同している。

〇ロシアはウクライナだけを狙っている(31%)ではなく、欧州の他の国も侵略しようとしている(69%)と見る人が多い。「戦争がNATOに広がる」(78%)、「世界恐慌を招く」(78%)、「アメリカへのサイバー攻撃」(76%)、「米ロ間の戦争」(72%)などを恐れる向きもある。

〇ガソリン高対策としては、「国内生産を増やす」(63%)、「再エネを増やす」(49%)、「中東や中南米から輸入を増やす」(33%)の順となる。これはまっとうな反応と言えましょう。

〇「飛行禁止区域を作ること」には、59%が賛成で41%が反対となる。しかしその後、「それが戦争行為とみなされたら?」と尋ねると、今度は賛成38%、反対62%と評価は逆転する。それから、仮にロシアがNATO加盟国を攻撃した場合は、米国の軍事行動に対しては73%が賛成、27%が反対となる。

〇バイデン氏のロシア&ウクライナ対策については、支持46%、不支持54%であり、3月1日時点の同41%対59%よりはマシになっているが、いかんせん不満の方が上回っている。対ロシア姿勢については52%が「弱過ぎる」、36%が「ちょうどいい」、12%が「強過ぎる」という評価になっている。

〇それではロシアに対してもっと強い手段は?と尋ねると、「より強力な経済制裁」が65%、「ウクライナへの武器弾薬支援」が61%であって、「直接対ロ武力攻撃」は21%しかない。まだまだアメリカ人の怒りには火がついていないようである。

〇ウクライナ問題はアメリカ国内の党派的分断を幾分緩和しているようではあるが、大統領に対する強い支援とはなっていないし、ウクライナを助けるために米軍を出すべきだ、という考え方はまだまだ少数派のようである。

〇さて、アメリカの世論はこれからどんなふうに変化していくのか。今のところ「民主主義国は怒って戦争をする」という域には達していないようだ。しかし、例えばロシア軍が戦術核を使ったら、あるいは原子力発電所が攻撃されて放射能漏れが起きたら? 昨日はアメリカ人ジャーナリスト1人が殺されたが、それで景色が一変するような地合いではないらしい。

〇引き続きこの手の世論調査をウォッチしていきたいところです。

〇ところで3月15日(火)は20:59〜21:54にBS11「インサイドOUT」に出演いたします。よろしければご覧ください。


「対露経済制裁の効果は?家計に影響どこまで!?」

ゲスト:吉崎 達彦(双日総合研究所チーフエコノミスト)、熊野 英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト)

ウクライナを侵略したロシアに対して、日本は米欧と足並みをそろえ、経済制裁を強化している。金融機関を対象とした「資産凍結」や半導体など先端技術の「輸出規制」に加え、国際的な決済網SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの銀行を排除した。
ロシア経済を崩壊させ、プーチン政権を追い込む国際戦略は、どこまで効果があるのか?
一方で、対露経済制裁は「世界貿易の縮小」や「原油・食料価格の高騰」など、制裁する側にも副作用をもたらし始めた。食料自給率が低く、エネルギー資源を輸入に頼る日本も直撃を受ける。
今後、家計への影響はどこまで膨らむのか?
「ロシアvs米欧」対立の長期化が避けられない中、日本の採るべき対策を専門家が提言する。


<3月15日>(火)

〇ウクライナ戦争が始まってからこれで約20日となる。なんだか仕事中毒のような日々が過ぎていて、その割に自分は大したことは言えていないし、そもそもどこまで事態を飲み込めているのかと言えば心もとないものもある。先日、とある研究会で報告をしながら、「あー、ワシって所詮はこの程度か・・・」と哀しい気持ちになったことは、その場の方々には内緒なのである。

〇もっともそれは、ほかの人たちも似たり寄ったりで、今日だって並みいる専門家たちと意見交換しているのだけれども、昔の豪傑みたいなことを言って威張る人はさすがにいない。今みたいな状況で、「俺の予想だけ聞いていればいい」みたいなことを言う人がいるとしたら、それは確実にクワセモノであろう。そんなことでマウントとってどうするというのだ。

〇一方で過ぎた仕事に満足を覚えることもある。今宵のBS11「インサイドOUT」では、熊野さんと久しぶりにご一緒したのだけれども、気心の知れた者同士のこういう時期の共同作業は楽しいものだ。またどこかでご一緒したいです。

〇てなことで、明日以降も意見交換と仕事を求めていくのである。どちらも一杯お仲間がいる、というのが自分にとっては幸せなことなのであります。

〇ところで昨日は大田区で講演会をやったのですが、皆さん「大田区」という地名の由来を知ってましたか?「大森」と「蒲田」から一字ずつを採ったんだそうです。だから「太田区」と書いたら大間違いになります。大田区は中小企業が多くて、羽田空港があって、そうかと思えば田園調布もあって、なかなかに奥が深いことを学習しました。こんなことがあるから仕事は楽しいんですよね。


<3月16日>(水)

〇番宣です。今週末の「朝生」に登場します。とっても久しぶり。令和になってからは初めてですなあ。


2022年3月18日(金) 深夜1:25〜4:25
※19日午前1:25〜4:25
※一部地域は深夜1:34〜

激論!ウクライナ侵攻
ド〜なる?!世界 ド〜する?!日本
ド〜見る?!ロシアによるウクライナ侵攻
ド〜見る?!核、生物化学兵器…に言及!
激化するフェイクニュースと情報戦争!
国際社会は止めることができないのか?!
プーチン大統領のネライとは?!
米国、欧州、中国など各国の本音と思惑とは?!
世界経済、日本経済、国民生活にド〜影響するのか?!
いま、日本が考えるべき事、すべき事とは?!

先月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、欧州は第二次世界大戦後、最大の危機に直面している。この危機に国際社会は、日本は何ができるのか?!ウクライナ危機は世界に、そして日本にド〜影響するのか?!いま、日本が考えるべき事、すべき事…等々について、ウクライナ最新情勢を踏まえ徹底討論!

【番組進行】
渡辺宜嗣(テレビ朝日)
下平さやか(テレビ朝日)

【司会】
田原総一朗

【パネリスト】
松川るい(自民党・参議院議員)
長妻昭(立憲民主党・衆議院議員)

興梠一郎(神田外語大学教授、元外務省専門分析員)
廣瀬陽子(慶応大学教授、元国家安全保障局顧問)
三浦瑠麗(国際政治学者、山猫総合研究所代表)
森本敏(前拓殖大学総長、元防衛大臣)
吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト)

武隈喜一(テレビ朝日報道局コメンテーター)


〇数えてみたらこれが通算で10回目になります。いちばん最初に出たのは2005年だったから、もう17年も前のことになる。つくづく長寿な番組ですな。というか、田原さんは来月で米寿のはずだけど。それを考えたら、こっちも年が、とか身体が、とかは言ってられません。


<3月17日>(木)

〇ウクライナ情勢で今後のカギを握りそうなのは、「中国は一体どっちにつくのだ?」という問いかけである。ワシなどは当初、「え?中国がロシアに肩入れするって?それじゃ全人代で公約した5.5%成長はどうなるんだよ?」と考えたものだが、これはいささか「経済脳」に過ぎる発想であったようである。とりあえず習近平さんの頭の中は、それとはちょっと違うらしい。

〇「中央公論」4月号の中に、「米国の圧力がもたらす中国外交の新たなステージ」(益尾知佐子)論文が掲載されている。これは結構ビックリな内容で、ところが言われてみればまことにごもっともなロジックなのである。

〇同論文は2月4日の北京五輪開会式に先立ち、釣魚台で行われた中ロ首脳会談に着目する。


この首脳会談で注目されるのは、自国の「核心的利益」を守ろうとする相手の努力を、両国は固く支持しあっていると習近平が言及したことである。中国が台湾や南シナ海、場合によってはさらに尖閣諸島など、「主権や安全保障」に関わる問題を自国の「核心的利益」と呼んで一切の妥協を拒否してきたことはよく知られている。

(中略)

ウクライナ情勢が緊張の一途をたどる中で改めてこうした発言を行うことは、ウクライナ問題をロシアの「核心的利益」として認定し、そのような問題では妥協しないのが当然だとプーチンを激励したに等しい。習近平は、西側諸国にロシアを敵認定させて自国が一休みするより、むしろロシアへの支持を明確にし、米ロ対立に主体的に関与する方を選んだ。

(中略)

プーチンの方も、新型コロナの流行は私と習近平主席の密接な交流を妨げなかった、ロシアは中国を自分の最も重要な戦略的パートナー、そして志を同じくする友人と考えていると持ち上げ、重要な国際問題で両国の立場は高度に一致している、と中ロ関係を称賛した。

(中略)

中ロ両国は、西側に批判される自分たちこそが、「国際社会」の正義の側に立っているとみなしている。


〇これは結構、肌に粟を有すべき事態と言えましょう。後から「ただし、中国はリアリズムの国だ。口頭でどのように反対しても、自国より強大な米国の行動を本質的に返されることはできない、と認識している」と言っているんですけど、「少なくとも中国の側は、ロシアに真の愛情と信頼を抱き始めているように見える」とも言っている。それで西側諸国と中ロ枢軸の対決が始まったら、これはもう世界経済にとっては恐怖のシナリオとなってしまうではないか。

〇私見ながらプーチンは「安保脳」に凝り固まった人であって、後ろにいるプーチン政権の株主たちであるオリガルヒたちは、「やべえぞ、これは・・・」と心配していることであろう。これに対し、中国はまだしも「安保脳」と「経済脳」の使い分けができている方で、なんだかんだ言って中国共産党の中にはそういう詰めた議論をする伝統が残っているからだと思う。

〇ただし昨今の中国はトップの判断に逆らえるような状態ではないと思うので、このリスクは払しょくできそうにない。石油価格が急落して100ドルを割り、日経平均も今日は890円も上げている。「ウクライナは結構頑張っている。ロシアは早晩行き詰まるんじゃないか」という楽観シナリオが浮上したからだろう。ただし中国がロシアのテコ入れに乗り出すとしたら、その先は結構、悲観シナリオとなってしまう。

〇中国の出方をどう読むか、というのが次なる分岐点になってくるのではないか。


<3月18日>(金)

〇そろそろ米中首脳電話会談が行われているはず。さて、盟友ロシアと西側社会の板挟みになった中国はどうすべきか。


@プーチンは落ち目だ。ロシアを手助けしたところで勝ち目は薄い。中国経済のためにも、ここは西側につかねばならぬ。

Aロシアがつぶされると、次は自分が標的になってしまう。ここはロシアに踏ん張ってもらわねばならぬ。アメリカは好かんし。


〇察するに習近平はプーチンへの信頼が厚いが、中国とロシアはそこまで深く結ばれているわけではない。さて、どっちか。考えてもわからない。まあ、そのうちニュースが流れるだろう。

〇ということでWBSをつけて、久しぶりに佐々木あっこさんの姿を拝する。ああ、なんだか癒される。まもなく「朝生」に向かいます。


<3月19日>(土)

〇このところわれながらよく働いて、よく勉強していると思うのだが、こういうときは「ははぁ、ワシはこんなことも知らんかったのか」と呆れ返ることが多い。

〇今回のウクライナ侵攻は、「NATOの東方拡大」などというのは後からつけた理由で、実際にはもっとドロドロとしたものがあるのではないだろうか。もともとロシアとウクライナは「隣の家のDV兄弟」みたいなところがあって、どういう事情があるのかは敢えて聴かないのが礼儀かと思っていたが、こんな風に歴史をたどるとなるほどと思えてくる。


●【浜 由樹子】プーチンはなぜウクライナの「非ナチ化」を強硬に主張するのか? その「歴史的な理由」


〇プーチン大統領は2008年、ジョージア侵攻の直前にGWブッシュ大統領に向かって、「ウクライナは独立国家じゃない」と述べたそうである。今回のロシア側の「戦争理由」はあまりにも粗雑なでっち上げに思えるのは、歴史的、思想的な対立があるからではないのか。

〇てなことで、まだまだ知らねばならないことが多そうである。


<3月20日>(日)

〇10時間以上寝たので、「朝生」に伴う時差ボケはどうやら解消。今日は予定がないので朝から競馬三昧に、と思ったところが、ウクライナ情勢が気になって仕方がない。

〇仕事の最中に競馬が気になるのならともかく、競馬の最中に仕事が気になるようではギャンブラーとして情けない。こんな日はもちろんのこと、阪神大賞典もスプリングステークスも外してしまうのである。

〇ということで、今日もネット上で関連情報を模索するのである。その中でも朝日新聞の「ウクライナ危機の深層」は、今日時点で全62回もあって、なかなかの労作というべきである。今日読んだ中ではこれが面白かったな。


●「追加制裁の可能性も」 経済制裁の専門家が分析するロシアの誤算(3月12日)


〇ウクライナ出身で、フィンランドのシンクタンクに勤める専門家の意見だが、いちいち私見と重なるので驚くほどだった。「現在の制裁は10段階でいうとあたり」とか、「(ロシアの外貨準備凍結措置は)実はこれこそが最も破壊的で、前例のない経済制裁」だとか。そうそう、そうなんですよ。

〇そのうえで、下記の指摘は胸に突き刺さるものがある。


 制裁という選択肢は本来、戦争を抑止するためのレバレッジ(てこ)として使われる方が望ましい。しかし、抑止できなかった以上、制裁する意味はいまロシアに対する懲罰と圧迫です。戦争を続けるための経済力をロシアから徐々に奪うことが目標になると思います。西側による「経済戦争」で、ロシアは債務不履行(デフォルト)と不況下の物価上昇(スタグフレーション)に陥るでしょう。


〇つまり経済制裁がロシアの体力を奪い、戦争継続を不可能にすることが目的となっている。しかるに経済制裁は、@「効果を見定めることが難しく」、A「かける側も返り血を浴び」、B「止め時がわからなくなる」のが世の習い(かんべえの経済制裁3原則)。我慢比べとなるので、西側諸国としては後で自分の首を絞めない程度に、ゆるゆるとロシアに圧力をかけてゆくべきである。

〇他方、ロシア中央銀行は、昨日から市場でのロシア国債の買い入れを始めたそうだ。と言っても、これは先進国の中央銀行がやっているQE(量的緩和策)とは違って、政府部門の財政赤字を引き受けるマネタイゼーションに他ならない。日本の金利は0%ですけれども、彼らの金利は20%ですからね。

〇およそQEとかMMTといった「非伝統的な手法」を、ロシアはこれまで排除してきた。彼らは彼らなりに慎重かつ保守的なのである。その証拠に、3月16日に予定されていたロシア国債の利払い1.17億ドルも、ちゃんとドル建てで返済した模様。もっともこの後はと言えば、4月4日に20億ドルのロシア国債の元本支払いが待っているようなので、これはもうスリルとサスペンスということになる。

〇意外なことにロシアの対外債務は1500億ドルしかなく、ロシア国債はそのうち400億ドル程度なんだそうだ。6400億ドルの外貨準備があることを考えれば、普通ならばこれで鉄壁で御の字である。ところがそれが制裁により凍結されちゃっているので、彼らのプルーデンス政策も風前の灯となっている可能性が大である。

〇ロシアの株式市場は2月28日からこれで3週間も閉鎖されている。再開すれば売りが売りを呼ぶことは避けられず、その中でもロシア国債を大量に保有しているはずの銀行株がエライことになりそうだ。それもあって、金融当局はロシア国債を買い支えなければならない、という理屈なんだと思う。なかなかにツラい展開と言えましょう。

〇しみじみ金融制裁だけでロシアが倒れてくれれば、こんなにありがたいことはない。エネルギー制裁はできれば避けたい。それはもう西側各国もツラいので。はてさてこの事態、中国政府はどんなふうに見ているのであろうか。


<3月21日>(月)

〇昨日のゼレンスキー大統領はイスラエル向けのオンライン演説を行ったようです。ただしクネセト(イスラエル議会)は休会中だったので、議員向けのZoom形式で行われました。

〇ともあれ、これでゼレンスキー大統領がオンライン演説を行ったのは5か国になりました。明後日、日本で行われるのが6か国目ということになります(韓国で、「早くわが国もゼレンスキー大統領に演説してもらえ!」てな声が湧き上がるかもしれませぬぞ)。


3月 8日 @英議会向け演説   (「決して降伏せず、敗北しない)
3月15日 Aカナダ議会向け演説 (空域封鎖を訴え)
3月16日 B米議会向け演説    (真珠湾や「9/11」に言及)
3月17日 C独議会向け演説    (ドイツの経済重視路線を批判)
3月20日 Dイスラエル議会向け演説 (「善と悪の調停はできない」)
3月23日 E日本の国会向け演説 (ライブで午後6時から)
3月24日 開戦からちょうど1か月。G7、EU、NATOサミット(ブリュッセル)


〇ゼレンスキー演説は、完全にこの戦争の「ナラティヴ」を決しつつある。ロシアがいくらフェイクニュースを流しても、これはもう衆寡敵せずでありましょう。いや、それはもちろんロシア軍がやっていることが悪過ぎるし、ウクライナの戦況は酷過ぎるし、その中で逃げずに闘っているゼレンスキーが雄々しいから、である。たぶん洗濯していないTシャツも、そり残しの髭も、文句なしにカッコいい。

〇かつてはコメディアンだった政治家が、国難に当たって大化けし、"Captain Ukraine"と呼ばれている。そしてその雄弁が、世界に大きなうねりをもたらしつつある。日本の政治家で「日本に呼ぶのはどうのこうの・・・」と反対した人が居たようだが、まずはこの奇跡に嫉妬するのが政治家として正しい態度でありましょう。

〇ゼレンスキー氏、英国ではウィンストン・チャーチルを引用し、アメリカではキング牧師の"I have a dream."を使って"I have a need."(私には必要なもの=軍事支援や対ロ制裁=がある)とやっている。そうかと思えば、ドイツやイスラエルに対しては、結構、遠慮のないことも言っている。日本に向けて何を言ってくれるのか、まことに楽しみではありませんか。日露戦争が飛び出すか、広島とフクシマが飛び出すか、あるいは北方領土が飛び出すか。できれば少しくらい、われわれが困るようなことを言ってもらう方がいいと思う。

〇明後日、3月23日の午後6時に日本の国会向けのオンライン演説が行われる。その翌日、ブリュッセルではG7とEUとNATOの首脳会議がまとめて行われる。われらが岸田文雄首相も馳せ参じる。「いや〜、昨日、ゼレンスキーさんに言われちゃいましたよ〜」と頭を掻きながら出ていく、というのは麗しい姿ではないだろうか。


<3月22日>(火)

〇せっかく今日で「まん防」が明けたというのに、首都圏は急な寒さで、しかも先日の地震のせいで東北地区の火力発電所が停止して、今日は電力危機である。いやもう、一部では雪も降っているとかで、一難去ってまた一難。まことに困ったものであります。

〇こういう状況になったら、突如として巻きあがる「なんで原発を動かさないのだ」という声。いやねえ、お気持ちはわかりますけれども、そんなに簡単な話じゃないんです。以下、ごくごく簡単にわが国の原発事情をご説明いたします。

〇原子力発電には2つのタイプがあります。BWR(沸騰水型)とPWR(加圧水型)です。BWRは東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、中国電力の5社、PWRは北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力の4社です。沖縄電力はこの際、考慮の外といたします。

〇福島第一原発はBWR型でした。ゆえにわが国における震災後の原発再稼働は、PWR型が優先されました。原子力規制庁が新しい基準に沿って再稼働を認定していくわけですが、これまでに10年と少々の時間をかけて、ようやく関電、四電、九電では原発を動かすことができるようになりました。北海道電力はまだです。泊原発が動いていれば、2018年の全道ブラックアウトは避けられた公算が大ですが、まあ、それは言っても仕方がない話でしょう。

〇さらにここに至る過程において、反原発派が再稼働差し止めを求める裁判を起こします。このことを関係者は「ロシアン・ルーレット」と呼んでおります。彼らはそこらじゅうで裁判を起こしますので、一定の確率で「差し止め判決」が発生します。これらの判決は上訴されるとだいたい否決されますが、差し止めを命じた地裁判決は一部の新聞がほめ称えることとなりますので、裁判官(その多くは定年間際の人たち)はそれで心の平安を得るのでありましょう。

〇こんなことをやっているから、再稼働は時間がかかって仕方がありません。この間、何度も国政選挙がありました。原発の是非をテーマにする政党もありましたが、「反原発政党も、原発推進政党も等しく負けた」というのが過去10年の経緯です。この問題に対しては、ハッキリしない態度を示すことが賢明な態度でありました。これでは進むことも引くこともできない。そうやって10年の月日が流れたわけです。

〇かくしてBWR型の5社は、どこもまだ再稼働の認可を受けていません。従って5社は原子力規制庁の認可を得るべく、懸命の努力をしているわけですが、規制庁は慢性的な人手不足であります。いつ、視察に来てもらえるかわかりません。だから電力会社としては、「できる限り最大限の努力をする」方針で対処します。規制庁に「駄目です。やり直し」と言われたら、次にいつ来てもらえるかわからないから。ゆえに防潮堤の高さやら非常時のディーゼル電源やら、第三者的には「ここまでやるのか?」とあきれるくらいに必死にやっているわけです。

〇なおかつ、規制庁は「万が一のテロ対策の準備もせよ」と電力会社に迫ります。そんな馬鹿な。今回のウクライナ戦争でも、原子力発電所はロシア軍が狙うところとなりました。原発の防衛は、本来、自衛隊が担うべき仕事なのではないでしょうか。「原発に北朝鮮のミサイルが落ちましたが、日本の防衛は守れました」てなことがないことは、容易に想像できますよね。それって本当に民間会社の責任範囲なんでしょうか?

〇ちなみにBWR5社のうち、どこが最初に再稼働の認可が降りるかは、もちろん電力業界内の大きな関心事です。かつては東京電力の柏崎・刈羽が最有力とされていました。ここはウクライナのザポリージャ原発よりも大きい、文字通り世界一の原発集積地です。なかでも6号機と7号機は、ABWRと呼ばれる最新鋭機です。これさえ動けば、東電の採算は一気に改善するとまで言われています。

〇ところがこの柏崎・刈羽で、規制庁の抜き打ち検査によって不祥事が発覚したために、一気にその期待はしぼんでしまいました。まあ、何があったか詳しいことは存じませんが、地元の信頼は失墜し、再稼働にはまだまだ時間がかかることになりそうです。そもそもBWR型の電力5社においては、ざっくり入社1年目から10年目までの社員は原発が動いているところを見たことがないのです。それを「電力不足だから今すぐ動かせ」というのは、無茶もいいところです。

〇さらに言えば、原子力は巨大な裾野産業を持っています。それが10年も止まったら、核燃料に関する企業もどんどん撤退していきます。ここまであからさまな「安楽死」政策を続けておいて、今になって突然「なぜ動かさないんだ?」と言われても、業界関係者にとっては不条理もいいところでありましょう。

〇他方、原発の再稼働がなければ、脱・炭素はおろか、エネルギーの脱・ロシアも不可能となることは火を見るよりも明らかです。岸田内閣は今年夏の参院選が終わったら、向こう3年かけてこの問題に正面から取り組んでほしいと思います。今の規制庁のあり方は、明らかに無理があります。なにしろ商業用の原発を相手にしているのですから。エネルギー政策は国家の安全保障そのもの。今、ここで気付いてほしいと思います。

〇BWR型の中で、再稼働の一番手となるのは意外と東北電力ではないかと言われています。女川原発、私もおととしの秋に見に行きましたけど、準備はかなり進んでいるようだし、地元の宮城県は再稼働への理解がある。それにしたって、年内は無理だろうと言われています。原発の再稼働はそれが「相場感」となります。いやはや、拙宅のエアコンを切ってこんな話を書いておりますと、文字通り身も心も凍えてしまう気がいたしますな。


<3月23日>(水)

〇今朝はモーサテへ。今日のお題は「ウクライナ侵攻が変える?米国世論」。バイデン大統領は果たして「平和のリーダー」になれるのか?明日からのブリュッセルでのG7、EU、NATO首脳会議の三連荘がカギを握りそうです。

〇夕方、アベマTVにてゼレンスキー大統領の日本向け演説を聞く。抑え気味な内容で、ちゃんと日本向けのリサーチが行われていた模様。「日露戦争について語るのかと思った」とか言っている人がいたけれど、日露戦争の時のウクライナはロシアの一部ですからね。そりゃあ国民が怒りますよ。

〇マンボウもめでたく明けたので、今宵は弁当付きの会議に出て、諸般の情勢についてああでもない、こうでもないと意見交換。ウクライナ情勢について、「債務危機でもBrexitでも、欧州がかかわる危機はかならず長引く」というのは至言だと思ったな。あの人たちはしょうがないからねえ。

〇ということで、朝が早かったら今日は一日が長いのだ。もう寝よう。おやすみなさい。


<3月25日>(金)

〇プロ野球開幕戦、阪神ヤクルト戦を見始める。藤波晋太郎が開幕投手で、佐藤輝明が4番を打つ。いきなり猛打爆発で8対1になる。わはははは。今年も楽しませてくれそうである。

グッチーポストの懇親会(リモート)を覗いて、JDさんの講義を聞いているうちにリリーフ陣が打たれまくり。ときどき口をはさみつつ、だんだん気が気ではなくなってくる。

〇とうとう9回表で逆転されてしまう。なんなんだ、このケラーという新外人は。昨年のスアレスとはえらい違いではないか。

〇いやもう、とんでもない開幕戦である。阪神タイガース、今年も楽しませてくれますなあ。どれ、明日の日経賞の検討でも始めようかのう。


<3月26日>(土)

〇東洋経済オンラインに寄稿しました。


●ロシアのウクライナ侵攻を止める「悪魔の選択」


〇『悪魔の選択』の原題名は"The Devil's Alternative"です。正確に言えば、「悪魔の代替案」なんですな。今のウクライナ情勢に対しても、西側社会としてはいろんな選択肢を持っておくことが必要になると思います。「プーチンめ、お前は絶対に許さああああん」と構えてしまってはいかんと思います。

〇ところでこの小説には、ソ連時代の共産党政治局会議の様子が、「まるで見てきたように」描かれている。テーブルの形から局員の座り方、さらにはさまざまな「決まり事」まで、ものすごいリアリティである。たぶんフレデリック・フォーサイスの想像力の産物ではなくて、しかるべき筋から得たホントの情報だったのではないかと思えてならない。

〇その中には、ソ連軍の元帥が欧州侵攻計画を説明し、「ドイツ内での戦術核兵器の使用は避けられない」とか、「わが軍の死傷者は多くても十万から二十万の間と予測されるが、受容できる数字である」と大見えを切るシーンがある。おいおいおい、まあ、でも冷戦期のソ連って、そんな感じだったわな。今はウクライナで死者が1万人を超えるとヤバい、と言われておりますから、彼らもそれなりに「マシ」になったのだと考えたいものです。

〇ちなみに高松宮記念の予想は、枠順が決まる前に書いたものなのであんまり自信はありません。明日の上海馬券王先生の予想の方が、はるかに信頼に足るものと存じます。早々といただいております。どうぞよろしく。


<3月27日>(日)

〇昨日の続き。その昔、ワシが日商岩井の広報室勤務だった頃、担当していたTradepia(トレードピア)という雑誌でこんな記事を取り上げたことがある。


●90年代アメリカの選択 その外交戦略と世界情勢の行方

ロバート・タッカー教授に聞く(ジョンズ・ホプキンス大学 SAIS教授)

聞き手:ジョージ・R・パッカード教授(SAIS学長)


〇1989年8月号なので、天安門事件の後で、東西ドイツの壁が崩れる少し前である。ただしソ連は、ゴルバチョフ書記長の下で着実に開かれつつあって、世界的に「冷戦は終わるのではないか」という予感が満ちていた頃である。パッカード教授は、「西ドイツは東側に接近するのか、それとも西側の一員であり続けるか」なんてことをタッカー教授に尋ねている。問題はそのあとの部分である。こんなやり取りがあった。


パッカード:ソ連国内の各共和国については、いかがですか。ラトビア、エストニア、ウズベクなどの人々が今後、いっそうの自由を要求した場合、ソ連は平和的に状況の推移に対応していけるのかどうか。

タッカー:実はこれこそ現在の最大の問題であるといえるでしょう。これはソ連が現在直面しており、今後も直面を余儀なくされるだろう最大の脅威であるからです。なかでももっとも深刻な事態が予想される地域は、ラトビアなどのバルチック諸国でもウズベクでもイスラム教国でもなく、ウクライナです。もしウクライナがソ連邦を離脱するようなことになれば、現在のソ連の枠組みが根底から崩れることになる。そしてソ連政府の武力行使なしにこれが現実化したとしたら、続いてイスラム教徒などの離脱も起こるだろうと推測せざるをえない。

 そうなると90年代の終わりまでには、ロシアを核とした地域だけがソ連として残り、ソ連の人口は1億5000〜6000万人前後に減る可能性もある。こうしたすべてが平和的に、ソ連による大規模な軍事力の行使抜きで運ぶとは私には考えにくい。しかし、ソ連が遠からずこの問題にまっこうからぶちあたることは、ほぼ確実です。真の意味での連邦制の確立を約束するような魅力的な提案をソ連政府が行って、事態を切り抜ける、という道ももちろんあるわけですが・・・・・。


〇「トレードピア」は既に廃刊になっているけれども、ありがたいことにバックナンバーは残っている。先日、この部分を読み返してみたのだが、タッカー教授の予測はまことに卓見というべきであった。それから1年と4か月後に、上記は現実のものとなる。なおかつ、それは平和裏に実現した。この点は「望外の幸せ」というものであっただろう。

〇どういう弾みでそうなったのかは忘れてしまったのだが、まだ20代であった当時のワシは、高校の同級生である上海馬券王先生に対して、この予測を熱っぽく語ったのである。すると馬券王先生、事も無げにこう言ってくれたのである。

「それってフォーサイスの『悪魔の選択』に出てきた話じゃないか」

〇読んでなかったんですよねえ。今頃になってそれを思い出して、ようやく古本を取り寄せて読んだような次第でありまして。ということで、東洋経済オンライン最新の拙稿が誕生した内幕をご紹介いたしました。


<3月28日>(月)

〇為替が急変。なんと一気に1ドル125円まで動いたというから驚きました。6年7か月ぶりの円安水準ですか。久々に中央銀行に対して、市場が「造反」しているという印象です。

〇125円と言えば、2015年に黒田総裁が「けん制発言」をして、「黒田ライン」とか「黒田シーリング」と言われてきた水準です。だったらここで円安が踏みとどまるかと言えば、そうとは限らないでしょう。今の状況はドル高というよりは円の独歩安。インフレ格差による金利差拡大から、エネルギー価格上昇による貿易収支の悪化まで、ありとあらゆる材料が円安を示している。ここで当局による「円安けん制発言」があったとしても、効果は限定的でしょう。

〇以前であれば、「有事の円買い」「リスクオフの円買い」ということで、ウクライナ情勢を嫌気して円を買う、という動きがあった。今でも日本は世界最大の債権国であり、「円は究極の安全資産」という見方はできる。「アラブの春」に「東日本大震災」が重なって、まさに日本が国難と思われた今から10年前には、1ドル80円前後まで円高が進行したものです。とはいえ、アベノミクスによる円安誘導が10年近く続いた後では、同じことは考えにくくなっている。

〇ましてグローバルインフレの時代なんだから、投資家として金利のつかない通貨は買いたくない。今のような有事に買うのなら、まだしも豪ドルあたりの方が気が利いている。金利もあるし、資源国通貨だし、文字通り「遠くの戦争は買い」ですからね。

〇さて、この円安を当局は防衛できるのか。アベノミクス下で円安という「ぬるま湯」が長期化した結果、企業収益は改善したけれども設備投資はさほど進まず、産業競争力は低下気味で製品輸入の比率が上がっている。ここへエネルギー価格が上昇すると、ますます交易条件が悪化して貿易収支が悪化しそう。足元の輸出は好調ですが、それも今後、世界経済が減速するようならこの限りではない。

〇今日は日銀の「指し値オペ」が発動されました。明日以降も継続されるとのこと。10年物新発国債を対象に0.25%の利回りで、原則として応札分すべてを日銀が買い取って金利の上昇を抑制するという動きです。2016年9月から行われているYCC(イールドカーブ・コントロール)においては、プラスマイナス0.25%を長期金利の上限としている。他方、アメリカの長期金利はインフレに沿って青天井で上がっていて、今日はとうとう2.5%まで到達した。かくなる上はドルを買って円を売る動きが止まらないことになる。

〇今の日銀にとっては、金利のYCCを守る方が為替の「黒田ライン」を守るよりも優先順位が高いはず。だったら理屈として、125円の「黒田ライン」は守られないことになる。今日がドル円レートの底値になるような気はしないなあ。今後、アメリカの利上げは続くわけですし、120円台後半をつける可能性は否定できないと思います。


<3月29日>(火)

〇文化放送の「くにまるジャパン極」、明後日で最終回となりますので、火曜日コメンテーターの不肖かんべえは今日が最終登板でした。このところずっとリモート出演が続いておりましたが、先週でやっと「まん防」が明けてくれたので、今日はちゃんとリアルで放送でした。

〇テーマは昨日、1ドル125円まで進んだ円安について取り上げました。どんな話をしたかはこちらをご参照。ちなみに「くにまるジャパン極」は今年度いっぱいで終了ですが、新年度からは「くにまる食堂」が始まるとのことです。

〇2009年4月から始めたこのレギュラー番組、丸13年間も続けました。前任の弘兼憲史さんが6年半続けられたと聞き、「うーん、あんまり早くクビになるとかっこ悪いぞよ」と思っていたのですが、その倍も務めたことになります。

〇今日は普通に笑って番組を終えたのですが、たぶん来週火曜日になったら喪失感にさいなまれることになりそうです。お昼に外出したついでに、日枝神社の桜を愛でて、ちょっとだけ別れの季節のつもりになりました。


<3月20日>(水)

〇「まん防」明けとともに、このところいろんな人と会っておりますが、下記はランチの席でさる政治家から窺った話。


「戦前の日本が石橋湛山の言う『小日本主義』を選んで、満州を手放して自重していてくれたら・・・。今頃は南樺太に千島列島、台湾まで日本領だったのに・・・」


〇いやはや、その場合はサハリンの資源開発が自国内で行えていたことになります。エネルギー自給率が一気に上がっていたことでしょう。いわゆる「レバタラ」の類ではありますが、そういうパラレルワールドを考えてみると、つくづく軍事行動には慎重であらねばならないと痛感します。現役世代には、後世に対する責任があるのですよね。

〇戦前の日本が満州を手放せなかったのは、日露戦争であまりにも多くの将兵の命を失ったからでありました。「ハリマン提案」で満州の日米共同開発を持ちかけられた際も、小村寿太郎がそれを蹴っている。満州の権益は血を流して得たものだから、という理由です。まあ、『ゴールデンカムイ』の鶴見中尉を思えば、その辺の気持ちはわからんではありませぬ。

〇しかるに満州の権益なるものは、ロシア軍が撤退する際に南満州鉄道を日本に引き渡していったから生じたのだと思います。当時の日本は「満鉄」を守るために、ずいぶんな人とお金を投資するわけですが、トータルでは明らかに赤字でありました。満鉄出身の人材が、戦後日本の建設に役立ったというプラス面はさておいて、の話ですけれども。

〇このところ値打ちが大暴落気味のロシア軍ですけれども、彼らの真骨頂は撤退するときの伸縮自在性にあるのでしょう。勝っているときは遠慮なく前へ出てくる。取れるものは取れるだけ取ろうとする。逆に勝ち目がないときはサッと引く。退却するロシア軍に注意、とはよく言ったものです。

〇キエフから撤収して東部戦線に集中する、などと言っておりますが、本当にそんな「転進」ができるのなら、彼らはまだまだ捨てたものではないのでしょう。逆にそういう伸縮自在性が失われているのだとしたら、それこそロシアという国がヤバくなっているのだと思います。さて、どっちなのか?


<3月31日>(木)

〇これは笑い話だと思って読んでくださいまし。

〇年金受給額は経済情勢に沿って、増えたり減ったりする仕組みになっている。今年は名目賃金が減ったことで、前年比▲0.4%減額されることになる。国民年金は▲259円減って月額6万4816円となる。

〇ところがこの知らせが届くのがちょうど6月となり、参議院選挙の1カ月前ということになる。これはちと不味い。たとえ300円でも、年金が減ったら怒られる。そこで減額となる259円×12か月分=3108円を補填してしまえばいい。与党の間から、「年金受給者に5000円配布」というのアイデアが生まれたのは、そういう理由なんだとか。

〇なんというみみっちい話でしょうか。急にこの国の将来が心配になってきましたぞ。













編集者敬白




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by Tatsuhiko Yoshizaki