●かんべえの不規則発言



2002年7月



<7月1日>(月)

○今日から2002年も下半期。こないだから「東アジアFTA構想」に関する論文を書こうとしているのですが、なかなか進みません。以下はその過程で拾った、ちょっと面白い話。

○「中国には東洋という概念はない」のだそうです。なにしろ中華思想の国ですから、いつも自分が中心。中国で「東洋史」というと、それは「日本史」の意味になるのだとか。日本人の生半可な中国文明に対する思い入れを、打ち砕いてくれるような小気味のいいエピソードだと思います。

○ある年代の日本人は、「西洋文明に対する東洋の知恵」みたいなことを言うのが大好きなようです。「20世紀の物質文明は行き詰まった。これからはアジアの時代である。人間と自然の調和を目指す東洋の叡智が求められる」みたいな。かんべえは昔からこの手の言説が不思議でしょうがない。そもそも中国の古典の何を読んだら、東洋思想なんてものが書かれているのか。案の定、そんなものはない、というのが正解らしい。やっぱりね。

○朱鎔基に会いに行った日本人が、こんなことを言われたそうだ。「日本とアセアン、中国とアセアンという2つのFTA構想がありますけど、日本は農業問題があるから、われわれの方が先に実現しますよ」。まったく、これではどっちが社会主義国かわからないではないか。今の中国は、自然との調和や市場万能主義への警戒感なんて薬にしたくとも見当たらない。変な幻想は大概にしましょうや。


<7月2日>(火)

○ナスダックが5年ぶりの安値。先週からの株安は、World Cupならぬ World Comが原因です。(うわー、われながらベタなギャグ)。米国の企業会計への不信感が一気に噴出しています。さて、クルーグマンは何て言っているんだろう、と思って覗いてみたら、面白いコラムを発見。ニューヨークタイムズの6月28日に掲載されたようですな。

http://www.pkarchive.org/column/062802.html 

○あなたは儲からないアイスクリーム屋さんだとする。ではどうやって金持ちになったらいいか。いいお手本がたくさんあるじゃないですか、最近の企業スキャンダルの中に。

(1) エンロン作戦:顧客に対して向こう30年、毎日1個ずつアイスクリームを売る契約を結ぶ。そうすれば1個当たりのコストは低下する。そこで将来にわたって予測されるすべての利益を、今年度の経常利益として計上する。突如として高収益のビジネスに見えるので、株価を上げることができる。

(2) ダイナジー作戦:アイスクリームはこれから儲かるようになる、と投資家に信じ込ませる。そして他のアイスクリーム屋さんと秘密協定を結び、お互いに膨大な数のアイスクリームを売買する。もちろん紙の上だけの取引でいい。するといかにも大手のプレイヤーに見えるので、株価を上げることができる。

(3) アデルフィア作戦:顧客と契約を結ぶが、今度は収益性よりも契約数を投資家に印象づける。想像上の取引を作るのではなく、想像上の顧客を発明するのである。契約者数が急増するにつれてアナリストが推奨してくれるので、株価を上げることができる。

(4) ワールドコム作戦:架空の売上を作る必要はない。クリームや砂糖、チョコレートシロップなどの毎日の経費は、新しい冷蔵庫を買ったことにしてコストがなかったことにする。儲からないビジネスは、帳簿上は高収益ビジネスになるので、新しい機器を買うためにどんどんお金を借りられるようになる。そして株価を上げることができる。

○いやあ、投資家を欺くにはいろんな手口があるもんですな。株価重視経営の弊害というのは見事にでてしまったというわけ。教授はこんな調子でさんざんおちょくった後で、こんなことを言っている。「僕は半年前に、エンロンスキャンダルは9・11よりもアメリカにとってのターニング・ポイントになるだろうと書いて、各方面のヒンシュクを買った。今だと、もうちょっとそれらしく聞こえるかな?」

○不規則発言の2月2日にも取り上げましたが、クルーグマン教授の皮肉はあいかわらず冴えわたっています。


<7月3日>(水)

○ブッシュ大統領は、レーガン大統領との共通点が多い。どちらも共和党内では保守派に属し、大きな州の知事出身というアウトサイダー。2人とも、ずば抜けて頭が切れそうには見えないけど、国民の人気は高い。経歴がちょっと怪しげなところ、家族にトラブルがあること、仕事は部下に丸投げ、でも人望はある、といったリーダーとしてのスタイルも似ている。というか、部下の一部はもろに重なっていたりする。(例:パウエル安保担当補佐官→国務長官)

ロナルド・レーガン 項目 ジョージ・W・ブッシュ
カリフォルニア州知事 前職 テキサス州知事
俳優 経歴 プロ野球球団経営
ソ連との対決姿勢 外交政策 テロとの戦争
悪の帝国(Evil Empire) 得意フレーズ 悪の枢軸(Evil Axis)
大減税 経済政策 大減税
双子の赤字 その結果 双子の赤字
プラザ合意でドル高是正 通貨の行方 ドル急落?


○ちょっと気になるのは、経常収支と財政状況である。2002年の経常赤字は対GDP比で5%に迫る勢いだし、財政収支も5年ぶりの赤字に転落しそうである。このままだと昔懐かしい「双子の赤字」が復活し、米ドルは大幅に下落するのではないか、という類推が働く。この辺はほとんど条件反射的な連想かもしれない。

○これに対して、富士総研の中西健夫氏が面白い指摘をしている。以下、「欧米情報アナリシス」7月1日分からの抜書き。

「経常収支と財政収支を指して双子になぞらえるのは、厳密には必ずしも適切ではない。なぜならば、両者は双子のように独立した関係にあるのではなく、全体とその一部、いわば親子の関係だからである。つまり、経常収支は一国全体の貯蓄投資差額を意味するのに対して、財政収支はその一部である政府部門の貯蓄投資差額を意味する」

○そーなんです。80年代の双子の赤字には、2つの赤字が互いに刺激しあって増大していくというメカニズムがあった。つまり巨額の財政赤字が市場の資金を吸い上げてしまい、高金利を招く。すると実力以上のドル高になるので、米国の製造業は空洞化して経常赤字が増える。そうなると企業の海外移転によって税収が減るので、ますます財政赤字が増える、といった具合に。

○現在の2つの赤字は、それに比べると双子どころか他人のような関係にある。少なくとも金利は上がっていない。おそらく民間の資金需要が極端に少なくなっているのだと思う。90年代の日本経済のように、バブル崩壊後のデフレ効果が生じかけて入るのを、政府部門がせっせと吸収しているのではないか。これは経済政策としては正しいことである。むしろ、こういうときでも財政が黒字を続けていたら、その方がよっぽど怖い。1997年の日本経済と同じ失敗をやるかもしれないからだ。

○表面的には「双子の赤字」でも、中味をよく見ると「他人の赤字」かもしれない。この点はちょっと注意が必要ですぞ。


<7月4日>(木)

○SAKURAドロップス、Traveling、FINAL DISTANCE、そして光。“Deep River”を買ってきて聞いてます。とってもいいです。CDなんて絶えて久しく買ってないんですが、宇多田ヒカルだけは買ってしまいます。裏切られることはありません。それにしても、これが本当に10代の少女が作る歌なんでしょうか。昼間、さんざん強がっていた中年男が、深夜にひとりで曲を聴きながら、こんな歌詞についホロリとさせられてしまう。

剣と剣がぶつかり合う音を
知るために託された剣じゃないよ
そんな矛盾で誰を守れるの。

どこでも受け入れられようと
しないでいいよ
自分らしさというツルギを皆授かった

(Deep River)

○かんべえがクリエイターとして信用を置いている同時代人となると、フィクションの高村薫、ノンフィクションの塩野七生、それに宇多田ヒカルとなぜか女性ばかりが並んでしまう。こういう人たちの仕事ぶりを確認できるのはうれしいことです。

○高村薫の新作、『晴子情歌』をまだ買ってません。本代には鷹揚な人間なのですが、家も狭いし、時間もないし、そもそも旧仮名使いが大の苦手という人間なので。読みとおせなかったらショックだろうしなあ。


<7月5日>(金)

○勉強会に出席。講師は村上さんで、テーマはアジア株投資。アジア各国の株式市場の違いや、日本の投資家の行動パターン、国境を越えるインターネット取引の現況、はたまた日本の監督当局の姿勢など、興味深い話が一杯。そのへんは思い切り省略して、結論だけを言えば、「お勧めは韓国株」だという。なんというか、納得したな。

○ワールドカップを終えて、なかには韓国がますます嫌いになったという人もいるようだけど、とにかく韓国への関心は高まった。日韓の非対称性を考えると、これは無条件にいいことだと思う。実際、隣国の株式市場のことについて、われわれはほとんど何にも知らないわけだもの。韓国株はすごく小さな単位から買えるそうです。キムチや韓国海苔が好きという人が増えているようなので、韓国株もこれからは狙い目になるかも。少なくとも中国株よりはいいような気がします。アジア株について知りたいという人は、こちらへどうぞ。


<7月6日>(土)

○FIFAのランキングというのは、先日からちょっと気になってまして、どこを見たら分るのか探してみました。FIFA.comの中で発見。コカコーラがスポンサーしているんですね。では、こちらをどうぞ。

http://fifa.com/rank/index_E.html 

 1 Brazil
 2 Argentina
 2 France
 4 Spain
 5 Germany
 6 Mexico
 7 Portugal
 8 England
 9 Colombia
10 Italy
11 United States
12 Turkey
13 Denmark
14 Ireland Republic
15 Netherlands
16 Yugoslavia
17 Cameroon
18 Paraguay
19 Belgium
20 Sweden
21 Czech Republic
22 Korea Republic
23 Uruguay
24 Japan
25 Romania
26 Costa Rica
27 Croatia
28 Russia
29 Nigeria
30 Honduras
31 Ecuador
31 Senegal
33 Iran
33 South Africa
35 Slovenia
36 Tunisia
37 Norway
38 Saudi Arabia
39 Poland
40 Morocco

○ランキングは複雑な計算をしている上に、しょっちゅう改訂が行われるので、上の方はそんなに変わらない。それでもドイツ(11位→6位、+5)やイングランド(12位→8位、+4)が躍進。ワールドカップに出なかったコロンビア(4位→9位、−5)、オランダ(9位→15位、−6)、ユーゴスラビア(10位→16位、−6)などが落ちた。

○ワールドカップを機に、一気に順位を上げたのは、まず韓国(40位→22位、+18)、セネガル(42位→31位、+11)、トルコ(22位→12位、+10)、そしてわが日本(32位→24位、+8)。なんと、クロアチアやロシアやナイジェリアよりも上、となった。ドーハの悲劇の相手国イラクは68位、ジョホールバルで戦ったイランは33位、何度もアジア大会で立ちはだかったサウジアラビアは38位。思えば遠くへ来たもんだ。それでも4年後にアジア大会を勝ち抜くのは、けっして簡単ではないと思うぞ。

○この一覧表は見ていて飽きないものがある。ふーん、北朝鮮は125位なのか、とか、何かと話題のボツアナは136位か、など。さらにイングランドがベストテンに戻る一方で、スコットランドは55位でウェールズは91位なのか、とか、台湾(172位)、フィリピン(175位)、パキスタン(181位)などのアジア勢は何をしとるのか、などなど。いちばん下を見ると、先日ブータン(199位)に敗れて栄光のブービーメーカーとなったモンテセラ(203位)の名前もある。200位はなぜかグァムなのね。

○2002FIFAワールドカップ、オフィシャルアルバムのCDを買ってきた。でも、ヴァンゲリスのアンセムが、レミックス効き過ぎで「こんなんじゃない!」。これなら500円のシングル版を買えば良かった!でも、それなりに懐旧の情に浸ってしまったワタシ。


<7月7日>(日)

○なぜか今日は近所に違法駐車が多いなあ、と思っていたら、なんと小学校でイベントが行われていたのだ。それがW杯で活躍した柏レイソルの選手を称える会。レイソルのHPには、チャンと案内も出ております。柏市が表彰するのは、われらが明神智和だけじゃなくて、韓国代表で頑張った黄善洪と柳想鉄も入っている、というところがミソ。もっとも、今大会MVPの第3位に輝いた洪明甫も、去年まではレイソルの選手だったんだけど。

○小学校には、レモンイエローのユニフォームを来た家族連れが大挙して集まっていた。しっかり入場制限が行われていたので、通りすがりに中を覗くわけにはいかなかったけど、それが床屋さんに行っていたら、「もらった、もらったぁ」と叫びながら、小学生の子供が色紙を手に飛び込んできた。お見事、3選手のサインが揃っている。これは値打ちがあります。

○ところでレイソルには2つのホームグラウンドがある。ひとつは以前から使っていた、日立の柏サッカー場。もうひとつは、最近できた県立の総合競技場。行政側としては、なるべく後者を使って欲しいわけだが、交通の便などを考えると、サポーターは昔ながらの前者に愛着がある。ふたつのサッカー場の構造をしみじみと比べてみると、こりゃあ誰だって、サッカー専用の日立柏サッカー場がいいわなぁ。周囲にトラックがある分だけ、どうしても観客の視線からゲームが遠くなってしまうのだ。

日立柏サッカー場

柏の葉公園総合競技場

○W杯のお陰もあって、中途半端な「総合競技場」が日本中にたくさんできてしまったかもしれませんぞ。


<7月8日>(月)

○お昼に受けた新潮社さんの取材とか、午後に出席した中国ビジネス研究会とか、夜に出た「上は78歳から下は20代人妻までの奇妙な飲み会」のこととか、いろいろあった一日でしたが、それらは全部忘れ去って、以下をご紹介します。

●俺のエネルギー源編 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Screen/2230/kahn/kahn.html

●プロジェクトX編 http://www6.plala.or.jp/kenz/flash/prox-wcup.html

●北斗の拳編 http://www6.plala.or.jp/kenz/flash/wcup02.html

○さすがはMVP。インパクトありすぎです。


<7月9日>(火)

○今日の『ルック@マーケット』、トップニュースは「マクドナルド、8月5日からハンバーガー80円を59円に値下げ」でした。新価格は休日も含む常時適用。チーズバーガーは120円から79円になる。マクドナルドは2月なかばまで、平日に限定してハンバーガーを65円で提供していたが、BSEの影響を受けて価格を改訂していた。さて、このニュースをどう読み解くべきか。

○前回、値上げを伝える席上で、藤田社長が「デフレは終った」と告げていた。かんべえはちょっと「胡散臭いな」と思って見てた。あのときは平日半額を止めた一方で、休日価格を下げ、さらにメニューを増やして実質値下げをしていた。そもそもマックは、売上の半分は休日に上がる業態なんだそうで、トータルすると値下げ効果の方が大きかったかもしれない。おそらく株式上場してしまった手前、「値下げします」とは言えなかったんだと思う(あの当時、株主は株価下落に怒っていた)。

○それでは足らずにまた値下げしてくるということは、マックにとって容易ならざる事態なんでしょう。そういえば、最近は「モスバーガー」の客が増えているような気がする。マックが本気になってモスがなくなると、モスファンのかんべえとしては悲しい。あそこは客が減ると、てきめんに新しいメニューも減るからなあ。

○デフレは終息に向かっていると思う。商品相場は上がり気味だし、消費者態度指数の「物価の上がり方」に関する意識の統計を見ても、昨年なかばを底に反転している。つまり消費者は、「これから物価は上がる」と読んでいる。もうひとつ、家計調査で衣料品の単価のデータが、2000年を底に少しずつ上昇に向かっている。ちょうどユニクロの快進撃が止まったのと同じ時期。消費者は、少しずつ高いものに手を出すようになっていることが読み取れる。

○ところでマックのハンバーガーは、現在の価格が80円なので、1ドル115円だとほぼアメリカの価格69¢といい勝負になる。それが59円になるというのだから、やっぱり円高に向かうんでしょうか。この価格を正当化するためには、1ドル85円という恐怖の円高が必要になりますぞ。


<7月10日>(水)

○「あらら、あの人がこんなところに」。長いなが〜いご無沙汰の人を、ひょんなところで発見するのはうれしいものです。とある理由で、少し前から手元に『旅館の女将に就職します』(倉澤紀久子/バジリコ)てな本があったんです。たまたま今日、初めて開けてみたら、知り合いの名前が出てきてビックリしました。

○この本は、兵庫の城崎温泉で、プロの女将(おかみ)さんを育てている、通称「女将塾」に集まった女性たちのインタビュー集。日本旅館の女将さんというのは、朝早くから夜遅くまでの激務ですから、なりたいなんていう物好きがそんなにいるはずがない。というのが普通の常識だろうし、かんべえもそう思う。でも、「女将さんになりませんか」という呼びかけに、日本中から大勢の女性たちが参加し、もちろん修行中に脱落者も出るけど、立派なプロの女将が誕生するようになっているのだそうだ。

○この塾を始めた経営コンサルタントの山本さんという人は、かんべえが15年ほど前に知っていた人なんです。当時は外資系IT企業にお勤めで、なぜかお付き合いがあった。商売もののレーザーディスクで、ヴィスコンティの映画なんぞを見せていただいたことがあったなあ。その後、独立して、なぜか城崎温泉を根城にしているとは聞いていたけど、こんな面白いことをされていたとは驚きました。

○「女将たるものの条件というのは、気概、気くばり、気っぷだと思うんです」 「何かトラブルがあったとき、客は社長を呼べ!ではなくて、女将を呼べ!というでしょう。旅館の最高責任者は女将だと、誰もが思っているからです」 「女将というのは、こちらがならせるものではなく、自分でなるものだと、僕は思っているんです」。――本の中の山本さんの言葉に、いちいちうなづきました。

○旅館は今全国で6万6000軒。ピーク時には8万3000軒あったそうだが、「2005年には4万軒くらいになっていると思う」(山本氏)。人材不足が大きな原因だという。外銀で不良債権ビジネスをやっているH君いわく、最近は老舗の温泉で破産した物件を買わないかなどという話が来るそうだ。なんで温泉がつぶれるかというと、つまるところ何代目だかの当主がボンボンで、経営手腕がなってないんだとか。不良債権処理も、つまるところは人材なんですね。そして人材がいないなら、育てなきゃいけない。女将塾、価値ある試みだと思います。


<7月11日>(木)

○かんべえの友人2人が、ちょっとしたファインプレーをやったみたいなんで、ちと宣伝まで。舞台は神保哲生氏がやっているインターネット放送局の「ビデオニュース・ドットコム」。ここで政治ジャーナリスト、角谷浩一氏、(あのJ−WAVEの番組"Jam the World"の月曜日のナビゲイター)が、新しく「永田町コンフィデンシャル」という番組のキャスターを始めるわけなんですが、その番組の第1回目の収録で事件があったんです。

○ゲストに招いた鳩山由紀夫民主党代表が、この番組で初めて代表選への出馬を事実上表明してしまった。これはどうやら、角谷氏のインタビューが「技あり一本!」で、鳩山氏は国会会期中ゆえに本当は黙っているつもりだったところを、とうとう言わされてしまったらしい。かの「山里会」での不用意な発言が、のちの「加藤政局」を招いた故事を考えると、この手のフライングが良かった試しはない。民主党の番記者たちとしては、「いざ鎌倉」の瞬間とあいなった。

○このために、主要メディアがこぞってインターネット放送を引用しなければならなくなるという、前代未聞の事件が起こった。7月10日夜のニュースステーションでは、この映像をそのまま流したそうなので、そこで角谷氏をご覧になった方もおられるかもしれません。

http://www.asahi.com/politics/update/0710/007.html 
http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=020710225331X230&genre=pol 
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20020710CPPI024010.html
http://www.yomiuri.co.jp/01/20020710ia28.htm 

○なんとも面白いのは、インターネット放送が地上波の報道を出し抜いたことです。鈴木宗男議員の疑惑や山崎幹事長の女性問題などは、週刊誌が暴いて他のメディアが後追いしましたが、こういうのもめずらしい。ネットでの情報公開は「2ちゃんねる」や「ヤフー掲示版」など、いかがわしいものという評価がある中で、一種の快挙かもしれません。

○最後は神保さんからのCMをちょっと載せておこう。

ビデオニュース・ドットコムは有料サイトですが、このインタビューの主要部分は現在無料でプレビューすることができますので、お時間がある時にぜひのぞいてみてください。アドレスは http://www.videonews.com です。

「永田町コンフィデンシャル」の番組そのものは7月12日(金)の配信になります。番組の中では鳩山さんのインタビュー40分を丸々放送しますが、番組を全部見るためには、月に500円を払って会員になって頂く必要があります。


<7月12日>(金)

○読者の皆さんにお願いがあります。この問題、正解をご存知の方は教えてください。FTAって、何の略なんでしょうか。

○なーんだ、そんな簡単なこと、と思われるかもしれません。それが結構、難解なんです。一般には、Free Trade Agreementだと思われていますけど、FTAの存在を認めているGATT24条の文言を見ると、Free Trade Areaとなっている。なーんだ、そうなのか、と思ったところ、NAFTAはNorth America Free Trade Agreementなんだそうです。また、日本政府が得意とするEPAは、Economic Partners Agreementです。英語のメディアでも、FTAといえばAgreementを使っていることが多いとか。

○実際、日本語の語感としては、「FTAを結ぶ」といったらAgreementで、「FTAを目指す」といったらAreaなんじゃないかと思います。外務省のHPでは両方の用例があるらしく、日本語ならばごまかせちゃうところ、英語にすると悩まなければならない。いったい、どっちが正しいのか。実はこれ、先日来、苦心していた東アジア経済圏に関する論文を翻訳する過程で出てきた問題です。われながら、初歩的なことが分ってないのでカッコ悪いんですが、だれか助けて〜。


<7月13〜14日>(土〜日)

○どうも調子が悪い。お昼に食べた回転寿司が悪かったか、めずらしくお腹を壊す。そのわりに仕事も抱えているので、来週の講演の資料を作っておく。ああ、たくさんすることがあるなあ。

○配偶者が秋葉原に行って、「サンダーバード・コンプリートボックスPART1」を買ってきた。DVDで16話が入っている。1本1時間。とりあえず第1話の「SOS原子旅客機」と、子供の頃に大好きだった第12話「死の大金庫」を見る。とっても懐かしい。なんぼでも時間がつぶせますな。「国際救助隊」というのは、"International Rescue"というのだと初めて知った。レディ・ペネロープの声は黒柳徹子で、今聞くと声が若いので笑えます。

○かんべえも子供の頃、サンダーバードのプラモを作った世代である。とくに2号と5号を買ってもらったときはうれしかったなあ。今見ても、このドラマの造形はよくできている。プールから出てくる1号、岩が割れて、やしの木を倒して出てくる2号など、一種の様式美の世界。第1話にしか出てこない原子旅客機も、ちょっとした美しさである。「カッコイイもの」は簡単に子供の心を捉える。これはもう、絶対に国境や時代を越えてヒットするドラマである。

○それだけじゃなく、今見ると個々の登場人物も細かく描き込まれていて、いかにも英国らしいドラマになっている。当時は小学生だったので、そんなことまで気が回らなかったんですな。5人の兄弟もちゃんと性格が違っているし、ペネロープとパーカーの名コンビはご存知の通り。第1話で無謀な救出を試みる中尉、とか、第12話で金庫の中に取り残される真面目な銀行員、などのチョイ役も存在感がある。

○『サンダーバード』を作ったのが1964年というから、大英帝国もかなり落ちぶれて、数年後にはポンド危機を迎えるという時代である。そんなこととは無縁に、製作者ゲーリー・アンダーソンはこの後に『キャプテン・スカーレット』を、そして人形劇から実写に移って『謎の円盤UFO』シリーズを作る。ほとんど全部見ているから、われながら呆れる。『シャーロック・ホームズ』から『ハリー・ポッター』まで、英国人が作るドラマには何か独特の味わいがあるような気がするな。

○ちょうど日本では、1966年に『ウルトラマン』が製作される。円谷プロはこの英国の人形劇に大いに刺激を受けたようだ。後続の『ウルトラセブン』で、ウルトラホーク号が滝の中から飛び出してくるのは、たぶん『サンダーバード』にヒントを得たのだろう。なぜかワールドカップになると、日本人の間でイングランドが人気があったりするのは、こういうことも無縁ではないのかもしれません。


<7月15日>(月)

○The Economistの今週号(7月13日号)で、「小泉純一郎はもう望みがない」という記事が出ています。すでに一部のマスコミでは「小泉政権は不良政権」などと紹介されているようですが、この記事、ちょっと変なんですよ。ま、いつもどおり、かんべえ訳をつけておきます。

"A dashing disappointment" 「派手な信用失墜」 (p.13-14)Leaders

<要約>
 経済が好転する兆しはご同慶の至り。第1四半期が年率5.7%の高成長となれば、今年はプラス成長が望めるし、4四半期連続のマイナスにも歯止めがかかる。日銀短観では依然悲観論が優勢なるも、輸出の増加もあって経済界の自信は回復を示している。資本主義に自信を喪失した欧米市場が軟調な中でも、株式市場は堅調である。

 しかし昨年4月に首相の座についた小泉純一郎が公約したように、日本経済の構造的な変化はまったく生じていない。不良債権処理、民営化、規制緩和、行革などがなければ、回復も短期に終るだろう。輸出主導の緩やかな回復が、経済に効率性と長期の成長をもたらす困難な決断を下す機会を与えるならともかく、それらを先延ばしする口実を与えているようなものだ。

 2つの妥協があった。90年代に郵政大臣だったとき以来、小泉は郵貯の解体が必要だと言っていた。240兆円の資産を有し、120兆円の簡保を併せ持つ世界最大の銀行は、民業を圧迫しているのみならず、無駄な分野に予算をばら撒く仕掛けとなっている。自民党守旧派はこのシステムを守ろうと汲々としている。7月9日には小泉の野心通り、郵政改革法案が衆院を通過した。しかし郵貯と簡保は手付かずだし、郵便への民間参入も10万個のポスト設置が必要である。

 もうひとつの妥協は金融庁の人事。150兆円の不良債権処理が必要とされながら、柳澤担当大臣は危機の存在を否定している。今月退任した森長官は、腐った銀行を除去するより梃入れする方を好んだ。後任にはより改革志向の人間が望まれたが、相も変らぬ自民党守旧派の側近に決定した。

 いずれも小泉への失望を深める逸話である。1年前、小泉が絶大な人気で地位に着き、聖域なき構造改革を公約したときに誰がこの事態を想像したことか。改革への努力は自民党抵抗勢力に吸収されるか、小泉自信の無関心さに直面した。小泉の支持率も、1月に外相を解任してからめっきり低下した。

 では小泉はもう抜け殻なのか。たしかに問題はますます困難になっている。税金を下げて成長を促すか、それとも増税と歳出削減で赤字を減らすか。補正予算を積み重ねることで、政府の赤字はすでにGDP比で130%になっている。小泉ファンはなおも代わる者なし、という。昔ほどではないが、小泉は自民党より人気がある。解散をカードに使える。

 しかし自民党はもう小泉の柔軟性に慣れてしまっている。小泉が早く変わらないと、銀行の不良債権と同じように、早く処理しておけば良かったということになるかもしれない。

○このコラム、ちょっと粗い。どうでもいいことと思われるかもしれないが、第3パラグラフ、90年代に小泉が務めたのは「厚生大臣」であって「郵政大臣」ではない。単純な事実誤認。そもそも郵政大臣が郵貯の解体を主張するはずがないし、厚生大臣なのに郵政民営化を叫んでいたところが、純ちゃんのユニークなところである。あまり日本政治に詳しくない記者が書いているのだと思う。郵政改革が不充分だと言っているのはわかるけど、いきなり郵貯まで切り込めというのはご無体な話。

○また、金融庁長官の後釜で逆転人事があった話も取り上げているが、これに対する評価もちょっと首をかしげる。そもそも小泉氏が不良債権処理に本気じゃないことは、マーケットの人間ならば政権発足後1か月で見抜いてしまった話で、当溜池通信でさえ、昨年6月8日号で「こりゃ駄目だわい」と書いておる。今ごろ「失望が深まる」といわれてもピンと来ませんな。

○まあ記事全体としては、そんなに変なことを言っているわけじゃないし、このタイミングで「小泉辞めろ」と言いたくなるのも分らんわけじゃない。"The Economist"がLeadersで日本を取り上げるのも、最近では久しぶりのことなので、それなりに注目すべきなんだろう。でも、この記事の投げやりさ加減はなんとしたものか。昨年2月に、"Why Japan’s Mori must go"(森首相が辞めなきゃいけない理由)と啖呵をきったときと比べても、はっきり記事として落ちる(不規則発言2001年2月13日に関連記載あり)。

○てなわけで、長年の読者としては、「ふん、お宅も最近は味が落ちたねえ」てな嫌味を言いたくなった今週号である。


<7月16日>(火)

○失礼しました。ここを見たら、小泉さんは郵政大臣をやってましたね。1992年ということです。そうかそうか、当時はYKKが閣内に入って、小沢包囲網を作っていた時代。小沢は羽田を取り込んで「改革フォーラム21」を作り、隠忍自重の日々を送っていた。(翌年の宮沢首相不信任で造反し、新生党を結成する)。経世会の中村喜四郎も加えて、NYKKなどと言っていた。そういう状態だから、郵政大臣になったところで、自分が郵政改革を進められる状態ではなかったんでしょう。そのせいか、あんまり逸話は残っていない。

○小泉純一郎が本格的に「郵政民営化」の旗を振り出したのは、1995年の自民党総裁選から。もっともこのときは、党の総裁たる河野洋平がみずから候補を降りてしまったので、急きょ橋龍に対抗馬が必要となり、純ちゃんはいわばピエロの役を割り振られて登場した。準備不足は否めず、このときの政策論争は、どう贔屓目に見ても橋龍の圧勝だった。しかし負けたことで知名度は上がり、「自民党のジャンクボンド」と呼ばれるようになる。その後は、田中秀征などと行革研究会を立ち上げ、郵政民営化論を静かに深化させたようだ。

○第1次橋本内閣では、薬害エイズ問題やらO157やらで、菅直人厚生大臣(当時は新党さきがけ)が大活躍する。しかし96年秋の総選挙を前に民主党が結成され、野党に回ってしまう。そこで第2次橋本内閣は、ベテランの厚生大臣が必要になった。そこでお声がかかったのが、われらが純ちゃん。「俺はもう総裁選のことなんか覚えちゃいないよ」という、橋龍らしい配慮も込められていたんだろう。しかるにそこで、「厚生大臣をやってもいいが、俺は郵政民営化だ」と言い放った心情は、あまりにも複雑で余人には窺い知れない。あるいは単に子供っぽいだけなのかもしれないけどね。

○さて、本日は岡崎研究所の日中安全保障対話にオブザーバーでもぐりこむ。サラリーマンの悲しさ、終わり頃になってようやく駆けつけたんだけど、それでも楽しめた。テーマは朝鮮半島問題。W杯中の海上衝突の意味、今後の太陽政策、年末の韓国大統領選挙との関連、北朝鮮の2003年危機説、金正日への評価、そして北朝鮮難民と領事館亡命事件など。日中の安保専門家が、ともにこの問題を語り合う、というところが面白い。

○ある参加者が、「韓国人はナイーブで忘れやすいからなぁ」と発言した瞬間に、期せずして日中双方から笑い声が漏れた。その場にいない人間の悪口を言うと親密感が増すのは世の常だが、なんなんだ、この和やかさは。やっぱりセカンドトラックの国際会議は、いいもんですね。

○最近、「中国脅威論というものは、経済面ではMade in Japan、安全保障面ではMade in USA」じゃないかという気がしている。でも、だからといって不要なわけでもない。とくに日本経済としては、中国脅威論は必要だと思う。追い上げられているという緊張感がなかったら、この国の人間は痛みを伴う改革なんて、けっして手をつけようとはしないはずである。てな話を、今週号で書こうかなと思っています。


<7月17日>(水)

○外資系金融の人たちの話を聞くと、もう「お先真っ暗」といった声で一色ですね。今宵は某国内証券から某米系証券に転職する人を囲んでたんですが、「今時移れるとは、恵まれているなあ」といった反応がありました。「経済指標を見る限り、そんなに悪いようには見えないんだけど」てなことを言うと、「そういうときこそ、売り時なんですよ」などと言われてしまい、なるほどそういうものかと感心したりする。

○ひとつ確かなことは、ブッシュ大統領が現在の株安をあんまり意に介していないことだ。ブッシュのことを元経営者だの、大統領としては初めてのMBA保持者だ、なんていうのは買いかぶりもいいところ。賭けてもいいけど、彼はバランスシートは読めないと思う。彼の演説をよくよく読めば、単なる正義感を発露しているに過ぎず、米国金融界の危機だとはまるで認識していないことがわかる。

○加えて、今のホワイトハウスにはウォール街出身者がほとんどいない。ロバート・ルービン的な人材を極力排除してできたのが現政権である。正味な話、経済スタッフといえばこんな人たちだ。

オニール財務長官 (いまどき化石のようなオールドエコノミー経営者。難しい話は俺にはナシだぜ)
エヴァンズ商務長官 (私は大統領の心の友よ、今のポストは忠誠心の証。テキサス精神よ永遠なれ)
リンゼー経済担当補佐官 (あたしゃ前から米国株は高すぎると言ってたよん、どんなもんだい)
ハバードCEA委員長 (米国に経済政策は不要だ。なぜなら私は正統派の経済学者だから)

○「中間選挙前に、これだけ株が下がったら大変だろう」なんて考えるのはクリントン政権の発想で、「ふむ、2002年は捨て石にしても、2004年に勝てばいいじゃないか」的な戦略性を発揮したがるのがブッシュ政権の特性だと思う。つまり、ニューヨーク(金融)とワシントン(政治)の距離があまりにも遠い。この辺の鈍感さが表に出るか、裏に出るか。悩ましい日々が続きますな。


<7月18日>(木)

○昼にワシントンから客人あり。いろいろ情勢を伺う。民主党支持者とあって、ブッシュ政権に対しては辛口コメント多し。ブッシュの人気は高いけれども、議会共和党は信用されてない。選挙では苦労するだろう。Homeland Security Actはおっかない法律。それを通させる一方で、民主党はダッシュル上院議員が上手に立ちまわり、Trade Billや医療改革で得点を稼いだ。企業会計問題では、ブッシュ本人とチェイニーに疑惑があり、先行き不透明。「ブッシュさん、CEOは欲深だ、なんてことを言ってるけど、あれでもRepublicanの大統領かね」と言ったら、受けていた。

○夜は神楽坂なんぞで一献。なんで企業会計の粉飾が行われるようになったんだろう、てな話になり、ふと1997年7月がターニングポイントだったのかな、などと思いつく。このとき何があったかといえば、@デンバーサミットがあって、クリントンが絶好調の米国経済を吹聴、Aグリーンスパンが議会証言で「経済の現状はExceptional」と発言し、ダウ平均が8000ドル台に到達、BForeign Affairs誌上で「New Economy論争」が行われ、「景気循環はなくなった」という主張が誕生した、などのことが印象に残っている。

○株価は企業の利益によって決まる、とされている。株価が上昇を続けるためには、利益率の向上が続かなければならない。そして株価が上がらないことには、資金調達がしにくくなるし、CEOはストックオプションでいい目を見ることができない。そこで何が起こったかといえば、資本効率の競争である。コカコーラなどは、"We exist to create value for our share owners on a long term basis".(われわれは、株主に長期的に価値を創造するために存在する)という社是を掲げ、ROEが50%という超効率経営を実現した。これぞ株主重視の正しい経営、と当時はいわれたものだ。

○ただ儲けるだけではいけない。資金需要はなるべく少な目にして、遊休資産や収益の低い事業はどんどんリストラしてしまう。儲かったお金の使い道に困ったときは、「自社株買い」を実施して株主に利益を還元する。いわゆる「選択と集中」で、本業以外の仕事にはなるべく手を出さない。こんな経営が主流になった。しかし、企業が利益の「額」ではなく「率」を競争していると、いつかは無理をしなければならなくなる。なにしろ2桁のROEを実現できる産業なんて、そんなには多くないんだから。

○99年にはダウ平均が1万ドルを突破。おそらくこの頃には、現在の企業会計疑惑の問題はすでに広がっていただろうと思う。だってそうでもしなかったら、毎年利益率を上げ続けるなんてできっこないもの。資金はより高いリターンを求めて、いわゆるドットコム企業に向かう。2000年3月には、ナスダックが5000pの大台に達する。そしてハイテクバブルが崩壊。

○おそらく資本効率の競争が行き過ぎたことが、企業会計疑惑の根底にある。こんなふうに、後から整理するのは簡単なんですけどね。


<7月19日>(金)

○昨日の続き。企業経営のモノサシというものは、単一であってはならないと思う。たとえば「わが社は事業を通して社会に貢献する」という考え方もあれば、「わが社は芸術やスポーツを支援することで、社会に貢献します」というやり方もあるだろう。どっちがいいか、は単純には決められない。これは価値観の問題だから。

○ところが株式市場は、違う会社を集めて同列に売り買いする場である。全部の企業を共通のモノサシで量りたい。そこでPERとかROEとかEVAとかEVITDAといった指標が開発される。なぜかしょっちゅう、新しい経営の尺度が誕生し、古いものは忘れられていく。ここ数年、そういうことが何度も繰り返されてきた。おかげでアカウンタントやコンサルタントやアナリストが儲けたんだと思う。

○企業は、「儲かる事業だけに専念する」のがいいか、「幅広い事業を手がけてシナジー効果を求める」のがいいか、という問題がある。前者の典型はコカコーラ、後者の典型はペプシコだった。コーラの会社がフライドチキンやピザのチェーンも経営して、その結果としてコーラの売上を伸ばすという戦略は、なかなか合理的に見えた。それでもこの勝負、90年代に決着がついてコカコーラの勝ち、となった。そりゃそうだ。門外不出のコーラの原液を、水で薄めてボトルに入れて売る。こんなに利益率の高い商売はほかにないはずだ。資本効率の競争をやれば、これが勝つのに決まっている。

○ここで疑問が生じる。コカコーラのやり方が正しい、となってしまうと、ペプシも同じことを始めるかもしれない。そうしたら、フライドチキンやピザは誰が売るのだろう。資本効率を競う経営をやっていると、みんながコーラを売りたがるようになる、という問題が生じる。フライドチキンやピザがないのでは、コーラの売上も減ってしまうだろう。

○つまり、みんなが高い山を目指すような競争はしない方がいいのである。自分はなるべく低い山を目指したい、という人もいるからこそ、世の中は回っていく。「お金はいらないけど、とにかくお客さんがいれば幸せ」というプレイヤーだっている。そしてまた、そういうプレイヤーが売っているピザの方が、値段は割安で、有名な店のものより美味かったりするのである。

○やっぱり資本効率の追求という点に、大きな問題があったような気がするな。


<7月20〜21日>(土〜日)

○今週末は年に1度の町内会のお祭り。いっぱい仕事があるはずの防犯部長、心がけ悪く今年はな〜んにもしていない。土曜日の夕方の宵宮の時間になって、初めて下の子を連れてそ〜っと会場へ出向く。神主さんのお払いが終ると、役員が集まって飲み会。会長さんから、月例会にはちゃんと出てくださいといわれ、恐縮して頭を下げる。警察から道路の使用制限の許可をもらう仕事を、今年は会長さんが自分でされたようである。いやはや。前の防犯部長からは、予備の防犯灯を発注しておかなきゃあ、と言われるものの、当方は何をどうすりゃいいか分っていない。あとで確認しなければ。なおかつ、せっせとビールも注がれるので大変である。

○お祭りは、20年くらい前に町内に子供が大勢いた頃に始まったらしい。小学校の6年生だけで10人はいた、とのことで、当時は野球でもドッジボールでも強い町内だったよし。そこで子供のために夏祭りでもやるべえか、でも御神輿作る金なんざないなあ、という話になったとき、町内の某氏が器用にありあわせの材料で、神輿と山車を作ってしまった。それどころか、お囃子部隊まで編成してしまうという芸域の広い人だったのである。これが定着してわが町内のお祭りが誕生した。

○しかるに今年はこの人が入院中で、名物のひょっとこ踊りもなしとなった。小学生の数もめっきり減って、いよいよ来年は神輿が上がらんのじゃないかなどと言われている。そもそも町内会の役員の常連は、ほとんどが年金をもらう年代になっている。高齢化している住宅街だけに、果たしてお祭りは持続可能か、はなはだ心もとない状況を迎えている。

○山車を分解して倉庫に仕舞う作業をしているとき、町内の運送屋さんが廃業して土地を売ったという話を聞いた。坪60万円で70坪。跡地には家が2軒建つらしい。「この辺も安くなったねえ」という声も出たが、それでも買った頃に比べれば高くなったそうである。柏駅から徒歩圏とはいえ、元は田んぼの中に10軒くらいで始まった町内だそうですから。

○それにしても今日のような晴天で、街中の子供と一緒にワッショイ、ワッショイとやって汗をかくのは悪いもんじゃないですな。ビールもアイスも普段とはありがたみが違います。その後のエアコンの効いた部屋での昼寝も特別に。


<7月22日>(月)

○J−WAVE『Jam the World』に出るのも今夜が10回目。スタジオの裏話などを少々ご披露してみましょう。

○J−WAVEは西麻布の三井ビルの18階にあります。ここは地下鉄が近くにないので、タクシーに乗って出かけることが多い。残念なことに、いままで一度もJ−WAVEをかけているタクシーに当たったことがない。かけていたら、「ちゃんと聞いててくださいよ、これから僕が出ますからね」と運転手さんに言うんですけどね。

○ナビゲイターの角谷浩一氏は、なんとぎっくり腰なのである。クルマに乗って、シートベルトをしようとした瞬間に来ちゃったという。今日の放送ではギャグにしてましたけど、薬も飲んでいるみたいですから、くれぐれも体だけはお大事にと言っておきましょう。今日もスタッフに向かって、「かんべえとどっちが若く見えるか」などと不毛な質問をしてましたが、そんなもん答えは自明です。精神的にはこっちがオジンですが、肉体年齢はやや若いのではないかと。一応、お神輿担いだ翌日も元気ですから。

○リポーターの内田佐知子さんは、英語がとっても上手です。今日、放送までの待ち時間の間、お友達のアメリカ人とひそひそ話しているのが、ほとんど聞き取れませんでした(実はちょっとショックだったりする)。『フィフティーン・ミニッツ』というコーナーは、この3人で和気藹々とやっております。

○誰よりもこの番組を支えているのは、おそらくは有能なライター陣ではないかと思う。番組の直前まで、ひっきりなしに手書きで原稿を書き直し、なおかつ順番が分らなくなるナビゲイターに向かって、「次はこれ」などとやっているのだから頭が下がります。なぜか番組が始まると途端にリラックスして、スタジオの外でパン食べながらダベってたりするんですけど。

○放送現場でいちばん感心したのは、交通情報です。かんべえの出番の前には、いつも交通情報があるんですが、J−WAVEの佐古さんがマイクの前で手にしているのは、1枚のファックス用紙だけなんです。それも、つい今しがた、交通道路センターから送られてきたもので、首都圏の地図の上に「この辺渋滞」とか「X時X分事故発生」といった手書きの書き込みがあるだけ。これを頼りによどみなく、「駒方を先頭に4キロ」とか、「安全運転で行ってらっしゃいませ」とやっているんだから、ものすごい職人芸です。ラジオの制作現場には、この手の職人芸が満ち満ちているようです。


<7月23日>(火)

○これが勘違いならうれしいのだが、ブッシュ大統領は株価が下げたことなど、な〜んとも感じていないんじゃないか、という気がして仕方がないのである。「そんな馬鹿な」と思うでしょ?「景気の回復はどうなる?」「国民の401Kは?」「いや、その前に、ブッシュは中間選挙を落としてしまうじゃないか!」などというのが世間の常識。でも、おそらくホワイトハウスには違う常識があるのではないかと。

○ブッシュは7月20日にラジオ演説を行った。全文は以下の通り。ま、気が向いたら、クリックしてみてくれたまえ。A4で1ページちょっとの中に、お得意の"economic security"という言葉が6回も出てくる。今年の年頭教書以来の決り文句で、economic securityをprovideしたり、promoteしたり、increaseしたりするのが大切だという。

●ラジオ演説:http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/07/20020720.html 

○その前の7月16日、ブッシュはアラバマ大学で企業改革に関する演説をやっている。7月9日のウォール街でやったのが第1弾、アラバマ大学が第2弾という位置付けだ。ここでブッシュは最近の株価は、「90年代の好景気の反動で、二日酔に苦しんでいる」と述べた。つまり今の株価は正しいと言ったようなものである。これはホンネだろう。ダウ1万ドルなんていうのは、クリントン時代のあだ花であって、8000ドルでどこが悪いのか、と思っているのじゃないだろうか。

○それが証拠に、ラジオ演説の最後の部分で、ブッシュはこんなふうに言っている。

This is a crucial moment for the American economy. The economic fundamentals are strong. Inflation and interest rates are low. Productivity is increasing and the economy is expanding, which creates more jobs. While the economy is growing stronger, confidence in our free enterprise system is being tested.

○つまり、実態経済は悪くない。問題は企業システムへの信認である。

Unethical business conduct that began in the boom of the 1990s is being uncovered. Investors have lost money. Some in retirement have lost security. Workers have lost jobs, and the trust of the American people has been betrayed.

○90年代の悪しき慣行が吹き出し、アメリカ国民の信頼が失われたのだ(つまり今の政権のせいではない)。

As we face these economic challenges, my administration will do everything in its power to ensure business integrity and long-term growth. We must act quickly and aggressively on a variety of fronts to increase the economic security of the American people, and I ask the Congress to join me in this urgent task.

○だからブッシュ政権はなんでもやるぞ。今までの間違いを正すのだ。議会もちゃんと働け、という結語になる。「90年代のアメリカは間違っていた!」というのは、現共和党政権の主だった顔ぶれの一種のコンセンサスである。ブッシュ自身も、株価が下げたのは自分が悪い、などとは露ほどにも思ってはいないはずである。この辺の感覚は、日本のエコノミストには理解し難いと思う。(正直言って、かんべえも「ちょっとなあ〜」と思う)。

○まあ、そんなことよりも、驚いたのはこっちなんです。実はこのラジオ演説の前日、ブッシュはニューヨーク州の陸軍基地で第十山岳部隊を前に演説をしている。これがすごい。まあ、ちょっとこれは読んでおいて損はないですぞ。

●陸軍演説:http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/07/20020719.html 

○ブッシュ大統領、ラジオ演説の精彩のなさとはまるで別人である。ブッシュが何かいうたびに、兵士たちから大歓声が上がる。途中で"Let's get Saddam."という声があがる。どうだ、怖いだろう。そして最後は、「先制攻撃容認論」である。

The same regimes have shown their true nature by torturing and butchering their own people. These tyrants and terrorists have one thing in common: Whatever their plans and schemes, they will not be restrained by a hint of humanity or conscience.

The enemies of America no longer need great armies to attack our people. They require only great hatred, made more dangerous by advanced technologies. Such enemies -- against such enemies, we cannot sit quietly and hope for the best. To ignore this mounting danger is to invite it.

○ブッシュが本気になったのは、19日の陸軍演説であって、20日のラジオ演説ではない。暇な人は、ふたつを読み比べてみられたし。全然迫力が違う。つまり、大統領の頭の中を占めているのは、株価の下落などではなく、対テロ戦争、そしてイラク攻撃ということだ。株価ばっかり気にしていると、思い切り読み間違えますぞ。


<7月24日>(水)

○今日は一日、いろんな人から「アメリカは大丈夫ですかね」と声をかけられたような気がします。心配になるのも分かるけど、こういう見方もあるんだよ、というお話をご紹介。といってもたいしたことはなくて、久しぶりにForeign Affairsの最新号を手にとってみたら、面白い論文があったんです。題して"American Primacy in Perspective"(アメリカの優越を検討する)といいます。

○Stephen G. Brooks と William C. Wohlforth によるこの論文は、"If today's American primacy does not constitute unipolarity, nothing will ever."(今のアメリカの優越を一極構造と呼ばないなら、そう呼ぶに値するものは何もない)と断定しちゃう。アメリカの国防費は2位以下の国20カ国分を足したよりも大きい。これだけ使って、GDP比3.5%というから、そんなに大きな負担なわけでもない。経済力も言うに及ばず。こうしたアメリカの優越性は、あらゆる分野に渡っているところがすごい。こんなに圧倒的な力を持った国は歴史上類が無い。アメリカに対抗しようにも、ロシアや中国が束になってもかなわないし、どんな組み合わせを作っても無理だろう。

○するとどうなるか。アメリカは『ドラえもん』におけるジャイアンのように、怖いものナシの存在になってしまう。その結果、"American foreign policy today operates in the realm of choice, not necessity."(アメリカの外交政策は、必要性よりも好き嫌いで決まるようになる)。最近のユニラテラリズムというのは、まさにこういう発想ですな。だってほかの国は、どうせアメリカについてくるしかないんだもの。京都議定書は止めだ、国連なんぞ知るか、イラクを叩くぞ、どうだ文句あっか、である。

○でも、だからといって世界のジャイアンになるのも考えものである。仲間の恨みを買う必要はない。恩を売る側に回っておいた方が、アメリカにとっては賢い選択である。"The iron fist of American power should be covered with a velvet glove."(アメリカの鉄のこぶしは、ベルベットの手袋で包んでおくべきである)。真の勇者は奢らず、というわけだ。

○この指摘、なるほどと思う。ダウ平均が2000ドルばかり下がったとはいえ、それでアメリカの優位が崩れるわけではない。そもそも、なぜ世界中の国が「アメリカは大丈夫か」と心配するかといえば、「アメリカがおかしくなったら、自分もただじゃ済まない」と分っているからであろう。「いい気味だ」と喜んでいる人もいると思うけど、底の浅い攘夷論が多いんじゃなかろうか。せめて日経平均が2万円を超えていれば、ちょっとぐらい笑ってもいいと思うけどね。おお、さむい、サムイ。




<7月25日>(木)

○昨日の発言には賛同者が多かったようですね。日本には「アメリカはもう駄目だ!」と言いたがる人が大勢いて、そういう声が四方八方から聞こえてくるときは、そういう意見が正しいことは少ない。深く考えずに、「いや、そんなことないっす。アメリカを甘く見ちゃいかんです」と言っておけば、大概その方が正解になる。というのが、私の経験則ですな。

○さて、昨日取り上げた"Foreign Affairs"の最新号には、"The Wrong War"という対テロ戦争を扱った短い論文があります。その書き出しが気に入ったのでご紹介しておきます。

「戦争は主に、固有名詞(たとえばドイツ)を相手に行われてきた。なんとなれば固有名詞は降伏するし、もう二度としませんと約束するかもしれないからだ。普通名詞(たとえば貧困や犯罪や麻薬)を相手にする戦争は、それに比べればあまり成功しない。これらの敵は、けっしてあきらめないから」

要するに、得体の知れない相手に喧嘩を吹っかけるな、という教訓ですね。書き手のGrenville Byford氏は、「テロリストが誰かを定義することは意外と難しい。ゆえに今のようなやり方では、対テロ戦争は続けられない」と主張します。ごもっとも。「サダム・フセイン」を叩きのめすのはいいけども、「自爆テロ」を根絶するのは難しい。喧嘩の相手は選びましょう。

それでは、企業会計不信という普通名詞を相手にする戦争はどうでしょうか。これはもう、戦争を仕掛けること自体が間違っているとしか思えません。なぜなら企業会計不信は、「もう参った」とは絶対に言わないから。やはりこのいくさは難しい。ちょうど「狂牛病」を相手に戦争をするようなものだ。いっそのこと、「みんなが忘れてくれるのをじっと待つ」なんていう消極的な戦法はどうでしょうか。


<7月26日>(金)

○『ルック@マーケット』、番組が終ったら、レギュラー、ゲスト、スタッフなど集ってそのまま暑気払の会へ。東京プリンスのビアガーデン。気持ちのよい場所なんだけど、さすがに今宵はむし暑い。ビールが進む。そしたら連日の寝不足もあって、ついつい舟を漕ぐかんべえ。

○今宵は有名人にお会いしました。まず投資家として番組に登場しているサンプラザ中野さん。それから「かぶこーネット」で有名なるーさーさん。投資家のアイドル、相場舞さん。ううむ、この世界とのお付き合いも長くなったなあ。

○株安で先行き不安が強まっておりますが、昨日発表された通関統計を見る限り、6月も日本の輸出はアジア向けを中心に堅調。このリズムがそうそう崩れるとは思えない。強気継続です。


<7月27日>(土)

○ふぁ〜、土曜日の私めは使い物になりません。宿題はたくさんあるんだけど、寝るばかり。夕方、柏祭りをちょっと覗きに行くが、あまりの暑さと人出の多さについて行けず、すぐに撤退。

○昨日の番組で、クルーグマン教授のコラムを紹介しました。この中のLiving with Bears(株安時代を生きる)にご注目。もともと株価が高すぎると言っていたクルーグマン、このところの株安でご機嫌な書き振りが目立つ。ブッシュ大統領への嫌味もますます切れ味が高まっている。「ダウ3万6000ドルなんて本があったよね。どうも桁がひとつ多かったみたいだけど、余分なのは3かな?(6000ドル)それとも0かな?(3600ドル)」なーんて意地悪を言っている。かと思えば、

So what should the responsible officials ? Mr. Greenspan, George W. Bush and whatshisname, the Treasury secretary ? be doing?

○可哀相に、オニール財務長官は、「ええっと、あの人はなんて名前だったかなあ」にされている。ま、結論を急ぎますと、このコラムでクルーグマンは「アメリカはいよいよ危ない。今こそ日本に学べ」と言っている。

Given the definitely iffy economic outlook, shouldn't Mr. Greenspan be thinking seriously about another interest rate cut? True, rates are already very low. But if there's one thing we've learned from Japan's experience, it is that when you face the risk of a deflationary trap -- still not the most likely scenario, but not as unlikely as it seemed a few months ago -- it makes no sense to "save your ammunition," holding interest rate cuts in reserve. The time to fight deflation is before it has time to get built into the nation's psychology.

○1998年ごろからクルーグマンが日本に対して何度も主張していた「調整インフレ」政策を今こそやるべし、というのである。FRBは利下げ、財政は大盤振る舞い、でも、こういう「責任ある」政策ができるくらいなら、何千というブタがワシントンの上空を埋め尽くすだろう。ブッシュさん、いつまでも「ダウ3万6000ドル」なんて本が出てた頃に作った政策にこだわるんじゃないよ、という。

○調整インフレ論は日本では顧みられなかったので、クルーグマン教授はたいへんご不満だったようだ。今度は米国政府向けにそれを主張するようになるのかも。「米国は日本の二の舞か」という議論が盛んですが、クルーグマン教授の立場も面白いことになっている。もっとも大幅利下げにせよ、緩めの財政政策にせよ、ちゃんと実行済みなんですな。「9・11」のおかげで。

○昨日の番組、高校時代の恩師が見ていて、「おや、吉崎君が出ている」と電話をくれたらしい。いと気恥ずかし。


<7月28日>(日)

○早起きして宿題に精を出す。なんてストイックな私。いったい私の夏はどうなっているのよ。

○以前は月曜日に自宅に届いていたThe Economist誌が、最近は土曜日に着くようになった。ありがたし。今週号では"It's the economy, boss."「問題は経済ですぜ、大統領」という記事に注目。これはいうまでもなく、クリントン政権のスローガン"It's the economy, stupid!"のもじり。要約は以下の如し。


 歴史は繰り返すのか。10年前、ブッシュ父は経済問題のせいで、掴みかけた再選を逃した。その息子も対テロ戦争から企業不祥事、株安の前に漂流し始めている。ブッシュは父に比べ、まだ再選まで2年半が残されている。それでも、かつてワシントンを掃除すると公約した人物が、記者会見ではハーケンの経営問題で責められている。資本主義の危機に対するの反応は弱腰で、株式市場を沈静化する試みは失敗した。大型減税のおかげで財政は赤字になり、海外での評判は「アフガン、アラファト、アグリ(農業)」の3Aで地に落ちている。

 民主党は中間選挙における下院での多数奪回に自信を持ち始めた。上院では共和党の返り咲きだってあるものの、10月に401kの報告書を受け取る頃に有権者はどう思うだろうか。

 法案審議は保守一辺倒ではいかなくなろう。現状の提案は医薬制度から農業補助金まで大きな政府路線ばかり。減税や教育改革志向は薄まり、大統領は守勢の印象が強まっている。

 政権発足時から、中間選挙で共和党が負けるのは当然と見られていた。86年のレーガンや94年のクリントンもそうだった。1年前にはジェフォーズ上院議員の造反で、上院の優位を失った。ブッシュの尋常ならざる成功は9・11以後に現れた。政権支持率はまだ高い。これで経済成長が続いて、来年の夏までにフセインを追放すれば、2004年の勝利は見えてくる。

 だからといって安心するのは早すぎる。政治は勢いだ。今の政権は下り坂になっている。経済だって株価の後を追うかもしれない。イラクとの戦いで下手を打つかもしれず、中東情勢いかんで遅れるかもしれない。何より、現政権が真の失望を招いていることが問題だ。

 本誌は2年前からブッシュ政権を擁護してきた。テロとの戦いは特に強く支持した。9・11以後は忍耐強く、果断に、本誌の予想を越えて勇敢な指導者足ることを示した。しかし残念なこともある。彼の経済政策は素人くさく柔軟性にかける。財政政策では2010年以後の恒久減税にこだわり、当面の刺激策に目が向いていない。鉄鋼への高関税や農業補助金といった通商政策もヒドイ。不要にワガママな姿勢で外交の成果を損ねている。

 民主党が議会で優位を保ち、ホワイトハウスとねじれているのはいいことかもしれない。ブッシュが議会の歳出増を食い止め、議会がブッシュの減税を止められるからだ。

 それでもブッシュが急ぐべきことがある。優先順位は経済にあり。監査法人を規制するだけでなく、議会からファストトラックを勝ち得ること。経済チームにもラムズフェルド級の大物を起用すること。そして歳出増加を止めること。

 反テロ戦争は?ブッシュに対する内外の支持は高い。それでもイラク問題が始まれば事態は変わる。国内政治に合わせて開戦すれば、政権の評判は地に落ちるだろう。

○これまでブッシュを支持してきた同誌が、そろそろ「付き合ってられない」というムードになってきた。ここが踏ん張りどころですぞ、大統領。


<7月29日>(月)

○ふと気がつくと、通常国会はあと2日を残すのみ。いろいろあったけど、何も無かったなあ。そういえば、当欄でも政局の話題を取り上げなくなって久しい。昨年の今頃は、小泉政権誕生、参議院選挙、靖国神社などのネタで盛りあがりっぱなしでした。ああ懐かしい。

○今朝の日経朝刊の社説が、「民主党がだらしない」と書いていました。本当にその通りだと思います。いちおう内閣不信任を出すんでしょうけど、負け犬の遠吠えもいいところ。9月には代表選挙だそうですが、これでまた「鳩山対菅」だったらどうするんでしょ。

○せめてこれだけは、と思った有事法制も先送り。結局、加藤紘一、鈴木宗男、辻元清美、田中真紀子らが表舞台から退場した、ということが、今通常国会の最大の成果だったのかもしれません。ヤマタクさんはかろうじて生き残ったのかな? なんと肌寒い光景でしょう。


<7月30日>(火)

○今日は米国株も日本株も反転。ちょっとホッとするような展開ですね。もうちょっと頑張ってもらいましょう。ということで、今日はこんなものを見ていただきましょうか。

http://www.monakura.com/lost.html

○これガンダムのパロディなんですが、とっても懐かしい。ストーリーはまだ前半戦、ザビ家の末子ガルマが、シャアの裏切りによって戦死を遂げるシーンです。このあたりは見せ場ですね。「どうせ、やらなきゃいけないんでしょ」とヤケクソで出撃する主人公(アムロ)、「なるほど、よい作戦だ」と余裕で敵を称える敵役(シャア)。この二人、まるで星飛雄馬と花形満みたいな関係で、そういえばアムロと飛雄馬は声優さんが同じだったりするんだけども、これが物語り全体を貫く対立軸を作っている。

○このあと、有名なギレンの演説シーンへと続く。長兄であるギレンは、「われわれの愛するガルマは死んだ。なぜだ?」と問いかける。酒場でそれを聞いていたシャアが「坊やだからさ」とつぶやく。子供向けアニメには強烈過ぎるひとこと。シャアがなぜ裏切りに走るのか、この時点ではまだ分らないのだが、文句ナシのカッコよさに見る者がしびれてしまう瞬間である。その興奮が、「ジーク・ジオン!」の大合唱にかき消されて行く。この辺のドラマの作り方が、今思い出しても本当によくできている。

○ガンダムに熱中していたのは大学生の頃で、当時は演劇部の部長をしてたんですが、とにかく誰も言うことを聞いてくれないので、いつも往生してました。そのせいか、当時、ガンダムの劇中人物でいちばん好きだったのはブライト・ノア中尉でしたな。彼の心の狭さがなんともいえずに好きでした。今見ると違う印象なのかもしれませんが。

○などと、ガンダムの話になると、ついわれを忘れてしまいます。なおかつ、こういうことを書くと熱心な方から、「いや、あれは正確には・・・・」というご指摘をいただいたりするのですが、まあ、それも楽しみにしておきましょう。


<7月31日>(水)

○中央大学の中国研究会へ。年初に始まってもう7回目。今夜は座長の坂本正弘先生による発表。ま、中間報告といったところか。

○中国は、「大国意識」と「後進国意識」、それに「独自の共産主義路線」と「西欧化、市場経済化」という2つの座標軸のなかで動いている、のだそうだ。現在は成長と発展のもとに「大国意識」に向かいつつも、このまま西欧化路線を突き進むか、それとも独自の道(ナショナリズム)に戻るか、微妙なところではないか、とのこと。

○今日の中国はたしかに躍進しているが、それが中国独自の伝統やイデオロギーによるものかというと、そうではない。外資の力を借りた近代化である。それに比べれば1950年代の毛沢東時代は、全世界に向かって東側の価値観を訴え、なおかつそれが魅力的に見えていた。現在の中国人は、経済の繁栄を享受しているものの、外に向かって発信するメッセージがない。そこにアイデンティティ・クライシスがある、という解説を興味深く感じました。

○ちょうど日本でも、明治維新から4〜50年後にそういう時代があった。つまり西欧化と日本独自の価値観の間で、人々が揺れ動いた時期が。夏目漱石のように、外の世界を知れば知るほど、「日本人たること」が悩ましくなる。これも日本版、アイデンティティ・クライシスだったんでしょう。その結果、日本は昭和初期からナショナリズムへの道を突き進んでしまう。

○ふと気がつくと、今日の日本人はこの手の戸惑いを卒業してしまったように見える。西欧化も日本の伝統も、なんとなく渾然一体となって今日の東京の景色ができている。たとえばアメリカ人の目から見ると、「ハローキティは何人なのか?」が気になるんだそうだ。サンリオの担当者によると、キティという名に深い意味はないんだそうで、その辺の曖昧さがいかにも日本文化である。あるいは、宇多田ヒカルの曲の中には、演歌の血筋とニューヨーク育ちという2つの要素が、別に矛盾もなく溶け合っているように感じる。

○かくいう私めも、「日本人とは何か」といった高尚なテーマで思い悩んだ覚えがない。これはまあ、楽天的な性格のせいかもしれませんがね。おそらく若い世代になると、それがなぜ悩みになるのかさえ思いつかないのではないだろうか。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki