●かんべえの不規則発言



2013年6月







<6月1日>(土)

○梅雨の晴れ間の貴重な土曜日である。さて、どうするべ、と思ったら、今日は拓殖大学国際講座の講師を引き受けていたのであった。丸の内線の茗荷谷の駅で降りて、拓殖大学の文京キャンパスを探す。駅から徒歩3分。すぐに見つかる。

○キャンパスに入ると、いきなり桂太郎の銅像があった。ええっ、桂が初代学長なの?と驚いたが、それどころかこの大学は、2代目が新渡戸稲造で、3代目が後藤新平なのだそうだ。――正確に言うと、職名はそれぞれ校長だったり学監だったり学長だったりするらしいが、とにかくこれらの偉人が携わってできた、日本人の海外進出のための大学なのであった。この仕事、川上高司教授の紹介で引き受けたのだが、自分は拓殖大学について、ほとんど何も知らないことに気がついて唖然とする。せいぜい、渡辺利夫先生が学長で、森本敏先生がいて・・・、ということぐらいか。

○拓殖大学は、1900年に台湾を開拓するための人材育成を目指して設立されたのだそうだ。そうか、だから「拓殖」なのか。新天地を開拓して、殖産するパイオニアを育てようという理念なのであった。だから現在でも、拓大は留学生が多いとのこと。

○下関条約が1895年であるから、日本が初めての植民地を外に得て、そのための学校を5年後に作ったということらしい。玉岡かおる『お家さん』の中には、当時の人たちの台湾への興奮が描かれているが、当時はそのための大学もできていたのであった。(余談ながら、『お家さん』は台湾でも翻訳・出版され、舞台化もされるとのこと。詳しくはこちらをご参照)

○まあ、大学の公開講座なんだから、たぶん20人くらいを相手にすればいいのだろう、と思っていたら、なんと200人くらい来ていたから驚いた。もちろん講師たる私に人気があるからではなくて、普通にそれくらい集客力のある講座なのである。考えてみれば、「土曜日の午前10時半から12時まで、受講料千円で、事前申請不要」というのは、茗荷谷という場所を考え合わせると、まことに優れたフォーマットといえる。会場も立派だし、家の近所にこんな講座があったら、確かにちょっと覗いてみたくなる。

○拓殖大学はこの文京キャンパスと八王子キャンパスからなるが、現在は文京キャンパスを拡張するための工事中であった。やはり都心回帰傾向で、その方が学生の人気も上がるとのこと。確かに大学は便利のいい場所にある方がいいですわなあ。土曜日にこんな使い方もできるのだから。

○午前中にひと仕事を終えた日にありがちなことに、昼からはそのまま浅草方面へ。適当に入った店に「増寿泉」が冷やしてあったのを見て、注文して昼間から飲む。あー、いい気分。すっかりダメ親父モードである。浅草はのどかに酔眼で歩くべし。さて、明日の安田記念はいかに戦うべきか。こっちは酔眼じゃいかんのです。


<6月2日>(日)

○恒例の町内会夏祭りで、準備のための第1回会合が行われる。で、そこで皆が気付いて唖然としたのだが、今年は参議院選挙(7/21)と重なってしまいますなあ、と。

○別段重なって不都合があるわけでもなく、今なら投票は午後8時までやってるし、不在者投票も簡単である。「祭りのせいで投票に行けなかった」とか、「選挙のせいで祭りが盛り上がらなかった」なんてことはなさそうだ。ただし土曜日の宵宮の時に、道路の使用許可が下りないかもしれない。町内に選挙カーが入ってくることも考えられるわけで、これは市役所と警察署に聞いてみないと分からない。そういえば、以前に柏祭りと参院選が重なったことがあったけど、あのときはどうしたんだろう。

○ついでだから、過去の参院選の日時と、投票率についてメモしておこう。参院選は3年ごとにやってくるわけだが、どうやら7月上旬に行われるパターンと、下旬に行われるパターンが入れ替わりに行われているらしい。なるほど、これだと小学校の終業式に合わせて行うウチの町内の夏祭りとは微妙に重ならないことになる。

●過去の参院選日程

第12回 1980年6月22日 日曜日 75.54% 衆参同日選挙(第36回衆議院議員総選挙)
第13回 1983年6月26日 日曜日 57.00%
第14回 1986年7月 6日 日曜日 71.36% 衆参同日選挙(第38回衆議院議員総選挙)
第15回 1989年7月23日 日曜日 65.02%
第16回 1992年7月26日 日曜日 50.72%
第17回 1995年7月23日 日曜日 44.52%
第18回 1998年7月12日 日曜日 58.84%
第19回 2001年7月29日 日曜日 56.44%
第20回 2004年7月11日 日曜日 56.57%
第21回 2007年7月29日 日曜日 58.64%
第22回 2010年7月11日 日曜日 57.92%

○それにしても、参院選の投票率は低いのである。このところすっかり5割台が定着している。今年もあんまり上がらないだろうなあ。やはりダブル選挙にする(1980年、1986年)か、あるいは国民が飛び切り怒るか(1989年)しないと、6割には届かない感じである。

○ま、それはそれとして、祭りも選挙も両立させたいところであります。


<6月3日>(月)

○毎度ばかばかしいお話を。贔屓の引き倒し、というのはわが国においてはよくある現象でありまして、それが実現しなかった時の反動ぶりは、かな〜りみっともないものがございます。近い将来では、こんな事態がありそうな気がしております。


●ケースその1:2014年ワールドカップへの出場

6月4日、オーストラリアをホームゲームで破って、ザック・ジャパンは他国に先駆けて2014年W杯参加を決める!そうだ、そうに決まっている!

→別に慌てる必要はないのである。普通に計算すれば、日本がW杯に出場することはそんなに難しくはない。そんなことより、こんなに早く簡単に出場を決めちゃうと、「今のチームが完成形だ!」ということになってしまって、この先、変えにくくなる。でも、ホントに今の陣容がベストなのかは疑問が残る。W杯出場には、もう少し苦労した方がいいのではないのかなあ。

●ケースその2:「第三の矢」の成長戦略

6月5日、安倍首相が内外情勢調査会で成長戦略第3回スピーチを実施する。ここでポジティブ・サプライズが飛び出して、日経平均を押し上げてくれるに違いない!

→ほんまかいな。混合診療の認可や農地法の改正みたいな大きなネタが入っているとはとても思えない。せめて隠し玉として、カジノ特区くらいが入っていればもうけもの、くらいの感じであろう。そもそも参議院選挙の直前に、思い切った改革を打ち出せると考える方が不自然ではないですか。そんなことより、成長戦略は毎年6月に新しいものを追加する、というルーティーン化を目指せばいい。そうしたら、抵抗勢力としても段々守りきれなくなる。そういうやり方の方が、いかにも日本的でいいと思うなあ。

●ケースその3:憲法改正への国民投票

参議院選挙さえ終われば、安倍首相は保守主義者の本性を発揮して、憲法改正に向かってまい進するに違いない。それでこそ男子の本懐。保守派はいましばらくの辛抱ぞ!

→国民投票法案を使うには、まだまだハードルが残っておりまする。なおかつ、安倍内閣が憲法改正を発議して、それが国民投票で否決された日には目も当てられない。即座に内閣総辞職でありましょう。仮に来月の参院選で勝利して、安倍さんがあと3年間のフリーハンドを得たとして、いきなりそんなギャンブルに走るわけないでしょうが。やるとしたら3年後、次の選挙が近づいた瞬間でしょう。それまでは経済一本やりで行くのが得策というものです。

●ケースその4:2020年夏季五輪招致

9月7日のIOC総会で、「2020年は東京開催!」と決まれば確実に景気にはプラス効果がある。この際、首都高を全部地下に埋めるくらいの公共事業をやったらどうだ!

→東京勝利の確率は、たぶん5〜6割はあると思います。強敵イスタンブールに関しては、2023年がトルコ建国百周年に当たるということもあり、2024年でもいいじゃないか、という理屈もある。ただし東京が負けた日には目も当てられません。とりあえず、猪瀬都知事は辞任でしょうなあ。ここはひとつ、「オリンピックはほかに譲ってもいいから、パラリンピックだけウチにください」という謙虚な提案はどうでしょう。日本が高齢化先進国で、バリアフリー先進国であることをアピールするという作戦です。

●ケースその5:消費税増税の最終決定

日本経済は順調に回復中。8月中旬発表予定の4-6月期GDP成長率は、年率3%前後は堅いだろう。だから10月の消費税増税最終決定は、滞りなく閣議決定されるに違いない!

→そうはいっても「名目で3%成長」のハードルは極めて高い。しかも2013年度はいいけれど、2014年度の日本経済にはハードルがとても多い。いちばんありそうな展開は、「低所得者対策」と銘打って、来年4月の税率上げと同時に、「新型・地域振興券」(定額給付金でも可)をばら撒くことでしょうな。もっともその場合、諸外国や格付機関が日本を見る目は冷た〜いものになりそうですが。


○上のような思考実験は、冷めた謙虚な頭で考えれば、そんなに難しくはないと思います。でも、口に出すのが憚られる。我らが社会には、「言霊信仰」があるんですねえ。オーストラリアに負けるかもしれない、とか、成長戦略は腰抜けかもしれない、とか、2020年はイスタンブールに持っていかれるかもしれない、などと考えることが、ついついタブーになってしまうのであります。

○欠点というものは直せないものだそうです。せめて欠点を自覚しているかどうかが大事なわけでして、「贔屓の引き倒し」的な言辞に接したら、ちょっと待てよと考えるのが良ろしいかと存じます。お後がよろしいようで。


<6月4日>(火)

○昨日あんなことを書いたら、今宵は対オーストラリア戦で時間切れ直前に1点入れられ、「あ〜あ、本当に負けちゃうよ。弱ったなあ〜」と頭を抱えていたら、ロスタイムにPKをもらって本田圭佑が決めてくれました。これで引き分けでめでたくブラジルW杯進出が決定。あ〜あ、よかった。

○それにしてもしびれるPKでした。コーナーを狙えば、いかにも枠を外しそうな感じだったもの。しかし本田が蹴った先はど真ん中。「取られたら仕方がないと思った」というインタビューに再びシビれました。またひとつ、貴重な経験値を稼ぎましたね。

○引き分けのゲームを拾って、危ないところを救われたことで、ブラジルにゆく得難い物語ができました。ただし、ザック・ジャパンはあんまり強くはないですね。まだまだ進化が必要であります。宿題が残っている、というのが今日の試合の収穫であるかもしれません。とりあえず、今宵はおめでとう!


<6月5日>(水)

○今日も盛大に株価が下げました。発射台が低過ぎる(日経平均8000円)からあまり気になりませんけど、だんだん「行って来い」みたいな感じになってきましたねえ。それにしても、「成長戦略スピーチ第3弾」が終わった後に日経平均が500円下げるんだから、株式市場は性格が悪いです。

○とはいえ、アベノミクス三本の矢はこれでほぼ全容を表しました。これから先は、いよいよ政治の季節。来月の参院選が焦点になってきます。外交もいろいろありますぞ。さしあたって、明後日の米中首脳会談が気になります。そして来週はG8サミット。これから先の日程は盛りだくさんです。

○てなことで、発想を経済から政治に切り替える季節の到来です。そこでこんなWebセミナーはいかがでしょうか。


●プレミアムナイツ:年後半も大相場継続?!参院選後の市場動向を読む

吉崎達彦&吉田恒

日時::2013年6月28日 (金) 19:30 〜 21:00

http://www.m2j.co.jp/seminar/seminardetail.php?semi_seq=1952 


○ホントは以前に告知を頼まれていたのを、今日まで忘れていただけなのだ。わはは。


<6月6日>(木)

○そういえば、こんなのもあったのだ。

6 / 3(月)−6 / 7(金)@アークヒルズカフェ(赤坂アークヒルズ)
http://jp.wsj.com/sp/wsjcafe/

 米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、6月3日(月)から7日(金)まで、期間限定の「WSJCafe東京」を赤坂アークヒルズのアークヒルズカフェにて開催しています。
日本初開催のイベント「WSJCafe」では、アベノミクスによる株高や円安、経済再生への期待が国内外で高まっている今の日本について、経済をはじめ政治・社会・また日本の未来像について識者と考えるトークイベントを期間中毎日行っています。
会場となっているアークヒルズカフェは、期間限定でWSJの世界観をイメージした内装にデコレートされ、WSJの新聞および9ヵ国で展開しているデジタル版をお試しいただけるコーナーが設置されています。6日からイベントも後半に入り、ますます盛り上がりが期待されます。


【WSJ Cafe Tokyo概要】

◆開催期間: 2013年6月3日(月)- 7日(金) 
◆開催場所: アークヒルズカフェ (http://www.arkhillscafe.com/
  東京都港区六本木1丁目3-40 Tel.03-6229-2666
※WSJ Cafeについてのツイートは ハッシュタグ #wsjcafejp


●6月7日(金) 18:30-20:00 「円安はどこまで進む?―FXパネル」

今後さらに進むと見込まれている円安と、為替レートへの影響に関して議論を深めます

高島 修  シティグループ証券株式会社 チーフFXストラテジスト
吉崎 達彦 双日総合研究所 副所長 チーフエコノミスト
司会:小野 由美子 WSJ日本版編集長


○「円安はどこまで進む」って、昨日は95円まで行っちゃったんですって。分かりませんねえ。間際の案内で恐縮ですけれども、よかったら覗いてみてくださいまし。


<6月9日>(日)

○以下はさる美術品コレクターから拝聴した話。

○カネのある新興国の中には、今頃になって国立美術館を建てようとする動きがある。さしあたってはシンガポールとカタールが検討中で、シンガポールのそれは2年後にオープンする予定。もちろん大規模なもので、中国人観光客を集める新たな目玉商品にしようという算段だ。そりゃまあ、カジノとショッピングモールだけじゃ芸がないですわな。さらに言えば、中国には信用できる金融商品というものがないから、金持ちの投資対象はもっぱら不動産になってしまう。その不動産も引き締めの対象になっているから、次はいよいよ美術品ということになる。シンガポール政府、あいからわず商売上手ですな。

○ところが、箱物はいくらでも立派なものを作れるが、にわか金持ち国の悲しさ、収蔵品はろくなものがない。シンガポールには、印象派の絵画が一枚もないのだそうだ。日本なんて、ほとんどすべての都道府県に美術館があるから、きっと印象派の絵が一枚もない県は少数派であろう。で、日本の某美術品コレクター氏のところにも、「寄贈していただけましたら、かくかくしかじかの便宜供与を差し上げます・・・」などという話がやってくる。おそらく、全世界の高齢コレクターを狙い撃ちに、シンガポール政府お得意の相続税対策パッケージを持ちかけているものと推察されます。

○これに対し、コレクター氏はこんな逆提案を行った。「オタクの収蔵品の中心に、日本の工芸品のコーナーを作ってはどうですかな。陶芸、七宝、漆、金工、ガラス製品・・・日本にはすごいクオリティのものがありますが、値段はむちゃくちゃ安いですぞ。まとめて陳列すれば、安上がりで、他にはない、新しい美術館の目玉商品ができます。及ばずながら、私も協力いたしますぞ」

○面白いもので、シンガポールという国は、コンテンツは借り物で一向に構わない。とにかくめずらしいもの、便利なものを用意して、外国人に来てもらってナンボという商人国家である。日本側としてはそれを逆手にとって、「シンガポールを日本製工芸品のショーケースにしてしまおう」という魂胆である。もちろん工芸品はタイやベトナムにもあるけれども、悪いけど日本製品の方がクオリティはずっと高い。しかも国内では高値がつかなくなって久しく、最近では後継者が見つからない、なんて話もあるのだそうだ。ここはひとつ、中国の金持ちたちにその値打ちに気づいてもらい、大いに買いあさってもらおうという狙いである。

○この話の落ちは、「ところがですなあ、日本の役所が当てにならんのです」というところにある。クール・ジャパンということで予算はついているけれども、それが外務省、文科省、経産省などに細かく別れていて、規模が小さいうえに、お互いにけん制しあうばかりで、ちっとも動いてくれない。もちろんコレクター氏が身銭を切ってもいいのだけれど、それじゃあシンガポール政府に対する権威づけに欠ける。ここはひとつ、「日本政府が選んだ工芸アート特選×××点、一挙公開」みたいなストーリーにしなければいけない。

○以上、「コンテンツには自信があるんですが、売り方が下手なんです」「国際競争力はあるんですが、縦割りのお役所仕事で埒があきません」という、最近ありがちなお話でありました。本件、誰か私が力になってあげようという奇特な方がいらっしゃいましたら、不肖かんべえまでご連絡ください。


<6月11日>(火)

アジア時報という雑誌の6月号で、木村幹教授の「韓国はなぜ中国に急接近するのか」という論文が掲載されている。これが大変面白い。ごくごくかいつまんで、「ええっ、そうなの?」と絶叫したくなるようなポイントをご紹介しておこう。

●韓国政府の基本的外交方針として、米韓関係にはいろいろ問題があるが、中韓関係にはいかなる課題も指摘されてはいない。ちなみに日韓関係には「断固たる」対処方針が必要とされている。

●パククネは親日派ではない。彼女は中国語はできるが、日本語はできない。そして日韓情報保護協定を破談に追い込んだのはパククネである。朴政権誕生後は、日本スクールが退潮し、中国スクールが進出している。

●韓国の保守勢力の中でも、「連米連中」論(すなわち、米中のいいところ取りをしよう)という考え方が主流を占めるようになっている。

●なんとなれば、米韓同盟では北朝鮮の核保有を防げなかったから。そしてまた、アメリカの核の傘もどの程度信じていいかはわからない。

●陸軍中心の韓国では、海洋軍事力が弱いからそもそも中国に対抗できない。それに竹島防衛にも力を割かなきゃいけないし。

●長く他国のヘゲモニーの下で生きてきた韓国は、権力移行期に敏感である。そして彼らは、今はアメリカから中国へのヘゲモニーの移行期であると考えている。

●そんな目で見ると、中国に敵対して米中の対立をたきつけている日本は愚かな存在であるように見えてしまう。


○こちらから見ると、韓国は所詮は中国の従属変数なので、ほっといても大丈夫という風に見てしまうのであるが、なるほどそんなことを考えているのですか。つくづく島国で、中国大陸から離れていた日本の幸福を感じざるを得ません。ついでにいうと、中国が次の覇権国になるとはとても思えないんですがねえ。


<6月12日>(水)

○政治ウォッチャーと商社業界と、金融関係者と、いろんな会合をハシゴした1日だったので、頭の中がぐじゃぐじゃである。とりあえず、ネタをいくつか忘れないように書いておく。

●選挙で勝って、安心した後の内閣改造にご用心。

――第2次安倍内閣には、第1次のような油断は見られない。でも勝った後は慢心が生じる。強そうな体制が、内側から崩れることもあるのだよ、と。(例:1996年の総選挙後の橋本内閣)

●成長戦略の逆説。探せばいっぱい見つかるぞ。

――「インフラ輸出」というけれど、そもそも儲からないから、公共投資で行うのがインフラ整備であって、それで儲けようというのは変じゃないか。

●北朝鮮とモンゴルの関係にご用心。

――安倍さんは何で3月にモンゴルに行ったのか。飯島さんは一体何しに平壌に行ったんだ。アタッシュケースの中身は?・・・あわわわわ。

●古来、5席以上の空母を運用できたのは、アメリカとイギリスと大日本帝国くらいのものである。

――そういえば、スパイ組織も戦前はなかなかでしたよねえ。

○ほかにもたくさんあったはずなのだが、とりあえずこれだけでも書いておこう。


<6月13日>(木)

○今日は京都総合経済研究所のセミナー講師で京都へ。

○東京駅の新幹線ホームでベンチに座っていたら、あらお久しぶり、宮崎哲弥氏と遭遇。どうもミヤテツさん、最近は関西での露出(TV出演、大学講師なども含む)が増えている模様。しばし諸般の情勢について歓談。先方が1本先の「のぞみ」に乗って大阪に向かった後、なぜか当方にメールが到来。


「今日の大阪、京都はえらく暑いらしいから、体調管理にはお互い注意しましょう」


○ありがたい心遣いなるも、ミヤテツさん、どうしたんだ、めずらしいことを言うもんだ、などと失礼なことを考えたのであるが・・・・。京都駅に着いた瞬間、文字通り暑さでクラクラとめまいがしましたな。しかもこの季節特有の湿り気を含んだ空気で、こりゃあてえへんだ。後でわかったのだが、今日の関西方面はところによって「高温注意情報」だった模様。あづい・・・・。

○しかも今日は、為替も円高に振れて、株価も盛大に下げている。円高について言えば、6月7日にWSJカフェでご一緒したシティグループ高島氏の予言がばっちり当たった形である。


高島氏は、ドルが対円でいったん天井を付けて上昇しなくなると、10円ほど下落する傾向があると指摘、今回の円安局面でのドルの高値が103円台になっているため、93円までの円高方向への調整がいったんあり得ると話した。


○こんな日に、日本経済の前途やらアベノミクスの妥当性やらを語るのは、なかなかにしんどい作業である。「アメリカ経済はこのまま回復軌道に乗るのか、それとも出口戦略でコケるのか」、そして「アベノミクスは成功するのか、それともコケるのか」という2つの問題で意見が割れている。これで市場は心が乱れてしまっている。しばらくはなかなか安定しないと思います。

○そして帰ってみれば、首都圏は雨である。梅雨時である。しばしこの季節に耐えなければなりませぬ。


<6月14日>(金)

○成長戦略が閣議決定されました。あんまり評判はよろしくない。でも、ぜいたくを言うべきではないと思う。たしかに力不足ではある。しかし、参議院選挙を1か月後に控えた今、「大胆な改革プラン」と「安定した長期政権」という2つの選択肢のうち、どちらを重視すべきなのか。私は圧倒的に後者の優先順位が高いと思いますな。安倍政権が向こう3年続いてくれることが、最大の経済対策になる。それを危うくするくらいであれば、岩盤規制を残すことくらいちっとも惜しくはない。ここで妥協を惜しんで、またしても短命政権を作るのは愚かの極みというものです。

○ところが大新聞が、「せめて投資減税くらい、やったらどうだ」などとおっしゃったりする。これこそ悪魔のささやきというものでしょう。それを真に受けて、政府与党が秋の臨時国会でホイホイと投資減税を決めたといたしましょう。次の瞬間に、大新聞(たぶん日経を除く)はこう言いだすでしょう。「企業は減税で、庶民は増税か」。あいつら、手のひらを返すからねえ。せめて確信犯で言っているのならともかく、単にその都度の雰囲気で言ってるだけですから。真面目な話、あたしゃこの点では財務省に同情してしまいます。

○その結果として、来年春からの消費税の増税が先送りになるかもしれない。それでJGBの信認が危うくなったりしたら目も当てられない。だったら、法人減税などという毒まんじゅうには、手を出しちゃいかんのではないでしょうか。経済界の対応はとっても難しい。ここは「商人は食わねど高楊枝」でなきゃいかんと思います。真面目な話、投資減税のお蔭で設備投資が決まったなんてことは、そうそうあるもんじゃないんだから。


<6月16日>(日)

○今朝は早起きしてコンフェデレーションカップの対ブラジル戦を見てましたが、つ、つえええ。じぇんじぇん勝てる気がしない。ネイマールが気持ちよさそうにプレーしている。だから0−3で大敗。やっぱりアジア枠って、あんまりレベルが高くないんじゃないのかなあ。

○もとより負けて恥になる相手ではない。しかもホームの首都で行われる初戦、という独特の圧力もあったことだろう。とはいえ、日本代表はあんまり強くはない。そのことを自覚する、いい機会になったのではないか。次のイタリア戦は3日後だって。さて、どうする。開き直って戦えるかどうか。

○そうかと思ったら、この週末はラグビーでは日本代表がウェールズに歴史的勝利。これは驚き。2019年のワールドカップ日本開催までに、少しは強くなっておかないとね。「エディー・ジャパン」って言うんですって、覚えておきましょう。

○今日のお昼は何気なくつけたNHK杯の阿久津主税七段vs中田功七段の終盤戦が大熱戦。私の棋力では「詰むや詰まざるや」まではわからないのだけど、1手30秒で勝負手を応酬しているうちに、何度も局面が逆転したことくらいはわかる。最後は阿久津七段の勝ち。

○ということで、他人が必死にやっていることは面白い。ついつい見ていて力が入りました。

○そういえば都議会選挙も始まっているようです。またしてもマック赤坂は出てるんでしょうなあ。


<6月17日>(月)

○今にして思えば、昨年暮れの衆議院選挙の際は、「これはまだ冬の陣。本当の戦いは来年の夏の陣」などと言っていた。つまり2012年冬の衆院選は前哨戦に過ぎず、2013年夏の参院選こそが天下分け目の戦いであると。ところがその参院選が来月に迫っているというのに、どうにもこうにも関心が低い。今日は某所で、「なぜ参院選は盛り上がらないのか」という議論をしていたら、そっちの話が盛り上がってしまった。変な話である。

○2007年夏の参院選の際は、当時の安倍自民党政権があまりにひどいので、有権者はきびしいお灸をすえた。かくして衆参のねじれ現象が始まることとなった。ところが、その後も自民党は反省の色が乏しく、福田政権、麻生政権も人気を挽回できず、とうとう2009年の総選挙で政権交代と相成った。有権者の気持ちは「政治を変えたい」であった。

○ところが代わりに登板した民主党政権は、政治を変えるどころか、何も決められない人たちだった。トロイカと呼ばれる3人(今更思い出したくもないバカとズルとワル)がしょっちゅう仲間割れし、若手たちも政策を論じることばかりに熱中し、最後は「今日はいい議論ができた」などといって満足してしまう。決まったはずのことも、いつしか蒸し返されたりひっくり返されたりする。お蔭で何も決められない、動かない、そして霞が関は委縮して仕事をしなくなる、という政治が3年間も続いた。

○さすがにあきれ返った有権者は、2012年冬の総選挙で民主党を見放した。そしたら自民党が政権に戻ってきたのであるが、これを見ているととにかく久々に政治がきちんと動く。これは結構なことではないかということで、安倍内閣は高い支持率がもう半年近くも続いている。とにかく、予想通りに物事が進むということは、意外と値打ちがあることであると気づいたのである。

○つまり有権者の期待値が低下して、「とにかく変えなくてもいいから、きちんと動いてくれればいい」ということになった。そしたら妙なトバッチリが飛び出して、典型的な「変える政治家」であるはずの維新の会の橋下さんが墜落してしまった。あれば失言が問題で失速したというよりは、勢いが落ちて焦ったから、ああいう発言が出てしまったと考えるべきだろう。

○まあ、ワシはもともと、橋下徹氏には関心がない人なので、特段に痛痒を感じているわけではない。強いて言えば、一時期、あれだけ大勢いた彼の「ブレーン」たちは、ここで知らんぷりをするんじゃなくて、ちょっとは弁護をしてやれよと思う。やっぱり、自分を売り込みたいだけの人たちだったのだろうか。

○それはさておいて、このままいけば参院選は自民党が勝つだろう。それでなおかつ、今までのような「動く政治」(でも、以前と変わらない)が続くのであればいいのだが、ひょっとすると自民党の先祖がえりが来るかもしれない。参院選で勝って、次の選挙は当分ないのだから、ここで慢心して2007年以前に戻ってしまったらどうしよう。本当は、「変えてしまいたい」と思っていたのに。

○そういえば、先週「選挙で勝って、安心した後の内閣改造にご用心」と書いたのだが、「安倍さんは、選挙後も内閣改造しない説」が流れているらしいですな。そりゃあ、しないで済むものならその方がずっといい。そもそも選挙で勝つのなら、変えるような大義名分もないんだもの。野党がバラバラなのはありがたいことでしょうが、後はせいぜい党内政局にご注意をなさいまし。


<6月18〜19日>(火〜水)

○先月は「県庁所在地でない地方都市」を訪れる機会が多かったのですが、今月は政令指定都市が多くなってます。昨日が広島で今日が仙台。どちらも日帰り。で、いろいろ発見したことをメモしておきましょう。

○広島で印象に残ったのは、「何と言っても、マツダが良くなりましたから」という話。逆に言えば、円高が続いていた間はしんどくて、市民が無理してマツダ車を買い替える、なんて動きもあったのだそうです。さすが、昔は呉の海軍工廠に戦艦大和の部品を入れていたというマツダ、地元の支持が筋金入りなのです。株価も一時は100円前後でしたが、そこで仕込んでおけば今は3倍以上になっている。円安は自動車産業には即効性があるのです。

○もうひとつ、感心したのは「今夜は日ハム戦で、大谷が投げますからね。盛り上がりますよ」との声。今年のカープはまだ3位、しっかりAクラスなんです。そこへ交流戦で「二刀流」の大谷君がやってくる。昨晩はちゃんと投げて、打って、勝ったみたいですが、これは誰だって関心を持つでしょう。「あの大谷君が広島にやってくる」というのは、首都圏とは違う感動があるでしょう。しみじみ「交流戦」も「二刀流」もやってみて大正解だったんじゃないでしょうか。

○仙台の事情はもっと複雑です。「日本で一番、有効求人倍率が高いのは宮城県=1.29(4月)」なんですが、現地の経営者は怪訝な表情です。「企業は人が採用できない。でも、若者は就職難」。こんな状態で、どうやって企業を伸ばしていくことができるのか。さらに仙台周辺には、石油化学、出版、紙パルプ、食品加工(漁業)など、円安がマイナスに働いている産業が少なくない。これは広島とは正反対です。つまりアベノミクス効果は、地方によって効き目がずいぶん違うんですね。

○その他、復興関連で聞く話は、それこそ不条理の塊のようなものばかりです。「復興関連の事業は、東京から来た大手が持っていく」「仮設住宅の環境は悲惨。その一方でパチンコ屋は賑わっている」「復興庁は霞が関の他省庁への御用聞き機関」「あたらしい街づくりは意見の集約が難しい」などなど。「皆さん、選挙にはあんまり関心がないですよ」と聞くと、ちょっと哀しいものがありました。

○他方では、こちらも「楽天は今年は強いです」。現在、2位なんですねえ。やっぱり野村→星野監督、というのがいいのでしょうか。ほかにも、サッカーはベガルタ仙台、プロバスケットは仙台89ERS、さらにはみちのくプロレスに女子プロレスまであるというから驚きです。

○広島と仙台は、どちらもスポーツチームが一通りそろっている。こういう点はいいですねえ。ああ、なんだか今度は福岡が私を呼んでいるような気がするぞ。


<6月21日>(金)

○今日書いた溜池通信の中で、これは材料として使いきれなかった、というネタをご紹介しておきます。

○今週発表された貿易統計を見ていて気づいたのですが、今年になってからの米国経済の好調さと、中国経済の不調さは、日本からの輸出額にはっきりと表れている、ということです。1月から5月までの累計額で行くと、米国向け輸出は5兆0664億円です。そして中国向けは4兆7576億円。なんとアメリカ向けが中国向けを逆転しているのです。

○米国向けは前年同期比で2ケタ増の伸びですが、中国向けはちょぼちょぼと言ったところ。この勢いが続くなら、2013年は久々に「米国向け輸出が中国向けを上回る年」になることでしょう。やっぱり2013年は、「先進国経済が再評価される年」なんじゃないでしょうか。


<6月22日>(土)

○この週末は所用で福岡市へ。まことにラッキー。

○土曜の夜の賑わいはさすがでありましたね。泊まったのがニューオータニ博多だったので、まずは天神の方を散策。2011年夏に行ったときは、九州新幹線が完成したので、これからは博多駅の方が繁栄するんじゃないかと言われていたんですが、西鉄福岡駅(天神)の方も負けてはいません。いつも思うんですが、天神は古くからの喫茶店が残っていて、なおかつスタバやタリーズが共存共栄している。とっても幸せな繁華街なんじゃないかと思います。

○そこから中州へ。これがまた大変な人出である。うーん、なんでこんなに店がいっぱいあって、それも若い女性が多いんだろう。金曜と土曜の夜はこれが朝の4時、5時まで続くんだそうだ。付き合いきれないので、暖暮のラーメンを食べて帰還。ちなみにギョーザもなかなかでありました。

○タクシーの運転手さんに景気はどうですかと聞いてみたところ、今が特に好況という感じでもないらしい。運転手さん、ちょっと声を落として、「九州電力さんのチケットが出てないんで、長い距離が出ないんですよねえ・・・」。ははあ、なるほど。やはり地方経済にとっては、電力会社の存在は無視できないものがあるのです。

○今は円安だけど、中国経済の「やけくそ安値輸出」があるんで、おそらく福岡県の鉄鋼業にとっては苦しい時期なんだと思います。トヨタの九州工場はいいでしょうけどね。こんな風に、アベノミクスの浸透効果は各地各様ということになる。見方によっては格差が広がることになる。でも、それは一概に非難すべきことではないのだと思います。

○先週、広島と仙台に行ったばかりなんですが、そういえば今年は福岡ソフトバンクホークスも強いんだよなあ。日ハムがちょっと不振ですが、北海道にも行きたいところです。


<6月23日>(日)

○東京都議会選挙の開票速報が始まりました。まあ、だいたい予想通りとはいえ、こうやって数字が出てくるとオタクの血が燃えてきますねえ。

○過去に東京都議会選挙が行われた年は、政治も大荒れになることが多いです。過去にどんなことがあったかを、以下にまとめておきます。


●1989年:自民党が▲20議席、社会党が+18議席→参院選で自民過半数割れ(7月)

●1993年:日本新党が20議席で大躍進→細川政権誕生で55年体制崩壊(8月)

●1997年:新進党の候補者11人全員が落選→新進党が解党(12月)

●2001年:自民党が順当に議席伸ばす→参院選で小泉自民党が大勝(7月)

●2005年:民主党が都議会第2党に→郵政解散で自民党が圧勝(9月)

●2009年:高投票率で民主党が第一党に→総選挙で政権交代(9月)


○こうして振り返ってみると、都議会選の動きがその次の国政選挙で増幅されるというパターンが目立ちます。2005年だけは逆ですけど。

○さて、2013年都議選はどういう位置づけになるんでしょうか。今のところ自民党大勝で、参院選のねじれ解消にリーチをかけている感があります。他方、第3党に転落しかねない民主党はどうなるのか、維新の会は果たしてどうなるのか、などと興味の尽きないところであります。後は明日のモーサテを覗いてみていただけると幸いです。


<6月25日>(火)

○商社業界OBのエコノミスト、北井さんから最新の産業ヒアリングの結果を拝聴する。毎年、この季節の楽しみの一つ。

○日本経済は回復局面。特に個人消費が強い。労賃は上昇気味で、価格の引き上げも進む。設備投資は、製造業はともかく非製造業は良い。輸出は円安には期待できないが、それでも少しは良くなるだろう。結論として、中国経済によほどのことがない限り、日本経済は安泰だろう、とのこと。

○ほんの1年くらい前には、日本の内需はもう期待できないから、13億人の中国だけが頼りだ、みたいな話を大真面目にしていたものだ。それが今では、日本経済が世界の希望の星で、中国経済は何が起きるかわからないという感じになっている。変われば変わるもんですなあ。アメリカのエコノミストの中には、「今の米国経済にとっては、中国だけが不安要素だが、その代わりに日本がいいから大丈夫だろう」などと大真面目に語る人もいる。ちょっとドギマギしちゃいますけど。

○最近気になるのは、中国経済における「シャドーバンキング」という言葉。ここへきて突然浮上してきたけど、この言葉、意味も雰囲気も「サブプライムローン」とそっくりだ。それまで誰も問題にしていなかったのに、ある日突然、「これがあるから世界経済は危うい」とか、「今の中国はちょうど2008年3月のベアスタ救済の頃に等しい」(つまり半年後にはリーマンが来る)なんてことが言われ始める。今日なんて夕刊フジにも出てましたがな。

○ただし「シャドーバンキング」が崩壊したからと言って、「サブプライム」のときのような全世界同時株安には至らないだろう。たぶん輸出の減少という形で、日本経済にも影響が及ぶのではないか。それはそれで、日本にとっては困ったことなので、頼むから迷惑かけないでよねえ、などと言いたくなってしまう。

○北井さんいわく、最近の公立有名進学中学校には、中国人生徒が増えているんだそうだ。なんとなれば、国籍条項がない。普通に近所の小学校を出ていれば、誰でも受験資格がある。そこで母一人子一人で来日し、猛勉強して中学入試に挑む。察するに「保険」ということなんでしょう。いまではSAPIXでも、上位には中国人名前がめずらしくはないんだそうだ。さだめし、党幹部の子どもだったりするんだろうが、そういうのを聞くと、ますます不安になっちゃうじゃないですか。中国よ、しっかりしてくれ〜。


<6月26日>(水)

○今日のお昼に某電力会社の人とランチしていて、「とうとう発送電分離が成立してしまいますなあ」てなことを言っていたら、午後になって参院で安倍首相の問責決議案が成立し、電力事業法改正案は廃案になってしまった。うーむ、なんちゅうことをやっておるんだ。

○ちなみに、筆者が発送電分離に反対する理由は、この辺を呼んでくれたまへ。さらに言うと、発送電分離と脱原発はあんまり関係はない。ちなみに脱原発についての筆者の考え方は、この辺をご参照。さらについ最近、澤昭裕さんと対談した内容もリンクを張っておこう。(前編後編

○ところが今日起こったことは、そんなに複雑な話ではなくて、次の選挙が近づいているもんだから、ついつい野党が政策よりも政局、実質よりもパフォーマンスを優先してしまったというだけである。ひょっとして、自民党が内心では電力システム改革は筋ワルだと気がついて、野党に責任を押し付けつつ巧みに廃案に持ち込んだのだとしたら、これは高等戦術と言えないこともない。が、とりあえず今宵の経済産業省はお通夜ムードなんだそうだ。だってもう、次の人事が発表されているんだから、「秋の臨時国会でもう一度、同じ法案を出してください」と言われたって、それは簡単ではないですぞ。

○逆に電力会社の人たちは、胸をなでおろしているかもしれない。そもそも今日は、電力各社の株主総会でブルーな一日であったし。ここは「良かったねえ」と言ってあげたいけど、ワシ的には釈然としない気分も残る。だって理由が愚か過ぎるんだもの。やっぱり早く「ねじれ」を直して、「参議院の問責決議案」が、二度と成立しないようにした方がいいんじゃないだろうか。そもそもこの制度があったことで、良かったことが今までにひとつでもあっただろうか。ただの野党の腹いせに使われるだけだったと思う。

○今日の問責決議案の結果、生活保護法改正案も流れてしまった。これを抜きにして、秋の臨時国会で社会保障制度改革をどうやって議論するんだろうか。生活保護のごまかしは大目に見ますけど、医療費や年金はキチンと払ってくださいねと言うんだろうか? 愚かな参議院は、本当に今回限りにしたいものです。


<6月28日>(金)

○例の「成長戦略」であるが、6月14日に閣議決定されたら、なぜか「日本再興戦略」という名前になっている。本文が98ページ、図表も入れると157ページ、予想通りとはいえ、結構大変なものになっている。

○ひとつ気になったのは、「日本版NIH」はどうなるんだろう、ということである。ワシが昔、ワシントンDCに住んでいたのはベセスダという駅の近くで、お隣の駅がNIH(National Institutes of Health)だったのだ。「お医者さんが1万人居るところ」という触れ込みであったが、果たして日本版もそれに近いオーダーになるのかどうか。それにしたって、お医者さんの数は、千人なのか百人なのか、ちょっと知りたいではありませんか。

○本文をチェックしてみたら、こんな風に書いてあった。


●医療分野の研究開発の司令塔機能(「日本版NIH」)の創設

・革新的な医療技術の実用化を加速するため、医療分野の研究開発の司令塔機能(「日本版NIH」)を創設する。具体的には、

- 司令塔の本部として、内閣に、内閣総理大臣・担当大臣・関係閣僚からなる推進本部を設置する。
政治の強力なリーダーシップにより、@医療分野の研究開発に関する総合戦略を策定し、重点化すべき研究分野とその目標を決定するとともに、A同戦略の実施のために必要な、各省に計上されている医療分野の研究開発関連予算を一元化(調整費など)することにより、司令塔機能の発揮に必要な予算を確保し、戦略的・重点的な予算配分を行う。

- 一元的な研究管理の実務を担う独立行政法人を創設する。総合戦略に基づき、個別の研究テーマの選定、研究の進捗管理、事後評価など、国として戦略的に行うべき実用化のための研究を基礎段階から一気通貫で管理することとし、そのため、プログラムディレクター、プログラムオフィサー等を活用しつつ、実務レベルの中核機能を果たす独立行政法人を設置する。

- 研究を臨床につなげるため、国際水準の質の高い臨床研究・治験が確実に実施される仕組みを構築する。
臨床研究中核病院及び早期・探索的臨床試験拠点において、企業の要求水準を満たすような国際水準の質の高い臨床研究・治験が確実に実施されるよう、所要の措置を講ずる。臨床研究・治験の実施状況(対象疾患、実施内容、進捗状況等)を適切に把握するため、知的財産の保護等に十分に留意しつつ、こうした状況を網羅的に俯瞰できるデータベースを構築する。民間資金も積極的に活用し、臨床研究・治験機能を高める。

等の措置を講ずる。

・これらに基づき、本年8月末までに推進本部を設置するほか、詳細な制度設計に取り組み、その結果を概算要求等に反映させるとともに、所要の法案を次期通常国会に提出し、早期に新独法を設立することを目指す

(注)独立行政法人の設置は、スクラップアンドビルド原則に基づき行うこととし、公的部門の肥大化は行わない


○なんとこの夏の間に推進本部を設置し、8月末の概算要求に反映させてしまうのだと。そして来年の通常国会には法案を上程し、早い時期に独立行政法人ができてしまう。おそるべきスピード感である。日本版NIHだけでこうなんだから、他の項目も合わせると、選挙後の安倍内閣はむちゃくちゃ忙しくなりそうだ。どう考えても、憲法改正など手がける暇はない。やはり安倍内閣は、向こう2年間は「経済一本槍」にならざるを得ないと見る。

○とどめは最後の(注)でありますね。新しい独立行政法人を作るのではなくて、古いものを統合することで何とかするんでしょう。さしずめ財務省との間で、激しいバトルが演じられたことでしょう。こうやってみると、あんまり夢のある話ではなくなっているけれども、巨額の予算がつぎ込まれてどうにもならん、ということにもならないだろう。

○ということで、霞が関文学の一端を覗き見た気がいたします。


<6月30日>(日)

○そろそろ参議院選のことを考えないといかん。といっても、あんまり気のりはしない。「巳年選挙」では、直前の都議会選挙通りの結果が出るというのが過去のならわしである。過去の巳年は以下の通り。

●1989年:都議選で自民▲20議席、社会+18議席(6月)→参院選で自民過半数割れ(7月)

●2001年:都議選で自民党が議席伸ばす(6月)→参院選で小泉自民党が大勝(7月)

●2013年:都議選ショック(6月)→???(7月)

○あまりにも自明なので、あまり面白くはないのである。番狂わせはないだろうなあ。

○それはそれとして、参議院は今のままではいかんのではないか。「強過ぎる参議院」を弱めるためには、憲法改正が必要で、それには当の参議院が反対するから不可能である。国連の安保理改革に常任理事国が反対するのと同じ理屈で、既に権限を持ってしまっているものに、自分の権限を移譲させるのは至難の業なのである。

○せめてあの「問責決議」というのを止めさせたいものだと思う。そもそも1998年の額賀防衛庁長官以来、問責決議で政治が良くなったためしは1件もないのではないか。参議院議員のように6年間の身分を保証されている者たちに、政局騒ぎに参加することを許してしまえば、碌なことにならないのは自明ではないだろうか。

○そこでふと思いついたのだが、昔懐かしい「無所属の会」というのを復活させたらどうだろう。「無所属の会」所属議員は、いかなる党派的な行動にも参加しない。首班指名は棄権する。問責決議などもってのほか。もちろん大臣になることを目指したりはしない。国会議員として政府に質問に立つことを最大の名誉と心得、「良識の府」である参議院の復興を目指すものとする。もっと言えば、戦前の貴族院のようなものを理想とする。政党助成金も要らないよね。だって名誉職なんだもの。

○この会派が定数全体の2〜3割を占めるようになったら、さすがに参議院で党派的な活動をすることが恥ずかしくなってくるだろう。結果として政局騒ぎは衆議院に収れんすることとなり、参議院は「良識の府」という本来の姿に近くなる。というか、自民党・田中派が拡大する以前の参議院は、「政党化」や「派閥化」があまり進んでいなかったから、今みたいな問題がなかったんだよね。

○実際には政党に所属していないと、選挙には不利に働くので「無所属の会」構想は単なる理想論に終わるのだろうけれども、そんな風になったらいいのにな。これなら憲法改正は不要なんだもの。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki