<1月1日>(月)
〇新年早々、「あけおめ」メールを何件か受領する。
●金融界の噂によれば、今年の運用は株よりも債券。なんとなれば、今年は西暦2「007」、その名もボンド(Bond)であると。
――誰が書いたか、見当ついちゃうよねえ。T編集委員、今年もよろしくお願いします。
●仕事のほうは、「人間力」を中心テーマにしています。 「人間力」という言葉自体を商標登録しました(登録第4998183号)。
――こちらはご存知、岡本さんからです。毎度のことながら、なんちゅーアホなことを。サイトを見ると、ホントに「人間力」という言葉にTMがついている。そういや、「溜池通信」って、商標登録はしてねえなあ。
〇お正月、娘二人と引いた恒例のおみくじが、3人全員「大吉」であった。(ちなみに、配偶者はこういうとき、絶対に自分は手を出そうとしない)。こういうこともめずらしいが、かえって用心しなきゃという気になってしまう。案の定、夕方になって実家のトイレの水が逆流して大騒ぎとなる。業者さんを呼んで見てもらったところ、タンクごと替えなきゃいけない模様。これだものねえ、及ばざるは過ぎたるに勝れり。
〇ライトレールに乗ってみる。今日は大人100円、小学生50円の割引料金である。岩瀬浜まで行ってみると、今日は天気がいいものだから、立山連峰が実に見事である。返す刀で富山駅まで行き、駅の売店で連峰「立山」超特選という大吟醸を衝動買いする。これはさすがに好評でありましたな。日本酒をあまり飲まないかんべえが飲んでも、まことに秀逸です。実は余った分を今、ちびちび飲みながらこれを書いていたりする。
〇ということで、何となく始まってしまった2007年であります。明日以降も、出たとこ勝負です。
<1月2日>(火)
〇今日は年賀状からのご案内。
「あの“1985年組”が今春のメーンターゲットです」(人事担当となった某新聞社のY氏)
――上戸彩世代がとうとう大卒の年代に達したわけでありますね。こりゃ会社も変るわ。
「そろそろ次を考えませんか?」(『1985年』の担当者、新潮社のY氏)
――まあまあ、『国家の品格』があるじゃありませんか。
「サンデープロジェクトの画面でご尊顔を拝しています。かなり横幅が広がりましたね」(旧友のT氏)
――あれは横長に映るんだってば。もう。
「一日一日全力投球でまいります」(田原総一朗氏)
――新年のサンプロは1月7日からです。
「高齢になりましたので年賀状は今年限りとさせていただきたくお許しください」(大物財界人H氏)
――日経新聞の「私の履歴書」ご担当者殿。急いでください。
「飲酒運転格差社会堀江村上新庄劇場裏金捻出下層社会地下核実験品格中食駐車監視員浪速乃闘拳未履修偽装請負学力低下代理出産貧困率団塊数独上限金利年金夕張破綻粉飾決算冥王星」(元ジャーナリストK氏)
――お見事でございます。なお、業務連絡ながら林檎おいしゅうございました。
〇年賀状で、いつも洒脱な風景画を送ってくださるK氏。実はかんべえの親戚であるのですが、長年にわたって富山市の風景を描き続けているうちに、とうとうブレイクしつつあります。とくにライトレールを描いたものは、北陸銀行のポスターになったり、来年のカレンダーに使われたりしています。このイラスト集の下の方をご覧ください。
〇最後に、「こじか日記」の作者からいただいた作品をご紹介。
ウリ坊には納得がいかない。
うちのお父さんはわき目も振らずに誰よりも早く駆けるのに大事な試合でビリだった。
「気にすることないわよ」ネコが言う。
あんなズルイねずみ(カッソという名前らしい)が一等になる試合なんかどうせインチキなんだから・・・
「あんたのパパはね、それはとても速かったわ。でも、速すぎて何度も壁にぶつかって、そのたんびに気を失ってたの」
そうか!そうだったんだ
走るときには周りも見ろってことなんだ!
理由が分かれば こっちのもんだ。
お父の敵は ボクが討つ。
で、ネコさん!次のレースはいつなの?
〇そうか、ズルイねずみのワシは来年は年男か。早いのう。
<1月3日>(水)
〇去年くらいから気になっていたことを、今朝、夢の中で急に思い出したので、忘れないように書いておきます。(どうゆう夢じゃ)
〇「日本経済はアメリカ経済の半分」と記憶していたのだが、最近では日本が4兆ドル、アメリカが11兆ドルくらいなので、「日本はアメリカのほぼ3分の1」といった方が正確であるらしい。
GDP | 日本 | 米国 | 比率 |
ワシの記憶 | 5兆ドル(1ドル100円) | 10兆ドル | 約2倍 |
最近の現実 | 4兆ドル(1ドル120円) | 11兆ドル | 約3倍 |
〇GDPだけではない。人口だって同じことがいえる。昔はアメリカは日本の2倍だと思っていたが、なにせ先方は昨年で3億人を突破してしまっているので、最近では3倍と考えた方が正確であるようだ。結果として、一人当たりのGDPが4万ドル程度で日米とも大きく変わらない、という点が面白い。で、日米のどっちがゆたかさを感じられるか、という議論は、ここでは深入りするのを避けましょう。
人口 | 日本 | 米国 | 比率 |
ワシの記憶 | 1.2億人 | 2.5億人 | 約2倍 |
最近の現実 | 1.26億人 | 3.0億人 | 約3倍 |
〇さて、問題です。なぜ「2分の1」が「3分の1」になってしまったのか。これはなかなかに議論が広がりそうな設問だと思います。
〇ひとつは「為替」が原因でありましょう。現在の1ドル120円は、実効レートでいくと1985年以来の円安である。ここ数年、為替は貿易収支ではなく、もっぱら金利差で動いているので、金利なき通貨の円は安くなる。2007年は大きく動くとは思わないのだけど、方向としては円高、であろうと思います。
〇次に「移民」の違いがありますな。移民を受け入れるアメリカと、制約をつける日本、あるいは経済成長を優先するアメリカと、社会の安定を重視する日本、という対比があると思います。この点については、不法移民の取り締まりが政治課題になっているアメリカと、少子高齢化が行くところまでいって、そろそろ移民をという議論が始まっている日本、という対比もあり、今後がどうなるかは分からない。
〇それから「成長率格差」の問題があります。アメリカのGDPは年々増えておりますが、日本の名目GDPは、ここ10年ほど500兆円前後で変わっておりません。高成長のアメリカと低成長の日本、あるいはインフレ体質のアメリカとデフレ体質の日本ということですね。この点も、今後は米国経済が減速する一方で、日本経済が2%程度の成長を続けると、このまま差が拡大していくということはないような気がします。
〇かんべえは長期的にみて、また日本がアメリカの「3分の1」から「2分の1」に戻るような気がしていますが、それが正しいかどうかは分からない。というより、この問題に正解はありません。ここから未来を予測するも良し、経済政策のあるべき姿を論じるもよし、日米関係を語るも良し。皆さまのご意見はいかがでしょうか。
<1月4日>(木)
〇本日発売(1月5日付)の夕刊フジ「ビジネスマンライブラリー」で、かんべえの書評が掲載されました。このコーナーは今月一杯で終了となる予定で、来週以降は「淀君」、「富士夫」、村田信之氏という執筆陣の分が順に掲載される予定です。この企画、2001年秋に始まったので、実に足掛け8年の長きにわたりました。最初に引き受けたときは、正直、こんなに続くとは思っていませんでした。この間、4人の輪番メンバーがまったく変わらなかったことは、こういう業界においてほとんど奇跡的なことかもしれません。
〇書評のコーナーを連載で持つということは、常に何か紹介すべき手持ちの本を用意しなければならないことを意味します。そこは諸般の事情で、1ヶ月に1冊も読まずに過ごす、てなこともありますので、締め切りが近づいてから焦って書店を探す、てなこともありました。もっとも、最近は「献本」を受ける機会が多くなって、そうなると今度は「積ん読」リストがうず高くなってしまい、これはこれで恐怖感があったりする。まあ、「新書全点読破」を毎月やっていた宮崎哲弥氏に比べれば、ヒジョーにぬるい世界なんですけどね。
〇書評を書くときは、「自分にとって面白かった点を、ひとつだけ見つけること」を意識して読みます。それがない本は論外ですが、世間で評判になっているような本は、何かしら引っかかる点がある。それを発見することが大事であって、その上で自分なりに気の利いたコメントをつけられれば良しと考える。夕刊紙の読者が求めているのは、そういう情報だと思うからです。(ごく稀にけなす場合もありますが、それはよっぽど腹に据えかねた場合とご了解ください)。
〇とはいえ、後で書評を書かねばならぬ、と考えつつ読むというのは、やはり読書の喜びをどこか損ねているところがあると思います。例えば「ローマ人の物語」の最終編(まだ読んでない)などは、その辺の雑念を捨て去って静かに楽しみたいもの。そういえば「新宿鮫」の最新刊も買ってきてからすでに久しい。本当はお正月中に読めればよかったのですが。
〇しかも現在、別途、引き受けてしまった書評の締め切りが来週に迫っている。面白い本なのですが、これをどう評するかがかなり悩ましい。ときにはあるのですよ、読み手に「踏み絵」を迫るような本が。
<1月5日>(金)
〇かんべえが参加している最古の勉強会、「ロビンソンクラブ」の新年会が行われました。「株でお金を儲けたい」という、よこしまな思いを持った20代サラリーマンたちが、1980年代に始めた会合です。往時は毎月第2or第3金曜日に集まって、いろんなテーマについて語り明かしていたものです。昨今はさすがに頻度が落ち、年に2〜3回というペースに落ちましたが、これだけ長い付き合いとなれば気分はほとんど「戦友」です。
〇この会を設立した伊藤道臣さんなどは、投資顧問会社でファンドマネージャーを務めていたものの、2000年に脱サラして「選抜株式レース」というサイトを始めました。男40歳、大家族を背負って覚悟の上の独立でありましたが、それと同時に底なしの株安が始まり、一時はかなり苦しい状況に陥ったとのこと。雑誌「SPA!」で、「脱サラして困っている人」の代表例として取り上げられたこともありました。ところがありがちなことに、そのときが「底値」となって、その後の株高と個人投資家増加とともに顧客が広がった。昨今はご自身の株式投資も冴え渡っているとのこと。最近はDVDも売り出されていて、ほとんど「カリスマ投資家」です。
〇伊藤さんほどではないにせよ、金融界を中心に集まったメンバー各位は、いろんな浮き沈みを経て今日に至っている。独立を果たした米国税理士だとか、転職6回のアナリストだとか、何度も転勤を果たしている国家公務員とか。全体の中で、退職届を書いたことのあるメンバーは結構な比率であったりする。実際、この間の経済情勢の変動を考えれば、同じ会社一筋で20年通すということはかなりの希少価値であるかもしれない。
〇「ロビンソンクラブ」という命名の理由は、すっかり忘れておりましたが、今日聞いて久々に思い出しました。@ロビンソン・クルーソーは、金曜日に友人「フライデー」と出会った、A有名な経済学者にジョーン・ロビンソンとオースティン・ロビンソンの夫妻がいる、Bロビンソン・クルーソーは「分業」のモデルとされている、などです。なるほど、サラリーマンがアフターファイブに行う集まりとして、ふさわしい名前であったのだな、と考えた次第。サラリーマンは大勢で仕事をしていても、その実態はきわめて孤独、ってことが少なくないですからね。
<1月6〜7日>(土〜日)
〇今日のサンデープロジェクトは、「団塊世代討論」と「作家・渡辺淳一に田原が迫る」でありました。お正月バージョンということか、セットも大胆に変えて、ハセキョウさん(超美人でした)も出てたりして、見てた人は「なんだこりゃ、ホントにサンプロか?」だったんじゃないでしょうか。それでも新しいことをやるというのは本質的に楽しいもので、番組に出た側としては非常にエンジョイできた気がします。問題はこれで視聴率がどう出るかですな。
〇今日の番組では、「団塊の世代」を代表して7人(舛添要一、菅直人、穀田恵二、沢田亜矢子、山本コウタロー、高橋三千綱、吉永みち子)が参加されました。ファッションの散らばり方といい、丸テーブルを囲んだ談論風発の気分といい、いかにも団塊風でしたな。個人的にはコウタローさんと三千綱さんの発言が面白かったです。ところがそろそろ還暦という彼らに対し、すでに70代になっている田原総一朗&堺屋太一&渡辺淳一が、「頑張れよ」とエールを送るのですから、まことに不思議な構図であります。
〇それから、渡辺淳一氏が言っていた「これからは鈍感力が大事」というのは、2007年の流行語大賞か何かに推したい言葉ですね。少し前に「老人力」というのがありましたが、「鈍感力」であれば老いも若きも使うことが出来る。さしずめ小泉純一郎さんなんぞは、鈍感力の大家といっていいかもしれません。あれだけの批判を浴びても、全然平気でぶれなかったですからなあ。・・・・・・安倍さんも是非、鈍感力を磨いて支持率低下を乗り切ってもらいたいものであります。
〇番組終了後に渡辺氏から聞いた話。80年代に「化身」を映画化したときに、当時、宝塚を辞めたばかりの黒木瞳が「霧子」を演じた。ところが彼女は銀座のクラブを知らないというので、それじゃ修行にと10日間、銀座の某店でホステスを務めた。たちまち人気になり、中には10日間に3回通った客もいたという。その後も、「あの子はどこへ行ったの?」という問い合わせが引きも切らなかった・・・・・って、それはそのとき通った客が、むちゃくちゃラッキーだったと思うぞ!
<1月8日>(月)
〇昔々のこと、職場の先輩が「休日はねえ、朝からビールを飲んじゃうんだ。これが旨くてねえ」と話すのを聞いて、うんうんとテキトーに相づちを打ちながら、腹の中で「あー、この人、ダメな人」と思っていた覚えがある。だってそんなの、ダメに決まってるじゃないですか。朝からビールとか、朝から渡辺淳一とかいうのは。「朝寝、朝酒、朝湯」は身上つぶすっていうのが、この世の習いというものであります。
〇ところが今日は2日連続で昼から飲んでしまった。昨日のは、サンプロという「仕事の後の一杯」であるので、これは良いのである。今日のは、「SPA!」のニュース選びと、英語でやらなきゃいけない講演の準備という仕事を中断して、出かけてしまったのであるから罪が重い。天気も良かったしなあ。
〇有楽町に「レバンテ」という、この季節にうまい牡蠣料理を出す店がある。この冬はノロウイルス騒ぎできっと客が少ないであろう。たまには繰り出して、牡蠣の在庫を減らしてやるべきではあるまいか。という話になり、配偶者とともに出かけたのである。レバンテはちゃんと営業していたし、牡蠣メニューも健在であった。そこで白ワインを片手に、遠慮なく牡蠣の大群を次々と撃破したのである。ナマで始めて、殻焼き、ベーコン巻き、オムレツと進めて、最後はピラフで締める。あー、食った食った。
〇しかもそこから、銀座のWINSまで歩いて行って、「シンザン記念」に挑戦する。もちろん負ける。こんなご機嫌な状態で馬柱を見ても、直感が沸いてくるはずがないではないか。うん、でも何かスッキリした三連休であった。(とりあえず「SPA!」のニュース選びは済ませたぞ)。
<1月9日>(火)
〇胡錦濤主席が訪日に意欲、だそうで。それも参院選前の6月でもOK、というから、安倍政権としては「ごっつあんです」てな感じでしょうか。胡錦濤さんとしては、江沢民派はほぼ制圧に成功したから、これで秋の党大会を前に主要な懸念は消えた。つまり親日的な態度をとっても大丈夫と踏んでいるのでありましょう。
〇ちなみに秋の党大会では、政治局常務委員は9人から7人に減らし、寝返ってくれた曾慶紅だけを残して江沢民派をまとめてパージするらしい。新たに昇格が有望視されているのが、胡錦濤派の李克強と周永康なんだそうで、特に李克強は胡錦濤と同じ共青団出身であり、将来の後継者と目されている。しかし李克強の昇格は、中央委員会から政治局員をすっ飛ばしての「二段とび」となるので、わざと時期をずらすという見方もある。この辺の呼吸は、まるで昔の経世会みたいですな。
〇訪日は結構な話なんですが、その前に安倍さんがこけちゃったりしたら、中国側はどうするんでしょ。ポスト安倍が麻生さんくらいならともかく、「小泉再登板」なんかが来ちゃった日には。「頑張れ、安倍!」と祈っているのは、意外と胡錦濤さんだったりして。
<1月10日>(水)
〇今週、かんべえに寄せられるFAQの最たるものは、「長谷川京子さんは、やはりキレイでしたか?」です。言うまでもなく、1月7日のサンプロを見た方からのご質問なのですが、聞いてくるのは全員が女性。男性は全般に関心が薄いようです。恥ずかしながら、ワシなどは最初、長谷川京子と長谷川理恵をごっちゃにしていたくらいなので、このことを聞くにはもっともふさわしくないオヤジといえましょう。
〇聞かれるたびにテキトーな返事を(例:「オーラが漂っていた」、「視線が動かないのに、カメラが近づくと静かに笑う」、など)していたのですが、最近になってこの質問に対するベストな回答を発見しました。それは「顔が小さかった」。これを言うと、世の女性陣はとっても納得されるのです。
〇プロの女優やモデルというものは、とにかく顔が小さい。あるいは小さく見える。美人の条件とはそれである。そもそも女性の髪型や化粧方法というものは、「なるべく顔を小さく見せる」ことに力点が置かれているのですね。ということで、「ハセキョーは顔が小さい」という事実を確認すると、聞いた側は「まー、いいですね。そんな美人を間近で見るなんて、役得ですね」という反応が返ってくる。つまり、ご満足いただけるわけである。
〇これって結構、ワシ的には大発見でありまして、女性の美というものは、男と女では見方がずいぶん違うものであるようです。ということで、2007年が始まってまだ10日、会社は実働4日目ということなるも、すでにヘトヘト状態のかんべえでありますが、変なところでひとつ賢くなった気がしております。
〇ところでその後、ウィキペディアで検索して発見したのですが、ハセキョーは柏市出身なんですね。だったら共通の話題が山ほどあったはずなのに。(例:「レイソルがJ1に戻ってよかった」「ボンベイのカレーは惜しい」など) 事前にリサーチしておきゃよかったわん。
<1月11日>(木)
〇ブッシュ大統領の新イラク政策が発表されました。ホワイトハウスのホームページに掲載された演説の全文は以下をご参照。
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2007/01/20070110-7.html
〇かんべえの感想は以下の3点。
(1)2万人の増派という点は、以前から報道されていた通り。これでうまく行くとは思われないが、かといってこのまま黙って耐えるという選択は、アメリカ人のメンタリティとして耐え難いものがあるのではないか。「宗派間暴力の80%はバグダッドから30マイル以内で生じている」ので、まずはバグダッドの治安を回復しなければならない。そこまではごもっとも。しかるに、そのためには2万人の増派では足りないのではないか。かといって、もっと多くを送り込むことは政治的に憚られる。なかなかに苦しいところです。
民主党側としても、「撤退せよといってるのに、増やすとは何事だ」と反論するのは容易い。だからといって増派を全面否定することも難しい。それに、段階的撤退のためにも一時的な増派が必要ということは、ISGレポートにも書いてあった。ブッシュ大統領としても、その辺は見越した上で提案している。その辺は曲ダマです。
(2)意外な感がしたのは、「イラクの宗派間抗争を止めることは、イラク人にしかできない」「マリキ首相や他の指導者たちに、アメリカのコミットメントはオープンエンドではないと伝えた」などと、突き放した言い方をしていること。言ってみればイラクに対し、「お前らがちゃんとしろ」とすごんでみせたわけで、これもISGレポートの勧告に沿っている。結局、ブッシュとしては意地もあるので、ISGレポートを丸呑みすることはできない。いろいろ自己主張をするのだけれど、最終的にはあれに近い形で収めるつもりなのではないか。
(3)その一方で、あいもかわらぬ「ブッシュ節」が散見される。たとえばこの部分。
The challenge playing out across the
broader Middle East is more than a military conflict. It is the
decisive ideological struggle of our time. On one side
are those who believe in freedom and moderation. On the other
side are extremists who kill the innocent, and have declared
their intention to destroy our way of life. In the
long run, the most realistic way to protect the American people
is to provide a hopeful alternative to the hateful ideology of
the enemy, by advancing liberty across a troubled region. It is
in the interests of the United States to stand with the brave men
and women who are risking their lives to claim their freedom, and
to help them as they work to raise up just and hopeful societies
across the Middle East.
あいかわらず世の中を善悪に言論で分けて、「困難な地域全体に自由を拡大することによって、敵が持つ憎悪の思想に代わるものを与えなければならない」などと主張している。ときに現実的で柔軟な手腕を見せるブッシュ大統領だが、思考の枠組み自体はまったく変わっていないようだ。こういう発想自体が、新たな敵を作っているという面も否定できないと思うのですが。
〇結論として、イラク政策はなおも難儀であります。
<1月12日>(金)
〇この文章をどう読むか、頭を抱えている人は多いんじゃないでしょうか。
〇「雇用者所得も、緩やかな増加を続けており、そのもとで個人消費は、やや伸び悩みつつも増加基調にある」というから、やっぱり福井さんは消費が戻っているとみているのだろうか。いやいや、「物価面では、原油価格反落の影響がなお残ることから、国内企業物価は、3か月前対比でみて、目先、弱含みないし横ばいで推移するとみられる」というくらいだから、来週の利上げはないよね、とか。ともあれ、「日本銀行は、経済・物価情勢を丹念に点検しながら、金融政策を適切に運営することを通じて、物価安定のもとでの持続的成長の実現に引き続き貢献していく所存である」だそうです。
〇こんな風に、日銀の支店長会議における総裁挨拶が注目される、なんてこともめずらしいですよね。金融政策決定会合を来週に控え、1月利上げか、それとも先送りして3月までにチャンスを求めるか。4月は統一地方選挙なので、そこを過ぎるとやりにくくなる。個人的には2月に「10-12月期GDP」が出るのを待って、「お、これはいい結果が出ましたねえ」と言いつつ利上げ、というのがベストだと思いますけれども。
〇日経夕刊の「あすへの話題」、金曜日は野中郁次郎先生。ホントにいい文章ですね。まだ2回目ですけど、楽しみにしています。
<1月13〜14日>(土〜日)
〇土曜日、家にこもって仕事。プレゼンの準備、書評とコラムを1件ずつなどを仕上げる。先週は会社でデスクワークできません状態だったので、なんだかとっても充実感あり。これで幸せを感じるワシって、ちょっと変かも。
〇と、いうことで、ひきこもり気味の週末である。日曜日のテレビについて少々。
〇テレビ朝日の「サンデープロジェクト」。北朝鮮から帰ったばかりのヤマタクさんが出ていたが、「ナイショで行った方がカッコよかったのに、なぜ訪朝を公表したんですか?」と誰か聞いてほしかった。事前に記者会見して行くから、物欲しげに見えてしまうのだ。でも、「小泉さんとは連絡が取れない」というのがすごいリアリティであった。ちなみに来週はワシの出番である。
〇フジテレビの「スーパー競馬」。なぜか今年からブルームバーグのようなスタジオになってしまった。しかもお馴染み井崎脩五郎さんが、「なに一点ダカ」で馬単の一点読みではなく、複勝を推奨しちゃうんだから驚いてしまった。「負けない競馬」を目指すそうですが、今年で還暦の団塊世代としては、心境の変化があったのしょうか。
〇NHKの大相撲。せっかくデーモン小暮閣下を呼んだというのに、普通にお話しさせちゃダメじゃないですか。閣下の相撲談義が面白いのはオリガミつきですが、日本で閣下と呼んでいいのは凾ニ2人だけですよ。そういう人に「また呼んでください」なんて言わせちゃって、こうやってNHKはタレントをつぶしていくのですね。
<1月15日>(月)
〇政治を語るときによく使われる英語のフレーズに、"Representative and
Responsible government"という言葉があります。「2つのR」は政治の世界において、死活的に重要なことといえるでしょう。ところが世の中には、"Representative"(民意に適う)ことと"Responsible"(責任ある)ことが、かならずしも一致しないことがある。そういう場合にどうするかが、悩ましいことになります。
〇ブッシュ大統領の新イラク政策は、あまりにも評判が悪くて、とてもではないが"Representative"ではありません。では、どうするの?と聞くと、あんまり代案はないわけであって、増派するという選択はある程度"Responsible"な提案だということもできる。何しろ今すぐ米軍が撤退した場合、いろんな最悪のシナリオがありますから。
(1)イラクが失敗国家となり、中東の真ん中でテロの種を撒き散らす。
(2)分裂して、独立闘争を繰り返して、無数の死者と難民を生み出す。
(3)イラクが、核武装したイランの奴隷となってしまう。
〇ちなみに今週の"The Economist"誌のカバーストーリー“Baghdad
or bust”(バグダッドか死か)では、この新イラク政策について”We don't admire Mr Bush, but on this we think
he is right.”という、かなり苦しげな支持表明を行っております。なんで苦しいかというと、米国世論が新イラク政策に背を向けるであろうことを読みきっているからで、その点を以下のように説明している。
It is a characteristic of democracies to
aim high and lose patience quickly when success is elusive. The
people of the United States thought they were ridding the world
of a dictator who was building an atomic bomb. They hoped to be
greeted as liberators, not invaders. More than the
cost in soldiers' lives and squandered dollars, it is the feeling
that they are doing no good that has turned them against this war.
Instead of a high-minded victory, they have witnessed a debacle.
目標を高く掲げて、成功が覚束なくなるとすぐに忍耐を失うのは民主主義国の常である。米国の人々は、原爆を製造している独裁者を世界から取り除こうと考えた。彼らは侵略者ではなく、解放者として歓迎されると期待した。兵士たちの命や無駄になった資金もさることながら、自分たちは何もいいことをしていないという感情が彼らを戦争反対に走らせている。志の高い勝利の代わりに、彼らが目撃したのは大災害であった。
〇Representativeでない政策を断行する際には、指導者は有権者の賢明さに期待するしかありません。ところがアメリカ人の深層心理には、この問題に対する深い挫折感がある。それもあって、ISG報告書(最近は「ベーカー・ハミルトン報告書」という呼び名の方が増えているようですが)の提案が、心に訴えかけてくるのでしょう。
〇さて、今週、間もなく始まる日銀の金融政策決定会合でも、この「2つのR」がぶつかり合うことになりそうです。日銀は利上げをしたそうで、そうすることが"Responsible"な金融政策だと考えているようです。しかし、政府筋の反応は、「日銀は説明責任を果たされることでしょう」と言葉は優しいが、これを意訳すると「冗談こくでねえ!」であります。大多数の国民の反応も、「景気回復の実感もないのに、利上げですって?」という感じでしょう。とてもじゃないが、"Representative"ではない。
〇もちろん、中央銀行は政治からの独立性を付与されており、"Representative"な金融政策を目指す必要はありません。その一方、金融政策においては「市場との対話」が重要であるといわれるのは、単に日銀が自分の考えを説明して、「だからもういいでしょ?」と切り口上に言うことではないはずです。対話というからには、市場の言い分もちゃんと聞かなきゃいけません。その上で、市場の賢明さに期待するしかないのですが、今の日銀にそういう謙虚な姿勢がありますかね?
〇"Representative"ではない提案であっても、"Responsible"であることを有権者が心のどこかで納得していれば、政策は成功することがあります。日本の戦後政治においては、サンフランシスコ講和会議における単独講和から、竹下内閣における消費税導入まで、「不人気だけど仕方がない」政策を断行した例が少なからずあります。近いところで言えば、小泉政権の不良債権処理(金融再生プログラム)にも当てはまるかもしれません。
〇今から考えれば、単独講和も消費税導入も不良債権処理も正解であったと言っていいでしょう。政治家の勇気、有権者の賢明さ、そして両者の間の「あうんの呼吸」という3つ揃ってはじめて、こういうことができる。揃ってもいないのに、政治家が勇気をふるってしまうと、得てして自爆に終わってしまいます。ご用心。
<1月16日>(火)
〇TOKIOの『宙船(そらふね)』がセンバツの行進曲になったとのことで、朝のニュースで紹介していた。当然のごとく今日一日は、「その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ」というメロディが頭の中でエンドレスで流れてしまう。そうなると、いつもの地下鉄も、ついついエスカレーターではなく階段を昇ってしまう。似たような人は多いんじゃないだろうか。
〇この唄、初めて聞いた瞬間に、「こっ、これは中島みゆきだぁ〜」と思いましたな。長年のファンの一人としては、できれば彼女の声で聞いてみたいものです。あいかわらず今の時代の気分を上手に切り取っていて、またしても新たな人生の応援歌を作ってもらったという感あり。もっとも、「おまえが消えて喜ぶ者に お前のオールをまかせるな」というフレーズは、ワシの人生観とはちょっと違うのだけど。
〇お昼に松尾文夫さんを囲む定例会。今日は共同通信の会田弘継さんから、「心の旅」という話を伺う。この「心の旅」は、「あー、だから今夜だけはー」というチューリップの歌の話ではなくて、「心」は夏目漱石の『心』である。この小説を英訳したエドウィン・マクレランという日本育ちの英国人(ただし今は米国在住)がいて、その翻訳が欧米知識人の心をいかに揺るがしたかという、ほとんど大河ドラマみたいな世界である。歴史の陰にうずもれていた話を、関係者の話をつなぎあわせて構成している。近来稀な感動。
〇夏目漱石が生涯のテーマとした「近代との相克」は、何も日本人の専売特許ではなく、同じ時代の欧米知識人にとっても共感されるテーマであったということである。それはちょうど、近代がすでに終わってしまった今日において、村上春樹の小説が世界中で読まれていることと似ている。都市在住の知識人にとっては、夏目漱石が「使用前」で、村上春樹が「使用後」といってもいいかもしれない。
〇夜は東京財団の若手安保研究会。今日もいろんな話が飛び交う。本筋の話はさておいて、宮崎出張から戻ったばかりの某氏によれば、県知事選挙はそのまんま東が大健闘しているとのこと。やはり話をさせると、役人出身よりもお笑い芸人の方が「圧倒的につかみが良い」。県庁筋などでは「こうなったら、後の2人のどっちでもいい!」という声が飛び交っているとか。日本は大丈夫か。
〇2004年度から始めたこの会も、とうとう3年目の最終コーナーに入っている。当初、適当に決めた「毎月第三火曜日」という月例会のリズムが、丸三年続いたことになる。ここでの情報交換は、「溜池通信」にとっては貴重なライフラインでありました。それがあと2回、と思うといささか寂しくもあるのだけれど、こういう会はどこかで区切りをつけた方がいいだろう。そんな潮時を感じている。
〇昼の会も夜の会も、人的つながりの貴重さを教えてくれるような場であって、こういう場所がなかったら「溜池通信」もすぐネタ切れになってしまうだろう。つくづく自分の力だけで船を漕ごうなどと思ってはいけないのであって、そもそもそんなことは本来不可能である。ときには他人に引いてもらったり、漕ぎ手を代わってもらったり、追い風を背に受けて楽をするときがあった方がいい。「自力」へのこだわりは、自分の世界を狭くしてしまう。それが浄土真宗でいう「他力本願」てなことじゃないかと、ワシは勝手に解釈している。
<1月17日>(水)
〇「宙船(そらぶね)」の話はご関心の向きが多いようですね。ということで昨日の続きです。某中島みゆきファンからは、「昨年11月発売の最新アルバム『ララバイSINGER』に中島みゆき本人が歌ったバージョンが収録されているはずです」とのお知らせあり。こういうことを、ワシントンDCから教えてもらうというのも、かなり恥ずかしい話であります。万国の中島みゆきファンよ、団結せよ!
〇という話はさておいて、おそらく今現在、眠れない夜を過ごしている人たちがいる。彼らの耳元では、「おまえが消えて喜ぶ者に お前のオールをまかせるな」というフレーズが、エンドレスで流れていることでしょう。「独立性」という言葉の誘惑が彼らの心を頑なにしてしまっている。「他力」を信じていれば、いずれ周囲が持ち上げてくれるようにして、みずからの願いが適うかもしれないのに。「自力」にこだわっているがために、ますます迷路は深まってしまっている。
〇今日始まった金融政策決定会合では、そんな審議委員たちが利上げ決断かそれとも見送りかと迷っている。日銀執行部はホントは見送りでいいや(他力本願)と思っていたらしいのだけれど、強がりを言ってるうちに引っ込みがつかなくなって、週明けの報道が「利上げ」に振れてしまった。それを打ち消したら、今度は報道が「見送り」に傾いて、なおかつそれに反発する審議委員がいたりして。いよいよ明日は未体験ゾーンに突入するのではないかとか、どうだとか。
〇そんなゴタゴタをやっているうちに、永田町の方も動意づいてしまう。尾身財務相が「利上げしてもいいんじゃないか」発言で日銀を擁護したというのは、あまりにも真意が見えなくて困ってしまうのだけど、消息筋の解説によれば「日銀に敵対的な姿勢をとる中川幹事長に対する牽制球ではないか。すなわち、旧森派(現町村派)の内部の権力闘争の一環ではないか」と。だとしたら、まさしく金融政策が政争の具となってしまっているわけで、こりゃもうあきまへんがな。要するに永田町の中にも、「その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ」なーんてメロディが耳元で鳴り響いている人たちがいるらしい。
〇その中川幹事長が、本日行われた自民党大会において「宙船(そらぶね)」について言及したという話は、副会長の今日のエントリーで詳しく述べられています。つまり「宙船(そらぶね)」の正体とは、民主党のCMであった、という新解釈です。中川秀直氏いわく。
この春のセンバツ高校野球の行進曲は、TOKIOの「宙船(そらふね)」に決まりました。この曲にある「お前が逃げて喜ぶ者に お前のオールを任せるな」というメッセージは、単に高校球児へのエールではなく、われわれ政権与党への叱咤激励と受け止めたいと思います。CMで流れている、嵐の中で船長が舵を手放し、水夫が逃げ去り、幹部3人しか残らないような党に、日本の未来を任せるわけにはまいりません。
〇ナイスなツッコミですよね。あの船、どう見たって国民生活のメタファーではなくて、民主党そのものに見えちゃいます。
〇ところで余計な話ですが、あのCMはネクタイ業界でとっても受けが良くて、幹部の3人が揃って赤いネクタイをしている姿が感動モノであると。今年も夏場にクールビズをされちゃったら、商売上がったりではないか、なんちゅう話も聞きましたな。結論として、「宙船(そらぶね)」はどこへ飛んでいくのでしょうか。
<1月18日>(木)
〇今週はアメリカ・ウォッチャーのご同輩と意見交換の機会が多いのですが、よく聞く声は「ブッシュの新イラク政策が、なぜあんなに評判が悪いか、理解できない」。正直言って、ワシもそうです。
〇世上では、「ブッシュ大統領は、ベーカー=ハミルトン報告書が提案したイラクからの段階的撤退案を捨てて、新たな犠牲を増やそうとしている」という報道がされています。でも、真面目に読むと、ブッシュ演説は大筋でベーカー=ハミルトン報告書からそんなに離れてはいないのです。ことによるとブッシュさん自身が、「何でそうなるの?」と悩んでいるかもしれない。要は昨年12月6日の報告書発表から、1月10日の新イラク政策発表までの間に、「脱イラク」の方向へ世論が大きく動いてしまったのですね。アメリカにいない哀しさで、この辺の感覚が掴みにくいのです。
〇わが国のアメリカ・ウォッチャーが見落としていることは、ほかにもたくさんあります。松尾文夫さんが、「この記事、なんで日本の新聞が取り上げないのか」と言っていたのが、1月4日のウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されたop-edです。なんとジョージ・シュルツ、キッシンジャー、ウィリアム・ペリー、サム・ナンという4人が、共同で「核不拡散」をテーマに論じているのですね。昨年の中間選挙以来、急速に深まっている超党派の流れがまたひとつ進化した、という感があります。
〇かんべえも慌てて会社で購読しているAsian WSJをチェックして見たら、ちゃんと1月5日付の紙面に記事が載っていた。いかんですねえ。お正月は新聞が貯まっているので、ほかの人も見落としていたようです。CSISでサム・ナンの下で働いていたナベさんいわく、旧ソ連の核兵器管理は彼のライフワークなのだそうで、彼を中心とした働きかけであろうとのこと。
〇こういう記事を見落としてはいけません。とりあえず松尾文夫さんのHPを見ると、ちゃんと解説が書いてありますのでお知らせまで。
<1月19日>(金)
〇今週は講演が4個もあったので消耗しました。関係会社の社内セミナー、金融関係記者の研究会、内外情勢調査会(青梅支部)、そして本日の在日米軍向けプログラムです。
〇昨日の内外情勢調査会は、東青梅にある青梅信用金庫が会場でした。ここにはなんと、地元の日本画家である河合玉堂のコレクションが飾ってあるのですね。金融機関が美術作品を保有するというのは、昨今はいろいろ勘ぐられたりする怖れがありますが、そもそもの収集の動機は作品の散逸を恐れたためであった由。今となってみては、貴重な存在であります。地元には、玉堂美術館などもあるのですね。機会があれば、訪れてみたいものです。ちょっと遠いけど。
〇しんどい1週間が過ぎたので、会社からの帰り際にちょっと買い物。塩野七生「ローマ世界の終焉」と中島みゆき「ララバイSINGER」です。後者に収録されている「宙船(そらふね)」は、ほとんど暴力的なくらいの激しい歌い方で、そこがいかにもみゆき節です。長年聞いている者には、こっちの方がTOKIOよりもらしく聞こえるのだな。ちょっと幸福な気分になりました。
<1月20〜21日>(土〜日)
〇ヒラリー・クリントンが2008年大統領選挙への事実上の出馬表明。このサイトを見ると、"I'm In"(やりまっせ)とのこと。「え、まだしてなかったの?」と言うべきか、それとも「もうやっちゃっていいの?」というか。まあ、知名度と資金量では誰にも負けない有力候補ですから、来るべきものが来たということでしょう。
〇現時点の候補者一覧は下記をご参照。うひゃあ、こんなに大勢居るの?てな感じですね。もちろん、最後の勝者は1人だけ。そしてその1人は、ここに書かれていない人かもしれません。
http://www.politics1.com/p2008.htm
〇では、誰が勝つのでしょうか。現時点でそれを予想することは、長い戦いの中ではあんまり意味のある話じゃありません。でも、かんべえの場合は、ただのオタクなので、やっぱり予想しなきゃ面白くない。よく名前が上がるところでは、民主党では本命がヒラリー、対抗がバラク・オバマ上院議員。共和党では本命がジョン・マケイン上院議員で対抗がルディ・ジュリアーニ前NY市長。と、ここまでは常識的な線。
〇で、かんべえの予測はといえば、「2008年は癒し系が来る」です。・・・・どうしたんだ、この静けさは。
〇残り2年間のブッシュ政権は、なんだかんだ言って、ベーカー=ハミルトン報告書に近い線に落ち着くでしょう。すなわち、2008年初頭までに、米軍はイラクから段階的に撤退する。その後のアメリカは、多分に内省的な時代に入る。そしてベトナム戦争後、ニクソンが悪い評判を全部背負って辞めた後がそうだったように、ブッシュの後はフォードとかカーターとか、あんまり強くないタイプの大統領が来るのではないか。そうして分裂の時代が続いたアメリカを癒す、というのが読み筋であります。
〇となると、ヒラリーさんはその対極にあるような強いリーダーになりそうなので、ダメなんじゃないかと。ジョン・マケインも分かりやす過ぎる。じゃあ、そういう「癒し系」がいるかというと、強引なこじつけになるのですが、共和党ではミット・ロムニー・マサチューセッツ州知事がいる。この人はなんとモルモン教徒なのです。ね、そういうのって新鮮でしょ? 別にロムニーに限る必要はないのですが、その手の意外性のあるタマが、2008年に来るんじゃないかと思うのです。
〇民主党では、今ならアル・ゴア元副大統領がもっとも「癒し系」だと思います。地球温暖化問題への警鐘を鳴らす"Inconvinient Trurh"という映画では、冒頭「アル・ゴアです。以前は次期大統領でした」とやって笑いを誘い、「なぜそこで笑うんですか?」とさらに受けを拾う。6年間のツライ日々は、堅すぎる、人間らしくないなどと言われ続けたゴアを変えた。頭髪は薄くなったし、「まるでSPのよう」といわれたガタイには贅肉がついた。でも、その分、言葉には重みが増した。見かけはともかく、彼はいい年のとり方をしましたね。
〇ま、大統領選挙には出ないと思いますけど、歳月が人を変えるというのは、ときにいいこともあるものです。
<1月22日>(月)
〇この話、以前にも書いた記憶があるのですが、「お笑い芸人が選挙に強い理由」について。
(1)知名度が高い。政治に関心のある人よりも、お笑いに関心のある人の方が多いから。
(2)話が上手。少なくとも元お役人よりは、聞き手の反応を考えて話ができる。
(3)仕事を辞めなくて良い。公務員や民間企業の社員は、選挙に出る際に仕事を辞めなければならない。その点、お笑い芸人は弁護士や医者と同様、いつでも仕事に戻れる。
(4)負けても失うものがない。というよりも、むしろ「ネタ」を増やすことができる。
(5)お笑い芸人を相手にして、万が一負けると恥だと考えて、有力者が出馬を辞退するケースがある。
〇ということで、宮崎県では見事、そのまんま東さん、もしくは東国原英夫氏が当選されました。おめでとうございます、というべきでしょうね。宮崎県がこの先どうなるにせよ、2007年の選挙は「前向きの選択」であったということになるのだと思います。
〇どうしても重なるのは、2000年の長野県知事選挙で田中康夫氏が勝ったときのこと。やはり自民党は、小泉さん時代以前に戻ってしまったのでしょうか。
<1月23日>(火)
〇本日は、昼も夜も弁当を囲んでの研究会である。お昼のお題が「ロシア」、夜のお題が「満鉄」であった。2つの話題が微妙に重なるところが面白い。とりあえず今日のところは、ごく簡単なコメントを。
〇「ロシア」では、サハリン2の事件があったばかりである。このこと自体、とんでもない話であって、プーチン政権の振る舞いはよくあるバブルの頂点で見られる傲慢さそのものである。昨年秋頃からよく聞く、米国の年金ファンドなどが資金を用意して、商品市況に投資する準備をしているという話も、バブル崩壊直前にありがちな現象である。おそらく石油価格は1バレル50ドル割れからさらに底値があって、この先、ヘッジファンドの崩壊なんてことがあるんじゃないだろうか。
〇ロシアという国は、良くも悪くも出る引くがはっきりしている。自分が強いときは増長し、弱いときは撤退する。ソ連邦崩壊後は弱気になったので、1994年の「東京宣言」では北方領土問題の存在を認めた。その後、じわじわと盛り返して、今では自分が強いと思っているから日本のことは歯牙にもかけない。ということは、領土問題は当分、相手にされない。この先、石油価格下落でロシア経済がおかしくなって、もう一度危機に直面するようなことがあれば、そのときこそ交渉を再開すべきなのだろう。
〇もっとも、「自分が弱くなったら引く」という点は、見習うべき点があるかもしれない。日露戦争で負けた後、ロシアは東支鉄道を日本に譲渡してしまう。それが満鉄になっていくわけだが、鉄道を買った日本は得をしたのかどうか。この組織、戦後になっていろいろと美化されているものの、今日聞いたところでは、名のみ高い「調査部」も含めて、実際のところはサッパリであったらしい。それというのも、「国策会社」と呼ばれた満鉄は、ガバナンスがいい加減な「三セク」みたいなものであった。しかも中央で政権交代があると、総裁の首もすげかわる。こんな風に、自分たちに責任のない不条理をかかえた組織が、まともに機能するわけがないではないか。
〇そんなわけで、「自分が弱いときに引けない」日本組織は、やがて関東軍と結びついて暴走する。そして満州事変、日中戦争へと至るわけだ。日本が負けた後、満鉄が残した資産のうち、ハードはソ連軍が解体して持ち去り、ソフトは中国共産党の手に落ちた。国共内戦で共産党が勝った理由の一つに、東北地方を抑えたことがあったといわれる。つまり日本が残した資産は、共産主義者たちがおいしく頂戴したということになる。
〇ということで、日本という国は対外投資が上手じゃないのよね、というのが昼夜通じての結論になる。それじゃあ、昨今の東アジアに展開している日本企業の生産ネットワークはどうなるのよ、というと、これは「後ろ向きの決断であったから成功したのではないか」という意見があって、哀しいけれどもそれが正しいんじゃなかろうか。つまり、採算を取ろうというプロジェクトは下手だけど、円高対策で闇雲にアジア進出する、みたいなことは意外と得意。いや、それだって何年後かには、中国共産党に接取されて泣きを見る、なんてことになるのかもしれませんけれども。
〇教訓:大陸進出はロマンだけじゃやってられません。
<1月24日>(水)
〇毎年、この不規則発言では、一般教書演説が出るたびに詳しく取り上げるのが吉例となっております。でも、今年はあんまり力が入りません。というのは、風邪をひきかけているせいもあるのですが、とにかく内容がぱっとしない。ブッシュ大統領にとっては、来年の一般教書演説は文字通り最後の最後ですから、そこで新しいことを打ち出しても始まらない。ということで、今回が事実上の「最後の一般教書」であるといっても過言ではないのであります。
〇まず、イラク問題については、あまり多くを語る予定はなかったと思います。1月10日に新イラク政策を発表済みなのですから、ここはもう手抜きして、なるべく新しい課題を盛り込みたいところ。ところが広義の対テロ戦争からイラク、さらにはイラン、北朝鮮などをめぐる安全保障関連の記述は2471wordsと、全体の5673words中ほとんど半分近くを占めてしまっている。後から書き足していくうちにだんだん長くなり、しかも新味がなくなっていったのではないでしょうか。
〇しかも、相も変らぬ「ブッシュ節」があって、例えば下記のようなくだりにはちょっとウンザリですな。こういう議論の組み立て方をしている限り、米軍がイラク国内、さらには中東で人心を掌握して、民心を安定させる可能性はきわめて低いでしょう。
The Shia and Sunni extremists are different
faces of the same totalitarian threat. Whatever slogans they
chant, when they slaughter the innocent they have the same wicked
purposes. They want to kill Americans, kill democracy in the
Middle East, and gain the weapons to kill on an even more
horrific scale.
〇「シーア派はイランの支援を受け、スンニ派はアルカイダと旧体制の支持者たちに助けられ、勇壮な戦いを始めるだろう」などという記述もあります。そんなにクリアカットな状況ではないと思うのですが。
〇ついでに言いますと、全体の中でアジア関連の記述はこれだけです。たったこれだけ。もちろん、経済外交とか通商政策の話は皆無です。
In Afghanistan, NATO has taken the lead in
turning back the Taliban and al Qaeda offensive -- the first time
the Alliance has deployed forces outside the North Atlantic area.
Together with our partners in China, Japan, Russia, and South
Korea, we're pursuing intensive diplomacy to achieve a Korean
Peninsula free of nuclear weapons. (Applause.)
〇「中国」も「日本」も「韓国」も、出てくるのはこの1箇所だけ。張り合いないよなあ。結局、外の問題についてはあまり語るべきことがない(言えば言うほど苦しくなる)。そこで国内問題の比率を増やしたが、そうすると民主党議会と妥協する必要があるので、あまり変わったことは言えない。この辺のことは、すでに新聞各紙が書いてしまっている。
〇しかも、下院民主党は年明けからすでに6本の法案を可決してしまった。「9/11調査委員会の提言実行の推進」「最低賃金引き上げ」「ES細胞への研究助成金」「メディケアの薬代引き下げ交渉」「大学授業料のローン金利引下げ」「石油天然ガス採掘のロイヤルティ引き上げ」などです。ここで各法案に対し、共和党側から大量の造反票が出ている、という点が重要で、金丸先生流に言うと「馬糞の川流れ状態」なのですね、すでに。
〇ということで、後はいくつかのサイトをご紹介しますので、国内政策その他についてはこちらをご参照ください。ワシはもう寝たい・・・・。
●Kストリートの交差点 http://knakashi.cocolog-nifty.com/blog/
●米国労働市場へのゲートウェイ http://uslabormarket.web.infoseek.co.jp/
●みずほ総合研究所 米州インサイト http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/insight.html (たぶん近々掲載されるでしょう)
<1月27日>(土)
〇木曜夜から金曜日一杯、完全にふせっておりました。これだけひどい風邪は、ちょっと記憶にないくらいです。幸い、今週末は締め切りもサンプロもないのですが、今週分の溜池通信は見事に落としました。足掛け8年も書いていて、これが初めてかもしれません。
〇今朝になってやっと起き出し、パソコンをつないで人心地がつきました。一通り巡回したところ、岡本さんが昔書いたこんな駄文を紹介してくれていることを発見。7年前に書いた文章が面白くて、ついつい最後まで読んでしまう。うーむ、この頃はワシも若かったのう。
<1月28日>(日)
〇この週末は休養モードと決めて、「積ん読」状態にあった本を2冊。どちらも仕事と関係がなく、なおかつ書評も書かなくていいというのは、なんというフレッシュな読書でありましょうか。以下、熱で大量に脳細胞が死滅した後に読んだ感想なので、誤読が含まれているかもしれませんが、まあその辺は適当に。
●塩野七生「ローマ人の物語N ローマ世界の終焉」
15年がかりの連作の最終章。東西分裂後のローマにも、「最後のローマ人」といえるような人物がいるにはいた。テオドシウス帝が、死後の子供たちを頼んだ忠臣スティリコである。しかるに、よりによってそういう人物を、周囲がよってたかってつぶしてしまうのが、衰退期の組織というものであって、その後はさらに衰退に拍車がかかるというのが「お約束」である。
思えばこのスティリコのような人物は、シリーズ全体で何人登場したことだろう。こういうストイックな男(ローマ人)を描きたくて、塩野氏はこのシリーズを書き始めたんじゃないだろうか。ローマ人のストイシズムというのは、日本人の武士道精神にも訴えかけるものがある。こういう人物に多く出会えるというのが、このシリーズの読者の楽しみのひとつではないかと思う。が、それもここまでである。
いよいよ西暦476年、傭兵隊長オドアケルの手によって西ローマ帝国は滅亡する。そのあっけないことは文字通り呆れるほど。オドアケルが次期皇帝を目指していれば、帝国はまだしばし続いていたことになるのであるが、目指さなかったから滅んだことになってしまった。この時点においては、すでにローマ皇帝というフィクションが帝国の実態となっていたのである。
本書はここで終わらない。東ローマ帝国による帝国回復の努力とその失敗までをも描いている。ここが単調であり、しかもユスティニアヌス帝への評価も低いので、「何のためにこんなところまで書くのか?」と一瞬、不審に思うほどである。しかし「帝国以後」のローマの哀れさを描いたことで、読者は帝国時代のローマはまだしも良かったのだということに気づかされることになる。たとえどれだけ異民族の進入が相次いでも、「帝国」という枠組みがある限り、守る戦いはそれなりに可能であった。その枠組みさえもなくなると、防衛などという概念自体がむなしくなる。考えさせられる話である。
シリーズの後半において、塩野氏は「ローマはなぜ滅んだか」をあえて論じずに、「いかに滅んだか」を丁寧に記述してきた。が、その心を勝手に解釈すれば、「やっぱりキリスト教が悪い」ということになるのではないだろうか。キリスト教の普及、そして国教化に伴って、現実的で柔軟で寛容であった強いローマは、教条的で硬直で不寛容な弱いローマになっていく。そして著者の筆致も、喜びを失っていくように見える。
とはいえ、「キリスト教が悪かった」とは書けないのが西欧文化圏で生み出されるローマ論であろうから、やはり「多神教の日本人が書くローマ論」には意義があったといえるだろう。塩野さん、本当にお疲れ様でした。
●大沢在昌「新宿鮫H 狼花」
ジャンルは全く違うが、これもローマ人に負けず劣らずに古いシリーズ。でもって、ワシはローマ人と同様に全作読んでいる。新作の誕生が嬉しい。
新宿署を舞台にしたこのシリーズは、警察内部に相当な取材を行っているらしい。最初のうちは「キャリアとノンキャリ」とか「公安警察の闇」程度の話を書いているだけで、読者は「へえ〜」と感心してくれたが、シリーズが進むにつれてどんどん読者の側の目が肥えてきた。そのうち、麻薬取り締まり体制が縦割りだとか、犯罪捜査で「Nシステム」がどう使われているかとか、機微な話題が取り上げられるようになっていく。この間、取材に対する警察側の協力体制も、じょじょに進化を遂げてきたのではないか、と長年の読者は勘ぐっているのである。
なんとなれば、今回の「狼花」は、そのまんまズバリ、警視庁の現状を吐露しているんじゃないかと思えてしまうのだ。外国人犯罪の急増に対しては手の打ちようがない。現場の負担は極限に達している。それは分かる。では、どうするか。この本に書いてある通りの「毒をもって毒を制する政策」が発動されるんじゃないだろうか。もちろんその「政策」が国会や都議会で議論されることはないだろうし、マスコミも見て見ぬ振りをするだろう。が、これに近いことは、すでに現実になっているような気がするぞ。
それは別として、本作にはシリーズ中に登場する多くのものが共有されている。登場人物だけではなく、冒頭から次々と広がる謎、スピーディーな展開、魅力的なヒロイン、そして会話の巧みさなどだ。藪をはじめとする脇役陣も健在である。もちろん主人公・鮫島の恋人・晶もちょこっとだけ登場する。そして毎度のことながら、ほんの一瞬だけしか登場しないようなヤクザの類に妙な存在感があるのである。
それはそれとして、本作にはどこか物足りないものを感じる。それが何かと考えてゆくと、物語の「躍動感」みたいなものではないかと気づく。このシリーズの魅力は、何といっても鮫島の行動力である。地道に聞き込みを行い、人脈をあたり、証拠を集め、張り込みをし、容疑者を追う。もちろんアクションシーンもある。ところが本作では、最後の方に見せ場は一応作ってあるものの、鮫島があまり動き回らないのである。
その理由は、鮫島や著者にあるというよりは、携帯電話の存在にある。実際、犯罪の捜査を行うとしたら、本作に出てくるように「いかに重要人物のケータイ番号を聞き出すか」が勝負になってくるだろう。かくして捜査は面談→新たなケータイ番号→新たな面談というドラクエまがいの「お使いドラマ」になってしまうのだ。
ああ、大沢氏が1991年に「新宿鮫」第1巻を書いたときは、ケータイがこんな存在になってしまうとはよもや考えなかったであろうに。でも、負けてはならぬ。さらに面白い第10作を期待しているぞよ。読者はワガママである。そしてワガママな読者だけが、作家を育ててくれるのである。
〇そんなわけで、仕事に関係のない読書はとっても楽しかったのであります。
<1月29日>(月)
〇病み上がりのかんべえに対し、フジテレビ「スーパーニュース」から、ヒラリー・クリントンの大統領選出馬について解説せよとの電話あり。番組で使われた部分はごく一部でしょうから、ここではオタク的にやや詳しく書き込んでみることにしたいと思います。
〇ヒラリーの出馬宣言が1月20日だった、というのがまず意表を突いている。この日は「新大統領就任の日」ですから、ちょうど丸2年後に向けてみずから「よーいドン」の号砲を鳴らしたことになる。こんなに早くから出馬宣言するのは史上空前でしょう。2000年選挙も相当にひどくて、1999年3月時点では、もう11人の候補者が揃っていたが、2008年選挙はさらに2ヶ月繰り上がったことになる。ちなみにこのタイミングの参戦は、23日に控えていたブッシュ大統領の一般教書演説を影の薄いものにする効果もありました。
〇ヒラリー参戦のスローガンがカッコいい。"I'm In. I'm In to win."(出ます。勝つために、出ます)ですからね。そして早速、"Hillary
In Iowa"とアイオワに飛んでいる。アイオワといえば、大統領選挙で初の党員集会が行われるところ。ニューハンプシャー州と並ぶ序盤戦の要所です。アイオワといったら、有名な映画が2本。「フィールズ・オブ・ドリームス」と「マジソン郡の橋」。つまりド田舎州です。こういう場所では、ヒラリーのような都会派女性は人気がない。「弱者の味方」を標榜するエドワーズ前上院議員なんかの方が受けがよい。でもヒラリーとしては、1年後にこの場所で行われる初戦を勝って、後はずっと通してぶっち切りで勝ちたい、という腹積もりでしょう。
〇知名度と資金力で、他の候補に圧倒的な差をつけるヒラリーとしては、それこそディープインパクトのように後方一気の追い込み狙いでもいいじゃないか、と思われるかもしれません。でも、ヒラリーが狙うのは「先行逃げ切り」です。最初からぶっち切ってしまえば、民主党内の他の有力候補の参戦を減らすことができる。弱者は混戦を希望するでしょうが、強者・ヒラリーとしては、予備選プロセスはなるべく簡単に終わらせ、その後の共和党候補者との戦いに、資源を残しておきたいという狙いがあるのだと思います。
〇かくも優位を築きつつあるヒラリーですが、もちろん楽に勝てる戦いではありません。彼女の最大の強みは、8年間もファーストレディーをやっていたから、知らない人が誰もいないということです。あの広いアメリカで名前を浸透させることは、並大抵のことではありません。日本みたいに、人気番組に出たら誰でも顔と名前を覚えてくれる、なんつーことはないのであります。だいたい「ヒラリー」と名前で呼んでもらえるということ自体、稀有な存在だと言っていいでしょう。ほとんど「雅子様」や「鈴香容疑者」並みではありませんか。(←どっちも比べるのは失礼の極みでありますが)
〇これがそのまま彼女の弱点でもある。反ヒラリー・ブログはたくさんありますが、あるブロガーは「俺がヒラリー・クリントンを嫌いな理由は、彼女がヒラリー・クリントンだからだ。そう言えば、読者は分かってくれるだろうけど」と述懐している。ヒラリーが嫌いだ、いや、俺はビルの野郎がもっと嫌いだ、という人はけっして少なくはないので、そういう人たちを全部敵に回してしまう。共和党関係者の中には、「ヒラリーならやりやすい」とハッキリ言う者もいる。
〇「アメリカ大統領はRedneckが決める」という言葉がある。Redneckとは、その名の通り首の回りが赤く日焼けしている、南部の白人労働者を指す。頑固もので、保守的で、無学で、どうしようもない連中、という蔑称です。彼らの重要性を発見したのは、リチャード・ニクソンでした。ニクソンは南部を共和党の金城湯池にできると踏み、自分の政権下で多くの工作を行います。例えば、日米繊維交渉において田中通産相に妥協を迫ったのも、南部の繊維生産者を守るためでした。結果として日本は「糸で縄を買う」(繊維を捨てて沖縄返還を得る)わけですが、ニクソン大統領の狙いはRedneckの支持を確実にすることにありました。
〇この効果たるや絶大でありまして、ニクソン以後の大統領選挙において、民主党が勝ったことはカーター(ジョージア州元知事)と、クリントン(アーカンソー州知事)の2人しかありません。つまり南部の知事が出たときだけ、Redneckは民主党に投票しますが、それ以外のときは共和党に入れるのですね。つまりRedneckは、典型的なSwing
Voters(毎回、投票行動が変わる人たち)であり、その動向が毎回、選挙の焦点のひとつとなるのです。
〇さて、ヒラリーはといえば、おそらくRedneckがもっとも嫌うタイプの候補者でしょう。その辺は、辣腕の配偶者、ビルの助けを借りる必要がありそうですね。ちなみにもうひとりの有力候補、バラク・オバマ上院議員も、この南部戦略では苦労しそうです。などと、こういう点まで考え出すと、しみじみ米大統領選挙は奥が深いでしょ?
〇思えば今から15年前の1992年。クリントン夫妻は「とりあえず今回は練習だと思って」大統領選挙に出馬を宣言します。彼らの思いは、「たぶんマリオ・クオモNY州知事が出るだろうから、せめてそれまではトップを取りたい」でした。しかしクオモは出馬を取りやめ。湾岸戦争直後のアメリカにおいては、ブッシュ・パパは強力無比に思えたのです。かくして「7人の小人」と称された民主党候補者のうち、まだしもいちばんマシに思われたクリントンに票が集まる。それが大逆転劇の始まりだったのです。
〇今、圧倒的に優位な立場で戦いを始めたクリントン夫妻の胸中で、15年前の経験はどんな位置を占めているのか。いっぺん聞いてみたい気がします。
<1月30日>(火)
〇かんべえの受難の日々は続く。今朝は生まれて初めての内視鏡検査を受ける。とはいえ、病み上がりでしょっちゅう咳き込んでしまう状態である。「咳が出るのですが、胃カメラ飲んでも大丈夫でしょうか?」と事前に問い合わせると、ナースさんからは「ええ、大丈夫です」とのお返事。察するに当方は「私の身体は大丈夫ですか?」と聞いているのに、先方は「検査は大丈夫です」と答えているらしい。困ったものである。
〇案の定、胃カメラを飲むというのは、ほとんど拷問でありました。時間は短いですが、その日一日、喉の奥に違和感がつきまとってしまう。ということで終日、ノーネクタイで過ごす。とてもじゃないですが、自分の首を締めることはできません。なおかつ、今宵は悪い夢を見そうな予感。
〇結果の方は「お咎めナシ」であって、潰瘍はありませんでした、軽い胃炎はありますけど、全然心配ないですということになる。成人病検診で「再検査」を申しつけられると、どうせたいしたことないだろうとは思っていても、ついつい生真面目に受けてしまう自分が悪いのだが、まあ、これは安心料みたいなものなのでしょうか。
〇ところで、フジテレビのスーパーニュース担当のM記者(前ワシントン特派員)から聞いたところでは、昨日の放送は視聴率8%程度のところ、ヒラリーのネタが流れると最大10%まで急上昇したとのこと。つまりヒラリーは、この日本においても「数字の取れるキャラ」なのであります。おそらく、今後は「ヒラリーネタ」がニュースで取り上げられる機会が増えるでしょう。面白いね。
<1月31日>(水)
〇来月はチェイニー副大統領が訪日する予定であるとか。さて、日本に来たら、いったい何をしてもらうと良いでしょうか。
●久間防衛相にヤキを入れてもらう。
――アメリカ側の安保族は、とっても怒っているらしいですよ。彼ら、日本の新聞をちゃんと見てますから。
●小泉前首相と一緒に、靖国神社に参拝してもらう。
――遊就館の見物だけでも可。花見には少し早過ぎるのが残念であります。
●シーファー大使と一緒に吉野家に行って、米国産牛をPRしてもらう。
――「その代わり、後で大田原牛のステーキを食わせろ」とか言われそうな予感。
●宮崎県に行って、鳥インフルエンザの鶏をハントしてもらう。
――VIPが来るので嬉しいかもしれませんが、東国原知事は近寄らない方が賢明だと思います。危ないです。
〇昨日が66歳のお誕生日だったようですね。きっと今回の訪日でも、いろいろ物議を醸してくれるでしょう。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki