●かんべえの不規則発言



2011年6月







<6月1日>(水)

○あらあら、野党三党が不信任案を提出したら、小沢さん、鳩山さん、原口さんと「賛成組」が後を絶たず、これはいよいよ政局入りですねえ。まるで「シンナー吸ってる中学生」の喧嘩みたいでありますが、別段、惜しい人たちでもないので、つぶし合いをするなら大いに結構という気がします。「この国難に何をしているのか」というのは100%正論ですが、今のままでは二次補正や賠償スキームはおろか、特例公債法案さえ通らない。だったらここは、ガラガラポンをしてみてもいいんじゃないでしょうか。

○菅首相のどこが不信任に値するのか。改めて考えてみると、大義名分になるような落ち度は意外と見つからない。強いていうならこの政権は、「自分が嫌われないこと」を最優先して、あらゆる決断を他人に押し付けてきたことが問題だったのだと思います。

(例)

●尖閣問題→沖縄の司法に責任押し付け

●計画的避難地域→逃げるか逃げないかを住民に押し付け

●浜岡原発→停止の是非を中部電力に押し付け

○本当は国の責任で決断すべきことを、他人に決めさせて自分は安全地帯にいようとする。自分を守るためには、復旧復興をほったらかして国会を閉じようとする。「自分は悪くない」と主張することが、あらゆる行動に優先している(これってモロ、団塊の世代にありがちな習性ですな)。さすがに国民も、その辺に気づいているから、当人がいくらポピュリスト的な手法を使っても支持率は落ちるばかり。官邸の周辺も、この首相が「責任は部下、手柄は俺」というタイプだと知っているから、誰も本気でかばおうとしない。これは百年の不作というもの。

○それでは明日の結果がどうなるかと言うと、それはやっぱり否決される確率の方が高いでしょう。ところがここからが「宰相不幸社会」は極まっていくわけで、ちゃんと造反議員を処罰できるかどうかという問題が続く。下手すりゃ党は分裂で、単独過半数も失う。もともと参院では少数政党だし。個人的には、「民主党のオーナー」で前首相の鳩山さんが除籍されてしまう図、ってのをちょっと見てみたい。

○逆に野党側は、不信任案を否決されてもまだまだ「次の手」がある。「西岡参院議長がボタンを押さない」なんてパワハラ手段もある。今の永田町は血に飢えているから、とことん「菅降ろし」に突き進んじゃうんじゃないでしょうか。ひとつ明日は、冷たい気持ちで、生暖かく見守って行きたいと思います。


<6月2日>(木)

○「ズル」と「バカ」と「ワル」の3兄弟の歴史に、今日は新たな1ページが加わりました。「三方一両損」ではないですが、どうも3人がそれぞれに政治力を減じたように見えます。ただしこういうときの常として、事態が一段落するとまた違う力学が働いて、思いがけぬ方向に向かっていくものであります。

○ひとつだけ確かなのは、3人の物語はそろそろ終焉が近いということ。かつて2000年秋に、「加藤政局」で不信任案をめぐるグダグダで全国民が拍子抜けしたことがありました。その半年後に小泉政権が発足しという故事に学べば、今年の秋くらいには「ガラガラポン」が起きてくれるんじゃないでしょうか。いやホント、そろそろ終わってほしいぜよ、旧トロイカ体制。

○では、以前に好評を博した3兄弟の物語を再生いたしましょう。どうぞ。



以下はある兄弟の歴史である。

1996年:「バカ」と「ズル」の兄弟、天下を目指して会社を設立。以後、「バカ」と「ズル」が代わる代わる社長を務め、組織は少しずつ発展。

2003年:社業の限界に気づき、外から「ワル」とその仲間を招聘する。

2004〜05年:「ワル」は神妙にしている。

2006年:仲間の自爆で会社が深刻な危機に陥る。万策尽きて「ワル」に社長就任をお願いする。

2007〜08年:「ワル」の下で会社は急成長。「バカ」と「ズル」は「ワル」に心服する。

2009年5月:「ワル」が自爆。自分の言うことを聞きそうな「バカ」を代わり社長に据えて、自分は専務に降格。

2009年8月:「バカ」が大成功を収め、とうとう業界第1位の企業となる。

2010年6月:案の定、「バカ」が自爆。客先の信頼を失い、提携先の企業からも呆れられる。何を思ったか、トップを降りるついでに「ワル」を道連れにしたら拍手喝采を浴びる。代わりに「ズル」が社長になる。

2010年9月:我慢できなくなった「ワル」が「ズル」の座に挑戦する。ここでなぜか「バカ」は「ワル」の味方をするが、やっぱり「ズル」が勝利。

2011年1月:「ズル」は我が身を守るために「ワル」を社外に追放しようと画策。嫉妬もあってか、「バカ」はここでも「ワル」の味方をする。

2011年3月:大震災が発生し、業界全体に激震走る。

2011年6月:すべては「ズル」が悪いということで、「ワル」と「バカ」が社長の退任を求める。会社は分裂の危機。客先は大迷惑。退陣まで紙一重まで迫るが、「バカ」の詰めが甘かったらしく、またまた「ズル」のうっちゃり勝ちか?(←今ここ)。


<6月3日>(金)

○東洋経済新報社にて、「社団法人経済倶楽部」の定例講演会の講師を務める。ほぼ毎週金曜に開催していて、不肖かんべえは長らく会員であったりするのだが、あんまり出席率は高くない。その代わりに、この会が出している「講演録」が非常に読みやすくて、なおかつ講師の顔ぶれが揃っているので、大変に重宝なのである。ここから過去にいくつネタを拾ったか分からない。今回は自分が話した内容が、果たしてどんな風にまとめられるのか、ちょっと楽しみである。

○この経済倶楽部、とても歴史が古いので、かなり年季を経た方々が聞きに来られる。昼食時に会話を交わした人から、「晩年の松永安左エ門に取材したことがある」とか、「建設中の黒部ダムを見学したことがある」など、驚愕すべき発言を多数耳にした。いやはや、先日来ずっとそういう話が聞きたかったのだ。歴史に学ぶというと、ついつい書物に頼ることが多くなるのだが、実際に同時代を生きた人の証言に勝るものはない。

○それによると90代に到達したときの松永安左エ門は、「俺が大嫌いだったやつらが皆死んでいく。こんなに痛快なことはない」と喜んでいたのだそうだ。何という大人気ない発言でありましょうか。とても偉い人の発言とは思えない。でも、これぞ松永翁。よく食べ、よく遊びの不良老人であったことでしょう。ちなみによく知られた事実でありますが、サミュエル・ウルマンの「青春の詩」を訳したのは松永翁であったりする。

○不肖かんべえの場合は、そんなに長生きをする自信はないけれども、願わくばどこかの「お達者クラブ」で長老の1人として重きをなし、「2011年の震災のときはこんなことがあってねえ」などと語り部になってみたいものである。こういう話は、やはりネットじゃなくてリアルじゃないといかんですよね。


<6月5日>(日)

○不信任案秘訣の顛末について、いろんな証言が出揃っております。

●証言その1:上杉隆氏(脱力さん)

不信任案否決!あと出し「一定のめど」と「通年国会」で年内続投を図った菅首相の“お見事”な戦略

「意味がわからないんだけど」 

代議士会の最中、国会の廊下ですれ違った鳩山側近議員の一人は明らかに狼狽していた。さらに別の議員もこう嘆いた。

「ハシゴを外された。意味がわからない。どうしてあの人(鳩山氏)はいつもこうなんだ。もう絶対に信用できない」

――鳩山さんにハシゴを外されて、右往左往する気の毒な民主党議員。小沢側近議員は「こんな簡単な戦略にひっかかるなんて。覚書だと。なんであの家は同じ過ちを繰り返すんだ。信じられない」と嘆いている。おじいちゃんも、覚書を書いたけれども吉田茂に反故にされたんだよねえ。


●証言その2:長谷川幸洋氏

「仕事をしなければしないほど辞めなくて済む」 菅首相の「居座り」は国民にとって最悪の展開

鳩山も騙されたように見えるが、本当だろうか。私は鳩山も菅が「後で約束を破るかもしれない」という懸念を抱いていたと思う。それでも話に乗ったのは、党の創設者として「民主党を壊したくない」という別の思惑があったからではないか。・・・(中略)・・・騙されるかもと知りながら「党を壊さないですむなら」とその場しのぎで延命の片棒をかついだ。それなのに菅が露骨に延命を言い出したので、頭に来たのだ。どっちもどっちなのである。

――やっぱり鳩山さんの「オーナー意識」が諸悪の根源であったような。やっぱり「バカ」がいちばん罪が重い?


●証言その3:杉浦正章氏

菅の“まやかし”で、政局は遺恨の“梅雨の陣”へ

鳩山は「話しが全然違う。人の好意を裏切るのか。両院議員総会を開いて、党の規約を改正してでも退陣して貰う」と息巻いたが、こと既に遅し。菅の晴れやかな顔がテレビ画面を“占有”し続けた。おそらく小沢は鳩山の甘さに、それ見たことかと無念きわまりないに違いない。小沢は激怒しているという。しかし、このうそで塗り固めた菅・岡田ラインの作戦は当面を糊塗したに過ぎない。「遺恨なり十年一剣を磨く」の「遺恨試合」がこれから始まる。

――「ワル」は怒っておられるようです。って、当たり前か。特例公債法案とか、首相問責決議案とか、今後の菅降ろしの手口は事欠かないそうです。


●証言その4:石破茂氏

「確認事項」

昨夜「嘘をついてはいけない」と鳩山前総理が憤慨していました。トラスト・ミーと言いながら米国大統領を欺き、総理を辞めるだけではなく議員も辞める、と大嘘をついて平然としている鳩山氏だけには言われたくないと思いますが、こう言いたくなる気持ちもわかります。
 
菅直人という人は、総理の資格がないというだけでは無く人間としてとても信用できる人物ではないと断言します。こんな詐欺まがいのことをして、平気でいられる人を私は絶対に認めない。これに加担する岡田克也という人もまた同様です。

――格調の高い怒りでありますが、石破さんの怒りは「ズル」>「バカ」ということのようです。


○多少は古い永田町オタクとしては、今回の政争は「とにかく底が浅すぎる」点に不満がありますな。与党内の内紛というのは、自民党時代には結構奥が深くて、最初のうちは若くて颯爽としたのが飛び交っていても、最後の最後はコワ〜イ顔の人が出てたりして、何だか分けのなからない決まり方をしたもんです。なおかつ真相はなかなか分からなかったものなのですが。

○やっぱり三兄弟の歴史は終章が近いのではないか、と期待してみる。


<6月6日>(月)

○復興会議、実態はこんな感じなのだそうで。

●久しぶりに仕事らしい仕事が来た。さあ、やるぞ!予算は後からついてくる!(国交省、農水省)

●やらなきゃいけないことは分かってるんですが、どうしましょう、被災地の病院と学校。(厚労省、文科省)

●二重債務問題があることは承知しているが、モラルハザードも是あり、云々かんぬん。(金融庁)

●働けど働けど、わが暮らし楽にならざる。じっと手を見る。(財務省)

●どうか、私のことは探さないでください。(経産省)

○官邸はといえば、政治主導が忙しくてそれどころではないそうです。頼むから、次は大連立でお願いします。


<6月7日>(火)

○京の河原にこんな落首が立っていたとか、いなかったとか。


「辞めぬなら 殺してしまえ 菅直人」(信長)

「辞めぬなら 降ろしてみせよう 菅直人」(秀吉)

「辞めぬなら 死ぬまで罵倒 菅直人」(家康)


○信長は無理筋、秀吉も本人が意固地なので、おそらく家康路線がしばらく続くのでしょうね。できればこの落首、最後の5文字は「カンチョクト」と読みたいところです。

○さて本日、民主、自民、公明3党が復興基本法案を提出しました。今週中にも衆院を通過し、おそらく6月17日あたりに成立する。これで一歩前進。通常国会会期末が6月22日ですが、これは2か月程度の大幅延長になって、そこで「二次補正も通させてください」ということになる。補正の編成に4週間程度かかって、7月末くらいに成立と引き換えに総理にお引取りいただく、てな感じでありましょうか。そこから民主党の両院議員総会で次期代表選び、小沢派から原口さん当たりが立って、その他では野田さんor前原さん当たりが立つ、てな展開かと思います。

○仙谷さん当たりは、先週の時点で不信任案を辛くも否決して、賛成に回った小沢派を大パージして、その上で菅さんを引き摺り下ろして大連立、てなことを考えていたらしいのですが、鳩山さんが変な動きをしたお陰で全部パー。党内に小沢派が残っているから、悩みは尽きません。

○次期政権はなるべく野党フレンドリーな形にして、できれば大連立、最悪でも閣外協力の形を作る。例えば、現在自民党が用意している「平成23年原子力事故による被害に係わる緊急措置に関する法律案」を8月までに通してしまえれば、この通常国会はムダではなかったということになる。さて、うまく行きますかどうか。

○ところで辞めた後の菅さんですが、果たしてどんなパフォーマンスを見せてくれるでしょうか。

(1)再びお遍路さんになって、四国巡礼の旅を続ける。

(2)東北地方の被災地でボランティアをやる。

(3)焼肉チェーン店でユッケを食べる。

○普通に考えれば(1)が濃厚です。ところで菅さんは、前回のお遍路さんでは四国88箇所中53箇所まで回ったところで中断している。54箇所目はどういうお寺なんだろう、と調べてみて驚きました。第54番は延命寺というのですね。いやー、すばらしい。これでは信長、秀吉、家康も頭を抱えるしかないではないですか。


<6月8日>(水)

○どこのどなたかは存じませんが、こんなものを作っていただき深謝申し上げます。

●かんべえの不規則発言bot http://twitter.com/#!/kanbee_fukisoku 

○不肖かんへえはブログもツイッターもやらないままに日々を過ごしておりますが、気づいてみたらフォロワーも誕生している。こんな風に甘やかしていただけるとは、ありがたいものでありまする。ははっ。


<6月9日>(木)

○先週木曜日は広島で、今週木曜日は京都である。ちなみに来週の木曜は沖縄であったりする。全部、講演会の仕事で呼んでもらっているのだが、似たような話をしていても、場所によって聴衆の反応がガラリと違うのが面白い。

○例えば、「今年の夏は電力不足が大変ですよ」と言っても、計画停電を体験している首都圏の住民と、そうでない場所では受け止め方がまるで違う。「原発がコワい」というのも、原発立地県で言うとの大都会で言うのでは、反応が全然違うはずである。そんなわけで、この前、別の場所で話したときは会場が「シ〜ン」と静まり返ってしまったようなネタが、今日は笑い声が漏れたりする。別に悪いことではない。ところ変われば品変わるで、距離が離れれば受け止め方も違うのが当然である。

○あらためて京都の町を見渡すと、ここは坊さんナクヨ平安京の794年からの長い歴史を持っている。その割りには、不思議なくらい地震、台風などの大きな天災には無縁な幸運な街である。応仁の乱で焼けたことはあったけれども、異民族に蹂躙されたわけではないので、歴史ある木造の寺社が今でもたくさん残っている。木曽義仲や新撰組が今でも京都では嫌われている、というのは、もっとヒドイ連中が来なかったという幸運の裏返しなんじゃないだろうか。

○他方、東京は歴史は比較的浅いけれども、大震災あり大空襲あり江戸の大火ありで何度も灰燼に帰しているし、クーデターやテロリズムの実例にも事欠かないという多事多難な街である。お陰で退屈はしないけれども、こんなにリスクの種類が豊富な都市は世界でもめずらしいかもしれない。

○こんな風に地域差がある、というのが東西と南北に細長いこの国の特色のひとつでありましょう。本質的にはローカル色の強い国なんだけれども、ときどき「源平の争い」とか「戦国時代」なんて時期があって、東西の人口が本格的に入り混じることがある。近いところで言えば、戦後の高度成長期がまさにそれで、地方から都市への人口大移動が起きた。そのお陰で、太平洋ベルト地帯を中心とする今の「ひとつのニッポン」が成立したのではないかと思う。

○そんなわけで、われわれはこの国が持つ本来的なローカル色を大切にした方がいい。間違っても「秘密のケンミンショー、福島県を取り上げられなくなってしまった」なんてことはあっちゃいけないと思うのである。


<6月10日>(金)

○めでたいことに、「トロイカ体制」が終わりそうである。

――「ズル」はどんなに頑張っても8月まで。後はお遍路さんになるしかない。

――「バカ」は今回の不信任案否決劇のせいで、さすがに部下たちも見放しつつある。

――「ワル」は生涯最後の大勝負を、あんな形でひっくり返されて、ほとんど引きこもり状態である。

○思えばこれまで民主党は、3人が常に「2対1」の形で抗争を続け、そのたびに党内の混乱を招いてきた。それに対して若手が挑戦すると、なぜか3人は結託して潰しにかかるので、結果として世代交代も進まなかった。

○3人のお陰でここまで来れた。しかし3人がいるから、これから先に進めない。だったらどうするか。3人を「一丁上がり」にするしかない。そうすれば、派閥の領袖たちを「一丁上がり」にできない自民党との差は歴然とする。今ぞそのときではあるまいか。

○では、トロイカ体制が終わった後の民主党はどうなるのであろうか。答えは「センゴク時代」・・・・オヤジ世代はしぶといのであった。


<6月11日>(土)

○今週8日に貿易統計の「5月上中旬」のデータが発表された。輸出が2.7兆円ー輸入が3.8兆円=貿易赤字が1.1兆円という中身で、これを単純計算で1.5倍すると、5月のデータは「輸出40,987億円」−「輸入56,789億円」=「貿易収支▲15,802億円」となる。近年、単月の貿易赤字としては、2009年1月の▲9680億円が最大なので、途方もない大赤字が出現することになる。

○なぜこんなに落ち込んだのか。すでに品目や地域別の明細が示されている4月分データを見ると、輸出の減少はほとんど輸送用機器の落ち込みで説明できる。輸入では鉱物性燃料の増加が顕著である。前者はサプライチェーン問題、後者は原発事故による火力発電用の需要ということ。「3/11震災」がいかに大きかったか、ということになる。

○こうしてみると、やはり自動車の存在は大きい。なにしろ自動車と自動車部品は、わが国鉱工業生産の15%を占めている。これが止まったことで3月後半から5月一杯まで惨憺たることになってしまった。ところがここへ来て、自動車業界から「6月には8割復旧」という声が出ているから面白い。年間の自動車生産台数も、いっときは「800万台割れ」の予想だったが、ここへ来て「850万」「いや900万超え!」という声がかかり始めている。

○ひょっとするとわれわれは今、「V字回復」のとんがり部分に立っているのかもしれない。こんな風に、月次で回復が確認できることなんて、エコノミスト業でも滅多にあることではない。それでも今集まっている材料を素直に読めば、「6月に生産反転、7〜9月は電力供給に注意、秋以降は本格的な繁忙期到来」ということになる。貿易赤字も、おそらくは短い期間で終わりとなるのではないだろうか。

○昨日は北関東の某自動車部品会社さんの集まりに行ってたんですが、集まっていた鋼材会社さんたちの主要な関心事は、「どうやってこの夏を乗り切るか」でありましたな。もちろん半信半疑の部分はあるけれども、ガンガン生産を増やして対応しなければならない。となれば、最大の懸念は目先の電力供給。もちろん円高やら空洞化やらで、中長期の心配もあるのですけれども。

○自動車会社というのは、電炉さんや半導体関連のように「24時間稼動、フル操業」が必要な業種ではありません。普通は「週に5日、2交代制」くらいでラインを動かしている。これを「木金休みの土日出勤」シフトにすると、それだけで全体の10分の4を電力ピークから外せるようになる。ということで、7〜9月は業界全体で「木金休みシフト」に取り組むわけですが、これに沿って動かなきゃいけないサプライヤーさんや運送会社さんたちは大変かもしれませんね。

○ということで、「目先は強気」という予測でありますが、ここはひとつ謙虚になって「でも、ここが分からない」という点をメモしておきたいと思います。

(1)クルマに対する嗜好は決定的に変わった。ハイブリッド車は多く見かけるが、他方では定番車種が大きく減っている(シルビアとかコロナって、見なくなりましたよねえ)。リーマンショック+石油高+震災のお陰で、クルマに求められることは大きく変わったようだ。その先にあるのは何なのか。

(2)東日本の生産が減少した分を、西日本でカバーしようとしている。ただし意識といい、生産環境といい、今の日本で東西のギャップは小さくない。そして相次ぐ原発の停止により、電力不足は全国規模に広がりつつある。東西ギャップはこのまま残るのか、それとも解消していくのか。

(3)「外需主導型の景気回復」を考える場合、リーマンショック以降の日本は明らかに欧米とのリンクが弱まり、アジアとの結びつきが強まっている。だとすれば、ここから先の「V字回復」はアジア経済に負うところが大きい。中国や東南アジア経済の強さを信じていいのか。

○こんなことを言うとまるで他人事みたいで恐縮ですが、エコノミスト稼業にとってこんなに興味深い局面はありません。


<6月12日>(日)

○毎年恒例、町内会の大掃除の日。雨天中止にならないかなあと思っていたら、今朝はかろうじて天候がもっている。ということで、家の周りのドブさらいをやる。

○臭くて汚い作業しながら感じるのは、人間は生活しているだけで水を汚してしまうのだということ。作業の後でシャワーを浴びると、ここでもまた水を汚していることに気がつく。水は流れて手賀沼あたりに行き、浄水のための仕掛けはいろいろあるものの、最後は海に流れ込むことになる。

○例えば「トイレをピカピカにする」ことは、世間一般的には良いこととされているけれども、見方を変えればそれだけ水を汚していることになる。人間もその成分の7割程度は水であるはずなのだが。

○水はときどき人間に逆襲する。たとえば津波という形で。それは自然現象であるから仕方がないとして、福島第一原発の汚染水は困ったものである。米仏の先端技術は、果たして放射線を除去できるのだろうか。でないと、ますます水の復讐が続くことになる。

○掃除の最中に気がついたが、拙宅前のポーチの天井にツバメが巣を作っていた。ちゃんと親ツバメがヒナに餌を運んでいる。先日来、ウチのクルマに泥が跳ねていたように見えたのは、そのせいであったか。でも古いクルマだから、汚れても一向に構わない。長年住んでいて初めてのことなので、ちょっと嬉しいのである。


<6月13日>(月)

○本日、いくつかの場所で外交論議に参加して、感心したセリフ。いずれも鋭いところをついているような気がします。

●「アラブにあるのは夏と冬だけだ。春なんてあるわけないだろ」

●「普天間基地の嘉手納統合を提案した3上院議員のうち、ウェブとレヴィンは海兵隊出身(マッケインは海軍出身)。空軍にどいてもらおう、という分かりやすい構図」

(後記--レヴィンは違うかもしれません。要注意)

●「最近の外務次官は豪放磊落なタイプが多いけど、あれは六者協議を経験しているからじゃないかなあ」

○ちなみに、外務省が節電で省内が暗いのは驚きませんでしたが、帝国ホテルのトイレでウォシュレットの暖房が切ってあったのにはビックリしましたな。


<6月14日>(火)

昨日の共同電から。「夏の電力不安、各地に波及 安定供給の目安下回る」

 今夏の電力不足への懸念が、東日本大震災で被災した東北や関東地方にとどまらず、各地に波及する可能性が強まった。共同通信の13日までのまとめで、電力10社合計の最大需要予測に対する供給余力は6・2%と、電力関係者が安定供給に必要な目安とする8%を下回っている。

○この需給見通しが興味深い。メモしておきましょう。

  最大需要(万kW) 供給力(万kW) 供給余力(%)
北海道 473 528 11.6
東北 1258 1370 8.9
東京 5100 5380 5.5
中部 2709 2773 2.4
北陸 526 497 ▲5.5
関西 2667 2938 10.2
中国 1165 1295 11.2
四国 570 577 1.2
九州 1669 1728 3.5
沖縄 143 208 45.5
全国計 16,280 17,294 6.2

*東北、東京、関西3社は昨夏ピーク比15%の需要抑制分を含む

○結論です。今年の夏は沖縄に行くしかありませんね。暑いさなかに遠慮なく、思い切り冷房を利かせることができるのは、10電力中唯一原発のない沖縄電力の管内だけです。

○ということで、明日はちょっと梅雨明けした沖縄の様子を見てまいります。うふふ。


<6月15日>(水)

○今宵は沖縄県那覇市のホテルに投宿しております。こちらの気温は夕方でも30度超え。全館共通のエアコンの設定温度は24度であります。こればっかりは今年の本土では不可能でありましょう。湿気も少なくて、まことに快適であります。

○昨日のエントリーでも書きました通り、沖縄の電力は夏場でも供給余力が4割台もあります。理由は簡単で、海を越えて電気を運ぶことはできないから、沖縄は本土の九電力からの融通が期待できないのです。だから万が一の事態に備えて、沖縄電力は多めに余力を持っている。ゆえに「今年の夏は沖縄に行くしかない」ということになるのですが、すでにこっちはマンションが売れたり、ウィークリーマンションがいっぱいであったりするそうです。本土から沖縄へのエクソダスは既に始まっているのかも。

○こっちに着くなり、沖縄料理と泡盛を頂戴しながら、地元財界人から当地の事情を拝聴しました。以下のことは、意外と知らない人が多いんじゃないでしょうか。少なくとも私はびっくりしました。「意外なことに沖縄にはこれがない」というシリーズです。

●男子禁制の場所はあるけれども、女人禁制の場所はない。

●琉球王朝はあったけれども、殿様や城下町はなかった。

●王と庶民はいたけれども、士農工商はなかった。

●仏教はあるけれども、檀家はない。

●一族郎党の結束は固いけれども、家紋はない。

○それじゃ沖縄は日本らしからぬ場所なのか、といえばそうでもない。たとえば沖縄料理には昆布が欠かせない。でも、昆布はこちらではとれないのだそうです。江戸時代に北前船が、北海道産の昆布をこっちに運んできて、そこから豚肉と組み合わせる独自の料理が完成した。しみじみ海洋民族というものは、他所のいいものを積極的に取り入れるのです。

○もうひとつ、こっちの気候には泡盛がピッタリでまことに美味なのですが、「東北のおいしい日本酒を飲みましょう」キャンペーンが行われている。そうかと思うと、地元経済人が大挙して東北に激励ツァーに行く、なんてことも行われている(ご参照)。情けは人のためならず、回りまわって自分のためにあり、を地で行くような話ではないかと思います。

●東北へ沖縄から恩返し 経済人ら一行 松島など激励ツアー

 東日本大震災の被災地を励まそうと沖縄県が企画した「東北応援ツアー」の一行約120人が9日、日本三景の一つ、松島で知られる宮城県松島町を訪れた。瑞巌寺拝観や松島湾クルーズを楽しみ「震災や風評に負けず、復興してほしい」と地元関係者を激励した。

 一行は沖縄県内の経済団体関係者で構成。8日から3日間の日程で、被害の大きかった岩手、宮城、福島の東北3県を訪れている。8日は盛岡市の石川啄木記念館やつなぎ温泉を訪問した。
 米軍基地を抱える沖縄県は、2001年に起きた米同時多発テロの後に観光客の減少に見舞われたが、全国からの支援で回復を遂げた経緯がある。

 団長を務める沖縄県経営者協会の知念栄治会長は「今回のツアーは恩返しの意味を込めて企画した」と話し、今後も沖縄県からのツアーが順次、東北を訪れるという。
 一行を出迎えた松島町の大橋建男町長は「観光の復興には、こうした具体的な支援が何よりもありがたい」と礼を述べた。一行は10日、会津若松市の若松城(鶴ケ城)などを訪れる予定。

(河北新報 2011年06月10日金曜日)


<6月16日>(木)

○今日は内外情勢調査会沖縄支部の講師を務めました。実は2006年6月29日にも同じ会合で呼んでもらい、自分にとってはそれが初めての沖縄体験でありました。当時の記録を見ると、その日の演題は「ポスト小泉時代の日本経済」である。それからちょうど丸5年が経過したわけだが、まさか「ポスト小泉」が5人も誕生するとは思いませんでしたな。

○しかも5人目の方は、間もなく6人目の「若い人」に交代するようなことを言っている。そうかと思うと、したたかに延命を図ってもいるようだ。「1.5次補正」だなんて、中途半端なことをされて、困るのは被災地でありますぞ。ちゃんと政権の仕切り直しをした上で、10兆円以上の規模で堂々と二次補正をやったらいいのに。つくづく延命はお寺だけにしてほしいものです。

○ということで、またまた一泊だけの沖縄ツァーでしたが、ちょうど「V字滑走路に決定」「オスプレイ導入」が話題になっていて、来週23日には「慰霊の日」がやってくる。慰霊の日は沖縄限定の「公休日」で、例年総理大臣が出席している。「ホントに菅さんが来るのかねえ」という冷ややかな声が多いようです。確かに首相が来ないのは残念だけど、来たら来たで「何しに来たの?」と突っ込んでみたくもある。

○全国的に政治を見る目は厳しくなっているのではないでしょうか。


<6月18日>(土)

○先日、JBpressの創設者である川嶋聡さんの話を聞く機会がありました。ネットによるニュースサービスの会社を興した人ですから、いろいろ面白いネタはあったんですが、いちばんズシリと来た話はこれでした。

「ネットにあふれている情報は、やはり英語と中国語が一番多い。時間がたてばたつほど、この二つの言語を使う人が有利になるだろう。だとしたら、われわれの仕事は日本語の優良なコンテンツを無料で提供し続けていくこと」

○まったくその通りですわなあ。ワシも昔は英語のサイトをよく見てましたけど、さすがに年をとるにつれて疲れてきましたし。そして日本語ユーザーの繁栄がなかったら、将来的に日本の経済や文化や学問が成長することも望めないわけでして。日本語のネット空間をいかに充実させていくかは、まことに重要な課題だと思うのであります。

○日本語のコンテンツを無償で提供するということでは、我が溜池通信も過去12年にわたって相当な分量を貢献しております。どの程度お役に立っているのかは分かりませぬが、ネットには「どんなに昔のものでも、Web上に残っている限りは検索できる」という優れた特性がある。ツイッターなんぞは消えちゃうけれども、しかるべき内容を書き残しておけば、優れた内容はきっと残って人目に触れてくれると信じたいものです。


<6月19日>(日)

○ネットで情報発信を続ける際に、「それってどこで儲けるの?」という古くて新しいテーマがあります。今のところは広告モデル以外にこれといった手段がなく、天下のグーグルでさえ「それが私の生きる道」、と割り切っているようです。そこで「優良サイトの有料化」という試みが行なわれるのだけれども、成功しているのはせいぜいWSJくらいであって、後は軒並み送討ち死になんじゃないかと思います。

○あたしゃそもそもネットの情報発信に、金銭的な見返りを期待しちゃいかんと思っている。ブログによるアフィリエイト収入なんて、小銭を気にしちゃいかんです。さらには、「自分のアイデアが盗まれる」なんてことを怖れてもいかんと思う。もちろん、盗まれたら困る情報をネットに書くのは阿呆である。でも、読んだ人が「お、これは儲けた」と思うような情報を発信し続けない限り、どんなウェブサイトもいつかは見捨てられる。他方、有用な情報を発信し続ける限り、誰かが定期的に訪れてくれるし、その情報を多としてくれる人は、かならず何らかの形で報いてくれるものである。

○当溜池通信は、1999年の発足以来、「『禁・無断転載』なんてケチなことは言いません。ただし、ご利用はown riskにてお願いします」という方針を続けている。他人はこれを利他主義だと思うかもしれない。でも、本当は利己主義なんです。ほぼ確実に、かけた手間以上のリターンが期待できるから。ちょうど飲み会の幹事をやりつけている人が、「幹事メリット」を熟知しているように。


<6月20日>(月)

経済広報センターの仕事で、英国人ジャーナリスト5人の皆さんを相手に、日本の昨今の情勢(3/11後の日本経済)についてご説明する。と言っても、通訳つきなので、楽ちんな仕事でした。しかも、畏れ多くも長井鞠子さんでありました。お陰で短時間に数多くの質問をこなせて、とても効率がよかった。いつもながら、ご一緒に仕事できるだけで光栄であります。

○こちらから冒頭に述べたのは3点。@政治については"Who needs leaders?"にある通りで、いいとも悪いともいえない。A原子力発電の事故については、日本の弱さが表面化したので悲観的、B経済復興については、サプライチェーン問題の解決が予想外に早いので楽観的、ということでした。

○どんな質問を受けるか、という点に関心があったのですが、案の定、原発関連が多かったですね。次に復興関連。それから中国の台頭をどう見るか、という定番の質問。政局については、ほとんど質問はナシでした。そりゃそうだよね。聞いたってしょうがないもん。

○終わってから、しばし長井さんと雑談。3/11後に、原子力関係の用語を猛勉強されたよし。「○○のことを××って言うんですけど・・・」という話を山ほど聞いたのに、哀しいかな夜になったらほとんど再現できず。プロの仕事というのは、やはりかくあるべしであります。


<6月21日>(火)

○たまたま今日乗ったタクシーの運転手さんが、「献血百回」で赤十字からの表彰を受けた人であった。現在はすでに百数十回に達しているとのこと。ついつい献血について、いろいろ伺ってしまいました。

○個人的なことを言えば、あたしゃ血を見るとそれだけで気持ち悪くなる人なので、生涯の献血回数は全部足しても3回である。若い頃にやって死ぬほど後悔したのが1回目、そのことを忘れてしまってもう1回、浮世の義理で絶対に断れない状況であと1回。今では成人病検診の採血もイヤなくらいなので、なるべくなら御免被りたい方である。とはいえ、世の中がワシみたいな人ばかりだと、血液が足りなくなってしまう。積極的に献血している人に対しては、腰を低くして尊敬せねばならぬ。

○ということで、以下は献血大ベテラン氏から聞いたお話。

●1997年のある日、時間待ちのときにふと善行を施そうと思い立ち、近くにあった献血のバスに飛び込む。痛かった。でも、こんなことで世の中のお役に立てるのか、といたく感じいる。

●献血を100回すると赤十字が表彰してくれる、と聞いて、自分も一度表彰されてみたいものだと考える。普通に400ミリリットルの献血をすると、そのあと3ヶ月はできないので、年に最高でも4回となる。これだと通算100回には25年かかる計算になる。でも成分献血なら2週間ごとに受けられると聞いて、積極的に受け始める。

●成分献血は、普通の献血より時間がかかるのと針が太いので、けっして楽ではない。それでも家の近所から都内各所まで、いろんな場所で献血して回る。今では「どこのセンターはどんなサービスがあるか」をほとんど覚えるに至っている。

●回数が100回を越えた今も、注射には慣れない。血を見るのもイヤ。ところが上手な看護婦さんだと全然痛くない。献血センターも、出来れば担当者を「ご指名」できるといいのだが。実際は機械的な順番で決まるようになっている。

●献血の前には、かならず20ccを採血して検査を行なう。結果は後日、自宅に連絡が届く。お陰で数値は全部OK。成人病検診は年に1回でも、献血していればもっと頻繁に体調チェックが出来ますよ。

●今62歳だけど、献血は69歳まで出来る。まだまだ続けまっせ。

○こんな形のボランティアもある、というお話でした。


<6月22日>(水)

○大阪へ日帰り出張。「3/11」以降、だいたい月1ベースで関西に通っていますけど、電力に関する東西の温度差は相変わらず大きいですね。とうとう関電が節電要請をしているのに、目立った変化はほとんどありませんでした。館内はどこも暗く、エアコンの設定温度は非常に高い首都圏から行くと、ビックリするくらいです。やっぱり、計画停電を体験しているかどうかの差は大きいですね。

(今だって、扇風機の風を受けながらこれを書いている。エアコンをつけるのは、配偶者が許してくれないのです)。

○ところがこの間に、東京電力は天然ガスの調達などを進めているし、企業も家庭も節電対策を積み重ねているので、この夏は意外と何とか凌げそうな感じになっている。実は原発比率が高い分だけ、関西の方が大変かもしれません。今現在、美浜の2号機、大飯の2号機と4号機、高浜の2〜4号機は動いているようですが、来年の春には全部止まります。このままだと、「首都圏のバックアップ機能」どころではなくなると思うのですが、橋下知事はその辺をどう考えているんでしょうか。

○新幹線の中でWedgeを手に取ったら、今月の特集は「それでも原発、動かすしかない」でした。JR東海の雑誌としては、もう一言付け加えるべきでしょうね。「でないとリニアも走れません」。あれは電気を食うからなあ。

<追記> 同誌掲載の澤昭裕さんの論考、「発送電分離より大規模化を」、お奨めです。


<6月23日>(木)

○最近の政局について、いろんな方から耳にした意見。いずれもごもっともなことと思えてなりませぬ。

●医者に貰った薬を飲みきらずに、放置しておいたら治った、みたいなことを繰り返していると、そのうち薬に耐性がある菌ができてしまう。そうなると医者もお手上げになってしまう。ちゃんとしたリーダーを作らずに、中途半端な首相を繰り返していたら、とんでもない首相が出来てしまった。

――元お医者さんの方から。こんなことなら、去年9月に小沢さんを選んだ方がマシだったか。


●「そんなに俺の顔が見たくないなら・・・」と3度繰り返したあの瞬間、菅さんは野党に戻ってしまった。この後は、マスコミが叩けば叩くほど元気になってしまうだろう。

――「辞めぬなら 死ぬまで罵倒 菅直人」(当欄の6月7日にご紹介)という手は、いくらやっても意味がないということのようです。


●1か月間入院して退院してみたら、政治状況は何も変わっていなかったので拍子抜けした。

――いやいや、おそらく1か月後もおそらくそうでしょう。あれだけ会期を延長すれば、公債特例法案は嫌でも通るし、二次補正(1.5次)も時間の問題。となると、しばらくはすることがないから、与野党で原発賠償支援法案でも真面目にやりますか。


○そこはかとない敗北感を感じる今日この頃。「バカ」と「ワル」を倒した「ズル」は、無敵のラスボスになってしまったのだろうか・・・・?


<6月24日>(金)

○やっぱり日本経済はすごいなあ、というニュースをご紹介。

フォード後退、レクサスが首位奪還―米新車品質調査 WSJ、2011年 6月 24日 9:12 JST
..
 米調査会社のJDパワー・アンド・アソシエーツが23日発表した今年の米新車品質調査によると、フォード・モーターは車載情報システムのトラブルを理由に大きく後退し、トヨタの高級車ブランド「レクサス」が昨年の不振から首位を奪回した。 

 レクサスは総合的な品質ランキングで首位に返り咲いた。このランキングは多数の新車購入者を調査し、購入後90日間で生じた不満について追跡した結果に基づいて作成されている。 

 2位はホンダ、3位はホンダの高級車ブランド「アキュラ」、4位は独ダイムラーの高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」だった。米ゼネラル・モーターズ(GM)のキャデラックとGMCの順位は上がり、業界平均を上回った。クライスラー・グループのクライスラーと、GMのシボレーも2010年よりは上がったが、依然平均には届いていない。クライスラーのジープが最下位に近い順位で、ダッジが最下位となった。



○ということで、日本勢が上位を独占。トヨタ自動車は昨年のリコール騒ぎを完全に克服しましたね。ランキング上位は以下の通り。

1位 レクサス(日) 73
2位 ホンダ(日) 86
3位 アキュラ(日) 89
4位 メルセデスベンツ(独) 94
5位 マツダ(日) 100
6位 ポルシェ(独) 100
7位 トヨタ(日) 101
8位 インフィニティ(日) 102
9位 キャディラック(米) 103
10位 GMC(米) 104
参考 平均 107

○ちなみに元ネタであるJDパワー・アンド・アソシエーツ社のニュースリリースはこちらです。(ネットおよびPDF) 以下は11位ヒュンダイ、12位スバル、13位BMW、14位シボレー、15位ボルボと続きます。

○それでもって、当欄の6月11日でもご紹介しましたとおり、震災によるサプライチェーン問題もあらかた目先がついてしまった。この先はおそらくV字回復です。ルネサス那珂工場も、7月から本格稼動だそうですし。久しぶりに言ってみたくなります。「経済一流、政治三流」って。


<6月25日>(土)

○ワシは競馬ファンであるが、JRAの新聞広告も大好きである。明日の宝塚記念用の「作品」もいい出来であったと思う。


誰かのために
人は笑う

あてもなく会社をやめた僕だったが、
それでも彼女は、いつものように笑っていた。
だから、かえって不安になってしまった。
仕事も確実な未来も手放したというのに、
僕は彼女を失っていない。
それがどこか反則みたいに思えたのだ。

彼女の休暇を待って、僕たちは車で旅に出た。
九八年の夏。目的地はなかった。「駆け落ちみたい」彼女が笑う。
何かが終わる旅になりそうな予感がした。

南へ向かう途中で、阪神競馬場に寄った。
宝塚記念の日だ。誰もが、サイレンススズカに注目していた。
「馬というより風に近い」言ったら彼女に笑われた。

サイレンススズカが、あの「大逃げ」をはじめたのは、向こう正面に入ったときだった。
もはや競走ですらない。
八馬身、九馬身。差はどんどんひらいていく。
ゴールの瞬間よりも、この疾走をずっとみていたい。
だけど後半、後続との差が一気に縮まってきた。
ああ、つかまってしまう。横をみた。
彼女は、でも笑っている。
はっとした。僕は何に怯えていたのか。
僕にはいつも、こんな笑顔がついていたのだ。

抜かれなかった。サイレンススズカは逃げ切った。

そう、大逃げだ。
いろんな諦めや退屈や、反則のペナルティや、
よくわからぬ不安や、よくある別れが、
群れになって僕らを追いかけてきても。
そいつらにつかまるその日まで、
逃げつづければいい。
「大丈夫かもしれない」つぶやいたら、
本当にそう思えた。根拠はないが、必要もない。
ひとまず彼女の笑顔を真似してみた。

それからふたり、車へ向かって走る。
「駆け落ちみたいだね」今度は僕が言いながら、
目的地はここだったのだと思った。




○「宝塚記念」=「サイレンススズカ」=「大逃げ」=「笑顔」で、こんな物語ができてしまった。1998年の夏といえば、長銀がぶっ飛び、参院選でハシリュウが躓き、小渕政権が発足した時期である。日本経済はとっても暗かった。そんな中での「駆け落ち」は、ギャンブラーがいつも抱えている内心の後ろめたさを上手に表現しているように思える。なおかつ、ハッピーエンドにまとめている。自分がこんな文章を書けたら、1週間くらい上機嫌でいられるだろう。

○でも、このシリーズの最高傑作は、5月のNHKマイルカップではなかったかと思う。これも上質なショートショートのような趣がある。


真珠をさがす時間が
真珠だった。

「ふたりで店をひらこうぜ」
最初に言い出したのは、永井と僕のどちらだったか。開業資金をつくるために僕たちは、
今まで信じられないほど
大胆な馬券の買いかたに挑んでいた。

九七年の春、シーキングザパールで軍資金を「転がし」た。
「真珠をさがして」という名前のその牝馬が
三戦連続で勝ったとき、僕たちの手元には
およそ四百万円と、でたらめな自信とがそろっていた。
次はNHKマイルカップ。
永井と、東京競馬場の正門で待ち合わせていた。

だが、永井はあらわれない。
永井も彼のバックに入った四百万円もなしで、
レースは始まった。
瞬間、覚悟した。もう会えまい。
馬群が第4コーナーに到っても
まだ怒りを感じていない自分に驚いた。
僕たちの旅はこんな風に終わるのだ。
この時を前から知っていたような気がした。
オレンジ色の帽子がふたつ、
群れの真ん中から飛び出してくる。
シーキングザパールと、ブレーブテンダー。
生年月日も生まれた国も同じ二頭だと知っていたが、
走る姿まで似ているとは。
一着がどちらなのか、僕の位置からじゃよく見えない。
「どっちがどっちでもよかったんだ」突然思った。
僕が永井で、永井が僕だったかもしれない。

でも、正門を出たところに永井はいた。
「時間を間違えた」やっちまった、という表情。
「四百万は?」
「だから増えてないって」バックに永井は目をやる。
「大損したよ馬鹿!」大きな声が出た。
「でもプラマイゼロだから」
ちがうよ馬鹿、俺の気持ちが、だよ。
言いそうになったが、言ってたまるかとも思った。



○わずかな行数に、濃密なドラマが描かれている。細かなポイントだが、「永井」という固有名詞の選び方が上手いと思う。「永井と僕」というだけで、なんとなく憎めないキャラと、長くて愉快で微妙な関係が浮かび上がってくるではないか。ちなみにオークスでは、主人公に「バーを譲ってやる」と言ってくれた人の名前が「森さん」となっている。これも上手い。神は細部に宿るのだ。

○明日の宝塚記念が終われば、秋までG1レースはお預けである。ということは、G1レースの前の木曜日に、枠順とJRAの新聞広告が載っている夕刊フジを買う楽しみもお休みである。競馬の楽しみは、勝負や配当ばかりではないのである。


<6月27日>(月)

○あちらこちら(例えばここ)で述べていることですが、日本政府は復興予算の財源のことなんて深く考える必要はないのです。震災の被害額は15〜25兆円と予測されていて、その全部を公費で賄う必要はないので、いいとこ「5兆円X3年間」程度の支出で事足りる。15兆円くらいなら、赤字国債を増やしてもどうってことありません。復興構想会議が増税を提案するっていうのは、どこかピントがずれているとしか思えない。

○そんなことより、平成23年度予算は44兆円の赤字国債の発行を前提としている。恒常的な赤字がこんなに大きいのは問題で、こっちを何とかしなきゃいけない。その原因は少子高齢化であって、これは毎年のように続く話である。それに比べりゃ、復興予算なんて所詮は期間限定なんだから可愛いもんです。

○この単純な理屈が、なかなか受け入れてもらえない。講演会などで上記のような話をすると、「でも、この震災がきっかけで、国債市場が崩れるんじゃないでしょうか」と切々と訴える人が出てくる。きっと「いい人」なんだと思う。震災のお陰で資金需要は減ってますから、むしろ政府が借り入れを増やす方がいいと思うんですけどね。

○あらためて思うのですが、今のタイミングで増税するのは政策としていかにもセンスが悪いので、そんなことをするくらいなら、医療費を思い切り上げて、年金の水準と需給資格を切り下げればいいと思う。恒常的な財政赤字が生じるのは、医療費と年金が主な理由ですから。財政赤字がどうしても心配だったら、そっちに取り組む方がまだしも筋がいいというものです。

○でも、それをやったら最後、途方もない反対に出くわすでしょう。そもそも自民党が下野することになったのも、「後期高齢者医療制度」と「消えた年金問題」が主な理由だったし。だから民主党政権は、「医療と年金」で大盤振る舞いをした上に、子ども手当てまで配っている。そりゃ財政赤字が膨れあがるのは当然ですわ。「仕分け」ったって、限界がありますし。

○結論として、まだしも消費税増税の方が政治的にやりやすいのかもしれない。そのための材料に「復興の財源」が使われる。まことに変な話ではありませぬか。


<6月28日>(火)

○今日は貿易記念日である。1859年(安政6年)に、日本がアメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ロシアの5カ国に対して、横浜、長崎、函館での自由貿易を許可した日なのだそうだ。そんな日に、横浜貿易協会の会合に呼ばれて記念講演の講師を務める。

○ひとつ発見したのは、横浜が開港に至った経緯です。日米修好通商条約では、「神奈川に港を作る」ことになっていた。これは現在の東神奈川駅あたりである。ところが当時、神奈川は宿場町として栄えていたので、そんなところに外国人が大勢来ては困る、と幕府は考えた。そこで、「神奈川は水深が浅くて大型船が入って来れない」などと後出しで言い出し、水深が深くて後背地が広い(つまりはド田舎であった)横浜村に、勝手に港の場所を変えてしまった。

○もちろんアメリカ側は、「条約と違う!」と抗議する。しかし幕府は、「いや、横浜も神奈川のうちだから」などとごまかしつつ、横浜で波止場や商館の整備を進めていく。つまりは既成事実化を進めてしまうのです。気がついてみたら、横浜は大貿易港に発展し、神奈川はそれに飲み込まれてしまったというわけ。それにしても、日本政府がやることって、今も昔も変わりませんなあ。

○ゆえに今の横浜市には、「東神奈川駅」はあるけれども、「神奈川駅」はない。しかも後日、明治政府は廃藩置県の際に、「神奈川県」という地名を用いることになった。おそらくは、「神奈川」という地名の名誉回復を考えたのであろう。かくして、「神奈川県横浜市神奈川区」などという、まことに変てこな地名ができてしまったのである。

○もうひとつ、横浜の外国人居留地には、日本国内のいろんな地名がつけられることになった。そして一番の大通りには、「日本大通り」という名前がつけられた。おそらく日本国内で、地名(駅名)に「日本」がついているのは、ここくらいじゃないかと思う。もちろん「日大前」とか「日銀通り」とかいうのは別にして、のことですが。

○そんなことで、横浜で貿易の歴史を振り返ってみると、こんな一般法則が浮かび上がってくるようだ。

(1)貿易は儲かる。だからかならずやりたい人が現れる。彼らは語学や航海術や会計学などの技術を身につける。なにしろ彼らのお手本は、海外にいくらでもいる。

――明治の日本にも、岩崎弥太郎、益田孝、金子直吉なんて人たちが登場し、今の商社の前身を作り上げた。

(2)しかし彼らは理解されない。貿易は国を富ませるということを立証できなくて、多くの回り道を余儀なくされる。

――幕府も勝手に開国したら、攘夷運動に潰されてしまった。平家・海軍・国際派は国内派に負けるものと相場が決まっている。あるいは、自由貿易は良いことだと経済学は教えるが、そのことを万人に納得してもらうことは非常に難しい。

(3)ただしありがたいことに、貿易には妥協がつきものである。通商交渉が妥協の連続であるように、自由貿易の歴史も多くの妥協を経て今日に至っている。

――貿易に携わる人は少数派なので、得てして「あいつら、胡散臭いけど適当にやらせておけ」ということになりやすい。そうやって「貿易立国」路線が進められてきたのではないか。ところでTPPって、どうなったんでしょうね?


<6月29日>(水)

○本日は5月鉱工業生産が発表されました。前月比+5.7%はとりあえずこんなものでしょう。すでに大底は過ぎました。なおかつ6月と7月の予測を見ると、震災の影響をほとんど取り戻してしまったことになる。さすがです、日本経済。


●鉱工業生産の推移

2011年 指数 前月比
1月 96.2 0.0
2月 97.1 0.9
3月 82.7 -15.5
4月 84.0 1.6
5月 88.8 5.7
6月(est.) 93.5 5.3
7月(est.) 94.0 0.5


○いずれにせよ、リーマンショック後の衝撃に比べれば、その「烈度」ははるかに低い。あのときは2009年2月のボトムでは71.4まで落ちましたからね。震災からの復興は、モノづくりに関する限りとても早い。

○てな話になるかどうかは分かりませんが、明日の「News Fine」に出演しますので、どうぞよろしく。


<6月30日>(木)

○永田町でこんな説があるんだそうです。

8月6日(土) 広島慰霊祭

8月9日(火) 長崎慰霊祭 

*菅首相がこの日に解散を宣言(脱・原発解散)

8月30日(火) 衆院選告示日

9月11日(日) 投票日

○上記の日程は、2005年の郵政解散の日程とわずかに1日違いとなります(郵政解散は8月8日)。やっぱり菅さんは、小泉コンプレックスが強いのかもしれませんね。真面目な話、上記を実践すると9月11日は「アメリカの9/11十周年」と「郵政選挙6周年」と「東日本大震災から半年」という節目が重なって、とんでもない日の選挙になってしまいます。

○もちろん上記は単なる思考実験、もしくは補助線で終わってくれると思いますよ。ホンネの話、「ズル」というのは本質的に小心な生き物ですから、解散する度胸などはなくて「あいつら、もうちょっと俺の顔を立ててくれればいいのに・・・」というモードなんじゃないかなあ。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki