●かんべえの不規則発言



2011年5月







<5月1日>(日)

○大型連休の前半戦。地元柏市の駅前は結構な人出だったりする。レイソルの黄色いシャツがやたらと多い。地元の名物、「ボンベイ」でカレーを食べてたら、店内にもレイソルのユニフォームを着た人が。ひょっとして、あれは河合さんではなかっただろうか。これから応援に出陣、といった風情であったが、その日の対甲府ヴァンフォーレ戦もレイソルは快勝したのである。

○ということで、J1に復帰した我がレイソルはまことに強く、3勝0敗0引き分けで現在なんと首位である。2位があの神懸り状態のベガルタ仙台なので、少しくらいは威張ってもいいのではなかろうか。次の5月3日山形戦はともかく、7日の浦和レッズ戦で勝つようなら、いよいよ本物かもしれぬ。

○浅草に出かけてみると、ここもまた人が多かった。外国人観光客は減っているのかもしれないが、「花やしき」からは黄色い嬌声が聞こえてきた。安・近・短のレジャーはそこそこ賑わってるんじゃないだろうか。もっとも今日のWINSでは、「春天」の予想外の結果に、声にならぬ声が漏れていたような。(ワシもだが)

○ということで、地味な連休です。「日本の電力業発展のダイナミズム」という分厚い本を読んでおりますが、これがとても面白い。これから先、「電力はいかにあるべきか」という議論が始まるでしょうが、この業界の歴史はとっても深いのです。そういえば今朝の日経の「春秋」欄が、松永安左エ門が取り上げておりましたな。(かんべえ、ここまで「安左ヱ門」と表記しておりましたが、子孫の方によると「安左エ門」が正しいのだそうです。失礼致しました)

○明日は連休の中日。当方は早朝から「モーサテ」出演です。うーむ、見る人は少ないだろうなあ。ちなみに明後日は「くにまるジャパン」もあります。


<5月2日>(月)

○最近、マスコミ業界で小耳に挟んだ話。

○その1。さる政治オタクが尋ねて曰く。「最近の鳩山前首相の言動はひどすぎる。なぜマスコミは彼を叩かないのか?」。これに対して、某社のベテラン政治記者が答えて曰く。「うーん、それだけの値打ちもないですからねえ」

――小沢さんを叩くのなら記者冥利に尽きる、ということなのでしょうか?

○その2。「東京電力の前ではデモが行なわれているのに、滅多にテレビには出ませんよね。あれはやっぱり遠慮しているんですか?」との質問あり。某テレビ局の人が答えて曰く。「いやー、テレビ局ってもともと市民デモには冷淡なんですよ。労働組合が主催するデモは、ちゃんと放送するんですけどね。要は記者クラブがあるかないかの違いです。だから田母神さんのデモも、放送されなかったでしょ?」

――記者クラブがないと、デモの存在そのものに気づかないらしいです。脱力さんが聞いたら怒るだろうなあ。

○その3。「永田町では『GWが明けたら大政局の始まり』というもっぱらの評判ですが、ホントのところはどうなんですか?」と聞いてみた。そしたら「それどころじゃないっスよ。広告の減少で下期の予算はばっさりカットです。どうやって取材しろってんですかァ」

――そういえばさすがにACの広告は減ったけど、クルマのCMをまったく見ないものなあ。

○こういうホンネは聞かないほうが良かったかなあ。


<5月3日>(火)

○米軍によるウサマ・ビンラディン殺害に関していくつか感じたこと。

(1)TIME:決行のタイミングは、おそらく「ご成婚」(ウィリアム王子)を避けたんでしょうね。「慶事」の最中に「ヤツのタマを獲ったぞ!」てなニュースが飛んだら、とんでもない「KY」になるところでした。ついでにFOMCの後、という点もよかった。しばらくは株高でしょう。

もちろんマークしていることが気づかれたら台無しになるのだが、オバマ大統領にとってはこの機会を最大限生かす必要があった。そういう意味では、5月2日(アメリカでは5月1日日曜の夜)はタイミングが良かった。しばし支持率は上がるでしょうね(参照)。


(2)PLACE:やっぱりアフガニスタンではなくてパキスタンでした。でも、それって変な話であって、アメリカが10年前にビンラディンの引き渡しを求めたのはタリバンに対してであって、戦争を仕掛けたのアフガニスタンに対してだった。まあ「案の定」ですが。これから先の二国間関係はとってもビミョーだぞ。


(3)OCCASION:今年の中東は、チュニジア発、エジプト経由、リビアその他行きの大変動が進行中である。ジャスミン革命とか、フェースブック革命などと言われているが、より実態に近いのは若者の異議申し立てというか、先進国における1968年の中東版というか、そんな感じである。とりあえず、イスラム原理主義や反米主義とは関係が薄そうだ。

そんな彼らが、「ビンラディン死す」の報に接してどんなふうに受け止めるのか。こればっかりは見当がつかない。やはり2011年は、中東にとって「数十年に1度の変化が進行中」ということなのだろう。


○例によって、一次情報は何にもないんですけどね。取り急ぎ。


<5月5日>(木)

○少し遅いですが、決定的瞬間を捉えたNYT紙の記事


On Sunday afternoon, as the helicopters raced over Pakistani territory, the president and his advisers gathered in the Situation Room of the White House to monitor the operation as it unfolded. Much of the time was spent in silence. Mr. Obama looked “stone faced,” one aide said. Vice President Joseph R. Biden Jr. fingered his rosary beads. “The minutes passed like days,” recalled John O. Brennan, the White House counterterrorism chief.

The code name for Bin Laden was “Geronimo.” The president and his advisers watched Leon E. Panetta, the C.I.A. director, on a video screen, narrating from his agency’s headquarters across the Potomac River what was happening in faraway Pakistan.

“They’ve reached the target,” he said.

Minutes passed.

“We have a visual on Geronimo,” he said.

A few minutes later: “Geronimo EKIA.”

Enemy Killed In Action. There was silence in the Situation Room.

Finally, the president spoke up.

“We got him.”


○何だか「史記」に出てくるワンシーンのようです。”EKIA”って言葉、覚えておきましょう。

○今回の作戦は、実行部隊は海軍のSEALSだったけど、CIAの指揮下で行なわれた模様。そのパネッタ長官が、次期国防長官である。ただしその仕事は、おそらくは予算カットである。うーん、なんというかなあ・・・。


<5月6日>(金)

○アメリカでは、「人が死んだというのに、喜んでいるというのはアメリカ的ではないし、そもそも聖書の教えに反している」という批判が出ているらしい。そりゃそうだわな。ビンラディンを殺したぞと言って喜ぶのは、およそ文明人がすることではない。むしろ、「あれは正義だったか否か」で口角泡を飛ばすのが、アメリカ人の正しい姿というものでしょう。でも、とりあえず発表の夜は嬉しかったから、皆で繰り出してグラウンドゼロで踊ってしまった。しょうがないじゃん、アメリカなんだもの。

○ちょうどわが国において、「3/11」直後に国全体が自粛モードになってしまったのと似たような現象なのでしょう。「どうして、そんなことになるのか」を外国人に説明するのは難しいけれども、とにかくそうなってしまうのである。これが国民性というものなのだ。しかるに2か月くらいたって、大型連休が終わってみると、行楽地の人出は思ったほど少なくはなかったし、世間のニュースも平常どおりに戻りつつある。時間さえたてば、ちゃんと平常へ回帰するのである。

○かくして今週のメディアは、「米軍が丸腰のビンラディンを撃ったのはいかがなものか」とか、「生肉を食べるという行為は、本来、危険なことでありまして」などと、平時の論調に戻りつつある。そういえば「3/11」以前は、しょうもないことで騒いでいたものである。大相撲の八百長がケシカランとか、京都大学のカンニングが前代未聞だとか。ところでその昔、耐震構造偽装で名を馳せたヒューザーのマンションが、倒壊したという噂をついぞ聞かないのはどういうわけなのか。姉葉事件は、単なる空騒ぎだったのだろうか。

○ドイツ証券のセミナーで、英国人エコノミストが言っていた。"Time is the best healer."(時の流れは何でも癒してくれる)。かくして世の中は、少しずつ普通に戻りつつある。まことに慶賀すべきことではあるまいか。


<5月8日>(日)

○被災した上海馬券王先生が、久しぶりに中山競馬場へ遠征されると聞き、不肖かんべえもお供仕りました。いやはや、競馬って楽しいなあ。久々の中山競馬場は、節電のために動く歩道が止まっていたりするのだけれど、こんな風に競馬オヤジに混じってプレイするのは喜びもひとしおです。

○今日はめでたく2人とも浮いて、それから柏市の焼肉の名店「くらちゃん」へ。ええ、もちろんユッケも注文しましたぞ。なにしろここは牛肉の卸をやっている店なので、ネタが鉄板で安心なのであります。

○それにしても、首都圏を支配している節電ファシズムはなんとかならんのか。偽善が織り成す市場メカニズムは、パレート最適からは遠い世界にわれわれを誘うのではないだろうか。浜岡原発の停止も、よこしまな政治的思惑に基づく決断と見た。これでトヨタ自動車が日本を見捨てたらどうするのかね。中部経済圏の重要性は、東北の比ではないはずなのだが。

○ということで、しみじみ楽しんでしまった一日でした。ああ、なんて罰当たりな休日。


<5月9日>(月)

○二日連続で焼肉屋に行ってしまった。今宵はサラリーマンの聖地、新橋の店である。今日のお店は、「見習い」という名札をつけた店員が、片言の日本語で「コチラ、ポン酢ダレでお召し上がりください」と語りかけてくる、まことに由緒正しい焼肉屋であった。

○ちなみに今日のコース料理では、ユッケは注意深く外されていて、「コチラ、その代わりのサービス品の上カルビです」とのことであった。確かに今のこの時期、ユッケでお腹を壊すお客が出てしまった日には、命に別状がなくても大ニュースとして取り上げられてしまうであろう。単独店舗でやっている柏の「くらちゃん」ならともかく、チェーン店を経営する焼肉屋には出来ない相談であるに違いない。

○それにしても「牛角」あたりが出来た頃から、焼肉の価格破壊が進んだものである。回転寿司の登場が鮨の価格破壊をもたらしたのと少し似ているが、回転寿司というのは、あれはあれで衛生面には気を使っている。その点、今回の「えびす屋」というチェーン店は、仕入れが100%ネット経由だったとか、肉の歩留まり率が100%であったとか、食品業界では信じられない話がテンコ盛りである。あの経営者、肉のコワさを知らなかったとしか思えない。

○ちなみに大型連休の後半、ワシは富山の実家に帰っていたのだが、最初はローカルニュースだった「えびす屋」がどんどん全国区に出世してゆき、最後は高岡市出身の妙な若社長の土下座会見に至った過程には、大いに驚かされたものである。「たいへん、ご迷惑をおかけいたしました。心より、お詫び申し上げます」(棒読み)というお詫びスタイルがスタンダードになっている今日においては、あれはなかなかに見上げた根性といえるかもしれない。でも、人が死んでいるのであるから洒落では済まぬのである。

○そもそも焼肉というのは贅沢な食い物である。ワシも学生時代には、とてもコワくては入れなかったものである。社会人になって月給を取るようになり、初めて赤坂の「漢江」という店に入って一皿500円のカルビを注文したときは、「よくぞ大人になりにけり」といった風情があった。その点、韓国焼き海苔以外のメニューが一皿100円ではチト拙かろう。特にユッケが280円では、財布には優しいけれどもお腹に優しくないかも知れぬ。でもって、アンタ、財布とお腹のどっちが大事なのよ。

○「想定外」という言葉が良く使われる昨今である。その一方で、「想定外をいちいち考えていたら、怖くて何も出来なくなる」というのも事実であろう。こんな世の中で、リスクを避けて生きていくためには、「高度な常識」が必要であろう。ナマ肉を我慢するも良し、安過ぎるお皿を敬遠するも良し。ベースは自己責任でありますよ。「絶対の安全」なんてものは、求めてはいかんのです。


<5月10日>(火)

○今朝の「くにまるジャパン」で、浜岡原発の停止受け入れについてお話したときに、「九電力体制見直しの議論をするときに、松永安左エ衛門について触れていない議論は本物ではない」、「でも、今までのところ日経の『春秋』欄くらいでしか見かけたことがない」と(偉そうに)、申し上げました。そしたらすぐにリスナーの方からメールが来て、「今朝の産経抄に出てますよ」と教えていただきました。気づいておりませんでした。感謝申し上げます。

○九電力体制と松永が果たした役割については、当欄の4月12〜13日に少しだけ書きました。(いずれそのうち、本誌でも取り上げたいと思っております)。今回、中部電力が官邸からの浜岡原発停止要請を受け入れたことは、とうとう松永の理想が終焉したのかな、と感じています。電力のようなインフラビジネスは、政府によるコントロールを受けなければならない。だからこそ民間活力が大切であり、そうでないと公益を満たせないというのが松永イズムだったのですけれども。

○その松永のアイデアに基づいて、GHQポツダム政令が発せられ、9つの電力会社が発足したのは1951年5月のことでした。今月はちょうど60周年に当たります。本当なら今頃、記念行事をしていても不思議ではない。ただしこの60年間にはいろんなことがあり、九電力体制は変質を遂げてきた。昨今では、「役所よりも役所のような会社」などと言われたりもする。どこかで道を誤ったのであろう。そして「3/11」以降は、「民間企業による原子力開発」という路線に限界が見え始めた。いろんな意味で見直しは避けられないのだろう。

○だからこそ、歴史観のある議論が必要なのだと思います。「ソフトエネルギーパス」と「スマートグリッド」で問題が解決するなんてのは、お手軽過ぎるじゃありませんか。


<5月11日>(水)

○昨日のワシントンタイムズ紙に出た全面広告、いくつか日本でも紹介記事が出ていたようです。現物はコチラをご参照。

○ワシントンタイムズ紙は、「アメリカの産経新聞」という位置づけです。保守派の人たちが読んでいる。だからアメリカの軍人さんたちがよく読んでいる。「トモダチ作戦」の御礼を伝えるためには、ニューヨークタイムズやワシントンポストよりも効率が良いのです。広告費も割安だしね。

○その一方で、「菅政権が浜岡原発を止めさせたのは、アメリカの圧力があったから」なんてことを言ってる人がいるみたいです。でも、彼らにはそんなリスクを取る理由がないでしょう。仮に東海地震が起きて、浜岡原発がおかしくなったとしても、横須賀の米軍はさっさと逃げればいいだけの話です。日米の友情は友情だけど、基本は他人事なんですから(逆の立場になって考えれば、すぐ分かる話でしょ?)。

○むしろ今回の件については、小幡センセのこのコメントが秀逸だと思いますよ。


彼ほど徹底したポピュリズムを目指し、かつ人気が上がらない総理は歴史上存在しないが、政治家としての面目躍如だ。

浜岡原発の停止要請は完璧なスキームだ。これを直感で決めたのなら、やはり彼は天才であるし、日本にとって彼は天災だ。


○本気で東海地震を怖れたのなら、原子力安全委員会か保安院経由、「かくかくしかじかの基準に沿って止めるべきである」と通達すればよかった。その場合、中部電力は株主代表訴訟などのリスクを怖れる必要はなく、「ハイ、そうですか、仕方ありませんね」と言って原発を止めることができた。責任の所在は政府にあるわけだから。というか、普通はそうするでしょう。政策なんだから。

○そうではなくて、日本政府が一民間企業にお願いをして、相手に下駄を預けてしまった。中部電力が言うことを聞けば、これぞ政治主導となって自分の評判が上がる。聞かなければ、非道な会社だといって叩けばよい。時節柄、電力会社は悪者になるだろう。いずれにせよ、政府は責任を負わなくていい。

○狙いはただひとつ、大型連休明けの「菅降ろし」を避けるためでしょう。だから5月6日に発表しなければならなかった。たぶん今週末に出る世論調査は、「内閣支持率アップ」ということになる。

○さらに問題なのは、中部電力に対して「浜岡は止めても交付金は継続」という方針を示したこと。これで原発を持つ県の首長さんとしてはどう思うだろうか。「県内の雇用」と「県民の安全」を秤にかければ、後者が重いのは当たり前。「原発止めて交付金を貰う」のがいいに決まっている。現在、日本の54基の原発のうち、32基が停止している。この夏の電力不足は、オールジャパンの問題になるかもしれない。

○やはり天才が招く天災ではないのか。というよりも人災というべきか。


<5月13日>(金)

○最近の話題をいくつかメモ代わりに。

○普天間移設問題で、事態が動かないのに業を煮やしたアメリカの上院議員さんたちから「嘉手納移転案」が飛び出した。いよいよアメリカは、「財政難時代の安全保障」問題に直面し始めている。そのうちグァム移転費用も「こんなのいらねえ」になっちゃうかも。この先、どんな風にねじれていくのやら。それが日本や沖縄にとって「良い案」とは限らない。やれやれ、という感じ。

○来る5月24日に、小沢一郎氏と渡部恒三氏の合同誕生会が開かれるかどうか、というのが政界ウォッチャーの読みであるらしい。民主党内の大物同士、ここ数年は距離を置いてきたもの同士、そして岩手県と福島県選出の二人が気脈を通じるとなると、何か起きるような気がしないでもない。その一方で、なんだか「不況カルテル」みたいでもある。(ナベさん、書いちゃったけどゴメンネ)

○RIETIのブラウンバッグランチに参加。話し手は東大の岡崎哲二教授で、テーマは「関東大震災と産業復興」。1920年に「第一次世界大戦後の恐慌」があって経済成長が大マイナスになり、その3年後が関東大震災だった。リーマンショック後の東日本大震災、という今と重なります。今回も金融対応が大事ということですね。ところで資料のP16を見ると、大口震災手形債務者の中では、わが社のご先祖様である鈴木商店がダントツの首位でありますね(知ってる人は少ないでしょうが、3位の国際汽船も実は関係会社なんですよ)

○日経ビジネス人文庫『爽やかなる熱情』(水木楊)を読む。またまた松永安左エ門の評伝である。これで何冊目になるのかな。日経記者が書いているので、さすがに経済面の記述が細かくてありがたい。でも、2000年に書かれた本がもう絶版とは、ちょっと哀しくはないか。再販の価値ありですよ、これ。

○昨晩はまたも韓国料理でした。今週3度目で、今度は麻布十番。いえ、別にむきになってるわけじゃないんですけどね。チヂミもホルモン鍋も美味でありました。それにしても、「ユッケがコワい」なんて贅沢な話じゃありませんか。焼いて食えばいいんだから。存分に肉が食える幸福を噛み締めたい。でも、腹が出てきていることを痛感してしまった、今季初クールビズの今日でした。


<5月15日>(日)

○IMFのストラスカーン専務理事が、セクハラで逮捕との報道あり。来年の仏大統領選挙の有力候補が、なぜこのタイミングでそんなご無体なことをしたものか。誰かに嵌められたのか、それとも純粋な自爆なのか。仮に嵌められたとしたら、それはサルコジ陣営の手によるものか、あるいはギリシャ国債救済を邪魔して一攫千金を狙うファンドの陰謀か。どっちにせよ、まことにエゲツナイ手口であります。

○世間全般の受け止め方としては、「やっぱりフランス人はしょうがないなあ」でありましょう。全世界のホテルのメイドさんたち、くれぐれもフランス野郎にはご注意を。たとえ相手が62歳であったとしても。

○そうかと思えば、ビンラディンの寝室からポルノビデオが出てきたとのこと。これがサダム・フセインのときは、隠れ家から出てきたのは大量のドル紙幣でありましたが。カリスマを失墜させるためとはいえ、米軍もエゲツナイことをやりますなあ。

○ついつい気になるのは、証拠物件の中に和製ビデオが入っているかどうか。もし入っていたとしたら、これぞクール・ジャパンの勝利といえましょう。いや、単に日本人が好きモノだということを、全世界に知らしめすだけなのかもしれません。いやはや。


<5月16日>(月)

○東電の送電分離案が政府内で出ているそうです(参照)。ほんまかいな。大丈夫かいな。わしゃ心配だぞ。

○このところ急に「電力の問題は地域独占にあり。だから発送配電を分離しなければならない」という議論が増えている。なんだか、1990年代の電力自由化論議の敗者復活戦を聞いている感じだが、実行した場合に生じるのは、たぶん「電力料金の値下げ」でありましょう。「電力の安定供給」は、むしろ阻害されるだろう。でも、今はそうまでして電力料金を下げべきなんだろうか。3月の計画停電を体験して、首都圏が痛感したのは「安定供給」のありがたみだったと思うのでありますよ。

○そもそも皆さん、普段からそれほど電気料金を気にしておられますか? 仮に来月、1ドルが100円くらいになったとして(まんざらない話ではないですよ)、そうなったら確実に「円安なので電気料金を上げさせてください」という話になって、それはしぶしぶ認められるはずなのです。ところが、「福島県の人たちに補償しなければならないから、電気料金を上げさせてください」と言われたら反対意見が多くなる。これって変じゃないでしょうか。

○ところが急に、「電気料金が上がると困る」という意見が増えているのです。今朝の日経新聞には、「電力効率化へ抜本改革ぜひ」というコラムが掲載されている。「今後は電気の値上がりによる産業競争力への影響も大いに懸念される。第二、第三のアルミ産業が出ては困る」などと書いてある。前論説主幹の平田育夫さん、気は確かでありますか。アルミ産業が今でも残っていた方が良かったと、マジで考えておられるのでしょうか。

○私めの郷里、富山県は水力発電が盛んだったためにアルミ精錬産業がありました。途中から水力だけでは足りなくなって、北陸電力と住友化学が富山共同火力発電を作りました。新日鉄の君津や、住金の鹿島などで開発された手法で、電力の大手ユーザーと地場の電力会社が共同で発電所を作るパターンです。でも、2度のオイルショックで採算が取れなくなったので、住友化学は富山から撤退しました。発電所は北陸電力の所有になっているはず。でも、これは「しょうがない」話であります。大事なことは、今でも富山にはアルミ建材メーカーが根性で(!)、生き残っているということであります。

○日本経済にとって、大切なのは「安い電力」で守る産業ではなく、「安定した電力」が役立つ産業でありましょう。停電が滅多に起きず、電圧もまったく変わらないという環境があるからこそ、シリコンウェハーだのマイクロコントローラーだの、供給が止まると全世界が大慌てするような製品が、この国では作られている。その優位性をわざわざ捨てるような政策を導入する必然性はどこにあるのでしょうか。

○そうかと思うと、週末の日経ヴェリタスにはこんな記事が載っている。企業の自家発電を合計するとものすごい量になるが、電力が自由化されてないから使えないのだという。これを称して「埋蔵電力」と言う。悪いのは、東電が非協力的であるからなのだそうだ。

○しかしですな。企業の自家発電というのは、重油かガスか、とにかく燃料を必要とします。この夏、各社が一斉に自家発電を動かすとして、その燃料の手当てが出来るのかどうか。あるいは日本の石油精製所が、そのときに必要な石油製品をタイムリーに供給できるのか。そんなこと、初めての事態だから、誰だって自信はないのでありますよ。使わないから「埋蔵電力」なんで、「埋蔵電力」をフルに使うなんて状態は、それこそ「想定外」なんです。

○そもそも企業が自家発電の用意をするのは、あくまでも「もしものときの保険」です。規模のメリットが働くから、電気代は電力会社から買ったほうが安いに決まっている。日経新聞、なんだか「発送配電分離」という結論が先にあって、それに符合するような話を探しているんじゃないだろうか。

○東京電力が気に食わないから、落とし前をつけさせるために、彼らが嫌がる発送配電分離を行なってやる、というならまだしも理屈は通っている。ただし、その場合は電気のユーザーも、一緒に痛い目に遭うのは避けられないのではないかと思います。

○日本だって戦時中は「発送電」と「配電」を分離していたのです。そしたらどうなったか。発送電を担った「特殊法人日本発送電」は図体ばかり大きくて、まともな電力供給は出来なかった。9つの配電会社は、全国統一料金なものだからろくな経営努力をせず、ニッパツ様にすがりつくことばかり考えていた。戦時中にしょっちゅう停電が起きたのは、あながち資源不足のせいだけではなかったのであります。

○日本の組織の常として、「ここはお前に任せるから、キチンとしておけよ」と命じると、それこそ担当範囲では完璧な仕事をしてくれるものです。しかし「ここはお前がやれ、あそこから先はアイツに任せるから」と言うと、「ウチはここまでしかできません」「それはあっちの責任です」と言って、たちまち責任のなすりあいが始まってしまう。だからこそ1951年の電気事業再編成で、地域独占にして、発送配電一体経営にして、その代わり電力会社に供給義務を負わせたのです。

○実は今月はその再編からちょうど60周年に当たるのです。九電力体制は今月で還暦なんですが、そういうことを指摘した記事を見かけたことがない。ということは、いかに皆が歴史を無視した議論をしているかということです。だいたい「スマートグリッド」と「ソフトエネルギーパス」で問題が解決するなんて、そんなキレイごとで済むなら苦労はしませんよ。

○以上、友達なくすような議論を展開してしまいました。後は知らんぞ。


<5月18日>(水)

○昨今、松永安左エ門にかこつけて、戦前のビジネスについていろんな本を読んだために、「昔の人のちょっといい話」をしこたま蓄えてしまった。以下は『爽やかなる熱情』(水木楊)にあった話。

○戦前の海運王であった山下亀三郎は、身一つから成り上がった立志伝中の人物であった。大変なハッタリ屋で、彼が創出したあの手この手の出世術は、笑えるほど手が込んでいて、しかもエピソードに事欠かない。以下の手法なんぞ、今でも十分に使える接待の手口だと思いますぞ。

○その日、篭絡すべき相手は、貴族院議員で船会社の社長であった。とはいえ田舎モノの贅沢好きで、気取り屋のグルメである。こんなのを一流料亭なんぞに招いても効果はない。そこで、「新橋駅前、路地をくねくねと入り込んだ奥にある立ち食いの」寿司屋に相手を招待する。あまりにみすぼらしい店なので、客はさすがにひるむが、山下はそこを揉み手でお迎えする。で、鮨はもちろん極上の美味である。ところが、店のオヤジが典型的なタイプであった。

「ウチの寿司は少しはイケますかい」

「いや、うまい」

「しかしね、マグロをほめるなんて田舎もんだ。本当の寿司通にゃ、そんなのはひとりもいねぇよ。ほめるなら玉子焼きを喰ってからにしてくんねぇ」

「おっとっと、そんなにムラサキをくっつけちゃ、寿司が泣きますよ」

「醤油をたっぷりなんぞはどうみたって、田舎もんだ」

○同席していた松永が呆れるくらい、オヤジはお客の鼻っ柱をへし折ってしまう。いっぱしの通を気取っていたお客は、とうとう怒って帰ってしまう。もちろん、これは事前の打ち合わせ通りの展開だ。翌朝いちばんで山下は、客の好物であるメロンを山のように抱えて、相手の家を訪れる。玄関にはいつくばって、「昨日は申し訳ありませんでしたあっ!」と詫びるのである。

○こんなのを玄関払いにしては、大物の名が泣く。応接室に上げてくれるが、そこで山下は散々に前夜のオヤジの言動を口汚く罵る。一緒になって怒るのも大人気ないので、「まあ、いろいろあるわなあ」てなことで、しばしの歓談となる。まあ、実際に旨い寿司だったし。頃合を見計らって山下は、「ところで先日の件でありますが・・・・」と切り出す。客は鷹揚なところを見せて、申し出に応じてくれたという。

○わざと怒らせておいてから、相手の胸襟に飛び込むというのは、古典的だが人間心理をついた手口である。でも、今はこれをやる度胸のある人は少ないでしょうな。旨いけれども無礼なオヤジがやっている寿司屋は、今でも山ほどあるわけでありますが。


<5月20日>(金)

○本誌の方で書きそびれた「もうひとりの電力の鬼」こと、関西電力の初代社長である太田垣士郎について、映画『黒部の太陽』からご紹介いたします。

○この映画は、1968年に石原裕次郎が三船敏郎と一緒に作ったもので、再上映もDVD化もされていない幻の超大作である。なんとなれば、裕次郎が「この映画は大画面で見てもらいたい」と遺言してしまったために、石原プロがソフト化できなくなってしまったのである。不肖かんべえは、数年前に熊谷組さんのご好意で見る機会があったけれども、名のみ高くて実物を知らない人が多い映画のひとつではないかと思う。

○以下は、この映画の監督である熊井啓『黒部の太陽 ミフネと裕次郎』(新潮社)に収録されている完全シナリオから。


(その1、太田垣社長が、黒四建設事務所長次長への就任を渋る北川=ミフネを説得するシーン)

太田垣「黒四はね、戦前の、うちの前身の、日電の時代から構想があったんだ。調査だってその頃から、三、四十年間もやってきた。それでも黒部が恐ろしいところだということは、前と変わりがないんだからね。君の、自信がもてないというのも、よく分かる。そうだろう」

北川「・・・・・・」

太田垣「だがね、僕の気持ちの中じゃ、ちょっと違ってきている。黒部は、われわれが克服しなきゃならん、あるいは、開発しなきゃならん山だ」

北川「・・・・・・」

太田垣「資本金百三十億の関西電力が、四百億の大工事をやろうというんだ。まして相手は黒部ときている・・・・僕も普通の決心じゃなかった」

 と、笑った顔を急に引きしめる。

太田垣「だが北川君、事業というものはね、こりゃ僕の信念だが、経営者が十割の自信をもって取りかかる事業は、そんなものは仕事のうちに入らない。七割成功の見通しがあったら、勇断をもって実行する・・・・それでなけりゃ本当の事業はやれるものじゃない。僕はこれまで、この信念を通してきたんだがね」


――ちなみに上記の赤字部分のセリフは、ウィキペディアなんぞにも出ている有名なセリフであります。


(その2、トンネル工事がとうとう破砕帯にぶち当たり、後から後から水が湧き出してきて、止まらなくなってしまう。そこを視察に訪れた関電首脳。現場を仕切っているのは熊谷組岩岡班=裕次郎である)

岩岡「佐山、もう一本締めとけ!」

太田垣「(岩岡に)・・・・大変だねえ」

黙々と作業を続ける岩岡。

太田垣「どうだろう、君、うまく抜けるだろうか、破砕帯は」

岩岡、手を止めて、うんざりしたように向かい合う。

岩岡「邪魔なんだなあ、先刻から・・・・向こうへ行ってくれませんか!」

太田垣「いやあ、すまん、邪魔して悪かった」

岩岡「(サバサバと)みんなできるだけのことをやってるんです。自分たちのベストを尽くしてるんです。ご覧になれば、分かるでしょう」

太田垣「そう、分かる分かる。(一同に)どうもありがとう」


――今頃、福島第一原発の現場では、これと似たような会話が行なわれているかもしれない。


(その3、熊谷組、鹿島建設、間組ほか各社の幹部が重苦しい披露した顔を並べる前で)

太田垣「ちょっと待ってくれ。問題が金のことだったら、解決は簡単じゃないか。遠慮しちゃいかんよ。金はいくらかかっても、それは僕に任せなさい。工事に必要なものは、どしどし注文してもらいたい。あとで不要になるようなものでもかまわない・・・・仮に、不要になったとしたところで、なおのこと結構じゃないのかね、藤村君、どうですかな」

藤村(=熊谷組専務)「・・・・・はあ」

太田垣「それから水抜きのボーリングはどうだろうね」

倉沢(=関西電力第三工区工区長)「それは充分計画してますが」

太田垣「計画なんて悠長なことは言っておれないよ。超大型のボーリングを何百本でもやるんだ。破砕帯の上部に傘型に、あけられるだけ沢山の穴を開けて、アルプスの水を全部流し出すんだ」

北川「実はそのつもりでおりました」

太田垣「だったら急いでやるんだ」

北川「はあ」

太田垣「何事も大規模にやるんだ」

北川「はあ」

太田垣「鹿島建設さん――破砕帯はかならず抜けますからね。十一億使い切って、骨材を今のうちからどんどん作っておいてください。足りなければ何億でも出します」


――「手柄は自分、責任は部下」というどこぞのトップは、太田垣社長の心意気を見習ってもらいたい。


(その4、とはいえ、トンネルが抜けないことには黒四ダムはできっこない。料亭で熊谷組専務に頭を下げる太田垣社長のシーン)

太田垣「藤村さん(と、改まって)ぜひ一つ・・・・いろいろ事情はおありでしょうが、お願いします」

と、丁寧に頭を下げる。藤村、狼狽する。

藤村「何ですか、社長」

太田垣「藤村さん、私は今までに、金だの、地位だの、名誉などには何の欲もなかった・・・・と言うと嘘になるかもしれんが、少なくとも今は、そんなものはどうでもいい、そう思っています」

藤村「・・・・・(格好がつかない感じ)」

太田垣「実は、敗戦直後のひと月の間に、私は立て続けに子供を二人・・・・長男と長女を失っとります。長男は勤労動員の過労と栄養失調で、長女は長患いのところへ、長男にしなれたショックで・・・・・私は、もう、失っていちばん惜しいものを、失っております。もう、このうえ、黒四で何を失っても惜しくはないのです。ですから、熊谷組さん、ぜひ一つ」

(以下、少々のやり取りがあった後で)

藤村「太田垣さん、もう・・・・ヤケクソでやりますわ!」


○これが「鬼」である。半世紀前の日本には、この手の「鬼」がゴロゴロしていた。それが今では、ああでもない、こうでもないと言い訳ばかりしている草食系ばかりになってしまった。でも震災後の日本を救えるのは、カッコいいアイデアや理想などではない。求められているのは、「鬼の復権」である。


<5月22日>(日)

○この週末の読書から。

●『人間福澤諭吉』 松永安左エ門(実業之日本社)

慶応大学の学生として、かの福澤先生からじきじきに薫陶を受けた松永安左エ門翁が、御年90歳のときに残した「福澤論」。諭吉先生がどう偉かったかを熱心に語っているのだが、語れば語るほど偉くないように思えてしまうところが面白い。お金にまつわるエピソードが多く、稼ぐにせよ使うにせよ貸すにせよ、お金との付き合い方こそ「独立自尊」への道であったことがよく分かる。

●『国会議員の仕事』 林芳正&津村啓介(中公新書)

自民党と民主党の政治家2人が語る「当世の政治家」の実像。これを読んで「意外とフツーなんだな」と思うか、「え、この程度なのか」と思うか、人によって受け止め方はさまざまでしょう。2人があまり無理をせずに、等身大の自己を語っている点が印象的である。だって政治家が書く本って、ただの自慢話の羅列であることが多いんだもの。林さんとは、個人的に長い付き合いがありますけど、「へー、そうだったんだ」と思うことがたくさんありました。

●『エコ亡国論』 澤昭裕(新潮新書)

表題が刺激的だが、行過ぎた地球温暖化論に対して警鐘を鳴らす良心的な書。2010年度エネルギーフォーラム優秀賞を受賞。特に国際交渉の現場を語る部分に説得力あり。鳩山首相の「1990年比25%削減」構想は、国際的に見れば「ハラキリ」構想であるとのこと。「やっぱり、そうだよなあ」と感じることしきり。3/11震災のお陰で、世の中は「ファッション的エコ」から「本格的なエコ」に向かっているようだが、それとは別に国際公約はチャラにしなければ。

●『戦略外交原論』 兼原信克(日本経済新聞出版社)

「原論」と銘打つからには、薄い本にはできない。その点、本書は分厚く、本格的で、直球である。「戦略とは何か」「国益とは何か」を語るために、「価値観とは何か」「人間の良心とは何か」といった「そもそも論」から始めてしまうところに本書の真骨頂がある。著者は現・韓国公使だが、外務省における次世代のホープ。2年にわたって早稲田大学で講義した内容をまとめたものゆえ、なるべく急がずに、時間をかけて読み進めるべきだろう。

ところで本書の末尾にある、以下の記述に吹き出してしまった。いや、まったく同感であります。

戦略眼は、鳥の眼である。鳥の眼は、虫の眼と同様にある種の才能である。ある人とない人がある。才能のある人の著述を読むのが一番よい。岡崎久彦大使の『戦略的思考とは何か』(中公新書)はその例である。


<5月23日>(月)

○今日、溜池通信の古い読者から頂戴したコメント。

「日本の再生のために鬼が必要だというのは分かりますが、鬼は選挙では当選しないでしょうし、会社でも出世しにくいと思います。どうしたらいいのでしょう」

○かんべえ、しばし沈黙。

・・・・・・・・

○ややあって、こういう本があったことを思い出しました。『ビジネスで生かす電通「鬼十則」』(朝日新書)。

○電通の「鬼十則」は、あまたある社是社訓の中でも、定番中の定番です。特に体育会系のコンテンツであることにおいては最右翼でありましょう。実は不肖かんべえ、この本の著者である柴田明彦さんと、昔々にご一緒に仕事をしたことがある。当時の日商岩井広報室は、おそらく電通さんの顧客としてはまことに小さなものであったはずですが、その仕事は掛け値なしに面白かった。若き日のこやしになってくれた、貴重な思い出の一つです。

○鬼というものは、別の鬼に鍛えられて作られるものなのだと思います。今の世の中、「鬼軍曹」がいる組織で働ける人は幸いだと思います。柴田さんもきっと電通では「鬼軍曹」だったことでしょう。

○電通と言えば、先月発表されたこの資料は面白いね。震災を期に、日本人の生活はどんな風に変わるのか。下記のような指摘に、ドキッとしてしまいましたぞ。


「家族優先」「友達優先」など、本当の緊急時には守る人に優先順位を付けざるを得ないことを改めて思い知る。うわべだけの人間関係が淘汰され、「本当に大切な人との絆」を求める意識が高まる。

デマの被害が顕在化したことで、顔の見える情報、無編集の一次情報の価値が高まる。「誰が」「どのような考えで」発信しているのかが重要になる。

これまでは、何かあったらコンビニがある、いつでも携帯で連絡がとれる等、便利な生活に慣れていて、生活そのものが行き当たりばったりになりかけていた。

供給力が低下すると、企業が利益を確保するためには、一物一価ではなく、例えば西日本と東日本で価格を大きく変えるといったことが起こり得る。

原発の廃炉まで何十年という話ひとつとっても、自分の死後も子どもたちの世代に重い課題がのしかかることを懸念する親は多い。


<5月24日>(火)

○今朝の「くにまるジャパン」でもご紹介したのですが、石原プロは50周年を迎える2013年を期して、同プロ製作映画のDVD化を試みるのだそうで、これで『黒部の太陽』も広く世に出ることになります。今現在、DVDで出ている『黒部の太陽』といえば、シンゴ君が出ているフジテレビのドラマになってしまうのです。でも、そこはやっぱり裕次郎とミフネが出ている1968年製作、上映時間3時間15分の方を見たいじゃありませんか。

○あらためて調べてみて意外だったんですが、黒部ダムの出力は33.5万キロワットに過ぎないのですね。福島第一の1号機が40万キロワットで、これは最初に導入したものだから小さいけれども、近年になって建てられた原発はだいたい110万キロワットです。柏崎刈羽なんぞは、110万キロワットが5基に、135.6万キロワットが2基ありますから、総発電量はまことに巨大です。良くも悪くも、日本の電力供給体制における4番打者は原子力なのです。

○変な話、「太陽光や風力発電を育てるために送電部門を分離せよ」という意見は、「8番と9番打者を優遇することをチームの戦略とする」ようなものです。もちろん、長期的な目標としてはアリですけれども、シーズン途中でそれをやりだしたら野球になりません。しかもつい先日まで、「3番打者の火力君はCO2が出るから、なるべく4番の原子力君の出番を増やそう」としていたんですから・・・・。

○さて、最新号でも書きましたとおり、1951〜1973 年の電力市場は年率11〜12%の成長を続けました。これは「6年ごとに規模が2倍になる」ペースです。そんな調子で高度成長が続いた結果、1963年に完成したときには「快挙」ともてはやされた黒部ダムも、今から見ると実にささやかな発電量しか有していないのです。

○それでも黒部ダムのお値打ちな点は、いまだに土砂堆積率14%、あと250年は使えるというサステナビリティにあります。最近ではダムと言えば、環境破壊の悪者にされ勝ちですが、これに関しては世界遺産にしてもいいんじゃないかと思います。水力発電は、長打は期待できないが、つなぎ役としての存在が大きい。喩えて言えば「ベテランのしぶとい2番打者」みたいなものかもしれませんね。


<5月25日>(水)

○朝方、千代田線が人身事故で遅れている、と聞いたので、常磐線で上野駅に出てみた。そしたら京浜東北線と山手線が止まっている。銀座線は客があふれていて、乗れそうもない。うーん、こういう日もありますなあ。スタバで30分篭城。

○昨日は雨で冷えこんだが、今日は昼過ぎから暖かくなった。しかるにエアコンは入ってない模様。午前中にかじったチョコレートを机の上に放置しておいたら、午後には完全に溶けてしまっていた。別に惜しいというほどではないのだが、今年は本気で節電するつもりなんだろうか。ウチの会社・・・・。

○Facebookのお友だちリクエストがいっぱい来ている。あまり人数を増やしたくないので、返事をしないでそのまま放置しておいたら、その中に昔の知り合いが入っていて、無視されたと思って去ってしまった模様。とっても気まずい。今頃気づいたけど、FBってとっても使い方が難しいツールなのではないかい?

○締め切りを伸ばしてもらっている原稿あり。でも今日は風邪気味。葛根湯飲んで頑張るけど終わらない。明日は出張である。

○とまあ、いろいろ脱力するネタが多い一日である。それにつけても、この「ピーチ航空」というのもあんまりな気が・・・・。


<5月26日>(木)

富山県機電工業会の通常総会へ。富山県におけるエレクトロニクスとメカトロニクス産業の有力企業からなる組織である。というよりは、「モノづくり企業」の集積といった方がいいかもしれない。年に一度の記念講演の講師がワシなんぞでいいのか、はなはだ疑問を感じるものであるが、そこは地元のありがたさである。今日の講演の「つかみ」はもちろん『黒部の太陽』である。あの映画を見ている人が多いというのも、地元ならではの現象でありましょう。

○終了後の懇親会では、地場の経営者の方々からいろんな話を拝聴する。案の条、サプライチェーン問題の解決は意外と速く、日本経済は夏にも底を打って、秋にはかなり忙しくなるのではないか、というのが大勢の意見であった。他方では、中国経済のキャッチアップはおそるべき水準に達しており、この先の企業の海外移転が心配だ、という声も多かった。なにしろ円高に加えて電力不足もある。政治の方向性も見えない。さらに加えて、若者に覇気がない、これでは国際競争に勝てない、との声も。

○「そうは言っても、日本のモノづくりは強いんです」と言い続けてかれこれ10年になる。過去10年はそれが正しかった。この先は正直なところ、よくわからない。ただしどちらか選べと問われれば、やっぱり今までと同じことを言い続けたい。「あんな政治で大丈夫か」というのは、とりあえずさておいて。G8サミットなんて、要はどうだっていいもんね。


<5月27日>(金)

○富山から帰ってみたら、何だか政局が変に動意づいているような。これで6月上旬くらいに不信任案が提出されたら、案外と通ってしまうのかもしれません。果たしてこの間に何があったのやら。

(1)支持率の低い首相が外遊すると政変が起きるの法則

これは全世界的な法則でありまして、菅さんの場合は「起きて当然」でありましょう。フランスまで行って好き勝手なこと言ってるし。「責任は部下、手柄は俺」も、ここまで極端だとねえ。

(2)「海水止めた、止めなかった」の水かけ論争

所詮は過ぎたことなんだけど、最終結論としては福島原発の吉田所長の株が暴騰。官邸も東電本店も役立たずであることが判明。日本の組織はやはり現場力か。これでますます政権への嫌悪感が高まった感あり。

(3)民主党内の足し算、引き算

70人の造反が必要だと考えるとハードルは高いけれども、大量欠席があれば造反は少なくて済む。5月24日の小沢=渡部合同誕生会には、160人の国会議員が出席したという。「ときは今 雨がしたしる 五月かな」

○ただしその後をどうするのか。ちゃんと考えておかないと、本能寺の変の後みたいなことになりますよ。シンナー吸ってる中学生じゃないんだから、選良の皆さん、後先を考えて行動してくださいまし。

○ところで富山市を訪問される方、こんなところでコーヒーはいかがでしょう。いい時間を過ごすことができますよ。

<追記> 「なーんだ、ただのスタバじゃん」などと言わないでね。「全世界でもっとも景観の美しいスタバ」という認定つきです。よく「日本じゃないみたい」という誉め言葉がありますが、私は思わず「富山じゃないみたい!」と叫んでしまいました。


<5月29日>(日)

○今週も雨で、地味な週末である。来週の準備のために、家で黙々と仕事。などと言いつつ、競馬に出かけたりしているのだから、油断も隙もあったものではない。

○聞くところによると、今年は7〜9月のイベントが節電のために自粛する動きがあって、6月にやたらと仕事が入っている。とりあえず、広島と京都と宇都宮と沖縄と大阪と横浜に行く予定が立て込んでいる。どうも仕事が前倒しになっている感あり。

○そういえば富山では経営者の方から、「夏場は電力不足がコワいから、今のうちに在庫を積み上げている。この夏はなるべく従業員を休ませて、秋は大いに忙しくなるだろう」という話を聞きました。やはり日本経済、7-9月期は要注意かもしれませんな。

○で、6月1日には都内でこんなフォーラムがあります。Open to Publicの会合ですので、皆さまよろしければお出かけください。


[シンポジウム]
大震災と世界経済−−日本の脆弱性と新たな可能性を問う

【パネリスト】
  齋藤 進氏(三極経済研究所代表取締役)
  橘川武郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)
  吉崎達彦氏(双日総合研究所チーフエコノミスト)
【日時】 2011年6月1日(水) 午後3時〜5時半
【会場】 商工会館6F(霞が関ビル裏手)
【参加費用】 2000円(会員企業関係者、定期購読者は無料)


○橘川武郎先生は、ここで何度も紹介している「松永安左エ門と電力」の権威であります。どんな話が聞けるか、大変楽しみです。余計なことですが、橘川先生は私以上のトラキチです。それにしても昨今のタイガースは不甲斐ない。今年はレイソルの応援に集中しようかなあ、と思い始めた昨今である。


<5月30日>(月)

○本日、都市出版から『外交』という雑誌が出ましたので、ご紹介いたします。日本で唯一の外交問題・国際関係論専門のオピニオン誌で、隔月刊で奇数月末日発売です。最新号の内容はこんな感じ。とりあえずのお奨めは、伊藤師匠の筆による「マーケットの眼」というコラムでしょうか。それから西川恵編集委員による「マンガを見れば世界がわかる」なんぞも、ワシ好みで楽しみな新連載です。

○元をたどれば外交論壇誌『外交フォーラム』という雑誌があったのですが、これを外務省が買い上げているのがケシカランということになり、民主党政権下の「仕分け」で取りやめを申し渡された。ところがアカデミズムを中心に、「それでは外交論議の場がなくなります」という声が澎湃として起こり、1年前に時事通信社の元で新装刊の隔月誌『外交』がスタートした。それがちょうど1年を経たところで、「業者との癒着を避ける」ために出版社を変えることにあいなったわけです。

○こんな風に1年ごとに出版社が変わるのでは、定期購読もやりにくいわけで、読者にとってはまことに不便なシステムであります。ただし最近は、財務省広報誌の『ファイナンス』なんぞも似たようなことになっているようです。せめて1年ごとに版形が変わる、てなことがないように、時事通信時代と見かけはあまり変えないように作ってあります。なるべくなら、JRAのCMが電通と博報堂で2年おきに交代しているようにできないものですかね。

○さて、不肖かんべえはこの「都市出版バージョン」の『外交』の編集委員を拝命しております。そんなわけで、この第一号が手元に届いてちょっとうれしい。20代の頃を、会社の広報誌や社内報作りに明け暮れた人間としては、この年になって雑誌の仕事に出会えるのは、まことに幸運だと思っております。おそらく1年限定ということになりますが、編集委員の仕事をエンジョイしてみたいと思います。

○編集委員が初めて集合したのは、あの震災からちょうど1週間後の3月18日でした。当日は都内某所の会議室に出かけること自体が、おっかなびっくりという感じでありましたな。その場ですぐ、「東日本大震災を特集テーマに据えよう」ということが決まりました。震災に見舞われた日本において、外交はどんな風に変わっていくのか。まことに興味の尽きないところだと思います。


<5月31日>(火)

○ちょうど昨今は、社団法人や財団法人が「理事会と通常総会」を行なう季節である。不肖かんべえも、その手の会合に出席することが多くなっている。昨日のお昼は「社団法人世界経済研究協会」(来期には一般社団法人に転換予定)。今日のお昼は「社団法人日本貿易会」(来期は一般社団法人に転換予定)。でもって、今宵は「NPO法人岡崎研究所」の理事会とフォーラムであった。考えてみれば、3団体とも長いお付き合いである。

○で、最後は岡崎研究所のフォーラムを少しだけ早めに抜け出して、都内某所の「三原淳雄さんを偲ぶ会」へ。といっても大袈裟な会合ではなく、長らく三原事務所を支えてきた秘書のNさんを囲み、ぐっちーさんほか三原さんゆかりの人々が集まって鍋をつつく会。幹事はいつもの切込隊長でありました。三原さんは、2月8日に急逝されてしまいましたが、「3/11」後の日本を見たら、いったいどんな風にぶち切れて、官邸や東電をどんな風に罵ってくれたものか。

○三原淳雄事務所の閉鎖を伝えるNさんからの手紙にいわく。

1980年に事務所を開設し、「命さえ取られなければ、何とかなる」を社訓に前だけを見て走り続けてきました。生前「僕はミーハーだから、何にでも興味がある」と言っておりました通りに、亡き後の机の引き出しからは、多岐にわたる分野の資料やメモがでてき、陰でこんなにも努力をしていたのだと思うと片付けるのに胸が痛みました。

○思えば、「命さえ取られなければ」というのが、いつも変わらぬ三原さんのキーワードでありました。なにしろ満州引き上げ組でありますから、小さい頃に「殺されるかもしれない」という体験をしている。だから金融庁と喧嘩しようが、マスコミで仕事を干されようが全然平気。それで殺されるわけじゃないんだもの。

○今はその手の覚悟がある人がめっきり少なくなって、責任ある立場の人たちが、安全地帯で飽食しながら、リスクが高いだの、誰が責任取るんだなどと言っている。党首討論も不信任案もいいですけど、「命さえ取られなければ」という覚悟のある人を見てみたいものであります。



















編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki