●かんべえの不規則発言



2021年3月






<3月1日>(月)

〇今日は在宅勤務の日だったのだが、何と朝7時から夜7時まで働いてしまった(いちおう昼めし時は休みますよ)。これだけ集中すると、さすがに仕事がはかどる。しかも通勤時間がないから、それほど疲れていない。ありがたいことである

〇ただし課題も残る。今日はTeamsの会合が2件あったのだが、どちらもブツブツとネットが切れてしまうので往生した。不思議なことである。ワシの仕事場のWi-Fi環境は、Zoomだと何の問題もないのに、Teamsだとなぜか不都合が起きるようだ。それとも今日は特別だったのだろうか。まあ、リモート作業が多くなると、皆さん、多少のトラブルでは意に介さないようなので、それはありがたいことである。

〇なおかつ、缶ビール2本とともに晩飯を済ませてから、これからひと風呂浴びて残業までできてしまう。うーむ、こんなに仕事をしていていいのだろうか。問題は通勤がないと、本や雑誌に目を通す時間が足りないことくらいか。まあ、明日は出社するからその時間を利用することにしよう。


<3月2日>(火)

〇3月は始まったばかりですが、いろんなことがありそうですな。



企業説明会解禁(3/1)

Yahoo親会社のZホールディングスとLINEが経営統合(3/1)

令和3年度予算が衆議院を通過(3/2)

1月の労働力調査、有効求人倍率(3/2)

プロ野球オープン戦開始(3/2)

マイナンバーカードの健康保険証利用の試行運用開始(3/4)

中国全人代始まる(北京、3/5〜)

米雇用統計(3/5)

緊急事態宣言の期限(3/7)→2週間延長へ

国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)(3/7〜12)

1月の国際収支、1月の景気ウォッチャー調査(3/8)

2020年10-12月期GDP改定値(3/9)

東日本大震災から10年(3/11)

ECB定例理事会(3/11)

大相撲春場所(両国、3/14〜28)

山口県下関市市長選挙(3/14)

米グラミー賞授賞式(3/14)

米アカデミー賞ノミネート発表(3/15)

菅内閣発足から半年(3/16)

FOMC(3/16-17)

2月の貿易統計、2月の訪日外国人数(3/17)

日本商工会議所通常会員総会(帝国ホテル、3/18)

秋田県知事選挙告示(3/18)

日銀金融政策決定会合(3/18-19)

選抜高校野球(阪神甲子園球場、3/19-31)

千葉県知事選挙・千葉市長選挙投開票(3/21)

自民党定期党大会(都内、3/21)リモート形式で実施予定

イスラエル総選挙(3/23)→過去2年で4度目!

東京五輪聖火リレー出発式(福島、3/25)

福岡県知事選挙公示(3/25)

ギリシャ独立200周年(3/25)

欧州各国が夏時間入り(3/28)→時差は英と8時間、仏独伊と7時間に

2月の労働力調査、有効求人倍率(3/30)

令和3年度予算が自然成立(3/31)

2月の鉱工業生産(3/31)


(1)令和3年度予算が年度内に成立する目途は立ちましたが、政局的にはいろいろありそうです。千葉県(3/21)、秋田県(4/4)、福岡県(4/11)の県知事選挙は与党には気になるところ。その先には4月25日の衆参補欠選挙も控えています。

(2)五輪聖火リレーが始まる3月25日は、東京五輪を中止するなら最後のタイミング。とはいえ、無観客にするかどうかはもっと後に決めるらしいので、締め切りとしての地位は低下した模様。7月23日の開会式に向けて、ギリギリの判断となるのでしょうな。

(3)スポーツ関係では、プロ野球オープン戦、大相撲春場所、センバツ高校野球などがつつがなく実施の予定である。個人的な関心事は阪神タイガースのゴールデンルーキー、佐藤輝明ですな。まるでガタイが新外人選手。相手ピッチャーは嫌でしょうな。久々に球春が楽しみです。


<3月3日>(水)

〇えー、緊急事態宣言が2週間延長になりました。どういう議論があったのか、材料を与えてくれるのは分科会メンバーの小林慶一郎さんが、今月の文芸春秋に寄稿した「コロナ第三波『失敗の本質』」から読み解くことができます。

〇小林さんによれば、第三波が始まった11月10日前後に「感染症の専門家の先生たちが慌て始めた」。なぜそうなったのかは、そのときはよくわからなかったとのこと。「11月上旬もまだ夏と同じようなレベルで、東京都の新規陽性患者数はせいぜい1日200人台後半でした。(中略)今から振り返れば、あの時こそ、平常時から感染爆発に局面が変わったところだったのです」


●まだ新規感染者数が安定していた10月頃は、分科会にも「東京で1日200人ぐらいが平常状態ではないか」という意見の専門家がいました。つまり、200人前後を維持するようなクラスター対策を取っていれば、感染はそれ以上増えないということです。これに対して「もっと低く抑えるべきだ」というメンバーもいましたが、明確な数値目標で合意するわけでもなく、尾身茂会長も「まあ、そんなもの(200くらい)かな」という感じで、どのあたりがボーダーラインなのか、はっきりしなかったのです。

●メンバーから、「もう少しベースラインを下げておきたかった」という反省の弁が聞かれたのは12月10日過ぎになってからのことです。秋の抑え込みは明らかに弱かった。今では「ステージT(東京都の新規感染者数が1日100人程度)近くまでもっていかないと感染はコントロールできない」という認識になっています。(中略)今なら「東京都の新規感染者数は2桁まで抑えるのが理想的」とも言えますが、それは後知恵だから言える面もあります」


〇ということで、今の200〜300人程度の水準では解除できないらしい。それが分かったのは昨年11月以降であって、それくらい試行錯誤が行われている、ということであります。後知恵でいろいろ言うのは簡単ですが、官邸も分科会も見識は所詮はその程度、と覚えておきましょう。

〇小林さんは下記のようなことも書いていますが、多少は本人から直接、話を聞いたことがある当方といたしましては、「ずいぶん抑えているなあ」という印象であります。詳しくは本文をお読みください


●「病院が都道府県に上げているベッド数は、ボランティアの数字ですよ。病院がベッドとかスタッフを出してくれるかどうかは、国も自治体も何の強制力もありません」(中略)「春の第一波のときに大変な赤字になってしまったので、夏の第二波ではコロナ対策に参加することを嫌がっている病院が一杯ある」

●危機においては、内輪の調整に神経が集中して外部への影響を忘れてしまうことがよくあります。(中略)危機が高まれば高まるほど「村社会の論理」が支配的になり、外部の敵については希望的観測にすがるものです。

●「緊急事態宣言って絶対出ませんから」これは財務省だけの「空気」ではありませんでした。霞が関全体に暗黙の了解として広がっていたのです。

●一連の対応を見ていると、厚労省は業務過剰でパンクしており、とにかく仕事を増やしたくないという一念のように思われます。昨年秋、病床確保の司令塔を作るべきという議論を私が提起したところ、ある審議官は「そんなことをしたら(厚労省に)死人が出ますよ。今でさえ忙し過ぎるんですから」と言下に却下しました。厚労省の官僚は忙しさのあまりか、外の世界が見えなくなっており、自分の村社会を守ることだけに必死なのです。

●この半年余り、感染症専門家の方たちを見ていて感じるのは、彼らには医療行政(厚労省、保健所)や医療界への遠慮があるということです。(中略) 敵はコロナなのに、持ち場を狭くして全力を投入できていない――私はここにも「感染症村」の村社会の論理を感じています。


〇まさに「失敗の本質」。日本の組織は良くも悪くも変わっていないのです。


<3月5日>(金)

〇コロナ発生からこの方、何度同じことを考えたかわからないけれども、「怖いと思っていない人に怖がれ」と言うのが無意味であるのと同様に、「怖いと思っている人に怖がるな」と言うのも全く意味がない。なぜなら恐怖とは個人的な感情であって、あなたが怖いことでも私は怖くなかったりする。同じくらいの怖さを、社会全体が共有することは容易ではない。

〇ワシの場合は前者(怖くない)に属するので、コロナを怖がっている人の気持ちがあんまりわからない。まして「ワクチンが怖い」と言っている人を見かけたりすると、「テメエ、何様だよ」などと腹を立ててしまいかねない。いや、それはワシが過去60年間、ほとんど健康に気を使わずに生きてこられた結果であって、今も「自分は大丈夫」「罹ってもたぶん重症にはならない」と思っている。お陰で呑気でいられます。ありがたいことである。

〇ワシの知り合いには、ちょうど1年前くらいに感染していたらしく、知らない間にコロナの抗体ができていたという人が居る。爾来、これはラッキーとばかりに緊急事態でも遊び歩いている。某日、赤坂のクラブで大勢で遊んでいる際にクラスターが発生し、自分以外は全員が発症して、中には重篤になった人もいたらしい。とまあ、こんな具合に、世の中は不公平にできている。文句を言っても仕方がない。

〇いや、ワシも一応は高血圧なので、毎朝クスリを飲んでいたりはするのですが、飲み始めてから本当に血圧が下がったので、「クスリというものは存外に効くものなのだ」という教訓を得てしまい、ますます医学に対する信頼を深めてしまった。ワクチンだって、「打ってあげます」と言われればホイホイと打ってもらうだろうし、「すいません、あなたは後になります」と言われれば、どーぞどうぞお先に、と申し上げる自信がある。

〇その代わり申し訳ないですが、本気でコロナを怖がっている人に対する理解は乏しいです。そういえば他人への同情心が薄いのは、当溜池通信の個性かもしれません。いや、多少の自覚はあるのですが。


<3月7日>(日)

〇1.9兆ドルの追加経済対策が昨日、上院を通過しました。予想通り、いくつかの修正が入りました。とはいえ、「失業保険の上乗せ金を400ドルから300ドルに減らして、その代わり期間を延長する」程度のことですので、ほぼ満額回答と言っていいでしょう。来週火曜日にこれと同じ案を下院が議決すれば、あとはバイデン大統領がサインするだけですから、締め切りの3月14日には余裕で間に合うことになります。

〇ただし「50対50」の上院で法案を通すのは、やっぱり大変なことのようです。上記の変更も、共和党が言ったからではなくて、民主党のジョー・マンチン議員が言い出したこと。1人でも身内が反対すれば法案は通らない。ゆえに「たった一人」の値打ちが限りなく上昇するわけです。マンチン上院議員は、OMB局長に名前が挙がっていたニーラ・タンデン氏の指名も葬り去ってしまいました。やりますなあ。

〇こうなると「分断」は二大政党と言うよりも、民主党内の中道穏健派と進歩派(左派)の対立ということになります。今回の立法プロセスでは、「最低時給15ドル」という公約も宙に浮いてしまいましたので、左派の側としてはいら立ちを深めていることでしょう。民主党内の波風を沈めることも、バイデン大統領にとっては「国対族」の仕事と言うことになります。

〇ところでバイデン大統領に関するインタビュー記事が載りましたので、下記ご参照。

●バイデン大統領は「普通の子」?(日テレNEWS24)

先日の溜池通信でご紹介した「良い子、悪い子、普通の子」というネタですけど、考えてみたら「欽ドン」こと「欽ちゃんのドンと言ってみよう」は、日テレではなくてフジテレビでしたね。「欽どこ」がテレビ朝日で、「週刊欽曜日」がTBSでした。3つ併せて「視聴率100%男」。そういう時代があったんですよねえ。

〇で、この先の問題は2022年度の本予算の編成です。まずは議会合同演説(普通の年でいう一般教書演説。大統領初年度のみこのように呼ばれる)で、大統領が施政方針演説をしなければならない。普通なら2月中なんですが、3月になっても音沙汰がないということは、先日の連邦議事堂占拠事件が尾を引いているのでしょう。トランプ支持者に襲撃される!などという恐ろしい事態を想定しなければなりませんので。

〇となると予算教書の日程も遅れることになる。なにしろOMB局長も決まってませんし。今回の追加経済対策は1400ドルの給付金などのバラマキが中心です。インフラ投資や気候変動対策といった本来の公約は、そっちで実現を目指さなければならない。なおかつ、ここでも「財政調整措置」を使うことになる。前途遼遠なのであります。


<3月8日>(月)

〇このところアメリカ情報が一番早い、というアクシオスさんが、またまたスクープです。いや、ホント、ワシなんぞ最近は朝はAxiosだけチェックしてますから。

Biden will host Japanese Prime Minister Suga at the White House as early as April - Axios (バイデンが日本国の菅首相を4月にもホワイトハウスに呼ぶ)

〇その前に今週金曜日(3/12)にはオンラインでQUAD(日米豪印)首脳会議を行い、来週は米国務長官と国防長官が訪日して「日米2+2」(3/15-17)をやるわけですから、この流れが意図するところは明確ですね。バイデンさんは以前から、4月22日のアースデーには気候変動サミットを開催すると言ってましたから、菅さんの訪米はそのタイミングかなあ、と思ってましたけど、これは別格扱いのようです。

〇もっとも今どきアメリカ大統領との首脳会談一番乗りがそんなにめでたいことか、というとそこはややビミョーなところがある。それでもアメリカ側から見れば、日本はこういうことを確実に評価してくれるし、どう考えても失敗する心配はないし、恩を売るには格好の相手である。安倍さんが就任前のトランプさんのところへ駆け込んだことも、これで「なかったこと」になるのなら、それはそれで日本外交としては結構なことでしょう。

〇2009年の麻生首相の訪米や、2013年の安倍首相の訪米のことを、当時副大統領だったバイデンさんはよく覚えているのかもしれませんね。どうでもいいことですが、Axiosは麻生首相のオバマ大統領との会談のことをPrime Minister Tara Asoと書いています。お気の毒ですが麻生さんはタラちゃんになってしまいました。

〇オバマさんは「ビジネスライク」でしたから、麻生さんも安倍さんもせっかくホワイトハウスに招いておいて、歓迎昼食会も共同記者会見もナシでした。逆にトランプさんは安倍さんをマー・ア・ラゴに呼んで、一緒にゴルフまでやった。バイデンさんの場合は、菅さんをどんなふうに扱うのか、たぶん中間くらいになるでしょうけれども、これは気になるところですね。


<3月9日>(火)

〇緊急事態宣言が1都3県で延長になってしまい、なんとなくガックリ来ている今週である。が、あらためて考えてみると、ワシは「あの人と一緒にあの店でアレが食べたい」という組み合わせを無数に持っている。つまり喪が明けた後には、とっても楽しいことが一杯待っているはずである。なんと幸いなるかな。

〇世間では国家公務員に対する高額接待が問題になっている。そりゃあ職務権限がある人を相手にする接待は違法に決まっているし、旧大蔵省や旧通産省は1990年代に十分に懲りているので、さすがにその辺はガードが固くなっている。今回は慣れていない役所が、「ついついやっちゃった」感が濃厚である。総務省内でいえば、旧自治省や旧総務庁関係者はきっと怒っているだろうなあ。

〇つまり旧郵政省の関係者は、「総理の息子だったから、東北新社の誘いを断れなかった」のではなくて、相手が半植民地みたいなNTTでもずぶずぶの関係だったことになる。そしてマスコミは書かないけれども、おそらくはテレビ局の「波取り記者」たちからの接待攻勢もあったのでしょうなあ。そんなメシはそんなに旨くないと思うけど。

〇まあ、遠からずどっかでそんなに悪くないメシを食いながら、気心の知れた相手と政策や政局を思う存分語り合える日が戻ってくる。そりゃあ楽しいに決まっているし、いろんなヒントも得られるし、いくらリモート面談が増えてもこれだけは変わるまい。そしてメシ代はちゃんと自腹を切ること。これさえ間違えなければ、世の中はきっと大丈夫なはずである。


<3月10日>(水)

〇最近、あまり評判がよくない「日本型組織」であるが、他国に比して明らかな比較優位も有しているはずである。長期雇用関係があって、ジョブ型ではなくてメンバーシップ型で、課長以下がデスクを島の形にして座っていて、皆が空気を共有していて、ときどき「ノミニュケーション」もある職場と言うのは、何より暗黙知を共有することに適している。企業にとって重要な情報というものは、もちろんパソコンやシステムなんぞの中に入っているわけはなくて、だいたいが職場の誰かが知っているものなのだ。「ああ、そういうときはね、××すればいいんだよ!」などと教えてくれるのである。

〇すごくくだらない例を挙げさせてもらうと、最近ちょっとご無沙汰している田原総一朗さんは、元来がお酒を飲まない人なのだが、甘いものはわりとお好きであって、特に伊勢名物の「赤福」に目がない。だから田原さんを怒らせてしまった人は、「赤福」をもってお詫びに行くといい。たぶん成功率は高いと思う。これ、場合によってはかなり有用な情報でしょ? かといって、「その通りにしたけど、ダメだったじゃないか!」などという苦情をワシのところに持ち込まれても困るけど。

〇企業というものは、この手のくだらない情報を山ほど持っていて、それが要所要所でツボにはまると強力な武器となる。ところがこの手の暗黙知というものは、そもそも言語化されていないことが多いので伝承が難しい。そこでどうしているかというと、多くの社員が議論や雑談という形で情報をシェアするのである。強い組織は、そういうことを小マメにやっているものだ。マニュアルを作ったから強い組織になれる、クラウドを使ったお陰で便利になりました、なんてことは滅多にあるものではありません。

〇最近気になるのは、コロナからこの方、社内の雑談というものがめっきり減って、この手の「インスティチューショナル・メモリー」(組織の記憶)が伝わらなくなっているのではないかということ。この点、リモートの会議はハッキリ言って適していない。「うちの会社も20年前は結構ヤバかったんだよ」みたいな話、リアルの会合じゃなかったらなかなかできないでしょ?

〇コロナという現象は、世の中のあらゆる局面で「いつかこうなるだろう」と予測されていたことを、どんどん前倒しで現実にしつつある。それは致し方ないところもあって、中小企業の事業継承とか地方金融機関の再編とかは、いよいよ不可能力だよね、ということになる。あるいは世代交代とか女性の登用といった本来望ましいと思われていた変化も、ここへきて加速しているように見える。他方、日本の組織が従来のアナログ的な力を失っていくことも、これは火を見るよりも明らかなことでありまして。

〇ということで、われわれは雑談を取り戻す必要があるのではないだろうか。日本の組織は目に見えにくい形で、大きなものを失いつつあるのかもしれない。逆に言えば、「ゴルフ場の会話で会社の人事が決まる」なんてことも同時に減っているのだろうと思いますけれども。


<3月11日>(木)

〇今日はどっちを向いても「あの日から10年」の話ばかりなので、ここは意地でも別の話題に振りたい。ということで、(そんなに詳しいわけじゃないのだが、聞こえてくる範囲で)最近のミャンマー情勢について。

〇一般的には「国軍対NLD」という対立だと思われているが、かならずしもそうではないらしい。あの国はとにかく平均年齢が若いので、SNSなどを使ってデモを仕掛けているのは若い連中である。彼らは「国軍とんでもねえ!」と怒っているけれども、「スーチーさんもちょっとなあ・・・」との思いがある。この辺は世代間ギャップもあるらしく、上の世代はNLD支持が多い。それでは若者たちが何を支持しているかというと、弱小政党が80個くらいあるとのことで、なかなか大きな勢力には育っていない。

〇それから現地の日本企業などにとっては、「ティン・セイン政権の頃は良かったなあ」との思いがあって、できれば「まともな国軍政治」が戻ってきてほしい。しかるに今回のクーデターでは、国軍は最初から何かを見誤っているとしか思えない。逆にNLDは「影の大臣」を作って、「ここで国軍にすり寄ったら後で怖いぞ」と脅す。外国人としては、とにかく局外中立でじっとしているしかない。国際援助のプロジェクトも全部ストップである。

〇日常生活はといえば、公務員の不服従運動が広がっていて、いろんなものが機能しなくなっている。だから外国が経済制裁しようがしまいが、既にほとんど関係がない。そんな中で「中国の影響力が拡大する」のが嫌なところだが、国軍はもとより対中警戒感が強い。というか、これは地政学的に考えれば当たり前のことだろう。

〇こんな状況なので、事態が落ち着くまでは時間を要しそうだ。そしてミャンマーに対して、外国がポジティブな影響力を発揮するチャンスはほとんどなさそうだ。ありきたりではあるけれども、「助さん格さん、ここはしばらく様子を見ましょう」というのが、普通の結論となる。

〇他方、「日本外交はもっと旗幟鮮明にせよ」「安倍内閣の価値外交路線はどこへ行ったのか」との声も聞こえてくる。いやー、理屈としてはわかりますけど、たぶんそれって悪手になりますよ。幸いなことにバイデン政権もその辺のことはわかっていて、経済制裁もお座なりでやってますよね。

〇こういうときは「にわか人権派」になるよりも、馬鹿の振りをしてモタモタしている方が良いと思います。最近は「小人閑居して不善を為す」タイプが増えているので、油断のならないところなのですが。


<3月12日>(金)

〇昨日は日本では「あの日から10年」でしたが、アメリカでは「あの日から1年」だったのですね。それはWHOがパンデミックを宣言した日。この日に合わせてバイデン大統領が、国民向けのテレビ演説を行いました。全文はここにあります

〇なにしろわずか1年の間に、新型コロナで52万人以上が亡くなっている。バイデンさんは、"As of now, the total deaths in America: 527,726. That’s more deaths than in World War One, World War Two, the Vietnam War, and 9/11 combined."(これは第一次世界大戦、第二次世界大戦、ベトナム戦争、9.11の合計よりも多くの死者だ)と言っています。

〇そして、「5月1日までに18歳以上の全成人がワクチンを接種可能に」「独立記念日(7/4)までに少人数で集まれることを目標に」などを公約しましたが、後ろの方では「今日、1.9兆ドルの経済対策にサインした」ことを言っています。なるほどね、本当は12日にサインする予定を1日前倒しにしたのは、このためだったのね。

〇バイデン大統領にとっては、今回のAmerican Rescue Plan法案は政権発足以来、初の議会での成果となります。(細かいことを言うと、オースティン国防長官を承認する特例措置という成果がある)。規模はもちろん威張れるほど大きい。もっともThe Economist誌は、本日付の社説で「バイデンの大ギャンブル」と評している。米国経済はそうでなくても強いんだから、景気過熱の恐れありという。

〇エコノミスト誌が指摘するのは、@歴史的に見て最大水準の財政刺激策、A一時的なインフレの行き過ぎを認める寛大な米連銀、B行き先が知れない巨大なペントアップ貯蓄の3点。警戒すべきは景気の過熱であって、資産価格については触れられていません。いわば「高圧経済」の行方を心配している。いや、同感です。一方で、これが「日本化」の特効薬ということになれば、ほかの国もまねるでしょうね。ともあれ、アメリカらしい偉大なる実験というほかはありません。

〇それというのも、民主党内には「2009年のオバマ政権の景気刺激策(7870億ドル)が失敗だった」という認識が強いようである。@規模が小さく、A譲歩したのに共和党は3人しか賛成してくれず、Bその後の国内向けアピールが足りなかった、というのである。ゆえに今回は、@規模を思い切り大きくし、A民主党内の賛成だけで押し切り、B国内向けに丁寧に説明する、という方針のようである。2010年の中間選挙でボロ負けしたことが、今でもトラウマになっているのでしょう。

In the coming weeks and months, I’ll be traveling, along with the First Lady, the Vice President, the Second Gentleman and members of my Cabinet, to speak directly to you, to tell you the truth about how the American Rescue Plan meets the moment.

〇ということで、バイデンさんはこれから国内行脚をしてARP法の売り込みに励むようです。2022年度の本予算の話はしばらく先のことになりそうですね。


<3月13日>(土)

〇以下は一昨日入稿したものですが、昨日成立した1.9兆ドルの経済対策についてまとめております。


●ばらまきバイデン政権の裏で起きる意外なこと


〇東洋経済オンラインの中でも、この連載は「マーケット欄」でありますから、普通だったら「景気過熱→インフレ→金利上昇→バブル崩壊か?」という論旨になるところなんですが、そこはもうお馴染み過ぎるし、昨今はバブルの議論自体がバブルになっている感があります。それに「高圧経済で資産価格高騰?」という副作用は、今の米財務省やFedは百も承知でありましょう。だからこそThe Economist誌が「Biden's big gamble」と呼ぶわけでして。

〇むしろ「世界的なコンテナ不足」みたいな形で、実体経済に影響が出る方が早いのかもしれません。コロナの時代→K字型回復→巣ごもり消費のところへ、「ひとり1400ドルの給付金」ですからね。そうそう、このお金が個人投資家の背中を押して、またまたゲームストップ株騒動みたいな事態を招く可能性もあるでしょう。

〇本当にマーケットへの影響を考えたら、国際金融市場が引き締まることで、ブラジルやアルゼンチンなど債務を多く抱えた新興国の為替なのかもしれません。しばらくは株価よりも為替を見ている方が良いのかも。アメリカの大実験は確実に世界経済全体に影響が及ぶわけでして、民主党政権が考える「国内の弱者救済」策は、おそらくは海外の弱者を狙撃することになるのではないでしょうか。

〇他方、意図的な「高圧経済」の実現が、先進国経済の「日本化」に有効な処方箋になるのだと分かれば、これはこれで偉大な実験結果ということになる。こんなことができるのはアメリカくらいでありまして、1990年代の日本はそんな冒険をする見識も気概もなく、ずるずると悪化を放置したわけであります。

〇まあ、今のわが国のコロナ対策を見ていればよくわかりますよね。国民を50万人も死なせちゃうけど、ワクチンを作って派手に救済に向かうのがアメリカ。皆で我慢して被害を小さくとどめ、その代わりに政府の対策は何をやっているのかわからないのが日本。まあ、私は後者の方が好ましいと感じるものですが。


<3月14日>(日)

〇最近、アメリカの外交論壇が活発になってきたと思う。それまでは一線級の知性がどんな提言をしても、トランプ政権下では「モノ言えば唇寒し」で、まともにとりあげてもらえなかった。しかるに今の大統領はバイデンさんで、この方は政局の人であって、政策については下の意見を丁寧に聴いてくれる。だったらシンクタンク業界が活性化するのは当然のことだろう。

〇現にバイデン外交は「ミドルクラスのための外交」を標榜しているが、これの元ネタは昨年9月に発表されたカーネギー財団の提言にある。メンバーには国家安全保障担当補佐官になったジェイク・サリバンが入っている。つまりバイデンさんは、大統領としてこのアイデアを丸ごと買った、ということになる。

〇個人的にはこのアイデアはちと怪しいと思っている。アメリカでミドルクラスが没落したのは外交政策の結果ではなくて、経済政策の結果であろう。そしてこの10年くらいの米国経済は、しっかり成長しているわけだから、単純に分配が失敗していることになる。そこを是正したいのなら、ちゃんと国内政策を変えれば良いはずである。ところが政治的にはそうもいかなくて、「トランプ支持者」を奪い返すために通商政策などを変えなきゃいかん、といいう自覚があるのだろう。それでは限りなくトランプ主義に近づいてしまうのだが。

〇それはさておいて、これから先の注目は対中政策である。そろそろ対中政策の決定版的な提言が出るんじゃないかなあ、と思っていたら、1月に"Longer Telegram"とか「新X論文」と呼ばれるものが登場した。出元はアトランティック・カウンシル。最近ちょっとお懐かしや的なシンクタンクである。

〇「より長い電文」というだけあって、無茶苦茶長い。なんと85ページもある。こんなものを読んでいられるか!と思うあなたは間違っていない。親切なかんべえさんがいいことを教えてあげよう。元外務官僚で参議院議員の松川るいさんが、ご自分のホームページで要約を紹介してくれている。いやあ、松川さん、助かりますっ!

〇ちなみに冷戦時代の対ソ戦略の決定版が、外交官ジョージ・ケナンがモスクワから送った長文電報(8000語くらい)であった。ケナンはのちに国務省の政策企画局長に登用され、この内容をフォーリンアフェアーズに「X論文」として発表した。これがアメリカの「対ソ封じ込め」政策の源泉となった。外交政策について一家言ある人ならば、かならず知っている有名なお話である。

〇そこで今回は、「より長い電文」と称する匿名論文が、対中政策バージョンとして登場したわけである。が、ケナンの場合はともかく、なんで匿名なんだろう。おそらくはこの論文の作成には、中国専門家が複数関与していて、その中にはかつての「親中派」が入っているからではないかと思う。たぶん2019年に"China is not an enemy"という意見広告に署名したような、良識派の中国専門家や外交有識者が参画したんじゃないだろうか。いや、これは単なる「下種の勘繰り」というものだが、「21世紀のX論文」と言いたいだけで匿名にしたのだとしたら、単純にカッコ悪いよね。

〇で、この新X論文に対する評価は、今のところあまり芳しいものではない。その辺のことについても、松川るいさんがまとめてくれている。まことに助かります。新X論文のキモは、「まず習近平を切り離せ」というものである。中国共産党内には今の習体制に逆らう人が少なくないのだから、全集中の呼吸でこれを排除すれば、元のように穏健な中国に戻ってくれる、という発想がある。

〇ワシなんかも似たようなことを考えていて、前号の溜池通信で書いた通り、今年で100年を迎える中国共産党はいわば「成功のジレンマ」に直面していて、これまで成功してきた統治スタイルを自己破壊しつつある。たぶん習近平による「新しい統制」はどこかで行き詰って、中国経済の成長鈍化をもたらすんだろうなあ、などと考えている。

〇もっともそんな保証はどこにもないわけであって、習近平がうまくステージから去ってくれたとして、スターリンが死んだ後のソ連と似たようなことになるのかもしれない。あるいは松川さんが指摘する通り、「中国が韜光養晦に戻ってくれればそれでいいのか?」という疑問もあろう。

〇それから「中国に対してレッドラインを示せ」という提言もある。例えば「台湾への軍事攻撃はアメリカにとってのレッドラインであるぞよ」と中国に明確に示すべきだ、というのである。確かに今までのように、「戦略的曖昧性」でごまかしておくよりは、その方が良いかもしれない。香港があんなふうになった後は、次に台湾の自由が危うくなるのは間違いのないところである。

〇ただしこのレッドラインに、「尖閣諸島の占領」を入れるべきかどうかは、日本としても悩むべきポイントではないかと思う。アメリカがそれを保証してくれた場合、一見ありがたいことに思えるかもしれないが、偶発紛争が発生する確率は急速に上昇する。そしてかつての「オバマのシリア」のように、アメリカにはレッドラインをシカトした前科もある。「安全神話」を求めたがために、かえってリスクを高める、なんてことは古来よくある話です。

〇ともあれ「新X論文」が登場したことは、アメリカの外交政策論議にとってまことに良いことだと思います。名論卓説は、常に玉石混交の中から誕生する。極論すれば、シンクタンクの仕事というものは9割9分までは無駄ダマに終わるものです。大事なことは、対中政策について「ワイワイガヤガヤ」という状態を作ることにより、内外の知恵をここに集結することにある。これはトランプ時代にはなかったことでした。

〇強いて言えば、トランプ時代には「中国が悪いのではない、中国共産党が悪いのだ」というテーゼが誕生している。ポンペオやポッティンジャーが深めてくれたアイデアである。今回のX論文は、それを一歩前進させたものなのかもしれない。つまり「中国共産党が悪いのではない、習近平が悪いのだ」と。まあ、こんな風に中国の内情について理解を深め、議論を戦わせていくことが肝要なのであります。だって面白いでしょ、こういう話。


<3月15日>(月)

〇アメリカからブリンケン国務長官とオースティン国防長官が来日。明日は日米「2+2」会合が開かれます。日本側のカウンターパートは茂木外務大臣と岸防衛大臣となります。

〇この「2+2」ですが、近年ではほとんど毎年のように行われている気がする。それでは本来の由来はどうだったかというと、こんな風に外務省が説明してくれています。もともとは日米安保条約(1960年)に始まったものなのですね。しかも当初は、アメリカ側の出席者は駐米大使と太平洋軍司令官だった。当時はまだ日本は敗戦国の歴史を引きずっていたのだなあ、と感じさせられます。

〇1990年からアメリカ側が国務長官と国防長官になった、とのこと。これは冷戦も終結したし、日本も経済大国になったし、ということなのでしょう。あるいは当時の湾岸危機を反映したものだったのかもしれません。当時の日本はまだ防衛「庁」の時代で、防衛庁長官は肩身が狭い思いをしていたくらいでしたけど、こういうことはどんどん忘れられていくのでしょうな。

〇さて、2011年6月には、約4年ぶりに「2+2」が行われていて、これは震災後の日米協力「トモダチ作戦」に伴うものでした。なにしろ福島の原発事故のご相談に乗ってもらった上に、当時は菅直人民主党政権だったのですよね。あの頃の日本国内の混乱ぶりは、当時の溜池通信(原発危機対応と日米関係、2011年4月22日)を読み返していただくのが、いちばん身に沁みるかと存じます。

〇ちなみにこの年の8月にはバイデン副大統領(当時)が宮城県名取市を訪れています。これは仙台空港が、米軍の協力のもとに再開できたことを記念したもの。当時の日米会談の記録が外務省のHPに残っています。なーんと、ブリンケンはこの時はバイデン副大統領の補佐官で一緒に訪日していたのですな。

〇来月上旬にも菅義偉首相が訪米するとのことですが、バイデンさんに会ったら何はさておき、10年前のトモダチ作戦のお礼を言ってほしいと思います。何か仙台の名物でもお土産にするのはいかがでしょうか。といっても、牛タンというわけにもいかんでしょうけれども。


<3月16日>(火)

〇先週のクワッド(日米豪印)オンライン首脳会談は、「チャイナ」とはほとんど言わずに済ませていますが、今日の日米「2+2」は対中警戒のオンパレード。こういう使い分けが大事なんですよね。なおかつ、この後はアンカレッジで米中外相会談が行われる。

〇王毅外交部長のみならず、楊けっち国務委員が出てくるところを見ると、中国側はかなり本気。アメリカ側の招待だと言い張っていますが、ブリンケン氏は「給油のついでに会ってやる」という態度ですから、そんなわけないですよね。だいたいアンカレッジでどうやって外国の客をもてなすんでしょうか。聞けば昔の日本人は、訪米する際はかならずアンカレッジ空港でうどんを食べたそうでありますけど。

〇こんな風に、日程や順序がモノを言うようになっているのは、文字通り"Diplomacy is back!"ですよね。トランプ時代には絶えて久しくなかった現象で、これがバイデン外交のやり口ということになります。バイデン時代は大統領本人が目立たないので、脇役に焦点を当てる必要があります。めんどくさいですが、これはこれで楽しい作業です。やっと本来の世界に戻りつつあるというか。

〇他方、日本外交としては「大船に乗った気分」でいてはいけません。今朝の日経にこんな記事が載っております。


●対中国、崩れた米軍優位 日米2+2立て直しが急務 本社コメンテーター 秋田浩之


〇つまり「バイデン政権が日米結束を急ぐのは安全保障上、世界で台湾海峡や日本周辺がいちばん危ないとみているからだ」ということになります。こんなことまで書いちゃっていいのでしょうか。


米メディアによると、状況は極めて深刻だ。台湾海峡をめぐる図上演習ではここ数年、米軍チームがほぼ決まって中国軍チームに惨敗している。しかも18年ごろから、負け方はよりひどくなっているという。米軍幹部や元米高官の話として伝えた。

日本でも安倍前政権下で、複数の図上演習がひそかに行われた。さまざまな日本周辺有事を想定したもので、インド太平洋の米軍と自衛隊を合わせても中国軍に劣勢を強いられかねない結果となり、日本政府内に衝撃が広がった。


〇一方で立ち上がりが遅れているアメリカの対欧州、対中東外交に比べて、対アジア政策はこれまでのところテンポがいい。これはアメリカ側の危機感もさることながら、アジアにおける中国の評判があまりに悪いために、豪州やインドがスッと味方に付いてくれたから、という事情が重なっている。言ってみれば、「敵失」にも助けられている。米中対立というものは、つまるところミスが少ない方が勝ちになるような気がいたします。


<3月17日>(水)

〇あらためて確認。こういう日程になっておるのですな。


* 3月12日(金) 史上初のQUAD(日米豪印)首脳会談(オンライン)

* 3月16日(火) 日米「2+2」(東京)〜ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が初の外遊

* 3月18日(木) 米韓「2+2」(ソウル)

* 3月19日(金)  米中外相級会談(アンカレッジ)〜米側:ブリンケン国務長官、サリバン国家安全保障担当補佐官、中国側:楊けっち国務委員、王毅外交部長

* 3月19日(金) オースティン国防長官がインドを訪問


〇あらためて勝負なのは、アンカレッジの米中外相級会談ということになりますな。日米と米韓はあくまでも「前座」で、「ホップ・ステップ・ジャンプ」ということになります。

〇もっとも北の脅しに屈して、韓国が腰砕けになっちゃうんじゃないかという嫌な予感もある。北から見れば、今の文在寅政権は笑いが止まらんでしょうな。あまり期待せずに見守りたいと思います。


<3月18日>(木)

〇こんなことを言うのも腹立たしい限りなのだが、この週末には千葉県知事選挙というものがあって、ワシにも投票権がある。が、市役所から届いた手紙がどこかへ行ってしまったこともあり、本当に投票せねばならぬのか!こんなひどいメンツで!と思われて仕方がない。

〇そしたらですな、「永田町ディープスロートさん」が、グッチ―ポストで「泡沫候補の変遷」という絶妙な寄稿をされている。のっけからこんなことをのたまう。


近年、泡沫候補は、東京都知事選を契機に認知度を上げて来た感がありますが、3/21投開票の千葉県知事選では、かなり型破りな泡沫候補が複数エントリーし、SNSや大手メディアでの露出が目立っています。圧倒的なリードを誇る大本命である元千葉市長の熊谷俊人氏や、自民党が推薦する元千葉県議の関政幸氏がすっかり埋没してしまっていると感じるくらいです。


〇以下、次のように続くわけでありますが、いやはや泡沫候補というのも深いものがあるのですね。不肖かんべえも多少は存じ上げているつもりでありましたが、世の中はここまで来ておったのですか。


●有名泡沫候補列伝

●新たなる泡沫候補たち:選挙は自己表現だ!

●泡沫候補のさらなる進化:N国、YouTube、2020年東京都知事選

●泡沫候補たちの競演:2021年千葉県知事選


〇さらに最後の以下のコメントに対して、ワシ的には一種の緊張感が走るものである。


その傾向は、去年の都知事選や、今回の千葉県知事選でさらに強くなったように感じます。何となく、トランプ前大統領の影響も感じなくもありません。

YouTuberとのシナジーもあり、今後、泡沫候補者はますます増えるかもしれません。もしかしたら、政党の推す「ガチ」の候補者すら、泡沫候補的な発信の手法を真似てくるのではないかと思います。これも、アメリカでは、共和党にそのような雰囲気が漂っている感もあります。


〇民主主義は果たしてどこに向かっているのであろうか。悩ましき今週末の決断である。


<3月19日>(金)

〇米中外相級会合、冒頭からカメラの前でお互いに罵り合うという、なかなかに香ばしい展開になっております。こんなことになるようですと、冒頭のカメラ撮りという習慣も善し悪しですな。中国に「戦狼外交」の機会を与えてしまうことになりますから。

〇まあ、楊けっちさんと王毅さんは中国共産党内部であんまり偉くない。7人の常務委員会メンバーに入っていませんからね。逆にアメリカではブリンケン国務長官は最重要閣僚ですし、サリバン国家安全保障担当補佐官も大統領の腹心ということになっています。そういう意味ではお互いのバランスがよろしくない。中国側の外交官お二人は、上に対して「こんなに頑張っているんですぅ」と訴えなければならない立場なのであります。

〇さて、カメラ撮りが終わった後はどんな話になっているのでしょうか。そして明日はどうなるのか。よくわかりませんが、この後の報道に注目しましょう。


<3月21日>(日)

〇米中外相級会合を終えたブリンケン氏とサリバン氏、記者団に向かってこんなことを言っています。日本でいう「ぶら下がり会見」というやつですな。


●Secretary Antony J. Blinken and National Security Advisor Jake Sullivan Statements to the Press


SECRETARY BLINKEN: Good morning, everyone. I just have a couple of things to say. Jake and I spent several hours in conversation with our Chinese counterparts over the last couple of days. And we certainly know and knew going in that there are a number of areas where we are fundamentally at odds, including China’s actions in Xinjiang, with regard to Hong Kong, Tibet, increasingly Taiwan, as well as actions that it’s taken in cyberspace.

And it’s no surprise that when we raised those issues clearly and directly, we got a defensive response. But we were also able to have a very candid conversation over these many hours on an expansive agenda. On Iran, on North Korea, on Afghanistan, on climate, our interests intersect. On economics, on trade, on technology, we told our counterparts that we are reviewing these issues with close consultation with Congress, with our allies and partners. And we will move forward on - in a way that fully protects and advances the interests of workers and our businesses.

But just to take a step back for a moment, the two things that we wanted to do in coming here and meeting with our Chinese counterparts: first, we wanted to share with them the significant concerns that we have about a number of the actions that China’s taken and the behavior it’s exhibiting - concerns shared by our allies and partners. And we did that. We also wanted to lay out very clearly our own policies, priorities, and worldview, and we did that too.


〇いやあ、2日間で5〜6時間もやりあったそうですけど、まことにお疲れ様でありました。冒頭のオンレコ部分の厳しい応酬ばかりが目に付いてしまいましたが、その後のクローズドドアーの状態ではイランや北朝鮮、アフガニスタン、気候変動、経済面では貿易や技術も議題に上がったそうであります。

〇アメリカの歴代政権というものは、総じて最初は中国に対してきつく当たり、それからだんだん態度を軟化させていったものでありまして、クリントン政権やジョージ・W・ブッシュ政権はまさにそうでした。ところが直近の2代、オバマさんとトランプさんは逆にやったのですね。つまり最初は緩くやって、後から厳しくした。どうもそれはあんまりよくないようなので、バイデン政権は古いパターン、つまり「最初は衝突」というやり方を選んだようです。

〇それにしても、@イラン、A北朝鮮、Bアフガン、C気候変動、という順序は記憶しておく値打ちがありますね。つまりバイデン政権は、やっぱりイランで何かしたいと思っているし、気候変動にそれほどのめりこんでいるわけでもない。北朝鮮を忘れているわけでもないし、それからアフガンからの完全撤退も狙っているのでしょう。

〇ガチンコで対決しているようなときでも、米中両国には5〜6時間かけて話し合う課題があったということです。そっちの方も見ておかなきゃいけませんね。


<3月22日>(月)

〇今朝のモーサテ、スタジオに入ってみたら、来週からの新しいセットが建設中であった。これで来週になると、セットだけじゃなくてキャスター陣も入れ替わってしまう。そして佐々木あっこさんは、夜のWBSに登場することになる。つくづくテレビ東京は人遣いが荒い、普通はこういう時には半年くらい、充電期間とかあるのではないのかなあ。

〇それでもこうやって変わっていく番組を楽しめる経験はありがたいことである。2009年4月に初めてこの番組に出始めた頃は、5時45分始まりだが6時半には終わり、池谷亨キャスターが職人芸で引っ張っているような不思議な世界であった。12年後の今は番組は7時5分までとなり、コーナーもいっぱいできて、CMも含めてまことに盛りだくさんの番組となった。

〇コロナがあろうがバブルがあろうが、それでもマーケットに終わりはなく、それを伝える番組の需要も尽きることがない。なぜならそこには人間の限りない「欲」があるから。変な話だが、NHKのBSでやっているマーケット番組なんぞはその部分が欠落しているので、まったく無味乾燥なのである。そうじゃなくて、無節操であったり、悪人がはびこったりするところが、マーケットというものの味わい深いところなのでありまして。

〇ということで、今朝もお務めを果たしてまいりました。番組終了後は例によって吉野家で、今朝はねぎラー油牛丼の並盛。スタミナ超特盛り丼にも惹かれるものがありましたが、さすがに年甲斐もないということで断念いたしました。ああ、それにしても朝が早いと一日が長いです。


<3月24日>(水)

〇LINEの個人情報管理に問題があったとか。そりゃあ、そうでしょう。なにしろタダのサービスなんだから。今後は「完全国内化」すると言ってますけど、それだってコストのかかる話なんだから。これで安心になるとか、今後は信用できるなどと考えちゃいけないと思います。

〇同様の理由で、LINE PAYだってあんまり信用しないほうがいい。買い物のプライバシーを確保したいのなら、ちゃんと年会費を払ってクレジットカードを使えばいいでしょう。ワシの場合は、たぶんSUICAとPASMOは大丈夫だと思って使ってますが、それはJRや東京メトロは真正のインフラ会社で商売っ気がないから。でも、IT系会社が提供するタダのサービスは、どこに情報が漏れるかわからない。タダより高い物はない、と考える方がいいと思います。

〇ということで、ワシの場合LINEでやりとりしているのは、町内会のお知らせと上海馬券王先生との競馬の話くらいである。外に漏れても全然問題がありません。世の中には、浮気相手との連絡手段にLINEを使っている人もいるそうですが、ちょっと気が知れませんなあ。

〇少し前に、CIA長官が不倫相手との連絡手段に使っていた方法というのを教えて進ぜましょう。どこかでメールアドレスをゲットして、パスワードを不倫相手と共有する。そしてメールを書くのだけれども、それを発信しないで単に保存する。お互いにメールを上書きしながら、これを何度も繰り返す。発信されないメールは、誰にも感知されることがありません。本気で機密漏洩を警戒する人はこんな手を使う。もっとも「秘密の9割は自分の口から洩れる」との金言も有之、CIA長官の不倫も最後はバレてしまったのですが。

〇さて、昨晩は馬券王先生からLINEで「ABEMAで藤井二冠が凄い将棋をやっているぞ!」というお知らせがあった。慌ててABEMAを見たのだが、哀しいかな睡魔に負けて途中で寝てしまった。今朝になって将棋連盟LIVEを見て、「神の一手、4一銀」の存在をようやく理解した次第である。藤井くん、これは「8七同飛成」を超えましたなあ。歴史に残る名局でありました。


<3月25日>(木)

〇柏市近辺も桜が咲き始めました。と思ったら午後から小雨。おお、もったいない。今年はまだ全然桜を見ていないんだよ〜。思わずこんな心境になってしまいます。


世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし


〇在原業平のこの歌に対し、咄嗟にこんな返歌をした人が居たのだそうです。


散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき


〇言わずもがな、無粋なツッコミというものであろう。きっと業平は、「いやあ、一本取られました」などと心にもないことを言ってごまかしたのであろう。彼はそういうキャラである。

〇ともあれ、この国では1000年も前からこんなやり取りをやっていた。桜をめでる心情は変わっていないということである。それはさておき、どこかでキチンと今年の桜を見届けたいものである。


<3月26日>(金)

〇昨日は在宅勤務で書けなくて苦しんだ原稿が、今日は出社して書いてみたらあっけなく完了した。不思議なことである。まあ、書く仕事というのはそんなもんだ。書けるときは簡単だが、書けないときは苦しむ。上手く書けたらうれしい。出来上がりがイマイチだったときは、サクッと忘れるのが吉というものである。

〇この年度末で、日刊工業新聞で書いていた「グローバルの眼」という連載が終了した。1年前に原稿依頼があったときは、「まあ、コロナで講演会もなくなるし、暇になるだろうからいいか」と思って安請け合いしたのだが、書いてみるとなかなか大変であった。何より「米国経済」というジャンルが決まっているところがツライ。1年分のバックナンバーを見ると、結構苦労したなあ、という思いがする。(ちなみに登録さえすれば無料で読めます。よろしければご覧ください)、

〇とはいうものの、人は苦労がない状態を長く続けてはいかんのです。「コンフォートゾーン」に長く滞留すると、人の能力はどんどん低下してしまう。「このままでは自分はマズいかもしれんぞ」と常に思い知らせることが、能力を一定程度に保つ秘術というものである。

〇そういえばこの年度末で、大阪経済大学客員教授の仕事も終わる。締めて4年間、貴重な経験をさせていただいた。コロナ下の大学はつくづく大変です。そして教育の現場というのは緊張が絶えません。それがわかっただけでも、やってみた甲斐があったというものです。

〇いろんなことが変わる年度末である。来期も「コンフォートゾーン」に安住することがないように、あれこれいろんなことを試したいものだと思う今宵である。


<3月27日>(土)

〇東京大学の久保文明先生の最終講義をZoomにて聴講する。演題は「共和党の過去と現在を考える」でありました。

〇考えてみれば、アメリカの共和党とはつくづく変な政党なのである。「小さな政府」と「タカ派外交」と「銃規制反対」と「強い信仰心」といった政策は、少なくとも日本では受けないはずの組み合わせである。というか、世界的に言っても、そんな政党の存在は考えにくい。アメリカ政治ならではの現象なのである。

〇ところが日本では、安全保障関係者とビジネス界はだいたいが共和党支持である。というか、ワシの周囲などはそんなのばっかしである。しかるに民主党の方が価値観的には日本に近いはずであって、実際にバイデン政権が発足してみると、その目指すところは「持たざる者への共感」とか「信仰よりも世俗主義」であって、「多国間主義で軍事より外交重視」であることにホッとするところがある。

〇逆に共和党は保守政党と言いながら、過激なのである。今日の最終講義ではグローバー・ノーキストの「水曜会」の話が出てきて、「税金への反乱が保守派のDNA」であるという紹介があった。それから最近ではすっかり忘れられているけれども、イラク戦争を扇動した「ネオコン」という過激な集団もあった。さらに今日では「トランピズム」である。いやもう、わけわかんないっす。

〇元はといえば共和党はリンカーンが作った政党で、北部を地盤とする産業資本の政党であった。ロックフェラーのようなお金持ちや、キッシンジャーのような知性を擁していた時期もある。そしてニクソンとレーガンは、いずれもカリフォルニア州知事出身である。今はもうこれらの要素は見る影もありません。はてさて、これからどっちに向かうのか。

〇本棚の中から『G・W・ブッシュ政権とアメリカの保守勢力』(久保文明編・日本国際問題研究所)という本を取り出しました。2003年9月に出た本で、確か中山俊宏先生から頂戴した。当時はイラク戦争から半年後で、「こんなことをやってしまうアメリカってどうなっているんだ?」と皆がビックリした状態であった。本の帯には「なぜブッシュ政権はこれほど保守的であり、なぜその外交政策はこれほど強硬なのか――。」とある。

〇本には折り目が付いていたり、線が引いてあったりして、せっせと読んだ跡がある。もう20年近く前のことになりますけど。いやあ、今もサッパリ分からない。「共和党って何なんだ?」「これからどうなるんだ?」。――いや、別に民主党がわかっているわけでもないんですけどね。


<3月29日>(月)

〇アメリカで物価上昇は起きるのだろうか。これは結構、多くの人が悩んでいるテーマではないかと思う。「インフレなんてもう起きないよ」と考えるか、「そんなことは起きてから考えればいい」と割り切るか、それとも「バブル崩壊の引き金になりかねない」と身構えるか。いかんせんインフレを体験したことがない人が世の中に多くなっているので、「物価が上がるってピンとこない」という声が多いようである。

〇ワシなどはかろうじて中学生時代が第1次石油ショックなので、「狂乱物価」なるものの怖さをちょっとだけ覚えている。ただし終戦直後のインフレで銀行預金が引き出せない、財産が吹っ飛んだ、なんて怖さはもちろんわからない。ブラジルやトルコの事態も多くの人には他人事であろう。さて、こんな時代にどうやってインフレを議論すればいいのか。

〇たまたま先週土曜日の朝、いつも通りマネースクエアの「グローバルビュー」を見てみたら、西田明弘さんがGDPギャップのことをタコ焼き屋で説明していた。うーむ、これは素晴らしい。というか、さすが関西人。佐藤輝明外野手の先輩というだけある。

〇つまり1日にタコ焼き1000個作れるとしたら、これが潜在GDPである。それが1日600個しか売れないのであれば、当然、値上げはできない。それが景気が良くなってタコ焼きが売れるようになり、1000個を超えるようになってくると、タコ焼き屋さんも新しい機械を導入したりしなければならない。そうなれば、いよいよ値上げが可能になってくる。

〇リーマンショックからこの方、1日に500個くらいしか売れない状態が長かったタコ焼き屋さんは、去年もコロナで打撃を受けた。あ〜あ、このまま不況が続くかと思っていたところ、ここへきて、「巣ごもり消費」や給付金があったりするもので、タコ焼きが売れ始めた。最近は1日に900個くらい売れたりする。これはひょっとすると値上げができるのではないか。PCEコアデフレーターも、今後は前年比で2%を越えてくるかもしれない。

〇いや、ワシは今朝のNHK第1「マイあさ!」でアメリカの「高圧経済」について説明したのだけれども、「アスリートが練習を半年くらい休んだら、それを取り戻すのに時間がかかるでしょ?」みたいな言い方をしたのである。これって経済学的じゃないよね。喩えとしては、タコ焼き屋さんの方がはるかに優れている。

〇ということで、タコ焼き屋さんを使っていかにインフレを説明するかをこれから考えたいと思うのである。しかし関西人は、あの旨い豚まんの「551」はあれだけ行列ができても値上げを許さないのだから、この議論はそもそも出だしから間違っている怖れもあるのだが。

〇それはさておき、西田さん、阪神タイガースが開幕3連勝ですよ。首位ですよ。やっぱり今年は期待していいんじゃないでしょうか。明日の広島戦も行けちゃうんじゃないでしょうか。NHKのBS-1で放送してくれるみたいだから、ちゃんと見なきゃいけませんな。


<3月30日>(火)

〇ただの気のせいであればいいのですが、最近は日本企業に関する事故が多いですな。


*スエズ運河における正栄汽船エバーギブン号の座礁。年間1.9万隻の航海動脈に激震(3/23〜)
 ――1週間にわたって通行できず、450隻が待機。海上保険の請求額はどれくらい?

*ルネサス(那珂工場)の火災。車載向け半導体不足に拍車(3/19〜)
 ――クリーンルーム内のメッキ工程から出火。3/11震災以来の事態。在庫もひっ迫

*みずほ銀行のシステム障害。4月の頭取交代が白紙に(2/28〜)
 ――ATM5891台のうち7割が停止。2週間で4度の障害。

*東電柏崎刈羽原発でテロ対策不備が発覚。規制委員会が初の「赤」判定。(3/16)
 ――再稼働が難しくなれば、経済産業省のカーボンニュートラル政策にも暗雲漂う。

*野村HDの子会社がNYで約20億ドル損害の可能性。
 ――ヘッジファンドによる大型損失か?


〇何というか、コロナのせいで組織に疲労が溜まっているのではないでしょうか。明日は年度末。気持ちを切り替えて、2021年度に向かいたいものです。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki