●かんべえの不規則発言



2005年9月





<9月1日>(木)

〇今宵はメディア関係者の集まり「一の会」が復活しました。いやあ、大勢集まりましたな。幹事はいつも通り、岡本さん田中さん。ほかにも、いろんなネット有名人が来ておりました。ブログ時評の団藤さんには初めて会いました。中岡さんもお久しぶりでした。『1985年』を読んだよ、と言ってくれる人が多かったのはうれしかったですね。とくに神谷さんのお眼鏡にかなったのは光栄でした。やっぱり、こういう会を時々やってほしいですね。

〇防災の日の本日は、アメリカではハリケーンで死者が数千人に達するとのこと。神戸大震災クラスの災害です。来週の『SPA!』ニュースコンビニの原稿を、昨日入稿したばかりなのですが、不思議とその直後に大事件が起きる。ゲラをチェックしながら、諸行無常の念を感じましたな。

〇ところで今日の最大の話題は岐阜1区の刺客、佐藤ゆかりタンの不倫問題。別にどうだっていいんですが、エコノミスト業界にとっては大きな打撃なのではないかと。以前から著名なエコノミストと言えば、手鏡で捕まっちゃったり、「年収300万円で秋葉原で萌え〜」というオタクだったり、めずらしく美人が出てきたと思ったらダブル不倫とは。このままだと、すべてが同類と見なされてしまうんじゃないでしょうか。ちなみに佐藤ゆかりタン関連情報はこちらに豊富に出ております。冒頭のポスターがいいですなあ。

〇そうそう。民主党の現状について、らくちんさん卓抜な指摘をしています。

とうとう「日本を、あきらめない」をスローガンにした民主党のCMを見てしまいました。何だかこのスローガンは、自分たちの一番弱いところを目立たせているようにさえ見えます。民主党というのは、そもそも、政党にしろ、リーダーにしろ、政策にしろ、いろんなものをすぐにあきらめて、見捨てて来た人の集まりといえなくはありません。よりにもよって、そういう政党が、「あきらめない」なんてまじめな顔をして言うと、「あ、本当は、やっぱり、あきらめる気だったんだ。」と思ってしまいます。(中略)

しかし、そうした「あきらめ癖」のある人達が、自らまじめな顔をして、「あきらめない」なんていうのは、僕には、品の悪いギャグにしかみえません。元自民党の怖い顔をした腹黒そうなベテラン政治家が、「弱肉強食の政治に反対」といっているのと同じくらいこっけいです。

〇本当に同感です。早く間違いに気づいてもらいたいですね。


<9月2日>(金)

〇んー、今日は今週号を書くのに疲れてしまったから、不規則発言は手抜きです。今週は疲れたー。


<9月3〜4日>(土〜日)

〇選挙までいよいよ1週間。あらためて感想はと言えば、今週号と先週号で書き尽くしてしまっているので、さしたるネタも残っていない。ネット上をあちこち覗いてみると、bewaardさんが今週号を引用してくれていた。サンキュ。

〇とりあえず以下は、2ちゃんねるで拾った各紙の情勢分析。とりたてて意外感はない。


●各新聞社の情勢分析まとめ

    朝日   毎日    共同  日経  東京  読売

自民 255 248〜294 260  251  264  208〜289
民主 163 124〜165 147  159  150   91〜199
公明  28  27〜 33  35   35   34   31〜 38
共産   8   9〜 11  10    9    7    8〜 12
社民   8   5〜  9   7    7    3    4〜  8
国民   1   1〜  2   2    2    2    2〜  3
日本   2   0〜  0   0    0    ?      ?
大地   1   1〜  1   1    0    ?      ?
無所  15  14〜 16  18   17 反対のみ16   ?


〇日曜午前のテレビでは、例によって党首討論をあっちこっちでやっている。いつものことだが、見ていてすぐ飽きる。どうせ勝負はつかない。やっぱりこの時間帯は、NHK教育テレビの「羽生四冠王対中座五段」の方が面白い。勝負は羽生が、相手側が合い駒できないことを見透かして、きれいな即詰みに討ち取った。いつものことながら、羽生の勝ちっぷりはきれいでしびれます。

〇ところで今日の午後は、とっても面白い映画を見ました。『マダガスカル』です。次女Tがいなかったら、絶対に見ない映画ではあるのだけれど、これだけ脚本がしっかりしていて、キャラクターが上手に書き込まれている映画は久しぶりです。まあ、大人が一人で見に行くタイプの映画ではないでしょうが、入場料を損しないことだけは請合いましょう。特にペンギンたちの腹黒さがサイコー。


<9月5日>(月)

〇いつもチェックしているギャラップのHPで、先週からこの記事が気になっていました。8月30日発表の、"Nearly Two in Three Consumers Say the Economy Is Getting Worse"(消費者3人中2人までが経済は悪化していると回答)。調査が行なわれたのは8月22〜25日なので、この結果はカトリーナ台風とは無関係です。この調査によれば、米国経済が「良くなっている」と答えたのは28%で、「悪くなっている」と答えたのが63%にも達した。これはイラク戦争勃発直前の、2003年3月以来の低水準。

〇少なくとも経済指標を見る限り(とくにカトリーナ台風が来る前までは)、米国経済は怖いものなしに見えてしまうのだが、消費者の受け止め方はずいぶんと違うらしい。おそらくアメリカ人の景況感にもっとも大きな影響を与えているのは、ガソリン価格なのであろう。そのことは、下の表が何よりも雄弁に物語っている。

  ガソリン価格($:1ガロン) 「悪くなった」比率(%)
1月初め 1.78 42
2月初め 1.91 44
3月初め 2.00 50
4月初め 2.22 56
5月初め 2.24 61
6月初め 2.12 55
7月初め 2.33 54
8月初め 2.37 52
8月終わり 2.61 63


〇1ガロン2.6ドルといったら、それでもまだ日本価格よりも安いはずなのだが、現地の感覚から言ったら、ほとんど「殺人的」な水準であろう。そこへカトリーナが来たせいで、1ガロン3ドルだとか、そもそもガソリンスタンドが休業中、なんて現象も始まっているらしい。なにせアメリカ人の暮らしときたら、牛乳1本買うにもクルマに乗ってしまうのである。

〇今回の被災地は、原油や天然ガスの生産地であるというだけでなく、全米の石油精製施設の約半分が集中している地域である。このうち4割程度が被害を受けたといわれている。今後、全米のガソリン供給に問題が出るのは火を見るよりも明らかだ。なにしろ精製設備が動かないとあれば、たとえば米国政府が原油の戦略備蓄を放出したところで、国内にガソリンは出回らないのである。海外から直接、石油製品を買ってくるしかないが、それにしたって時間はかかるし、安くはならない。

〇しかしこのカトリーナ台風、とりあえずは社会問題ですが、すでに政治問題となり、ブッシュ政権を苦しめ始めています。ポール・クルーグマン教授曰く、「ニューヨークのテロ、サンフランシスコの地震、ニューオーリンズの台風」はアメリカの三大危険と、以前から分かっていたとのこと。ほとんど、神戸大震災後の村山政権のようなものですね。

〇それだけでなく、経済問題としてのマグニチュードも相当なものかもしれません。ガソリン価格と消費者センチメントだけじゃなくて、保険会社などのコストもありますからね。


<9月6日>(火)

♪わたしは陽気なアラバマ男

ルイジアナ目指してはるばる行くよ

(中略)

♪おースザンナ、待ってておくれ

聞かせてあげるよ わたしの歌を



〇というフォスターの歌は、今でも小学校の音楽の教科書に出ているのだろうか。もちろんそれが本題ではなくて、何が言いたいかというと、この歌にでてくる2つの州、アラバマルイジアナの間にはミシシッピ州があるので、この歌の主人公はバンジョーひとつをぶら下げて、今回のハリケーン・カトリーナの被害地を、東から西へと旅したことになる。3つの州をあわせると9万平方マイル(23万3099平方キロ)だそうだから、日本の総面積の3分の2くらいに相当する。果たして、スザンナは待っててくれたのかどうか。

〇さて、ディープサウスと呼ばれるこの地域は、典型的なレッドステーツ(共和党支持州)である。最近では、支持率が4割ギリギリまで落ち込んできているブッシュ大統領だが、それでもこの辺はまだまだ「票田」のはず。そんな場所で大災害が起きてしまい、「救援が遅い」「ツーリトル、ツーレイト」「州兵の3割がイラクに行っていたから、こんな目に遭った」「中東のガルフに気を取られて、国内のガルフを忘れていただろう」などと非難を浴びている。まあ、いちいちもっともであるがな。

〇面白い調査があって、ここをご覧あれ。アメリカの各州ごとのブッシュ政権支持率が一覧表になっている。8月中旬の時点で、全米平均のブッシュ支持率は41%、不支持率は55%であるが、これを州単位で見ると、支持が不支持を上回っているのは、50州のうちで10州しかない。幸いなことに、ブッシュはもう選挙をしなくてもいい立場だが、オハイオ州が37%対60%になっているのを見たら、ケリー上院議員はなんと思うのだろうか。

〇で、ブッシュが高い支持を得ている州から順に並べるとこうなるのである。

  支持 不支持 NET支持 選挙人数
1 アイダホ 59 36 23 4
2 ワイオミング 58 38 20 3
3 ユタ 57 38 19 5
4 ネブラスカ 55 42 13 5
5 テキサス 54 43 11 34
6 アラバマ 52 45 7 9
7 ノースダコダ 51 45 6 3
8 モンタナ 50 45 5 3
9 オクラホマ 50 46 4 7
10 ミシシッピ 49 47 2 6
11 ルイジアナ 48 48 0 9
12 ノースカロライナ 47 47 0 15


〇「今でも大統領を支持しています」というのは、ブッシュの地元であるテキサス以外では、人口の少ないロッキー山脈州と、後はこのディープサウス州くらいしか残っていないのである。なおかつ、ディープサウス3州は選挙人の数がわりに多い方である。これが何を意味するかと言うと、「今度の災害のせいで、ブッシュ支持率は初めて4割を下回るかもしれない」ということである。

〇かんべえは、「ブッシュ支持4割は岩盤のように固い」と言い続けてまいりました。実際、2004年の大統領選挙でも、ギャラップでチェックする限り、一度も4割を下回ることはなかった。それがあるから、何があっても「ブッシュは強い」と言い続けることができたわけである。その岩盤の底が抜けたらどうなるか。やっぱりレイムダック化でしょうね。ブッシュの任期は、いちおう2009年1月まであるわけですが。

〇昨年11月2日の選挙で大勝し、「この政治的資源を使う」とまで言っていたブッシュ大統領は、今や断崖絶壁に立っている感がある。これまでで最大のピンチかもしれません。と思うと、ちょっと感慨深い。


<9月7日>(水)

〇大きな災害に直面すると、世の無常と非情を感じるとともに、「人間の運とは何だろう?」という思いに駆られます。昨日も書いた通り、ハリケーン・カトリーナがブッシュ政権に与えたダメージは相当なものですが、日本を訪れた台風14号は小泉さんを助けてしまいました。劣勢が伝えられる野党側は、台風のせいで選挙当日までの貴重な残り時間のうち、ほとんど丸2日がつぶれてしまった。逆に小泉首相は、さくらさんによれば「晴れ男」ぶりを見せつけたとか。小泉豪運伝説にまた新たな1ページが加わりました。

〇実際、台風14号は全国で少なからぬ被害を残してはいるのですが、「諫早湾に上陸したけど、あの評判の悪い堤防が役に立った」とか、「四国では一発で水がめが満杯になった」といったという話もあったりする。逆にアメリカでは、FEMAをリストラした後であったとか、避難命令を出したけど逃げ遅れたとか、めぐり合わせの悪さが目立ちます。今頃、ホワイトハウスでは、「コイズミ、お前の、お前の運をワシにくれや〜!」とブッシュ大統領がうめいているかもしれません。

〇と、つい『哭きの竜』(知らない人は、その方がまともです)を思い出してしまったのだが、あのマンガには現在の民主党、岡田代表にピッタリのセリフが少なくない。「器じゃない、器じゃねえよお」「あんた、背中が煤けてるぜ」・・・・・って、いかんいかん、この話題に深入りするのは止めましょう。このマンガの名セリフを楽しみたい方は、後でここでも読んどいてください。とにかく、小泉さん、明日あたり、激励ためにブッシュさんに電話してあげたらいいかもしれませんね。喜ばれると思いますよ。

〇運、不運はあちこちに飛び火します。当面は国内問題で手一杯になったブッシュ大統領は、胡錦濤国家主席に電話して、本日予定されていた米中首脳会談をドタキャンしました。訪米を"State Visit"にするために、あらゆる秘術を尽くしていた中国外交当局としては、納得できない予定変更でしょう。この機に良好な米中関係をアピールしておくはずが、このままだと9月下旬のG7会議でいきなり「人民元改革問題」が持ち出されることになります。しかも、"State Visit"の再調整は越年しそうですから、踏んだり蹴ったりでしょう。おそるべしカトリーナ。

〇自然災害という予定外の事件によって、誰が得をして損をするのか。政治の世界が面白いのは、「運不運」があるからといっても過言ではないと思います。日々を漫然と過ごしている者にとっては、運も不運もたいした意味を持ちません。ギリギリのところで勝負している人間たちにとってだけ、運は大きな意味を持つ。投票日までは後3日を残すのみ。


<9月8日>(木)

〇来月、台北において、「日米台三極対話」の続編が予定されている。ということで、本日は岡崎研究所で密談あり。台湾から来ているE氏に、最近の台湾情勢についていろいろ伺う。政治や安保の話もさることながら、眠気が吹っ飛んだのは経済の話である。「台湾の経済界における現在、最大の関心事は何か」――それはですな、「東南アジアの再発見とインドの新発見」なのだそうだ。

〇昨今の日本企業は「ポスト中国市場」を求めて、インド経済への関心が急速に高まっている。ところが残念なことに、インダス文明やタージ・マハールのことを研究している人はいても、現下のインド経済について詳しい人がいない。そのため、「インド経済について詳しい人を知りませんか?」という問いをそこらじゅうから聞く。同じことが台湾で起きているらしい。

〇もうひとつ感心したのは、「今、インドがいちばん恐れていることは何だと思いますか?」という点。答えは「中ロの軍事演習」なのだそうだ。ユーラシア大陸における三大勢力(核も持ってるぞ)といえば、ロシアと中国とインド。インドは昔からロシアの武器を買っているので、ロシアと共同で中国と対峙しているつもりでいた。ところがロシアはカネに目がくらみ、中国の軍門に下ったようである。かくてはならじ。ということで、インドがもっとも警戒しているのは、昨今の中ロの接近である。

〇ところがですな、日本はこういう点をまったく理解してくれない。インド向けのODAが中国向けを超えたから、それでいいだろうみたいな考えでいる。「そういう点で、インドには日本に対する不満があるのです」とのこと。その点、台湾はいつも軍事的な緊張感にさらされているので、インドの警戒感がよく分かる。なーるほど。

〇夜、同期入社のラガーマン、K氏から「相談がある」とめずらしく殊勝な申し出があるのに付き合う。赤坂の和喜で会ったところ、案の定、良からぬことを考えている。止めて聞くような相手ではないので、ふんふんと拝聴する。こういう昔ながらの元気のある商社マンが、絶滅の危機にさらされていることは、なかなかに困ったことである。

〇赤坂の「かずき」の後で、烏森の「はづき」に伺う。ここはワクワク投資広場に棲息するうっちーさんこと内山敏夫御大の根城。先週末にオープンしたところで、今日は初めて店の看板ができた日であった。うっちーさんには会えなかったけれど、「9月11日夜、選挙特番をパソコンテレビギャオで放映する際に、うっちーさんがMCを務める」という話を聞いてまたまた眠気が覚めた。以前からUSENが、ギャオで情報番組をやると聞いていたけれど、「うっちーさんを使えばいいのになあ」と思っていたところである。ということで、政治オタクの皆さま、「選挙ギャオ」にご注目ください。


<9月9日>(金)

〇ここへ来て、「自民党大勝」どころか「圧勝」ではないかという観測が増えてきた。こんなことは別にナイショでもなんでもなくて、各紙の世論調査結果を丁寧に読み込んでいけば、かなり正確な予想値が出るものである。それをきちんとやってくれているのがこのページ。ご苦労様です。

●選挙・政治ニュース http://jiyuto.exblog.jp/ 

05衆院選議席予測(大手4社終盤情勢参考)

自民263(+26) 民主152(-25) 公明33(-1) 共産9(±0) 社民6(±0) 国民2 大地1 造反11+無所属3(+3)

【選挙区】自民190(+22) 民主85(-20) 公明8 社民1 国民2 造反11+無所属3

【比例区】自民73(+4) 民主67(-5) 公明25(±0) 共産9(±0) 社民5(±0) 大地1

(±は前回衆院選比)

〇週の半ばに、産経新聞が「自公で300議席」という記事を掲げて話題を読んだ。が、こうしてみると、大手4紙を総合した数字でも、だいたいそれに近い線(296)までいってしまうのである。この手の数字が広く流通すると、いわゆる「アナウンス効果」で結果に影響が出てしまうかもしれない。だから、マスコミは遠慮がちに報道している。その一方で、「反小泉派」のメディアでは、「こうなったら、せめて事前の期待値を上げてやれ」という確信犯で、楽観情報を流しているようなところもある。

〇この通りの結果になった場合、自民党の勝利というよりは、むしろ民主党大敗というべきだろう。実際、今週になって民主党系のスタッフの間に「厭戦気分」が漂っているような気配がある。だとしたら、それこそ、「民主党を、あきらめない。」ことが大事になる。野党第一党がしっかりしなかったら、日本政治全体が困るではないか。最後の1日、手抜きをせずに頑張ってほしい。

〇将棋界には「米長理論」と呼ばれる法則がある。「たとえ消化試合であっても、手抜きせずに必死で戦う者は、後で運を得る」といった意味である。勝負に勝ち負けはつきものだから、どうしたって不利な戦いのときがある。そういうときに、どんな風にベストを尽くすか、他人はちゃんと見ているものだ。もちろん勝利の女神もね。


<9月10日>(土)

〇決戦を明日に備え、言いたいことも尽きてしまいましたので、いつもの雑誌の、この記事を紹介しておきましょう。

「新しい日本への投票」(Voting for a new Japan)

前例のない選挙だけに、9月11日の投票行動は読み間違うかもしれない。しかし投票日3日前の現在、自民党は世論調査で大幅なリードを得ており、過去半世紀以上の権力を握りそうな情勢だ。だが、これで選挙戦が緊張感を失うとしたら、それは大間違いだ。

日本国首相の小泉純一郎は、1ヶ月前に彼の郵政法案が否決されたとき、選挙で2つの敵に立ち向かった。ひとつは自民党の造反組で、改革に反対する勢力である。もうひとつは、競争原理を持ち込むことで、過去数年間の自民党に緊張感を与えてきた民主党である。理想論を言えば、小泉は民主党を大負けさせずに造反組を破壊したい。が、どちらも定かではない。

有権者の多くが改革支持でまとまっていることは明らかだ。小泉の造反者への攻撃は賛同を得ている。世論調査ではとくに、若者や都市住民を中心に支持を得ている。ここ数年、与党を見放してきた彼らが、首相を支持するといっている。他の調査によれば、今回はここ何年にもなく投票への熱意が高い。普段は関心のない人までもが口角泡を飛ばしている。

小泉は2つの方法で今日的な有権者をひきつけた。まず郵政民営化という単一テーマを選んだことだ。彼の法案は抜本的なものではなく、無意味だと見る者もいる。実際、民営化で金融市場は大きく変わらないだろうし、民主党提案の方が改革指向だというのも一理ある。

それでも多くの有権者は小泉を理解しているようだ。郵政が最重要課題かどうかはさておき、それによって自民党内部が、ぶち壊すべき古い部分と、新しい部分に線引きができる。新しい自民党は古いメンバーやコネを維持するだろうが、有権者がはっきり小泉支持を打ち出せば、党の最悪の部分は打ち破られ、特殊権益から離れたものとなろう。だから小泉は郵政を使って踏み絵を迫ったのだ。

もうひとつの戦略は「刺客」である。小泉は人気のある候補者を立てて、古いタイプの自民党議員に挑戦させている。その多くは女性で、外資系エコノミスト、セレブの妻、元ミス東大、閣僚(首相にとって理想の妻との呼び声もある)など、全員が郵政民営化支持である。

ギミックではあるが、これで明確な区別が出来た。古い日本にしがみつくのか、それとも新しい日本なのか。この戦術によって、小泉人気は2001年のように盛り上がった。

2001年には彼の人気が落ちて、改革への意欲が失われることが懸念された。現在の不安は、小泉の人気は続いても、有権者が望むほどの改革を実現できないことだ。小泉はまだ大きな変化をもたらしていない。それでも有権者としては、はるけくも来たりしものではないか。


〇この写真が、ちょっと気に入りました。われらが首相は、本当にロックスターみたいですな。

http://pochipress.blog20.fc2.com/blog-entry-8.html 


<9月11日>(日)

〇午後8時からずっとNHKの開票速報を見ておりますが、すごい結果ですなあ・・・・。

〇自民党は歴史的な勝利という感じですね。たしかに1986年に300議席を超えたことはあるけれども、あれはたしか衆議院が512議席あったときのこと。今の480議席で、いったいどこまでいくのやら。この分では、「造反」した顔ぶれが党に復帰できる可能性は、非常に低くなったといえるでしょう。個々の顔ぶれを見ていると、思ったほど世代交代が進んでいないような気もする。自民党の古い体質は確実に残っていると思います。

〇その一方、自民党が首都圏でこれだけ勝ってしまうと、いやでも都市型政党への脱皮を目指すことになるでしょう。なにしろこの次の選挙においては、小泉マジックもなければ、全特の味方も得られない。ゼネコンももはや力はなく、市町村合併が進んだから、選挙を手伝ってくれる首長さんたちの数も減った。党の支持基盤は確実にぶっ壊れてしまったのだ。1年後に小泉さんが退陣してしまうと、その次の瞬間から動揺が始まるだろう。

〇民主党は負け過ぎ。残った顔ぶれでは、ネクストキャビネットも組めないのでは。「政権準備政党」の名前は返上しなければなりませんね。敗因は、いっぱいあり過ぎて書ききれない。というか、すでにたくさん書いてしまったような気もする。問題はこの先がどうなるか。普通に考えれば、岡田退任→小沢後継→党分裂ということになりそうですが、それでは困るのです。二大政党制への流れが壊れてしまう。これから先は、「民主党を、あきらめない。」の精神で頑張ってもらいたい。

〇投票率は67%程度だそうです。ここを見ると、小選挙区制になってからの投票率としては、まあまあの出来ではないでしょうか。年齢別の投票率がどうなったかに興味があります。「ホリえもん世代」の投票率は、もう少し上がって欲しいですね。

〇とりあえず今夜はここまで。


<9月12日>(月)

〇今回の選挙戦も、ネットによる情報が役に立ちました。特に、圧倒的に豊富な情報量を流してくれたJIYUTOさん、それに毎度お馴染みの「選挙でGO!」さんに御礼申し上げたいと思います。また今回は、政党内部からの情報発信として、「たむたむ」さん「さくら」さんは貴重な存在であったと思います。ご両人とも自民党で、民主党側にはこの手の情報源を見かけませんでした。こんなところにも、党勢の違いがあったというのは考え過ぎでしょうか。

〇それはともあれ、暑い季節の選挙戦で相当にへばっていた「さくら」さんを、選挙が終わったら慰労しましょう、という声が一部ブロガーの間で巻き起こり(じゃあ「たむたむ」さんはいいのかよ、というツッコミはここでは措く)、今宵、オフ会を催しました。集まったのは雪斎どのやじゅんどの、それにぐっちーさんなどであります。

〇本来の趣旨は「大変だった選挙戦の苦労話を聞く」はずだったのですが、あれだけの馬鹿勝ちとなるとスタッフの苦労も吹っ飛ぶわけで、「こんなに勝っちゃって、これからどうしましょう」的な話が中心となりました。小泉さん大嫌いの活字メディアの中には、早速「民主主義は死んだ」とか、「小泉独裁が始まる」みたいなことを書いてるところがありますが、そんなに簡単な話じゃないはずです。まあ、彼らが世論に対していかに影響力がないかは、今度の選挙でよーくわかりましたから、気にすることもないんですけどね。

〇まず与党としては、これ以上の勝ちはあり得ないので、普通に考えて向こう4年間、解散はないでしょう。自民党は300人近い衆議院議員を抱え、しかも西も東も分からない人がそのうち50人くらい居て、与えるポストも全然足りない。なおかつ、野党第一党はあの体たらくですから、緊張感も働かない。長老議員たちも、わりとしぶとく生き残っている。ということで、新しい自民党を統率することは、結構難しいはずなのです。

〇次に向こう4年間、むごい話でありますが、参議院は無用の長物となってしまいます。だって衆院で与党が3分の2を超えているんだから、参院でどんな議論があろうが、気にする必要はないのであります。これまでの政局は、「参院を制すものが天下を制す」だったわけですが、その地位が劇的に低下する。でも、ことの始まりは、衆院を通った郵政法案を参院が否決したことです。それに対する国民の怒りが「参院無用論」を招き寄せたわけで、怒りのもって行き場所がない。ということで、衆参の対立という問題がこの先、横たわることになる。

〇そして何よりの難題は「ポスト小泉」です。小泉さんはあと1年で辞めてしまう。その後を継ぐ人は、どうしたって現有の衆議院議員300人弱全員を再選させることはできないだろう。となれば、なり手がいないでしょう。小泉なき自民党は、1年後に巨大な烏合の衆となる。ホント、どうするんでしょうね。

〇さて、総選挙の結果分析もやらなければなりません。溜池通信のいつもの手口ですが、比例代表での各党の得票数を確認してみましょう。

  2005衆院選 2004参院選 2003衆院選 2001参院選 2000衆院選
自民党 25,887,798(38.2%) 16,797,687(30.0%) 20,660,185(35.0%) 21,114,706(38.6%) 16,943,425(28.3%)
民主党 21,036,425(31.0%) 21,137,458(37.8%) 22,095,636(37.4%) 8,990,523(16.4%) 15,067,990(25.2%)
公明党 8,987,620(13.3%) 8,621,265(15.4%) 8,733,444(14.8%) 8,187,827(15.0%) 7,762,032(13.0%)
(自由党)       4,227,148(7.7%) 6,580,490(11.0%)
(保守党)       1,275,002(2.3%) 247,334(0.4%)
共産党 4,919,187(7.3%) 4,362,574(7.8%) 4,586,172(7.8%) 4,329,211(7.9%) 6,719,016(11.2%)
社民党 3,719,522(5.5%) 2,990,665(5.3%) 3,027,390(5.1%) 3,628,635(6.6%) 5,603,680(9.4%)
その他 3,260,517(4.8%) 2,022,135(3.6%) ---- 2,988,440(5.5%) 920,634(1.5%)
有効投票数 67,811,069(100%) 55,931,787(100%) 59,102,827(100%) 54,741,492(100%) 598,844,601(100%)


〇まず、2005年衆院選の有効投票数6781万人、という点にビックリしてほしい。6000万人を越えたのは、おそらく投票率が今回とほぼ同じ67.26%であった1993年衆院選(手元にデータなし)以来のことである。現在の選挙制度においては、まことに画期的な投票率だと思う。中選挙区時代は、「誰が1位当選するか」という競争があったので、投票率の嵩上げが起きやすかったのである。

〇よーく見てみると、過去4回の選挙で各党の得票数は固定化している。すなわち、公明党は800万票台後半、共産党は400万票、社民党は300万票という「固定客」がいる。そして民主党は、2003年夏に自由党と合流して以後は、コンスタントに2100万票程度を叩き出しており、それは今回も変わっていない。民主党は無党派層頼り、といわれるが、おそらくこの2100万人は毎回あまり変わらない顔ぶれなのだろう。

〇それとは対照的に、選挙のたびに得票数が大きく変化するのが自民党である。2000年の森首相のときは1700万票弱、それが2001年の小泉旋風では一気に2100万票に。その神通力が落ちると共に、2003年、2004年は比例代表では、民主党に次ぐ第2党の座に甘んじてきた。察するに、「何が何でも自民党」という有権者は1500万票程度であって、あとは党首の人気によって大きく上積みできたり、ほとんど増えなかったりする。実は自民党の方が、無党派層の動向によって左右されるらしいのだ。

〇さて今回の衆院選挙では、投票率の上昇によって、どどんと1000万人近くの有権者が上積みされた。そのうち、かなりの部分が自民党に投票したらしい。自民党に2500万票なんて、過去10年なかった数字である。今回の自民党の勝因は、このニューカマーたちによるところが大である。さて、どんな人たちが新たに選挙に加わったのか。

〇ご覧いただきたいのがこのページ。2000年と2003年の年齢別投票率を見ると、20代から30代前半の投票率が4〜5割と低くなっている。ひょっとすると、2005年選挙においてはこの部分がドーンと増えたのではないだろうか。理由はおそらく「ホリえもん効果」。団塊ジュニア世代のヒーロー、ホリえもんの参戦によって、若者が大挙して投票に出かけるようになった。

〇ホリえもん世代は、就職で苦労した年代である。上の世代がバブルに間に合ったのに、彼らは就職氷河期に直面し、社会人になってからも辛酸をなめた。フリーターやNEETも少なくない。そんな彼らから見れば、「公務員の地位にこだわる郵政職員28万人」は、とんでもねえ奴らだ、ということになる。だからアンケートを取ると、「郵政よりも年金に関心がある」とは答えるが、郵政民営化には賛成であり、その心情の奥底には、「あいつら許せねえ、小泉さん、頑張れ!」という怒りがある。そして、郵政職員を守ろうとする民主党は、非常にイメージが悪くなる。

〇こんな構造があったのではないか、というのが現時点での仮説です。どんなもんでしょ。


<9月13日>(火)

〇昨日の記述に対し、団塊ジュニア世代の方2人からほぼ同様なご指摘が。「団塊ジュニア世代は、バブルに間に合わなかった地味な世代ですが、ホリえもんのようなカネの権化が我々のヒーローではありません」。ははあ、なるほど。

〇かんべえにも覚えがありますが、団塊ジュニア世代を語るときに、ホリえもんや松井、イチロー、貴乃花といった例を挙げると分かりやすくて便利です。しかしそれは限りなく稀有な成功例であって、彼らの中には雑誌『SPA!』あたりで面白おかしく取り上げられる「年収X万円のビンボー生活」や「彼女居ない歴X年のモテナイ君」の当事者がいたりします。彼らの心中には、自分たちが社会に出る頃になって急に失速してしまった日本経済に対し、なにがしかのルサンチマンがあっても不思議ではありません。

〇極論しますと、政府の推計をはるかに超えて少子化が進んだのは、「結婚適齢期に差しかかった団塊ジュニア世代が、思ったほど結婚しなかった(できなかった)and子供を作らなかった(作れなかった)」ことが背景にあります。ですから少子化現象は、日本経済に対する彼らの復讐でもあるのだと思います。そんな風に、内心含むところのある彼らが、投票行動という形で意思表示を行なったのは、今回が初めてだったのではないでしょうか。

〇なにしろ彼らの世代の投票率は、これまでは45%程度でありましたから。そんな彼らが、小泉首相による「郵政解散」の檄に応じて、自民党に投票した。郵便局員という安定した公務員に対する彼らの怒りは、今回の選挙において多くの人が見過ごしていた要素だったのではないかと思います。

〇ところで、ホリえもんの行動には非常にハッキリした規則性があり、今回もそれは遺憾なく発揮されました。すなわち、以下のようなパターンです。

@ホリえもんが旧体制に挑戦するとき、計画のあまりの粗雑さゆえに、本人はかならず敗退する。

Aその一方で、彼の異議申し立ては世間の耳目を騒がせ、予想外に多くの人の支持が集まる。旧体制は動揺する。

B同時発生的に、ホリえもんと同様の挑戦をする人間が増え、彼らは比較的楽に成功を手にすることができる。

Cかくして、プロ野球への新規参入も、メディアに対するM&Aもタブーではなくなった。今回の場合で言えば、若者が政治参加することへの参入障壁が著しく低くなった。

〇とまあ、こんな形で時代のトリックスター、ホリえもんは、今回の2005年総選挙においても重要な役回りを果たしたのではないかと思うのです。


〇さて、話は全然変わって、こんな怪情報をキャッチしました。情報の精度は保証の限りではありませんが、これもひとつの補助線というものではないでしょうか。

●<2005年9月13日、永田町発>自民党に戻りたいけれども、小泉首相がいる古巣にはもう戻れない。そんな辛い立場の自民党の大物OBたちの間で、「新・新党」構想が急速に進んでいる。すでに10人以上の議員が名乗りをあげ、党名や党則、党内人事などが急速に固まりつつあるという。

この動きに対し、「新党・日本」の党首である田中康夫・長野県知事は不快感を示しており、新・新党への合流は断乎拒否する見込み。しかし、「現職議員5人以上」という政党要件を満たさないことには、政党助成金はおろか政治献金を受け取ることもままならず、新党再編の流れは加速すると見込まれている。以下は、予想される党名と党役員人事。


国民新党・日本の大地

総裁 綿貫民輔(78)富山3 L  NC総理大臣
副総裁 野呂田芳成(75)秋田2 G  NC農水大臣

幹事長 亀井静香(68)広島6 I NC国土交通大臣
総務会長 堀内光雄(75)山梨2 I  NC財務大臣
政調会長 平沼赳夫(66)岡山3 H  NC経済産業大臣

幹事長代理 滝  実(66)比近畿 C NC法務大臣
総務局長 亀井久興(65)比中国 D NC厚生労働大臣
青年局長 荒井広幸(47)参比例 @ NC文部科学大臣

広報委員長 野田聖子(45)岐阜1 D NC官房長官兼環境大臣
国対委員長 鈴木宗男(57)比北海道 F NC外務大臣

参議院議員会長 田村秀昭(72)参比例 B NC防衛庁長官
参議院幹事長 長谷川憲正(62)参比例 @ NC総務大臣

秘密兵器 中村喜四郎(56)茨城7 I NC国家公安委員長


〇おお、なんという重厚な陣容でありましょうか。ネクストキャビネット(NC)も即戦力揃いです。これに比べれば、次に誕生するはずの小泉新内閣なんて、とっても素人臭いものに見えてしまうでしょう。こんな素敵な新・新党が誕生して、民主党と共に右と左から自公連立政権を挟み撃ちにすれば、圧倒的な力を持つ与党もプレッシャーを感じてくれることでしょう。

〇ただ政党名がちょっと長いので、略称は「旧自民党」といたしましょうか。ノスタルジーもあって、ちょっといい感じですね。そのうち、こっちに行きたい、という自民党議員が続出したりして。


<9月14日>(水)

〇今朝のニュースでは、国民新党と新党・日本、新党大地が統一会派を組むといってました。ワシはギャグのつもりだったのだが。そうかと思えば、かろやかに政党を移り変わる人もいらっしゃったりして、あんた、背中が煤けてるぜ。

〇今日はとりわけ暑い日であった。友人である大谷信盛氏のケータイに電話したら、ちょうど後片付けの最中であった。民主党の大阪9区、11万1809票もとったけど、届かなかった。落選した議員は、14日中に議員会館と議員宿舎を引き払わなければならないのだという。投票日からわずかに3日。こんな日に、額に汗して肉体労働しているかと思うと泣けてくる。

〇選挙戦はどうだったかと聞いたら、「人間の力ではどうにも出来ないような突風」であったという。ワシントン時代からの古い付き合いだが、彼の戦績はこれで2勝2敗。尊敬する田中秀征先生にはまだ及ばない。次の機会は遠い先かもしれないけれど、1日たてば確実に1日近くなる。全部片付いて、気分も落ち着いたら、一緒に飲もう。

〇明日は内外情勢調査会の仕事で釧路に。明後日は帯広。最初に話をいただいたのは7月で、「9月の北海道は良さそうだなあ」と思っていたのだが、まさか選挙がある週になるとは。本当は「1985年」の宣伝話をするつもりだったけど、明日はムネオさんの本拠地で何を話せばいいのやら。それに今週号の溜池通信と、次回のヨミウリウィークリーの原稿は、まだ全然書けてないのだけれど、果たして旅先で書けるかどうか。まあいいや、行ってきます。


<9月15日>(木)

〇朝7時に家を出て、釧路行きANA741便の出発ジャスト10分前に羽田空港のゲートに滑り込む。心がけ、とっても悪し。っていうか、平日の朝の羽田空港はなんでこんなに込み合っているんだろう。釧路行きの飛行機の中は、ほとんどが観光客である。「阿寒湖」だとか「摩周湖」といった言葉が聞こえてくる。観光客は、長袖のシャツに薄手のカーディガンを着ていたりする。

〇釧路空港に降り立ってみると、なるほど大自然である。旭川〜富良野から東に来たことのないかんべえにとっては、未知なる世界。空気はひんやり冷たい。今日の最高気温は19度であるという。これはまことに結構。釧路市は人口18万人。もともとは港湾都市ではあるが、街で目立つのは王子製紙、日本製紙の2大パルプ工場である。

〇4日前の選挙戦においては、ご当地の北海道7区では、自民党前職であった北村直人氏が落選の憂き目を見た。やっぱり北海道は民主党が強いのである。しかるに、第44回衆議院議員総選挙において、自民党は小選挙区で290人の候補者を立てて、うち219人が当選した。実に勝率7割5分5厘である。なおかつ、落選した71人のうち、48人は重複立候補によって救済されている。つまり、小選挙区候補で落選してしまったのは、290人中23人しかいない計算になる。

〇ちなみに民主党側はといえば、289人の小選挙区候補のうち、当選したのはわずかに52人。勝率1割7分9厘である。重複で59人が救済されたとはいえ、歩留まりは極めて悪い。

〇ところでもうひとつ、今回の選挙結果で注目すべきは、新人議員の多さである。新たに衆議院議員となった480人中、新人議員はジャスト100人。5人に1人は新人なのである。特別国会が召集される日には、国会の東も西も分からない議員さんが右往左往するだろう。そして自民党議員の296人中、実に83人が新人である。28%が小泉チルドレンなのである。こんな状況が、これからどんな政治を生み出すのか。つくづく「2005年体制」の行方には興味が尽きない。

〇内外情勢調査会の講師をお勤めし、時事通信の支局長さんに釧路湿原にご案内いただく。なるほどこれは絶景である。アメリカの西部か、それともアフリカのサバンナか。そして雪景色に丹頂鶴があれば、これはもう日本の美そのものである。その昔、この地にたどり着いた開拓者たちは、この景色に何を思っただろうか。とくに夕焼けは最高であるという。

〇あいにくなことに、本日中に明日の仕事がある帯広に移動しなければならない。スーパー特急おおぞら10号にて帯広へ。電車の窓から広がる景色は、これぞ北海道である。なるほど「新党・大地」とはよくできた命名といって良い。日没とともに帯広市に到着。今度は帯広市の支局長さんに、当地のことをいろいろ拝聴する。

〇ここ北海道11区は、中川ファミリーの本拠地である。だから中川昭一経済産業大臣が普通であれば楽々勝利する。ところが今年の選挙では、民主党新人がまさかの2万票差に迫って、心胆を寒からしめたらしい。でもって比例代表では、ムネオさんの新党大地の得票率が高い。なるほど北海道は一筋縄では行かないのである。

〇ところで吉野家の「豚丼」は、この帯広市がオリジナルなのだそうだ。へえ〜、である。十勝牛の方が有名だと思うのだけど。


<9月16日>(金)

〇唐突ですが、以下は政治に関するクイズです。今回の選挙では、郵政法案に対する造反劇により、無所属議員が急激に増えました。その中でも非常にユニークな派閥があります。それはどんな人たちで、何というグループでありましょうか。答えは本日分の最後の部分で。

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〇朝方、帯広市内をちょっとだけ散歩してみる。広い道路が碁盤目状に伸びていて、人通りは少ない。全体的に、ニュージーランドのクライストチャーチのような感じである。函館や小樽や釧路や苫小牧は港町であり、旭川は屯田兵の町である。帯広はどういう理由でできたのか、以前から不思議に思っていたのだが、ここは北海道ではめずらしく民間人が開拓した土地だそうだ。最初に鍬を入れた人がいて、結果として町ができる。日本では珍しいタイプかもしれない。

〇泊まったホテルのすぐ近くに「ぱんちょう」という豚丼の店がある。午前11時の開店前に、長い行列が出来ている。入り口は狭いが、かなり有名な店らしい。昨日の疑問について、地元の人に聞いたところでは、牛は本来、牛乳を絞ったり働かせるためのもので、牛肉を食べるようになったのはわりと最近になってからのことらしい。開拓時代の栄養源は主に豚であった。豚丼、とっても食べてみたいのだけど、我慢。仕事が優先である。

〇その仕事は12時から。昨日の釧路市での講演内容が、地元紙に掲載されているのを知らされてビックリしてしまった。あなおそろしや。「小泉支持=団塊ジュニア主犯説」が好評のようである。それから、「自民党は、今度の選挙で馬鹿勝ちしたから、無茶ができなくなった」という指摘で、大きく頷いている人がいた。この辺が関心事であるらしい。今回の出張では、いつも使っている懐中時計を家に置き忘れてきたので、どうも時間配分の調子がつかめない。最後の方はわれながら息切れ気味であった。

〇釧路ほどではないが、帯広も涼しい。最高気温はせいぜい25度といったところか。地元の人によれば、これでも今年は暑い方で、いよいよ地球温暖化が迫ってきているのではないかという声をあちこちで聞いた。気温が上がるというのは、農業にとっては一大事であって、人々はその辺のことに敏感である。それにしても、当地のような気候や街のサイズに慣れてしまうと、暑苦しい都会に帰るのは試練であろう。「北海道、二度泣きの法則」(転勤を命じられて泣き、帰任を命じられると今度は「帰りたくない」と言って泣く)がきれいに当てはまりそうである。

〇帰り道、帯広空港までの道の両側は、「これが日本か」と驚くような大規模農業地帯である。1世帯あたりの農地が35ヘクタールだとか(500メートルX700メートル!)、平均収入が1500万円というからスゴイ。今から牧草を刈り取って、丸めてあるのは冬に牛に食べさせるためである。来月には雪が降り始めるので、冬支度に早過ぎるということはない。文字通り、1年の半分は雪の中なのだそうだ。

〇帯広空港の近くには、昔有名になった「愛国駅」がある。今では鉄道も廃線になっているけれども、駅舎は今も残っていて、わざわざそこで結婚式を挙げるカップルもいるらしい。空港では、ご当地が本家の六花亭バターサンドを購入。これで明日が下の娘の運動会でなければ、もうちょっと北海道を堪能したいところながら、泣く泣く東京に戻る。

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〇冒頭のクイズの答えです。中村喜四郎、辻元清美、鈴木宗男。その名は「ムショ族」。


<9月17日>(土)

〇うーむ、なんだこれは。今週はいったいどうしたのだ。

〇溜池通信のアクセス数は、最近は平日5000台に土日4000台といったところです。今週は選挙のせいで一気に増えてしまった。8000なんていう数になると、正直、気持ちが悪いので、早いところ普通に戻ってほしいものです。そうでなくても、最近は親とか妹とか親戚とかが見ているらしいので、落ち着かないことはなはだしいのである。

訪問数 ページ ヒット バイト
2005年 9月 01日 5431 16358 19380 221.33 MB
2005年 9月 02日 5468 17291 20342 178.83 MB
2005年 9月 03日 4556 13217 15779 183.88 MB
2005年 9月 04日 4565 12951 15540 152.65 MB
2005年 9月 05日 5679 17315 20450 196.81 MB
2005年 9月 06日 5578 16595 19730 212.46 MB
2005年 9月 07日 5472 15611 18748 201.96 MB
2005年 9月 08日 5857 17005 20478 262.16 MB
2005年 9月 09日 5756 17544 20682 253.03 MB
2005年 9月 10日 5053 14871 17736 241.23 MB
2005年 9月 11日 5457 15285 18987 260.32 MB
2005年 9月 12日 8096 24673 29821 285.20 MB
2005年 9月 13日 7124 21856 26194 293.02 MB
2005年 9月 14日 8413 22084 26476 362.33 MB
2005年 9月 15日 7077 19298 22545 294.16 MB
2005年 9月 16日 6341 17796 21080 301.12 MB


〇ということで、本日はどうでもいい話を書きます。かんべえが住んでいる街は、昔ながらの下町ノリである。ご近所は皆知り合いで、外で会ったらかならず挨拶をする。今時珍しいのかもしれないが、得難い環境ともいえる。

〇自宅のすぐ近くに、ご夫婦で工務店をやっているお宅がある。気さくで仲のいいご夫婦で、良き隣人を絵に描いたような人たちである。ところがこのご夫婦が、年に1度くらいのわりで大喧嘩をする。喧嘩になると、大声で言い争うので内容が筒抜けである。昨晩は、久々の大喧嘩の夜であった。聞くまいと思っても、こちらも窓を開け放しているから、ついつい聞こえてしまう。

〇喧嘩のネタは、「墓石に家紋を入れるべきかどうか」であった。うーん、なぜそれが喧嘩の原因になるのか、かんべえの理解を絶している。これでは仲裁に入ることもできぬ。年をとると、そういうことが気になるものなのでしょうか。

〇政治についてはひとことだけ。民主党代表選挙は前原さんで良かったと思います。これが菅さんだったら、郵政法案で賛成票続出だったでしょう。欲を言えば、あと小沢さんが大人しくなれば、民主党には希望が持てると思います。

〇もういっちょ。レイソルがガンバに勝った!玉田が2発。信じられない・・・・。


<9月18日>(日)

〇帯広の豚丼、食いたかったああああ、と家で嘆いていたら、配偶者が「南柏にあるよ」と教えてくれた。ぐるなびをひもとくと、なんとここにあるではないか。店の名は「とんどん亭」という。さっそく、今日のお昼に出かけてみたが、お陰で豚丼というものを食することが出来ました。いや、美味かったですぞ。これは癖になるかも。

〇バラ、ロース、ヒレの3種類がある。いずれも、肉を炙って油を落としているので、バラといえども脂っこくはない。今日はロースを試しましたが、豚丼の本流はバラであるようです。ほの甘いタレが独特。豚丼という言葉がかもしだすような重さ、親父臭さはどこにもなく、上品な味といっても過言ではない。これが正統派の豚丼であるとすれば、BSE騒動後の吉野家で出しているものは「豚煮丼」と呼ぶべきであろう。

〇まあ、吉野家の側にも都合というものがある。彼らは「並280円」というコストを維持するために、店舗の調理施設もギリギリまで簡単にしている。BSE問題で牛丼が出せないと分かったときに、「今あるチェーン店の施設で作れるもの」という条件で考慮したところ、カレー丼や豚丼といった簡単なものだけしか出せなかった。これではいくない、ということになって、最近は新メニューを充実させている。

〇それと同時に、店舗に対する追加投資も行なっているのであろう。BSE問題が解決した場合、復活する予定の牛丼が280円で出せるかどうかは、難しいところだと思う。もっとも、「牛丼が帰ってきた!」ということになれば、並が350円以上であっても消費者は行列するであろう。ワシももちろん並ぶ。並に半熟卵もつける。もちろん、値上がりを不本意として、「小一時間問い詰めたい」(懐かしい)という人もいるだろうが。

〇それはさておいて、「とんどん亭」はお勧めであります。店主は若い人だったようですが、帯広名物豚丼の繁栄を心から祈るものです。


<9月19日>(月)

〇おやおや、六カ国協議が妥結しちゃいました。アメリカは「これが最後」だと決めちゃっているし、中国も真剣に説得したしで、空気の読める国、北朝鮮としては、潮時を間違えなかった様子。共同声明の全文は下記を参照。

http://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20050919010036411.asp 

〇日本の名前が出てくるのは下記の部分。

 北朝鮮および日本は、平壌宣言に従って、不幸な過去を清算し懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置を取ることを約束した。

〇ここにある「懸案事項」というのは、拉致問題のことですよね。小泉さんの「俺はあと1年だぞ」コールは、ちゃんと金正日の耳に届いているのかも。

〇ドイツの総選挙はきわどい結果に。この人が言っていたとおりになりましたね。どっちの側も過半数に達しなかったのは、ニュージーランドの総選挙も同様。こういうギリギリの選挙結果が、得てしてのちに「不寛容な政治」を招いたりするわけですが、当面は連立工作次第ということになるのでしょう。

〇などと国際ニュースの多い一日です。腰を入れて考えるのは、明日以降にいたしましょう。今週は平日が3日しかない、変な1週間です。


<9月20日>(火)

〇おいおい、これはチトまずいんじゃないだろうか。アメリカ国務省のHPを開いてみるとですな、まず、六カ国協議妥結に対するライス長官の記者会見は下記のとおりです。

http://www.state.gov/secretary/rm/2005/53504.htm 

Good afternoon. I would just like to make a few remarks and then I'll be happy to take questions concerning the achievement today of a Statement of Principles by the six parties to the six-party talks on denuclearization of the Korean Peninsula. This agreement to principles is a good first step on the way, we hope, to a fully denuclearized, verifiably denuclearized, Korean Peninsula.

I will note that the North Koreans made clear their intention to abandon their nuclear weapons program and other existing nuclear programs. This is also a good step.

I want to thank the Chinese for hosting the meeting and for their active role and also to thank Ambassador Chris Hill and his counterparts for the hard work that they put into this. It is only a first step, however. We now will turn to implementing agreements, implementing language, where we will have to tackle, I am sure, quite difficult issues of verification of the dismantlement of North Korean nuclear weapons programs and other nuclear programs. But it is a good first step and I am happy to take a few questions.


〇中国さんよ、ありがとう。まあ、これはアメリカとしては当然です。たとえ中途半端な内容であっても、北朝鮮の核開発問題に6カ国の妥協が成立したのですから。外ではイラク、内ではカトリーナという板ばさみのブッシュ政権にとって、筋悪の北朝鮮問題で得点が挙げられるのなら儲けものです。「所詮は11月の北京会議までの先送り」などという声もありますが、それにしたって次の外交の焦点はイラク憲法草案の国民投票がある10月ですから、ボールをその先まで蹴っ飛ばしてくれて大助かり。とりあえず国務省としては、文句のつけようがない。

〇それはいいのですが、クリス・ヒル大使は公式声明をこんな風に切り出している。

http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2005/53499.htm 

Assistant Secretary of State Christopher R. Hill’s Statement
at the Closing Plenary of the Fourth Round of the Six-Party Talks
September 19, 2005

I would like to join with my colleagues from the ROK and Russian delegations in expressing my deep appreciation for China’s leadership in chairing and hosting this fourth round of the Six-Party Talks. The United States is able to join in supporting the Joint Statement on the basis of the following understandings:


「韓国とロシアの仲間と共に、第4回六カ国協議を主催した中国の指導力に、深甚なる謝意を表明したい」と言っているのですが、なんでここで日本が出てこないんでしょうか。考え過ぎかもしれませんけど、おそらく正直ベースで言えば、ヒル大使の心情は「中国には感謝。北朝鮮はしょうがない。韓国とロシアは(邪魔しないでくれて)ありがとう。日本は・・・・何しに来てたんだ?」といった感じだったんじゃないでしょうか。

〇これが日本に対する間接的な不快感の表明なのか、それとも「語るに落ちる」ということなのかは分かりません。それでも、六カ国協議における日本の交渉態度は、アメリカから見てきわめて面妖なものに写っていたような気がします。外務省としても、拉致問題で硬化した世論を背負って、まことにやりにくい立場だったとは思いますが、これで日米間に齟齬が生じてしまうようでは困ります。中国が目に見える形で得点を挙げているだけに、この点は引っかかるところです。


<9月21日>(水)

〇特別国会が召集されました。新しく選ばれた480人の衆議院議員が国会に集まったわけですが、うち100人は新人です。いっちゃなんですが、その中には国会の西も東も分からない人もいたことでしょう。国会の衛視さんたちは、大変だったかもしれません。かつてジュリアス・シーザーが、ガリア人の有力者を大勢、元老院議員に登用したとき、「フォロ・ロマーナはどこにあるんだ?」という元老院議員が大勢誕生して、ローマ人を嘆かせたそうです。が、新しく入ってくる人はそれが当然。有職故実にとらわれず、大いに国会を引っ掻き回して欲しいものです。

〇そうかと思えば、かつて自民党内で幹部とか首相候補と呼ばれた政治家の中に、戻りたいけど戻れない、などと見苦しい右往左往を繰り返している人たちがいる。ベテランが組織を離れた途端に、何もできなくなっちゃうということはあるもので、そうなると過去の栄光もあらかた吹き飛んでしまいます。というより、過去が立派であればあるほど、現在の値打ちが下がってしまうのです。

〇サラリーマンを20年以上もやっていますと、かつては会社の中で光り輝いていた人が、組織を離れると同時に意気消沈したり、変に卑屈になったりする、てなことを何度も見てしまいます。あれは悲しいものです。もちろん、そうならない人もいる。心構えがちょっと違うだけなのに、断然、後者が偉く見える。誰しも、いつかは所属する組織を離れる日がやって来る。そういうときは、なるべく去り際をきれいにしたいものだと思います。

〇その点、本日なくなられた後藤田正晴氏などは、出処進退が見事であったと思います。ご本人の日頃の主張には、全面的に賛成できないこともありましたが、首尾一貫していることには文句のつけようがない。オーラル・ヒストリーの『情と理』という本も、本当に面白かった。そういえば一度だけ、講演会の客席で、後藤田さんと隣り合わせになったことがあります。手元の資料に、ひとこと「政治のリーダーシップ」と大きな字で書き込んでおられました。講演の内容は忘れてしまいましたが、そのことだけはよく覚えています。

〇ところで今日になって、『誠心誠意、嘘をつく』(水木楊/日本経済新聞社)を読み始めました。保守合同の立役者、三木武吉の生涯を描いたものです。これもまた、戦前からの気骨のある政治家を絵に描いたような人物です。自由党の総務会を切り盛りする丁丁発止のやり取りなど、自民党政治の源流を見る思いがします。政治家もこのクラスになると、腹が据わっていて、どんなに無茶をやってもいっそ爽やかでありますな。人生いろいろ、政治家もいろいろ、ってところでしょうか。


<9月22日>(木)

〇政治オタクの会合PACにて、総選挙の反省会。武運つたなく落選してしまった大谷信盛前衆議院議員のような仲間もおりますが、総じてマスコミ関係者は2ヶ月にわたって、「こんなに面白いことはない」という状態を満喫していた様子。森前首相のボヤキから始まって、ガリレオ演説、刺客騒動、ホリえもん出陣、岐阜のくの一対決など、1年に1回あるかないかというネタが続出。特別国会が召集された今になっても、「杉村太蔵議員」なんてキャラで受けが拾えてしまうのだから、マスコミ的にはまことにオイシイ選挙であった。

〇ところが、これから先の政治報道を考えると心は闇である。次の衆議院選挙は4年先。政治課題は「いつ増税するか」。楽しそうなネタといったら「ポスト小泉」くらいしか思い浮かばない。たとえば当「溜池通信」だって、ここんとこ連続で国内政治を取り上げてきたけれども、そろそろ書くべきことも尽きてきた。この先、いったい何をテーマにすればいいのだろう。日本経済だって、「株高は七難隠す」で当面は問題が見当たらないし。来週からは、きっとネタ探しに苦労すると思う。

〇国内政治で、ほとんど唯一の関心事は「ポスト小泉」だが、あんまり新しい材料がない。せいぜい枠順から野田聖子氏が消えて、小池百合子氏が新たに加わった程度。本命といわれる安倍晋三氏は、選挙直前の2008年頃まで温存するとして、2006年9月からのショートリリーフができそうな気がする。となると、麻生さんとか谷垣さんといったところにつなぎ、悪いけど増税もやってよというのが、普通の読みとなる。

〇そこでちょっと無理筋のアイデアだが、ポスト小泉に竹中平蔵氏はどうであろう。「小泉路線を継承する」ということであれば、竹中首相は最適な人選であるし、国民の側でも「自民党は変わったなあ」と実感することができる。竹中・自民党であれば、2007年7月の参議院選挙においても、今回同様に都市部で大勝できるかもしれない。

〇参議院議員の首相は前例がないけれども、別に憲法上の規定があるわけではない。なぜ参議院の首相がダメかというと、「解散が出来ないから」(解散したときに、自分がクビにならないのはマズイしょ)が最大の理由である。ところが「解散が出来ない首相」は、今の自民党は大歓迎である。できれば任期切れの2009年9月まで、今のままでいたいから。

〇というのは別にしても、参議院の位置付けは非常に悩ましいところである。現下の国民感情的には、「あんなもん要らねえ」、あるいは「定数は半分でいい」というのが正直なところだろう。そこで衆議院が先手を取って、「参議院の定数を減らす法案」を出したらどうなるか。法案が参議院が否決したところで、衆議院に差し戻しされれば3分の2の賛成が得られて可決されてしまう。だったら、参議院が自分で言い出すよりほかにない。どの道、増税をするのであるから、その前には財政支出の大規模削減と同時に、議員定数の削減も避けられない。この辺が、次の政局の火種になるのかも。

〇などと考えていきますと、「どうやって増税するか」(どうやったら国民が許してくれるか)が最大のテーマとなる。ということは、次期財務大臣がポスト小泉のキーマンとなりますな。もうひとつは、年金・医療改革を担当する厚生労働大臣。選挙で歴史的勝利を収めた「偉大なるイエスマン」幹事長の処遇も問題ですし、真のMVPと目される総務局長へのご苦労さん人事もあるし、やはり党役員人事と内閣改造は見物ですな。

〇ということで、人事はまだまだ楽しめる。それから先は・・・・政治オタクには辛い日々が待っているのかもしれない。


<9月23〜24日>(金〜土)

〇わけあって、50年前の日本のことを調べている。当時の毎日新聞の社会面に、こんな記事が出ていた。

●テレビを盗んで母に孝行

1955・2・14 坂本署は、人夫の父が競馬・競輪にこり母との争いが絶えず、母親をなぐさめようと、去る9日台東区金杉町のラジオ商からゼネラル10インチテレビ1台(時価7万円)を盗み、明治キャラメルの懸賞で当たったといいわけしていた中学2年A少年(14)を窃盗の疑いで補導した。

〇すごい記事だなあと思う。「人夫」(にんぷ)とか、「ラジオ商」という言葉に時代を感じます。「明治キャラメルの懸賞」というのも、当時であればリアリティがあったのでしょう。10インチといえど、当時のテレビは貴重品である。まだNHKを含めて3局しかない時代であり、NHK視聴者契約者数はわずかに8万2724台。ちなみにテレビの出荷額から割り出した普及台数は、13万0133台で、その差は「モグリ視聴者」であった。要するに、日本国民が街頭テレビの力道山に熱狂していた時代なのである。

〇かんべえの発想は飛躍する。この少年Aは、今生きているとしたら64歳である。どこでどんな風に暮らしているかは分からないが、生きているのならテレビは持っているだろう。ひょっとすると、シャープのアクオスで地上波デジタル放送を見ているかもしれない。少なくとも、10インチということはないだろう。電機の量販店に行けば、いちばん安く買えるテレビは1万円を切る。何かの拍子に往時を思い出したとき、彼は何を思うのであろうか。

〇もうちょっと飛躍して、勝手に少年Aのその後の人生を想像してみる。たとえば少年Aは一念発起して、テレビを作る技術者にならんと志す。この年は、東京通信工業が初のトランジスタラジオを商品化した年である。これを対米輸出する際に使った商標が「SONY」であった。成長した少年Aは、やがてこのソニー株式会社に入社する。彼が所属したチームは、1968年にトリニトロン方式の開発に成功する、てな具合に。親孝行だった彼が、何かの世界で功なり名遂げていたとしても、別段不思議はないだろう。

〇50年前の世界と今を比べると、日本は経済大国になり、テレビは貴重品でなくなった。生活水準は向上し、親孝行の手段もいくらでもある世の中になった。そうなると今度は、勝ち組と負け組で格差が開くのが嫌だ、などという妙な議論が始まっておる。まあ、その辺のことはおいといて、50年というのはすごい時間でありますな。ちょっと感慨深いものがあります。


<9月25日>(日)

〇「栴檀は双葉より」と考えるか、「大器晩成」と考えるかは人それぞれでしょう。とりあえず競馬を見ていると、前者がより説得力を持ちますな。今日の神戸新聞杯を勝ったディープインパクトの勝ちっぷりは、まるで努力をしているという様子が窺えず、馬群の中で一頭だけ足が地をつかずに宙を飛んでいる感があり、見ていてしびれました。

〇どうでもいいことですが、「2ちゃん」の議員板で、先日、「加藤紘一氏を漢字4文字で言い表すと・・」というネタがあって、「大器晩壊」とあったのにはしびれましたな。いえ、それだけです。

〇本題に戻って、少なくとも三歳馬の中にディープインパクトの敵はいないようです。次なる挑戦は、菊花賞を勝っての三冠馬ということになりますが、これは「テーブルの上に置いてあるミカンを拾う」よりは難しいでしょうが、「林の中に落ちている栗を拾う」よりは易しいかもしれません。もはや競馬ファンの関心は「古馬と戦ってどうか」。それが秋の天皇賞なのか、ジャパンカップなのか、有馬記念なのか、というあたりに関心は飛んでしまっているような気がします。

〇今日のディープインパクトの体重は、増減なしの448キロですから、馬としてはむしろ小型です。シンボリクリスエスの巨大な漆黒の馬体はいかにも強そうに見えましたが、ディープインパクトにはそういった凄みはありません。それでも第4コーナーになると、武豊が鞭を入れなくても馬体が宙を飛んでしまうのですから、いわば素質だけで勝ってしまう馬のようです。勝つか負けるか、きわどい勝負を繰り返すことによって勝負師は鍛えられるわけですが、いつも楽勝の繰り返しで今だに無敗なわけですから、こんなんで大丈夫か、と気になったりします。

〇磐石の強さ、というものは、今夕6連覇を決めた朝青龍を見れば一目瞭然ですが、相撲が強いだけではなくて勝負にも強くなければなりません。優勝決定戦になった時点で、琴欧州に勝ち目はなさそうでしたよね。ディープインパクトがあの域に達するかどうか、この先の精進次第となりますが、怪我をしないで長くファンを楽しませて欲しいと思います。

〇これが人間の社会であれば、あれだけ若くして天才というと、その後の人生が危ぶまれたりします。天才には凡人に理解できないような苦しみがあるものだし、周囲の妬みそねみから足を引っ張る人も出てくるでしょう。ところがサラブレットとは、若くして天才だけが生き残るような世界です。天才を嫌うファンはいません。強いていえば、単勝1.0倍じゃ馬券が買えないということくらいですが、それだって万が一外れれば大穴になるわけですから、穴党だって本心では困らないのです。

〇かく申すかんべえも、今日の神戸新聞杯ではディープインパクトを2位に決め打ちして、連単を総流ししておりました。いえね、ほかの騎手が「これ以上、武にいい思いをさせてたまるか」と、斜行したり包んだりと意地悪する可能性も少しはあるかと思って。馬はいいんですけど、人間というやつはしょうがない生きものですから。


<9月26日>(月)

〇当不規則発言の古い読者であれば、昨年秋頃に盛んに登場した「在米保守主義日本人」さんをご記憶でありましょう。とくに11月2日に大統領選挙前夜の様相を伝えてくれたメールは、内容の意外さと達意の名文でいろんな場所にコピペされておりました。その人が、ふらりと当オフィスにやってきた。どうやら、これを伝えたかったらしい。

在保人「すごい、すごいのだよ、小泉さんの人気は。アメリカだけではない。欧州でも中東でも、大変なものですぞ」

〇まあ、それはそうでしょう。今、世界の並み居る政治家の中で、いちばん運が良くて、羨ましがられているのは小泉さんでしょう。というか、それ以外の政治家は、ほとんどが泥沼で身動きが取れない。ジョージ・ブッシュは「泣きっ面にリタ」で、支持率4割は風前の灯。盧武鉉はほとんど死に体、胡錦濤は国内が思うに任せず地雷原の上で固まっているような状態。シラクさんなんかは本当に倒れてしまった。プーチンも2008年を前に、すでにレイムダック化しているという見方が絶えない。

〇とくに気の毒なのは、9月18日に選挙が行なわれたドイツとニュージーランドである。どちらも与野党が紙一重の得票となってしまい、どう連立をしても過半数に届くか微妙である。すでに投票日から1週間以上たっているけど、政権発足の目処が立たない。それに比べると9月11日の日本の総選挙は、こんなに分かりやすい結果はなかった。もちろん、自分は小泉さんが大嫌いだとか、お家が特定郵便局であるとかいう人にとっては、気に入らない結果であったかもしれない。だが、「結論が出ないという結論」に比べればはるかにマシでしょう。

〇余談ながら、ドイツもニュージーランドも、二大政党が中道寄りの政策を訴えていたことが、時代に合わなかったのではないかと思う。先週号でも書いたとおり、時代は今、中道よりも極論。下手に現実に妥協するよりも、原則論を繰り返して「毅然として」「ブレない」ようにしているのが選挙では得策であるらしい。もっとも、これを繰り返していたブッシュさんの最近の苦境を見ると、やっぱり長くは続けられないことのような気もするのだが。

在保人「海外でみんなが疑問に感じているのは、なぜ小泉さんがあと1年で辞めるかです。エコノミスト誌が書いていたように、83年の選挙で勝ったサッチャーさんが、84年に辞めていいのかと」

〇これも難しいところで、おそらく日本国民は「あと1年で辞める、と言い出したら聞かないような小泉さんだからこそ、安心して3分の2も勝たせた」と見るのが正しいと思う。小泉さんという人は、もともとが人の意見を聞かない人ですが、権力の座には恬淡としている。独裁者というものは猜疑心や執着心の強い人がなるものであって、小泉さんにはその手の資質がどこか欠けている。その点、小泉さんのことを「ヒトラー」と呼んでた誰かさんの方が、よっぽど権力を握ったら独裁者になるタイプだと思う。

在保人「それにしても、株価の上がり方といい、日本はすごいな。政治も経済も、こんなにうまく行っている国はほかにないんじゃないか?」

〇いやいや、おっしゃる通りなのです。今日、IMFのWorld Economic Outlookの最新版をチェックしていたら、世界経済の見方がこんな風になっているので驚きました。下の表は、2003年、2004年は実績で、2005年と2006年がIMFの予測です。( )内の数字は、今年4月の予測からの変更を意味します。

●Overview of the World Economic Outlook Projections

  2003 2004 2005 2006
World 4.0 5.1 4.3( - ) 4.3(-0.1)
United States 2.7 4.2 3.5(-0.2) 3.3(-0.3)
Euro area 0.7 2.0 1.2(-0.4) 1.8(-0.5)
Japan 1.4 2.7 2.0(+1.2) 2.0( - )
United Kingdom 2.5 3.2 1.9(-0.7) 2.2(-0.4)
China 9.5 9.5 9.0(+0.5) 8.2(+0.2)
India 7.4 7.3 7.1(+0.5) 6.3(-0.1)
Asean 4 5.4 5.8 4.9(-0.5) 5.4(-0.4)
Russia 7.3 7.2 5.5(-0.5) 5.3(-0.3)
Brazil 0.5 4.9 3.3(-0.4) 3.5( - )
Middle East 6.5 5.5 5.4(+0.3) 5.0(+0.1)


〇石油高の影響を見込み、ほとんどの国で成長率が下方修正される中で、2005年の日本は逆に1.2%の上方修正である。省エネ先進国にとっては、むしろ追い風ですからな。2.0%という成長率も、米国に比べれば見劣りするが、欧州に比べれば堂々たるものです。

〇さて、あなたがグローバルな運用をしている投資家であると考えてみてください。上の表を見て、どの国に投資しますか? 米国はもう峠を越したような感じである。欧州は論外。ましてドイツにおける政治の空白は確実に長引きます。中国はまだまだ景気がいいけど、そろそろ高所恐怖症ですね。それ以外のBRICsは、やはり石油高がじわりと効きそうだ。となれば、消去法でいくと日本しかないのです。

〇政治は安定。経済も長い不況を抜けて、いよいよツキが回ってきた感あり。誰でしたか、「日本をあきらめない」とか言ってた人がいましたっけ?


<9月27日>(火)

〇久しぶりに連絡を取った友人から、こんなメールをもらいました。読んで幸せな気分になれる文章ですので、皆さまにもお裾分けします。かんべえはこれを読んで、ちょっとだけ若返った気になりました。



> Apple社CEOスティーブ・ジョブズ氏が
> スタンフォード大学の2005年6月12日の卒業式で行った、
> 祝賀スピーチを転送します。
>
> ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
>
> ジョブズの卒業祝賀スピーチ
> 2005年6月12日、スタンフォード大学
> 原文URL:
> http://slashdot.org/comments.pl?sid=152625&cid=12810404 
>
>  PART 1 BIRTH
>
>  ありがとう。世界有数の最高学府を卒業される皆さんと、本日こう
> して晴れの門出に同席でき大変光栄です。実を言うと私は大学を出た
> ことがないので、これが今までで最も大学卒業に近い経験ということ
> になります。
>
>  本日は皆さんに私自身の人生から得たストーリーを3つ紹介します。
> それだけです。どうってことないですよね、たった3つです。最初の
> 話は、点と点を繋ぐというお話です。
>
>  私はリード大学を半年で退学しました。が、本当にやめてしまうま
> で18ヶ月かそこらはまだ大学に居残って授業を聴講していました。じ
> ゃあ、なぜ辞めたんだ?ということになるんですけども、それは私が
> 生まれる前の話に遡ります。
>
>  私の生みの母親は若い未婚の院生で、私のことは生まれたらすぐ養
> 子に出すと決めていました。育ての親は大卒でなくては、そう彼女は
> 固く思い定めていたので、ある弁護士の夫婦が出産と同時に私を養子
> として引き取ることで手筈はすべて整っていたんですね。ところがい
> ざ私がポンと出てしまうと最後のギリギリの土壇場になってやっぱり
> 女の子が欲しいということになってしまった。で、養子縁組待ちのリ
> ストに名前が載っていた今の両親のところに夜も遅い時間に電話が行
> ったんです。「予定外の男の赤ちゃんが生まれてしまったんですけど、
> 欲しいですか?」。彼らは「もちろん」と答えました。
>  しかし、これは生みの母親も後で知ったことなんですが、二人のう
> ち母親の方は大学なんか一度だって出ていないし父親に至っては高校
> もロクに出ていないわけです。そうと知った生みの母親は養子縁組の
> 最終書類にサインを拒みました。そうして何ヶ月かが経って今の親が
> 将来私を大学に行かせると約束したので、さすがの母親も態度を和ら
> げた、といういきさつがありました。
>
>                ◆◇◆
>
>  PART 2 COLLEGE DROP-OUT
>
>  こうして私の人生はスタートしました。やがて17年後、私は本当に
> 大学に入るわけなんだけど、何も考えずにスタンフォード並みに学費
> の高いカレッジを選んでしまったもんだから労働者階級の親の稼ぎは
> すべて大学の学費に消えていくんですね。そうして6ヶ月も過ぎた頃
> には、私はもうそこに何の価値も見出せなくなっていた。自分が人生
> で何がやりたいのか私には全く分からなかったし、それを見つける手
> 助けをどう大学がしてくれるのかも全く分からない。なのに自分はこ
> こにいて、親が生涯かけて貯めた金を残らず使い果たしている。だか
> ら退学を決めた。全てのことはうまく行くと信じてね。
>
>  そりゃ当時はかなり怖かったですよ。ただ、今こうして振り返って
> みると、あれは人生最良の決断だったと思えます。だって退学した瞬
> 間から興味のない必修科目はもう採る必要がないから、そういうのは
> 止めてしまって、その分もっともっと面白そうなクラスを聴講しにい
> けるんですからね。
>
>
>  夢物語とは無縁の暮らしでした。寮に自分の持ち部屋がないから夜
> は友達の部屋の床に寝泊りさせてもらってたし、コーラの瓶を店に返
> すと5セント玉がもらえるんだけど、あれを貯めて食費に充てたりね。
> 日曜の夜はいつも7マイル(11.2km)歩いて街を抜けると、ハーレクリ
> シュナ寺院でやっとまともなメシにありつける、これが無茶苦茶旨く
> てね。
>
>  しかし、こうして自分の興味と直感の赴くまま当時身につけたこと
> の多くは、あとになって値札がつけられないぐらい価値のあるものだ
> って分かってきたんだね。
>
>
>  ひとつ具体的な話をしてみましょう。
>
>                ◆◇◆
>
>  PART 3 CONNECTING DOTS
>
>  リード大学は、当時としてはおそらく国内最高水準のカリグラフィ
> 教育を提供する大学でした。キャンパスのそれこそ至るところ、ポス
> ター1枚から戸棚のひとつひとつに貼るラベルの1枚1枚まで美しい手
> 書きのカリグラフィ(飾り文字)が施されていました。私は退学した身。
> もう普通のクラスには出なくていい。そこでとりあえずカリグラフィ
> のクラスを採って、どうやったらそれができるのか勉強してみること
> に決めたんです。
>
>  セリフをやってサンセリフの書体もやって、あとは活字の組み合わ
> せに応じて字間を調整する手法を学んだり、素晴らしいフォントを実
> 現するためには何が必要かを学んだり。それは美しく、歴史があり、
> 科学では判別できない微妙なアートの要素を持つ世界で、いざ始めて
> みると私はすっかり夢中になってしまったんですね。
>
>
>  こういったことは、どれも生きていく上で何ら実践の役に立ちそう
> のないものばかりです。だけど、それから10年経って最初のマッキン
> トッシュ・コンピュータを設計する段になって、この時の経験が丸ご
> と私の中に蘇ってきたんですね。で、僕たちはその全てをマックの設
> 計に組み込んだ。そうして完成したのは、美しいフォント機能を備え
> た世界初のコンピュータでした。
>
>  もし私が大学であのコースひとつ寄り道していなかったら、マック
> には複数書体も字間調整フォントも入っていなかっただろうし、ウィ
> ンドウズはマックの単なるパクりに過ぎないので、パソコン全体で見
> 回してもそうした機能を備えたパソコンは地上に1台として存在しな
> かったことになります。
>
>
>  もし私がドロップアウト(退学)していなかったら、
>  あのカリグラフィのクラスにはドロップイン(寄り道)していなかっ
> た。
>  そして、パソコンには今あるような素晴らしいフォントが搭載され
> ていなかった。
>
>
>  もちろん大学にいた頃の私には、まだそんな先々のことまで読んで
> 点と点を繋げてみることなんてできませんでしたよ。だけど10年後振
> り返ってみると、これほどまたハッキリクッキリ見えることもないわ
> けで、そこなんだよね。もう一度言います。未来に先回りして点と点
> を繋げて見ることはできない、君たちにできるのは過去を振り返って
> 繋げることだけなんだ。だからこそバラバラの点であっても将来それ
> が何らかのかたちで必ず繋がっていくと信じなくてはならない。自分
> の根性、運命、人生、カルマ…何でもいい、とにかく信じること。点
> と点が自分の歩んでいく道の途上のどこかで必ずひとつに繋がってい
> く、そう信じることで君たちは確信を持って己の心の赴くまま生きて
> いくことができる。結果、人と違う道を行くことになってもそれは同
> じ。信じることで全てのことは、間違いなく変わるんです。
>
>                ◆◇◆
>
>  PART 4 FIRED FROM APPLE
>
>  2番目の話は、愛と敗北にまつわるお話です。
>
>  私は幸運でした。自分が何をしたいのか、人生の早い段階で見つけ
> ることができた。実家のガレージでウォズとアップルを始めたのは、
> 私が二十歳の時でした。がむしゃらに働いて10年後、アップルはガレ
> ージの我々たった二人の会社から従業員4千人以上の20億ドル企業にな
> りました。そうして自分たちが出しうる最高の作品、マッキントッシ
> ュを発表してたった1年後、30回目の誕生日を迎えたその矢先に私は会
> 社を、クビになったんです。
>
>
>  自分が始めた会社だろ?どうしたらクビになるんだ?と思われるか
> もしれませんが、要するにこういうことです。アップルが大きくなっ
> たので私の右腕として会社を動かせる非常に有能な人間を雇った。そ
> して最初の1年かそこらはうまく行った。けど互いの将来ビジョンに
> やがて亀裂が生じ始め、最後は物別れに終わってしまった。いざ決裂
> する段階になって取締役会議が彼に味方したので、齢30にして会社を
> 追い出されたと、そういうことです。しかも私が会社を放逐されたこ
> とは当時大分騒がれたので、世の中の誰もが知っていた。
>
>  自分が社会人生命の全てをかけて打ち込んできたものが消えたんで
> すから、私はもうズタズタでした。数ヶ月はどうしたらいいのか本当
> に分からなかった。自分のせいで前の世代から受け継いだ起業家たち
> の業績が地に落ちた、自分は自分に渡されたバトンを落としてしまっ
> たんだ、そう感じました。このように最悪のかたちで全てを台無しに
> してしまったことを詫びようと、デイヴィッド・パッカードとボブ・
> ノイスにも会いました。知る人ぞ知る著名な落伍者となったことで一
> 時はシリコンヴァレーを離れることも考えたほどです。
>
>  ところが、そうこうしているうちに少しずつ私の中で何かが見え始
> めてきたんです。私はまだ自分のやった仕事が好きでした。アップル
> でのイザコザはその気持ちをいささかも変えなかった。振られても、
> まだ好きなんですね。だからもう一度、一から出直してみることに決
> めたんです。
>
>
>  その時は分からなかったのですが、やがてアップルをクビになった
> ことは自分の人生最良の出来事だったのだ、ということが分かってき
> ました。成功者であることの重み、それがビギナーであることの軽さ
> に代わった。そして、あらゆる物事に対して前ほど自信も持てなくな
> った代わりに、自由になれたことで私はまた一つ、自分の人生で最も
> クリエイティブな時代の絶頂期に足を踏み出すことができたんですね。
>
>  それに続く5年のうちに私はNeXTという会社を始め、ピクサーとい
> う会社を作り、素晴らしい女性と恋に落ち、彼女は私の妻になりまし
> た。
>
>  ピクサーはやがてコンピュータ・アニメーションによる世界初の映
> 画「トイ・ストーリー」を創り、今では世界で最も成功しているアニ
> メーション・スタジオです。
>
>
>  思いがけない方向に物事が運び、NeXTはアップルが買収し、私はア
> ップルに復帰。NeXTで開発した技術は現在アップルが進める企業再生
> 努力の中心にあります。ロレーヌと私は一緒に素晴らしい家庭を築い
> てきました。
>
>
>  アップルをクビになっていなかったらこうした事は何ひとつ起こら
> なかった、私にはそう断言できます。そりゃひどい味の薬でしたよ。
> でも患者にはそれが必要なんだろうね。人生には時としてレンガで頭
> をぶん殴られるようなひどいことも起こるものなのです。だけど、信
> 念を放り投げちゃいけない。私が挫けずにやってこれたのはただ一つ、
> 自分のやっている仕事が好きだという、その気持ちがあったからです。
> 皆さんも自分がやって好きなことを見つけなきゃいけない。それは仕
> 事も恋愛も根本は同じで、君たちもこれから仕事が人生の大きなパー
> トを占めていくだろうけど自分が本当に心の底から満足を得たいなら
> 進む道はただ一つ、自分が素晴しいと信じる仕事をやる、それしかな
> い。そして素晴らしい仕事をしたいと思うなら進むべき道はただ一つ、
> 好きなことを仕事にすることなんですね。まだ見つかってないなら探
> し続ければいい。落ち着いてしまっちゃ駄目です。心の問題と一緒で
> そういうのは見つかるとすぐピンとくるものだし、素晴らしい恋愛と
> 同じで年を重ねるごとにどんどんどんどん良くなっていく。だから探
> し続けること。落ち着いてしまってはいけない。
>
>                ◆◇◆
>
>  PART 5 ABOUT DEATH
>
>  3つ目は、死に関するお話です。
>
>  私は17の時、こんなような言葉をどこかで読みました。確かこうで
> す。「来る日も来る日もこれが人生最後の日と思って生きるとしよう。
> そうすればいずれ必ず、間違いなくその通りになる日がくるだろう」。
> それは私にとって強烈な印象を与える言葉でした。そしてそれから現
> 在に至るまで33年間、私は毎朝鏡を見て自分にこう問い掛けるのを日
> 課としてきました。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今
> 日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」。それに対する
> 答えが“NO”の日が幾日も続くと、そろそろ何かを変える必要がある
> なと、そう悟るわけです。
>
>  自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。これは私が
> これまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下
> す最も大きな手掛かりとなってくれました。何故なら、ありとあらゆ
> る物事はほとんど全て…外部からの期待の全て、己のプライドの全て、
> 屈辱や挫折に対する恐怖の全て…こういったものは我々が死んだ瞬間
> に全て、きれいサッパリ消え去っていく以外ないものだからです。そ
> して後に残されるのは本当に大事なことだけ。自分もいつかは死ぬ。
> そのことを思い起こせば自分が何か失ってしまうんじゃないかという
> 思考の落とし穴は回避できるし、これは私の知る限り最善の防御策で
> す。
>
>  君たちはもう素っ裸なんです。自分の心の赴くまま生きてならない
> 理由など、何一つない。
>
>                ◆◇◆
>
> PART 6 DIAGNOSED WITH CANCER
>
>  今から1年ほど前、私は癌と診断されました。 朝の7時半にスキャン
> を受けたところ、私のすい臓にクッキリと腫瘍が映っていたんですね。
> 私はその時まで、すい臓が何かも知らなかった。
>
>  医師たちは私に言いました。これは治療不能な癌の種別である、ほ
> ぼ断定していいと。生きて3ヶ月から6ヶ月、それ以上の寿命は望めな
> いだろう、と。主治医は家に帰って仕事を片付けるよう、私に助言し
> ました。これは医師の世界では「死に支度をしろ」という意味のコー
> ド(符牒)です。
>
>  それはつまり、子どもたちに今後10年の間に言っておきたいことが
> あるのなら思いつく限り全て、なんとか今のうちに伝えておけ、とい
> うことです。たった数ヶ月でね。それはつまり自分の家族がなるべく
> 楽な気持ちで対処できるよう万事しっかりケリをつけろ、ということ
> です。それはつまり、さよならを告げる、ということです。
>
>
>  私はその診断結果を丸1日抱えて過ごしました。そしてその日の夕方
> 遅く、バイオプシー(生検)を受け、喉から内視鏡を突っ込んで中を
> 診てもらったんですね。内視鏡は胃を通って腸内に入り、そこから医
> 師たちはすい臓に針で穴を開け腫瘍の細胞を幾つか採取しました。私
> は鎮静剤を服用していたのでよく分からなかったんですが、その場に
> 立ち会った妻から後で聞いた話によると、顕微鏡を覗いた医師が私の
> 細胞を見た途端、急に泣き出したんだそうです。何故ならそれは、す
> い臓癌としては極めて稀な形状の腫瘍で、手術で直せる、そう分かっ
> たからなんです。こうして私は手術を受け、ありがたいことに今も元
> 気です。
>
>
>  これは私がこれまで生きてきた中で最も、死に際に近づいた経験と
> いうことになります。この先何十年かは、これ以上近い経験はないも
> のと願いたいですけどね。
>
>
>  以前の私にとって死は、意識すると役に立つことは立つんだけど純
> 粋に頭の中の概念に過ぎませんでした。でも、あれを経験した今だか
> ら前より多少は確信を持って君たちに言えることなんだが、誰も死に
> たい人なんていないんだよね。天国に行きたいと願う人ですら、まさ
> かそこに行くために死にたいとは思わない。にも関わらず死は我々み
> んなが共有する終着点なんだ。かつてそこから逃れられた人は誰一人
> としていない。そしてそれは、そうあるべきことだから、そういうこ
> とになっているんですよ。何故と言うなら、死はおそらく生が生んだ
> 唯一無比の、最高の発明品だからです。それは生のチェンジエージェ
> ント、要するに古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働
> きのあるものなんです。今この瞬間、新しきものと言ったらそれは他
> ならぬ君たちのことだ。しかしいつか遠くない将来、その君たちもだ
> んだん古きものになっていって一掃される日が来る。とてもドラマチ
> ックな言い草で済まんけど、でもそれが紛れもない真実なんです。
>
>  君たちの時間は限られている。だから自分以外の他の誰かの人生を
> 生きて無駄にする暇なんかない。ドグマという罠に、絡め取られては
> いけない。それは他の人たちの考え方が生んだ結果とともに生きてい
> くということだからね。その他大勢の意見の雑音に自分の内なる声、
> 心、直感を掻き消されないことです。自分の内なる声、心、直感とい
> うのは、どうしたわけか君が本当になりたいことが何か、もうとっく
> の昔に知っているんだ。だからそれ以外のことは全て、二の次でいい。
>
>                ◆◇◆
>
>  PART 7 STAY HUNGRY, STAY FOOLISH
>
>  私が若い頃、"The Whole Earth Catalogue(全地球カタログ)"とい
> うとんでもない出版物があって、同世代の間ではバイブルの一つにな
> っていました。
>
>  それはスチュアート・ブランドという男がここからそう遠くないメ
> ンローパークで製作したもので、彼の詩的なタッチが誌面を実に生き
> 生きしたものに仕上げていました。時代は60年代後半。パソコンやデ
> スクトップ印刷がまだ普及する前の話ですから、媒体は全てタイプラ
> イターとはさみ、ポラロイドカメラで作っていた。だけど、それはま
> るでグーグルが出る35年前の時代に遡って出されたグーグルのペーパ
> ーバック版とも言うべきもので、理想に輝き、使えるツールと偉大な
> 概念がそれこそページの端から溢れ返っている、そんな印刷物でした。
>
>  スチュアートと彼のチームはこの”The Whole Earth Catalogue”の
> 発行を何度か重ね、コースを一通り走り切ってしまうと最終号を出し
> た。それが70年代半ば。私はちょうど今の君たちと同じ年頃でした。
>
>  最終号の背表紙には、まだ朝早い田舎道の写真が1枚ありました。君
> が冒険の好きなタイプならヒッチハイクの途上で一度は出会う、そん
> な田舎道の写真です。写真の下にはこんな言葉が書かれていました。
> 「Stay hungry, stay foolish.(ハングリーであれ。馬鹿であれ)」。
> それが断筆する彼らが最後に残した、お別れのメッセージでした。
> 「Stay hungry, stay foolish.」 それからというもの私は常に自分
> 自身そうありたいと願い続けてきた。そして今、卒業して新たな人生
> に踏み出す君たちに、それを願って止みません。
>
> Stay hungry, stay foolish.
>
> ご清聴ありがとうございました。
>
>
> The Stanford University Commencement address by
> Steve Jobs
> CEO, Apple Computer
> CEO, Pixar Animation Studios
>


<9月28日>(水)

〇昨日のジョブス演説には反響が大きくて、たしかにゲイツの口からは絶対に出てこないような珠玉の言葉だと思います。社会に第一歩を踏み出すときに、こういう言葉と出会える大学生は幸せであると思います。

〇ところで、Kanryoさんが今日のエントリーでこれを取り上げて、「役所を辞めたくなりました」と言っています。そんなことを言わないで。以下の文章を読んだら、きっと元気が出ますから。

〇以下は今週号の「週刊エコノミスト」誌P76に掲載されている「金融庁“異能官僚”が綴った『十戒』」というコラムが紹介しているものです。金融庁の中で出回った「心得」が、霞ヶ関で話題になっているとか。全文はエコノミスト誌をご覧いただくとして、以下はかんべえが勝手に短縮した「十戒」の要旨です。


●金融庁の十戒

(1) 上司と部下 上司は部下の仕事に付加価値を加えるのが仕事である。それができない上司は、意思決定プロセスから除外し、階層をフラット化する必要がある。

(2) ペーパーワーク コミュニケーションは極力口頭で行なわねばならない。応接録の大半は、言い訳と自己弁護の作業に過ぎない。組織が意思決定する場合のペーパーは2枚を超えることを禁止する。

(3) フットワーク 本質的な情報を機敏に、簡潔に、タイムリーに、必要とする者に伝達すること。ペーパーやメールを何でも関係者に回すのは最低だ。

(4) 制度 ワークしない制度を作るやつは最低のバカである。この制度は国民にとって何の意味があるのかを不断に問え。不要化した制度は迅速に撤廃せよ。

(5) 説明責任 いまだに「世間の批判を回避するためには」なんてペーパーに書くやつは皆で殴らねばならない。内部ペーパーでも公表資料と思って書け。想定問答なんてものは消滅する。国民に対する我々の代弁者はマスコミだ。我々の仕事が報道されるのはいいことである。

(6) 折衝 折衝で重要なのは知識より総合的人間力である。肝要なのは、国民のために働いているという筋のとおった姿勢と、それが相手に伝わることである。

(7) 本音と建前 建前を言わなければならない局面というものはある。だが建前がホンネから乖離しすぎると精神の健康に悪い。裁量を排した事後チェック型行政なんてふりをすべきではない。

(8) 健康 過労は健全な判断力を狂わせる。40歳以上は月100時間、未満は月150時間を超えて超過勤務することを禁止する。

(9) 採用区分 役所は今なお採用区分による差別が存在する前近代的組織である。キャリアだとかU種だとかV種だとか、出向者だとか、そんなことが国民への貢献と何の関係があるのだ!国民にどう貢献したかが唯一の評価基準である。

(10) バカの壁 我々だけが意識改革したところで周囲のバカの壁は厚いだろう。だが、少しずつでいい。バカの壁を突き崩そう。新たな日本の資本主義を形成していくのは我々なのだという誇りとともに。


〇ここに書かれている内容は、官僚機構だけではなく、大部分が民間企業にも通じる話だと思います。コンプライアンスなんてどうだっていいんです。健全な常識がありさえすれば。でも、それが通じないから、誰かが声高に正論を述べなければならない。上記の十戒を誰が作ったかは知りませんが、「良き指導者は良き教育者なり」を地でいくような方なのだろうと拝察します。

〇ついでですから、これも良き教育者、吉田秀雄が作った電通「鬼の十訓」を下記に掲げておきましょう。

1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。

2. 仕事とは、先手先手と働き掛けて行くことで、受け身でやるものではない。

3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。

4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。

5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。

6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、長い間に天地のひらきができる。

7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。

8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。

9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。

10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。


<9月29日>(木)

〇優勝の瞬間、選手はみんないい顔になるものですが、そうですなあ、とくに藤川の表情が良かったな。昨日、「涙の準備は出来てます」と言ってたとおりでした。ベテランでは、最後のボールをキャッチした金本。今日もいい仕事をしてくれました。そして、めっきり髪の毛が少なくなってしまった岡田監督。80年代と比べると、きっとワシもあんな風に老けて見えるんだろうなあ。というのはさておいて、阪神の監督を2年務めて優勝が1回とは、現時点で星野監督と同じ。こんな激務が務まる人は多くないと思いますから、できるだけ長く続けて欲しいと思います。

〇思えば1985年の吉田タイガースは、投手陣が頼りなくて、その分、打線がホームランを打ちまくって逆転するという、粗放極まりない野球でありました。それに比べると2005年の岡田タイガースは、足も使って打線が小刻みにつなぎ、投手陣は後ろにJFKが控えているから、一度リードしてしまえば滅多に負けないという、とても対照的なチームです。2003年よりも、ずっと強くなった感あり。日本シリーズが楽しみです。

〇こうしてみると、やっぱり1985年と2005年には共通点が多くて、どちらもひとつの時代をリセットしたという感があります。プラザ合意は日本の輸出主導型経済の見直しを迫りました。今年はたぶん、金融問題に明け暮れた日本経済の低迷期にピリオドを打ってくれたのでしょう。それではこの先にどんな時代がやってくるのかといえば、1985年の日本人がバブル経済の到来に気付かなかったのと同様、「あけてビックリ」ということになるような気がします。

〇さて、今宵、偶然にも大阪に出張中であった某阪神ファンは、こんなことを言っておられるようです。


> ■ご参考〜前回のマジック点灯直前、優勝直後の福井総裁会見
>
> ○総裁記者会見要旨 ( 7月 7日) 2003年 7月 8日
>
> (問) 阪神タイガースは、明日にもマジックが灯る快進撃を続けており、これに
よって関西の雰囲気が明るくなったと言われる。阪神が優勝した場合、関西経済およ
び日本経済にどのような影響があるとお考えか。また、阪神の快進撃の理由は、球団
の改革によるところが大きいと思うが、同じく日本の金融にも改革が求められてい
る。阪神の改革の成功を踏まえて、日本の金融をどのように改革していくべきかにつ
いてもお聞かせ願いたい。
>
> (答) かなり個人的な意見になると思うが、私は子どもの頃からの阪神ファンで
あるため、阪神のことを客観的に話す能力を持ち合わせていない。初めから気持ちが
のめり込んでいるため、記者会見の場で申し上げるには全く不適当な心境にある。阪
神がいくら勝っても、阪神ファンというものは、本当に優勝するまでは心配で心配で
仕様がない、勝てば勝つほど心配が募ってくる、ということで、とてもマジックが点
灯して云々という心境にはなっていないというのが実感である。しかし、やはり阪神
に優勝して欲しいと本当に心の底から思っている。
>
>
> ○総裁記者会見要旨 ( 9月17日) 2003年 9月18日
>
> (問) 総裁は阪神タイガースを非常にご熱心に応援されてきたかと思う。今般、
優勝して、その経済効果などについてもいろいろ試算がなされているほか、関西に
は、今回のタイガースの優勝が何がしかの心理的な良い影響を経済にも与えて欲し
い、与えてくれるのではないか、というような期待があるかと思う。総裁のご感想な
り、今後の景気に与える影響への期待があれば伺いたい。
>
> (答) 私は冷静に経済効果を計算しているというわけではない。ただ、やはり成
せば成るというか、人間は不可能なことに挑戦する。その実現可能性ということを強
く人々の心に訴えたという効果は、非常に大きいというふうに判断している。


〇読めたぞ、村上ファンドのご本尊はこの人なんだっ!


<9月30日>(金)

〇昨日の胴上げを見ていて、「おや?」と感じたことがありました。岡田監督の胴上げの後に、選手の胴上げがなかったのです。そういえば2003年も同様で、星野監督が宙に舞ったらそのまますぐに優勝インタビューだった。しかし1985年の場合は、吉田監督が胴上げされた後に、怪我で終盤出られなかった山本和投手が胴上げされた。あれはいい光景でありました。最近は、選手を胴上げしないらしい。できれば「アニキ」金本と選手会長の今岡ぐらいは、その値打ちがあったと思うのですが。

〇おそらく以前であれば、スタンドが「あと一人」と大騒ぎしているときに、ベンチの中に仕切り役がいて、「胴上げは最初は監督、次は誰それ、最後にアイツと、アイツを上げて、おい、本人にはナイショだぞ!」などと小声で打ち合わせをしていたのではないだろうか。鍋奉行ならぬ「胴上げ奉行」がいて、そう、1985年であればベンチには川藤幸三がいたのである。ほかの人ならともかく、川藤さんには逆らえませんものね。

〇今回の選挙結果を称して、中曽根元首相が「日本の粘土社会が砂社会になった」と喝破したそうだ。粘土を粘土たらしめていたのは、以前はどんな集団においても十分に湿り気を含んだ人がいたからでしょう。会社でいえば、どこの部にも一人は「宴会部長」がいて、お祭り騒ぎが来るのを待っていたものです。実はそういう人は、日頃はうざったい人でもあるわけで、粘土には粘土の辛さがある。砂社会の方が、実は心地よいというのも、個人としては否定できない真実であります。

〇本格的な砂社会というと、たとえばロシアのように、誰か強権者がいないと組織が保てないような不安定さを内包するものです。その点、幸か不幸か日本はまだまだウェットであって、今日は阪神ファン同士が妙に連帯する、なんてことがあったりもする。それでも20年前のように、ちゃんと会社の中に猛虎会があって、わざわざ会費とって祝勝会を開く、というほどではなくなった。1985年には、社内に紅白まんじゅうを配った人もいたからなあ。

〇タイガースのベンチからは川藤が消えて胴上げが下手になり、国会からはハマコーが消えて、解散のときの「万歳!」に締りがなくなった。そうして世の中はちょっとずつ、潤いがなくなっていく。粘土と砂の中間あたりの場所に、今のわれわれの社会がある。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki