●かんべえの不規則発言



2006年3月






<3月1日>(水)

〇ああ、もう3月だ。年度末だ。なんだかヘトヘトだ。あんなこと、こんなことについて、ちょっとずつコメントしておきます。

〇台湾情勢。昨日が「2月28日」だったというのがポイントです。民進党の現政権としては、この日は独立派にとって「聖なる日」ですから、何か盛り上げるようなことをしなければならない。2004年には「人間の鎖」をやってましたし。ということで、あまり実害のないところで、国家統一委員会と国家統一綱領を廃止してみた。ということは、3月1日以降は別段、民意を刺激する理由はない。その辺は民主主義なんだもの、しょうがないですよね。

〇問題はこういうプレイが、ちゃんとホワイトハウスなり中南海に対し、「やりますよー。でも仕方ないんです、驚かないでねー」というメッセージが事前に届いているかどうかです。ワシントンは分からないけど、きっと北京には届いてないんだろうな。というか、理解できないんだろうな、きっと。

ぐっちーさんが、またアクセスの増えそうなことを書いている。インサイダー取引はともかく、マネロンは洒落になりませんからねー。それにしても、検察がこういう辛気臭い仕事をしている最中に、永田君は偽メール事件で操作を妨害してたんですねー。検察が異例のコメントを出した理由が何となくわかる。

〇株式掲示板のここで、またしても替え歌を拾ってしまった。本来であれば、「・・・・みたいな。」さんに提供すべきかもしれないけど、ここで紹介しておこう。だって、いい味出てるんだもん。

♪ライブ株を買った彼と
郵便貯金しかしない堅実な彼女の愛を歌い上げた昭和の名曲

原曲:木綿のハンカチーフ

恋人よ 僕は買い増す
5倍へと 向かう列車で
はなやいだヒルズ 
君へのエルメスを探す 探すつもりだ

いいえ あなた
私は欲しいものはないのよ
ただホリエの絵の具に
染まらないで帰って染まらないで帰って

恋人よ 半年が過ぎ
売らないが泣かないでくれ
押し目で買い増し 
ベンツを買えるよ
君に君に似合うはずだ

いいえ ごついベンツも金がうなる口座も
きっとホリエの金ほど
きらめくはずないものきらめくはずないもの

恋人よ いまも郵貯で
投信も買わないままか
見間違うような 金持った僕の
口座ぁ残高ぁ見てくれ

いいえ 小銭数えるあなたが好きだったの
でも ペテン師のマザース
売り抜け気をつけてね 売り抜け気をつけてね

恋人よ 我を忘れて買い増した僕を許して
毎日 100万減らす株券
追証 追証 払えない

あなた 最後のわがまま贈り物をねだるわ
ねえ額縁に記念のライブ株くださいライブ株ください♪ 
 
 
<3月2日>(木)

〇ある先輩商社マンの教え。「値引きは小出しにしちゃいかん。引くときは、相手があっと驚くほど引け」

〇「値引き」の部分を「退却」や「謝罪」に置き換えてもいいでしょう。中途半端な退却や謝罪は、それこそ相手に付け入る余地を与えます。だから、相手がビックリするほど派手に。これがダメージ・コントロールの基本ですね。

〇と、ここまで書いたところで、はて、以前にも似たようなことを書いた記憶が・・・。ここで本当に思い出してしまう自分が怖い。2000年5月26日で、森前首相の「神の国発言」後の弁明記者会見のときに、かんべえこんなことを書いていた。

○まず、今日の時点で記者会見を設定するのなら、メッセージは短く「間違っていました、取り消します、ゴメンナサイ」でなければならない。翌日の新聞は「ほうら見ろ」と書くだろうが、これで一件落着になればもうけもの。値引きをするとき、退却するとき、慰謝料を払うとき、そして謝るときは、小出しにしてはいけない。相手が「えっ」と驚くようでなかったら、せっかくの妥協をする意味がない。

〇前原代表がだんだん森前首相に重なって見えてきた。困ったものです。


<3月3日>(金)

〇お昼に出た会合で、「NHKは、荒川静香が日の丸をまとってウィニングランをした映像を流さなかった。報道が偏向している。ケシカラン」と言って怒っている人がいた。その場にちゃんとNHKの人がいて、「五輪には国際映像を使うとルールがあるので、あの場合は仕方がなかった。たまたまリンク際にNHKの職員がいたので、あわててウィニングランの映像を撮って、後で編集して放映した」との弁あり。

〇まあ、真実はそんなところでしょう。かんべえも多少はテレビ局の制作現場に立ち会っている方ですが、あれは1分1秒を争う世界です。とっさの判断で、「日の丸を流すのは自粛しよう」などという思惑が働くはずがない。制作に携わる人たちというものは、視聴者が思っているよりはるかに真面目で真剣なものです。

〇情けないのは、それを「NHKの左翼偏向報道」と決め付けて、大騒ぎする人がいるということ。人はおのれの敵の姿に似るという。テロリストと戦うアメリカは、だんだんやることがアルカイダみたいになってきた。世の中が右だ左だとしょっちゅう腹を立てている人は、だんだん自分が忌み嫌うような存在に近づいていきますぞ。とまあ、かんべえは腹を立てている人たちを見て、自分が腹を立ててしまいました。

〇でも、その会合で面白いフレーズをひとつ拾いました。「ビルに骨なし、肉に骨あり、民主党に筋なし」。なるほど、今年はそうかいう年なのですな。

〇夜は「朝まで生テレビ!20周年・・・感謝の夕べ」へ。1回だけ出演したことのあるワシのところにも、ちゃんと案内が来たのである。1987年春に始まってからとうとう20年目を迎えたというので、関係者700人が全日空ホテルに集結。主役は当然、田原総一朗さんだ。壇上で挨拶に立つ人は、誰もが「田原さん、健康に気をつけて」と言う。「余人をもって代え難い」という言葉は、まさにこういう人のためにある。

〇この場に居ない主役は、先日、他界された番組プロデューサーの日下雄一氏である。享年59歳と聞いて、あらためてその若さにビックリしましたな。「朝生」を始めたときの日下さんは30代であったことになる。会場には日下さんのデスクが飾られていた。書類やら辞書やら湯飲みやらが無造作に積み上げられた、どこにでもありそうなサラリーマンのデスクであった。

〇かんべえが会ったのは、文字通り自分が出た1回限りなのであるが、番組開始1時間前に始まる「打ち合わせ」と称する会合で、日下氏が訥々と番組の説明をしたものである。「台本、決定稿」と称するA4で1枚の紙には、ほとんど何も書いてないに等しい。田原さんが、「じゃあ最初は森本さん、次に重村さん。後は適当に行きます!」みたいなことを言って、番組が始まってしまうのだ。

〇さて、会場はあっちを見てもこっちを向いても、どこかで見たことがあるような人ばかりである。考えようによっては、とっても怪しい人たちの集まりでもある。ふと気がつくと、目の前に立っているのはこの人ではないか。そうか、この人も「朝生」の常連だしなー。話しかけてみようかなー、と思ったが、あれれ、この人って「かつや」なのかしら、それとも「かつたに」? と、急に不安になって、その場を立ち去ってしまった。こんなことは口が裂けてもその場では言えないのだが、実はかんべえ、「朝生」をちゃんと通して見たことが、過去19年間の間で1回もないのである。

〇実は内気なかんべえ、久しぶりに会った角谷浩一氏などと話していると、いちばん心が和んだりするのである(角ちゃんは実は、元テレビ朝日政治部の記者だったのだ)。角ちゃん、またお昼しようよ。キャピタル東急のオリガミで、BLTサンドイッチが食べてみたいのだ。


<3月4〜5日>(土〜日)

〇「火の用心」が先週で終わったので、土曜夜は防犯部恒例の打ち上げ。ご近所の方々とご一緒に寿司屋で小規模な宴会となる。

〇かんべえが普段、一緒に飲む相手というと、オタク仲間が多いので、話題は政治、経済、安全保障といったことが多い。ところがこの会合では、そういう話は滅多に出ない。ご近所の噂話がもっとも多く、比率でいうと半分くらいを占める。年齢層が高い(かんべえ45歳はほぼ最年少)ので、健康、医療関係の話題も多い。趣味関係では、「どこのパチンコ屋はよく出るか」が多く、競馬の話がそれに次ぐ。「オタクでない普通の人たちは、どういうことに関心を持っているか」は、この防犯部の会話を通じて知ることができる。貴重なリアリティ・チェックの場である。

〇たしか、このメンバーで過去に1度だけ政治の話が出たことがあった。それは「真紀子対ムネオ」対決のときであり、「ムネオってのは悪い奴だなあ」というのがその場の結論であった。ということは、過去5年程の間で、あのときだけは政治への関心が高まったということになる。ホリえもんの話は、ごくたまに出るけれども、皆あまり詳しくないので盛り上がらない。まして「女系天皇」とか、「中国の軍拡」だとか、「量的緩和解除は妥当か」などといった話題は出ない。そんなことは、普通の人たちのレーダーサイトには映っていないのである。

〇こういう普通の会話に比べると、ネット上で行なわれている会話がいかに異常なものであるかに気づく。ネット上では「同好の士」が集まってくるので、非常に専門性の高い話ができる。それはいいのだが、考え方のあわない者は排除されていくので、非常に凝り固まったグループができてしまう。かくして互いに「ウヨ」「サヨ」と呼び合うような党派性ができていく。なるほど、こんな風にしてネット社会は寛容さの乏しい議論を生み出していくわけか、などと急に思い当たったりする。

〇さて、昨夜の防犯部打ち上げでは、最近の町会はケシカラン、という話で盛り上がっておった。この調子で行くと、毎年、皐月賞の日に行なわれる総会は大荒れになりそうだ。荒れるのはいいのだが、たまには皐月賞の日に中山競馬場に行ってみたいものだ。そういえば今年はまだ1回しか行っていないなあ。


<3月6日>(月)

〇ああ目が痛い。週末に仕事をし過ぎたのだろうか。いや、違う。これは花粉症だ。今日は春一番が吹いているではないか。きっと花粉が吹き荒れているに違いない。これからが最難関の季節である。4週間分のアレグラ錠を用意してあるが、なおかつ飲み忘れたりするので、自業自得である。

〇右手のひじも痛い。これは仕事に行き詰まると、最近、ダウンロードした将棋ソフトを稼動させてしまうからである。ひと勝負に3回以上、待ったをしてしまうのだが、なおかつ勝てるのは3回に1回くらいである。かといって、「最弱」モードにするのは面白くないので、ついつい「中」モードで戦っている。自業自得といえよう。

〇それ以上に痛いのは懐である。週末に税金の計算をしてみて蒼くなってしまった。ぎゃああああああ。今から領収書を集めたところでもう遅い。基本的に小心者ゆえ、誤魔化すような度胸はないものの、粛々と国民の義務を果たす覚悟がつくまで、あと1週間ほど必要とする見込み。

〇ということで、ため息の多い週の始まりである。よって不規則発言も、今日は愚痴だけで終了。


<3月7日>(火)

〇民主党の救世主、渡部恒三国対委員長の人気が急上昇である。週末のテレビも出ずっぱりだったけど、あのズーズー弁も含めて、むちゃくちゃ好感度が高かったような気がする。なんかこう、「塩爺」がデビューしたときのような感じですな。塩川正十郎氏は財務大臣に就任したときに、たしか国会で内閣機密費の問題が取り上げられて、あんたも官房長官やってたでしょうが、どうやってたんですか、みたいなことを聞かれて、「忘れてしまいましたぁ」と答えるなど、老人力を遺憾なく発揮しておりました。

〇そういう眼で見ていると、渡部国対委員長が「代表選の前倒し」に言及したことも、ホントは単なるボーンヘッドなのかもしれませんが、「いやいや、あれは党内の『前原辞めろ』の声のガス抜きを図ったのだ」などという好意的な解釈が出てきたりする。実際問題として、今、前原代表に辞められたら、国会会期中に代表選をする余裕はさすがにないだろうし、代わりを務める人は9月までの暫定代表になってしまう。あんまり現実味のない話なので、とりあえず言ってみて損はない、みたいな計算があったとすれば、さすがは百戦錬磨、ということになる。

〇何より民主党=お子ちゃま集団、というイメージができかかったところで、こういう長老議員が表に出てきた効果は大きい。しかも意外性があった。これで出てくるのが菅さんなんかだったら、「またか」で民主党は投売りモードになっていただろう。しかもこの国対委員長、小沢一郎とは確執があるなど、いろんな意味で前原代表にとって都合のいい人物である。ご本人としても、副議長をやって「一丁上がり」的な扱いを受けていた後で、こんな風に人気者になって楽しくないはずがない。つまり名人事なのである。

〇かんべえが実践している処世術のひとつに、「スランプに陥ったときは、いちばん苦手な人に会いに行く」というのがあります。まあ、別にスランプのときでなくてもいいのですが、理由をつけて嫌いな人のところに会いに行くのは、悪いことじゃありません。不愉快な思いを覚悟の上で出かけていくと、思いがけぬ好意を受けたりして、「世の中捨てたもんじゃない」という気分になることがあるものです。

〇前原代表の身になってみると、まさに今こそ苦手なベテラン陣におすがりする好機というもの。だいたい年寄りというものは、本質的に若者に対しては甘いものです。謙虚な気持ちさえ忘れなければ、そうそう悪い結果にはならないと思いますぞ。


<3月8日>(水)

〇今宵は歴史家の先生方を前に、拙著『1985年』について講義をするという、天をも恐れぬ無謀の振る舞いをしてきました。まあ、同世代の方が多かったので、想像したよりはずっと好意的な反響をいただきましたが、それでも冷や冷やしたことは言うまでもありません。当たり前のこととはいえ、「歴史のアナロジーを乱用することには慎重であらねばらなぬ」というのが、本日の最大の教訓といえましょうか。

<安直な歴史のアナロジーの例>

例1:1985年と2005年は似ている。だから2006年はバブル経済の始まりではないか。(これは去年の秋に散々聞いた議論)

例2:日本の国運は40年ごとに上がり下がりする。1985年にピークをつけた日本は、2025年までは下り坂が続く。(これは『1985年』の冒頭で紹介したもの)

例3:サダム・フセインに対して、ミュンヘン会談のような妥協を行なってはいけない。(イラク戦争突入の際によくあった議論)

〇そもそも「過去を使って現在を予測する」というのは、歴史の使い方としてはかなり浅ましいことであります。よく「賢者は歴史に学ぶ」といいますが、ビスマルクのようになるのは、誰にでもできることではありません。得てして歴史に学ぶつもりが、「歴史のつまみ食い」になってしまうのが落ちというもので、特に政治家が歴史を語りたがるときには注意が必要でしょう。

〇むしろ歴史家の関心を惹くのは、「現在を使って過去を再評価する」ことであったりするそうです。つまり、21世紀の今になったからこそ、20世紀の違う面が見えてくることがある。将棋の世界では、羽生世代が登場したことによって、升田幸三実力制第4期名人の将棋が再評価されるといった現象があります。そんな風に、現在の光を当てることで歴史の評価を変えるというのは、学者にとって知的興奮を掻き立てられることなのだと思います。

〇他方、エコノミストという人種に対して「歴史のアナロジー」を厳禁してしまえば、これはかなり窮屈なことになってしまいます。極端な話、株が上がるか下がるかといった議論は、ほとんどが不可能になっちゃうでしょうな。たとえば「罫線」(チャート)という存在も、あれは凝縮された歴史のアナロジーなのだというのがタテマエでありますから。この点、「歴史のつまみ食い」をしたがるという点では、政治家と並んでエコノミストは危険分子であるのかもしれません。

〇もうひとつ、「周期説には語り手の希望が込められている」というご指摘を頂戴したのも、大変に身に沁みるものがありました。かんべえが最近、唱えている「日本は国難から脱するのに15年かかる」という説も、正味な話、これを言うと「今日はいい話を聞いた」と感動してくれる人が少なくなかったりするのですが、それは「日本経済の長期低迷はやっと終わった」ということを確認したいという思いが、話し手にも聞き手にもあるからでありましょう。もちろん、それが当たっているかどうかは、ある程度時間がたってみないと分からないのですが。(量的緩和の解除に失敗して元の木阿弥、なんてガクガクブルブル・・・)

〇そんなわけで、ちょっとした知的な緊張感を味わってきた夜でした。明日もまたいろいろあるんだよね。楽しみが続きます。


<3月9日>(木)

らくちんさんのご紹介で、霞ヶ関で行なわれている某勉強会の講師を務めました。約10年の歴史を持つ集まりなんだそうで、会議室を予約して、お弁当を取って、会費を徴収して、という非常にベーシックなタイプの会合でした。参加者のタイプが適度にバラけていること、というのも重要な要素であって、同じ会社の人ばかりが集まっているような会合は、得てして短命に終わります。いろんな業界の人がバランス良く集まっていることが、この手の会合を長く続ける際のコツのひとつです。

〇かんべえなぞは、今までにこの手の会合を、自分でもあきれるほどたくさん体験してきました。「サラリーマンの勉強会なんぞで、真の友情が育つものか」てな意見を聞くこともあるのですが、さすがに10年、20年も継続すると、互いに戦友みたいな関係に発展するもので、今ではその手の交友関係が自分の財産になっていることを実感します。

〇その昔、地域研究の第一人者といわれた石井米雄先生の話を聞いたときに、「勉強を始めるときには、仲間(colleague)が必要です」といわれたことが、記憶に残っています。「師匠が必要です」とはいわれなかった。何かのテーマを追究する際に、師匠もいれば仲間もいる、といのが理想の状況であるのでしょうが、どちらが大事かといえば師匠よりは仲間である。研究会のテーマは、「アメリカ政治」でもいいし、「どんな株を買えば儲かるか」でもいい。ネットワークの理論だとか、ボランティアの精神だとか理屈はいろいろあるけれども、とにかく誰かと一緒に何かをはじめるというのが大切であって、独学というのはよほど才能がある人以外は難しいものだと思います。

〇今はネットがあるから、というのもあんまり当てにはなりません。やっぱり本気で勉強するなら、定期的に顔をつき合わせて集まらなきゃダメなんだと思います。たしか学校(school)の語源は、人が集まることであったはず。これは偏見になりますが、E-learningだの自宅で英会話だのって話は、あんまり信用しちゃいかんのです。その辺で手抜きをするようでは、そもそも意欲を維持することができません。

〇「才能とは情熱を継続できること」(羽生善治)。一人でも情熱を継続できる人は、天才なのでしょう。自分の場合はそれは無理な相談で、いろんな仲間を作らなければ学習意欲は持続できません。では、どうやって仲間を集めるのか。つまるところは運と縁なのですけれども、その辺の歴史やらノウハウやらを語り始めると、ま、雑誌の連載であれば10回分以上は楽勝に続くのでありますよ。


<3月10日>(金)

〇いろんな場所で聞く話ですが、ポスト小泉レースは以前は安倍さんの独走状態であったけれども、少しずつ福田さんの目が濃くなってきたというのですね。何より大きいのは、今年の9月以降に民主党の代表となるのは、前原さんではないだろう。「民主党=若い=期待できる」という図式が崩壊し、むしろ70代の渡部恒三さんが人気大ブレイクである。それなら自民党側も、若い安倍さんで対抗する必要はない。ベテランの登場が許されるという理屈である。

〇こういう話を聞くと、政界の世代交代が確実に遅れてしまったわけで、つくづく偽メール問題の罪は重い。3月13日に予定されている、内外情勢調査会の席上で、民主党の前原代表は何と言うのでしょう。かんべえ、出席しますから、内容は後でレポしまっせ。

〇経済政策をめぐる「ネオチーム対クラシックチーム」の論争も、第1陣「消費税増税の是非」こそネオ側の意見が通ったものの、第2陣「量的緩和の是非」ではクラシックチームの意向が通り、昨日で解除が決まった。続く第3陣「歳出歳入一体改革」では、話の筋から言ってやはりクラシックチームの方が優勢であると思う。少なくとも「名目成長率と長期金利」の問題で、竹中さんの意見の肩を持つ人は、かんべえの周囲ではまったく見かけないのですよ。

〇加えて問題になってくるのが外交問題である。中国の広報外交が日に日に強まっているので、そろそろアメリカ側としても日中関係の緊張が重荷になってきている。今さら北京が何を言っても永田町政治に影響はないですが、ワシントン発で「安倍よりも福田の方が楽かなあ」みたいなメッセージが発せられたりすると、これは大騒ぎということになるでしょう。ちょっと心配です。


<3月11〜12日>(土〜日)

〇このサイトを始めたばかりの頃に、「会社を辞めてパチプロになったT先輩」の話を書きました。その間のいきさつは、2000年7月24日の当欄に詳しい。でもって、本人の許可ナシでT先輩の実名をさらしてしまうと、最近ではUSENでギャオの開発を担当している高垣さんという人である。近況については、2005年5月12日をご参照。(すいませんね、今時ブログじゃなくて)。

〇その高垣さんは、2000年春に電子公園という会社を起業している。事業内容は「コンテンツの配信業」ということになっているが、その当時、こんな内容の会話があったことを覚えている。

「コンテンツって、具体的に何を売るんですか」

「いちばん多いのは、アイドル関連のグッズかな」

「そんなこと言ったって、小池栄子の写真なんてプロダクションが許さないでしょう。ネット上で売ったら最後、いくらでも複製されちゃうし」

「それはトップクラスのアイドルの話やねん。1位から20位くらいまでのアイドルは、著作権がバッチリ守られているから、ワシらは手が出せない。ところがミドルクラスのアイドルになると、ファンも結構いるし、プロダクションも乗り気になってくれるんだわ」

「というと?」

「プロダクションとしては、少しでもコストを回収したいし、ネットがきっかけで売れてくれれば儲けものやろ? だからネットで売ることを許してくれるんやなあ」

〇なるほど、昔からニフティ相手に、「ネットでコンテンツを売る」商売をやってきた人である。そればっかり考えているから、普通では出てこないアイデアが湧いてくるのである。電子公園ではほかにも、「写真集で使われなかった没写真をカメラマンから買い取り、それをマニア向けに売る」みたいな商売も手がけていたそうだ。

〇さて、なんでそんな話になるかというと、たまたま『ウェブ進化論』(梅田望夫/ちくま書房)を読んでいるうちに、「ミドルクラスのアイドルという発想は、ロングテールのことだったのか!」と思い当たったのであります。「ロングテールって何だ?」という方は、なるべく早く本書を読まれることをお勧めいたします。要するに「あんまり売れない商品も、ネットでならば売ることができる」というアイデアなんですが、高垣さんのように早い時期から気付いていた人はいたんですよね。

〇この『ウェブ進化論』、あの田原総一朗さんも、傍線をいっぱい引きながら読んでおられましたぞ。テレビの世界の人は、想像以上にネットを警戒しているようです。『サンプロ』の放映後のランチでは、ソースネクストの松田社長や、ネット企業に詳しい佐々木さんもご一緒に、その辺の話が随分出ておりました。さもありなん。


<3月13日>(月)

〇内外情勢調査会の4月例会、前原誠司民主党代表の講演を聞いてきました。会場の帝国ホテルは盛況でした。10人がけの丸テーブルがずらりと並んでおり、テーブルごとについている数字の、いちばん大きなものを探したところ、確認できた範囲では「75」でありました。事務局やメディア関係者の分も合わせると、とにかく1000人近い人が集まっていた計算になります。

〇これだけ大勢の会員は、前原氏の発言内容に期待をしてというよりは、話題の主を一目見てやろうという興味本位で集まっている(ワシだってそうだ)。そして今日の講師、前原氏43歳よりも若い人は数えるほどしかいなかった(ワシでさえ45歳で彼より年上だ)。これで何か馬脚をあらわすようなことを言えば、「なーんだ。やっぱ民主党ってダメじゃん」という結論になっただろう(ワシもそう書く)。あるいは失言が飛び出せば、今日の夕刊や夜のニュースでバッチリ取り上げられただろう。政治家としては、相当なプレッシャーがかかる舞台であったはずである。

〇ところが前原氏の演説は、なかなかに堂々としたものでした。冒頭、「永田議員のメール問題で、失望と政治不信を招いたことに対するお詫び」があり、その後は「民主党が目指す社会像」という演題どおりの内容となりました。テーマは「効率的で人に暖かい政府」「教育」「外交・安保・憲法」の3点。とくに「教育」の部分で、周囲が非常に熱心に聞いていたという印象があります。内容的に、ツッコミを入れたくなる点がないではありませんでしたが、恐れずひるまずに1時間15分くらいを熱弁で通したのは立派だったと思います。

〇前原氏に対しては、「保守的で、ビジョンの優れた政治家」という評価をよく聞きます。それはその通りなのだと思います。ただし党の代表として、そういった長所を生かすことは、かなり困難な客観情勢になってしまったことも事実です。少なくとも、「前原ビジョンを策定して、寄り合い所帯である民主党の政策に一本筋を通す」という目標は、ほとんど望み薄であるといっても過言ではないでしょう。

〇最後の質疑応答の段になって、「傷口に塩を塗るようで恐縮ですが・・・」という前置きの後に、主催者である時事通信社から質問がありました。「永田メール問題で、事態収拾になぜ2週間もかかってしまったのか?」「渡部国対委員長が、永田議員の辞職を示唆している。このままでは収まらない空気なのではないか?」 ――これに対する前原氏の答えは、「党内で検証チームを作って調査を行なっている。党なりの総括が終わってから発表する」「党として、半年間の党員停止処分を決めた。あとは衆議院の決定に従う」といった内容でした。いわゆる「木鼻」(木で鼻をくくる答え)ってやつですな。

〇質問者は、「こんなに待たせて大丈夫ですか?」「党としてのリスク・マネジメントができてないんじゃないですか?」という問題意識で質問をしている。ところが、さらに時間をくれという。まさか待っていれば、永田メール問題が忘れてもらえると思っているわけではないでしょうに。その部分の答えを聞きながら、急速に気持ちが冷えていくのを感じましたな。

〇前原氏には、おそらくリーダーとしてのマネジメント能力が欠けている。衆院5期という彼のキャリアの中で、集団を率いる機会があまりなかったのかもしれません。まあ、43歳といったら、大会社であればようやく課長になるかという年代なのであって、あんまり責めちゃいけないと思うのだけど、次の首相を目指す人がこれではあんまりでしょう。

〇もうひとつ、今日の2時間ほどの会合の中で、前原氏は1回も笑いを取っていない。これも考えようによっては未熟さの顕れであって、生真面目に政策論を語る姿はいいのだけれど、心にゆとりがないような気がする。だから質問を受けたときに「木鼻」になってしまう。番組中に田原総一朗さんに突っ込まれて、「報告は受けております」と何度も繰り返したりするのも同様でしょう。

〇そんなわけで、前原代表の良さと悪さの両面が見えたように感じました。同世代人としては、あんまり彼に失望したくはないので、「負けるなよ〜」「成長してくれよ〜」ということを結論にしておこう。


<3月14日>(火)

〇先日、ニューヨークタイムズ紙にひどい辱めを受けた麻生外相が、13日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で反論を寄稿しています。われらが麻生さんが、どんなことを言っていたか、えいやっと全文を転載しちゃいましょう。

COMMENTARY

Japan Awaits a Democratic China

By TARO ASO
March 13, 2006; Page A18

TOKYO -- I am positive on China. Already the biggest trading partner in our history if combined with Hong Kong, China has powered our recent economic recovery. Going forward, our codependence will only become more pronounced. I welcome China's return to center stage in East Asia -- as long as China evolves into a liberal democracy. And I believe it will.

Democracy in Asia is spreading. Not so long ago, a Japanese prime minister would have to fly south overnight to Canberra to meet our nearest democratic neighbor. Now, he can fly west for only two hours to Seoul, capital of one of the world's most vibrant democracies.

China's turn is imminent, and I am positive on the prospects for this evolution. Citizens of Japan, South Korea and Indonesia can all attest that prolonged economic development creates a stable middle class, which in turn provides a springboard for greater political representation. The question is no longer "whether," but "at what speed" China will metamorphose into a fully democratic nation. I can assure our friends in China that Japan is committed to China's success to that end.

Imagine: In 20 years, China's influence in Japan will be enormous. Chinese holiday makers, from students to the retired, will be the largest consumers of Japanese tourism, filling favorite tourist spots like Kyoto. Tokyo's taxi drivers will speak Chinese, not English. China will be one of the largest investors in Japan's economy. A considerable proportion of the shares traded in Tokyo will rest in Chinese hands. Today, Japanese companies go to New York for investor marketing trips -- soon, they will fly to Shanghai first.

In truth, there is little new or surprising about these scenarios, considering Asia's historical context. China is not emerging afresh as a world power, as many claim; it is, in fact, reclaiming its historical prominence. My hope is that China recognizes that there is no longer a place for an empire. Rather, the guiding principles in today's world are global interdependence and the international harmony that can engender.

China's history is one of extremes. In 1842, the pendulum swung to one extreme when the Qing dynasty was defeated in the Opium War and fell under the coercive power of the West. In 1949, the mainland swung to another extreme, as Mao Zedong ushered in the Great Leap Forward and the Cultural Revolution -- both now seen as misguided policies. Until recently, the Chinese did not have the luxury of striking a balance between vision and reality, between who they are and who they wish to be.

Crucially, China can learn from Japan's missteps -- we have "been there, done that." Japan has experienced extreme nationalism twice in the last century. A telling incident occurred in 1964, shortly before the opening of the Tokyo Olympic Games, when a Japanese teenager stabbed Edwin O. Reischauer, then American ambassador to Japan. At the time, Japanese emotions still ran high at the thought of U.S. power and influence. Beijing's leaders can learn from such Japanese experiences to better manage their own rising nationalism. Environmental degradation, which suffocated Japan in the 1960s and 1970s, is another area where China can learn from Japan's mistakes, just as we hope China is also inspired by our successes.

In terms of military presence, Japan is Asia's natural stabilizer. The U.S. and Japan have the world's longest-standing security partnership. It is transparent and a relationship between two democracies. Acting alone, the Japanese or the Americans might raise a few eyebrows; acting together, there is no room for misunderstanding. China and every other Asian nation can continue to count on the built-in stabilizer provided jointly by Japan and America, a common good that is readily available to Beijing. Hence my request that Beijing fully disclose its defense spending, which has remained opaque yet -- as Beijing admits -- has more than trebled over the last 10 years.

A final reflection on Japan's post-war record: I can say with confidence that, with a few exceptions, Japan has conducted itself openly and treated neighboring nations as peers. As a self-proclaimed "techie," I have called the attitude that Japan has shown toward its neighboring nations one of "P2P," or peer-to-peer relations.

I would like these thoughts to resonate widely, especially with the citizens of China. For this reason, I have asked my colleagues at the Japanese Foreign Ministry to create a multi-year student-exchange program that is absolutely positive, like my vision of China's future.

I would very much like Japan's youth to look warmly at China. The growth of China must hinder no one's interests. Our new program will facilitate the exchange of thousands of Japanese and Chinese high school students, enabling these young ambassadors to stay in ordinary homes in each other's nations and planting the seeds of mutual understanding. If our program is successful, in 20 years' time Japanese men and women with first-hand knowledge of China will view the Chinese among their closest friends. And many more Chinese will feel the same about Japan.

Mr. Aso is Japan's foreign minister.


〇もう麻生節全開ですね。われらが外相が口をひんまげながら、上記のような主張を英語でやっているのを聞いてみたいものです。ちなみに、麻生さんは若い頃にスタンフォード大学に留学していたところ、1951年のサンフランシスコ講和条約でかの地を訪れたおじいちゃん(吉田茂)に呼び出され、「お前は何という品のない英語を話しておるのか!」と叱りつけられ、泣くなくロンドンに向かったという逸話の持ち主だそうです。この先はかなりウソ臭い話になりますが、麻生青年、「もうちょっとでスタンフォードの学位が取れるんです!」とお父さんに泣き付いたところ、「麻生家の人間に学歴は不要」のひと言で却下されたとか。

〇ついでもって、NYT記事への反駁を佐藤公使(←訂正:「総領事代理」が正確です)が寄稿したものは下記をご参照。

http://www.cgj.org/en/q/japan_policies21.html 

http://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=F40913FA355A0C708EDDAB0894DE404482 

〇この手の記事は、寄稿したらかならず載せてもらえるというものではないのだそうで、せっかく頭をひねって名論卓説を送っても、無駄ダマがかなり多いとのこと。今回のケースでは、ウォールストリートジャーナル紙の米国版、アジア版、欧州版の全部に載ったそうなので、かなりのファインプレーといっていいのだと思います。

〇外務省も、「木鼻」の対応ばっかりではない、というお話でした。


<3月15日>(水)

〇かんべえの地元・柏市のお隣である千葉7区=松戸市(小金・小金原・馬橋・新松戸支所管内) 、野田市、流山市=では、4月23日に補欠選挙が行なわれる。千葉7区は、毎回、自民党と民主党が伯仲する激戦区。そして今回は、自民党候補者が選挙違反で辞任した後の補欠選挙であるから、普通ならば民主党の楽勝パターン。ところが、同じ千葉県から当選している永田議員が、例のメール問題を起こしたために党勢はがた落ち。苦戦を覚悟で候補者を立てなければならない。

●民主、千葉7区補選に太田和美県議を擁立 朝日新聞 2006年03月15日19時38分

http://www.asahi.com/politics/update/0315/010.html 

〇他方、自民党では候補者を公募したところ、空前の221人が応募した。選考の結果、現在は5人の候補者に絞られており、今週中に決定の見通しだという。で、有力になっているのが、斎藤健さんだっつーから驚いてしまいましたがな。

●斎藤副知事が有力 千葉県衆院補選の自民候補  埼玉新聞

http://www.saitama-np.co.jp/news03/15/05p.html 

〇斎藤健さんとは15年前のワシントン時代からのお知り合い。会ってすぐの頃に、「選挙には出ないんですか?」と聞いたと思うけど、それ以後も彼に向かって同じ質問をした人は、おそらくは千人を軽く超えているだろう。というか、掛け値なしに選挙に出るべき人だと思う。彼のことを知らない人は、「経歴がカッコいい」と思うかもしれない。が、そんなことより彼のハートの熱さを知ってもらいたい。そのためには、この本をパラパラとめくってもらうだけでいい。

〇正直、4月の補欠選挙は「近いけど遠い選挙」だったけれども、急に「近くて近い選挙」になってしまった。気が早いかもしれないけど、健さん、そのときはお手伝いしまっせ。


●2ちゃんねる「議員・選挙」掲示板:「衆院千葉7区補欠選挙(再選挙)スレ」 http://society3.2ch.net/test/read.cgi/giin/1129947242/ 

●衆議院千葉7区補欠選挙 (ほぼ毎日更新中) http://ameblo.jp/koizumijyunn160rou/entry-10008669367.html   


<3月16日>(木)

〇実はかんべえ、来週は1週間、アメリカに出張を予定してまして、先日からあれこれアポイントを入れてるんですが、なかなか捗らない。「え、俺、その週は日本にいるんだけど」という人がなぜか多い。春休みで学生が旅行する季節だというのに、みんなどうしたというのでしょうか。ひょっとして、年度末の予算消化に忙しいのだろうか。恥ずかしながら、当方は格安チケットで、3都市回って15万円でありますぞ。

〇とりあえずワシントンでアポを入れたのが、ヘリテージのXXさんと、アーミテージグループのXXさんと、CSISのXXさんと、ロビイストのXXさんである。最近、日本から来るお客は、回遊魚のようにこの顔ぶれと会っていくらしい。そのうちナントカ定跡という名前がつくかも知れぬ。要するに共和党系の知日派人脈なんですが、本当はもっと開拓しなきゃいけませんよね。

〇ということで、来週日曜に出発します。アメリカ在住の皆さま、よろしくお願いします。


<3月17日>(金)

〇今朝、諸般の事情により、少し遅れて柏駅に着いたら、なんと強風のために常磐線が止まっている。千葉県の春は、ときどきこれがあるのですよね。しかもちょうどその瞬間に、「松戸駅で人身事故がありまして」というアナウンス。なんじゃそれは!結局、そのまま電車の中で待たされること1時間。

〇乗客の中に外国人の2人連れがいた。「困ってるだろうな」と思ってみていたら、先方がワシに話しかけてくるではないか。後で気がついたら、ワシは「日本の歴史問題がどーのこーの」というCSISのニューズレターを手に持っていたので、「コイツ、英語できるだろう」と思われたらしい。で、話して見ると、彼らはまったく事態が呑み込めておらず、「日本には何度も来ているんだけど、こういう事態は初めてだ」と言う。そりゃそうだろう。たしかに滅多にあることじゃない。

〇しばらくすると、各駅停車の千代田線が動き出すというアナウンスがあった。ホームを移動してみるが、とんでもない混雑で、さすがに乗れたもんじゃない。少し空いてる2本目に乗った。外国人2人連れはカナダ人で、豚肉の輸出のために日本に来ているという。でもって、明日にはソウルへ飛ぶのだそうだ。「牛肉は?」と聞くと、BSEがあるから売れない、と言う。なんの、ワシは明後日からアメリカに行って、BSE牛肉を食いまくるぞ。とまあ、こういう日本人もいるのである。

〇結局、カナダ人2人連れに付き合って、北千住で日比谷線に乗り換え、苦難を共にしたのであった。まあ、滅多にないことであるから良いか。会社に着いたら12時少し前。いくら春一番とはいえ、こういうことは、あんまり起きて欲しくないことである。


<3月18〜19日>(土〜日)

〇さて、以下は最近考えているしょーもない理屈です。

(1)アメリカ人のマインドは"I'm OK, You're OK."である。明朗、正直である。が、ときに単純過ぎると見られることがある。

(2)中国人のマインドは"I'm OK, You are NOT OK."である。堂々としている。が、傲慢不遜に見られることがある。

(3)日本人のマインドは"I'm NOT OK, You're OK."である。謙虚で勤勉である。が、卑屈に見られることがある。

(4)韓国人のマインドは"I'm NOT OK, You are NOT OK."である。激しい闘志を内に秘めている。が、理解されにくいことがある。

〇これらの前提をもとに、それぞれの2国間関係を考えると面白いと思うのです。

●日米関係:日本人から見たアメリカ人は「いい人だなあ、でも単純すぎるかも」となり、アメリカ人から見た日本人は「使いやすい奴だなあ、でも、ズルイのかも」となる。両国関係は、ごく自然にアメリカ側が優位に立ってしまう。日本側がせっせとアメリカを「先生」にしている間は、非常にうまくいく。が、日本が「俺の方が上だ」と感じ始めると、ややこしくなる。結論として、日本側が我慢すればうまくいく関係である。

●米中関係:中国人から見たアメリカ人は「自分と似たようなもの」と映るが、アメリカ人から見た中国人は「似ているけど、俺よりも傲慢なやつ」といった印象になる。両国関係は対等なものになるが、うまく続けるためにはアメリカ側が我慢をしなければならない。

●日中関係:中国人から見た日本人は「自信がなさそうで、取るに足らないやつ」となり、日本人から見た中国人は「あまりにも傲慢で、ほかの人ならともかく、こいつの言いなりになるのだけは御免だ」となる。互いの人生観があまりにも違いすぎて、相互理解が難しい。

●日韓関係:日本人から見た韓国人は「自分とそんなに違わない」ように映るのだが、韓国人側は「こんな自分に誰がした」(日帝36年!)的な感情がほとばしってしまうので、なかなかうまくいかない。両国関係を良くするためには、韓国側に我慢をしてもらう必要があるのだが・・・・。

●米韓関係と中韓関係も、それなりに理屈がつきそうな気がする・・・?

〇こういうのはいわゆる「エスニック・ジョーク」と同じで、典型的なステロタイプです。だから、あんまり真面目にとらないでほしいのですが、「心理学で読み解く国際関係」というのは、誰か真面目に研究してみる値打ちがあるんじゃないでしょうか。

〇今晩のアメリカンエアーで出発の予定です。それにしてもWBCの日韓戦、なんだか勝てるような気がしないなあ・・・。そういや今日はディープインパクトが出走するんだよな。でも、そういう気持ちはさておいて行ってまいります。<13:33>



〇いやあー、勝っちゃいましたね。WBC準決勝は。良かったよかった。

〇7回の攻撃、多村のバント失敗の後が代打福留と聞いて、あたしゃてっきり「そんなのダメだ」と思いましたな。なぜかそこで配偶者が、「いや、打つかもしれない」。んなわきゃーねえだろ。代打といえば、なんで王監督は、セ・リーグの打点王である今岡を連れて行かなかったんだろう。赤星だって、代走には使えるのに。どうもわがタイガースの選手を過小評価しているように思えてならぬ・・・・。などと文句を言っておりましたら、すいませんでした、福留さま。それに配偶者さま。それにしても、王監督の代打起用がビシバシと当たるなんて、こういうこともあるものなのですね。

〇でも、これで日本がキューバに勝ってしまったりしたら、まるで傷だらけの優勝になっちゃいますね。(アメリカに勝ってない、韓国とは1勝2敗)。ま、これも勝負のうちというものでしょうか。今日のところは、とにかく選手たちに拍手拍手です。

〇思えばこの大会、審判の不手際も含めて、すっきりしないところが多すぎる。ピッチャーの投球数に制限があったり、同率の場合は何点差でなきゃいけないとか、だいたい、物事の仕切りをアメリカ人に任せちゃうとこういうことが多いんですよね。これがサッカーだと、ヨーロッパ人がやっているから不公平には厳しくて、ルールや審判はしっかりしている。でもFIFAのように「身内で固めてお金は不祥事」が得意だったりするので、油断がなりません。

〇アメリカルールというのは、「皆さん、私の言う通りにしなさい。そうすれば公平になります」みたいなところがあって、「それってお前だけ有利じゃねえか」みたいな反論をすると、「へ?」みたいな反応が返ってくるのですね。今回のWBCはその典型であったような。これでアメリカ国内はどんな雰囲気になっているのか、というのも出張先の楽しみであったりします。最初の渡航先はNYなんですけど、やっぱり決勝戦では日本人が集まって試合を見るようなイベントはあるんでしょうかね?

〇ということで、かんべえはただ今、成田空港で時間をつぶしております。それにしても、第1ターミナルって何もないのねえ。ああ、でも、日本が勝ってくれたお陰でちょっと元気が出た。先週はしんどかったんだもん。

(ディープインパクトはぶっちぎりだったようで。ああ良かった、これで競馬場に行っていれば、デルタブルースかファストタテヤマから買って、お金を無駄にするところであった)。<17:17>


<3月20日>(月)

〇無事に夕刻のJFK空港に着きました。いやー、なんかイエローキャブがとってもキレイだったりして、ここはどこ?ってな感じのニューヨークであります。

〇こっちの頭の中は朝なのですが、当地は夜。同行の岡崎研究所の阿久津さんと一緒にぶらりと出かけて、BSEのたっぷり入った牛肉を仕込んでまいりました。さあ、これで準備は万端。皆さま、お休みなさい。<12:55>




〇時差ぼけ状態が抜けないので、その間に飛行機の中で読んだ本のご紹介です。

『ルート66をゆく』(松尾理也/新潮新書)は、産経新聞外信部記者の手によるアメリカ内陸部のフィールドワークです。その昔、有名なテレビドラマであった「ルート66」を訪ねつつ、日本ではあまり知られていない"Red America"を描こうという企画です。普通の日本人が知っているアメリカは、ニューヨークにワシントンにロサンゼルスといった"Blue America"である(かんべえの今回の出張もそのパターンだ)。ところが「ルート66」が走っているのはシカゴからロサンゼルスまで。アメリカの「ハートランド」を走りつつ、保守的なアメリカを体験しようというのだから、面白くないはずがない。

〇「シカゴは甲斐の武田信玄。景気よく見えても、天下は取れない」――のっけから、鷲尾さん(ジェトロのシカゴセンター長:現在は海外調査部長)のセリフが飛び出すのでビックリ。続いてかんべえも登場して、著者を惑わすような発言をしている。「赤と青に割れたアメリカ」という話は、本誌でもずいぶんやりましたものね。本書はミズーリ州セントルイスの教会の姿、カンザス州ガレーナで展開されている進化論論争、オクラホマ州オクラホマシティーの草の根共和党員たち、あるいはアリゾナ州ダグラスの移民問題などを描いています。

〇本書に登場するガチガチの保守派はこんな風に語っている。「ブッシュは社会問題の面でやや保守的という程度で、外交的にはグローバリストであり、財政的には大きな政府主義者だ。だから保守でもなんでもない。リベラリストだ」。つまり、南部の草の根保守派たちは、「マサチューセッツ州のリベラルよりはマシだから」ブッシュに投票しているに過ぎない。天才カール・ローブの戦略は見事なものであったが、それはかなり無理をして作った寄木細工であることが分かる。

〇今日はイラク戦争開戦から3周年。ブッシュ大統領はクリーブランド(またオハイオ州かよ!)で演説を行い、開戦の正当性を訴えている。最近の世論調査では、ブッシュ支持率が再び3割台に落ちたこと、そして特に共和党支持者の間でも人気に陰りが見られることが伝えられている。保守派が見捨てるとなると、その後の転落は早いものになるだろう。



〇さて、今日は国連とNYMEXに行きました。どちらも入館手続きが煩雑でありましたな。国連なんて、わざわざ写真入りの入館証を作ってくれるのです。なんと入館証を作る専門の事務所があるのです。なんという無駄でありましょう。国連改革はやはり必要なのではないでしょうか。でも個人的には、いい記念にはなりますけどね。NYMEXでは、原油やら貴金属やらが騒々しく取引されている景色が圧巻でした。貴重な機会を作ってくれたYさんに御礼申し上げます。

〇それよりも日本の皆さまが気にしておられるWBCでありますが、当地ではまったく相手にされていません。当地で会う日本人さえもが、「ああ、そういえば今晩なんですね」などと言うのであります。メディアのカバレージがとにかく少ないのです。今日のUSA Todayスポーツ面の記事は、トップからほとんどがバスケットで埋められており、野球の記事は2Pのみ。うち前半がMLBのオープン戦成績で、後半部分がWBCです。

〇でもね、この見出しにちょっと愉快なものを感じました。

@A true 'world' series. (本当の「ワールド」シリーズ)

AMajor leaguers have minor profile in WBC final (WBC決勝戦でメジャー選手はマイナーな存在感)

BIsland nations navigate way around the world to final(島国が突き進む世界一への航海)

〇そーなんだよっ、自国内だけでやっているのに、「ワールドシリーズ」って傲慢なんだよっ。ま、ここで大活躍するような選手は、どんどんMLBに入ってしまうと思われるので、結果的には「アメリカ=世界」なんだといわれちゃいそうですが。それでもESPNでは"Japan vs. Cuba 9PM/ET"が放映されますので、これからしっかり応援します。<8:55>*日本時間


<3月21日>(火)

〇いやあ、長い試合でしたなあ。ホント。午後9時に始まった試合が終わったら午前1時。これはキューバ側の投手交代が多かったせいだと思うのですが、5点差がついた9回表、最後の1人で投手を替えてきた当たり、執念のすごさを感じました。逆に日本側があれだけ引き離されていた場合、あそこまで食い下がれるかどうか。キューバはやっぱ、掛け値なしに強いチームだったと思います。

〇日本チームが勝てたのは、運と勢いに恵まれたからでしょう。野球というのは、ちょっと麻雀みたいなところがあって、強い側がかならずしも勝つとは限らない。日本の側に勢いがあったのは、苦しんだ末に準決勝で韓国に勝ったからであって、ここはひとつ「韓国よ、苦しめてくれてありがとう」と言ってみるのも気が利いているかもしれません。「アジアを代表してチャンピオンシップを取りました」などと言うと、これは明らかな嫌味になりますが。

〇見方を変えると、「予選で苦戦して本選では強い」というのは、まるでW杯のブラジルみたいでもある。勝ったのだから大いに威張っていいのですが、チームジャパンはセレソンほどには強くない。「WBCの初代チャンピオンは日本だったんだって」と、まるでウルグアイみたいに呼ばれることのないように、今後もディフェンディング・チャンピオンとして恥ずかしくないプレーをしてほしいものです。(でないと、みんな見に行かなくなるよ!)

〇ところでこちらでESPN放送を見ていて気がついたことを報告しておきましょう。

(1)放送開始が30分遅れた。その前に放映されていたバスケットの試合で、「2回連続延長戦」(つまりムチャクチャ盛り上がる試合)があったから。しかも最後は、同点で3度目の時間切れの直前に、ミシガンの3点シュートが決まるという壮絶な幕切れ。放送がサンディエゴの野球場に変わったときには、もう日本チームが1点取っておりました。

(2)日本選手の名前が読みにくく、アナウンサーが選手の名前を何度も噛む。「オガサワ〜ラ」「サトザキ」など特に苦しそう。MVPをもらった人は「ダイスキ・マツザカ」とコールされました。放送中、王監督に対しては敬意が払われており、"Oh-san""Oh-kantoku"の故事来歴を紹介していました。長嶋との関係も紹介されていましたね。

(3)「イチロー」は別格扱いで、というかほかに知ってる選手がいないものだから、試合終了直後には「MVPか?」との声も上がっていました。9回裏には、例の「30年間はキャッチアップできない」発言も紹介されてました。彼のキャラは広く知られているらしく、韓国戦に敗れて絶叫しているシーンは何度も流れました。かんべえは、個人的にはイチローがMVPでも良かったと思います。彼がいなかったら、絶対に優勝は出来なかった。あたしゃライトにフライが上がるたびに安心してましたもの。

(4)アメリカの解説者は、キューバの野球は知っているけれども、アジアの野球はよく分らない。「アジアの野球は独自の発展をした」と言っていましたな。ESPNはハバナの同時映像は用意してましたが、東京の映像は残念なことにナシ。両方映してくれれば、応援の仕方も、国によって大きく違うことが分って楽しかったでしょう。

(5)優勝の瞬間には、ちゃんとグラウンドに広げた日の丸が映っていましたよ。そっちはどうですか?と、いうのは要らぬ心配だと思いますけれども。

〇ヒーローインタビューを見られないのが残念です。ということで、ついつい夜更かしをしてしまい、時差ボケが治らない出張2日目です。<15:37>




〇本日(3月21日付)のニューヨークタイムズ紙のスポーツ欄には、WBC関連の記事が1本と、それに関する評論が3本掲載されています。それぞれの注目点をご紹介しましょう。

●In the End, Japan Outlasts Field To Claim Title of World Champion Jack Curry

これは試合経過を説明した記事です。先発した松坂や、初打点を叩きだした今江のコメントを紹介しつつ、チームジャパンを称える記事になっています。結語がなかなかによろしい。こんな内容です。

Despite having only two major leaguers, Japan won the tournament. Despite having no major leaguers, Cuba finished second. The United States feels it has the best players in the world. But, in this tournament, that was unture. Japan, as the flying flags showed, was the class of this classic.

「WBCの決勝戦に、メジャーリーガーが2人(イチローと大塚)しかいなかった!」という点は、これなど長めの記事ではかならず触れられている点です。よっぽど意外(期待はずれ?)だったのでしょう。それでも野球の正統(クラシック)は、日本とキューバの間で争われた。本音は悔しいのかもしれないけれど、「素直に勝者を称える」というアメリカの伝統は健在であるようです。

●Now This Is What World Series Is Supposed to Mean  William C.Rhoden/Sports of The Times

次に評論のその1に行きます。「先週、急に編成されて調整不十分のアメリカ選手たちは面目を失い、決勝トーナメントから取り残された」という、アメリカ人の琴線に触れる点を取り上げています。アジアの野球ファンとしては、せっかくのWBC第1回大会において、アメリカがこんな成績なのでは、「もう2度目はないかもしれない」という不安があります。とはいえ、真の野球ファンであれば、「これが本当のワールドシリーズだぜ」という思いもある。

興味深いことに、6回の攻撃中にこのWBCを企画したBud Seligコミッショナーがこんなことを言ったそうです。「ワールドシリーズは、ワールドシリーズだよな。でも、そうはいっても、スポーツがますます国際化していって、WBCが大きな大会になっていたたら、これはジレンマだよね。もっとも歓迎すべきジレンマだけど」。

アメリカ人が毎年秋に楽しみにしてきた「ワールドシリーズ」は、もうワールドシリーズとは呼ぶべきではない。MLBが10月に行なうアメリカンリーグとナショナルリーグの決勝7戦勝負は、「秋のクラシック」とか「MLBチャンピオンシップ」と呼ぼう。もう「ワールドシリーズ」と呼ぶのは止めよう、というのが本稿の結論です。ヨシッ!

A Manager Misfires, and the Cubans Are Left Shooting Blanks  Murray Chass/on Baseball

こちらはキューバに軸足を置いた評論です。のっけから「もしもキューバナショナルチームのオーナーがスタインブレナーであったなら、昨日のべレス監督はクビだ」と来る。以下、ああすりゃ良かった、こうすべきだった、てな話が続く。考えてみれば、ヒスパニック系読者はほとんどがキューバ乗りであったはずなので、これは必要不可欠な視点であるといえましょう。

For Matsui, the Game Is Serious Business  Harvey Araton/Sports of The Times

ニューヨーク市民の、いやヤンキースファンの重大な関心事としては、「WBCに出なかった松井選手は、日本での評判が悪くなるんじゃないか?」というものがある。ご当地のニューヨークタイムズ紙としては、ここで「松井の決断」が取り上げる必要があるわけです。

昨晩の松井選手は、信じられないことに昨晩のWBCを見ないで、ヤンキース番記者を集めた食事会を開催していた。メディアに対する彼の気遣いはかねてから有名であり、この記者も「初めてピンストライプを着た日から、彼のアカウンタビリティには一点の曇りもない」と称えている。周囲のコメントも、「彼は日本のために毎日、年間365日プレイしている」など好意的なものが多い。

WBCに対する松井のコメントは、「自分の決断を後悔してはいない。ただ日本の市民として、とってもうれしい。僕もファンだから」という、いかにも彼らしいものです。まあ、彼が私利私欲で出場を辞退するようなケチな男じゃないことは、十分に伝わっている様子。

かんべえ個人としては、松井の決断は多とすべきであると思います。日本にはイチローのようにチーム・ジャパンに尽くすスターもいれば、本業であるところのヤンキースの一員たることを優先するものもいる。WBCに挙国一致となるよりも、その方がずっと大人じゃないですか。「日本はゴジラ松井抜きで勝った」ことは、自慢すべきことでありましょう。

〇と、せっかくニューヨークまで来て、お前は野球に血道を上げてどうするんだ、というお叱りを受けそうです。でも、いちおう今日で2日間の国連取材を終えました。明日からはワシントンに参ります。<7:33>


<3月22日>(水)

〇早起きしてラガーディア空港へ。国内便に乗るときは、あいもかわらず「靴を脱げ」「コートを取れ」「パソコン持ってたらカバンから出せ」などという一連の不愉快な動作が待っている。それでも、セキュリティチェックは以前に比べれば慣れたというか、緩んだというか、とにかくホッとするところがある。

〇それにしても3晩過ごしたニューヨークは、昔と違って安全な街になったものである。以前はとってもテンションが高かった。初めてNYを訪れたとき、かんべえは初日に「背中にケチャップをかける」という古典的な手口に遭った。手にしていた一眼レフは無事であったが、そのとき着ていたブレザーは出張中は着れなくなってしまった。よっぽど頼りなく見えたのであろう、道端で出会ったお婆ちゃんが、「財布は尻ポケットに入れるな」などと説教してくれたものだ。

〇今のマンハッタンでは、その手の危険がまるで目に入らない。いまや全米の大都市の中では、NYがもっとも安全な町になっているらしい。それではなぜ、「NYは危険だ」という印象が抜けないかというと、これは歴代のアメリカ映画による罪が重いと見た。『タクシードライバー』や『マラソンマン』など、ニューヨークを舞台にした怖い名画は枚挙に暇がない。わりと最近の作品であるはずの『ダイハード3』などでも、ハーレムをネタにしていた。あれを想定していると、拍子抜けしますよ、今のNYは。

〇それにしても、イエローキャブが高速道路料金をETCで払っちゃったのには驚いたな。日本より進んでますぜ。

〇シャトル便でワシントンDCのレーガン空港に降り立つ。ホテルに行ってみたところ、「午後2時にならなきゃチェックインできない」と言う。しょうがないから時間をつぶそうと、すぐ近くにあるナショナルプレスセンターに入り、産経新聞社のオフィスにアポなし訪問を試みる。恐々入ってみると、知り合いが仰山おるではないか。そこでコーヒーをご馳走になったばかりか、「今日は昼からAEIで台湾問題のセミナーがありますよ。一緒に行きませんか?」と誘われ、ホイホイとタクシーに便乗させてもらう。こんな風に、芋づる式で話が進むのがワシントンのいいところである。

〇あいにくこの日のセミナーは超満員で、レジスター抜きの当日乱入はダメでありました。でも、この日のスピーカーである馬英九の実物を見たので、ちょっと得した気になりましたな。現在のワシントンには、与党民進党と野党国民党系が入り乱れ、台湾の関係者が大挙している。もちろん、大陸側の関係者も大勢いるはずである。こっちは来月に迫った胡錦濤の訪米というイベントがある。ワシントンは中台関係で大賑わい、日本はといえば、桜は咲いているけれども陰が薄いのである。

〇セミナーに入りそびれたので、同行の阿久津さん(岡崎研究所)と一緒に「寿司太郎」でランチ。かんべえが15年前に居た頃は、よくお昼にいった店であるが、今では入り口にザガットの評価が飾ってあるような日本料理の名店となっている。店内でマイケル・オハンロンを発見。シンクタンクのセミナーで知り合いを探すよりも、寿司太郎で網を張っているほうが成功率が高いのではないか、などという話になる。

〇双日のワシントン店に行って多田店長と会う。「日本の広報外交はどうすべきか」がテーマ。なかなか状況は難しいのだが、アイデアがないわけでもない。明日はさらに詳しい話を取材したいところです。


<3月23日>(木)

「昨日の馬英九スピーチは盛況だったですな。『台湾はアジアにおける責任あるステークホルダーであります』なんて言っちゃって、ゼーリック国務副長官はご満悦で、3時間も話し込んでいったとか」

「そんなのって許されるんですか。ゼーリックは先週、こっちに来ていた谷内外務次官とはとうとう会わなかったそうですけど」

「あの人、なんでも、『同盟よりもビーフが重要だ』とか言ってるらしいですよ。弁護士体質そのまんまというか、ぜーんぶ自分の思うようにならないと気がすまない人ですから」

「大丈夫、彼はブッシュ政権の中では浮いている」

「それ以前に、ブッシュ政権自体が浮いているという話もありますが」

「ダメです。それを言い出したら、取材にも何にもなりません」

「・・・・・・」

「ま、これで台湾の国民党は、ますます米中の覚えがめでたくなりましたな。陳水扁はピンチだ。そのうち馬英九は尖閣諸島の話を持ち出しますよ。その心は『米中台・対日包囲網』」

「ちょちょちょ、ちょっと待って。台湾の人たちが尖閣諸島の領有を主張するのは、純粋に漁業権の問題だって聞いていたんですけど」

「台湾の漁民も高齢化してるんで、最近は中国人労働力を使ってるんですよ。だから尖閣問題は中台の利益が一致するの。知らなかったでしょ。気をつけた方がいいと思うなあ」

「あたたたた。日本は何やってんでしょうねえ」

「要するにみんな中国にやられてるってことでしょう。日本の常任理事国入りを封鎖するために、コンセンサスグループを陰で援助してるって話も聞きますよ」

「おおお、そこまでするか。でも、日本にはそこまでの知恵も覚悟も予算もありませんから、残念!」

「もちろん、戦略もない」

「そりゃあアメリカも台湾も同じでしょう。戦略なんてありませんて」

「そうは思いたくないんで、敢えて聞きますけど、アメリカの対中戦略ってどうなってるんでしょう」

「engageする。shapeする。hedgeする。そして・・・」

「とりあえず時間を買って、良い方向に変わるのを待つってわけですか? 楽観的過ぎると思うなあ」

「アメリカはそれでいいんです。日本はちゃんとhedgeしてますか? 靖国参拝で中国をさんざん刺激しておいて、あとで災難が降りかかるのはウチじゃなくて、お宅の方ですからね」

「え、その場合はアメリカが守ってくれるんじゃないんですか?」

「誰がそんなこと言ってるんですか。しっかりしてください。最近の日本外交は危なっかしくて見てられませんよ。率直に言って、東アジアサミットにインドと豪州を巻き込んだのは評価します。でもそれ以外はズタズタですね」

「・・・・・」

「ほら例えばさ、インドとの関係を良くして、それにインドネシアを巻き込むとかさ。いろいろやり方があると思うんだけど」

「ソフトパワーなんてのはどうでしょう。最近は日本製のアニメも好評なんですけど」

「悪いけどねえ、デザートの上のトッピングならともかく、メイン料理がアニメですといわれたら、普通の人は引いちゃうよ」

「申し上げにくいことながら、そもそも『歴史問題を解消しない限り、日本にソフトパワーはない』という意見も、一部では有力でありまして」

「そんなこと言うのはリベラル派でしょ」

「あのー、日本からいらっしゃる皆さんは、会いやすい共和党系の人とばかり会って、民主党系の声を聴かない傾向があると思うんですが、それって非常にまずいことだと思うんですね。だって2008年には――」

「おっしゃる通りです。保険がかかってないってことは自覚しているんです。日米関係は今がいいからと思って、ついつい受身になってしまっている。通商摩擦の記憶はすでに遠く、対米関係への緊張感は限りなくゼロに近い。日米関係の将来に投資しようなどという話は聞いたことがない。それで小泉さんが去った後は・・・・・ガクガクブルブル」

「個人的な話で恐縮ですが、民主党系の研究者の中に居ると、しょっちゅう『最近の日本のナショナリズムの高まりは・・・・』などと言われて、肩身の狭い思いをしております。これを反論するのは難しいんですよ。そういう悪い情報って、ちゃんと上のほうまで届いているんですかね」

「なるほどアメリカ政治の党派的対立が深まる中で、日本もしっかり巻き込まれてしまっているのですね」

「ところでアーミテージ・リポート2と日米の最終報告書は3月が締め切りと聞いています。お聞きしますが、本当に今月中に出るんでしょうか?」

「それは、えー、むにゃむにゃむにゃあ」

「なんと心許ない状況。それにしても、なぜ中国はかくもパワフルなのでしょう。今の世の中、政治家も軍人もエコノミストも、みーんな中国の鼻息ばかり恐々と窺っているじゃありませんか」

「それでもね、中国には怖いもの知らずという強みがあるからです。無知は力なり」

「おお、それは至言ですね。中国は国際ルールもマナーも前例も知らない。だから好きなだけムチャをする。勢いに押されて皆が少しずつ譲歩して、だんだん言い分が通っていくんですね」

「そうそう、歴史のことなんて知らないくせに、日本の歴史問題を非難する。ウソも100回繰り返すとそっちが信用されるようになる。これに対抗するのは難しいですよ」

「彼らも戦略的にやっているというよりは、上から命じられた通り、闇雲にやっているように見えるのですが」

「靖国参拝問題は、一般の日本国民にとってはどうでもいい話です。でも先方さんは、中国共産党の顔に泥を塗られたと思っている。だから、損得勘定を抜きにして、あらゆる資源を投入して潰しに来ます。どっちが勝つか、答えは出ているようなものだと思いますが」

「でもね、日本国民の多くは、それでも突っ張って参拝を続けている『ブレない』小泉さんに好感を抱いている。これじゃ国論が割れるばかりですよねえ」

「なるほど、無知と地頭には勝てません」

「考えてみれば、無知を力にしているということでは、テロリストたちもそうですよね。21世紀とは、無知の前で知識が、ヤクザの前で紳士が、心細い思いをする嫌な時代なのかもしれません」

「人は自分の敵に似るという。ヤクザの相手をしているうちに、紳士もヤクザになってしまうのかも。心せねばなりませんね」

「アメリカはテロリストに似て、日本は中韓に似るのですか?嫌だあ、そんなの」

「思えば、無知を力にするという点では、ライブドアも加えていいかもしれませんね。ああ、なんて寒い」

「ワシントンでは、今日は桜も咲いてます。きれいです」

「でも、そのワシントンに知日派、親日派はどれだけ残っているのでしょうか」

「日本では、『第2のマイケル・グリーンを作れ』などと言う人が少なくないですが、理想論ばかりが先走っているように感じます。正直、今のワシントンの議員スタッフの中で日本語ができるのは、おそらく1人しかいません。文字通り風前の灯です」

「今じゃ日本専門家は食えない、つまらない、将来性もない、という三重苦です」

「とりあえずその辺のところから手がけていくしかないようですね」

〇隗より始めよと申します。まずは手近な日本ファンを大事にするところから始めてはどうでしょう。それから、対中ODAとか機密費問題とか、納税者としていろいろ腹の立つ問題はありますけど、こんなご時勢に外交予算を削減するというのは、非常にまずいのではないかと思います。てなことを考えつつ、ワシントンDCの一日が暮れていきました。

●参考資料:CEPEX (Center for Professional Exchange) http://www.cepex.org/index.html


<3月24日>(金)

〇怒涛のようなワシントン滞在を終えて、西海岸にやってきました。ワシントンからロサンゼルス国際空港へは5時間半。成田からであれば、ジャカルタやバンコクあたりに飛べる距離です。時差も3時間ある。まったくなんて広い国でしょう。飛行機に乗っている間中、ずっと寝てたので退屈はしなかったのですが、お陰で時間の感覚は狂いっぱなしです。

〇それでも、こんな風にワンクッション入れることで、アメリカのまったく違う姿が見えるのは面白いものです。街の表情が東とは大違い。アジア系の人口が多いので、どこかホッとするところがあります。金曜夜のサンタモニカを散策してきましたが、面白いものを2つ発見。ひとつは「KAITEN!」と称する回転寿司の店。寿司と一緒に天ぷらなども回っているのはご愛嬌ですが、結構、いいお値段の上に繁盛しているようでした。ZAGATの調査済みの看板が出ていたのにはビックリしましたな。

〇もうひとつは「FAMIMA」。名前どおり、ファミリーマートの西海岸2号店です。ポッキーや柿の種などの日本の商品を置いているのはともかく、どんぶりモノなどのお弁当を置いているところが勝負どころと見ました。日本に比べると、アメリカのコンビニは全般にブランドイメージが低く、正直言ってサンドイッチを買おうとは思わない場所なのですが、これが成功するようだと「日本風コンビニ文化」がアメリカにも伝わるかもしれません。

〇日本文化のアメリカナイゼーション、という現象は指摘されるようになってから久しいのですが、西海岸ではいろんな場所でジャパナイゼーションが起きているようです。日米のオタク文化が融合しているのも、ここが最前線ですものね。


<3月25〜26日>(土〜日)

〇LAXで4度目のアメリカンエアーに乗って成田へ。とうとう帰ってまいりました。とりあえず飛行機の中で見た映画のご紹介などを。

『タッチ』・・・・あだち充作のマンガが、去年映画化されていたのだね。あら筋は知っている。脚本も演技も未熟者。浅倉南役の子が可愛い。が、畢竟それだけである。こんなアホみたいな映画を見て、最後は泣けてしまうのだから、かんべえもつくづく老いたものである。

思うに、野球という競技には祈りがある。打者がバッターボックスに入るとき、投手がモーションに入るとき、野手がフライを追いかけるとき、見ている者は祈りを込める。ワシなどはザックリ40年も阪神の応援をしてきたので、田淵や掛布や新庄やその他大勢に祈りを捧げ、いっぱい裏切られてきた。だからこそ、たまにWBCみたいなことがあると嬉しい。そして、こんな映画を見ても感情移入してしまうのである。

『イーオン・フラックス』・・・・『マトリックス』を『トゥーム・レイダー』のノリで作れば当たるだろう、という志の低い映画。まあ、アンジェリーナ・ジョリーの嫌いな人は、トゥーム・レイダーを見ないだろうから、シャーリーズ・セロンに見惚れていたいという人は、十分楽しめるであろう。細身でショートヘアーで強い女、というのはワシも嫌いではないし、例のシャカシャカ歩きのシーンも天晴れな映像である。

問題はSFとしての底の浅さ。これって『未来惑星ザルドス』をちょっと明るくして、小松左京の短編『お召し』のアイデアを盛り込んだだけじゃねえの?――てなこと書くと、ホントはネタばれになるのだが、どっちも70年代の作品ゆえ、知ってる人は少ないだろう。もう一点、命の問題をテーマにしてる割りには、人を殺し過ぎ。イーオンの強さを示したいのなら、もっとほかに方法があると思うのだが。

『007サンダーボール作戦』・・・・007シリーズの第4作。実はまだ見てなかったのである。ボンド役は初代のショーン・コネリーがまだ演じている。この次の「2度死ぬ」で彼はおさらばしてしまうのだが、なるほどシリーズマンネリ化が始まった作品といえそうだ。

まあ、40年前のアクション映画なので、「ふーん、昔はこの程度で皆感心してたのか」という気がする。40年前といえば、ショーン・コネリーが演じるジェームズ・ボンドは、植木等が演じるところの無責任男シリーズと似てるなあ、なーんて思ってしまったぜ。


<3月27日>(月)

〇23日付の当欄で書いたように、アメリカで聞いてきた話はかならずしも明るいものではありませんでした。というより、懸念していた通りを確認してきたという感もあります。それでも、行って帰ってくると不思議と元気が出る、というのがアメリカ社会が持つ魔力であったりします。トヨタ自動車もイチローも、「世界に通じるニッポン」は、みんなアメリカに元気をもらっておるのです。

〇だからというわけでもないのですが、かんべえも今週末は過酷なスケジュールを組んでしまいました。まず、3月31日夜(もしくは4月1日早朝)には、ご存知「朝まで生テレビ」に出演予定。テーマは「激論!どーする?『格差社会』ニッポン!?」(仮題)。やっぱりそう来たか、てなテーマですね。

〇そして翌4月1日午後には、こういうイベントに参加します。

●個人投資家のための投資戦略 http://www.gaitame.com/gaitame/tokyo_gaitame/details.htm 

日時:2006年4月1日(土)13:00〜17:00 (開場:12:00)

会場:東京国際フォーラム ホールC (東京都千代田区丸の内3-5-1)

内容

総合司会 蟹瀬 誠一 氏

第一部 (13:00〜14:30):
  「激動する世界経済−ドル・ユーロ・円・人民元はどうなるのか」
  財団法人 国際金融情報センター理事長  溝口 善兵衛 氏

休 憩 (14:30〜14:40)

第二部 (14:40〜15:40): 
  「米国政治オタクが語る中間選挙の見通しと為替相場の影響」
  双日総合研究所取締役副所長 吉崎 達彦 氏
  国際ジャーナリスト  蟹瀬 誠一 氏

休 憩 (15:40〜15:50)

第三部 (15:50〜17:00):
  「<外為ブログ特別企画>いま個人投資家は何をすべきか!」
 酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表  酒匂 隆雄 氏
 元・UFJ銀行為替部門統括次長兼チーフディーラー  今井 雅人 氏
 内科認定医  田平 雅哉 氏

〇(株)外為どっとコムが主催で定員は1500人。参加費無料。なかなかに有益じゃないかと思います。不肖かんべえ、時差ぼけ状態で登場する懸念大ありですが、アメリカで仕込んできたネタは仰山ありますので、どうぞ乞うご期待。だいたい4月1日という「お日柄」がいいじゃありませんか。普通だったらお花見と行きたいところですけどね。


<3月28日>(火)

〇今宵は東京財団で出張報告。ならびに日本の広報外交(Public Diplomacy)をテーマにした提言審議。

〇日本の広報外交を考えた場合、「対中国」ということが欠かせないわけなのだが、ここをどう考えるかが難しいところである。「無知は力なり」(Ignorance is power)の中国に対し、Innocentな日本はやられっぱなし。日本の常任理事国入りをつぶすために、中国が展開した手練手管は、唖然とするほどのものであった。だからといって、日本がIgnoranceの真似をするわけにもいかぬ。言葉は悪いが、ヤクザにからまれた紳士がヤクザの真似をしたところで、所詮、迫力では敵わない。テロリストと戦うアメリカがテロリストに似るというのは、もって他山の石となさねばならない。

〇かんべえは若い頃、企業広報の世界で7年過ごして、理屈も勉強したし、多少の実践も積んだ。ほとんどが忘却の彼方だけれど、今も覚えていることはひとつだけである。それは"Honesty is the best policy."ということで、幾多の広報に関する戦略や理論は、この基本原則から見ればほとんど枝葉末節に過ぎない。そして、それがいかに難しいことであるかを知っていれば(特にサラリーマンの場合は!)、この仕事で少なくとも大きな失敗はしなくて済むと思う。

〇広報外交(Public Diplomacy)というのは、比較的新しい概念であって、それに成功している国というものはあまりない。アメリカはこれから、中東での自国の評判を上げようとしているが、なかなか容易なこととは思えない。正直になればなるほど、反発を買うのが落ちであろう。中国はその辺がさすがだという見方もあるが、「外交官が平気でウソをつく国」であるという評価は、いずれは知れ渡って中国外交の首を締めることになるだろう。日本外交みたいに、知恵も予算もないというのも情けないけれども、InnocentはIgnoranceに勝る、と信じたいと思います。

〇ところで、以下は某本誌愛読者が寄せてくれたメール。

ただいま北京ですが、宿から見られないサイトは

Radio Free Asiaです。
CNN、 Taipei Timesは大丈夫です。
Secret China Newsもだめ。
China Digital Newsもだめ。
Reporters Without Bordersもだめ。

The Weekly Standardは大丈夫。
Stars and Stripesは見られた。

Voice of Americaは見られない。


〇ちょっとちょっと、溜池通信が見られるかどうか、ちゃんと教えてくださいな。


<3月29日>(水)

〇昨日、広報室時代の話を書いたついでに、昔のことをあれこれ思い出しました。

〇かんべえが日商岩井広報室に居た1980年代は、まだ「ダグラス・グラマン事件」の記憶が社内のいろんな場所に残っていました。なにしろ1970年代の航空機商戦疑惑というのは、その後のリクルートや東京佐川級の大事件でしたから、逸話は山のようにあるわけです。ちなみに、世間では少なからぬ人たちが、「ロッキード事件〜丸紅〜桧山会長」と、「ダグラス・グラマン事件〜日商岩井〜海部八郎」をごっちゃにしています。ですから、この手の話をするときは、まずその辺から説明しなきゃいけないのですね。良くも悪くも、往時の記憶は薄れているのです。

〇航空機事件関連のエピソードは、当時の先輩たちからたくさん聞きました。その中で、個人的に印象に残っているものをひとつだけ紹介しましょう。――記者会見が長時間に及び、内容的にもかなり煮詰まった状態になっていたところ、海部八郎専務が不機嫌な声で「あと1問だけ」と言い出した。すると記者の中から、「あと3問!」の声が飛んだ。一瞬緊張が走ったところを、絶妙の間合いでF広報室長が「間を取って2問!」と宣告した、というのである。

〇なんだそれ、と思われたかもしれません。実はこれ、ものすごく勇気がいることなんです。広報室長もサラリーマン、上司の命令には逆らいたくない。でも、記者の機嫌も損ねたくない。いつも板挟みになる仕事なんです。だからしょっちゅう、「1と3の間を取って2」みたいなことをやらなきゃいけない。が、下手をすれば両方の恨みを買う。それどころか自分の出世に響いたり、悪い記事をかかれたりする。このバランスを上手に取れる人が、広報担当者としては長持ちする。「間を取って2問!」と言うためには、上司と記者の両方の信頼を勝ち得ていないとダメなんです。

〇広報担当者というのは、よく「記者の相手は大変でしょう」みたいなことをよく言われます。個人的な経験から言うと、応対に苦労するような記者なんて、滅多に居るもんじゃありません。ホントに大変なのは社内への対応なんです。なにしろ社内では、好人物や親しい人が強敵になってしまうのです。

〇会社にとってマイナスな記事が出た場合、得てして社内からは「事実誤認だ」「訂正記事を書かせろ」「広報は何をしているのか」みたいな声があがります。そしてまた実際に、間違った記事というのはホントに多いのです。ところが、社内からは贔屓の引き倒しみたいな声も飛び出すわけです。愛社精神の旺盛な方ほど、「広報は何をしているのか」とお叱りになる。なまじ善意であるだけに、これへの対応が難しい。そして、この手の「過剰な期待」を背にすることは、広報にとってはまことに迷惑なことなのです。

〇そんなわけで、この手の愛社精神のことを、かんべえは「企業ナルシシズム」と呼んでおりました。自社を誇りに思うのは当然のことなのですが、得てしてそういうのは記者にとっては夜郎自大に見えるのです。当たり前の話ですが、ナルシストは他人からは愛されないのですね。まあ、今は時代も変わったことで、そんな会社人間は絶滅の危機に瀕していることでしょうが、それでも「広報担当者にとっては、前よりも後ろが強敵」ということは、おそらく一貫して変わっていないんだろうと思います。

〇と、この話を広報外交に移し変えると、愛国心の盛り上がりが外務省を苦しめる、という構図とピッタリ重なります。「外務省は何をしているのか」という声は、得てして善良な愛国者の口から飛び出すわけです。そして世論のプレッシャーがあるために、「落しどころ」を逃したりもする。そういう例って、最近とっても多いような気がするので、「ああ、お気の毒だなあ」と感じることもしばしばです。

〇もちろん、企業の広報担当者もプロなら、外務省もプロ。こんなことを愚痴っていてはいけませんよね。


<3月30〜31日>(木〜金)

〇そそくさと帰宅してネットを更新し、11時半になったらテレビ朝日に向かいます。ということで、午前1時20分から「朝まで生テレビ」が始まります。堅気の人が起きている時間ではありませんので、「見てくれ」とは言えませんが、まあ、気に止めておいていただければありがたいと思います。

〇「どーする?格差社会ニッポン?!」という今日のお題からいって、三浦展さんはかならず出るだろうと、内心楽しみにしていたのでありますが、スタッフの話では断られてしまった由。昨日、「三浦さ〜ん、何で出ないんですか〜?」とメールを送ったら、「私は平日の朝と昼しか働かないのです」という返事が来てしまった。こういうのって「下流社会」らしいんでしょうか。なんだか上流社会の人の発言みたいだと思いましたぞ。

〇ところで今日の景気指標では、2月の完全失業率が4.1%に改善し(8年ぶり低水準)、2月の有効求人倍率は1.04(改善続く)、2月の消費者物価は0.5%増(脱デフレ進む)。そして株価は終値が1万7059円66銭となり、この1年の上昇率は46.2%となった。結構毛だらけと思っていたら、民主党では執行部が総退陣だとか。うーん、何をやってるんでしょうか。今頃になって。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki